説明

樹脂製成形物,樹脂製成形物の成形方法及びその方法により製造された樹脂製成形物,包装用容器

【課題】 樹脂に対して製造工程を煩雑化することなく接着性を改善可能な樹脂製成形物及び樹脂製成形物の成型方法を提供すること。
【解決手段】 接着面を有する樹脂製成形物を成形する際、接着面の表面粗さが樹脂のみにより成形された場合に比べて粗くなるように、無機フィラーを混練した樹脂により成形した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着面を有する樹脂製成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着面を有する樹脂製成形物の技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。この公報には、ホットメルトタイプの接着剤を用いてヒートシールを行う際、接着面となるフランジの上面に粗面化処理を施し、微細な凹凸を形成することでシール強度を得ている。
【特許文献1】特開2006−327650号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、若干の接着性の改善は期待できるものの、容器の成形後、別途、多孔質金属材料を用いて熱結晶化処理を施さなければならず、製造工程が煩雑化するという問題があった。
【0004】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑み、樹脂に対して製造工程を煩雑化することなく接着性を改善可能な樹脂製成形物及び樹脂製成形物の成型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明に係る樹脂製成形物にあっては、接着剤を介して被接着部材が取り付けられる接着面を有する樹脂製成形物であって、樹脂に、前記接着面の表面粗さが樹脂のみにより成形したときよりも粗くなるように平均粒径10〜100μmの無機フィラーを混練したことを特徴とする。
【0006】
第2の発明に係る樹脂製成形物にあっては、接着剤を介して被接着部材が取り付けられる接着面を有する樹脂製成形物であって、樹脂に、該樹脂よりも前記接着剤に対する接着力が高い平均粒径10〜100μmの無機フィラーを混練し、前記接着面の表面に前記無機フィラーを露出させたことを特徴とする。
【0007】
第3の発明に係る樹脂製成形物にあっては、樹脂に、該樹脂よりも前記接着剤に対する接着力が高い平均粒径10〜100μmの無機フィラーを、前記接着面の表面粗さが樹脂のみにより成形したときよりも粗くなるように混練し、かつ、前記接着面の表面に前記無機フィラーを露出させたことを特徴とする。
【0008】
第4の発明に係る樹脂製成形物の成形方法にあっては、第1の所定温度に昇温可能であって接着面を成形する接着面成形手段と、第1の所定温度よりも高い第2の所定温度に昇温可能であって接着面以外を成形する成形手段とを用い、無機フィラーが混練された溶融樹脂を接着面成形手段と成形手段との間に介在させて成形する際、第1の所定温度と第2の所定温度は、接着面が接着面以外よりも粗くなる温度としたことを特徴とする。
【0009】
第5の発明に係る樹脂製成形物の成形方法にあっては、第1の所定温度に昇温可能であって接着面を成形する接着面成形手段と、第1の所定温度よりも高い第2の所定温度に昇温可能であって接着面以外を成形する成形手段とを用い、樹脂よりも前記接着剤に対する接着力が高い無機フィラーが混練された溶融樹脂を接着面成形手段と成形手段との間に介在させて成形する際、第1の所定温度と第2の所定温度は、接着面の表面に前記無機フィラーが露出する温度としたことを特徴とする。
【0010】
第6の発明に係る樹脂製成形物の成形方法にあっては、第1の所定温度に昇温可能であって接着面を成形する接着面成形手段と、第1の所定温度よりも高い第2の所定温度に昇温可能であって接着面以外を成形する成形手段とを用い、樹脂よりも前記接着剤に対する接着力が高い無機フィラーが混練された溶融樹脂を接着面成形手段と成形手段との間に介在させて成形する際、第1の所定温度と第2の所定温度は、前記接着面の表面に前記無機フィラーが露出し、かつ、前記接着面が前記接着面以外よりも粗くなる温度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に係る樹脂製成形物にあっては、無機フィラーを混練するだけで、接着面に凹凸を形成することが可能となり、製造工程を煩雑化することなく容易に接着性を向上させることができる。
【0012】
第2の発明に係る樹脂製成形物にあっては、樹脂よりも接着剤に対する接着力が高い無機フィラーが接着面の表面に露出するため、接着性を向上させることができる。
【0013】
第3の発明に係る樹脂製成形物にあっては、製造工程を煩雑化することなく、接着力を向上する複数の因子を改善することが可能となり、更に、接着力を向上させることができる。
【0014】
第4の発明に係る樹脂製成形物の成形方法にあっては、無機フィラーが混練された樹脂を成形する際、成形手段の温度よりも接着面成形手段の温度を低くすることとした。すなわち、無機フィラーの混練量が増大すれば、粗面化に対しては期待できるものの、機械的物性が低下することが知られている。今、目的は、接着面の粗面化であることから、接着面のみ無機フィラーが多く含有され、それ以外のところでは無機フィラーは少ない方が望ましい。
【0015】
ここで、一般に、成形時の成形手段の温度は、比較的樹脂の流動性を確保可能な温度に昇温させるため、成形手段間での無機フィラーの流動性に異方性は無く、単位体積に含まれる無機フィラーの個数である分散密度も均等に分布する。これに対し、第2の発明にあっては、成形手段の温度を高くして樹脂の流動性を確保し、一方、接着面成形手段の温度を低くして樹脂の流動性を低下させる。温度の低い接着面成形手段と接する表面に、溶融樹脂内に混練された無機フィラーが一旦接すると、この無機フィラーは流動しにくくなる。この現象が繰り返されると、流動性の高い成形手段側では無機フィラーの分散密度が低くなり、一方、流動性の低い接着面成形手段側では無機フィラーの分散密度が高くなる。
【0016】
上記作用により、接着面とそれ以外との間に分散密度の分布を持たせることが可能となり、接着面にあっては粗面化を図り、かつ、粗面化により形成された凹部に接着剤を塗り込むことで接着力を向上し、一方、接着面以外では無機フィラーの密度を下げることで容器の機械的物性を確保することができる。また、成形手段及び接着面成形手段を異なる温度に昇温させるのみで密度分布の異方性を得ることができるため、複数の製造工程を経ることがなく、製造コストを抑制することができる。
【0017】
第5の発明に係る樹脂製成形物の成形方法にあっては、第3の発明と同様、成形手段の温度よりも接着面成形手段の温度を低くする。このとき、接着面の粗面化ではなく、接着面の表面に無機フィラーを露出させるものである。よって、第1の所定温度と第2の所定温度を、無機フィラーが露出する範囲で設定する。すなわち、必ずしも表面が粗面化されていなくても、無機フィラーが露出していればよい。
【0018】
これにより、第4の発明において説明したのと同様に、接着面とそれ以外との間に分散密度の分布を持たせることが可能となり、接着面にあっては無機フィラーを露出させたことで接着力を向上し、一方、接着面以外では無機フィラーの密度を下げることで容器の機械的物性を確保することができる。また、成形手段及び接着面成形手段を異なる温度に昇温させるのみで密度分布の異方性を得ることができるため、複数の製造工程を経ることがなく、製造コストを抑制することができる。
【0019】
第6の発明に係る樹脂製成形物の成形方法にあっては、第4の発明に係る効果と、第5の発明に係る効果の両方を得ることが可能となり、製造工程を煩雑化することなく、接着力を向上する複数の因子を改善することが可能となり、更に、接着力を向上させることができる。
【0020】
上記第1から第6の発明に係る樹脂製成形物を樹脂製容器とし、該樹脂製容器の開口を積層フィルムにより封緘する包装用容器に適用する場合、樹脂製容器と積層フィルムとの間の接着面と積層フィルムとを接着剤を介して接着すると共に、該接着剤により密封することで、接着性と密封性の両方を確保した包装用容器を提供できる。尚、密封とは、空気等の容器内外の通気経路を阻止することを意味する。よって、本願発明では、接着面の表面の状態と積層フィルム側の接着面の状態とに係らず、接着剤が上記通気経路となり得る箇所を埋めるように塗布された状態を表す。また、接着性を確保していることから、上記通気経路を埋めた状態が維持されやすく、気温変化等に伴う圧力変動や、不意に積層フィルムに作用する力に抗して気密性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の最良の実施形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は実施例1における樹脂製容器1の斜視図、図2は樹脂製容器1の領域Aの部分拡大断面図である。樹脂製容器1は、上方が下方に比べて拡径された円筒部10と、円筒部10の下端を閉塞する底部15と、円筒部10の上端から拡径された飲み口部14を有する。円筒部10,底部15,飲み口部14は、それぞれ肉厚1.0mmに均一な厚みで形成されている。また、円筒部10,底部15及び飲み口部14は、内容物と接触する容器内面12と、この容器内面12の裏面である容器外面11を有する。例えば、熱い飲料等を樹脂製容器1に注ぎ、円筒部10の容器外面11の適当な場所を把持するため、樹脂製容器1の断熱性確保が重要となる。
【0023】
また、樹脂製容器1の飲み口部14の上面には、平坦な円環状の接着面142が形成され接着面142の表面に平均粒径10〜100μmの無機フィラーを露出させ、かつ、接着面142の凹部に接着剤を塗り込み、接着最表面を平坦化する。
【0024】
その後、樹脂製容器1の円環状の接着面142の上に積層フィルム3を載せ、積層フィルム3の上からヒートシール温度以上の温度に加熱された熱板(図示せず)で所定の押圧力を加えることにより円環状の接着面と積層フィルム3とを熱接着させる。平坦化された円環状の接着面142は、この接着剤(ホットメルト4)を介して積層フィルム3に接着されて包装用容器とする。
【0025】
尚、樹脂製容器1の円環状の接着面142の凹部に予め接着剤を塗り込む代わりに、この接着面142に接着される積層フィルム3の円環状の被接着予定部分に、予め接着剤(ホットメルト4)を塗布しておき、積層フィルム3の円環状の接着剤塗布部分が樹脂容器1の円環状の接着面142と対面する様に、積層フィルム3を樹脂容器1上に載置し、ヒートシール温度以上の温度に加熱された熱板を積層フィルム3の上に載せて押圧力を加えることにより、積層フィルム3に塗布されている接着剤を溶融させて円環状の接着面142の凹部を埋めると共に接着面142と接着させてもよい。
【0026】
この積層フィルム3は、樹脂製容器1内を密封するとともに、需要者によって把持部3aから所定の力で引き剥がす(以下、ピーリング)ことで開封可能に構成されている。すなわち、積層フィルム3と接着面142との間の接着力は、搬送時等の振動によって内容物等の荷重が作用しても剥がれることがない程度であって、かつ、需要者のピーリング動作によって簡易に積層フィルム3を剥離可能な程度の接着力(以下、所望の接着力)が必要となる。
【0027】
(樹脂材料について)
樹脂製容器1は、熱可塑性樹脂として耐薬品性のある液晶ポリマー(以下、LCP)を採用している。尚、その他の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリレート系樹脂、生分解性樹脂であるポリ乳酸等が挙げられる。また、上記熱可塑性樹脂を適宜混合することが出来る。
【0028】
(ホットメルトについて)
実施例1のホットメルト4としては、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)を主成分とするホットメルトを採用している。通常、耐薬品性の高いLCP等の熱可塑性樹脂に接着する際に使用される代表的なホットメルトとして、EVAの他,日信化学工業株式会社製の包装用にも使用されるBRシリーズ,ポリエチレン/プロピレン(EP)等の水素添加型のホットメルトが知られている。これらを使用した場合、いずれも上記熱可塑性樹脂に対しては接着性が低い。このことは、例えば特開平11−240074号公報,特開2002−249754号公報,特許3326480号公報,特開平4−135750号公報等の記載からも知られている。この他、ガラスビーズ13などのガラス材の無機フィラーに適するホットメルトとしては、ロジンやテルペン類等の粘着付与剤を添加した樹脂(例えばエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂(EMAA)、エチレン−アクリル酸共重合樹脂(EAA)、変性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、もしくはアイオノマー等)が挙げられるが、いずれも十分な接着性を有しているとは言い難い。上記のように、接着性の低い組み合わせであっても、所望の接着力の確保が重要となる。
【0029】
(無機フィラーについて)
このLCPには、無機フィラーとして中空のガラスビーズ13(以下、ガラスビーズ13)が重量比で15%混練されている。尚、ガラスビーズ13の平均粒径は10〜100μmの範囲で適宜選択される。このガラスビーズ13は、ソーダ石灰ホウ珪酸ガラスから構成され、主成分は二酸化珪素(SiO2),酸化カルシウム(CaO),酸化ナトリウム(Na2O),酸化ホウ素(B2O3)である。この無機フィラーを混練することで断熱性を向上する。基本的には、混練量が高まれば高まるほど後述する接着性及び断熱性は高くなるが、機械的物性としては悪化する方向であるため、これらの二律背反を考慮した量が混練される。
【0030】
尚、平均粒径10〜100μmの無機フィラーとしては、上記ガラスビーズ13以外にも、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、マイカ、酸化亜鉛、ドロマイト、シリカ、チョーク、タルク、ピグメント、二酸化チタン、二酸化珪素、ベントナイト、クレー、珪藻土及びそれらから成る群より選ばれる無機鉱物粉末が挙げられる。
【0031】
ただし、上記各無機鉱物粉末はガラスビーズ13に比べて比重が大きい。以下、参考までにガラスビーズと、タルクと、炭酸カルシウムと、ガラス繊維と、二酸化チタンの比重を記す。
ガラスビーズ 0.6
タルク 2.9
炭酸カルシウム 2.7
ガラス繊維 2.5
二酸化チタン 4.1
【0032】
上記のように、ガラスビーズ13の比重は非常に小さく、言い換えると、他の無機フィラーは比重が大きい。この場合、樹脂製容器1自体の重量の増加や、衝撃に対する脆性破壊の懸念がある。また、重量増は搬送コストの増加を招き、焼却エネルギーの増大に伴う環境面への負荷の高まりも懸念される。このことから、無機フィラーとして中空のガラスビーズ13を採用することで、樹脂製容器1の軽量化、衝撃に対する耐久性の向上、搬送コストの低減、環境負荷の軽減を図ることができる。
【0033】
(密度分布について)
図2の拡大断面図に示すように、実施例1の樹脂製容器1にあっては、円筒部10,底部15の容器内面12側におけるガラスビーズ13の分散密度よりも樹脂製容器1の厚さ方向の容器外面11側におけるガラスビーズ13の分散密度が高く構成されている。ここで、分散密度とは、無機フィラーを含む樹脂の単位体積当たりの無機フィラーの個数を表す。よって、分散密度が高ければ無機フィラーを含む樹脂の単位体積当たりの無機フィラーの個数が多く、分散密度が低ければ無機フィラーを含む樹脂の単位体積当たりの無機フィラーの個数が少ない。
【0034】
また、飲み口部14には、飲み口部下面141と、接着面142と、飲み口部端面143とを有する。これらを総称して飲み口部表面140と記載する。そして、飲み口部下面141側におけるガラスビーズ13の分散密度よりも接着面142側におけるガラスビーズ13の分散密度が高く構成されている。そして、ガラスビーズ13自体が直接又は間接的に飲み口部表面140に露出した状態とされ、特に接着面142において多数のガラスビーズ13が露出した状態とされている。この接着面142におけるガラスビーズ13の露出は接着力の確保、及び断熱性の確保を目的とするものである。尚、分散密度と接着力の因果関係については後述する。
【0035】
(分散密度の測定方法)
上述の分散密度の測定に関しては、例えば、厚さ1.0mmの樹脂製容器1の場合、容器内面12から一片が0.3mmの立方体を切り取り(以下、第1立方体)、この第1立方体の体積Vと重量Wを測定する。同様に、容器外面11から一片が0.3mmの立方体を切り取り(以下、第2立方体)、この第2立方体の体積V'と重量W'を測定する。
【0036】
そして、ガラスビーズ13の比重aと、LCPの比重bとから第1及び第2立方体に含まれるガラスビーズ13の個数を推定する。以下、第1立方体に含まれるガラスビーズ13の個数推定方法について説明する。
【0037】
ガラスビーズ13の比重をa,LCPの比重をbとし、第1立方体の体積をV,重量をW,第1立方体に含まれるガラスビーズ13の体積をV1,重量をW1,第1立方体に含まれるポリ乳酸の体積をV2,重量をW2とすると、下記に示す関係を得る。
V=V1+V2
W=W1+W2
V1=a・W1
V2=b・W2
よって、
V=a・W1+b(W-W1)
となり、V,W,a,bは既知の値であるから、ガラスビーズ13の体積W1は、
W1=(V−b・W)/(a−b)
となる。
【0038】
ガラスビーズ13の平均粒径からガラスビーズ13一個あたりの体積(以下、ビーズ体積)W11を算出する。ガラスビーズ13の体積W1をビーズ体積W11で除した値を、この切り取られた第1立方体に含まれるガラスビーズ13の個数N1として推定する。同様の方法で、第2立方体に含まれるガラスビーズ13の個数N2を推定する。この推定個数が多いときは分散密度が高く、推定個数が少ないときは分散密度が低いといえる。よって、実施例1の樹脂製容器1にあっては、第1立方体に含まれる推定個数N1より第2立方体に含まれる推定個数N2が多い(N1<N2)。
【0039】
同様の方法で、接着面142側から一片が0.3mmの立方体を切り取り(以下、第3立方体)、第3立方体に含まれるガラスビーズ13の個数N3を推定すると、推定個数N1,N2,N3の関係は、下記のように示される。
N1<N2<N3
【0040】
(分散密度と接着力の因果関係)
次に、分散密度と接着力の因果関係について説明する。まず、接着の定義について説明する。接着とは、2つの被着材の間に液状の接着剤を塗布し、両者を貼り合わせ、液状の接着剤が固化又は硬化により被着材同士が固定された状態を言う。そして、この接着には、機械的接着と、化学的接着と、物理的接着とに大別される。
【0041】
機械的接着とは、投錨効果やファスナー効果とも呼ばれ、被着材表面の粗面化により形成された凹部に入り込んで硬化し、小さい釘を多数打ち込んだような状態を表す。
【0042】
化学的接着とは、接着剤と被着材との間に生じる原子間の一次結合や、原子間引力によって接着剤が被着材間の橋渡しをした結果、結合された状態を表す。
【0043】
物理的接着とは、接着剤の分子と被着材の分子との間の距離が5オングストローム以下に近づくことでファンデルワールス力が作用し、このファンデルワールス力により結合された状態を表す。ここで、ファンデルワールス力が作用するには、接着剤の分子と被着材の分子との距離が近づく必要があるため、接着剤と被着材との間の親和性や溶解性因子(以下、ぬれ性)と因果関係を有する。ぬれ性が高ければ接着力が強くなり、ぬれ性が低ければ接着力は弱くなる。
【0044】
実際の接着には、上記各接着の原理の複数が組み合わさった状態で接着面の凹部に接着剤を塗り込み、接着最表面を平坦化したことで最終的な接着力と密封性を確保する。ここで、上述したように、LCPとホットメルトとの間では、ぬれ性が低く、十分な接着力を確保できない。そこで、LCPに無機フィラーであるガラスビーズ13を混練し、接着面142を粗くすることによる投錨硬化の向上、また、表面が粗くなることに伴うぬれ性の向上に加え、ガラスビーズがLCPよりもぬれ性が高いことによるファンデルワールス力の向上を図るものである。以下、これらの点について検討する。
【0045】
図4は、接着力を測定する引っ張り試験機である。この引っ張り試験機は、可動クランプ31と、可動クランプ31を所定の速度で図4中上方に引き上げ可能なピストン32及びシリンダ33と、固定クランプ34とを有する。そして、所定の速度で引き上げるのに必要な引っ張り力を測定する。この引っ張り試験機を用いてJISK6854-2に準じた180度ピーリング試験を行った。試験片として、樹脂製容器1に相当する樹脂片30a(デュポン株式会社製LCP:ゼナイト6330)と、積層フィルム3に相当するフィルム片30bとを準備した。
【0046】
樹脂片30aは、50mm×15mmの板状であって、厚みが1.5mmのものを用いた。この樹脂片30aは、LCPにガラスビーズ(住友スリーエム社製グラスバブル:S60HS)の混練量を重量%で0%,5%,10%,15%,30%を混練した樹脂片30aを用意した。ここで、混練したガラスビーズの粒径は30μmが50%,15μmが10%,50μmが40%であった。
【0047】
フィルム片30bは、70mm×10mmのシート状であって、厚みが47μmのもの(PET12μm/アルミ15μm/PE20μmからなるガスバリアフィルム)を用いた。PETとはポリエチレンテレフタレートであり、PEとはポリエチレンを示す。尚、フィルム片30b側の接着面はPE側である。
【0048】
樹脂片30aとフィルム片30bとの間にホットメルト4と同じEVAを主成分とするホットメルトを塗布量20g/m2(厚さ 50μm)で塗布し、アイロンにより温度140℃、圧力2kgf/m2、時間1秒でヒートシールを行った。
【0049】
そして、樹脂片30aを固定クランプ34に固定し、フィルム片30bの接着されていない端部を可動クランプ31に固定し、試験温度23℃において、ピーリング速度150mm/min,ピーリング距離40mmとして引っ張った。このときの引っ張り強度及び破壊形態を観測した。
【0050】
更に、樹脂片30aにシャルピ衝撃試験を行い、ガラスビーズを全く混練していない樹脂片30aの強度を100としたときの各樹脂片30aの相対強度(以下、母材強度:無機フィラー混入樹脂強度/母材樹脂強度)を測定した。母材強度が60%以上を適合として○を付し、60%未満を不適合として×を付した。
【0051】
接着強度として950g以上を適合として○を付け、900g以上950g未満を許容範囲として△を付け、900g未満を不適合として×を付けた。破壊形態として、目視によっては界面剥離がほとんど観測されず圧倒的に接着剤凝集破壊が観測されたものを適合として○を付け、部分的に界面剥離が観測されたものを不適合として×を付けた。尚、この破壊形態については、JISK6866に準じて観察した。
【0052】
また、ホットメルトの塗布前に、各樹脂片30aのホットメルトが塗布される面における表面粗さを測定した。表面粗さとは、表面粗さの定義で「十点表面粗さ」のことである。上記表面粗さは、株式会社キーエンス製のレーザー変位センサ(LT9030)により測定した。
【0053】
(180度ピーリング試験結果)
図5は180度ピーリング試験結果の試験結果をまとめた表、図6の実線は180度ピーリング試験結果の試験結果をプロットした表である。尚、図6に示す試験結果は、横軸をガラスビーズの混練量(重量%)とし、表面粗さを▲,接着強度を◆,母材強度を■でプロットした。尚、各指標はパラメータの単位系が異なるため、因果関係を表す傾向を把握する目的から基準データ化して表示した。
【0054】
具体的には、表面粗さ▲については最も表面が粗い混練量30%の樹脂片の表面粗さを1として基準データ化し、接着強度◆については最も接着強度が強い混練量30%の樹脂片の接着強度を1として基準データ化し、母材強度■については最も母材強度が大きい(強度が強い)混練量0%の樹脂片を1として基準データ化した。
【0055】
(混練量と接着強度との因果関係)
図6の表から、混練量を増加させると、表面粗さが上昇する関係があることが分かる。また、混練量を増加させると、接着強度が上昇する関係があることが分かる。特に、混練量が5%から10%に増加したときには、表面粗さが大きく上昇し、それに伴って接着強度も大きく上昇していることが分かる。よって、表面粗さと接着強度には強い因果関係があり、表面粗さを粗くすると、接着強度が増加すると言える。ただし、混練量が5%から10%に増加したときの接着強度の増加率は、混練量を10%から15%に増加したときの接着強度の増加率よりも著しく大きいことから、混練量と接着強度との関係は変曲点を有すると言える。
【0056】
(混練量と母材強度との因果関係)
図6の表から、混練量を増加させると、母材強度が大きく低下することが分かる。また、この強度低下はほぼ混練量と直線的な比例関係にあることが分かる。
【0057】
(接着強度と母材強度との関係に基づく最適混練量)
上記関係に基づいてまとめると、接着強度のみに着目した場合には、混練量が多い方が好ましい。一方、機械的物性である強度のみに着目した場合には、混練量が少ない方が好ましい。ここで、混練量と接着強度との関係は変曲点を有するため混練量10%未満では、接着強度の向上効果(上昇勾配)を十分に得られていない。このことから、混練量10%以上が好ましく、混練量20%以上では、強度低下が大きいことから、好ましい混練量は、10%以上20%未満、更に好ましい混練量としては15%程度であることが分かる。言い換えると、混練量は、接着力の上昇勾配の変曲点よりも多く混練することが効果的である。
【0058】
(混練量と破壊形態の因果関係について)
図7,8は破壊形態を観察した結果を表す模式図である。混練量が10%を越えたものでは、図7に示すように目視により、割れ目がホットメルトの中で起きている(ホットメルト自体が破断し、界面における剥離が観察されない状態)と判断できる凝集破壊の範囲が多くを占めていた。この傾向は混練量が高まるほど凝集破壊の範囲が多くなるという関係があった。これに対し、混練量が10%未満のものは、図8に示すように、一部においてホットメルトと樹脂片30aとの界面において剥離した界面剥離が観察された。特に、混練量が0%の樹脂片30aでは、界面剥離の領域が多かった。上記の実験結果から、混練量が高まるほど、界面剥離が見受けられなくなり、接着力が向上していることから、LCPとホットメルトとの接着力の改善が、安定かつ十分な接着力を確保することと因果関係を有する点が明らかとなった。
【0059】
(ぬれ性と接着強度との因果関係について)
破壊形態の観察からも、ホットメルトとLCPの接着面における接着性が重要である。ここで、物理的接着において説明したように、接着強度とぬれ性には因果関係がある。一般に、LCPとホットメルトとのぬれ性よりも、ガラスビーズとホットメルトとのぬれ性の方が良好である。よって、LCPにガラスビーズを混練することは、粗面化に基づく接着面積の向上、粗面化に基づく投錨効果の確保に加え、ぬれ性の向上に伴う物理的接着力の向上をも図ることができる。このことから、無機フィラーとして好ましいのは、熱可塑性樹脂のぬれ性よりも高いぬれ性を有するものが好適である。この際、無機フィラーは接着面の表面に直接露出していることが要求される。尚、無機フィラーは熱可塑性樹脂内に機械的に捕獲されており、無機フィラーと熱可塑性樹脂との間の接着力はさほど重要ではない。
【0060】
(機械的物性の改善について:傾斜機能材料としての視点)
上述したように、無機フィラーの混練率が高まるほど接着性が高くなる一方で、機械的物性の悪化が問題となる。そこで、接着面のみ無機フィラーの分散密度を高めることで接着力を確保し、それ以外の部分では無機フィラーの分散密度を低くすることで機械的物性の悪化を回避することとした。すなわち、傾斜機能材料としての側面を併せ持つようにした。
【0061】
傾斜機能材料とは表から裏にかけて材質が徐々に変化していき、全く異なった性質を持つ材料のことを言う。複数の素材を組み合わせた複合材料と異なり、継ぎ目がなく、材料の内部で二つの素材が混じり合い、表から裏へ境目なく素材の比率が変わっていく(傾斜組成)点である。わかりやすい例では、表面は堅く、内部はしなやかで折れにくい、また刃先には大きな圧縮応力を残すことで刃こぼれしない日本刀のような性質である。
【0062】
(落下試験)
上記傾斜機能材料としての効果を検証すべく、落下試験を行った。この落下試験は、実施例1に示す樹脂製容器1と同じ形状の容器を用い、180度ピーリング試験で行ったのと同じ材料(LCP,積層フィルム,ホットメルト)を用いた。
【0063】
LCPのみで成形した試験用容器PLAと、LCPにガラスビーズ13の混練量を重量%で30%として成形した試験用容器PLAGB1と、LCPにガラスビーズ13の混練量を重量%で30%とし、更に飲み口部14の接着面142側における分散密度を高め、飲み口部下面141の分散密度を低くした試験用容器PLAGB2とを準備した。
【0064】
尚、この試験用容器のサイズは、厚み1.0mm,高さ70mm,円筒部10における底部15側の直径を50mm,円筒部10における飲み口部14側の直径を60mm,飲み口部14の拡径された最外径の直径を70mmとした。容積は約170cm3である。これら各試験用容器内に、PLA(ポリ乳酸)製の粒状の樹脂ペレット50gを充填し、180度ピーリング試験に用いた積層フィルムとホットメルトにてヒートシールして封入した。
【0065】
図9は落下試験の概要を表す模式図である。図9(a)に示すように、床(落下面)から所定高さLの位置において、樹脂ペレットが充填された試験用容器を横向きに保持し、そこから自由落下させた(以下、落下試験1)。同様に、図9(b)に示すように、床から所定高さLの位置において、樹脂ペレットが充填された試験用容器を飲み口部14が下側になるように保持し、そこから自由落下させた(以下、落下試験2)。
【0066】
また、落下試験に使用されている床はコンクリート製であり、詳細は次の通りである。
1)床を構成するコンクリート製部材の質量は、資料(多層ポリエステル樹脂)の50倍である。
2)床のいずれの2点においても、水平差が2mm以下である。
3)床は、いかなる点においても、100mm2当たり98Nの静荷重で0.1mm以上の変形を生じない。
4)床はコンクリートで構築されたもので、試料に疵を与えることのない滑らかな面である。
【0067】
尚、落下試験1,2はそれぞれ所定高さLとして50cm,80cm,120cmの3種類の高さから実施した。また、落下試験は、それぞれ1つの試験用容器により各5回実施し、落下試験1と落下試験2とで異なる試験用容器を使用した。
【0068】
5回の落下試験後、飲み口部14における割れ,欠け,変形(以下、欠陥)の有無を観察した。落下試験1,2を実施後、いずれの欠陥も発見されない場合は○を付し、いずれか1つでも欠陥が発見された場合は×を付した。
【0069】
図10は落下試験1,2の試験結果をまとめた表である。この表から、ガラスビーズ13が混練されていない試験用容器PLAは、全ての落下試験において欠陥が観察されなかった。次に、試験用容器PLAGB1は、所定高さLが80cm以上では、欠陥が観察された。このことから、ガラスビーズ13の混練によって強度が低下することが分かる。
【0070】
次に、試験用容器PLAGB2は、所定高さLが120cm以上でのみ欠陥が観察された。言い換えると、所定高さLが80cmでは欠陥が観察されなかった。すなわち、ガラスビーズ13の混練により強度の低下は否めないものの、分散密度を持たせたことで、強度が向上していることが分かった。
【0071】
すなわち、樹脂に混練したガラスビーズに分散密度を持たせることで、傾斜機能材料としての特性を得ることができる。言い換えると、同じガラスビーズの混練量であっても、接着面の効率の良い粗面化に伴う接着性向上に加え、強度の向上をも図ることができるものである。
【0072】
(180度ピーリング試験結果への反映)
図6の点線は同じ混練量で密度分布を持たせた場合の試験結果をプロットした表である。尚、図6に示す試験結果は、横軸をガラスビーズの混練量(重量%)とし、表面粗さを△,接着強度を◇,母材強度を□でプロットした。尚、各指標はパラメータの単位系が異なるため、因果関係を表す傾向を把握する目的から基準データ化して表示した。
【0073】
表面粗さ△については、密度分布無しで最も表面が粗い混練量30%の樹脂片の表面粗さを1として基準データ化した。接着強度◇については、密度分布無しの最も接着強度が強い混練量30%の樹脂片の接着強度を1として基準データ化した。母材強度□については、密度分布無しの最も母材強度が大きい(強度が強い)混練量0%の樹脂片を1として基準データ化した。
【0074】
この結果から、ガラスビーズの混練量が同じであっても、接着面側の密度分布を高めることで、表面粗さの向上、それに伴う接着力の向上、更に、母材強度の改善を図ることが分かる。言い換えると、同じ接着力を得る観点からは、少ないガラスビーズ混練量によって達成できると言え、同じ強度を得る観点からは、多くのガラスビーズ混練量を許容できると言える。
【0075】
(樹脂製容器の製造方法について)
次に、実施例1の樹脂製容器1の製造方法について説明する。図3は樹脂製容器1の製造装置を表す概略説明図である。図3(a)に示すように、温度設定手段201からの指令信号に基づいて金型表面温度を設定した値に昇温可能であって、容器の内面12を成形する容器内面側金型22を有する。また、射出成形金型2は分割された金型であり開閉手段(図示省略)を有する。
【0076】
容器内面側金型22内には、金型の特に内面側を昇温するように配策された線状の発熱体206と、金型表面温度を検出可能な温度センサ205が備えられている。また、電源204から発熱体206に供給する電流値を、温度設定手段201により設定された温度と温度センサ205により検出された金型表面温度に基づいてフィードバック制御する電流制御ユニット202を有する。また、電流制御ユニット202からの制御信号に基づいて電源204と発熱体206との電気的接続状態を断接するスイッチング素子203が設けられている。
【0077】
温度設定手段201により目標温度が設定されると、温度センサ205により検出された金型表面温度と目標温度との偏差に基づいて目標電流値が設定され、発熱体206に電流が供給される。すると、発熱体206は発熱し、容器内面側金型22を昇温する。そして、金型表面温度が目標温度となるように電流値が適宜制御される。
【0078】
また、温度設定手段201からの指令信号に基づいて金型表面温度を設定した値に昇温可能であって、容器の表面を成形する容器外面側金型21を有する。この容器外面側金型21にも、容器内面側金型22と同様に、温度設定手段201,電流値制御ユニット202,スイッチング素子203,電源204,温度センサ205及び発熱体206が備えられている。尚、制御内容については上述したため省略する。
【0079】
また、温度設定手段201からの指令信号に基づいて金型表面温度を設定した値に昇温可能であって、飲み口部上面である接着面141を成形する飲み口部金型25を有する。この飲み口部金型25と容器内面側金型22との間には断熱材26が設けられている。この飲み口部金型25にも、容器内面側金型22と同様に、温度設定手段201,電流値制御ユニット202,スイッチング素子203,電源204,温度センサ205及び発熱体206が備えられている。尚、制御構成については上述したため省略する。
【0080】
また、熱可塑性樹脂を加熱溶融状態に保持可能であって、平均粒径10〜100μmの無機フィラーであるガラスビーズ13が混練された溶融樹脂を容器内面側金型22と容器外面側金型21との間に充填する射出手段23を有する。
【0081】
実施例1の製造装置では、容器の内面を形成する金型と、容器の表面を形成する金型と、飲み口部を成形する金型とを異なる金型とし、三つの金型を組み合わせて樹脂製容器1の形状を形成している。また、各金型の温度を独自に設定できるように構成されている。
【0082】
次に、図3(a)に示すように上下(または左右)に開いた射出成形金型2を、図3(b)に示すように、容器内面側金型22と飲み口部金型25とを断熱材を介して組み合わせると共に、容器内面側金型22と容器外面側金型21とを組み合わせて射出成形金型2を閉じ、樹脂製容器1の形状となる空間24を形成する。そして、温度設定手段201により容器内面側金型22を110℃(第1の所定温度)に設定し、容器外面側金型21を50℃(第1の所定温度よりも低い第2の所定温度)に設定し、飲み口部金型25を35℃(第2の所定温度よりも低い第3の所定温度)に設定する。すると、容器内面側金型22の表面温度は110℃まで、容器外面側金型21の表面温度は50℃まで、飲み口部金型25の表面温度は35℃まで昇温される。そして、昇温された後は、その温度を維持した状態で、射出手段23により溶融樹脂を空間24内に充填され、所定形状の容器に成形される。上記のように射出成形されて、中空容器を冷却した後に射出成形金型2を開けば、所定形状に成形された樹脂製容器1が取り出される。
【0083】
これにより、飲み口部14は、円筒部10や底部15の容器内面12側かつ容器外面11側よりも分散密度が高く、接着面142を粗くすると共に、飲み口部下面141と飲み口部端面143の表面にガラスビーズが露出する。これにより、接着力の向上及び強度の向上を図ることができる。加えて、需要者が飲み口部下面141と飲み口部端面143に唇を接触させて内容物を飲む場合であっても、飲み口部14の断熱性を確保する。また、唇と容器外面11、飲み口部下面141、飲み口部端面143との接触面積を低下させる、あるいは唇と容器外面11、飲み口部下面141、飲み口部端面143との間に多くの空気層を設け、それだけ容器内容物の熱さを伝えにくくする。
【0084】
(一般的な射出成形技術との対比)
一般に、射出成型時の両金型温度は、密度分布を均一にするために、比較的樹脂の流動性を確保可能な温度に昇温する。例えば、容器内面側金型22及び容器外面側金型21の両温度を110℃に昇温する。このため、金型内での無機フィラーの流動性に異方性は無く、無機フィラー密度も均等に分布する。
【0085】
ここで、実施例1の樹脂製容器1と両金型温度を同じに昇温した通常の無機フィラー(平均粒径10〜100μm)含有樹脂製容器とを対比する。図11は通常の無機フィラー含有樹脂製容器(以下、比較例)の拡大断面図である。尚、比較のため、実施例1と同じ肉厚1.0mmとし、無機フィラーとしては実施例1と同じガラスビーズ13を採用し、含有率も実施例1と同じ重量比で15%混練した。
【0086】
図11に示すように、比較例では、樹脂製容器1の容器内面12側におけるガラスビーズ13の分散密度と容器外面11側におけるガラスビーズ13の分散密度とはほぼ均一に分布している。言い換えると、ガラスビーズ13の流動性において容器内面12側と容器外面11側とで特段の異方性はない。
【0087】
比較例の表面粗さは、
外面側表面粗さ(Rz):10.20μm
内面側表面粗さ(Rz):10.20μm
と、両面ともに同じ表面粗さであって、実施例1の内面側表面粗さと同等、もしくは若干平滑化されている。
【0088】
この場合、接着面142の分散密度はさほど高くないため、十分な接着力を確保することができない。また、接着面141及び容器外面11における粗さも低いため、需要者が把持した際や、飲み口部14に唇を接触させて内容物を飲む場合、皮膚表面との接触面積が大きく、熱を伝えやすい。
【0089】
これに対し、実施例1の製造方法にあっては、容器内面側金型22の温度を高くして樹脂の流動性を確保し、一方、容器外面側金型21の温度を低くして樹脂の流動性を低下させる。そして、飲み口部金型25の温度を更に低くして更に樹脂の流動性を低下させる。温度の低い容器外面側金型21や飲み口部金型25の表面に溶融樹脂内に混練されたガラスビーズ13が一旦接すると、このガラスビーズ13は流動しにくくなる。この現象が繰り返されると、流動性の高い容器内面側金型22ではガラスビーズ13の分散密度が低くなり、一方、流動性の低い容器外面側金型21ではガラスビーズ13の分散密度が高くなる。この傾向は、温度が低いほど流動性の低下が顕著となり、分散密度の向上が顕著となる。
【0090】
上記作用により、容器内面12と外面11と接着面141との間に分散密度が異なる密度分布を持たせることが可能となり、接着面141にあっては粗面化及びガラスビーズ13の露出による接着力の向上を確保し、容器外面11のように需要者が直接触れる箇所にあっては十分な断熱性を確保し、一方、容器の内面側ではガラスビーズ13の密度を下げることで容器の機械的物性を確保することができる。
【0091】
(製造コストの優位性について)
次に、製造コストの優位性について説明する。従来、接着面を有する樹脂製成形物の技術として、特開2006−327650号に記載の技術が知られている。この公報には、ホットメルトタイプの接着剤を用いてヒートシールを行う際、接着面となるフランジの上面に粗面化処理を施し、微細な凹凸を形成することでシール強度を得ている。しかしながら、上記技術では、若干の接着性の改善は期待できるものの、容器の成形後、別途、多孔質金属材料を用いて熱結晶化処理を施さなければならず、製造工程が煩雑化するという問題があった。更に、あくまで樹脂に凹凸を形成しているのみであり、凹凸に伴う投錨効果や若干のぬれ性の改善等は見込めるものの、LCPとホットメルトとの間のぬれ性について本質的に解決しているものではない。
【0092】
これに対し、実施例1に記載の製造方法にあっては、溶融樹脂内に無機フィラーを混練するだけで接着面の粗面化を図ることができる。また、単に金型の設定温度を変更するだけで、更に、接着面に効率よくガラスビーズを露出することができ、ガラスビーズはホットメルトに対してぬれ性が良好であることから、投錨効果等に加えて、更なるぬれ性の向上に伴う物理的接着力を向上することができる。同時に、接着面の分散密度を高め、それ以外の部分の分散密度を低くすることで傾斜組成が得られ、強度の向上を図ることができる。
【0093】
次に、断熱性の観点から従来技術と対比する。断熱性を持たせた容器としては、例えば、特開2004-26227号に記載の技術が知られている。この公報には、発泡性樹脂層を容器外面に形成されることにより断熱効果を持たせている。しかしながら、このような樹脂を樹脂容器に利用した場合、十分な断熱効果を得るためには、中空の微粒子を樹脂に添加して塗布する工程と、樹脂フィルムを用いる工程が必要であり、製造コストが増加するため実用性に欠ける。
【0094】
また、特開2001-270571号に記載の技術も知られている。この公報には、樹脂製容器の外面に発泡と同調する同調インクを塗布して、この同調インクの成分配合を特定し、容器胴部部材を構成する各部材の厚みを特定することで容器重量を抑えつつ断熱性を持たせている。しかしながら、発泡インクを塗布する工程が必要であり、製造コストが増加するため実用性に欠ける。
【0095】
また、実用新案登録第3119185号,特開平6-321265号,特開2007-176504,特開2000-168853号のように胴部外面にリブ,凹凸のエンボスを設ける技術や、容器内部に空隙部等を形成する技術が開示されている。しかしながら、これらの手法を用いて樹脂製容器を形成すると、樹脂量が増大して容器を薄肉にできないといった問題や、細かい形状を加工するため成形不良率が上がってしまうという問題、さらには、容器に複雑な細かい形状を有するための金型を製造する必要があり、製造コストが増大するという問題があり、いずれも実用性に欠ける。
【0096】
これらに対し、実施例1の製造方法では、射出成形時の2つの金型温度を異なった温度に維持させるのみで分散密度分布の異方性を得ることができるため、複数の製造工程を経ることがなく、製造コストを抑制することができる。
【0097】
(表面粗さの優位性)
また、実施例1のように容器内面側金型22の温度を110℃とし、容器外面側金型21の温度を50℃に維持すると、図2の拡大断面図に示すように、容器外面11自体の表面粗さを容器内面12よりも粗くすることが可能となる。上述したように、容器外面11は、需要者が直接触れる箇所であり、皮膚表面と容器外面11との接触面積を低下させる、あるいは皮膚表面と容器外面11との間に多くの空気層を設けることで、それだけ容器内容物の熱さを伝えにくくすることができる。
【0098】
尚、容器内面側金型22よりも容器外面側金型21を低くする際の温度差は、熱可塑性樹脂材料の特性や、混練する無機フィラーの特性によって適宜設定すればよく、一般に温度差が高いほど密度分布の異方性が強く、容器外面11の表面粗さも粗くなると考えられる。
【0099】
また、実施例1では、容器内面12はガラスビーズ13の密度が低く、容器内面12の平滑性を高めている。これにより、容器内容物が容器内面12に付着しにくくなり、衛生面及び意匠面においても良好な状態を保つことができる。
【0100】
以上説明したように、実施例1にあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
【0101】
(1)接着剤(ホットメルト4)を介して被接着部材(積層フィルム3)が取り付けられる接着面(142)を有する樹脂製成形物(樹脂製容器1)であって、樹脂(LCP)に、接着面(142)の表面粗さが樹脂のみにより成形したときよりも粗くなるように平均粒径10〜100μmの無機フィラー(ガラスビーズ13)を10〜20重量%混練した。すなわち、無機フィラーを混練するだけで、接着面に凹凸を形成することが可能となり、その凹部に接着剤を20〜40g/m2(厚さ 50〜100μm)塗り込み、接着最表面を平坦化して蓋(被接着部材)が取り付けられる。
よって、製造工程を煩雑化することなく容易に接着性を向上させることができる。また、包装用容器として開口を積層フィルムで封緘する際、密封性を確保することができる。
【0102】
(2)無機フィラーは、樹脂よりも接着剤に対する接着力が高く、かつ、接着面の表面に露出させることとした。よって、樹脂に無機フィラーを混練することは、粗面化に基づく接着面積に向上、粗面化に基づく投錨効果に加え、ぬれ性の向上に伴う物理的接着力の向上をも図ることができる。
【0103】
(3)無機フィラーは、中空のガラスビーズである。よって、樹脂製成形物の軽量化、衝撃に対する耐久性の向上、搬送コストの低減、環境負荷の軽減を図ることができる。また、ガラスビーズは断熱性に優れているため、断熱が必要な箇所に適用する場合には、更に好適である。
【0104】
(4)樹脂製成形物(樹脂製容器1)の単位体積に含まれる無機フィラー(ガラスビーズ13)の個数である分散密度が、接着面(142)に近いほど高くなる密度分布を有することとした。すなわち、接着面の粗さを確保すべく無機フィラーの混練量を増加させると、機械的物性が悪化する。そこで、接着面の密度分布を高めて接着力を向上し、それ以外の箇所は密度分布を低下させることで、背着力の確保と強度の確保とを両立することができる。
【0105】
(5)樹脂製成形物(樹脂製容器1)は、接着面(142)部分の厚さ方向に密度分布を有することとした。今、板状の素材を考えたとき、接着面に該当する領域のみ密度分布を高め、それ以外の領域の密度分布を下げると、接着面の領域に応力集中が発生しやすく、破断しやすくなってしまう。これに対し、接着面部分の厚さ方向に密度分布を有することで傾斜組成を得ることが可能となり、応力集中することなく強度を確保することができる。
【0106】
(6)樹脂製成形物は、内容物が充填される本体部(円筒部10,底部15)と開口部(飲み口部14)とを有する一体成形された容器であり、開口部(飲み口部14)に接着面を有することとした。内容物が充填される容器は、衛生面,搬送性等を考慮して開口部をガスバリア性の高いフィルム等で閉塞する。このとき、接着面が飲み口部14となる場合などは、化学的に不活性なホットメルトを接着剤として用い、接着面に対してフィルムを接着するのが一般的である。このとき、開口部の接着面において、無機フィラーの分布密度が高められていると、接着力の向上に加え、断熱性を高めることができる。例えば、熱い内容物を飲み口部14に唇をつけて直接飲むような場合、飲み口部下面141と飲み口部端面143と容器外面11が粗面化されることで、唇との接触面積を低下させる、あるいは唇表面と飲み口部下面141、飲み口部端面143、容器外面11との間に多くの空気層を設けることが可能となり、それだけ容器内容物の熱さを伝えにくくすることができる。
【0107】
(7)本体部(円筒部10)の単位体積に含まれる無機フィラーの個数である分散密度が、本体部内面側(容器内面12側)よりも本体部外面側(容器外面11側)に近いほど高くなる密度分布を有することとした。即ち、容器外面11は、需要者が直接触れる箇所であり、皮膚表面と容器外面11との接触面積を低下させる、あるいは皮膚表面と容器外面11との間に多くの空気層を設けることで、それだけ容器内容物の熱さを伝えにくくすることができる。
【0108】
(8)成形対象(樹脂製容器1)と接触する接触面の表面温度を第1の所定温度(35℃)に昇温可能であって、接着剤を介して被接着部材が取り付けられる接着面を成形する接着面成形手段(飲み口部金型25)と、成形対象と接触する接触面の表面温度を前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度(110℃もしくは50℃)に昇温可能であって接着面以外を成形する成形手段(容器外面側金型21,容器内面側金型22)と、を用い、無機フィラーが混練された溶融樹脂を接着面成形手段(飲み口部金型25)と成形手段(容器外面側金型21,容器内面側金型22)との間に介在させて成形する樹脂製成形物の成形方法であって、第1の所定温度と前記第2の所定温度は、前記接着面が前記接着面以外よりも粗くなる温度とした。
【0109】
よって、接着面にあっては粗面化を図ることで接着性を確保し、一方、接着面以外では無機フィラーの密度を下げることで容器の機械的物性を確保することができる。また、成形手段及び接着面成形手段を異なる温度に昇温させるのみで密度分布の異方性(傾斜組成)を得ることができるため、複数の製造工程を経ることがなく、製造コストを抑制することができる。
【0110】
更に、第1の所定温度(35℃)と第2の所定温度(110℃もしくは50℃)は、接着面142が容器の内面12もしくは外面11よりも粗くなる温度に昇温されている。よって、確実に接着面142を粗くすることができる。
【0111】
尚、実施例1のように、容器外面側金型21と容器内面側金型22と飲み口部金型25を設け、これらの温度を独立に昇温可能に構成することで、各部位に要求される分散密度を自由に調整することができる。よって、容器の内面12にあっては平滑性を維持し、容器の外面11にあっては断熱性の観点から分散密度を高め、飲み口部14にあっては接着力の向上の観点から外面11以上に分散密度を高めるように構成できる。これにより、接着力の向上、断熱性の向上、強度の向上を全て達成することができる。
【0112】
(9)第1の所定温度と第2の所定温度は、接着力の高い無機フィラーを、接着面の表面に露出させる温度とした。これにより、接着面にあっては無機フィラーの露出により接着力を向上し、一方、接着面以外では無機フィラーの密度を下げることで容器の機械的物性を確保することができる。また、成形手段及び接着面成形手段を異なる温度に昇温させるのみで密度分布の異方性を得ることができるため、複数の製造工程を経ることがなく、製造コストを抑制することができる。
【0113】
以上、実施例1について説明したが、上記構成に限られず、本発明を逸脱しない範囲で適宜設計変更してもよい。例えば、実施例1では、熱可塑性樹脂としてLCPを使用したが、他に例示した熱可塑性樹脂や、これらとの組み合わせを用いてもよい。
【0114】
また、無機フィラーとして中空のガラスビーズ13を用いたが、他の無機フィラーを用いて密度分布を持たせる構成としてもよいし、複数の無機フィラーを組み合わせて密度分布を持たせる構成としてもよい。
【0115】
また、実施例1では、容器内面側金型22と容器外面側金型21を別々の金型として構成したが、1つの金型に容器内面側と容器表面側とを備えた構成でもよい。この場合、1つの金型であっても異なる温度分布を設定した値に昇温可能な金型とする必要がある点に留意する。
【0116】
また、実施例1では、容器内面側金型22と飲み口部金型25との温度を、それぞれ110℃と35℃に設定したが、これに限られず、必要な密度分布が得られる温度差を設定すればよい。
【0117】
また、実施例1では、容器外面側金型21の温度を低い値に昇温したため、容器外面11全てにおいて密度分布の異方性を持たせたが、例えば、容器の把持部分となる円筒部もしくは円筒部の一部のみ温度を低くし、この部分にのみ密度分布の異方性を持たせるように設定してもよい。
【0118】
また、実施例1では、飲み口部金型25の温度を35℃に昇温し、容器外面側金型21を50℃に昇温したが、例えば、飲み口部金型25の温度を更に低い温度(例えば25℃)等に昇温し、接着面142の粗さを更に粗くしてもよい。
【0119】
もしくは、飲み口部金型25の温度を、例えば容器外面側金型21の昇温温度である35℃よりも高い50℃程度に昇温し、飲み口部14内のガラスビーズ13の分散密度が過剰に高くならないように適宜調整してもよい。これにより、飲み口部14の機械的物性の向上を図ることができる。
【0120】
また、実施例1では、飲み口部金型25として、接着面142に接触する構成としたが、例えば、飲み口部金型25を、飲み口部表面140全体を覆う構成としても良い。この場合、飲み口部14だけ独立した温度に昇温することが可能となり、飲み口部14における分散密度や表面粗さを自由に設定することができる。
【0121】
尚、実施例1では、樹脂製容器に適用した例を示したが、例えば飲み口部を有する樹脂製の容器用蓋にあっては、この容器用蓋に本願発明を適用して接着性や断熱性を確保する構成としてもよい。
【0122】
また、実施例1では、射出成形時の金型を2つの異なった温度に昇温することにより分散密度に異方性を持たせたが、例えば、射出成形時に金型周辺に電場や磁場を作用させ、この場の力を利用して分散密度に異方性を持たせる方法を用いても良い。
【0123】
具体的には、無機フィラーとして常磁性体や強磁性体を採用し、飲み口部金型25と容器内面側金型22及び容器外面側金型21との間に磁場を作用させることで、飲み口部金型25側に無機フィラーが集まり易くするようにしてもよい。
【0124】
もしくは、溶融樹脂内に無機フィラーとは異なる比重のイオン化された粒子を混練し、飲み口部金型25と容器内面側金型22及び容器外面側金型21との間に電場を作用させることで、イオン化された粒子を飲み口部金型25に集まりやすくする。これにより、比重の異なる無機フィラーが飲み口部金型25側に集まり易くするようにしてもよい。
【0125】
また、実施例1では、容器の飲み口部に接着面を成形したが、飲み口部に限らず、円筒部の外周や、底部の下面に接着面を成形し、ホットメルト等の接着剤を介して商品名等が記載されたフィルムや商品タグを接着してもよい。また、容器内面に接着面を成形し、容器の内面にフィルム等を接着してもよい。
【0126】
この場合、実施例1のように溶融樹脂の射出成形限られず、他の成形手段によって樹脂製容器を作ることとしてもよい。すなわち、実施例1では、容器内面側成形手段として容器内面側金型を使用し、容器外面側成形手段として容器外面側金型を使用したが、金型に限られず押し出し成形のローラを成形手段として用いても良い。
【0127】
例えば、押し出し成形により樹脂をシート状に加工し、このシート状の樹脂を真空成形やブロー成形により容器形状に加工する場合、このシート状の樹脂は容器内面となる表面と容器外面となる裏面を有することとなる。押し出し成形とは、2つのローラの間に溶融樹脂を押し出して所望の厚さのシートを成形するものである。このとき、シート状の樹脂の表面を成形するローラを第1の所定温度に昇温し、シート状の樹脂の裏面を成形するローラを第1の所定温度よりも低い第2の所定温度に昇温した状態で、無機フィラーが混練された溶融樹脂を介在させる。
【0128】
すると、押し出し成形により成形されたシート状の樹脂の表面と裏面との間に厚さ方向で分散密度が異なるように分布を持たせることができる。このシート状の樹脂から真空成形やブロー成形により表面から裏面側に膨出させて容器形状に加工すると、表面が容器内面となり裏面が容器外面となる(逆の関係としてもよい)。
【0129】
これにより、この製造方法にあっても、実施例1において説明した各構成と組み合わせることで、同様の作用効果が得られることは言うまでもない。
【0130】
また、実施例1では、熱可塑性樹脂の接着面にホットメルトを介してフィルムを接着したが、熱可塑性樹脂同士を接着する場合にも有効である。また、容器に限られず、電子部品等のパッケージングを施す熱可塑性樹脂内に無機フィラーを混練し、この電子部品に商品タグ等を接着する場合にも有効である。この場合、同時にガラスビーズを用いることによる耐熱性の向上及び軽量化を図ることができる。
【0131】
また、実施例1では、接着面の表面を粗面化すると共に、接着力の高い無機フィラーを露出させ、両者によって接着力の向上を図った例を示したが、所望の接着力が得られる範囲であれば、どちらか一方のみを達成する構成としてもよい。すなわち、接着面の表面に無機フィラーは露出しているが、粗面化は成されておらず、平滑化された状態であってもよい。この平滑化は、金型温度や混練する無機フィラーの形状によって達成してもよいし、成形後、接着面のみを研磨して表面を平滑化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実施例1の樹脂製容器の斜視図である。
【図2】実施例1の樹脂製容器の領域Aの部分拡大断面図である。
【図3】実施例1の樹脂製容器の製造装置を表す概略説明図である。
【図4】接着力を測定する引っ張り試験機の概略図である。
【図5】180度ピーリング試験結果の試験結果をまとめた表である。
【図6】180度ピーリング試験結果をプロットした表である。
【図7】180度ピーリング試験後の破壊形態を観察した結果を表す模式図である。
【図8】180度ピーリング試験後の破壊形態を観察した結果を表す模式図である。
【図9】落下試験の概要を表す模式図である。
【図10】落下試験の試験結果をまとめた表である。
【図11】比較例の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0133】
1 樹脂製容器
2 射出成形金型
10 円筒部
11 容器外面
12 容器内面
13 ガラスビーズ(無機フィラー)
14 飲み口部
15 底部
21 容器外面側金型
22 容器内面側金型
23 射出手段
24 空間
25 飲み口部金型
26 断熱材
201 温度設定手段
202 電流制御ユニット
203 スイッチング素子
204 電源
205 温度センサ
206 発熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤を介して被接着部材が取り付けられる接着面を有する樹脂製成形物であって、
樹脂に、前記接着面の表面粗さが樹脂のみにより成形したときよりも粗くなるように平均粒径10〜100μmの無機フィラーを混練したことを特徴とする樹脂製成形物。
【請求項2】
接着剤を介して被接着部材が取り付けられる接着面を有する樹脂製成形物であって、
樹脂に、該樹脂よりも前記接着剤に対する接着力が高い平均粒径10〜100μmの無機フィラーを混練し、前記接着面の表面に前記無機フィラーを露出させたことを特徴とする樹脂製成形物。
【請求項3】
接着剤を介して被接着部材が取り付けられる接着面を有する樹脂製成形物であって、
樹脂に、該樹脂よりも前記接着剤に対する接着力が高い平均粒径10〜100μmの無機フィラーを、前記接着面の表面粗さが樹脂のみにより成形したときよりも粗くなるように混練し、かつ、前記接着面の表面に前記無機フィラーを露出させたことを特徴とする樹脂製成形物。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1つに記載の樹脂製成形物において、
前記無機フィラーは、中空のガラスビーズであることを特徴とする樹脂製成形物。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1つに記載の樹脂製成形物において、
前記樹脂製成形物の単位体積に含まれる前記無機フィラーの個数である分散密度が、前記接着面に近いほど高くなる密度分布を有することを特徴とする樹脂製成形物。
【請求項6】
請求項5に記載の樹脂製成形物において、
前記樹脂製成形物は、前記接着面部分の厚さ方向に前記密度分布を有することを特徴とする樹脂製成形物。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか1つに記載の樹脂製成形物において、
前記樹脂製成形物は、内容物が充填される本体部と開口部とを有する一体成形された容器であり、
前記開口部に接着面を有することを特徴とする樹脂製成形物。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂製成形物において、
前記本体部の単位体積に含まれる前記無機フィラーの個数である分散密度が、前記本体部内面側よりも前記本体部外面側に近いほど高くなる密度分布を有することを特徴とする樹脂製成形物。
【請求項9】
成形対象と接触する接触面の表面温度を第1の所定温度に昇温可能であって、接着剤を介して被接着部材が取り付けられる接着面を成形する接着面成形手段と、
成形対象と接触する接触面の表面温度を前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度に昇温可能であって前記接着面以外を成形する成形手段と、
を用い、
無機フィラーが混練された溶融樹脂を前記接着面成形手段と前記成形手段との間に介在させて成形する樹脂製成形物の成形方法であって、
前記第1の所定温度と前記第2の所定温度は、前記接着面が前記接着面以外よりも粗くなる温度であることを特徴とする樹脂製成形物の成形方法。
【請求項10】
成形対象と接触する接触面の表面温度を第1の所定温度に昇温可能であって、接着剤を介して被接着部材が取り付けられる接着面を成形する接着面成形手段と、
成形対象と接触する接触面の表面温度を前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度に昇温可能であって前記接着面以外を成形する成形手段と、
を用い、
樹脂よりも前記接着剤に対する接着力が高い無機フィラーが混練された溶融樹脂を前記接着面成形手段と前記成形手段との間に介在させて成形する樹脂製成形物の成形方法であって、
前記第1の所定温度と前記第2の所定温度は、前記接着面の表面に前記無機フィラーが露出する温度であることを特徴とする樹脂製成形物の成形方法。
【請求項11】
成形対象と接触する接触面の表面温度を第1の所定温度に昇温可能であって、接着剤を介して被接着部材が取り付けられる接着面を成形する接着面成形手段と、
成形対象と接触する接触面の表面温度を前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度に昇温可能であって前記接着面以外を成形する成形手段と、
を用い、
樹脂よりも前記接着剤に対する接着力が高い無機フィラーが混練された溶融樹脂を前記接着面成形手段と前記成形手段との間に介在させて成形する樹脂製成形物の成形方法であって、
前記第1の所定温度と前記第2の所定温度は、前記接着面の表面に前記無機フィラーが露出し、かつ、前記接着面が前記接着面以外よりも粗くなる温度であることを特徴とする樹脂製成形物の成形方法。
【請求項12】
請求項9ないし11いずれか1つに記載の樹脂製成形物の成形方法において、
前記無機フィラーは、中空のガラスビーズであることを特徴とする樹脂製成形物の成形方法。
【請求項13】
請求項9ないし13いずれか1つに記載の樹脂製成形物の成形方法において、
前記樹脂製成形物の単位体積に含まれる前記無機フィラーの個数である分散密度が、前記接着面に近いほど高くなる密度分布を有することを特徴とする樹脂製成形物の成形方法。
【請求項14】
請求項13に記載の樹脂製成形物の成形方法において、
前記樹脂製成形物は、前記接着面部分の厚さ方向に前記密度分布を有することを特徴とする樹脂製成形物の成形方法。
【請求項15】
請求項9ないし14いずれか1つに記載の樹脂製成形物の成形方法において、
前記樹脂製成形物は、内容物が充填される本体部と開口部とを有する一体成形された容器であり、
前記開口部に接着面を有することを特徴とする樹脂製成形物の成形方法。
【請求項16】
請求項15に記載の樹脂製成形物の成形方法において、
前記本体部の単位体積に含まれる前記無機フィラーの個数である分散密度が、前記本体部内面側よりも前記本体部外面側に近いほど高くなる密度分布を有することを特徴とする樹脂製成形物の成形方法。
【請求項17】
樹脂製であって、開口に接着面を有し、前記接着面の表面粗さが前記樹脂のみにより成形したときよりも粗くなるように平均粒径10〜100μmの無機フィラーを混練した樹脂製容器と、
前記開口を封緘する積層フィルムと、
を備え、
前記接着面と前記積層フィルムとを接着剤を介して接着すると共に、該接着剤により密封したことを特徴とする包装用容器。
【請求項18】
樹脂製であって、開口に接着面を有し、前記樹脂よりも接着剤に対する接着力が高い平均粒径10〜100μmの無機フィラーを混練し、前記接着面の表面に前記無機フィラーを露出させた樹脂製容器と、
前記開口を封緘する積層フィルムと、
を備え、
前記接着面と前記積層フィルムとを接着剤を介して接着すると共に、該接着剤により密封したことを特徴とする包装用容器。
【請求項19】
樹脂製であって、開口に接着面を有し、前記接着面の表面粗さが前記樹脂のみにより成形したときよりも粗くなるように平均粒径10〜100μmの無機フィラーを混練し、かつ、前記接着面の表面に前記無機フィラーを露出させた樹脂製容器と、
前記開口を封緘する積層フィルムと、
を備え、
前記接着面と前記積層フィルムとを接着剤を介して接着すると共に、該接着剤により密封したことを特徴とする包装用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−64289(P2010−64289A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230512(P2008−230512)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】