説明

水スラリーおよびその製造方法

【課題】酸化還元可能なナノ粒子と、前記ナノ粒子を被覆する炭素材料からなるナノ複合材料が平均二次粒子径1μm以下で分散した水スラリー、ならびに、安価にかつ簡便な方法により当該水スラリーを製造できる方法を提供する。
【解決手段】茶成分を含有する水溶液に、酸化還元可能なナノ粒子と前記ナノ粒子を被覆する炭素材料からなるナノ複合材料を分散させてなる水スラリーにおいて、分散しているナノ複合材料の平均二次粒子径が1μm以下である水スラリー、ならびに、酸化還元可能なナノ粒子と当該ナノ粒子を被覆する炭素材料とからなるナノ複合材料を含む原料スラリーを粉砕し、粉砕された原料スラリーと茶成分を含有する水溶液とを混合する水スラリーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元可能なナノ粒子と当該ナノ粒子を被覆する炭素材料からなるナノ複合材料を用いた水スラリー、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末状の炭素材料は、電気化学的蓄電デバイスにおける正極および負極の電極、帯電防止を目的とした導電性塗料、着色材料としての水性塗料など、多岐にわたる用途に用いられている。国際公開第2007/044614号パンフレット(特許文献1)には、酸化還元可能なナノ粒子と、当該ナノ粒子を被覆する炭素材料からなるナノ複合材料が開示されている。しかしながら、粉末状の炭素材料の表面は一般に疎水性であり、水への分散が困難である。そこで、炭素材料が安定に水中に均一に分散したスラリーおよびその製造方法が望まれていた。
【0003】
Genki Nakamura et al., 「Green Tea Solution Individually Solubilizes Single-walled Carbon Nanotubes」, Chemistry Letters Vol. 36, No.9 (2007) p.1140-1141(非特許文献1)には、代表的な炭素材料であるカーボンナノチューブを水へ分散するため、カーボンナノチューブを緑茶水溶液に添加後、超音波照射のみにより、カーボンナノチューブを水へ均一に分散させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/044614号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Genki Nakamura et al., 「Green Tea Solution Individually Solubilizes Single-walled Carbon Nanotubes」, Chemistry Letters Vol. 36, No.9 (2007) p.1140-1141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ナノ複合材料は、製法上強固な凝集体を形成しており、茶成分などの添加のみで水中へ平均二次粒子径1μm以下で分散させることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、酸化還元可能なナノ粒子(以下、単に「ナノ粒子」ともいう)と、当該ナノ粒子を被覆する炭素材料からなるナノ複合材料が平均二次粒子径1μm以下で分散した水スラリー、ならびに、安価にかつ簡便な方法により当該水スラリーを製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、茶成分を含有する水溶液に、酸化還元可能なナノ粒子と前記ナノ粒子を被覆する炭素材料からなるナノ複合材料を分散させてなる水スラリーにおいて、分散しているナノ複合材料の平均二次粒子径が1μm以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の水スラリーにおいて、前記炭素材料が層を形成していることが好ましい。この場合、前記炭素材料が形成する層は、その数が2〜1000、その総厚みが1〜200nmであり、かつ、ナノ粒子の径が0.5〜400nmであることがより好ましい。
【0010】
本発明の水スラリーは、ナノ複合材料が、窒素雰囲気下において、室温から、昇温速度10℃/分で昇温して、600℃に到達した時の重量減少率が3重量%以下であることが、好ましい。
【0011】
本発明の水スラリーにおけるナノ複合材料は、以下の(1)及び(2)の工程をこの順で含む製造方法により得られるものであることが、好ましい。
【0012】
(1)酸化還元可能なナノ粒子の存在下、炭素材料前駆体を重合させ、前記ナノ粒子の表面に炭素材料中間体を形成させる工程、
(2)前記炭素材料中間体を炭化して、前記ナノ粒子を被覆する炭素材料を形成し、ナノ複合材料を製造する工程。
【0013】
本発明はまた、上述した本発明の水スラリーを製造する方法であって、酸化還元可能なナノ粒子と当該ナノ粒子を被覆する炭素材料とからなるナノ複合材料を含む原料スラリーを粉砕し、粉砕された原料スラリーと茶成分を含有する水溶液とを混合する水スラリーの製造方法についても提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化還元可能なナノ粒子と、当該ナノ粒子を被覆する炭素材料からなるナノ複合材料を用いた水スラリーでありながら、平均二次粒子径1μm以下で分散された水スラリーを提供することができる。また、当該水スラリーを安価にかつ簡便な方法により製造できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水スラリーは、茶成分の存在下、ナノ複合粒子が平均二次粒子径1μm以下、好ましくは0.02〜0.8μmで水中に分散していることを特徴とする。このように、ナノ複合粒子が平均二次粒子径1μm以下で分散された水スラリーを実現することで、電極材料や導電材料に適用する場合の導電性向上、塗膜形成時の充填性や密着性、硬度向上などの効果が奏される。ここで、水スラリー中で分散しているナノ複合材料の「平均二次粒子径」とは、ナノ複合材料が水中で実際に分散している粒子径を意味し、凝集している場合は、その凝集粒子径を示している。このようなナノ複合材料の平均二次粒子径は、レーザ回折散乱法を用いて算出することができ、具体的には、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置、たとえば、マイクロトラックHRA(リーズ アンド ノースラップ社製)、SALDシリーズ(島津製作所製)、LSシリーズ(ベックマンコールター社製)などを用いて、本発明の水スラリーを水中に添加し、希釈して所定濃度に調整した後測定し、粒度分布曲線を求め、50重量%相当粒子径(D50)として算出された値を指す。
【0016】
本発明に用いられるナノ複合材料は、酸化還元可能なナノ粒子と、ナノ粒子の一部または全部を袋状に被覆する炭素材料とを有するものであり、すなわち0.5nm〜800nm程度であり、その典型的な形状としては粒状が挙げられる。ここで、ナノ複合材料におけるナノ粒子の「酸化還元可能」とは、ナノ粒子を構成する金属原子が電子の授受が可能であるという意味である。ナノ粒子がこのように酸化還元可能であることで、炭素材料前駆体の重合および/または炭素材料中間体の形成および炭化を促進できるという利点がある。
【0017】
本発明におけるナノ複合材料は、以下の(A)の要件を有することが好ましく、さらには、以下の(B)、(C)および(D)の要件を有することがより好ましい。
【0018】
(A)炭素材料が層を形成している、
(B)炭素材料が形成する層の数が2〜1000、好ましくは2〜100である、
(C)炭素材料が形成する層の総厚みが1〜200nm、好ましくは1〜20nmである、
(D)ナノ粒子の径が0.5〜400nm、好ましくは0.5〜200nmである。
【0019】
ここで、炭素材料は、好ましくはグラファイト様の層状、すなわち多層状である。この層はナノ粒子の表面に沿って、湾曲あるいは屈曲していてもよい。
【0020】
また、ナノ複合材料におけるナノ粒子の径が0.5nm未満である場合には、後述するナノ粒子の製造工程において、ナノ粒子同士の凝集を抑制することが困難となる。また、400nmを超える場合、炭素材料の層も含めたナノ複合材料としての粒子径が肥大になり、電極材料や導電性塗料といった用途に対して、見合った効果が得られなくなる虞がある。ナノ粒子の径は、より好ましくは0.5〜50nmの範囲内である。ここで、本発明におけるナノ粒子は、略球状を含む等軸、すなわちアスペクト比が約1である粒子に限らず、棒状、円筒状、角柱状などで長径と短径を有するものも含まれる。ナノ粒子が長径と短径を有する場合は、少なくとも短径が上記範囲内に入っていればよい。本発明におけるナノ粒子としては、略球状を含む等軸の粒子が好ましい。
【0021】
ナノ複合材料において、その形状や、炭素材料が層を形成している場合の層数、炭素層の総厚み、ナノ粒子の径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、測定することができる。なお、ナノ複合材料において、ナノ粒子を内包して周囲に形成される炭素材料の形状、粒径は、ナノ粒子の形状、粒径に依存する部分が大きい。
【0022】
このような本発明におけるナノ複合材料としては、以下の(1)、(2)の工程をこの順で含む製造方法により得られるものを好適に用いることができる。
【0023】
(1)酸化還元可能なナノ粒子の存在下、炭素材料前駆体を重合させ、前記ナノ粒子の表面に炭素材料中間体を形成させる工程、
(2)前記炭素材料中間体を炭化して、前記ナノ粒子を被覆する炭素材料を形成し、ナノ複合材料を製造する工程。
【0024】
まず、工程(1)において、酸化還元可能なナノ粒子は、次のようにして製造される。すなわち、1つもしくは複数のナノ粒子前駆体と1つもしくは複数の分散剤を用い、ナノ粒子前駆体と分散剤とを反応もしくは結合させ、前駆体複合体を形成させる。一般的には、ナノ粒子前駆体と分散剤とを適当な溶媒または分散媒に溶解(このとき得られるものを「複合体溶液」と呼称する)、または、分散(このとき得られるものを「複合体懸濁液」と呼称する)させ、ナノ粒子前駆体と分散剤とが結合することによりこの前駆体複合体が形成される。
【0025】
ナノ粒子前駆体としては、後述する炭素材料前駆体の重合および/または炭素材料中間体の炭化を促進するものであれば特に限定されないが、具体的には、構成元素として、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属元素、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属元素、チタン、ジルコニウムなどの第4族元素、バナジウム、ニオブなどの第5族元素、クロム、モリブデン、タングステンなどの第6族元素、銅、銀、金などの第11族元素、亜鉛、カドミウムなどの第12族元素、アルミニウム、ガリウム、インジウムなどの第13族元素、シリコン、ゲルマニウム、錫、鉛などの第14族元素のほか、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金などの遷移金属元素を挙げることができる。ナノ粒子前駆体としては、これらの元素からなる金属単体、これらの元素を2つ以上含む合金、これらの元素を1つ以上含む金属化合物、または、これらの混合物を挙げることができる。ナノ粒子前駆体は、価数を容易に変化できるという理由から、マンガン、鉄、コバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる1種以上の元素を含むことが好ましく、炭素材料前駆体の重合および/または炭素材料中間体の炭化をより促進できるという理由からは、鉄を含むことがより好ましい。
【0026】
前駆体複合体は、1つもしくは複数の分散剤を含む。この分散剤は、目的とする安定性、大きさ、均一性を有するナノ粒子の生成を促進されるものから選ばれる。分散剤とは種々の有機分子、高分子、オリゴマーなどである。この分散剤は、適当な溶媒または分散媒に溶解もしくは分散させて用いる。
【0027】
ナノ粒子前駆体および分散剤を含む前駆体複合体を溶解または分散させるために用いられる溶媒または分散媒としては、公知の種々の溶媒または分散媒を用いることができる。このような溶媒または分散媒としては、好ましくは、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、メチレンクロライドなどを挙げることができ、また、これらを混合して用いてもよい。
【0028】
上述した溶媒または分散媒中に溶解または分散した前駆体複合体は、溶媒分子または分散媒分子に囲まれた、ナノ粒子前駆体と分散剤とから得られる複合体であると考えられる。複合体溶液または複合体懸濁液中で前駆体複合体を生成させた後、溶媒または分散媒を乾燥などにより除去することにより、乾燥された前駆体複合体を得ることができる。また、この乾燥された前駆体複合体は適当な溶媒または分散媒を加えることで、溶液または懸濁液に戻すこともできる。
【0029】
このようにナノ粒子前駆体と分散剤とを溶媒または分散媒に溶解または分散させて、複合体溶液または複合体懸濁液を調製する場合、複合体溶液または複合体懸濁液の中で、分散剤とナノ粒子前駆体とのモル比を制御できる。
【0030】
また上述のようにして複合体溶液または複合体懸濁液を調製する場合、分散剤は、非常に小さくかつ均一な粒径のナノ粒子の形成を促進させることができる。一般的に、分散剤の存在下でナノ粒子前駆体は1μm以下の大きさとして形成される。好ましくは500nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。
【0031】
複合体溶液または複合体懸濁液においては、ナノ粒子の形成を促進させるための添加物を含んでもよい。添加物しては、たとえば、無機酸や塩基化合物を加えることができる。無機酸としてはたとえば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などが挙げられ、無機塩基化合物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。
【0032】
また、pHを8〜13、好ましくは10〜11の範囲内に調整するために、塩基性物質(たとえば、アンモニア水溶液)を複合体溶液または複合体懸濁液に添加してもよい。複合体溶液または複合体懸濁液を上述した範囲内の高いpH値に調整することで、ナノ粒子前駆体を微細に分離させることができるため、複合体溶液または複合体懸濁液のpHはナノ粒子の粒径に影響を与える。
【0033】
また、ナノ粒子の形成を促進させるための固体物質を複合体溶液または複合体懸濁液に加えてもよい。たとえば、固体物質としてイオン交換樹脂を、ナノ粒子形成時に加えることができる。固体物質は、最終的な複合体溶液もしくは複合体懸濁液から簡単な操作によって除去することができる。
【0034】
典型的には、上記複合体溶液または複合体懸濁液を0.5時間〜14日間混合させることにより、ナノ粒子が得られる。また混合温度は0〜200℃程度である。混合温度は、ナノ粒子の粒径に影響を与える重要な因子である。
【0035】
ナノ粒子前駆体として鉄を用いた場合には、ナノ粒子前駆体としては、典型的には、塩化鉄、硝酸鉄、硫酸鉄などの鉄化合物が挙げられる。ナノ粒子前駆体は、分散剤と反応もしくは結合することにより、ナノ粒子となる。これらの化合物は水系の溶媒に溶解する場合が多い。金属塩を用いたナノ粒子の形成によって、副生成物が生成する。典型的な副生成物としては、金属を用いてナノ粒子を調整したときに出る水素ガスである。典型的な実施態様としては、ナノ粒子は混合工程で活性化されるかもしくは、さらには水素を用いてより還元を行う。
【0036】
ナノ粒子は、安定的に活性なナノ粒子の懸濁液として形成されることが好ましい。ナノ粒子の安定性により、ナノ粒子同士の凝集が抑制される。一部もしくは全てのナノ粒子が沈降したとしても、混合することによって容易に再懸濁化する。
【0037】
上述のようにして得られたナノ粒子は、工程(1)における炭素材料前駆体の重合および/または炭素材料中間体の形成を促進する触媒としての役割を担うことができる。
【0038】
工程(1)において用いられる炭素材料前駆体としては、ナノ粒子を分散できるものであることが好ましい。ナノ粒子を分散させて、当該ナノ粒子の存在下、炭素材料前駆体を重合させることにより、ナノ粒子の表面に炭素材料中間体が形成される。炭素材料前駆体として好適な有機材料としては、分子中に芳香族環を1つもしくは複数有し、重合化のための官能基を有するベンゼンやナフタレン誘導体が挙げられる。重合化のための官能基としては、COOH、C=O、OH、C=C、SO3、NH2、SOH、N=C=Oなどが例示される。
【0039】
好ましい炭素材料前駆体としては、レゾルシノール、フェノール樹脂、メラミン−ホルムアミドゲル、ポリフリフリルアルコール、ポリアクリロニトリル、砂糖、石油ピッチなどが挙げられる。
【0040】
ナノ粒子は、その表面で炭素材料前駆体が重合化するように、炭素材料前駆体と混合される。ナノ粒子は、触媒活性である場合には、当該ナノ粒子の近傍で炭素材料前駆体の重合の開始および/または促進の役割を担うことができる。
【0041】
炭素材料前駆体に対するナノ粒子の量は、炭素材料前駆体が、均一に炭素材料中間体を最大量形成するように設定してもよい。ナノ粒子の量は、用いる炭素材料前駆体の種類にも依存する。炭素材料前駆体とナノ粒子とのモル比は、好ましくは0.1:1〜100:1であり、より好ましくは1:1〜30:1である。このモル比、ナノ粒子の種類、粒径は、得られる炭素材料の厚みなどに影響を与える。
【0042】
ナノ粒子および炭素材料前駆体の混合物は、ナノ粒子の表面に炭素材料中間体が十分に形成されるまで、十分熟成させる。炭素材料中間体を形成させるのに必要な時間は、温度、ナノ粒子の種類、ナノ粒子の濃度、溶液のpH、用いる炭素材料前駆体の種類に依存する。なお、pH調整のためにアンモニアを加えることで、重合の速度を速め、炭素材料前駆体同士の架橋量が増え、効果的に重合できる場合がある。
【0043】
熱により重合可能な炭素材料前駆体は、通常、温度が上昇するほど重合が進む。炭素材料前駆体を重合させる際の温度は、好ましくは0〜200℃であり、さらに好ましくは25〜120℃である。
【0044】
具体的には、炭素材料前駆体としてレゾルシノール−ホルムアルデヒドゲル(鉄粒子を用いる場合で、懸濁液pHが1〜14の場合)を用いる場合、その最適な重合条件は0〜90℃であり、熟成時間は1〜72時間である。
【0045】
工程(2)では、工程(1)で得られた炭素材料中間体を炭化して炭素材料を形成し、ナノ複合材料を得る。炭化は、通常、焼成により行う。典型的には、焼成は、500〜2500℃、好ましくは1000〜2500℃の温度で行う。焼成時には、炭素材料中間体における酸素原子、窒素原子が放出され、炭素原子の再配列が起こり、炭素材料が形成される。このようにして形成された炭素材料は、好ましくはグラファイト様の層状(多層状)であるが、その層数は、炭素材料中間体の種類、厚み、焼成温度により制御できる。また、ナノ複合材料における炭素材料の厚み(層の厚み)は、炭素材料前駆体の重合および/または炭素材料中間体の、炭化の進行度の調整によっても制御できる。
【0046】
上記方法によって得られたナノ複合材料は、水中にスラリーとして懸濁させたときの平均二次粒子径が3〜100μmである。また、スラリー中のナノ複合材料の含有量は、水100重量部に対して1重量部以上50重量部未満である。ナノ複合材料を分散させるための溶媒としては水を用い、必要に応じて、エタノール、メタノール、アセトン、酢酸エチル等の水溶性溶媒を加えてもよい。このときの水溶性溶媒の添加量は、水100重量部に対して0.1〜20重量部の範囲内であることが好ましい。
【0047】
また、上記方法によって得られたナノ複合材料は、BET比表面積(JIS−Z−8830に規定された方法に従った窒素吸着法により測定)が、通常、80〜400m2/gの範囲内であり、好ましくは100〜200m2/gの範囲内である。ナノ複合材料のBET比表面積が80m2/g未満である場合には、ナノ複合材料の一次粒子同士が焼結していることを示唆しており、後述する粉砕によって分散させることが困難となる虞がある。一方、ナノ複合材料のBET比表面積が400m2/gを超える場合には、後述する粉砕を行うことにより得られた水スラリーの粘度が著しく高くなる傾向にある。
【0048】
ナノ複合材料中のナノ粒子の含有量は特に制限はないが、通常は金属原子換算で1000〜200000ppmの範囲内である。
【0049】
本発明におけるナノ複合材料は、窒素雰囲気下において、室温から、昇温速度10℃/分で昇温して、600℃に到達した時の重量減少率が3重量%以下であることが好ましく、2重量%以下であることがより好ましい。後述する比較例4に示すように、上記重量減少率が3重量%を超える場合には、茶成分を添加せずとも分散する。しかしながら、上記重量減少率が3重量%以下である場合には分散性が乏しく、茶成分の添加により分散性が著しく向上し、本発明が特に好適に適用できるためである。
【0050】
本発明は、上述した平均二次粒子径が3〜100μmでナノ複合材料が水中に分散した状態の原料スラリーから、ナノ複合材料が平均二次粒子径1μm以下で分散している状態で存在している本発明の水スラリーを得る水スラリーの製造する方法についても提供する。本発明の水スラリーの製造方法は、酸化還元可能なナノ粒子と当該ナノ粒子を被覆する炭素材料とからなるナノ複合材料を含む原料スラリーを粉砕し、粉砕された原料スラリーと茶成分を含有する水溶液とを混合することを特徴とする。本明細書において「原料スラリー」とは、本発明の水スラリーを製造するための水スラリーであって、ナノ複合材料を含むが、茶成分を含まない水スラリーをいう。
【0051】
ナノ複合材料を懸濁させた原料スラリーの粉砕は、ボールミル、高速回転粉砕機、媒体撹拌ミルなどの粉砕装置を用いて行うことができる。粉砕に用いる媒体としては、アルミナ、ジルコニアなどの公知の媒体を用いることができる。
【0052】
上記原料スラリーを粉砕装置により粉砕する時間は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜5時間である。粉砕時間が0.1時間未満では、ナノ複合材料同士の強い凝集を弱めるための十分な粉砕エネルギーを加えることが困難となる虞がある。一方、粉砕時間を5時間よりも長くしても、処理時間に見合った効果を得ることはできない。
【0053】
本発明の水スラリーの製造方法では、粉砕後の原料スラリーに、茶成分を含有する水溶液を混合する。ここで、本発明における「茶成分」とは、烏龍茶、緑茶、紅茶などの茶の葉および/または茎を、所定の温度で水や含水エタノール、エタノール、含水メタノール、メタノール、アセトン、酢酸エチルなどの水溶性溶媒と接触させることによって抽出された抽出物を指す。茶成分の抽出に用いる溶媒は、上述した中から選ばれる2つ以上を混合させた溶媒を用いてもよい。茶成分の抽出量は、溶媒と茶葉および/または茶茎との配合比に影響されるが、通常、溶媒100重量部に対して、茶葉および/または茶茎0.01〜5重量部であり、茶成分の抽出量が平衡に達するまで抽出させることが好ましい。
【0054】
このような抽出によって得られる茶成分には、村松 敬一郎 編著「茶の科学」P.85〜93に記載されている化合物、例えばカテキン類(カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート)やタンニン類などの、ポリフェノール類が主に含有される。
【0055】
茶成分を含有する水溶液の混合量は、粉砕後の原料スラリー100重量部に対し1〜200重量部の範囲内であることが好ましく、5〜100重量部の範囲内であることがより好ましい。茶成分を含有する水溶液の混合量が粉砕後の原料スラリー100重量部に対し1重量部未満である場合には、ナノ複合材料を所望の粒子径に分散させるのに十分な茶成分を供給できないため、水中での分散粒子径が大きくなる傾向にあるためであり、また、200重量部を超える場合には、添加量に見合った効果が得られないという傾向にあるためである。
【0056】
本発明の製造方法にしたがってナノ複合材料を含有する原料スラリーを粉砕した後、茶成分を含有する水溶液を添加することで、茶成分を含有する水溶液中に、ナノ複合材料が平均二次粒子径1.0μm以下で分散している状態で存在している水スラリーを製造することができる。これに対し、粉砕前のナノ複合材料を含有する原料スラリーに茶成分を添加し、これを粉砕したとしても、ナノ複合材料が平均二次粒子径1.0μm以下で分散している状態で存在する水スラリーを得ることはできない。
【0057】
本発明の水スラリーの用途については特に限定されないが、従来公知のカーボンブラックを含有する水スラリーと同様の用途に好適に適用することが可能であり、該水スラリーを基板に塗布、もしくは樹脂や無機粉末、他の水スラリーと複合化させることにより、リチウム二次電池用、非水系キャパシタ用および燃料電池用などの電極材料や導電材料、導電塗料、ハードコート材料、水性塗料、空気入りタイヤなどのゴム製品製造用のウェットマスターバッチなどの幅広い用途に適用することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
BET比表面積117m2/g、平均二次粒子径16μm、Fe含有量8440ppm、窒素雰囲気下において、室温から、昇温速度10℃/分で昇温して、600℃に到達した時の重量減少率が0.8重量%のナノ複合材料粉末30重量部を純水970重量部に加え、撹拌して原料スラリーを得た。この原料スラリー100重量部と直径0.1mmのジルコニアビーズ150mlとを湿式媒体ミル(サンドグラインダー、アイメックス社製(内容積:400ml))に仕込み、回転速度2000rpmで60分間粉砕処理を行った。粉砕後、目開き75μmの篩でジルコニアビーズと原料スラリーを篩別した。
【0060】
市販の乾燥茶葉(くき茶、有限会社脇製茶場製)3gを目開き850μmのSUS製篩上に広げ、75℃の純水1Lを注ぎ、茶成分を抽出した(抽出時間:3分)。その後、目開き42μmのSUS製篩で固形分を除去し、茶成分を含有する水溶液を調製した。なお、この水溶液の液色はL値:95.8、a値:−0.9、b値:5.15であった。
【0061】
上記原料スラリーと、茶成分を含有する水溶液とを重量比1:1で混合し、300Wの超音波発生装置にて5分間超音波処理を行った。得られた水スラリー中の、ナノ複合材料の平均二次粒子径は0.50μmであった。
【0062】
なお、上述した平均二次粒子径は、レーザ散乱式粒度分布計(マイクロトラックHRA、リーズ アンド ノースラップ社製)を用いて、水スラリーを水中に添加し、希釈して所定濃度に調整した後測定し、粒度分布曲線を求め、50重量%相当粒子径(D50)として算出された値を指す。また上述したBET比表面積は、JIS−Z−8830に規定された方法に従って、窒素吸着法により算出した値を指す。また、上述した茶成分を含有する水溶液の液色(L値、a値、b値)は、ガラスセルに当該水溶液を入れ、測色色差計(ZE−2000、日本電色工業株式会社製)を用いて2回測定し、その値の算術平均値を算出して得られた値を指す。
【0063】
上述した重量減少率は、熱重量示差熱同時測定装置(TG/DTA300、セイコー電子製)を用いて、窒素流量200ml/分、ナノ複合材料粉末を8.0mg、リファレンスとしてα−Al23を10mg、それぞれ白金セルに仕込み、上蓋の無い状態で室温から800℃まで10℃/分の速度で加熱を行い、TG曲線を測定し、室温から600℃に到達した時点までの重量減少量をもとに算出した。
【0064】
<比較例1>
茶成分を含有する水溶液を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行い、ナノ複合材料を含有する水スラリーを調製した。水スラリーと純水とを重量比1:1で混合し、300Wの超音波発生装置にて5分間超音波処理を行った。得られた水スラリー中のナノ複合材料の平均二次粒子径(実施例1と同様にして測定)は6.8μmであった。
【0065】
<比較例2>
実施例1で用いたナノ複合材料粉末30重量部を、実施例1で調製した茶成分を含有する水溶液970重量部に混合した後に、実施例1と同様の方法で粉砕して、ナノ複合材料を含有する水スラリーを得た。水スラリーと純水とを重量比1:1で混合し、300Wの超音波発生装置にて5分間超音波処理を行った。得られたスラリー中の、ナノ複合材料の平均二次粒子径(実施例1と同様にして測定)は6.2μmであった。
【0066】
<比較例3>
実施例1で用いたナノ複合材料粉末30重量部を純水970重量部に加え、撹拌して得た水スラリーに、実施例1と同様の茶成分を含有する水溶液を重量比1:1で混合し、300Wの超音波発生装置にて5分間超音波処理を行った。得られた水スラリー中の、ナノ複合材料の平均二次粒子径の平均二次粒子径は14μmであった。
【0067】
結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
<比較例4>
BET比表面積106m2/g、平均二次粒子径16μm、Fe含有量7444ppm、窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で昇温したときの、600℃到達時の重量減少率が3.7重量%のナノ複合材料粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で粉砕を行ない、茶成分を含有しない水スラリーを得た。
【0070】
300Wの超音波発生装置にて5分間超音波処理を行った。得られた水スラリー中の、ナノ複合材料の平均二次粒子径は0.47μmであった。
【0071】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものでは
ないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲に
よって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれるこ
とが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶成分を含有する水溶液に、酸化還元可能なナノ粒子と前記ナノ粒子を被覆する炭素材料からなるナノ複合材料を分散させてなる水スラリーにおいて、
分散しているナノ複合材料の平均二次粒子径が1μm以下である水スラリー。
【請求項2】
前記炭素材料が層を形成している、請求項1に記載の水スラリー。
【請求項3】
前記炭素材料が形成する層は、その数が2〜1000、その総厚みが1〜200nmであり、かつ、ナノ粒子の径が0.5〜400nmである、請求項2に記載の水スラリー。
【請求項4】
ナノ複合材料は、窒素雰囲気下において、室温から、昇温速度10℃/分で昇温して、600℃に到達した時の重量減少率が3重量%以下である請求項1に記載の水スラリー。
【請求項5】
ナノ複合材料が、以下の(1)及び(2)の工程をこの順で含む製造方法により得られるものである、請求項1に記載の水スラリー。
(1)酸化還元可能なナノ粒子の存在下、炭素材料前駆体を重合させ、前記ナノ粒子の表面に炭素材料中間体を形成させる工程、
(2)前記炭素材料中間体を炭化して、前記ナノ粒子を被覆する炭素材料を形成し、ナノ複合材料を製造する工程。
【請求項6】
請求項1に記載の水スラリーを製造する方法であって、
酸化還元可能なナノ粒子と当該ナノ粒子を被覆する炭素材料とからなるナノ複合材料を含む原料スラリーを粉砕し、粉砕された原料スラリーと茶成分を含有する水溶液とを混合する、水スラリーの製造方法。

【公開番号】特開2011−28848(P2011−28848A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158810(P2009−158810)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】