説明

水晶振動子パッケージ

【課題】接合させるときに高温の処理を必要とせずに、水晶部材同士が陽極接合した状態のパッケージが得られるようにする。
【解決手段】枠部110の表面に、アルミニウムからなる金属膜が形成された状態とする。一方、アルミニウムが所定の濃度に添加された水晶基板を加工することで、カバー120が形成された状態とする。次に、枠部110に形成された金属膜の表面にカバー120の接合面が当接された状態とし、これらが例えば150℃程度に加熱された状態で、枠部110とカバー120との間に、例えば、3インチ径のウエハで500V程度の電圧が印加された状態とする。なお、枠部110とカバー120との間には、所定の圧力が加わった状態としておく。これらのことにより、枠部110の上に形成されたアルミニウムからなる接合膜114とカバー120とが陽極接合した状態が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶から構成されたカバーに両面が覆われて封止された水晶振動子パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
水晶フィルタやSAWフィルタなどの圧電素子は、周囲の温度や湿度の変化、あるいは微細な異物に影響されて特性が微妙に変化することや、機械的振動や衝撃によって破損しやすい。このため、上述した素子は、パッケージに封止して使用に供されている。パッケージの方式としては、気密封止方式と樹脂を用いた簡易封止方式とに分けられ、SMD(Surface Mounted Device)タイプ気密封止方式では主にセラミックスや金属などの材料が用いられている。また、より安価な気密封止方式として、プラスチックを用いた気密封止方式のプラスチックパッケージも実現されている。
【0003】
上述したパッケージでは、素子個別にパッケージを形成しているが、これらに対し、複数の素子が同時に形成されているウエハレベルで、封止された状態とした後、個々の素子(チップ)に切り出してパッケージされたチップの状態とする技術も提案されている(特許文献1参照)。この技術では、図2に示すように、複数の水晶振動子本体が形成された水晶ウエハ201に、ガラスウエハ202,203を貼り合わせて水晶振動子本体の部分が封止された状態としている。水晶ウエハ201に形成された複数のチップ部は、図3の平面図に示すように、枠部210と周囲がくり抜かれて形成された水晶振動子片211とから構成されている。
【0004】
チップの状態では、図4の断面図に示すように、枠部210に接合膜214を介し、ガラスからなるカバー215及びカバー216が接合され、これらで封止された空間内に水晶振動子片211が配置された状態となっている。なお、水晶振動子片211には、両方の面に電極212が形成され、図示していない配線により所定の信号が印加可能とされている。枠部210とカバー215及びカバー216との接合としては、アルミニウムなどの金属からなる接合膜214を用いた陽極接合が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、金属膜を介して水晶部材同士を接合する技術も提案されている(特許文献3参照)。この技術では、接合面に金属膜を設けた水晶ウエハの金属膜表面に水晶部材を密着させ、所定の加重を付与すると共に水晶部材の側が陰極となるように電圧を印加し、水晶ウエハに金属膜を介して水晶部材が接合された状態としている。
【0006】
なお、出願人は、本明細書に記載した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を出願時までに発見するには至らなかった。
【特許文献1】特開2003−188436号公報
【特許文献2】特許第3390348号公報
【特許文献3】特開2000−281459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の技術(特許文献1)では、ガラスからなるカバーを陽極接合により水晶板に接合しており、熱膨張係数が異なる材料同士の接合となっているため、封止(接合)した後に、残留応力により接合の強度が低下し、気密状態に高い信頼性が得にくいという問題があった。また、特許文献2の技術では、同一部材同士を接合しているため、熱膨張係数の問題は解消されているが、約3.5kVの電圧をかけるとともに、350℃に加熱しており、高温の処理が必要となっている。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、接合させるときに高温の処理を必要とせずに、水晶部材同士が陽極接合した状態のパッケージが得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る水晶振動子パッケージは、枠部とこの内側に配置された水晶振動片とが一体に形成された略矩形の水晶基板と、水晶基板の枠部に形成された金属からなる接合膜と、接合膜に接合面が接合された水晶からなるカバーとを少なくとも備え、カバーは、金属イオンが添加された水晶から構成され、接合面と接合膜とは、陽極接合されているようにしたものである。従って、金属イオンが添加されていない場合に比較し、水晶からなるカバーは、体積抵抗が低い状態となっている。なお、接合膜を構成する金属は、アルミニウム及びモリブデンの少なくとも1つであればよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、カバーを金属イオンが添加された水晶から構成し、金属イオンが添加されていない場合に比較し、水晶からなるカバーが、体積抵抗が低い状態となっているようにしたので、より低い温度でカバーの接合面と接合膜とを陽極接合できるようになり、接合させるときに高温の処理を必要とせずに、水晶部材同士が陽極接合した状態のパッケージが得られるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における水晶振動子パッケージの構成例を示す模式的な断面図である。図1に示す水晶振動子パッケージは、枠部110及びこの内側に一体に配置された水晶振動子片111からなる水晶基板101と、枠部110にアルミニウムやモリブデンなどからなる接合膜114を介して接合する水晶からなるカバー120及びカバー130とから構成されている。枠部110とカバー120及びカバー130とで封止された容器の空間内に水晶振動子片111が配置された状態となっている。なお、水晶振動子片111には、両方の面に電極112が形成され、図示していない配線により所定の信号が印加可能とされている。
【0012】
また、図1に示した水晶振動子パッケージでは、カバー120及びカバー130が、例えば、アルミニウムやモリブデンなどの金属のイオンが添加された水晶から構成されている。この結果、図1に示した水晶振動子パッケージによれば、カバー120及びカバー130における体積抵抗がより低くなり、例えばスパッタ法などにより枠部110に形成されている接合膜114との陽極接合が可能となる。
【0013】
ここで、枠部110とカバー120との陽極接合について簡単に説明すると、まず、枠部110の表面に、例えばスパッタ法や真空蒸着法により、アルミニウムからなる金属膜が形成された状態とする。一方、アルミニウムが所定の濃度に添加された水晶基板を加工することで、カバー120が形成された状態とする。次に、枠部110に形成された金属膜の表面にカバー120の接合面が当接された状態とし、これらが例えば150℃程度に加熱された状態で、枠部110とカバー120との間に、例えば3インチ径のウエハで500V程度の電圧が印加された状態とする。なお、枠部110とカバー120との間には、所定の圧力が加わった状態としておく。これらのことにより、枠部110の上に形成されたアルミニウムからなる接合膜114とカバー120とが陽極接合した状態が得られる。
【0014】
なお、上述では、カバー120を枠部に接合する例を示したが、図2に示した状態と同様に、複数の水晶振動子本体が形成された水晶ウエハと金属イオンが導入された水晶ウエハとを、上述した陽極接合により接合された状態とした後、個々のチップに切り出すようにしてもよい。
【0015】
ところで、陽極接合は、接合界面にある金属が酸化されるという化学反応により成立する。例えば、水晶部材(振動子側)とガラス部材(カバー側)との陽極接合では、水晶部材の接合面にアルミニウムなどの金属膜をスパッタなどにより形成し、形成した金属膜の表面にガラス部材の接合面を当接させ、陽極接合を行っている。ここで、一般には、ガラス部材中には金属イオンが含まれているため、ガラス部材の接合面近傍には接合に必要な金属が存在し、陽極接合を可能としている。
【0016】
陽極接合させるときには、金属膜を陽極とし、ガラス部材の接合面に対向する面に陰極を配置し、これらの間に電界を印加する。このことにより、ガラスに含まれているナトリウムなどの金属イオンが陰極側に移動し、これに伴い、接合面の近傍では、酸素イオンの量が増加し、電気的二重層が形成された状態とする。この結果、接合界面においてガラス部材に接触している金属膜が酸化され、両者が接続した状態が得られる。
【0017】
しかしながら、電界の印加のみでは金属イオンが移動しにくいので、一般には、部材が溶融しない程度の加熱して体積抵抗を減少させ、金属イオンが移動しやすい状態とし、陽極接合を行うようにしている。ここで、ナトリウムなどの金属イオンが多く含まれているため、ガラスの体積抵抗は1015Ω-cm程度であるが、振動子用途の水晶の体積抵抗は1017Ω-cm程度と高い。このため、水晶部材同士を陽極接合により接合する場合、より高温の状態とする必要がある。また、金属イオンを含んでいるガラスは、150℃程度に加熱すれば、体積抵抗が1011Ω-cm程度まで低下するが、金属イオンがほとんど含まれていない水晶の体積抵抗は、加熱によりあまり低下しない。このことからも、水晶同士の陽極接合は、通常では容易ではない。
【0018】
これに対し、図1に示す水晶振動子パッケージによれば、例えば、カバー120が金属イオンが添加された水晶から構成されているようにしたので、カバー120の体積抵抗が低くなり、また、加熱することでより体積抵抗を低下させることが可能となる。この結果、図1に水晶振動子パッケージによれば、あまり高温の処理を必要とせずに、枠部110に形成された接合膜114とカバー120及びカバー130との間で、陽極接合を行うことが可能となる。
【0019】
このように、図1に示す水晶振動子パッケージによれば、より低温の処理で接合することができるので、作業性のよい状態でパッケージが形成できる。また、内部応力が小さい状態で形成された状態が得られるので、パッケージの気密状態の信頼性が向上する。また、内部応力が小さい状態にできるので、接合面積をより小さくすることが可能となり、小型化に有利である。なお、上述では、水晶基板の両面にカバーを接合するようにしたが、これに限るものではなく、一方の面にカバーを接合してパッケージを構成するようにしてもよい。
【0020】
ところで、水晶に金属イオンが添加されている状態は、例えば、次に示す拡散により得ることができる。白金からなる陰極プレートの上に処理対象の水晶板が配置され、この水晶板の上にアルミニウム板を介して白金からなる陽極プレートを配置し、陰極プレートと陽極プレートとの間に例えば2kV/cm程度の電圧が印加され、またこれらが500℃程度に加熱された状態とし、この状態を150時間ほど維持する。この処理により、アルミニウムのイオンが水晶板に拡散した状態が得られる。
【0021】
また、陰極プレートと陽極プレートとの間に流れる電流を測定し、この測定結果が所望とする値にまで達した状態まで上述した状態を維持することで、所望とする体積抵抗が得られた状態の水晶板が得られる。アルミニウム板の代わりにモリブデンの板を用いて上述の処理を行うことで、モリブデンのイオンが添加された水晶板が得られる。
【0022】
また、金属のイオンが添加された水晶は、イオン注入法により得ることも可能である。また、人工水晶の育成段階で、育成液中に金属塩が添加されている状態とすることで、育成された人工水晶中に金属イオンが添加された状態とすることも可能である。また、格子欠陥の多い水晶を用いることで、金属イオンが導入された状態をより容易に得ることが可能である。また、水晶に添加する金属イオンは、アルミやモリブデンに限るものではなく、ナトリウム,チタン,クロム,マンガン,鉄などの水晶の中で可動イオンとなる他の金属イオンであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態における水晶振動子パッケージの構成例を示す模式的な断面図である。
【図2】水晶振動子パッケージの製造過程を示す斜視図である。
【図3】従来よりある水晶振動子派ケージの一部構成例を示す平面図である。
【図4】従来よりある水晶振動子パッケージの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
101…水晶基板、110…枠部、111…水晶振動子片、112…電極、114…接合膜、120…カバー、130…カバー。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠部とこの内側に配置された水晶振動片とが一体に形成された略矩形の水晶基板と、
前記水晶基板の前記枠部に形成された金属からなる接合膜と、
前記接合膜に接合面が接合された水晶からなるカバーと
を少なくとも備え、
前記カバーは、金属イオンが添加された水晶から構成され、
前記接合面と前記接合膜とは、陽極接合されている
ことを特徴とする水晶振動子パッケージ。
【請求項2】
請求項1記載の水晶振動子パッケージにおいて、
前記接合膜を構成する金属は、アルミニウム及びモリブデンの少なくとも1つである
ことを特徴とする水晶振動子パッケージ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−180168(P2006−180168A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370767(P2004−370767)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】