説明

水性分散体及び塗膜、積層体並びに水性分散体の製造方法

【課題】耐アルカリボイル性に優れ、密着性やヒートシール性を阻害することなく、耐ブロッキング性を向上させた塗膜を形成しうる水性分散体を提供する。
【解決手段】本発明の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、平均繊維長が0.4〜2mmであり平均繊維径が0.01〜1μmである繊維状セルロース3〜50質量部と、水性媒体とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐アルカリボイル性に優れ、密着性やヒートシール性を阻害することなく、耐ブロッキング性を向上させた塗膜を形成しうる水性分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン成分やプロピレン成分の共重合量が高いポリオレフィン樹脂は、様々な材料に対する良好な密着性およびヒートシール性を有しているため、ヒートシール剤、ディレードタック剤、繊維処理剤、および接着剤用バインダー等の幅広い用途に用いられている。このようなポリオレフィン樹脂は、環境保護、省資源、作業性や作業環境の観点から水性分散体として使用されている。
【0003】
このような水性分散体を、ヒートシール剤として用いることは、特に広く行われている。すなわち、ポリオレフィン樹脂の水性分散体を、基材(フィルムやシート)表面にコーティングして接着層を形成し、さらに別工程にて、他の基材を積層して積層体を得て、該積層体をヒートシール処理する。この場合において、ヒートシール処理されたフィルム等は、多くの場合においては、その後巻き取られロールとされる。かかる際に、接着層とその上に重なったフィルムとがブロッキングを起こすことにより作業性が著しく低下することが問題となっている。
【0004】
上記のようなブロッキングを防止する方法として、ワックスを含有させたポリエステル系グラフフト重合体から形成された層を、熱可塑性フィルム基材に設けることが知られている(特許文献1)。しかしながら、この場合は、耐アルカリボイル性が不十分であった。
【0005】
また、水性バインダー、パラフィンワックスエマルション、親水性基で変換されたポリオレフィン樹脂からなる水性防湿コート用塗工剤が開示されている(特許文献2)。このパラフィンワックスエマルションの添加により耐ブロッキング性が改良されることが知られている。しかしながら、この場合は、塗膜のヒートシール性に関しては、何ら検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−348207号公報
【特許文献2】特開平10−53996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐アルカリボイル性に優れ、密着性やヒートシール性を阻害することなく、耐ブロッキング性を向上させた塗膜を形成しうる水性分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、このような課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、酸変性ポリオレフィン樹脂と特定の形状を有する繊維状セルロースとを特定の割合で含有することにより、耐アルカリボイル性に優れ、密着性およびヒートシール性と相反する性能である、耐ブロッキング性を向上させた塗膜を形成しうる水性分散体を得ることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、平均繊維長が0.4〜2mmであり平均繊維径が0.01〜1μmである繊維状セルロース3〜50質量部と、水性媒体とを含有することを特徴とする水性分散体。
(2)(1)の水性分散体を塗布乾燥させることにより得られることを特徴とする塗膜。
(3)(2)に記載の塗膜を基材に積層してなる積層体。
(4)(1)の水性分散体を製造するに際し、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体と、平均繊維長が0.4〜2mmであり平均繊維径が0.01〜1μmである繊維状セルロースを含むゲル状物および/またはゾル状物とを混合することを特徴とする水性分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性分散体によれば、耐アルカリボイル性に優れ、密着性およびヒートシール性を阻害することなく、耐ブロッキング性を向上させた塗膜を得ることができる。また、水性であるので、環境保護、省資源、消防法等の面からも好ましいものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)(以下、単に「(A)」と称する)と、特定の形状を有する繊維状セルロース(B)(以下、単に「(B)」と称する)とが、特定の割合で水性媒体中に含有されるものである。このような組み合わせによって、密着性およびヒートシール性を阻害することなく、相反する耐ブロッキング性を向上させた塗膜を形成することができ、さらに耐アルカリボイル性に優れた塗膜を形成しうる水性分散体を得ることができる。なお、酸変性されていないポリオレフィン樹脂を用いた場合には、該ポリオレフィン樹脂が水性媒体に十分に分散せず、水性分散体を得ることができない。
【0011】
(A)は酸成分によって、オレフィン成分が変性されているものである。すなわち、(A)は、酸成分とオレフィン成分とを含有するものである。なお、酸成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0012】
(A)におけるオレフィン成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、さらには80質量%以上であることが好ましい。オレフィン成分の含有量が50質量%未満では、基材への密着性およびヒートシール生というポリオレフィン樹脂由来の特性が失われてしまう。
【0013】
オレフィン成分としては、具体的に、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のアルケンや、ノルボルネンのようなシクロアルケンが例示され、これらの混合物を用いることもできる。中でも、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが好ましく、特に、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、エチレンが最も好ましい。
【0014】
一方、(A)における酸成分の含有量としては、後述する塗膜の耐アルカリボイル性を向上させる点から、0.1〜25質量%であることが好ましく、0.5〜15質量%がより好ましく、1〜8質量%がさらに好ましく、1〜5質量%が特に好ましい。
【0015】
また、(A)中の酸変性成分としては、分子内にマイナスイオンを形成できるものであれば、どのようなものでも採用できる。これは、分子をマイナスに帯電させることで分子同士を反発させるためである。ポリオレフィン樹脂を酸変性させると、必然的に分子はマイナスイオン形成能を具備するから、結果的に所望の反発力も得られる。したがって、本発明では、酸変性成分の組成が限定されることはないが、水性分散体の凝析を抑制し、長期間に渡り良好な分散性を維持する観点から、不飽和カルボン酸又はその無水物が好ましく採用される。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0016】
さらに、(A)には、塗膜と様々な基材との密着性を向上させる目的で、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有させてもよい。(A)における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量としては、0.5〜40質量%であることが好ましく、1〜35質量%であることがより好ましく、2〜30質量%であることがさらに好ましく、3〜25質量%であることが特に好ましく、8〜25質量%であることが最も好ましい。この成分の含有量が0.5質量%未満では、オレフィン樹脂基材以外の基材を用いた場合には、オレフィン樹脂基材に対するほどの密着性が得られなくなることがある。また、40質量%を超えると、オレフィン樹脂由来の性質が失われ、ポリオレフィン樹脂基材との密着性が低下する場合がある。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル化物が挙げられる。中でも、入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。上記の中でも、基材への密着性の観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。
【0018】
また、(A)は、他の成分を10質量%以下程度含有していてもよい。他の成分としては、ジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0019】
上記の(A)の態様を以下に例示する。(A)の態様としては、例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸−無水マレイン酸共重合体、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性エチレン−プロピレン樹脂、酸変性エチレン−ブテン樹脂、酸変性プロピレン−ブテン樹脂、酸変性エチレン−プロピレン−ブテン樹脂、あるいはこれらの酸変性ポリオレフィン樹脂に、さらに、アクリル酸エステル等でアクリル変性したもの等が挙げられる。
【0020】
(A)の190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートは、0.01〜5000g/10分であることが好ましく、0.1〜1000g/10分であることがより好ましく、1〜500g/10分であることがさらに好ましく、2〜300g/10分であることが特に好ましく、2〜200g/10分であることが最も好ましい。(A)のメルトフローレートが0.01g/10分未満では、分散性が良好な水性分散体を得ることが難しくなったり、塗膜のヒートシール性が低下したりする場合がある。一方、(A)のメルトフローレートが5000g/10分を超えると、得られる水性分散体から水性分散体から塗膜を形成した場合に、該塗膜は硬くてもろくなる傾向にあり、塗膜の密着性やヒートシール性が低下する場合がある。また、(A)の融点は、70〜110℃程度が好ましい。
【0021】
本発明の水性分散体は、(B)を含有することが必要である。(B)を含有することにより、水性分散体を塗布して得られる塗膜は、密着性やヒートシール性を阻害することなく、耐ブロッキング性が向上するものとなる。さらに、耐アルカリボイル性が向上するという優れた効果を奏する。
【0022】
本発明の水性分散体における(B)の含有量は、(A)100質量部に対して、3〜50質量部であることが必要であり、4〜40質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることが特に好ましい。(B)の含有量が3質量部未満の場合は、得られる塗膜において、耐ブロッキング性、耐アルカリボイル性の効果を奏することができない。一方、(B)の含有量が50質量部よりも多い場合、塗膜のヒートシール性、耐アルカリボイル性が低下する。さらに、塗膜の透明性に劣るものとなる。
【0023】
本発明において、(B)は、繊維状セルロースをミクロフィブリル化して得られたものである。具体的には、平均繊維長が0.4〜2mmであり平均繊維径が0.01〜1μmである繊維状セルロースである。
【0024】
(B)を構成するセルロースは、β−1グルカン構造および4−グルカン構造を有する多糖類である。セルロースとしては、例えば、高等植物由来のセルロース[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然セルロース繊維(パルプ繊維)など]、動物由来のセルロース(ホヤセルロースなど)、化学的に合成されたセルロース(再生セルロース(レーヨン、セロファンなど)などのセルロース誘導体なども含む)などが挙げられる。
【0025】
(B)を構成するセルロースは、用途に応じて、α−セルロース含有量の高い高純度セルロースであってもよい。この場合のα−セルロースの含有量は、セルロース全体に対して、例えば、70〜100重量%であることが好ましく、95〜100重量%がより好ましく、98〜100重量%がさらに好ましい。
【0026】
このようなセルロースは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用し、(B)を構成してもよい。なお、(B)は、取扱性向上のため、水を加えゾル状物となしたものを用いてもよい。
【0027】
(B)の市販品としては、ダイセル化学工業社製、セリッシュシリーズなどが挙げられる。より具体的には、食品用添加剤タイプの「FD−100G」が挙げられる。なお、市販品の多くは、繊維状セルロース濃度10〜35質量%のゾル状物であり、取扱いの際は、濃度を適宜調整するのが一般的である。
【0028】
本発明の水性分散体は、(A)と(B)とが、水性媒体中に分散したものである。本発明における水性媒体とは、水または、水と有機溶媒との混合液をいう。本発明においては、水性媒体を用いているため、環境への影響、作業者や作業環境への安全性に優れる。水性媒体は、(A)の水性化を促進し、分散粒子径を小さくする観点から、水と有機溶媒との混合液であることが好ましい。
【0029】
本発明の水性分散体中において、(A)と(B)との含有量[すなわち、(A)と(B)との合計量]は、45質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることが好ましい。(A)と(B)との含有量を上記範囲とすることで、得られる塗膜の厚みを実用に即したものとなすことができる。
【0030】
水性媒体中に有機溶媒が混合されている場合において、有機溶媒の量は、水性媒体中の40質量%以下が好ましく、1〜40質量%であることがより好ましく、2〜35質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。有機溶媒の量が、1質量%未満であると、分散粒子径が十分に小さくならない場合がある。一方、有機溶媒の量が40質量%を超える場合には、実質的に水性媒体とはみなせなくなり、使用する有機溶媒によっては水性分散体の安定性が低下してしまう場合がある。なお、水性化の際に添加した有機溶媒は、水性分散体を得た後、ストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で系外へ留去させて適度に減量してもよい。水性分散体とした後の有機溶媒量を低くしても、水性分散体の特性は低下しない。
【0031】
上記の有機溶媒としては、沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。有機溶媒の沸点が30℃未満の場合は、樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化の効率が十分に高まらない場合がある。沸点が250℃を超える有機溶媒は、水性分散体を塗布して塗膜を得た場合に、塗膜から乾燥によって飛散させることが困難であり、塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0032】
上記の有機溶媒の中でも、樹脂の水性化促進に効果が高く、しかも水性媒体中から有機溶媒を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。特に、低温乾燥性の点からエタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが好ましい。これらの有機溶媒は2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
また、(A)の酸変性成分として、不飽和カルボン酸成分を用いている場合には、水性媒体中には、水性分散体の安定化を目的として、塩基性化合物が含まれていてもよい。すなわち、(A)の酸変性成分として、不飽和カルボン酸成分を用いている場合には、水性分散体において、(A)中のカルボキシル基は、塩基性化合物によって中和されていることが好ましい。中和によって生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって、微粒子間の凝析が抑制され、水性分散体が安定なものとなる。
【0034】
このような塩基性化合物としては、カルボキシル基を中和できるものであればよく、特に限定されないが、本発明の効果を損なわないためには、揮発性のものを用いることが好ましい。具体的には、得られる塗膜の耐水性の観点から、塗膜形成時に揮発するアンモニア又は有機アミン化合物が好ましい。中でも沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって塩基性化合物を飛散させることが困難になり、塗膜のヒートシール性が低下する場合がある。
【0035】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等が挙げられる。中でも、ヒートシール性の観点から、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンが好ましい。
【0036】
本発明の水性分散体中に塩基性化合物を使用する場合には、塩基性化合物の添加量は、(A)中のカルボキシル基に対して0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましく、1.01〜2.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると塗膜形成時の乾燥時間を長くする必要があり、塗膜が着色する場合がある。
【0037】
水性媒体中の樹脂の粒子径としては、分散性を良好に維持する観点から、数平均粒子径が、重量平均粒子径共に500nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0038】
次に、本発明の水性分散体の製造方法を説明する。
本発明の水性分散体の製造方法としては、(A)と(B)とを水性媒体中に均一に分散することができる方法であれば、特に限定されるものではない。
【0039】
水性分散体の製造方法は、例えば、(A)の水性分散体と(B)のゲル状物またはゾル状物を混合し、さらに水または有機溶媒などを添加するものである。例えば、(A)や(B)を、水性媒体、必要に応じて塩基性化合物とともに加熱、攪拌する方法が挙げられる。また、(A)と(B)などの各成分を混合した後、水性媒体と混合して水性分散化または溶解させる方法も挙げられる。いずれの製法においても、工程後や工程中に、水や有機溶媒を留去したり、水や有機溶媒により希釈したりすることによって任意に濃度調整を行うことができる。
【0040】
本発明の水性分散体中は、上述したような製造方法を採用することで、乳化剤成分や保護コロイド作用を有する化合物等の不揮発性水性分散化助剤を含有しなくとも、(A)や(B)が良好に分散された(粒子径が微細な)水性分散体を得ることができる。ただし、本発明は、乳化剤や保護コロイド作用を有する化合物の使用を排除するものでなく、これらを実質的に含有しないことが性能面、衛生面から好ましいだけで、必要に応じて、これらを使用してもよいことは当然である。
【0041】
ここで、「乳化剤あるいは保護コロイド作用を有する化合物を実質的に含有しない」とは、水性媒体と混合して水性分散化させる際に、水性化促進や水性分散体の安定化を目的として、積極的に不揮発性化合物を系に添加せずに、結果的にこれらを含有しないことを意味する。「乳化剤あるいは保護コロイド作用を有する化合物を実質的に含有しない」とは、添加量がゼロであることが特に好ましい。しかし、本発明の効果を損ねない範囲で、樹脂成分に対して0.1質量%未満添加しても差し支えない。
【0042】
なお、本発明で言う乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられる。ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やソルビタン誘導体等が挙げられる。両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0043】
保護コロイドを有する化合物としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0044】
本発明の水性分散体は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、架橋剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を含有していてもよい。さらに、本発明の水性分散体は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の重合体を含有していてもよい。例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、フェノール樹脂が挙げられ、2種以上使用してもよい。このような添加剤や他の重合体の添加時期は特に限定されず、たとえば、上記重合体の液状物を適宜添加すればよい。
【0045】
本発明の水性分散体は、各種基材に塗布後、乾燥などの操作により水性媒体を除去することで塗膜を形成することができる。該塗膜は耐ブロッキング性に優れており、しかも様々な材料に対する優れた密着性やヒートシール性を有していることから、各種コーティング剤、プライマー、接着剤、ヒートシール剤、塗料やインキのバインダーとして用いることができ、特にヒートシール剤として好適である。また、本発明の水性分散体から得られた塗膜は、耐アルカリボイル性に優れていることから、アルカリボイル処理に付する用途としても好適に使用可能である。
【0046】
使用できる基材としては、紙、合成紙、熱可塑性樹脂フィルム、プラスチック製品、鋼板、アルミ箔、木材、織布、編布、不織布、石膏ボード、木質ボード等が挙げられ、塗工または含浸に使用できる。中でも、実用面の観点から、熱可塑性樹脂フィルムが好ましい。
【0047】
熱可塑性樹脂フィルムとしては、PET、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリグリコール酸やポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)等の脂肪族ポリエステル系樹脂に代表される生分解性樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、PP、ポリエチレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物等の熱可塑性樹脂よりなるフィルムやこれらの積層体が挙げられる。中でも、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、PPからなるフィルムが好適に使用できる。これらの基材フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、その製法も限定されるものではない。また、基材フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常は1〜500μmの範囲であればよい。さらに、未延伸フィルムに本発明の水性分散体を塗布し、そのコートフィルムを延伸する、いわゆるインラインコートを行ってもよい。
【0048】
さらに、基材としては、通常の基材に金属蒸着膜を備えた基材が用いられてもよい。このような基材には、金属蒸着膜を保護するため、一般に膜の上に保護膜を形成されている。本発明の塗膜は、後述のように透明性に優れているため、この保護層として好適である。
【0049】
金属蒸着膜を備えた基材の用途は様々で、例えば、機械・電気部品等に用いられることもある。一般に、機械・電気部品の製造工程には、多くの洗浄工程が含まれ、そのときの洗浄液として熱したアルカリ溶液が使用されることがある。そうすると、蒸着膜を備えた基材は、その度に熱したアルカリ溶液にさらされることになるから、保護膜は、耐アルカリボイル性に優れていることが好ましいといえる。この場合、保護膜の耐アルカリボイル性が乏しいと、保護膜は勿論、金属蒸着膜までもが剥がれ落ちてしまうので、当該機械・電気部品の品質・外観等を大きく損ねることになる。
【0050】
本発明の水性分散体を基材に塗工して塗膜を得る方法は特に限定されるものではないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。
【0051】
塗膜の厚みは、基材によって適宜、決定すればよい。例えば、0.1〜10μmであることが好ましく、0.2〜8μmがより好ましく、0.3〜7μmが特に好ましい。厚みが0.1μm未満であると、密着性およびヒートシール性、耐アルカリボイル性が、十分に発現しない場合がある。一方、厚みが10μmを超えると、塗膜が割れる場合がある。
【0052】
本発明の水性分散体を基材に塗工した後、乾燥させることにより塗膜を形成することができる。乾燥温度は、特に限定されず、基材の耐熱温度等によって適宜、決定すればよいが、通常、50〜240℃であればよく、60〜210℃がより好ましく、70〜200℃がさらに好ましい。乾燥温度が50℃未満の場合、水性媒体を十分、揮発させることができなかったり、あるいは揮発させるのに時間を要するため、良好な密着性やヒートシール性を発現させることが困難になったりする場合がある。一方、乾燥温度が240℃を超えると、塗膜の密着性やヒートシール性が低下してしまう場合がある。
【0053】
また、本発明の水性分散体から得られる塗膜は、ヒートシール性に優れているため、基材(熱可塑性フィルム、紙、合成紙、アルミ箔など)と塗膜を積層体とし、その塗膜上にさらに別の基材を積層化することができる。基材を二種以上用いる場合において、その組み合わせとしては、熱可塑性樹脂フィルム、紙、合成紙、木材、織布、編布、不織布など、既述した基材の他、アルミニウム等の金属箔など、適宜選んで使用することができ、同一のものでも異なるものでもよい。少なくとも一方が、PP等のポリオレフィン樹脂材料であると、軽量性ある積層体を得る点で好ましく、ポリオレフィン樹脂材料同士の積層、ポリオレフィン樹脂材料と紙や合成紙との積層、ポリオレフィン樹脂材料とアルミ箔との積層に用いることがさらに好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例によって、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
各種の特性については、以下の方法によって測定または評価した。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂の組成分析
オルトジクロロベンゼン(d)中、120℃にてH−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い求めた。
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート
JIS 6730記載の方法(190℃、2160g荷重)に従って測定した。
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂の融点
DSC(Perkin Elmer社製、商品名「DSC−7」)を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
(4)ポリオレフィン樹脂水性分散体の固形分濃度
ポリオレフィン樹脂水性分散体を適量1.0g秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。下記式により、固形分濃度を求めた。
固形分濃度(%)=[(残存物の質量)/(加熱前のポリオレフィン水性分散体の質量)]×100
(5)ポリオレフィン樹脂粒子の平均粒子径
マイクロトラック粒度分布計(日機装社製、商品名「UPA150」MODEL No.9340)を用い、数平均粒子径、重量平均粒子径を求めた。
【0055】
なお、以下の(6)〜(10)の評価は、ポリオレフィン樹脂水性分散体を塗工した基材を、室温(25℃)で1日放置した後、各種評価試験に供した。
(6)塗膜の透明性評価
基材に塗工し、水性分散体の塗布面の状態を目視にて下記の3段階で評価した。
○:塗膜は透明である。
△:部分的に塗膜が白濁している。
×:塗膜全体が白濁しており、曇って見える。
本発明においては、○であるものを実用に耐えうるものとした。
【0056】
(7)耐ブロッキング性評価
アルミニウム箔(三菱アルミニウム社製、厚み15μm)上に、乾燥後の塗布量が約5g/mになるように水性分散体をメイヤーバーで塗工し、90℃で120秒間乾燥して塗膜を得た。塗膜面上に、さらに上記と同様のアルミニウム箔を重ね合わせた状態で、0.1MPaの負荷をかけ、30℃、65%RHの雰囲気下で24時間放置後、その耐ブロッキング性を次の3段階で評価した。
○:アルミニウム箔を軽く持ち上げる程度で剥離する。
△:アルミニウム箔を引っ張ることで剥離する。
×:アルミニウム箔が破れる、または塗膜の界面あるいは凝集剥離が認められる。
本発明においては、○であるものを実用に耐えうるものとした。
(8)テープ剥離評価(密着性評価)
水性分散体を、延伸ポリプロピレン(以下、OPP)フィルム(東セロ社製、商品名「OPU−1」、厚み50μm)、2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)フィルム(ユニチカ社製、商品名「エンブレットPET12」、厚み12μm)、2軸延伸ナイロン6(以下、Ny6)フィルム(ユニチカ社製、商品名「エンブレム」、厚み15μm)の未処理面上に、乾燥後の塗布量が約2g/mになるように、それぞれメイヤーバーで塗工して塗膜を得た。100℃で2分間乾燥した後、塗膜面に粘着テープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付けた後、勢いよくテープを剥離した。塗膜面の状態を目視で観察して、以下のように評価した。
○:塗膜に全く剥がれがなかった。
△:塗膜の一部に剥がれが生じた。
×:塗膜の全て剥がれた。
本発明においては、○であるものを実用に耐えうるものとした。
【0057】
(9)ヒートシール強度評価(ヒートシール性評価)
水性分散体を延伸ポリプロピレン(以下、PP)フィルム(東セロ社製、商品名「OPU−1」、厚み50μm)のコロナ処理面、及びアルミニウム箔(三菱アルミニウム社製、厚み15μm)上に乾燥後の塗布量が約2g/mになるようにメイヤーバーでコートし、90℃で120秒間乾燥した。二枚のPPフィルムの塗工面同士が接するように重ね合わせ、ヒートプレス機(シール圧3kg/cmで5秒間)にて120℃でプレスして、PPフィルム/塗膜/PPフィルムの構成を有する積層体を得た。また、アルミニウム箔の塗工面と、PPフィルムのコロナ処理面が接するように重ね合わせて、ヒートプレス機(シール圧3kg/cmで5秒間)にて120℃でプレスして、PPフィルム/塗膜/アルミニウム箔の構成を有する積層体を得た。この二種類のサンプルを、15mm幅で切り出し、1日後、引張り試験機(インテスコ社製、精密万能材料試験機2020型)を用い、引張り速度200mm/分、引張り角度180度で塗膜の剥離強度を測定することで、ヒートシール強度を評価した。
本発明においては、ヒートシール強度が、2.0N/15mm以上であるものを、実用に耐えうるものであるとした。
(10)耐アルカリボイル性
水性分散体をアルミニウム蒸着PETフィルム(尾池工業社製、商品名「エコモールド」、厚み12μm)上に、乾燥後の塗布量が約1g/mになるようにメイヤーバーでコートし、90℃で120秒間乾燥して、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムを、98℃の5%水酸化ナトリウム水溶液中に6時間浸漬し、金属蒸着層上の塗膜の状態を目視にて下記の3段階で評価した。
○:変化なし。
△:塗膜の一部に剥がれが見られるか又は白色になっている。
×:塗膜のすべてが剥がれるか又は白色になっている。
本発明においては、○であるものを実用に耐えうるものとした。
【0058】
本発明において使用した酸変性ポリオレフィン樹脂の組成を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−1)の調製
ヒーター付きの密閉できる耐圧1Lガラス容器を備えた撹拌機を用いて、125.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(アトフィナジャパン社製、商品名「ボンダインHX−8290」)、75.0gのイソプロパノール(以下、IPA)、7.0gのトリエチルアミン(以下、TEA)および293gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌した。容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を130℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−1)を得た。(E−1)の各種特性表2に示した。
【0061】
【表2】

【0062】
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−2)の調製
ヒーター付きの密閉できる耐圧1Lガラス容器を備えた撹拌機を用いて、100.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(アトフィナジャパン社製、商品名「ボンダインTX−8030」)、150.0gのIPA、6.0gのTEAおよび244.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌した。容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を130℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−2)を得た。(E−2)の各種特性を表2に示した。
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(E−3)の調製
酸変性ポリオレフィン樹脂(アトフィナジャパン社製、商品名「ボンダインHX−8210」)を用いた以外は、(E−1)と同様の操作でポリオレフィン樹脂水性分散体(E−3)を得た。(E−3)の各種特性を表2に示した。
繊維状セルロースゾルの調製
繊維状セルロースとして、ダイセル化学工業社製、商品名「セリッシュFD−100G」)(平均繊維長:500μm、平均繊維径:0.1μmの繊維状セルロースを10質量%含むゾル状物)を用い、これを水で希釈し、固形分濃度が1%のゾル状物(S−1)となした。
【0063】
実施例1
(E−1)と(S−1)とを、室温(25℃)にてメカニカルスターラーで攪拌(100rpm)・混合し、(B)の含有量が(A)100質量部に対して3質量部となる水性分散体を得た。また、水性分散体中の(A)と(B)の含有量((A)と(B)の合計量)は14.7質量%であった。
(実施例2〜15、比較例1〜5)
(A)の水性分散体の種類、(A)と(B)の含有比〔(A)/(B)(質量部)〕、水性分散体中の(A)と(B)の含有量等を表3〜5に示すように変更して、実施例1と同様に行って水性分散体を得た。
実施例1〜15、比較例1〜5で得られた水性分散体の評価結果を表3〜5に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
表3〜5から明らかなように、実施例1〜15では、基材フィルムの種類に関わらず、ヒートシール性、耐ブロッキング性、耐アルカリボイル性に優れていた。また、実施例1〜10においては、アクリル酸エチルの含有量が、特に好ましい範囲内であったため、ヒートシール性がより向上していた。
【0068】
これに対し、比較例1〜3は、(B)を配合していないため耐ブロッキング性、耐アルカリボイル性に劣っていた。また、比較例4は密着性およびヒートシール性は良好であったが、(B)の添加量が本発明で規定する量よりも過少であったため、耐ブロッキング性および耐アルカリボイル性に劣っていた。比較例5は、(B)が本発明で規定する量よりも過多であったため、耐ブロッキング性が良好であったものの、ヒートシール性および耐アルカリボイル性に劣っていた。また、透明性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部と、平均繊維長が0.4〜2mmであり平均繊維径が0.01〜1μmである繊維状セルロース3〜50質量部と、水性媒体とを含有することを特徴とする水性分散体。
【請求項2】
請求項1の水性分散体を塗布乾燥させることにより得られることを特徴とする塗膜。
【請求項3】
請求項2に記載の塗膜を基材に積層してなる積層体。
【請求項4】
請求項1に記載の水性分散体を製造するに際し、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体と、平均繊維長が0.4〜2mmであり平均繊維径が0.01〜1μmである繊維状セルロースを含むゲル状物および/またはゾル状物とを混合することを特徴とする水性分散体の製造方法。

【公開番号】特開2011−195691(P2011−195691A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63398(P2010−63398)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】