説明

段ボール及びその製造方法

【課題】強度が高いとともに、軽く、環境負荷が小さく、製造コストが低い段ボール、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】段ボールは、タンニンが含浸されており、タンニンとしては、縮合型タンニンが好ましい。段ボールとしては、少なくとも1つの中しんと、少なくとも1つのライナとを備えたものであり、タンニンは、中しんとライナとの両方に含浸されていてもよいし、一方のみに含浸されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段ボール、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
段ボールは、波形に成形された中しん、その中しんを保持するために貼り合わせられるライナ、といった2種類の段ボール原紙から構成されている。このように構成された段ボールは、軽量でありながら、構造体としての強さと衝撃吸収性とを有している。
【0003】
しかしながら、重量物包装の用途等に用いられる場合、段ボールには、一層の強さが求められることがある。その場合には、AA段やAAA段と言う様なAフルートを2枚、3枚と貼り合せた段ボールが使用されることがある。
【0004】
また、中しんに合成樹脂等を含浸させて強度を高めた強化段ボールが用いられることがある(特許文献1等参照)。
また、木材を構成する成分の1つであるリグニンを段ボールに含浸させることで強度を高める技術が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平6−345093号公報
【特許文献2】特開2008−75238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Aフルートを2枚、3枚と貼り合せた段ボールは、厚みが増し、重量も重くなってしまう。また、合成樹脂等を含浸させた強化段ボールは、有機溶剤や石油樹脂を使用するため、環境への負荷が大きくなってしまう。また、リグニンを含浸させた段ボールは、リグニンの製造コストが高いため、段ボールの製造コストも高くなってしまう。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、強度が高いとともに、軽く、環境負荷が小さく、製造コストが低い段ボール、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の段ボールは、タンニンが含浸されたことを特徴とする。本発明の段ボールは、タンニンが含浸されているので、従来の段ボールに比べて強度を増すことができる。また、強度が高いため、Aフルートを多数貼り合せたりする必要が無く、段ボールを軽量化し、その厚みを薄くすることができる。また、タンニンは生分解性があるため、廃棄する際に特別な処理を必要とせず、従来の段ボールと同様に取り扱うことができる。すなわち、本発明の段ボールは環境に対する負荷が小さい。さらに、タンニンは安価であるため、段ボールの製造コストを低減することができる。
【0008】
前記タンニン(tannin)とは、カシの皮や、フシ(没食)など植物界に広く存在し、加水分解で多価フェノールを生じる収斂(しゅうれん)性の植物成分の総称であり、本発明では、この定義にあてはまるものを広く用いることができる。タンニンは、加水分解性タンニンと、縮合型タンニンとの、化学構造が根本的に異なる二つの系統に大別される。加水分解性タンニンとは、酸、アルカリ、酵素で多価フェノール酸と多価アルコール(糖など)に加水分解されるものである。一方、縮合型タンニンは、複数分子のカテキンが炭素−炭素結合で縮合したものである。本発明において、特に、縮合型タンニンが、印刷特性、材料調達の容易性の点で好ましい。さらに、縮合型タンニンの中でも、ミモザタンニンが、品質、価格、調達の容易性の点で好ましい。
【0009】
本発明の段ボールは、タンニンに加えて、天然樹脂(セラック、テルペンフェノール樹脂等)、ワックス、合成樹脂、酢酸ビニル等を含浸させることができる。また、上記天然樹脂、ワックス、合成樹脂、酢酸ビニルから選ばれる2種以上を含浸させてもよい。こうすることにより、段ボールの強度を一層増すことができる。
【0010】
なお、セラックとは、ラックカイガラムシと呼ばれる昆虫が分泌する樹脂状成分を精製して得られる天然樹脂である。セラックは、原料である「シードラック」を熱溶融法やアルカリ抽出法、溶剤抽出法などで抽出精製することで得られる。セラックは、他の天然樹脂に類を見ない熱硬化性樹脂であり、常温で容易にアルコール類に溶解出来、滑らかで光沢があり、密着性、耐摩耗性に優れた被膜が得られる。セラックは、アルコール以外の有機溶媒では溶解せず、耐油性に優れており、無毒、無味、無臭で安全性が認められ、FDA(米国食品医薬局)においてGRAS物質(一般に安全と認められる物質)として認められている。セラックとしては、精製セラックが好適である。
【0011】
また、テルペンフェノール樹脂は、植物の体内で作られ、イソプレン(C58)がいくつか結合した構造を有する。テルペンフェノール樹脂は、天然素材(例えば、松の木の油(テレピン油)とオレンジ等の柑橘類の皮に含まれる油)を主な原料とする樹脂である。
【0012】
本発明の段ボールは、少なくとも1つの中しんと、少なくとも1つのライナと、を備えるようにしてもよい。そして、タンニンが、少なくとも1つの中しんと、少なくとも1つのライナとの両方に含浸されるようにしたものであってもよい。このようにすれば、中しんとライナとの両方にタンニンが含浸されているので、何れか一方にのみタンニンが含浸された段ボールに比べ強度を向上させることができる。
【0013】
一方、タンニンが、少なくとも1つの中しんと、少なくとも1つのライナとのうち、何れか一方に含浸されるようにしてもよい。このようにすれば、中しんとライナとの両方にタンニンが含浸された段ボールに比べ、軽量の段ボールとすることができる。
【0014】
本発明の段ボールの製造方法は、段ボールまたは少なくとも1つの段ボール原紙にタンニンを含浸させる含浸工程を備えることを特徴とする。
本発明の段ボールの製造方法は、段ボールまたは少なくとも1つの段ボール原紙にタンニンを含浸させる含浸工程を備えているので、従来の段ボールに比べて強度が高い段ボールを製造することができる。また、強度が高いため、Aフルートを多数貼り合せたりする必要が無く、段ボールを軽量化し、その厚みを薄くすることができる。また、タンニンは生分解性があるため、本発明で製造する段ボールは、廃棄する際に特別な処理を必要とせず、従来の段ボールと同様に取り扱うことができる。すなわち、本発明で製造された段ボールは環境に対する負荷が小さい。さらに、タンニンは安価であるため、段ボールの製造コストを低減することができる。
【0015】
本発明の製造方法における段ボールは、段ボール原紙として、少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんとを有するものであってもよい。この場合、本発明の製造方法は、少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんとを接着する接着工程を備え、含浸工程は、接着工程による接着前に、少なくとも1つのライナ及び少なくとも1つの中しんのうち少なくとも1つに、タンニンを含浸させるものとすることができる。
【0016】
このようにすれば、ライナまたは中しんの少なくとも1つにタンニンを含浸させた後に、ライナと中しんとを接着するので、ライナ及び中しんを接着し、段ボールを形成した後にタンニンを含浸させる場合に比べ、容易に作業を行いうる。
【0017】
また、本発明の製造方法における段ボールは、段ボール原紙として、少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんとを有するものであって、本発明の製造方法は、少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんとを接着する接着工程後に、段ボールの少なくとも一部にタンニンを含浸させるものであってもよい。
【0018】
また、本発明の製造方法における段ボールは、段ボール原紙として、少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんとを有するものであって、本発明の製造方法は、少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんとを接着する接着工程後に、段ボール全体にタンニンを含浸させるものであってもよい。
【0019】
このようにすれば、タンニンが段ボール全体に含浸されているので、例えば、中しん、ライナの何れか一方のみ、または、段ボールの一部にのみタンニンが含浸された段ボールに比べ、強度を向上させることができる。
【0020】
段ボール原紙にタンニンを含浸させる含浸工程において用いるタンニン溶液には、タンニン以外に、天然樹脂(セラック、テルペンフェノール樹脂等)、ワックス、合成樹脂、酢酸ビニル等を含ませることができる。また、上記天然樹脂、ワックス、合成樹脂、酢酸ビニルから選ばれる2種以上を含んでいてもよい。こうすることにより、製造した段ボールの強度を一層増すことができる。天然樹脂、ワックス、合成樹脂、酢酸ビニル等の添加量は、無添加のタンニン溶液を100重量%として、1重量%以上の範囲が好ましい。セラックとしては、精製セラックが好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0022】
(a)タンニン溶液の製造
縮合型タンニンとして、市販されている、ボンドタイト社製の南アフリカ産縮合タンニン(BONDTITE 241MODIFIED WATTLE EXTRACT)を用いた。
【0023】
メタノールを回転式の攪拌機で攪拌しながら、前記の縮合型タンニン(以下、単にタンニンとする)を薬さじにて少量ずつ投入し、タンニン溶液を調製した。このタンニンの最終的な投入量は、メタノール100mlに対し、タンニン25gの割合とした。タンニンの投入後、さらに30分間攪拌した。攪拌機の設定は、300rpm程度とした。なお、タンニンの量は、必要に応じて変化させることができるが、攪拌時間は、添加するタンニンの量に応じて長くすることが好ましい。
【0024】
次に、撹拌機を止め、吸引ろ過ビンにビフネルロートをセットし、ビフネルロートにろ紙を置いてタンニン溶液を入れ、アスピレーターにて真空で吸引ろ過した。このろ液を、段ボールの製造に使用するタンニン溶液とした。なお、ろ過方法は、遠心分離法、フィルタープレスを使用する方法であっても良い。ビフネルロートからろ液が出なくなったらアスピレーターを止め、ろ液をメスシリンダーに移した。
【0025】
得られたタンニン溶液の容量と重量とを測定し、タンニン溶液の密度を算出した。また、タンニン溶液を一定量(2〜3ml)採取し、送風定温恒温器にて乾燥させ電子天秤にて重量を測定し、タンニン溶液中の固形分(濃度:g/ml)を確認した。
【0026】
なお、タンニン溶液の濃度(g/ml)は、後述する試験で明らかとなるように、0.2g/ml程度が好ましいが、用途に応じて調整することができる。濃度を高くし過ぎないことで、タンニン溶液を含浸させたときの段ボール表面における色むらを防止することができる。タンニン溶液は、粘度が低く水に近い為、含浸時の温度が雰囲気温度と同じでも粘度、塗布率はほとんど変わらない。
(b)段ボールの製造
箱状に成形された段ボール(未処理のもの)を畳んだ状態で密閉された槽内に設置し、段ボール全体が浸漬するまで上記(a)で製造したタンニン溶液を満たした。その後、タンニン溶液を排出し、自然乾燥を行った。なお、段ボールとしては、中しんとライナとからなる下記の6種類を用いた。
【0027】
段ボール1:Aフルート(A段両面段ボール)K210 P K210
段ボール2:BAフルート(B段A段複両面段ボール)K280 PPP K280
段ボール3:BAフルート K280 P K280 P K280
段ボール4:BAフルート K280 HP8 K280 HP8 K280
段ボール5:AA段 王子インターパック 700グレード UK470 P6 K170 P6 UK470
段ボール6:AA段 山田段ボール UK440 P6 K170 P6 UK440
以上の工程により、タンニンが含浸された段ボールが完成した。
(c)段ボールの評価
(c−1)垂直圧縮強さ(その1)
「JIS Z−0403−2:1999 段ボール−第2部:垂直圧縮強さ試験方法」により、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールの垂直圧縮強さを測定した。測定は、23℃50%RH条件下で24時間調湿したものと、40℃90%RH条件下で24時間調湿したものとの、それぞれに対して行った。また、同時に、
比較例1:タンニンを含浸させていない、同種の段ボール
比較例2:同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの
比較例3:同種の段ボールにスギリグニンを含浸させたもの
についても同様に測定を行った。なお、比較例2におけるケミコンテ加工とは、段ボールをポリスチレンの有機溶媒溶液(濃度130g/l〜210g/l)に浸漬し、ポリスチレンを段ボール中に含浸させる加工であり、本比較例2においてはダイナパック株式会社製「ケミコンテ」段ボールを使用した。また、比較例3の段ボールは、特開2008−75238号公報の段落0082〜0088に記載された方法で、スギイオン交換精製リグニン(以下、単にスギリグニンとする)を段ボールに含浸させることで製造したものである。なお、本試験に用いた実施例1の試験片におけるタンニンの含浸率は10〜11%であり、比較例2の試験片におけるポリスチレンの含浸率は7〜8%であり、比較例3の試験片におけるスギリグニンの含浸率は7〜8%であった。
【0028】
測定結果を表1に示す。なお、本明細書において含浸率(%)とは、含浸後絶乾重量をWa、含浸前絶乾重量をWbとした場合に、((Wa−Wb)/Wa)×100で表されるものである。ここで、絶乾重量とは、乾燥機を使用して段ボールを乾燥させ、段ボール中の水分を完全に無くしたときの重量である。
【0029】
【表1】

表1に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、23℃50%RH条件下で24時間調湿した場合(条件1)と、40℃90%RH条件下で24時間調湿した場合(条件2)のいずれにおいても、比較例1(タンニンを含浸させていない、同種の段ボール)に比べて、遙かに垂直圧縮強さが高く、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)及び比較例3(同種の段ボールにスギリグニンを含浸させたもの)と同等の垂直圧縮強さを有する。
(c−2)垂直圧縮強さ(その2)
基本的には前記(a)、(b)と同様の製造方法であるが、タンニン溶液の濃度を下記のように変えて、段ボールを製造した。その段ボールについて、上記(c−1)と同様の方法で、垂直圧縮強さを測定した。また、タンニンの含浸率、及び段ボールの水分も測定した。また、タンニン溶液の代わりに、スギリグニン溶液(溶液濃度:0.15g/ml)を用いたものについても、同様の方法で垂直圧縮強さを測定した。なお、試験片は、23℃50%RH条件下で24時間調湿したものを用いた。また、段ボールの種類としては、上記段ボール2を用いた。測定結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

表2に示すように、タンニン溶液の濃度が高くなるほど、垂直圧縮強さと含浸率は向上した。同種の段ボールでタンニンを含浸させていないもの(ブランク)の垂直圧縮強さは11.6kN/mであったが、タンニン溶液の濃度が0.19〜0.23g/ml、含浸率10〜13%のとき、垂直圧縮強さがブランクの1.7倍程度となった。一方、タンニン溶液の濃度が0.26g/ml以上になると、べたつきが生じ、タンニン溶液を含浸させた段ボールの表面に跡が残り易くなった。タンニン溶液の濃度が0.23g/ml以下では、べたつきや段ボールの表面の跡は生じなかった。
(c−3)曲げ強さ
「JIS K−7171:1994 プラスチック−曲げ特性の試験方法」により、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールの曲げ強さを測定した。測定に用いた試験片は、長手方向150mm、短手方向50mmの長方形形状を有するものであり、その長手方向(TD方向)と、短手方向(MD方向)とのそれぞれについて、曲げ強さを測定した。なお、上記試験片において、ライナの波目はMD方向と平行である。また、曲げ強さの測定は、23℃50%RH条件下にて24時間調湿したもの(条件1)と、40℃90%RH条件下にて24時間調湿したもの(条件2)とに対して、それぞれ行った。また、同時に、比較例1〜比較例3についても同様に測定を行った。なお、本試験に用いた実施例1の試験片におけるタンニンの含浸率は10%であり、比較例2の試験片におけるポリスチレンの含浸率は7%であり、比較例3の試験片におけるスギリグニンの含浸率は8%であった。測定結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

表3に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、23℃50%RH条件下で24時間調湿した場合(条件1)と、40℃90%RH条件下で24時間調湿した場合(条件2)のいずれにおいても、比較例1(タンニンを含浸させていない、同種の段ボール)に比べて、遙かに曲げ強さが高く、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)及び比較例3(同種の段ボールにスギリグニンを含浸させたもの)とほぼ同等の曲げ強さを有する。
(c−4)破裂強さ
「JIS P−8131:1994 紙及び板紙のミューレン高圧形試験機による破裂強さ試験方法」により、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールの破裂強さを測定した。また、同時に、比較例1、比較例3についても同様に測定を行った。なお、本試験に用いた実施例1の試験片におけるタンニンの含浸率は10〜11%であり、比較例3の試験片におけるスギリグニンの含浸率は7〜8%であった。測定結果を表4(使用した段ボールが上記段ボール1の場合)、表5(使用した段ボールが上記段ボール2の場合)に示す。なお、表4、表5における測定値は、n数10の平均値である。また、「比破裂強さ」は、破裂強さをm2当りの秤量で除した値である。
【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

表4、表5に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(タンニンを含浸させていない、同種の段ボール)に比べて、遙かに破裂強さが高く、比較例3(同種の段ボールにスギリグニンを含浸させたもの)と、ほぼ同等の破裂強さを有する。
(c−5)段ボールのリサイクル性
「JIS P 8220:1998 パルプ−離解方法」、「JIS P 8222:1998 パルプ試験用手すき紙の調整方法」に基づき、パルプ離解機(日本T.M.C株式会社製)を用いて、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールにおける離解時間及び状況を評価した。また、同時に、比較例1〜比較例3についても同様に測定を行った。なお、本試験に用いた実施例1の試験片におけるタンニンの含浸率は10〜11%であり、比較例2の試験片におけるポリスチレンの含浸率は7%であり、比較例3の試験片におけるスギリグニンの含浸率は7〜8%であった。
【0034】
回転数3000回(離解時間25分)後における、実施例1、及び比較例1〜3の段ボールの状況を表6に示す。
【0035】
【表6】

表6に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(タンニンを含浸させていない、同種の段ボール)及び比較例3(同種の段ボールにスギリグニンを含浸させたもの)と同様に解離されやすく、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)よりも遙かに解離されやすかった。すなわち、本実施例1で製造した段ボールは、リサイクル性において優れている。
(c−6)段ボール接着強さ
「JIS Z−0402:1995 段ボール接着力試験方法」に基づき、リングクラッシュテスターを用いて、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールの段頂とライナとの接着部の引きはがし抵抗値(剥離時の最大荷重)を測定した。また、同時に、比較例1〜比較例3についても同様に測定を行った。
【0036】
測定は、23℃50%RH条件下で24時間調湿したものに対して行った。なお、本試験に用いた実施例1の試験片におけるタンニンの含浸率は9〜10%であり、比較例2の試験片におけるポリスチレンの含浸率は7%であり、比較例3の試験片におけるスギリグニンの含浸率は8%であった。また、測定は、上記段ボール1、段ボール2の場合のそれぞれにおいて行った。測定結果を表7に示す。
【0037】
【表7】

表7に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(タンニンを含浸させていない、同種の段ボール)よりも接着強さが高く、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)及び比較例3(同種の段ボールにスギリグニンを含浸させたもの)と同等以上の接着強さを有している。
(c−7)印刷部分のインキの色落ち、にじみ
未処理の段ボールに、予め、複数種類のインクで文字を印刷しておき、その段ボールを前記(a)で製造したタンニン溶液に浸した。そして、そのときの印刷部分の変色具合・にじみ等を評価した。インクとしては、以下のものを使用した。
【0038】
フレキソインキ(本実施形態では東洋インキ製造(株)製のLOXインク):LOX15 紅、LOX23 黄、LOX25 黄、LOX350 藍、LOX39 藍、LOX53 朱、LOX570 牡丹、LOX61 白、LOX79 草、LOX821 紫、LOX92 墨、LOX94 墨
東洋インキ製造(株)アクワコンテ各ベースインク:3 SA 赤、16 SA 紅、23 SA 黄、DF 260 墨、39 SA 藍、57SA 牡丹、79 SA 草G、821 SA 紫
サカタインクス(株)各ベースインク:404 Y 、405 Y 、407 R、408 R 、411 G 、412 B 、413 V、414 V、416 W 、419 O、440 R、443 M、467 N、717 Y
その結果、色落ち、にじみが見られたインクは414Vのみであり、他のインクでは、色落ち、にじみは見られなかった。
【0039】
参考例として、タンニン溶液の代わりに、比較例3の段ボールの製造に用いたスギリグニン溶液を用いて同様に実験を行ったところ、同様の結果であった。
(c−8)段ボールのpH
「JIS P−8133:1998 紙、板紙及びパルプ−水抽出液pHの試験方法の冷水抽出法」に基づき、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールのpHを測定した。また、同時に、比較例1〜比較例3についても同様に測定を行った。実際の測定は、岐阜県産業技術センター紙研究部へ依頼して行った。測定の結果、本実施例1で製造した段ボールのpHは6.6であった。また、比較例1〜3の段ボールのpHは、それぞれ、7.1、6.5、6.9であった。
【0040】
この結果から、本実施例1で製造した段ボールのpHは、一般の段ボール(タンニンを含浸させていないもの、比較例1)と同等であることが確認できた。
(c−9)段ボールの箱圧縮強さ(その1)
「JIS Z−0212:1998 包装貨物及び容器−圧縮試験方法」に基づき、段ボール容器箱圧縮試験器を用いて、前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールの箱圧縮強さ(初回挫屈)を評価した。また、同時に、比較例1〜比較例3についても同様に測定を行った。測定は、それぞれ5回行い、平均値を算出した。なお、本試験に用いた実施例1の段ボールにおけるタンニンの含浸率は10〜11%であり、比較例2の段ボールにおけるポリスチレンの含浸率は7%であり、比較例3の段ボールにおけるスギリグニンの含浸率は7〜8%であった。評価には、上記段ボール2(形式A−1式)を用い、箱寸法を426mm×276mm×190mmとした。測定結果を表8に示す。
【0041】
【表8】

表8に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(タンニンを含浸させていない、同種の段ボール)よりも箱圧縮強さが高く、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)及び比較例3(同種の段ボールにスギリグニンを含浸させたもの)と同等の箱圧縮強さを有している。
(c−10)段ボールの箱圧縮強さ(その2)
基本的には、上記(c−9)と同様の測定方法であるが、使用する段ボールの高さをより高くして、最終座屈時に上下の内フラップが箱の中で突き合わさないようにした。こうすることにより、上下の内フラップが中で突き合わさることで、見かけ上の強度が高くなり、本来の最終座屈強さが分からなくなってしまうようなことがなく、箱圧縮強さを一層正確に測定できる。また、同時に、比較例1についても同様に測定を行った。
【0042】
測定は、それぞれ5回行い、平均値を算出した。評価には、段ボール2(機械(AS)生産品、形式A−1式)を用い、箱寸法を426mm×276mm×310mmとした。また、箱の継ぎしろはグルアーとした。本実施例1で製造した段ボールにおいて、タンニンの含浸率は8.9%であった。箱圧縮強さの測定結果を表9に示す。
【0043】
【表9】

表9に示すように、本実施例1で製造した段ボールは、比較例1(タンニンを含浸させていない、同種の段ボール)よりも箱圧縮強さが高かった。なお、ここでは、ジョイント部分を、ステッチ仕上げからグルアー仕上げの製品にて箱圧縮強さ試験を実施したが、タンニン溶液を含浸させた本実施例1の段ボールは、グルアー部分が剥がれてしまう等の現象は無く、タンニン溶液に含浸しても接着強さは問題無かった。
(c−11)段ボールの厚み、重量
前記(a)及び(b)の方法で製造した段ボールのうち、上記段ボール3を用いたものについて、重量と、厚みとを測定した。また、以下の段ボール(未加工のもの)についても、重量と厚みを測定した。測定結果を表10に示す。
【0044】
【表10】

上述したように、本実施例1で製造した段ボールは強度が高いにもかかわらず、表10に示すように、重量が軽く、厚みが薄い。
【実施例2】
【0045】
前記実施例1の(a)で製造したタンニン溶液を段ボール用のライナの片面にロールコータ法により塗布し、その後、熱風ドライヤー乾燥を行った。次に、このライナを、中しんの両側に接着することで、ライナにのみタンニンが含浸された段ボールを製造した。なお、使用した段ボールは前記実施例1と同様とした。
【0046】
本実施例2においても、前記実施例1と同様の効果を奏する段ボールを実現できる。
【実施例3】
【0047】
前記実施例1の(a)で製造したタンニン溶液を段ボール用の中しんの片面にロールコータ法により塗布し、その後、熱風ドライヤー乾燥を行った。次に、この中しんの両側にライナ(タンニン溶液を塗布していないもの)を接着することで、中しんにのみタンニンが含浸された段ボールを製造した。なお、使用した段ボールは前記実施例1と同様とした。
【0048】
本実施例3においても、前記実施例1と同様の効果を奏する段ボールを実現できる。
【実施例4】
【0049】
(d)前記実施例1の(a)と同様にして、タンニン溶液を製造した。また、このタンニン溶液に、精製セラック(株式会社岐阜セラック製)を添加して、精製セラック添加タンニン溶液を製造した。精製セラック添加タンニン溶液における精製セラックの添加量は、無添加のタンニン溶液を100重量%として、1重量%、2重量%、5重量%、10重量%とした。なお、精製セラックは、いずれの添加量の場合でも、タンニン溶液に溶解した。
(e)次に、前記(d)で製造した、精製セラックを添加していないタンニン溶液(以下、無添加タンニン溶液とする)、及び精製セラックを添加したタンニン溶液を用いて、前記実施例1の(b)と同様にして、段ボールを製造した。
(f)前記(e)で製造した段ボールについて、前記実施例1の(c−1)と同様にして、垂直圧縮強さを測定した。また、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)、比較例3(同種の段ボールにスギリグニンを含浸させたもの)についても、同様にして、垂直圧縮強さを測定した。なお、段ボールの種類は、段ボール2(BAフルート(B段A段複両面段ボール)K280 PPP K280)とした。また、測定前の条件は、23℃50%RH条件下で24時間調湿する条件とした。測定結果を表11に示す。なお、表11における水分とは、直流電気抵抗式水分計((株)サンコウ電子研究所製 水分計MR−200)を用いて測定した、ライナ表面の水分を表す。
【0050】
【表11】

表11に示すように、精製セラックを添加したタンニン溶液を含浸させた段ボールは、垂直圧縮強さが一層高かった。
【実施例5】
【0051】
(g)前記実施例1の(a)と同様にして、タンニン溶液を製造した。また、このタンニン溶液に、テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製)を添加して、テルペンフェノール樹脂添加タンニン溶液を製造した。テルペンフェノール樹脂添加タンニン溶液におけるテルペンフェノール樹脂の添加量は、無添加のタンニン溶液を100重量%として、1重量%、2重量%、5重量%、10重量%とした。
(h)次に、前記(g)で製造した、テルペンフェノール樹脂を添加していないタンニン溶液(以下、無添加タンニン溶液とする)、及びテルペンフェノール樹脂を添加したタンニン溶液を用いて、前記実施例1の(b)と同様にして、段ボールを製造した。
(i)前記(h)で製造した段ボールについて、前記実施例1の(c−1)と同様にして、垂直圧縮強さを測定した。また、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)、比較例3(同種の段ボールにスギリグニンを含浸させたもの)についても、同様にして、垂直圧縮強さを測定した。なお、段ボールの種類は、段ボール2(BAフルート(B段A段複両面段ボール)K280 PPP K280)とした。また、測定前の条件は、23℃50%RH条件下で24時間調湿する条件とした。測定結果を表12に示す。なお、表12における水分とは、直流電気抵抗式水分計((株)サンコウ電子研究所製 水分計MR−200)を用いて測定した、ライナ表面の水分を表す。
【0052】
【表12】

表12に示すように、テルペンフェノール樹脂を添加したタンニン溶液を含浸させた段ボールは、垂直圧縮強さが一層高かった。
【実施例6】
【0053】
(j)前記実施例1の(a)と同様にして、タンニン溶液を製造した。また、このタンニン溶液に、酢酸ビニル(サカタインクス株式会社製)を添加して、酢酸ビニル添加タンニン溶液を製造した。酢酸ビニル添加タンニン溶液における酢酸ビニルの添加量は、無添加のタンニン溶液を100重量%として、1重量%、2重量%、5重量%、10重量%とした。
(k)次に、前記(j)で製造した、酢酸ビニルを添加していないタンニン溶液(以下、無添加タンニン溶液とする)、及び酢酸ビニルを添加したタンニン溶液を用いて、前記実施例1の(b)と同様にして、段ボールを製造した。
(l)前記(k)で製造した段ボールについて、前記実施例1の(c−1)と同様にして、垂直圧縮強さを測定した。また、比較例2(同種の段ボールにケミコンテ加工を行ったもの)、比較例3(同種の段ボールにスギリグニンを含浸させたもの)についても、同様にして、垂直圧縮強さを測定した。なお、段ボールの種類は、段ボール2(BAフルート(B段A段複両面段ボール)K280 PPP K280)とした。また、測定前の条件は、23℃50%RH条件下で24時間調湿する条件とした。測定結果を表13に示す。なお、表13における水分とは、直流電気抵抗式水分計((株)サンコウ電子研究所製 水分計MR−200)を用いて測定した、ライナ表面の水分を表す。
【0054】
【表13】

表13に示すように、酢酸ビニルを添加したタンニン溶液を含浸させた段ボールは、垂直圧縮強さが一層高かった。
【実施例7】
【0055】
前記実施例1の(a)、(b)と同様にして、タンニンが含浸された段ボールを製造した。そのタンニン含浸段ボールの表面に、フレキソインク用OP(over print)ニス(サカタインクス(株)製、FK-ACV G-902耐水用)を、ハンドローラーを用いて塗工、乾燥して、膜を形成した。
【0056】
その後、上記のようにニス塗工を行った、タンニン含浸段ボール(以下、ニス塗工済み段ボールとする)の表面を手で触っても、ベタつくことはなかった。また、ニス塗工済み段ボールの表面に水滴を落とし、60分後に水滴を拭き取った。図1のAに、水滴を落としてから30分経過時の状態を示し、図1のBに、水滴を落としてから60分経過時の状態を示し、図1のCに、水滴を拭き取った直後のニス塗工済み段ボール表面の状態を示す。なお、図1のCにおいて丸で囲んだ領域が、水滴があった領域である。また、図1のDに、ニス塗工を行っていないタンニン含浸段ボールに、同様に水滴を滴下し、60分後に水滴を拭き取った場合の表面の状態を示す。
【0057】
図1のA及びBに示すように、ニス塗工済み段ボールは、撥水性が高い。また、図1のCに示すように、水滴を拭き取った後、タンニンが溶けだしている跡はほとんど見られなかった。それに対し、図1のDに示すように、ニス塗工を行っていないタンニン含浸段ボールの場合では、水滴を拭き取った後、タンニンが溶けだした跡が顕著に見られた。
【0058】
なお、上記のフレキソインク用OPニスの代わりに、他のOPニスを用いてもよいし、グラビア用UV塗料を塗工し、UV照射する方法を用いてもよい。また、フレキソインク用OPニスを塗工する手段は、ロールコータであってもよい。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
上記各実施例においては、A段両面段ボール及びB段A段複両面段ボールとしたが、本発明の段ボールの種類や段の構成は、これらに限るものではなく、例えば、片面段ボール、複々両面段ボール等に本発明を適用してもよい。
【0060】
上記各実施例においては、中しん及びライナが接着された段ボールの全体にタンニンを含浸させたが、一部にのみ含浸させてもよい。また、実施例2、3においては、接着前の中しん、または、ライナの状態で、中しん及びライナの何れか一方の片面にのみタンニンを含浸させたが、中しん及びライナの両方に含浸させるようにしてもよく、両面に含浸させてもよい。また、ライナや中しんがそれぞれ複数ある構成の段ボールの場合には、複数のライナや中しんの1枚にのみタンニンを含浸させてもよく、複数のライナや中しんの全てにタンニンを含浸させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】タンニン含浸段ボールの表面に水滴を滴下したときの状態を表す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニンが含浸されたことを特徴とする段ボール。
【請求項2】
前記タンニンは、縮合型タンニンであることを特徴とする請求項1に記載の段ボール。
【請求項3】
前記段ボールは、少なくとも1つの中しんと、少なくとも1つのライナと、を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の段ボール。
【請求項4】
前記タンニンは、前記少なくとも1つの中しんと、前記少なくとも1つのライナとの両方に含浸されていることを特徴とする請求項3に記載の段ボール。
【請求項5】
前記タンニンは、前記少なくとも1つの中しんと、前記少なくとも1つのライナとのうち、何れか一方に含浸されていることを特徴とする請求項3に記載の段ボール。
【請求項6】
前記タンニンとともに、セラック、テルペンフェノール樹脂、及び酢酸ビニルからなる群から選ばれる1種以上が含浸されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の段ボール。
【請求項7】
表面にOPニスが塗布されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の段ボール。
【請求項8】
段ボールまたは少なくとも1つの段ボール原紙にタンニンを含浸させる含浸工程を備えることを特徴とする段ボールの製造方法。
【請求項9】
前記タンニンは、縮合型タンニンであることを特徴とする請求項8に記載の段ボールの製造方法。
【請求項10】
前記段ボールは、前記段ボール原紙として、少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんと、を有し、
前記少なくとも1つのライナと、前記少なくとも1つの中しんと、を接着する接着工程を備え、
前記含浸工程は、前記接着工程による接着前に、前記少なくとも1つのライナ及び前記少なくとも1つの中しんのうち少なくとも1つに、前記タンニンを含浸させることを特徴とする請求項8または9に記載のボールの製造方法。
【請求項11】
前記段ボールは、前記段ボール原紙として、少なくとも1つのライナと、少なくとも1つの中しんと、を有し、
前記少なくとも1つのライナと、前記少なくとも1つの中しんと、を接着する接着工程を備え、
前記含浸工程は、前記接着工程による接着後の段ボールの少なくとも一部に前記タンニンを含浸させることを特徴とする請求項8または9に記載の段ボールの製造方法。
【請求項12】
前記含浸工程は、前記段ボール全体に前記タンニンを含浸させることを特徴とする請求項11に記載の段ボールの製造方法。
【請求項13】
前記含浸工程において、前記タンニンとともに、セラック、テルペンフェノール樹脂、及び酢酸ビニルからなる群から選ばれる1種以上を含浸させることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の段ボールの製造方法。
【請求項14】
前記含浸工程よりも後に、前記段ボールまたは前記段ボール原紙の表面にOPニスを塗布する工程を有することを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載の段ボールの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−106398(P2010−106398A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279829(P2008−279829)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(305006624)ダイナパック株式会社 (8)
【出願人】(594023836)東洋樹脂株式会社 (4)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】