説明

水晶発振器

【課題】外部から供給される制御電圧に応じた発振器の周波数可変量を大きくすると共に直線性の良い周波数変化を得ることを可能とした水晶発振器を提供することを目的とする。
【解決手段】MOS型電圧可変容量素子を用いて構成した周波数調整回路を備えた水晶発振器に於いて、
前記周波数調整回路は2つのMOS型電圧可変容量素子とを有し、各MOS型電圧可変容量素子バックゲート端子には夫々レベルシフト回路を介して制御用直流電圧が供給されており、前記レベルシフト回路の一方は前記制御用直流電圧の中心電圧より低い領域で一方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう、他方のレベルシフト回路は前記制御用直流電圧の中心電圧より高い領域で他方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう設定されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶発振器、特に外部から供給する制御用の直流電圧値に基づいて発振周波数が変化する電圧制御型水晶発振器及び電圧制御型温度補償水晶発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信機器の局部発振器等の信号発生源としてPLL(Phase Lock Loop;位相同期ループ)が広く用いられている。高精度のPLLを実現するため、電圧制御発振器としてを水晶振動子を用いたものが一般的である。
【0003】
例えば、特開2002−026660号公報にはインバータ素子を用いて構成した電圧制御型水晶発振器が開示されている。周知のように電圧制御型水晶発振器は共振ループの負荷容量を変化させることにより発振器の共振周波数が変化する現象を利用したものである。前出の公報ではインバータ素子を用い水晶発振器の共振ループ中に電圧可変容量素子を挿入し、電圧可変容量素子に印加する制御用直流電圧によって発振器が出力する周波数を制御している。
【0004】
一般的な電圧可変容量素子としては可変容量ダイオードが知られている。しかし、可変容量ダイオードは集積化が困難であることから発振回路を構成する他の部品と共にIC化することができず、小型化や低コスト化の妨げとなっていた。
一方電圧可変容量素子としてMOS型電圧可変容量素子があり、集積化が容易なことから水晶発振器にも適用されつつある。(特開平11−088052号公報)
【0005】
図6はインバータ素子を用いた水晶発振器に、MOS型電圧可変容量素子用いた温度補償回路と、MOS型電圧可変容量素子用いた周波数調整回路とを付加した電圧制御型温度補償水晶発振器の一例を示す回路図である。
図中1は水晶振動子、R1 は帰還抵抗、2はインバータ素子、3(破線内)は温度補償回路、4(一点鎖線内)は周波数調整回路をそれぞれ示している。
ここで、周波数調整回路4は2つのMOS型電圧可変容量素子D1,D2と、2つのコンデンサC1,C2と、抵抗R2,R3とを備えたものである。
【0006】
MOS型電圧可変容量素子D1のゲート端子はコンデンサC1を介してインバータ素子2の入力端側に、MOS型電圧可変容量素子D2のゲート端子はコンデンサC2を介してインバータ素子2の出力端側に夫々配置され、各MOS型電圧可変容量素子のバックゲート端子は接地されている。そして外部制御電圧が各MOS型電圧可変容量素子のゲート端子とコンデンサとの接続点に抵抗R2,R3を介してそれぞれ供給される。
【0007】
図7はMOS型電圧可変容量素子のゲート電圧と容量との関係(C−V特性)を示すものであり、ゲート電圧を変化させることによりMOS型電圧可変容量素子の容量値が変化することになる。このMOS型電圧可変容量素子はこの発振器の共振ループ中の負荷容量の一部を構成するものであるから、上述した原理に基づき外部制御電圧に応じた周波数変化を得ることができるのである。
【特許文献1】特開2002−026660号公報
【特許文献2】特開平11−088052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図7から明らかなようにC−V特性が直線的に変化する領域はごく僅かであり、この領域の両側ではゲート電圧の変化に対する容量の変化が徐々に鈍くなり曲線的な動作が現れてしまい、やがてゲート電圧を変化させても容量値は変化しない(飽和)領域に達するという特徴を持っている。
つまり、発振器の周波数可変量を大きくすることが困難であり、直線性の良い領域が少ないため使い勝手が悪いという欠点があった。
本発明は、外部から供給される制御電圧に応じた発振器の周波数可変量を大きくすると共に直線性の良い周波数変化を得ることを可能とした水晶発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくともインバータ素子と、水晶振動子と、MOS型電圧可変容量素子を用いて構成した周波数調整回路と、を備えた水晶発振器に於いて、
前記周波数調整回路は、第1のMOS型電圧可変容量素子と第2のMOS型電圧可変容量素子とを有し、
第1のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子はインバータ素子の入力端側に、第2のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子はインバータ素子の出力端側に夫々配置され、
いずれか一方のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子には直流バイアスが印加され、
各MOS型電圧可変容量素子のバックゲート端子はコンデンサを介して接地され、
第1及び第2のMOS型電圧可変容量素子のバックゲート端子には夫々第1及び第2のレベルシフト回路を介して制御用直流電圧が供給されており、
前記レベルシフト回路の一方は前記制御用直流電圧の中心電圧より低い領域で一方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう、他方のレベルシフト回路は前記制御用直流電圧の中心電圧より高い領域で他方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう電圧のシフト量が設定されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、少なくともインバータ素子と、水晶振動子と、MOS型電圧可変容量素子を用いて構成した温度補償回路と、MOS型電圧可変容量素子を用いて構成した周波数調整回路と、を備えた水晶発振器に於いて、
前記周波数調整回路は、第1のMOS型電圧可変容量素子と第2のMOS型電圧可変容量素子とを有し、
第1のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子はインバータ素子の入力端側に、第2のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子はインバータ素子の出力端側に夫々配置され、
いずれか一方のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子には直流バイアスが印加され、
各MOS型電圧可変容量素子のバックゲート端子はコンデンサを介して接地され、
第1及び第2のMOS型電圧可変容量素子のバックゲート端子には夫々第1及び第2のレベルシフト回路を介して制御用直流電圧が供給されており、
前記レベルシフト回路の一方は前記制御用直流電圧の中心電圧より低い領域で一方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう、他方のレベルシフト回路は前記制御用直流電圧の中心電圧より高い領域で他方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう電圧のシフト量が設定されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、前記直流バイアスは前記温度補償回路と周波数調整回路との双方の基準電圧として用いられていることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項4に係る発明は、前記制御用直流電圧の最小値をVmin、最大値をVmax、中心電圧をVcenterとし、MOS型電圧可変容量素子の容量が直線的に変化するゲート電圧の下限値をVGB1、上限値をVGB2とし、インバータ素子のしきい値をVDD/2とし、前記直流バイアスをVrefとするとき、
直流バイアスを印加したMOS型電圧可変容量素子に制御電圧を供給するレベルシフト回路では制御用直流電圧がVcenterからVmaxに変化するときにVDD/2−VGB2からVDD/2−VGB1に変化する電圧を出力するように、
他方のレベルシフト回路では制御用直流電圧がVminからVcenterに変化するときにVref−VGB2からVref−VGB1に変化する電圧を出力するように設定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る水晶発振器は、制御電圧をレベルシフト回路を介して各MOS型電圧可変容量素子に別個に供給するようにしたので、外部から供給される制御電圧に応じた発振器の周波数可変量を大きくすると共に直線性の良い周波数変化が得られるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
図1は本発明に係る水晶発振器の実施形態例を示す回路図であって、図6にて示した回路図と共通する部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
図6の従来の回路と異なる本発明の特徴点は周波数調整回路5の構成にある。
即ち、MOS型電圧可変容量素子D1のゲート端子をインバータ素子の入力端側に、MOS型電圧可変容量素子D2のゲート端子を直流カット用コンデンサCcを介してインバータ素子の出力端側に夫々配置すると共に、MOS型電圧可変容量素子D1,D2のバックゲート端子をコンデンサCa,Cbを介してそれぞれ接地し、MOS型電圧可変容量素子D1,D2のバックゲート端子には夫々レベルシフト回路6,7を介して制御用直流電圧を供給するよう構成されているのである。
【0015】
尚、このときMOS型電圧可変容量素子D2のゲート端子には直流バイアスVrefを印加する。ちなみにこの直流バイアスVrefは温度補償回路3の基準電圧源としても機能している。
【0016】
また、必要に応じて前記レベルシフト回路6,7の前段に制御用直流電圧の電圧値(振れ幅)を調整するためのゲイン調整部8を挿入しても良い。
【0017】
ここで、周波数調整回路5の動作について説明する。
図2はMOS型電圧可変容量素子のC−V特性を示す図であり、同図に示すように直線性の優れた領域を呈するゲート電圧の下限値をVGB1、上限値をVGB2と定義する。
また、前記制御用直流電圧の最小値をVmin、最大値をVmax、中心電圧をVcenterとそれぞれ定義する。
更にインバータ素子2のしきい値をVDD/2と定義する。
【0018】
図3は外部から供給される制御用直流電圧と、レベルシフト回路6、7からMOS型電圧可変容量素子D1,D2に供給される電圧VC1,VC2との関係を示す図であり、図4は外部から供給される制御用直流電圧と、MOS型電圧可変容量素子のゲート電圧との関係を示す図である。
図3に示すように、MOS型電圧可変容量素子D1に制御電圧を供給するレベルシフト回路では制御用直流電圧がVminからVcenterに変化するのに応じて(Vref−VGB2)から(Vref−VGB1)に変化する電圧を出力するように、MOS型電圧可変容量素子D2に制御電圧を供給するレベルシフト回路では制御用直流電圧がVcenterからVmaxに変化するときに(VDD/2−VGB2)から(VDD/2−VGB1)に変化する電圧を出力するように設定する。
【0019】
このようにレベルシフト回路を設定ことにより図4に示すように制御用直流電圧がVminからVcenterのときはMOS型電圧可変容量素子D1にVGB2からVGB1のゲート電圧が印加され、制御用直流電圧がVcenterからVmaxのときはMOS型電圧可変容量素子D2にVGB2からVGB1のゲート電圧が印加される。
よって図5に示すように、従来よりも広い範囲で直線的な制御電圧vs周波数可変量の関係を得ることができる。
【0020】
要するに、本発明は前記レベルシフト回路の一方は前記制御用直流電圧の中心電圧より低い領域で一方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう、他方のレベルシフト回路は前記制御用直流電圧の中心電圧より高い領域で他方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう電圧のシフト量が設定されていることを特徴とするものである。
尚、上記の実施形態例では温度補償回路3を含んだものを示したが、この温度補償回路を省略した電圧制御型水晶発振器に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る水晶発振器の実施形態例を示す回路図。
【図2】MOS型電圧可変容量素子のC−V特性を示す図。
【図3】制御用直流電圧とレベルシフト回路供給される電圧との関係を示す図
【図4】制御用直流電圧とMOS型電圧可変容量素子のゲート電圧との関係を示す図。
【図5】制御電圧vs周波数可変量の関係を示す図。
【図6】従来の水晶発振器の実施形態例を示す回路図
【図7】MOS型電圧可変容量素子のC−V特性を示す図。
【符号の説明】
【0022】
1 水晶振動子
2 インバータ素子
3 温度補償回路
5 周波数調整回路
6,7 レベルシフト回路
D1,D2 MOS型電圧可変容量素子
Ca,Cb コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともインバータ素子と、水晶振動子と、MOS型電圧可変容量素子を用いて構成した周波数調整回路と、を備えた水晶発振器に於いて、
前記周波数調整回路は、第1のMOS型電圧可変容量素子と第2のMOS型電圧可変容量素子とを有し、
第1のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子はインバータ素子の入力端側に、第2のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子はインバータ素子の出力端側に夫々配置され、
いずれか一方のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子には直流バイアスが印加され、
各MOS型電圧可変容量素子のバックゲート端子はコンデンサを介して接地され、
第1及び第2のMOS型電圧可変容量素子のバックゲート端子には夫々第1及び第2のレベルシフト回路を介して制御用直流電圧が供給されており、
前記レベルシフト回路の一方は前記制御用直流電圧の中心電圧より低い領域で一方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう、他方のレベルシフト回路は前記制御用直流電圧の中心電圧より高い領域で他方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう電圧のシフト量が設定されていることを特徴とする水晶発振器。
【請求項2】
少なくともインバータ素子と、水晶振動子と、MOS型電圧可変容量素子を用いて構成した温度補償回路と、MOS型電圧可変容量素子を用いて構成した周波数調整回路と、を備えた水晶発振器に於いて、
前記周波数調整回路は、第1のMOS型電圧可変容量素子と第2のMOS型電圧可変容量素子とを有し、
第1のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子はインバータ素子の入力端側に、第2のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子はインバータ素子の出力端側に夫々配置され、
いずれか一方のMOS型電圧可変容量素子のゲート端子には直流バイアスが印加され、
各MOS型電圧可変容量素子のバックゲート端子はコンデンサを介して接地され、
第1及び第2のMOS型電圧可変容量素子のバックゲート端子には夫々第1及び第2のレベルシフト回路を介して制御用直流電圧が供給されており、
前記レベルシフト回路の一方は前記制御用直流電圧の中心電圧より低い領域で一方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう、他方のレベルシフト回路は前記制御用直流電圧の中心電圧より高い領域で他方のMOS型電圧可変容量素子をC−V特性が直線となる領域で動作するよう電圧のシフト量が設定されていることを特徴とする水晶発振器。
【請求項3】
前記直流バイアスは前記温度補償回路と周波数調整回路との双方の基準電圧として用いられていることを特徴とする請求項2に記載の水晶発振器。
【請求項4】
前記制御用直流電圧の最小値をVmin、最大値をVmax、中心電圧をVcenterとし、MOS型電圧可変容量素子の容量が直線的に変化するゲート電圧の下限値をVGB1、上限値をVGB2とし、インバータ素子のしきい値をVDD/2とし、前記直流バイアスをVrefとするとき、
直流バイアスを印加したMOS型電圧可変容量素子に制御電圧を供給するレベルシフト回路では制御用直流電圧がVcenterからVmaxに変化するときにVDD/2−VGB2からVDD/2−VGB1に変化する電圧を出力するように、
他方のレベルシフト回路では制御用直流電圧がVminからVcenterに変化するときにVref−VGB2からVref−VGB1に変化する電圧を出力するように設定されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−19565(P2007−19565A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−380479(P2003−380479)
【出願日】平成15年11月10日(2003.11.10)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】