説明

正極部材、非水電解質電池、および正極部材の製造方法

【課題】容量の大きな非水電解質電池を作製することができる正極部材を提供する。
【解決手段】正極活物質を有する第1活物質層2Aと、正極活物質を有し、第1活物質層2Aに対向して配置される第2活物質層2Bと、第1活物質層2Aと第2活物質層2Bとの間に配置される正極集電層1とを備える。この正極部材10は、これら第1活物質層2Aと第2活物質層2Bと正極集電層1とが一体化された焼結体であり、活物質層2A,2Bと集電層1との密着性が高い。そのため、この正極部材10を使用してリチウムイオン電池20を作製した場合の内部抵抗の増加を抑制し、容量を大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極と負極とこれら電極の間に配置される非水電解質を備える非水電解質電池、およびこの電池に使用される正極部材、並びに、この正極部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯機器といった比較的小型の電気機器の電源に、非水電解質電池(代表的には、リチウムイオン電池)が利用されている。リチウムイオン電池は、正極と、負極と、これら電極の間に配置される電解質層とを備える。例えば、特許文献1や2には、リチウム複合酸化物の焼結体である正極活物質層の片面に、主として金属で形成される正極集電層を形成した正極部材を用いた非水電解質型リチウムイオン電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−180904号公報
【特許文献2】特開2001−143687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リチウム複合酸化物の焼結体である正極活物質層と、金属箔などで構成される正極集電層との密着性が悪く、その密着性の悪さがリチウムイオン電池としたときに内部抵抗を増加させる要因となっていた。そのため、このような正極部材を使用したリチウムイオン電池は、上記内部抵抗のために容量が抑えられていた。
【0005】
また、正極集電層は、リチウムイオン電池に必要な部材であるが、電池の容量には寄与しない部材であるので、可能な限り薄いことが好ましい。しかし、正極集電層に利用される金属箔は、技術的な問題から一定の厚さ(およそ10μm)以下に薄くすることが難しい。しかも、金属箔は薄くすればするほど取り扱いが難しくなるし、仮に正極活物質層の表面に貼り付けることができたとしても、活物質層と集電層との密着性が悪く、電池の内部抵抗が高くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、正極集電層と正極活物質層との密着性を高めることで放電容量を確保した非水電解質電池を作製することができる正極部材、およびその製造方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の別の目的は、この正極部材を使用したリチウム電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明正極部材は、正極と負極とこれら電極の間に配置される非水電解質層とを備える非水電解質電池に使用される正極部材に係る。この本発明正極部材は、正極活物質を有する第1活物質層と、正極活物質を有し、第1活物質層に対向して配置される第2活物質層と、第1活物質層と第2活物質層との間に配置される正極集電層とを備える。そして、本発明正極部材は、これら第1活物質層と第2活物質層と正極集電層とが焼結により一体化されていることを特徴とする。
【0009】
本発明正極部材の構成によれば、正極集電層が第1活物質層と第2活物質層との間に挟み込まれた状態で焼結により一体化されているため、正極集電層と活物質層との間に、両層を構成する物質が混在した界面層が形成される。そのため、正極集電層と活物質層とを確実に密着させることができ、その結果、この正極部材を使用した本発明非水電解質電池は、内部抵抗が低く容量の大きな非水電解質電池となる。また、正極部材は正極集電層が2つの活物質層に挟まれた構成を有するので、正極集電層が2つの活物質層で共用される。その結果、非水電解質電池に占める正極集電層の厚さを薄くすることができるので、電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0010】
(2)本発明正極部材の一形態として、第1活物質層および第2活物質層の少なくとも一方の空隙率が10%以下であることが好ましい。特に、両活物質層の空隙率が10%以下であることが好ましい。
【0011】
非水電解質電池においては、活物質層に空隙があると、この空隙により活物質層におけるリチウムイオンの拡散が阻害される。その結果、非水電解質電池の内部抵抗の増大を招き、電池の容量が低下する。これに対して、上記のように空隙率を10%以下とすると、正極部材の活物質層におけるリチウムイオンの伝導が阻害され難い。
【0012】
(3)本発明正極部材の一形態として、正極部材に備わる正極集電層は、導電性物質と正極活物質とを有し、導電性物質と正極活物質との混合比が、質量比で、1:0.05〜0.3であることが好ましい。
【0013】
正極集電層に正極活物質を混合させると、正極集電層と活物質層との密着性が増すので、充放電に伴う正極集電層と活物質層との剥離を効果的に防止することができる。混合比が下限を下回ると、集電層と活物質層との密着性を高める効果が小さくなる。逆に、混合比が上限を上回ると集電層の導電率が低くなる。
【0014】
(4)正極集電層を正極活物質と導電性物質との混合体とする場合、正極集電層が、その厚さ方向の中央部から両活物質層に向かって正極活物質の量が段階的あるいは連続的に増加する傾斜組成を有することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、正極集電層の中央部においては導電性物質が豊富に含まれているため十分な導電性を有する正極集電層とできる。また、正極集電層における活物質層の近傍においては正極活物質が豊富に含まれているため、正極集電層と活物質層との密着性が高い。
【0016】
(5)本発明正極部材の一形態として、正極集電層の厚みが、1〜20μmであることが好ましい。
【0017】
この程度の厚さを有する正極集電層であれば、十分に集電機能を発揮する。ここで、従来のように、正極活物質層の片面に正極集電層を形成した構成では、集電層を薄くすると集電層が活物質層から剥離し易いが、正極集電層を2つの活物質層で挟み込むので、集電層を薄くしても剥離の問題が生じ難い。
【0018】
(6)本発明正極部材の一形態として、正極部材の側面で、正極集電層に電気的に接続される正極集電部材を備えることが好ましい。
【0019】
このような構成の正極部材を利用してリチウム電池を作製した場合、リチウム電池の厚さを厚くすることなくリチウム電池から端子を引き出すことができる。
【0020】
(7)本発明正極部材の一形態として、正極集電層が開口部を有する網状に形成されていることが好ましい。
【0021】
正極集電層を網状に形成すると、集電層の厚み方向に集電層を貫通する網目状の開口部が形成される。その結果、開口部を介して第1活物質層と第2活物質層とが直接繋がった状態になるので、正極部材の各層間の密着性が向上し、層間の剥離が生じ難い。
【0022】
開口部は、一定パターンの繰り返しとすることができる。例えば、矩形の開口部が規則的に配列された格子状パターンや、円形の開口部が規則的に配列されたパンチングメタル様のパターンなどを挙げることができる。その他、開口部を多角形(例えば、三角形・五角形・六角形など)としたり、楕円形としたり、雲形などの不定形としたりしても良い。また、上記列挙した形状の少なくとも1種の形状の開口部を任意の数選択して適当に配置した不規則パターンであっても良い。
【0023】
(8)本発明正極部材の一形態として、網状の正極集電層を平面視したときの開口部の内接円の半径が、2つの活物質層のうち厚い方の厚み以下であることが好ましい。
【0024】
網状の集電層を形成した場合、集電層を平面視したときに開口部の位置で集電層から距離のある活物質が生じる。例えば、矩形状の開口部であれば、開口部の幅の中間位置にある活物質は、幅方向のどちら側にある集電層からも距離がある。一方で、正極部材の厚み方向において、活物質層の集電体と当接する面とは反対側の面に位置する活物質は、もともと集電層から距離がある。そこで、網状の正極集電層を平面視したときの開口部の内接円の半径を活物質層の厚み以下とすれば、集電層から最も遠い位置にある活物質は、活物質層の表面にある活物質ということになる。つまり、開口部を上記のように規定すれば、集電層に開口部を形成したことによる正極部材の内部抵抗の増大を抑えることができる。
【0025】
(9)本発明非水電解質電池は、本発明正極部材と、この正極部材に積層される固体電解質層とを備えることを特徴とする。
【0026】
上記構成を備える本発明非水電解質電池において、正極集電層は2つの活物質層で共用される。その結果、非水電解質電池に占める正極集電層の厚さを薄くすることができるので、電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0027】
(10)本発明正極部材の製造方法は、以下の工程を備えることを特徴とする。
第1活物質層となる正極活物質と、正極集電層となる導電性粉末と、第2活物質層となる正極活物質とを積層した成形体を形成する工程。
この成形体を焼結により一体化させる工程。
【0028】
本発明の方法によれば、扱いの難しい薄い金属箔を用いることなく薄い集電層を容易に形成することができる。また、集電層と活物質層との間に、両層の構成物質が混在する界面層が形成され易く、両層の密着性が高い本発明正極部材を製造できる。
【0029】
(11)また、本発明正極部材の製造方法は、以下の工程を備えることを特徴とする。
第1活物質層となる正極活物質を含むスラリーをシート状に形成する工程。
シート状成形体に正極集電層となる金属ペーストを塗工する工程。
シート状成形体との間に金属ペーストを挟み込むようにして第2活物質層となる正極活物質を含むスラリーをシート状に形成する工程。
金属ペーストを挟み込んだ状態の成形体を焼結する工程。
【0030】
本発明の方法によれば、扱いの難しい薄い金属箔を用いることなく薄い集電層を容易に形成することができる。また、集電層と活物質層との間に上記界面層が形成され易く、両層の密着性が高い本発明正極部材を製造できる。
【0031】
(12)金属ペーストを塗工する工程において、金属ペーストを網状のパターンに形成することができる。
【0032】
網状に形成された正極集電層は、集電層の厚み方向に集電層を貫通する網目状の開口部を有するので、開口部を介して第1活物質層と第2活物質層とが直接繋がった状態の正極部材を製造することができる。このような正極部材の各層は、既に述べたように、高い密着性を持って接合される。
【発明の効果】
【0033】
本発明の構成によれば、正極集電層が第1活物質層と第2活物質層との間に挟み込まれているので、正極集電層と活物質層との密着性を向上させることができ、両層が容易に剥離しないようにすることができる。そのため、この正極部材を利用して非水電解質電池を作製した場合、内部抵抗が低く、放電容量が高い電池とすることができる。また、この正極部材を利用して非水電解質電池を作製した場合、1つの正極集電層が2つの活物質層で共用され、非水電解質電池に占める正極集電層の割合を小さくすることができるので、電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】(A)は本発明正極部材の概略構成図、(B)は(A)の正極部材を使用した本発明非水電解質電池の概略構成図である。また、(C)は(B)の非水電解質電池を複数積層することで構成した本発明非水電解質電池の概略構成図である。
【図2】実施例2に係る正極部材の製造方法についての説明図であって、(A)はグリーンシートの斜視図、(B)はグリーンシートの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
【0036】
図1(A)は、本発明正極部材の概略構成図、(B)は(A)の正極部材を使用した全固体型リチウムイオン電池(非水電解質電池)の概略構成図である。また、図1(C)は、図1(B)のリチウムイオン電池を複数積層して形成したリチウムイオン電池の概略構成図である。まず、正極部材の構成について詳細に説明し、次いで正極部材を使用したリチウムイオン電池の構成について説明する。
【0037】
<正極部材>
正極部材10は、正極活物質を含有する第1活物質層2Aおよび第2活物質層2Bと、これら活物質層2A,2Bの間に配置される正極集電層1とを備える。これらの層2A,1,2Bは、後述するように焼結により一体化されている。この正極部材10の厚さは、20〜300μmとすると良い。
【0038】
第1活物質層2Aと第2活物質層2Bに含有される活物質としては、LiCoOや、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3などを挙げることができる。これら活物質層2は、カーボンブラックなどの導電助材を含んでいても良い。
【0039】
これら活物質層2A,2Bの空隙率は、10%以下とすると良い。空隙率が10%以下であれば、活物質層2A,2Bのリチウムイオン導電性を十分に確保することができる。各活物質層2A,2Bの厚さは、9.5〜149.5μmとすれば良い。これらの層2A,2Bの好ましい厚さは、40〜100μmである。
【0040】
正極集電層1は、金属あるいは導電性の金属酸化物で構成することができる。金属としては、例えば、CuやNi、Pd,Agなどを利用できる。また、金属酸化物としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)やZnOなどを挙げることができる。また、集電層1の厚さは、1〜100μm、好ましくは1〜20μmの範囲とすると良い。この範囲の厚さとすることで、十分な集電機能を有する集電層1とすることができる。
【0041】
正極集電層1は、導電性物質と正極活物質との混合層としても良い。集電層1を混合層とすると、正極集電層1と活物質層2A,2Bとの密着性が高くなる。正極活物質と導電性物質との混合比は、質量比で、正極活物質が1に対して、導電性物質が0.05〜0.3とすることが好ましい。混合比が上記範囲であれば、正極集電層1の導電性と、活物質層2A,2Bに対する正極集電層1の密着性の両方を確実に確保することができる。
【0042】
また、集電層1を混合層とする場合、集電層1は、その厚さ方向の中央部から両活物質層2A,2Bに向かって活物質の量が段階的あるいは連続的に増加する傾斜組成を有することが好ましい。集電層1を傾斜組成とすると、集電層1と両活物質層2A,2Bとの密着性をより高くすることができ、しかも、集電層1の導電性を十分に確保することができる。正極集電層1の厚さ方向の中央部を実質的に導電性物質のみからなるようにしても良い。即ち、混合層、導電性物質のみからなる層、混合層の順に積層された構造を有する集電層1としても良い。
【0043】
上記構成を備える正極部材10を作製するには、代表的には、加圧焼結法やグリーンシート法を利用することができる。
【0044】
加圧焼結法で正極部材10を作製するには、例えば、以下に示すようにすると良い。まず、金型に第1活物質層となる正極活物質粉末、集電層となる導電性粉末、第2活物質層となる正極活物質粉末がそれぞれ層をなすように配置する。そして、層状に金型に配置された粉末を加圧した後、この加圧成形体を焼結すれば良い。加圧焼結法を利用すれば、正極集電層1を傾斜組成にすることが容易である。具体的には、集電層となる加圧前の層を正極活物質粉末と導電性粉末との混合粉末とすれば良い。また、混合粉末の層も、その厚さ方向に活物質粉末と導電性粉末の割合を容易に変更できる。
【0045】
一方、グリーンシート法(例えば、ドクターブレード装置などを使用)で正極部材を作製するには、例えば、以下に示すようにすると良い。まず、正極活物質粉末とバインダとを混合した活物質混合スラリーを作製し、このスラリーでシート状の成形体を作製する。次に、金属粉末を溶剤中に分散させた金属ペーストをこのシート状成形体の上に塗工する。さらに、金属ペーストの上に別の活物質混合スラリーを塗工する。そして、この3層構造の積層体を焼結し、正極部材を完成させる。
【0046】
ここで、金属ペーストを塗工する工程において、網状のパターンに塗工することもできる。例えば、スクリーン印刷法などにより、金属ペーストを網状に印刷すると良い。網状パターンの正極集電層を形成すれば、集電層の厚み方向に集電層を貫通する開口部(網目)の部分で第1活物質層と第2活物質層とが直接繋がった状態になるので、各層の密着性が高い正極部材を製造することができる。開口部の形状は、特に限定されず、例えば、多角形や楕円形としたり、あるいは雲形のような不定形状であっても良い。また、正極集電層における開口部の内接円の半径を第1活物質層と第2活物質層のうち厚い方の厚み以下とすることで、開口部による正極部材の内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0047】
上記いずれの方法を使用するにしても、2つの活物質層と1つの正極集電層とは焼結により一体化される。焼結時の条件は、両層の材料により適宜選択すれば良いが、概ね600〜1000℃×2〜24hである。例えば、正極活物質がLiCoO、正極集電層がAgであれば、焼結の条件は、800〜950℃×2〜12hが好ましい。
【0048】
<全固体型リチウム電池>
上述した正極部材10の表面と裏面の各々に固体電解質層(SE層)3A,3Bを積層し、さらにSE層3A,3Bの上にそれぞれ負極層4A,4Bを積層することで、全固体型リチウム電池20を作製することができる(図1(B)参照)。
【0049】
SE層3A,3Bは、例えば、Li−P−O−Nや、Li−P−S−O、LiSとPとからなるLi−P−S、Li−La−Ti−O、Li−La−Zr−Oのアモルファス膜あるいは多結晶膜などで構成することができる。このSE層3A,3Bの厚さは、1〜10μm程度とすると良い。また、SE層3A,3Bの形成には、固相法(粉末焼結法)や気相法(例えば、PVD法やCVD法)を利用できる。
【0050】
負極層4A,4Bは、例えば、Li金属及びLi金属と合金を形成することのできる元素よりなる群より選ばれる1つ、若しくはこれらの混合物又は合金が好適に使用できる。Liと合金を形成することのできる元素としては、AlやSi、Sn、Bi、In、Agなどを挙げることができる。これら負極層4A,4Bは、負極層自体に集電層としての機能を持たせることができる。この負極層4A,4Bの厚さは、0.5〜50μm程度とすると良い。また、負極層4A,4Bの形成には、気相法を利用することができる。
【0051】
その他、リチウムイオン電池20は、その側面に正極集電部材1Cを備えるようにすると良い。より具体的には、正極集電部材1Cは、電池20における正極部材10の側面において、正極集電層1に電気的に接続されるようにする。本発明正極部材10は、集電層1が活物質層2A,2Bに挟まれているので、集電層1を外部に接続するための端子を配置し難い。これは、集電層1が電池20の側面にのみ露出しているためである。また、集電層1から導線などを引き出して端子を接続した場合、この導線が電池20の側面に露出する負極層4A,4Bに接触して正・負極が短絡する虞がある。これに対して、正極集電部材1Cは、正極部材10の側面に突出して配置されているので、この正極集電部材1Cに端子を接続することは容易である。また、後述するように電池20を複数積層する場合、各電池20の正極と負極とが短絡することなく正極集電層1同士を接続することができる。この正極集電部材1Cは、電池20の厚さ方向に配置されていないので、集電部材1Cにより電池20の厚さが厚くなることがない。正極集電部材1Cとしては、例えば、カーボン粉末やカーボン繊維、Ni粉末などの導電材料と、エポキシ樹脂などの樹脂材料とを混合し、正極部材10の側面に塗布して硬化させることで形成できる。
【0052】
一方、リチウムイオン電池20に備わる2つの負極層4A,4Bは、電池20の表裏に存在するので、両負極層4A,4Bからそのまま導線などを介して端子を接続すれば良い。
【0053】
図1(B)に示すリチウムイオン電池20を複数積層して、図1(C)に示すようなリチウムイオン電池30としても良い。この場合、各正極部材10の正極集電部材1Cを正極用集合端子Pで接続して、各正極部材10を電気的に接続すると良い。また、電池30の負極層4A,4B同士を電気的に接続するには、各負極層4A,4Bに接続される負極集電部材4Cを負極集合端子Nで接続することで行えば良い。このとき、各負極集電部材4Cは、正極集電部材1Cと反対側にのみ突出するようにし、この負極集合端子Nと前述の正極集合端子Pとを互いに反対側に引き出すことで、端子Pと端子Nとの短絡を確実に防止できる。
【0054】
なお、リチウムイオン電池20の積層数は、リチウムイオン電池30の用途に応じて適宜選択することができる。
【実施例1】
【0055】
図1(C)に示すような積層構造を有する全固体リチウム電池30を作製し、その容量を測定した。また、比較例として、非水電解液を使用したリチウム電池を作製し、その容量を測定した。
【0056】
<実施例>
粒径2μmのLiCoOを5g、バインダ(ユケン工業社製DB17)を1.3g用意し、これらを混練してシート状に形成した。このシートの一面に粒径2μmのAg粒子からなる層をスクリーン印刷法により形成し、この層の上にさらに上記混練物の層を形成した。そして、この積層体に950℃×4時間の熱処理を施し、正極部材10を作製した。熱処理された混練物の層が、第1活物質層2Aおよび第2活物質層2Bとなり、各層の厚さは共に25μmであった。また、熱処理されたAg粒子の層が、正極集電層1となり、その厚さは10μmであった。
【0057】
この正極部材10の活物質層2A,2Bの空隙率を測定したところ、8%であった。空隙率の測定は、作製した活物質層2A,2Bの密度と、原料の理論密度とを比較することで求めた。また、空隙率は、活物質層2A,2Bを顕微鏡観察し、視野中の空隙の面積割合を測定することでも確認した。
【0058】
次に、正極部材10の表面と裏面にLiS−PからなるSE層3A,3Bをパルスレーザーデポジション法により形成した。SE層3A,3Bの厚さは5μmであった。
【0059】
次いで、SE層3A,3Bの表面にLi金属からなる負極層4A,4Bを抵抗加熱蒸着法により形成した。負極層4A,4Bの厚さは19μmであった。
【0060】
さらに、正極部材10の側面に正極集電部材1Cを形成した。正極集電部材1Cは、藤倉化成社製D753を正極部材10の側面に、SE層3A,3Bと接触しないように塗布し、硬化させることで形成した。
【0061】
以上説明したような正極集電層1と活物質層2A,2BとSE層3A,3Bと負極層4A,4Bと正極集電部材1Cを一単位として、この単位部材を10個積層することで実施例1のリチウム電池を完成させた。単位部材間には、厚さ10μmのCu箔からなる負極集電部材4Cが配置されている。さらに、積層体の上面に露出する負極層4Bと下面に露出する負極層4Aにも負極集電部材4Cが配置されている。
【0062】
そして、最後に、各単位部材の正極集電部材1C同士を正極集合端子Pで電気的に接続すると共に、各負極集電部材4C同士を負極集合端子Nで電気的に接続する。
【0063】
このようにして形成された積層構造のリチウムイオン電池30の寸法は、55mm×35.5mm×3.0mmであった。また、電池の放電容量を測定したところ920mAhであった。このような放電容量が得られたことにより、薄い集電層であっても集電層として機能していることが判った。しかも、この放電容量は、同体積の一般的なリチウムイオン電池よりも高かった。
【0064】
<実施例2>
実施例2では、グリーンシート法により本発明正極部材を作製する例を図2を参照しつつ説明する。
【0065】
まず、正極活物質としてLiCoO粉末を用意した。このLiCoO粉末をポリビニールブチラール(PVB)、フタル酸ジブチル(DBP)、トルエンと混合してスラリーを作製する。そして、ドクターブレード装置などの塗工設備でスラリーをシート状に成形してグリーンシート7Aを得た。LiCoO:PVB:DBP:トルエンは、重量部で40:1:1:10とした。また、ドクターブレード装置で設定したグリーンシート7Aの厚さtは、75μmであった。
【0066】
次に、上述したグリーンシート7Aの上にスクリーン印刷法により金属ペースト8をメッシュ状にパターン形成した。メッシュパターンの金属ペースト8の厚さは、印刷設定で12μmであった。金属ペースト8が形成されていない部分である開口部8hからはグリーンシート7Aが露出している。本例のメッシュの開口部8hは正方形とし、その幅dをグリーンシート7Aの厚さtの2倍以下に設定した。つまり、正方形の開口部8hにおける内接円の半径をグリーンシート7Aの厚さt以下とした。このように設定することで、電子伝導距離がtに制限されるため、正極部材11内の内部抵抗の増加は抑えられる。
【0067】
次に、メッシュパターンの上にさらに前述のスラリーを塗工し、グリーンシート7B(最初のグリーンシートと同じ厚さtと同じ厚さ)を形成し、金型温度50℃、40MPaで加圧して、上下のグリーンシート7A,7Bと金属ペースト層8とを一体化させた積層体を作製した。
【0068】
最後に、積層体を大気雰囲気中で600℃×5時間の熱処理を行い、スラリーに含まれるバインダを除去し、続いて1000℃×3時間の焼結を行い、正極部材11を得た。焼結によりグリーンシート7A,7Bは活物質層として、金属ペースト8は正極集電層となる。
【0069】
上記正極部材11は、正極集電層8に開口部8hが形成されているため、正極集電層を挟む2つの活物質層7A,7Bが直接繋がった状態で焼結される。そのため、正極部材11の各層間の密着性が増すので、この正極部材11を使用して電池を作製した場合、電池の充放電に伴う各層7A,7B,8の剥離などが生じ難い。
【0070】
なお、上記正極部材を使用して電池を作製する際、実施例1と同様にSE層や負極層を形成し、電池を作製した。
【0071】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の正極部材、高容量の非水電解質電池の作製に好適に利用することができる。また、本発明非水電解質電池は、携帯機器などの電源として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
10,11 正極部材
20,30 リチウムイオン電池(非水電解質電池)
1 正極集電層 1C 正極集電部材
2A 第1活物質層 2B 第2活物質層
3A,3B 固体電解質層(SE層)
4A,4B 負極層 4C 負極集電部材
P 正極用集合端子
N 負極用集合端子
7A,7B グリーンシート(活物質層)
8 金属ペースト(正極集電層) 8h 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とこれら電極の間に配置される非水電解質層とを備える非水電解質電池に使用される正極部材であって、
正極活物質を有する第1活物質層と、
正極活物質を有し、第1活物質層に対向して配置される第2活物質層と、
第1活物質層と第2活物質層との間に配置される正極集電層とを備え、
これら第1活物質層と第2活物質層と正極集電層とが焼結により一体化されていることを特徴とする正極部材。
【請求項2】
第1活物質層および第2活物質層の少なくとも一方の空隙率が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の正極部材。
【請求項3】
正極集電層は、導電性物質と正極活物質とを有し、
導電性物質と正極活物質との混合比が、質量比で、1:0.05〜0.3であることを特徴とする請求項1または2に記載の正極部材。
【請求項4】
正極集電層は、その厚さ方向の中央部から両活物質層に向かって正極活物質の量が段階的あるいは連続的に増加する傾斜組成を有することを特徴とする請求項3に記載の正極部材。
【請求項5】
正極集電層の厚みが、1〜20μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の正極部材。
【請求項6】
正極部材の側面において、正極集電層に電気的に接続される正極集電部材を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の正極部材。
【請求項7】
正極集電層が開口部を有する網状に形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の正極部材。
【請求項8】
網状の正極集電層を平面視したときの開口部の内接円の半径が、2つの活物質層のうち厚い方の厚み以下であることを特徴とする請求項7に記載の正極部材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の正極部材と、
この正極部材に積層される固体電解質層と、
を備えることを特徴とする非水電解質電池。
【請求項10】
正極活物質を有する第1活物質層と、
正極活物質を有し、第1活物質層に対向して配置される第2活物質層と、
第1活物質層と第2活物質層との間に配置される正極集電層とを備える正極部材の製造方法であって、
第1活物質層となる正極活物質と、正極集電層となる導電性粉末と、第2活物質層となる正極活物質とを積層した成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼結により一体化させる工程と、
を備えることを特徴とする正極部材の製造方法。
【請求項11】
正極活物質を有する第1活物質層と、
正極活物質を有し、第1活物質層に対向して配置される第2活物質層と、
第1活物質層と第2活物質層との間に配置される正極集電層とを備える正極部材の製造方法であって、
第1活物質層となる正極活物質を含むスラリーをシート状に形成する工程と、
シート状成形体に正極集電層となる金属ペーストを塗工する工程と、
シート状成形体との間に金属ペーストを挟み込むようにして第2活物質層となる正極活物質を含むスラリーをシート状に形成する工程と、
金属ペーストを挟み込んだ状態の成形体を焼結する工程と、
を備えることを特徴とする正極部材の製造方法。
【請求項12】
金属ペーストを塗工する工程において、金属ペーストを網状のパターンに形成することを特徴とする請求項11に記載の正極部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−170972(P2010−170972A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54494(P2009−54494)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】