歪補償装置及び方法
【課題】ディジタル無線通信において、送信アンプへの入力信号を予めディジタル処理することで、送信アンプ出力の非線形歪みを抑圧するプリディストーション型歪補償方式に関し、歪抑圧性能の高いべき級数方式プリディストーション歪補償装置を提供する。
【解決手段】プリディストーション(PD)部101は、複数のべき級数演算係数組のそれぞれに対応するべき級数演算処理を送信信号に対して実行する。セレクタ102は、送信信号の電力に基づいて複数のPD部101のうちの1つを選択し、その演算結果を電力増幅等を行う回路へ入力させる。送信アンプ段における非線形特性の歪補償が、入力電力の大きさに応じて複数のべき級数演算の中から最適に選択されて実行される。
【解決手段】プリディストーション(PD)部101は、複数のべき級数演算係数組のそれぞれに対応するべき級数演算処理を送信信号に対して実行する。セレクタ102は、送信信号の電力に基づいて複数のPD部101のうちの1つを選択し、その演算結果を電力増幅等を行う回路へ入力させる。送信アンプ段における非線形特性の歪補償が、入力電力の大きさに応じて複数のべき級数演算の中から最適に選択されて実行される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル無線通信において、送信アンプへの入力信号を予めディジタル処理することで、送信アンプ出力の非線形歪みを抑圧するプリディストーション(以下、PD)型歪補償方式に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、移動体基地局等の無線送信装置に用いる高効率の送信アンプは非線形特性が強いため、高速無線通信用の変調信号が送信される際には、このような送信アンプにおける非線形歪みが送信変調信号に帯域外輻射電力を生じさせ、隣接送信チャネルに影響を及ぼす。
【0003】
送信アンプによる帯域外輻射を抑圧する方式として、送信アンプの非線形歪特性の逆特性を有する歪信号を入力信号に付加して送信アンプに入力させることにより、送信アンプにおける非線形歪を補償するプリディストーション方式が知られている。特に、送信アンプの出力を入力側にフィードバックさせることにより、歪補償を適応的に行うアダプティブプリディストーション方式は、帯域外輻射を大幅に抑圧することができる。
【0004】
図11は、プリディストーション方式の原理図である。通常、送信アンプは、入力電力が大きくなるにつれて出力が飽和し、入力信号に対して線形な信号を出力することができなくなる(図11の1101)。このアンプの非線形特性は以下のような弊害をもたらす。
【0005】
図12は、送信アンプの非線形特性に起因するスペクトラム特性の劣化についての説明図である。
同図に示されるように、送信アンプの非線形特性は、アンプ入力1201に対して、信号帯域1202外に、不要なスペクトラム1203を放射させる。この帯域外輻射電力は、帯域外の周波数を用いている別システムの特性を劣化させる。
【0006】
また、図12では信号特性に隠れているが、信号帯域1202内にも不要なスペクトラムを放射している。これは信号自体の特性劣化の原因となる。
更に、現在のディジタル変調方式の多くは、線形な増幅特性を必要としているので、上記のような飽和特性をもつアンプの使用においては、線形な低入力電力部分を使用せざるを得ない。これは、送信アンプの電力効率の低下につながる。
【0007】
そこで、プリディストーション技術を用いて、送信アンプの入力信号に、アンプ特性の逆特性が印加される(図11の1102)。これに非線形なアンプ特性が付加されることで、送信アンプ出力では結果的に、図11の1103に示されるように、補償された線形特性を得ることができる。
【0008】
プリディストーションの一方式として、従来、べき級数を用いたプリディストーション方式が提案されている。これは、図13に示されるように、送信アンプ前段のプリディストーション部1301での補償動作が、入力信号xに対するべき級数演算によって行われる方式である。
【0009】
即ち、図13において、プリディストーション部1301は、入力信号xに対するべき級数演算を実行することにより、送信アンプ1305の歪補償を行う。
プリディストーション部1301の出力は、D/Aコンバータ1302でアナログ信号
に変換され、更に、直交変調器1303で、送信基地局に応じたローカル発振器1304から発振された信号によって直交変調される。
【0010】
変調された送信アナログ信号は、送信アンプ1305で電力増幅され、その出力が、カップラ1306を介して、送信アンテナ1307に供給され、そこから送信される。
また、送信アンプ1305の出力はカップラ1306から入力側にフィードバックされる。
【0011】
即ち、カップラ1306の出力は、ダウンコンバータ1308で、送信基地局に応じたローカル発振器1309から発振された信号によってダウンコンバートされ、A/Dコンバータ1310によってディジタル信号に戻された後、特には図示しない復調器でベースバンドに戻される。
【0012】
この結果得られるフィードバック信号Sfb(n) について、減算器1311にて、特には図示しない遅延回路で遅延させられた送信信号Sref (n)との誤差信号e(n) が算出される。
【0013】
そして、係数更新部1312にて、最小自乗誤差(Least Mean Square )演算に基づいてその誤差信号e(n) が最小化されるように、プリディストーション部1301に供給されるべき級数演算係数a,b,c,d等が更新される。
【0014】
このようにして、べき級数演算係数が徐々に所定値に収束させられ、その所定値に収束したべき級数演算係数を用いてプリディストーション部1301にて入力信号xに対してべき級数演算が実行されることにより、定常状態においては、高い電力効率を保ちながらアナログ回路部の非線形歪特性が精度良く抑圧される。そして、この非線形歪特性が温度や周波数の影響により変動した場合においても、フィードバック信号Sfb(n) によりそのアナログゲイン変動量が検出されて、係数更新部1312にてその変動量を補う方向にべき級数演算係数の値が更新され、特性の変動を動的に補償することができる。
なお、以上の構成は実際には、複素信号に対する構成を有する。
【0015】
上述の従来技術の構成において、例えば、周波数2Δf離れた2つの正弦波信号(2トーン信号)が、べき級数でモデル化されるアンプモデルに入力すると仮定する。
【0016】
【数1】
【0017】
この結果、べき級数で表現される出力信号において、偶数次のべき乗の項には、搬送波周波数fc から大きく離調しアナログ部のフィルタや送信アンプ自体によって抑圧される信号成分しか含まれないのに対して、3次のべき乗の項ではfc ±3Δf、5次のべき乗の項ではfc ±5Δfという搬送波周波数の近傍に不要成分が発生する。従って、送信アンプ1305での非線形歪は、奇数次べき乗項のみからなるべき級数によってモデル化でき、図13に示されるように、プリディストーション部1301で演算されるべき級数も奇数次べき乗項のみで構成されるのが一般的である。
【0018】
今後、べき級数の数式として、簡単のためax+bx3 +cx5 +dx7 という単純なべき級数式を用いて説明するが、実際の歪補償には、送信アンプ1305の特性をより正確にモデル化するために、Volterra級数をはじめとする、遅延成分を考慮に入れたより複雑な形の級数を用いるのが一般的である。これらの詳細については、下記非特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2001−268150号公報
【特許文献2】特開2002−335129号公報
【非特許文献1】V. J. Mathews and G. L. Sicuranza: “Polynomial Signal Processing”, John Wiley & Sons,Inc. (2000).
【非特許文献2】S. Haykin: “適応フィルタ理論”, 科学技術出版(2001). (鈴木博他訳).
【非特許文献3】V. Mathews: “Adaptive polynomial filters”, IEEE Signal Processing Magazine, pp. 10-26(1991).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、図13に示される従来のべき級数方式プリディストーション歪補償方式では、特に歪みの小さい信号を要求する基地局システムなどでは、歪成分を抑圧する性能(歪補償性能)が十分ではないという問題点を有していた。これは、大電力が必要とされる送信アンプ1305などでは、その非線形歪特性を入力電圧の広範囲にわたって単一のべき級数モデルで最適に近似することが難しいためである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の課題は、歪抑圧性能の高いべき級数方式プリディストーション歪補償装置を提供することにある。
本態様は、送信信号の電力増幅等を行う回路と、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、その復調信号と電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、その級数演算係数組に基づいて送信信号に対する級数演算処理をその送信信号の歪補償として実行しその演算結果を電力増幅等を行う回路へ入力させる回路を有する歪補償装置又はそれと同等の機能を実現する歪補償方法を前提とする。級数演算処理は例えば、べき級数演算処理である。
【0021】
第1の態様は、以下の構成を有する。
級数演算処理手段(101)は、複数の級数演算係数組のそれぞれに対応する級数演算処理を送信信号に対して実行する。
【0022】
選択手段(102)は、送信信号の電力に基づいて級数演算処理手段における複数の級数演算処理のうちの1つを選択し、その演算結果を電力増幅等を行う回路へ入力させる。
第2の態様は、以下の構成を有する。
【0023】
級数演算係数組記憶手段(401)は、複数の級数演算係数組をそれぞれ記憶する。
選択手段(402)は、送信信号の電力に基づいて級数演算係数組記憶手段から複数の級数演算係数組のうちの1組を選択し、その選択された級数演算係数組によって級数演算処理を実行させる。
【0024】
上述の第1又は第2の態様の構成において、送信信号の電力に基づく選択手段による選択処理におけるその電力の閾値を、送信信号又は復調信号の信号品質に基づいて決定する閾値決定手段を更に含むように構成できる。この場合に、送信信号又は復調信号の周波数特性を測定する周波数特性測定手段(701)を更に含み、閾値決定手段(702)は、周波数特性測定手段の測定結果に基づいて閾値を決定するように構成することができる。又は、閾値決定手段(801、802)は、復調信号と電力増幅等の前段の送信信号との誤差に基づいて閾値を決定するように構成することができる。
【0025】
ここまでの第1又は第2の態様の構成において、複数の級数演算係数組のそれぞれについて、復調信号と電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となるように適応アルゴリズムを用いて収束させる級数演算係数組更新手段(901)を更に含むように構成するこ
とができる。この級数演算係数組更新手段は例えば、複数の級数演算係数組のそれぞれについて、その各組が対応する電力範囲毎の信号頻度分布に従って、適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する。又は、級数演算係数組更新手段は例えば、複数の級数演算係数組のそれぞれについて、その各組が対応する電力範囲毎の信号電力に従って、適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、送信電力に閾値を設け、複数のべき級数等を用いてプリディストーションを行うことで、単一のべき級数等を用いた場合に比べて優れた歪補償性能を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0028】
第1の実施形態
図1は、第1実施形態の構成図である。
べき級数演算により構成されているプリディストーション部(PD部)101が#1〜#Nの複数個用意され、各PD部101は、それぞれ異なるべき級数演算係数組に基づいて異なるべき級数演算を実行する。
【0029】
セレクタ102は、N−1個の電力閾値を保持し、図2に示される動作フローチャートに従って、最小の閾値Th(1)から(図2のステップS201)、順次(図2のステップS203)、最大の閾値Th(N−1)まで(図2のステップS204)、送信信号の電力を電力変換部103にて変換して得られる電力信号値を閾値Th(i)(1≦i≦N−1)と大小比較し(図2のステップS202)、電力信号値が閾値Th(i)より小さいと判定された時点で、#iのPD部101を選択する。なお、電力信号値が閾値Th(N−1)以上であると判定された場合には、#NのPD部101が選択される(図2のステップS204−>S206)。そして、セレクタ102は、選択したPD部101の出力を後段のD/Aコンバータに出力する。
【0030】
フォワード系の後段部分のD/Aコンバータ、直交変調器、送信アンプ、カップラ、及びフィードバック系のダウンコンバータ、A/Dコンバータ等の構成は、図13に示される従来技術の構成と同じである。
【0031】
図3は、複数のべき級数を用いた歪補償の概念図であり、入力電力対アンプ逆特性(ゲイン特性)の例を示した図である。
べき級数を用いて模擬すべきアンプ逆特性301は、実際の送信アンプではかなり複雑な曲線をしており、これを1つのべき級数で表す場合誤差が大きくなる。そこで、図1の第1の実施形態の構成では、図3に示されるように、送信信号の(変換された)電力値において閾値1、閾値2といった閾値が設けられ、これらの閾値によって区切られる入力電力区間毎に、#1〜#3といった異なるべき級数302によって歪補償演算が実行されるのである。
【0032】
これによって、歪補償演算において、べき級数を単独で用いた場合に比べて、より実際のアンプ逆特性301に近い特性をモデル化することができ、歪補償性能を向上させることができる。
【0033】
第2の実施形態
図4は、第2の実施形態の構成図である。
基本的な動作原理は、図1の第1の実施形態の場合と同じであるが、図4の構成では、
べき級数演算により構成されるプリディストーション部(PD部)404は1個のみが用意され、その代わり、べき級数演算係数組を記憶する係数メモリ部401が#1〜#Nの複数個用意され、PD部404は、セレクタ402によって選択された係数メモリ部401から出力されるべき級数演算係数組を用いたべき級数演算を実行する。
【0034】
そして、セレクタ402は、図1のセレクタ102の場合と同じ図2に示される動作フローチャートに従って、図4の電力変換部403から出力される送信信号電力値をN−1個の電力閾値Th(i)(1≦i≦N−1)と大小比較することにより、#1〜#Nの係数メモリ部401のうちの1つを選択し、選択した係数メモリ部401から出力されるべき級数演算係数組をPD部404に供給する。
【0035】
PD部404は、セレクタ402から供給されたべき級数演算係数組を用いたべき級数演算を実行し、その出力は後段のD/Aコンバータに出力される。フォワード系の後段部分のD/Aコンバータ、直交変調器、送信アンプ、カップラ、及びフィードバック系のダウンコンバータ、A/Dコンバータ等の構成は、図13に示される従来技術の構成と同じである。
【0036】
図4の第2の実施形態の構成では、べき級数演算を1回行えば済むため、図1の第1の実施形態の構成に比べて、回路規模を大きく削減できる。
【0037】
第3の実施形態
次に、第3の実施形態について説明する。本実施形態は、べき級数演算組の選択(図1の場合)又はべき級数演算係数組の選択(図2の場合)に用いられる閾値の選択アルゴリズムに関する実施形態である。
【0038】
前述のセレクタ102(図1の場合)又は402(図4の場合)においてべき級数の選択に用いられるN−1個の閾値Th(i)(1≦i≦N−1)は、べき級数演算型プリディストーション処理の歪補償性能に直接影響を与える。従って、各種の信号品質を観測し、それが最適になるように閾値を決定するのが、最も効果的である。
【0039】
信号品質を観測しながら逐次的に閾値を求める閾値決定処理のアルゴリズムの動作フローチャートを図5に、最適閾値が算出される概念図を図6に、それぞれ示す。
閾値決定処理では、閾値が設定された後(ステップS501)、適応アルゴリズムによってべき級数演算係数組が収束し歪補償が適切に動作するのを待ち(ステップS502)、その閾値での信号品質が取得される(ステップS503)。
【0040】
次に、ステップS503で取得された信号品質が今までで最良の特性であるか否かが判定される(ステップS504)。
上記信号品質が最良の特性でなければ、次の閾値がトライされる(ステップS504−>S506−>S501)。
【0041】
上記信号品質が最良の特性である場合には、ステップS501にて設定されている閾値が閾値候補として設定され(ステップS504−>S505)、次の閾値がトライされる(ステップS506−>S501)。
【0042】
全ての閾値について上記処理が終了したら、現在選択されている閾値候補が最適閾値として出力され、閾値決定処理を終了する(ステップS506−>S507)。
このようにして決定された最適閾値は、図6に示されるように、信号品質を最良にする閾値となる。
【0043】
図5及び図6に示される第3の実施形態の説明において、「信号品質」と記述しているものとしては、指標となる様々なものが考えられるが、歪補償の効果を考えると帯域外の歪みが最小になった時を品質が良いとする方式と、帯域内の歪みが最小になった時を品質が良いとする方式が有用だと考えられる。前者の方式の実現例を次の第4の実施形態として示し、また、後者の方式の実現例を後述する第5の実施形態として示す。
【0044】
第4の実施形態
第4の実施形態について説明する。本実施形態は、前述したように、第3の実施形態における信号品質を、帯域外の歪みが最小になったか否かによって評価する方式の実現例である。
【0045】
図7は、第4の実施形態による歪補償装置の構成図である。
図7において、図1の第1の実施形態の場合と同じ番号が付された部分は図1の場合と同じ機能を有し、また、図13の従来技術の場合と同じ番号が付された部分は図13の場合と同じ機能を有する。
【0046】
図7では、スペクトラム測定部701が、A/Dコンバータ1310から出力されるフィードバック復調信号のスペクトラム特性を取得し、帯域外の歪電力を測定する。
そして、最適閾値算出部702が、前述した第3の実施形態における図5の動作フローチャートに基づいて、閾値決定処理を実行し、図5のステップS503の信号品質取得処理において、スペクトラム測定部701が測定した帯域外歪電力を信号品質として取得し、図5のステップS504において、帯域外歪電力が最小となったか否かを判定することによって、信号品質が今までで最良の特性であるか否かを判定する。
【0047】
最適閾値算出部702は、上記処理によって決定した閾値を、#1〜#Nの各PD部101を選択するための閾値として設定する。これらの閾値は、前述した図2の動作フローチャートに基づく選択処理の実行時にセレクタ102から参照される。
帯域外の歪みについてはスペクトラム特性を取得すれば求められ、図9のような構成で図7のアルゴリズムを用いることで最適閾値を求めることができる。
図7の第4の実施形態の構成は、図1の第1の実施形態の構成をベースにしているが、図4の第2の実施形態の構成をベースにしても、同様の効果を得られる。
【0048】
第5の実施形態
第5の実施形態について説明する。本実施形態は、前述したように、第3の実施形態における信号品質を、帯域内の歪みが最小になったか否かによって評価する方式の実現例である。
【0049】
図8は、第5の実施形態による歪補償装置の構成図である。
図8において、図1の第1の実施形態の場合と同じ番号が付された部分は図1の場合と同じ機能を有し、また、図13の従来技術の場合と同じ番号が付された部分は図13の場合と同じ機能を有する。
【0050】
帯域内の歪みとしては、減算器1311が遅延送信信号Sref (n)からフィードバック信号Sfb(n) を減算して得られる誤差信号e(n) を指標として用いることができる。
そこで、図8では、誤差平均部801が、減算器1311が遅延送信信号Sref (n)からフィードバック信号Sfb(n) を減算して得られる誤差信号e(n) について、所定区間毎の平均値を算出する。
【0051】
そして、最適閾値算出部802が、前述した第3の実施形態における図5の動作フローチャートに基づいて、閾値決定処理を実行し、図5のステップS503の信号品質取得処
理において、誤差平均部801が算出した誤差平均値を信号品質として取得し、図5のステップS504において、誤差平均値が最小となったか否かを判定することによって、信号品質が今までで最良の特性であるか否かを判定する。
【0052】
最適閾値算出部702は、上記処理によって決定した閾値を、#1〜#Nの各PD部101を選択するための閾値として設定する。これらの閾値は、前述した図2の動作フローチャートに基づく選択処理の実行時にセレクタ102から参照される。
【0053】
上記誤差信号e(n) は、いわゆる変調精度、EVM(Error Vector Magnitude)などと呼ばれる特性で代用しても同等である。EVMは通常、遅延送信信号Sref (i)(=Sref (n))とフィードバック信号Sfb(i)(=Sfb(n))を用いて、下記数2式により算出される。
【0054】
【数2】
【0055】
図8の第5の実施形態の構成は、図1の第1の実施形態の構成をベースにしているが、図4の第2の実施形態の構成をベースにしても、同様の効果を得られる。
【0056】
第6の実施形態
最後に、第6の実施形態について説明する。本実施形態は、べき級数演算係数組の適応更新アルゴリズムに関する実施形態である。
【0057】
図9は、第6の実施形態による歪補償装置の構成図である。
図9において、図1の第1の実施形態の場合と同じ番号が付された部分は図1の場合と同じ機能を有し、また、図13の従来技術の場合と同じ番号が付された部分は図13の場合と同じ機能を有する。
【0058】
送信アンプ1305の個体差による増幅特性のばらつき、経年変化、温度変化などによる増幅特性の変化に、#1〜#NのPD部101の各歪補償特性を適応的に対応させるために、#1〜#Nの係数更新部901において、#1〜#Nのべき級数演算係数組が、#1〜#Nの減算器1311から出力される誤差信号e(n) に基づいて、最小自乗誤差(Least Mean Square )演算に基づいて各誤差信号e(n) が最小化されるように、更新される。
【0059】
更新には、演算量が少なく時間変動にも追従しやすい適応アルゴリズムを用いるのが一般的である。本実施形態ではべき級数演算係数組が複数組用いられるため、そのそれぞれについて適切に適応アルゴリズムを動かし、係数組を収束させるのが有効である。
【0060】
べき級数演算係数組の適応アルゴリズムとしては、上述したLMSのほか、RLSなどのアルゴリズムが一般的だが(前記非特許文献2参照)、これらのアルゴリズムでは、収束までの早さと収束後の安定性をトレードオフの関係で調節する収束係数と呼ばれる定数が重要である。例えばLMSアルゴリズムを例に取ると、係数h(n)の更新式は、前述のフィードバック信号Sfb(n) 及び誤差信号e(n) を用いて、下記数3式のように表され(前記非特許文献3参照)、このうちμが収束係数となる。
【0061】
【数3】
【0062】
「e(n)Sfb(n)」という係数更新成分の大きさがμ倍されてから現時点の係数h(n)に加算されることで次時点の係数h(n+1)が計算されるので、μが大きいほど収束が早くなる。一方、一度収束してしまえばh(n)を大きく変化させる必要はなく、μが小さいほど収束後の安定度が増す。
【0063】
本実施形態では複数のべき級数演算係数組が用いられるが、それぞれのべき級数が受け持つ電力範囲によってべき級数演算係数組の収束速度・安定性を変化させ最適にすることで、全体の歪補償性能の収束速度と安定性を最適にできる。従って、各べき級数演算係数組毎に収束係数を変化させることが有用である。
【0064】
収束係数の変化の基準のひとつとして、各べき級数の対応する電力範囲毎の信号の頻度分布に従って収束係数を決定する方式が考えられる。3つのべき級数演算係数組が使用される場合の送信信号の頻度分布と収束係数の関係の一例を図10に示す。各べき級数演算係数組に対応する収束係数が、各べき級数が受け持つ範囲の信号頻度に反比例するように決定される。十分な歪補償性能を達成するには、すべてのべき級数演算係数組が収束しなければならないので、頻度が少ない(=図10で面積が小さい)範囲に対応するべき級数の収束係数として大きなμが使用されることでその部分の収束が早められ、全体としての収束までの時間を短くすることが可能となる。
【0065】
また別の観点から、各電力範囲を代表する電力値そのもので収束係数を重み付けすることも考えられる。例えば一例として、図10の例で閾値1をTh1、閾値2をTh2とした場合に、下記数4式を満たすように各μが選択される。
【0066】
【数4】
【0067】
この結果、大きな電力部分ほど小さなμが使用されることになり、数3式の係数更新部分を一定に近くすることができる。これによって、3つのべき級数の収束性能、安定性能をそろえることができ、より優れた歪補償性能が得られる。
【0068】
本発明の第1〜第6の実施形態に対する補足
以上説明した第1〜第6の実施形態は、べき級数モデルを基準として説明したが、本発
明はこれに限られるものではなく、様々な級数モデルに適用することが可能である。
【0069】
以上の第1〜第6の実施形態に関して、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
送信信号の電力増幅等を行う回路と、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる回路を有する歪補償装置において、
複数の級数演算係数組のそれぞれに対応する前記級数演算処理を前記送信信号に対して実行する級数演算処理手段と、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算処理手段における複数の級数演算処理のうちの1つを選択し、その演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる選択手段と、
を含むことを特徴とする歪補償装置。
(付記2)
送信信号の電力増幅等を行う回路と、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる回路を有する歪補償装置において、
複数の級数演算係数組をそれぞれ記憶する級数演算係数組記憶手段と、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算係数組記憶手段から前記複数の級数演算係数組のうちの1組を選択し、該選択された級数演算係数組によって前記級数演算処理を実行させる選択手段と、
を含むことを特徴とする歪補償装置。
(付記3)
前記送信信号の電力に基づく前記選択手段による選択処理における該電力の閾値を、前記送信信号又は前記復調信号の信号品質に基づいて決定する閾値決定手段を更に含む、
ことを特徴とする付記1又は2の何れか1項に記載の歪補償装置。
(付記4)
前記送信信号又は前記復調信号の周波数特性を測定する周波数特性測定手段を更に含み、
前記閾値決定手段は、前記周波数特性測定手段の測定結果に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする付記3に記載の歪補償装置。
(付記5)
前記閾値決定手段は、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする付記3に記載の歪補償装置。
(付記6)
前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となるように適応アルゴリズムを用いて収束させる級数演算係数組更新手段を更に含む、
ことを特徴とする付記1乃至5の何れか1項に記載の歪補償装置。
(付記7)
前記級数演算係数組更新手段は、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号頻度分布に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する、
ことを特徴とする付記6に記載の歪補償装置。
(付記8)
前記級数演算係数組更新手段は、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号電力に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する、
ことを特徴とする付記6に記載の歪補償装置。
(付記9)
前記級数演算処理は、べき級数演算処理である、
ことを特徴とする付記1乃至8の何れか1項に記載の歪補償装置。
(付記10)
送信信号の電力増幅等を行い、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる歪補償方法において、
複数の級数演算係数組のそれぞれに対応する前記級数演算処理を前記送信信号に対して実行する級数演算処理ステップと、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算処理ステップにおける複数の級数演算処理のうちの1つを選択し、その演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる選択ステップと、
を含むことを特徴とする歪補償方法。
(付記11)
送信信号の電力増幅等を行い、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる歪補償装置において、
複数の級数演算係数組をそれぞれ記憶する級数演算係数組記憶ステップと、
前記送信信号の電力に基づいて前記記憶された複数の級数演算係数組のうちの1組を選択し、該選択された級数演算係数組によって前記級数演算処理を実行させる選択ステップと、
を含むことを特徴とする歪補償方法。
(付記12)
前記送信信号の電力に基づく前記選択ステップによる選択処理における該電力の閾値を、前記送信信号又は前記復調信号の信号品質に基づいて決定する閾値決定ステップを更に含む、
ことを特徴とする付記10又は11の何れか1項に記載の歪補償方法。
(付記13)
前記送信信号又は前記復調信号の周波数特性を測定する周波数特性測定ステップを更に含み、
前記閾値決定ステップは、前記周波数特性測定ステップの測定結果に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする付記12に記載の歪補償方法。
(付記14)
前記閾値決定ステップは、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする付記12に記載の歪補償方法。
(付記15)
前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となるように適応アルゴリズムを用いて収束させる級数演算係数組更新ステップを更に含む、
ことを特徴とする付記10乃至14の何れか1項に記載の歪補償方法。
(付記16)
前記級数演算係数組更新ステップは、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号頻度分布に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する、
ことを特徴とする付記15に記載の歪補償方法。
(付記17)
前記級数演算係数組更新ステップは、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号電力に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する、
ことを特徴とする付記15に記載の歪補償方法。
(付記18)
前記級数演算処理は、べき級数演算処理である、
ことを特徴とする付記10乃至17の何れか1項に記載の歪補償方法。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第1実施形態の構成図である。
【図2】セレクタによるべき級数の選択動作を示す動作フローチャートである。
【図3】複数のべき級数を用いた歪補償の概念図(入力電力対アンプ逆特性(ゲイン特性)の例を示した図)である。
【図4】第2の実施形態の構成図である。
【図5】信号品質を観測しながら逐次的に閾値を求める閾値決定処理のアルゴリズムの動作フローチャートである。
【図6】最適閾値が算出される概念図である。
【図7】第4の実施形態による歪補償装置の構成図である。
【図8】第5の実施形態による歪補償装置の構成図である。
【図9】第6の実施形態による歪補償装置の構成図である。
【図10】3つのべき級数演算係数組が使用される場合の送信信号の頻度分布と収束係数の関係の一例を示す図である。
【図11】プリディストーション方式の原理図である。
【図12】送信アンプの非線形特性に起因するスペクトラム特性の劣化についての説明図である。
【図13】従来の歪補償装置の構成図である。
【符号の説明】
【0071】
101、404、1301 プリディストーション部(PD部)
102、402 セレクタ
103、403 電力変換部
401 係数メモリ部
701 スペクトラム測定部
702、802 最適閾値算出部
801 誤差平均部
901、1312 係数更新部
1302 D/Aコンバータ
1303 直交変調器
1304、1309 ローカル発振器
1305 送信アンプ
1306 カップラ
1307 送信アンテナ
1308 ダウンコンバータ
1310 A/Dコンバータ
1311 減算器
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル無線通信において、送信アンプへの入力信号を予めディジタル処理することで、送信アンプ出力の非線形歪みを抑圧するプリディストーション(以下、PD)型歪補償方式に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、移動体基地局等の無線送信装置に用いる高効率の送信アンプは非線形特性が強いため、高速無線通信用の変調信号が送信される際には、このような送信アンプにおける非線形歪みが送信変調信号に帯域外輻射電力を生じさせ、隣接送信チャネルに影響を及ぼす。
【0003】
送信アンプによる帯域外輻射を抑圧する方式として、送信アンプの非線形歪特性の逆特性を有する歪信号を入力信号に付加して送信アンプに入力させることにより、送信アンプにおける非線形歪を補償するプリディストーション方式が知られている。特に、送信アンプの出力を入力側にフィードバックさせることにより、歪補償を適応的に行うアダプティブプリディストーション方式は、帯域外輻射を大幅に抑圧することができる。
【0004】
図11は、プリディストーション方式の原理図である。通常、送信アンプは、入力電力が大きくなるにつれて出力が飽和し、入力信号に対して線形な信号を出力することができなくなる(図11の1101)。このアンプの非線形特性は以下のような弊害をもたらす。
【0005】
図12は、送信アンプの非線形特性に起因するスペクトラム特性の劣化についての説明図である。
同図に示されるように、送信アンプの非線形特性は、アンプ入力1201に対して、信号帯域1202外に、不要なスペクトラム1203を放射させる。この帯域外輻射電力は、帯域外の周波数を用いている別システムの特性を劣化させる。
【0006】
また、図12では信号特性に隠れているが、信号帯域1202内にも不要なスペクトラムを放射している。これは信号自体の特性劣化の原因となる。
更に、現在のディジタル変調方式の多くは、線形な増幅特性を必要としているので、上記のような飽和特性をもつアンプの使用においては、線形な低入力電力部分を使用せざるを得ない。これは、送信アンプの電力効率の低下につながる。
【0007】
そこで、プリディストーション技術を用いて、送信アンプの入力信号に、アンプ特性の逆特性が印加される(図11の1102)。これに非線形なアンプ特性が付加されることで、送信アンプ出力では結果的に、図11の1103に示されるように、補償された線形特性を得ることができる。
【0008】
プリディストーションの一方式として、従来、べき級数を用いたプリディストーション方式が提案されている。これは、図13に示されるように、送信アンプ前段のプリディストーション部1301での補償動作が、入力信号xに対するべき級数演算によって行われる方式である。
【0009】
即ち、図13において、プリディストーション部1301は、入力信号xに対するべき級数演算を実行することにより、送信アンプ1305の歪補償を行う。
プリディストーション部1301の出力は、D/Aコンバータ1302でアナログ信号
に変換され、更に、直交変調器1303で、送信基地局に応じたローカル発振器1304から発振された信号によって直交変調される。
【0010】
変調された送信アナログ信号は、送信アンプ1305で電力増幅され、その出力が、カップラ1306を介して、送信アンテナ1307に供給され、そこから送信される。
また、送信アンプ1305の出力はカップラ1306から入力側にフィードバックされる。
【0011】
即ち、カップラ1306の出力は、ダウンコンバータ1308で、送信基地局に応じたローカル発振器1309から発振された信号によってダウンコンバートされ、A/Dコンバータ1310によってディジタル信号に戻された後、特には図示しない復調器でベースバンドに戻される。
【0012】
この結果得られるフィードバック信号Sfb(n) について、減算器1311にて、特には図示しない遅延回路で遅延させられた送信信号Sref (n)との誤差信号e(n) が算出される。
【0013】
そして、係数更新部1312にて、最小自乗誤差(Least Mean Square )演算に基づいてその誤差信号e(n) が最小化されるように、プリディストーション部1301に供給されるべき級数演算係数a,b,c,d等が更新される。
【0014】
このようにして、べき級数演算係数が徐々に所定値に収束させられ、その所定値に収束したべき級数演算係数を用いてプリディストーション部1301にて入力信号xに対してべき級数演算が実行されることにより、定常状態においては、高い電力効率を保ちながらアナログ回路部の非線形歪特性が精度良く抑圧される。そして、この非線形歪特性が温度や周波数の影響により変動した場合においても、フィードバック信号Sfb(n) によりそのアナログゲイン変動量が検出されて、係数更新部1312にてその変動量を補う方向にべき級数演算係数の値が更新され、特性の変動を動的に補償することができる。
なお、以上の構成は実際には、複素信号に対する構成を有する。
【0015】
上述の従来技術の構成において、例えば、周波数2Δf離れた2つの正弦波信号(2トーン信号)が、べき級数でモデル化されるアンプモデルに入力すると仮定する。
【0016】
【数1】
【0017】
この結果、べき級数で表現される出力信号において、偶数次のべき乗の項には、搬送波周波数fc から大きく離調しアナログ部のフィルタや送信アンプ自体によって抑圧される信号成分しか含まれないのに対して、3次のべき乗の項ではfc ±3Δf、5次のべき乗の項ではfc ±5Δfという搬送波周波数の近傍に不要成分が発生する。従って、送信アンプ1305での非線形歪は、奇数次べき乗項のみからなるべき級数によってモデル化でき、図13に示されるように、プリディストーション部1301で演算されるべき級数も奇数次べき乗項のみで構成されるのが一般的である。
【0018】
今後、べき級数の数式として、簡単のためax+bx3 +cx5 +dx7 という単純なべき級数式を用いて説明するが、実際の歪補償には、送信アンプ1305の特性をより正確にモデル化するために、Volterra級数をはじめとする、遅延成分を考慮に入れたより複雑な形の級数を用いるのが一般的である。これらの詳細については、下記非特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2001−268150号公報
【特許文献2】特開2002−335129号公報
【非特許文献1】V. J. Mathews and G. L. Sicuranza: “Polynomial Signal Processing”, John Wiley & Sons,Inc. (2000).
【非特許文献2】S. Haykin: “適応フィルタ理論”, 科学技術出版(2001). (鈴木博他訳).
【非特許文献3】V. Mathews: “Adaptive polynomial filters”, IEEE Signal Processing Magazine, pp. 10-26(1991).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、図13に示される従来のべき級数方式プリディストーション歪補償方式では、特に歪みの小さい信号を要求する基地局システムなどでは、歪成分を抑圧する性能(歪補償性能)が十分ではないという問題点を有していた。これは、大電力が必要とされる送信アンプ1305などでは、その非線形歪特性を入力電圧の広範囲にわたって単一のべき級数モデルで最適に近似することが難しいためである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の課題は、歪抑圧性能の高いべき級数方式プリディストーション歪補償装置を提供することにある。
本態様は、送信信号の電力増幅等を行う回路と、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、その復調信号と電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、その級数演算係数組に基づいて送信信号に対する級数演算処理をその送信信号の歪補償として実行しその演算結果を電力増幅等を行う回路へ入力させる回路を有する歪補償装置又はそれと同等の機能を実現する歪補償方法を前提とする。級数演算処理は例えば、べき級数演算処理である。
【0021】
第1の態様は、以下の構成を有する。
級数演算処理手段(101)は、複数の級数演算係数組のそれぞれに対応する級数演算処理を送信信号に対して実行する。
【0022】
選択手段(102)は、送信信号の電力に基づいて級数演算処理手段における複数の級数演算処理のうちの1つを選択し、その演算結果を電力増幅等を行う回路へ入力させる。
第2の態様は、以下の構成を有する。
【0023】
級数演算係数組記憶手段(401)は、複数の級数演算係数組をそれぞれ記憶する。
選択手段(402)は、送信信号の電力に基づいて級数演算係数組記憶手段から複数の級数演算係数組のうちの1組を選択し、その選択された級数演算係数組によって級数演算処理を実行させる。
【0024】
上述の第1又は第2の態様の構成において、送信信号の電力に基づく選択手段による選択処理におけるその電力の閾値を、送信信号又は復調信号の信号品質に基づいて決定する閾値決定手段を更に含むように構成できる。この場合に、送信信号又は復調信号の周波数特性を測定する周波数特性測定手段(701)を更に含み、閾値決定手段(702)は、周波数特性測定手段の測定結果に基づいて閾値を決定するように構成することができる。又は、閾値決定手段(801、802)は、復調信号と電力増幅等の前段の送信信号との誤差に基づいて閾値を決定するように構成することができる。
【0025】
ここまでの第1又は第2の態様の構成において、複数の級数演算係数組のそれぞれについて、復調信号と電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となるように適応アルゴリズムを用いて収束させる級数演算係数組更新手段(901)を更に含むように構成するこ
とができる。この級数演算係数組更新手段は例えば、複数の級数演算係数組のそれぞれについて、その各組が対応する電力範囲毎の信号頻度分布に従って、適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する。又は、級数演算係数組更新手段は例えば、複数の級数演算係数組のそれぞれについて、その各組が対応する電力範囲毎の信号電力に従って、適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、送信電力に閾値を設け、複数のべき級数等を用いてプリディストーションを行うことで、単一のべき級数等を用いた場合に比べて優れた歪補償性能を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0028】
第1の実施形態
図1は、第1実施形態の構成図である。
べき級数演算により構成されているプリディストーション部(PD部)101が#1〜#Nの複数個用意され、各PD部101は、それぞれ異なるべき級数演算係数組に基づいて異なるべき級数演算を実行する。
【0029】
セレクタ102は、N−1個の電力閾値を保持し、図2に示される動作フローチャートに従って、最小の閾値Th(1)から(図2のステップS201)、順次(図2のステップS203)、最大の閾値Th(N−1)まで(図2のステップS204)、送信信号の電力を電力変換部103にて変換して得られる電力信号値を閾値Th(i)(1≦i≦N−1)と大小比較し(図2のステップS202)、電力信号値が閾値Th(i)より小さいと判定された時点で、#iのPD部101を選択する。なお、電力信号値が閾値Th(N−1)以上であると判定された場合には、#NのPD部101が選択される(図2のステップS204−>S206)。そして、セレクタ102は、選択したPD部101の出力を後段のD/Aコンバータに出力する。
【0030】
フォワード系の後段部分のD/Aコンバータ、直交変調器、送信アンプ、カップラ、及びフィードバック系のダウンコンバータ、A/Dコンバータ等の構成は、図13に示される従来技術の構成と同じである。
【0031】
図3は、複数のべき級数を用いた歪補償の概念図であり、入力電力対アンプ逆特性(ゲイン特性)の例を示した図である。
べき級数を用いて模擬すべきアンプ逆特性301は、実際の送信アンプではかなり複雑な曲線をしており、これを1つのべき級数で表す場合誤差が大きくなる。そこで、図1の第1の実施形態の構成では、図3に示されるように、送信信号の(変換された)電力値において閾値1、閾値2といった閾値が設けられ、これらの閾値によって区切られる入力電力区間毎に、#1〜#3といった異なるべき級数302によって歪補償演算が実行されるのである。
【0032】
これによって、歪補償演算において、べき級数を単独で用いた場合に比べて、より実際のアンプ逆特性301に近い特性をモデル化することができ、歪補償性能を向上させることができる。
【0033】
第2の実施形態
図4は、第2の実施形態の構成図である。
基本的な動作原理は、図1の第1の実施形態の場合と同じであるが、図4の構成では、
べき級数演算により構成されるプリディストーション部(PD部)404は1個のみが用意され、その代わり、べき級数演算係数組を記憶する係数メモリ部401が#1〜#Nの複数個用意され、PD部404は、セレクタ402によって選択された係数メモリ部401から出力されるべき級数演算係数組を用いたべき級数演算を実行する。
【0034】
そして、セレクタ402は、図1のセレクタ102の場合と同じ図2に示される動作フローチャートに従って、図4の電力変換部403から出力される送信信号電力値をN−1個の電力閾値Th(i)(1≦i≦N−1)と大小比較することにより、#1〜#Nの係数メモリ部401のうちの1つを選択し、選択した係数メモリ部401から出力されるべき級数演算係数組をPD部404に供給する。
【0035】
PD部404は、セレクタ402から供給されたべき級数演算係数組を用いたべき級数演算を実行し、その出力は後段のD/Aコンバータに出力される。フォワード系の後段部分のD/Aコンバータ、直交変調器、送信アンプ、カップラ、及びフィードバック系のダウンコンバータ、A/Dコンバータ等の構成は、図13に示される従来技術の構成と同じである。
【0036】
図4の第2の実施形態の構成では、べき級数演算を1回行えば済むため、図1の第1の実施形態の構成に比べて、回路規模を大きく削減できる。
【0037】
第3の実施形態
次に、第3の実施形態について説明する。本実施形態は、べき級数演算組の選択(図1の場合)又はべき級数演算係数組の選択(図2の場合)に用いられる閾値の選択アルゴリズムに関する実施形態である。
【0038】
前述のセレクタ102(図1の場合)又は402(図4の場合)においてべき級数の選択に用いられるN−1個の閾値Th(i)(1≦i≦N−1)は、べき級数演算型プリディストーション処理の歪補償性能に直接影響を与える。従って、各種の信号品質を観測し、それが最適になるように閾値を決定するのが、最も効果的である。
【0039】
信号品質を観測しながら逐次的に閾値を求める閾値決定処理のアルゴリズムの動作フローチャートを図5に、最適閾値が算出される概念図を図6に、それぞれ示す。
閾値決定処理では、閾値が設定された後(ステップS501)、適応アルゴリズムによってべき級数演算係数組が収束し歪補償が適切に動作するのを待ち(ステップS502)、その閾値での信号品質が取得される(ステップS503)。
【0040】
次に、ステップS503で取得された信号品質が今までで最良の特性であるか否かが判定される(ステップS504)。
上記信号品質が最良の特性でなければ、次の閾値がトライされる(ステップS504−>S506−>S501)。
【0041】
上記信号品質が最良の特性である場合には、ステップS501にて設定されている閾値が閾値候補として設定され(ステップS504−>S505)、次の閾値がトライされる(ステップS506−>S501)。
【0042】
全ての閾値について上記処理が終了したら、現在選択されている閾値候補が最適閾値として出力され、閾値決定処理を終了する(ステップS506−>S507)。
このようにして決定された最適閾値は、図6に示されるように、信号品質を最良にする閾値となる。
【0043】
図5及び図6に示される第3の実施形態の説明において、「信号品質」と記述しているものとしては、指標となる様々なものが考えられるが、歪補償の効果を考えると帯域外の歪みが最小になった時を品質が良いとする方式と、帯域内の歪みが最小になった時を品質が良いとする方式が有用だと考えられる。前者の方式の実現例を次の第4の実施形態として示し、また、後者の方式の実現例を後述する第5の実施形態として示す。
【0044】
第4の実施形態
第4の実施形態について説明する。本実施形態は、前述したように、第3の実施形態における信号品質を、帯域外の歪みが最小になったか否かによって評価する方式の実現例である。
【0045】
図7は、第4の実施形態による歪補償装置の構成図である。
図7において、図1の第1の実施形態の場合と同じ番号が付された部分は図1の場合と同じ機能を有し、また、図13の従来技術の場合と同じ番号が付された部分は図13の場合と同じ機能を有する。
【0046】
図7では、スペクトラム測定部701が、A/Dコンバータ1310から出力されるフィードバック復調信号のスペクトラム特性を取得し、帯域外の歪電力を測定する。
そして、最適閾値算出部702が、前述した第3の実施形態における図5の動作フローチャートに基づいて、閾値決定処理を実行し、図5のステップS503の信号品質取得処理において、スペクトラム測定部701が測定した帯域外歪電力を信号品質として取得し、図5のステップS504において、帯域外歪電力が最小となったか否かを判定することによって、信号品質が今までで最良の特性であるか否かを判定する。
【0047】
最適閾値算出部702は、上記処理によって決定した閾値を、#1〜#Nの各PD部101を選択するための閾値として設定する。これらの閾値は、前述した図2の動作フローチャートに基づく選択処理の実行時にセレクタ102から参照される。
帯域外の歪みについてはスペクトラム特性を取得すれば求められ、図9のような構成で図7のアルゴリズムを用いることで最適閾値を求めることができる。
図7の第4の実施形態の構成は、図1の第1の実施形態の構成をベースにしているが、図4の第2の実施形態の構成をベースにしても、同様の効果を得られる。
【0048】
第5の実施形態
第5の実施形態について説明する。本実施形態は、前述したように、第3の実施形態における信号品質を、帯域内の歪みが最小になったか否かによって評価する方式の実現例である。
【0049】
図8は、第5の実施形態による歪補償装置の構成図である。
図8において、図1の第1の実施形態の場合と同じ番号が付された部分は図1の場合と同じ機能を有し、また、図13の従来技術の場合と同じ番号が付された部分は図13の場合と同じ機能を有する。
【0050】
帯域内の歪みとしては、減算器1311が遅延送信信号Sref (n)からフィードバック信号Sfb(n) を減算して得られる誤差信号e(n) を指標として用いることができる。
そこで、図8では、誤差平均部801が、減算器1311が遅延送信信号Sref (n)からフィードバック信号Sfb(n) を減算して得られる誤差信号e(n) について、所定区間毎の平均値を算出する。
【0051】
そして、最適閾値算出部802が、前述した第3の実施形態における図5の動作フローチャートに基づいて、閾値決定処理を実行し、図5のステップS503の信号品質取得処
理において、誤差平均部801が算出した誤差平均値を信号品質として取得し、図5のステップS504において、誤差平均値が最小となったか否かを判定することによって、信号品質が今までで最良の特性であるか否かを判定する。
【0052】
最適閾値算出部702は、上記処理によって決定した閾値を、#1〜#Nの各PD部101を選択するための閾値として設定する。これらの閾値は、前述した図2の動作フローチャートに基づく選択処理の実行時にセレクタ102から参照される。
【0053】
上記誤差信号e(n) は、いわゆる変調精度、EVM(Error Vector Magnitude)などと呼ばれる特性で代用しても同等である。EVMは通常、遅延送信信号Sref (i)(=Sref (n))とフィードバック信号Sfb(i)(=Sfb(n))を用いて、下記数2式により算出される。
【0054】
【数2】
【0055】
図8の第5の実施形態の構成は、図1の第1の実施形態の構成をベースにしているが、図4の第2の実施形態の構成をベースにしても、同様の効果を得られる。
【0056】
第6の実施形態
最後に、第6の実施形態について説明する。本実施形態は、べき級数演算係数組の適応更新アルゴリズムに関する実施形態である。
【0057】
図9は、第6の実施形態による歪補償装置の構成図である。
図9において、図1の第1の実施形態の場合と同じ番号が付された部分は図1の場合と同じ機能を有し、また、図13の従来技術の場合と同じ番号が付された部分は図13の場合と同じ機能を有する。
【0058】
送信アンプ1305の個体差による増幅特性のばらつき、経年変化、温度変化などによる増幅特性の変化に、#1〜#NのPD部101の各歪補償特性を適応的に対応させるために、#1〜#Nの係数更新部901において、#1〜#Nのべき級数演算係数組が、#1〜#Nの減算器1311から出力される誤差信号e(n) に基づいて、最小自乗誤差(Least Mean Square )演算に基づいて各誤差信号e(n) が最小化されるように、更新される。
【0059】
更新には、演算量が少なく時間変動にも追従しやすい適応アルゴリズムを用いるのが一般的である。本実施形態ではべき級数演算係数組が複数組用いられるため、そのそれぞれについて適切に適応アルゴリズムを動かし、係数組を収束させるのが有効である。
【0060】
べき級数演算係数組の適応アルゴリズムとしては、上述したLMSのほか、RLSなどのアルゴリズムが一般的だが(前記非特許文献2参照)、これらのアルゴリズムでは、収束までの早さと収束後の安定性をトレードオフの関係で調節する収束係数と呼ばれる定数が重要である。例えばLMSアルゴリズムを例に取ると、係数h(n)の更新式は、前述のフィードバック信号Sfb(n) 及び誤差信号e(n) を用いて、下記数3式のように表され(前記非特許文献3参照)、このうちμが収束係数となる。
【0061】
【数3】
【0062】
「e(n)Sfb(n)」という係数更新成分の大きさがμ倍されてから現時点の係数h(n)に加算されることで次時点の係数h(n+1)が計算されるので、μが大きいほど収束が早くなる。一方、一度収束してしまえばh(n)を大きく変化させる必要はなく、μが小さいほど収束後の安定度が増す。
【0063】
本実施形態では複数のべき級数演算係数組が用いられるが、それぞれのべき級数が受け持つ電力範囲によってべき級数演算係数組の収束速度・安定性を変化させ最適にすることで、全体の歪補償性能の収束速度と安定性を最適にできる。従って、各べき級数演算係数組毎に収束係数を変化させることが有用である。
【0064】
収束係数の変化の基準のひとつとして、各べき級数の対応する電力範囲毎の信号の頻度分布に従って収束係数を決定する方式が考えられる。3つのべき級数演算係数組が使用される場合の送信信号の頻度分布と収束係数の関係の一例を図10に示す。各べき級数演算係数組に対応する収束係数が、各べき級数が受け持つ範囲の信号頻度に反比例するように決定される。十分な歪補償性能を達成するには、すべてのべき級数演算係数組が収束しなければならないので、頻度が少ない(=図10で面積が小さい)範囲に対応するべき級数の収束係数として大きなμが使用されることでその部分の収束が早められ、全体としての収束までの時間を短くすることが可能となる。
【0065】
また別の観点から、各電力範囲を代表する電力値そのもので収束係数を重み付けすることも考えられる。例えば一例として、図10の例で閾値1をTh1、閾値2をTh2とした場合に、下記数4式を満たすように各μが選択される。
【0066】
【数4】
【0067】
この結果、大きな電力部分ほど小さなμが使用されることになり、数3式の係数更新部分を一定に近くすることができる。これによって、3つのべき級数の収束性能、安定性能をそろえることができ、より優れた歪補償性能が得られる。
【0068】
本発明の第1〜第6の実施形態に対する補足
以上説明した第1〜第6の実施形態は、べき級数モデルを基準として説明したが、本発
明はこれに限られるものではなく、様々な級数モデルに適用することが可能である。
【0069】
以上の第1〜第6の実施形態に関して、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
送信信号の電力増幅等を行う回路と、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる回路を有する歪補償装置において、
複数の級数演算係数組のそれぞれに対応する前記級数演算処理を前記送信信号に対して実行する級数演算処理手段と、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算処理手段における複数の級数演算処理のうちの1つを選択し、その演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる選択手段と、
を含むことを特徴とする歪補償装置。
(付記2)
送信信号の電力増幅等を行う回路と、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる回路を有する歪補償装置において、
複数の級数演算係数組をそれぞれ記憶する級数演算係数組記憶手段と、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算係数組記憶手段から前記複数の級数演算係数組のうちの1組を選択し、該選択された級数演算係数組によって前記級数演算処理を実行させる選択手段と、
を含むことを特徴とする歪補償装置。
(付記3)
前記送信信号の電力に基づく前記選択手段による選択処理における該電力の閾値を、前記送信信号又は前記復調信号の信号品質に基づいて決定する閾値決定手段を更に含む、
ことを特徴とする付記1又は2の何れか1項に記載の歪補償装置。
(付記4)
前記送信信号又は前記復調信号の周波数特性を測定する周波数特性測定手段を更に含み、
前記閾値決定手段は、前記周波数特性測定手段の測定結果に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする付記3に記載の歪補償装置。
(付記5)
前記閾値決定手段は、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする付記3に記載の歪補償装置。
(付記6)
前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となるように適応アルゴリズムを用いて収束させる級数演算係数組更新手段を更に含む、
ことを特徴とする付記1乃至5の何れか1項に記載の歪補償装置。
(付記7)
前記級数演算係数組更新手段は、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号頻度分布に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する、
ことを特徴とする付記6に記載の歪補償装置。
(付記8)
前記級数演算係数組更新手段は、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号電力に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する、
ことを特徴とする付記6に記載の歪補償装置。
(付記9)
前記級数演算処理は、べき級数演算処理である、
ことを特徴とする付記1乃至8の何れか1項に記載の歪補償装置。
(付記10)
送信信号の電力増幅等を行い、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる歪補償方法において、
複数の級数演算係数組のそれぞれに対応する前記級数演算処理を前記送信信号に対して実行する級数演算処理ステップと、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算処理ステップにおける複数の級数演算処理のうちの1つを選択し、その演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる選択ステップと、
を含むことを特徴とする歪補償方法。
(付記11)
送信信号の電力増幅等を行い、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる歪補償装置において、
複数の級数演算係数組をそれぞれ記憶する級数演算係数組記憶ステップと、
前記送信信号の電力に基づいて前記記憶された複数の級数演算係数組のうちの1組を選択し、該選択された級数演算係数組によって前記級数演算処理を実行させる選択ステップと、
を含むことを特徴とする歪補償方法。
(付記12)
前記送信信号の電力に基づく前記選択ステップによる選択処理における該電力の閾値を、前記送信信号又は前記復調信号の信号品質に基づいて決定する閾値決定ステップを更に含む、
ことを特徴とする付記10又は11の何れか1項に記載の歪補償方法。
(付記13)
前記送信信号又は前記復調信号の周波数特性を測定する周波数特性測定ステップを更に含み、
前記閾値決定ステップは、前記周波数特性測定ステップの測定結果に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする付記12に記載の歪補償方法。
(付記14)
前記閾値決定ステップは、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする付記12に記載の歪補償方法。
(付記15)
前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となるように適応アルゴリズムを用いて収束させる級数演算係数組更新ステップを更に含む、
ことを特徴とする付記10乃至14の何れか1項に記載の歪補償方法。
(付記16)
前記級数演算係数組更新ステップは、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号頻度分布に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する、
ことを特徴とする付記15に記載の歪補償方法。
(付記17)
前記級数演算係数組更新ステップは、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号電力に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する、
ことを特徴とする付記15に記載の歪補償方法。
(付記18)
前記級数演算処理は、べき級数演算処理である、
ことを特徴とする付記10乃至17の何れか1項に記載の歪補償方法。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第1実施形態の構成図である。
【図2】セレクタによるべき級数の選択動作を示す動作フローチャートである。
【図3】複数のべき級数を用いた歪補償の概念図(入力電力対アンプ逆特性(ゲイン特性)の例を示した図)である。
【図4】第2の実施形態の構成図である。
【図5】信号品質を観測しながら逐次的に閾値を求める閾値決定処理のアルゴリズムの動作フローチャートである。
【図6】最適閾値が算出される概念図である。
【図7】第4の実施形態による歪補償装置の構成図である。
【図8】第5の実施形態による歪補償装置の構成図である。
【図9】第6の実施形態による歪補償装置の構成図である。
【図10】3つのべき級数演算係数組が使用される場合の送信信号の頻度分布と収束係数の関係の一例を示す図である。
【図11】プリディストーション方式の原理図である。
【図12】送信アンプの非線形特性に起因するスペクトラム特性の劣化についての説明図である。
【図13】従来の歪補償装置の構成図である。
【符号の説明】
【0071】
101、404、1301 プリディストーション部(PD部)
102、402 セレクタ
103、403 電力変換部
401 係数メモリ部
701 スペクトラム測定部
702、802 最適閾値算出部
801 誤差平均部
901、1312 係数更新部
1302 D/Aコンバータ
1303 直交変調器
1304、1309 ローカル発振器
1305 送信アンプ
1306 カップラ
1307 送信アンテナ
1308 ダウンコンバータ
1310 A/Dコンバータ
1311 減算器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号の電力増幅等を行う回路と、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる回路を有する歪補償装置において、
複数の級数演算係数組のそれぞれに対応する前記級数演算処理を前記送信信号に対して実行する級数演算処理手段と、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算処理手段における複数の級数演算処理のうちの1つを選択し、その演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる選択手段と、
を含むことを特徴とする歪補償装置。
【請求項2】
送信信号の電力増幅等を行う回路と、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる回路を有する歪補償装置において、
複数の級数演算係数組をそれぞれ記憶する級数演算係数組記憶手段と、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算係数組記憶手段から前記複数の級数演算係数組のうちの1組を選択し、該選択された級数演算係数組によって前記級数演算処理を実行させる選択手段と、
を含むことを特徴とする歪補償装置。
【請求項3】
前記送信信号の電力に基づく前記選択手段による選択処理における該電力の閾値を、前記送信信号又は前記復調信号の信号品質に基づいて決定する閾値決定手段を更に含む、
ことを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載の歪補償装置。
【請求項4】
前記送信信号又は前記復調信号の周波数特性を測定する周波数特性測定手段を更に含み、
前記閾値決定手段は、前記周波数特性測定手段の測定結果に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の歪補償装置。
【請求項5】
前記閾値決定手段は、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の歪補償装置。
【請求項6】
前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となるように適応アルゴリズムを用いて収束させる級数演算係数組更新手段を更に含む、
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の歪補償装置。
【請求項7】
前記級数演算係数組更新手段は、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号頻度分布に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の歪補償装置。
【請求項8】
前記級数演算係数組更新手段は、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号電力に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を
決定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の歪補償装置。
【請求項9】
前記級数演算処理は、べき級数演算処理である、
ことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の歪補償装置。
【請求項10】
送信信号の電力増幅等を行い、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる歪補償方法において、
複数の級数演算係数組のそれぞれに対応する前記級数演算処理を前記送信信号に対して実行する級数演算処理ステップと、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算処理ステップにおける複数の級数演算処理のうちの1つを選択し、その演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる選択ステップと、
を含むことを特徴とする歪補償方法。
【請求項1】
送信信号の電力増幅等を行う回路と、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる回路を有する歪補償装置において、
複数の級数演算係数組のそれぞれに対応する前記級数演算処理を前記送信信号に対して実行する級数演算処理手段と、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算処理手段における複数の級数演算処理のうちの1つを選択し、その演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる選択手段と、
を含むことを特徴とする歪補償装置。
【請求項2】
送信信号の電力増幅等を行う回路と、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる回路を有する歪補償装置において、
複数の級数演算係数組をそれぞれ記憶する級数演算係数組記憶手段と、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算係数組記憶手段から前記複数の級数演算係数組のうちの1組を選択し、該選択された級数演算係数組によって前記級数演算処理を実行させる選択手段と、
を含むことを特徴とする歪補償装置。
【請求項3】
前記送信信号の電力に基づく前記選択手段による選択処理における該電力の閾値を、前記送信信号又は前記復調信号の信号品質に基づいて決定する閾値決定手段を更に含む、
ことを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載の歪補償装置。
【請求項4】
前記送信信号又は前記復調信号の周波数特性を測定する周波数特性測定手段を更に含み、
前記閾値決定手段は、前記周波数特性測定手段の測定結果に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の歪補償装置。
【請求項5】
前記閾値決定手段は、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差に基づいて前記閾値を決定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の歪補償装置。
【請求項6】
前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、前記復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となるように適応アルゴリズムを用いて収束させる級数演算係数組更新手段を更に含む、
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の歪補償装置。
【請求項7】
前記級数演算係数組更新手段は、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号頻度分布に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を決定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の歪補償装置。
【請求項8】
前記級数演算係数組更新手段は、前記複数の級数演算係数組のそれぞれについて、該各組が対応する電力範囲毎の信号電力に従って、前記適応アルゴリズムにおける収束係数を
決定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の歪補償装置。
【請求項9】
前記級数演算処理は、べき級数演算処理である、
ことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の歪補償装置。
【請求項10】
送信信号の電力増幅等を行い、そこから出力される送信信号をフィードバックさせて復調信号を取得し、該復調信号と前記電力増幅等の前段の送信信号との誤差が最小となる級数演算係数組を算出して保持しながら、該級数演算係数組に基づいて前記送信信号に対する級数演算処理を該送信信号の歪補償として実行しその演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる歪補償方法において、
複数の級数演算係数組のそれぞれに対応する前記級数演算処理を前記送信信号に対して実行する級数演算処理ステップと、
前記送信信号の電力に基づいて前記級数演算処理ステップにおける複数の級数演算処理のうちの1つを選択し、その演算結果を前記電力増幅等を行う回路へ入力させる選択ステップと、
を含むことを特徴とする歪補償方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−68217(P2010−68217A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232294(P2008−232294)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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