機器用コネクタ
【課題】合成樹脂にクラックが生じることを防ぎつつ、金属板を用いることで製造コストを抑える。
【解決手段】本発明は、モータケースに取り付けられる端子台であって、金属製の板材を母材としてその板材の板厚方向に貫通して形成された開口部31を有しかつモータケースに取り付け固定される金属板30と、金属板30に固定された合成樹脂製のコネクタハウジング50と、開口部31を貫通した状態でコネクタハウジング50に保持された導電板10とを備え、コネクタハウジング50には、金属板30の外周縁部を露出させた状態で開口部31の開口縁部を覆うフランジ52が設けられており、このフランジ52は、金属板30の上面に対して摺動可能な電線側フランジ52Aと、金属板30の下面に対して摺動可能な機器側フランジ52Bと、開口部31内に配置され両フランジ52A,52Bを連結する連結部52Cとを備えてなる構成とした。
【解決手段】本発明は、モータケースに取り付けられる端子台であって、金属製の板材を母材としてその板材の板厚方向に貫通して形成された開口部31を有しかつモータケースに取り付け固定される金属板30と、金属板30に固定された合成樹脂製のコネクタハウジング50と、開口部31を貫通した状態でコネクタハウジング50に保持された導電板10とを備え、コネクタハウジング50には、金属板30の外周縁部を露出させた状態で開口部31の開口縁部を覆うフランジ52が設けられており、このフランジ52は、金属板30の上面に対して摺動可能な電線側フランジ52Aと、金属板30の下面に対して摺動可能な機器側フランジ52Bと、開口部31内に配置され両フランジ52A,52Bを連結する連結部52Cとを備えてなる構成とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器のケースに取り付けられる機器用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車においてはモータなどの機器が金属製のケースに収容された状態で搭載されており、このようなケースには、端子台などの機器用コネクタが取り付け固定されている。この機器用コネクタは、インバータなどの機器から連なる電線の端末に設けられた電線側コネクタと嵌合されるようになっている。このような機器用コネクタとして、例えば下記特許文献1に記載のものが公知であり、このものは、端子金具と、合成樹脂製のコネクタハウジングと、アルミダイキャスト製の金属プレートとを備えて構成されている。このような機器用コネクタでは一般に、金属板に端子金具を挿通させる開口部を形成し、この開口部に端子金具を挿通させた状態でこの端子金具をコネクタハウジングで保持する構成が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−32500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の機器用コネクタでは、金属プレートがアルミダイキャスト製であるために十分な強度が得られるものの、製造コストが高くなるという問題がある。このため、近年、金属製の平板材をプレス加工することによって形成された金属板を用いることで、強度面の仕様を低コストで満足できる構成が検討されている。
【0005】
ここで、金属と合成樹脂では線膨張係数が大きく異なり、成形後の冷却過程において、金属板よりもコネクタハウジングが大きく収縮することになる。そこで、冷却過程におけるコネクタハウジングの収縮を抑えるため、コネクタハウジングに金属板の外周縁部まで覆うようにフランジを張り出し形成するとともにこのフランジが金属板に対して滑らないように金属板の表面に凹凸加工などを施すことにより、金属板の外周縁から開口部へ向かう合成樹脂の収縮を強制的に防ぐ方法も考えられる。
【0006】
しかしながら、上記方法によって金属板の表面に位置する合成樹脂の収縮を防ぐことができたとしても、開口部内に位置する合成樹脂自身の収縮を防ぐことはできないため、開口部内の合成樹脂との境界でクラックが発生することがある。そして、合成樹脂にクラックが生じると、外観不良になるだけでなく、金属板と合成樹脂との界面における密着性が低下して隙間が発生し、その隙間から内部に水が浸入するといったことが懸念される。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、合成樹脂にクラックが生じることを防ぎつつ、金属板を用いることで製造コストを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、機器のケースに取り付けられる機器用コネクタであって、金属製の板材を母材としてその板材の板厚方向に貫通して形成された開口部を有しかつ機器のケースに取り付け固定される金属板と、金属板に固定された合成樹脂製のコネクタハウジングと、開口部を貫通した状態でコネクタハウジングに保持された端子金具とを備え、コネクタハウジングには、金属板の外周縁部を露出させた状態で開口部の開口縁部を覆う固定部が設けられており、この固定部は、金属板の一面側に対して摺動可能な一側摺動部と、金属板の他面側に対して摺動可能な他側摺動部と、開口部内に配置され一側摺動部と他側摺動部とを連結する連結部とを備えてなる構成としたところに特徴を有する。
【0009】
このような構成によると、冷却時に金属よりも合成樹脂が大きく収縮することになるものの、従来のように金属板に対してコネクタハウジングが収縮することを防ぐのではなく、コネクタハウジングの収縮に伴って固定部の一側摺動部を金属板の一面側に摺動させるとともに他側摺動部を金属板の他面側に摺動させるようにしたため、合成樹脂に応力が発生することはなく、クラックが生じることもない。
【0010】
また、従来のように金属板の外周縁部を合成樹脂で覆うのではなく、金属板の外周縁部を露出させているため、開口部内に位置する合成樹脂が金属板の表面を覆っている合成樹脂によって両側から引っ張られることもない。さらに、一側摺動部と他側摺動部が連結部を介して連動するため、一側摺動部と他側摺動部が独立して摺動することで金属板が反るなどのおそれもない。以上により、開口部内の合成樹脂や金属板の表面を覆う合成樹脂にクラックが生じることを防ぐことができ、金属板を用いることで機器用コネクタの製造コストを抑えることができる。
【0011】
本発明の実施の態様として、以下の構成が好ましい。
連結部とこれに対向する開口部の内面との間には、コネクタハウジングを成形して常温に冷却された状態でクリアランスが設けられている構成としてもよい。
【0012】
金属板とコネクタハウジングを一体に成形した場合、成形後の冷却過程において、金属よりも合成樹脂が大きく収縮し、一側摺動部と他側摺動部が金属板に対して摺動する結果、連結部と開口部の内面との間には、常温時においてクリアランスが生じることになる。これとは逆に、例えばサーマルショック試験において低温状態から高温状態(常温よりも高い状態)に加熱したときには、クリアランスの範囲内で連結部が開口部の内面に近づくように合成樹脂が膨張することになる。したがって、連結部が開口部の内面から応力を受けてクラックが生じることはない。
【0013】
金属板における機器のケース側の面であって固定部よりも外周側の面には、合成樹脂製のシール装着部が周設されており、機器のケースとシール装着部は、環状をなすパッキンを介してシール状態で固定されており、パッキンにおけるシール装着部とのシール面には、複数条の環状リップが設けられている構成としてもよい。
【0014】
従来のようにアルミダイキャスト製の金属プレートを用いる場合、鋳巣があってもシールできるように面パッキン構造を採用する必要があった。しかし、面パッキン構造ではシールできる程度の潰し量を得るためのゴムの反力が相当大きいものとなり、金属プレートではその反力に耐えられないおそれがある。その点、金属板では鋳巣がなく、リップ形状をなす複数条の環状リップが設けられてなるパッキンを採用することができる。したがって、ゴムの反力を大幅に低減でき、アルミダイキャスト製の金属プレートよりも弱い金属板を用いてもその板厚を厚くするなどして強度を確保する必要がなく、金属板への切り替えが容易になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、開口部内の合成樹脂や金属板の表面を覆う合成樹脂にクラックが生じることを防ぐことができ、金属板を用いることで機器用コネクタの製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1における端子台を斜め前方から見た斜視図
【図2】シールドシェルが装着された端子台を斜め後方から見た斜視図
【図3】端子台の正面図
【図4】端子台の平面図
【図5】図4におけるA−A線断面図
【図6】図5におけるB−B線断面図
【図7】図3におけるC−C線断面図
【図8】パッキンの平面図
【図9】パッキンの底面図
【図10】図8におけるD−D線断面図
【図11】金属板の平面図
【図12】実施形態2における端子台の平面図
【図13】端子台の正面図
【図14】図13におけるE−E線断面図
【図15】金属板の平面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図11の図面を参照しながら説明する。本実施形態では、機器用コネクタの一例として、モータ(本発明の「機器」の一例)を内部に収容した金属製のモータケース(図示せず)に取り付けられる端子台を例示している。この端子台は、図3に示すように、モータケースに取り付け固定される金属板30と、この金属板30に一体に成形されたコネクタハウジング50と、金属板30をその板厚方向に貫通した状態でコネクタハウジング50に保持された三本の導電板(本発明の「端子金具」の一例)10とを備えている。なお、以下の説明において、上下方向とは図3における上下方向を基準とし、左右方向とは図3における左右方向を基準とし、前後方向とは図7における左右方向を基準とし、図示左側を前側として説明する。
【0018】
導電板10の一端は、モータケースの内部に設けられた複数の機器側バスバー(図示せず)にボルト締結されることで電気的に接続される。一方、インバータなどの電力を供給する電源供給装置には、モータケースに向けて複数の電線が配設されており、これらの電線の端末部には、電線側コネクタ(図示せず)が設けられている。この電線側コネクタの内部には、電線の端末に接続された電線側端子(図示せず)が設けられており、この電線側端子が導電板10の他端にボルト締結されることで電気的に接続される。
【0019】
各導電板10は導電性の良い金属板をプレス加工して所定の形状に打ち抜いた後、図7に示すように、所定の曲げ加工を施すことにより形成されている。導電板10は、この導電板10の主体部分を構成する端子主体部11と、端子主体部11の上端から前方に向かって延出された電線側締結部12と、端子主体部11の下端部に設けられた機器側締結部13とを備えて構成されている。端子主体部11は、電線側締結部12に比べて長めに形成されている。
【0020】
三本の導電板10は、図3に示すように、左右方向に並んで配置されている。また、端子主体部11は、図3の破線で示すように、その途中位置において左右方向に僅かにクランク状に屈曲した形態をなしている。電線側締結部12および機器側締結部13には、締結ボルト(図示せず)が挿通可能なボルト挿通孔14がそれぞれ形成されている。
【0021】
三本の導電板10のうち中央に配された導電板10の端子主体部11は、図7に示すように、上下方向に延びるほぼフラットな形状とされている。三本の導電板10のうち左右両側に位置する両導電板の両端子主体部11,11はそれぞれ、図示はしないものの、端子主体部11の上下方向略中央部から電線側締結部12と対向するように前方に向かって屈曲された対向部を有し、この対向部の前端が電線側締結部12の前端とほぼ同じ位置で下方に向かって屈曲した形状とされている。
【0022】
金属板30は、図11に示すように、金属製の平板材を母材としてその板材の板厚方向に貫通して形成された開口部31を有している。コネクタハウジング50は、図1および図2に示すように、開口部31を上下方向に貫通する配置で金属板30と一体に成形された小コネクタ部59と、金属板30の上側に配された電線側嵌合部51と、金属板30の高さ位置に配されて側方(金属板30の平面方向)に張り出す板状のフランジ52と、金属板30の下側に配された機器側嵌合部53とを備えて構成されている。なお、フランジ52は、本発明の「固定部」に対応している。
【0023】
電線側嵌合部51は、図1に示すように、左右方向に横長な箱形状をなし、前方に開口する前端開口51Aと上方に開口する上端開口51Bとを有している。電線側コネクタは、電線側嵌合部51の前端開口51Aを通って電線側嵌合部51に嵌合可能となっている。
【0024】
電線側嵌合部51の内部には、図3に示すように、3つのナット収容部55が左右方向に並んで形成されている。これら3つのナット収容部55は、それぞれ前方および上方に開口する形態とされている。さらに、3つのナット収容部55は、前端開口51Aを通して一括して前方に臨んで配置され、かつ、上端開口51Bを通して一括して上方に臨んで配置されている。ナット収容部55には、ナットNの軸線が上下方向となるように、前端開口51Aを通して前方から圧入されたナットNが収容されている。
【0025】
導電板10の電線側締結部12は、図3および図4に示すように、ナット収容部55の上端開口を塞ぐように配置されている。また、各導電板10は、図7に示すように、開口部31を上下方向に貫通する形態で配置され、電線側締結部12が電線側嵌合部51内においてボルト挿通孔14の周辺部を前方および後方に臨ませた状態で配置されている一方、機器側締結部13が機器側嵌合部53の下端部にてボルト挿通孔14の周辺部を後方に臨ませた状態でコネクタハウジング50に保持されている。各電線側締結部12は、電線側嵌合部51の上端開口51Bを通して外部に臨んでいる。すなわち、電線側嵌合部51の上端開口51Bは、ボルト締結作業を行うために工具などを挿入するサービスホールであって、電線側締結部12に電線側端子を重ね合わせ、上端開口51Bから内部に工具を挿入してナットNに対して締結ボルトを螺合することで、導電板10と電線側端子とが電気的に接続されるようになっている。なお、電線側嵌合部51の上端開口51Bには、ボルト締結後にサービスカバー(図示せず)が装着されるようになっており、これにより上端開口51Bが塞がれるようになっている。
【0026】
ナット収容部55の下方には、ナットNに締結ボルトを締結した際に、ナットNを貫通した締結ボルトの先端部分を逃がす逃がし凹部56が連設されている。逃がし凹部56は、ナット収容部55よりも左右方向に幅狭に形成されており、スライド金型によってナット収容部55と一体に成形される。
【0027】
また、電線側嵌合部51には、図2に示すように、その後面以外を覆う金属製のシールドシェル70が装着される。このシールドシェル70は、導電性の良い金属板をプレス加工して所定の形状に打ち抜いた後、所定の曲げ加工を施すことにより形成されている。シールドシェル70は、横長の円筒状をなす編組固定部71と、シールドシェル70を金属板30に固定すると共に、金属板30とともにモータケースに共締めされることでシールドシェル70とモータケースとを電気的に接続する固定片72とを備えて構成されている。編組固定部71は、電線側コネクタのシールド導電路を一括して覆うように設けられた編組線をかしめリングとの間でかしめ付けるようになっている。
【0028】
フランジ52は、金属板30の外周縁部を露出させた状態で開口部31の開口縁部を全周に亘って覆う形態とされている。このフランジ52は、開口部31の開口縁部における電線側嵌合部51側を覆う電線側フランジ52Aと、同機器側嵌合部53側を覆う機器側フランジ52Bと、開口部31の内周面に沿って配置され両フランジ52A,52Bを互いに連結する連結部52Cとからなる。電線側フランジ52Aと機器側フランジ52Bが金属板30をその板厚方向から挟むとともに連結部52Cが開口部31の内周面に当接することにより、コネクタハウジング50が金属板30に固定されている。詳細には図4を見ればわかるように、フランジ52のうち電線側フランジ52Aは、左右方向及び後方に広がる形状をなし、図5や図7を見ればわかるように、同機器側フランジ52Bは、金属板30における機器側嵌合部53側の面をほぼ覆うように形成されている。なお、電線側フランジ52Aは、本発明の「一側摺動部」に対応し、機器側フランジ52Bは、本発明の「他側摺動部」に対応している。
【0029】
開口部31は、略台形形状をなしている。また、開口部31内には、左右両側の導電板10の対向部が配されるとともに中央の導電板10の端子主体部11が配された状態となっている。一方、電線側嵌合部51の下端部から機器側嵌合部53の上端部付近は、図7に示すように、樹脂層が厚肉に形成された厚肉部57とされている。すなわち、この厚肉部57の内部において、複雑な形状をなす三本の導電板10が金属板30の開口部31を貫通して配された状態となっている。
【0030】
また、金属板30の外周縁部には、複数の取付孔32が設けられており、この取付孔32に固定ボルト(図示せず)を挿通させて、モータケースに締め付けることで、端子台をモータケースに取り付け固定することができるようになっている。
【0031】
機器側嵌合部53は、端子台がモータケースに固定された際に、モータケースの内部に収容されるようになっている。また、機器側嵌合部53には、図1に示すように、3つのナット収容部58が形成されている。これらのナット収容部58は、中央に位置するナット収容部58が他のナット収容部58よりも後方に引っ込んだ配置で設けられている。機器側嵌合部53のナット収容部58では、電線側嵌合部51のナット収容部55と同様に、ナットNに対して締結ボルトを螺合することで、導電板10と機器側バスバーとが電気的に接続されるようになっている。こうして、電線側端子と機器側バスバーが導電板10を中継端子として電気的に接続される。
【0032】
フランジ52の機器側フランジ52Bには、図7に示すように、電線側フランジ52Aよりも側方に張り出すようにして長めに形成されている。この機器側フランジ52Bにおいて電線側フランジ52Aよりも張り出す部分(本発明の「シール装着部」に相当する)には、環状をなすパッキン80が装着されるパッキン装着溝54が周設されている。パッキン80はゴム製であって、図8ないし図10に示すように、パッキン装着溝54とのシール面に2条の環状リップ81が設けられた構成とされている。パッキン80において両環状リップ81とは反対側の面は、モータケースに対して面シールされる面シール部82とされている。モータケースと機器側フランジ52Bは、金属板30をモータケースにボルト締結することにより、パッキン80を介してシール状態で固定される。このように、機器側フランジ52Bに対するシール構造を両環状リップ81によって構成したため、両環状リップ81を押圧してシールするために必要とされる押圧力が少なくて済む。したがって、金属板30の板厚を厚くするなどして強度を確保する必要はなく、アルミダイキャスト製の金属プレートを用いる場合よりも少ない押圧力で、十分なシール性能を得ることができる。
【0033】
さて、本実施形態におけるフランジ52は、金属板30に対して摺動可能に設けられている。具体的には、電線側フランジ52Aが金属板30の上面に対して摺動可能とされており、機器側フランジ52Bが金属板30の下面に対して摺動可能とされている。さらに、電線側フランジ52Aと機器側フランジ52Bは、連結部52Cによって互いに連結されている。この連結部52Cは、開口部31の内面31Aと対向して配置されている。
【0034】
詳細には図5および図6の一部拡大図に示すように、連結部52Cと開口部31の内面31Aとの間に、クリアランスCが設定されている。このクリアランスCは、金属板30とコネクタハウジング50を一体に成形した際、成形後の冷却過程において、金属よりも合成樹脂が大きく収縮することによって形成される。すなわち、溶融樹脂を射出した際には、クリアランスCが形成されていないものの、電線側フランジ52Aと機器側フランジ52Bと連結部52Cが開口部31側に滑りながら開口部31内の合成樹脂が収縮することでクリアランスCが形成されることになる。
【0035】
本実施形態における金属板30の表面には、めっき加工が施されているものの、めっき加工を施すことなく、母材である金属製の板材をそのまま使用してもよい。また、金属板30には、開口部31を除いて凹凸加工などが一切形成されていない。このため、合成樹脂は、加熱による膨張もしくは冷却による収縮によって金属板30の表面を摺動可能となっている。
【0036】
本実施形態は以上のような構成であって、続いてその作用を説明する。まず、一次成形型(図示せず)に3種類の導電板10をセットして、型締めを行い、一次成形樹脂を射出することで3種類の中子20を成形する。続いて、これら3種類の中子20を二次成形型(図示せず)にセットして、型締めを行い、二次成形樹脂を射出することで端子台を成形する。ここで、二次成形樹脂は、二次成形後の冷却過程において開口部31側に収縮し、開口部31の内面31Aと連結部52Cとの間にクリアランスCが形成される。この冷却過程で、二次成形樹脂は、金属板30の表面を滑りながら収縮するため、二次成形樹脂に応力が蓄積されてクラックが入ることはない。
【0037】
次に、サーマルショック試験を行った場合について説明する。サーマルショック試験は、低温状態(常温よりも低い状態)と高温状態(常温よりも高い状態)とを繰り返すことで端子台を熱的な衝撃を与える冷熱衝撃試験である。低温状態から高温状態に移行させると、合成樹脂が膨張することで、電線側フランジ52Aが金属板30の上面を摺動し、機器側フランジ52Bが金属板30の下面を摺動する。これに伴って、連結部52CがクリアランスCを埋めるようにして開口部31の内面31Aに近づくことになるものの、連結部52Cが開口部31の内面31Aから応力を受けてクラックが生じる事態には至らない。
【0038】
これとは逆に、高温状態から低温状態に移行させると、合成樹脂が収縮することで、電線側フランジ52Aが金属板30の上面を摺動し、機器側フランジ52Bが金属板30の下面を摺動する。また、連結部52Cは、開口部31側へ移動し、開口部31の内面31Aとの間にクリアランスCが形成される。なお、連結部52Cは、電線側フランジ52Aと機器側フランジ52Bを連結することで、両フランジ52A,52Bの摺動動作が連動しながら行われるようにしている。したがって、電線側フランジ52Aの摺動距離と機器側フランジ52Bの摺動距離が異なることで、金属板30に反りが発生するなどの事態が規制されている。
【0039】
以上のように本実施形態では、フランジ52が金属板30に対して摺動可能としたから、合成樹脂にクラックが生じることを規制できる。また、電線側フランジ52Aと機器側フランジ52Bを連結部52Cによって連結したから、両フランジ52A,52Bの摺動動作を連動させることができ、金属板30の反りなどを規制できる。また、常温状態において開口部31の内面31Aと連結部52Cとの間にクリアランスCを設けたから、サーマルショック試験の高温状態で連結部52Cが開口部31の内面31Aから応力を受けるなどしてクラックが生じることを規制できる。さらに、パッキン80の環状リップ81がパッキン装着溝54にて機器側フランジ52Bおよび金属板30によって押圧されるようにしたため、小さな押圧力で環状リップ81を押圧でき、十分なシール性能が得られる。
【0040】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図12ないし図15の図面を参照しながら説明する。本実施形態において実施形態1と対応する構成については、実施形態1の符号に100を加えた符号を用いるものとし、実施形態1と同様の構成、作用、および効果については重複するため、その説明を省略するものとする。以下、実施形態1とは異なる構成を中心として説明する。
【0041】
本実施形態の金属板130では、図12及び図15に示すように、コネクタハウジング150を上下方向に貫通させる開口部として、開口部131とは別に、小コネクタ部159のみを上下方向に貫通させる小開口部133が設けられている。つまり、開口部131には電線側嵌合部151と機器側嵌合部153が配設され、小開口部133には小コネクタ部159が配設されている。金属板130は、やや横長の方形状をなし、その四隅に取付孔132が設けられている。
【0042】
コネクタハウジング150は、図14を見ればわかるように、実施形態1のように一次成形と二次成形の二回に分けて成形されておらず、導電板110を成形型の下型にセットして、型締めを行い、溶融樹脂を射出することにより一回で成形されている。コネクタハウジング150の内部には、上下方向に延びる導電板110がインサート成形されており、電線側締結部112が端子主体部111と面一をなして上下方向に延びる形態とされている。
【0043】
また、厚肉部157には、図14に示すように、逃がし凹部156と連なる形態で上下方向に開口した型抜き孔H1が形成されている。この型抜き孔H1は、上下の逃がし凹部156に対応して一対が設けられている。この型抜き孔H1によって、厚肉部157の内部にボイドが発生することを規制している。さらに、厚肉部157には、図13に示すように、前方に開口する複数の型抜き孔H2がが設けられている。この型抜き孔H2によっても厚肉部157の内部にボイドが発生することを規制している。
【0044】
小コネクタ部159と電線側嵌合部151、および小コネクタ部159と機器側嵌合部153は、それぞれ共通のフランジ152を介して互いに連結されている。フランジ152が金属板130に対して摺動可能に設けられている点は、実施形態1と同様である。したがって、コネクタハウジング150の成形後における冷却過程やサーマルショック試験における温度変動によってクラックが生じることを規制できる。
【0045】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態ではフランジが金属板と一体に成形されているものの、本発明によると、フランジを金属板とは別体に構成し、後から組み付けるようにしてもよい。すなわち、金属板を両側から挟むようにして一側摺動部と他側摺動部をボルト締結するなどして一体に構成してもよい。
【0046】
(2)上記実施形態では連結部と開口部の内面との間にクリアランスが設けられているものの、本発明によると、例えば開口部が小さく、開口部内の合成樹脂が膨張して開口部の内面から応力を受けてもクラックが生じないような場合にはクリアランスを設けなくてもよい。
【0047】
(3)上記実施形態では片面に環状リップが形成されたパッキンを使用しているものの、本発明によると、両面に面シール部が形成されたパッキンを使用してもよい。
(4)上記実施形態ではフランジ52が開口部31の開口縁部を全周に亘って覆っているものの、本発明によると、開口部31の開口縁部の一部を覆うような形態でフランジ(固定部)を構成してもよい。このようにすると、樹脂量を減らすことでコストダウンにつながるとともに、開口部の開口縁部を覆う樹脂量を少なくすることにより、熱収縮の影響がより少なくなって、金属板と固定部の間で発生する摩擦をより少なくし、固定部を金属板に対して摺動させやすくなる。
(5)上記実施形態では機器側フランジ52Bが電線側フランジ52Aよりも長めに形成されているものの、本発明によると、機器側フランジと電線側フランジが同じ長さで形成されていてもよいし、機器側フランジが電線側フランジよりも短めに形成されていてもよい。
(6)上記実施形態では機器側フランジ52Bにパッキン装着溝54が一体に形成されているものの、本発明によると、機器側フランジとは別にシール装着部を形成し、このシール装着部にパッキン装着溝を形成してもよい。すなわち、パッキンを装着する位置に合わせてシール装着部を形成すればよい。
【符号の説明】
【0048】
10,110…導電板(端子金具)
30,130…金属板
31,131…開口部
31A,131A…内面
50,150…コネクタハウジング
52,152…フランジ(固定部)
52A,152A…電線側フランジ(一側摺動部)
52B,152B…機器側フランジ(他側摺動部)
52C,152C…連結部
80,180…パッキン
81,181…環状リップ
131…小開口部
C…クリアランス
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器のケースに取り付けられる機器用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車においてはモータなどの機器が金属製のケースに収容された状態で搭載されており、このようなケースには、端子台などの機器用コネクタが取り付け固定されている。この機器用コネクタは、インバータなどの機器から連なる電線の端末に設けられた電線側コネクタと嵌合されるようになっている。このような機器用コネクタとして、例えば下記特許文献1に記載のものが公知であり、このものは、端子金具と、合成樹脂製のコネクタハウジングと、アルミダイキャスト製の金属プレートとを備えて構成されている。このような機器用コネクタでは一般に、金属板に端子金具を挿通させる開口部を形成し、この開口部に端子金具を挿通させた状態でこの端子金具をコネクタハウジングで保持する構成が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−32500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の機器用コネクタでは、金属プレートがアルミダイキャスト製であるために十分な強度が得られるものの、製造コストが高くなるという問題がある。このため、近年、金属製の平板材をプレス加工することによって形成された金属板を用いることで、強度面の仕様を低コストで満足できる構成が検討されている。
【0005】
ここで、金属と合成樹脂では線膨張係数が大きく異なり、成形後の冷却過程において、金属板よりもコネクタハウジングが大きく収縮することになる。そこで、冷却過程におけるコネクタハウジングの収縮を抑えるため、コネクタハウジングに金属板の外周縁部まで覆うようにフランジを張り出し形成するとともにこのフランジが金属板に対して滑らないように金属板の表面に凹凸加工などを施すことにより、金属板の外周縁から開口部へ向かう合成樹脂の収縮を強制的に防ぐ方法も考えられる。
【0006】
しかしながら、上記方法によって金属板の表面に位置する合成樹脂の収縮を防ぐことができたとしても、開口部内に位置する合成樹脂自身の収縮を防ぐことはできないため、開口部内の合成樹脂との境界でクラックが発生することがある。そして、合成樹脂にクラックが生じると、外観不良になるだけでなく、金属板と合成樹脂との界面における密着性が低下して隙間が発生し、その隙間から内部に水が浸入するといったことが懸念される。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、合成樹脂にクラックが生じることを防ぎつつ、金属板を用いることで製造コストを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、機器のケースに取り付けられる機器用コネクタであって、金属製の板材を母材としてその板材の板厚方向に貫通して形成された開口部を有しかつ機器のケースに取り付け固定される金属板と、金属板に固定された合成樹脂製のコネクタハウジングと、開口部を貫通した状態でコネクタハウジングに保持された端子金具とを備え、コネクタハウジングには、金属板の外周縁部を露出させた状態で開口部の開口縁部を覆う固定部が設けられており、この固定部は、金属板の一面側に対して摺動可能な一側摺動部と、金属板の他面側に対して摺動可能な他側摺動部と、開口部内に配置され一側摺動部と他側摺動部とを連結する連結部とを備えてなる構成としたところに特徴を有する。
【0009】
このような構成によると、冷却時に金属よりも合成樹脂が大きく収縮することになるものの、従来のように金属板に対してコネクタハウジングが収縮することを防ぐのではなく、コネクタハウジングの収縮に伴って固定部の一側摺動部を金属板の一面側に摺動させるとともに他側摺動部を金属板の他面側に摺動させるようにしたため、合成樹脂に応力が発生することはなく、クラックが生じることもない。
【0010】
また、従来のように金属板の外周縁部を合成樹脂で覆うのではなく、金属板の外周縁部を露出させているため、開口部内に位置する合成樹脂が金属板の表面を覆っている合成樹脂によって両側から引っ張られることもない。さらに、一側摺動部と他側摺動部が連結部を介して連動するため、一側摺動部と他側摺動部が独立して摺動することで金属板が反るなどのおそれもない。以上により、開口部内の合成樹脂や金属板の表面を覆う合成樹脂にクラックが生じることを防ぐことができ、金属板を用いることで機器用コネクタの製造コストを抑えることができる。
【0011】
本発明の実施の態様として、以下の構成が好ましい。
連結部とこれに対向する開口部の内面との間には、コネクタハウジングを成形して常温に冷却された状態でクリアランスが設けられている構成としてもよい。
【0012】
金属板とコネクタハウジングを一体に成形した場合、成形後の冷却過程において、金属よりも合成樹脂が大きく収縮し、一側摺動部と他側摺動部が金属板に対して摺動する結果、連結部と開口部の内面との間には、常温時においてクリアランスが生じることになる。これとは逆に、例えばサーマルショック試験において低温状態から高温状態(常温よりも高い状態)に加熱したときには、クリアランスの範囲内で連結部が開口部の内面に近づくように合成樹脂が膨張することになる。したがって、連結部が開口部の内面から応力を受けてクラックが生じることはない。
【0013】
金属板における機器のケース側の面であって固定部よりも外周側の面には、合成樹脂製のシール装着部が周設されており、機器のケースとシール装着部は、環状をなすパッキンを介してシール状態で固定されており、パッキンにおけるシール装着部とのシール面には、複数条の環状リップが設けられている構成としてもよい。
【0014】
従来のようにアルミダイキャスト製の金属プレートを用いる場合、鋳巣があってもシールできるように面パッキン構造を採用する必要があった。しかし、面パッキン構造ではシールできる程度の潰し量を得るためのゴムの反力が相当大きいものとなり、金属プレートではその反力に耐えられないおそれがある。その点、金属板では鋳巣がなく、リップ形状をなす複数条の環状リップが設けられてなるパッキンを採用することができる。したがって、ゴムの反力を大幅に低減でき、アルミダイキャスト製の金属プレートよりも弱い金属板を用いてもその板厚を厚くするなどして強度を確保する必要がなく、金属板への切り替えが容易になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、開口部内の合成樹脂や金属板の表面を覆う合成樹脂にクラックが生じることを防ぐことができ、金属板を用いることで機器用コネクタの製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1における端子台を斜め前方から見た斜視図
【図2】シールドシェルが装着された端子台を斜め後方から見た斜視図
【図3】端子台の正面図
【図4】端子台の平面図
【図5】図4におけるA−A線断面図
【図6】図5におけるB−B線断面図
【図7】図3におけるC−C線断面図
【図8】パッキンの平面図
【図9】パッキンの底面図
【図10】図8におけるD−D線断面図
【図11】金属板の平面図
【図12】実施形態2における端子台の平面図
【図13】端子台の正面図
【図14】図13におけるE−E線断面図
【図15】金属板の平面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図11の図面を参照しながら説明する。本実施形態では、機器用コネクタの一例として、モータ(本発明の「機器」の一例)を内部に収容した金属製のモータケース(図示せず)に取り付けられる端子台を例示している。この端子台は、図3に示すように、モータケースに取り付け固定される金属板30と、この金属板30に一体に成形されたコネクタハウジング50と、金属板30をその板厚方向に貫通した状態でコネクタハウジング50に保持された三本の導電板(本発明の「端子金具」の一例)10とを備えている。なお、以下の説明において、上下方向とは図3における上下方向を基準とし、左右方向とは図3における左右方向を基準とし、前後方向とは図7における左右方向を基準とし、図示左側を前側として説明する。
【0018】
導電板10の一端は、モータケースの内部に設けられた複数の機器側バスバー(図示せず)にボルト締結されることで電気的に接続される。一方、インバータなどの電力を供給する電源供給装置には、モータケースに向けて複数の電線が配設されており、これらの電線の端末部には、電線側コネクタ(図示せず)が設けられている。この電線側コネクタの内部には、電線の端末に接続された電線側端子(図示せず)が設けられており、この電線側端子が導電板10の他端にボルト締結されることで電気的に接続される。
【0019】
各導電板10は導電性の良い金属板をプレス加工して所定の形状に打ち抜いた後、図7に示すように、所定の曲げ加工を施すことにより形成されている。導電板10は、この導電板10の主体部分を構成する端子主体部11と、端子主体部11の上端から前方に向かって延出された電線側締結部12と、端子主体部11の下端部に設けられた機器側締結部13とを備えて構成されている。端子主体部11は、電線側締結部12に比べて長めに形成されている。
【0020】
三本の導電板10は、図3に示すように、左右方向に並んで配置されている。また、端子主体部11は、図3の破線で示すように、その途中位置において左右方向に僅かにクランク状に屈曲した形態をなしている。電線側締結部12および機器側締結部13には、締結ボルト(図示せず)が挿通可能なボルト挿通孔14がそれぞれ形成されている。
【0021】
三本の導電板10のうち中央に配された導電板10の端子主体部11は、図7に示すように、上下方向に延びるほぼフラットな形状とされている。三本の導電板10のうち左右両側に位置する両導電板の両端子主体部11,11はそれぞれ、図示はしないものの、端子主体部11の上下方向略中央部から電線側締結部12と対向するように前方に向かって屈曲された対向部を有し、この対向部の前端が電線側締結部12の前端とほぼ同じ位置で下方に向かって屈曲した形状とされている。
【0022】
金属板30は、図11に示すように、金属製の平板材を母材としてその板材の板厚方向に貫通して形成された開口部31を有している。コネクタハウジング50は、図1および図2に示すように、開口部31を上下方向に貫通する配置で金属板30と一体に成形された小コネクタ部59と、金属板30の上側に配された電線側嵌合部51と、金属板30の高さ位置に配されて側方(金属板30の平面方向)に張り出す板状のフランジ52と、金属板30の下側に配された機器側嵌合部53とを備えて構成されている。なお、フランジ52は、本発明の「固定部」に対応している。
【0023】
電線側嵌合部51は、図1に示すように、左右方向に横長な箱形状をなし、前方に開口する前端開口51Aと上方に開口する上端開口51Bとを有している。電線側コネクタは、電線側嵌合部51の前端開口51Aを通って電線側嵌合部51に嵌合可能となっている。
【0024】
電線側嵌合部51の内部には、図3に示すように、3つのナット収容部55が左右方向に並んで形成されている。これら3つのナット収容部55は、それぞれ前方および上方に開口する形態とされている。さらに、3つのナット収容部55は、前端開口51Aを通して一括して前方に臨んで配置され、かつ、上端開口51Bを通して一括して上方に臨んで配置されている。ナット収容部55には、ナットNの軸線が上下方向となるように、前端開口51Aを通して前方から圧入されたナットNが収容されている。
【0025】
導電板10の電線側締結部12は、図3および図4に示すように、ナット収容部55の上端開口を塞ぐように配置されている。また、各導電板10は、図7に示すように、開口部31を上下方向に貫通する形態で配置され、電線側締結部12が電線側嵌合部51内においてボルト挿通孔14の周辺部を前方および後方に臨ませた状態で配置されている一方、機器側締結部13が機器側嵌合部53の下端部にてボルト挿通孔14の周辺部を後方に臨ませた状態でコネクタハウジング50に保持されている。各電線側締結部12は、電線側嵌合部51の上端開口51Bを通して外部に臨んでいる。すなわち、電線側嵌合部51の上端開口51Bは、ボルト締結作業を行うために工具などを挿入するサービスホールであって、電線側締結部12に電線側端子を重ね合わせ、上端開口51Bから内部に工具を挿入してナットNに対して締結ボルトを螺合することで、導電板10と電線側端子とが電気的に接続されるようになっている。なお、電線側嵌合部51の上端開口51Bには、ボルト締結後にサービスカバー(図示せず)が装着されるようになっており、これにより上端開口51Bが塞がれるようになっている。
【0026】
ナット収容部55の下方には、ナットNに締結ボルトを締結した際に、ナットNを貫通した締結ボルトの先端部分を逃がす逃がし凹部56が連設されている。逃がし凹部56は、ナット収容部55よりも左右方向に幅狭に形成されており、スライド金型によってナット収容部55と一体に成形される。
【0027】
また、電線側嵌合部51には、図2に示すように、その後面以外を覆う金属製のシールドシェル70が装着される。このシールドシェル70は、導電性の良い金属板をプレス加工して所定の形状に打ち抜いた後、所定の曲げ加工を施すことにより形成されている。シールドシェル70は、横長の円筒状をなす編組固定部71と、シールドシェル70を金属板30に固定すると共に、金属板30とともにモータケースに共締めされることでシールドシェル70とモータケースとを電気的に接続する固定片72とを備えて構成されている。編組固定部71は、電線側コネクタのシールド導電路を一括して覆うように設けられた編組線をかしめリングとの間でかしめ付けるようになっている。
【0028】
フランジ52は、金属板30の外周縁部を露出させた状態で開口部31の開口縁部を全周に亘って覆う形態とされている。このフランジ52は、開口部31の開口縁部における電線側嵌合部51側を覆う電線側フランジ52Aと、同機器側嵌合部53側を覆う機器側フランジ52Bと、開口部31の内周面に沿って配置され両フランジ52A,52Bを互いに連結する連結部52Cとからなる。電線側フランジ52Aと機器側フランジ52Bが金属板30をその板厚方向から挟むとともに連結部52Cが開口部31の内周面に当接することにより、コネクタハウジング50が金属板30に固定されている。詳細には図4を見ればわかるように、フランジ52のうち電線側フランジ52Aは、左右方向及び後方に広がる形状をなし、図5や図7を見ればわかるように、同機器側フランジ52Bは、金属板30における機器側嵌合部53側の面をほぼ覆うように形成されている。なお、電線側フランジ52Aは、本発明の「一側摺動部」に対応し、機器側フランジ52Bは、本発明の「他側摺動部」に対応している。
【0029】
開口部31は、略台形形状をなしている。また、開口部31内には、左右両側の導電板10の対向部が配されるとともに中央の導電板10の端子主体部11が配された状態となっている。一方、電線側嵌合部51の下端部から機器側嵌合部53の上端部付近は、図7に示すように、樹脂層が厚肉に形成された厚肉部57とされている。すなわち、この厚肉部57の内部において、複雑な形状をなす三本の導電板10が金属板30の開口部31を貫通して配された状態となっている。
【0030】
また、金属板30の外周縁部には、複数の取付孔32が設けられており、この取付孔32に固定ボルト(図示せず)を挿通させて、モータケースに締め付けることで、端子台をモータケースに取り付け固定することができるようになっている。
【0031】
機器側嵌合部53は、端子台がモータケースに固定された際に、モータケースの内部に収容されるようになっている。また、機器側嵌合部53には、図1に示すように、3つのナット収容部58が形成されている。これらのナット収容部58は、中央に位置するナット収容部58が他のナット収容部58よりも後方に引っ込んだ配置で設けられている。機器側嵌合部53のナット収容部58では、電線側嵌合部51のナット収容部55と同様に、ナットNに対して締結ボルトを螺合することで、導電板10と機器側バスバーとが電気的に接続されるようになっている。こうして、電線側端子と機器側バスバーが導電板10を中継端子として電気的に接続される。
【0032】
フランジ52の機器側フランジ52Bには、図7に示すように、電線側フランジ52Aよりも側方に張り出すようにして長めに形成されている。この機器側フランジ52Bにおいて電線側フランジ52Aよりも張り出す部分(本発明の「シール装着部」に相当する)には、環状をなすパッキン80が装着されるパッキン装着溝54が周設されている。パッキン80はゴム製であって、図8ないし図10に示すように、パッキン装着溝54とのシール面に2条の環状リップ81が設けられた構成とされている。パッキン80において両環状リップ81とは反対側の面は、モータケースに対して面シールされる面シール部82とされている。モータケースと機器側フランジ52Bは、金属板30をモータケースにボルト締結することにより、パッキン80を介してシール状態で固定される。このように、機器側フランジ52Bに対するシール構造を両環状リップ81によって構成したため、両環状リップ81を押圧してシールするために必要とされる押圧力が少なくて済む。したがって、金属板30の板厚を厚くするなどして強度を確保する必要はなく、アルミダイキャスト製の金属プレートを用いる場合よりも少ない押圧力で、十分なシール性能を得ることができる。
【0033】
さて、本実施形態におけるフランジ52は、金属板30に対して摺動可能に設けられている。具体的には、電線側フランジ52Aが金属板30の上面に対して摺動可能とされており、機器側フランジ52Bが金属板30の下面に対して摺動可能とされている。さらに、電線側フランジ52Aと機器側フランジ52Bは、連結部52Cによって互いに連結されている。この連結部52Cは、開口部31の内面31Aと対向して配置されている。
【0034】
詳細には図5および図6の一部拡大図に示すように、連結部52Cと開口部31の内面31Aとの間に、クリアランスCが設定されている。このクリアランスCは、金属板30とコネクタハウジング50を一体に成形した際、成形後の冷却過程において、金属よりも合成樹脂が大きく収縮することによって形成される。すなわち、溶融樹脂を射出した際には、クリアランスCが形成されていないものの、電線側フランジ52Aと機器側フランジ52Bと連結部52Cが開口部31側に滑りながら開口部31内の合成樹脂が収縮することでクリアランスCが形成されることになる。
【0035】
本実施形態における金属板30の表面には、めっき加工が施されているものの、めっき加工を施すことなく、母材である金属製の板材をそのまま使用してもよい。また、金属板30には、開口部31を除いて凹凸加工などが一切形成されていない。このため、合成樹脂は、加熱による膨張もしくは冷却による収縮によって金属板30の表面を摺動可能となっている。
【0036】
本実施形態は以上のような構成であって、続いてその作用を説明する。まず、一次成形型(図示せず)に3種類の導電板10をセットして、型締めを行い、一次成形樹脂を射出することで3種類の中子20を成形する。続いて、これら3種類の中子20を二次成形型(図示せず)にセットして、型締めを行い、二次成形樹脂を射出することで端子台を成形する。ここで、二次成形樹脂は、二次成形後の冷却過程において開口部31側に収縮し、開口部31の内面31Aと連結部52Cとの間にクリアランスCが形成される。この冷却過程で、二次成形樹脂は、金属板30の表面を滑りながら収縮するため、二次成形樹脂に応力が蓄積されてクラックが入ることはない。
【0037】
次に、サーマルショック試験を行った場合について説明する。サーマルショック試験は、低温状態(常温よりも低い状態)と高温状態(常温よりも高い状態)とを繰り返すことで端子台を熱的な衝撃を与える冷熱衝撃試験である。低温状態から高温状態に移行させると、合成樹脂が膨張することで、電線側フランジ52Aが金属板30の上面を摺動し、機器側フランジ52Bが金属板30の下面を摺動する。これに伴って、連結部52CがクリアランスCを埋めるようにして開口部31の内面31Aに近づくことになるものの、連結部52Cが開口部31の内面31Aから応力を受けてクラックが生じる事態には至らない。
【0038】
これとは逆に、高温状態から低温状態に移行させると、合成樹脂が収縮することで、電線側フランジ52Aが金属板30の上面を摺動し、機器側フランジ52Bが金属板30の下面を摺動する。また、連結部52Cは、開口部31側へ移動し、開口部31の内面31Aとの間にクリアランスCが形成される。なお、連結部52Cは、電線側フランジ52Aと機器側フランジ52Bを連結することで、両フランジ52A,52Bの摺動動作が連動しながら行われるようにしている。したがって、電線側フランジ52Aの摺動距離と機器側フランジ52Bの摺動距離が異なることで、金属板30に反りが発生するなどの事態が規制されている。
【0039】
以上のように本実施形態では、フランジ52が金属板30に対して摺動可能としたから、合成樹脂にクラックが生じることを規制できる。また、電線側フランジ52Aと機器側フランジ52Bを連結部52Cによって連結したから、両フランジ52A,52Bの摺動動作を連動させることができ、金属板30の反りなどを規制できる。また、常温状態において開口部31の内面31Aと連結部52Cとの間にクリアランスCを設けたから、サーマルショック試験の高温状態で連結部52Cが開口部31の内面31Aから応力を受けるなどしてクラックが生じることを規制できる。さらに、パッキン80の環状リップ81がパッキン装着溝54にて機器側フランジ52Bおよび金属板30によって押圧されるようにしたため、小さな押圧力で環状リップ81を押圧でき、十分なシール性能が得られる。
【0040】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図12ないし図15の図面を参照しながら説明する。本実施形態において実施形態1と対応する構成については、実施形態1の符号に100を加えた符号を用いるものとし、実施形態1と同様の構成、作用、および効果については重複するため、その説明を省略するものとする。以下、実施形態1とは異なる構成を中心として説明する。
【0041】
本実施形態の金属板130では、図12及び図15に示すように、コネクタハウジング150を上下方向に貫通させる開口部として、開口部131とは別に、小コネクタ部159のみを上下方向に貫通させる小開口部133が設けられている。つまり、開口部131には電線側嵌合部151と機器側嵌合部153が配設され、小開口部133には小コネクタ部159が配設されている。金属板130は、やや横長の方形状をなし、その四隅に取付孔132が設けられている。
【0042】
コネクタハウジング150は、図14を見ればわかるように、実施形態1のように一次成形と二次成形の二回に分けて成形されておらず、導電板110を成形型の下型にセットして、型締めを行い、溶融樹脂を射出することにより一回で成形されている。コネクタハウジング150の内部には、上下方向に延びる導電板110がインサート成形されており、電線側締結部112が端子主体部111と面一をなして上下方向に延びる形態とされている。
【0043】
また、厚肉部157には、図14に示すように、逃がし凹部156と連なる形態で上下方向に開口した型抜き孔H1が形成されている。この型抜き孔H1は、上下の逃がし凹部156に対応して一対が設けられている。この型抜き孔H1によって、厚肉部157の内部にボイドが発生することを規制している。さらに、厚肉部157には、図13に示すように、前方に開口する複数の型抜き孔H2がが設けられている。この型抜き孔H2によっても厚肉部157の内部にボイドが発生することを規制している。
【0044】
小コネクタ部159と電線側嵌合部151、および小コネクタ部159と機器側嵌合部153は、それぞれ共通のフランジ152を介して互いに連結されている。フランジ152が金属板130に対して摺動可能に設けられている点は、実施形態1と同様である。したがって、コネクタハウジング150の成形後における冷却過程やサーマルショック試験における温度変動によってクラックが生じることを規制できる。
【0045】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態ではフランジが金属板と一体に成形されているものの、本発明によると、フランジを金属板とは別体に構成し、後から組み付けるようにしてもよい。すなわち、金属板を両側から挟むようにして一側摺動部と他側摺動部をボルト締結するなどして一体に構成してもよい。
【0046】
(2)上記実施形態では連結部と開口部の内面との間にクリアランスが設けられているものの、本発明によると、例えば開口部が小さく、開口部内の合成樹脂が膨張して開口部の内面から応力を受けてもクラックが生じないような場合にはクリアランスを設けなくてもよい。
【0047】
(3)上記実施形態では片面に環状リップが形成されたパッキンを使用しているものの、本発明によると、両面に面シール部が形成されたパッキンを使用してもよい。
(4)上記実施形態ではフランジ52が開口部31の開口縁部を全周に亘って覆っているものの、本発明によると、開口部31の開口縁部の一部を覆うような形態でフランジ(固定部)を構成してもよい。このようにすると、樹脂量を減らすことでコストダウンにつながるとともに、開口部の開口縁部を覆う樹脂量を少なくすることにより、熱収縮の影響がより少なくなって、金属板と固定部の間で発生する摩擦をより少なくし、固定部を金属板に対して摺動させやすくなる。
(5)上記実施形態では機器側フランジ52Bが電線側フランジ52Aよりも長めに形成されているものの、本発明によると、機器側フランジと電線側フランジが同じ長さで形成されていてもよいし、機器側フランジが電線側フランジよりも短めに形成されていてもよい。
(6)上記実施形態では機器側フランジ52Bにパッキン装着溝54が一体に形成されているものの、本発明によると、機器側フランジとは別にシール装着部を形成し、このシール装着部にパッキン装着溝を形成してもよい。すなわち、パッキンを装着する位置に合わせてシール装着部を形成すればよい。
【符号の説明】
【0048】
10,110…導電板(端子金具)
30,130…金属板
31,131…開口部
31A,131A…内面
50,150…コネクタハウジング
52,152…フランジ(固定部)
52A,152A…電線側フランジ(一側摺動部)
52B,152B…機器側フランジ(他側摺動部)
52C,152C…連結部
80,180…パッキン
81,181…環状リップ
131…小開口部
C…クリアランス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器のケースに取り付けられる機器用コネクタであって、
金属製の板材を母材としてその板材の板厚方向に貫通して形成された開口部を有しかつ前記機器のケースに取り付け固定される金属板と、
前記金属板に固定された合成樹脂製のコネクタハウジングと、
前記開口部を貫通した状態で前記コネクタハウジングに保持された端子金具とを備え、
前記コネクタハウジングには、前記金属板の外周縁部を露出させた状態で前記開口部の開口縁部を覆う固定部が設けられており、この固定部は、前記金属板の一面側に対して摺動可能な一側摺動部と、前記金属板の他面側に対して摺動可能な他側摺動部と、前記開口部内に配置され前記一側摺動部と前記他側摺動部とを連結する連結部とを備えてなることを特徴とする機器用コネクタ。
【請求項2】
前記連結部とこれに対向する前記開口部の内面との間には、前記コネクタハウジングを成形して常温に冷却された状態でクリアランスが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の機器用コネクタ。
【請求項3】
前記金属板における前記機器のケース側の面であって前記固定部よりも外周側の面には、合成樹脂製のシール装着部が周設されており、前記機器のケースと前記シール装着部は、環状をなすパッキンを介してシール状態で固定されており、前記パッキンにおける前記シール装着部とのシール面には、複数条の環状リップが設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機器用コネクタ。
【請求項1】
機器のケースに取り付けられる機器用コネクタであって、
金属製の板材を母材としてその板材の板厚方向に貫通して形成された開口部を有しかつ前記機器のケースに取り付け固定される金属板と、
前記金属板に固定された合成樹脂製のコネクタハウジングと、
前記開口部を貫通した状態で前記コネクタハウジングに保持された端子金具とを備え、
前記コネクタハウジングには、前記金属板の外周縁部を露出させた状態で前記開口部の開口縁部を覆う固定部が設けられており、この固定部は、前記金属板の一面側に対して摺動可能な一側摺動部と、前記金属板の他面側に対して摺動可能な他側摺動部と、前記開口部内に配置され前記一側摺動部と前記他側摺動部とを連結する連結部とを備えてなることを特徴とする機器用コネクタ。
【請求項2】
前記連結部とこれに対向する前記開口部の内面との間には、前記コネクタハウジングを成形して常温に冷却された状態でクリアランスが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の機器用コネクタ。
【請求項3】
前記金属板における前記機器のケース側の面であって前記固定部よりも外周側の面には、合成樹脂製のシール装着部が周設されており、前記機器のケースと前記シール装着部は、環状をなすパッキンを介してシール状態で固定されており、前記パッキンにおける前記シール装着部とのシール面には、複数条の環状リップが設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機器用コネクタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−195065(P2012−195065A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56334(P2011−56334)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】
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