説明

水溶性重合体分散液及びそれを用いた抄紙方法

【課題】 カチオン性又は両性水溶性重合体の凝集剤としての機能を向上することを目的とし、水溶性重合体を塩水溶液中で該塩水溶液に可溶な高分子分散剤共存下、分散重合法により製造することにより、特異な粘性挙動を示し、かつ安定した分散液の状態で効率良く製造する方法及びこの水溶性重合体を使用した抄紙方法を開発する。
【解決手段】 還元粘度ηsp/c(単位:dl/g)のプロットをηsp/c=[η]+k×cの式(cは重合体濃度で単位はg/dl、[η]は固有粘度)に近似した時の係数kの値が20以下である水溶性重合体を、カチオン性水溶性単量体及び必要に応じてアニオン性単量体と、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体からなる水溶性単量体(混合物)を、塩水溶液中で該塩水溶液に可能な高分子分散剤を共存させる分散重合法により安定した分散液を製造することができる。また歩留向上剤及び/又は濾水性向上剤として地合の良好な紙を抄紙できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性重合体分散液及びそれを用いた抄紙方法に関するものであり、詳しくは重合体濃度0.1重量%以下に1規定NaCl水溶液で希釈した数点の重合体希釈液を毛細管粘度計を用いて25℃で測定した還元粘度ηsp/c(単位:dl/g)のプロットをηsp/c=[η]+k×cの式(cは重合体濃度で単位はg/dl、[η]は固有粘度)に近似した時の係数kの値が20以下である水溶性重合体であって、塩水溶液中、該塩水溶液に可溶な高分子分散剤共存下でカチオン性水溶性単量体及び必要に応じてアニオン性単量体と(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体からなる水溶性単量体(混合物)を分散重合法により製造した粒径100μm以下の微粒子の分散液であることを特徴とする水溶性重合体分散液に関し、また歩留率及び/又は濾水性を向上させることを目的として抄紙前の製紙原料中に、水溶性重合体分散液あるいはその希釈液を添加する抄紙方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン性又は両性水溶性重合体は、凝集剤として多岐にわたる用途に応用されている。例えば、一般水処理剤としての排水中の固液分離、汚泥の脱水、製紙工業においては歩留向上剤等に使用され、土木では土壌の固化剤としても使用されている。
【0003】
これらカチオン性又は両性水溶性重合体の重合方法は、以下が知られている。例えば、水溶液重合法はペ−スト状製品として供給され、油中水型エマルジョン重合体分散液は重合後、転相剤とよばれる親水性乳化剤を加えラテックスの形態で供給され、油中水型分散重合法は、粉末状製品を製造するために適用される場合が多く、30〜50%濃度の単量体水溶液をそのまま重合しゲル状重合物をミ−トチョッパ−などで造粒後、直接乾燥する方法も粉末品の製造に応用されている。また、塩水溶液中で重合する方法も開発されている。
【0004】
水溶性単量体あるいは水溶性単量体混合物を、塩水溶液中で該塩水溶液に可溶なイオン性高分子分散剤を共存させる分散重合法により製造した水溶性重合体分散液は、特許文献1や特許文献2に記載された重合方法により製造することが可能である。
【0005】
また近年、従来の性能をより向上させる方法として、油中水型エマルジョン重合体分散液の架橋型カチオン性又は両性水溶性重合体が水処理脱水剤や製紙工程の歩留り向上剤、濾水性向上剤で有効な性能を示す事例が報告されている。この分散液はカチオン性及び必要に応じてアニオン性水溶性単量体(混合物)中に架橋剤を混合させて重合を行い得られた分散液である。
【0006】
【特許文献1】特公平4−39481号公報
【特許文献2】特公平6−51755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、カチオン性又は両性水溶性重合体の凝集剤としての機能を更にグレードアップするため架橋型カチオン性又は両性水溶性重合体に着目した。架橋型水溶性重合体の特徴は水溶液に希釈した際に完全には溶解せずに微粒子として作用することである。更にこの微粒子をナノスケールにすれば、更に性能が向上すると考えた。従って本発明の目的は、水溶液に希釈した際、ナノスケールの微粒子となるカチオン性又は両性水溶性重合体を塩水溶液中で該塩水溶液に可溶な高分子分散剤共存下、分散重合法により製造する場合、安定した分散液の状態で効率良く製造する方法及び該カチオン性又は両性水溶性重合体分散液あるいはその希釈液を使用した抄紙方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため詳細な検討を行った結果、特定の重合条件下で反応を進行させることにより、高分子量の特異な構造を持つカチオン性又は両性水溶性重合体を製造できることを見出した。すなわち請求項1の発明は、重合体濃度0.1重量%以下に1規定NaCl水溶液で希釈した数点の重合体希釈液を毛細管粘度計により25℃で測定した還元粘度ηsp/c(単位:dl/g)のプロットをηsp/c=[η]+k×cの式(cは重合体濃度で単位はg/dl、[η]は固有粘度)に近似した時の係数kの値が20以下である水溶性重合体であって、該水溶性重合体が下記一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体5〜100モル%、下記一般式(3)で表される単量体0〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜95モル%からなる単量体(混合物)を塩水溶液中で該塩水溶液に可溶な高分子分散剤を共存させる分散重合法により製造した粒径100μm以下の微粒子の分散液であることを特徴とする水溶性重合体分散液である。
【化1】


一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い、Aは酸素又はNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基又はアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】



一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす。



【化3】


一般式(3)
R8は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、AはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R9は水素又はCOOY2、Y1あるいはY2は水素又は陽イオンを表わす。
【0009】
請求項2の発明は、前記水溶性重合体がカチオン性であることを特徴とする請求項1に記載の水溶性重合体分散液である。
【0010】
請求項3の発明は、前記水溶性重合体が両性であることを特徴とする請求項1に記載の水溶性重合体分散液である。
【0011】
請求項4の発明は、前記係数kが10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性重合体分散液である。
【0012】
請求項5の発明は、前記水溶性重合体分散液を構成する水溶性重合体の1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が、10〜25dl/gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性重合体分散液である。
【0013】
請求項6の発明は、前記水溶性重合体分散液を構成する水溶性重合体の1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が、15〜25dl/gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性重合体分散液である。
【0014】
請求項7の発明は、前記高分子分散剤がカチオン性であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水溶性重合体分散液である。
【0015】
前記分散重合法により製造する際に、実質的に連鎖移動剤を用いないことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水溶性重合体分散液である。
【0016】
請求項9の発明は、歩留率及び/又は濾水性を向上させることを目的として抄紙前の製紙原料中に、請求項1〜8のいずれかに記載の水溶性重合体分散液あるいはその希釈液を添加することを特徴とする抄紙方法である。
【発明の効果】
【0017】
従来のカチオン性又は両性水溶性重合体また架橋型水溶性重合体は固有粘度を測定する際、電解質溶液中で異なる重合体濃度で数点の還元粘度を測定し濃度をゼロに外挿するが、そのプロットの近似直線は通常正の傾き(前記式の係数k)を持っている。しかしながら本発明のカチオン性又は両性水溶性重合体はほとんど傾きを持っておらず、これから、それぞれの高分子鎖が相互作用をしないナノスケールで粒子状になっていることが推察される。
【0018】
この理由はまだ完全には解明されてはいないが、本発明品は塩水溶液中の析出重合であるため、析出時重合体濃度が非常に高い状態になる。その結果、分子は結晶化しやすい状態に置かれ、局部的に高濃度になりやすく、結晶化を促進していると考えられる。従って高分子の一部が結晶化あるいはその他の結合によって溶液中で縮まった分子形態になっていると推定される。このような状態にある高分子鎖を製紙工業における歩留向上剤として使用すると、製紙原料フロックが巨大化せず小さく締ったものとなりシェアに強い。従って歩留が向上するだけでなく、地合も良好な紙が抄紙できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下具体的に製造方法を説明する。原料として使用するカチオン性単量体、すなわち一般式(1)及び/又は(2)、必要に応じてアニオン性単量体、すなわち一般式(3)、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体を各々塩水溶液に溶解する。その後、前記高分子分散剤を添加し、窒素置換後、ラジカル重合開始剤により重合を開始させ、攪拌しながら重合することにより製造する。
【0020】
重合時の温度は、開始剤の種類により異なるが一般的に5〜55℃である。重合は2、2−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物、あるいは4、4−アゾビス(4−メトキシ−2、4ジメチル)バレロニトリルなどのアゾ系開始剤が好ましい。この開始剤の添加量は、重合開始時、単量体当たり50〜500ppm、好ましくは70〜200ppm添加する。しかし、一回の添加では重合率が低くなるので、数回に分けて添加することが好ましい。
【0021】
またレドックス系開始剤で共重合する場合、40℃以上の条件で重合を開始させると重合の制御は難しく、急激な温度上昇や重合液の塊状化などが起きて、高重合度で安定な分散液が得られないため、15〜35℃が好ましい。この開始剤の添加量は、重合開始時、単量体当たり5〜100ppm、好ましくは10〜50ppm添加する。しかし、一回の添加では重合率が低くなるので、数回添加することが好ましい。添加回数としては、2〜5回、好ましくは2〜3回である。
【0022】
前記カチオン性水溶性重合体を重合する場合、使用するカチオン性単量体の例として(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、メチルジアリルアミンなどが上げられる。また、四級アンモニウム基含有単量体の例としては、該三級アミノ含有単量体の塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、ジメチルジアリルアンモニウム塩化物などである。
【0023】
前記両性水溶性重合体を重合する場合、上記カチオン性単量体の他、アニオン性単量体を併用し、その例はビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸あるいはp−カルボキシスチレンなどである。さらに本発明の水溶性重合体は、他の非イオン性の単量体との共重合体でも良い。例えば(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどがあげられ、これら一種又は二種以上との共重合が可能である。
【0024】
重合する単量体(混合物)の組成は、一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体5〜100モル%、一般式(3)で表される単量体0〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜95モル%からなる単量体(混合物)が好ましい。更に好ましい単量体(混合物)の組成は、一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体5〜50モル%、一般式(3)で表される単量体0〜30モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体50〜95モル%である。また本発明の水溶性重合体は、固有粘度が高いほうが凝集剤としての機能が高まる。従って一般式(2)で表されるジメチルジアリルアンモニウム塩よりも一般式(1)で表される(メタ)アクリル系単量体を使用するほうが好ましい。特にメタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物あるいはアクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウム塩化物が好ましく、最も好ましい単量体の組み合わせとしてはメタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物及びアクリルアミド、あるいはアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウム塩化物及びアクリルアミド、あるいはメタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、アクリル酸及びアクリルアミドの各組み合わせである。
【0025】
本発明で使用する高分子分散剤は、イオン性、非イオン性とも使用可能であるが、好ましくはイオン性、さらに好ましくはカチオン性である。カチオン性高分子分散剤の場合、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物やジメチルジアリルアンモニウム塩化物などのカチオン性単量体の(共)重合体を高分子分散剤として使用するが、カチオン性単量体と非イオン性単量体との共重合体も使用可能である。非イオン性単量体の例としては、アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N、N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トのなどであるが、アクリルアミドとの共重合体が好ましい。
【0026】
また、非イオン性高分子分散剤としては、ポリビニルピロリドン、アクリルアミド/ポリビニルカプロラクタム共重合体、アクリルアミド/スチレン共重合体、無水マレイン酸/ブテン共重物の完全アミド化物などアミド基と若干の疎水性基を有する水溶性重合体も有効である。
【0027】
これらカチオン性高分子分散剤の分子量としては、5,000〜200万、好ましくは5万〜100万である。また、非イオン性高分子分散剤の分子量としては、1,000〜10万、好ましくは1,000〜5万である。これら非イオン性あるいはイオン性高分子分散剤の添加量は、単量体に対して1〜20重量%であり、好ましくは5〜15重量%である。
【0028】
使用する塩類としては、ナトリウムやカリウムのようなアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンなどの陽イオンとハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンなどの陰イオンとを組み合わせた塩が使用可能であるが、多価陰イオンとの塩がより好ましい。これら塩類の塩濃度としては、10重量%〜飽和濃度まで使用できる。
【0029】
本発明品の固有粘度を求める際、1規定NaCl水溶液で希釈した数点の重合体希釈液を毛細管粘度計によって25℃で測定した還元粘度ηsp/cを測定し濃度c横軸にしてプロットし、その濃度をゼロに外挿するが、そのプロットの近似直線の傾き(前記式の係数k)が20以下とほとんど傾きがない。さらに粒子性が高い、定数kが10以下の重合体はより好ましい。
【0030】
一般に塩水溶液中での分散重合法は重合過程で反応液の粘度が上昇することがあり、それを防ぐため、連鎖移動剤等を使用している。その結果、重合体の分子量が低下する場合があった。本発明は分子量を高くするために、連鎖移動剤を極力少量使用し、あるいは実質的には全く用いないことで重合する。それによる重合過程での粘度上昇を減少させるために、単量体の分割添加、疎水性単量体の微量使用、塩析し易い単量体の使用等のテクニックを用い、分子量の高い水溶性重合体を製造することが可能となった。
【0031】
本発明の塩水溶液中分散液を構成する重合体は、分子量の高い水溶性重合体を製造すると製紙工業における歩留向上剤として好ましいものができることが分かった。この重合体の1規定NaCl水溶液中で測定した固有粘度は10〜25dl/g、より好ましくは15〜25dl/gである。
【0032】
本発明の水溶性重合体は塩水溶液中の析出重合であるため、析出時重合体濃度が非常に高い状態になる。その結果、分子は結晶化しやすい状態に置かれ、局部的に高濃度になりやすく、結晶化を促進していると考えられる。従って高分子の一部が結晶化あるいはその他の結合によって溶液中で縮まった分子になっていると推定される。このような状態にある高分子を製紙工業における歩留向上剤として使用した場合、製紙原料フロックが巨大化せず小さく締ったものとなりシェアに強い。従って歩留が向上するだけでなく、地合も良好な紙が抄紙できる。また無機凝集剤、カチオン性・アニオン性及び両性水溶性高分子から選択される一種以上と組み合わせて使用することも可能である。
【0033】
組み合わせて使用する無機凝集剤は、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸鉄などある。カチオン性高分子のうち縮合系カチオン性水溶性高分子の例は、アミン・エピクロルヒドリン縮合物などである。アニオン性水溶性高分子の例は、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸あるいはアクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸などのそれぞれ単独重合体あるいは前記単量体から二つ以上を選択した共重合体、あるいは(メタ)アクリルアミドとの共重合体などである。両性水溶性高分子の例は、カチオン性単量体とアニオン性単量体、適宜(メタ)アクリルアミドなどの非イオン性単量体からなる単量体混合物の共重合体である。カチオン性水溶性高分子の例は、一種以上のカチオン性単量体の重合体、あるいは(メタ)アクリルアミドなど非イオン性単量体との共重合体である。
【0034】
カチオン性単量体の例は、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、メチルジアリルアミンなどが上げられる。また、四級アンモニウム基含有単量体の例としては、該三級アミノ含有単量体の塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、ジメチルジアリルアンモニウム塩化物などである。
【0035】
これら組み合わせて使用する縮合系カチオン性水性溶高分子、アニオン性、カチオン性あるいは両性水溶性高分子の分子量は、縮合系の場合は数千〜数10万であり、アニオン性、カチオン性あるいは両性水溶性高分子は100万〜2000万であり、好ましくは500万〜1500万である。
【0036】
本発明の水溶性重合体の添加量としては、製紙原料の固形分に対して20ppm〜5000ppmであり、好ましくは50ppm〜1000ppmである。また組み合わせて使用する場合、無機凝集剤の添加量としては、0.1〜5%であり、好ましくは0.5〜3%である。また縮合系カチオン性水性溶高分子の添加量としては、50〜2000ppmであり、好ましくは50〜500ppmである。アニオン性、カチオン性あるいは両性水溶性高分子の添加量としては、20ppm〜5000ppmであり、好ましくは50ppm〜1000ppmである。
【0037】
本発明の水溶性重合体を単独で添加する場合の添加場所は、製紙原料が白水により希釈されるファンポンプ入り口、スクリーン入り口あるいはスクリ−ン出口などが考えられる。組み合わせて使用する無機凝集剤あるいは縮合系カチオン性水性溶高分子の添加場所としては、マシンチェストあるいはファンポンプ入り口、あるいはスクリーン入り口などが考えられる。また本発明の水溶性重合体の添加場所としては、スクリ−ン入り口あるいはスクリ−ン出口などが考えられる。また本発明の水溶性重合体とアニオン性、カチオン性あるいは両性水溶性高分子と組み合わせる場合は、本発明の水溶性重合体の添加場所は、ファンポンプ入り口あるいはスクリ−ン入り口、アニオン性、カチオン性あるいは両性水溶性高分子の添加場所は、スクリーン入り口あるいはスクリ−ン出口などが考えられる。
【0038】
本発明の歩留率及び/又は濾水性を向上させる対象となる紙製品として上質紙、中質紙、新聞用紙、包装用紙、カード原紙、ライナー、中芯原紙あるいは白ボールなどである。
【0039】
以下実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに脱イオン水117.7g、硫酸アンモニウム84.1g、カチオン性単量体として80重量%アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMQ)17.7g及び80重量%アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物(以下DMABC)6.2g、50重量%アクリルアミド(以下AAM)51.9g、分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)22.5gをそれぞれ仕込んだ。その後、攪拌しながら窒素導入管より窒素を導入し溶存酸素の除去を行った。この間、恒温水槽により35±2℃に内部温度を調整した。窒素導入30分後、開始剤として2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物の1重量%水溶液0.45g(対単量体100ppm)を添加し重合を開始させた。内部温度を35±2℃に保ち重合開始後6時間たったところで上記開始剤を0.45g追加し、さらに10時間反応させ終了した。この得られた分散液を試作1とする。このDMQ/DMABC/AAMのモル比は16/4/80であり、分散液粘度は540mPa・sであった。なお、顕微鏡観察の結果、1〜50μmの粒子であることが判明した。またキャノンフェンスケ型粘度計を用いて1規定NaCl水溶液中に重合体濃度0.02g/dl、0.04g/dl、0.06g/dlに希釈した液のそれぞれの還元粘度を25℃で測定し、係数kと固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0041】
実施例1と同様の装置に脱イオン水112.2g、硫酸アンモニウム89.3g、カチオン性単量体として80重量%DMQ13.5g及び80重量%メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMC)9.7g、50重量%AAM52.9g、分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)22.5gをそれぞれ仕込み、実施例1と同様の方法で反応した。得られた分散液を試作2とする。このDMQ/DMC/AAMのモル比は12/8/80であり、この分散液の粘度は720mPa・sであった。なお、顕微鏡観察の結果、1〜50μmの粒子であることが判明した。また実施例1と同様の方法で還元粘度を測定し、係数kと固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0042】
実施例1と同様の装置に脱イオン水112.3g、硫酸アンモニウム89.3g、60重量%アクリル酸(以下AAC)2.7g、カチオン性単量体として80重量%DMQ11.2g及び80重量%DMC11.6g、50重量%AAM50.9g、分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)22.5gをそれぞれ仕込み、実施例1と同様の方法で反応した。得られた分散液を試作3とする。このAAC/DMQ/DMC/AAMのモル比は5/10/10/75であり、分散液の粘度は870mPa・sであった。なお、顕微鏡観察の結果、1〜50μmの粒子であることが判明した。また実施例1と同様の方法で還元粘度を測定し、係数kと固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0043】
実施例1と同様の装置に脱イオン水111.9g、硫酸アンモニウム89.3g、カチオン性単量体として80重量%DMQ16.0g及び50重量%AAM37.5g、分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)15.8gをそれぞれ仕込んだ。その後、攪拌しながら窒素導入管より窒素を導入し溶存酸素の除去を行った。この間、恒温水槽により35±2℃に内部温度を調整した。窒素導入30分後、開始剤として2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物の1重量%水溶液0.45g(対単量体100ppm)を添加し重合を開始させた。内部温度を35±2℃に保ち、重合開始の2時間後に80重量%DMQ3.4g、50重量%AAM8.0g、分散剤のアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)3.4gの混合物を添加した。更に2時間後に80重量%DMQ3.4g、50重量%AAM8.0g、分散剤のアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)3.4gの混合物を添加した。重合開始より8時間たったところで上記開始剤を0.45g追加し、さらに10時間反応させ終了した。重合反応中は窒素導入管より窒素を導入し続けた。この得られた分散液を試作4とする。このDMQ/AAMのモル比は20/80であり、分散液粘度は960mPa・sであった。なお、顕微鏡観察の結果、1〜50μmの粒子であることが判明した。また実施例1と同様の方法で還元粘度を測定し、係数kと固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1)実施例4と同じ単量体組成を分割して仕込まずに全量を一括して仕込んで、重合を開始させた。重合開始後2時間後に反応液の粘度が著しく増加し攪拌不可能となり、全量が一塊となり流動性のある分散液として得られなかった。
【0045】
(比較例2)比較例1と同様に実施例4と同じ単量体組成を分割して仕込まずに全量を一括して仕込み、さらに連鎖移動剤としてイソプロピルアルコールを対単量体0.5%加えた。すなわち脱イオン水111.9g、硫酸アンモニウム89.3g、カチオン性単量体として80重量%DMQ22.8g及び50重量%AAM5305g、分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合体(20重量%液、粘度6450mPa・s)22.5g、連鎖移動剤としてイソプロピルアルコール0.23gをそれぞれ仕込み、実施例1と同様の方法で反応した。得られた分散液を比較2とする。このDMQ/AAMのモル比は20/80であり、この分散液の粘度は1020mPa・sであった。なお、顕微鏡観察の結果、1〜50μmの粒子であることが判明した。また実施例1と同様の方法で還元粘度を測定し、係数kと固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【0046】
(比較例3)実施例1と同じ単量体組成にさらに連鎖移動剤としてイソプロピルアルコールを0.23g(対単量体0.5%)加え、実施例1と同様の方法で反応した。得られた分散液を比較3とする。このDMQ/DMABC/AAMのモル比は16/4/80であり、分散液粘度は390mPa・sであった。なお、顕微鏡観察の結果、1〜50μmの粒子であることが判明した。また実施例1と同様の方法で還元粘度を測定し、係数kと固有粘度を算出した。結果を表1に示す。
【0047】

(表1)

DMQ:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物
DMC:メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物
ABC:アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物
AAC:アクリル酸、AAM:アクリルアミド、数値の単位 分散液粘度:mPa・s、固有粘度(1規定NaCl水溶液中):dl/g
【実施例5】
【0048】
上質紙製造用の製紙原料(LBKPを主体としたもの、pH6.23、全SS分2.37重量%、灰分0.41重量%)を検体として、パルプ濃度0.8重量%に水道水を用いて希釈、ブリット式ダイナミックジャ−テスタ−により歩留率を測定した。添加薬品として、カチオン性デンプン対製紙原料1.0重量%、炭酸カルシウム50重量%、中性ロジンサイズ0.2重量%、硫酸バンド1.0重量%、本発明のカチオン性及び両性水溶性重合体(試作1〜試作4)又は比較として重合したカチオン性水溶性重合体(比較2、3)0.02重量%をそれぞれこの順に15秒間隔で添加し、攪拌を開始する。30秒後に10秒間白水を排出し、30秒間白水を採取し、下記条件で総歩留率を測定した。攪拌条件は、回転数1000rpm、ワイヤー125Pスクリーン(200メッシュ相当)、総歩留率(SS濃度)はADVANTEC NO.2にて濾過し測定した。また乾燥後、濾紙を525℃で焼却し灰分を測定し、歩留率を算出した。測定結果を表2に示す。
【0049】
(表2)

【0050】
このように、本発明の塩水溶液中分散液からなるカチオン性又は両性水溶性重合体は、重合体濃度0.1重量%以下に1規定NaCl水溶液で希釈した数点の重合体希釈液を毛細管粘度計によって25℃で測定した還元粘度ηsp/c(単位:dl/g)のプロットをηsp/c=[η]+k×cの式(cは重合体濃度で単位はg/dl、[η]は固有粘度)に近似した時の係数kの値が20以下である水溶性重合体は係数kの値が20以上の比較サンプルに比べ歩留率が向上することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の重合体濃度0.1重量%以下に1規定NaCl水溶液で希釈した数点の重合体希釈液を毛細管粘度計によって25℃で測定した還元粘度ηsp/c(単位:dl/g)のプロットをηsp/c=[η]+k×cの式(cは重合体濃度で単位はg/dl、[η]は固有粘度)に近似した時の係数kの値が20以下である水溶性重合体を製造する場合、該水溶性重合体がカチオン性水溶性単量体及び必要に応じてアニオン性水溶性単量体と(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体からなる単量体(混合物)を塩水溶液中で該塩水溶液に可溶な高分子分散剤共存下、分散重合法により製造し、粒径100μm以下の微粒子の分散液を効率良く、安定した分散液の状態で製造することができる。この分散液は一般水処理剤としての排水中の固液分離、汚泥の脱水、製紙工業においては歩留向上剤、濾水性向上剤等に使用することにより、従来に比べ良好な効果が発現され、産業上の利用価値は高い。


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体濃度0.1重量%以下に1規定NaCl水溶液で希釈した数点の重合体希釈液を毛細管粘度計により25℃で測定した還元粘度ηsp/c(単位:dl/g)のプロットをηsp/c=[η]+k×cの式(cは重合体濃度で単位はg/dl、[η]は固有粘度)に近似した時の係数kの値が20以下である水溶性重合体であって、該水溶性重合体が下記一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体5〜100モル%、下記一般式(3)で表される単量体0〜50モル%、(メタ)アクリルアミド及び共重合可能な他の非イオン性水溶性単量体0〜95モル%からなる単量体(混合物)を塩水溶液中で該塩水溶液に可溶な高分子分散剤を共存させる分散重合法により製造した粒径100μm以下の微粒子の分散液であることを特徴とする水溶性重合体分散液。
【化1】


一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い、Aは酸素又はNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基又はアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】



一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす
【化3】



一般式(3)
R8は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、AはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R9は水素又はCOOY2、Y1あるいはY2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項2】
前記水溶性重合体がカチオン性であることを特徴とする請求項1に記載の水溶性重合体分散液。
【請求項3】
前記水溶性重合体が両性であることを特徴とする請求項1に記載の水溶性重合体分散液。
【請求項4】
前記式の係数kが10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性重合体分散液。
【請求項5】
前記水溶性重合体分散液を構成する水溶性重合体の1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が、10〜25dl/gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性重合体分散液。
【請求項6】
前記水溶性重合体分散液を構成する水溶性重合体の1規定NaCl水溶液中、25℃で測定した固有粘度が、15〜25dl/gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性重合体分散液。
【請求項7】
前記高分子分散剤がカチオン性であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水溶性重合体分散液。
【請求項8】
前記分散重合法により製造する際に、実質的に連鎖移動剤を用いないことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水溶性重合体分散液。
【請求項9】
歩留率及び/又は濾水性を向上させることを目的として抄紙前の製紙原料中に、請求項1〜8のいずれかに記載の水溶性重合体分散液あるいはその希釈液を添加することを特徴とする抄紙方法。
























【公開番号】特開2007−16086(P2007−16086A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196920(P2005−196920)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】