説明

機能性甘味料

コロソリン酸と、スクラーゼ阻害剤及び難消化性デキストリンからなる群より選ばれる少なくとも一つと、をスクロースに添加した甘味料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性甘味料に関する。
【背景技術】
【0002】
コロソリン酸は、数百種の植物中に存在するが、現在はおもにバナバ(Lagerstroemia speciosa(L.)Pers.)より得られる。バナバは、フトモモ目ミソハギ科に属し、オオバナサルスベリともいわれる熱帯アジアに分布するサルスベリの一種であり、この葉の熱水浸出液は、フィリピンなどでは古くから治療薬として飲用されてきた。最近、我が国でもその糖尿病治療効果や血糖値抑制効果が注目され、健康茶などとして飲用する人が増えつつある。
【0003】
バナバのこのような薬理効果については、1940年代には既にバナバの乾燥葉の煎出汁を正常家兎に投与した結果、乾燥葉1〜2g/体重1kgの投与量で血糖値を16〜49mg/dl下げることができたという報告がなされている(非特許文献1)。また、特許文献1には、II型糖尿病マウスにバナバ抽出粉末エキスを3%混合した食餌を1週間投与し、その後バナバ抽出粉末エキスを5%混合した食餌で3週間飼育した結果、バナバ抽出粉末エキスを投与しなかった対照と比較して血糖値を有意に抑制できたことが開示されている。
【特許文献1】特開平5−310587号公報
【非特許文献1】F.Garcia,J.Philip.Med.Assoc.,20,395(1940)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バナバのこのような薬理効果は、特開平9−227398号公報においては、アミラーゼ及びリパーゼの阻害効果が関与するものとされ、特開2002−12547号公報においても、糖類との同時的な摂取を行った場合に上記阻害効果によって血糖上昇が抑えられるとの知見が開示されている。しかし、本発明者の研究によれば、バナバ抽出エキスのもつ血糖値抑制作用は主としてコロソリン酸によるものであり、含有される消化酵素阻害物質の寄与は副次的なものである。
【0005】
本発明者の最新の研究によれば、コロソリン酸の血糖値抑制作用の機序は以下のようになる。すなわち、コロソリン酸はインスリンの初期分泌を促進する。コロソリン酸によって分泌を促されたインスリンは、その後に血中に増加し始めたグルコースの末梢細胞への取り込みを促し、血糖値を下げる。この血糖値低下によって、本来であればグルコース増加によってもたらされたはずのインスリン分泌増加は抑制され、結果として、コロソリン酸は総インスリン分泌量を抑制することになる。また、コロソリン酸は、従来指摘されてきたとおり、それ自体で末梢細胞のグルコース取り込みを促進させるインスリン様作用を有するため、この面からも血中グルコース量を抑えることになる。このようなコロソリン酸の血糖値降下作用は一定濃度以上の血中グルコースの存在下でのみ働くため、コロソリン酸は優れた食品添加物であるばかりでなく、一般の糖尿病薬に比べて安全で高い抗糖尿病作用を有する物質でもある。
【0006】
糖尿病治療においては血糖値を抑制することが重要であるが、近年は健康全般に影響するものとして過剰なインスリン分泌を抑えることも重要であるといわれ、現実に米国においては低インスリン食品が数多く流通している。コロソリン酸は、初期においては一時的にインスリン分泌を促進するものの、総インスリン分泌量を抑えるため、低インスリン物質として重要である。さらに、血糖値の急激な変化は神経系に影響を与えるため、血糖値は安定的に低位に保つ必要がある。コロソリン酸はまさにそのような要求に応える物質である。
【0007】
しかし、コロソリン酸の血糖値抑制作用の機序が上記のようなものだとすると、コロソリン酸と吸収の早い糖類を同時に摂取した場合、コロソリン酸によってインスリン分泌が促進される前に血中グルコース濃度が急激に上昇することになってしまう。
【0008】
この場合も、末梢細胞中へのグルコースの取り込みを促進するコロソリン酸の作用は働くため、コロソリン酸を摂取しない場合よりも血糖値は早期に安定するが、初期のインスリン分泌促進作用を活かすことができれば、コロソリン酸による血糖値抑制効果はさらに高いものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、先行研究に示された副次的効果であるバナバエキスの消化酵素阻害物質の寄与に着目し、バナバエキス摂取において血糖値の顕著な抑制効果が得られるのは消化酵素阻害物質が糖類の消化吸収を妨げるためではなく、糖類の消化吸収を遅らせ、その間に吸収されたコロソリン酸がインスリン分泌を促進し、やや遅れて取り込まれる糖類の末梢細胞への取り込みを促進するためであると考えた。この考えは、バナバの抽出物を多糖類であるデンプンと同時に投与すると血糖値が抑えられるが、単糖類であるグルコースと同時に投与すると血糖値は抑えられないという、ラットを用いたin vivo試験の結果(特開2002−12547号公報)によっても傍証される。そして、本発明者は、コロソリン酸と既知の消化酵素阻害剤や消化吸収阻害剤とを組み合わせることによって、コロソリン酸のインスリン初期分泌促進作用が活かされ、バナバエキスと同様の血糖値抑制効果が得られること、しかもそのような組合せによって、バナバエキスに含まれるタンニン類等の好ましくない作用を回避することができることに気づいた。
【0010】
そこで、本発明は、コロソリン酸と、スクラーゼ阻害剤及び難消化性デキストリンからなる群より選ばれる少なくとも一つと、をスクロースに添加した甘味料(機能性甘味料)を提供する。スクラーゼ阻害剤としては、L−アラビノースや1−デオキシノジリマイシンが好ましい。難消化性デキストリンは、糖類の消化吸収を阻害することによって血糖値の急激な上昇を抑制する物質である。
【0011】
本発明の甘味料は、その効果を阻害しない範囲で他の添加成分を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の甘味料(機能性甘味料或いは機能性砂糖)によれば、スクロース単独摂取時に比べて、また、スクロース及びスクラーゼ阻害剤または消化吸収阻害剤(血糖値抑制物質)を摂取したときに比べても血糖値が安定する。さらに、バナバエキスと同様の血糖値抑制作用を有し、かつバナバエキスに含まれるタンニンその他の好ましくない作用を有する成分を含有しない甘味料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(コロソリン酸の単離・精製)
本発明の甘味料(機能性甘味料)に含まれるコロソリン酸は、バナバエキス又はバナバエキス濃縮物から製造することができる。
【0014】
バナバエキスは、バナバ葉を熱水又はメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール又はこれらのアルコールの水溶液で抽出して得られる、主成分であるコロソリン酸及びバナバポリフェノール(バナバ葉に含まれるポリフェノール類をいう。)を含む抽出成分であり、抽出は以下の方法で行うことができる。
【0015】
バナバエキスの原料としてのバナバ葉は、フィリピンなどで産出するバナバ(Lagerstroemia Speciosa、Linn.又はPers.)の生葉もしくはそれを乾燥したものである。生葉の乾燥は自然乾燥、風乾、又は強制乾燥のいずれであってもよい。乾燥は、いわゆるトーステッドドライにより水分含量が20重量%以下、好ましくは10重量%以下となるように行うのが、微生物の生育を防止しかつ保存安定性のために望ましい。
【0016】
乾燥したバナバ葉は、そのまま抽出してもよいが粉砕又は細断して抽出することが望ましい。乾燥したバナバ葉を熱水もしくはアルコールで抽出し、濃縮する方法及び条件は特に制限されないが、濃縮物中にコロソリン酸が一定の割合で含有されるような方法及び条件を採用することが好ましい。すなわち、バナバエキスを後述するバナバエキス濃縮物に加工した場合の濃縮物100mg当り、コロソリン酸が0.1〜15mgの割合で含有されるのが望ましい。さらに、コロソリン酸の含有割合は、濃縮物100mg当り、0.2〜12mgが好ましく、0.5〜10mgが特に好ましい。好適な抽出の方法及び条件は、以下のとおりである。
【0017】
方法1:乾燥したバナバ葉の粉砕化物(原料)にエタノール又はエタノール水溶液(エタノール含量50〜80重量%)を原料に対して5〜20重量倍、好ましくは8〜10重量倍加えて、常温〜90℃好ましくは約50〜85℃の温度で30分〜2時間加熱還流する。この抽出を2〜3回繰り返す。
【0018】
方法2:乾燥したバナバ葉の粉砕化物に対して3〜20重量倍のメタノール又はメタノール水溶液(メタノール含量50〜90重量%)を加え、方法1と同様に加熱還流して抽出する。抽出の操作は、常温〜65℃の範囲の温度で30分〜2時間実施するのが好適である。抽出操作は、1回に限らず2回以上繰り返して行うことができる。
【0019】
方法3:乾燥したバナバ葉の粉砕化物に対して3〜20重量倍の熱水を加え、50〜90℃、好ましくは60〜85℃の温度で30分〜2時間加熱還流して抽出を行う。
【0020】
上記したバナバエキスの抽出の方法1〜3は、適宜組み合わせることもできる。例えば、方法1及び方法2を組み合わせて実施することもできる。これらの方法のうち、好ましいのは方法1及び方法2であり、特に好ましいのは方法1である。
【0021】
バナバエキスは、取扱いを容易にするため、濃縮・乾燥してバナバエキス濃縮物に加工するのが一般的である。抽出後の濃縮及び乾燥は、濃縮物が高い温度で長時間保持されると活性成分が劣化することがあるので、比較的短時間で行うことが望ましい。そのために減圧下にて濃縮及び乾燥を行うのが有利である。上記の方法で得られた抽出液を濾過して60℃以下の温度で減圧下濃縮し、得られた固形状物を50〜70℃の温度で減圧下(濃縮時よりも高い減圧下)にて乾燥する。こうして得られた固形物を粉砕して粉末状濃縮物を得る。バナバエキス濃縮物は、粉末形態に限らず錠剤形態あるいは顆粒形態のいずれに加工してもよい。このような方法で得られたバナバエキス濃縮物は、コロソリン酸、バナバポリフェノール及びその他の有効成分を有している。
【0022】
上記のようにして得られたバナバエキス又はバナバエキス濃縮物から、公知の抽出方法等(HPLC等の液体クロマトグラフィーによる方法等)を用いて、コロソリン酸以外の成分(その他成分)を除去することで、コロソリン酸(コロソリン酸99%以上含有)を得ることができる。
【0023】
バナバエキスからコロソリン酸を精製する場合は、以下の手段を採用することができる。すなわち、バナバエキスを水に懸濁した後、エーテルやヘキサン等に分配して先ず低極性成分を除く。水層をダイアイオンHP−20カラムクロマトグラフィー等を用いて、水、メタノール及びアセトンにて順次溶出する。さらに、コロソリン酸が含まれているメタノール溶出画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーにて分離、精製を行い,コロソリン酸を単離する。エーテルやヘキサン等で低極性成分を除き,ダイアイオンHP−20カラムクロマトグラフィー等で分離した方が精製は容易であるが(特にエキス量が多い場合)、必ずしも必須ではなく、抽出エキスを直接シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離し、最終的に高速液体クロマトグラフィーにて精製をすることも可能である。
【0024】
バナバエキス又はバナバエキス濃縮物から単離、精製したコロソリン酸はそのまま用いても良いが、アシル化(例えばアセチル化)した後にアシル基を除いて高純度のコロソリン酸とし、これを用いても良い。コロソリン酸をアセチル化する場合は、例えば、先ず、上記で単離、精製したコロソリン酸を無水ピリジンに溶解し、無水酢酸を加えて、室温にて12時間程度放置した後、反応溶液に氷水を加え、クロロホルムにて複数回(3回程度)抽出する。そして、クロロホルム層を硫酸ナトリウムにて脱水し、ろ過して硫酸ナトリウムを除去した後、クロロホルムを減圧下留去して、ヘキサンにて再結晶することによりアセチルコロソリン酸を得ることができる。このようにして得られたアシル化コロソリン酸からアシル基を除くことで、非常に純度の高い(略100%)コロソリン酸を得ることができる。
【0025】
(甘味料(機能性甘味料)の製造)
上記の方法で得たコロソリン酸と、スクラーゼ阻害剤(L−アラビノース、1−デオキシノジリマイシン等)又は消化吸収阻害剤(血糖値抑制物質)(難消化性デキストリン等)とを混合し、これをスクロースに添加することにより甘味料(機能性甘味料)を得ることができる。
【0026】
混合は、上記成分をそれぞれ粉末にして行うことができるが、スクロースを常圧又は加圧状態で加熱して(常圧状態では180℃程度)溶融させ、これにコロソリン酸と、スクラーゼ阻害剤(L−アラビノース、1−デオキシノジリマイシン等)又は消化吸収阻害剤(血糖値抑制物質)(難消化性デキストリン等)とを溶解させてもよい。
【0027】
コロソリン酸は、0.1(mg/day/人)程度摂取することが好ましいため、人の1日当りのスクロース摂取量を50g程度と考えると、本発明の甘味料(機能性甘味料)はスクロースに対して100万分の1〜10分の1(好ましくは5万分の1)のコロソリン酸を含んでいればよい。なお、スクラーゼ阻害剤(L−アラビノース、1−デオキシノジリマイシン等)や消化吸収阻害剤(血糖値抑制物質)(難消化性デキストリン等)の含有量は任意である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の甘味料は、製菓業、飲料製造業など食品製造業一般において利用することができる。また、糖尿病及びその可能性のある人々を対象とした保健食品の成分としても利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロソリン酸と、スクラーゼ阻害剤及び難消化性デキストリンからなる群より選ばれる少なくとも一つと、をスクロースに添加した甘味料。
【請求項2】
スクラーゼ阻害剤がL−アラビノースである請求項1に記載の甘味料。
【請求項3】
スクラーゼ阻害剤が1−デオキシノジリマイシンである請求項1に記載の甘味料。

【国際公開番号】WO2005/027656
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514105(P2005−514105)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013827
【国際出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(598169491)株式会社ユース・テクノコーポレーション (9)
【Fターム(参考)】