説明

水性エマルジョン組成物

【課題】 耐水性、とくに耐煮沸水性、および粘度放置安定性に優れた水性エマルジョン組成物、接着剤およびコーテイング剤を得ること。
【解決手段】 (A)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種単量体単位を主成分とし、かつ、シリル基を有する不飽和単量体単位を0.05〜5重量%含有する重合体微粒子、(B)エチレン単位を1〜10モル%含有するビニルアルコール系重合体および(C)シリル基を有するビニルアルコール系重合体からなり、かつ、固形分重量比で、(B)/(C)=90/10〜10/90、(A)/{(B)+(C)}=99/1〜80/20である水性エマルジョン組成物、それを用いた接着剤、コーテイング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エマルジョン組成物に関するものであり、さらに詳しくは、シリル基含有不飽和単量体単位を含む重合体微粒子、エチレン単位を含有するビニルアルコール系重合体、シリル基を有するビニルアルコール系重合体からなる水性エマルジョン組成物、さらには架橋剤を含有する水性エマルジョン組成物に関する。さらに詳細には、本発明は、耐水性、とくに耐煮沸水性および放置安定性に優れる(ポットライフの長い)水性エマルジョン組成物、それからなる接着剤およびコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)は、エチレン性不飽和単量体、特に酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体の乳化重合用保護コロイドとして広く用いられており、これを保護コロイドとして用い乳化重合して得られるビニルエステル系水性エマルジョンは、紙用、木工用およびプラスチック用などの各種接着剤、含浸紙用および不織製品用などの各種バインダー、混和剤、打継ぎ材、塗料、紙加工および繊維加工などの分野で広く用いられている。このような水性エマルジョンは、乾燥条件下においては強固な機械強度を有する皮膜を形成することで上記各種用途において効果を発揮するものの、高湿度あるいは水湿潤条件においては皮膜中で連続相を形成するPVAが水溶性であるためにPVAの溶出や吸水が大きく、機械強度が顕著に低下するという問題がある。
【0003】
このようなことから、これまで、PVAを分散剤とするエマルジョンから得られる皮膜の耐水性,耐熱水性を高めるために、種々の手段が試みられてきた。その代表例としては、PVAを分散剤とするエマルジョンに多価イソシアネート化合物を配合する方法が知られている。この方法では、イソシアネートがPVAの水酸基等と強固に反応するために顕著な耐水性が発現するが、一方で、イソシアネートは水と反応するため、組成物のポットライフが非常に短く、作業性に問題がある。また、PVAを分散剤とする水性エマルジョン組成物およびを用いた種々の接着剤が提案されている。例えば、(1)PVAを分散剤とした水性エマルジョン、およびグリオキザールなどの脂肪族アルデヒドからなる接着剤(特許文献1)、(2)PVA、水性エマルジョン、架橋剤、およびキトサンなどのアミノ化合物からなる接着剤(特許文献2)、(3)PVA、水性エマルジョン、塩化アルミニウムなどの架橋剤ならびに多価イソシアネート化合物からなる接着剤(特許文献3)、(4)炭素数4以下のα−オレフィン単位を有するPVA系重合体を分散剤とするエマルジョンを主成分とする接着剤(特許文献4)、(5)カルボキシル基変性PVA存在下に乳化重合して得られるエマルジョン、ポリアミドとエポキシ基含有化合物との反応物からなる組成物(特許文献5)、(6)分子内にα−オレフィン単位を有するPVA系重合体とカルボキシル基を有するPVA系重合体を分散剤とする水性エマルジョン、エポキシ化合物、アミノ基含有水性樹脂、アルミニウム化合物およびチタン化合物から選ばれる耐水化剤からなる組成物(特許文献6)、(7)シリル基含有PVAを水性エマルジョンに配合し各種架橋剤を添加してなる組成物(特許文献7)などが知られている。
【0004】
しかしながら、(1)、(2)、(4)、(5)、(6)および(7)の接着剤および組成物においては、耐水性の改善は認められるものの、耐煮沸水性は必ずしも十分ではない。また(3)の接着剤は粘度放置安定性が悪く(ポットライフが短く)作業性に問題がある。したがって、高度な耐水性、とくに耐煮沸水性と、粘度放置安定性を両立する水性エマルジョン組成物、それからなる接着剤およびコーティング剤は、現在の技術レベルでは存在しないといっても過言ではなく、なお一層の改良の余地がある。
【特許文献1】特開昭55−94937号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平3−45678号公報)(特許請求の範囲)
【特許文献3】特公昭57−16150号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特許第3466316号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特許第3311086号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2001−40231号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特許第3294649号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情のもとで耐水性、とくに耐煮沸水性、および粘度放置安定性の両者に優れる水性エマルジョン組成物、接着剤およびコーティング剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する水性エマルジョン組成物、接着剤およびコーティング剤を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、(A)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種の単量体単位を主成分とし、かつ、シリル基を有する不飽和単量体単位を0.05〜5重量%含有する重合体微粒子、(B)エチレン単位を1〜10モル%含有するビニルアルコール系重合体および(C)シリル基を有するビニルアルコール系重合体からなり、かつ、固形分重量比が(B)/(C)=90/10〜10/90、(A)/{(B)+(C)}=99/1〜80/20である水性エマルジョン組成物、およびこの組成物に(D)水溶性金属化合物、コロイド状無機物、ポリアミドアミンエピクロルヒドリン付加物およびグリオキザール系樹脂から選ばれる少なくとも一種の架橋剤を固形分重量比で{(A)+(B)+(C)}/(D)=100/0〜90/10配合してなる水性エマルジョン組成物が上記目的を満足するものであることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性エマルジョン組成物は、高い耐水性、とくに耐煮沸水性、および優れた粘度放置安定性の両者を有しており、高性能な接着剤およびコーティング剤として好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の水性分散液の(A)重合体微粒子は、エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種以上の単量体単位を主成分とし、かつ、シリル基を有する不飽和単量体単位を含有している。ここで重合体微粒子を主として構成するエチレン性不飽和単量体単位およびジエン系単量体単位としては各種のものが使用できるが、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオリドなどのハロゲン化オレフィン、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのメタクリル酸エステル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの四級化物、さらには、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩などのアクリルアミド系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸およびナトリウム、カリウム塩などのスチレン系単量体、その他N−ビニルピロリドンなど、また、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体が挙げられる。また、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基を有する架橋性不飽和単量体、ビニルオキサゾリン、2−プロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有する架橋性不飽和単量体、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基を含有架橋性不飽和単量体、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のメチロール基含有架橋性不飽和単量体、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド等のN−アルコキシメチル基含有架橋性不飽和単量体、ジアセトンアクリルアミド、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレートなどの架橋性不飽和単量体なども本発明の性能を損なわない範囲で使用することができる。上記不飽和単量体の中でも、ビニルエステル系単量体、エチレンとビニルエステル系単量体およびビニルエステルと(メタ)アクリル酸エステル系単量体の併用が好適であり、工業的な観点から、ビニルエステル系単量体単位としては酢酸ビニルが特に好ましい。
【0009】
さらに、本発明において、(A)重合体微粒子を構成するシリル基を含有する不飽和単量体としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス−(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリアセトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルジメチルアセトキシシラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ポリエチレングリコール化ビニルシラン等のビニルシラン類、p−スチリルトリメトキシシラン等のスチリルシラン類、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロキシ−アルキルシラン類、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、3−アクリルアミド−プロピルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、2−アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルエチルトリメトキシシラン、2−アクリルアミド−2−メチルエチルトリメトキシシラン、N−[2−(メタ)アクリルアミド−エチル]−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシラン、3−アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリメトキシシラン、2−アクリルアミド−エチルトリメトキシシラン、1−(メタ)アクリルアミド−メチルトリメトキシシラン、1−アクリルアミド−メチルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリルアミド−プロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルジメチルメトキシシラン、3−アクリルアミド−プロピルジメチルメトキシシラン、3−[N−メチル−(メタ)アクリルアミド]プロピルトリメトキシシラン、3−(N−メチル−アクリルアミド)プロピルトリメトキシシラン、3−[(メタ)アクリルアミド−メトキシ]−3−ハイドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(アクリルアミド−メトキシ)−3−ハイドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−[(メタ)アクリルアミド−メトキシ]−プロピルトリメトキシシシラン、3−(アクリルアミド−メトキシ)−プロピルトリメトキシシシラン、N,N−ジメチル−N−トリメトキシシリルプロピル−3−(メタ)アクリルアミド−プロピルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−トリメトキシシリルプロピル−3−アクリルアミド−プロピルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−トリメトキシシリルプロピル−2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−トリメトキシシリルプロピル−2−アクリルアミド−2−メチルプロピルアンモニウムクロライド等の(メタ)アクリルアミド−アルキルシラン類などが挙げられる。
【0010】
本発明において、(A)重合体微粒子は、シリル基を有する不飽和単量体を全単量体単位中に0.05〜5重量%含有することが必要であり、好ましくは、0.1〜4.5重量%、さらに好ましくは0.2〜4重量%である。シリル基を有する不飽和単量体単位の含有量が0.05重量%未満の場合、得られる水性エマルジョン組成物を皮膜化した場合に充分な架橋が達成されないために耐水性、とくに耐煮沸水性が低く、また、この含有量が5重量%を超える場合、得られる水性エマルジョン組成物の分散安定性の低下と粘度放置安定性が低下する問題がある。(A)重合体微粒子の粒径は、動的光散乱法による測定値が0.05〜10μ程度が好適であり、さらに好適には0.1〜7μであり、さらに好適には0.1〜5μである。
【0011】
本発明において、(B)エチレン単位を1〜10モル%含有するビニルアルコール系重合体は、ビニルエステルとエチレンとの共重合体をけん化することにより得ることができる。ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、酢酸ビニルが経済的にみて好ましい。
本発明の(B)エチレン単位を有するビニルアルコール系重合体のエチレン単位の含有量としては、1〜10モル%であることが必要であり、好ましくは2〜8モル%である。エチレン単位の含有量が1モル%未満の場合には、得られる水性エマルジョン組成物を皮膜化した場合の耐水性が十分ではなく、10モル%を越える場合には、該ビニルアルコール系重合体の水溶性が低下するために、安定な水性エマルジョン組成物が得られない場合がある。
【0012】
また、本発明において、(B)エチレン単位を有するビニルアルコール系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマール酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルトリメトキシシランなどが挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を、エチレンと共重合し、それをけん化することによって得られる末端変性物を用いることもできる。
【0013】
本発明において、(B)エチレン単位を有するビニルアルコール系重合体のけん化度は、85〜99.5モル%であることが好適であり、より好ましくは88モル%〜99.5モル%、さらに好ましくは90〜99.5モル%である。けん化度がこの範囲にあるとき、本発明の水性エマルジョン組成物の耐水性、とくに耐煮沸水性、および粘度放置安定性が良好に保持される。
【0014】
また、該重合体の重合度は、100〜4000の範囲が好ましく、200〜3000がより好ましい。重合度がこの範囲にあるとき、本発明の水性エマルジョン組成物の分散安定性やその皮膜の耐水性が良好に保持される。
【0015】
本発明において、(C)シリル基を有するビニルアルコール系重合体は、各種の方法により得られ、分子内にケイ素を含むものであればいずれでもよいが、分子内に含有されるシリル基がアルコキシル基あるいはアシロキシル基あるいはこれらの加水分解物である
シラノール基又はその塩等の反応性置換基を有しているものが特に好ましく用いられる。 かかるシリル基含有ビニルアルコール系重合体の製造方法としては、ポリビニルアルコールあるいはカルボキシル基又は水酸基を含有する変性ポリ酢酸ビニルに、シリル化剤を用いて後変性によりシリル基を導入する方法、ビニルエステルとシリル基含有オレフイン性不飽和単量体との共重合体をケン化する方法、シリル基を有するメルカプタンの存在下でビニルエステルを重合することによつて得られる末端にシリル基を有するポリビニルエステルをケン化する方法が挙げられる。
【0016】
ポリビニルアルコールあるいは変性ポリ酢酸ビニルにシリル化剤を用いて後変性する方法においては、例えば、シリル化剤と反応しない有機溶剤、たとえばベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、エーテル又はアセトンなどにシリル化剤を溶解させ、該溶液中に粉末状ポリビニルアルコールあるいは上記変性ポリ酢酸ビニルを攪拌下に懸濁させ、常温〜シリル化剤の沸点の範囲の温度においてシリル化剤とポリビニルアルコールあるいは上記変性ポリ酢酸ビニルを反応させることによって、あるいは更にアルカリ触媒等によって酢酸ビニル単位をケン化することによってシリル基含有ビニルアルコール系重合体を得ることができる。後変性において用いられるシリル化剤としては、トリメチルクロルシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、ビニルトリクロルシラン、ジフエニルジクロルシラン、トリエチルフルオルシラン等のオルガノハロゲンシラン、トリメチルアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシランなどのオルガノシリコンエステル、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランなどのオルガノアルコキシシラン、トリメチルシラノール、ジエチルシランジオール等のオルガノシラノール、N−アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノアルキルシラン、トリメチルシリコンイソシアネート等のオルガノシリコンイソシアネート等が挙げられる。 シリル化剤の導入率すなわち変性度は用いられるシリル化剤の量、反応時間によつて任意に調節することができる。また得られるシリル基含有ビニルアルコール系重合体の重合度、ケン化度は用いられるポリビニルアルコールの重合度、ケン化度あるいは上記変性ポリ酢酸ビニルの重合度およびケン化反応によつて任意に調節することができる。
【0017】
また、ビニルエステルとシリル基含有オレフイン性不飽和単量体との共重合体をケン化する方法においては、例えば、アルコール中においてビニルエステルとシリル基含有オレフイン性不飽和単量体とをラジカル開始剤を用いて共重合せしめ、しかる後に該共重合体のアルコール溶液にアルカリあるいは酸触媒を加えて該共重合体をケン化せしめることによつてシリル基含有変性PVAを得ることができる。上記の方法において用いられるビニルエステルとしては酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ギ酸ビニル等が挙げられるが経済的にみて酢酸ビニルが好ましい。
また、上記の方法において用いられるシリル基含有オレフイン性不飽和単量体としてはビニルシラン類、(メタ)アクリルアミド−アルキルシラン類が挙げられる。ビニルシラン類の具体例としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス−(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリアセトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルジメチルアセトキシシラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシラン、ポリエチレングリコール化ビニルシラン等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド−アルキルシランの具体例としては、例えば、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、3−アクリルアミド−プロピルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、2−アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルエチルトリメトキシシラン、2−アクリルアミド−2−メチルエチルトリメトキシシラン、N−[2−(メタ)アクリルアミド−エチル]−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アクリルアミド−エチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシラン、3−アクリルアミド−プロピルトリアセトキシシラン、2−(メタ)アクリルアミド−エチルトリメトキシシラン、2−アクリルアミド−エチルトリメトキシシラン、1−(メタ)アクリルアミド−メチルトリメトキシシラン、1−アクリルアミド−メチルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリルアミド−プロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルジメチルメトキシシラン、3−アクリルアミド−プロピルジメチルメトキシシラン、3−[N−メチル−(メタ)アクリルアミド]プロピルトリメトキシシラン、3−(N−メチル−アクリルアミド)プロピルトリメトキシシラン、3−[(メタ)アクリルアミド−メトキシ]−3−ハイドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(アクリルアミド−メトキシ)−3−ハイドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−[(メタ)アクリルアミド−メトキシ]−プロピルトリメトキシシシラン、3−(アクリルアミド−メトキシ)−プロピルトリメトキシシシラン、N,N−ジメチル−N−トリメトキシシリルプロピル−3−(メタ)アクリルアミド−プロピルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−トリメトキシシリルプロピル−3−アクリルアミド−プロピルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−トリメトキシシリルプロピル−2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロピルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−トリメトキシシリルプロピル−2−アクリルアミド−2−メチルプロピルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0018】
また、本発明において使用されるシリル基含有ビニルアルコール系重合体を製造するにあたってビニルエステルとシリル基含有オレフイン性不飽和単量体との共重合を行なうにあたっては上記2成分以外にかかる単量体と共重合可能な他の不飽和単量体、例えばスチレン、アルキルビニルエーテル、バーサチツク酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、エチレン、プロピレン、α−ヘキセン、α−オクテン等のオレフイン、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和酸、及びそのアルキルエステル、アルカリ塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸含有単量体及びそのアルカリ塩、トリメチル−3−[1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル]アンモニウムクロリド、トリメチル−3−[1−(メタ)アクリルアミドプロピル]アンモニウムクロリド、1−ビニル−2−メチルイミタゾールおよびその4級化物等のカチオン性単量体等を性能を損なわない範囲内で少割合存在させることも可能である。
【0019】
また、シリル基を有するメルカプタンの存在下でビニルエステルを重合することによつて得られる末端にシリル基を有するポリビニルエステルをケン化する方法においては、例えばビニルエステルをラジカル開始剤を用いて重合せしめる際、シリル基を有するメルカプタンを重合系に一括または分割あるいは連続して添加し、重合系中にシリル基を有するメルカプタンを存在せしめ、メルカプタンへの連鎖移動によって末端にシリル基を有するポリビニルエステルを生成せしめた後、該ポリビニルエステルのアルコール溶液にアルカリあるいは酸触媒を加えて該ポリビニルエステルをケン化せしめることによってシリル基を有するビニルアルコール系重合体を得ることができる。
【0020】
本方法で用いられるシリル基を有するメルカプタンとしては3−(トリメトキシシリル)−プロピルメルカプタン、3−(トリエトキシシリル)−プロピルメルカプタン等が使用しうる。本方法でシリル基を有するビニルアルコール系重合体を製造するにあたっては前記の方法で用いられるビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体を少割合で存在させることも可能である。
【0021】
以上、分子中にシリル基を含有するビニルアルコール系重合体について詳しく説明したが、これらのうち、工業的製造の容易性の点で後変性によるものより共重合によるものの方が好ましい。また、共重合によるシリル基を含有するビニルアルコール系重合体のうちでは、ビニルシラン類とビニルエステルの共重合体ケン化物が、水溶液の粘度安定性、アルカリ性水溶液とした場合のアルカリに対する安定性、皮膜化時の架橋性点で優れており好ましく用いられる。
【0022】
上記のシリル基含有ビニルアルコール系重合体の変性度、すなわち該ビニルアルコール系重合体中のシリル基含有量は分子内にシリル基を含有する単量体単位として0.01〜5モル%、好ましくは0.1〜1.0モル%、更に好ましくは0.1〜0.6モル%である。シリル基の含有量が0.01モル%未満の場合には期待する架橋点としての機能が十分ではないために水性エマルジョン組成物を皮膜化した場合の耐水性、とくに耐煮沸水性に劣る。また、5モル%より大の場合には水性エマルジョン組成物の分散安定性、粘度放置安定性の悪化が起こるので好ましくない。
【0023】
また、シリル基含有ポリビニルアルコール系重合体(後変性および共重合変性とも)の重合度は通常100〜3000、好適には300〜2000、また、けん化度は70〜100モル%の範囲から選ばれる。重合度およびけん化度がこの範囲にあるとき、本発明の水性エマルジョン組成物の分散安定性やその皮膜の耐水性が良好に保持される。このようにして得られたシリル基含有ビニルアルコール系重合体は水に分散後、場合によっては少量の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、アミン等のアルカリを加え、攪拌しながら加温することによって均一な水溶液とすることができる。
【0024】
本発明の水性エマルジョン組成物は、各種の方法によって得られるが、代表的には、(B)エチレン単位を1〜10モル%含有するビニルアルコール系重合体と(C)シリル基を有するビニルアルコール系重合体を分散安定剤とし、(A)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種の単量体とシリル基を含有する不飽和単量体を乳化重合することにより得られる。
【0025】
上記の(A)、(B)および(C)を用いた乳化重合は、特に制限はなく、従来公知の乳化重合の条件(温度、圧力、攪拌速度等)、単量体の添加方法{初期一括添加、連続添加、単量体プレ乳化液添加(単量体を分散安定剤水溶液に乳化したものを連続添加)等}で、従来公知の開始剤を用いて行うことができる。また、該乳化重合に際し、(B)あるいは(C)のビニルアルコール系重合体のいずれかを分散安定剤にし、(A)の重合体微粒子を構成する単量体を乳化重合を開始し、重合途中あるいは重合終了後に残りの(B)あるいは(C)の水溶液を後添加する手法等も採用できる。
【0026】
本発明の水性エマルジョン組成物は、それからなる皮膜の耐水性、とくに耐煮沸水性をさらに上げる目的で、(D)水溶性金属化合物、コロイド状無機物、ポリアミドアミンエピクロルヒドリン付加物およびグリオキザール系樹脂から選ばれる一種あるいは二種以上の架橋剤を含有させることができる。ここで、水溶性金属化合物としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、乳酸チタン等、コロイド状無機物としては、コロイダルシリカ、アルミナゾル等、ポリアミドアミンエピクロルヒドリン付加物としては、各種ポリアミドアミンにエピクロルヒドリンを付加したもの、グリオキザール系樹脂としては、尿素−グリオキザール系樹脂等が挙げられ、水溶性金属塩あるいはコロイド状無機物とポリアミドアミンエピクロルヒドリン付加物あるいはグリオキザール系樹脂の併用が一般に高い効果を発揮することがある。また、性能を損なわない範囲で、メチロール基含有化合物(樹脂)、エポキシ化合物(樹脂)、アジリジン基含有化合物(樹脂)、オキサゾリン基含有化合物(樹脂)、カルボジイミド化合物、アルデヒド化合物(樹脂)等も上記架橋剤と併用することもできる。(D)の架橋剤は各種の方法により水性エマルジョン組成物に含有せしめることが可能であるが、一般的には、上記(A)、(B)および(C)からなる水性エマルジョン組成物に添加混合する方法が採用される。
【0027】
本発明の(A)、(B)および(C)を含む水性エマルジョン組成物のそれぞれの量的な関係は、固形分換算で、(B)/(C)=90/10〜10/90、(A)/{(B)+(C)}=99/1〜80/20である。(B)/(C)については、好ましくは(B)/(C)=85/15〜20/80であり、さらに好ましくは(B)/(C)=80/20〜30/70である。(B)が多過ぎる場合、十分な架橋が起こらず、水性エマルジョン組成物を皮膜化した場合に耐水性、とくに耐煮沸水性が低下する。また(B)が少なすぎる場合には、耐水性、とくに耐煮沸水性の低下と同時に粘度放置安定性が悪化する。また、(A)/{(B)+(C)}については、好ましくは(A)/{(B)+(C)}=98.5/1.5〜87/13であり、より好ましくは(A)/{(B)+(C)}=98/2〜85/15である。(A)が多過ぎる場合には、該水性エマルジョン組成物の粘度放置安定性、機械的安定性が低下する問題があり、(A)が少な過ぎる場合には、水性エマルジョン組成物を皮膜化した場合の耐水性、とくに耐煮沸水性が低下すると同時に、粘度放置安定性が悪化する場合がある。
【0028】
また、本発明は、(A)、(B)および(C)からなる上記水性エマルジョン組成物に、さらに(D)水溶性金属化合物、コロイド状無機物、ポリアミドアミンエピクロルヒドリン付加物およびグリオキザール系樹脂から選ばれる少なくとも一種の架橋剤を含有させることができるが、その量的な関係は、固形分重量比で、{(A)+(B)+(C)}/(D)=100/0〜90/10であることが好適であり、好ましくは{(A)+(B)+(C)}/(D)=100/0〜91/9、さらに好ましくは{(A)+(B)+(C)}/(D)=100/0〜92/8である。(D)が多すぎる場合、水性エマルジョン組成物の分散安定性および粘度放置安定性が悪化する。
【0029】
本発明の水性エマルジョン組成物は、有機系あるいは無機系の充填剤(フィラー)を配合することができる。これらを配合した場合、各種接着性、耐煮沸水性などが向上する。ここで、充填剤(フィラー)としては、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、木粉、小麦粉、酸化チタンなどが挙げられる。また、本発明の水性エマルジョン組成物と充填剤(フィラー)の配合割合に特に制限はなく、用途、目的によって適宜設定することができるが。充填剤の配合量は、好適には{(A)+(B)+(C)}100重量部に対し5〜200重量部、さらに好適には10〜150重量部である。
【0030】
本発明の水性エマルジョン組成物は、必要に応じて、その乾燥性、セット性、粘度、造膜性などを調製するために、トルエン、パークレン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどの各種有機溶剤、フタル酸ジブチルなどの各種可塑剤、グリコールエーテル類などの各種造膜助剤、エステルでんぷん、変性でんぷん、酸化でんぷん、アルギン酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、無水マレイン酸/イソブテン共重合体、無水マレイン酸/スチレン共重合体、無水マレイン酸/メチルビニルエーテル共重合体、上記(B)および(C)以外の各種ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子、ノニオン、アニオンおよびカチオン性の各種界面活性剤、消泡剤、分散剤、凍結防止剤、防腐剤、防錆剤などの各種添加剤を含有するものでも良い。
【0031】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準を意味する。
実施例および比較例の水性エマルジョン組成物の組成および分散安定性を表1に示す。
【実施例1】
【0032】
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水350g、PVA−1(エチレン単位の含量4.5モル%、けん化度98.1モル%、重合度1500)20.7gおよびPVA−2(ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリメトキシシラン単位0.5モル%、けん化度98.5モル%、重合度500)8.9gを仕込み95℃で完全に溶解した。次に、このPVA水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで撹拌しながら酢酸ビニル36.6gとビニルトリメトキシシラン0.4gを仕込み、60℃に昇温した後、過酸化水素/酒石酸系のレドックス開始剤により重合を開始した。重合開始15分後から酢酸ビニル329.7gとビニルトリメトキシシラン3.3gを混合したものを3時間にわたって連続的に添加し、重合を完結させた。固形分濃度50.1%、粒径1μのポリ酢酸ビニルエマルジョンが得られた。このエマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し水性エマルジョン組成物とした。得られた水性分散液は、凝集・ゲル化もなく高い分散安定性を有しており、皮膜耐水性、耐水接着力および粘度放置安定性(ポットライフ)を以下の要領で評価した。結果を表2に示す。
【0033】
(水性分散液および組成物の評価)
(1)皮膜の耐水性
得られた水性分散液および組成物を20℃65%RH下で、PETフイルム上に流延し、7日間乾燥させて500μmの乾燥皮膜を得た。この皮膜を直径2.5cmに打ち抜き、それを試料として20℃水に24時間浸漬した場合の、皮膜の吸水率%[{(浸漬後の重量−浸漬前の重量)/浸漬前の重量}×100]を求めた。
(2)耐水接着力(耐煮沸接着力)
得られた水性分散液および組成物をツガ材(柾目)に150g/m2塗布し、貼り合わせて7kg/m2の荷重で16時間圧締した。その後、解圧し、20℃65%RH下で5日間養生した後、4時間沸騰水中に浸漬し、60℃で20時間乾燥、さらに4時間沸騰水中に浸漬した後、ぬれたままの状態で圧縮せん断強度を測定した。
(3)粘度放置安定性(ポットライフ)
得られた水性分散液および組成物を、30℃に放置した場合の30日後の粘度変化を観察した。
【実施例2】
【0034】
実施例1のポリ酢酸ビニルエマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し、さらに、硝酸アルミニウム2.0部を添加して水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【実施例3】
【0035】
実施例1のポリ酢酸ビニルエマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し、さらに、コロイダルシリカ(スノーテックスO、日産化学、固形分濃度20%)2.5部を添加して水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【実施例4】
【0036】
実施例1のポリ酢酸ビニルエマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し、さらに、乳酸チタン(オルガチックスTC−310、松本製薬、固形分濃度44%)2.3部を添加して水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【実施例5】
【0037】
実施例1のポリ酢酸ビニルエマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し、さらに、ポリアミドアミンエピクロルヒドリン樹脂(WS−4020、星光PMC、25%水溶液)2.7部を添加して水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【実施例6】
【0038】
実施例1のポリ酢酸ビニルエマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し、さらに、グリオキザール系樹脂(カータボンドTSI、ClariaNt製、42%水溶液)2.4部を添加して水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【実施例7】
【0039】
実施例1のポリ酢酸ビニルエマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し、さらに、グリオキザール系樹脂(カータボンドTSI、ClariaNt製、42%水溶液)2.4部と硝酸アルミニウム2.0部を添加して水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【実施例8】
【0040】
実施例1のポリ酢酸ビニルエマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し、さらに、ポリアミドアミンエピクロルヒドリン樹脂(WS−4020、星光PMC、25%水溶液)2.7部とコロイダルシリカ(スノーテックスO、日産化学、固形分濃度20%)2.5部を添加して水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【0041】
比較例1
実施例1において、初期添加単量体として酢酸ビニル32.9gとビニルトリメトキシシラン4.1g、重合開始後の連続添加単量体として酢酸ビニル296.4gとビニルトリメトキシシラン36.6gを用いる以外は実施例1と同様にして水性エマルジョン組成物を得た。得られた水性エマルジョン組成物は分散安定性が悪く、凝集状態であった。
【0042】
比較例2
実施例1において、初期添加単量体として酢酸ビニル37.0g、重合開始後の連続添加単量体として酢酸ビニル333.0gを用いる以外は実施例1と同様にして水性エマルジョンを得た。得られた水性エマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し水性エマルジョン組成物とし、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0043】
比較例3
比較例2のポリ酢酸ビニルエマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し、さらに、硝酸アルミニウム2.0部を添加して水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【0044】
比較例4
実施例1のポリ酢酸ビニルエマルジョンの固形分100重量部に対して可塑剤としてジブチルフタレート5部を添加混合し、さらに、硝酸アルミニウム12.0部を添加して水性エマルジョン組成物を得た。得られた水性エマルジョン組成物は、分散安定性が悪く、凝集状態であった。
【実施例9】
【0045】
実施例1において、PVA−1(エチレン単位の含量4.5モル%、けん化度98.1モル%、重合度1500)20.7gおよびPVA−2(ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリメトキシシラン単位0.5モル%、けん化度98.5モル%、重合度500)8.9gの代わりに、PVA−3(エチレン単位の含量2.5モル%、けん化度92.5モル%、重合度1650)8.9gとPVA−4(ビニルトリアセトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリアセトキシシラン単位0.2モル%、けん化度88.5モル%、重合度1700)20.7gを用いる以外は実施例1と同様にして水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【実施例10】
【0046】
実施例1において、PVA−1(エチレン単位の含量4.5モル%、けん化度98.1モル%、重合度1500)20.7gおよびPVA−2(ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリメトキシシラン単位0.5モル%、けん化度98.5モル%、重合度500)8.9gの代わりに、PVA−5(エチレン単位の含量8.1モル%、けん化度99.1モル%、重合度500)18.5gとPVA−2(ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリメトキシシラン単位0.5モル%、けん化度98.5モル%、重合度500)20.7gを用いる以外は実施例1と同様にして水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【実施例11】
【0047】
実施例1において、PVA−1(エチレン単位の含量4.5モル%、けん化度98.1モル%、重合度1500)20.7gおよびPVA−2(ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリメトキシシラン単位0.5モル%、けん化度98.5モル%、重合度500)8.9gの代わりに、PVA−6(エチレン単位の含量1.4モル%、けん化度97.5モル%、重合度2000)14.8gとPVA−7(ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリメトキシシラン単位2.0モル%、けん化度98.5モル%、重合度300)3.7gを用いる以外は実施例1と同様にして水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【0048】
比較例5
実施例11において、PVA−6(エチレン単位の含量1.4モル%、けん化度97.5モル%、重合度2000)14.8gの代わりに、PVA−8(エチレン単位の含量12.0モル%、けん化度99.2モル%、重合度400)を14.8g用いる以外は実施例11と同様にして水性エマルジョン組成物を得た。得られた水性エマルジョン組成物は分散安定性が悪く、凝集状態であった。
【0049】
比較例6
実施例1において、PVA−1(エチレン単位の含量4.5モル%、けん化度98.1モル%、重合度1500)20.7gおよびPVA−2(ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリメトキシシラン単位0.5モル%、けん化度98.5モル%、重合度500)8.9gの代わりに、PVA−9(けん化度88.2モル%、重合度1750)20.7gを用いる以外は実施例1と同様にして水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【0050】
比較例7
実施例1においてPVA−2(ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリメトキシシラン単位0.5モル%、けん化度98.5モル%、重合度500)を用いない以外は実施例1と同様にして水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【0051】
比較例8
実施例9において、PVA−3(エチレン単位の含量2.5モル%、けん化度92.5モル%、重合度1650)8.9gを用いない以外は実施例9と同様にして水性エマルジョン組成物を得た。結果を表2に示す。
【実施例12】
【0052】
PVA−3(エチレン単位の含量2.5モル%、けん化度92.5モル%、重合度1650)5.4gとPVA−4(ビニルトリアセトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリアセトキシシラン単位0.2モル%、けん化度88.5モル%、重合度1700)5.4gをイオン交換水290gに加熱溶解し、それを窒素吹込口および温度計を備えた耐圧オートクレーブ中に仕込んだ。希硫酸でpH4.0に調整後、酢酸ビニル288gとビニルトリメトキシシラン3.6gを仕込み、次いで、エチレンを42kg/cm2 Gまで昇圧した(エチレンの仕込量は68.4gに相当する)。温度を60℃まで昇温後、過酸化水素−ロンガリット系レドックス開始剤で重合を開始した。2時間後、残存酢酸ビニル濃度が0.7%となったところで重合を終了し、固形分濃度52.5%、粒径1μの酢酸ビニル−エチレン共重合体エマルジョンを得た。このエマルジョンの固形分100重量部に対して炭酸カルシウム50重量部を添加混合し、さらに硝酸アルミニウム5.0部を添加し水性エマルジョン組成物を得た。この組成物を用い、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【実施例13】
【0053】
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水350g、PVA−1(エチレン単位の含量4.5モル%、けん化度98.1モル%、重合度1500)11.1gおよびPVA−7(ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリメトキシシラン単位2.0モル%、けん化度98.5モル%、重合度300)22.2gを仕込み95℃で完全に溶解した。次に、このPVA水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで撹拌しながら酢酸ビニル25.9g、ブチルアクリレート10.4gを仕込み、60℃に昇温した後、2%過硫酸カリウム水溶液10gを添加し重合を開始した。重合開始15分後から酢酸ビニル233.1g、N−ブチルアクリレート93.2gと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン7.4gを混合したものを4時間にわたって連続的に添加し、重合を完結させた。固形分濃度49.5%、粒径0.8μの酢酸ビニル−ブチルアクリレート系共重合エマルジョンが得られた。このエマルジョンの固形分100重量部に対して小麦粉50重量部を添加混合し、硝酸アルミニウム5.0部を添加し水性エマルジョン組成物を得た。この組成物を用い、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す
【実施例14】
【0054】
アニオン性界面活性剤(サンデットBL:三洋化成製)1.5gと非イオン性界面活性剤(ノニポール200:三洋化成製)3.0gをイオン交換水290g中で加熱溶解し、それを窒素吹込口および温度計を備えた耐圧オートクレーブ中に仕込んだ。希硫酸でpH4.0に調整した後、スチレン120gとメタクリル酸3.0gを仕込み、次いで耐圧計量器よりブタジエン177gを仕込み、70℃に昇温後、2%過硫酸カリウム水溶液10gを圧入して重合を開始した。内圧は4.8kg/cm2 Gから重合の進行とともに低下し、15時間後に0.4kg/cm2 Gに低下したところで重合を終了した。得られたエマルジョンをアンモニア水でpH6.0とし、固形分濃度48.5%。粒径0.5μのスチレン−ブタジエン系共重合体エマルジョンを得た。このエマルジョンの固形分100重量部に対し、PVA−5(エチレン単位の含量8.1モル%、けん化度99.1モル%、重合度500)3重量部とPVA−7(ビニルトリメトキシシランと酢酸ビニルの共重合体のアルカリケン化物:ビニルトリメトキシシラン単位2.0モル%、けん化度98.5モル%、重合度300)3重量部をイオン交換水34重量部に加熱溶解したものを添加混合し、さらにポリアミドアミンエピクロルヒドリン付加物(星光PMC製、WS−4020、25%水溶液)を2.7部とコロイダルシリカ(スノーテックスO、日産化学、固形分濃度20%)2.5部を添加し水性エマルジョン組成物を得た。得られた組成物は、凝集・ゲル化もなく高い分散安定性を有しており、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
上記実施例により、本発明の水性エマルジョン組成物は、接着剤としてまたはコーテイング剤として優れた性能を発揮することが分かる。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の水性エマルジョン組成物は、その皮膜の耐水性、とくに耐煮沸水性に優れ、さらに粘度放置安定性に優れて(ポットライフが長い)おり、その特性を生かして、木工用や紙加工用の各種接着剤、塗料、紙加工、繊維加工等の各種コーティング剤などの用途に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種の単量体単位を主成分とし、かつ、シリル基を有する不飽和単量体単位を0.05〜5重量%含有する重合体微粒子、(B)エチレン単位を1〜10モル%含有するビニルアルコール系重合体および(C)シリル基を有するビニルアルコール系重合体からなり、かつ、固形分重量比が(B)/(C)=90/10〜10/90、(A)/{(B)+(C)}=99/1〜80/20である水性エマルジョン組成物。
【請求項2】
(A)重合体微粒子が、酢酸ビニル単位を主成分とする重合体微粒子である請求項1記載の水性エマルジョン組成物。
【請求項3】
請求項1記載の水性エマルジョン組成物に、(D)水溶性金属化合物、コロイド状無機物、ポリアミドアミンエピクロルヒドリン付加物およびグリオキザール系樹脂から選ばれる少なくとも一種の架橋剤を、固形分重量比で、{(A)+(B)+(C)}/(D)=100/0〜90/10配合してなる水性エマルジョン組成物。
【請求項4】
(A)エチレン性不飽和単量体およびジエン系不飽和単量体から選ばれる少なくとも一種の単量体単位を主成分とし、シリル基を含有する不飽和単量体単位を0.05〜5重量%含有する重合体を分散質とし、(B)エチレン単位を1〜10モル%含有するビニルアルコール系重合体と(C)シリル基を有するビニルアルコール系重合体を分散安定剤とする水性エマルジョン組成物。
【請求項5】
請求項1記載の水性エマルジョン組成物に有機系あるいは無機系の充填剤を配合した水性エマルジョン組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の水性エマルジョン組成物からなる接着剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の水性エマルジョン組成物からなるコーティング剤。

【公開番号】特開2007−23148(P2007−23148A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206889(P2005−206889)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】