説明

樹脂製直動装置部品の固定方法および直動装置

【課題】樹脂製直動装置部品に形成された直動装置部品取付け用貫通孔を挿通するボルトにより樹脂製直動装置部品を直動装置部品取付け面に固定する際に樹脂製直動装置部品のクリープを抑制することのできる樹脂製直動装置部品の固定方法を提供する。
【解決手段】レール固定用ボルト14の軸径より大きい内径を有し且つレール固定用ボルト14の頭部14aが収容される部分を除いたレール取付け用貫通孔12の長さより僅かに短い長さの円筒部13aを有する金属製のクリープ抑制部材13を樹脂製案内レール10のレール取付け用貫通孔12に挿入した後、クリープ抑制部材13の円筒部13aにレール固定用ボルト14を挿入する。そして、クリープ抑制部材13がレール取付け面11に当接するまでレール固定用ボルト14をレール取付け面11に形成されたねじ穴16に螺入して樹脂製案内レール10をレール取付け面11に固定する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば樹脂製案内レールなどの樹脂製直動装置部品に形成された直動装置部品取付け用貫通孔を挿通するボルトにより樹脂製直動装置部品を直動装置部品取付け面に固定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
往復直線運動する物体をその移動方向に案内する直動案内装置は、直線状に形成された案内レールと、この案内レールの長手方向に相対移動するスライダとを有しており、案内レールは所定の形状に引抜き加工された鋼材から形成されている場合が多い。このため、このような直動案内装置を水滴が飛散する環境下や高温多湿の環境下で使用すると、案内レールの転動体転動溝に錆が発生して転動体の転がり運動を阻害する原因となる。そこで、このような問題を解消するために、直動案内装置の案内レールを樹脂材で形成することが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、案内レールを樹脂材で形成すると、案内レールに形成されたレール取付け用貫通孔を挿通するレール固定用ボルトにより案内レールを産業機械や測定機器のレール取付け面に固定した際に、レール固定用ボルトの緩みを招くクリープが案内レールに発生し、その結果、案内レールの取付け精度が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2005−291335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述した点に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂製直動装置部品に形成された直動装置部品取付け用貫通孔を挿通するボルトにより樹脂製直動装置部品を直動装置部品取付け面に固定する際に樹脂製直動装置部品のクリープを抑制することのできる樹脂製直動装置部品の固定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明に係る樹脂製直動装置部品の固定方法は、樹脂製直動装置部品に形成された直動装置部品取付け用貫通孔を挿通するボルトにより前記樹脂製直動装置部品を直動装置部品取付け面に固定するに際して、前記ボルトの軸径より大きい内径を有し且つ前記ボルトの頭部が収容される部分を除いた前記直動装置部品取付け用貫通孔の長さより僅かに短い長さの円筒部を有する金属製のクリープ抑制部材を前記直動装置部品取付け用貫通孔に挿入した後、前記ボルトを前記クリープ抑制部材の円筒部に挿入し、前記クリープ抑制部材が前記直動装置部品取付け面に当接するまで前記ボルトを前記直動装置部品取付け面に形成されたねじ穴に螺入して前記樹脂製直動装置部品を前記直動装置部品取付け面に固定することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明に係る樹脂製直動装置部品の固定方法は、請求項1記載の樹脂製直動装置部品の固定方法において、前記直動装置部品固定用ボルトの頭部が収容される部分を除いた前記直動装置部品取付け用貫通孔の長さをL、前記クリープ抑制部材の円筒部の長さをAとしたとき、前記円筒部の長さがL>A>0.95Lを満たすことを特徴とする。
請求項3記載の発明に係る樹脂製直動装置部品の固定方法は、請求項1または2記載の樹脂製直動装置部品の固定方法において、前記クリープ抑制部材がオーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム合金または銅合金から形成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項4記載の発明に係る樹脂製直動装置部品の固定方法は、請求項1〜3のいずれか一項記載の樹脂製直動装置部品の固定方法において、前記クリープ抑制部材が前記ボルトの挿入される側の円筒部の端部にフランジ部を有することを特徴とする。
請求項5記載の発明に係る樹脂製直動装置部品の固定方法は、請求項4記載の樹脂製直動装置部品の固定方法において、前記クリープ抑制部材が前記ボルトの頭部を前記直動装置部品取付け用貫通孔から抜け出る方向に付勢するボルト付勢手段を前記フランジ部に有することを特徴とする。
【0008】
請求項6記載の発明に係る樹脂製直動装置部品の固定方法は、請求項5記載の樹脂製直動装置部品の固定方法において、前記ボルト付勢手段が前記円筒部の径方向と円周方向に沿う複数の切り込みを前記フランジ部に設けて形成されていることを特徴とする。
請求項7記載の発明に係る直動装置は、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法により固定される樹脂製直動装置部品を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜4記載の発明に係る樹脂製直動装置部品の固定方法によれば、クリープ抑制部材が直動装置部品取付け面に当たるまでボルトを直動装置部品取付け面に形成されたねじ穴に螺入すると、それまで樹脂製直動装置部品に作用していたボルトの締付力がクリープ抑制部材に作用するため、ボルトの締付力による樹脂製直動装置部品のクリープがクリープ抑制部材によって抑制される。したがって、樹脂製直動装置部品に形成された直動装置部品取付け用貫通孔を挿通するボルトにより樹脂製直動装置部品を直動装置部品取付け面に固定する際に樹脂製直動装置部品のクリープを抑制することができる。
【0010】
また、請求項5及び6記載の発明に係る樹脂製直動装置部品の固定方法によれば、クリープ抑制部材のフランジ部に設けられたボルト付勢手段によってボルトの頭部が直動装置部品取付け用貫通孔から抜け出る方向に付勢されるので、樹脂製直動装置部品の取付け精度を低下させる緩みがボルトに発生することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る樹脂製直動装置部品の固定方法を図面に基づいて説明する。
図1〜図6は本発明の第1の実施形態を示す図であって、樹脂製案内レール10をレール固定用ボルト14によりレール取付け面11に固定する場合は、先ず、樹脂製案内レール10をレール取付け面11上に設置した後、図1に示すように、案内レール10に形成されたレール取付け用貫通孔12にクリープ抑制部材13を挿入する。
【0012】
ここで、クリープ抑制部材13は金属材料(好ましくは、オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム合金または真鍮等の銅合金)から形成され、円筒部13a(図2参照)を有している。この円筒部13aはレール固定用ボルト14の軸径より大きい内径を有しており、レール固定用ボルト14の頭部14aが収容される部分を除いたレール取付け用貫通孔12の長さをL(図1参照)、円筒部13aの長さをAとすると、L>A>0.95Lとなっている。
【0013】
また、クリープ抑制部材13はレール固定用ボルト14が挿入される側の円筒部13aの端部にフランジ部13b(図2参照)を有しており、このフランジ部13bには、ボルト付勢手段としての複数の板バネ部13c(図3及び図4参照)が設けられている。これらの板バネ部13cは円筒部13aの径方向と円周方向に沿う複数の切り込み15をフランジ部13bに設けて形成されており、従って、レール固定用ボルト14の頭部14aは板バネ部13cのバネ力によってレール取付け用貫通孔12から抜け出る方向に弾性的に付勢されるようになっている。
【0014】
なお、樹脂製案内レール10の素材としては、常温の室内環境下で吸水率が0.5%未満の樹脂材を用いることが好ましい。製造コストを考慮すると、熱可塑性樹脂が好適で、具体的には、ポリオキシメチレン(アセタール樹脂)、超高分子量ポリオレフィンの存在下、多段階重合法で得られた低分子量乃至高分子量ポリオレフィンからなる高摺動性特殊ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂(ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6等)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等)等である。この中で、超高分子量ポリオレフィンの存在下、多段階重合法で得られた低分子量乃至高分子量ポリオレフィンからなる高摺動性特殊ポリオレフィン樹脂や、PFA、FEP、ETFE等のフッ素樹脂が、自己潤滑性に優れるので最も好適である。使用条件によっては、例えば0.5質量%以下のジンクピリチオンを含有させ、抗菌、抗カビ性を付与することが好ましい。また、フランジ部13bの大きさは特に限定されないが、樹脂製案内レール10に作用する面圧を小さく抑えるためには、フランジ部13bの大きさ(直径)をレール固定用ボルト14の頭部外径より大きくすることが好ましい。
【0015】
このようなクリープ抑制部材13を樹脂製案内レール10のレール取付け用貫通孔12に挿入したならば、図5に示すように、レール固定用ボルト14をクリープ抑制部材13の円筒部13aに挿入し、レール固定用ボルト14のねじ部14bをレール取付け面11に形成されたねじ穴16に螺入する。このとき、図6に示すように、クリープ抑制部材13の端部がレール取付け面11に当たるまでレール固定用ボルト14をねじ穴16に螺入すると、それまで樹脂製案内レール10に作用していたレール固定用ボルト14の締付力がクリープ抑制部材13に作用し、レール固定用ボルト14の締付力による樹脂製案内レール10のクリープがクリープ抑制部材13によって抑制される。したがって、樹脂製案内レール10をレール固定用ボルト14によりレール取付け面11に固定する際に樹脂製案内レール10のクリープを抑制することができる。
【0016】
また、クリープ抑制部材13の端部がレール取付け面11に当たるまでレール固定用ボルト14をレール取付け面11のねじ穴16に螺入すると、レール固定用ボルト14の頭部14aがクリープ抑制部材13のフランジ部13bに当接し、クリープ抑制部材13のフランジ部13bに形成された板バネ部13cのバネ力によってレール固定用ボルト14の頭部14aが樹脂製案内レール10のレール取付け用貫通孔12から抜け出る方向に弾性的に付勢されるので、樹脂製案内レール10の取付け精度を低下させる緩みがレール固定用ボルト14に発生することを防止することができる。
【0017】
板バネ部13cを図2〜図4に示す方向に設けたことにより、通常の右ねじのボルトを使用した場合、ボルトの緩みを効果的に抑制することができる。
上述した本発明の第1の実施形態では、円筒部13aの端部にフランジ部13bを有するクリープ抑制部材13を用いて樹脂製案内レール10をレール取付け面11に固定するようにしたが、円筒部13aの端部にフランジ部13bを持たないクリープ抑制部材を用いても樹脂製案内レール10のクリープを抑制することができる。
【0018】
また、本発明の第1の実施形態では、円筒部13aの径方向と円周方向に沿う複数の切り込み15をフランジ部13bに設けて形成されたものをボルト付勢手段の一例として例示したが、これに限定されるものではなく、たとえばクリープ抑制部材13のフランジ部13bを板バネ部13cを持たないフランジ部としてもよい。この場合、フランジ部の上面に弾性体を設置してボルト付勢手段を構成してもよい。
【0019】
なお、使用するボルトは水滴が飛散する環境下や高温多湿の環境下では、ステンレス鋼からなるものが望ましい。また、直動装置で使用される転動体は、通常の軸受鋼(例えばSUJ2)が安価であるが、上記のような環境下ではセラミックス製(例えばアルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素等)や硬質の樹脂製が好ましい。
さらに、本発明の第1の実施形態では樹脂製案内レールの固定方法に本発明を適用した場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、たとえば、図7に示すように、直動案内装置の樹脂製スライダ20をスライダ固定用ボルト21によりスライダ取付け面22に固定する場合にも適用することができる。また、図8に示すように、樹脂製ボールねじナット30をナット固定用ボルト31によりナット取付け面32に固定する場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す図で、樹脂製案内レールのレール取付け用貫通孔にクリープ抑制部材を挿入した状態を示す図である。
【図2】図1に示すクリープ抑制部材の縦断面図である。
【図3】図2に示すクリープ抑制部材の斜視図である。
【図4】図3に示すクリープ抑制部材の平面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態を示す図で、クリープ抑制部材の円筒部にレール固定用ボルトを挿入した状態を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態を示す図で、クリープ抑制部材がレール取付け面に当接するまでレール固定用ボルトをレール取付け面のねじ穴に螺入した状態を示す図である。
【図7】本発明を樹脂製スライダの固定方法に適用した場合を説明するための図である。
【図8】本発明を樹脂製ボールねじナットの固定方法に適用した場合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0021】
10 樹脂製案内レール
11 レール取付け面
12 レール取付け用貫通孔
13 クリープ抑制部材
13a 円筒部
13b フランジ部
13c 板バネ部
14 レール固定用ボルト
14a レール固定用ボルトの頭部
14b レール固定用ボルトのねじ部
15 切り込み
16 ねじ穴
20 樹脂製スライダ
21 スライダ固定用ボルト
30 樹脂製ボールねじナット
31 ナット固定用ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製直動装置部品に形成された直動装置部品取付け用貫通孔を挿通するボルトにより前記樹脂製直動装置部品を直動装置部品取付け面に固定するに際して、前記ボルトの軸径より大きい内径を有し且つ前記ボルトの頭部が収容される部分を除いた前記直動装置部品取付け用貫通孔の長さより僅かに短い長さの円筒部を有する金属製のクリープ抑制部材を前記直動装置部品取付け用貫通孔に挿入した後、前記ボルトを前記クリープ抑制部材の円筒部に挿入し、前記クリープ抑制部材が前記直動装置部品取付け面に当接するまで前記ボルトを前記直動装置部品取付け面に形成されたねじ穴に螺入して前記樹脂製直動装置部品を前記直動装置部品取付け面に固定することを特徴とする樹脂製直動装置部品の固定方法。
【請求項2】
前記直動装置部品固定用ボルトの頭部が収容される部分を除いた前記直動装置部品取付け用貫通孔の長さをL、前記クリープ抑制部材の円筒部の長さをAとしたとき、前記円筒部の長さがL>A>0.95Lを満たすことを特徴とする請求項1記載の樹脂製直動装置部品の固定方法。
【請求項3】
前記クリープ抑制部材はオーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム合金または銅合金から形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂製直動装置部品の固定方法。
【請求項4】
前記クリープ抑制部材は前記ボルトが挿入される側の円筒部の端部にフランジ部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の樹脂製直動装置部品の固定方法。
【請求項5】
前記クリープ抑制部材は前記ボルトの頭部を前記直動装置部品取付け用貫通孔から抜け出る方向に付勢するボルト付勢手段を前記フランジ部に有することを特徴とする請求項4記載の樹脂製直動装置部品の固定方法。
【請求項6】
前記ボルト付勢手段は前記円筒部の径方向と円周方向に沿う複数の切り込みを前記フランジ部に設けて形成されていることを特徴とする請求項5記載の樹脂製直動装置部品の固定方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の方法により固定される樹脂製直動装置部品を備えたことを特徴とする直動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−128290(P2008−128290A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311368(P2006−311368)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】