説明

水中設置型の水車発電機

【課題】潤滑剤が不要で高速回転可能な軸封装置を備えた水中設置型の水車発電機を提供する。
【解決手段】水車室40と発電機室50との間を軸封する軸封装置100の第一シールユニット110は、水車室側に配置されるとともに回転軸部材に固定された第一回転環112と、発電機室側に配置されるとともにケーシング10に固定された第一固定環114と、第一固定環を第一回転環へ付勢する付勢部材(116)と、を備え、第一回転環と第一固定環のうちの一方が常圧焼結SiC摺動材であり、他方が表層部のカーボンの一部をSiCに転換したカーボン−SiC摺動材であり、第二シールユニット150は、水車室側に配置されるとともに回転軸部材に固定された第二回転環152と、発電機室側に配置されて第二回転環と摺接する第二固定環154と、を備え、第二回転環と第二固定環のうちの一方が常圧焼結SiC摺動材であり、他方がカーボン摺動材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力によって水車を回転駆動させることにより、水車の回転軸と一体化された発電機の回転子を駆動させて電気エネルギーを得る水力発電装置に関し、特に、水中に没して河川水と接触する水車室側から発電機を収容する発電機室側への水の浸入を防止するために配置された軸封室部分をドライ環境とした水中設置型の水車発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電装置のうち、特に水中設置型の水車発電機は、ケーシングと、ケーシング内に回転自在に配置された回転ユニットと、発電機と、を備え、外部からケーシング内に流入する流体のエネルギーによって回転ユニットを回転させることにより発電機を作動させ、電気的エネルギーを得る装置である。
ケーシングは、軸方向一端側に配置されて、水車を収容するとともに水中に没して河川水と接触する水車室と、軸方向他端側に配置されて発電機を収容する発電機室と、水車室と発電機室との間に配置されて水車室から発電機室への流体の浸入を阻止する軸封装置を収容した軸封室と、を備えている。また、回転ユニットは、水車室、軸封室、及び発電機室に跨って延在し且つケーシングに対して相対回転可能に軸支された単一の回転軸部材を備えている。
【0003】
軸封装置には、回転軸部材に固定されて回転軸部材とともに回転する回転環と、ケーシングに固定されて回転環と摺接する固定環とを有したメカニカルシールが使用されており、水車室と軸封室との間、軸封室と発電機室との間を夫々密封する2つのメカニカルシールが配置されている。従来、メカニカルシールの多くは、軸封室内に、より詳しくは2つのメカニカルシール間に潤滑剤(オイル等)を封入することによって、回転環及び固定環の摺接面同士の摩耗や発熱を低減している。しかしながら、軸封室から水車室側に潤滑剤が漏出した場合、環境汚染や環境破壊の虞があるため、潤滑剤を使用しないドライタイプのメカニカルシールを使用することが望まれる。
例えば、潤滑剤を使用しないドライタイプのメカニカルシールの発明が記載された例として特許文献1を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−27433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のメカニカルシールは、食品産業や薬品産業分野において使用される攪拌機やブロアーなどに用いられるものであり、回転数の少ない機器に用いられることを前提として設計されたものである。従って、水車発電機のような1分間あたり数百から2千回転といった高回転の装置に使用することはできない。
仮に、特許文献1のメカニカルシールを水車発電機に適用することにより、軸封室内をドライ環境として水車発電機を稼動させた場合、メカニカルシールの摺接面の温度が摩擦により上昇して、メカニカルシールの劣化や破損を招く虞がある。
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、潤滑剤を用いることなく、高速回転に対応できる軸封装置を備えた水車発電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ケーシングと、該ケーシング内に回転自在に配置された回転ユニットと、発電機と、を備え、外部からケーシング内に流入する流体のエネルギーによって前記回転ユニットを回転させることにより前記発電機を作動させる水車発電機であって、前記ケーシングは、軸方向一端側に配置されて前記流体を内部に導入する導入部、及び該導入部から導入した前記流体を外部に排出する排出部を備えた水車室と、軸方向他端側に配置されて前記発電機を収容する発電機室と、前記水車室と前記発電機室との間に配置されて前記水車室から前記発電機室への流体の浸入を阻止する軸封装置を収容した軸封室と、を備え、前記回転ユニットは、前記水車室、前記軸封室、及び前記発電機室に跨って延在し且つ前記ケーシングに対して相対回転可能に軸支された単一の回転軸部材と、前記回転軸部材に設けられて前記導入部から導入された流体によって該回転軸部材を回転させる羽根と、を備え、前記発電機は、前記回転軸部材に固定された回転子と、該回転子と対面する前記ケーシング内壁に固定された固定子と、を備え、前記軸封装置は、第一のシールユニットと、該第一のシールユニットよりも前記発電機室側に配置された第二のシールユニットと、を備え、前記第一のシールユニットは、前記水車室側に配置されるとともに前記回転軸部材に固定された第一回転環と、前記発電機室側に配置されるとともに前記ケーシングに固定されて前記第一回転環と摺接する第一固定環と、該第一固定環を前記第一回転環へ付勢する付勢部材と、を備え、前記第一回転環と第一固定環のうちの一方が常圧焼結SiC摺動材であり、他方が表層部のカーボンの一部をSiCに転換したカーボン−SiC摺動材であり、前記第二のシールユニットは、前記水車室側に配置されるとともに前記回転軸部材に固定された第二回転環と、前記発電機室側に配置されるとともに前記ケーシングに固定されて前記第二回転環に摺接する第二固定環と、を備え、前記第二回転環と第二固定環のうちの一方が常圧焼結SiC摺動材であり、他方がカーボン摺動材である水中設置型の水車発電機を特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記第一回転環が常圧焼結SiC摺動材であり、前記第一固定環がカーボン−SiC摺動材である請求項1記載の水中設置型の水車発電機を特徴とする。
請求項3に記載の発明は、前記第二固定環がカーボン摺動材であり、前記第二回転環が常圧焼結SiC摺動材である請求項1又は2記載の水中設置型の水車発電機を特徴とする。
請求項1乃至3の発明では、水車側に配置された第一シールユニットの固定環と回転環が、常圧焼結SiC摺動材と表層部のカーボンの一部をSiCに転換したカーボン−SiC摺動材の組合せであり、何れも硬質材料であるから、河川水に含まれる土砂や砂利等のスラリが固定環と回転環の摺接面に浸入しても摩耗を低減することができる。
また、発電機側に配置された第二シールユニットの固定環と回転環が、常圧焼結SiC摺動材とカーボン摺動材の組み合わせであり、硬質材料と軟質材料の組合せであるので、潤滑剤を用いないドライ環境下においても摺動抵抗と摩耗を防止することができる。
【0008】
請求項4に記載の発明は、前記軸封室には、気体が大気圧にて封入されている請求項1乃至3の何れか一項記載の水中設置型の水車発電機を特徴とする。
請求項4の発明では、軸封室に潤滑油等の潤滑剤が封入されていないので、潤滑剤漏れによる環境破壊を防止することができる。また、軸封室に潤滑油等の潤滑剤が封入されていないので、第一シールユニットから浸入した河川水を一時的に貯留するスペースとして軸封室全体を利用することができ、浸水排出作業を含む水中設置型の水車発電機のメンテナンス間隔を長くすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第一シールユニットを硬質材料同士の組合せとし、第二シールユニットを硬質材料と軟質材料の組合せとしたので、潤滑剤を用いないドライ環境下で運転した場合の、シールの劣化や破損を防止することができる。また、ドライ環境下で運転することが可能なので、環境を破壊する虞のある物質の流出を防止することができ、水中設置型の水車発電機のメンテナンス間隔を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る水力発電装置の全体を示した一部断面模式図である。
【図2】本発明に係る水力発電装置の軸封室部分の拡大断面図である。
【図3】本発明に係る軸封装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図3に基づいて説明する。図1は、本発明に係る水力発電装置の全体を示した一部断面模式図である。図2は、軸封室部分の拡大断面図である。図3は、軸封装置の断面図である。本発明に係る水力発電装置は、水没する水車室と発電機が収容される発電機室との間を軸封する軸封室にタンデム型のメカニカルシールを配置するとともに、軸封室内に油等の潤滑液を封入せず、ドライ環境とした点に特徴がある。
水力発電装置1(水中設置型の水車発電機)は、ケーシング10と、ケーシング10内に回転自在に配置された回転ユニット20と、発電機30と、を備えており、外部からケーシング10内に流入する河川水等の流体のエネルギーによって回転ユニット20を回転させることにより発電機30を作動させて、電気的エネルギーを得る装置である。
ケーシング10は、軸方向一端側に配置されて河川水等を内部に導入する導入部42、導入部42から導入した河川水を外部に排出する排出部48を備えた水車室40と、軸方向他端側に配置されて発電機30を収容する発電機室50と、水車室40と発電機室50との間に配置されて水車室40から発電機室50への流体の浸入を阻止する軸封装置100を収容した軸封室60と、を備えている。発電機室50は、軸封装置100によりドライ環境に保たれており、水力発電装置1の全体を水中に設置することが可能である。
また、回転ユニット20は、水車室40、軸封室60、及び発電機室50に跨って延在し且つケーシング10に対して相対回転可能に軸支された単一の回転軸部材22を備えている。
【0012】
水車室40内部には、導入部42から導入された河川水の流体圧によって回転軸部材22を回転させる力を生成する羽根72を備えた水車70が収容されている。水車70は、回転軸部材22の軸方向一端側に配置されている。羽根72は、回転軸部材22の外周面に周方向に所定の間隔にて放射状に配置され、回転軸部材22に固定、一体化されている。
導入部42は、略円筒状の水車室40の軸封室60寄りに形成されて河川水を羽根72へと案内するガイドベーン44と、ガイドベーン44間に形成された開口部46と、を有している。ガイドベーン44は板状の案内羽根であり、開口部46とともに周方向に所定の間隔にて配置されている。
【0013】
発電機室50内部には、回転軸部材22に固定された回転子32と、回転子32と対面するケーシング10内壁に固定された固定子34と、を備えた発電機30が収容されている。なお、図1においては、水車が回転子に直接連結されているが、増速機を介して連結されていてもよい。
図1に示すように、河川水はガイドベーン44に案内されつつ開口部46から水車室40に流入する。河川水の流体圧が羽根72に作用し、回転軸部材22及び回転子32を回転させる。発電機30は、回転する回転子32と非回転の固定子34との間で電磁誘導を利用して電気エネルギーを発生させる。水車70を回転させた河川水は、排出部48より水車室40外部に流出する。
【0014】
図2に示すように、発電機室50の軸封室60寄りには、軸封室60から漏出した河川水を貯める貯留部52と、河川水を検知する浸水検出用のフロートスイッチ54とが配置されている。発電機室50内に河川水が浸入して貯留部52に一定量を超える河川水が溜まった場合、フロートスイッチ54が浮き上がって、漏水を検知した旨の検知信号が発せられる。水力発電装置1全体の動作を制御する制御装置(不図示)は、この検知信号を受けて発電機30を停止させる。
軸封室60内部には、水車室40から発電機室50へと河川水が浸入することを防止する軸封装置100が配置されている。軸封室60内部は、大気圧にて気体が封入されたドライ環境である。
軸封装置100は、水車室40と軸封室60の間を軸封する第一シールユニット110と、軸封室60と発電機室50の間を軸封する第二シールユニット150とを備えている。各シールユニットは、夫々固定環と回転環とを有したメカニカルシールであり、図3に示すように軸封装置100は、2つのメカニカルシールを同一の向きに配置したタンデム型のメカニカルシールを有している。
【0015】
第一シールユニット110は、水車室40側に配置されるとともに回転軸部材22に固定された第一回転環112と、発電機室50側に配置されるとともにケーシング10に固定されて第一回転環112と摺接する第一固定環114と、第一固定環114を第一回転環112へ弾性付勢する第一スプリング116(付勢部材)と、を備えている。
第一回転環112は、通常の粉末冶金の手法によって得られ、97%以上のSiCを有する常圧焼結SiC摺動材(硬度:Hs105〜125)から形成されている。耐酸、耐アルカリ、耐スラリのシリコンカーバイト単体である。第一回転環112は、ノックピン117により、第一カラー118を介して回転軸部材22に一体的に固定されている。
第一カラー118は、回転軸部材22に一体的に固定されている。回転軸部材22と第一カラー118の間、及び第一カラー118と第一回転環112の間は、夫々フッ素ゴムからなるOリング122、124によって密封されている。また、第一カラー118は、回転軸部材22の径方向に段差を有しており、外周側の軸方向厚みが、回転軸部材22側(内周側)よりも薄く構成されている。このように段差を有することで、第一回転環112を第一カラー118に嵌め込む際の位置決定が容易となる。また、組み立て時のセットミスを防止することができる。
第一回転環112の外周には、第一回転環112を保護するチタン製の保護リング124が圧入されており、第一回転環112の破損を防止する。
【0016】
第一固定環114は、カーボンの一部がSiCに転換された厚さ1.0〜1.5mmのガス不浸透性の表層部114a(図中多数の点を付した部分)を有するカーボン−SiC摺動材(表層部114aの硬度:Hs80〜95)から形成されている。耐熱衝撃性に優れ、表層部に存在するカーボンによる自己潤滑性に優れた材料である。表層部114aにおける組成は、SiCの含有量よりもカーボンの含有量の方が高くなっている。表層部114aにおけるSiCの占有率は10〜50%、好ましくは20〜25%、カーボンの占有率は50〜90%、好ましくは75〜80%がよい。
また、第一固定環114は、第一回転環112の摺接面112aと摺接する環状に突出した摺接面114bを有している。第一固定環114は、ケース126及びノックピン128によってケーシング10に固定、一体的されている。
ケース126とケーシング10の間、及びケース126と第一固定環114の間は、夫々フッ素ゴムからなるOリング130、132によって密封されている。
ケース126内には、第一固定環114を第一回転環112側へと弾性付勢する第一スプリング116が収容されており、第一固定環114は軸方向に移動可能な状態で支持されている。第一スプリング116を第一固定環114側に配置することにより、回転軸部材22の回転に伴う遠心力及び振動の影響を受けにくくすることができるので、第一スプリング116の動作を安定させることができるとともに、破損を防止することができる。
第一固定環114の外周には、第一固定環114を保護するチタン製の保護リング134が圧入されており、第一固定環114の破損を防止する。
【0017】
ところで、第一シールユニット110の水車室40側は河川水の存在する部分であり、河川水内に含まれる土砂や砂利等のスラリが第一回転環112及び第一固定環114と接触する。上述のように、第一回転環112はSiCから形成されており、また第一固定環114の表層部114aにはSiCが存在するので、互いに硬質部材同士の組合せである。従って、河川水中のスラリが摺接面112a、摺接面114bとの間に浸入しても、固定環及び回転環の摩耗を防止することができる。
また、第一回転環112及び第一固定環114の外周面に夫々保護リング124、134が配置されているので、河川水内に混在する異物が第一回転環112又は第一固定環114に接触した場合の、固定環及び回転環の破壊を防止できる。
さらに、第一スプリング116が軸封室60内に配置されているので、河川水とは直接接触しない構成である。従って、第一スプリング116が河川水に含まれる塩分等により腐食することを防止できる。
【0018】
第二シールユニット150は、水車室40側に配置されるとともに回転軸部材22に固定された第二回転環152と、発電機室50側に配置されるとともにケーシング10に固定されて第二回転環152と摺接する第二固定環154と、第二固定環154を第二回転環152へ付勢する第二スプリング156(付勢部材)と、を備えている。
第二回転環152は、第一回転環112と同様に常圧焼結SiC摺動材から形成されている。第二回転環152は、第二カラー158を介して回転軸部材22に一体的に固定されている。
第二カラー158は、セットスクリュー160によって回転軸部材22に固定、一体化されている。回転軸部材22と第二カラー158の間、及び第二カラー158と第二回転環152の間は、夫々フッ素ゴムからなるOリング162、164によって密封されている。また、第二カラー158は、回転軸部材22の径方向に段差を有しており、第二回転環152をカラーにはめ込む際の位置決定が容易となる。また、組み立て時のセットミスを防止することができる。
【0019】
第二固定環154は、カーボン摺動材から形成されている。第二回転環152の摺接面152aと摺接する環状に突出した摺接面154aを有している。第二固定環154は、ケース166及びノックピン168等によってケーシング10に固定、一体化されている。
ケース166と第二固定環154の間は、夫々フッ素ゴムからなるOリング170によって密封されている。
ケース166内には、第二固定環154を第二回転環152側へと弾性付勢する第二スプリング156が収容されており、第二固定環154は軸方向に移動可能な状態で支持されている。第二スプリング156を第二固定環154側に配置することにより、回転軸部材22の回転に伴う遠心力及び振動の影響を受けにくくすることができるので、第二スプリング156の動作を安定させることができるとともに、破損を防止することができる。
【0020】
軸封装置100が配置された軸封室60は、上述のように潤滑液が存在せず、大気圧にて気体が封入されたドライ環境である。軸封室60には、少なくとも固体・液体以外の物質、具体的には空気、窒素ガス、又はその他の気体を封入する。気体が漏出したときに人体や環境に悪影響を与えないために、封入する気体は人体や環境に無害な物質であることが望ましい。特に軸封室60に空気を封入した場合には、制御装置による水力発電装置1の管理が容易となる。
また、軸封室60には気体が封入されているので、第一シールユニット110から軸封室60へ河川水が浸入した場合に、軸封室60全体が漏洩水を貯める貯水タンクとしての役割を果たす。従って、軸封室60に潤滑剤を封入した場合に比べて、漏洩水の貯水量を増大させることができ、漏洩水排出作業を含む水力発電装置1の点検周期を長くすることができる。
【0021】
軸封室60内部の圧力は、少なくとも水車室50の圧力より低い圧力にする必要がある。なお、水車室50は水没して水圧を受けることから、通常は、軸封室60内の圧力を大気圧に保つようにすればよい。仮に、圧力条件が「軸封室60内の圧力>水車室50内の圧力」となった場合、水車室40と軸封室60との間を軸封する第一シールユニット110の摺動面に液膜が無くなってドライ運転になり、軸封装置100が破損する虞がある。
また、本実施形態においては、第二回転環152をSiC摺動材とし、第二固定環154をカーボン摺動材として、硬質部材と軟質部材の組合せとすることにより、ドライ環境下における摺動抵抗を低減し、摩擦による発熱を低減させることができる。
なお、本発明に係る水力発電装置1は、動力によって河川水等を揚水する水中ポンプとして使用することが可能である。例えば発電機30には、発電機としての動作が可能であり、且つ電動機としての動作が可能な電動発電機を用いることができる。回転軸部材22の回転方向又は水車70の羽根の向きを適宜変更した上で電力を入力することにより、揚水することが可能である。
また、上記電動発電機を用いなくとも、発電機30の代わりに電動機を配置することにより、発電機以外の部分を水力発電装置1と同一構成とする水中ポンプを作成することができる。この場合、内部に配置する電動機は、回転子及び固定子を備えた電動機とし、必要に応じて始動装置を接続する。また、電動機として誘導電動機を用いてもよい。
【0022】
[実施例]
以下、上記軸封装置100を作製し模擬試験を行った。なお実機に使用された第一回転環及び第二回転環の硬度はHs120、第一固定環の硬度はHs90、第二固定環の硬度はHs92である。
〔1〕第一シールユニット110の試験
(a)無拘束速度試験
最も過酷な運転条件となる無拘束回転を想定して、1830回転/分にて2時間の試験運転を行った。その結果、第一シールユニット110からの漏水及び第一回転環112と第一固定環114の摩耗は認められなかった。また、摺接面112aと摺接面114bを肉眼にて確認したところ、特に問題は認められず良好であった。
(b)ドライ運転及び熱衝撃試験
第一シールユニット110に対して、200℃から20℃までの範囲で急激な温度変化を加える熱衝撃試験を行った。
完全ドライ条件下で915回転/分にて2時間運転を行ったところ、シールユニットの温度は165℃まで上昇した。その後、シールユニットを20℃〜30℃の水中に没した状態で915回転/分にて2時間運転を行った。ドライ摺動後における耐熱衝撃性が良好であり、また漏水量も1〜2.1cc/hと良好であることが確認できた。
【0023】
〔2〕第二シールユニット150の試験
軸封室60が河川水で満たされた状態を想定し、軸封室60を満水状態とし、発電機室50側をドライ状態として試験を行った。
(a)無拘束速度試験
無拘束回転を想定して1830回転/分にて2時間の試験運転を行った。軸封室60から発電機室50側へ31.5〜83cc/hの漏水が認められた。
(b)定格運転試験
定格運転を想定して、915回転/分にて4時間の試験運転を行った。漏水量は無拘束速度試験時の30〜40%に減少した。
【0024】
〔3〕軸封装置100の試験
水力発電装置1の運転状態を模擬した試験を行った。水車室40内部の圧力が0.2MPaを超えないという条件の下に行った。これは水力発電装置1の設計値であり、水深20mに相当する圧力である。
(a)起動〜定格運転試験
起動から定格運転に至るまでを想定し、回転数を0回転/分から735回転/分まで、2.5時間かけて徐々に上げて運転した。その結果、第一シールユニット110からの漏水は認められなかった。また、摺接面112a、114b、152a、154aに関し、その状態を肉眼で目視確認したが、特に問題は認められず良好であった。
(b)負荷遮断試験
事故、その他の原因で負荷が急激に失われた場合を想定し、3分間で735回転/分→1344回転/分→0回転/分に回転数を低下させる試験を行った。その結果、第一シールユニット110からの漏水は認められなかった。また、摺接面112a、114b、152a、154aに関し、その状態を肉眼で目視確認したが、特に問題は認められず良好であった。
【符号の説明】
【0025】
1…水力発電装置、10…ケーシング、20…回転ユニット、22…回転軸部材、30…発電機、32…回転子、34…固定子、40…水車室、42…導入部、44…ガイドベーン、46…開口部、48…排出部、50…発電機室、52…貯留部、54…フロートスイッチ、60…軸封室、70…水車、72…羽根、100…軸封装置、110…第一シールユニット、112…第一回転環、114…第一固定環、116…第一スプリング、118…第一カラー、124…保護リング、126…ケース、128…ノックピン、134…保護リング、150…第二シールユニット、152…第二回転環、154…第二固定環、156…第二スプリング、158…第二カラー、166…ケース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、該ケーシング内に回転自在に配置された回転ユニットと、発電機と、を備え、外部からケーシング内に流入する流体のエネルギーによって前記回転ユニットを回転させることにより前記発電機を作動させる水車発電機であって、
前記ケーシングは、軸方向一端側に配置されて前記流体を内部に導入する導入部、及び該導入部から導入した前記流体を外部に排出する排出部を備えた水車室と、軸方向他端側に配置されて前記発電機を収容する発電機室と、前記水車室と前記発電機室との間に配置されて前記水車室から前記発電機室への流体の浸入を阻止する軸封装置を収容した軸封室と、を備え、
前記回転ユニットは、前記水車室、前記軸封室、及び前記発電機室に跨って延在し且つ前記ケーシングに対して相対回転可能に軸支された単一の回転軸部材と、前記回転軸部材に設けられて前記導入部から導入された流体によって該回転軸部材を回転させる羽根と、を備え、
前記発電機は、前記回転軸部材に固定された回転子と、該回転子と対面する前記ケーシング内壁に固定された固定子と、を備え、
前記軸封装置は、第一のシールユニットと、該第一のシールユニットよりも前記発電機室側に配置された第二のシールユニットと、を備え、
前記第一のシールユニットは、前記水車室側に配置されるとともに前記回転軸部材に固定された第一回転環と、前記発電機室側に配置されるとともに前記ケーシングに固定されて前記第一回転環と摺接する第一固定環と、該第一固定環を前記第一回転環へ付勢する付勢部材と、を備え、前記第一回転環と第一固定環のうちの一方が常圧焼結SiC摺動材であり、他方が表層部のカーボンの一部をSiCに転換したカーボン−SiC摺動材であり、
前記第二のシールユニットは、前記水車室側に配置されるとともに前記回転軸部材に固定された第二回転環と、前記発電機室側に配置されるとともに前記ケーシングに固定されて前記第二回転環と摺接する第二固定環と、を備え、前記第二回転環と第二固定環のうちの一方が常圧焼結SiC摺動材であり、他方がカーボン摺動材であることを特徴とする水中設置型の水車発電機。
【請求項2】
前記第一回転環が常圧焼結SiC摺動材であり、前記第一固定環がカーボン−SiC摺動材であることを特徴とする請求項1記載の水中設置型の水車発電機。
【請求項3】
前記第二固定環がカーボン摺動材であり、前記第二回転環が常圧焼結SiC摺動材であることを特徴とする請求項1又は2記載の水中設置型の水車発電機。
【請求項4】
前記軸封室には、気体が大気圧にて封入されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の水中設置型の水車発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−193663(P2012−193663A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58161(P2011−58161)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(000101879)イーグル工業株式会社 (119)
【Fターム(参考)】