説明

水系耐熱性樹脂組成物及び塗料

【課題】家電又は厨房器具向けに、高温焼成後も未研磨のアルミ基材への密着性に優れる塗膜を形成することのできる水系耐熱性樹脂組成物、この水系耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料、この塗料を硬化してなる塗膜、又はこの塗料を用いた家電又は厨房器具を提供する。
【解決手段】(A)ポリアミドイミド樹脂、(B)塩基性化合物、(C)水を含んでなる水系耐熱性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系耐熱性樹脂組成物および塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全面、安全衛生面、経済性及び塗装作業性等の面から有機溶剤に代わり媒体に水を使用する水性樹脂溶液が注目され、樹脂末端に残存するカルボキシル基と塩基性化合物を作用させるポリアミドイミド樹脂の水溶化方法が報告されており(例えば特許第3491624号公報等)、様々な用途に適用されている。
【0003】
この水溶性ポリアミドイミド樹脂は水により任意の濃度への希釈が可能であり、フッ素樹脂水分散液との混合性に優れ、また塗膜が耐熱性及び硬度に優れるという特長から、特に家電又は厨房器具向け塗料におけるフッ素樹脂バインダーとして有益であり、大きな需要を有している。この家電又は厨房器具向けの塗料は、非粘着性を発現するフッ素樹脂と基材への密着性を発現するポリアミドイミド樹脂の混合系という塗料構成であり、塗膜の焼成時にはフッ素樹脂を塗膜表面に配向させるために、フッ素が溶融する400℃近辺での高温焼成が必要となる。しかし、従来の水溶性ポリアミドイミド樹脂から得られた塗膜は高温焼成後にアルミ基材への密着性に劣ることが指摘されている。
【0004】
また、最近の家電又は厨房器具市場は生産性の向上及び製造コストの低減に関する要求が厳しく、このためにブラスト等の基材表面処理工程を簡略化したいという要求が出ている。しかし、従来の水溶性ポリアミドイミド樹脂から得られた塗膜は高温焼成後にアルミ基材への密着性に劣るため、ブラスト等の表面処理を省くことが出来ない。また、この基材表面処理工程の簡略化により基材の表面状態にバラツキが生じると、従来の水溶性ポリアミドイミド樹脂から得られた塗膜では密着性が著しく低下してしまい密着性不良等の問題を生じる結果となっている。これらのことから、高温焼成後も未研磨のアルミ基材への密着性に優れる水溶性ポリアミドイミド樹脂の開発が強く望まれている。
【0005】
【特許文献1】特許第3491624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、家電又は厨房器具向けに、高温焼成後も未研磨のアルミ基材への密着性に優れる塗膜を形成することのできる水系耐熱性樹脂組成物、この水系耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料、この塗料を硬化してなる塗膜、又はこの塗料を用いた家電又は厨房器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の高温焼成後も未研磨のアルミ基材への密着性に優れる塗膜を形成することのできる水系耐熱性樹脂組成物に関して検討した結果、ポリアミドイミド樹脂を水溶化する際の塩基性化合物にトリエチルアミンを使用することによって、従来の水系ポリアミドイミド樹脂から得られた塗膜と比較して高温焼成後も未研磨のアルミ基材への密着性を大きく向上させることが可能であることを見出して本発明に至った。
すなわち本発明は、以下に関する。
1. (A)ポリアミドイミド樹脂、(B)塩基性化合物、(C)水を含んでなることを特徴とする水系耐熱性樹脂組成物。
2. (B)成分の塩基性化合物が、トリエチルアミンを成分とすることを特徴とする項1に記載の水系耐熱性樹脂組成物。
3. (B)成分の塩基性化合物の全量に対して、トリエチルアミンの量が50重量%以上であることを特徴とする項2に記載の水系耐熱性樹脂組成物。
4. (B)成分のトリエチルアミンを成分とする塩基性化合物が、(A)成分のポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及びポリアミドイミド樹脂中の酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、1〜10当量配合されてなる、項2又は3に記載の水系耐熱性樹脂組成物。
5. (A)成分のポリアミドイミド樹脂が、塩基性極性溶媒中で、アミン成分として芳香族のジアミン化合物及び/又はジイソシアネート化合物と酸成分として芳香族のジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び/又は四塩基酸無水物とを共重合させて得られてなるポリアミドイミド樹脂である、項1〜4いずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
6. (A)成分のポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、10,000〜50,000である項1〜5いずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
7. (A)成分のポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が、10〜100mgKOH/gである項1〜6いずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
8. (C)成分の水が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、5〜99重量%配合されてなる項1〜7いずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
9. 項1〜8いずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料。
10. 項9に記載の塗料と、フッ素樹脂が混合されてなる家電用塗料。
11. 項9に記載の塗料と、フッ素樹脂が混合されてなる厨房器具用塗料。
12. 項10に記載の家電用塗料を用いた家電。
13. 項11に記載の厨房器具用塗料を用いた厨房器具。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水系耐熱性樹脂組成物を用いることで、従来の水系耐熱性樹脂組成物から得られた塗膜と比較して高温焼成後も未研磨のアルミ基材への密着性に優れる塗膜を得ることが可能となる。これらは、家電又は厨房器具をはじめ高温で焼成されアルミ基材への高密着性を要求される様々な用途向けに、多大な有益性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いるポリアミドイミド樹脂は、塩基性極性溶媒中で、アミン成分として芳香族のジアミン化合物及び/又はジイソシアネート化合物と酸成分として芳香族のジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び/又は四塩基酸無水物とを共重合させて得られるものである。上記製造法に用いられる代表的な化合物を次に列挙する。
【0010】
まず、ジアミン化合物及びジイソシアネート化合物としては、トリジン、ジヒドロキシベンジジン、ジアニシジン、ジアミノジフェニルメタン、ジメチルジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、トルエンジアミン、ビス(トリフルオロメチル)ジアミノジフェニル、トリジンスルホン、ジアミノベンゾフェノン、チオジアニリン、スルホニルジアニリン、ジアミノベンズアニリド、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス(アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、ジアミノベンジジン、ヘキサメチレンジアミン、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。また、ジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び四塩基酸無水物としては、ナフタレンジカルボン酸、ヒドロキシナフトエ酸、オキシナフトエ酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド、セバシン酸、アジピン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヒドロキシビフェニルカルボン酸、エチレングリコール、1,4‐ブタンジオール、1,6‐ヘキサンジオール、ポリカーボネートジオール、ドデカン二酸、12‐アミノドデカン酸、ブラシル酸、シュウ酸(無水物)、イタコン酸、3,3’‐ジチオジプロピオン酸、3,3’‐チオジプロピオン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、無水クエン酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸、DL‐リンゴ酸、キシリトール、D‐ソルビトール、DL‐アラニン、無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、ターフェニルテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0011】
なお、本発明で用いるポリアミドイミド樹脂の製造に使用されるジアミン化合物、ジイソシアネート化合物、ジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び四塩基酸無水物は上記の化合物に限定されるものではなく多種多様な化合物を使用出来ることは言うまでもない。前記アミン成分と酸成分の配合量は、生成されるポリアミドイミド樹脂の分子量、架橋度の観点から酸成分の総量1.0モルに対してアミン成分を0.8〜1.2モルとすることが好ましく、0.95〜1.1モルとすることがより好ましい。
【0012】
本発明で用いるポリアミドイミド樹脂の重合に使用される塩基性極性溶媒としては、N‐メチル‐2‐ピロリドン、γ‐ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド又はジメチルホルムアミドなどを用いることが出来るが、アミドイミド化反応を高温で短時間に行うためには、N‐メチル‐2‐ピロリドンなどの高沸点溶媒を用いることが好ましい。また、溶媒の使用量には得に制限はないが、イソシアネート成分又はアミン成分と酸成分の総量100重量部に対して50〜500重量部とすることが好ましい。ポリアミドイミド樹脂の合成条件は多様であり、一概に特定できないが、通常、80〜170℃の温度で行われ、空気中の水分の影響を低減するため、窒素などの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0013】
本発明で用いるポリアミドイミド樹脂は、数平均分子量が10,000から50,000のものが好ましい。数平均分子量が10,000未満では高温焼成後に塗膜の耐熱性や機械的特性等の諸特性が低下する傾向があり、50,000を超えると水への溶解性が低下する。このことから、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は15,000から40,000とすることがより好ましい。
【0014】
なお、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプルリングしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定し、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより上記範囲に管理される。
【0015】
本発明で用いるポリアミドイミド樹脂は、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が10〜100mgKOH/gであることが好ましい。10mgKOH/g未満であると塩基性化合物と反応するカルボキシル基が不足するため、水溶化が困難となり、100mgKOH/gを超えると最終的に得られる水系耐熱性樹脂組成物が経日にてゲル化しやすくなる。このことから、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が15〜70mgKOH/gとすることがより好ましい。
【0016】
なお、ポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は、以下の方法で得ることができる。ます、ポリアミドイミド樹脂を約0.5gとり、これに1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを約0.15g加え、さらにN−メチル−2−ピロリドンを約60g及びイオン交換水を約1ml加え、ポリアミドイミド樹脂が完全に溶解するまで攪拌する。これを0.05モル/lエタノール性水酸化カリウム溶液を使用して電位差滴定装置で滴定し、ポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価を得る。
【0017】
本発明において、ポリアミドイミド樹脂の水溶化のために使用される塩基性化合物はトリエチルアミンを成分とすることを特徴とする。トリエチルアミンと併用する形で、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルフォリン等のアルキルアミン、メチルアニリン、ジメチルアニリン等のアルキルアニリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、シクロヘキサノールアミン、N−メチルシクロヘキサノールアミン、N−ベンジルエタノールアミン等のアルカノールアミン類などを使用することが可能である。上記の塩基性化合物以外に、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の苛性アルカリ又はアンモニア水等を併用してもよい。
【0018】
塩基性化合物の全量に対して、トリエチルアミンの量は50重量%以上が好ましい。50重量%未満では、高温焼成後の未研磨のアルミ基材への密着性が大きく低下する。このことから、トリエチルアミンの量は55重量%以上であることが好ましい。また、トリエチルアミンを成分とする塩基性化合物は、上記の有機溶媒中で反応させて得られるポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及び開環させた酸無水物基を合わせた酸価に対して、1〜10当量用いると好ましい。1当量未満では樹脂の水溶化が困難となり、10当量を超えると高温焼成後の未研磨のアルミ基材への密着性が低下する。このことから、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、1.5〜7当量とすることが好ましい。
【0019】
トリエチルアミンを成分とする塩基性化合物は、ポリアミドイミド樹脂の末端にあるカルボキシル基と塩を形成して親水性基となる。塩形成に際しては水の共存下に行ってもよいし、塩基性化合物を添加した後、水を加えてもよい。塩を形成させる温度は0℃〜150℃、好ましくは10℃〜100℃の範囲で行われる。
【0020】
水としてはイオン交換水が好ましく用いられ、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計量に対して好ましくは5〜99重量%配合される。この配合量が5重量%未満では含有する水が少ないことから一般に水溶性ポリマーとして称されず、99重量%を超えると塗料として機能しなくなる傾向がある。このことから、10〜60重量%とすることがより好ましい。このようにして得られた水系耐熱性樹脂組成物は使用する際に必要に応じて適当な濃度に希釈される。希釈溶媒としては、水、またはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド、γ‐ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等の極性溶媒が主として使用されるが、水系ポリアミドイミドに要求される環境保全面および安全衛生面の点から、水を使用することが好ましい。
【0021】
本発明による水系耐熱性樹脂組成物は、高温焼成後も未研磨のアルミ基材への密着性に優れ、またフッ素樹脂水分散液との混合性、塗膜の耐熱性及び硬度に優れるという特徴から、家電又は厨房器具用塗料におけるフッ素樹脂バインダーとして好適であり、フッ素樹脂が混合された塗料として使用される。混合されるフッ素樹脂に求められる特性は非粘着性、耐食性、耐熱性及び耐薬品性等であり、主に四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロビニルエーテル共重合体又は四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体が使用される。フッ素樹脂の形状は水分散液又は粉体のどちらでも使用可能であり、特に形状に制約はない。フッ素樹脂の混合量には特に制限はないが、高密着性及び非粘着性等のバランスの良い塗膜を得るためにはポリアミドイミド樹脂の100重量部に対して50〜800重量部とすることが好ましく、100〜500重量部とすることがより好ましい。
【0022】
本発明による水系耐熱性樹脂組成物、この水系耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料又はこの水系耐熱性樹脂組成物にフッ素樹脂を混合してなる家電又は厨房器具用塗料は、被塗物に塗布し硬化させて被塗物表面に塗膜を形成する。特に本発明による水系耐熱性樹脂組成物は、従来の水系耐熱性樹脂組成物と比較して高温焼成後も未研磨のアルミ基材への密着性に優れる塗膜を形成可能であることから、家電又は厨房器具のように塗膜に耐煮沸性が要求される様々な用途向けに、多大な有益性を有している。
【実施例】
【0023】
次に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、発明の主旨に基づいたこれら以外の多くの実施態様を含むことは言うまでもない。
実施例1
アミン成分として4,4'‐ジフェニルメタンジイソシアネート1.0モル、酸成分として無水トリメリット酸1.0モル、合成溶媒としてN‐メチル‐2‐ピロリドン(N‐メチル‐2‐ピロリドンの使用量はアミン成分及び酸成分の総量100重量部に対して140重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して110℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら110℃を保持し、このまま約6時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。このポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は約20,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は約50mgKOH/gであった。なお、数平均分子量は次の条件にて測定した。
機種:日立 L6000
検出器:日立 L4000型UV
波長:270nm
データ処理機:ATT 8
カラム:Gelpack GL−S300MDT−5×2
カラムサイズ:8mmφ×300mm
溶媒:DMF/THF=1/1(リットル)+リン酸0.06M+臭化リチウム0.06M
試料濃度:5mg/1ml
注入量:5μl
圧力:49kgf/cm(4.8×106Pa)
流量:1.0ml/min
【0024】
このポリアミドイミド樹脂溶液を温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して50℃まで上げた。50℃に達したところでトリエチルアミンを3当量添加し、50℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が25重量%となるまで加えて、透明で均一な水系耐熱性樹脂組成物を得た。
【0025】
実施例2
アミン成分として4,4'‐ジフェニルメタンジイソシアネート0.6モル、o−トリジンジイソシアネート0.3モル、ジアミノジフェニルエーテル0.1モル、酸成分として無水トリメリット酸0.7モル、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物0.1モル、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物0.2モル、合成溶媒としてN‐メチル‐2‐ピロリドン(N‐メチル‐2‐ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して230重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま約7時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。このポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は約26,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は約35mgKOH/gであった。
【0026】
このポリアミドイミド樹脂溶液を温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して50℃まで上げた。50℃に達したところでトリエチルアミンを2.5当量及びN,N−ジメチルエタノールアミンを2.0当量添加し、50℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が25重量%となるまで加えて、透明で均一な水系耐熱性樹脂組成物を得た。
【0027】
実施例3
アミン成分として4,4'‐ジフェニルメタンジイソシアネート1.0モル、酸成分として無水トリメリット酸1.0モル、合成溶媒としてN‐メチル‐2‐ピロリドン(N‐メチル‐2‐ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して180重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して120℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら120℃を保持し、このまま約8時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。このポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は約28,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は約30mgKOH/gであった。
【0028】
このポリアミドイミド樹脂溶液を温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して50℃まで上げた。50℃に達したところでトリエチルアミンを3.0当量及びN,N−ジメチルエタノールアミンを0.8当量添加し、50℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が25重量%となるまで加えて、透明で均一な水系耐熱性樹脂組成物を得た。
【0029】
比較例1
アミン成分として4,4'‐ジフェニルメタンジイソシアネート1.0モル、酸成分として無水トリメリット酸1.0モル、合成溶媒としてN‐メチル‐2‐ピロリドン(N‐メチル‐2‐ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して180重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して120℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら120℃を保持し、このまま約7時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。このポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は約23,000で、カルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価は約40mgKOH/gであった。
【0030】
このポリアミドイミド樹脂溶液を温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら徐々に昇温して50℃まで上げた。50℃に達したところでN,N−ジメチルエタノールアミンを7当量添加し、50℃に保ちながら十分に攪拌した後、攪拌しながら徐々にイオン交換水を加えた。最終的にイオン交換水が25重量%となるまで加えて、透明で均一な水系耐熱性樹脂組成物を得た。
【0031】
試験例
実施例1、2及び3、及び比較例1で得られた水系耐熱性樹脂組成物をそれぞれ未研磨のアルミ基板の上に塗布して高温にて焼成し、この塗膜の密着性を試験した。試験結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
塗膜の作製条件を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例1、2及び3、及び比較例1で得られた水系耐熱性樹脂組成物に四フッ化エチレン樹脂の水分散液を混合して塗膜を作製し、この外観を確認した。試験結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
水系耐熱性樹脂組成物及び四フッ化エチレン樹脂の混合条件を表4に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
水系耐熱性樹脂組成物及び四フッ化エチレン樹脂の混合塗料における塗膜の作製条件を表5に示す。
【0040】
【表5】

【0041】
表1より実施例1、2及び3で得られた水系耐熱性樹脂組成物から作製された塗膜は、比較例1で得られた従来の水系耐熱性樹脂組成物から作製された塗膜と比較して、400℃−5分焼成後の密着性が大きく向上していることが分かった。また、表3より、実施例1、2及び3で得られた水系耐熱性樹脂組成物に四フッ化エチレン樹脂を混合した塗料から作製された塗膜は、比較例1で得られた従来の水系耐熱性樹脂組成物に四フッ化エチレン樹脂を混合した塗料から作製された塗膜と比較して、同等の塗膜外観を有していることが分かった。本結果より、本発明の水系耐熱性樹脂組成物を用いることで、従来の水系耐熱性樹脂組成物と比較して、高温焼成後も未研磨のアルミ基材への密着性に優れる塗膜を得ることが可能となることが分かる。このことから、家電又は厨房器具は言うまでもなく、高温で焼成されアルミ基材への高密着性を要求される様々な用途向けに、多大な有益性を有していることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミドイミド樹脂、(B)塩基性化合物、(C)水を含んでなることを特徴とする水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分の塩基性化合物が、トリエチルアミンを成分とすることを特徴とする請求項1に記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分の塩基性化合物の全量に対して、トリエチルアミンの量が50重量%以上であることを特徴とする請求項2に記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分のトリエチルアミンを成分とする塩基性化合物が、(A)成分のポリアミドイミド樹脂中に含まれるカルボキシル基及びポリアミドイミド樹脂中の酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価に対して、1〜10当量配合されてなる請求項2又は3に記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂が、塩基性極性溶媒中で、アミン成分として芳香族のジアミン化合物及び/又はジイソシアネート化合物と酸成分として芳香族のジカルボン酸化合物、ジオール化合物、三塩基酸無水物、三塩基酸無水物モノクロライド及び/又は四塩基酸無水物とを共重合させて得られてなるポリアミドイミド樹脂である、請求項1〜4いずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項6】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、10,000〜50,000である請求項1〜5いずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項7】
(A)成分のポリアミドイミド樹脂のカルボキシル基及び酸無水物基を開環させたカルボキシル基を合わせた酸価が、10〜100mgKOH/gである請求項1〜6いずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項8】
(C)成分の水が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、5〜99重量%配合されてなる請求項1〜7いずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかに記載の水系耐熱性樹脂組成物を塗膜成分としてなる塗料。
【請求項10】
請求項9に記載の塗料と、フッ素樹脂が混合されてなる家電用塗料。
【請求項11】
請求項9に記載の塗料と、フッ素樹脂が混合されてなる厨房器具用塗料。
【請求項12】
請求項10に記載の家電用塗料を用いた家電。
【請求項13】
請求項11に記載の厨房器具用塗料を用いた厨房器具。

【公開番号】特開2009−91511(P2009−91511A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265562(P2007−265562)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】