説明

水性樹脂組成物および化粧フィルム施工方法

【課題】密着性に優れ、化粧フィルムを施工する際のプライマーとして有用な水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】クロロプレンゴムラテックス、ガラス転移温度が50〜95℃である粘着付与樹脂、界面活性剤を含有することを特徴とする水性樹脂組成物を用いて化粧フィルムを施工する。化粧フィルムを施工する際、特に木口のように化粧フィルムが折り曲げられる箇所に塗布することにより、化粧フィルムの復元力による浮きを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密着性や乾燥性に優れ、化粧フィルムを施工する際のプライマーとして有用な水性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木目等の柄を印刷した化粧紙や化粧フィルムを板材に貼り合わせたり、化粧紙を樹脂含浸紙とともに積層圧締する等して製造された各種化粧板は、建築内装用化粧材料として広範に使用されている。しかし、化粧板では基本的に平面にしか対応できないため、細かい凹凸や曲面を有する部材においては、裏面に粘着層を有する化粧フィルムが用いられている。
【0003】
化粧フィルムに要求される表面性能は年々高くなっているため、表面にコートを施したり、フィルムを厚くする等の対応がなされている。一方、このような処理によって化粧フィルムのコシが強くなる傾向にあり、木口のように化粧フィルムが折り曲げられる箇所では、化粧フィルムの復元力によって基材から浮いてしまう場合があった。そこで、従来ではこのような場合、基材に溶剤系プライマーを用いていたが、溶剤系プライマーを使用すると保存、運搬時には法規制を受け、作業時には換気やマスクの着用が必要となり、また、乾燥時に有機溶剤を大気中に放散させることによる環境への影響が懸念されるため、水系のプライマーが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1には、クロロプレンゴムラテックスを含有する水系プライマー組成物が開示されているが、化粧フィルムのプライマーとしては改善の余地があった。
【特許文献1】特開平5−320601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、密着性に優れ、化粧フィルムを施工する際のプライマーとして有用な水性樹脂組成物を提供することである。更なる課題は、乾燥性にも優れる水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、クロロプレンゴムラテックスと、ガラス転移温度が50〜95℃である粘着付与樹脂を含有することを特徴とする水性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性樹脂組成物は優れた密着性を有するため、プライマーとして基材に塗布しておくことにより、化粧フィルムを木口に施工しても浮きにくい。また、優れた乾燥性を有しているため、乾燥設備がない建築現場で用いた場合であっても、化粧フィルム施工までの養生時間を短縮できる。さらに、水系であるため安全性が高く、作業者や環境に対して優しい材料となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に使用できるクロロプレンゴムラテックスとして、クロロプレンを単独で重合またはクロロプレンと他のモノマーを共重合させたものなどがあり、クロロプレンと共重合させるモノマーとしては、イソプレン、ブタジエン、ジクロロブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられる。クロロプレンゴムラテックスの合成には乳化剤が使用され、アニオン型乳化剤、ノニオン型乳化剤、カチオン型乳化剤などが使用できるがノニオン型乳化剤を使用して合成されたものが特に好ましい。ノニオン型乳化剤の例として、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体などが挙げられるが特にポリビニルアルコールの使用が適している。ノニオン型乳化剤を使用して合成されたものを使用した場合、タックが発現しにくいため、塗布後の基材養生中に埃等の付着が少なくなり、粘着層を有する化粧フィルムを施工する際、仕上がりが良好となる。
【0009】
ガラス転移温度(Tg)が50〜95℃である粘着付与樹脂は、ロジンエステル、ガムロジン、トールロジン、ウッドロジン、不均斉化ロジン、重合ロジン、これらロジンのグリセリンエステルやペンタエリスリトールエステル、これらの水素添加物などのロジン系樹脂、テルペン樹脂、炭化水素変性テルペン樹脂、これらの水素添加物などのテルペン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂の水素添加物などのテルペンフェノール系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、ピュアーモノマー系石油樹脂、これらの水素添加物などの石油系樹脂、スチレン系樹脂、クマロンインデン系樹脂、アルキルフェノール系樹脂、キシレン系樹脂、ダンマル、シェラック等の中でも、Tgが50〜95℃であるものである。Tgが95℃を超えるものは、密着性が低下するため好ましくない。
【0010】
また、粘着付与樹脂の配合量は、クロロプレンゴムラテックスの固形分100重量部に対して、粘着付与樹脂を固形分で1〜100重量部とすることが好ましく、5〜30重量部とすることがより好ましい。
【0011】
本発明の水性樹脂組成物には、さらに 界面活性剤を添加することができる。界面活性剤の添加により、基材への浸透速度を速め、養生時間を短縮することができる。界面活性剤の配合量は、水性樹脂組成物全体に対して固形分で0.1〜5重量%の範囲であれば、顕著な乾燥性の向上が発現するとともに密着性や耐水性の大幅な低下がない。
【0012】
本発明の水系樹脂組成物には前記各成分の他、可塑剤、増粘剤、炭酸カルシウムやシリカなどの無機充填材、老化防止剤、加硫促進剤、防腐剤、消泡剤、pH調整剤、分散剤、 架橋剤、凍結安定剤、硬化剤などを適宜配合できる。
【0013】
本発明の水系樹脂組成物は密着性に優れるため水系プライマーとして適しており、接着やコーティング等の前処理に使用することができる。また、乾燥性に優れているため、乾燥設備がない建築現場等で用いた場合であっても、次工程までの養生時間を短縮することができる。本発明の水系樹脂組成物を用いたプライマーは、化粧フィルムを施工する基材の前処理に好適であり、特に木口のように化粧フィルムが折り曲げられる箇所に塗布することにより、化粧フィルムの復元力による浮きを防止できる。特に、復元力の強い化粧塩ビフィルムのプライマーとして好適である。
【0014】
以下、実施例、比較例により本発明を更に説明する。また、当然のことながら本発明は実施例に制約されるものではない。
【実施例】
【0015】
実施例1
乳化剤としてポリビニルアルコールを使用したクロロプレンゴムラテックスとしてLC501(電気化学工業社製、固形分47%、商品名)100重量部、粘着付与樹脂としてレゼムTFL352(中京油脂社製、固形分40%、Tg80℃、商品名)8重量部、界面活性剤としてNewcol−291M(日本乳化剤社製、商品名)1重量部を混合し、実施例1の樹脂組成物を得た。
【0016】
実施例2〜4、比較例1〜3
実施例1で用いた配合材料の他、乳化剤としてポリビニルアルコールを使用していないクロロプレンラテックスとしてGFL890(東ソー製、固形分50%、商品名)、粘着付与樹脂としてSK385NS(ハリマ化成社製、固形分50%、Tg85℃、商品名)、E720(荒川化学工業社製、固形分50%、Tg100℃、商品名)、E730−55(荒川化学工業社製、固形分55%、Tg125℃、商品名)、E100(荒川化学工業社製、固形分53%、Tg150℃、商品名)を用い、表1記載の配合量にて混合し、各樹脂組成物を得た。
【0017】
試験評価方法
(1)乾燥性
MDF(厚み18mm)を基材として使用し、刷毛を用いて樹脂組成物を平面部は80g/m、木口部(側面部)は150g/mの塗布量となるように刷毛を用いて塗布した。23℃雰囲気下にて1時間養生後、木口部を指触してプライマーが乾燥しているか確認した。
(2)木口接着性
MDF(厚み18mm)を基材として使用し、刷毛を用いて樹脂組成物を平面部は80g/m、木口部(側面部)は150g/mの塗布量となるように刷毛を用いて塗布した。 23℃雰囲気下にて6時間養生後、粘着層を有する化粧塩ビフィルム(アイカ工業社製、オルティノ)を木口部を巻き込むように「コの字状」に貼り合わせて圧着した。23℃雰囲気下で7日間養生後、化粧フィルムの木口部の浮きの有無を目視にて評価した。
(3)耐熱性
前記木口接着性と同様にMDFに化粧塩ビフィルムを貼り合わせて圧着し、80℃雰囲気下で7日間養生後、化粧フィルムの木口部の浮きの有無を目視にて評価した。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例の各樹脂組成物をプライマーとして化粧塩ビフィルムを施工した場合、木口部の浮きはなかった。また、界面活性剤を添加した実施例1〜3は樹脂組成物を塗布した後の乾燥性に優れ、短い養生時間で化粧フィルムを施工できるため、作業効率を向上できる。一方、比較例の各樹脂組成物をプライマーとして用いた場合、木口部に浮きが見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレンゴムラテックスと、ガラス転移温度が50〜95℃である粘着付与樹脂を含有することを特徴とする水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記クロロプレンゴムラテックスの固形分100重量部に対して、前記粘着付与樹脂が固形分で1〜100重量部配合されていることを特徴とする請求項1記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
界面活性剤を固形分で0.1〜5重量%含有することを特徴とする請求項1または2記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の水性樹脂組成物からなるプライマー組成物。
【請求項5】
基材に請求項4記載のプライマー組成物を塗布し、乾燥後、粘着層を有する化粧フィルムを施工することを特徴とする化粧フィルム施工方法。
【請求項6】
前記化粧フィルムは、化粧塩ビフィルムであることを特徴とする請求項5記載の化粧フィルム施工方法。

【公開番号】特開2010−202776(P2010−202776A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50098(P2009−50098)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】