説明

毛嚢幹細胞の分離、増殖及び分化方法及び禿頭の治療用組成物

本発明は、毛嚢幹細胞を分離する方法及び発毛誘導用組成物に係り、さらに詳細には、毛髪移植手術によって得られた毛嚢含有頭皮由来の組織を化学的に分解した後、血清培地及び無血清培地で培養する過程を経て、CD34陽性の免疫学的特徴を有する毛嚢幹細胞を分離する方法及びこれによって分離されたCD34陽性毛嚢幹細胞を有効成分として含む発毛誘導用組成物に関する。
本発明によって得られた毛嚢由来幹細胞は、成人の自己性成体幹細胞に分類され、自己複製能及び成体の毛嚢細胞に分化する能力を有し、かつ発毛能力を有し、脱毛の新規な細胞治療剤として利用することができる。また、本発明は、従来の技術に比べて収率に優れた毛嚢細胞の培養及び毛嚢幹細胞の同定法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛嚢幹細胞を分離する方法及び発毛誘導用の組成物に係り、さらに詳細には、 毛嚢含有頭皮由来の組織を化学的に分解した後、血清培地及び無血清培地で培養する過程を経て、CD34陽性の免疫学的な特徴を有する毛嚢幹細胞を分離する方法及びそれによって分離されたCD34陽性毛嚢幹細胞を有効成分として含む発毛誘導用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、美容への関心が高まりつつ、脱毛症の治療への関心も高まっている。脱毛症とは、正常に毛髪があるべき所に毛髪がない状態を言う。脱毛は、臨床的に傷を伴う瘢痕性脱毛と、毛髪のみが抜ける非瘢痕性脱毛とに分けられる。瘢痕性脱毛の場合、毛嚢が破壊されるので、毛髪が再生しないが、毛髪は、毛嚢という所で作られ、各毛嚢は、周期的に活動及び停止の過程を経る。各毛嚢は、一生10〜20回の毛嚢成長周期(hair follicle growth cycle)を有する(Cotsarelis G. et al., Cell, 61(7):1329, 1990)。通常の場合、髪の毛の85〜90%は成長期にあり、年を取るにつれて成長期毛嚢の数が減る。したがって、10〜15%の毛嚢が退行期または休止期にあり、一日に平均約50〜60本の髪の毛が正常に抜け、一日に100本以上の髪の毛が抜ければ、脱毛症が疑われる。
【0003】
脱毛の治療法として様々な方法が紹介されているが、現在最も多く使用されている手術方法は、残っている自身の髪の毛を利用して脱毛部分に移植する自己毛髪移植手術であり、時々縫ったような跡が残るという問題点があった。
【0004】
また、薬物治療としては、現在飲み薬であるプロペシアと、塗り薬であるミノキシジルの二つのみが米国食品医薬品庁(Food and Drug Administration:FDA)で認められたが、プロペシアの治療効果は、投与当時にはその薬効が有効であるが、薬の服用が中断されれば、数ヵ月後に薬を飲む前の状態に戻って、脱毛が再び始まる(Bouhanna P., Dermatol. Surg., 29(11):1130, 2003; Thiboutot D., Arch. Dermatol., 135(11):1417, 1999)。一方、ミノキシジルは、男女共に使用可能な脱毛治療剤である(Bouhanna P., Dermatol. Surg., 29(11):1130, 2003; Messenger A.G. & Rundegren J., Br J. Dermatol., 150(2):186, 2004)。しかし、このような薬物治療は、性機能障害などの多くの副作用を伴うと報告されている(Messenger A.G. & Rundegren J., Br J. Dermatol., 150(2):186, 2004)。
【0005】
最近期待されている治療方法として、遺伝子を利用した治療方法が挙げられる。全身で脱毛が起こる疾患に関与する遺伝因子が発見されて発表されたことにより(Ahmad W. et al., Science, 279(5351):720, 1998)、このような遺伝子構造を利用して毛嚢に直接的に所望のDNAコードを伝達する方法または遺伝子の発現を遮断する治療法が開発されている。しかし、このような治療の効能、治療コスト、安全性、次世代に及ぶ影響などについては未だ十分に明らかになっておらず、このため、脱毛に関与する遺伝因子を明らかにするとしても、それを利用した治療方法が安全に現実化するまでは相当の期間がかかると思われる。
【0006】
また、成長期にある毛髪の球根特性が毛髪に付いたまま摘出された後、その毛嚢細胞を培養し、それを摘出した部分に移植する毛髪再生方法が開示されているが(米国特許公開第6,399,057号公報)、その効果はそれほど効率的でないと見なされる。
【0007】
一方、成体幹細胞は、多様な疾病の細胞治療剤として脚光を浴びているが、ここで成体幹細胞とは、“成体から得られる自己再生可能(self-renewal)であり、かつ自己維持機能(self-maintenance) 及び多分化能を表す成体のすべての臓器からの細胞”と定義される。これまで広範に臨床分野で成体幹細胞の性格及び操作が応用されているが、例えば、眼球の内側に角膜上皮幹細胞の同定は角膜移植の新たな技術の発展を実現し(Cotsarelis G. et al., Cell, 57;201, 1989; Tsai R.J. et al., N. Engl. J. Med., 343, 86, 2000)、造血幹細胞の特徴によって自己組織の部分的な幹細胞の移植及び遺伝子治療をもたらした(Bernstein I.D. et al., Blood Cells, 20, 15, 1994)。また、表皮での幹細胞の概念は、30年前から既に論議されてきた(Potten C.S., Cell Tiss. Kinet., 7: 77, 1974)。最近、細胞培養研究に基づいた試験管内の研究(Barrandon Y & Green H., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84: 2303, 1987; Rochat A. et al., Cell, 76: 1063, 1994)及びマウスでの生体内研究の結果は、表皮層小嚢内の特定の部分(at specific locations in the interfollicular epidermis)と、毛嚢の外部毛根鞘の上部(in the upper regions of the outer root sheath of the hair follicle)、すなわち突出部分(bulge region)と呼ばれる所と、成長期毛嚢の胚芽基質に含まれた類似幹細胞と共に皮膚幹細胞の多少複雑な分布及び有機的構造を提案してきた(Al-Barwari S.E. & Potten C.S., Intl. J. Radiat. Biol., 30:201, 1976; Morris R.J. et al., Cancer Res., 46: 3061, 1986; Cotsarelis G. et al., Cell, 61:1329, 1990; Lavker R.M. et al., J. Invest. Derm., 101:16, 1993; Morris R.J. & Potten C.S., J. Invest. Derm., 112: 470, 1999; Blanpain C. et al., Cell, 3;118(5):635, 2004)。
【0008】
この分割された三つの皮膚幹細胞間の相互連関性については、毛嚢突出部分(bulge region)が、究極の幹細胞の最も可能性のある集団であると考えられている。また、この毛嚢突出部分(bulge region)での毛嚢幹細胞は、マウスでは、CD34細胞表面のタンパク質を発現すると一貫して報告されている(Trempus C.S. et al., J. Invest. Dermatol., 120(4):501, 2003)。ところが、ヒトにおける毛嚢突出部分の細胞は、CD34を発現しないと報告されている。しかし、このようなCD34陰性細胞が毛嚢内で髪の毛を作るか否かについては未だ確認されていない。また、このような毛嚢幹細胞の明確な培養法が確立されておらず、幹細胞のマーカーは不明であった。また、一部の毛嚢内に毛嚢幹細胞が存在するということが知られているとしても、実際禿頭の治療のために多量の幹細胞が必要であった。しかし、分離された幹細胞を臨床に適用できるほどの量に増殖させる技術は十分ではなかった。幹細胞のマーカータンパク質もまだ、明確には、同定されておらず、幹細胞を利用した脱毛治療方法は依然として確立されていなかった。
【0009】
そこで、本発明者らは、毛嚢細胞の培養法、及び毛嚢幹細胞の同定法を開発し、幹細胞を脱毛症、無毛症の治療などの美容及び医薬分野に利用するために鋭意努力した結果、毛嚢含有頭皮由来の組織を培養することによって毛嚢幹細胞を分離し、分離した毛嚢幹細胞を適用した。そして、それが、従来の技術に比べて毛嚢幹細胞の高い収率を有する効率的な方法であるということ、及び分離した毛嚢幹細胞を含む組成物が発毛誘導、すなわち脱毛症の治療に効果的であるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の詳細な説明】
【0010】
《発明の要約》
本発明の目的は、毛嚢含有頭皮由来の組織を培養して毛嚢幹細胞を分離する方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、前記方法によって得られた毛嚢幹細胞を有効成分とする発毛誘導用の組成物を提供することにある。
【0012】
前記目的を解決するために、本発明は、(a)毛嚢含有頭皮由来の組織を細切した後に化学的に分解する段階と、(b)前記化学的に分解された組織を回収した後、血清1〜30体積%を含む培地で培養する段階と、(c)前記組織が培養器に付着されれば、培地を無血清培地に交換した後に再培養する段階と、(d)前記再培養された組織から培養増殖された頭皮細胞を回収した後、回収した細胞からCD34陽性の免疫学的特性を有する毛嚢幹細胞を分離する段階と、を含む毛嚢幹細胞の分離方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記分離されたCD34陽性毛嚢幹細胞を有効成分として含む発毛誘導用の組成物を提供する。
【0014】
本発明の他の特徴及び具現例は、下記の詳細な説明及び特許請求の範囲からさらに明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ノルモシン(Normocin)を含まないデファインド・ケラチノサイト(Defined keratinocytes)無血清培地で培養時、細胞培養用の培養ディッシュに最初に付着し始めた細胞の形状を示す写真である。二つの写真は、同じフラスコの異なる部分を撮った写真である(×100)。
【図2】ノルモシンを含まないデファインド・ケラチノサイト無血清培地で培養時、前記培養ディッシュに最初に付着し始めた細胞の第一次継代後の細胞の形状を示す写真である。二つの写真は、同じフラスコの異なる部分を撮った写真である(×100)。
【図3】ノルモシンを含まないデファインド・ケラチノサイト無血清培地で培養時、最初は培養ディッシュに付着しなかったが、移し換えた後に培養ディッシュに付いた細胞の形状を示す写真である。二つの写真は、同じフラスコの異なる部分を撮った写真である(×100)。
【図4】初期培養から3日後に細胞を回収して、継代培養してから1〜8日間毎日細胞数を計算した後、各日付別に平均及び標準偏差値を求めて毛嚢細胞の成長曲線を示したグラフである。
【図5】MACS(Magnetic Cell Sorting)を利用したCD34陽性細胞の分離方法を模式的に示す図である。
【図6】CD34陽性細胞の分離に使用されたMACS機器を示す図である。
【図7】FACS(fluorescence activated cell sorting)の技法を利用した毛嚢幹細胞の免疫学的特性の結果を示すグラフである。
【図8】毛嚢幹細胞の非投与対照群(A)及び毛嚢幹細胞投与群(B)のマウスを示す写真である。
【図9】毛嚢幹細胞の非投与対照群(A)及び毛嚢幹細胞投与群(B)のマウスの頭皮組織にHE染色を施した結果を示す写真である。
【図10】毛嚢幹細胞の投与群(A、B)及び毛嚢幹細胞非投与対照群(C、D)のヒト特異プローブを利用したin situハイブリダイゼーションの結果を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一観点において、本発明は、毛嚢含有頭皮由来の組織から毛嚢幹細胞を分離する方法に関する。
【0017】
本発明のある実施態様においては、毛嚢幹細胞は、次の段階を経て分離されることができる:(a)毛髪移植手術によって得られた毛嚢含有頭皮由来の組織を細切した後に化学的に分解する段階;(b)前記化学的に分解された組織を回収した後、1〜30体積%の血清含有培地で培養する段階;(c)前記組織が培養器に付着されれば、培地を無血清培地に交換した後に再培養する段階;及び(d)前記再培養された組織から培養増殖された頭皮細胞を回収した後、回収した細胞からCD34陽性の免疫学的特性を有する毛嚢幹細胞を分離する段階。
【0018】
さらに詳細には、前記(a)段階の化学的な分解は、(I)DNA分解酵素(DNase)及びタンパク質分解酵素(protease)を含むタンパク質複合体、及びディスパーゼ(dispase)を含む培地で1次分解する段階;及び(II)コラゲナーゼの含まれた培地で2次分解する段階を含むことができる。
【0019】
本発明において、前記(b)段階の1〜30体積%の血清含有培地は、M199培地とF12培地を1:1の体積比で混合したM199/F12培地に、インシュリン0.1〜1.0μg/ml、トランスフェリン0.1〜1.0μg/ml、ペニシリン50〜150unit、ストレプトマイシン0.05〜0.15mg/ml、ネオマイシン0.1〜0.5μg/ml、rEGF(Epidermal Growth Factor)1〜100ng/ml、bFGF(BASIC FIBROBLAST GROWTH FACTOR)1〜100ng/ml、ノルモシン10〜200μg/ml、ウシ胎仔血清0.01〜0.3ml/ml(1〜30体積%)、N−アセチル−L−システイン0.1〜10mMを添加した培地を使用することができる。
【0020】
また、本発明において、前記(c)段階の無血清培地は、ノルモシンを含んでいない無血清培地であることを特徴とし、さらに詳細には、前記ノルモシンを含んでいない無血清培地は、アスコルビン酸0.1〜10mMを含む無血清ケラチノサイト用培地を使用することが好ましい。
【0021】
一方、本発明において、前記(c)段階は、前記ノルモシンを含んでいない無血清培地で培養する前、ノルモシンを含む無血清培地で培養する段階をさらに含むことができる。このとき、ノルモシンを含む無血清培地は、M199培地とF12培地を1:1の体積比で混合したM199/F12培地に、インシュリン0.1〜1.0μg/ml、トランスフェリン0.1〜1.0μg/ml、ペニシリン50〜150unit、ストレプトマイシン0.05〜0.15mg/ml、ネオマイシン0.1〜0.5μg/ml、rEGF(Epidermal Growth Factor)1〜100ng/ml、bFGF(BASIC FIBROBLAST GROWTH FACTOR)1〜100ng/ml、ノルモシン10〜200μg/ml、N−アセチル−L−システイン0.1〜10mMを添加した培地であることが好ましい。
【0022】
毛嚢幹細胞は、すべての哺乳類の頭皮組織から分離して使用可能であり、このとき、頭皮組織は、毛嚢を含まねばならない。このとき、好ましくは、ヒトの頭皮組織の場合、最近行われている外科的毛髪移植術から得られる毛嚢含有頭皮由来の組織を使用することができる。外科的毛髪移植術の場合、毛髪が一生抜けない頭の側部及び後部(供与部)で頭皮を切開して取り出した後、拡大鏡を利用して毛嚢群(1〜4本の毛髪)あるいは複数の毛嚢群(3〜6本の毛髪)に分離し、分離された移植片は、脱毛の部分と細くなった毛髪の間の部分(受取部)とに移植されるが、このとき、移植片の残余物である頭皮由来の組織を本発明で利用することができる。
【0023】
頭皮由来の組織から毛嚢幹細胞を分離するためには、まず、毛嚢含有頭皮由来の組織を細切した後、細切された組織に化学的分解過程を行う。1次化学的分解は、ディスパーゼ、並びにDNA分解酵素(DNase)及びタンパク質分解酵素(protease)を含むタンパク質複合体との含まれた培地で行う。このとき、前記培地は、これに限定されるものではないが、ウシ胎仔血清0.01〜0.3ml/ml(1〜30体積%)、ノルモシン10〜200μg/ml、ペニシリン50〜150unit、ストレプトマイシン0.05〜0.15mg/ml、ネオマイシン0.1〜0.5μg/mlの含まれたDMEM培地に、ディスパーゼ0.1〜2mg/ml、並びにDNA分解酵素(DNase)及びタンパク質分解酵素(protease)を含むタンパク質複合体0.01〜0.1ml/ml(1〜10体積%)とが添加された培地が好ましい。ここで、DNA分解酵素(DNase)及びタンパク質分解酵素(protease)を含むタンパク質複合体は商業的に入手可能であり、アキュマックス(accumax; Chemicon cat# SCR006)を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0024】
その後、コラゲナーゼの含まれた培地で2次化学的分解を行う。このとき、前記コラゲナーゼの含まれた培地は、ウシ胎仔血清、ノルモシン、ペニシリン−ストレプトマイシンの含まれたDMEM培地に、コラゲナーゼタイプIAが添加されたものが好ましい。前記DMEM培地は、これに限定されるものではないが、ウシ胎仔血清0.01〜0.3ml/ml(1〜30体積%)、ノルモシン10〜200μg/ml、ペニシリン50〜150unit、ストレプトマイシン0.05〜0.15mg/ml、ネオマイシン0.1〜0.5μg/mlが含まれたものが好ましく、前記コラゲナーゼタイプIAは、0.1〜10mg/ml添加されることが好ましい。また、このとき、細切された組織の化学的分解(1次化学的分解及び2次化学的分解)は、50〜200m/min、30〜40℃で0.5〜24時間重力対流培養器(gravity convection incubator)で行うことが好ましい。
【0025】
その次、化学分解された組織(頭皮細胞)を回収して、血清、好ましくは、ウシ胎仔血清1〜30体積%の含まれた培地で培養する。このとき、使用される培地は、M199/F12が好ましい。その後、切開された組織がフラスコに付着すれば、血清を含まない培地に交換する。一般的に3日〜1ヶ月が過ぎれば、ノルモシンを含まない無血清培地に交換する。
【0026】
前記頭皮細胞の培養時、最初に使用されるM199/F12培地はこれに限定されるものではないが、M199とF12を1:1の体積比で混合した後、インシュリン0.1〜1.0μg/ml、トランスフェリン0.1〜1.0μg/ml、ペニシリン50〜150unit、ストレプトマイシン0.05〜0.15mg/ml、ネオマイシン0.1〜0.5μg/ml、rEGF(Epidermal Growth Factor)1〜100ng/ml、bFGF(BASIC FIBROBLAST GROWTH FACTOR)1〜100ng/ml、ノルモシン10〜200μg/ml、ウシ胎仔血清0.01〜0.3ml/ml(1〜30体積%)、N−アセチル−L−システイン0.1〜10mMを添加した培地が好ましく、細胞が付着された後に使用される培地は、市販の無血清ケラチノサイト用培地にアスコルビン酸0.1〜10mMを含むものが好ましい。ここで、前記無血清ケラチノサイト用培地は商業的に入手可能であり、これに限定されるものではないが、デファインド・ケラチノサイト(Defined keratinocytes)無血清培地(Gibco cat# 10785-012)が使用されることができる。
【0027】
培地を交換してから約二日後(図1)に細胞が培養ディッシュに付着し始めれば、浮かんでいる組織及び細胞をさらに大きいフラスコに移す。最初に付着し始めた細胞にトリプシンで処理した後に継代し、約5〜15日後にフラスコで約70〜90%コンフルエントに育てる。これから細胞は、2〜3日に一回ずつリン酸緩衝食塩水で2回洗浄した後、同じ培地に交換する。
【0028】
その後、培養された頭皮細胞を回収して、その中のCD34陽性細胞を分離して毛嚢幹細胞を分離する。このとき、前記培養された頭皮細胞からCD34陽性細胞を分離する方法は、周知のMACS(Magnetic Cell sorting)を利用して行うことができる。MACS機器は、例えば、Miltenyi Biotec Inc.から商業的に入手可能である。
【0029】
MACSを利用したCD34陽性細胞を分離する方法を模式的に図5に示す。
【0030】
先ず、一旦回収された頭皮細胞を大まかに単一化しておき、MACSバッファー、ブロッキング試薬、及びマイクロビーズを順次に入れる。各試薬の量は、MACSバッファー:150〜1000μl、ブロッキング試薬:50〜500μl、マイクロビーズ:50〜500μlであり、培養時間は、30分〜4時間である。このとき、ブロッキング試薬及びマイクロビーズを取り扱う全過程では蛍光灯を消すことにする。混合液の入ったチューブをアルミホイルで包み、4℃で30分〜4時間培養する。その後、アルミホイルを外して、混合液の約10倍体積のMACSバッファーをチューブに追加してピペットでよく交ぜた後、1200rpm、5〜6分間遠心分離して上澄み液を取り除く。MACSバッファーを細胞の数に合わせて入れ、ピペットでペレットを懸濁する。このとき、MACSバッファーの量は500μlである。MACSバッファーと混合された細胞の入ったチューブは氷に入れておき、MACS機器をセッティングし、MACSカラム及び磁石をセッティングする(図6)。セッティングの概略的な順序は次の通りである。‘CD+’と‘CD−’とマークしたコニカル・チューブをそれぞれ1個ずつ用意する。黒色のベース(鋼鉄)を適当な場所に置き、緑色の磁石を適当な高さに付着する。カラムが汚染しないように注意してカラムのみを取り出して磁石の溝に挿入する。
【0031】
用意したチューブのうち‘CD34−’とマークしたチューブをカラムから落ちる細胞を受けるように位置させる。用意が終わったらMACSバッファー150〜1000μlを先ずカラムに流す。MACSバッファーがほぼ流れ終わったとき、氷に入れて置いた細胞混合液500μl(細胞2×10当り)をカラムに入れる。細胞混合液は、徐々にカラムに沿って流れ、カラムの下側に落ちる細胞はCD34−細胞である。CD34陽性細胞は、MACSカラムの中間の黒い部分に残っている。カラムの収容能力程度の細胞が収容された混合液を流したら、最後にMACSバッファー約500μlを入れて、カラム内に残留しているCD34−細胞を全て流す。MACSカラムを磁石から取り出して、カラムと共に入っていたスティックをカラムの上部に挿し込んでから押して、‘CD34+’とマークしたチューブに入れる。培地をカラムに注いでスティックで再び押し、カラムを通過して出る培地を受けて、その中に含まれたCD34陽性細胞を得る。
【0032】
本発明の方法によって分離される毛嚢幹細胞の免疫表現型抗原はCD34陽性を示し、また、CD44陽性、CD45陽性、CD133陽性、CD29陽性のうち何れか一つまたは複数の免疫学的特性を示す。
【0033】
このように分離されたCD34陽性細胞である毛嚢幹細胞を頭皮組織に皮下注射で投与すれば、毛嚢細胞で分化が起こる。さらに、このように分化された毛嚢細胞は、髪の毛を作り続ける能力、すなわち発毛を誘導する能力を有する。本発明において‘発毛誘導’は、脱毛部分または無毛部分に毛嚢を形成して毛が生えるように誘導する能力を言う。したがって、前記分離された毛嚢幹細胞は、禿頭の治療用として使用されることができる。
【0034】
したがって、本発明は、他の態様で、前記方法で分離されたCD34陽性毛嚢幹細胞を有効成分として含む発毛誘導用組成物を提供する。
【0035】
このとき、前記組成物内に含まれる活性成分である前記毛嚢幹細胞の投与量はこれに限定されるものではないが、1×10以上、好ましくは、1×10〜1×10、さらに好ましくは、1×10〜1×1012細胞の量とする。投与方式は、皮下注射方式が好ましく、1回または数回に分けて投与することができる。しかし、実際の投与量は、患者の年齢、性別、体重及び患者の重症度などの多様な関連因子によって決されるべきであると理解されねばならず、したがって、前記投与量は、いかなる意味においても本発明の範囲を限定するものではない。また、本発明の発毛誘導用組成物は、前記分離された毛嚢幹細胞を担体、賦形剤及び希釈剤と共に混合して製造されることができる。例えば、前記毛嚢幹細胞は、培地または滅菌生理食塩水と共に混合されることができる。
【0036】
また、このとき、前記毛嚢幹細胞が投与される頭皮組織は、本来摘出された対象者の頭皮組織であるか、または他の対象者の頭皮組織であることができる。好ましくは、本来摘出された対象者の頭皮組織である。また、前記頭皮組織は、哺乳類のものが好ましい。本発明に使用されうる哺乳類は、ヒト、鼠、豚、牛、馬、犬、猫などを含む。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されると解釈されないということは当業者には明らかである。
【0038】
実施例1:毛嚢幹細胞の分離
(1)頭皮細胞の培養
外科毛髪移植手術を受けた患者から回収した皮下組織を含んだ後頭部の頭皮のうち、外科手術後の残余物である頭皮由来組織を取得した。取得した毛嚢を含んだ頭皮を10体積%(0.1ml/ml)のウシ胎仔血清、ノルモシン(100μg/ml)、ペニシリン100unit、ストレプトマイシン(0.1mg/ml)、ネオマイシン(0.25μg/ml)の含まれたDMEM培地に入れた。前記摘出された頭皮を滅菌されたフォーセップで取り出して、ペトリ皿上に乗せ、ブレードをスカルペルに挟んで頭皮組織を細く切った。切開後にはアキュマックス(accumax; Chemicon cat# SCR006)及びディスパーゼの含まれたDMEM培地(0.1ml/ml(10体積%)のウシ胎仔血清、ペニシリン100unit、ストレプトマイシン(0.1mg/ml)、ネオマイシン(0.25μg/ml)、ノルモシン(100μg/ml)にアキュマックス(accumax; Chemicon cat# SCR006)2体積%(0.02ml/ml)及びディスパーゼ0.4mg/mlの含まれた培地)にペトリ皿にある切開された組織を入れてフラスコに移した。フラスコに入った組織を130m/min、37℃で30分間重力対流培養器で1次化学的分解作業を行った。
【0039】
次に、化学的に分解された組織を遠心分離で回収して、リン酸緩衝食塩水で3回洗浄した。洗浄された組織は、コラゲナーゼの含まれた培地(10体積%のウシ胎仔血清、ペニシリン100unit、ストレプトマイシン(0.1mg/ml)、ネオマイシン(0.25μg/ml)、ノルモシン(100μg/ml)の含まれたDMEM培地に2mg/mlのコラゲナーゼタイプIAを添加した培地)で130m/min、37℃で30分間重力対流培養器で2次化学的分解作業を行った。化学的分解された組織を遠心分離で回収して、再びリン酸緩衝食塩水で3回洗浄した。この過程を経て回収された組織を、M199/F12の血清培地(M199とF12を1:1の体積比で混合した後、インシュリン(0.62μg/ml)、トランスフェリン(0.62μg/ml)、ペニシリン100unit、ストレプトマイシン(0.1mg/ml)、ネオマイシン(0.25μg/ml)、rEGF(10ng/ml)、bFGF(10ng/ml)、ノルモシン(100μg/ml)、0.1ml/ml(10体積%)のウシ胎仔血清、N−アセチル−L−システイン(1mM)を添加した培地)の入った25フラスコで培養した。組織が培養ディッシュに付着し始めれば(約3日経過)、ウシ胎仔血清を含まないM199/F12無血清培地(前記M199/F12血清培地からウシ胎仔血清のみが除かれた培地)に交換した。
【0040】
一週間経過後、ノルモシンを含まないデファインド・ケラチノサイト無血清培地(アスコルビン酸0.2mMを添加したデファインド・ケラチノサイト無血清液状培地(Gibco cat# 10785-012))に交換し、二日後に培養ディッシュに最初に付着し始めた細胞の形状を示す写真を図1に示した。図1の二つの写真は、同じフラスコの異なる部分を撮った写真である(×100)。
【0041】
培地を交換してから約二日後(図1)に細胞が培養ディッシュに付着し始めれば、浮かんでいる組織及び細胞を75フラスコに移した。
【0042】
最初に付着し始めた細胞をトリプシン処理後に継代して、約5日〜7日後にフラスコで約70〜90%コンフルエントに育てた。第一次継代後の細胞の形状を示す写真を図2に示した。図2の二つの写真は、同じフラスコの異なる部分を撮った写真である(×100)。これから全てのフラスコの培地は、2日〜3日に一回ずつリン酸緩衝食塩水で2回洗浄した後、同じ培地に交換した。75フラスコに移してから約7日後に、25フラスコに付着した細胞をトリプシン処理後に75フラスコで継代(1番細胞)し、最初に移した75フラスコに付着していない細胞を再び移した(培養ディッシュに付いている細胞−2番細胞、浮かんでいる細胞−3番細胞)。1番細胞(図2)と2番細胞(図3)とのフラスコに細胞が約90%コンフルエントに育ったとき、
すべての細胞を回収した。
【0043】
最初に25フラスコで培養するときに浮かんでいる細胞を75フラスコに移した。その75フラスコで付着し始めて、培養してから2週後に約90%コンフルエントに育った。初めに培養ディッシュに付着せずに、移した後に培養ディッシュに付着した細胞の形状を示す写真を図3に示した。二つの写真は、同じフラスコの異なる部分を撮った写真である(×100)。
【0044】
(2)毛嚢細胞の成長曲線
初期培養後、3日が経過した細胞にトリプシンで処理した後、その細胞を回収して4個の6−ウェルプレートに、各ウェル当り1×10個の細胞を接種した。その後、この細胞を培養してから1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日後にそれぞれ3個のウェルの細胞数をそれぞれ計算した後、各日付別に平均及び標準偏差値を求め、その成長曲線を図4に示した。
【0045】
(3)頭皮細胞から幹細胞の分離
市販のMACS(Magnetic Cell Sorting) (Miltenyi Biotec Inc.)を利用してCD34陽性細胞を分離した。MACSを利用したCD34陽性細胞を分離する方法を図5に示した。
【0046】
前述の方法で培養された頭皮細胞をトリプシンで回収して、その細胞を遠心分離(約1200rpm、5min)してペレットを残し、培地を取り除いた。適量(約10ml)の培地を細胞の入ったチューブに入れて、ピペットでペレットを再浮遊させた。
【0047】
再び遠心分離してペレットを残し、培地は取り除いた。ピペッティングする前に手でチューブをタッピングし、まず大まかに単一化しておき、ピペットでピペッティングすることが好ましい。MACSバッファー、ブロッキング試薬及びマイクロビーズを順次に入れた。各試薬の量は、MACSバッファー:150〜300μl、ブロッキング試薬:50〜100μl、マイクロビーズ:50〜100μlであり、培養時間は、30分〜4時間にした。このとき、ブロッキング試薬及びマイクロビーズを取り扱う全過程では蛍光灯を消した。混合液の入ったチューブをアルミホイルで包み、4℃で30分〜4時間培養した。その後、アルミホイルを外して混合液の約10倍体積のMACSバッファーをチューブに追加し、ピペットでよく交ぜた後、1200rpm、5〜6分間遠心分離して上澄み液を取り除いた。MACSバッファーを細胞の数に合わせて入れて、ピペットでペレットを懸濁した。このときのMACSバッファーの量は500μlであった。MACSバッファーと混合された細胞の入ったチューブは氷に入れておき、カラム及びMACSキットをセッティングした。三角形の緑色の磁石は、黒色のベースのいずれかの所に付けてもよく、適宜セッティングした。
【0048】
図6にMACS機器を示す。CD34のマイクロビーズで標識された細胞が用意されれば、MACS機器をセッティング(図6の(A))し、MACSカラム及び磁石(図6の(B))を適宜セッティングした。
【0049】
セッティングの概略的な順序は次の通りである。‘CD+’と‘CD−’とマークした50mlのチューブをそれぞれ1個ずつ用意する。黒色のベース(鋼鉄)を適当な所に置き、緑色の磁石を適当な高さに付着する。カラムを汚染させないように注意して、カラムのみを取り出して磁石の溝に挟む。
【0050】
用意されたチューブのうち、‘CD34−’とマークしたチューブを、カラムから落ちる細胞を受けるように位置させた。用意が終わったら、先ずMACSバッファー200〜500μlをカラムに流した。MACSバッファーがほぼ流れ終わったとき、氷に入れて置いた細胞混合液500μl(細胞2×10当り)をカラムに入れる。細胞混合液は、徐々にカラムに沿って流れ、カラムの下側に落ちる細胞はCD34−細胞である。CD34+細胞は、MACSカラムの中間の黒色の部分に残っている。カラムの収容能力程度の細胞が収容された混合液を流したら、最後にMACSバッファー約500μlを入れて、カラム内に残留しているCD34−細胞を全て流した。MACSカラムを磁石から取り出して、カラムと共に入っていたスティックをカラムの上部に挿し込んでから押して、‘CD34+’とマークしたチューブに入れた(まるで、注射器を使用するように)。培地(目的とする細胞に該当する培地)をカラムに約200〜300μl注いで、スティックで再び押し、カラムを通過して出る培地を‘CD34+’に受けた。培地10mlをCD34陽性細胞の入ったチューブに入れた。培地を入れるとき、チューブの壁に均一に培地をかけて、スティックでカラムを押すときに飛散した細胞を全て洗い落として回収するようにし、CD34陽性細胞を得た。このとき、回収されたCD34陽性細胞の細胞数は約1×10〜2×10であり、この細胞を1500rpm、5〜6分間遠心分離して上澄み液を取り除いた。チューブに入っていたCD34陽性細胞は、滅菌生理食塩水100μlで再浮遊して500μlの注射器で移した。
【0051】
一方、MACSを利用して、このように回収されたCD34陽性細胞の収率を次のような数式で計算した。
【0052】
収率(%)= CD34+ 細胞数 × 100
MACS通過前の総細胞数
【0053】
その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例2:毛嚢幹細胞の免疫学的特性
前記の幹細胞分離方法で獲得したCD34陽性細胞の免疫学的特性を調べるために、FACS(fluorescence activated cell sorting)分析を実施し、その結果を図7に示した。本実施例で免疫表現型の解析対象とした抗原は、CD34陽性(B)、CD44陽性(C)、CD45陽性(D)、CD133陽性(E)、CD29陽性(F)から選択される何れか一つまたは複数の免疫学的特性を表した。前記実施例1の3)で同定した細胞を1×10個用意して、2%のFBSを含むPBS溶液で洗浄し、各抗原に対する抗体と室温で反応させた。抗原の発現の有無は、フローサイトメトリー(Flow Cytometry)を利用して確認した。
【0056】
その結果、図7に示すように、本発明のヒト由来毛嚢幹細胞は、間葉幹細胞の代表的な抗体であるCD34(B)に対しては90%以上、CD44(C)に対しては80%以上、CD45(D)に対しては60%以上、CD133(E)に対しては70%以上、CD29(F)に対しては90%以上の陽性反応を表した。対照群(A)は、抗体と反応させていない場合である。
【0057】
実施例3:毛嚢幹細胞を有効成分として含む組成物の投与後の影響
(1)毛嚢幹細胞の投与及びマウスの観察
1×10個のCD34陽性細胞を入れた注射器を氷に入れた後、ヌードマウスに皮下注射で投与する。細胞が投与されたマウスの状態と比較するために、対照群として細胞投与されない動物の写真を撮影した。試験に使用した動物は次の通りである。
【0058】
(1)動物種(系統):BALB/cAnNCrjBgi−nuマウス
(2)性別及び入手時の週齢:めす、6週齢
(3)供給源:株式会社オリエント
(4)入手動物数:めす25匹
(5)検疫及び順化期間:実験室に順化させる期間を約1週間とし、その期間中に一般の症状を観察して健康な動物のみを試験に提供した。
(6)使用動物数:めす20匹
(7)試験時の週齢:めす7週齢
(8)群分離法:無作為法
(9)飼育条件
−環境条件:本試験は、温度22±3℃、相対湿度50±10%、換気回数10〜12回/hr、照明時間12時間(07:00〜19:00)、照度150〜200luxに設定されたソウル大学校の獣医科大学実験室(85洞727号)内のHEPAフィルターの装着されたMI rackで実施した。
−飼育箱、飼育密度及び飼育箱の識別
順化期間及び試験期間中にポリカーボネートMIケージ(26×42×18cm、ミョンジン機械製)で5匹を飼育箱で飼育した。飼育箱には、試験番号、動物番号及び投与量を書き込んだタグ(tag)を付けた。
−飼料及び飮水の給与
順化期間に飼料は、高圧蒸気滅菌された実験動物用固形飼料((株)ピュリナ)を自由摂取させ、飮水は、高圧蒸気滅菌された上水道を自由摂取させた。
【0059】
【表2】

【0060】
前記のように無作為に群分離したヌードマウスに本発明の毛嚢幹細胞を投与した後、15日間実験動物の皮膚を観察したところ、毛が生えた日付けを区分して記録し、試験開始前及び終了時点で試験動物の体重を測定し、投与日を0日にしたとき、試験が終わった16日目に剖検した。試験中に測定された試験動物の体重などに関する資料の統計学的分析のために、ワンウェイANOVAを実施して群間有意性を検定し、有意性が認められれば、Dunnett’s t−testを行って、対照群−試験群間の統計学的有意性を検定した(p<0.05)。
【0061】
前記実験の結果、毛嚢幹細胞の非投与対照群(以下、対照群)と毛嚢幹細胞の投与群(以下、投与群)とのマウス写真を図8に示した。対照群のヌードマウスには毛がなかったが(A)、投与群のヌードマウス(B)では、投与群とも9日から12日目になる日に、頭部に集中的な毛が確認された。
【0062】
(2)マウス頭皮切片のHE染色
各群のヌードマウスの頭皮部分を切開して、その切片を10%のホルマリン溶液に固定させた後、パラフィン包埋して0.2umに切片化した後、スライド上でヘマトキシリン(hematoxylin)及びエオシン(eosin)の染色法を利用して組織標本を作って比較した。
【0063】
対照群及び実験群マウスの頭皮組織のHE染色結果を図9に示した。図9から分かるように、対照群ヌードマウス(A)には毛根がなかったが、投与群(B)では、頭皮組織から毛が生えてくる毛根を確認することができた。
【0064】
(3)マウス頭皮切片のin situハイブリダイゼーション
前記HE染色法と同様に、各群のヌードマウスの頭皮部分を切開して、4%のリン酸パラホルムアルデヒド溶液に1.5%のスクロース溶液を混合した固定液で各個体の頭皮組織を固定した。30%のリン酸スクロース溶液に頭皮組織が沈むまで4℃で放置した後、各組織をパラフィン包埋して、組織切片器を利用して5μmの厚さに頭皮切片を製作した後、予め用意したプレハイダイゼーション溶液(50%のフォルムアミド、4X SSC, 50mM DDT, 4X Denhart’s soln, ‘X TED, 100μg/ml denatured salmon sperm DNA, 250μg/ml yeast RNA)で42℃で1時間反応させた。DIGラベルされたDNA(100ng/ml)を入れ、プレハイダイゼーション溶液を24時間反応させて、DIGラベルされたヒト特異DNAプローブをヌードマウスの頭皮細胞mRNAに結合させた。大腿部の組織を2X、1X、0.5XSSC溶液にそれぞれ10分間2回ずつ洗浄した後、スライドガラスに固定させて室温で2時間乾燥させた。
【0065】
前記実験の結果、図10に示すように、対照群(C、D)では、ヒト特異プローブによって標識されていないが、投与群の個体では、外部毛根鞘の周り(A)と毛嚢の周り(B)とで標識されていることを確認することができた。
【0066】
本発明者らは、マウスの毛嚢の外部毛根鞘の上部(in the upper regions of the outer root sheath of the hair follicle)、すなわち、突出部分(bulge region)と呼ばれる所でCD34細胞表面タンパク質を発現する幹細胞が存在するという研究結果(Trempus C.S. et al., J. Invest Dermatol. 120(4):501, 2003)に基づいて、ヒト生体から直接的に頭皮組織を抽出して、CD34細胞表面タンパク質を発現する毛嚢幹細胞を同定した。さらに、この毛嚢幹細胞の生体内(in vivo)の効果を調べるために、この細胞をマウスに皮下注射で投与し、投与してから10日後にマウスの頭部で毛が生えることが確認された。また、毛が生える組織をHE染色法を利用して対照群の組織との差異を確認することができた。
【0067】
毛嚢幹細胞に関する研究が多く行われているが、いまだに標準化された細胞培養法及び幹細胞の分離法がない。本発明は、毛嚢含有頭皮由来の組織での頭皮細胞の培養法と、その細胞から毛嚢幹細胞を同定する方法とを提示し、その培養法によると、毛嚢細胞の増殖及び毛嚢細胞から毛嚢幹細胞の収率が約20〜50%になるという点で、従来の技術に比べてさらに効率的な方法であり、更にマウスでの毛嚢幹細胞の発毛効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上、前述のように、本発明によって得られた毛嚢由来幹細胞は、成人の自己性成体幹細胞に分類され、自己複製能及び成体の毛嚢細胞に分化する能力を有し、かつ発毛能力を有し、脱毛の新規な細胞治療剤として利用することができる。
【0069】
また、本発明は、従来の技術に比べて収率に優れた毛嚢細胞の培養及び毛嚢幹細胞の同定法を提供する。
【0070】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業者にとっては、このような具体的記述は単に好ましい実施様態であり、これによって本発明の範囲が限定されないという点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲とそれらの等価物によって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の段階を含む毛嚢幹細胞の分離方法:
(a)毛嚢含有頭皮由来の組織を細切した後に化学的に分解する段階;
(b)前記化学的に分解された組織を回収した後、血清1〜30体積%を含む培地で培養する段階;
(c)前記組織が培養器に付着されれば、培地を無血清培地に交換した後に再培養する段階;及び
(d)前記再培養された組織から培養増殖された頭皮細胞を回収した後、回収した細胞から、
CD34陽性の免疫学的特性を有する毛嚢幹細胞を分離する段階。
【請求項2】
前記(a)段階の化学的な分解は、(I)DNA分解酵素(DNase)及びタンパク質分解酵素(protease)を含むタンパク質複合体、及びディスパーゼ(dispase)を含む培地で1次分解する段階;及び(II)コラゲナーゼの含まれた培地で2次分解する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(b)段階の1〜30体積%の血清含有培地が、M199培地とF12培地を1:1の体積比で混合したM199/F12培地に、インシュリン0.1〜1.0μg/ml、トランスフェリン0.1〜1.0μg/ml、ペニシリン50〜150unit、ストレプトマイシン0.05〜0.15mg/ml、ネオマイシン0.1〜0.5μg/ml、rEGF(Epidermal Growth Factor)1〜100ng/ml、bFGF(BASIC FIBROBLAST GROWTH FACTOR)1〜100ng/ml、ノルモシン10〜200μg/ml、ウシ胎仔血清0.01〜0.3ml/ml(1〜30体積%)、N−アセチル−L−システイン0.1〜10mMが添加されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(c)段階の無血清培地は、ノルモシンを含んでいない無血清培地であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(c)段階はノルモシンを含む無血清培地で培養した後、ノルモシンを含んでいない無血清培地で培養することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ノルモシンを含んでいない無血清培地は、アスコルビン酸0.1〜10mMを含む無血清ケラチノサイト用培地であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ノルモシンを含む無血清培地は、M199培地とF12培地を1:1の体積比で混合したM199/F12培地に、インシュリン0.1〜1.0μg/ml、トランスフェリン0.1〜1.0μg/ml、ペニシリン50〜150unit、ストレプトマイシン0.05〜0.15mg/ml、ネオマイシン0.1〜0.5μg/ml、rEGF(Epidermal Growth Factor)1〜100ng/ml、bFGF(BASIC FIBROBLAST GROWTH FACTOR)1〜100ng/ml、ノルモシン10〜200μg/ml、N−アセチル−L−システイン0.1〜10mMを添加した培地で培養する段階を更に含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記分離される毛嚢幹細胞の免疫表現型抗原はCD44、CD45、CD133及びCD29から選択される一つ以上の免疫学的特性を表すことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法によって分離されたCD34陽性毛嚢幹細胞を有効成分として含む発毛誘導用組成物。
【請求項10】
前記毛嚢幹細胞は1×10〜1×1012細胞の量で投与されることを特徴とする発毛誘導用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−509526(P2009−509526A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533264(P2008−533264)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【国際出願番号】PCT/KR2007/003259
【国際公開番号】WO2008/004819
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(505326520)ソウル ナショナル ユニバーシティ インダストリー ファウンデーション (10)
【出願人】(508033465)アールエヌエル バイオ カンパニー リミテッド (12)
【Fターム(参考)】