説明

水処理及びガス処理装置

【課題】一つの電気化学素子で、薬液使用量の少ないまたは薬液不要の水処理装置、及びエネルギ−消費の少ない安全なガス処理装置を提供する。
【解決手段】固体高分子電解質膜11の両面に形成した一対の陽極9と陰極10により窒素化合物を酸化及び還元処理する電気化学素子50と、電気化学素子で仕切られ、電気化学素子の陽極側には陽極に接して被処理水3を処理する水処理部1と陰極側には陰極に接して被処理ガス6を処理するガス処理部2とからなる装置本体とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に影響を与える窒素化合物含有水、窒素化合物含有ガスを無害化するための水処理及びガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生活廃水や工場廃水、または工場廃ガスに対し、窒素化合物を効率よく除去する技術として生物処理に替わり電解処理を行う方法が開示されてきた(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、アンモニア性窒素をハロゲンイオン共存下で、ハロゲンイオンを陽極で電解酸化し次亜ハロゲン酸及び又はハロゲン酸を生成し、前記次亜ハロゲン酸及び又はハロゲン酸とアンモニア性窒素と反応させ窒素とハロゲンイオンを再生するアンモニア性窒素の分解方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、内燃機関などから排出される窒素酸化物含有する被処理気体を200℃以上の高温で機能する電気化学素子の電極に接触させ水を電気分解して、陽極側で酸素を生成し、陰極側で窒素酸化物を還元してアンモニアを生成する第1の工程と、第1の工程で処理された気体を触媒に接触させ窒素酸化物を還元する第2の工程からなる窒素酸化物の処理方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−155463号公報(0013〜0014段、図1)
【特許文献2】特開平8−66621号公報(0007〜0010段、図4及び図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来の水処理及びガス処理装置の場合、水処理装置においては窒素化合物の分解に必要な次亜ハロゲン酸等の薬液を用いるため、薬液が窒素化合物と反応する際に副生成物が生じるという問題があった。
【0007】
また、ガス処理装置においては、窒素酸化物を除去する際に未反応、又は残留するアンモニアを処理するため、200℃以上の高温にする必要があり、多量のエネルギ−を消費するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、一つの電気化学素子で、薬液使用量の少ないまたは薬液不要の水処理装置、及びエネルギ−消費の少ない安全なガス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る水処理及びガス処理装置は、固体電解質膜の両面に形成した一対の電極により窒素化合物を酸化及び還元処理する酸化還元手段と、酸化還元手段で仕切られ、一対の電極の陽極側にはこの陽極に接して被処理水を処理する水処理部と陰極側にはこの陰極に接して被処理ガスを処理するガス処理部とからなる装置本体とを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化還元手段としての電気化学素子により水処理部とガス処理部を仕切り、陽極側の水処理部で被処理水を酸化し、陰極側のガス処理部で被処理ガスを還元することにより、窒素化合物を含有する水とガスを同時に、効率よく処理することができる。また、窒素化合物の分解に用いる薬液等が不要であり、簡便に、かつ低コストで処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る水処理及びガス処理装置の各種実施の形態について、図面に基づいて説明する。
実施の形態
図1は、本発明に係る実施の形態の水処理及びガス処理装置の構成を示す模式図である。
【0012】
図1において、本実施の形態の水処理及びガス処理装置100は、装置本体としての水処理部1とガス処理部2、酸化還元手段としての電気化学素子50から構成される。水処理部1には、被処理水3を導入するための被処理水入口4と、排出するための被処理水出口5とが設けられている。ガス処理部2には、被処理ガス6を導入するための被処理ガス入口7と、排出するための被処理ガス出口8が設けられている。
【0013】
電気化学素子50は、水処理及びガス処理装置100の水処理部1とガス処理部2を仕切るように設けられ、水処理部1に面する側に陽極9を、ガス処理部2に面する側に陰極10を形成した固体高分子電解質膜11から成る。陽極9と陰極10には、電源12が接続される。
【0014】
固体高分子電解質膜11には、例えばフッ素系のポリマーであるデュポン社製のナフィオン(登録商標)を用い、両面に白金を無電解めっきした多孔性薄膜電極の陽極9と陰極10を形成する。
【0015】
ガス処理部2の被処理ガス出口8内側には、化学還元触媒槽13が配設され、ガス処理部2で未処理の窒素酸化物等を処理する還元触媒部としての還元触媒フィルター14を備える。なお、ここでは化学還元触媒槽13を被処理ガス出口8内側としたが、外側にあってもよい。
【0016】
化学還元触媒槽13の還元触媒フィルター14は、例えば多孔性のカーボンペーパーの表面上に、白金黒を溶剤中に分散させた分散液を噴霧し、その後、溶剤を蒸発させ、白金黒を被着させたものである。
【0017】
次に、動作について説明する。まず、水処理部1に被処理水入口4から濃度が300ppmの硫酸アンモニウム((NHSO)水溶液を入れ、ガス処理部2には被処理ガス入口7から一酸化窒素(NO)の濃度が1000ppmの大気を導入する。続いて、電気化学素子50の陽極9と陰極10との間に、電源12により端子電圧3Vを印加し、電流密度100〜300mA/cmで電気分解を行う。
【0018】
図2及び図3は、本発明に係る実施の形態の水処理及びガス処理装置100の水処理部1における所定時間後の水処理の効果を示す。水処理部1において、アンモニウムイオン(NH)の濃度は通電時間の経過、即ち通電電荷量の増大とともに減少する。一方、亜硝酸イオン(NO)及び硝酸イオン(NO)の濃度の増加は認められない。
【0019】
図4は、本発明に係る実施の形態の水処理及びガス処理装置100のガス処理部2における所定時間後の水処理の効果を示す。ガス処理部2において、一酸化窒素(NO)の濃度は通電時間の経過、即ち通電電荷量の増大とともに減少する。
【0020】
以上の動作を化学式を用いて説明する。陽極9では、水(HO)が分解して水素イオン(H)と酸素(O)と電子(e)を生成する反応、及びアンモニウムイオン(NH)が分解して水素イオン(H)と窒素(N)と電子(e)を生成する反応が起こる(化1)。
【0021】
【化1】

【0022】
即ち、水素イオン(H)と無害な酸素(O)と窒素(N)の生成反応である。生じた電子(e)は陽極9から外部回路を経由して陰極10へ移動し、固体高分子電解質膜11内を陽極9から陰極10に移動してきた水素イオン(H)と、陰極10に面する大気中に存在する酸素(O)と反応して無害な水(HO)を生成する(化2)。
【0023】
【化2】

【0024】
大気中に一酸化窒素(NO)が存在する場合は、固体高分子電解質膜11内を陽極9から陰極10に移動してきた水素イオン(H)と、陰極10に面する大気中に存在する酸素(O)と一酸化窒素(NO)と反応して無害な水(HO)と無害な窒素(N)を生成する(化3)。
【0025】
【化3】

【0026】
上記陰極反応で副生する水素(H)、未反応の一酸化窒素(NO)、及び一酸化窒素の空気酸化による二酸化窒素(NO)が残存しても、陰極近傍の化学還元触媒槽13で以下に示すような無害な水(HO)と窒素(N)を生成することで無害化される(化4)。
【0027】
【化4】

【0028】
以上のように、本実施の形態では、電気化学素子50により水処理部1とガス処理部2を仕切り、陽極9側の水処理部1で被処理水3を酸化し、陰極10側のガス処理部2で被処理ガス6を還元するようにしたので、窒素化合物を含有する水とガスを同時に、効率よく処理することができる。また、窒素化合物の分解に用いる薬液等が不要であり、簡便に、かつ低コストで処理することができる。
【0029】
なお、本実施の形態では、陽極9及び陰極10が白金である場合について説明したが、これに限るものではない。陽極9及び陰極10の金属触媒として白金族の触媒であるイリジウムまたはその酸化物、パラジウムなどの白金族の物質を少なくとも1成分を含ませることで同様に陽極及び陰極反応を促進することができる。
【0030】
また、陽極9に、陽極触媒としての白金と、アンモニウムイオン吸着剤であるルビジウム・チタン・ニオブの酸化物に水和した化合物と、固体高分子電解質膜11の成分である、テトラフルオロエチレン・ペルフルオロ(4−メチル−3,6−ジオキサ−7−オクテン−1−スルホニックアシッド)共重合物混合相との混合層を備えた多孔性の電極を用い、陰極10には、陰極触媒としての白金と、窒素化合物吸着剤であるゼオライトと、固体電解質の成分である、テトラフルオロエチレン・ペルフルオロ(4−メチル−3,6−ジオキサ−7−オクテン−1−スルホニックアシッド)共重合物混合相との混合層を備えた多孔性の電極を用いてもよい。
【0031】
このようにアンモニウムイオンと窒素化合物の吸着剤を含有する多孔性の電極を、陽極及び陰極にそれぞれ備えた電気化学素子を用いることにより、陽極側、陰極側の窒素化合物の濃度が変動し、低濃度になっても、その影響を受けることなく陽極及び陰極での窒素化合物の除去効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る水処理及びガス処理装置の実施の形態の構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係る水処理及びガス処理装置の実施の形態の水処理の効果を示す図である。
【図3】本発明に係る水処理及びガス処理装置の実施の形態の水処理の効果を示す図である。
【図4】本発明に係る水処理及びガス処理装置の実施の形態のガス処理の効果を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 水処理部
2 ガス処理部
3 被処理水
6 被処理ガス
9 陽極
10 陰極
11 固体高分子電解質膜
13 化学還元触媒槽
14還元触媒フィルター
50 電気化学素子
100 水処理及びガス処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質膜の両面に形成した一対の電極により窒素化合物を酸化及び還元処理する酸化還元手段と、
この酸化還元手段で仕切られ、前記一対の電極の陽極側にはこの陽極に接して被処理水を処理する水処理部と陰極側にはこの陰極に接して被処理ガスを処理するガス処理部とからなる装置本体とを備えた水処理及びガス処理装置。
【請求項2】
酸化還元手段は、イオン導電性を有する固体電解質と酸化及び還元触媒をそれぞれ含む一対の電極からなることを特徴とする請求項1に記載の水処理及びガス処理装置。
【請求項3】
一対の電極は、酸化及び還元触媒として、それぞれ白金族金属又はその酸化物のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項2に記載の水処理及びガス処理装置。
【請求項4】
陽極は、酸化触媒、アンモニウムイオン吸着剤及び固体電解質の混合相からなることを特徴とする請求項2に記載の水処理及びガス処理装置。
【請求項5】
陰極は、還元触媒、窒素酸化物吸着剤及び固体電解質の混合相からなることを特徴とする請求項2に記載の水処理及びガス処理装置。
【請求項6】
ガス処理部で処理した被処理ガスを導入し、残留する窒素化合物を還元処理する還元触媒部をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の水処理及びガス処理装置。
【請求項7】
還元触媒部は、白金族金属のうち少なくとも一つを含む触媒からなることを特徴とする請求項6に記載の水処理及びガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−106884(P2009−106884A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283338(P2007−283338)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】