説明

樹脂被覆金属板及びこれから成るシームレス缶

【課題】シームレス缶への成形時におけるトリミング性に優れると共に、印刷インキの密着性、耐アブレーション性に優れたシームレス缶を提供可能な樹脂被覆金属板を提供する。
【解決手段】 金属板と該金属板の少なくとも一方の表面に設けられたエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る層、とから成る樹脂被覆金属板において、前記ポリエステル樹脂が、低結晶性ポリエステル樹脂と高結晶性ポリエステル樹脂をブレンドして成るものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆金属板及びこの樹脂被覆金属板から成るシームレス缶に関するものであり、より詳細には、トリミング性、耐アブレージョン性及び印刷インキの密着性に優れた樹脂被覆金属板及びシームレス缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウム板、ブリキ板或いはティン・フリー・スチール板等の金属板に予め有機被覆を施した樹脂被覆金属板を、絞り加工、曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)及び/又はしごき加工に付して成形されたシームレス缶(側面無継目缶)が知られている。
また、シームレス缶の有機被覆法としては、成形後の缶に有機塗料を施す方法の他に、成形前の金属板に予め熱可塑性ポリエステル等の樹脂フィルムをラミネートし、この樹脂被覆金属板を用いることが知られている。
【0003】
樹脂被覆金属板からシームレス缶を成形するに際しては、樹脂被覆の加工密着性、耐衝撃性、フレーバー性、或いは耐食性等を満足する必要があり、このような観点から従来は、樹脂被覆金属板として、イソフタル酸含有ポリエチレンテレフタレートを被覆してなる樹脂被覆金属板が用いられている (特許文献1)。
【0004】
シームレス缶の成形においては、上述した絞りしごき加工を施した後、それぞれ回転する缶胴内側カッターと缶胴外側カッターで缶胴を挟んで缶胴上部を剪断切断するトリミング加工が行われており、かかるトリミング加工の際に、樹脂被覆が金属板と共に剪断性よく切断されることが要求される。また缶胴の低位置部において、搬送ガイドと缶との接触或いは缶同士が接触して、外面樹脂被覆がささくれ、ささくれ部に印刷し焼き付けた場合にはささくれ部が熱収縮して印刷インキが抜けて外観不良になるという問題がある(以下、このようなインキ抜けの現象を「アブレーション」ということがある)。
更に、缶胴表面に「タックシール」と呼ばれる懸賞用シールを貼付して販売することが近年行われているが、かかるシールを剥がす際に印刷インキが剥がれてしまうという問題や、或いは外面の加飾効果を向上するために発泡インキで印刷すると、搬送等の際に缶同士の接触・こすれにより印刷インキの剥離を生じるという問題が生じたことから、印刷インキの密着性がより改良されることが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−246695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、トリミング性と耐アブレーション性、及び印刷インキの密着性は樹脂被覆の相反する特性に依存するものであるため、これらのすべてを充分に満足することは困難である。
すなわち、トリミング加工は、例えば絞りしごき加工を行った直後に連続して行われることから、加工発熱により缶胴の温度は場合によっては60℃前後に上昇した状態で行われることがある。このため、トリミング加工を加工性よく行うには、樹脂被覆が延伸配向結晶を形成していることが望ましい。また上述した外面樹脂被覆のささくれは、特に加工延伸度が小さく、延伸配向結晶ができにくい缶胴の低位置部で発生していることから延伸配向結晶を形成しやすい高結晶性樹脂により外面被覆を形成することが望ましい。
その一方、印刷インキの密着性は、印刷インキが樹脂被覆の非晶部分において密着性に優れ、結晶部分において密着性に劣っていることから、樹脂被覆の結晶化が進むに従って密着性は低下してしまう。
【0007】
従って本発明の目的は、シームレス缶への成形時におけるトリミング性に優れると共に、印刷インキの密着性、耐アブレーション性に優れたシームレス缶を提供可能な樹脂被覆金属板を提供することである。
本発明の他の目的は、印刷インキの密着性、耐衝撃性、フレーバー性、耐食性等の特性に優れたシームレス缶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、金属板と該金属板の少なくとも一方の表面に設けられたエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る層、とから成る樹脂被覆金属板において、前記ポリエステル樹脂が、低結晶性ポリエステル樹脂と高結晶性ポリエステル樹脂をブレンドして成るものであることを特徴とする樹脂被覆金属板が提供される。
【0009】
本発明の樹脂被覆金属板においては、
1.エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂が、イソフタル酸を5乃至13モル%含有するものであること、
2.高結晶性ポリエステル樹脂が、ホモポリエチレンテレフタレート又はイソフタル酸を3モル%以下の量で含有するポリエチレンテレフタレートであること、
3.低結晶性ポリエステル樹脂が、イソフタル酸を12乃至18モル%含有するポリエチレンテレフタレートであること、
4.エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る層が、イソフタル酸を10乃至18モル%含有するポリエステル樹脂を介して、金属板上に形成されていること、
5.金属板がアルミニウム板であること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、上記樹脂被覆金属板から成ることを特徴とするシームレス缶が提供される。
本発明のシームレス缶においては、前記樹脂被覆が、シームレス缶の外面被覆であることが好適である。
【0011】
本発明の樹脂被覆金属板においては、金属板の少なくとも一方の表面に設けられたエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る樹脂被覆が、低結晶性ポリエステル樹脂と高結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂から成ることが重要な特徴である。
前述したように、樹脂被覆金属板においてトリミング性、耐アブレーション性と印刷インキの密着性は樹脂被覆の結晶性に依存し、トリミング性及び耐アブレーション性は樹脂被覆に結晶部分の存在量が多いことが望ましく、一方印刷インキの密着性は樹脂被覆に非晶部分の存在量が多いことが望ましいことから、本発明においては、高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂をブレンドして用いることにより、トリミング性、耐アブレーション性及び印刷インキの密着性の全ての特性を兼ね備えた樹脂被覆金属板を提供することが可能となったのである。
【0012】
尚、本発明において、高結晶性ポリエステル樹脂は、下記測定法で測定した最小半結晶化時間が10〜200秒の範囲にある樹脂を意味し、低結晶性ポリエステル樹脂は、最小半結晶化時間が300〜1100秒の範囲にある樹脂を意味し、これらはいずれも結晶性の樹脂である。非晶性の樹脂を使用した場合にはトリミング性及び耐アブレーション性が劣るため、本願には非晶性の樹脂は含まない。
(最小半結晶化時間の測定方法)
樹脂ペレットを30℃にし、示差走査熱量計(DSC)で昇温速度100℃/minで290℃まで昇温し、290℃に3分間保持した後、冷却速度100℃/minで0℃まで急冷する。その後、昇温速度100℃/minで所定温度まで昇温し、その温度で恒温に設定して、「吸熱量−維持時間曲線」を得る。「吸熱量−維持時間曲線」の吸熱量がピークになるときの時間を「半結晶化時間」と定義する。これを100℃〜200℃の間の温度で測定し、最も「半結晶化時間」の小さな値を「最小半結晶化時間」とする。
【0013】
本発明の樹脂被覆金属板においては、樹脂被覆が、イソフタル酸を5乃至13モル%、より好適には6乃至12モル%含有するエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂として成っていることが好適である。本発明においては、低結晶性ポリエステル樹脂と高結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂のイソフタル酸量が上記範囲にあることが重要であり、イソフタル酸量が5乃至13モル%であっても共重合ポリエチレンテレフタレートでは、後述する実施例の結果からも明らかなように、本発明の所期の目的を達成することができない。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、特別なポリエステル樹脂を用いることなく、相反する特性であるトリミング性、耐アブレーション性と印刷インキの密着性のすべてを満足し得る樹脂被覆金属板を提供することが可能となる。
また本発明の樹脂被覆金属板は、アルミニウム板のように比較的柔らかくトリミング性に劣る金属板に適用された場合に、特にトリミング性が向上される。
更に本発明のシームレス缶は、成形性に優れていると共に、印刷インキの密着性に優れており、タックシール等を貼付しても印刷インキが剥離することがなく、また発泡インキを用いた場合にも印刷インキの剥離が有効に防止されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(高結晶性ポリエステル樹脂)
本発明において高結晶性ポリエステル樹脂は、前述したように最小半結晶化時間が10〜200秒、特に30〜100秒の範囲にあるポリエステル樹脂である。上記範囲よりも最小半結晶化時間が短い場合は、ブレンド樹脂が硬質になりすぎるため印刷インキの密着性の充分な改良を行うことができないおそれがあり、一方上記範囲よりも最小半結晶化時間が長い場合には、ブレンド樹脂の結晶性が不足するためトリミング性、耐アブレーション性の充分な改良を行うことができないおそれがある。
本発明においては、最小半結晶化時間が上記範囲にあり、芳香族カルボン酸成分の80モル%以上、特に90モル%以上がテレフタル酸成分から成り、アルコール成分の80モル%以上、特に90モル%以上がエチレングリコールから成るポリエステルであることが重要であり、上記条件を満足する限り、このポリエステルは、ホモポリエステルでも共重合ポリエステルでも、或いはこれらの2種以上のブレンド樹脂であってもよい。
【0016】
テレフタル酸成分以外のカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ヘミメリット酸、1,1,2,2−エタンテトラカルボン酸、1,1,2−エタントリカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトロカルボン酸、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸、ダイマー酸等を挙げることができ、特にイソフタル酸を含有することが好適である。
一方、エチレングリコール以外のアルコール成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビタン等のアルコール成分を挙げることができる。
ポリエステルは、フィルム形成範囲の分子量を有するべきであり、溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度(IV)が0.55dL/g以上、特に0.6乃至1.0dL/gの範囲にあることが腐食成分に対するバリア性や機械的性質の点でよい。
本発明においては特に、ホモポリエチレンテレフタレート又はイソフタル酸を3モル%以下の量で含有するポリエチレンテレフタレートを好適に用いることができる。
【0017】
(低結晶性ポリエステル樹脂)
本発明において低結晶性ポリエステル樹脂は、前述したように最小半結晶化時間が300〜1100秒、特に500〜1000秒の範囲にあるポリエステル樹脂である。上記範囲よりも最小半結晶化時間が短い場合は、ブレンド樹脂の非晶部が少なく、印刷インキの密着性の充分な改良を行うことができないおそれがあり、またブレンド樹脂を直接金属面と接着させた場合には、金属との密着性が不足し缶体フランジ部先端などで樹脂が剥離するおそれがある。一方上記範囲よりも最小半結晶化時間が長い場合には、ブレンド樹脂の結晶性が不足するため、トリミング性及び耐アブレーション性の充分な改良を行うことができないおそれがある。
本発明においては、最小半結晶化時間が上記範囲にあり、芳香族カルボン酸成分の70モル%以上がテレフタル酸成分から成り、アルコール成分の70モル%以上がエチレングリコールから成るポリエステルであることが重要であり、上記条件を満足する限り、共重合ポリエステルでも、或いはこれらの2種以上のブレンド樹脂であってもよい。
低結晶性ポリエステル樹脂において、使用し得る他の共重合成分は、高結晶性ポリエステル樹脂について上述したものと同様のものを配合し得る。
本発明においては特に、イソフタル酸を12乃至18モル%含有するポリエチレンテレフタレートを好適に用いることができる。
【0018】
(高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂)
本発明においては、上記高結晶性ポリエステル樹脂及び低結晶性ポリエステル樹脂を重量比で、90:10乃至10:90、特に75:25乃至25:75の割合で用いることが、トリミング性、耐アブレーション性及び印刷インキの密着性の全てを満足させる上で好適である。
またブレンド樹脂中には、ダイマー酸をブレンド樹脂全体のジカルボン酸成分の1乃至7モル%の量で含有することが望ましい。これにより、加工密着性、印刷インキの密着性を向上させることができる。尚、ダイマー酸は、高結晶性ポリエステル樹脂及び低結晶性ポリエステル樹脂の両方又はいずれか一方の共重合成分として配合することができる。
また高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂には、それ自体公知の樹脂用配合剤、例えば非晶質シリカ等のアンチブロッキング剤、二酸化チタン(チタン白)等の顔料、体質顔料、トコフェロール(ビタミンE)等の抗酸化剤、安定剤、各種帯電防止剤、滑剤等を公知の処方に従って配合することができる。
【0019】
高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンドは、ドライブレンドやメルトブレンドで行うことができ、前者の場合、樹脂をブレンダー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等で混合し、直接押出機のホッパーに供給すればよく、また後者の場合、一軸或いは二軸の押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で混練すればよい。
【0020】
(金属板)
本発明において上記ブレンド樹脂から成る樹脂をラミネートすべき金属板としては、各種表面処理鋼板やアルミニウム等の軽金属板が使用される。
表面処理鋼板としては、冷間圧延鋼板を焼鈍後調質圧延または二次冷間圧延した鋼板、すなわち、SR材やDR材に、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理、リン酸処理等の表面処理の一種又は二種以上行ったものを挙げることができる。
軽金属板としては、純アルミニウム板、アルミニウム合金板等の金属板、及びそれら金属板の表面にリン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、リン酸処理等の無機表面処理や、ポリアクリル酸、フェノール樹脂、タンニン酸、イタコン酸、ホスホン酸等の有機表面処理、及びそれらを組み合わせた有機無機複合表面処理を行ったものを挙げることができる。特に、樹脂層と金属面との密着性が良好となるため有機無機複合表面処理が好ましく、中でもフェノール樹脂とリン酸ジルコニウム処理を組み合わせた処理がより好適である。
本発明の樹脂被覆金属板は特にトリミング性に優れていることから、比較的軟質でトリミング性に劣っているアルミニウム板に特に有用である。
金属板の厚みは、金属の種類、ラミネート材の用途或いはサイズによっても相違するが、一般に0.10乃至0.50mmの厚みを有するのがよく、この内でも表面処理鋼板の場合には、0.10乃至0.30mmの厚み、また軽金属板の場合には0.15乃至0.40mmの厚みを有するのがよい。
【0021】
本発明の樹脂被覆金属板において、高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂から成るフィルムを金属板に押出ラミネート法により積層する場合、特に金属板に予め接着プライマーを設ける必要はないが、勿論所望により接着プライマーを設けておくこともできる。
このようなプライマーは、金属板とポリエステル樹脂との両方に優れた接着性を示すものであり、密着性と耐腐食性とに優れたプライマー塗料の代表的なものとしては、種々のフェノール類とホルムアルデヒドから誘導されるレゾール型フェノールアルデヒド樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂とから成るフェノールエポキシ系塗料であり、特にフェノール樹脂とエポキシ樹脂とを50:50乃至5:95重量比、特に40:60乃至10:90の重量比で含有する塗料である。接着プライマー層は、一般に0.3乃至5μmの厚みに設けるのがよい。
【0022】
(層構成)
本発明の樹脂被覆金属板においては、高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂から成るフィルムは特に印刷インキの密着性に優れているので、少なくとも金属板の缶外面側となる面に設けられていることが好ましく、勿論、高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂から成るフィルムが金属板の両面に形成されていてもよい。また、かかるフィルムの単層のみならず、高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂から成るフィルムと他のフィルムとの多層構造をとることもできる。
好適には、高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂から成るフィルムを上層とし、他のフィルムを下層とした2層構成とすることが望ましい。この場合、フィルムの加工密着性、耐衝撃性に優れたイソフタル酸を10乃至18モル%含有するポリエステル樹脂から成る層を下層とすることが好適である。この範囲を下回ると金属母材との密着性が不足するためフランジ部先端で樹脂剥離が発生する場合があり、この範囲を上回るとトリミング不良が発生する場合がある。
高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂から成る層の厚みは、1乃至50μm、特に5乃至30μmの範囲にあることが好ましい。
【0023】
(樹脂被覆金属板の製造方法)
本発明において、金属板への高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂から成る被覆層の形成は任意の手段で行うことができ、例えば、押出コート法、キャストフィルム熱接着法、二軸延伸フィルム熱接着法等により行うことができる。押出コート法の場合、高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂を混合機にてドライブレンドして直接押出機のホッパーへ供給し、ダイを通してポリエステルを押出すと共に、これを溶融状態で金属板上に押出コートして、熱接着させる。多層樹脂の場合には樹脂の種類に対応する数の押出機を使用して共押出しすることにより、押出コートする。
高結晶性ポリエステル樹脂と低結晶性ポリエステル樹脂のブレンド樹脂から成るポリエステルフィルムを用いる場合は、T−ダイ法やインフレーション製膜法で成形したフィルムを用いる。フィルムとしては、押し出したフィルムを急冷した、キャスト成形法による未延伸フィルムを用いることもでき、また、このフィルムを延伸温度で、逐次或いは同時二軸延伸し、延伸後のフィルムを熱固定することにより製造された二軸延伸フィルムを用いることもできる。
【0024】
(シームレス缶及びその製法)
本発明の樹脂被覆金属板から成るシームレス缶は、上述した樹脂被覆金属板の高結晶性ポリエステル樹脂及び低結晶性ポリエステル樹脂のブレンドからなる被覆面が少なくとも
缶外面側となるように、絞り・再絞り加工、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工或いは絞り・しごき加工等の従来公知の手段に付すことによって製造される。
本発明のシームレス缶は、上記手段によって製造されるが、好ましくは絞り加工の後再絞りによる曲げ伸ばし加工、及び/又はしごき加工を行って側壁部の薄肉化を行う。その薄肉化は、底部に比して側壁部は曲げ伸ばし加工、及び/又はしごき加工により、樹脂被覆金属板の素板厚の20乃至95%、特に30乃至85%の厚みにあるように薄肉化されているのが好ましい。
【0025】
成形された缶は、成形直後にトリミング加工に付される。トリミング加工は、それぞれ回転する缶胴内側カッターと缶胴外側カッターで缶胴を挟んで缶胴上部を剪断切断することにより行われる。トリミング加工後、少なくとも一段の熱処理に付し、加工により生じるフィルムの残留歪みを除去し、加工の際用いた滑剤を表面から揮散させ、更に缶胴外面に印刷インキを塗布して印刷し、その外面側に仕上げニスを塗布したのち、キュアリングオーブンで160〜220℃で30秒〜15分の焼付けを行って焼付け硬化させる。熱処理後の容器は急冷或いは放冷した後、所望により、ダイネック加工による一段或いは多段形状あるいはロール加工やダイネック加工によるスムース形状のネックイン加工に付し、フランジ加工を行って、蓋巻締用のシームレス缶体とする。
尚、本発明のシームレス缶においては、公知の熱硬化性ホワイトコート、熱硬化性インキ、熱硬化性仕上げニスを用いることができ、上述したように、これらは缶胴に塗布されたのち焼付けオーブンで焼付けされ硬化される。また、本発明の樹脂被覆金属板における樹脂被覆はインキ密着性に優れているため、一般に下地との密着性に劣る、上記インキ又はニスに熱膨張性マイクロカプセルを含有させた発泡インキや発泡ニス、或いは紫外線硬化のホワイトコート、紫外線硬化インキ、紫外線硬化仕上げニスを用いた場合にも良好な密着性を得ることができる。
【実施例】
【0026】
(外面表層ブレンド用樹脂ペレットの最小半結晶化時間)
実施例・比較例で使用した外面表層樹脂の最小半結晶化時間は次のとおりであった。
(1)ホモPET樹脂ペレット(表1中「ホモ」で表記):38秒
(2)イソフタル酸2モル%共重合樹脂ペレット(表1中「IA2」で表記):70秒
(3)イソフタル酸3モル%共重合樹脂ペレット(表1中「IA3」で表記):79秒
(4)イソフタル酸10モル%共重合樹脂ペレット(表1中「IA10」で表記):384秒
(5)イソフタル酸12モル%共重合樹脂ペレット(表1中「IA12」で表記):520秒
(6)イソフタル酸15モル%共重合樹脂ペレット(表1中「IA15」で表記):642秒
(7)イソフタル酸18モル%共重合樹脂ペレット(表1中「IA18」で表記):980秒
(8)イソフタル酸30モル%共重合樹脂ペレット(表1中「IA30」で表記):非晶性樹脂のため最小半結晶化時間なし
【0027】
(樹脂被覆シームレス缶の評価)
得られた樹脂被覆シームレス缶について、次の評価を行った。
(1)インキ密着性
インキ密着性をデュポン衝撃試験で評価した。
得られた樹脂被覆シームレス缶を切り開き、缶胴部を平らに伸ばして試験片とした。得られた試験片を、側壁内面側を上にして接地部から90mmの缶高さ位置部分に撃芯があたるようにデュポン衝撃試験装置にセットした。撃芯は重さ300gで先端球の直径が3/8インチであり、高さ50mmから落下させて缶外面側が凸になるように加工した。
加工後の缶外面側にセロハンテープ(ニチバン株式会社製)を接着させて引き剥がす操作を2回行った。得られたシームレス缶5缶について各缶当たり2カ所でこの測定を行った。剥離した合計の面積を次の基準で評価した。○、△が許容範囲である。
○:剥離面積が20%未満
△:剥離面積が20%以上で40%未満
×:剥離面積が40%以上
【0028】
(2)トリミング性
トリミング加工後のカップ100カップについてトリム部を視覚で全数観察した。次の基準でトリミング性を評価した。○、△が許容範囲である。
○: トリム不良なし
△: 被トリム部は切断され切り離されているが、外面樹脂がトリム部からわずかに伸びている缶がある
×: 被トリム部が切断されずに缶胴に付着している缶がある
【0029】
(3)耐アブレージョン性
得られたシームレス缶50缶について、缶胴低位置部のアブレージョンを視覚で観察した。耐アブレージョン性を次の基準で評価した。○、△が許容範囲である。
○:アブレージョンなし
△:擦れあとがあるが、青色インキは全面をカバーしている
×:擦れ部で青色インキがなくなっている部分がある
【0030】
(4) 樹脂密着性
得られたシームレス缶50缶について、フランジ先端外面樹脂の剥離程度を視覚で観察し、外面樹脂と金属面との間の密着性を次の基準で評価した。○、△が許容範囲である。
○:剥離なし
△:わずかに剥離があるが許容レベルである
×:明らかな剥離がある
【0031】
(5)総合評価
インキ密着性、トリミング性、耐アブレージョン性、樹脂密着性の各評価をもとに、次の基準で総合評価を行った。○、△が許容範囲である。
◎:すべての評価が「○」である
○ :「△」の評価が一つであり、且つすべての評価に「×」がない
△:「△」の評価が二つであり、且つすべての評価に「×」がない
×:「△」の評価が三つ以上、或いはいずれかの評価に「×」がある
【0032】
(実施例1)
[樹脂被覆金属板の作成]
基板として、コイル状の板厚0.28mmのJIS3004アルミニウム合金板の内外面に、金属クロム換算で、クロム量が20mg/mとなるリン酸クロム酸処理を施し、この基板の両面に次に示す仕様のポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(PET/IA)共重合樹脂の無配向フィルムを熱ラミネートして、樹脂被覆金属板を作製した。
缶外面側の無配向フィルム作製にあたっては、高結晶性ポリエステル樹脂としてイソフタル酸2モル%共重合樹脂ペレットと、低結晶性ポリエステル樹脂としてイソフタル酸15モル%共重合樹脂ペレットを重量比率54:46でブレンダーにいれてドライブレンドしたのち押出機のホッパーに供給して表層全体としてイソフタル酸8モル%の表層ブレンド樹脂とし、イソフタル酸15モル%共重合樹脂ペレットを別の押出機のホッパーに供給して下層樹脂として、Tダイで共押出しし、押出し直後に冷却ロールで冷却することにより、表層4μm下層12μmの無配向の二層樹脂フィルムを作製した。
一方、缶内面側の無配向フィルム作製にあたっては同様にして、表層がイソフタル酸5モル%4μm、下層がイソフタル酸15モル%12μmの無配向の二層樹脂フィルムを作製した。
【0033】
[樹脂被覆シームレス缶の作成]
上記のようにして得られたコイル状の樹脂被覆金属板を円盤に打ち抜き絞り加工を行ったのち、更に再絞り・しごき加工をしたのち、缶胴上部をトリミングし、カップを加熱して樹脂の成形ひずみを除去したのち、青色の熱硬化性印刷インキを缶胴外面にベタ印刷し、更にその上に熱硬化性仕上げニスを塗布したのち焼付けオーブンで200℃40秒の焼付けをおこなった。その後、ネック加工し、フランジ加工して、缶高さ122mmで350ml用の樹脂被覆シームレス缶を作成した。このとき、しごきポンチ直径は66mm、総しごき率は63%であった。これら一連の工程及びそれらの間の搬送は製缶ラインで行った。
実施例1の外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0034】
(実施例2)
外面表層樹脂(ブレンド樹脂)として、イソフタル酸2モル%共重合樹脂ペレットを77重量%、イソフタル酸15モル%共重合樹脂ペレットを23重量%にして、表層全体としてイソフタル酸5モル%樹脂にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0035】
(実施例3)
外面表層樹脂(ブレンド樹脂)として、イソフタル酸2モル%共重合樹脂ペレットを15重量%、イソフタル酸15モル%共重合樹脂ペレットを85重量%にして、表層全体としてイソフタル酸13モル%樹脂にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0036】
(実施例4)
外面表層樹脂(ブレンド樹脂)として、ホモPET樹脂ペレットを47重量%、イソフタル酸15モル%共重合樹脂ペレットを53重量%にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0037】
(実施例5)
外面表層樹脂(ブレンド樹脂)として、イソフタル酸3モル%共重合樹脂ペレットを58重量%、イソフタル酸15モル%共重合樹脂ペレットを42重量%にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0038】
(実施例6)
外面表層樹脂(ブレンド樹脂)として、イソフタル酸2モル%共重合樹脂ペレットを40重量%、イソフタル酸12モル%共重合樹脂ペレットを60重量%にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0039】
(実施例7)
外面表層樹脂(ブレンド樹脂)として、イソフタル酸2モル%共重合樹脂ペレットを63重量%、イソフタル酸18モル%共重合樹脂ペレットを38重量%にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0040】
(実施例8)
外面下層樹脂をイソフタル酸10モル%共重合樹脂にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0041】
(実施例9)
外面下層樹脂をイソフタル酸18モル%共重合樹脂にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0042】
(実施例10)
外面樹脂を、実施例1の外面表層ブレンド樹脂単層で膜厚16μmの樹脂にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0043】
(比較例1)
外面表層樹脂を、共重合樹脂ペレットを使用してテレフタル酸/イソフタル酸8モル%の共重合樹脂にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0044】
(比較例2)
外面表層樹脂(ブレンド樹脂)として、イソフタル酸2モル%共重合樹脂ペレットを79重量%、イソフタル酸30モル%共重合樹脂ペレットを21重量%にしたこと以外は実施例1と同様にして樹脂被覆シームレス缶を作製し、評価を行った。外面樹脂仕様と評価結果を表1に示した。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の樹脂被覆金属板は、トリミング性、耐アブレーション性と印刷インキの密着性のすべてを満足するため、絞り・再絞り加工、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工或いは絞り・しごき加工等により形成されるシームレス缶に有効に利用することができる。
またトリミング性に優れていることから、アルミニウム板のように比較的柔らかくトリミング性に劣る金属板に好適に適用することができる。
更に本発明のシームレス缶は、成形性に優れていると共に、印刷インキの密着性に優れており、タックシール等を貼付しても印刷インキが剥離することがなく、また発泡インキを用いた場合にも印刷インキの剥離が有効に防止されているため、懸賞シールや種々のインキに対応可能な樹脂被覆シームレス缶として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と該金属板の少なくとも一方の表面に設けられたエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る層、とから成る樹脂被覆金属板において、前記ポリエステル樹脂が、低結晶性ポリエステル樹脂と高結晶性ポリエステル樹脂をブレンドして成るものであることを特徴とする樹脂被覆金属板。
【請求項2】
前記エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂が、イソフタル酸を5乃至13モル%含有するものである請求項1記載の樹脂被覆金属板。
【請求項3】
前記高結晶性ポリエステル樹脂が、ホモポリエチレンテレフタレート又はイソフタル酸を3モル%以下の量で含有するポリエチレンテレフタレートである請求項1又は2記載の樹脂被覆金属板。
【請求項4】
前記低結晶性ポリエステル樹脂が、イソフタル酸を12乃至18モル%含有するポリエチレンテレフタレートである請求項1乃至3の何れかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項5】
前記エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成る層が、イソフタル酸を10乃至18モル%含有するポリエステル樹脂を介して、金属板上に形成されている請求項1乃至4の何れかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項6】
前記金属板がアルミニウム板である請求項1乃至5の何れかに記載の樹脂被覆金属板。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の樹脂被覆金属板から成ることを特徴とするシームレス缶。
【請求項8】
前記樹脂被覆が、シームレス缶の外面被覆である請求項7記載のシームレス缶。

【公開番号】特開2010−241037(P2010−241037A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93986(P2009−93986)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】