説明

気相化学金属堆積のためのフッ素を含まない金属錯体

本発明は新規の銅(I)または銀(I)錯体、及び不純物をほとんど含まない金属銅または銀の気相化学蒸着(gas-phase chemical deposition)のためのこれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の銅(I)または銀(I)錯体、及び不純物を実質的に含まない金属銅または銀の気相化学成長(gas-phase chemical deposition)のためのこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業は、小型化、速度及び情報記憶容量に関する要件が常に増加している集積回路を生産する。気相金属成長(vapor-phase metal deposition)のプロセスを介する、集積回路における金属の相互接続をもたらすための金属膜の製造は、当業者に周知である。このようなプロセスは、一般的に、CVD「化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition)」と呼ばれている。この方法は、出発物質として(+1)酸化状態にあるこれらの金属の前駆体を用いる。
【0003】
多くの銅前駆体は、純粋な銅からなる膜を成長させるための先行技術において公知である。最も有用な前駆体は、配位子によって安定化された(+1)酸化状態にある銅の配位錯体であり、ここで、この銅は、β−ジケトナート(β−diketonate)と配位結合しており、以下の一般式(I)に対応し:
【0004】
【化1】

【0005】
ここで、R、R’及びR’’は、同じでも異なってもよく、水素原子、フッ素のようなハロゲン原子、及び1つ以上のフッ素原子で必要に応じて置換したC−Cアルキル基から選択される。
【0006】
好ましい錯体は、Rが水素原子であり、そしてR’及びR’’がペルフルオロアルキル基及び有利には−CF基であるものであり、以下の構造式に対応する:
【0007】
【化2】

【0008】
このような錯体及びCVDのためのこれらの使用は、例えば、米国特許第 5 085 731号、同第5 096 737号、同第5 098 516号、同第5 144 049号及び同第5 187 300号、ならびに国際出願番号98 / 40387に記載されている。
【0009】
これらの前駆体についてなされた研究は、これらの分子構造が、良質の膜の再現可能な製造において重要であることを明らかにしている(P. Doppelt and T.H. Baum, MRS Bull. XIX(8), 41, 1994, T.Y. Chen, J. Vaissermann, E. Ruiz, J.P. Senateur, P. Doppelt, Chem. Mat. 13, 3993 (2001))。
【0010】
上記の特許に記載されているように、金属銅の形成は、200℃の温度に熱した表面における、銅(1)の二つの分子への不均化の結果であり、次の反応式に従う:
2Cu(hfac)L → Cu(II)(hfac) + Cu(0) + 2L
ここで、hfacは、ヘキサフルオロアセチル−アセトナートアニオン(hexafluoroacetyl-acetonate anion)を表し、及びLは、ルイス塩基または配位子を表す。メカニズムは、他の銅(I)錯体及び銀(I)錯体のためのものと同じである。
【0011】
以下に配位子としても記載されるルイス塩基Lの性質は、CVDにより得られる銅膜の性質にほとんど影響を与えない。銅膜は、一般的に、非常に純粋であり、及び特に、炭素原子、酸素原子及びフッ素原子を含まない(1%未満)。CVDにより得られる銅膜において、1.8μΩ.cmのオーダーの抵抗率が一般に見られ;この値は、バルク銅にみられる値と非常によく似ている(1.67μΩ.cm)。
【0012】
一方、配位子Lの性質は、錯体の揮発性、及び、従って、銅堆積の速度を決定する。
【0013】
先行技術の文献において、特に米国特許第5, 098, 516号及び米国特許第5, 144, 049号において、一般的に、銅(I)及びフッ素原子を有するアニオンの錯体が優先され、これは特にこれらの揮発性のためであり、これはアニオンがフッ化分子でない時より低い温度で金属蒸着を行い得、そしてまた、これらの錯体のより優れた安定性のためである。
【0014】
電子部品の銅の金属被覆のために与えられるテクノロジーは、絶縁体に銅が拡散することを防止し、及び電気接点を完全なものとするバリア膜上に銅が堆積する必要がある。
【0015】
このバリアは、TiN、TaNまたはWN(各々窒化チタン、窒化タンタル、窒化タングステン)、もしくは金属Taのような材料から選択される.他の材料は、必要に応じて使用され得る。
【0016】
現在、ある場合、特に、銅膜がTiN、TaまたはTaN上に堆積される場合、テクノロジーにより要求されているように、たとえ銅膜が、非常に少量のフッ素しか含んでいなかったとしても、このフッ素は拡散し、そして銅とバリアの間の界面に蓄積する。
【0017】
この現象は、特に、K. Weiss, S. Riedel, S.E. Schultz, T. Gessner, AMC 1998, MRS Proceedings page 171に記載されている。
【0018】
この結果は:
1)フッ素豊富な膜の絶縁的な性質のために、接点の抵抗率が、全般にわたって増加し、ベーストランジスターと銅膜間の電気伝導性のブレーク;
2)バリア膜上の銅膜の不十分な付着
である。
【0019】
文献WO98 / 40387に記載された化合物は、この問題に対する最初の応答を提供した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、垂直方向の相互接続の達成、及び、長期間故障がなく、及び低い抵抗率を持ち、及び良好な熱安定性を有するラインのための薄い銅や銀膜に基づく電気回路の再現可能な製造のための銅(I)または銀(I)錯体に関する必要性が残っている。
【0021】
特に、フッ素原子が全く含まれておらず、一方、同時に、産業で活用されるために揮発性があり、そして十分に安定である前駆体に関する必要性が残っている。
【0022】
最後に、この前駆体は上記の不均化反応に従い、熱により分解されなければならず、これは、堆積された金属膜は非常に純粋であることを意味している。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本出願人は、新規の化合物を開発し、これは気相金属堆積プロセスにおいて銅または銀の前駆体であるフッ素を含まない銅(I)または銀(I)錯体であり、これらの化合物は先行技術の欠点を改善している。
【0024】
本発明に従う化合物は、それらが以下の式(I)に対応することを特徴とする:
【0025】
【化3】

【0026】
ここで、
−Mは、銅原子または銀原子を表し;
−R’及びR’’は、同じでも異なってもよく、:C−Cアルキル;−OR’’’基(ここで、R’’’はC−Cアルキルを表す)から選択される基を表し、
−Rは、−OR’’’’基(ここで、R’’’’はC−Cアルキルを表す);ニトロ基:NO;アルデヒド官能基:−CHO;−COOR’’’’’エステル官能基(ここでR’’’’’はC−Cアルキル基を表す)から選択される基を表し;
−Lは、この錯体を安定化するための配位子を表す
Lは、銅(I)錯体の安定剤として先行技術で使用された配位子、特に、すでに上述した文献に記載された配位子、から選択され得る。
【0027】
本発明において使用可能な配位子の中で、以下が言及され得る:
a− 一酸化炭素、
b− 少なくとも一つの非芳香族不飽和を含む不飽和炭化水素ベースの配位子、及び特に以下の中である:エチレン、アセチレン、1−オクテン、イソブチレン、1、5−シクロオクタジエン、スチルベン、ジフェニルアセチレン、スチレン、シクロオクテン、1、5、9−シクロドデカトリエン、1、3−ヘキサジエン、イソプロピルアセチレン、1−デセン、2、5−ビシクロヘプタジエン、1−オクタデセン、シクロペンテン、オクタリン、メチレン シクロヘキサン、ジフェニルフルベン、1−オクタデシン、ベンジルシンナメート(benzylcinnamate)、ベンザルアセトフェノン、アクリロニトリル、無水マレイン酸、オレイン酸、リノール酸、アクリル酸、メチルメタクリレート(methyl methacrylate)、マレイン酸ジエチル(diethyl maleate)、メチル−1、5−シクロオクタジエン、ジメチル−1、5−シクロオクタジエン、メチルシクロオクテン、シクロオクタテトラエン、ノルボレン、ノルボラジエン、トリシクロ[5.2.1.0]−デカ−2、6−ジエン、1、4−シクロヘキサジエンまたは[4,3,0]ビシクロ−ノナ−3、7−ジエン;
c− 特に、メチルイソシアニド、ブチルイソシアニド、シクロヘキシルイソシアニド、フェニルエチルイソシアニド、フェニルイソシアニドのようなイソニトリル;
d− 例えば、トリメチル−フォスフィンまたはトリエチルフォスフィンのようなフォスフィン、
e− 以下の式(II)に対応する化合物:
(R)(R)C=C(R)Si(R)(R)(R
ここで、
−Rは、水素原子またはC−Cアルキル基またはSiR基を表し、
−R及びRは、同じでも異なってもよく、水素原子またはC−Cアルキル基を表し、
−R、R及びRは、同じでも異なってもよく、フェニル基またはC−Cアルキル基を表し;
f− 以下の式(III)に対応する化合物:
−C≡C−Si(R)(R)(R10
(III)
ここで、
−Rは、C−Cアルキル、フェニルまたはSi(R)(R)(R10)基を表し、
−R、R及びR10は、同じでも異なってもよく、C−Cアルキルまたはフェニル基を表し、
g− 以下の式(IV)、(V)及び(VI)のうち1つに対応する化合物:
【0028】
【化4】

【0029】
ここで、Y、Y、Y及びYは、同じでも異なってもよく、水素原子、C−Cアルキル、及びRがC−Cアルキルである−Si(R基から選択され、i及びjは、0、1、2及び3から選択される整数を表し、ならびにX及びXは、同じでも異なってもよく、特にC−Cアルケニルのような電子吸引性基を表し;式(IV)、(V)及び(VI)に対応する生成物の例は、国際出願WO98 / 40387に例示される。
【0030】
本発明の目的に関して、用語「アルキル(alkyl)」は、直鎖、分枝を有するまたは環状炭化水素ベースの基を意味する。特に、同じ分子の2つのアルキル基は、環状の分子を形成するために結合され得ると理解される。
【0031】
本発明の好ましい分子は、以下の条件の一つ以上が満たされている式(I)に対応するものである:
−Mは、銅原子を表し、
−R’またはR’’は、CH及びCから選択される基を表し、
−Rは、NO及びOCHから選択される基を表し、
−Lは、1、5−シクロオクタジエン及びビス(トリメチルシリル)アセチレンから選択される配位子を表す。
【0032】
本発明の化合物は、先行技術において既に記載されているプロセスを使用して作成することが可能である:P. Doppelt, T.H. Baum, L. Richard, Inorg. Chem. 35, 1286, 1996。
【0033】
本発明の主題は、また、支持体における、銅及び銀から選択される金属の気相化学成長のためのプロセスである。支持体は、特に、Si、AsGa、InP、SiCまたはSiGeから選択される材料からなり得る。銅の層は、いくつかのレベルの金属被覆を必要とする電子デバイスにおいて最初の金属被覆層としてまたはn回目の金属被覆層として前記支持体に堆積され得、nは、2より大きい整数、または2と等しい。支持体は、そのように得られる上述した材料のうちの一つ、または一層以上の中間層を有するこれらの材料のうちの一つからなり得る。中間層の例として、例えば、TiN、TiSiN、Ta、TaN、TaSiN、WN及びWSiNから選択される少なくとも一つの材料からなる拡散層が挙げられ得る。本発明に従うプロセスは、気相化学成長、またはCVDを利用することにあり、銅前駆体及び銀前駆体化合物のための先行技術により既に公知のプロセスは上述した。
【0034】
このプロセスは、特に、支持体の導電性表面に選択された金属の選択的な堆積を行うこと、一方、同時に、この同じ支持体の絶縁部分、例えば、集積回路の支持体の二酸化シリコンからできた部分のような、にそれを堆積することを防ぐことを可能にする。
【0035】
有利に、このプロセスは、120〜300℃の範囲の温度で行われる。
【0036】
この場合に従うと、本発明に従う化合物は、この化合物が周囲の温度で液体である場合、または、仮にこの化合物が周囲の温度で固体であるならば溶液で、純粋に(pure)使用される。
【0037】
固体化合物は炭化水素ベースの溶媒、特に、例えば、シクロヘキサンまたはテトラヒドロフランのような環状炭化水素ベースの溶媒、あるいはトルエン、キシレンまたはメシチレンのような芳香族の溶媒、に有利に溶解される。本発明に従う化合物は、一般に、エレクトロニクス産業で使用されるような、CVDのための標準的な装置において用いることが可能である。これらは、集積回路のための基板にダメージを与え得る、またはその選択性を低下させ得る有害な化合物を放出しないという利点を持つ。
【0038】
支持体上に銅または銀の層を堆積させるためのプロセスの実施において、金属前駆体を含む組成物は、蒸発デバイスに運ばれ、それにより銅または銀の層が堆積されなければならない支持体を含む反応器内に導入される。
【0039】
それが蒸発デバイスに到達する前に、組成物は、一般的に、周囲の温度で貯蔵装置の中に保持される。この前駆体組成物は、当業者に公知であるいろいろなデバイスを用いて蒸発させることができる。好ましい例として、文献T.Y. Chen、J. Vaissermann、E. Ruiz、J.P. Senateur、P. Doppelt、Chem. Mat. 2001、13、3993に記載されたデバイスを挙げ得る。
【0040】
前記デバイス、これは「TriJet Liquid Precursor Delivery and Evaporation System」の名前でJipelec社により発売されており、3つの主要な部分:貯蔵装置、噴射装置、蒸発装置を含む。銅(I)錯体の溶液は、1barの圧力に保持された貯蔵装置に位置し、減圧に保持される蒸発装置における圧力差により、噴射装置によって、送られる。インジェクションフローレートは、コンピュータ制御された微小電磁弁により制御される。蒸発装置及び、また装置のアセンブリの他の部分、これは主に一つの支持体に対して一つの反応チャンバーから主になる、は同じ温度で保持される。
【0041】
支持体上に堆積される銅の厚さは、前駆体組成物の濃度、蒸発デバイスを通過する時のこの組成物のフローレート、蒸発の継続時間、あるいは反応器内及び支持体上の各々の温度に依存する。一般に、より濃縮されていない組成物、及び/または、低流速は、薄い層を得るために使用され、そして、より濃縮された組成物、及び/または、より高い流速は、厚い層を得るために使用する。用語「薄い層(thin layer)」とは、一般的に、50nmより薄いまたは等しい厚さを持つ層を意味することを意図する。用語「厚い層(thick layer)」とは、一般的に、50nmから1μmの厚みを持つ層を意味することを意図する。本発明に従うプロセスは、(+1)酸化状態の金属の前駆体を使用して、0.2から500nm、好ましくは0.2から50nm、の厚みを持つ集積回路の相互接続及び金属被覆を実現することを可能にする。
【0042】
CVDによる銅の層の開発のための本発明に従う組成物の使用は、これらが堆積される支持体によく付着する良質の銅層を得ることを可能にする。
【実施例】
【0043】
実験の部
使用される省略形:
acac: アセチルアセトンアニオン。
【0044】
COD: 1,5−シクロオクタジエン。
【0045】
BTMSA: ビス(トリメチルシリル)アセチレン。
【0046】
EDTA: エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム。
【0047】
GCMS: ガスクロマトグラフィー 質量分析法。
【0048】
3−NO−acac: 3−NO−アセチルアセトンアニオン。
【0049】
3−MeO−acac: 3−MeO−アセチルアセトンアニオン。
【0050】
I− 非フッ素化β−ジケトンの合成
I−1. 3−NO−acacの合成:
NO−acacの合成は、Z. Yoshida, H. Ogoshi and T. Tokumitsu, Tetrahedron, 1970, 26, 5691の文献に記載された2段階で行う。第一段階は、銅(II)の錯体:ビス−(3−ニトロ−2,4−ペンタンジオン)−銅(II)(Cu(NO−acac))を形成することからなり、第二段階は、EDTAを使用して分解することによりβ−ジケトンを単離することからなる。
【0051】
a− Cu(NO−acac)の合成:
【0052】
【化5】

【0053】
無水酢酸50ml及びアセチルアセトン10ml(0.09mol)を丸底フラスコに導入する。次に、硝酸ナトリウム三水和物7.89g(33mmol)を0℃(水/氷浴)で撹拌しながら(反応は発熱を伴うため何回かに分けて)添加する。反応メディウムは、撹拌しながら0℃で2時間、その後、周囲の温度で18時間放置する。
【0054】
次に、緑色の溶液を、酢酸ナトリウム/氷冷水溶液(約100ml)で処理し、ここで、懸濁液中に緑色の沈殿を得、ブフナー漏斗で濾過し、そしてPで乾燥させる。収率は42%である。
【0055】
融点: 240℃(分解)。IR(cm−1):1586(γ C=O)、1525(γas NO)、1336(γs NO)。昇華は、P=4×10−1mbarでT=100℃。
【0056】
b− 3−NOacacの合成:
【0057】
【化6】

【0058】
ジクロロメタン120mlの懸濁液中のCu(NO−acac) 9.3g(22.8mmol)を500mlの丸底フラスコに導入する。水120mlを添加し、二層を得る:着色した有機層(銅(II)錯体が溶解)及び水相(銅/EDTA錯体を形成)。無着色の有機相が得られるまでEDTAを添加する。静置することにより、有機相を水相から分離し、次に、MgSOで乾燥させる。窒素を含むジケトンは、溶媒を蒸発することにより得て、減圧下(P=10−1mbar、T=45℃)で蒸留することにより精製する。収率は77%である。
【0059】
GCMS:1 peak at m/z=145。NMR(CDCl、T=297K):H δ(ppm):15.11(s、−C−O−H…O=C−)、2.50(s、6H、2−CH)。13C δ(ppm):192.4(s、−C=O)、134.7(s、=C−NO)、24.8(s、−CH
I−2. 4−NO−3、5−ヘプタンジオンの合成:
a− 4−Cu(NO−3、5−ヘプタンジオン)の合成:
手順は、Cu(NO−acac)を調製するための手順と同じである。
【0060】
【化7】

【0061】
この反応混合物は以下からなる:
− 無水酢酸50ml中の3、5−ヘプタンジオン10g(78mmol)、
− 硝酸ナトリウム三水和物6.91g(29mmol)。
【0062】
得られた生成物は、暗緑色の固体である。粗生成物の収率は60〜65%である。化合物は、ヘキサン/メタノール(30ml/10ml)混合液から再結晶することが可能である。
【0063】
融点:252℃。IR(cm−1):1582(γ C=O)、1523(γas NO)、1343(γs NO)。昇華は、P=5×10−2mbarでT=120℃。
【0064】
b− 4−NO−3、5−ヘプタンジオンの調製:
手順は、3−NO−acacを調製するための手順と同じである:
【0065】
【化8】

【0066】
この反応混合物は以下からなる:
−Cu(NO−3、5−ヘプタンジオン) 7.72g(17.7mmol)、
−ジクロロメタン100ml及び水100ml、
−EDTA。
【0067】
ジケトンは、減圧下(P=10−1mbar、T=150℃)で蒸留により精製する。収率は58%である。
【0068】
GCMS:1 single peak for m/z=173。NMR(CDCl、T=297K)、H δ(ppm):15.17(s、1H、−C−O−H…O=C−)、2.18(q、4H、JH−H=7.35Hz、2−CH)、1.23(t、6H、JH−H=7.35Hz、2−CH)、13C δ(ppm):194.9(s、−C=O)、135.3(s、=C−NO)、29.9(s、−CH−)、8.9(s、−CH
I−3. 3−MeO−acacの合成:
本発明者は、R.M. Moriarty, R.K. Vaid, V.T. Ravikumar, B.K. Vaid and T.E. Hopkins, Tetrahedron, 1988, 44, 1603に記載されたこの配位子を調製するための手順に従った。
【0069】
II− 銅(I)錯体の合成
NO−基または−OMe基を含む銅(I)錯体に関して、P. Doppelt, T.H. Baum, MRS Bulletin, 1994, XIX(8), 41にこれまでに記載されているように、対応するβ−ジケトンは、良い収率で反応を実施するために十分に酸性であるため、本発明者は、ルイス塩基存在下で銅(I)酸化物とβ−ジケトンの反応を使用する合成を選択した。いずれの場合でも、制御された雰囲気下(窒素下)で行うことが必要である。
【0070】
II−1. (3−NO−acac)Cu(BTMSA)の調製:
【0071】
【化9】

【0072】
100mlの丸底フラスコ内で、ジクロロメタン20ml中、窒素流下で、CuO 1.03g(7.22mmol)及びBTMSA 1.6ml(7mmol)を攪拌する。3−NO−acac 1gすなわち6.9mmolをシリンジで滴下する。溶液は非常にすばやく黄色がかった緑色になる。窒素下で2時間撹拌を続ける。
【0073】
窒素下で濾過後、溶液をシリカカラム(内径3cm、高さ4cm)に通す。減圧下で蒸発した後、黄色固体を得る。この錯体は空気中で非常に安定であるが、窒素存在下で保存すべきである。収率は90%である。
融点=100℃。IR(cm−1):1582(γ C=O)、1511(γas NO)、1349(γs NO)。NMR(CDCl、T=297K) H δ(ppm):2.26(s、6H、2−CH from NO−acac)、0.31(s、18H、6−CH from BTMSA) 13C δ(ppm):189.0(s、−C=O)、139.0(s、=C−NO)、27.6(s、−CH on NO−acac)、0.0(s、−CH from BTMSA)。昇華は、P=5×10−2mbarでT=50℃から60℃。
【0074】
II−2. (3−NO−acac)Cu(COD)の調製:
(3−NO−acac)Cu(BTMSA)の調製と同じ手順を使用する。
【0075】
【化10】

【0076】
この反応混合物は以下からなる:
− CuO 0.83g(5.79mmol)、
− COD 0.7ml(5.64mmol)、
− 3−NO−acac 0.8g(5.52mmol)、
− CHCl 30ml。
【0077】
得られる生成物は、黄色の固体である。収率は60%である。
【0078】
融点=145℃(分解)。NMR(CDCl、T=297K):H δ(ppm):5.46(s、4H、2−HC=CH− from COD)、2.43(s、8H、4−CH− from COD)、2.22(s、6H、2−CH from NO−acac)、13C δ(ppm):188.4(s、−C=O)、138.5(s、=C−NO)、114.7(s、=CH−)、28.0(s、−CH−)、24.9(s、−CH)。昇華は、P=2×10−1mbarにおいてT=60℃。
【0079】
II−3. (4−NO−3、5−ヘプタン−ジオナート)Cu(BTMSA)の調製:
(NO−acac)Cu(BTMSA)の調製のために使用したのと同じ手順を使用する:
【0080】
【化11】

【0081】
この反応混合物は以下からなる:
− CuO 0.598g(4.18mmol)、
− BTMSA 0.95ml(4.08mmol)、
− NO−3、5−ヘプタンジオン 0.69g(3.99mmol)、
− CHCl 20ml。
【0082】
黄色の固体は、収率81%で得られる。
【0083】
その安定性は(3−NO−acac)Cu(BTMSA)のそれと匹敵する。
【0084】
融点=90℃。IR(cm−1):1587(γ C=O)、1513(γas NO)、1342(γs NO)。NMR(CDCl、T=297K) H δ(ppm):2.53(s、4H、JH−H=7.35Hz、2−CH− from diketone)、1.12(t、6H、JH−H=7.35Hz、2−CH from diketone)、0.32(s、18H、6−CH from BTMSA)、13C δ(ppm):191.2(s、−C=O)、138.7(s、=C−NO)、31.5(s、−CH)、10.0(s、−CH on ketone)、0.0(s、−CH on BTMSA)。
昇華は、P=5×10−2mbar下でT=60℃。
【0085】
本発明者は、この錯体のための単結晶を得ることに成功し、これは、X線回折により錯体の構造を決定するために使用した。この構造は、図1に記載した。この構造は、フッ素を含む対応する錯体及びP. Doppelt, T.H. Baum, J. Organomet. Chem. 1996, 517, 53に記載されたそれと非常に類似している。錯体の蒸発を抑え得る分子内相互作用がないことを実証した。
【0086】
II−4. (3−MeO−acae)Cu(BTMSA)の調製:
【0087】
【化12】

【0088】
窒素下で、ジクロロメタン40mlにCuO(1.03g、7.22mmol)を加えた懸濁液に、BTMSA 1.6ml(7mmol)を添加する。30分後、3−MeO−2、4−ペンタンジオン915mg(7mmol)を滴下する。この溶液は、すぐにオレンジに似た黄色に変化し、次に、撹拌しながら周囲の温度で3時間放置し、そして、PTFEカニューラを使用して濾過する。溶媒を蒸発させた後、オレンジ色の沈殿を得る。この固体は、最小量のジクロロメタンに再溶解し、シリカカラム(内径3cm、高さ4cm)を通す。ここで、白色の固体を得る。
H NMR (CDCl、300MHz):3.45(s、3H、O−CH)、2.05(s、6H、2x C−CH)、0.2(s、18H、6x Si−CH);IR(cm−1):1583(C=O)、1921(C≡C)。
【0089】
III.(4−NO−3、5−ヘプタンジオナート)Cu(BTMSA)の溶液を使用したCVD堆積
ここで記載する銅錯体は固体であるため、これらはバブラー内で純粋な状態(pure)、あるいは、シクロヘキサンまたはテトラヒドロフランのような中性の溶媒、あるいはトルエン、キシレンまたはメシチレンのような芳香族溶媒中に好ましく溶解させることが可能である。
【0090】
(4−NO−3、5−ヘプタンジオナート)Cu(BTMSA)を試験した:
錯体分解反応は、次に示す不均化反応であり:
2(β−ジケトナート)CuL(I)→Cu(0)+Cu(β−ジケトナート)(II)+2L
反応は、反応性ガスの作用を必要とせず、形成したCu(β−ジケトナート)(II)及びL類は、揮発性があり、そしてシステムから排出する。
【0091】
本発明者は、シクロヘキサン10gに錯体1gと非常に高い濃度を使用した。より高濃度で使用することが可能であり、これは錯体が、大抵の有機溶媒にきわめて溶解しやすいためである。仮に、実際の適用がむしろ上記のような電気化学蒸着のための核形成層(nucleating layer)としての銅膜である場合には、より低濃度で使用可能である。
【0092】
さらに、溶液の安定性を増加させるために、BTMSA100mgを添加した。この最終工程は必須でなく及び仮に生成物が十分に安定であれば省略可能である。
【0093】
この(4−NO−3、5−ヘプタンジオナート)Cu(BTMSA)組成物を使用する場合、銅膜は、250℃で保持され及び5Torrの圧力下、100℃の反応器に置かれた支持体上に銅膜が堆積された。(4−NO−3、5−ヘプタンジオナート)Cu(BTMSA)組成物は、窒素ガスと同時に蒸発デバイスに送られる。窒素の流速は、100sccm(standard cubic centimeter minutes)であった。
【0094】
最初の試験では、支持体は、直径4インチのシリコンのプレートであり、200nmの厚さのTiNの膜でコートされ、及び前駆体組成物の流速は、0.4ml/minであった。2番目の試験では、支持体は、直径8インチのシリコンのプレートであり、及び200nmの厚さのTiNの膜でコートされており、前駆体組成物の流速は、2.4ml/minであった。
【0095】
いずれにおいても、成長速度1から5nm/minにおいて良質の付着した銅膜が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】単結晶X線回折により得られた(4−NO−3、5−ヘプタンジオナート)Cu(BTMSA)錯体の分子構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
【化1】

ここで、
−Mは、銅原子または銀原子を表し;
−R’及びR’’は、同じでも異なってもよく、C−Cアルキル;−OR’’’基(ここでR’’’は、C−Cアルキルを表す)から選択される基を表し;
−Rは、−OR’’’’基(ここで、R’’’’はC−Cアルキルを表す);ニトロ基:NO;アルデヒド官能基:−CHO;−COOR’’’’’エステル官能基(ここでR’’’’’はC−Cアルキル基を表す)から選択される基を表し;
−Lは、安定化配位子を表す
に対応することを特徴とする、化合物。
【請求項2】
Lが、:
a− 一酸化炭素、
b− 少なくとも一つの非芳香族の不飽和を含む不飽和炭化水素ベースの配位子、
c− イソニトリル、
d− ホスフィン、
e− 以下の式(II)に対応する化合物:
(R)(R)C=C(R)Si(R)(R)(R
ここで、
−Rは、水素原子またはC−Cアルキル基またはSiR基を表し、
−R及びRは、同じでも異なってもよく、水素原子またはC−Cアルキル基を表し、
、R及びRは同じでも異なってもよく、フェニル基またはC−Cアルキル基を表し;
f− 以下の式(III)に対応する化合物:
−C≡C−Si(R)(R)(R10
(III)
ここで、
−Rは、C−Cアルキル基、フェニル基またはSi(R)(R)(R10)基を表し、
−R、R及びR10は、同じでも異なってもよく、C−Cアルキル基またはフェニル基を表し、
g− 以下の式(IV)、(V)及び(VI)のうち1つに対応する化合物:
【化2】

ここで、Y、Y、Y及びYは、同じでも異なってもよく、水素原子、C−Cアルキル基及びRがC−Cアルキルである−Si(R基から選択され、i及びjは、0、1、2及び3から選択される整数を表し、ならびにX及びXは、同じでも異なってもよく、特に、C−Cアルケニルのような、電子吸引性基を表す
から選択されることを特徴とする、式(I)に記載の化合物。
【請求項3】
Mが銅原子を表すことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
R’またはR’’は、CH及びCから選択される基を表すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の化合物。
【請求項5】
Rは、NO及びOCHから選択される基を表すことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の化合物。
【請求項6】
Lは、1、5−シクロオクタジエン及びビス(トリメチルシリル)−アセチレンから選択される配位子を表すことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の化合物。
【請求項7】
銅及び銀から選択される金属の気相化学成長のためのプロセスであって、支持体上において、請求項1から6のいずれか一つに記載の化合物が銅前駆体または銀前駆体として使用されることを特徴とするプロセス。
【請求項8】
前記支持体は、Si、AsGa、InP、SiC及びSiGeから選択される材料からなることを特徴とする請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記支持体は、TiN、TiSiN、Ta、TaN、TaSiN、WN及びWSiNから選択される少なくとも一つの材料からなる一層以上の中間層を含むことを特徴とする請求項7及び8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
120〜300℃の範囲の温度で行われることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一つに記載のプロセス。
【請求項11】
前記銅前駆体または銀前駆体は純粋な状態で(pure)使用されることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一つに記載のプロセス。
【請求項12】
前記銅前駆体または銀前駆体が溶媒中で溶解状態で使用されることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一つに記載のプロセス。
【請求項13】
0.2〜500nmの範囲の厚みを持つ銅または銀の層を堆積するためである請求項7〜12のいずれか一つに記載のプロセスの使用。
【請求項14】
集積回路を生産するための、請求項7〜12のいずれか一つに記載のプロセスの使用。

【図1】
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【公表番号】特表2006−501280(P2006−501280A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539140(P2004−539140)
【出願日】平成15年9月25日(2003.9.25)
【国際出願番号】PCT/FR2003/002820
【国際公開番号】WO2004/029061
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(304044818)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック (9)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】