説明

樹脂部材の製造方法

【課題】結晶性高分子樹脂を用い、部分的にその結晶化率を向上させて機械的強度を高めた樹脂部材の製造方法を提供することを課題とする
【解決手段】結晶性高分子樹脂でなるシート材に、縦壁部を構成する樹脂材が融点以下、結晶化温度以上で臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張することにより配向融液状態を経て結晶化するように、該縦壁部と頂面部とを有する凸部を形成する凸部形成工程と、該凸部形成工程で形成された凸部を有する2つの中間成形品の凸部の頂面部同士を溶着し、両中間成形品を一体化して樹脂部材とする溶着工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用部品等の樹脂部材、特に結晶性高分子樹脂を用いた樹脂部材の製造方法に関し、樹脂製品の製造技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製品の材料として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、或いはポリ塩化ビニールなどの所謂汎用プラスチックは、安価であると共に成形性に優れているなどの理由で、各種の分野で広く用いられているところであるが、機械的強度や耐熱性等に劣るため、自動車用部品や機械用部品等の工業製品用で、これらの特性が要求されるものの材料としては適さないという欠点がある。
【0003】
そのため、このような用途の工業製品用材料としては、高価ではあるが、機械的強度や耐熱性等に優れたポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート、或いはポリアミドなどの所謂エンジニアリングプラスチックが用いられている。
【0004】
このような実情に対処するものとして、特許文献1には、結晶性高分子樹脂融液の成形時における結晶化率を大幅に向上させることにより、ポリプロピレン等の汎用プラスチック材を用いながら、エンジニアリングプラスチックに相当する機械的強度や耐熱性を実現する発明が開示されている。
【0005】
この発明は、結晶性高分子樹脂の融液を、融点以下、結晶化温度以上の状態、換言すれば過冷却状態で、臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張させることを特徴とするもので、これによれば、結晶化の基点となる多数の核を有する高分子の鎖が配向状態で多数形成されると共に、この配向融液状態を経て、多数の核から結晶が成長して短時間で配向性を有する密な結晶体が形成されるとされており、機械的強度や耐熱性に優れた樹脂製品が得られることが期待される。
【0006】
ここで、前記臨界伸張ひずみ速度とは、過冷却状態の融液を伸張させて、その伸張方向のひずみ速度を上げたときに、結晶サイズが不連続的に小さくなるときの速度であり、この速度以上で伸張させることにより、従来の方法で結晶化させた場合に比べて、結晶化率が大幅に向上するのである。
【0007】
そして、前記特許文献1には、臨界速度以上の伸張ひずみ速度を実現するための方法として、上下の板の間にディスク状の高分子樹脂融液のサンプルを挟み、これを過冷却状態に保持して、一方の板を他方の板の方へ一定速度で移動させることにより押しつぶす方法、ダイの吐出口から急冷却しながら高分子樹脂融液を高速で吐出する方法、一対の引き抜きローラにより高分子樹脂融液を急冷却しながらダイから引き抜く方法などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2008/108251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記特許文献1に記載された各方法は、樹脂製品を量産化する際の方法としては不十分で、上下の板で高分子樹脂融液のサンプルを挟む方法は、予めサンプルを作成する必要があると共に、周囲が不規則な形状となるため、周辺部を機械的に成形するなどの他の工程がさらに必要となる。
【0010】
また、ダイから高分子樹脂融液を吐出する方法も、一定断面形状の長尺物が得られるだけであり、さらに、一対のローラによって高分子樹脂融液を引き抜く方法も、フィルム状のものが得られるだけで、これを積層して製品を得ようとすると再度樹脂を溶融しなければならず、結晶化によって向上させた強度が低下することになる。
【0011】
そこで、本発明は、結晶性高分子樹脂を用い、その結晶化率を向上させる前記の方法を利用しながら、樹脂製品の量産化が可能な具体的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0013】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、樹脂部材の製造方法において、結晶性高分子樹脂でなるシート材に、縦壁部を構成する樹脂材が融点以下、結晶化温度以上で臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張することにより配向融液状態を経て結晶化するように、該縦壁部と頂面部とを有する凸部を形成する凸部形成工程と、該凸部形成工程で形成された凸部を有する2つの中間成形品の凸部の頂面部同士を溶着し、両中間成形品を一体化して樹脂部材とする溶着工程とを備えたことを特徴とする。
【0014】
ここで、前記結晶性高分子樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニール等の汎用性プラスチックのほか、ポリアミド等の結晶性のエンジニアリングプラスチックも含む。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の樹脂部材の製造方法において、前記凸部形成工程では、前記結晶性高分子樹脂でなるシート材に凸部を複数形成し、前記溶着工程では、2つの中間成形品の複数の凸部の頂面部同士をそれぞれ溶着することにより両中間成形品を一体化して板状の樹脂部材とすることを特徴とする。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の樹脂部材の製造方法において、前記溶着工程で製造された板状の樹脂部材の少なくと一方の面に樹脂製の表層材を貼り付ける表層材貼着工程を備えたことを特徴とする。
【0017】
さらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂部材の製造方法において、前記結晶性高分子樹脂は汎用プラスチックであることを特徴とする。
【0018】
そして、請求項5に記載の発明は、前記請求項4に記載の樹脂部材の製造方法において、前記汎用プラスチックはポリプロピレンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0020】
まず、請求項1に記載の発明によれば、凸部形成工程において、結晶性高分子樹脂でなるシート材に凸部を形成する際に、該凸部の縦壁部を構成する樹脂材が、該樹脂材の融点以下、結晶化温度以上で、臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張することになるので、該縦壁部が、前述のように、配向融液状態を経て、多数の核から成長した結晶が配向性をもって密に形成された結晶構造を備えることになる。これにより、結晶化率が高く、高強度化、高耐熱化された縦壁部を有する凸部が設けられた中間成形品が得られる。
【0021】
そして、溶着工程において、前記凸部形成工程で形成された凸部を有する2つの中間成形品の凸部の頂面部同士が溶着され、両中間成形品が一体化されてなる樹脂部材が得られることになる。その際、凸部の頂面部を構成する樹脂材は、臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張させることによる高強度化、高耐熱化が行われていないので、縦壁部に比べて溶融しやすく、例えば頂面部同士の摩擦熱を利用した振動溶着法等で、比較的容易に溶着一体化することが可能となる。
【0022】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記凸部形成工程で結晶性高分子樹脂でなるシート材に凸部を複数形成すると共に、前記溶着工程で2つの中間成形品の複数の凸部の頂面部同士をそれぞれ溶着するので、軽量で、所要の厚さを有し、かつ各凸部の縦壁部が高強度化されていることにより、厚さ方向の荷重に対する座屈強度が高い板状樹脂部材が得られることになる。
【0023】
なお、この板状樹脂部材の厚みの中心部は高強度化されていない凸部の頂面部で構成されているので、縦壁部で構成される部分に比べて強度が劣ることになるが、板状部材の中心部には曲げ変形による応力がほとんど発生しないので、板状樹脂部材として、曲げ強度が不足することにはならない。
【0024】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項2の発明に係る方法で得られた板状樹脂部材の少なくと一方の面に樹脂製の表層材が貼り付けられるので、該表層材を貼り付けた面が平滑面とされると共に、この表層材によって板状樹脂部材の曲げ変形に対する強度や剛性が向上することになる。
【0025】
その場合に、必要に応じて、板状樹脂部材の両面に表層材を貼り付けてよく、また、表層材として2軸延伸フィルムを用いれば、いずれの方向の曲げ変形に対しても強度、剛性の高い板状樹脂部材が得られる。
【0026】
このようにして、例えば、自動車のトランクボード、パッケージトリム、フロアアンダカバー等、軽量で比較的大きな静荷重、局所荷重に耐えることができ、かつ所定の寸法精度が必要な部材、或いは、マットガード等のチッピング強度や騒音低減効果が要求される部材として適した板状樹脂部材が得られることになる。
【0027】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、前記シート材を構成する結晶性高分子樹脂として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニール等の汎用性プラスチックが用いられるので、成形品を安価に製造することができる。
【0028】
そして、請求項5に記載の発明によれば、前記汎用プラスチックとして広く用いられているポリプロピレンが採用されるので、価格面及び入手面でさらに有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態における凸部形成工程の説明図である。
【図2】凸部形成工程で凸部の縦壁部が結晶化される過程の説明図である。
【図3】同第1実施形態の溶着工程の説明図である。
【図4】同第1実施形態の表層材貼着工程の説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態における凸部形成工程及び溶着工程の説明図である。
【図6】板状樹脂部材の他の例を示す図である。
【図7】中間成形品の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0031】
まず、第1実施形態に係る樹脂部材の製造方法について説明すると、図1(a)に示すように、この実施形態の方法で用いられるプレス装置10は、固定型11と、その上下に配置された一対の可動型12、12とを有し、固定型11の上下の成形面11’、11’と、上方の可動型12の下面及び下方の可動型12の上面の成形面12’、12’とがそれぞれ対向するように配置されて、互いに対向する成形面11’、12’の組が二組設けられていると共に、可動型12、12は、高速油圧シリンダ等の型締め手段13、13により上下動して、固定型11に対して型締め、型開きされるようになっている。
【0032】
また、固定型11の上下面の成形面11’、11’には、それぞれ紙面直交方向に延びる複数の凸部11aと凹部11bとが交互に設けられていると共に、上下の可動型12、12の成形面12’、12’にも、それぞれ紙面直交方向に延びる複数の凸部12aと凹部12bとが交互に設けられており、可動型12、12の型締め時に、対向する一方の成形面の凸部と他方の成形面の凹部とが互いに噛み合うようになっている。
【0033】
そして、このプレス装置10を用いて、最初の工程である凸部形成工程が次のように行われる。
【0034】
まず、図1(a)に示すように、固定型11に対して可動型12、12を上下に開いた状態で、二組の成形面11’、12’の間に、2枚のシート材50、50をそれぞれ配置する。
【0035】
このシート材50、50は結晶性高分子樹脂でなり、この実施の形態では汎用プラスチックの一種であるポリプロピレンが用いられているが、それ以外に、汎用プラスチックであるポリエチレンやポリ塩化ビニール、エンジニアリングプラスチックであるポリアミド等の結晶成高分子樹脂でなるものが用いられることもある。
【0036】
次に、前記シート材50、50を、樹脂材の融点以下、結晶化温度以上、即ち過冷却状態に保持して、図1(b)に示すように、型締め手段13、13を作動させて上下の可動型12、12を型締めし、2枚のシート材50、50を、二組の成形面11’、12’によってそれぞれプレス成形する。
【0037】
その場合に、各組の成形面11’、12’には、可動型12の型締め時に互いに噛み合う凸部11a、12aと凹部11b、12bとが設けられているから、前記シート材50、50は、プレス成形により、図1(c)に示すように、複数の凸部61と凹部62とが交互に形成された波板状の中間成形品60、60とされる。ここで、この中間成形品60における固定型11の凹部11bと可動型12の凸部12aとで形成された部位を凸部61、固定型11の凸部11aと可動型12の凹部12bとで形成された部位を凹部62とする。
【0038】
そして、この工程においては、前記型締め手段13、13により可動型12、12を固定型11に接近させて、シート材50、50をプレスするときに、前記中間成形品60、60の各凸部61における縦壁部が結晶化するように行われるのであり、次に、その結晶化の過程を、下方の可動型12でプレスされる方のシート材50について具体的に説明する。
【0039】
即ち、図2(a)に示すようにシート材50に対するプレス動作が開始されるとき、まず、固定型11の凸部11aの頂面11a’がシート材50の上面に、可動型12の凸部12aの頂面12a’がシート材50の下面に、所定の間隔を隔てて接することになり、この状態から、可動型12の凸部12aが固定型11の凹部11bの中に、固定型11の凸部11aが可動型12の凹部12bの中に、互いに噛み合うように突入する。
【0040】
このとき、前記シート材50の固定型11及び可動型12の凸部11a、12aの頂面11a’、12a’に接している部分51は、該頂面11a’、12a’との間の摩擦により伸張することはないが、該部分51が相手方の型の凹部12b、11bに押し込まれることにより、前記頂面11a’、12a’に接していない部分52は、引き伸ばされることになる。
【0041】
その場合に、前記型締め手段13による可動型12の型締め速度は、前記シート部材50の引き伸ばされる部分(以下「伸張部分」という)52における伸張ひずみ速度が臨界ひずみ速度以上となるように設定されており、したがって、該伸張部分52は、結晶性高分子樹脂材が過冷却状態で臨界伸張ひずみ速度以上の速度で伸張されることになる。
【0042】
これにより、前述のように、該伸張部分52の樹脂材は、多数の核を有する高分子の鎖が配向状態で多数形成された配向融液状態を経て、結晶体が密に形成された構造となり、図2(b)に示すように、中間成形品60における凸部61の縦壁部61aは、結晶化率が高く、高強度、高耐熱性を備えることになる。
【0043】
その後、樹脂材が冷却、固化した後、プレス成型装置10を型開きすれば、縦壁部61aが高強度化、高耐熱化された凸部61を有する2つの中間成形品60、60が得られることになり、次に、これらの中間成形品60、60を溶着一体化して板状樹脂部材とする溶着工程が行われる。
【0044】
この溶着工程で用いられる溶着装置20は、図3(a)に示すように,一対の溶着型21、21と、これらの型21、21を開閉すると共に、これらの型21、21に位相を異ならせて水平方向の振動を与える開閉加振手段22、22とを有する。
【0045】
また、両溶着型21、21の対向面には、前記中間成形品60、60をそれぞれ収納保持可能なように、該中間成形品60、60の凸部61と凹部62に対応する凹凸が設けられ、両中間成形品60、60を溶着型21、21にそれぞれ収納保持した状態で型締めしたときに、両中間成形品60、60の凸部61、61の頂面部61b、61b同士がそれぞれ対接するようになっている。
【0046】
そして、前記頂面部61b、61bを所定の圧力で対接させた状態で、開閉加振手段22、22により位相が異なる水平方向の振動を溶着型21、21に与えれば、互いに対接した頂面部61b、61bが擦れあい、その際に発生する摩擦熱により、一旦固化した樹脂材が溶融して、両中間成形品60、60の凸部61、61が頂面部61b、61bで溶着する。
【0047】
その場合に、凸部61の頂面部61bを構成する樹脂材は、プレス成形時に、臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張させることによる高強度化や高耐熱化が行われていないので、縦壁部61aに比べて溶融しやすく、上記の振動溶着法により、比較的容易に溶着させることができる。
【0048】
なお、両中間成形品60、60の凸部61、61の頂面部61b、61bを圧接させる際の型21、21の沈み量は、各中間成形品60について、シート材50の板厚の10〜60%の範囲が好ましく、さらに、板厚0.5〜5.0mmの範囲に対して、その30%の、0.15〜1.5mmぐらいの範囲が適当である。
【0049】
その後、凸部61、61の頂面部61b、61bが溶着した2つの中間成形品60、60でなる製品を溶着装置20から取り出せば、図3(b)に示すように、両中間成形品60、60の凸部61、61の頂面部61b、61bが溶着してなる溶着部71と、該中間成形品60、60の凸部61、61の縦壁部61a、61aと凹部62、62とで形成される中空部72とが交互に形成されてなる板状の樹脂部材70が得られる。
【0050】
この板状樹脂部材70は、上記のような構成であるから、軽量で、かつ所要の厚さを有すると共に、その厚みを構成する上下両側の中間成形品60、60の各凸部61、61の縦壁部61a、61aが高強度化されているので、厚さ方向の荷重に対する高い座屈強度を備えることになる。
【0051】
また、この板状樹脂部材70の厚み方向の中心部に位置する溶着部71は、中間成形品60、60の成形時に高強度化されていない凸部61、61の頂面部61b、61bで構成されているので、縦壁部61a、61aで構成される中空部72に比べて強度が劣ることになるが、一般に板材の中心部には曲げ変形による応力がほとんど発生しないので、板状部材としての曲げ強度を低下させることはない。
【0052】
そして、この実施形態では、さらに、前記板状樹脂部材70の両面に樹脂製の表層材が貼り付けられ、最終製品としての板状樹脂部材とされる。次に、この表層材の貼着工程について説明する。
【0053】
図4(a)に示すように、この表層材貼着工程では、樹脂材料を溶融し、これを所定の幅と厚さとを有するフィルム状に成形して押し出す2つの押出装置31、31を備えた貼着装置30を用い、これらの押出装置31、31から押し出されたフィルム状の表層材81、81を、供給手段32によって供給される前記板状樹脂部材70の上下の面に向けてそれぞれ供給し、押圧ローラ33、33によって該表層材81、81を板状樹脂部材70の上下両面に押し付ける。その際、表層材81、81は押し出し直後の半溶融状態にあるから、これを押し付けることにより、板状樹脂部材70の上下の面にそれぞれ溶着されることになる。
【0054】
これにより、図4(b)に示すように、溶着部71と中空部72とが交互に設けられた板状樹脂部材70でなるコア部82と、その両面に貼着された表層材81、81でなる表層部83とを有する板状樹脂部材の最終製品80が得られることになる。
【0055】
この最終製品80は、前記板状樹脂部材70が有する厚さ方向の荷重に対する高い座屈強度に加えて、両面の表層部83、83により曲げ変形に対する高い強度及び剛性が付与されることになる。その場合に、表層部83を形成する表層材81として2軸延伸フィルムを用いれば、いずれの方向の曲げ変形に対しても強度及び剛性を効果的に向上させることができる。
【0056】
なお、前記のように、板状樹脂部材70の両面に押出装置31、31から押し出された表層材81、81をそのまま貼着すれば、該表層材81、81の製造と同時に、最終製品80が効率よく製造されることになるが、予め製造した表層材を溶着し或いは接着剤を用いて板状樹脂部材70の両面に貼り付けるようにしてもよい。
【0057】
また、当該樹脂部材の用途によっては、最後の表層材貼着工程を行わず、図4(b)に示す両面にシート材が貼着されていない板状樹脂部材70を最終製品とする場合もあり、また、該板状樹脂部材70の一方の面にのみ表層材81が貼り付けられて最終製品とされる場合もある。
【0058】
次に、本発明の第2実施形態に係る樹脂部材の製造方法について説明する。なお、前記第1実施形態と同様の構成については同一の符号を用いて説明する。
【0059】
図5(a)に示すように、この実施形態の方法で用いられるプレス装置110も、前記第1実施形態のプレス装置10と同様に、固定型111と、その上下に配置された一対の可動型112、112とを有し、固定型111の上下の成形面111’、111’と、上方の可動型112の下面及び下方の可動型112の上面の成形面112’、112’とがそれぞれ対向し、互いに対向する一対の成形面111’、112’の組が二組設けられている。
【0060】
また、各成形面111’、112’には、紙面直交方向に延びる複数の凸部111a、112aと凹部111b、112bとが交互に設けられ、可動型112、112の型締め時に、一方の成形面の凸部と他方の成形面の凹部とが互いに噛み合うようになっており、この構成も、前記第1実施形態のプレス装置10と同様である。
【0061】
そして、この実施形態のプレス装置110においては、可動型112、112に、型締め型開き用の高速油圧シリンダ等でなる型締め手段113、113と、これらの可動型112、112を位相を異ならせて水平方向に振動させる加振手段114、114とが設けられている。また、型開きした状態で固定型111を上下の可動型112、112の間から側方へ退避させる固定型退避手段115が設けられている。
【0062】
次に、この第2実施形態に係る方法の各工程を説明すると、この実施形態においても、まず凸部形成工程が行われるが、この工程は、図1(a)、(b)に示す前記第1実施形態の凸部形成工程と同様に行われ、型締め手段113、113で所定の型締め速度で型締めして、過冷却状態にある2枚のシート材をプレス成形することにより、凸部61の縦壁部61aが高強度化された波板状の中間成形品60、60を形成する。
【0063】
次に、図5(a)に示すように、プレス装置110を型開きし、前記中間成形品60、60が可動型112、112の成形面112’、112’に保持されている状態で、固定型退避手段115により、固定型111を上下の可動型112、112の間から側方へ退避させる。そして、この状態で、前記型締め手段113、113を再び作動させ、両可動型112、112を直接対接させることにより、図5(b)に示すように、両可動型112、112に保持された中間成形品60、60における凸部61、61の頂面部61b、61b同士を所定の圧力で対接させる。
【0064】
そして、加振手段114、114を作動させ、可動型112、112に位相を異ならせて水平方向の振動を与えることにより、互いに対接した前記頂面部61b、61bを擦り合わせ、その際に発生する摩擦熱により、一旦固化した樹脂材を溶融させて、該頂面部61b、61bを溶着する。
【0065】
その後、プレス装置110を型開きすれば、前記第1実施形態の溶着工程で得られた図3(b)に示す板状樹脂部材70と同様の板状樹脂部材が得られる。そして、その後、第1実施形態と同様に、図4(a)に示す方法で表層材貼着工程が行われ、同図(b)に示す最終製品80と同様の最終製品を得る。
【0066】
なお、以上の実施形態では、シート材50に形成する凸部61の断面形状を台形状としたことにより、板状樹脂部材70の中空部の断面形状が6角形状となり、該樹脂部材70ないし最終製品がハニカム状とされているが、例えば図6に示すように、中間成形品160の凹部162を円弧状とすることにより、板状樹脂部材170の中空部172の断面形状を略円形とするなど、シート材に形成する凸部や凹部の形状ないし板状樹脂部材の断面形状は、用途等に応じて任意に設定される。
【0067】
また、前記実施形態では、シート材50に形成する凸部61及び凹部62を紙面直交方向に延びる形状としたが、略円錐台形状や略角錐台形状、或いは半球状等の紙面直交方向に連続しない凸部及び凹部としてもよい。
【0068】
さらに、凸部の頂面部に溶着リブを設けるようにしてもよい。即ち、図7に示す中間成形品260は、凸部形成工程において、凸部261の頂面部261bの溶着側の面に複数の溶着リブ261cが設けられている。
【0069】
この場合、溶着工程においては、溶着装置の一対の型に2つの中間成形品260、260を保持し、これらの中間成形品260、260の凸部261、261の頂面部261b、261bを対接させるとき、互に対応位置する溶着リブ261c、261c同士が接することになる。そして、両中間成形品260、260の溶着リブ261c、261cが沈み込むように型締めすることになる。
【0070】
なお、この溶着リブ261cは、シート材の板厚が0.5〜5.0mmの範囲で、幅(断面半円形の場合は直径)は、0.5〜5.0mmの範囲、高さは、0.05〜3.0mmの範囲が好ましい。また、図示の例では、溶着リブ261cを形成することに伴って頂面部261bの裏面に凹条261dが形成されているが、裏面は平坦面としてもよい。
【実施例】
【0071】
次に、前記第2実施形態に係る方法によって実施した実施例について説明する。
【0072】
この実施例では、シート材を形成する結晶性高分子樹脂材料として、日本ポリプロ株式会社製のポリプロピレン樹脂材料(商品名:ノバテック)を用い、約160℃まで冷却した2枚のシート材を、固定型及び上下の可動型の型温度を150℃に設定したプレス装置に供給し、該シート材に形成される凸部の縦壁部が200/秒のひずみ速度で伸張する型締め速度で可動型を閉じた。
【0073】
ここで、上記型温度150℃は、シート材の樹脂材料が過冷却状態となる温度であり、縦壁部の伸張ひずみ速度200/秒は、該縦壁部を構成する樹脂材料の臨界伸張ひずみ速度以上の速度であり、これにより、縦壁部が高強度化された凸部を有する2つの波板状の中間成形品が形成された。
【0074】
次に、上記プレス装置の型温度を80℃まで冷却した後、型開きし、上下の可動型の成形面に前記中間成形品がそれぞれ保持された状態で、固定型を上下の可動型の間から側方へ退避させ、その後、再び型締めして、前記2つの中間成形品における凸部の頂面部を、加圧力約1000kgfで対接させ、この状態で、240Hz、振幅1.6mmの位相が異なる水平方向の振動を上下の可動型に与えた。なお、型締め時の沈み量は、各中間成形品について、シート材の板厚が3.0mmであるのに対し、1.0mmとした。
【0075】
これにより、2つの中間成形品の凸部の頂面部が溶着してなる溶着部と、該中間成形品の凸部の縦壁部と凹部とでなる中空部とが交互に形成されてなる板状の樹脂部材が得られた。
【0076】
そして、この板状樹脂部材の両面に、樹脂材料の溶融温度を180℃としてフィルムダイから押し出したフィルム状の表層材を貼着し、これにより、図4(b)に示すような構造で、所期の強度、剛性を有する板状樹脂部材の最終製品を得た。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明に係る樹脂部材の製造方法によれば、軽量で強度や剛性に優れた樹脂部材が得られるので、これらの特性が要求される各種の樹脂部材の製造技術分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0078】
10、110 プレス装置
20 溶着装置
30 表層材貼着装置
50 シート材
60、260 中間成形品
61 凸部
61a 縦壁部
61b 頂面部
70、170 樹脂部材
80 最終製品
81 表層材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性高分子樹脂でなるシート材に、縦壁部を構成する樹脂材が融点以下、結晶化温度以上で臨界伸張ひずみ速度以上のひずみ速度で伸張することにより配向融液状態を経て結晶化するように、該縦壁部と頂面部とを有する凸部を形成する凸部形成工程と、
該凸部形成工程で形成された凸部を有する2つの中間成形品の凸部の頂面部同士を溶着し、両中間成形品を一体化して樹脂部材とする溶着工程とを備えたことを特徴とする樹脂部材の製造方法。
【請求項2】
前記凸部形成工程では、前記結晶性高分子樹脂でなるシート材に凸部を複数形成し、
前記溶着工程では、2つの中間成形品の複数の凸部の頂面部同士をそれぞれ溶着することにより両中間成形品を一体化して板状の樹脂部材とすることを特徴とする請求項1に記載の樹脂部材の製造方法。
【請求項3】
前記溶着工程で製造された板状の樹脂部材の少なくと一方の面に樹脂製の表層材を貼り付ける表層材貼着工程を備えたことを特徴とする請求項2に記載の樹脂部材の製造方法。
【請求項4】
前記結晶性高分子樹脂は汎用プラスチックであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂部材の製造方法。
【請求項5】
前記汎用プラスチックはポリプロピレンであることを特徴とする請求項4に記載の樹脂部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−111109(P2012−111109A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261371(P2010−261371)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】