説明

歩行補助車並びに歩行補助車に用いられるテーブルマット

【課題】切替操作なしで左右のグリップとテーブルマット並びに座盤を使用することのできる歩行補助車をシンプルな構造で提供する。
【解決手段】 車輪3a,3bを備えた車台1と、車台1の上部に取り付けられた板状のテーブルマット5と、車台の中間部位に取付けられた座盤4とを備えた歩行補助車であって、テーブルマット5は、使用者の上肢をあずけるのに充分な平面スペースを有する板状ボディ5aと、板状ボディ5aの左右に一体的に形成された一対のグリップ部5bと、グリップ部5bに軸方向に沿って形成された取付孔5cとを備え、この取付孔5cに車台1の取付軸部1cを挿嵌することによってテーブルマット5が車台1に取り付けられ、板状ボディ5aの前端部5dが座盤使用者の背中を受ける背もたれ部として形成される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行機能が低下した高齢者や上肢、体幹バランスが不安定な障害者の自立歩行を手助けする歩行補助車、および、歩行補助車に用いられるテーブルマットに関する。
ここで、歩行補助車とは、医療、福祉、介護用品分野でシルバーカー、歩行器、歩行車、歩行補助車、歩行支援器などと呼ばれている自立歩行を補助する歩行車全般をいう。
【背景技術】
【0002】
一般に、歩行補助車では、自転車のハンドルのようなグリップを手で握って使用するタイプ(特許文献1参照)、上部に取り付けられたテーブルマット(前腕支持台)に腕、肘などの上肢をあずけて使用するタイプ(特許文献2参照)、グリップを手で握りながら使用し、疲れたときにはテーブルに上肢をあずけて使用することもできる兼用タイプ(特許文献3)などがあり、使用者の身体状況、使用場所等にあわせて使い分けされている。
【0003】
また、座って休憩できるように、歩行補助車に椅子機能を付加したタイプのものも知られている。特許文献4には、椅子機能を付加した兼用タイプの歩行補助車が開示されている。この歩行補助車は、パイプ材で形成された車台の上部に左右のグリップ(持手部)とテーブルマット(前腕支持台)が設けられ、車台の中間部位に椅子として使用できる座盤を備えている。
【0004】
そしてグリップを握って歩行運動をする場合は、グリップの上方にあるテーブルマット(前腕支持台)が邪魔になるので、テーブルマット(前腕支持台)を持ち上げて、グリップの上方から前方に遠ざけた位置に移動させた状態で使用する。使用者が疲れてくると、テーブルマットを、前方に遠ざけた位置から、グリップの上方で水平な状態に戻し、テーブルマット上面に上肢をあずけるようにして使用する。また、走行途中に休憩したくなったときには、テーブルマットを前記のように前方に遠ざけた位置に移動し、テーブルマットの裏面を背もたれとして使用するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−24025号公報
【特許文献2】特開2007−209490号公報
【特許文献3】特開2003−153744号公報
【特許文献4】意匠登録第1286292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献4で示した兼用タイプの歩行補助車では、左右のグリップを握って歩行する使用態様と、テーブルマットに上肢をあずけて歩行する使用態様とを選択でき、加えて休憩用の椅子機能を備えているので利便性がよい。特に、歩行補助車を貸与する介護用品レンタル業者や介護施設では複数の歩行補助車を所有しておく必要があるため、一台で顧客の異なる要求に応えることができる多機能の歩行補助車があれば、タイプ別に多数の歩行補助車を揃える必要が無くなって保管場所を減らすことができるといった大きなメリットがあるが、その反面、次のような問題点があった。
【0007】
上述した多機能歩行補助車では、グリップを握って歩行する状態から、上肢をあずけて歩行する状態に使用態様を変更する場合、またはその逆の場合に、テーブルマット(前腕支持台)の位置を、その都度前方へ遠ざけた位置(背もたれとする位置)に移動したり、水平な姿勢に戻したりしなければならず、高齢者や体幹バランスの不安定な障害者にとって大変煩わしい操作が必要になっていた。また、テーブルマット(前腕支持台)を水平な姿勢にして使用する態様から、椅子として使用する態様に変更する場合にも同様の操作が必要であった。これらの作業は、健常者であれば苦にならない作業であるが、高齢者や障害者にとっては大きな負担となる。
【0008】
さらに加えて、テーブルマットの姿勢を切り替えるための機構が付加されるため歩行補助車の構造が複雑になり、また、部品点数が多くなって故障や動作不良の原因となるとともに、コストアップになるといった問題点があった。
【0009】
そこで本発明は、上記の問題点を解消し、使用態様ごとの切替操作を全く行わずに、左右のグリップを握る使用態様と、テーブルマットに上肢をあずける使用態様と、座盤に腰掛ける使用態様とをとることができる歩行補助車、および、これに使用されるテーブルマットを、簡単な構造で軽量かつ低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の歩行補助車は、車輪を備えた車台と、車台上部に支持される板状のテーブルマットと、車台の中間部位に取り付けられた座盤とを備えた歩行補助車であって、前記テーブルマットは、使用者の上肢をあずけるための平面スペースを有する板状ボディと、前記板状ボディの左右両側に該板状ボディと一体的に形成された一対のグリップ部と、各グリップ部の軸線に沿って形成された取付孔とを備えており、前記車台上部には、前記テーブルマットの前記取付孔に挿嵌するための左右一対の取付軸部が取り付けられ、前記テーブルマットは前記取付孔に車台の取付軸部を挿嵌することによってテーブルマットの平面スペースが水平になるように車台に取り付けられており、さらに、前記板状ボディの前端面が座盤使用者の背中を受ける背もたれ部となるように凹部を形成する構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用者はテーブルマットの姿勢や位置を変更するなどの切替操作を全く行うことなく、一形態のままで、左右のグリップ部を握って歩行したり、テーブルマットの上面に伏せるように上肢をあずけて歩行したりすることができ、さらに走行途中でも切替操作を全く行うことなく、同一形態のままで座盤に腰掛けて背もたれに支えられた状態で休憩することができる。このように、一形態のままで使用することができるので、高齢者や障害者に対する操作の煩雑性を解消することができる。
【0012】
また、テーブルマットは、板状ボディと左右両側のグリップ部とが一体的に成形され、左右両側の各グリップ部の軸線に沿って形成された取付孔に対し、車台上部に取り付けられている取付軸部を挿嵌する構造としたので、テーブルマットを取付軸部に簡単に取り付けることができる。さらに、取り付けられたテーブルマットは、車台の一部となり車台の組成強度を高めることができる。また、テーブルマットとグリップ部が一体的に形成されているので、グリップを別個に作成して車体に取り付けることを省略できるとともに、テーブルマットが固定されたものであって姿勢を変える機構を必要としないから、全体的に構造が簡略化してコストの低減化を図ることができる、などの優れた効果がある。
【0013】
上記構成において、前記車台が金属パイプで形成され、かつ、左右一対のリンク機構で折り畳み可能に形成されている構成とするのが好ましい。これにより、車体の強度向上と軽量化が図れるとともに、不要時に折り畳むことができて使用勝手がよい。
【0014】
また、別の観点からなされた本発明のテーブルマットは、使用者の上肢をあずけるための平面スペースを有する板状ボディと、板状ボディの左右両側に該板状ボディと一体的に形成された一対のグリップ部とを備え、各グリップ部はそれぞれの軸線に沿って車台の取付軸部を挿嵌するための取付孔が形成されており、さらに、前記板状ボディの前端面が座盤使用者の背中を受ける背もたれ部となるように凹部が形成された構造にしてある。
【0015】
本発明のテーブルマットは、上記構成により、グリップ部の取付孔を利用してテーブルマットを、車台の取付軸部に簡単に取り付けることができるとともに、テーブルマットが車台の補強材を兼ねるようになり、車台構造の簡略化を図ることができる。
また、テーブルマットを車台に取り付けたときに、左右のグリップ部を握って歩行したり、テーブルマットの上面に伏せるように上肢をあずけた姿勢で掴み部を掴んで歩行したりすることができて利便性を高めることができるとともに、板状ボディの前端部を背もたれ部として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る歩行補助車の一実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るテーブルマットの斜視図である。
【図3】図1の歩行補助車の側面図である。
【図4】図1の歩行補助車を折り畳んだ状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細を、図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態である歩行補助車Aの斜視図である。図2は図1の歩行補助車Aにおけるテーブルマットの斜視図である。また、図3は図1の歩行補助車Aの側面図である。
【0018】
この歩行補助車Aの車台1は、アルミ、ステンレス、鉄などの金属パイプで作られ、左右それぞれ対をなす前フレーム1aと後フレーム1bとから組成されている。前フレーム1aの下端には前輪3aが、後フレーム1bの下端には後輪3bがそれぞれ取り付けられている。また、前フレーム1aと後フレーム1bとは軸2を介して折り畳み可能に連結されており、折り畳みリンク1fを直線状に伸ばした状態から折り畳むことによって、車台1が使用状態(図1,図3)から折り畳み姿勢(図4)に変形できるように形成されている。
【0019】
そして、車台1の上部(高さが70cm〜110cm)には水平な板状のテーブルマット5が取り付けられ、車台1の中間部位(高さが30cm〜50cm)には座盤4が取り付けられている。
【0020】
テーブルマット5には、適度な弾力および強度を有する材料を用いた厚みが30cm〜80cm程度のマット成形品が使用され、使用者が伏せるようにして上肢をあずけて使用する際に上肢を載せるのに充分な広さの平面スペースを有する板状ボディ5aと、この板状ボディ5aの左右両側で板状ボディ5aと一体に形成された左右一対の棒状のグリップ部5bとを備えている。
【0021】
グリップ部5bは前方側の一端が板状ボディ5aにつながっており、その軸線方向(長手方向)は板状ボディ5aと同じ平面内に向くように形成してある。このグリップ部5bには軸線に沿った取付孔5c(貫通孔でも有底穴でもよい)が設けられ、取付孔5cに車台1の前フレーム1aの上端に連結された取付軸部1cの水平に折れ曲がった先端を挿嵌することによって、テーブルマット5が車台1に支持されている。この取付軸部1cとグリップ部5bとを接続する際に、取付軸部1cの挿入部分の周面や取付孔5cの内面に接着剤を塗布して接合してもよい。また、テーブルマット5を交換可能にしたい場合は、テーブルマット5と取付軸部1cとを固定ビスで結合するようにしてもよい。
【0022】
取付軸部1cの下端は、前フレーム1aの上端部に摺動可能にはめ込まれ、任意の位置で締め付けボルト6により固定されている。これにより、テーブルマット5の上下位置が調整できるようになっている。
【0023】
さらに、板状ボディ5aにおける前方側の側面である前端部5dには、使用者が座盤4に腰掛けた際の背面を受け止める背もたれ部となるように滑らかな丸みのある凹部が形成される。なお、使用者が座盤4に腰掛けたときに、テーブルマット5の前端部5dが使用者の背中にうまくフィットするように、座盤4とテーブルマット5の相対位置が予め設定された位置で車台1に配設されている。また、前端部5dは、板状ボディ5aに使用者が上肢をあずけて使用するときの掴み部としても使用される。
【0024】
板状ボディ5aの後方側の側面である後端部5eは、使用者の上体前面(胸部や腹部)を受ける上体受け部となるように滑らかな丸みのある凹部が形成される。
板状ボディ5aの左右両側にはグリップ部5bとの間に間隙が形成され、使用者がグリップ部5bを手で握ることができるようにしてある。
【0025】
座盤4は、その下面の前部で前フレーム1aに架け渡された横桿1dに軸受け部4aを介して枢支され、座盤4の下面の後部で係合部4cを介して後フレーム1bに架け渡された横桿1eに着脱自在に係合した状態で車台1に支持されている。車台1を折り畳むときは、図4のように座盤4の係合部4cを横桿1eから取り外して折り畳む。
なお、ブレーキレバー7がグリップ5bの直下に取り付けてあり、ブレーキワイヤ(不図示)を介してブレーキ(不図示)を作動させることができるようにしてある。
【0026】
歩行補助車Aは、歩行する際に左右のグリップ部5bを握って使用することができるとともに、歩行する際にテーブルマット5の上面に伏せるように上肢をあずけてテーブルマットの前端部5dを掴んで使用することもできる。また、走行途中で体を休めたいときは、座盤4に腰掛けて休憩することもできる。
このいずれの使用態様においても、使用者はテーブルマット5の姿勢を変更するなどの切替操作を必要とせず、そのままの状態で使用することができる。
【0027】
また、テーブルマット5が適度な強度を有する合成樹脂材による成形品で作られ、この左右のグリップ部5bに前フレーム1aの取付軸部1cを挿嵌する構造としたので、テーブルマット5を簡単に前フレーム1aに取り付けることができるとともに、テーブルマット5が左右で対をなす前フレーム1aの補強材となって歩行補助車の組成強度を高めることができる。
【0028】
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施例構造のみに特定されるものではない。例えば、車台1の材料は、金属パイプに限るものでなく、L型やチャンネル型あるいや角柱等の金属型材で形成することも可能である。また、テーブルマット5は、適度な強度を備えた合成樹脂材によるマット成形品が好ましいが、他の材料、例えば天然硬質ゴムや合成ゴム、木材、合成木材であってもよい。その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、シルバーカー、歩行器、歩行車、歩行補助車、歩行支援器などと呼ばれている自立歩行を補助する歩行車全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 車台
1a 前フレーム
1b 後フレーム
1c 取付軸部
3a 前輪
3b 後輪
4 座盤
5 テーブルマット
5a 板状ボディ
5b グリップ部
5c 取付孔
5d 前端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を備えた車台と、車台上部に支持される板状のテーブルマットと、車台の中間部位に取り付けられた座盤とを備えた歩行補助車であって、
前記テーブルマットは、使用者の上肢をあずけるための平面スペースを有する板状ボディと、板状ボディの左右両側に該板状ボディと一体的に形成された一対のグリップ部と、 各グリップ部の軸線に沿って形成された取付孔とを備えており、
前記車台上部には、前記テーブルマットの前記取付孔に挿嵌するための左右一対の取付軸部が取り付けられ、
前記テーブルマットは前記取付孔に車台の取付軸部を挿嵌することによってテーブルマットの平面スペースが水平になるように車台に取り付けられており、さらに、前記板状ボディの前端面が座盤使用者の背中を受ける背もたれ部となるように凹部が形成されていることを特徴とする歩行補助車。
【請求項2】
前記車台が金属パイプで形成され、かつ、左右一対のリンク機構で折り畳み可能に形成されている請求項1に記載の歩行補助車。
【請求項3】
使用者の上肢をあずけるための平面スペースを有する板状ボディと、板状ボディの左右両側に該板状ボディと一体的に形成された一対のグリップ部とを備え、各グリップ部はそれぞれの軸線に沿って車台の取付軸部を挿嵌するための取付孔が形成されており、
さらに、前記板状ボディの前端面が座盤使用者の背中を受ける背もたれ部となるように凹部が形成された構造を有する歩行補助車用のテーブルマット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−239816(P2011−239816A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112002(P2010−112002)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(594092337)株式会社星光医療器製作所 (1)
【Fターム(参考)】