説明

水晶振動子

【課題】振動特性に悪影響を及ぼすことなく、小型で簡単な構造の支持部を設けることができるGTカットの水晶振動子を提供する。
【解決手段】GTカットの水晶板31を楕円形に形成する。楕円の長軸と短軸とを、GTカットにおける直交する2つの縦振動モードの振動方向(X”軸方向及びZ”軸方向)に一致させる。2つの縦振動モードが結合したときに水晶板31の外周において振動変位が極小となる位置(P1〜P4)のいずれか1つまたは複数に対し、水晶板31を支持する支持部を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GTカットの水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数や時間の基準源として用いられる水晶振動子は、水晶振動子を構成する振動板すなわち水晶板を水晶の単結晶から切り出すときの結晶学的な方位にしたがって、何種類かの“カット”に分類される。そのようなカットとしては、従来から、例えば、ATカット、SCカットなどが広く知られている。中でもGTカットの水晶板は、優れた周波数温度特性を有し、周囲温度が変化した場合における共振周波数の変化が非常に小さいので、高精度高安定の水晶発振器への適用などが期待されている。
【0003】
水晶においては、周知なように、結晶学的にX軸、Y軸及びZ軸の3本の結晶軸が定められている。Y軸に直交する面(すなわち、X軸とZ軸に平行な面)に沿って切り出される水晶板をY板と呼ぶが、Y板をX軸の周りに+51.5°回転させ(すなわちφ=+51.5°)、さらにその板の面内で板を+45°回転させる(すなわちθ=+45°)ことによって形成される水晶板からなるカットがGTカットである。φ及びθは、水晶におけるカット方位を特定するために一般的に用いられるパラメータである。図1は、水晶の単結晶(原石11)からGTカットの水晶板を切り出す際の切断方位12を示している。参考のため、図1には、GTカット以外の代表的なカットの切断方位も示されている。GTカットの水晶板内での方位を指定するために、X軸、Y軸及びZ軸をX軸の周りで上記の+51.5°回転させて得られる軸をそれぞれX’軸、Y’軸及びZ’軸とする。X軸周りの回転であるので、当然のことながらX’軸はX軸に一致する。そして、X’軸及びZ’軸をY’軸の周りでZ’軸からX’軸に向かう方向に45°回転させて得られる軸をそれぞれX”軸及びZ”軸とする。
【0004】
ここでGTカットの水晶板における振動モードを説明する。図2に示すように、GTカットの水晶板21における振動モードは、X”軸方向の縦振動(伸縮振動)モードとZ”軸方向の縦振動モードとが結合した振動モード(幅・長さ縦結合振動モードともいう)である。図において、伸縮振動の方向が矢印で示されており、振動によって変位した輪郭が破線によって示されている。ただし、説明のために、変位した輪郭は、水晶板21における実際の変位量よりもはるかな大きな変位をしたものとして描かれている。2つの縦振動モードが結合した振動モードであるため、従来、GTカットの水晶板は、1対の辺がX”軸に平行となりもう1対の辺がZ”軸に平行になるような長方形あるいは角型の形状にして、水晶振動子における振動板すなわち水晶片として用いられていた。振動板としての水晶板を励振するための励振電極は、水晶板の両方の主面にそれぞれ設けられる。
【0005】
水晶振動子を構成する振動板すなわち水晶片としてGTカットの水晶板を使用する場合には、水晶振動子の容器の壁面などと接触しないように水晶板を容器内に保持する必要がある。そこで、特許文献1や非特許文献2に示されるように、フォトリソグラフィ技術を用いることにより、振動板の本体部分(振動部)とそれに対する支持部とを水晶の板状部材から一体的に形成してしまうことが提案されている。その場合、図3に示すように、振動板としての水晶板21における長方形状の本体部分における対向する1対の辺の各々の中点の位置に対し、支持部22が接続するようにする。また、有限要素法などの手法を用いることによって、振動部単独での共振周波数と、支持部22までを含めた共振系全体としての共振周波数とがほぼ同じになるように、支持部22の形状を設計する。
【0006】
なお、水晶板の振動モードは、カットごとに異なっている。例えば、従来から広く用いられているATカットの水晶板の場合、振動モードは厚み滑り振動モードであって、その厚さのみによって共振周波数が決定する。そのためATカットの水晶板では、平面形状を任意に設定することができ、例えば特許文献2に示すように平面形状を円形あるいは楕円形とすることができたり、厚み滑り振動での不動点となる位置で水晶片を支持する構成とすることができる。しかしながらGTカットの水晶片の場合、振動モードが幅・長さ縦結合振動モードであって幅や長さなどの平面形状やサイズに応じて共振周波数が変化し、かつ、相互に結合する2つの振動モードの振動が両方とも確実に起きるようにしなければならないから、平面形状を任意に設定したり、任意の位置に支持部を配置したりすることはできない。特に、長方形状のGTカットの水晶板の外周部には、一般的には、振動変位における不動点は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−246898号公報
【特許文献2】特開2007−158486号公報
【特許文献3】特開平2−207615号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】川島宏文、平間宏一、齋藤直哉、小山光明、「水晶振動子とその応用デバイス」、電子情報通信学会論文誌C−I、第J82-C-I巻、第12号、第667〜682頁、1999年12月
【非特許文献2】川島宏文、落合修、工藤明仁、中島淳順、「小型GTカット水晶振動子について」、日本時計学会誌、第104号、第36〜48頁、1983年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したようにGTカットの水晶板は、優れた周波数温度特性を有し、高安定高精度の水晶発振器を構成することに適したものである。しかしながら、従来のGTカットの水晶片は平面形状が長方形であって、その対向する1対の辺の各々の中点の位置に支持部が接続している。GTカットの水晶板の振動モードは幅・長さ縦結合振動モードであるから、このような支持部の接続位置は水晶板が振動変位をしている位置であり、支持部を設けることによって水晶板の振動が妨げられるおそれがある。水晶板の振動に対して悪影響を与えないような形状となるように有限要素法を用いて支持部を設計することも試みられているが、そのような支持部は複雑な形状を有するので、製造が難しい。また支持部自体の大きさが振動板の本体部分に比べて無視できないので、支持部における寸法ばらつきが水晶板の振動特性に大きな影響を及ぼすとともに、水晶振動子の小型化を阻害する。
【0010】
本発明の目的は、振動特性に悪影響を及ぼすことなく、小型で簡単な構造の支持部を設けることができるGTカットの水晶振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の水晶振動子は、GTカットの水晶振動子であって、GTカットにおける直交する2つの縦振動モードの振動方向をそれぞれ長軸と短軸とする楕円形に形成された水晶板と、2つの縦振動モードが結合したときに水晶板の外周において振動変位が極小となる位置に対して接続し、水晶板を支持する支持部と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
従来は長方形状のものとされてきたGTカットの水晶板を本発明では楕円形とする。楕円形とすることにより、後述するように、水晶板の外周部の4か所に振動変位が極小となる点が生じるので、そのような点に対して水晶板を支持するための支持部を接続する。その結果、本発明によれば、振動変位に関して実質的に不動点となる位置で水晶板を支持することが可能となって、振動特性に影響を及ぼすことなく、小型で簡単な構造の支持部を使用することができるようになり、温度特性が良好であって高安定な水晶振動子が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】GTカットの水晶板の切断方位を説明する図である。
【図2】GTカットの水晶板の振動モードを説明する平面図である。
【図3】支持部が設けられている従来の角型のGTカット水晶振動子を説明する平面図である。
【図4】本発明の実施の一形態の水晶振動子の原理的構成を示す図である。
【図5】本発明の実施の一形態の水晶振動子の具体的構成の一例を示す平面図である。
【図6】図5のA−A’線での断面図である。
【図7】水晶板における軸方向を説明する図である。
【図8】楕円型のGTカット水晶振動子における縦横比と周波数温度特性での一次の温度係数αとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図4は、本発明の実施の一形態の水晶振動子の原理的構成を示す図である。本実施形態の水晶振動子は、GTカットの水晶板31を使用する点では上述した従来のものと一致するが、水晶板31の平面形状が楕円であることで、従来のものと相違する。
【0015】
楕円形の水晶板31は、その板面がGTカットにおけるY’軸に直交しており、楕円としての長軸がGTカットにおけるX”軸に一致し、短軸がZ”軸に一致する。その結果、水晶板31は、その振動モードとして、図2に示した水晶板21と同様に、X”軸方向の縦振動モードとZ”軸方向の縦振動モードとが結合し、X”軸方向とZ”軸方向とに交互に伸縮する幅・長さ縦結合振動モードを有することになる。図4においては、振動によって変位した水晶板31の輪郭が破線によって強調して描かれているが、水晶板31の外周部に注目すると、外周の各点において振動変位の大きさが一定しているわけではない。図においてP1〜P4に示す各点において振動変位の大きさが極小となっている。楕円形の水晶板31が、長軸であるX”軸方向と短軸であるZ”軸方向とに交互に伸縮するので、振動変位の大きさが極小となる点が水晶板31の外周すなわち楕円上に必ず4つ生じる。水晶板31の大きさに比べて各縦振動モードによる振動の振幅が十分に小さいとすると、点P1〜P4は、幅・長さ縦結合振動モードの振動変位に関して事実上の不動点となる。楕円に形成されている水晶板31の外周のどの位置が不動点になるかは、水晶板31における長軸の長さaと短軸の長さbとの比、すなわち、縦横比(b/a)によって異なる。例えば、縦横比が0.855である場合には、各不動点は、水晶板31の中心すなわち楕円の中心から見て、長軸から短軸方向に向けて57.5°の角度をなす方向に位置する。
【0016】
本実施形態の水晶振動子では、水晶板31における不動点P1〜P4の1つまたは複数に対して支持部を接続することにより、水晶板31の振動特性に影響を及ぼすことなく、水晶板31を支持することができる。支持部は、振動モードにおける不動点に対して接続するので、その共振周波数を水晶板31の共振周波数に一致させる必要がなく、簡単な構成のものとすることができる。例えば、水晶板31の外周に接続する単純な棒状部材あるいは梁部材によって支持部を構成することができる。また、GTカットの水晶板31を用いていることから、良好な周波数温度特性が得られ、この水晶振動子と発振回路とを組み合わせることによって、高精度高安定な水晶発振器を得ることができる。
【0017】
図5及び図6は、このようにして構成された本実施形態の水晶振動子の具体的な構成の一例を示している。
【0018】
この水晶振動子は、略長方形に形成されたフレーム(枠)33を備え、フレーム33の開口部内に楕円形のGTカットの水晶板31が保持されたものである。図5及び図6に示すものにおいても、楕円形の水晶板31は、その板面がGTカットにおけるY’軸に直交しており、楕円としての長軸がGTカットにおけるX”軸に一致し、短軸がZ”軸に一致する。水晶板31は、フレーム33の内壁から延びる棒状の2本の支持部32によって支持されている。2本の支持部32は、楕円形の水晶板31の外周にある上述した4つの不動点P1〜P4のうちの2つにおいて、それぞれ、水晶板31に機械的に接続している。ここでは、水晶板31の中心(楕円の中心)を挟む一対の不動点P2,P4(図4参照)に対して支持部32が接続している。フレーム33の厚さは、水晶板31の厚さよりも十分に厚くなっている。これにより、例えばフレーム33の上面と下面とに蓋部材をそれぞれ配してフレーム33と蓋部材とによって囲まれた空間内に水晶板31が格納されるようにした場合に、水晶板31の蓋部材への接触が防止されるようになっている。
【0019】
このような水晶振動子は、例えば、GTカットに相当する水晶の板状部材を用い、水晶板31、支持部32及びフレーム33となる部分が残存し他の部分は除去されるようにその板状部材に対してフォトリソグラフィ技術を適用することによって形成できる。水晶の板状部材に対してフォトリソグラフィ技術を用いて水晶振動子を形成した場合には、支持部32及びフレーム33も水晶からなり、水晶板31と一体的に構成されていることになる。
【0020】
さらに、水晶板31の一方の主面のほぼ全面には励振電極34が形成され、この励振電極34に対する電気的接続を実現するための引出電極36が、一方の支持部32の表面に形成されて、フレーム33の上面に形成されている接続パット37にまで延びている。同様に、水晶板32の他方の主面のほぼ全面にも励振電極35が形成され、この励振電極35は、フレーム33の下面に形成されている接続パッド(不図示)に対し、他方の支持部の表面に形成された引出電極(不図示)を介して電気的に接続している。
【0021】
図5及び図6に示したものでは、水晶板31を2点で支持しているが、上述した不動点P1〜P4において支持するものである限り、何か所で支持するか、どの不動点で支持するかは、任意に定めることができる。
【0022】
図7は、楕円形のGTカットの水晶板31における各軸の方位を示したものである。
【0023】
GTカットの水晶板の場合、X”軸方向の弾性係数C'11とZ”軸方向の弾性係数C'33とが等しいので、X”軸方向の寸法とZ”軸方向の寸法とを入れ替えても同じ振動特性を示す。すなわち、上記の説明では、楕円形の水晶板において、長軸をX”軸方向とし短軸をZ”軸方向としたが、長軸をZ”軸方向とし短軸をX”軸方向としても、上述と全く同様の効果を得ることができる。
【0024】
次に、本実施形態の水晶振動子に関し、楕円形の水晶板31における縦横比(b/a)を変化させたときの周波数温度特性の変化について説明する。図8は縦横比と一次温度係数αとの関係を調べた結果を示すグラフである。縦横比が0.75〜0.90の範囲にあれば、良好な温度特性(一次温度係数が概ね±10ppm/℃の範囲内)が得られることがわかる。
【0025】
以上、本発明の一形態の水晶振動子を説明したが、本発明の水晶振動子の別の態様のものとして、
水晶の結晶のY軸に直交する面をX軸の周りに+51.5°回転させて得られる面に沿って前記水晶の結晶から切り出された水晶板と、
前記水晶板を支持する支持部とを有し、
前記水晶板は、前記水晶板の面内において前記X軸に対して±45°傾いた方向をそれぞれ長軸と短軸とする楕円に形成され、
前記水晶板の外周の位置であって、前記長軸方向の縦振動モードと前記短軸方向の縦振動モードとが結合した結合振動モードにおける振動変位が極小となる位置において、前記支持部が前記水晶板に接続する、水晶振動子がある。このような水晶振動子においても、支持部を水晶から構成し、水晶板と支持部を一体的に形成することができる。また、長軸の長さに対する短軸の長さを0.75以上0.90以下の範囲内とすることが好ましい。さらに、水晶板の各主面に励振電極を形成することもできる。
【符号の説明】
【0026】
11 原石;12 GTカットの切断方位;21,31 GTカットの水晶板;22,32 支持部;33 フレーム(枠);34,35 励振電極;36 引出電極;37接続パッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GTカットの水晶振動子であって、
GTカットにおける直交する2つの縦振動モードの振動方向をそれぞれ長軸と短軸とする楕円形に形成された水晶板と、
前記2つの縦振動モードが結合したときに前記水晶板の外周において振動変位が極小となる位置に対して接続し、前記水晶板を支持する支持部と、
を有する水晶振動子。
【請求項2】
前記支持部は水晶からなり、前記水晶板と一体的に形成されている、請求項1に記載の水晶振動子。
【請求項3】
前記長軸の長さに対する前記短軸の長さが0.75以上0.90以下の範囲内にある、請求項1または2に記載の水晶振動子。
【請求項4】
前記水晶板の各主面に形成された励振電極をさらに備える、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水晶振動子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−175520(P2012−175520A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37086(P2011−37086)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】