説明

水不溶性色材の分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置

【課題】水不溶性色材微粒子の一次粒子を極めて微細なものとし、かつ分散安定性が高く、しかも保存安定性が非常に高く長時間の貯蔵が可能な水不溶性色材分散体の提供。
【解決手段】水不溶性色材の微粒子と水性媒体と高分子化合物とを含有する水不溶性色材分散体であって、前記高分子化合物が、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸基をもつ親水性部位をなす重合性化合物と、置換基を有しても疎水性部位をなすスチレン重合性化合物と、下記一般式(I)で表されるスチレン重合性化合物とを重合してなる高分子化合物である水不溶性色材分散体。


〔環AはNを含むヘテロ環基であり、該ヘテロ環基にさらに環構造基を有してもよい。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水不溶性色材の分散体及びこの製造方法、これを用いた記録液、インクセット、印画物、画像形成方法、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、高速記録が可能であり、描画パターンの自由度が高く、記録時の騒音が少ない。また、低コストで画像記録が可能であり、さらにはカラー記録が容易である等の利点がある。そのため今日においては急速に普及しさらに発展しつつある。この記録液として従来、水溶性染料を水性媒体に溶解させた染料インクが広く用いられてきた。しかし、染料インクは印刷物の耐水性や耐候性に劣るため、これを改善しうる顔料インクが検討されている。
【0003】
ところで顔料インクは、通常水に不溶性の顔料を水性媒体に分散して得られる。そして一般的には、顔料および各種界面活性剤や水溶性高分子などを分散剤として、それらを単独あるいは併用して水性溶媒に添加し、サンドミル、ビーズミル、ボールミルなどの分散機を使用して粉砕し、顔料粒子径を微細化する方法が採用されている(特許文献1、2参照)。また、着色力や耐候性の向上を考慮し顔料を固溶体化することが提案されている(特許文献3参照)。その他、アルカリ存在下の非プロトン性有機溶媒中に、有機顔料と高分子分散剤、または分散剤として高分子化合物を溶解させた後、この溶液と水とを混合させ顔料分散液を調製する方法(以下、前記方法をビルドアップ法と記述する。)、またそこに用いられる所定の高分子化合物等の検討がなされている(特許文献4〜7参照)。しかしこれら手法により作製された顔料分散液は、保存時に一次もしくは二次粒子径の増大がおきやすく、十分な保存安定性があるとは言えず、さらなる保存安定性の改良が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開2006−57044号公報
【特許文献2】特開2006−328262号公報
【特許文献3】特開昭60−35055号公報
【特許文献4】特開2003−26972号公報
【特許文献5】特開2004−43776号公報
【特許文献6】特開2006−342316号公報
【特許文献7】特開2007−119586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水不溶性色材微粒子の一次粒子が極めて微細なものであり、かつ分散安定性が高く、しかも保存安定性が非常に高いため所望の性能を維持して長期にわたり貯蔵しうる水不溶性色材分散体、及びこれを効率良く得ることができる水不溶性色材分散体の製造方法の提供を目的とする。また、上記の優れた特性を有する水不溶性色材分散体を用いた記録液、インクセット、画像形成方法、及び画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)水不溶性色材の微粒子と水性媒体と高分子化合物とを含有する水不溶性色材分散体であって、前記高分子化合物が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも一種類以上の酸基をもつ重合したときに親水性部位をなす重合性化合物と、置換基を有してもよい重合したときに疎水性部位をなすスチレン重合性化合物と、下記一般式(I)で表されるスチレン重合性化合物とを重合してなることを特徴とする水不溶性色材分散体。
【0007】
【化1】

〔式(I)中、環Aは窒素原子を含むヘテロ環基である。該ヘテロ環基Aはさらに環置換基を有していてもよく、又は他の環と縮環してもいてもよい。〕
(2)さらに無機もしくは有機塩基を含有することを特徴とする(1)に記載の水不溶性色材分散体。
(3)上記無機もしくは有機塩基が、下記一般式(II)又は(III)で表される相間移動型塩基であることを特徴とする(2)に記載の水不溶性色材分散体。
【0008】
【化2】

〔式(II)及び(III)中R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアルキルアリール基である。nは1〜4の整数である。〕
(4)前記酸基がカルボン酸基であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
(5)前記水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
(6)無機もしくは有機塩基の存在下で有機溶剤に高分子化合物と水不溶性色材とを共溶解させ、その溶解液を水性媒体と混合し、前記水不溶性色材の微粒子を生成させる水不溶性色材分散体の製造方法であって、前記高分子化合物が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、及び水酸基からなる群より選ばれる一種類以上の酸基をもつ重合したときに親水性部位をなす重合性化合物と、置換基を有してもよい重合したときに疎水性部位をなすスチレン重合性化合物と、下記一般式(I)で表されるスチレン重合性化合物とを重合させてなることを特徴とする水不溶性色材分散体の製造方法。
【0009】
【化3】

〔式(I)中、環Aは窒素原子を含むヘテロ環基である。該ヘテロ環基Aはさらに環置換基を有していてもよく、又は他の環と縮環してもいてもよい。〕
(7)前記水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる郡より選ばれる有機顔料であることを特徴とする(6)に記載の水不溶性色材分散体の製造方法。
(8)(6)又は(7)に記載の製造方法で得た、前記水不溶性色材の微粒子、前記水性媒体、及び前記高分子化合物を含有する水不溶性色材分散体。
(9)(1)〜(5)及び(8)のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体中の水不溶性色材の微粒子を、記録液全質量の0.1〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
(10)前記記録液がインクジェット用記録液である(9に記載の記録液。
(11)(10)に記載のインクジェット用記録液を用いたインクセット。
(12)(9)もしくは(10)に記載の記録液、又は(11)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物であって、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物。
(13)(9)もしくは(10)に記載の記録液、又は(11)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
(14)(9)もしくは(10)に記載の記録液、又は(11)に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水不溶性色材分散体は、分散体中の水不溶性色材微粒子の一次粒子が極めて微細であり、かつ分散安定性が高く、しかも保存安定性が非常に高いため長期にわたり所望の性能を維持した貯蔵が可能である。また本発明の製造方法によれば、上記の優れた特性を有する水不溶性色材の分散体を効率良く得ることができる。さらに上記水不溶性色材分散体を用いた記録液、インクセット、画像形成方法、及び画像形成装置によれば、インク吐出性が良好であり透明性の高い画像形成を精度良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の水不溶性色材分散体について、その好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。
まず、本発明で使用するヘテロ環基をもち、かつ酸基を有する高分子化合物(以下、「ヘテロ環基をもつ酸基含有高分子化合物」又は単に「特定の高分子化合物」ということがある。)について、これを構成する前駆体、つまりその重合前の各重合性化合物について説明する。
【0012】
本発明においては、上記重合性化合物として、酸基をもち重合したのちに親水性部位(親水性基をもつ繰り返し単位)をなす重合性化合物(重合性化合物[i])を用いる。具体的には、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、アルケニルスルホン酸、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、ビニルホスホン酸、フェノール及びその誘導体等が挙げられる。ただし本発明における酸基はこれに限定されるものではなく、一般的に強塩基として使用される水酸化ナトリウムや水酸化カリウムにより水中でプロトン脱離し、イオン化しうる官能基全般を酸基として使用してもよい。
酸基としてより好ましくはカルボン酸基、スルホン酸基であり、さらに好ましくはカルボン酸基である。さらに、本発明の上記ヘテロ環構造を持つ酸基含有高分子化合物が持つ酸価のより好ましい範囲は100mgKOH/g〜300mgKOH/gであり、さらに好ましくは140mgKOH/g〜240mgKOH/gである。
【0013】
本発明の水不溶性色材分散体に用いられる上記特定の高分子化合物をなす重合性化合物として、さらに、置換基を有してもよい重合したのちに疎水性部位(親水性基をもたない繰り返し単位)をなすスチレン重合性化合物(重合性化合物[ii])を用いる。上記具体的には、スチレン、α―メチルスチレン及びその誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体が挙げられる。置換基として特に制限はないが非親水性の基、すなわち水素結合性の低い官能基群であり、具体的には、アルキル基、アルコキシ基、アルキルケトン基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、アリール基、アルキルアリール基が挙げられる。
【0014】
本発明の水不溶性色材分散体に用いられる上記特定の高分子化合物をなす重合性化合物として、さらに、上記一般式(I)で表されるスチレン重合性化合物(重合性化合物[iii])を用いる。
一般式(I)におけるヘテロ環基Aは炭素原子の他に窒素原子を有するが、さらに酸素原子及び/又は硫黄原子を有していてもよい。また、ヘテロ環基Aは、4〜7員環が好ましく、より好ましくは5員環又は6員環である。またヘテロ環基Aは置換基を有してもよく、さらに他の環(例えば、シクロアルキル、アリール基、ヘテロアリール基)が縮環していてもよい。
【0015】
ヘテロ環基Aとして具体的には、カルバゾール、アクリドン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、ピロール、インドール、ベンズオキサゾール、ベンゾチオキサゾール、フタルイミド等が挙げられる。
【0016】
本発明の分散体に用いられる上記ヘテロ環基をもつ酸基含有高分子化合物は、上記3種の重合性化合物[i]〜[iii]を重合してなる共重合体である。ただしこれらの重合性化合物以外に、各種親水性モノマー成分、疎水性モノマー成分等を共重合成分として用いることができる。このようにさらに別の共重合性分を導入することにより、上記3種の重合性化合物の組合せだけではなく、上記特定の高分子化合物に多様な親疎水性/その他物性を付与することができ、その他成分の種類や量を変えて併用することでその調整が可能となり好ましい。上記ヘテロ環基をもつ酸基含有高分子化合物における各重合性化合部の重合比は特に限定されないが、重合性化合物[i]がなす繰り返し単位の組成比nが10〜50(質量組成比)であることが好ましく、20〜40(質量組成比)であることがより好ましい。重合性化合物[ii]がなす繰り返し単位の組成比1は20〜60(質量組成比)であることが好ましく、30〜50(質量組成比)であることがより好ましい。重合性化合物[iii]がなす繰り返し単位の組成比mは0〜75(質量組成比)であることが好ましく、5〜45(質量組成比)であることがより好ましく、5〜25(質量組成比)であることが特に好ましい。
【0017】
上記ヘテロ環基をもつ酸基含有高分子化合物が分散体中で水不溶性色材微粒子の分散安定性を高め、しかも保存安定性を向上させる要因は明らかでない。推定を含めていうと、上記高分子化合物が分散剤として機能するとき、水性媒体との関係で分散体中の当該高分子化合物の溶解度が低下し微粒子表面に析出したようになることで吸着力が高まることが挙げられる。あるいは、微粒子内に上記特定の高分子化合物のヘテロ環構造部位が取り込まれながら粒子形成が行われ、その影響で吸着力が高まることが考えられる。すなわち、上記特定の高分子化合物は微粒子表面において特有の吸着状態となるため、分散体中で該高分子化合物と水性媒体ないしは水不溶性色材とが相互に作用し、極めて高い分散安定性及び保存安定性が実現されると考えられる。
【0018】
例えば、疎水性モノマー成分としては、炭素数8以上の長鎖アルキル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の疎水性ユニットを構造単位にして有するモノマー成分が挙げられる。水不溶性色材に高い分散安定性を付与する観点からはやステアリルメタクリルアミド等を疎水性モノマーとしての繰り返し単位に有するブロックセグメントが好ましいが、疎水性モノマー成分はこれに限定されない。
【0019】
また、親水性モノマー成分としては、アルキレンオキサイド基を有するアクリル酸エステル/メタクリル酸エステル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール等が挙がられるが、本発明の親水性モノマー成分はこれに限定されるものではない。
【0020】
本発明の分散体に含まれる上記特定の高分子化合物の量は特に限定されないが、水不溶性色材100質量部に対して10〜100質量部であることが好ましく、20〜50質量部であることがより好ましい。
上記高分子化合物の分子量は特に限定されないが質量平均分子量で5,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることがより好ましい。なお本発明において単に分子量というときには質量平均分子量を意味し、また質量平均分子量は、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定されるポリエスチレン換算の平均分子量である。
【0021】
本発明において「分散体」とは、所定の微粒子が媒体中に分散した組成物をいい、その形態は特に限定されず、液状の組成物(分散液)、ペースト状の組成物、及び固体状の組成物を含む意味に用いる。また上記特定の高分子化合物は分散剤として、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。なお、本発明の分散体においては、水不溶性色材の微粒子の中に上記特定の高分子化合物が含まれていても、分散体中で微粒子とは別に上記特定の高分子化合物が共存していてもよい。あるいは、上記特定の高分子化合物の一部が微粒子に吸着し、解離平衡状態になっているような含有形態でもよい。このことは、上記高分子化合物以外の成分、例えば後述する相間移動塩基等についても同様である。
【0022】
本発明で使用されるヘテロ環基を持つ酸基含有高分子化合物として、特に好ましい一般式構造を以下に示す。
【0023】
【化4】

式中、R101〜R103は水素またはメチル基である。R104〜R118は置換もしくは非置換のアルキル、アルコキシ、ハロゲン、ヒドロキシ、チオアルコキシ、エステル、アミド、ケトン、シアノ、アリール、ヘテロアリールであり、各々でそれぞれ互いに結合し脂肪族性または芳香族性の環を形成することができる。
YはO、S、−(C=O)−、NR119を表し、R119は水素、置換または非置換のアルキル、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール基である。
Zは、置換基を有してもよいヘテロ環基を示し、置換基としてはアルキル、アルコキシ、ケトン、ハロゲン、ヒドロキシ、チオアルコキシ、エステル、アミド、ケトン、シアノ、アリール、ヘテロアリール基のいずれかを有し、あるいは縮環して構成される。
l、m、nは高分子の質量組成比を表し、l+m+n=100となる範囲で任意に選択可能である。l,m,nの好ましい範囲は先に述べたものと同様である。
【0024】
次に、好ましい構造を有するヘテロ環構造を持つ酸基含有高分子化合物として、下記の例示化合物(D−1)〜(D−20)を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。式中、Hexはヘキシル基を表し、Bnはフェニル基を表す。
【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
【化7】

【0028】
本発明の水不溶性色材分散体には、さらに無機もしくは有機塩基を含有させてもよい。この無機もしくは有機塩基は相間移動型塩基であることが好ましく、具体的にはアルキルアンモニウム誘導体、アルキルスルホニウム誘導体、アルキルホスホニウム誘導体が挙げられる。相間移動型塩基としては、ClogP値が負となる構造のものが好ましく、さらには−2より負であることが好ましい。ここでClogP値とは、化合物の1−オクタノール中及び水中における化合物の平衡濃度間の比率を示す1−オクタノール/水分配係数Pの常用対数値をいう。このClogP値は、化合物の化学構造に基づくフラグメントアプローチ(A. Leo, Comprehensive Medical Chemistry, Vol.4; C. Hansch, P. G. Sammens, J. B. Taylor and C. A. Ramden, Eds., p.295, Pergramon Press, 1990)等によって決定され、デイライト・ケミカル・インフォメーション・システム社から入手し得る“CLOGP”プログラムで計算された値で定義可能である。
【0029】
上記相間移動型塩基としては、前記一般式(II)又は(III)で表されるものが好ましい。特に好ましくはコリンヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド等が上げられるが、本発明で使用される相間移動塩基はこれに限定されるものではない。
【0030】
前記無機もしくは有機塩基の使用割合は特に限定されるものではないが、水不溶性色材とのモル比で1.0〜100モル当量であることが好ましく、1.5〜50モル当量であることがより好ましく、2.0〜20モル当量であることが特に好ましい。また、水不溶性色材分散体中の上記特定の高分子化合物に対しては、該高分子が持つ酸基1モル当量に対し、0.5〜10モル当量であることが好ましく、0.8〜5モル当量であることがより好ましく、0.9〜1.5モル当量であることが特に好ましい。
【0031】
本発明の分散体において水不溶性色材として用いることのできる有機顔料としては、色相ないし構造について特に限定されるものではなく、例えば、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、アゾ化合物顔料、インダントロン化合物顔料、インダンスレン化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、キノキサリンジオン化合物顔料、金属錯体アゾ化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ナフトールAS化合物顔料、チオインジゴ化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0032】
更に詳しくは、例えば、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントバイオレット29等のペリレン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ43、もしくはC.I.ピグメントレッド194等のペリノン化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、もしくはC.I.ピグメントレッド209のキナクリドン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントオレンジ48、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49等のキナクリドンキノン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー147等のアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド168等のアントアントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントバイオレット32、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ62、もしくはC.I.ピグメントレッド185等のベンズイミダゾロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー128)、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントオレンジ34、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントイエロー219、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド242、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23等のジスアゾ縮合化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー83、もしくはC.I.ピグメントイエロー188等のジスアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントオレンジ64、もしくはC.I.ピグメントレッド247等のアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60等のインダンスレン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー138等のキノフタロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー213等のキノキサリンジオン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー129、もしくはC.I.ピグメントイエロー150等の金属錯体アゾ化合物顔料、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントグリーン37、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー75、もしくはC.I.ピグメントブルー15(15:1、15:6等を含む)等のフタロシアニン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー56、もしくはC.I.ピグメントブルー61等のトリアリールカルボニウム化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット23、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37等のジオキサジン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド177等のアミノアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187、もしくはC.I.ピグメントレッド170等のナフトールAS化合物顔料、C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントオレンジ66等のイソインドリン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61等のイソインドリノン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ40、もしくはC.I.ピグメントレッド216等のピラントロン化合物顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31等のイソビオラントロン化合物顔料が挙げられる。
【0033】
なかでも水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、モノアゾイエロー有機顔料であることが好ましい。
【0034】
本発明の分散体において、分散体中の水不溶性色材の含有量は特に限定されず、インクとしての利用を考慮したとき、例えば0.01〜30質量%であることが好ましく、1.0〜20質量%であることがより好ましく、1.1〜15%であることが特に好ましい。また、本発明の水不溶性色材分散体は水性媒体を含有するが、その含有量を水の含有量としていうと、例えばインクとしての利用を考慮したとき、0.01〜30質量%であることが好ましく、1.1〜15質量%であることがより好ましい。
【0035】
本発明における分散体は高濃度であっても分散体を低粘度に維持することができる。例えば記録液として用いる場合、高濃度であっても低濃度であれば記録液に使用できる添加剤の種類や添加量の自由度が増すため、本発明の分散体を記録液として好適に用いることができる。
【0036】
本発明の水不溶性色材分散体は、有機溶剤に無機もしくは有機塩基の存在下で水不溶性色材と前記ヘテロ環基を持つ酸基含有高分子化合物とを共溶解させ、その溶解液(以下、「水不溶性色材溶液」ということがある。)を水性媒体と混合し、前記水不溶性色材の微粒子を生成させる本発明の製造方法により好適に製造することができる。
【0037】
本発明の製造方法に用いられる有機溶剤としては、非プロトン性有機溶媒、プロトン性有機溶媒のいかなる種類もが使用可能である。ただしアルカリ存在下で水不溶性色材および高分子化合物を溶解させる有機溶剤としては、好ましくは非プロトン性有機溶剤であり、より好ましくはジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、スルホラン等である。また、これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0038】
上記有機溶剤の水不溶性色材溶液中の含有量は特に限定されないが、水不溶性色材をより良好な溶解状態とする際には、水不溶性色材1質量部に対して2〜500質量部、さらには5〜100質量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0039】
ヘテロ環基を持つ酸基含有高分子化合物を水不溶性色材とともに共溶解した溶解液中に含有させる量は、分散体としたときの均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、水不溶性色材100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、1〜500質量部の範囲であることがより好ましく、10〜250質量部の範囲であることが特に好ましい。
【0040】
本発明の水不溶性色材分散体の製造方法においては、水不溶性色材等を溶解した溶解液と水性媒体とを混合する。本発明において、水性媒体とは、水単独または水に可溶な有機溶媒の混合溶媒である。このとき有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一な分散状態に保つのに水のみでは不十分な場合や、塩基による凝集体分散工程の加速などに用いることが好ましい。具体的に使用できる有機溶剤としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、水不溶性色材分散体中における水の量は99〜20質量%となるようにすることが好ましく、は95〜30質量%とすることがより好ましい。分散体中の上記の水溶性有機溶媒の量は50〜0.1質量%とすることが好ましく、は30〜0.05質量%とすることがより好ましい。
【0041】
本発明の製造方法においては、水不溶性色材を上記特定の高分子化合物とともに有機溶剤に溶解するが、これに加えて、有機溶剤には結晶成長防止剤や紫外線吸収剤、酸化防止剤、樹脂添加物、界面活性剤などの少なくも1種を必要に応じて添加することができる。
【0042】
結晶成長防止剤としては、当該技術分野においてよく知られているフタロシアニン誘導体やキナクリドン誘導体が挙げられ、例えばフタロシアニンのフタルイミドメチル誘導体、フタロシアニンのスルホン酸誘導体、フタロシアニンのN−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、フタロシアニンのN−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体、キナクリドンのフタルイミドメチル誘導体、キナクリドンのスルホン酸誘導体、キナクリドンのN−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、キナクリドンのN−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体等が挙げられる。
【0043】
紫外線吸収剤としては、金属酸化物、アミノベンゾエート系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シンナメート系紫外線吸収剤、ニッケルキレート系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ウロカニン酸系紫外線吸収剤およびビタミン系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0044】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、チオアルカン酸エステル化合物、有機リン化合物、芳香族アミン等が挙げられる。
【0045】
樹脂添加物としては、アニオン変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース、ポリエステル、ポリアリルアミン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メラミン樹脂あるいはこれらの変性物等の合成樹脂などが挙げられる。これらの結晶成長防止剤や紫外線吸収剤、樹脂添加物はいずれも1種類単独でまたは2種類以上を併用して使用することができる。
【0046】
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸塩、高級アルキルスルホンアミドのアルキルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン性界面活性剤、また、この他にもアルキルベタインやアミドベタインなどの両性界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッソ系界面活性剤などを含めて、従来公知である界面活性剤およびその誘導体から適宜選ぶことができる。
【0047】
本発明の製造方法においては、水不溶性色材溶液を水性媒体と混合して水不溶性色材の微粒子を生成させるが、この際に使用される水の割合は、微粒子の分散安定性をより向上させ、かつ分散体の色濃度を更に良好なものとするという観点から、水不溶性色材溶液1質量部に対して0.5〜1000質量部が好ましく、1〜100質量部がより好ましい。
【0048】
本発明の製造方法においては、水不溶性色材顔料溶液と水性媒体とを混合する際の温度を−50℃〜100℃の範囲にすることが好ましく、−20℃〜50℃の範囲に調節することがより好ましい。混合する際の溶液の温度は生成する水不溶性色材の微粒子のサイズに大きく影響することがあり、ナノメートルオーダー微粒子の分散体を制御して得るために液温を−50℃〜100℃の範囲にすることが好ましい。また、この際に液体の流動性を確保するために混合する水に、エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、グリセリン等の公知の凝固点降下剤を加えておくことができる。
【0049】
さらに、サイズの均一性を持つナノメートルオーダーの微粒子を得るには、水不溶性色材溶液と水性媒体との混合を可能な限り速やかに行うことが好ましく、超音波振動子やフルゾーン撹拌羽、内部循環型撹拌装置、外部循環型撹拌装置、流量およびイオン濃度制御装置等の撹拌、混合、分散、晶析に使用される装置をいずれも使用することができる。また、連続して流れる水の中に混合してもよい。水不溶性色材溶液の水性媒体中への添加方法としては、通常の液体注入法をいずれも利用できるが、シリンジやニードル、チューブなどのノズルからの噴射流として水中、もしくは水上から投入するのが好ましい。なお、短時間で投入するために複数のノズルから投入することもできる。さらに、水不溶性色材微粒子の水性分散体を安定して作成するために、水不溶性色材溶液と混合する水性媒体にアルカリ及び分散剤を始めとする添加剤を加えておくことができる。
【0050】
有機溶剤に溶解した顔料等の水不溶性色材は、水性媒体との混合によって急速な結晶成長又はアモルファス様の凝集体を形成すると考えられる。本発明においては水不溶性色材と前記ヘテロ環構造を持つ酸基含有高分子化合物とが共溶解した溶液中で共存し、該溶液と水性媒体との混合工程中およびその直後に水不溶性色材の微粒子が生成するため、その微粒子の高い分散安定性が実現されると考えられる。またこのときに加熱処理を行い微粒子の分散体中での結晶形および凝集状態の調整を行うことができる。
【0051】
本発明の水性水不溶性色材分散体は、そのままで、あるいは必要に応じて色材濃度を調整することによって種々の用途、例えばインクジェット用のインクに用いることができる。
従来の水性分散液について、インクジェット用のインクに適用するには、色材濃度が薄い場合がある。該分散液の分散媒の濃縮等により濃度を上昇させることはできるものの、工業的には実用的でない。これに対し、本発明の分散体は先ず水不溶性微粒子を粉末ないしペーストにして取り出したのち、水に対する分散性を付与し、この水不溶性微粒子を水性媒体に効率的に再分散させることができる。そのため、所望の色材濃度を有する水性分散体を効率よく調製することができる。
【0052】
本発明においては、前述の工程で得られた水性水不溶性色材分散体を用い、さらに該分散体に含まれる水不溶性色材の微粒子の凝集体を形成することが好ましい。
本発明において、「水不溶性色材の微粒子」というとき、水不溶性色材のみからなる微粒のほか、水不溶性色材とその他の成分とがなす微粒子が含まれる。例えば、水不溶性色材及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子化合物、界面活性剤等)が被覆するように吸着して微粒子をなしていてもよい。本発明の分散体においては、なかでも、水不溶性色材の微粒子に上記特定の高分子化合物が被覆吸着していることが好ましい。この被覆吸着状態は、例えば、X線結晶構造解析(XRD)により確認することができる。
【0053】
上記水不溶性色材の微粒子の凝集体の形成には、有機酸/無機酸の添加による処理が好ましく用いられる。酸を用いた処理は、好ましくは、水不溶性色材の微粒子を酸で凝集させてこれを溶剤(分散媒)と分離し、濃縮、脱溶剤および脱塩(脱酸)を行う工程を含む。系を酸性にすることで酸性の親水性部分による静電反発力を低下させ、水不溶性色材微粒子を凝集させる。一般に顔料の分散液を酸で凝集物とし、その後にアルカリ処理を行っても、顔料微粒子が再分散されにくく一次粒子径の増大が観察されることがある。これに対し、本発明の分散体によれば、顔料等の水不溶性色材の微粒子の水性分散体を調製し、これを酸で凝集物とし微粒子を再分散したとき、一次粒子径の増大を大幅に低減することができる。
【0054】
本発明において、得られた水不溶性色材分散体に対しては、加熱処理を施すことが可能である。これにより水不溶性色材の結晶性が良くなり、該分散体から得られたインクを用いた画像の耐候性が高められることがある。また加熱処理によって濾過性が大きく改善される場合があり有用なプロセスと言える。該加熱処理の温度は40〜100℃が好ましく、40〜80℃がより好ましく、50〜80℃であることが最も好ましい。加熱時間は10分〜3日間であることが好ましく、1時間から1日行うことが好ましく、さらに好ましくは2〜12時間である。
【0055】
水不溶性色材の微粒子の凝集に用いる酸としては、沈殿し難い微粒子となっている水性分散体中の顔料含有粒子を凝集させてスラリー、ペースト、粉状、粒状、ケーキ状(塊状)、シート状、短繊維状、フレーク状などにして、通常の分離法によって効率よく溶剤と分離できる状態にするものであることが好ましい。さらに好ましくは、水不溶性色材の溶解工程において用いたアルカリを溶剤と同時に分離するために、用いた相間移動塩基等のアルカリと水溶性の塩を形成する酸を利用するのがよく、酸自体も水への溶解度が高いものが好ましい。また脱塩を効率よく行うために、加える酸の量は微粒子が凝集する範囲でできるだけ少ない方がよい。具体的には塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸などが挙げられるが、塩酸、酢酸および硫酸が特に好ましい。酸によって容易に分離可能な状態にされた水不溶性色材の微粒子の水性分散体は遠心分離装置や濾過装置またはスラリー固液分離装置などで容易に分離することが出できる。この際、希釈水の添加、またはデカンテーションおよび水洗の回数を増やすことで脱塩、脱溶剤の程度を調節することができる。
【0056】
さらに、水不溶性色材凝集体を得る工程では、有機溶剤の添加によりろ過性が改善可能であり有用なプロセスである。好ましい溶媒としては非プロトン性有機溶媒、プロトン性有機溶媒のいかなる種類もが使用可能であり、具体的には酢酸エチル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノールエタノール、イソプロパノール等の極性溶媒が好ましい。量も特に限定されないが、水不溶性色材分散体100質量部に対し1〜100質量部が好ましく、5〜50質量部の範囲で用いるのがより好ましい。
【0057】
このようにして得られた凝集体は、含水率の高いペーストやスラリーのままで用いることもできるが、必要に応じてスプレードライ法、遠心分離乾燥法、濾過乾燥法または凍結乾燥法などのような、乾燥法により、微粉末として用いることもできる。
【0058】
本発明の分散体においては、その好ましい実施態様として、水不溶性色材溶液と水性媒体とを混合して得た一次分散体(水性分散体,再沈液)から凝集体を調製し、この凝集体に水性媒体を添加し、微粒子を再分散して二次分散体(再分散液)とすることが好ましい。この再分散のときにアルカリ処理することがより好ましい。すなわち、アルカリ処理を含むこの工程では、上記凝集体を得る工程で例えば酸を用いて凝集させた水不溶性色材の微粒子をアルカリで処理し、該微粒子に吸着する等して共存する前記酸基を有する高分子化合物を中和し分散剤として機能させ、水性媒体中で水不溶性色材を効果的に再分散させることができる。
【0059】
本発明における上記好ましい実施態様においては、凝集体の形成工程においてすでに脱塩および脱溶剤が行われているため、不純物の少ない顔料等の水不溶性色材の微粒子の水性分散体のコンクベースを得ることができる。再分散工程で使用するアルカリは、酸性の親水性部分を持つ分散剤の中和剤として働き、水への溶解性が高まるものであれば、いかなるものでも使用できる。ここでの「アルカリ」とは、先に述べた「塩基」と同義である。アルカリとして、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア等や、アミノメチルプロパノール、ジメチルアミノプロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジエチルトリアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン等の各種有機アミン、さらには前記の相間移動型塩基が挙げられる。より具体的には前記一般式(II)又は(III)で示されるアンモニウム化合物類が挙げられ、さらに好ましくはコリンヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。また、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記アルカリの使用量は、凝集した粒子を水に安定に再分散できる範囲であれば特に限定されるものではないが、印刷インキやインクジェットプリンター用インクなどの用途に用いる場合は各種部材の腐食の原因になる場合があるため、pHが6〜12になる量とすることが好ましく、7〜11の範囲になる量とすることがより好ましい。
【0060】
凝集した水不溶性色材粒子を水性媒体に再分散させる上記工程においては、必要に応じて撹拌、混合、分散装置を用いることができる。特に含水率の高い水不溶性色材のペースト、スラリーを用いる際は水を加えなくてもよい。さらに、再分散の効率を高める目的、および不要となった水溶性有機溶剤または過剰なアルカリ等を除去する目的で加熱、冷却、または蒸留などを行うことができる。
【0061】
本発明の記録液は、上記本発明の分散体を用い、例えば所定の高分子化合物、界面活性剤、水性溶剤等の各成分を混合し均一に溶解又は分散することにより調製することができる。本発明の記録液においては、前記水不溶性色材を0.1〜15質量%含有することが好ましい。また、調製したインクに過剰量の高分子化合物や添加剤が含有される場合には、遠心分離や透析などの方法によって、それらを適宜除去し、インク組成物を再調製することができる。また本発明の記録液は単独で用いてもよいが、これとは別のインクと組み合わせて、本発明のインクセットとしてもよい。
【0062】
本発明の記録液は、各種印刷法、インクジェット法、電子写真法等の様々な画像形成方法および装置に使用でき、この装置を用いた画像形成方法により描画することができる。また、このインクジェット法により微細パターンを形成したり、薬物の投与を行ったりすることができる。
【0063】
本発明の記録液はインクジェット用記録液とすることが好ましく、これを用いたインクセットとすることが好ましい。また、本発明の記録液又はインクセットを用いて、記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物とすることが好ましく、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物とすることが好ましい。さらに上記の記録液又はインクセットは、記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有する画像形成方法に用いることが好ましい。さらに本発明においては、上記記録液又はインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有する画像形成装置とすることができる。
【0064】
上記の優れた特性を有する本発明の分散体は、インクとしたとき例えば面積比率(面積階調)により色調濃淡を表現している現行のオフセット印刷や凸版印刷等に匹敵するほどの、高濃度・高精彩な画像記録を実現しうるものである。
【0065】
本発明の水不溶性色材分散体においては、水不溶性色材の微粒子の平均粒径は5〜50nmであることが好ましく、10〜45nmであることがより好ましく、15〜40nmであることが特に好ましい。このように水不溶性色材をナノメートルサイズの微粒子とすることのより分散体の透明性、分散体中での分散安定性、及び耐光性の両立の観点から特に好ましい。この平均粒径が小さすぎると、分散体中の安定な分散状態を長期間保つことが難しい場合があり、また良好な耐光性が得られない場合がある。一方で、大きすぎると、分散体の透明性が得られない場合がある。本発明において水不溶性色材の粒子は2種以上の顔料を含んでもいてもよく、顔料のみからなるものであっても、顔料以外の化合物が含まれていてもよい。このとき、2種以上の顔料の固溶体が粒子を構成していることが好ましい。ただし、粒子中に結晶構造を有する部分と結晶構造を有さない部分が混在していてもよい。また、顔料等及び/又はその他の化合物が粒子の核をなし、そこに前記分散剤(高分子化合物、界面活性剤等)が被覆するように吸着して粒子をなしていてもよい。
【0066】
また、本発明の分散体において水不溶性色材微粒子は、樹脂や無機材料により被覆されていてもよい。このとき、水不溶性色材の色味を損なわないため、前記樹脂及び無機材料は非着色成分であることが好ましい。前記樹脂又は無機材料で被覆された微粒子の平均粒子径は6〜200nmであることが好ましく、インクジェット用記録液として用いる場合には良好な吐出安定性を得る観点から6〜150nmであることがさらに好ましく、6〜100nmであることが特に好ましい。
【0067】
本発明において分散体中に分散している水不溶性色材の粒径は、単分散であることが好ましい。単分散であることにより、粒径が大きい粒子の光散乱等の影響が軽減できるほか、例えば分散体を用いて印字、記録等で凝集体形成する際には形成する凝集体の充填形態の制御等に有利である。分散体の分散性を評価する指標としては、例えば動的光散乱法で得られる算術平均粒径において、粒子の粒径分布関数
dG=f(D)×dD(Gは粒子数、Dは一次粒径を表す)
の積分式における、全粒子数の90個数%を占める粒子の粒径(D90)と10個数%を占める粒子の粒径(D10)との差を用いることができる。本発明においては、前記D90とD10の差が45nm以下であることが好ましく、1〜30nmであることがより好ましく、1〜20nmであることが特に好ましい。なおこの方法は、前述した透過型電子顕微鏡により観察される粒子径を用いて作製する粒径分布曲線でも適用することができる。
【0068】
また、もう1つの分散性を示す指標の例としては、動的散乱法により得られる体積平均粒径(Mv)及び個数平均粒径(Mn)の比(Mv/Mn)を用いることもできる。本発明の分散体は前記Mv/Mnの値が1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。
【0069】
本発明において、分散体の動的光散乱法による平均粒子径は水不溶性色材濃度が0.1質量%になるようイオン交換水で希釈した後、堀場製作所のLB−500(商品名)動的光散乱測定器を用いて測定した値をいう。このとき、各分散体の体積平均粒径Mvの他、個数平均粒径Mnの測定も行うことができる。透過型電子顕微鏡(TEM)観察による平均粒径評価は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した分散体を滴下した後乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX(商品名))で10万倍に拡大した画像から、重なっていない独立した粒子300個の長径を測定して平均値を平均粒径として算出した値をいう。以下、動的光散乱測定器により測定した平均粒子径を「動的光散乱平均粒子径」といい、TEM観察により算出した平均粒子径を「TEM平均粒子径」ということがある。
【実施例】
【0070】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは特に示さない限り質量基準とする。
(実施例1・比較例1)
(実施例1−1)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部、前記例示高分子化合物(D−1)(酸価200mgKOH/g、Mw=18000) 6.6質量部、ジメチルスルホキシド 160質量部、 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Alfa Aesar社製 25%メタノール溶液)〔共溶解用塩基〕39質量部を混合し、60℃に加温後、2時間攪拌することで、前記顔料と高分子化合物(D−1)とを共溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0071】
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している2000質量部のイオン交換水(氷浴により水温12℃)中に送液ポンプを用いて100ml/分の条件で速やかに注入したところ、赤みがかった顔料分散液(再沈液)が得られた。この顔料分散液の動的光散乱法により求めた体積平均粒径は37.4nm(TEM平均粒径:25.3nm)であり、凝集状態の進行を抑え、微細な顔料微粒子を含有する分散液を得ることが可能であった。2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。さらに、これは速度論的に形成された緩い凝集状態であり、超音波ホモジナイザーもしくは一ヶ月の時間経時により、体積平均粒子径31.2nmまで微細化可能であった。
【0072】
次いでこの顔料分散液を3Lフラスコに入れ、50℃に加熱し3時間攪拌した。次に室温まで冷却後、塩酸11mlを滴下してpHを3程度に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、さらに酢酸エチル200mlを加え2時間攪拌した後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、真空乾燥(45℃)を一日行うことで、脱塩及び脱溶剤されたPR−122(キナクリドン有機顔料)/高分子化合物(D−1)の凝集粉末体を得た。
【0073】
次に、この粉末体質量部にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(15質量%水溶液)〔再分散用塩基〕0.5質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水〔再分散用水性媒体〕を加えたのち、超音波処理による再分散処理を行い、顔料分散液(再分散液)を得た。この顔料分散液の動的光散乱法による個数平均粒径は27.6nm(TEM平均粒径:25.4nm)であり、非常に単分散性の高い顔料微粒子を含有する高濃度分散液が得られた。2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0074】
(実施例1−2)
実施例1−1で顔料をC.I.ピグメントレッド254に変え、顔料の使用質量部は、実施例1におけるC.I.ピグメントレッド122と同モル量にした以外は同様にし、一次顔料分散液(再沈液)及び顔料分10%の二次顔料分散液(再分散液)を得た。この顔料分散液(再分散液)の動的光散乱法による個数平均粒径は36.6nm(TEM平均粒径:29.2nm)であり、凝集状態の進行を抑え、微細な顔料微粒子を含有する高濃度分散液を得ることが可能であった。2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0075】
(実施例1−3)
実施例1−1で顔料をC.I.ピグメントイエロー74に変え、顔料の使用質量部は、実施例1−1におけるC.I.ピグメントレッド122と同モル量にした以外は同様にし、一次顔料分散液(再沈液)及び顔料分10%の二次顔料分散液(再分散液)を得た。この顔料分散液(再分散液)の動的光散乱法による個数平均粒径は38.5nm(TEM平均粒径:24.5nm)であり、2週間保存後の粒径に変化は見られず、また沈降物も見られなかった。
【0076】
(比較例1−1)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部、ポリビニルピロリドン(以下PVP)、和光社製、Mw=25000) 6.6質量部、ジメチルスルホキシド 160質量部、 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Alfa Aesar社製 25%メタノール溶液)〔共溶解用塩基〕39質量部を混合し、60℃に加温後、2時間攪拌することで、前記顔料とスチレン/メタクリル酸共重合体とを共溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している2000質量部のイオン交換水(氷浴により水温12℃)中に送液ポンプを用いて100ml/分の条件で速やかに注入したところ、赤みがかった顔料分散液(再沈液)が得られた。この顔料分散液の動的光散乱法により求めた体積平均粒径は189.4nm(TEM平均粒径:29.5nm)であり、一次粒子は微細なものが形成されているが、二次粒子は大きく、凝集状態の進んだ分散体となっていた。また経時により激しく凝集が進行し、3日後には多量の沈降物が観察された。
【0077】
次いでこの顔料分散液を3Lフラスコに入れ、50℃に加熱し3時間攪拌した。次に室温まで冷却後、塩酸11mlを滴下してpHを3程度に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、さらにアセトン200mlを加え2時間攪拌した後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、真空乾燥(45℃)を一日行うことで、脱塩及び脱溶剤されたPR−122(キナクリドン有機顔料)/PVPの凝集粉末体を得た。
【0078】
次に、この粉末体1質量部にオレイン酸ナトリウム〔再分散用界面活性剤〕0.5質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水〔再分散用水性媒体〕を加えたのち、超音波処理による再分散処理を行い、顔料分散液(再分散液)を得た。この顔料分散液の動的光散乱法による個数平均粒径は56.6nm(TEM平均粒径:29.4nm)であり、やや凝集状態の進んだ分散液が得られた。また2週間保存後の粒径は大きく増大し、108.2nmまで凝集が進行した。
【0079】
(比較例1−2)
C.I.ピグメントレッド122 13.2質量部、スチレン/メタクリル酸共重合体(分散剤A)(酸価180mgKOH/g、Mw=18000) 6.6質量部、ジメチルスルホキシド 160質量部、 テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(Alfa Aesar社製 25%メタノール溶液)〔共溶解用塩基〕39質量部を混合し、60℃に加温後、2時間攪拌することで、前記顔料とスチレン/メタクリル酸共重合体とを共溶解し、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
この顔料溶解液に超音波処理をした後、スターラーで攪拌している2000質量部のイオン交換水(氷浴により水温12℃)中に送液ポンプを用いて100ml/分の条件で速やかに注入したところ、赤みがかった顔料分散液(再沈液)が得られた。この顔料分散液の動的光散乱法により求めた体積平均粒径は145.4nm(TEM平均粒径:28.5nm)であり、一次粒子は微細なものが形成されているが、二次粒子は大きく、凝集状態の進んだ分散体となっていた。
【0080】
次いでこの顔料分散液を3Lフラスコに入れ、50℃に加熱し3時間攪拌した。次に室温まで冷却後、塩酸11mlを滴下してpHを3程度に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させた。その後、さらに酢酸エチル200mlを加え2時間攪拌した後、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗し、真空乾燥(45℃)を一日行うことで、脱塩及び脱溶剤されたPR−122(キナクリドン有機顔料)& スチレン/メタクリル酸共重合体の凝集粉末体を得た。
【0081】
次に、この粉末体1質量部にテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(15質量%水溶液)〔再分散用塩基〕0.5質量部を加え、顔料分10%になるようイオン交換水〔再分散用水性媒体〕を加えたのち、超音波処理による再分散処理を行い、顔料分散液(再分散液)を得た。この顔料分散液の動的光散乱法による個数平均粒径は47.6nm(TEM平均粒径:27.1nm)であり、やや凝集状態の進んだ分散液が得られた。また2週間保存後の粒径は大きく増大し、79.1nmまで凝集が進行した。
【0082】
(実施例1−4〜1−10、比較例1−3,1−4)
実施例1−1〜1−3、比較例1−1,1−2に対して、用いる顔料及び/又は添加する剤を表1のように変えた以外同様にして、顔料分散液(再沈液,再分散液)を得た。各分散液中の顔料微粒子の平均粒子径を測定した結果を表1に示した。
【0083】
(実施例2・比較例2)
(インク組成物の調整)
次に上記実施例1・比較例1で得た顔料分散液(再分散液)をそれぞれ50質量部用い、ジエチレングリコール7.5質量部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル5質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)0.2質量部、及びイオン交換水32.3質量部と混合した後超音波処理し、インク組成物をそれぞれ得た。
【0084】
〔保存安定性の評価〕
得られたインク組成物について、まず作成当日の動的光散乱平均粒子径を測定した。次に、該インク組成物を60℃下加熱下、一週間強制経時した後、再度動的光散乱による平均粒子径を測定した。このときの粒子径変動率を表に示す。この粒子径変動率が低ければ、保存安定性の高いインク組成物といえる。
【0085】
【表1】

【0086】
表中の略称等はそれぞれ下記を意味する。
TMAH:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(clogP:−4.586)
分散剤A:スチレン/メタクリル酸共重合体
※ 酸価180mgKOH/g、Mw=18000
オレイン酸ナトリウム
【0087】
表1の結果が示すように、比較例の分散液はそこに含まれる顔料微粒子が凝集しやすく、保存安定性の極めて低いものであった。このように比較例の分散液は、インクとしたときの実用上の要求レベルを満足しえないことが分かる。
これに対し、本発明の分散体(実施例)は、再沈液/再分散液の両方において微細な顔料微粒子を含有する分散液を与え、かつ疎水性溶剤によるインク化後の保存安定性も極めて高く、二次凝集の抑制に顕著な効果があることが分かった。
【0088】
〔吐出性の評価〕
上記作製したインク組成物をインクジェットプリンター(PX−G930(商品名)、エプソン(株)社製)のカートリッジに詰め、インクジェットペーパー(写真用紙<光沢>(商品名)エプソン(株)社製)にベタ画像(反射濃度が1.0)を全面に印字して、白スジの発生数を計測し、下記の基準に則り吐出性の評価を行った。
【0089】
3:印字面全体で全く未印字部である白スジが発生していない
2:僅かに白スジの発生は認められるが、実用上許容範囲にある
1:印字面全体に亘り白スジが多発し、実用上不可の品質である
評価結果を表2に示す。
【0090】
[表2]
−−−−−−−−−−−−−−−−−
インク組成物 吐出性
−−−−−−−−−−−−−−−−−
実施例1−1 3
実施例1−2 3
実施例1−5 3
実施例1−10 3
実施例1−11 3
比較例1−1 1
比較例1−2 2
比較例1−4 1
−−−−−−−−−−−−−−−−
* インク組成物の調製に用いた顔料分散液を作製した実施例・比較例の番号で示した。
【0091】
上記表2から分かるように、実施例の顔料分散液を用いて作製したインク組成物は吐出性に優れることがわかる。
【0092】
〔透明性の評価〕
上記のインク組成物をそれぞれ厚さ60μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート上にバーコーターで塗工し、乾燥させた後、透明性を目視で評価した。
2:良好
1:不良
〔顔料粒子径の評価〕
上記インク組成物中での顔料微粒子のTEM平均粒子径を前述の方法に従って測定・算出した。
各評価結果を表3に示す。
【0093】
[表3]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
試料 TEM平均粒径[nm] 透明性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
実施例1−1 25.3 2
実施例1−2 29.2 2
実施例1−5 29.6 2
実施例1−10 25.3 2
実施例1−11 39.7 2
比較例1−1 29.5 1
比較例1−2 28.5 1
比較例1−4 26.9 1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
* インク組成物の調製に用いた顔料分散液を作製した実施例・比較例の番号で示した。
【0094】
表3から分かるように本発明のインク組成物を用いた印画物は高濃度であっても透明性に優れ、インク組成物として有用である。
【0095】
上記の結果より、本発明のヘテロ環を有する酸基含有高分子化合物を使用した分散体においては、そこに含まれる顔料微粒子を二次凝集させることなく、長期間にわたり微細なまま維持することができることが分かる。このため、インク化した際において吐出安定性が高く、高濃度領域でも高い透明性を持ち、色再現性の高いインク組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性色材の微粒子と水性媒体と高分子化合物とを含有する水不溶性色材分散体であって、前記高分子化合物が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも一種類以上の酸基をもつ重合したときに親水性部位をなす重合性化合物と、置換基を有してもよい重合したときに疎水性部位をなすスチレン重合性化合物と、下記一般式(I)で表されるスチレン重合性化合物とを重合してなることを特徴とする水不溶性色材分散体。
【化1】

〔式(I)中、環Aは窒素原子を含むヘテロ環基である。該ヘテロ環基Aはさらに環置換基を有していてもよく、又は他の環と縮環してもいてもよい。〕
【請求項2】
さらに無機もしくは有機塩基を含有することを特徴とする請求項1に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項3】
前記有機塩基が、下記一般式(II)又は(III)で表される相間移動型塩基であることを特徴とする請求項2に記載の水不溶性色材分散体。
【化2】

〔式(II)及び(III)中R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアルキルアリール基である。nは1〜4の整数である。〕
【請求項4】
前記酸基がカルボン酸基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項5】
前記水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる群より選ばれる有機顔料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体。
【請求項6】
無機もしくは有機塩基の存在下で有機溶剤に高分子化合物と水不溶性色材とを共溶解させ、その溶解液を水性媒体と混合し、前記水不溶性色材の微粒子を生成させる水不溶性色材分散体の製造方法であって、前記高分子化合物が、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、及び水酸基からなる群より選ばれる一種類以上の酸基をもつ重合したときに親水性部位をなす重合性化合物と、置換基を有してもよい重合したときに疎水性部位をなすスチレン重合性化合物と、下記一般式(I)で表されるスチレン重合性化合物とを重合させてなることを特徴とする水不溶性色材分散体の製造方法。
【化3】

〔式(I)中、環Aは窒素原子を含むヘテロ環基である。該ヘテロ環基Aはさらに環置換基を有していてもよく、又は他の環と縮環してもいてもよい。〕
【請求項7】
前記水不溶性色材が、キナクリドン有機顔料、ジケトピロロピロール有機顔料、及びモノアゾイエロー有機顔料からなる郡より選ばれる有機顔料であることを特徴とする請求項6に記載の水不溶性色材分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の製造方法で得た、前記水不溶性色材の微粒子、前記水性媒体、及び前記高分子化合物を含有する水不溶性色材分散体。
【請求項9】
請求項1〜5及び8のいずれか1項に記載の水不溶性色材分散体中の水不溶性色材の微粒子を、記録液全質量の0.1〜15質量%含むことを特徴とする記録液。
【請求項10】
前記記録液がインクジェット用記録液である請求項9に記載の記録液。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェット用記録液を用いたインクセット。
【請求項12】
請求項9もしくは10に記載の記録液、又は請求項11に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与する手段により画像が記録された印画物であって、前記手段が記録液の付与量もしくは濃度を調整する機能を有し、該手段により印画物の濃淡が調整された印画物。
【請求項13】
請求項9もしくは10に記載の記録液、又は請求項11に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
【請求項14】
請求項9もしくは10に記載の記録液、又は請求項11に記載のインクセットを用いて記録液を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。

【公開番号】特開2010−6874(P2010−6874A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165004(P2008−165004)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテクノロジープログラム「ナノテク・先端部材実用化研究開発」/「有機顔料ナノ結晶の新規製造プロセスの研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】