説明

気筒間空燃比ばらつき異常検出装置

【課題】判定値を適切に設定して気筒間空燃比ばらつき異常の検出精度を向上する。
【課題手段】多気筒内燃機関の排気通路に設けられた空燃比センサの出力をサンプル周期毎に取得し、取得された複数のセンサ出力からその変動度合いに相関するパラメータを算出し、パラメータを判定値と比較して気筒間空燃比ばらつき異常の有無を判定する。筒内空気量Gcをサンプル周期τ毎に推定し、その時系列データを記憶する。空燃比センサ出力を取得する毎に、この取得時点より輸送遅れ時間Lだけ前の時点での筒内空気量Gcの値を時系列データに基づいて求め、これに対応した対応判定値を算出する。算出された複数の対応判定値に基づき判定値を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関の気筒間空燃比のばらつき異常を検出するための装置に係り、特に、多気筒内燃機関において気筒間の空燃比が比較的大きくばらついていることを検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒を利用した排気浄化システムを備える内燃機関では、排気中有害成分の触媒による浄化を高効率で行うため、内燃機関で燃焼される混合気の空気と燃料との混合割合、すなわち空燃比のコントロールが欠かせない。こうした空燃比の制御を行うため、内燃機関の排気通路に空燃比センサを設け、これによって検出された空燃比を所定の目標空燃比に一致させるようフィードバック制御を実施している。
【0003】
一方、多気筒内燃機関においては、通常全気筒に対し同一の制御量を用いて空燃比制御を行うため、空燃比制御を実行したとしても実際の空燃比が気筒間でばらつくことがある。このときばらつきの程度が小さければ、空燃比フィードバック制御で吸収可能であり、また触媒でも排気中有害成分を浄化処理可能なので、排気エミッションに影響を与えず、特に問題とならない。
【0004】
しかし、例えば一部の気筒の燃料噴射系が故障するなどして、気筒間の空燃比が大きくばらつくと、排気エミッションを悪化させてしまい、問題となる。このような排気エミッションを悪化させる程の大きな空燃比ばらつきは異常として検出するのが望ましい。特に自動車用内燃機関の場合、排気エミッションが悪化した車両の走行を未然に防止するため、気筒間空燃比ばらつき異常を車載状態(オンボード)で検出することが要請されている。
【0005】
例えば特許文献1には、空燃比センサ出力の単位時間当たりの変動量に基づいてばらつき異常を検出する装置が開示されている。この装置では、当該変動量が吸入空気量に応じて変化することに鑑み、吸入空気量に応じて変動量を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/030451号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、気筒間空燃比ばらつき異常を検出する場合、空燃比センサ出力の変動度合いに相関するパラメータを所定の判定値と比較してばらつき異常の有無を判定することが考えられる。
【0008】
そして当該パラメータが吸入空気量に応じて変化することに鑑み、パラメータの比較対象である判定値を吸入空気量に応じて変更することが考えられる。
【0009】
しかし、空燃比センサ出力の変動度合いに影響を及ぼすのは、吸気通路で検出された吸入空気量の大きさではなく、空燃比センサに実際に到達した排気ガスの流量である。また、空燃比センサは、これに実際に到達した排気ガスの空燃比を検出している。さらに、筒内で生成された排気ガスが空燃比センサに実際に到達するまでの間に、輸送遅れという時間差が存在する。
【0010】
従来、これらの事項を十分考慮していなかったため、判定値を適切に設定することが困難であった。このため誤判定の虞があり、十分な検出精度を確保するのが困難であった。
【0011】
そこで本発明は、上記事情に鑑みて創案され、その目的は、判定値を適切に設定して検出精度を向上し得る気筒間空燃比ばらつき異常検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一の態様によれば、
多気筒内燃機関の排気通路に設けられた空燃比センサと、
前記空燃比センサの出力を所定のサンプル周期毎に取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された複数のセンサ出力から当該センサ出力の変動度合いに相関するパラメータを算出するパラメータ算出手段と、
前記パラメータ算出手段により算出されたパラメータを所定の判定値と比較して気筒間空燃比ばらつき異常の有無を判定する判定手段と、
筒内に流入している空気量である筒内空気量を前記サンプル周期毎に推定する推定手段と、
前記推定手段により推定された前記サンプル周期毎の筒内空気量の時系列データを記憶する記憶手段と、
前記取得手段が前記センサ出力を取得する毎に、この取得時点より輸送遅れ時間だけ前の時点での筒内空気量の値を前記時系列データに基づいて求め、この求めた筒内空気量の値に対応した対応判定値を算出する対応判定値算出手段と、
前記対応判定値算出手段によって算出された複数の対応判定値に基づき前記判定値を決定する判定値決定手段と、
を備えることを特徴とする気筒間空燃比ばらつき異常検出装置が提供される。
【0013】
好ましくは、前記輸送遅れ時間が、前記サンプル周期の整数倍に等しい予め定められた時間である。
【0014】
好ましくは、前記輸送遅れ時間が、前記サンプル周期の複数の整数倍に等しい予め定められた時間である。
【0015】
好ましくは、前記サンプル周期が、クランク角の単位を有する。
【0016】
好ましくは、前記輸送遅れ時間が、前記筒内から前記空燃比センサに排気ガスが到達するまでの時間である。
【0017】
好ましくは、前記対応判定値算出手段は、前記筒内空気量の値に対応した対応判定値を所定のマップに従って算出する。
【0018】
好ましくは、前記判定値決定手段は、前記複数の対応判定値の平均値を前記判定値として決定する。
【0019】
好ましくは、前記気筒間空燃比ばらつき異常検出装置は、前記内燃機関の吸気通路に設けられた吸入空気量検出手段をさらに備え、前記推定手段は、前記吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量に基づき前記筒内空気量を推定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、判定値を適切に設定して検出精度を向上することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図2】触媒前センサおよび触媒後センサの出力特性を示すグラフである。
【図3】気筒間空燃比ばらつき度合いに応じた排気空燃比の変動を示すグラフである。
【図4】図3のU部に相当する拡大図である。
【図5】インバランス割合と出力変動パラメータの関係を示すグラフである。
【図6】出力変動パラメータと吸入空気量の関係を示すグラフである。
【図7】筒内空気量と、触媒前センサの位置における排気ガス流量との時間的推移を示すタイムチャートである。
【図8】メモリの記憶内容を示す図である。
【図9】ばらつき異常検出ルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る内燃機関の概略図である。図示されるように、内燃機関(エンジン)1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストンを往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態の内燃機関1は自動車に搭載された多気筒内燃機関であり、より具体的には直列4気筒火花点火式内燃機関である。内燃機関1は#1〜#4気筒を備える。但し気筒数、形式等は特に限定されない。
【0024】
図示しないが、内燃機関1のシリンダヘッドには吸気ポートを開閉する吸気弁と、排気ポートを開閉する排気弁とが気筒ごとに配設されており、各吸気弁および各排気弁はカムシャフトによって開閉させられる。シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。
【0025】
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管4を介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ5(吸入空気量検出手段)と、電子制御式のスロットルバルブ10とが組み込まれている。吸気ポート、枝管4、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
【0026】
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)12が気筒ごとに配設されている。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁の開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストンで圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。なおインジェクタは燃焼室3内に燃料を直接噴射するものであってもよい。
【0027】
一方、各気筒の排気ポートは排気マニフォールド14に接続される。排気マニフォールド14は、その上流部をなす気筒毎の枝管14aと、その下流部をなす排気集合部14bとからなる。排気集合部14bの下流側には排気管6が接続されている。排気ポート、排気マニフォールド14及び排気管6により排気通路が形成される。
【0028】
排気管6の上流側と下流側にはそれぞれ三元触媒からなる触媒、すなわち上流触媒11と下流触媒19が直列に取り付けられている。これら触媒11,19は酸素吸蔵能(O2ストレージ能)を有する。すなわち、触媒11,19は、排気ガスの空燃比がストイキ(理論空燃比、例えばA/F=14.6)より大きい(リーンな)ときに排気ガス中の過剰酸素を吸蔵し、NOxを還元する。また触媒11,19は、排気ガスの空燃比がストイキより小さい(リッチな)ときに吸蔵酸素を放出し、排気ガス中のHC,COを酸化する。
【0029】
上流触媒11の上流側及び下流側にそれぞれ排気ガスの空燃比を検出するための第1及び第2の空燃比センサ、即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設置されている。これら触媒前センサ17及び触媒後センサ18は、上流触媒11の直前及び直後の位置に設置され、排気中の酸素濃度に基づいて空燃比を検出する。このように上流触媒11の上流側の排気合流部に単一の触媒前センサ17が設置されている。本実施形態の場合、触媒前センサ17が本発明にいう「空燃比センサ」に該当する。
【0030】
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ16、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
【0031】
スロットルバルブ10にはスロットル開度センサ(図示せず)が設けられ、スロットル開度センサからの信号がECU20に送られる。ECU20は、通常、アクセル開度に応じて定まる目標スロットル開度に、スロットルバルブ10の開度(スロットル開度)をフィードバック制御する。
【0032】
ECU20は、エアフローメータ5からの信号に基づき、単位時間当たりの吸入空気の量である吸入空気量すなわち吸気流量を検出する。そしてECU20は、検出したアクセル開度、スロットル開度および吸入空気量の少なくとも一つに基づき、エンジン1の負荷を検出する。
【0033】
ECU20は、クランク角センサ16からのクランクパルス信号に基づき、クランク角自体を検出すると共にエンジン1の回転数を検出する。ここで「回転数」とは単位時間当たりの回転数のことをいい、回転速度と同義である。本実施形態では1分間当たりの回転数rpmのことをいう。
【0034】
触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能である。図2に触媒前センサ17の出力特性を示す。図示するように、触媒前センサ17は、排気空燃比に比例した大きさの電圧信号Vfを出力する。排気空燃比がストイキであるときの出力電圧はVreff(例えば約3.3V)である。
【0035】
他方、触媒後センサ18は所謂O2センサからなり、ストイキを境に出力値が急変する特性を持つ。図2に触媒後センサ18の出力特性を示す。図示するように、排気空燃比がストイキであるときの出力電圧、すなわちストイキ相当値はVrefr(例えば0.45V)である。触媒後センサ18の出力電圧は所定の範囲(例えば0〜1V)内で変化する。排気空燃比がストイキよりリーンのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより低くなり、排気空燃比がストイキよりリッチのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより高くなる。
【0036】
上流触媒11及び下流触媒19は、それぞれに流入する排気ガスの空燃比A/Fがストイキ近傍のときに排気中の有害成分であるNOx,HCおよびCOを同時に浄化する。この三者を同時に高効率で浄化できる空燃比の幅(ウィンドウ)は比較的狭い。
【0037】
そこで通常運転時、上流触媒11に流入する排気ガスの空燃比がストイキ近傍に制御されるように、空燃比フィードバック制御がECU20により実行される。この空燃比フィードバック制御は、触媒前センサ17によって検出された排気空燃比を所定の目標空燃比であるストイキに一致させるような主空燃比制御(主空燃比フィードバック制御)と、触媒後センサ18によって検出された排気空燃比をストイキに一致させるような補助空燃比制御(補助空燃比フィードバック制御)とからなる。
【0038】
なお、このように目標空燃比をストイキとする空燃比フィードバック制御をストイキ制御という。ストイキは基準空燃比をなす。
【0039】
さて、例えば全気筒のうちの一部の気筒(特に1気筒)のインジェクタ12が故障し、気筒間に空燃比のばらつき(インバランス:imbalance)が発生する場合がある。例えば#1気筒のインジェクタ12が故障し、#1気筒が他の#2、#3及び#4気筒よりも燃料噴射量が多くなり、その空燃比が大きくリッチ側にずれる場合等である。このときでも前述のストイキ制御により比較的大きな補正量を与えれば、触媒前センサ17に供給されるトータルガスの空燃比をストイキに制御できる場合がある。しかし、気筒別に見ると、#1気筒がストイキより大きくリッチ、#2、#3及び#4気筒がストイキより若干リーンであり、全体のバランスとしてストイキとなっているに過ぎず、エミッション上好ましくないことは明らかである。そこで本実施形態では、かかる気筒間空燃比ばらつき異常を検出する装置が装備されている。
【0040】
[ばらつき異常検出の態様]
以下、本実施形態におけるばらつき異常検出の態様を説明する。
【0041】
図3に示すように、気筒間空燃比ばらつきが発生すると、1エンジンサイクル(=720°CA)内での排気空燃比の変動が大きくなる。(B)の空燃比線図a,b,cはそれぞればらつき無し、1気筒のみ20%のインバランス割合でリッチずれ、及び1気筒のみ50%のインバランス割合でリッチずれの場合の、触媒前センサ17による検出空燃比A/Fを示す。見られるように、ばらつき度合いが大きくなるほど空燃比変動の振幅が大きくなる。
【0042】
ここでインバランス割合(%)とは、気筒間空燃比のばらつき度合いに相関する一つのパラメータである。即ち、インバランス割合とは、全気筒のうちある1気筒のみが燃料噴射量ズレを起こしている場合に、その燃料噴射量ズレを起こしている気筒(インバランス気筒)の燃料噴射量がどれくらいの割合で、燃料噴射量ズレを起こしていない気筒(バランス気筒)の燃料噴射量即ち基準噴射量からズレているかを示す値である。インバランス割合をIB、インバランス気筒の燃料噴射量をQib、バランス気筒の燃料噴射量即ち基準噴射量をQsとすると、IB=(Qib−Qs)/Qsで表される。インバランス割合IBが大きいほど、インバランス気筒のバランス気筒に対する燃料噴射量ズレが大きく、空燃比ばらつき度合いは大きい。
【0043】
図3から理解されるように、インバランス割合が大きいほど、すなわち気筒間空燃比のばらつき度合いが大きいほど、触媒前センサ17の出力変動が大きくなる。
【0044】
よってこの特性を利用し、本実施形態では、触媒前センサ17の出力変動度合いに相関する出力変動パラメータXを、気筒間空燃比ばらつき度合いに相関するパラメータとして用い、且つ出力変動パラメータXを算出(あるいは検出)する。そしてこの算出された出力変動パラメータXに基づき、ばらつき異常を検出する。なお、前述のインバランス割合は単に説明目的のためだけに用いる。
【0045】
以下に出力変動パラメータXの算出方法を説明する。図4は図3のU部に相当する拡大図であり、特に1エンジンサイクル内の触媒前センサ出力の変動を簡略的に示す。触媒前センサ出力としては、触媒前センサ17の出力電圧Vfを空燃比A/Fに換算した値を用いる。但し触媒前センサ17の出力電圧Vfを直接用いることも可能である。
【0046】
図4(B)に示すように、ECU20は、1エンジンサイクル内において、所定のサンプル周期τ毎に、触媒前センサ出力A/Fの値を取得する。そして今回(n)のタイミングで取得した値A/Fnと、前回(n−1)のタイミングで取得した値A/Fn-1との差の絶対値(出力差という)ΔA/Fnを次式(1)により求める。この出力差ΔA/Fnは今回のタイミングにおける微分値あるいは傾きと言い換えることができる。
【0047】
【数1】

【0048】
最も単純には、この出力差ΔA/Fnが触媒前センサ出力の変動を表す。変動度合いが大きくなるほど空燃比線図の傾きが大きくなり、出力差ΔA/Fnが大きくなるからである。そこで所定の1タイミングにおける出力差ΔA/Fnの値を出力変動パラメータとすることができる。
【0049】
但し、本実施形態では精度向上のため、複数の出力差ΔA/Fnの平均値を出力変動パラメータとする。本実施形態では、1エンジンサイクルの間、各タイミング毎に出力差ΔA/Fnを積算し、最終積算値をサンプル数Nで除し、1エンジンサイクル内の差ΔA/Fnの平均値を求める。そしてさらに、Mエンジンサイクル分(例えばM=100)だけ出力差ΔA/Fnの平均値を積算し、最終積算値をサイクル数Mで除し、Mエンジンサイクル内の出力差ΔA/Fnの平均値を求める。こうして求められた最終的な平均値を出力変動パラメータXとする。触媒前センサ出力の変動度合いが大きくなるほど出力変動パラメータXは大きくなる。
【0050】
ここで、サンプル周期τはクランク角の単位°CAを有する。サンプル周期τは例えば10°CAとすることができ、この場合、1エンジンサイクル内のサンプル数Nは720/10=72個となる。なおサンプル周期τは他のクランク角とすることもできる。
【0051】
触媒前センサ出力A/Fは増加する場合と減少する場合とがあるので、これら各場合の一方についてだけ上記出力差ΔA/Fnあるいはその平均値を求め、これを出力変動パラメータとしても良い。特に1気筒のみリッチずれの場合、当該1気筒に対応した排気ガスを触媒前センサが受けた時にその出力が急速に減少(リッチ側に変化)する傾向があるので、減少側のみの値をリッチずれ検出のために用いることも可能である。もっとも、これに限定されず、増加側の値のみを用いることも可能である。
【0052】
また、触媒前センサ出力の変動度合いに相関する如何なる値をも出力変動パラメータとすることができる。例えば、1エンジンサイクル内における触媒前センサ出力の最大ピークと最小ピークの差(所謂ピークトゥピーク; peak to peak)、または2階微分値の最大ピークまたは最小ピークの絶対値に基づいて、出力変動パラメータを算出することもできる。触媒前センサ出力の変動度合いが大きいほど、触媒前センサ出力の最大ピークと最小ピークの差は大きくなり、また2階微分値の最大ピークまたは最小ピークの絶対値も大きくなるからである。
【0053】
図5には、インバランス割合IB(%)と出力変動パラメータXの関係を示す。図示されるように、インバランス割合IBと出力変動パラメータXの間には強い相関関係があり、インバランス割合IBの絶対値が増加するほど空燃比変動パラメータXも増加する。
【0054】
算出された出力変動パラメータXを、所定の判定値と比較して、ばらつき異常の有無が判定される。例えば、算出された出力変動パラメータXが判定値以上であればばらつき異常あり(異常)、算出された出力変動パラメータXが判定値より小さければばらつき異常なし(正常)と判定される。
【0055】
ところで、出力変動パラメータXの値は、気筒間空燃比のばらつき度合いのみならず、触媒前センサ17に到達あるいは供給される排気ガス流量に応じても変化する。
【0056】
図6には、出力変動パラメータXと、エアフローメータ5により検出された吸入空気量Gaの関係を示す。図中、白三角および線aはばらつき異常の無い正常な場合を示し、黒丸および線bはばらつき異常の有る異常な場合を示す。図示する関係は、吸入空気量一定という条件下で得られた関係であり、この場合、吸入空気量Gaは、触媒前センサ17に実際に到達した排気ガス流量に等しいとみなせる。
【0057】
図示されるように、正常な場合にも異常な場合にも、出力変動パラメータXは吸入空気量Gaの増加につれ増加する傾向にある。但し、同一吸入空気量の場合、当然ながら、異常時の出力変動パラメータXは正常時の出力変動パラメータXより大きい。
【0058】
そこで、正常時のパラメータ曲線aと異常時のパラメータ曲線bとの間に、正常・異常の境界を定める判定値αを規定する判定値曲線cを設定する。この判定値曲線cも、出力変動パラメータXと同様、吸入空気量Gaの増加につれ増加する傾向にある。
【0059】
これにより、ある吸入空気量の下で算出された出力変動パラメータXに対しては、同一の吸入空気量に対応する判定値曲線c上の判定値αを用い、これらを比較することにより、吸入空気量の影響を加味した正確な判定を実行することができる。
【0060】
本実施形態において、図6に示すような判定値曲線cは、予め実験的に求められ、マップ(または関数、以下同様)の形でECU20に記憶される。但し、詳しくは後述するが、本実施形態においては吸入空気量Gaの代わりに、筒内に流入している空気量である筒内空気量Gcを用いるため、筒内空気量Gcと判定値αの関係を規定する判定値曲線cがECU20に記憶されている。
【0061】
ところで、出力変動パラメータXに実質的に影響を及ぼすのは、吸気通路に設置されたエアフローメータ5により検出された吸入空気量Gaの大きさではなく、触媒前センサ17に実際に到達した排気ガスの流量である。また触媒前センサ17は、これに実際に到達した排気ガスの空燃比を検出している。さらに、筒内の燃焼室3で生成された排気ガスが触媒前センサ17に実際に到達するまでの間に、輸送遅れという時間差が存在する。
【0062】
従来、これらの事項を十分考慮していなかったため、判定値αを適切に設定することが困難であった。このため誤判定の虞があり、十分な検出精度を確保するのが困難であった。
【0063】
以下、この点について図7を用いて説明する。図中(A)は、筒内に流入している(あるいは存在する)空気量である筒内空気量Gcを示す。また(B)は、触媒前センサ17の位置に到達した排気ガスの流量(センサ位置ガス流量という)Geを示す。筒内に流入した空気が混合気となって燃焼し、排気ガスを生成し、この排気ガスが筒内から輸送遅れ時間Lだけ遅れて触媒前センサ17に到達する。このため、筒内空気量Gcとセンサ位置ガス流量Geとの間には、輸送遅れによる時間差があることを除いて、相関関係がある。
【0064】
図示例において、あるサンプル時期nにおける筒内空気量はGcnであり、これより1サンプル周期(τ)前の筒内空気量はGcn-1であり、さらにこれより1サンプル周期前の筒内空気量はGcn-2である。
【0065】
ここで本実施形態を説明する前に、便宜上比較例を説明する。サンプル時期nにおいて、触媒前センサ出力A/Fnの値が取得されると共に、前記式(1)により出力差ΔA/Fnが算出される。
【0066】
一方、サンプル時期nにおいて、触媒前センサ出力A/Fnに対応する対応判定値αnも算出される。対応判定値αnは、詳しくは後述するが、判定値αを決定する際の基礎となる値である。具体的には、複数の対応判定値αnの平均値が判定値αをなす。
【0067】
この比較例において、対応判定値αnは、サンプル時期nにおける筒内空気量Gcnに基づき、図6に示したようなマップから算出される。すなわち、当該マップから筒内空気量Gcnに対応した対応判定値αnが算出される。
【0068】
しかし、サンプル時期nにおける筒内空気量Gcnおよび対応判定値αnは、当該サンプル時期nにおけるセンサ位置ガス流量Genに対応していない。当該センサ位置ガス流量Genに対応するのは、サンプル時期nより輸送遅れ時間Lだけ前の筒内空気量であり、図示例の場合、サンプル時期nより2サンプル周期(2τ)前の筒内空気量Gcn-2である。
【0069】
従って結果的に、サンプル時期nにおいて算出された出力差ΔA/Fnと対応判定値αnは互いに対応しておらず、これが、最終的に算出される判定値αを不適切なものとする原因となる。
【0070】
そこで本実施形態では、サンプル時期nより輸送遅れ時間Lだけ前の時点での筒内空気量、図示例ではサンプル時期nより2サンプル周期前の時点での筒内空気量Gcn-2に基づき、図6に示したようなマップから、サンプル時期nにおける対応判定値αnを算出する。
【0071】
これにより、サンプル時期nにおける出力差ΔA/Fnと対応判定値αnとを互いに対応したものとすることができる。そして最終的に算出される判定値αを適切なものとし、検出精度を向上することができる。
【0072】
また本実施形態によれば、筒内空気量Gcが変化し、これに起因して同一サンプル時期における筒内空気量Gcとセンサ位置ガス流量Geとが対応しなくなる期間IIにおいても、出力差ΔA/Fnに対応した適切な対応判定値αnを算出することができる。よって検出精度向上のみならず、ロバスト性向上、耐誤検出余裕確保、検出機会あるいは検出頻度確保に大変有利である。
【0073】
すなわち、両者が対応する期間Iでは、比較例のように、サンプル時期nにおける筒内空気量Gcnに基づき対応判定値αnを算出しても問題はない。しかし、両者が対応しなくなる期間IIでは、比較例だと前述したようにサンプル時期nの出力差ΔA/Fnに対応した適切な対応判定値αnを得られない。
【0074】
その結果、例えば筒内空気量Gcが増加する加速時には、あるサンプル時期nにおけるセンサ位置ガス流量Genに対して筒内空気量Gcnが相対的に多くなり、これに伴って対応判定値αnも大きくなり、本来異常なのに誤って正常と判定してしまう虞がある。
【0075】
逆に、筒内空気量Gcが減少する減速時には、サンプル時期nにおけるセンサ位置ガス流量Genに対して筒内空気量Gcnが相対的に少なくなり、これに伴って対応判定値αnも小さくなり、本来正常なのに誤って異常と判定してしまう虞がある。
【0076】
しかし、本実施形態だと、両者が対応しなくなる期間IIにおいても両者の対応関係を保つことができ、適切な対応判定値αnを算出することが可能である。その結果、加減速に伴って筒内空気量Gcが変動しても、適切な対応判定値αnを算出することができる。よってロバスト性を向上できると共に、耐誤検出余裕を確保できる。また、ばらつき異常検出は、所定期間内における吸入空気量Ga(これは筒内空気量Gcに相関する)の変動幅が所定値以内という定常運転条件下に限って行われる。本実施形態の場合だと、その吸入空気量Gaの変動幅を比較例よりも大きくすることができ、すなわち筒内空気量Gcの変動を比較例よりも許容することができ、結果的に多くの検出機会あるいは検出頻度を確保できるようになる。
【0077】
ところで、ECU20は、筒内空気量Gcnをサンプル周期τ毎に推定し、この推定したサンプル周期τ毎の筒内空気量Gcnの時系列データを自身のメモリに記憶するようになっている。
【0078】
筒内空気量Gcの推定に関して、ECU20は、エアフローメータ5により検出された吸入空気量Gaに基づいて筒内空気量Gcを推定する。例えばECU20は、あるサンプル時期nにおいて、エアフローメータ5により検出された吸入空気量Gaの値を取得すると共に、この取得した吸入空気量Gaの値に基づいて、当該サンプル時期nまたはその後の所定サンプル時期における筒内空気量Gcを推定または予測する。この推定方法については、マップを使用した方法、モデルを使用して計算する方法など、様々な方法が利用可能であり、当該方法は既に公知あるいは周知であるので詳細な説明を省略する。なお推定に際しては吸入空気量Ga以外のパラメータ(例えばエンジン回転数等)を併せて使用してもよい。
【0079】
図8は、メモリの記憶内容を示す。図示するように、メモリのアドレスAD0には、今回のサンプル時期nに推定された筒内空気量Gcnの値が格納される。メモリのアドレスAD1には、1サンプル周期前の前回のサンプル時期n−1に推定された筒内空気量Gcn-1の値が格納される。同様に、メモリのアドレスAD2には2回前のサンプル時期n−2に推定された筒内空気量Gcn-2の値が格納され、メモリのアドレスADiにはi回前のサンプル時期n−iに推定された筒内空気量Gcn-iの値が格納される。こうして格納された筒内空気量Gcn〜Gcn-iの各値が時系列データをなす。
【0080】
このメモリの記憶内容はサンプル周期τ毎に更新され、常に最新の筒内空気量データがアドレスAD0に格納される。そして最も古いアドレスADiの筒内空気量データはサンプル周期τ毎に消去される。
【0081】
本実施形態では、今回のサンプル時期nにおいて、触媒前センサ出力A/Fnが取得され且つ出力差ΔA/Fnが算出されると共に、K回前のサンプル時期n−Kにおける筒内空気量Gcn-Kの値が時系列データから読み出される。この読み出された筒内空気量Gcn-Kが、今回のサンプル時期nにおける対応空気量GcLnとされる。そしてこの対応空気量GcLnの値に基づいて、今回のサンプル時期nにおける対応判定値αnが算出される。すなわち図6に示したマップから、対応空気量GcLnに対応した対応判定値αnが算出される。
【0082】
Kは例えば2であり、この場合、図8に示すように、2回前のサンプル時期n−2における筒内空気量Gcn-2が対応空気量GcLnとされ、この対応空気量GcLnに基づいて今回のサンプル時期nにおける対応判定値αnが算出される。
【0083】
Kは前記輸送遅れ時間Lを規定する定数である。すなわち、本実施形態では、サンプル周期τと定数Kの積が輸送遅れ時間Lに等しいとみなされる。定数Kは1以上の整数である。こうして輸送遅れ時間Lは、サンプル周期τの整数倍に等しい予め定められた時間とされる。また定数Kを2以上とした場合、輸送遅れ時間Lは、サンプル周期τの複数の整数倍に等しい予め定められた時間とされる。
【0084】
定数Kは、排気ポート入口から触媒前センサ17までの排気通路の長さ、容積、形状等や、排気量等のハード因子に起因してエンジン毎に定まる固有値ないし適合値であり、予め実験的に求められECU20に記憶されている。
【0085】
適合値である定数Kを用い、サンプル周期τのK倍として輸送遅れ時間Lを定めることにより、非常にシンプルな方法で、輸送遅れ時間Lを規定し、輸送遅れ時間Lだけ前の対応空気量GcLnを求め、且つこれを用いて今回サンプル時期nの対応判定値αnを算出することができる。
【0086】
なお、比較例においては、今回のサンプル時期nに当該時期の筒内空気量Gcnに基づき対応判定値αnが算出される。これによって、今回のサンプル時期nにおける触媒前センサ出力A/Fnに対して筒内空気量Gcが対応しなくなり、不適切な対応判定値αnが算出されてしまう。本実施形態においては、今回のサンプル時期nより輸送遅れ時間L=Kτだけ前の時点の筒内空気量Gcn-Kに基づき対応判定値αnが算出されるので、適切な対応判定値αnが算出可能である。
【0087】
ここで、エンジン回転数が高くなるほど、ガス流速が増大し、時間単位での輸送遅れ時間Lが短くなる。しかし、本実施形態ではサンプル周期τをクランク角単位で設定し、輸送遅れ時間Lをサンプル周期τのK倍として規定している。よってこのような回転上昇によるガス流速増大が生じても、これに対応して時間単位での輸送遅れ時間Lを短くすることができる。結局、エンジン回転数やガス流速の変化があっても常に正確な対応空気量GcLnを得、正確な対応判定値αnを算出することができる。
【0088】
なお、定数Kは2に限らず、試験結果に応じて任意な値に設定できる。メモリ中には少なくともKサンプル周期前までのデータを記憶しておけばよく、必ずしも(K+1)サンプル周期以上前のデータを記憶する必要はないが、本実施形態では便宜上(K+1)サンプル周期以上前のデータも記憶している。
【0089】
メモリ中の時系列データに基づき、補完計算により、例えば2.5サンプル周期前の筒内空気量を対応空気量GcLnとして求めることも可能である。この場合、2サンプル周期前の筒内空気量Gcn-2と3サンプル周期前の筒内空気量Gcn-3との平均値を対応空気量GcLnとして求め、これを今回サンプル時期nの対応判定値αnの算出の基礎とする。結局、輸送遅れ時間Lは、必ずしもサンプル周期τの整数倍に等しくなくてもよい。
【0090】
以下、図9を参照して、本実施形態に係るばらつき異常検出ルーチンを説明する。このルーチンはECU20によりサンプル周期τ(°CA)毎に繰り返し実行される。
【0091】
まずステップS101では、異常検出を行うのに適した所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。この前提条件は、例えば次の各条件が成立したときに成立する。
(1)エンジンの暖機が終了している。ECU20は、図示しない水温センサで検出された水温が所定値(例えば75℃)以上であるとき暖機終了と判断する。
(2)触媒前センサ17および触媒後センサ18が活性化している。ECU20は、両センサのインピーダンスがそれぞれ所定の活性温度相当の値になっているとき、両センサが活性化していると判断する。
(3)上流触媒11および下流触媒19が活性化している。ECU20は、別途推定した上流触媒11および下流触媒19の温度がそれぞれ所定の活性温度相当の値になっているとき、両触媒が活性化していると判断する。
(4)エンジンが定常運転中である。
(5)エアフローメータ5により検出された吸入空気量Gaが所定値(例えば20(g/s))以上である。
(6)ストイキ制御中である。
【0092】
前提条件が成立していない場合にはルーチンが終了される。他方、前提条件が成立している場合にはステップS102に進んで異常検出が実質的に開始または実行される。
【0093】
条件(4)に関し、ECU20は、前述したように、所定期間内における吸入空気量Gaの変動幅が所定値以内であるときエンジンが定常運転中であると判断する。この条件(4)が非成立だと異常検出が開始されず、また異常検出の途中で条件(4)が非成立になると異常検出が途中で中止されてしまう。
【0094】
本実施形態によれば、前述したように、吸入空気量Gaの変動に伴って筒内空気量Gcが変動したとしても、その変動中、対応判定値αnを精度良く算出できる。よって吸入空気量Gaの変動幅を比較的大きく設定することができ、異常検出の開始条件および中止条件を緩和し、検出機会あるいは検出頻度をより多く確保することができる。
【0095】
ステップS102において、今回のサンプル時期nないしタイミングにおける触媒前センサ出力A/Fnが取得される。なお触媒前センサ出力A/Fnは触媒前センサ17の出力電圧Vfを空燃比に換算した値である。
【0096】
ステップS103において、今回のタイミングにおけるセンサ出力差ΔA/Fnが前式(1)より算出される。
【0097】
ステップS104において、センサ出力差ΔA/Fnが積算され、すなわち今回のタイミングにおける積算センサ出力差ΣΔA/Fnが次式(2)より算出される。
【0098】
【数2】

【0099】
ステップS105において、今回のタイミングにおける対応空気量GcLnが、図8を参照して説明したように、メモリから読み出される。本実施形態の場合、メモリ中のアドレスAD2に格納された2サンプル周期前の筒内空気量Gcn-2が、今回タイミングの対応空気量GcLnとして読み出される。
【0100】
ステップS106において、今回タイミングの対応空気量GcLnに対応した対応判定値αnが図6に示したマップから算出される。
【0101】
ステップS107において、対応判定値αnが積算され、すなわち今回のタイミングにおける積算対応判定値Σαnが次式(3)より算出される。
【0102】
【数3】

【0103】
ステップS108において、1エンジンサイクルが終了したか否かが判断される。終了してなければルーチンが終了され、終了した場合にはステップS109に進む。
【0104】
ステップS109では、今回の1エンジンサイクル終了時点における最終的な積算センサ出力差ΣΔA/Fnがサンプル数Nで除して平均化され、平均センサ出力差Rmが算出される。
【0105】
そしてステップS110において、平均センサ出力差Rmが積算され、すなわち今回のエンジンサイクル終了時点における積算平均センサ出力差ΣRmが次式(4)より算出される。
【0106】
【数4】

【0107】
同様に、ステップS111において、今回の1エンジンサイクル終了時点における最終的な積算対応判定値Σαnがサンプル数Nで除して平均化され、平均対応判定値Smが算出される。
【0108】
そしてステップS112において、平均対応判定値Smが積算され、すなわち今回のエンジンサイクル終了時点における積算平均対応判定値ΣSmが次式(5)より算出される。
【0109】
【数5】

【0110】
次に、ステップS113において、Mエンジンサイクル(但しMは2以上の整数で、例えば100)が終了したか否かが判断される。終了してなければルーチンが終了され、終了した場合にはステップS114に進む。
【0111】
ステップS114では、Mエンジンサイクル終了時点における最終的な積算平均センサ出力差ΣRmがサイクル数Mで除して平均化され、出力変動パラメータXが算出される。すなわち、複数(N×M個)のセンサ出力差ΔA/Fnの平均値が最終的な出力変動パラメータXとして算出される。
【0112】
同様に、ステップS115では、Mエンジンサイクル終了時点における最終的な積算平均対応判定値ΣSmがサイクル数Mで除して平均化され、判定値αが算出される。すなわち、複数(N×M個)の対応判定値αnの平均値が最終的な判定値αとして決定される。
【0113】
このように、各サンプル時期のセンサ出力A/Fnおよびセンサ出力差ΔA/Fnに対応した対応判定値αnを平均化して判定値αを決定するので、適切な判定値αを決定することができる。
【0114】
次いで、ステップS116において、出力変動パラメータXが判定値αと比較される。
【0115】
出力変動パラメータXが判定値α以上である場合、ステップS117に進んでばらつき異常有り、すなわち異常と判定され、ルーチンが終了される。なお異常判定と同時に、異常の事実をユーザに知らせるべくチェックランプ等の警告装置を起動するのが好ましい。
【0116】
他方、出力変動パラメータXが判定値α未満である場合、ステップS118に進んでばらつき異常無し、すなわち正常と判定され、ルーチンが終了される。
【0117】
以上、本発明の好適な実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。上記の数値はあくまで例示であり、適宜変更が可能である。
【0118】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 内燃機関(エンジン)
2 インジェクタ
3 燃焼室
5 エアフローメータ
6 排気管
11 上流触媒
14 排気マニフォールド
17 触媒前センサ
18 触媒後センサ
20 電子制御ユニット(ECU)
τ サンプル周期
X 出力変動パラメータ
α 判定値
Gc 筒内空気量
L 輸送遅れ時間
αn 対応判定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒内燃機関の排気通路に設けられた空燃比センサと、
前記空燃比センサの出力を所定のサンプル周期毎に取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された複数のセンサ出力から当該センサ出力の変動度合いに相関するパラメータを算出するパラメータ算出手段と、
前記パラメータ算出手段により算出されたパラメータを所定の判定値と比較して気筒間空燃比ばらつき異常の有無を判定する判定手段と、
筒内に流入している空気量である筒内空気量を前記サンプル周期毎に推定する推定手段と、
前記推定手段により推定された前記サンプル周期毎の筒内空気量の時系列データを記憶する記憶手段と、
前記取得手段が前記センサ出力を取得する毎に、この取得時点より輸送遅れ時間だけ前の時点での筒内空気量の値を前記時系列データに基づいて求め、この求めた筒内空気量の値に対応した対応判定値を算出する対応判定値算出手段と、
前記対応判定値算出手段によって算出された複数の対応判定値に基づき前記判定値を決定する判定値決定手段と、
を備えることを特徴とする気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項2】
前記輸送遅れ時間が、前記サンプル周期の整数倍に等しい予め定められた時間である
ことを特徴とする請求項1に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項3】
前記輸送遅れ時間が、前記サンプル周期の複数の整数倍に等しい予め定められた時間である
ことを特徴とする請求項2に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項4】
前記サンプル周期が、クランク角の単位を有する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項5】
前記輸送遅れ時間が、前記筒内から前記空燃比センサに排気ガスが到達するまでの時間である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項6】
前記対応判定値算出手段は、前記筒内空気量の値に対応した対応判定値を所定のマップに従って算出する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項7】
前記判定値決定手段は、前記複数の対応判定値の平均値を前記判定値として決定する
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項8】
前記内燃機関の吸気通路に設けられた吸入空気量検出手段をさらに備え、
前記推定手段は、前記吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量に基づき前記筒内空気量を推定する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−104375(P2013−104375A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249623(P2011−249623)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】