説明

機能性薄膜素子、その製造方法及びそれを用いた物品

【課題】 低電圧駆動とし、さらに長寿命化を実現した機能性薄膜素子及びそれを用いた物品を提供する。また、材料の低コスト化を図り、プロセスコストを大幅に削減した機能性薄膜素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 基板2と、基板2上に形成された陽極3と、陽極3上に形成された有機金属錯体層4と、有機金属錯体層4上に形成された機能性薄膜(有機発光層5)と、機能性薄膜(有機発光層5)上に形成された陰極6と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子、太陽電池、調光素子、トランジスタ素子(FET素子)に代表される素子として用いられる機能性薄膜素子、その製造方法及びそれを用いた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の情報化、IT技術の進展はすさまじく、光を発するルミネッセンス素子、光を吸収してエネルギ変換する太陽電池、さらに、電圧のON-OFFにより光透過率が変化する液晶系及びエレクトロクロミック系の調光素子の開発が加速している。
【0003】
これらの素子は、その両面に陽極と陰極とを配置しており、特に、素子内に光を入射又は出射させたい側の電極に透明電極を配置し、素子内で生成した光を外部に出射させ、又は外部からの光を素子内部に入射している。
【0004】
最近のTV用として、高輝度、広視野角としたプラズマ(Plasma)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、フィールドエミッション(Field Emission)ディスプレイが、精力的に研究開発されている。TV用以外にも、パソコン用ディスプレイ、自動車用ナビゲーションに代表されるフラットパネルディスプレイ、モバイル化の進展による携帯電話、電子ペーパ、さらにモバイル用パソコンでは、透明電極が構成上必須となっている。
【0005】
有機EL素子、太陽電池、調光素子、トランジスタ素子(FET素子)に代表される素子は、基本的に、機能性薄膜の両面に陽極と陰極の両電極を挟み、サンドイッチ型に構成される。これらの各素子を機構的にみると、2つの電極と機能性薄膜との界面、又は機能性薄膜と機能性薄膜との界面、すなわち接合界面での荷電キャリア(電子、正孔)の動きを積極的に利用し、電子的機能又は光学的機能を発現させている。
【0006】
さらに、最近脚光を浴びている有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を挙げて説明する。機能性薄膜素子を用いた有機EL素子の縦断面図を図9に示す。有機EL素子20は、透明基板(ガラス、セラミックス、樹脂)21上に、陽極22(透明電極(例えば、ITO: Indium Tin Oxide))を形成し、陽極22上に、発光層である機能性薄膜23と、陰極(例えば、Mg・Ag)24と、を形成している。そして、陽極22と陰極24は、直流電源25の正極と陰極にそれぞれ接続されている。
【0007】
陽極22と陰極24間に電圧を印加すると、陽極22側から機能性薄膜(発光層)23に正孔が注入され、陰極24側から電子がそれぞれの接合界面における電位障壁の高さΔφを超えて機能性薄膜(発光層)23に注入され、電子と正孔が再結合して発光する仕組みとなっている。そして、この発光は光透過性の材料から形成された透明基板21と陽極22側から出射される。
【0008】
有機EL素子20の電子と正孔の流れと、接合界面での電位障壁を模式的に表したバンド構造を図10に示す。図10に示す構造において、透明な陽極(ITO電極)のイオン化ポテンシャルの大きさφ2は約4.5eV〜4.7eV(エレクトロン ボルト:以下略してeVと表記する)であり、機能性薄膜(発光層)23のイオン化ポテンシャルの大きさφHは約5.4 eV〜5.8eVであることから、電位障壁の高さΔφは約0.7eV〜1.3eVと非常に大きくなる。電位障壁の高さΔφが大きくなると、陽極22から正孔が注入され難くなり、狙いとする発光輝度を得るために陽極22と陰極24間に高電圧を印加せざるを得なかった。このため有機EL素子20の低電圧駆動を妨げていた。また、正孔が注入され難くなると、陰極24から注入される電子との注入バランスを確保することが難しくなり、発光の安定性を維持することができなかった。このような課題を解決するためのアプローチが行われている。
【0009】
第1は、陽極(透明電極ITO)を固定しておき、陽極と機能性薄膜(発光層)との間に両者のイオン化ポテンシャルの大きさが中間値であるバッファ層を挿入する方法である。
【0010】
第2は、陽極(透明電極ITO)を固定しておき、陽極のイオン化ポテンシャルφ2の大きさに比較的近い値の発光層を選択する方法である。
【0011】
第3は、機能性薄膜(発光層)を固定しておき、機能性薄膜(発光層)のイオン化ポテンシャルの大きさφHに比較的近い値の陽極を選択する方法である。
【非特許文献1】「有機ELの話」、頁49、日刊工業新聞社編
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、前述した3つの方法では、それぞれの問題を有していた。
【0013】
第1の方法では、バッファ層を挿入すると、陽極と機能性薄膜(発光層)間のエネルギ差を段階的に変えられるため、陽極側から見ると、そのキャリアである正孔は、電位障壁の高さΔφを容易に乗り越えることができる。しかし、バッファ層のイオン化ポテンシャルの大きさφは、任意に制御できるものではなく、しかも、塗布、硬化によるプロセスも増えてコスト高騰の要因となり実用的ではなかった。
【0014】
第2の方法では、イオン化ポテンシャルの大きさφに着眼して発光材料を選択すると、発光色を自在に選択できず、高い発光効率を得られないという問題を有していた。
【0015】
第3の方法では、陽極(透明電極ITO)として要求される低抵抗、高光透過率、電極パターン形成性(例えばエッチング性など)、表面平滑性を満足させた上で、発光層のイオン化ポテンシャルの大きさφHに近い値の陽極を選択することは極めて難しかった。さらに、透明導電性が要求される陽極として、最も汎用されている前述のITO電極以外にも、ATO( Antimon doped Tin Oxide)、FTO(F doped Tin Oxide )、ZnO(Zinc Oxide)の電極が知られているが、これらの電極もITO電極と同様の問題を有していた。
【0016】
このように陽極と発光層との接合界面における電位障壁の高さφを制御した機能性素子を開発して、この機能性素子を用いたディスプレイ、太陽電池モジュールの製品化が要望されているが、実際には、金属や酸化物半導体、さらに機能性薄膜固有の物性値(イオン化ポテンシャル)に基づき各層を組み合わせて使用せざるを得なかった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明の機能性薄膜素子は、基板と、基板上に形成された陽極と、陽極上に形成された有機金属錯体層と、有機金属錯体層上に形成された機能性薄膜と、機能性薄膜上に形成された陰極と、を有することを要旨とする。
【0018】
本発明の機能性薄膜素子の製造方法は、基板上に、印刷手法を用いて水又は溶剤に可溶性のあるπ共役系高分子、又は導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料により陽極を形成し、陽極上に有機金属錯体層を形成した後、有機金属錯体層上にπ共役系高分子により機能性薄膜を形成し、この機能性薄膜上に、印刷手法を用いてπ共役系高分子により陰極を形成することを要旨とする。
【0019】
本発明における機能性薄膜素子を用いた物品は、上記記載の機能性薄膜素子を用いた表示体、照明体、光起電力モジュール及び半導体モジュールの中から選択されるいずれかの機能性薄膜素子を用いた物品であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の機能性薄膜素子によれば、陽極面に陽イオンを有する有機金属錯体層を形成することにより、接合界面での電位障壁の高さを制御し、低電圧駆動、さらに長寿命化を実現したものである。
【0021】
本発明の機能性薄膜素子の製造方法によれば、材料の低コスト化及びプロセスコストを大幅に削減することができる。
【0022】
本発明の機能性薄膜素子を用いた物品によれば、低電圧駆動を可能とし、長寿命化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子及びその製造方法を説明する。
【0024】
本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子を用いた有機EL素子1の縦断面図を図1(a)に示す。有機EL素子1は、基板2と、基板2上に形成された陽極3と、陽極3上に形成された有機金属錯体層4と、有機金属錯体層4上に形成された有機発光層5(機能性薄膜)と、有機発光層5(機能性薄膜)上に形成された陰極6と、を有し、陽極3と陰極6とは直流電源7の陽極(正極)と陰極(負極)にそれぞれ接続されている。光透過性を有する材料により基板2と陽極3を構成し、有機金属錯体層4からの発光は基板2と陽極3を透過する。
【0025】
このように陽極3と有機発光層5との接合界面に有機金属錯体層4を形成し、陽極3材料のイオン化ポテンシャルを小さくする。すると、キャリアである電子側から見ると、陽極3と有機金属錯体層4の接合界面での電位障壁Δφが低くなり、図1(b)の陽極3と有機金属錯体層4との拡大断面図に示すように、陽極3から有機発光層5に正孔を注入し易くすることができる。ここで、陽極材料ITOに対して「イオン化ポテンシャル」の用語を使用したが、イオン化ポテンシャルは、中性の原子から電子を外部に取り出すのに必要なエネルギであると定義する。なお、ITOは半導体であり、厳密には「イオン化ポテンシャル」ではなく「仕事関数」の語を使用するのが適切であるが、両者は基本的に同一の概念であるため、本願では「イオン化ポテンシャル」の用語を使用する。
【0026】
陽極3にITO電極、有機発光層5にPPV(ポリフェニレンビニレン)を用いたときのバンド構造を図2(a)に示し、(a)の一部拡大図を(b)に示して、具体的に説明する。ITO電極(陽極3)のイオン化ポテンシャルφ2は−4.7eV、PPVから形成された有機発光層5のイオン化ポテンシャルは約−5.2eV〜−5.5eV、HOMOのレベルφLは約−5.1eVであり、陽極3と有機発光層5の接合界面の電位障壁Δφは理論的に約0.6eVとなる。なお、上記イオン化ポテンシャルの値において、−(マイナス)の符号が付いているが、これは真空準位(0 eV)を基準としているためである(例えば、図2(a)参照のこと)。
【0027】
さて、上記のように、陽極3と有機発光層5の接合界面に約0.6eVの大きな電位障壁が生じた場合、所望の発光輝度を得るためには陽極3と陰極6間に高電圧を印加しなければならない。しかし、陽極3と陰極6間に高電圧を印加すると有機発光層5での光安定性や発光寿命が低下し、実用に耐えることができない。そこで、陽極3と有機発光層5との接合界面に極薄の有機金属錯体層4を形成し、有機金属錯体層4中の金属元素を陽イオン化した上で、陽極3表面にこの陽イオンを移動させると、陽極3表面に陽イオンをドープした状態と等価となると考えられる。この結果、陽極3のイオン化ポテンシャルφ2の値が増大するものと考えられる。
【0028】
有機金属錯体層4を形成すると陽極3のイオン化ポテンシャルφ2の値が大きくなるメカニズムは明確ではないが、以下のように説明することができる、と考える。
【0029】
今、有機金属錯体層4を介して陽極3表面に移動する陽イオン8の様子を図3に示す。
【0030】

未処理状態の陽極3表面を(a)に示し、有機金属錯体層4から脱離した陽イオン8が陽極3表面にドープされた状態を(b)に示す。陽極3表面に陽イオン8がドープされると、陽極3表面での電気的安定性に欠ける状態となり、電気的中性を保つため負に帯電した陰イオン9が誘起されて陽極3表面に電気二重層10が形成される。この様子を(c)に示す。陽極3表面に電気二重層10が形成されると、陽極3に存在する電子は最表面に位置する陰イオン9の存在により反発し合う確率が増大し、電子は外部に放出され難くなり、陽極3のイオン化ポテンシャルφ2の値が増大するものと推察される。
【0031】
大気中での光電子分光法(理研計器(株)社製、AC-2)を用いて、電気二重層10が形成された陽極3表面のイオン化ポテンシャルφ2を測定することができる。図4(a)に示すように、陽極3表面に単色光の光の波長を入射し、この単色光の波長(言い換えると、照射エネルギ)を可変させて、陽極3表面から飛び出す光電子をカウンタ(図示しない)により測定する。すると、ある閾値から急激に光電子が放出される状態となる。陽極3表面のイオン化ポテンシャルの測定原理図を図4(b)に示す。直線Aは、図3(a)に示す未処理状態の陽極3表面からの光電子プロットを示し、直線Cは、陽極3表面に有機金属錯体層4を形成して、図3(c)に示すように陽極3表面に電気二重層10が形成された状態での光電子プロットを示す。横軸は照射光エネルギ(eV)、縦軸は光電子収率の1/2乗(平方根)をそれぞれ示し、直線Aと直線Cが横軸の照射光エネルギと交わる交点11、12が、イオン化ポテンシャルの値となる。直線Aのイオン化ポテンシャルの値は4.7 eV、直線Cのイオン化ポテンシャルの値は5.2 eVであり、直線Cに示すように、陽極3表面に有機金属錯体層4を形成するとイオン化ポテンシャルの値が大きくなることが実証された。このように陽極3表面に有機金属錯体層4を形成すると電気二重層10が形成されて、陰イオン効果により電子が飛び出し難くなり、イオン化ポテンシャルの値が大きくなるものと考えられる。
【0032】
前述した図1に示す有機EL素子1では、陽極3と有機発光層5(機能性薄膜)との接合界面に有機金属錯体層4を形成したが、有機金属錯体層4は、有機発光層5(機能性薄膜)と陰極6間に形成しても良く、本態様とした有機EL素子13の縦断面図を図5(a)に示す。なお、有機EL素子1と同一の構成には同一符号を用いてその説明を省略する。有機EL素子13は、基板2と、基板2上に形成された陰極3と、陰極3上に形成された有機発光層5(機能性薄膜)と、有機発光層5(機能性薄膜)上に形成された有機金属錯体層4と、有機金属錯体層4上に形成された陽極6と、を有する。このとき、陽極3にITO電極、有機発光層5にPPV(ポリフェニレンビニレン)を用いたときのバンド構造を図6(a)に示し、(a) の一部拡大図を図6(b)に示す。この場合にも有機金属錯体層4を形成していることから、陽極3と有機発光層5(機能性薄膜)の接合界面での電位障壁の高さを制御することができ、陰極6から有機発光層5(機能性薄膜)への電子の注入バランスを容易にすることができる。
【0033】
次に、有機EL素子1、13の構成材料を説明する。
【0034】
有機金属錯体層4は、有機分子と、金属元素と、が少なくとも結合した有機化合物から形成される。
【0035】
有機分子は、図7に示す(a)ポルフィリン環、(b)フタロシアニン環、(c)トリフェニレン環(図中、左はTP(Triphenylene)、右はOT(o-Terphenyl))、(d)金属錯体、(e)ピロメテン環の中から選択される有機分子とすることが好ましい。なお、図中、Mは金属元素を示す。
【0036】
金属元素は、Li、Na、K、Rb及びCsの中から選択される一種のアルカリ金属元素、又はBe、Mg、Ca、Sr及びBaの中から選択される一種のアルカリ土類金属元素のいずれか一方にすることが好ましい。
【0037】
このようにπ電子雲の発達した有機分子内に金属元素を配位させて有機金属錯体化すると、金属元素が比較的容易にイオン化して陽イオンとなり、この陽イオンが陽極3表面でリッチとなり、陽極3表面に陽イオンをドープした状態と等価となる。このため、陽極3から有機発光層5(機能性薄膜)に正孔を容易に注入することができる。例示した有機分子の中でも、特に、ポルフィリン環、フタロシアニン環又はトリフェニレン環とすることが好ましいが、このように環状構造の中心に金属元素を配位させた構造とすることで、金属元素が比較的容易にイオン化しやすくなるものと考えられる。さらに有機分子を環状分子にすると、溶媒中に有機分子を溶かし、他の有機分子と混合しても有機分子が安定であるため、陽極3表面に有機金属錯体層4を形成すると、分子内で結合している金属元素イオン(陽イオン)が陽極3界面でリッチとなり易く、陽極3から有機金属錯体層4(機能性薄膜)に正孔を容易に注入することができる。
【0038】
また、選択する中心金属元素の種類に応じて、陽極3界面でのイオン化ポテンシャルの大きさが異なる。周期表のIa族(アルカリ金属)中のLi、Na、K、Rb、Csの間で比較すると、概ね元素番号の小さな元素(電気陰性度大)としたときに、イオン化ポテンシャルの値が大きくなる傾向にある。例えば、金属フタロシアニンの中心金属元素としてLiまたはNaを使用した場合を比較すると、中心金属元素としてLiを配位させると、Naを配位させた場合と比べてイオン化ポテンシャルの値がより大きくなることが認められた。
【0039】
さらに、有機分子の分子量は、250〜25000の範囲とすることが好ましく、この範囲の分子量とすることにより、金属元素イオンを含む有機金属発光層4(機能性薄膜)をドライプロセス(例えば、真空蒸着)又はウェットプロセスにより容易に形成することができる。分子量250〜数千程度の有機分子では、真空蒸着などのドライプロセスを適用することができ、基板上に、異なる機能役割を担う有機薄膜の積層構造を形成することも可能である(その代表例が有機EL素子である)。
【0040】
また、分子量数千〜25000の有機分子は、いわゆる高分子として各種高分子に応じた溶剤を用いることにより溶液化し、上述した各種ウェットプロセスにより基板上に塗布することができる。
【0041】
なお、有機金属錯体層4は、有機分子内に金属元素を有し、金属元素が遊離し易い材料であれば良く、例示した材料に限定されるものではない。
【0042】
さらに、この有機金属錯体層4の厚さは、陽極3材料、有機金属錯体層4中の陽イオン、又は金属陽イオンの移動し易さとも関係するため、一義的に決定することはできないが、有機金属錯体層4を極めて薄い厚さとすることで、陽極3のイオン化ポテンシャルφ2の値を任意に制御できることが判明した。具体的には、有機金属錯体層の厚さ(d0)を10nm以下とすることが好ましく、本範囲の厚さにすると、有機金属錯体層を構成する金属元素が陽イオン化し、その陽イオンドープがより顕著となり、イオン化ポテンシャルの変化量も大きくなることが判明した。このことは、有機金属錯体層4から陽イオンが遊離し、陽極3表面に移動させる、すなわちドーピングする上で極めて重要な因子であると考えられる。このため、有機金属錯体層の厚さdoと機能性薄膜の厚さdfの比(df/d0)を制御すると、陽極表面のイオン化ポテンシャルφ2の大きさを自在に制御できることが判明した。以下、これを説明する。
【0043】
機能性薄膜の厚さdfと、有機金属錯体層4の厚さdoの比(df/d0)を横軸にとり、イオン化ポテンシャルの変化ΔIpを縦軸にとり、両者の関係をプロットして、図8に示した。なお、ここでのイオン化ポテンシャルの変化ΔIpは、陽極上に有機金属錯体層を形成していない場合を基準とし、変化量として表記した。
【0044】
機能性薄膜の厚さdfは、有機EL素子1において、有機発光層として電子と正孔が失活せず、十分に再結合可能な機能性薄膜の層厚dfを100nmとして実験を行った。実験に使用した有機金属錯体層4として、マグネシウムポルフィリン(MgPor)、マグネシウムフタロシアニン(MgPC)、ナトリウムポルフィリン(NaPor)のいずれも高分子化した3種類を使用した。
【0045】
図8に示すように、比(df/d0)が1.0よりも小さくなると、陽極3表面のイオン化ポテンシャルの変化量ΔIpはほぼ0であり実質的な変化が認められないが、比(df/d0)が1.0以上になると、イオン化ポテンシャルの変化量ΔIpは徐々に増加する。そして、比(df/d0)が500前後になると、イオン化ポテンシャルの変化量ΔIpは最大値約0.8eVを示す。比(df/d0)が500以上になるとイオン化ポテンシャルの変化量ΔIpは徐々に低下し、比(df/d0)が105以上になるとほぼ0になることが判る。このように比(df/d0)が1.0未満なるとイオン化ポテンシャルの変化量ΔIpがほぼ0となるのは、有機金属錯体層4の厚さdoが実質的に厚くなり、有機金属錯体層4がバルクとしての性質(電気特性的に見たとき、絶縁体又は半導体的レベル)を反映することになり、ナノオーダの極薄層で発現しうる現象(陽イオンがドープされるプロセス)にはなり得ないためと考えられるからである。一方、比(df/d0)が10を超えるとイオン化ポテンシャルの変化量ΔIpが0となるのは、陽イオンが陽極3表面でドープされるという閾値(活性点)に達していないからであると考えられる。即ち、陽イオンが点在化しているレベルに留まり、イオンドープ化の現象には至らないと推察される。
【0046】
図8から明らかなように、実験に用いた3種類の有機金属錯体により多少の特性上の差異があるものの、概ね類似の特性を示しており、しかも、イオン化ポテンシャルは1<(df/d0)<105の範囲で変化を示し、領域Aが適正な範囲であることが判明した。特に、比を50〜3000として領域Bの範囲とすると、イオン化ポテンシャルの変化量ΔIpが0.4を超えることが判明した。
【0047】
本発明の実施の形態では、機能性薄膜素子として有機EL素子1を例示したが、本発明の機能性薄膜素子は有機太陽電池または有機レーザとして用いることもできる。有機EL素子1や太陽電池として機能性薄膜素子を用いた場合、光を出射又は入射させる面の電極として透明電極を使用する。透明電極の材料として、一般にITO(Indium Tin Oxide)あるいはZnO(Zinc Oxide)を使用するが、この理由は、低表面抵抗、高透過率であり、さらにエッチングによる回路パターンの形成が容易であるという利点を有するからである。特に、ITOはこの利点を有するため汎用されているが、次の欠点もある。ITOはセラミック薄膜体であるためフレキシビリティ性に欠け、耐熱性の低い有機基板上に、あるいは有機薄膜上にITO薄膜を形成することが困難であり、前述した図5に示す素子構成とすることができない。そして、主に真空プロセス(例えば、スパッタ法、イオンプレーティング法、蒸着法など)を用いてITO薄膜を形成するため、成膜速度が遅く、しかも大きな設備投資が必要となるため、高コスト化を避けることができない。このため、陽極は次の2種類の材料から形成することが好ましい。
【0048】
一つ目は少なくとも導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料である。この材料によれば、有機金属錯体層4の安定性を高め、有機EL素子1(機能性薄膜素子)のフレキシビリティ性を向上させることができる。導電性ナノ粒子は、Au、Ag、Pt、Pd、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Pb、C及びTiの中から選択される一種の元素又はこれらの中から選択される一種の元素を含む化合物とすることが好ましい。また、導電性ナノ粒子の粒径は約50nm以下とすることが好ましく、粒径50nm以下にすると可視光領域の入射光の波長λ(380〜780 nm)よりも導電性ナノ粒子の粒径が小さくなり、粒径の約1/10以下となり、光透過率が高くなる。なお、導電性ナノ粒子は球状に限定されず、針状、繊維状としても良い。
【0049】
二つ目はπ共役系材料である。π共役系材料から陽極を形成すると、共役二重結合中のπ電子の作用により、低表面抵抗化、高光透過率化することができる。特に、π共役系材料は、水又は溶剤に可溶性を有する高分子材料とすることが好ましく、例えば、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリチエフェンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも一種とすることが好ましい。さらに、導電性を高める点から、π共役系材料にドーピング処理した材料を用いると良く、具体的には、ドーピングされたポリピロール(doped Polypyrrole)、ポリアニリン(doped Polyaniline)、ポリチオフェン(doped Polythiophene)、ポリアセチレン(doped Polyacethilene)、ポリイソチアナフテン(doped Polyisothianaphtene)及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも一種とすることが好ましい。これにより、低抵抗、光透過性が良く、さらに発色、光起電力等の所望の光機能を発現させることができる。
【0050】
さらに、陽極材料として、水又は溶剤により可溶性の高いポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリプロピレンオキシド(PO)及びこれらの誘導体の中から選択される一種のπ共役系材料を用いることが好ましい。前者では、PEDOTポリエチレンジオキシチオフェン):PSS(ポリスチレンスルフォン酸)を代表例として挙げることができる。これにより取扱いが容易で、しかも種々の印刷法を適宜用いることが容易となる。
【0051】
また、前述したπ共役系材料は、陽極3又は有機金属発光層4(機能性薄膜)として用いることが好ましい。陽極3又は有機金属発光層4(機能性薄膜)をπ共役系材料から形成することにより、有機金属錯体層4からの陽イオンドープが安定し、有機EL素子1のフレキシビリティ性をも向上させることができる。さらに、π共役系材料によれば、フレキシブルな基板上に、陽極と機能性薄膜とをオールウェットプロセスを用いて連続的に塗布、印刷することができ、その後に硬化させることで、製造工程を大幅に簡略化でき、高性能化、低コスト化した機能性薄膜素子を得られる。
【0052】
基板は、可視光線領域における平均光透過率を高くすると良く、基板の厚さや表面平滑性にも依存するが、実用的な観点から、基板の平均光透過率80%以上、さらに85%以上とすることが好ましい。基板の平均光透過率を高めると、光の散乱又は吸収による損失を極力軽減できるため、基板を介して機能性薄膜から発光する光を外部に出射させ、又は基板外部からの光を機能性薄膜に容易に取り込むことができる。
【0053】
また、機能性薄膜素子を曲面又は3次元形状にすると、基板のフレキシブル性が要求されるため、基板を高分子樹脂フィルムから形成することが好ましい。
【0054】
また、高分子樹脂フィルムの面内の複屈折Δn(面内における屈折率の異方性)は、光の出射又は入射する方向に影響を及ぼすため、Δn≦0.1とすることが好ましい。複屈折Δnが0.1を超えると、特定方向(角度)に著しく出射又は入射してしまい、実用上好ましくないからである。
【0055】
平均光透過率が80%以上であり、複屈折Δnが0.1以下の高分子樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルサルフォン(PES)及びこれらの誘導体の中から選択される一種を選択することが好ましい。このような高分子樹脂フィルムから基板を形成すると、フレキシブル性の高い基板が得られ、しかも、有機EL素子とした場合に、有機金属発光層(機能性薄膜)からの発光を基板外部に均一に安定して出射することができ、さらに、太陽電池とした場合は、基板外部から入射される光が基板中で光損失することなく、有機金属発光層(機能性薄膜)中に入射させることができる。
【0056】
次に、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子の製造方法を説明する。例えば、以下に示すいずれかの方法により機能性薄膜素子を製造することが好ましい。
【0057】
第1の方法は、基板上に、印刷手法を用いて水又は溶剤に可溶性のあるπ共役系高分子、又は導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料により陽極を形成し、陽極上に有機金属錯体層を形成した後、有機金属錯体層上にπ共役系高分子により機能性薄膜を形成し、この機能性薄膜上に、印刷手法を用いてπ共役系高分子により陰極を形成し、機能性薄膜素子とするものである。
【0058】
第2の方法は、基板上に、印刷手法を用いて水又は溶剤に可溶性のあるπ共役系高分子、又は導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料により陰極を形成し、陰極上にπ共役系高分子により機能性薄膜を形成した後、この機能性薄膜上に有機金属錯体層を形成し、その後、有機金属錯体層上に、印刷手法を用いてπ共役系高分子により陽極を形成し、機能性薄膜素子とするものである。
【0059】
前述した機能性薄膜素子の製造方法において、陽極上に有機金属錯体層を形成する方法を以下説明する。有機金属錯体層は、公知の方法を用いて、陽極上に形成することができる。なお、当然だが、ドープする相手材料の種類や層厚、さらには設定する電位障壁を勘案することが好ましい。
【0060】
公知の方法としては、可溶性の有機金属錯体高分子を適当な溶媒で希釈し、それをキャスティング法やディップ法で、あるいはまた、スピンコート法、スプレー法、グラビア印刷、インクジェット法を用いて塗布する。特に、陽極を回路パターン化した後に機能性薄膜を形成する場合には、微細回路パターンの幅やピッチ精度の点から、グラビア印刷又はインクジェット法を用いて直接、微細回路を印刷することが好ましい。
【0061】
このように印刷手法によるウェット法を用いて、基板上への陽極の形成、陽イオンドープ化、機能性薄膜及び陰極の形成を連続して処理することができる。この結果、材料の低コストを図ることができ、さらにプロセスコストを大幅に削減することができる。また、陽極と機能性薄膜との間に有機金属錯体層を形成することにより、機能性薄膜素子の低電圧駆動が可能となり、機能性薄膜素子の長寿命化を実現することができる。さらに、基板にフレキシブルな樹脂フィルムを用いるとフレキシビリティ性を確保することができるため、フレキシブルな機能性薄膜素子やそれを応用した曲面表示体及び3次元形状の表示体とすることができる。なお、陽極と陰極を透明電極から形成することにより、光の出入射を容易とすることができ、基板側又は基板と逆側から光の出入射をすることができる。
【0062】
本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子を用いた物品は、前述した機能性薄膜素子を用いた表示体、照明体、光起電力モジュール及び半導体モジュールの中から選択されるいずれかとすることが好ましい。また、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子を用いた物品は、前述した機能性薄膜素子の製造方法を用いて製造した機能性薄膜素子を用いた物品とすることが好ましい。このような物品とすることで、低電圧駆動を可能とし、長寿命化を実現することができる。
【0063】
以下、さらに具体的に実施例を用いて説明する。
【0064】
(実施例1)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nmのITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムポルフィリン高分子(MgPor)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ50nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0065】
(実施例2)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nm のITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムポルフィリン高分子(MgPor)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ10nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0066】
(実施例3)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nm のITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムポルフィリン高分子(MgPor)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ2nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0067】
(実施例4)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nm のITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムポルフィリン高分子(MgPor)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.2nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0068】
(実施例5)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nmのITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムポルフィリン高分子(MgPor)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.01nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0069】
(実施例6)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nm のITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ50 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0070】
(実施例7)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nmのITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ10 nm有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0071】
(実施例8)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nm のITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ2 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0072】
(実施例9)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nm のITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.2 nm の有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0073】
(実施例10)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nmのITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.01nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0074】
(実施例11)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nmのITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にナトリウムフタロシアニン高分子(NaPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.2nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0075】
(実施例12)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nm のITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にリチウムフタロシアニン高分子(NaPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.2nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0076】
(実施例13)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、粒径50nmの導電性ナノ粒子Ptを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上に、マグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ50 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0077】
(実施例14)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、粒径50nmの導電性ナノ粒子Ptを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上に、マグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.2 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0078】
(実施例15)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、粒径50nmの導電性ナノ粒子Ptを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.01 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0079】
(実施例16)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、直径φ10 nm×長さL100 nmの導電性ナノ粒子CNTを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上に、マグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ50 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0080】
(実施例17)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、直径φ10 nm×長さL100 nmの導電性ナノ粒子CNTを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上に、マグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.2 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0081】
(実施例18)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、直径φ10 nm×長さL100 nmの導電性ナノ粒子CNTを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上に、マグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.01 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0082】
(実施例19)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルフォン酸(PSS)からなる複合液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にマグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ50 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0083】
(実施例20)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルフォン酸(PSS)からなる複合液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上に、マグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.2 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0084】
(実施例21)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルフォン酸(PSS)からなる複合液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上に、マグネシウムフタロシアニン高分子(MgPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.01 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0085】
(実施例22)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルフォン酸(PSS)からなる複合液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上に、ナトリウムフタロシアニン高分子(NaPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ50 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0086】
(実施例23)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルフォン酸(PSS)からなる複合液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上に、ナトリウムフタロシアニン高分子(NaPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.2 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0087】
(実施例24)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルフォン酸(PSS)からなる複合液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上に、ナトリウムフタロシアニン高分子(NaPc)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.01 nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0088】
(実施例25)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nm のITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成した。その後、スピンコート法を用いて、陽極上にピロメテン高分子(MgPi)を塗布し、硬化させて基板上に厚さ0.2nmの有機金属錯体層を形成し、これを試料とした。
【0089】
(比較例1)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、スパッタ法を用いて膜厚150 nmのITO透明導電性フィルムから成る陽極を形成し、これを試料とした。
【0090】
(比較例2)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、粒径50nmの導電性ナノ粒子Ptを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成し、これを試料とした。
【0091】
(比較例3)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、直径φ10 nm×長さL100 nmの導電性ナノ粒子CNTを5wet%含有させた分散液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成し、これを試料とした。
【0092】
(比較例4)
基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルフォン酸(PSS)からなる複合液をスピンコータで塗布し、膜厚150 nmの陽極を形成し、これを試料とした。
【0093】
上述した実施例1〜実施例25及び比較例1〜比較例4の各試料をデシケータに入れて24時間真空引きした後、同試料を大気中から取り出し、光電子分光法(理研計器(株)AC-2)を用いて各試料のイオン化ポテンシャルを測定した。測定結果を表1に示した。
【表1】

【0094】
表1に示すように、比較例1〜比較例4の各試料では、陽極上に有機金属錯体層を形成していないため、有機金属錯体層が形成された実施例1〜実施例25の各試料に比べてイオン化ポテンシャルの値が高く(真空順位0に近い値)、イオン化ポテンシャルの変化量が僅かであった。特に、有機金属錯体層の厚さを10nm以下にすると、イオン化ポテンシャルの変化量が大幅に大きくなることから、有機金属錯体層の厚さを10nm以下すると良いことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子を用いた有機EL素子の縦断面図であり、(b)は、(a)に示した有機EL素子の陽極と発光層との拡大断面図である。
【図2】(a)は、陽極にITO電極、有機発光層にPPV(ポリフェニレンビニレン)を用いたときのバンド構造を示す図であり、(b)は、(a)の一部拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る機能性薄膜素子中の有機金属錯体層を介して陽極表面に移動する陽イオンの様子を示す図であり、(a)は未処理状態の陽極表面を示す図、(b)は有機金属錯体層から脱離した陽イオンが陽極表面にドープされた状態を示す図、(c)は陽極表面に電気二重層が形成された状態を示す図である。
【図4】(a)は、陽極表面から飛び出す光電子を測定する原理図であり、(b)は、陽極表面のイオン化ポテンシャルの測定原理図である。
【図5】(a)は、本発明における他の実施の形態に係る機能性薄膜素子を用いた有機EL素子の縦断面図であり、(b)は、(a)に示した有機EL素子の陽極と発光層との拡大断面図である。
【図6】(a)は、陽極にITO電極、有機発光層にPPV(ポリフェニレンビニレン)を用いたときのバンド構造を示し、(b) は(a) の一部拡大図である。
【図7−1】有機金属錯体層を形成する有機分子の分子構造を示す図であり、(a)はポルフィリン環、(b)はフタロシアニン環、(c)はトリフェニレン環である。
【図7−2】有機金属錯体層を形成する有機分子の分子構造を示す図であり、(d)は金属錯体、(e)はピロメテン環である。
【図8】陽極上に形成した機能性薄膜層の厚さdfと有機金属錯体層の厚さdoとの比(df/do)と、イオン化ポテンシャル変化量ΔIpとの関係を示す図である。
【図9】従来における機能性薄膜素子を用いた有機EL素子を示す縦断面図である。
【図10】有機EL素子の電子と正孔の流れと、接合界面での電位障壁を模式的に表したバンド構造を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1…有機EL素子,
2…基板,
3…陽極,
4…有機金属錯体層,
5…有機発光層,
6…陰極,
7…直流電源,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された陽極と、
前記陽極上に形成された有機金属錯体層と、
前記有機金属錯体層上に形成された機能性薄膜と、
前記機能性薄膜上に形成された陰極と、を有することを特徴とする機能性薄膜素子。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成された陰極と、
前記陰極上に形成された機能性薄膜と、
前記機能性薄膜上に形成された有機金属錯体層と、
前記有機金属錯体層上に形成された陽極と、を有することを特徴とする機能性薄膜素子。
【請求項3】
前記有機金属錯体層は、Li、Na、K、Rb及びCsの中から選択される一種のアルカリ金属元素、又はBe、Mg、Ca、Sr及びBaの中から選択される一種のアルカリ土類金属元素のいずれか一方の金属元素と、有機分子とが少なくとも結合した有機化合物から形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の機能性薄膜素子。
【請求項4】
前記有機分子は、環状分子を含むことを特徴とする請求項3記載の機能性薄膜素子。
【請求項5】
前記有機分子は、ポルフィリン環、フタロシアニン環、トリフェニレン環及びメテン環の中から選択されるいずれかの環状分子を少なくとも含むことを特徴とする請求項3記載の機能性薄膜素子。
【請求項6】
前記有機分子の分子量が、250〜25000であることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子。
【請求項7】
前記有機金属錯体層の厚さdoに対する前記機能性薄膜層の厚さdの比(d/ do)が、100<d/do<105の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子。
【請求項8】
前記有機金属錯体層の厚さdoは、10nm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子。
【請求項9】
前記陽極は、導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを少なくとも含む材料から形成されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子。
【請求項10】
前記陽極又は前記機能性薄膜の少なくともいずれか一方が、π共役系材料から形成されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子。
【請求項11】
前記π共役系材料は、水又は溶剤に可溶性を有する高分子材料であることを特徴とする請求項10記載の機能性薄膜素子。
【請求項12】
前記高分子材料は、ドーピングされたポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリイソチアナフテン及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項11記載の機能性薄膜素子。
【請求項13】
前記高分子材料は、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリプロピレンオキシド及びこれらの誘導体の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項11記載の機能性薄膜素子。
【請求項14】
前記基板は、可視光線領域における平均光透過率が80%以上である高分子樹脂フィルムから形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の機能性薄膜素子。
【請求項15】
前記高分子樹脂フィルムの面内の複屈折Δnが、0.1以下であることを特徴とする請求項12記載の機能性薄膜素子。
【請求項16】
前記高分子樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルサルフォン、及びこれらの誘導体の中から選択される1種であることを特徴とする請求項14又は15記載の機能性薄膜素子。
【請求項17】
基板上に、印刷手法を用いて水又は溶剤に可溶性のあるπ共役系高分子、又は導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料により陽極を形成し、前記陽極上に有機金属錯体層を形成した後、前記有機金属錯体層上にπ共役系高分子により機能性薄膜を形成し、この機能性薄膜上に、印刷手法を用いてπ共役系高分子により陰極を形成することを特徴とする機能性薄膜素子の製造方法。
【請求項18】
基板上に、印刷手法を用いて水又は溶剤に可溶性のあるπ共役系高分子、又は導電性ナノ粒子と光透過性を有する高分子樹脂とを含む材料により陰極を形成し、前記陰極上にπ共役系高分子により機能性薄膜を形成した後、この機能性薄膜上に有機金属錯体層を形成し、その後、前記有機金属錯体層上に、印刷手法を用いてπ共役系高分子により陽極を形成することを特徴とする機能性薄膜素子の製造方法。
【請求項19】
請求項17又は18記載の機能性薄膜素子の製造方法を用いて製造された機能性薄膜素子を用いた物品。
【請求項20】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子を用いた表示体又は照明体のいずれかの物品。
【請求項21】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子を用いた光起電力モジュール。
【請求項22】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の機能性薄膜素子を用いた半導体モジュール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−222383(P2006−222383A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36487(P2005−36487)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】