水素充填システム
【課題】水素充填システムにおいて、複数の水素タンクに均等な充填を行い、いずれの水素タンクも満充填できるようにすることである。
【解決手段】水素充填システムは、水素充填口20から供給される水素ガスを高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離する分離機構60を備える。分離機構60からの低温T1の水素ガス流は、熱流束の値の小さい大型の水素タンク50に供給され、高温T2の水素ガス流は、熱流束の値の大きい小型の水素タンク52に供給される。低温T1と高温T2とを適切に設定することで、充填時におけるタンク内温度を水素タンク50との水素タンク52の間で同じにすることができる。これによって、水素タンク50,52のSOCを同じとして、いずれの水素タンク50,52も満充填とすることができる。
【解決手段】水素充填システムは、水素充填口20から供給される水素ガスを高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離する分離機構60を備える。分離機構60からの低温T1の水素ガス流は、熱流束の値の小さい大型の水素タンク50に供給され、高温T2の水素ガス流は、熱流束の値の大きい小型の水素タンク52に供給される。低温T1と高温T2とを適切に設定することで、充填時におけるタンク内温度を水素タンク50との水素タンク52の間で同じにすることができる。これによって、水素タンク50,52のSOCを同じとして、いずれの水素タンク50,52も満充填とすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素充填システムに係り、特に水素充填機から複数の水素タンクに水素ガスを充填する水素充填システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスを燃料ガスとして用いる燃料電池を搭載する車両は、水素タンクに水素ガスを充填し、その水素ガスを消費しながら走行する。したがって、水素タンクに水素ガスが不足すると、水素供給ステーション等に立ち寄って水素タンクに水素ガスを充填する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、水素供給ステーションとして、車載用水素貯蔵タンクの最高使用圧力を検出するタンク仕様検出手段を用いて、水素ガスを供給するタンクの最高使用圧力に応じて、水素供給タンクからの供給を制御することが述べられている。ここでは、車両に設けられたアース端子に接続するアースアダプタについてその形状と車両側のアース端子とが車載用水素貯蔵タンクの最高仕様圧力に応じて異なるものとして、これをタンク仕様検出手段とすることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、車両内に単一のタンクを搭載するよりも放熱特性の異なる複数のタンクを搭載した方がそれぞれの特性を活かすことができる点で効率的である反面、それぞれのタンクに一斉に充填を開始すると、各タンクのガス温度上昇量が異なるため、タンク間のガスの充填効率が不均一となり効率的な充填が行えないことを指摘している。そこで、ガス燃料充填方法として、放熱特性の異なる複数のタンクのガス燃料充填口にそれぞれ充填配管を接続し、放熱特性の高いタンクからガス燃料の充填を行うように充填流路切替手段を車両内に有することが述べられている。
【0005】
なお、本発明に関連する技術として、特許文献3には、燃料電池システムにおいて、酸化剤オフガスの排出流路にボルテックスチューブを設け、その冷気吹出口から流出する酸化剤オフガスを圧縮機の吸入空気の冷却と燃料電池の冷却に用いることが述べられている。ここで、ボルテックスチューブ内において、酸化剤ガスはそれぞれ反対の方向に移動する内側と外側の2つの回転流となり、運動エネルギーの差により内側から外側へと熱が運ばれ温度差が生じると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−69327号公報
【特許文献2】特開2005−155869号公報
【特許文献3】特開2008−226676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に述べられているように、車両の搭載スペースの有効利用からは、形状の異なる複数の水素タンクを搭載することがある。その場合に、いずれのタンクにも均等な充填状態とすることが好ましい。
【0008】
ところで、形状や材質が異なる水素タンクの場合は、水素充填の際の温度上昇が異なることがあり、1つの水素充填機から同じ圧力で複数の水素タンクに水素ガスを供給しても、温度が異なると、同じ圧力でも水素ガスの密度が異なることから、充填率に差が生じることになる。例えば、1つの水素タンクは満充填状態になったにもかかわらず、他の水素タンクが満充填状態にならないことが生じる。複数の水素タンクなかで満充填ができない水素タンクがあると、利用できる燃料ガスの量が少なくなるので、電気自動車の航続距離が低下する。特許文献2では、このような場合に、充填流路切替手段を用いて、充填の順番を工夫しているが、装置が複雑になるうえ、切替のために充填時間が余計にかかる。
【0009】
本発明の目的は、複数の水素タンクに均等な充填を行うことを可能とする水素充填システムを提供することである。他の目的は、複数の水素タンクのいずれも満充填状態とすることを可能とする水素充填システムを提供することである。以下の手段は、これらの目的の少なくとも1つに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る水素充填システムは、単位面積を流れる熱流量の大きさである熱流束が異なる複数の水素タンクに水素ガスを充填する水素充填システムであって、水素充填機から供給される水素ガスについて、運動エネルギの差によって温度差を生じさせ、高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離する分離機構と、熱流束の大きい水素タンクに分離機構によって分離された高温の水素ガス流を供給し、熱流束の小さい水素タンクに分離機構によって分離された低温の水素ガス流を供給する分配部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る水素充填システムにおいて、分離機構は、曲率を有する流路であって、曲率の外側を流れる高温の水素ガス流と、曲率の内側を流れる低温の水素ガス流とに分離する曲率流路であり、分配部は、曲率流路の曲率の外側に向かって分岐する分岐口の先に設けられる高温ガス吹出口と、分岐口が分岐する下流側に設けられる低温ガス流吹出口とであることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る水素充填システムにおいて、分離機構は、ボルテックスチューブであることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る水素充填システムにおいて、複数の水素タンクは車両に搭載される燃料ガスタンクであり、熱流束の大きい水素タンクは、熱流束の小さい水素タンクに比べ、単位体積当り表面積が大きいタンク、または、構成材料の熱伝導率が大きいタンク、または、車両の搭載位置が熱流束を大きくすることについて有利なタンクであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成により、水素充填システムは、水素充填機から供給される水素ガスについて、運動エネルギの差によって温度差を生じさせ、高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離し、熱流束の大きい水素タンクに分離機構によって分離された高温の水素ガス流を供給し、熱流束の小さい水素タンクに分離機構によって分離された低温の水素ガス流を供給する。
【0015】
水素充填に伴って水素タンク内の温度が上昇するが、熱流束の大きい水素タンクの方が熱流束の小さい水素タンクよりも温度上昇が少ない。そのために、同じ圧力で水素ガスを充填すると、熱流束の大きい水素タンクの方が熱流束の小さい水素タンクよりも充填率が高くなる。上記構成によれば、熱流束の大きい水素タンクに高温の水素ガス流を、熱流束の小さい水素タンクに低温の水素ガス流をそれぞれ供給できるので、熱流束の大きい水素タンクと熱流束の小さいタンクとで、タンク内の温度を同じにすることが可能になる。これによって、熱流束の異なる複数の水素タンクに、均等に充填を行うことが可能になり、いずれの水素タンクも満充填状態とすることができる。
【0016】
また、水素充填システムにおいて、分離機構として、曲率を有する流路であって、曲率の外側を流れる高温の水素ガス流と、曲率の内側を流れる低温の水素ガス流とに分離する曲率流路を用いる。曲率の外側を流れる水素ガス流は曲率の内側を流れる水素ガス流よりも速度が速く、運動エネルギが高くなる。運動エネルギが高いと、水素タンクに充填されることで、より高温となる。この原理を用いて、水素充填機から供給される水素ガスを、運動エネルギが高く、より高温の水素ガス流と、運動エネルギが低く、より低温の水素ガス流とに分けることができる。
【0017】
また、水素充填システムにおいて、分離機構としてボルテックスチューブを用いる。特許文献3で述べられているように、ボルテックスチューブは、供給されるガス流を、運動エネルギの異なる2つの流れに分離することができる。したがって、ボルテックスチューブを用いて、水素充填機から供給される水素ガスを、運動エネルギが高く、より高温の水素ガス流と、運動エネルギが低く、より低温の水素ガス流とに分けることができる。
【0018】
また、水素充填システムにおいて、複数の水素タンクは車両に搭載される燃料ガスタンクであり、熱流束の大きい水素タンクは、熱流束の小さい水素タンクに比べ、単位体積当り表面積が大きいタンク、または、構成材料の熱伝導率が大きいタンク、または、車両の搭載位置が熱流束を大きくすることについて有利なタンクである。このように、車両に複数の水素タンクが搭載されると、その(表面積/体積)の相違、構成材料の相違、車両搭載位置によって、複数の水素タンクの間で、その熱流束に相違ができる。その相違に従い、熱流束の大きい水素タンクには高温の水素ガス流を供給し、熱流束の小さい水素タンクには低温の水素ガス流を供給することで、複数の水素タンクに、均等に充填を行うことが可能になり、いずれの水素タンクも満充填状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る実施の形態の水素充填システムを用いて電気自動車に搭載された2つの水素タンクに水素充填を行う様子を説明する図である。
【図2】比較のために、従来技術における水素充填システムを説明する図である。
【図3】従来技術における水素充填において、タンク内温度の上昇の様子を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の水素充填システムにおいて、分離機構としてボルテックスチューブを用いる様子を説明する図である。
【図5】ボルテックスチューブのガス流分離の様子を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態の水素充填システムにおいて、タンク内温度の上昇の様子を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態の水素充填システムにおいて、分離機構として曲率を有する流路を用いる様子を説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態の水素充填システムにおいて、曲率を有する流路によってガス流を分離する様子を説明する図である。
【図9】図4において、これとは異なる構成の2つの水素タンクを用いる場合の様子を説明する図である。
【図10】図7において、これとは異なる構成の2つの水素タンクを用いる場合の様子を説明する図である。
【図11】本発明に係る実施の形態の水素充填システムにおいて、熱流束の異なるタンクの内容をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、水素充填システムとして、電気自動車に搭載される形状の異なる2つの水素タンクに水素ガスを充填する場合を説明するが、電気自動車に搭載されるものでなくても、水素充填機から複数の水素タンクに水素ガスを充填する場合を広く含む。例えば、据え置き型燃料電池の燃料タンクが複数ある場合であってもよい。水素タンクの数は3つ以上であっても構わない。複数の水素タンクは、形状の異なる場合に限られず、熱流束の異なる水素タンクであればよい。熱流束の相違は、搭載位置あるいは配置位置によって、各水素タンクの熱流束が異なる場合を含む。
【0021】
以下で述べる温度、圧力等は、説明のための例示であり、電気自動車の仕様、水素タンクの使用状況、水素充填機の仕様等に応じ、適宜変更が可能である。
【0022】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0023】
図1は、水素充填システム10を用いて、電気自動車6に搭載された2つの水素タンク50,52に水素充填機12から水素充填を行う様子を説明する図である。図1には、水素充填システム10の構成要件に含まれないが、水素充填機12が設置される水素供給ステーション4と、水素充填の対象となる電気自動車6が図示されている。図1は、電気自動車6が水素充填のために水素供給ステーション4に立ち寄って、ちょうど水素充填を受けている様子が示されている。
【0024】
水素供給ステーション4は、電気自動車6に水素充填サービスを提供するもので、水素充填機12を備えて、ガソリンスタンドのように、車両の立ち寄りやすい道路の傍の適当な箇所に設けられる。
【0025】
電気自動車6は、図示されていない燃料電池を搭載する車両である。燃料電池は、燃料ガスである水素ガスと、酸化ガスである空気を供給し、電気化学反応によって発電して電力を取り出す電源装置で、電気自動車6は、その電力を用いて回転電機を駆動して走行する車両である。酸化ガスは大気を利用するので、特に酸素タンク等を必要としないが、燃料ガスは水素ガスを用いるので、そのために、電気自動車6は、高圧で水素ガスを充填することができる水素タンクを搭載している。
【0026】
水素充填部8は、電気自動車6の車体の後部側面に設けられる蓋付の凹部である。蓋を開けると、水素充填口20であるレセプタクルが露出する。このレセプタクルは、水素充填機12から引き出される水素供給チューブ14の先端の充填先部を気密に差し込むことができる。
【0027】
水素充填システム10は、水素充填機12と、上記の水素供給チューブ14と、水素充填口20と、水素供給パイプ30,32と、プラグ46,48と、水素タンク50,52とを含んで構成される。ここでは、水素充填口20から2つの水素タンク50,52の水素供給経路の途中に、後述する分離機構が設けられるところに特徴がある。分離機構は、図1では図示されていない。
【0028】
水素充填機12は、上記のように水素供給ステーション4に備えられるもので、高圧の大容量水素タンクである。一例をあげると、約100MPaの高圧の水素ガスが収容されている。なお、液体水素タンクを備える水素供給ステーション4もあるが、その場合には、気化器を用いて、やはり上記の程度の高圧水素ガスに変換して、水素充填サービスが行われる。したがって、その場合には、液体水素タンクと気化器が、水素充填機12に相当することになる。水素充填機12は、安全に確実に水素充填を行うように、充填時の圧力、温度等を監視して、水素供給を制御する充填制御部を備えている。
【0029】
水素供給チューブ14は、上記のように、水素充填機12から引き出される水素導入チューブで、先端に充填先部を有する。充填先部は、車両の水素充填口20のレセプタクルと協働して、水素ガスが漏れないような組合せ構造を構成する。また、レセプタクルと正常に組合せ構造を構成したことを検出する検出構造と、水素タンク50,52からの圧力、温度等の信号を受け取って、水素充填機12の充填制御部に伝送する信号伝達構造を有している。
【0030】
水素充填口20は、上記のように車両に設けられ、水素充填機12の充填先部を受け入れるレセプタクルを有する部分である。レセプタクルは、水素供給穴を有する他に、上記のように、充填先部と協働して水素ガスが漏れないような組合せ構造を構成し、また、水素タンク50,52からの圧力、温度等の信号を充填先部に伝達する信号伝達構造を有している。
【0031】
水素供給パイプ30,32は、車両の水素充填口20から2つの水素タンク50,52
へ延びる水素導入管である。水素供給パイプ30,32は、一方端が1つの水素充填口20で、他方端が2つの水素タンク50,52の接続部材に設けられるプラグ46,48であるパイプである。すなわち、2つの水素タンク50,52は、同時に並列的に水素充填がされるように、水素供給パイプ30,32が設けられる。
【0032】
プラグ46,48は、上記のように、水素タンク50,52における接続部材に設けられるガス入口である。なお、水素タンク50,52に設けられる接続部材には、水素充填のためのプラグ46,48の他に、図示されていない燃料電池への燃料ガス供給のためにガス出口用プラグ、切替弁が設けられ、後述するようにタンク内圧力を検出する圧力計、タンク内温度を検出する温度計等が設けられる。圧力計、温度計の検出データは、適当な信号線で、水素充填口20の信号伝達構造まで伝達される。
【0033】
水素タンク50,52は、車両に搭載される高圧燃料ガスタンクである。水素タンク50,52の外形は円筒形で、ライナと呼ばれる容器体の外周を炭素繊維強化プラスチックで周囲を覆って高圧に耐える強度を持たせたものである。タンク内圧は、例えば約70MPa程度である。ライナの材質としては、アルミニウム等の金属材料、適当な強度を有するプラスチック材料等を用いることができる。以下では、水素タンク50,52は、共にアルミニウム製のライナを用い、その長さも共に同じで、外径のみが相違するとして、説明を続ける。
【0034】
図1の例では、車両の後部トランクの近傍に外径の大きい大型の水素タンク50が配置され、後部座席の床下近傍に外径の小さい小型の水素タンク52が配置される。配置は、円筒形の長手方向を車両の幅方向に沿うようにして行われる。
【0035】
図1には図示されていないが、分離機構が水素充填口20から各水素タンク50,52に至る経路の途中に設けられる。分離機構は、水素充填機12から水素充填口20を経由して供給される水素ガスの流れについて、運動エネルギの差によって温度差を生じさせ、高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離する機能を有するものである。
【0036】
分離機構の内容の説明には、従来技術の水素充填の内容と比較することがよい。そこで、仮に、図1の構成において従来技術の水素充填方法を用いたとすると、どのようなものであるかを、まず説明する。その後に、分離機構を用いる水素充填システム10の詳細な説明を行う。図2は、図1の水素充填システム10において、分離機構を設けないときの車両内の構成要素の様子を示す図である。
【0037】
図2において、分岐部22は、水素充填口20から各水素タンク50,52用の水素供給パイプ30,32に分岐させる部材である。分岐部22としては、T字型継手を用いることができる。圧力計24は、水素充填口20から供給される水素ガスの圧力を検出する圧力検出手段である。
【0038】
開閉弁34,36は、各水素供給パイプ30,32と各水素タンク50,52とを接続するガス流路の経路の中間に設けられる開閉バルブである。水素充填を行わないときは、開閉弁34,36は閉状態とされ、水素充填を行うときは開閉弁34,36が開状態とされる。通常の水素充填作業においては、2つの開閉弁34,36の開閉は、同時に行われる。すなわち、水素充填は、各水素タンク50,52に対し同時並行的に行われる。開閉弁34,36は、水素充填口20の信号伝達構造を経由して、水素充填機12の充填制御部からの制御信号によって開閉作動が行われる。水素充填口20の構造によっては、開閉弁34,36を省略することもできる。
【0039】
圧力計38,40は、各水素タンク50,52の充填圧力を検出する圧力検出手段である。圧力計38,40は、各水素タンク50,52のガス出入口のすぐ近くに設けられるので、実質的には、各水素タンク50,52のタンク内圧力を検出することになる。
【0040】
温度計42,44は、各水素タンク50,52のタンク内温度を検出する温度検出手段である。圧力計38,40の検出データと、温度計42,44の検出データとは、水素充填口20の信号伝達構造を経由して、水素充填機12の充填制御部に伝送される。水素ガスの充填は、これらの信号を用い、各水素タンク50,52のタンク内圧力と、タンク内温度を監視しながら行われる。
【0041】
このように、外径の異なる水素タンク50,52を用いて、水素充填口20から同時並行的に水素充填が行われると、各水素タンク50,52のタンク内圧力は、互いに同じ値を維持しながら充填が進行すると共に上昇する。それと共にタンク内温度も上昇する。
【0042】
充填と共にタンク内温度が上昇するのは、水素充填機12から水素タンク50,52に至る経路で水素ガスが減圧され、そのために外気から吸熱するためである。例えば、水素充填機12から室温で高圧水素ガスが吐出されるとして、充填が行われる各水素タンク50,52のタンク内の温度は、約100℃程度まで上昇する。
【0043】
タンク内温度の上昇の程度は、各水素タンク50,52の熱流束の相違によって異なってくる。熱流束とは、単位面積を流れる熱流量の大きさで、W/cm2の次元を有する量である。水素タンクの場合、中に充填された水素ガスからライナに向かう熱流束が大きいと放熱性がよいことになるので、熱流束は、通常の場合は放熱性を示すものとして扱うことができる。すなわち、放熱性がよいことは、大きな熱流束の値を有することである。
【0044】
熱流束の値は、水素タンクの形状によって異なる。水素タンクの表面積は熱流束が流れる面積となるので、表面積が大きいほど放熱性はよい。相対的に水素タンクの放熱性を比較するには、表面積を体積で除した値を用いることができる。すなわち、(表面積/体積)の値が大きいほど、熱流束の値は大きくなる。図1,2の例では、水素タンク50は、水素タンク52と長さが同じで、外径が大きい。したがって、形状以外の相違点がないとして、大型の水素タンク50の熱流束は、小型の水素タンク52の熱流束よりも小さな値となる。分かりやすくいえば、大型の水素タンク50の方が、小型の水素タンク52よりも放熱性がよくない。
【0045】
図3は、熱流束の異なる2つの水素タンク50,52に同時並行的に、同じ充填圧力のもとで水素ガスの充填が行われるときの充填時間tと各水素タンク50,52のタンク内圧力の関係を示す図である。図2に示すように、水素タンク50の温度計42が検出するタンク内温度をθ1とし、水素タンク52の温度計44が検出するタンク内温度をθ2として表す。ここで、図2は、分離機構がないときの比較のための従来技術のものであるので、この場合の水素タンク50のタンク内温度をθ01とし、水素タンク52のタンク内温度をθ02として表す物とする。
【0046】
図3に示されるように、熱流束の値の大きい水素タンク52のタンク内温度θ02は、放熱性がよいのであまり上昇しないのに比べ、熱流束の値の小さい水素タンク50のタンク内温度θ01は、かなり上昇する。
【0047】
図2に示すように、水素タンク50の圧力計38が検出するタンク内圧力をP1とし、水素タンク52の圧力計40が検出するタンク内圧力をP2とすると、水素充填は水素タンク50,52で同時並行的に行われるので、P1=P2である。このように、タンク内圧力P1とP2が同じで、タンク内温度θ01とθ02が相違すると、水素タンク50,52内の水素ガスの密度が異なってくる。つまり、同じ充填時間であるのに、水素タンク50,52の間で充填率が異なる。水素充填は、タンク内圧力が水素充填機12からの供給圧力以上にはならないので、タンク内圧力P1=P2が水素充填機12のところの供給圧力から水素タンクまでの圧力損失を差し引いた圧力となると、これ以上充填が進まない。
【0048】
充填がこれ以上進まないときの充填率のように、充填状態を示す指標を、SOC(State Of Charge)とすると、形状の異なる水素タンク50,52の間で、同じ充填時間でSOCが相違してくることになる。図2の例で言えば、熱流束の値の小さい大型の水素タンク50のSOCは、熱流束の値の大きい小型の水素タンク52のSOCよりも小さくなる。図2では、水素タンク50,52に付された斜線の密度で、このSOCの相違が示されている。なお、SOCが100%がいわゆる満充填状態である。
【0049】
このように、従来技術においては、水素タンクに同時並行的に水素充填を行うと、各水素タンクのそれぞれの熱流束の値に応じて、SOCが相違してくる。各水素タンクのSOCが相違し、満充填状態とならない水素タンクがあると、全部の水素タンクのSOCが同じの場合に比べ、全体としての利用可能な水素ガスの量が低下する。電気自動車6に搭載される水素タンク50,52の場合、車両の航続距離が低下することになる。
【0050】
次に、分離機構を設ける水素充填システム10の詳細な内容を説明する。図4は、図2に対応する図で、分離機構60を設ける水素充填システム10の車両内の構成要素の様子を示す図である。図2と相違するのは、分岐部22に代えて、分離機構60が設けられることである。
【0051】
分離機構60は、水素充填機12から水素充填口20を介して供給される水素ガスについて、運動エネルギの差によって温度差を生じさせ、高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離する機能を有する機構である。分離機構60は、水素充填口20からの水素ガスが供給されるガス入口部と、高温ガスが出力される高温ガス出力部と、低温ガスが出力される低温ガス出力部とを備える。
【0052】
ここで、分離機構60は、ボルテックスチューブである。図5に、ボルテックスチューブである分離機構60の断面図を示す。ここで、ガス入口部62は、水素充填口20から水素ガスが供給されるポートで、高温ガス出力部64は、熱流束の値の大きい水素タンク52に向かう高温ガス供給パイプ82に接続されるポートで、高温ガス吹出口である。低温ガス出力部66は、熱流束の値の小さい水素タンク50に向かう低温ガス供給パイプ80に接続されるポートで、低温ガス吹出口である。このように、高温ガス供給パイプ82、低温ガス供給パイプ80は、分離機構60によって分離された低温ガスと高温ガスとをそれぞれ水素タンク50,52に分配する分配部としての機能を有する。
【0053】
ボルテックスチューブは、その内部で、ガス流を高速でらせん状に回転させることができる旋回室を有する構造となっている管状装置である。この高速でらせん状に回転する流れ72は、その下流側に設けられたバルブ78に到達するまで、そのらせん状回転運動の遠心力で、旋回室の管壁近くに押し付けられ、中心部が空けられる。バルブ78を閉じると、ガス流は反転してらせん状の流れの空いている中心部を逆方向に進む。この逆方向の流れは、旋回室の中心部を流れるので、管壁近くをらせん状に流れる流れよりも流速が小さい。
【0054】
このように、旋回室の内部では、管壁近くの流れ74と、中心部を逆向きに流れる流れ76が形成され、中心部の流れ76は低速で運動エネルギが低いので、その運動エネルギが管壁近くの流れ74に移動する。こうして、管壁近くの流れ74と中心部の流れ76との間で運動エネルギの移動が行われて、管壁近くの流れ74は、高温のガス流75となって、高温ガス出力部64に向かい、中心部の流れ76は、低温のガス流77となって、低温ガス出力部66に向かう。ボルテックスチューブは、このように、旋回室を用いて、1つのガス流を高温のガス流と低温ガス流に分離する機能を有する。なお、ここで高温、低温というのは、運動エネルギの差のことであるが、この運動エネルギの差が水素タンクの中で発熱エネルギの差となって温度差となる。
【0055】
上記のように、分離機構60の低温ガス出力部は、低温ガス供給パイプ80に接続されるので、低温の水素ガスが熱流束の小さい水素タンク50に供給される。また、分離機構60の高温ガス出力部は、高温ガス供給パイプ82に接続されるので、高温の水素ガスが熱流束の大きい水素タンク52に供給される。図4では、この低温の水素ガスの温度をT1とし、高温の水素ガスの温度をT2として示されている。T1<T2である。T1とT2は、図5で説明したバルブ78の開閉時間等で調整することができる。
【0056】
図6は、分離機構60を用いて、低温T1の水素ガスを熱流束の値の小さい水素タンク50に供給し、高温T2の水素ガスを熱流束の値の大きな水素タンク52に供給するときのタンク内温度θの様子を示す図である。図6は図3に対応する図で、横軸が充填時間t、縦軸がタンク内温度θである。
【0057】
図6に示されるように、水素タンク50には低温T1の水素ガスが供給されるので、そのタンク内温度θ1は、図3で説明したθ01よりも低温側に移動する。一方で、水素タンク52には高温T2の水素ガスが供給されるので、そのタンク内温度θ2は、図3で説明したθ02よりも低温側に移動する。したがって、T1とT2を適当に調整することで、θ01とθ02を同じとすることが可能である。
【0058】
水素タンク50,52の間で、それぞれのタンク内温度θ01,θ02が同じになれば、水素タンク50,52のSOCが同じとなる。したがって、いずれの水素タンク50,52も満充填の状態にすることができる。図4では、水素タンク50,52に付された斜線の密度を同じとして、SOCが同じで、何れも満充填の状態となったことが示されている。
【0059】
図7は、ボルテックスチューブでない分離機構90を用いる例を示す図である。この分離機構90は、曲率を有する流路であって、曲率の外側を流れる高温の水素ガス流と、曲率の内側を流れる低温の水素ガス流とに分離する装置である。図8は、分離機構90の詳細図である。
【0060】
図8において、ガス入口部92は、水素充填口20から水素ガスが供給されるポートで、高温ガス出力部94は、熱流束の値の大きい水素タンク52に向かう高温ガス供給パイプ112に接続されるポートで、高温ガス吹出口である。低温ガス出力部96は、熱流束の値の小さい水素タンク50に向かう低温ガス供給パイプ110に接続されるポートで、低温ガス吹出口である。このように、高温ガス供給パイプ112、低温ガス供給パイプ110は、分離機構90によって分離された低温ガスと高温ガスとをそれぞれ水素タンク50,52に分配する分配部としての機能を有する。
【0061】
分離機構90においては、曲率を有する流路の外側を流れる流れ104は、内側を流れる流れ106よりも流速が速くなるので、外側を流れる流れ104の運動エネルギが内側を流れる流れ106の運動エネルギよりも高くなる。このように、曲率の外側を流れる流れ104は内側を流れる流れ106よりも高温の水素ガス流となるので、曲率が終わるところで曲率の外側に高温ガス出力部94を設け、曲率が終ってまっすぐの管路となった先に低温ガス出力部96を設けることで、高温の水素ガス流と低温のガス流とを分離できる。
【0062】
このようにして分離された低温T1の水素ガス流を、低温ガス供給パイプ110を介して熱流束の値の小さい水素タンク50に供給し、高温T2の水素ガス流を、高温ガス供給パイプ112を介して熱流束の値の大きい水素タンク52に供給することで、図6で説明したのと同じ作用効果とすることができる。
【0063】
上記では、形状の異なる水素タンク50,52について説明したが、水素タンクの材質が異なれば、形状が同じでも熱流束の値が相違する。図9は、分離機構60を備える水素充填システム10において、円筒形状の長さも外径も同じであるが、ライナ材質が異なる2つの水素タンク52,54を用いる場合を示してある。図4と比較しやすいように、ここでは、水素タンク52がアルミニウムライナを用いるもの、水素タンク54が樹脂ライナを用いるものとした。図9では、水素タンク54を二重外形線で示し、水素タンク52と区別できるようにしてある。
【0064】
この場合、水素タンク54の方が水素タンク52よりも熱流束の値が小さいので、分離機構60から出力される低温T1の水素ガスが水素タンク54に供給される。そして、高温T2の水素ガスが水素タンク52に供給される。このようにすることで、水素タンク52,54のSOCを同じとし、いずれも満充填とすることができる。
【0065】
図10は、分離機構90を備える用いる水素充填システム10において、円筒形状の長さも外径も同じであるが、アルミニウムライナの水素タンク52と、樹脂ライナの水素タンク54を用いる場合である。
【0066】
この場合も、分離機構90から出力される低温T1の水素ガスが水素タンク54に供給される。そして、高温T2の水素ガスが水素タンク52に供給される。このようにすることで、水素タンク52,54のSOCを同じとし、いずれも満充填とすることができる。
【0067】
図11は、熱流束の値の異なる水素タンクの内容をまとめた図である。熱流束の値が相違するものとしては、図2、図4、図7で説明したように、水素タンクの(表面積/体積)の相違がある。図11でまとめたように、(表面積/体積)が大きい方が、熱流束の値が大きい。また、水素タンクの材質の相違でも熱流束の値が相違する。図9、図10で説明したように、ライナがアルミニウムと樹脂では、前者の方が、熱伝導率が大きく、熱流束の値が大きい。
【0068】
形状が同一で、材質も同一の複数の水素タンクの間でも、その他に、車両における搭載位置によって、水素タンクの内部の水素ガスからライナに向かう熱流束の値が異なってくる。例えば、車両の走行風を受ける位置に搭載される水素タンクと、密閉空間に搭載される水素タンクとは、前者の方が、放熱性がよく、熱流束の値が大きくなる。このように、図11にまとめたように、放熱に有利な位置に搭載される水素タンクの方が、熱流束の値が大きくなる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る水素充填システムは、複数の水素タンクに水素ガスを並列的に充填するシステムに利用できる。
【符号の説明】
【0070】
4 水素供給ステーション、6 電気自動車、8 水素充填部、10 水素充填システム、12 水素充填機、14 水素供給チューブ、20 水素充填口、22 分岐部、24,38,40 圧力計、30,32 水素供給パイプ、34,36 開閉弁、42,44 温度計、46,48 プラグ、50,52,54 水素タンク、60、90 分離機構、62,92 ガス入口部、64,94 高温ガス出力部、66,96 低温ガス出力部、75 (高温の)ガス流、77 (低温の)ガス流、78 バルブ、80,110 低温ガス供給パイプ、82,112 高温ガス供給パイプ、112 低温ガス供給パイプ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素充填システムに係り、特に水素充填機から複数の水素タンクに水素ガスを充填する水素充填システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスを燃料ガスとして用いる燃料電池を搭載する車両は、水素タンクに水素ガスを充填し、その水素ガスを消費しながら走行する。したがって、水素タンクに水素ガスが不足すると、水素供給ステーション等に立ち寄って水素タンクに水素ガスを充填する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、水素供給ステーションとして、車載用水素貯蔵タンクの最高使用圧力を検出するタンク仕様検出手段を用いて、水素ガスを供給するタンクの最高使用圧力に応じて、水素供給タンクからの供給を制御することが述べられている。ここでは、車両に設けられたアース端子に接続するアースアダプタについてその形状と車両側のアース端子とが車載用水素貯蔵タンクの最高仕様圧力に応じて異なるものとして、これをタンク仕様検出手段とすることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、車両内に単一のタンクを搭載するよりも放熱特性の異なる複数のタンクを搭載した方がそれぞれの特性を活かすことができる点で効率的である反面、それぞれのタンクに一斉に充填を開始すると、各タンクのガス温度上昇量が異なるため、タンク間のガスの充填効率が不均一となり効率的な充填が行えないことを指摘している。そこで、ガス燃料充填方法として、放熱特性の異なる複数のタンクのガス燃料充填口にそれぞれ充填配管を接続し、放熱特性の高いタンクからガス燃料の充填を行うように充填流路切替手段を車両内に有することが述べられている。
【0005】
なお、本発明に関連する技術として、特許文献3には、燃料電池システムにおいて、酸化剤オフガスの排出流路にボルテックスチューブを設け、その冷気吹出口から流出する酸化剤オフガスを圧縮機の吸入空気の冷却と燃料電池の冷却に用いることが述べられている。ここで、ボルテックスチューブ内において、酸化剤ガスはそれぞれ反対の方向に移動する内側と外側の2つの回転流となり、運動エネルギーの差により内側から外側へと熱が運ばれ温度差が生じると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−69327号公報
【特許文献2】特開2005−155869号公報
【特許文献3】特開2008−226676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に述べられているように、車両の搭載スペースの有効利用からは、形状の異なる複数の水素タンクを搭載することがある。その場合に、いずれのタンクにも均等な充填状態とすることが好ましい。
【0008】
ところで、形状や材質が異なる水素タンクの場合は、水素充填の際の温度上昇が異なることがあり、1つの水素充填機から同じ圧力で複数の水素タンクに水素ガスを供給しても、温度が異なると、同じ圧力でも水素ガスの密度が異なることから、充填率に差が生じることになる。例えば、1つの水素タンクは満充填状態になったにもかかわらず、他の水素タンクが満充填状態にならないことが生じる。複数の水素タンクなかで満充填ができない水素タンクがあると、利用できる燃料ガスの量が少なくなるので、電気自動車の航続距離が低下する。特許文献2では、このような場合に、充填流路切替手段を用いて、充填の順番を工夫しているが、装置が複雑になるうえ、切替のために充填時間が余計にかかる。
【0009】
本発明の目的は、複数の水素タンクに均等な充填を行うことを可能とする水素充填システムを提供することである。他の目的は、複数の水素タンクのいずれも満充填状態とすることを可能とする水素充填システムを提供することである。以下の手段は、これらの目的の少なくとも1つに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る水素充填システムは、単位面積を流れる熱流量の大きさである熱流束が異なる複数の水素タンクに水素ガスを充填する水素充填システムであって、水素充填機から供給される水素ガスについて、運動エネルギの差によって温度差を生じさせ、高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離する分離機構と、熱流束の大きい水素タンクに分離機構によって分離された高温の水素ガス流を供給し、熱流束の小さい水素タンクに分離機構によって分離された低温の水素ガス流を供給する分配部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る水素充填システムにおいて、分離機構は、曲率を有する流路であって、曲率の外側を流れる高温の水素ガス流と、曲率の内側を流れる低温の水素ガス流とに分離する曲率流路であり、分配部は、曲率流路の曲率の外側に向かって分岐する分岐口の先に設けられる高温ガス吹出口と、分岐口が分岐する下流側に設けられる低温ガス流吹出口とであることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る水素充填システムにおいて、分離機構は、ボルテックスチューブであることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る水素充填システムにおいて、複数の水素タンクは車両に搭載される燃料ガスタンクであり、熱流束の大きい水素タンクは、熱流束の小さい水素タンクに比べ、単位体積当り表面積が大きいタンク、または、構成材料の熱伝導率が大きいタンク、または、車両の搭載位置が熱流束を大きくすることについて有利なタンクであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成により、水素充填システムは、水素充填機から供給される水素ガスについて、運動エネルギの差によって温度差を生じさせ、高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離し、熱流束の大きい水素タンクに分離機構によって分離された高温の水素ガス流を供給し、熱流束の小さい水素タンクに分離機構によって分離された低温の水素ガス流を供給する。
【0015】
水素充填に伴って水素タンク内の温度が上昇するが、熱流束の大きい水素タンクの方が熱流束の小さい水素タンクよりも温度上昇が少ない。そのために、同じ圧力で水素ガスを充填すると、熱流束の大きい水素タンクの方が熱流束の小さい水素タンクよりも充填率が高くなる。上記構成によれば、熱流束の大きい水素タンクに高温の水素ガス流を、熱流束の小さい水素タンクに低温の水素ガス流をそれぞれ供給できるので、熱流束の大きい水素タンクと熱流束の小さいタンクとで、タンク内の温度を同じにすることが可能になる。これによって、熱流束の異なる複数の水素タンクに、均等に充填を行うことが可能になり、いずれの水素タンクも満充填状態とすることができる。
【0016】
また、水素充填システムにおいて、分離機構として、曲率を有する流路であって、曲率の外側を流れる高温の水素ガス流と、曲率の内側を流れる低温の水素ガス流とに分離する曲率流路を用いる。曲率の外側を流れる水素ガス流は曲率の内側を流れる水素ガス流よりも速度が速く、運動エネルギが高くなる。運動エネルギが高いと、水素タンクに充填されることで、より高温となる。この原理を用いて、水素充填機から供給される水素ガスを、運動エネルギが高く、より高温の水素ガス流と、運動エネルギが低く、より低温の水素ガス流とに分けることができる。
【0017】
また、水素充填システムにおいて、分離機構としてボルテックスチューブを用いる。特許文献3で述べられているように、ボルテックスチューブは、供給されるガス流を、運動エネルギの異なる2つの流れに分離することができる。したがって、ボルテックスチューブを用いて、水素充填機から供給される水素ガスを、運動エネルギが高く、より高温の水素ガス流と、運動エネルギが低く、より低温の水素ガス流とに分けることができる。
【0018】
また、水素充填システムにおいて、複数の水素タンクは車両に搭載される燃料ガスタンクであり、熱流束の大きい水素タンクは、熱流束の小さい水素タンクに比べ、単位体積当り表面積が大きいタンク、または、構成材料の熱伝導率が大きいタンク、または、車両の搭載位置が熱流束を大きくすることについて有利なタンクである。このように、車両に複数の水素タンクが搭載されると、その(表面積/体積)の相違、構成材料の相違、車両搭載位置によって、複数の水素タンクの間で、その熱流束に相違ができる。その相違に従い、熱流束の大きい水素タンクには高温の水素ガス流を供給し、熱流束の小さい水素タンクには低温の水素ガス流を供給することで、複数の水素タンクに、均等に充填を行うことが可能になり、いずれの水素タンクも満充填状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る実施の形態の水素充填システムを用いて電気自動車に搭載された2つの水素タンクに水素充填を行う様子を説明する図である。
【図2】比較のために、従来技術における水素充填システムを説明する図である。
【図3】従来技術における水素充填において、タンク内温度の上昇の様子を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の水素充填システムにおいて、分離機構としてボルテックスチューブを用いる様子を説明する図である。
【図5】ボルテックスチューブのガス流分離の様子を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態の水素充填システムにおいて、タンク内温度の上昇の様子を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態の水素充填システムにおいて、分離機構として曲率を有する流路を用いる様子を説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態の水素充填システムにおいて、曲率を有する流路によってガス流を分離する様子を説明する図である。
【図9】図4において、これとは異なる構成の2つの水素タンクを用いる場合の様子を説明する図である。
【図10】図7において、これとは異なる構成の2つの水素タンクを用いる場合の様子を説明する図である。
【図11】本発明に係る実施の形態の水素充填システムにおいて、熱流束の異なるタンクの内容をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、水素充填システムとして、電気自動車に搭載される形状の異なる2つの水素タンクに水素ガスを充填する場合を説明するが、電気自動車に搭載されるものでなくても、水素充填機から複数の水素タンクに水素ガスを充填する場合を広く含む。例えば、据え置き型燃料電池の燃料タンクが複数ある場合であってもよい。水素タンクの数は3つ以上であっても構わない。複数の水素タンクは、形状の異なる場合に限られず、熱流束の異なる水素タンクであればよい。熱流束の相違は、搭載位置あるいは配置位置によって、各水素タンクの熱流束が異なる場合を含む。
【0021】
以下で述べる温度、圧力等は、説明のための例示であり、電気自動車の仕様、水素タンクの使用状況、水素充填機の仕様等に応じ、適宜変更が可能である。
【0022】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0023】
図1は、水素充填システム10を用いて、電気自動車6に搭載された2つの水素タンク50,52に水素充填機12から水素充填を行う様子を説明する図である。図1には、水素充填システム10の構成要件に含まれないが、水素充填機12が設置される水素供給ステーション4と、水素充填の対象となる電気自動車6が図示されている。図1は、電気自動車6が水素充填のために水素供給ステーション4に立ち寄って、ちょうど水素充填を受けている様子が示されている。
【0024】
水素供給ステーション4は、電気自動車6に水素充填サービスを提供するもので、水素充填機12を備えて、ガソリンスタンドのように、車両の立ち寄りやすい道路の傍の適当な箇所に設けられる。
【0025】
電気自動車6は、図示されていない燃料電池を搭載する車両である。燃料電池は、燃料ガスである水素ガスと、酸化ガスである空気を供給し、電気化学反応によって発電して電力を取り出す電源装置で、電気自動車6は、その電力を用いて回転電機を駆動して走行する車両である。酸化ガスは大気を利用するので、特に酸素タンク等を必要としないが、燃料ガスは水素ガスを用いるので、そのために、電気自動車6は、高圧で水素ガスを充填することができる水素タンクを搭載している。
【0026】
水素充填部8は、電気自動車6の車体の後部側面に設けられる蓋付の凹部である。蓋を開けると、水素充填口20であるレセプタクルが露出する。このレセプタクルは、水素充填機12から引き出される水素供給チューブ14の先端の充填先部を気密に差し込むことができる。
【0027】
水素充填システム10は、水素充填機12と、上記の水素供給チューブ14と、水素充填口20と、水素供給パイプ30,32と、プラグ46,48と、水素タンク50,52とを含んで構成される。ここでは、水素充填口20から2つの水素タンク50,52の水素供給経路の途中に、後述する分離機構が設けられるところに特徴がある。分離機構は、図1では図示されていない。
【0028】
水素充填機12は、上記のように水素供給ステーション4に備えられるもので、高圧の大容量水素タンクである。一例をあげると、約100MPaの高圧の水素ガスが収容されている。なお、液体水素タンクを備える水素供給ステーション4もあるが、その場合には、気化器を用いて、やはり上記の程度の高圧水素ガスに変換して、水素充填サービスが行われる。したがって、その場合には、液体水素タンクと気化器が、水素充填機12に相当することになる。水素充填機12は、安全に確実に水素充填を行うように、充填時の圧力、温度等を監視して、水素供給を制御する充填制御部を備えている。
【0029】
水素供給チューブ14は、上記のように、水素充填機12から引き出される水素導入チューブで、先端に充填先部を有する。充填先部は、車両の水素充填口20のレセプタクルと協働して、水素ガスが漏れないような組合せ構造を構成する。また、レセプタクルと正常に組合せ構造を構成したことを検出する検出構造と、水素タンク50,52からの圧力、温度等の信号を受け取って、水素充填機12の充填制御部に伝送する信号伝達構造を有している。
【0030】
水素充填口20は、上記のように車両に設けられ、水素充填機12の充填先部を受け入れるレセプタクルを有する部分である。レセプタクルは、水素供給穴を有する他に、上記のように、充填先部と協働して水素ガスが漏れないような組合せ構造を構成し、また、水素タンク50,52からの圧力、温度等の信号を充填先部に伝達する信号伝達構造を有している。
【0031】
水素供給パイプ30,32は、車両の水素充填口20から2つの水素タンク50,52
へ延びる水素導入管である。水素供給パイプ30,32は、一方端が1つの水素充填口20で、他方端が2つの水素タンク50,52の接続部材に設けられるプラグ46,48であるパイプである。すなわち、2つの水素タンク50,52は、同時に並列的に水素充填がされるように、水素供給パイプ30,32が設けられる。
【0032】
プラグ46,48は、上記のように、水素タンク50,52における接続部材に設けられるガス入口である。なお、水素タンク50,52に設けられる接続部材には、水素充填のためのプラグ46,48の他に、図示されていない燃料電池への燃料ガス供給のためにガス出口用プラグ、切替弁が設けられ、後述するようにタンク内圧力を検出する圧力計、タンク内温度を検出する温度計等が設けられる。圧力計、温度計の検出データは、適当な信号線で、水素充填口20の信号伝達構造まで伝達される。
【0033】
水素タンク50,52は、車両に搭載される高圧燃料ガスタンクである。水素タンク50,52の外形は円筒形で、ライナと呼ばれる容器体の外周を炭素繊維強化プラスチックで周囲を覆って高圧に耐える強度を持たせたものである。タンク内圧は、例えば約70MPa程度である。ライナの材質としては、アルミニウム等の金属材料、適当な強度を有するプラスチック材料等を用いることができる。以下では、水素タンク50,52は、共にアルミニウム製のライナを用い、その長さも共に同じで、外径のみが相違するとして、説明を続ける。
【0034】
図1の例では、車両の後部トランクの近傍に外径の大きい大型の水素タンク50が配置され、後部座席の床下近傍に外径の小さい小型の水素タンク52が配置される。配置は、円筒形の長手方向を車両の幅方向に沿うようにして行われる。
【0035】
図1には図示されていないが、分離機構が水素充填口20から各水素タンク50,52に至る経路の途中に設けられる。分離機構は、水素充填機12から水素充填口20を経由して供給される水素ガスの流れについて、運動エネルギの差によって温度差を生じさせ、高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離する機能を有するものである。
【0036】
分離機構の内容の説明には、従来技術の水素充填の内容と比較することがよい。そこで、仮に、図1の構成において従来技術の水素充填方法を用いたとすると、どのようなものであるかを、まず説明する。その後に、分離機構を用いる水素充填システム10の詳細な説明を行う。図2は、図1の水素充填システム10において、分離機構を設けないときの車両内の構成要素の様子を示す図である。
【0037】
図2において、分岐部22は、水素充填口20から各水素タンク50,52用の水素供給パイプ30,32に分岐させる部材である。分岐部22としては、T字型継手を用いることができる。圧力計24は、水素充填口20から供給される水素ガスの圧力を検出する圧力検出手段である。
【0038】
開閉弁34,36は、各水素供給パイプ30,32と各水素タンク50,52とを接続するガス流路の経路の中間に設けられる開閉バルブである。水素充填を行わないときは、開閉弁34,36は閉状態とされ、水素充填を行うときは開閉弁34,36が開状態とされる。通常の水素充填作業においては、2つの開閉弁34,36の開閉は、同時に行われる。すなわち、水素充填は、各水素タンク50,52に対し同時並行的に行われる。開閉弁34,36は、水素充填口20の信号伝達構造を経由して、水素充填機12の充填制御部からの制御信号によって開閉作動が行われる。水素充填口20の構造によっては、開閉弁34,36を省略することもできる。
【0039】
圧力計38,40は、各水素タンク50,52の充填圧力を検出する圧力検出手段である。圧力計38,40は、各水素タンク50,52のガス出入口のすぐ近くに設けられるので、実質的には、各水素タンク50,52のタンク内圧力を検出することになる。
【0040】
温度計42,44は、各水素タンク50,52のタンク内温度を検出する温度検出手段である。圧力計38,40の検出データと、温度計42,44の検出データとは、水素充填口20の信号伝達構造を経由して、水素充填機12の充填制御部に伝送される。水素ガスの充填は、これらの信号を用い、各水素タンク50,52のタンク内圧力と、タンク内温度を監視しながら行われる。
【0041】
このように、外径の異なる水素タンク50,52を用いて、水素充填口20から同時並行的に水素充填が行われると、各水素タンク50,52のタンク内圧力は、互いに同じ値を維持しながら充填が進行すると共に上昇する。それと共にタンク内温度も上昇する。
【0042】
充填と共にタンク内温度が上昇するのは、水素充填機12から水素タンク50,52に至る経路で水素ガスが減圧され、そのために外気から吸熱するためである。例えば、水素充填機12から室温で高圧水素ガスが吐出されるとして、充填が行われる各水素タンク50,52のタンク内の温度は、約100℃程度まで上昇する。
【0043】
タンク内温度の上昇の程度は、各水素タンク50,52の熱流束の相違によって異なってくる。熱流束とは、単位面積を流れる熱流量の大きさで、W/cm2の次元を有する量である。水素タンクの場合、中に充填された水素ガスからライナに向かう熱流束が大きいと放熱性がよいことになるので、熱流束は、通常の場合は放熱性を示すものとして扱うことができる。すなわち、放熱性がよいことは、大きな熱流束の値を有することである。
【0044】
熱流束の値は、水素タンクの形状によって異なる。水素タンクの表面積は熱流束が流れる面積となるので、表面積が大きいほど放熱性はよい。相対的に水素タンクの放熱性を比較するには、表面積を体積で除した値を用いることができる。すなわち、(表面積/体積)の値が大きいほど、熱流束の値は大きくなる。図1,2の例では、水素タンク50は、水素タンク52と長さが同じで、外径が大きい。したがって、形状以外の相違点がないとして、大型の水素タンク50の熱流束は、小型の水素タンク52の熱流束よりも小さな値となる。分かりやすくいえば、大型の水素タンク50の方が、小型の水素タンク52よりも放熱性がよくない。
【0045】
図3は、熱流束の異なる2つの水素タンク50,52に同時並行的に、同じ充填圧力のもとで水素ガスの充填が行われるときの充填時間tと各水素タンク50,52のタンク内圧力の関係を示す図である。図2に示すように、水素タンク50の温度計42が検出するタンク内温度をθ1とし、水素タンク52の温度計44が検出するタンク内温度をθ2として表す。ここで、図2は、分離機構がないときの比較のための従来技術のものであるので、この場合の水素タンク50のタンク内温度をθ01とし、水素タンク52のタンク内温度をθ02として表す物とする。
【0046】
図3に示されるように、熱流束の値の大きい水素タンク52のタンク内温度θ02は、放熱性がよいのであまり上昇しないのに比べ、熱流束の値の小さい水素タンク50のタンク内温度θ01は、かなり上昇する。
【0047】
図2に示すように、水素タンク50の圧力計38が検出するタンク内圧力をP1とし、水素タンク52の圧力計40が検出するタンク内圧力をP2とすると、水素充填は水素タンク50,52で同時並行的に行われるので、P1=P2である。このように、タンク内圧力P1とP2が同じで、タンク内温度θ01とθ02が相違すると、水素タンク50,52内の水素ガスの密度が異なってくる。つまり、同じ充填時間であるのに、水素タンク50,52の間で充填率が異なる。水素充填は、タンク内圧力が水素充填機12からの供給圧力以上にはならないので、タンク内圧力P1=P2が水素充填機12のところの供給圧力から水素タンクまでの圧力損失を差し引いた圧力となると、これ以上充填が進まない。
【0048】
充填がこれ以上進まないときの充填率のように、充填状態を示す指標を、SOC(State Of Charge)とすると、形状の異なる水素タンク50,52の間で、同じ充填時間でSOCが相違してくることになる。図2の例で言えば、熱流束の値の小さい大型の水素タンク50のSOCは、熱流束の値の大きい小型の水素タンク52のSOCよりも小さくなる。図2では、水素タンク50,52に付された斜線の密度で、このSOCの相違が示されている。なお、SOCが100%がいわゆる満充填状態である。
【0049】
このように、従来技術においては、水素タンクに同時並行的に水素充填を行うと、各水素タンクのそれぞれの熱流束の値に応じて、SOCが相違してくる。各水素タンクのSOCが相違し、満充填状態とならない水素タンクがあると、全部の水素タンクのSOCが同じの場合に比べ、全体としての利用可能な水素ガスの量が低下する。電気自動車6に搭載される水素タンク50,52の場合、車両の航続距離が低下することになる。
【0050】
次に、分離機構を設ける水素充填システム10の詳細な内容を説明する。図4は、図2に対応する図で、分離機構60を設ける水素充填システム10の車両内の構成要素の様子を示す図である。図2と相違するのは、分岐部22に代えて、分離機構60が設けられることである。
【0051】
分離機構60は、水素充填機12から水素充填口20を介して供給される水素ガスについて、運動エネルギの差によって温度差を生じさせ、高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離する機能を有する機構である。分離機構60は、水素充填口20からの水素ガスが供給されるガス入口部と、高温ガスが出力される高温ガス出力部と、低温ガスが出力される低温ガス出力部とを備える。
【0052】
ここで、分離機構60は、ボルテックスチューブである。図5に、ボルテックスチューブである分離機構60の断面図を示す。ここで、ガス入口部62は、水素充填口20から水素ガスが供給されるポートで、高温ガス出力部64は、熱流束の値の大きい水素タンク52に向かう高温ガス供給パイプ82に接続されるポートで、高温ガス吹出口である。低温ガス出力部66は、熱流束の値の小さい水素タンク50に向かう低温ガス供給パイプ80に接続されるポートで、低温ガス吹出口である。このように、高温ガス供給パイプ82、低温ガス供給パイプ80は、分離機構60によって分離された低温ガスと高温ガスとをそれぞれ水素タンク50,52に分配する分配部としての機能を有する。
【0053】
ボルテックスチューブは、その内部で、ガス流を高速でらせん状に回転させることができる旋回室を有する構造となっている管状装置である。この高速でらせん状に回転する流れ72は、その下流側に設けられたバルブ78に到達するまで、そのらせん状回転運動の遠心力で、旋回室の管壁近くに押し付けられ、中心部が空けられる。バルブ78を閉じると、ガス流は反転してらせん状の流れの空いている中心部を逆方向に進む。この逆方向の流れは、旋回室の中心部を流れるので、管壁近くをらせん状に流れる流れよりも流速が小さい。
【0054】
このように、旋回室の内部では、管壁近くの流れ74と、中心部を逆向きに流れる流れ76が形成され、中心部の流れ76は低速で運動エネルギが低いので、その運動エネルギが管壁近くの流れ74に移動する。こうして、管壁近くの流れ74と中心部の流れ76との間で運動エネルギの移動が行われて、管壁近くの流れ74は、高温のガス流75となって、高温ガス出力部64に向かい、中心部の流れ76は、低温のガス流77となって、低温ガス出力部66に向かう。ボルテックスチューブは、このように、旋回室を用いて、1つのガス流を高温のガス流と低温ガス流に分離する機能を有する。なお、ここで高温、低温というのは、運動エネルギの差のことであるが、この運動エネルギの差が水素タンクの中で発熱エネルギの差となって温度差となる。
【0055】
上記のように、分離機構60の低温ガス出力部は、低温ガス供給パイプ80に接続されるので、低温の水素ガスが熱流束の小さい水素タンク50に供給される。また、分離機構60の高温ガス出力部は、高温ガス供給パイプ82に接続されるので、高温の水素ガスが熱流束の大きい水素タンク52に供給される。図4では、この低温の水素ガスの温度をT1とし、高温の水素ガスの温度をT2として示されている。T1<T2である。T1とT2は、図5で説明したバルブ78の開閉時間等で調整することができる。
【0056】
図6は、分離機構60を用いて、低温T1の水素ガスを熱流束の値の小さい水素タンク50に供給し、高温T2の水素ガスを熱流束の値の大きな水素タンク52に供給するときのタンク内温度θの様子を示す図である。図6は図3に対応する図で、横軸が充填時間t、縦軸がタンク内温度θである。
【0057】
図6に示されるように、水素タンク50には低温T1の水素ガスが供給されるので、そのタンク内温度θ1は、図3で説明したθ01よりも低温側に移動する。一方で、水素タンク52には高温T2の水素ガスが供給されるので、そのタンク内温度θ2は、図3で説明したθ02よりも低温側に移動する。したがって、T1とT2を適当に調整することで、θ01とθ02を同じとすることが可能である。
【0058】
水素タンク50,52の間で、それぞれのタンク内温度θ01,θ02が同じになれば、水素タンク50,52のSOCが同じとなる。したがって、いずれの水素タンク50,52も満充填の状態にすることができる。図4では、水素タンク50,52に付された斜線の密度を同じとして、SOCが同じで、何れも満充填の状態となったことが示されている。
【0059】
図7は、ボルテックスチューブでない分離機構90を用いる例を示す図である。この分離機構90は、曲率を有する流路であって、曲率の外側を流れる高温の水素ガス流と、曲率の内側を流れる低温の水素ガス流とに分離する装置である。図8は、分離機構90の詳細図である。
【0060】
図8において、ガス入口部92は、水素充填口20から水素ガスが供給されるポートで、高温ガス出力部94は、熱流束の値の大きい水素タンク52に向かう高温ガス供給パイプ112に接続されるポートで、高温ガス吹出口である。低温ガス出力部96は、熱流束の値の小さい水素タンク50に向かう低温ガス供給パイプ110に接続されるポートで、低温ガス吹出口である。このように、高温ガス供給パイプ112、低温ガス供給パイプ110は、分離機構90によって分離された低温ガスと高温ガスとをそれぞれ水素タンク50,52に分配する分配部としての機能を有する。
【0061】
分離機構90においては、曲率を有する流路の外側を流れる流れ104は、内側を流れる流れ106よりも流速が速くなるので、外側を流れる流れ104の運動エネルギが内側を流れる流れ106の運動エネルギよりも高くなる。このように、曲率の外側を流れる流れ104は内側を流れる流れ106よりも高温の水素ガス流となるので、曲率が終わるところで曲率の外側に高温ガス出力部94を設け、曲率が終ってまっすぐの管路となった先に低温ガス出力部96を設けることで、高温の水素ガス流と低温のガス流とを分離できる。
【0062】
このようにして分離された低温T1の水素ガス流を、低温ガス供給パイプ110を介して熱流束の値の小さい水素タンク50に供給し、高温T2の水素ガス流を、高温ガス供給パイプ112を介して熱流束の値の大きい水素タンク52に供給することで、図6で説明したのと同じ作用効果とすることができる。
【0063】
上記では、形状の異なる水素タンク50,52について説明したが、水素タンクの材質が異なれば、形状が同じでも熱流束の値が相違する。図9は、分離機構60を備える水素充填システム10において、円筒形状の長さも外径も同じであるが、ライナ材質が異なる2つの水素タンク52,54を用いる場合を示してある。図4と比較しやすいように、ここでは、水素タンク52がアルミニウムライナを用いるもの、水素タンク54が樹脂ライナを用いるものとした。図9では、水素タンク54を二重外形線で示し、水素タンク52と区別できるようにしてある。
【0064】
この場合、水素タンク54の方が水素タンク52よりも熱流束の値が小さいので、分離機構60から出力される低温T1の水素ガスが水素タンク54に供給される。そして、高温T2の水素ガスが水素タンク52に供給される。このようにすることで、水素タンク52,54のSOCを同じとし、いずれも満充填とすることができる。
【0065】
図10は、分離機構90を備える用いる水素充填システム10において、円筒形状の長さも外径も同じであるが、アルミニウムライナの水素タンク52と、樹脂ライナの水素タンク54を用いる場合である。
【0066】
この場合も、分離機構90から出力される低温T1の水素ガスが水素タンク54に供給される。そして、高温T2の水素ガスが水素タンク52に供給される。このようにすることで、水素タンク52,54のSOCを同じとし、いずれも満充填とすることができる。
【0067】
図11は、熱流束の値の異なる水素タンクの内容をまとめた図である。熱流束の値が相違するものとしては、図2、図4、図7で説明したように、水素タンクの(表面積/体積)の相違がある。図11でまとめたように、(表面積/体積)が大きい方が、熱流束の値が大きい。また、水素タンクの材質の相違でも熱流束の値が相違する。図9、図10で説明したように、ライナがアルミニウムと樹脂では、前者の方が、熱伝導率が大きく、熱流束の値が大きい。
【0068】
形状が同一で、材質も同一の複数の水素タンクの間でも、その他に、車両における搭載位置によって、水素タンクの内部の水素ガスからライナに向かう熱流束の値が異なってくる。例えば、車両の走行風を受ける位置に搭載される水素タンクと、密閉空間に搭載される水素タンクとは、前者の方が、放熱性がよく、熱流束の値が大きくなる。このように、図11にまとめたように、放熱に有利な位置に搭載される水素タンクの方が、熱流束の値が大きくなる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る水素充填システムは、複数の水素タンクに水素ガスを並列的に充填するシステムに利用できる。
【符号の説明】
【0070】
4 水素供給ステーション、6 電気自動車、8 水素充填部、10 水素充填システム、12 水素充填機、14 水素供給チューブ、20 水素充填口、22 分岐部、24,38,40 圧力計、30,32 水素供給パイプ、34,36 開閉弁、42,44 温度計、46,48 プラグ、50,52,54 水素タンク、60、90 分離機構、62,92 ガス入口部、64,94 高温ガス出力部、66,96 低温ガス出力部、75 (高温の)ガス流、77 (低温の)ガス流、78 バルブ、80,110 低温ガス供給パイプ、82,112 高温ガス供給パイプ、112 低温ガス供給パイプ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位面積を流れる熱流量の大きさである熱流束が異なる複数の水素タンクに水素ガスを充填する水素充填システムであって、
水素充填機から供給される水素ガスについて、運動エネルギの差によって温度差を生じさせ、高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離する分離機構と、
熱流束の大きい水素タンクに分離機構によって分離された高温の水素ガス流を供給し、熱流束の小さい水素タンクに分離機構によって分離された低温の水素ガス流を供給する分配部と、
を備えることを特徴とする水素充填システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水素充填システムにおいて、
分離機構は、曲率を有する流路であって、曲率の外側を流れる高温の水素ガス流と、曲率の内側を流れる低温の水素ガス流とに分離する曲率流路であり、
分配部は、曲率流路の曲率の外側に向かって分岐する分岐口の先に設けられる高温ガス吹出口と、分岐口が分岐する下流側に設けられる低温ガス流吹出口とであることを特徴とする水素充填システム。
【請求項3】
請求項1に記載の水素充填システムにおいて、
分離機構は、ボルテックスチューブであることを特徴とする水素充填システム。
【請求項4】
請求項1に記載の水素充填システムにおいて、
複数の水素タンクは車両に搭載される燃料ガスタンクであり、
熱流束の大きい水素タンクは、熱流束の小さい水素タンクに比べ、単位体積当り表面積が大きいタンク、または、構成材料の熱伝導率が大きいタンク、または、車両の搭載位置が熱流束を大きくすることについて有利なタンクであることを特徴とする水素充填システム。
【請求項1】
単位面積を流れる熱流量の大きさである熱流束が異なる複数の水素タンクに水素ガスを充填する水素充填システムであって、
水素充填機から供給される水素ガスについて、運動エネルギの差によって温度差を生じさせ、高温の水素ガス流と低温の水素ガス流とに分離する分離機構と、
熱流束の大きい水素タンクに分離機構によって分離された高温の水素ガス流を供給し、熱流束の小さい水素タンクに分離機構によって分離された低温の水素ガス流を供給する分配部と、
を備えることを特徴とする水素充填システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水素充填システムにおいて、
分離機構は、曲率を有する流路であって、曲率の外側を流れる高温の水素ガス流と、曲率の内側を流れる低温の水素ガス流とに分離する曲率流路であり、
分配部は、曲率流路の曲率の外側に向かって分岐する分岐口の先に設けられる高温ガス吹出口と、分岐口が分岐する下流側に設けられる低温ガス流吹出口とであることを特徴とする水素充填システム。
【請求項3】
請求項1に記載の水素充填システムにおいて、
分離機構は、ボルテックスチューブであることを特徴とする水素充填システム。
【請求項4】
請求項1に記載の水素充填システムにおいて、
複数の水素タンクは車両に搭載される燃料ガスタンクであり、
熱流束の大きい水素タンクは、熱流束の小さい水素タンクに比べ、単位体積当り表面積が大きいタンク、または、構成材料の熱伝導率が大きいタンク、または、車両の搭載位置が熱流束を大きくすることについて有利なタンクであることを特徴とする水素充填システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−236930(P2011−236930A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106394(P2010−106394)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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