説明

水中探知装置

【課題】海底によるレンジサイドローブを抑圧して、海底付近の探知映像を鮮明に表示する水中探知装置を提供すること。
【解決手段】本発明の水中探知装置は、パルス圧縮信号に対してレンジサイドローブ抑圧処理を行う抑圧範囲を決定する抑圧範囲決定部と、パルス圧縮信号の各深度のデータがレンジサイドローブにあたるデータか否かを判定するエコー判定部と、パルス圧縮信号の各深度のデータに対する抑圧値を決定する抑圧値決定部と、パルス圧縮信号の抑圧範囲に属するデータのうち、エコー判定部においてレンジサイドローブにあたるデータと判定されたデータに対して、抑圧値に基づいてレンジサイドローブを抑圧する演算を実行する抑圧演算部と、抑圧演算部から出力される信号から表示用信号を生成して探知情報を表示する表示処理部とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数変調した送信パルス信号を送信して、受信信号をパルス圧縮処理する水中探知装置に関するものであり、特にパルス圧縮に伴って生じるレンジサイドローブを除去する構成を備えた水中探知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水中探知装置の一つである魚群探知機には、より深い深度の魚群を探知できるように探知距離の向上が要求されている。一般に探知距離を上げるためには送信パルス長を長くすればよいが、送信パルス長を長くすると物標からの反射エコーも長くなって距離分解能が落ちるので、送信パルスを周波数変調し、受信したエコー信号と送信信号のレプリカ波形との相関処理等を行うことにより受信信号をパルス圧縮し、距離分解能を上げる方法が採用される。このようなパルス圧縮処理を行う水中探知装置は例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−249398
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、パルス圧縮処理を行う水中探知装置では、図10に示すように、パルス圧縮された信号の、探知物標の位置を示すメインローブの前後の位置に、レンジサイドローブと呼ばれる偽像が発生する。
【0005】
特に海底によるレンジサイドローブが生じると、偽像を小魚の集まりなどの目標と見誤ったり、海底付近の底付き魚群等の映像が見づらくなったり、海底深度についての判断を誤ったりするという不具合が生じる。
【0006】
本発明の目的は、海底によるレンジサイドローブを抑圧して、海底付近の探知映像を鮮明に表示する水中探知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水中探知装置は、周波数変調した超音波パルス信号を水中に送信して、エコー信号を受信する送受信部と、送受信部で受信した受信信号をパルス圧縮してパルス圧縮信号を出力するパルス圧縮部と、パルス圧縮信号に対してレンジサイドローブ抑圧処理を行う抑圧範囲を決定する抑圧範囲決定部と、パルス圧縮信号の各深度のデータが、探知物標からのエコーデータか、レンジサイドローブにあたるデータか、を判定するエコー判定部と、パルス圧縮信号の各深度のデータに対する抑圧値を決定する抑圧値決定部と、パルス圧縮信号の抑圧範囲に属するデータのうち、エコー判定部においてレンジサイドローブにあたるデータと判定されたデータに対して、抑圧値に基づいてレンジサイドローブを抑圧する演算を実行する抑圧演算部と、抑圧演算部から出力される信号から表示用信号を生成して探知情報を表示する表示処理部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の水中探知装置において、上記抑圧範囲決定部は、各深度に対して、当該深度からそれぞれ所定深度だけ深い深度までの深度範囲に属するパルス圧縮信号のデータから信号強度が最大のデータを選択し、当該深度の前方移動ピークホールド値として出力する前方移動ピークホールド部と、各深度に対して、当該深度からそれぞれ所定深度だけ浅い深度までの深度範囲に属するパルス圧縮信号のデータから信号強度が最大のデータを選択し、当該深度の後方移動ピークホールド値として出力する後方移動ピークホールド部と、を備え、前方移動ピークホールド値が所定の第1閾値よりも大きく、かつ、後方移動ピークホールド値が第1閾値よりも小さい深度範囲を、前記抑圧範囲として決定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の水中探知装置において、エコー判定部は、前方移動ピークホールド値を、同一深度のパルス圧縮信号のデータで除算して得られる値が所定の第2閾値未満の場合に当該データを探知物標からのエコーデータと判定し、上記第2閾値以上の場合に当該データをレンジサイドローブにあたるデータと判定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の水中探知装置において、上記抑圧値決定部は、パルス圧縮信号の抑圧範囲内のデータに基づいて求める第1平均値と、パルス圧縮信号の抑圧範囲外の、所定深度範囲内のデータに基づいて求める第2平均値と、から定める抑圧オフセット値と、レンジサイドローブの形状を模した関数である抑圧関数と、に基づいて、抑圧値を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、海底によるレンジサイドローブを抑圧して、海底付近の探知映像を鮮明に表示する水中探知装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を魚群探知機に適用した場合の実施形態を、図を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る魚群探知機のブロック図である。
図1において、船底等に装備される送受波器1は、送信部3からトラップ回路2を介して供給される電気信号によって駆動されて水中へ超音波パルス信号を送信するとともに、水中の物標により反射されて戻ってくるエコーを受信し、トラップ回路2を介してアンプ4に対し受信信号を出力する。アンプ4は受信信号を増幅し、AD変換器5は増幅された信号をサンプリングしてデジタル信号に変換する。パルス圧縮部6は、AD変換器5からのデジタル信号と送信パルス信号のレプリカ波形との相互相関処理等を行って、パルス圧縮信号を出力する。検波部7はパルス圧縮信号に検波処理を施す。レンジサイドローブ抑圧部8は、後述の通り、検波処理されたパルス圧縮信号に対してレンジサイドローブを抑圧する処理を施し、表示処理部9は、レンジサイドローブ抑圧部8からのレンジサイドローブの抑圧されたパルス圧縮信号に基づいて表示用信号を生成し、ディスプレイに水中映像を表示する。
【0013】
図2は、レンジサイドローブ抑圧部8の具体的な構成例である。
以下、レンジサイドローブ抑圧部8に入力される検波処理されたパルス圧縮信号をSIGin[n](n=0から(N−1)。Nは1回の送受信で得られるデータ点数)とする。
図2において、10は抑圧範囲決定部であり、パルス圧縮信号のレンジサイドローブを抑圧する範囲を決定する。11はエコー判定部であり、パルス圧縮信号の各深度のデータが、探知物標からのエコーデータか、あるいは、レンジサイドローブにあたるデータか、を判定する。12は抑圧値決定部であり、パルス圧縮信号の各深度のデータについて、レンジサイドローブを抑圧する演算を実行する際に用いる抑圧値を決定する。抑圧値判定部13は抑圧値決定部12が決定した抑圧値が適切な値であるかを判定する。抑圧判定部14は、抑圧範囲決定部10の出力結果と、エコー判定部11の出力結果と、抑圧値判定部13の判定結果とに基づいて、各深度のデータに対して、レンジサイドローブの抑圧処理を実行するかどうかを判定する。抑圧演算部15は、抑圧判定部14の判定結果に基づき、パルス圧縮信号の各深度のデータに対して抑圧値決定部12で決定した抑圧値による所定の演算を施して、レンジサイドローブの抑圧演算を実行する。
【0014】
図3に、抑圧範囲決定部10の構成例を示す。16は前方移動ピークホールド部であって、各深度に対して、当該深度からそれぞれ所定深度だけ深い深度までの深度範囲に属するパルス圧縮信号のデータから、信号強度が最大のデータを選択し、当該深度の前方移動ピークホールド値として出力する。具体的には、前方移動ピークホールド値MPH_F[n](「前方PH値」と表記)は下記の式(1)によって生成する。
MPH_F[n]=max(SIGin[n+1,n+k]) (1)
式(1)で、max(SIGin[n+1,n+k])は、SIGin[n+1]からSIGin[n+k]までの、パルス圧縮信号データのうち、信号強度が最大のデータを表す。また、kは上記所定深度に対応するデータ点数であり、送信パルス長程度に相当する点数とすることが望ましい。
【0015】
17は後方移動ピークホールド部であって、各深度に対して、当該深度からそれぞれ所定深度だけ浅い深度までの深度範囲に属する前記パルス圧縮信号のデータから信号強度が最大のデータを選択し、当該深度の後方移動ピークホールド値として出力する。具体的には、後方移動ピークホールド値MPH_B[n](後方PH値と表記)は下記の式(2)によって生成する。
MPH_B[n]=max(SIGin[n−k+1,n]) (2)
【0016】
抑圧範囲設定部18は、前方PH値が所定の閾値(第1閾値)を越える範囲であって、後方PH値が同閾値を越えない範囲を抑圧範囲として決定する。
【0017】
図6は検波したパルス圧縮信号に対して、前方PH値、後方PH値を求めて、閾値により抑圧範囲を定める具体例を示したものである。図6では、第1閾値が120dBに設定されている。実線はパルス圧縮信号、一点鎖線は前方PH値、二点鎖線は後方PH値を示す。
【0018】
抑圧範囲決定部10の他の構成として、パルス圧縮信号と所定の閾値とを比較し、パルス圧縮信号が当該閾値を越える位置から、送信パルス長分浅い位置までの範囲を抑圧範囲とする構成や、公知の海底検出法で求めた海底位置から、送信パルス長分浅い位置までを抑圧範囲とする構成等が考えられる。
【0019】
図4に、エコー判定部11の構成例を示す。19は前方移動ピークホールド部であり、図3の前方移動ピークホールド部16と同じ機能を持つものである。前方移動ピークホールド部16及び19は共通のものとしても良い。20は除算部であって、前方PH値の各深度のデータMPH_F[n]をパルス圧縮信号の当該深度における値SIGin[n]で除算する。21は比較部であって、除算部20の出力結果を閾値(第2閾値)と比較し、閾値より小さい場合は当該データが探知物標からのエコーであると判定し、閾値よりも大きい場合は、当該データがレンジサイドローブにあたるデータであると判定する。図7は、図6と同じ受信データに対する、エコー判定部11における、各信号の波形図を示す。図7の点線のグラフは、除算部20で生成される信号である。図7では、第2閾値は50dB程度に設定されており、海底付近の底付き魚群からのエコーを除く範囲のデータが、抑圧すべきデータと判定されている。
【0020】
図5に、抑圧値決定部12の構成例を示す。22は抑圧オフセット値算出部であり、抑圧範囲内の複数のデータから求めた平均値(第1平均値)を、抑圧範囲外の所定深度範囲のデータ、例えば、抑圧範囲の開始位置(抑圧範囲の浅い側の端の部分)から送信パルス長程度浅い位置までの深度範囲のデータから求める平均値(第2平均値)で除算し、抑圧オフセット値として出力する。ここで、第1平均値、第2平均値の算出にあたっては、所定レベルより大きいデータを除外することが望ましい。抑圧値算出部23には、実験等により求める標準的なレンジサイドローブ形状を模した関数を、抑圧関数としてあらかじめ記憶させておき、当該抑圧関数に抑圧オフセット値算出部22からの抑圧オフセット値を乗算した関数に基づいて各データに対する抑圧値を算出する。図8は、図6と同じ受信データに対し、抑圧値決定部12において、第1平均値、第2平均値と抑圧オフセット値、抑圧値を求めたものである。
【0021】
抑圧値判定部13は、抑圧値決定部12で決定される抑圧値が適切な値であるかどうかを判定する。具体的には、抑圧演算部15における演算(各データを抑圧値で除算する。)でレンジサイドローブをかえって増大させてしまうような抑圧値(1未満の値)は、不適切な抑圧値と判定する。
【0022】
抑圧判定部14は、抑圧範囲決定部10、エコー判定部11、抑圧値判定部13のそれぞれの出力結果に基づき、当該データが抑圧範囲に属するデータであり、かつ、レンジサイドローブにあたるデータであり、かつ、適切な抑圧値が当該データに対して算出されているような場合に、当該データに対して抑圧処理を実行する旨の判定を行う。
【0023】
抑圧演算部15は、抑圧判定部14の判定結果に基づいて、抑圧処理するデータに対しては抑圧値による除算を実行して表示処理部9に対して出力し、抑圧処理しないデータはそのまま表示処理部9に対して出力する。
【0024】
図9は、図6と同じ受信データに対し、抑圧演算部15においてレンジサイドローブ抑圧の処理を実行した際の波形図である。海底付近の物標からのエコー信号を弱めることなく、海底によるレンジサイドローブにあたる部分を抑圧できていることが分かる。
【0025】
以上、魚群探知機を例に挙げて説明したが、本発明は、スキャニングソナーやPPIソナー等の、その他の水中探知装置にも実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】は、本発明の実施形態の一つである魚群探知機のブロック図である。
【図2】は、レンジサイドローブ抑圧部8の構成例を示すブロック図である。
【図3】は、抑圧範囲決定部10の構成例を示すブロック図である。
【図4】は、エコー判定部11の構成例を示すブロック図である。
【図5】は、抑圧値決定部12の構成例を示すブロック図である。
【図6】は、抑圧範囲決定部10における信号処理を説明するための波形図である。
【図7】は、エコー判定部11における信号処理を説明するための波形図である。
【図8】は、抑圧値決定部12における信号処理を説明するための波形図である。
【図9】は、抑圧演算部15における信号処理を説明するための波形図である。
【図10】はパルス圧縮に伴って生じるレンジサイドローブを説明するための波形図である。
【符号の説明】
【0027】
1 送受波器
2 トラップ回路
3 送信部
4 アンプ
5 AD変換部
6 パルス圧縮部
7 検波部
8 レンジサイドローブ抑圧部
9 表示処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調した超音波パルス信号を水中に送信して、エコー信号を受信する送受信部と、
前記送受信部で受信した受信信号をパルス圧縮してパルス圧縮信号を出力するパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮信号に対してレンジサイドローブ抑圧処理を行う抑圧範囲を決定する抑圧範囲決定部と、
前記パルス圧縮信号の各深度のデータがレンジサイドローブにあたるデータかを判定するエコー判定部と、
前記パルス圧縮信号の各深度のデータに対する抑圧値を決定する抑圧値決定部と、
前記パルス圧縮信号の前記抑圧範囲に属するデータのうち、前記エコー判定部においてレンジサイドローブにあたるデータと判定されたデータに対して、前記抑圧値に基づいてレンジサイドローブを抑圧する演算を実行する抑圧演算部と、
前記抑圧演算部から出力される信号から表示用信号を生成して探知情報を表示する表示処理部とを備えることを特徴とする水中探知装置。
【請求項2】
前記抑圧範囲決定部は、
各深度に対して、当該深度からそれぞれ所定深度だけ深い深度までの深度範囲に属する前記パルス圧縮信号のデータから信号強度が最大のデータを選択し、当該深度の前方移動ピークホールド値として出力する前方移動ピークホールド部と、
各深度に対して、当該深度からそれぞれ所定深度だけ浅い深度までの深度範囲に属する前記パルス圧縮信号のデータから信号強度が最大のデータを選択し、当該深度の後方移動ピークホールド値として出力する後方移動ピークホールド部と、を備え、
前記抑圧範囲決定部は、前記前方移動ピークホールド値が所定の第1閾値よりも大きく、かつ、前記後方移動ピークホールド値が前記第1閾値よりも小さい深度範囲を、前記抑圧範囲として決定することを特徴とする請求項1に記載の水中探知装置。
【請求項3】
前記エコー判定部は、前記前方移動ピークホールド値を、同一深度の前記パルス圧縮信号のデータで除算して得られる値が所定の第2閾値以上の場合に当該データをレンジサイドローブにあたるデータと判定することを特徴とする請求項1記載の水中探知装置。
【請求項4】
前記抑圧値決定部は、前記パルス圧縮信号の抑圧範囲内のデータに基づいて求める第1平均値と、前記パルス圧縮信号の抑圧範囲外の、所定深度範囲内のデータに基づいて求める第2平均値と、から定める抑圧オフセット値と、レンジサイドローブの形状を模した関数である抑圧関数と、に基づいて、前記抑圧値を決定することを特徴とする請求項1記載の水中探知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−294120(P2009−294120A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148737(P2008−148737)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】