説明

水分離システム

【課題】簡易な設備構成で水の分離効率を向上可能で、反応時間を任意に設定可能な水分離システムを提供する。
【解決手段】原料を化学反応させた後に得られる生成物溶液から水を分離する水分離システムであって、前記原料が供給されて混合される混合手段3と、混合手段3の下流に接続され、混合された前記原料の化学反応が進行される化学反応進行手段4と、化学反応進行手段4の下流に接続され、化学反応進行手段4において生成した水を分離する水分離手段6と、化学反応進行手段4における化学反応時間を制御する制御手段12と、を備え、制御手段12は、化学反応進行手段4から排出される溶液中の生成物の量が多いときには、化学反応進行手段4における化学反応時間を短くし、化学反応進行手段4から排出される溶液中の生成物の量が少ないときには、化学反応進行手段4における化学反応時間を長くする制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ加工技術等により作製された、微細流路内で流体を混合させる装置、所謂マイクロリアクタが、バイオ、医療分野、化学合成等の各分野で用いられてきている。マイクロリアクタを用いた反応の特徴として、例えば、反応系の小型化が挙げられる。このような反応系の小型化により、流体を構成する分子(即ち原料分子)が迅速に拡散して混合されるため、体積に対する表面積が相対的に増大する。その結果、バッチ反応よりも反応効率が向上するため、反応時間の短縮や収率の向上等が期待される。
【0003】
化学反応の一つとして、平衡反応がある。平衡反応とは、可逆反応において、反応が進行するにつれて正方向の反応速度と逆方向の反応速度とが等しくなり、原料及び生成物の組成比が見かけ上変化しなくなる反応である。
【0004】
平衡反応の一つに、生成物として目的生成物のほかに水を生成する反応がある。具体的には例えば、カルボン酸に対してアルコールを反応させるエステル化反応等が挙げられる。このとき、目的生成物はカルボン酸エステルとなる。このような反応は平衡反応であるため、生成した目的生成物(例えばカルボン酸エステル等)は同時に生じた水によって加水分解を受け、元の原料(例えばカルボン酸等)に戻る。即ち、正反応と逆反応とが同時に進行していることになる。
【0005】
このような平衡反応時、目的生成物を生成する速度が、目的生成物が加水分解される速度よりも極めて速い場合、通常収率の観点で大きな問題は生じない。しかしながら、前者の速度が後者の速度よりもやや速い等の場合には、目的生成物が生成してもすぐ加水分解を受けるため、目的生成物の収率を向上させることが困難であることがある。
【0006】
そこで、このような反応における収率を向上させるため、目的生成物と同時に生じる水を反応系外へ分離(除去)することが考えられる。このようにすることで、化学平衡が目的生成物を生成する方向に偏るため、収率を向上させることができる。
【0007】
前記のような目的生成物と水とを含む混合溶液から水を分離(除去)する技術として、蒸留法が古くから用いられている。また、近年では、蒸留法の他にも、浸透気化(パーベーパレーション、pervaporation)法が注目されている。浸透気化法は、分離対象物質(例えば水等)と親和性のある分離膜を用いる方法である。分離膜の具体的な適用方法としては、分離膜の片側(供給側)に混合溶液を配し(或いは通流し)、反対側(透過側)を減圧に維持する。これにより、分離膜内を透過して反対側に到達した液体の蒸気化を容易にし、各成分の透過速度差によって分離対象物質を選択的に透過させて分離することができる。
【0008】
浸透気化法を利用した水の分離技術に関しては、種々の検討が行われている。例えば特許文献1には、一端が閉塞され他端が開放された管状の分離膜を有し、ケーシングに備えた管板に前記分離膜の他端を水密的に固定し、前記分離膜の外側に流通する液体混合物又は気体混合物中の目的物質を、選択的に該分離膜の内側に透過させる膜モジュールであって、前記ケーシングの内側と前記分離膜の外側の間に形成された空間に多孔質充填材を充填した膜モジュールが記載されている。
【0009】
また、例えば特許文献2には、反応装置と、前記反応装置内で生成し、原料成分と共に蒸発する夾雑成分を、当該原料成分と分離する膜モジュールと、前記蒸発した夾雑成分と原料成分との混合物を加熱する加熱手段と、前記膜モジュールで分離された原料成分の蒸気を前記反応装置の液相に強制的に循環させる循環手段と、を備え、前記膜モジュールの分離膜はゼオライト膜より構成され、前記加熱手段は、前記原料成分と前記夾雑成分が前記膜モジュール内で凝縮しないで蒸気状態で存在する程度まで熱を供給するように構成されている膜分離反応システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−203210号公報
【特許文献2】特許第4462884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の技術においては、溶液(反応液)に含まれる水の多少に係わらず分離操作を行っている。そのため、含まれる水の量によっては水の分離効率が低いことがある。そのため、水を分離するために、多くの分離操作が必要になることがある。
【0012】
さらに、特許文献1に記載の技術においては、溶液が蒸発可能な温度まで昇温させる必要があるため、設備が大型化することがある。
【0013】
また、特許文献2に記載の技術においては、反応液から原料(エタノール)及び水を蒸発させ、分離膜を有する膜モジュールに通過させて水を分離している。そして、水を分離した後の原料のみを反応容器に戻している。このように、特許文献2に記載の技術においては、水を分離するための循環サイクルが必要になっている。そのため、この技術においては、循環サイクルを形成するために設備が大型化したり複雑化したりすることがある。また、反応液を蒸発させるための設備も必要になることがあり、設備が大型化することがある。
【0014】
さらに、循環させた(反応容器に戻された)原料の影響を受け、反応液の温度制御が不安定となることがある。その結果、反応容器内での反応を制御しにくくなり、収率が低下したり、副生成物が生成したりすることがある。また、原料及び水が蒸発してから水の分離開始までの時間が一定であるため、循環の回数を変更することによってでしか反応時間を制御できない。即ち、反応時間の制御が制約を受けることがある。
【0015】
本発明は前記課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、簡易な設備構成で水の分離効率を向上可能で、反応時間を任意に設定可能な水分離システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、生成物の量に基づいて水の分離開始までの時間を制御することにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0017】
本発明に拠れば、簡易な設備構成で水の分離効率を向上可能で、反応時間を任意に設定可能な水分離システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る水分離システムの構成を模式的に示す図である。
【図2】第1実施形態に係る水分離システムに適用される水分離手段の構成を模式的に示す図である。
【図3】第1実施形態に係る水分離手段において為される反応についての速度定数を説明する図である。
【図4】時間に対する速度変化を示すグラフである。
【図5】第2実施形態に係る水分離システムの構成を模式的に示す図である。
【図6】第2実施形態に係る水分離システムに適用される化学反応進行デバイスの構成を模式的に示す図である。
【図7】第2実施形態に係る水の分離効率を向上させる制御時のフローチャートである。
【図8】第3実施形態に係る水分離システムの構成を模式的に示す図である。
【図9】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明するが、本実施形態は以下の内容に何ら制限されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施可能である。
【0020】
[1.第1実施形態]
<構成>
図1は、第1実施形態に係る水分離システム100の構成を模式的に示す図である。図1に示す水分離システム100は、原料であるオレイン酸及びメタノールを化学反応させた後に得られる生成物溶液(反応溶液)から水を分離する水分離システムである。なお、第1実施形態においては、原料の具体例としてオレイン酸及びメタノールを用いているが、化学反応させることにより水を生じる成分であればこれらに限定されない。
【0021】
また、詳細は後記するが、原料としてオレイン酸及びメタノールを用いて化学反応(具体的にはエステル化反応)させた場合、オレイン酸メチル及び水が生成する。そこで、本実施形態では、生成する成分のうちの水以外の成分を「生成物」と呼称するものとする。従って、第1実施形態における生成物は「オレイン酸メチル」となる。
【0022】
水分離システム100は、図1に示すように、オレイン酸タンク1aと、メタノールタンク1bと、ポンプ2a,2bと、混合用マイクロリアクタ3と、化学反応進行部4と、温調機5と、水分離用マイクロリアクタ6と、温調機7と、背圧弁8と、生成物タンク9と、冷却トラップ10と、減圧装置11と、制御装置12と、を備えてなる。なお、図1において、実線で示すものは配管を表し、破線で示すものは電気信号線を表す。
【0023】
オレイン酸タンク1aは、原料としてのオレイン酸を貯蔵するものである。また、メタノールタンク1bは、原料としてのメタノールを貯蔵するものである。そして、ポンプ2a,2bによって、これらのタンクから混合用マイクロリアクタ3にオレイン酸及びメタノールが供給されるようになっている。
【0024】
ポンプ2a,2bは、例えばシリンジポンプ、手動によるシリンジ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、スクリューポンプ等により構成される。また、ポンプに代えて、水頭差を用いる送液手段を用いてもよい。
【0025】
混合用マイクロリアクタ3(混合手段)は、オレイン酸及びメタノールを混合するものである。即ち、混合用マイクロリアクタ3においては、オレイン酸及びメタノールが供給されて混合されるようになっている。混合用マイクロリアクタ3の具体的な構成としては特に制限されず、原料を迅速に混合することができるものであればよい。例えば、混合用マイクロリアクタ3の流路形状としては、Y字型、T字型、多層流を形成する形状等でもよく、市販のマイクロリアクタを用いてもよい。
【0026】
なお、第1実施形態においては、混合用マイクロリアクタ3で2種類の原料を混合させているが、3種類以上の原料を混合させてもよい。例えば、3種類の原料を事前に混合させる場合には、混合用マイクロリアクタ3の代わりに、3種類の原料を混合させる流路を有する混合用マイクロリアクタを設けることもできるし、2種類の原料を混合させる混合用マイクロリアクタを、直列に複数個接続させることにより、順番に原料を混合させて、所望の種類(数)の原料を混合させることもできる。
【0027】
また、混合用マイクロリアクタ3における混合の程度は特に制限されない。さらに、原料どうしは、均一に混ざり合っても、混ざり合わずに不均一になっても(いわゆる乳化状態になっても)よい。
【0028】
混合用マイクロリアクタ3の流路径の代表長さは、特に制限されない。ただし、マイクロオーダーの反応による効果を最大限活かす観点から数mm以下にすることが好ましく、原料を分子拡散により迅速に混合させる観点から数十μm〜1mmとすることがより好ましい。
【0029】
混合用マイクロリアクタ3を構成する材料としては、生じる化学反応に影響を及ぼすものでなければ任意のものを用いることができる。このような材料としては、例えばステンレス、シリコーン、金、ガラス、ハステロイ、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。また、これらの他にも、グラスライニング、金属の表面にニッケルや金等をコーティングしたものや、シリコーンの表面を酸化させたもの等、耐食性を向上させたものを用いてもよい。ただし、熱伝導性及び強度の観点から、混合用マイクロリアクタ3を構成する材料としては、金属を用いることが好ましい。
【0030】
なお、後記する化学反応進行部4において迅速な反応を行わせるために、混合用マイクロリアクタ3、さらには混合用マイクロリアクタ3とポンプ2aもしくはポンプ2bを接続する配管に対して図示しない温調機を設置し、所定の温度にて混合するようにしてもよい。このようにすることにより、化学反応進行部4での反応溶液の昇温幅或いは降温幅を小さなものとすることができ、より効率よく化学反応を進行させることができる。
【0031】
化学反応進行部4(化学反応進行手段)は、混合用マイクロリアクタ3において混合された原料の化学反応を進行させるものである。第1実施形態においては、混合用マイクロリアクタ3から反応溶液(即ちオレイン酸及びメタノールの混合物)が排出された後に通流する配管(微細流路)が、化学反応進行部4として機能している。従って、化学反応時間は、当該配管の長さや流路の断面積を変化させることにより制御することができるようになっている。
【0032】
ここで、前記の「化学反応時間」は、厳密には、混合用マイクロリアクタ3内で原料同士が混合された後、水分離用マイクロリアクタ6(後記する)に供給されて水が分離され始めるまでの時間となる。ただし、混合用マイクロリアクタ3内を滞留する時間は、化学反応進行部4内で滞留する時間よりもずっと短い。また、実際には、水分離用マイクロリアクタ6の中でも化学反応が進行するが、後記するように、水が分離されるとともに化学反応の平衡が偏るため、化学反応よりも水の分離プロセスのほうが優先的に進行する。そのため、本明細書における「化学反応時間」とは、化学反応進行部4内に滞留する時間のことを表すものとする。
【0033】
なお、前記配管の長さを固定し、混合用マイクロリアクタ3に供給されるオレイン酸及びメタノールの量を制御することにより、前記化学反応時間が制御されるようにしてもよい。即ち、配管の長さ及び内径が一定であるため、多量の反応溶液を通流させた場合には化学反応進行部4に滞留する時間は短くなる。一方、少量の反応溶液を通流させた場合には化学反応進行部4に滞留する時間は長くなる。そして、このような関係を利用し、化学反応時間を制御してもよい。なお、この場合、混合用マイクロリアクタ3に供給される原料の送液流量の制御は後記する制御装置12によって行うことができる。
【0034】
また、化学反応進行部4を構成する材料に特に制限は無く、例えば混合用マイクロリアクタ3と同様の材料を用いて構成することができる。さらに例えば、テフロン(登録商標)等の材料からなるチューブ等を用いることもできる。また、化学反応進行部4の流路径にも特に制限は無く、例えば混合用マイクロリアクタ3において説明した流路径を適用することができる。
【0035】
温調機5(化学反応温度制御手段)は、化学反応進行部4における化学反応時の温度を制御するものである。温調機5の具体的な構成は特に制限されず、例えば水、水−エタノール混合溶媒、エチレングリコール等の流体を用いた恒温槽、ペルチェ素子、マントルヒーター等を用いることができる。なお、化学反応温度が室温程度である場合には、反応熱及びマイクロリアクタの熱制御性によっては、温調機5を設けないこともできる。
【0036】
水分離用マイクロリアクタ6(水分離手段)は、化学反応進行部4を通流した反応溶液中の水を分離するものである。水分離用マイクロリアクタ6を構成する材料や流路径は特に制限されず、例えば混合用マイクロリアクタ3において説明した内容を同様に適用することができる。
【0037】
また、水分離用マイクロリアクタ6は1つのみ設けられていてもよく、2つ以上が直列に接続されて設けられていてもよい。これらは、所望とする水の分離時間に応じて適宜設定可能である。また、水分離用マイクロリアクタ6は、図2を参照して後記するように点対称な構造を有しているため、2つ以上を直列に接続した場合でも最小限のスペースに複数の水分離用マイクロリアクタ6を設けることができる。
【0038】
ここで、図2を参照しながら、第1実施形態における水分離用マイクロリアクタ6の具体的な構成について説明する。
【0039】
水分離用マイクロリアクタ6は、図2(a)に示すように、略筒形状を有し、その上下端部がフランジ様部材を備えている。そして、このフランジ様部材には、反応溶液が流入する流入口20bと、水が排出される排出口20d(図2(b)参照)、反応溶液から水を分離された後の処理液が排出される排出口20eと、が設けられている。
【0040】
水分離用マイクロリアクタ6内部は、図2(b)に示す構造になっている。図2(b)に示すように、水分離用マイクロリアクタ6の上下端部は同様の構造である。そのため、説明の簡略化のために、主に上端部及び側部の構造について説明する。
【0041】
水分離用マイクロリアクタ6は、主に、流入口20b,20cを備える第1円盤部材20と、突起部21aを備える第2円盤部材21と、フランジ部22a及び円筒状の円筒部材22bからなるマイクロリアクタ本体22と、により構成される。そして、第1円盤部材20と第2円盤部材21とフランジ部22aとは、それらを貫通するねじ20a(図2では6本)により固着されている。
【0042】
また、第1円盤部材20と第2円盤部材21との間には、液漏れを防止するためのパッキン(O−リング)23a,23bが設けられている。また、第2円盤部材21とフランジ部22aとの間にも同様にパッキン23cが設けられている。
【0043】
分離膜24は、反応溶液から水を分離するものである。第1実施形態における分離膜24は、T型ゼオライト膜が用いられている。分離膜24は、図示しないパッキンを介して、上下の突起部21aの周囲を囲うように設けられている。なお、パッキンは、分離膜24の上下端部に第2円盤部材21と圧着するように設けられてもよい。このようにすることで、液漏れを防止することができる。
【0044】
そして、分離膜24の外側と円筒部材22bの内壁面との間に形成される空間が、反応溶液が通流する反応溶液流路25になる。また、分離膜24の内側に形成される空間は、減圧装置11(後記する)によって減圧されている状態になっている。そのため、水は水蒸気となって分離膜24を透過し、外部に排出される(詳細は後記する)。即ち、分離膜24の内側の空間が、水蒸気が通流する水蒸気流路26になる。
【0045】
また、流入口20bと反応溶液流路25とは、また反応溶液流路25と排出口20eとは、第2円盤部材21の周方向に等間隔に設けられている孔(図示しない)を介して連通している。このような孔を設けることにより、反応溶液を水分離用マイクロリアクタ6の内部全域に亘って均一に通流させることができ、圧力損失が低くなるような経路で通流する(所謂短絡)が生じることを防止することができる。
【0046】
また、水蒸気流路26と排出口20dとは、同様に(図示の通り)連通している。従って、流入口20bを通じて反応溶液流路25を通流する前記反応溶液に含まれる水は、分離膜24を透過して水蒸気流路26及び排出口20dにより外部へ排出されるようになっている。一方、前記反応溶液から水が分離された後の処理液(即ちオレイン酸メチルが含まれる液体)は、排出口20を通じて外部へ排出されるようになっている。
【0047】
なお、第1実施形態における水分離用マイクロリアクタ6の流入口20cは封止されている。ただし、前記のように、水分離用マイクロリアクタ6は、上下方向中心付近を対称点として、点対称の構成を有している。従って、複数の水分離用マイクロリアクタ6を接続したい場合、上下方向を入れ替えて使用したい場合等には、必要に応じて、前記封止が行われないようにしたり、異なる流入口若しくは排出口を封止したりするようにしてもよい。
【0048】
また、各流入口及び排出口は、チューブ(配管)が接続可能になるように構成されている。具体的には、各流入口及び排出口にはフィッティング用のネジ穴が形成されており(図示せず)、図示しないフィッティングを用いることにより、各流入口及び排出口にチューブが接続可能になっている。
【0049】
図1に戻り、水分離システム100の全体構成を引き続き説明する。
【0050】
温調機7(水分離温度制御手段)は、水分離用マイクロリアクタ6の温度を制御するものである。即ち、反応溶液から水を分離する際の温度を制御するものである。温調機7の具体的な構成は特に制限されず、例えば前記した温調機5と同様のものを用いることができる。
【0051】
なお、第1実施形態においては、化学反応時の温度と水の分離時の温度が異なるように設定することができる。例えば、化学反応時の温度を高くし、水の分離時の温度を低くするように、温調機5,7を設定することができる。化学反応は、活性化エネルギーを超えないと進行しないため、反応温度が高い方が反応が進み易い。一方、分離膜24(図2参照)は通常耐熱性があまり高くないため、低温で水の分離を行うことが好ましい。従って、温調機5,7をこのように設定し、化学反応時の温度と水の分離時の温度が異なるようにすることが可能である。
【0052】
背圧弁8は、図2を参照しながら説明した反応溶液流路25及び排出口20eに接続されているものである。背圧弁8が設けられることにより、反応溶液流路25を加圧状態にし、沸点が低いメタノールの気化を防止することができる。その結果、反応溶液流路25と水蒸気流路26との差圧が大きくなり、分離膜24による水の分離を促進させることができる。ただし、温調機5,7による設定温度が、いずれもオレイン酸及びメタノールの沸点よりも十分に低い温度に設定されている場合、背圧弁8を設けないことも可能である。
【0053】
生成物タンク9は、オレイン酸とメタノールとの反応により生成したオレイン酸メチルを含む処理液を貯蔵するタンクである。生成物タンク9の具体的な構成は特に制限されず、例えばオレイン酸タンク1aやメタノールタンク1bと同様の構成とすることができる。また、未反応のオレイン酸やメタノールを分離・回収するタンクを設けてもよい。
【0054】
冷却トラップ10は、図2を参照しながら説明した水蒸気流路26及び排出口20dに接続されているものである。即ち、水分離用マイクロリアクタ6において分離され、水蒸気になって外部へ排出された水は冷却トラップ10において冷却される。これにより、気化した水(水蒸気)が液体の水に変化し、分離された水を容易に回収することができる。
【0055】
減圧装置11は、水蒸気流路26を減圧下に維持するものである。減圧装置11を設けることにより、分離膜24による水の分離が促進される。減圧装置11の具体的な構成は特に制限されず、任意の減圧装置を用いればよい。
【0056】
制御装置12により、化学反応進行部4における化学反応時間を制御する。具体的には、制御装置12がポンプ2a,2bを制御することで混合用マイクロリアクタ3への原料の送液流量を制御する。これにより、前記したように化学反応時間が制御されるようになっている。この際、制御装置12は、生成物タンク9に流れ込む処理液中の生成物の割合に基づき、原料の送液流量の制御を行うようになっている。即ち、フィードバック制御が行われるようになっている。
【0057】
具体的には、処理液中の生成物(オレイン酸メチル)の量が多いときには化学反応時間を短くし、生成物の量が少ないときには化学反応時間を長くする制御を行うようになっている。換言すれば、化学反応進行部4から排出されるオレイン酸メチルの量が多いときには、化学反応進行部4における化学反応時間を短くし、化学反応進行部4から排出されるオレイン酸メチルの量が少ないときには、化学反応進行部4における化学反応時間を長くする制御を行うようになっている。
【0058】
このような制御を行う理由を説明する。制御装置は前記のように原料の送液流量を制御するため、オレイン酸メチルの生成量を予測することができる。そして、予測された生成量と現実に生成したオレイン酸メチルの量とを比較し、予測された量よりも少ない場合にはよりいっそうの化学反応が可能であると判断し、化学反応時間を長くする。このようにすることで、オレイン酸メチルと水とをよりいっそう生成させることができる。
【0059】
一方、予測されたオレイン酸メチルの生成量と現実に生成したオレイン酸メチルの量とが略同程度である場合、これ以上化学反応時間を長くしてもオレイン酸メチルの生成量は増加しないと判断し、徐々に化学反応時間を短くする制御を行う。このような制御により、化学反応時間の無駄を省くことができる。
【0060】
オレイン酸メチルの生成量の測定方法は特に制限されず、例えば密度、屈折率、FT−IR(Fourier Transform-Infrared、フーリエ変換型赤外分光)、UV(Ultraviolet;紫外線分光)、HPLC(High Performance Liquid Chromatography;液体クロマトグラフィ)、GC(Gas Chromatography;ガスクロマトグラフィ)等を用いて測定することができる。
【0061】
また、制御装置12は、温調機5,7の駆動を制御する機能も有する。即ち、制御装置12に温調機5,7の設定温度が入力されると、当該設定温度となるように制御装置12が温調機5,7を制御するようになっている。
【0062】
なお、制御装置12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、シーケンサ等により実現される。
【0063】
<作用効果>
次に、図3及び図4を参照しながら、水分離システム100における作用効果を説明する。
【0064】
図3に示すように、分離膜24の供給側(即ち反応溶液流路25)では、正反応が反応速度定数kで、逆反応が反応速度定数k−1で平衡反応が進行している。なお、より厳密には、原料混合直後からオレイン酸メチルを単離するまで反応が進行しているが、ここでは説明の便宜上、水分離用マイクロリアクタ6内での反応に限定して示している。そして、供給側の液体の水は、減圧され水蒸気となって分離膜24を透過し、透過側(即ち水蒸気流路26)に達する。水が分離膜24を透過する際の透過速度定数(つまり分離速度定数)をkとする。
【0065】
図4に示すように、反応時間が長くなるほど、原料の残存量に応じて、正反応の反応速度(正反応速度)は低下する。また、反応時間が長くなるほど、反応が進行するため、反応系に存在する水の量は増えることになる。一方、分離膜24による水の分離は、反応溶液中の水の量が多ければ多いほど、分離速度は速くなる。これらのことを勘案すると、反応時間が十分に経過すれば反応系に存在する水の量が多くなるため、水の分離速度は速くなる。
【0066】
しかしながら、平衡反応の場合は、正反応と同時に逆反応が進行し、反応時間が長くなるほど、反対に逆反応の反応速度が増大する。従って、単に反応時間を長時間確保したとしても、ある程度の時間が経過すると、正反応の反応速度と逆反応の反応速度が同じとなり、反応が進みにくくなる。換言すれば、水の生成速度は徐々に減少し、反応系に存在する水の量は頭打ちになる。そこで、水分離システム100のように、生成物の量に応じて反応時間を適切に設定することで、水の高分離効率(即ち高収率)と水分離開始までの無駄時間の削減とを図ることができる。また、反応液を循環させないため、設備の複雑化及び大型化等を抑制することができる。さらに、反応液の温度制御を安定して行うことができるため、副生成物の発生を抑制することができる。
【0067】
[2.第2実施形態]
次に、図5を参照しながら第2実施形態に係る水分離システム200を説明する。なお、図1に示す水分離システム100と同一の手段(部材)については同一の符号を付すものとし、その詳細な説明は省略する。
【0068】
<構成>
図5に示すように、水分離システム200においては、化学反応進行部4が3つの化学反応進行デバイス131,132,133及び3つの流路制御手段141,142,143によって構成されている。化学反応進行デバイス13の構造を図6(a)に示す。
【0069】
化学反応進行デバイス13は、基材13dの内部に埋設された、所定長さの微細流路13bを有するものである。微細流路13bの一端は、図6(a)に示すように表面側に流入口13aとして開口しており、他端は裏面側に排出口13cとして開口している。従って、流入口13aから流入した反応溶液は微細流路13bを通流し、排出口13cから排出されるようになっている。
【0070】
化学反応進行デバイス13を構成する材料としては特に制限は無いが、例えば前記した混合用マイクロリアクタ3と同様の材料を用いることができる。また、化学反応進行デバイス13を構成する微細流路13bの流路径の代表長さも特に制限されないが、例えば前記した混合用マイクロリアクタ3の流路径と同様にすることができる。
【0071】
さらに、微細流路13bの流路形状は図6(a)に示す形状に限られず、例えば直線状、渦巻状等であってもよい。また、化学反応進行デバイス13毎に異なる流路形状としてもよい。また、一部が同一であって、残部が異なるようにしてもよい。ただし、化学反応進行デバイス13の除熱性能を均一にし、化学反応を制御し易くするという観点から、全ての化学反応進行デバイス13が同一形状の微細流路13bを有することが好ましい。また、化学反応進行デバイス13は、一体成型の構成としてもよいし、分解できるような構成としてもよい。
【0072】
なお、流入口13aの位置と排出口13cの位置とは、化学反応進行デバイス13の長手方向中心を対称点として点対称となるように設けられている。そして、流入口13a及び排出口13cをこのように設けることで、図6(b)に示すように単に重ねることで微細流路13bの長さを容易に変更することができる。しかも、デッドボリュームを最小限にして2つ以上の化学反応進行デバイス13を接続することができる。
【0073】
さらに、流入口13a及び排出口13cには、フィッティング用のネジ穴(図示しない)が形成されている。そのため、図示しないフィッティングを用いることにより、流入口13a及び排出口13cにチューブを接続することができる。
【0074】
図5に示す水分離システム200においては、1つの化学反応進行デバイス13が流路
制御手段14を介して相互に接続されている。そして、制御装置12が流路制御手段14を切り替えることにより、反応溶液が通流する化学反応進行デバイス13の数を変更できるようになっている。従って、このように化学反応進行部4を構成することにより、容易に微細流路13bの長さを変更することができ、化学反応の時間を容易に制御することができる。
【0075】
具体的には、例えば1つの化学反応進行デバイス13(131)に通流させたい場合には、流量制御手段141,143を制御して化学反応進行デバイス132,133に混合物が到達しないようにすればよい。2つの化学反応進行デバイス13(131,132,133のうちの2つ)、或いは3つの化学反応進行デバイス13(131,132,133)に通流させたい場合にも、同様に流路制御手段14を制御することで容易に変更することができる。即ち、流路制御手段14を制御することにより通流する微細流路13bの長さを容易に変更することができる。
【0076】
なお、流路制御手段14として、各流路に弁を設け、それらの弁を制御することで通流する流路を制御するようにしてもよい。また、図5において化学反応進行デバイス13は複数個直列に接続して示しているが、1つの化学反応進行デバイス13のみを接続して構成してもよい。
【0077】
<制御方法>
次に、図7を参照しながら、図5に示す水分離システム200における制御方法を説明する。なお、図7に示すフローチャートにおける制御は制御装置12によって行われる。また、水の分離効率が向上したか否かは、オレイン酸メチルの生成量の変化によって判断される。即ち、オレイン酸メチルと水との生成量における化学量論比は1:1であるから、オレイン酸メチルの生成量が向上したことは、水の分離効率(より具体的には、水の生成効率)が向上したことを表している。
【0078】
ステップS102以降で、水の分離効率向上のための検討が開始される(ステップS101)。はじめに、オレイン酸とメタノールとが予め設定された所定の流量(即ち所定の反応時間)にて混合されると(ステップS102)、化学反応が開始されてオレイン酸メチル及び水が生成する。この際に生成するオレイン酸メチルの量から水の分離効率を算出して理論効率と比較する。その結果、水の分離効率が向上(即ち良好)であると判定された場合には(ステップS103・Yes)、反応時間が最適化されたとして検討が終了し(ステップS110、S111)、その条件にて運転が継続される。
【0079】
一方、ステップS103において水の分離効率向上が認められなかった場合(S103・No)、オレイン酸及びメタノールの送液流量が変更可能である場合には(ステップS104・Yes)、ポンプ2a,2bを制御して送液流量を変更してステップS102及びステップS103を繰り返す。もし、送液流量の変更が不可能である場合(ステップS104・No;例えば送液流量を増加させたいのに、ポンプ2a,2bが既に最大出力で稼動されている場合等)、化学反応進行デバイス13の設定を行う(ステップS105)。
【0080】
具体的には、流路制御手段14を制御して、通流する化学反応進行デバイス13の数を決定する。これにより、化学反応時間の設定が再度行われることになる。そして、化学反応進行デバイス13の設定が完了し、前記ステップS103と同様に水の分離効率が良好であると判定されると(ステップS106・Yes)、反応時間が最適化されたとして検討が終了し(ステップS110、S111)、その条件にて運転が継続される。
【0081】
ステップS106において、水の分離効率が良好ではなかった場合(ステップS106・No)、通流する化学反応進行デバイス13の数を変更し(ステップS107・Yes)、ステップS105及びステップS106を繰り返す。一方、ステップS107で化学反応進行デバイス13の変更が不可能であった場合(ステップS107・No;例えば化学反応時間を長くしたいのに、既に全ての化学反応進行デバイス13を使用している場合等)、温調機7を制御して水の分離温度を変更する(ステップS108)。そして、これにより、水の分離効率が向上したか否かを判定し(ステップS109)、向上した場合には検討が終了する(ステップS109・Yes、ステップS110、ステップS111)。
【0082】
ステップS109で分離効率の向上が認められなかった場合(ステップS109・No)、水の分離温度が変更可能であるかを検討し(ステップS112)、変更可能である場合にはステップS108及びステップS109を繰り返す。一方、例えば分離温度を昇温させたいにも関らず温調機7が既に最大出力で運転されている場合や、分離膜24の耐熱温度限界に達している場合等、分離温度が変更不可能である場合に反応時間の最適化ができなかったとして検討が終了する(ステップS112・No、ステップS113、ステップS111)
【0083】
[3.第3実施形態]
次に、図8を参照しながら第3実施形態に係る水分離システム300を説明する。なお、図1及び図5に示す水分離システム100,200と同一の手段(部材)については同一の符号を付すものとし、その詳細な説明は省略する。
【0084】
<構成>
水分離システム300においては、生成物(オレイン酸メチル)の量を自動で測定する測定装置15(インライン測定装置)が設けられている。この例では、測定装置15は、背圧弁8と生成物タンク9との間に設けられているが、水分離用マイクロリアクタ6と背圧弁8との間に設けてもよい。
【0085】
測定装置15の具体的な構成は特に制限されず、例えば前記した方法を利用した自動測定装置を用いればよい。そして、このような測定装置15を設けることにより、作業者が処理液中の生成物の量を手動で測定する必要が無く、制御の煩雑さを回避することができる。しかも、測定された生成物の量は即座に制御装置12に入力されるため、前記のフィードバック制御を行う際のタイムラグを極めて少なくすることができる。そのため、より精度良く水の分離効率を向上させることができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
オレイン酸とメタノールとを用い、オレイン酸メチルとともに生成する水の分離効率を検討した。この際、図1に示す水分離システム100を用いた。以下、詳細な条件を示す。
【0088】
[実施例1]
<構成>
メタノールとして、和光純薬工業社製 試薬特級 メタノールを用いた。なお、実施例で用いたメタノールには、触媒として濃硫酸(和光純薬工業社製、試薬特級)を混合し、得られたメタノール溶液を用いた。濃硫酸の混合量は、メタノール溶液全体に対して1.6質量%とした。
【0089】
オレイン酸として、和光純薬工業社製 和光一級 オレイン酸を用いた。なお、実施例で用いたオレイン酸は、含まれうる不純物を除去するために、メッシュ孔25μmのステンレス篩(アズワン社製)に供した。この操作により、分離膜24の孔等の種々の孔の閉塞を防止することができた。
【0090】
また、オレイン酸とメタノール溶液との混合比は7.18:1とし、より反応を速く進行させるためにメタノールを過剰量用いた。混合用マイクロリアクタ3への送液流量は、オレイン酸を0.898ml/分、メタノール溶液を0.125ml/分とした。即ち、混合用マイクロリアクタ3に供給される原料の全送液流量1.023ml/分となるようにポンプ2a,2bを設定した。
【0091】
原料の送液には、日立マイクロリアクタシステム マイクロプロセスサーバー MPS−α200(日立プラントテクノロジー社製)を用いた。MPS−α200はシリンジポンプで送液するシステムであり、送液の際には、MPS−α200のプログラム送液モードを用いて、2本のシリンジポンプ(ポンプ2a,2bに相当)を交互に吸引・吐出を繰り返すことにより、シリンジポンプの容量以上の体積を送液が途切れずに送液できるように用いた。
【0092】
混合用マイクロリアクタ3として、日立プラントテクノロジー社製 マイクロリアクタ CMPS−α04を用いた。
【0093】
また、化学反応時間進行部4としては、外径3mm、内径2mm、長さ10mのフッ素樹脂製チューブ(GLサイエンス社製)を用いた。
【0094】
図2に示す構造を有する水分離用マイクロリアクタ6の寸法は、内径16mmの管の内側に分離膜24としてのT型ゼオライト膜(三井造船社製)が収容される構造とした。また、水分離用マイクロリアクタ6の全長は331mm、第1円盤部材20、第2円盤部材21、フランジ部22aの直径は40mmとした。T型ゼオライト膜の外径は実測で12.3mm、長さは300mmであったため、反応溶液流路25の流路幅は2mm以下(1.85mm)となっている。
【0095】
流入口20bと反応溶液流路25と排出口21eとを連通させるために、第2円盤部材21には直径0.2mmの孔を周方向等間隔に4つ配置した。これにより、反応溶液が水分離用マイクロリアクタ6の流入口20bから排出口20eまで流れる時間は理論値とほぼ一致しており、前記孔により液体が適切に通流されていた。
【0096】
生成物(オレイン酸メチル)とオレイン酸残留物の定量は、HPLC(High Performance Liquid Chromatography;高速液体クロマトグラフィ)を用いて行った。
【0097】
<運転条件>
まず、60℃の恒温槽に浸した混合用マイクロリアクタ3にオレイン酸とメタノール溶液とを合計1.023ml/分の送液流量で供給して反応溶液とした。そして、この反応溶液を60℃の恒温槽(即ち、温調機5の設定温度が60℃に相当)に浸した化学反応進行部4に通流させた。その後、60℃の恒温槽(即ち、温調機7の設定温度が60℃に相当)に浸した水分離用マイクロリアクタ6に同じ送液流量で供給し、反応溶液流路25を通流させた。そして、減圧装置11により水蒸気流路26を−0.085MPaに減圧することにより、水蒸気流路26内の水を気化・分離した。分離した水は、氷冷した冷却トラップ10に回収した。
【0098】
水の分離開始は、オレイン酸とメタノール溶液とが混合されてから31分後とした。即ち、水分離用マイクロリアクタ6に対して、混合後31分経過してから反応溶液が供給されるようにした。そして、混合後56分が経過した後30分間送液を停止、その後再び送液を開始する所謂「stopped flow法」により、水の分離時間を長くした。
【0099】
また、混合用マイクロリアクタ3に付設された温調機(図示しない)の設定温度、温調機5及び温調機7の設定温度はいずれも60℃にした。この温度はメタノールの沸点(64.7℃)よりも低いものの、わずかではあっても原料のメタノールが気化し、原料同士の接触面積が小さくなり反応速度が遅くなる可能性がある。そこで、背圧弁8を制御して、反応系の圧力を138kPa(20psi)以上に維持した。
【0100】
[比較例1]
化学反応進行部4として、外径約1.6mm、内径1mm、長さ0.1mのフッ素樹脂製チューブ(GLサイエンス社製)としたこと以外は前記実施例と同様にして検討を行った。この場合、化学反応進行部4が非常に短いので、混合用マイクロリアクタ3から排出された反応溶液はすぐに水分離用マイクロリアクタ6に供給されることになる。
【0101】
[比較例2]
比較例2として、バッチ法による検討を行った。バッチ法では、T型ゼオライト膜の上下をシリコーンゴム栓で挟み、ゴム栓にチューブを差し込むことにより、膜内を減圧できるようにしたものを用意した。60℃の恒温槽に浸した200mlの丸底フラスコに100mlのオレイン酸を入れ、撹拌しながら1.6質量%の濃度で濃硫酸を含むメタノール溶液13.9mlを1分間で3回に分けて混合して反応溶液を得、撹拌を続けながら反応を進行させた。
【0102】
上下のシリコーンゴム栓で挟まれた膜の長さを20mmとし、この部分が常に反応溶液に浸かるようにして膜に浸透させ、減圧装置により膜内を−0.085MPaに減圧することにより、系内の水を気化・分離した。分離した水は氷冷した冷却トラップに回収した。水分離を3時間行い、反応溶液中のオレイン酸メチルの生成量を測定した。
【0103】
[結果]
図9に、混合開始からの経過時間(即ち化学反応時間)に対する収率のグラフを示す。収率は、下記式(1)で算出されるオレイン酸メチルの収率である。
【数1】

式(1)中、[オレイン酸メチル]は反応溶液中のオレイン酸メチルのモル濃度、[オレイン酸]は反応溶液中のオレイン酸のモル濃度を表す。
【0104】
図9(a)に示すように、実施例1においては、水分離開始前には収率52%で平衡状態に達した。しかし、水分離を開始すると収率は増加し、従来の方法である比較例2よりも十分に収率が向上した。特に、反応時間が85分の時に収率が63%となり、比較例2と比べて7%増加していた。
【0105】
また、比較例同士を比べた図9(b)に示すように、化学反応進行部4を設けない比較例1と従来のバッチ法である比較例2とは、ほぼ同様の挙動を示した。また、図示はしていないが、比較例1では、反応時間55分以内では水の分離は観測されなかった。
【0106】
さらに、実施例1並びに比較例1及び2について、下記式(2)に基づいて算出した速度定数k、k−1、k(図3参照)を算出した。具体的な算出式を以下に示す。
【数2】

【0107】
以上の結果をまとめたものを表1に示す。
【表1】

表1中、「※」は水の分離が観測されなかったため、計算できなかったことを示す。
【0108】
反応時間31分経過後から水を分離した場合(実施例1)、反応開始時から水を分離した場合(比較例1)やバッチ法(比較例2)と単純に比較することはできないが、水の分離速度定数kは、比較例1と比べて10倍程度、比較例2と比べて10倍程度大きくなっていた。このように、水分離用マイクロリアクタを使用し、さらに化学反応進行部4を設けることにより、水を効率良く分離することができることが明らかとなった。
【0109】
また、実施例1の場合、水の分離開始前(即ち31分以前)の正反応の速度定数kは、比較例1や比較例2よりも大きくなっている。そのため、化学反応進行部4を設けることにより、化学反応時間を短くすることができることが明らかとなった。
【0110】
以上の結果により、本実施形態に拠れば、水を効率よく分離することができるとともに、短い化学反応時間で高収率が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0111】
3 混合用マイクロリアクタ(混合手段)
4 化学反応進行部(化学反応進行手段)
5 温調機(化学反応温度制御手段)
6 水分離用マイクロリアクタ(水分離手段)
7 水分離温度制御手段
12 制御装置(制御手段)
13 化学反応進行デバイス
15 測定装置(インライン測定装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を化学反応させた後に得られる生成物溶液から水を分離する水分離システムであって、
前記原料が供給されて混合される混合手段と、
前記混合手段の下流に接続され、混合された前記原料の化学反応が進行される化学反応進行手段と、
前記化学反応進行手段の下流に接続され、前記化学反応進行手段において生成した水を分離する水分離手段と、
前記化学反応進行手段における化学反応時間を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記化学反応進行手段から排出される溶液中の生成物の量が多いときには、前記化学反応進行手段における化学反応時間を短くし、
前記化学反応進行手段から排出される溶液中の生成物の量が少ないときには、前記化学反応進行手段における化学反応時間を長くする制御を行う
ことを特徴とする、水分離システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水分離システムにおいて、
前記制御手段は、
前記混合手段に供給される原料の送液流量を制御する機能を備え、
前記混合手段に供給される原料の送液流量を制御することにより、化学反応時間が制御される
ことを特徴とする、水分離システム。
【請求項3】
請求項1に記載の水分離システムにおいて、
前記化学反応進行手段は微細流路を有し、
前記微細流路の長さを変更することにより、化学反応時間が制御される
ことを特徴とする、水分離システム。
【請求項4】
請求項3に記載の水分離システムにおいて、
前記化学反応進行手段は所定の長さの微細流路を有するデバイスによって構成され、
前記デバイスが単数又は複数個直列に接続されることにより、前記微細流路の長さが設定される
ことを特徴とする、水分離システム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の水分離システムにおいて、
化学反応時の温度を制御する化学反応温度制御手段と、
水の分離時の温度を制御する水分離温度制御手段と、
を備え、
化学反応時の温度と水の分離時の温度とが異なって設定される
ことを特徴とする、水分離システム。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の水分離システムにおいて、
前記生成物の量を測定するインライン測定手段が設けられる
ことを特徴とする、水分離システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−27798(P2013−27798A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163395(P2011−163395)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】