説明

水素透過膜、燃料電池セルおよび水素改質器

【課題】安価で耐久性を有する水素透過膜を提供する。
【解決手段】水素透過膜は、複数の孔22を形成された金属シート20と、金属シートに保持された多孔質担体15と、多孔質担体に担持された粒子状の触媒12と、を備える。多孔質担体は、金属シートの孔内に配置されている。触媒12は、水素吸着分離能を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を選択的に透過させることを目的とした水素透過膜に係り、とりわけ、安価で耐久性を有する水素透過膜に関する。
【0002】
また、本発明は、水素を選択的に透過させることを目的とした水素透過膜を備えた燃料電池および水素改質器であって、安価で耐久性を有する水素透過膜を備えた燃料電池および水素改質器に関する。
【背景技術】
【0003】
今日、燃料電池が、現存する発電システムに置き換わり得る発電器として、注目されている。一般的に、燃料電池は、燃料としての水素を酸素と反応させ、電力と水とを発生させるようになっている。このような燃料電池に対し、発電効率の面や環境への影響の面だけでなく、コスト面においても、現存する発電システムや動力システム等よりも優位にたつことが強く要望されている。
【0004】
ところで、燃料電池を理想的に動作させるためには、燃料電池へ燃料として供給される水素の純度は高くなければならない。このため、水素を選択的に透過させる水素透過膜(例えば、特許文献1および特許文献2)が、燃料電池そのものへ、あるいは、天然ガス、都市ガス、メタノール、石油等から水素を生成する水素改質器へ、組み込まれている。
【0005】
特許文献1に示すように、従来の一般的な水素透過膜は、優れた水素吸着分離能(水素吸臓能および水素拡散能)を有したパラジュウム膜と、パラジュウム膜を支持する多孔質支持体と、を含んでいる。この水素透過膜においては、パラジュウム膜の水素吸臓機能および水素拡散機能を利用して、水素のみを選択透過させるようになっている。したがって、パラジュウム膜の厚みが薄いほど、水素の透過速度が速くなって好ましい。
【0006】
なお、水素透過膜は、燃料電池の分野に限られず、その他の化学の分野や半導体の分野においても、これまでに使用されてきた。
【特許文献1】特開平4−346824号公報
【特許文献2】特開2006−272167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の水素透過膜において、水素の透過経路に沿った水素透過膜よりも上流側での圧力は、水素透過膜よりも下流側での圧力よりも高くなっている。水素が水素透過膜および多孔質支持体を透過することを促進するためである。そして、この圧力差によって、薄いパラジュウム膜は破損しやすくなっている。
【0008】
また、パラジュウムは希少な貴金属であり、極めて高価である。このため、現状において、水素透過膜は非常に高価となっている。この点について、特許文献2では、パラジュウム以外の元素からなる膜を、水素透過膜に用いることを提案しているが、いずれの元素を選択したとしても、水素吸着分離能を有した膜は高価となってしまう。
【0009】
すなわち、現状の水素透過膜はコスト面および耐久性において十分ではない。本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、安価で耐久性を有する水素透過膜を提供することを目的とする。また、本発明は、安価で耐久性を有する水素透過膜を備えた燃料電池セルおよび水素改質器を提供することを目的とする。
【0010】
なお、安価で耐久性を有する水素透過膜および安価で耐久性を有する水素透過膜を備えた水素改質器は、燃料電池の分野に限られず、種々の分野において有用である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による水素透過膜は、孔を形成された金属シートと、前記金属シートに保持された多孔質担体であって、少なくとも前記孔内に配置された多孔質担体と、水素吸着分離能を有する触媒であって、前記多孔質担体に担持された粒子状の触媒と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明による水素透過膜において、前記金属シートの一方の面から他方の面に向け、前記金属シートのシート面に沿った孔の断面積がしだいに小さくなっていくようにしてもよい。
【0013】
また、本発明による水素透過膜において、前記金属シートの開孔率は40%以上であり、
前記金属シートの孔の平均孔径は60μm以下であるようにしてもよい。
【0014】
さらに、本発明による水素透過膜において、前記多孔質担体は互いに接合された複数の担体粒子を含み、前記粒子状触媒は前記担体粒子に担持されているようにしてもよい。このような水素透過膜において、前記担体粒子はアルミナ、シリカ、ゼオライトおよび活性炭のうちの少なくとも一つからなるようにしてもよい。
【0015】
さらに、本発明による水素透過膜において、前記多孔質担体は、水素の透過経路において上流側となる前記金属シートの面上にも配置されているようにしてもよい。
【0016】
さらに、本発明による水素透過膜において、前記水素吸着分離能を有する粒子状触媒が、パラジュウムまたはパラジュウム合金からなるようにしてもよい。
【0017】
本発明による燃料電池セルは、上述したいずれかの水素透過膜を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明による水素改質器は、上述したいずれかの水素透過膜を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、安価で耐久性の高い水素透過膜、並びに、安価で耐久性の高い水素透過膜を備えた燃料電池セルおよび水素改質器が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
【0021】
図1乃至図12は本発明による水素透過膜、燃料電池セルおよび水素改質器の一実施の形態を説明するための図である。このうち図1は水素透過膜の断面図であり、図2は水素透過膜が組み込まれた燃料電池セルを示す分解斜視図であり、図3は多数の燃料電池セルからなる燃料電池を示す斜視図であり、図4は水素透過膜が組み込まれた水素改質器の構成を説明する図である。なお、図1に示された断面は、図2におけるI−I線に沿った断面および図4におけるI−I線に沿った断面に相当する。
【0022】
図1乃至図9に示すように、水素透過膜10は、多数の孔22を形成された金属シート20と、金属シート20に保持された多孔質担体15と、多孔質担体15に担持された粒子状の触媒12と、を有している。粒子状触媒12は、水素を吸着および分離する機能を有している。そして、水素透過膜10は、図1に示すように、一方の面側に供給されたガス中から水素を選択的に取り込んで、他方の面側に透過させるための膜として機能する。なお、ここでいう粒子とは、球状、多角形状、繊維状等の種々の形状を有した微小片を含む概念である。
【0023】
このような水素透過膜10は、例えば、水素を燃料として用いる燃料電池30(図2および図3参照)の燃料電池セル31や、天然ガス、都市ガス、メタノール、石油等から水素を生成する水素改質器50(図4参照)へ、組み込まれる。ここで、燃料電池セル31(燃料電池30)および水素改質器50について、簡単に説明する。
【0024】
図3に示すように、燃料電池30は、多数の燃料電池セル31を含んでいる。各燃料電池セル31は、電解質膜33と、電解質膜33の両側に配置された一対の触媒担持電極35,37と、電解質膜33および触媒担持電極35,37を挟むようにして配置された一対のセパレータ39,41と、を有している。触媒担持電極は、電解質膜33の一方の側に配置された水素極(燃料極)37と、電解質膜33の他方の側に配置された酸素極(空気極)35と、を含んでいる。各セパレータ39,41には、四隅のそれぞれの近傍に一つずつ貫通孔42が形成されている。また、各セパレータ39,41の触媒担持電極35,37に対面する側の面に、サーペンタイン状(曲がりくねって蛇行した形状、serpentine)の溝43が形成されている。溝43の両端は、それぞれ一つの貫通孔42に通じている。そして、水素透過膜10は、水素極37と、水素極37側のセパレータ41と、の間に配置されている。
【0025】
次に、このような燃料電池30の発電方法について説明する。まず、各燃料電池セル31の水素極37側のセパレータ41に形成された溝43の一端に通じる貫通孔42のうちの一つへ、水素を多量に含んだガス(以下において、リッチ水素ガスとも呼ぶ)を送り込む。また、各燃料電池セル31の酸素極35側のセパレータ39に形成された溝43の一端に通じる貫通孔42のうちの一つへ、酸素または空気を送り込む。各燃料電池セル31において、セパレータ39,41に形成された溝43は、ガス流路として機能する。そして、図2および図3に示すように、以下に説明する反応に用いられなかったガスは、溝43の他端に通ずる貫通孔42を介して回収されるようになる。
【0026】
水素極37側において、セパレータ41の溝43内を流れるリッチ水素ガスのうち、水素が選択的に水素透過膜20を透過して、より好ましくは、水素のみが水素透過膜20を透過して、水素極37に到達する。水素極37において、水素分子H2は、電子e-を放出してプロトン化(イオン化)H+する。その後、プロトンH+は、電解質膜33を透過して、酸素極35へ到達する。
【0027】
一方、酸素極35においては、セパレータ39の溝43内を流れるガス中の酸素O2が、電子e-と、電解質膜33を透過してきたプロトンH+と、を取り込み、水H2Oが生成される。このような水の生成にともない、水素極37および酸素極35の間で電子の移動が生じることによって電力が生成される。
【0028】
図3に示す燃料電池30は、多数の燃料電池セル31が重ねられて形成されたスタック30aを有している。スタック30aにおいて、例えば導電性のセパレータ39,41を介し、隣り合う燃料電池セル31の触媒担持電極35,37が直列に接続されている。これにより、燃料電池30は所望の起電力を有するようになる。また、各燃料電池セル31のセパレータ39,41に形成された貫通孔42は、互いに接続されている。これにより、各燃料電池セル31へ水素および酸素を供給することができ、また使用されなかった水素および酸素、並びに、生成された水を回収することができる。
【0029】
一方、図4に示すように、水素改質器(メンブレンリアクタ)50は、改質器本体52と、改質器本体52内に配置された水素透過膜20と、を有している。改質器本体52としては、例えば、水蒸気改質法により天然ガス(主として、メタンCH4)から水素を生成する改質器本体を採用することができる。水蒸気改質法によれば、天然ガスからの改質ガスは、水素H2、一酸化炭素CO、二酸化炭素CO2および未反応メタンCH4を含むようになる。そして、改質ガスのうち、水素が選択的に水素透過膜20を透過して、より好ましくは、水素のみが水素透過膜20を透過して、他の成分から分離される。このようにして、水素を精製することができる。
【0030】
なお、このような水素改質器50は、上述したスタック30aに接続された状態で使用され、燃料電池30の一部を構成するようになることもある。このような燃料電池30においては、上述したスタック30aの各燃料電池セル31から水素透過膜20を省くこともできる。
【0031】
次に、水素透過膜20についてさらに詳述する。上述したように、水素透過膜20は、多数の孔22を形成された金属シート20と、金属シート20に保持された多孔質担体15と、多孔質担体15に担持された粒子状の触媒12と、を有している。
【0032】
このうちまず、主に図5乃至図9を参照して、金属シート20について詳述する。ここで、図5は金属シート20を示す部分平面図であり、図6は図5のVI−VI線に沿った断面図である。
【0033】
金属シート20は、多数の孔22を形成された金属製のシートである。金属シート20は、例えば、ステンレスやアルミニウムから形成することができる。ところで、水素透過膜20が燃料電池セル31(燃料電池30)に組み込まれる場合(図2および図3参照)、使用時の強度(耐久性)を確保することができる限りにおいて、金属シート20の厚みは薄い方が好ましい。燃料電池セル31(燃料電池30)の小型化を図ることができ、また、燃料電池セル31(燃料電池30)の単位体積あたりの起電力を高めることができるためである。同様に、水素透過膜20が水素改質器50に組み込まれる場合(図5参照)も、省スペース化等の種々の利点があるため、使用時の強度(耐久性)を確保することができる限りにおいて、金属シート20の厚みは薄い方が好ましい。このことから、金属シート20の厚みを、例えば20μm以上50μm以下とすることができる。
【0034】
図5に示すように、本実施の形態において、各孔22は、金属シート20の平面視において(金属シート20のシート面に直交する方向から見た場合において)、略円形状の輪郭を有している。また、多数の孔22は、略同一形状(±5μm以下)に形成されている。
【0035】
図5に示すように、本実施の形態において、金属シート20の孔22は、その配置中心が、周囲に配置された隣り合う孔22の配置中心から等距離Pだけ離間するよう、それぞれ配設されている。このため、孔22の径が同一であれば、隣り合う孔22との離間間隔(図6のW1,W2に相当)も同一となる。また、図6に示すように、孔22のシート面に平行な面における孔径(内径)は、金属シート20の一方の面20a上において最も大きく、他方の面20b上において最も小さくなっている。さらに厳密には、金属シート20のシート面と平行な面における孔22の孔径(内径)は、一方の面20aから他方の面20bに向けて徐々に小さくなっていっている。言い換えると、金属シート20の一方の面20aから他方の面20bに向け、金属シート20のシート面に沿った孔22の断面積はしだいに小さくなっていっている。
【0036】
次に、このような金属シート20の製造方法の一例について、主に図7乃至図9を用いて説明する。このうち図7は、金属シートの製造方法を説明するための図である。
【0037】
図7に例示された金属シートの製造方法は、金属シート20をなすようになる金属製フィルム(金属製シート)64と、金属製フィルム64上に積層された樹脂製フィルム(樹脂製シート)62とを有する積層体60を供給する工程と、フォトリソグラフィー技術を用いたエッチングを積層体60の金属製フィルム64に施して、金属製フィルム64に多数の孔22を形成する工程と、エッチング工程の後に、積層体60から樹脂製フィルム62を除去する工程と、を含んでいる。
【0038】
図7に示す例においては、積層体60を供給コア61に巻き取った積層体の巻体59が準備される。そして、この供給コア61が回転して巻体59が巻き戻されることにより、図7に示すように帯状に延びる積層体60が供給される。ここで、積層体60は、金属製フィルム64が下方に位置するとともに樹脂製フィルム62が上方に位置するようにして、供給される。
【0039】
なお、積層体60の金属製フィルム64は、以下に説明するように孔22を形成されて金属シート20をなすようになる。したがって、上述したように、金属製フィルム64は、例えばステンレスやアルミニウムからなる。
【0040】
一方、樹脂製フィルム62としては、例えば、50μm〜150μm程度の厚さを有するポリエチレンテレフタレートやポリプロピレンからなるシートを用いることができる。本実施の形態においては、UV光を照射されると金属製フィルム64に対する接合力が低下するようになされた樹脂製フィルム62が用いられている。具体的には、樹脂製フィルム62が、ポリエチレンテレフタレートからなる基材フィルム(基材シート)62aと、基材フィルム62a上に積層された層であって金属製フィルム64と対面するUV剥離層62bと、を有するようにすることができる(図7および図8参照)。UV剥離層62bは、UV光を照射されると金属製フィルム64に対する接合力が低下するようになされた樹脂層である。
【0041】
供給された積層体60はエッチング装置(エッチング手段)70によってエッチング処理を施される。具体的には、まず、積層体60の金属製フィルム64の面上に感光性レジスト材料を塗布し、金属製フィルム64上にレジスト膜を形成する。次に、レジスト膜のうちの除去したい領域のみに、光を透過させるようにした、あるいは、に光を透過させないようにしたガラス乾板を準備し、ガラス乾板をレジスト膜上に配置する。その後、レジスト膜をガラス乾板越しに露光し、さらにレジスト膜を現像する。以上のようにして、積層体60の金属製フィルム64上にレジストパターン66(図8参照)が形成される。
【0042】
次に、図8に示すように、金属製フィルム64上に形成されたレジストパターン66をマスクとして、積層体60をエッチング液(例えば塩化第二鉄溶液)68でエッチングする。本実施の形態において、エッチング液68は、搬送されてきた積層体60の下方に位置するように配置されたエッチング装置70のノズル71から、レジストパターン66越しに金属製フィルム64の一方の面64aに向けて噴射される。このとき、図8に点線で示すように、金属製フィルム64のうちのレジストパターン66によって覆われていない領域で、エッチング液による浸食が始まる。その後、浸食は、金属製フィルム64の厚み方向だけでなく、金属製フィルム64のフィルム面(シート面)に沿った方向にも進んでいく。以上のようにして、エッチング液による浸食が金属製フィルム64の一方の面64aから他方の面64bまで進み、金属製フィルム64を貫通する孔22が形成される。
【0043】
その後、積層体60上のレジストパターン66が除去され、さらに積層体60が水洗いされる。このようにエッチングよって孔22が形成された積層体60は、次に、除去装置(除去手段)74内に搬送される。
【0044】
図9に示すように、本実施の形態における除去装置74は、積層体60の搬送経路に沿って配置されたUV光照射手段75を有している。UV光照射手段75は、積層体60の移動経路に沿って設けられ、積層体60を樹脂製フィルム62側から覆うシェード75aと、シェード75a内に配置されたUV光源75bと、を有している。そして、搬送されてきた積層体60は樹脂製フィルム62側からUV光を照射され、樹脂製フィルム62の基材フィルム62aを透過するUV光によって、基材フィルム62aと金属シート20(金属製フィルム64)とを接着するUV剥離層64bの接着力が大幅に弱められる。この結果、積層体60をなす樹脂製フィルム62と金属製フィルム64(金属シート20)とが分離可能となり、図9に示すように、樹脂製フィルム62が、金属製フィルム64から剥がされ、巻取コア58に巻き取られていく。
【0045】
このようにして、多数の孔22が形成された金属製フィルム64が得られ、図7に示すように、切断装置(切断手段)79を用いて所定の長さに切断していくことにより、枚葉状の金属シート20が得られる。
【0046】
ところで、このような製造方法の例とは異なり樹脂製フィルム62が設けられていなかったとすると、金属製フィルム64が貫通されて孔22が形成されると同時に、当該孔22を介して金属製フィルム64の一方の面64a側から他方の面64b側へ向けてエッチング液68が流れ込み始める。このような方法においては、最後にフレッシュなエッチング液68が孔22を内方から浸食してしまうことと、エッチング液が流れ込み始めることによって孔22に大きな圧力がかかってしまうことと、エッチング液が金属製フィルム64の他方の面64b上に滞留してしまうことと、により、エッチング工程の最終段階において、孔22の径が急激に大きくなってしまう。とりわけ、他方の面側において、孔22をなす壁面がだれてしまい、局所的に孔22の孔径が大きくなってしまう。このため、孔22の形状や大きさを所望の形状や大きさに制御することが、非常に困難となる。また、孔22の断面積は、金属製フィルム64の他方の面64b上で最も小さくなるのではなく、金属製フィルム64の一方の面64aと他方の面64bとの中間の厚さ方向位置において最も小さくなる。
【0047】
加えて、金属製フィルム64をエッチングする場合、金属製フィルム64は間欠的に移動するようにして搬送される。上述した例とは異なり樹脂製フィルム62が設けられていなかったとすると、間欠的な搬送にともなって発生する間欠的なテンションが金属製フィルム64のみに加えられるようになる。そして、この間欠的なテンションにより、金属製フィルム64が孔22と孔22との間において切断されてしまう虞がある。
【0048】
これらのことから、従来のエッチングを用いた金属シートの製造方法(樹脂製フィルム62を用いない製造方法)によれば、小さな孔を高い開孔率で形成することができず、孔の平均孔径は大きくなり、金属シート20の開孔率が小さくなっていた。一方、上述した金属シートの製造方法(樹脂製フィルム62を用いる製造方法)によれば、従来の不具合を解消して、微細な孔22を高い開孔率で金属製フィルム64に形成することができる。
【0049】
なお、ここでいう開孔率とは、金属シート20の任意領域についての孔22が形成されていなかったとした場合での表面面積に対する、当該任意領域中に存在する各孔22が金属シート20のシート面に沿った面において占める最小面積の和の比を意味する。したがって、図示する例においては、金属シート20の任意領域についての孔が形成されていなかったとした場合での表面面積に対する、金属シート20の他方の面20bにおいて孔22が占める領域の表面面積の比が、当該金属シート20の開孔率となる。また、ここでいう平均孔径とは、金属シート20のシート面に沿った面における孔22の最小孔径の平均値を意味する。したがって、図6に示す金属シート20の開孔率は、図示された金属シート20の任意領域についての孔22が形成されていなかったとした場合での表面面積に対する、金属シート20の他方の面20bにおいて孔22が占める領域の面積の比となる。また、図6に示す金属シート20の平均孔径は、金属シート20の他方の面20bにおける孔22の径の平均値となる。
【0050】
ここで、表1乃至3および図10乃至図12に、上述した方法で製造した金属シート20の寸法測定結果および測定された寸法から算出された開孔率を示す。なお、金属製フィルムとして、耐熱SUSを採用した。そして、表1および図10は金属製フィルムの厚みが20μmであった場合の結果を示し、表2および図11は金属製フィルムの厚みが25μmであった場合の結果を示し、表3および図12は金属製フィルムの厚みが30μmであった場合の結果を示している。また、図10中には、樹脂製フィルム62を用いない従来の製造方法で製造可能な金属シートの範囲を斜線で示している。
【表1】

【表2】

【表3】

【0051】
なお、表1乃至表3中における記号は、図5および図6における記号に対応している。ここで、図5および図6において、Pは孔22の配置ピッチであり、D1は金属シート20の一方の面20aにおける孔22の平均孔径であり、D2は金属シート20の他方の面20bにおける孔22の平均孔径であり、W1は金属シート20の一方の面20aにおける隣り合う二つの孔22の平均離間距離であり、W2は金属シート20の他方の面20bにおける隣り合う二つの孔22の平均離間距離である。
【0052】
これらの結果から、金属シートの厚みが20μm以上30μm以下である場合に、少なくとも、孔の平均孔径が50μm以上60μm以下の範囲内であり、開孔率が40%以上44%以下の範囲内である金属シート20を作製することが可能である、ことが確認された。
【0053】
次に、多孔質担体15について詳述する。図1に示すように、本実施の形態において、多孔質担体15は、金属シート20の孔22内、金属シート20の一方の面20a上、および、金属シート20の他方の面20b上に配置されている。また、多孔質担体15は、多数の担体粒子(担体粉体)16を互いに接合することによって形成されている。担体粒子16としては、アルミナ粒子、シリカ粒子、ゼオライト粒子、活性炭粒子を用いることができる。担体粒子16の粒径(長径)は、比表面積(単位重量あたりの表面積)の値を大きくするため、小さい方が好ましく、例えば数十nmとすることができる。なお、ここでいう粒子とは、球状、多角形状、繊維状等の種々の形状を有した微小片を含む概念である。
【0054】
多孔質担体15は、既知の種々の形成方法により、金属シート20に保持させることができる。例えば、以下のようにして、金属シート20上に金属シート20に保持された多孔質担体15を形成することができる。まず、金属シート20の孔22内に担体粒子16を充填するとともに、さらに、金属シート20の一方の面20a上、および、金属シート20の他方の面20b上、にも担体粒子16を配置する。次に、焼成により、担体粒子16を焼結するとともに、金属シート20に対して担体粒子16を固定する。これにより、多数の担体粒子16からなる多孔質担体15が金属シート20上に形成される。
【0055】
なお、上述したように、本実施の形態において、多孔質担体15を保持する金属シート20の孔22の断面積は、金属シート20の一方の面20aから他方の面20bに向け、しだいに小さくなっていく。したがって、金属シート20の孔22内に多孔質担体15を安定して保持することができる。これにより、水素透過膜10が、優れた耐久性を有するようになる。
【0056】
次に、粒子状(粉状)の触媒12について詳述する。上述したように、触媒12は、水素吸着分離能、すなわち、水素を選択的に吸着および分離する性質、好ましくは、水素のみを吸着および分離する性質を有している。言い換えると、触媒12は、水素を選択的に吸臓および拡散する性質、好ましくは、水素のみを吸臓および拡散する性質を有している。このような粒子状触媒12として、パラジュウム粒子(Pd粒子)やパラジュウム合金粒子等を用いることができる。ただし、パラジュウムおよびパラジュウム合金に限られることなく、タンタル(Ta)系材料、ニオブ(Nb)系材料、バナジウム(V)系材料も水素吸着分離能を有しており、粒子状触媒12がこれらの材料からなるようにしてもよい。
【0057】
また、高価な触媒を効果的に利用することを目的として、粒子状触媒12の粒径を小さくして、粒子状触媒12の比表面積(単位重量あたりの表面積)の値を大きくすることが有効である。とりわけ、粒子状触媒12の粒径(長径)を例えば数nmとした場合には、量子サイズ効果を期待することができる点において非常に好ましい。また、上述したように、本実施の形態においては、多孔質担体15が互いに接続された多数の担体粒子16を含み、粒子状触媒12は担体粒子16上に担持される。すなわち、多孔質担体15の比表面積を非常に大きくすることができ、これにより、多孔質担体15によって、粒子状触媒12をむらなく分散させた状態で担持することができる。したがって、粒子状触媒12を大幅に小径化して、触媒12を効率的に用いることが可能となる。
【0058】
なお、粒子状触媒12を多孔質担体15に担持させる方法としては、種々の既知な方法、例えば含浸法を用いることができる。
【0059】
以上のような構成からなる水素透過膜10を使用する場合、水素透過膜10のいずれかの面が水素含有ガスの供給側(水素の透過経路に沿った上流側)に配置され、水素透過膜10のいずれか別の面が水素の解放側(水素の透過経路に沿った下流側)に配置される。また、水素含有ガスの供給側におけるガス圧力は、水素の解放側におけるガス圧力よりも高く保たれる。
【0060】
そして、水素含有ガス中の水素は、粒子状触媒12の水素吸臓能により、粒子状触媒12中に取り込まれて吸臓される。このとき、水素分子は、いったん粒子状触媒12中へ原子状に解離・固溶する。その一方で、粒子状触媒12は、その水素拡散能により、取り込んだ水素を再び分離(解放)する。このとき、粒子状触媒12の水素原子は、拡散・再結合して再び水素分子となって、粒子状触媒12から放出される。この際、水素透過膜10を挟んだ圧力差によって、放出された水素は、水素含有ガス供給側(高圧側)から水素解放側(低圧側)へ移動する。このようにして、水素含有ガス中の水素が選択的に、好ましくは、水素含有ガス中の水素のみが、金属シート20の孔22を通過して、水素透過膜10を透過するようになる。
【0061】
なお、金属シート20の一方の面20aが水素の透過経路に沿った上流側に位置し、金属シート20の他方の面20bが水素の透過経路に沿った下流側に位置するよう、水素透過膜10が配置されることが好ましい。具体例として、図2に示すようにして燃料電池セル31に組み込まれる場合には、金属シート20の一方の面20aがセパレータ40に対面し、金属シート20の他方の面20bが水素極37に対面するように、水素透過膜10が配置されることが好ましい。上述したように、金属シート20の孔22は、一方の面20a側から他方の面20b側に向け、しだいに先細りするようになっている。したがって、粒子状触媒12を担持する多孔質担体15が、水素の透過経路に沿った上流側から下流側へ向け、ガス圧によって押圧されたとしても、多孔質担体15が金属シート20の孔22から抜け落ちてしまうことがない。このようにして、水素透過膜10が優れた耐久性を発揮するようになる。
【0062】
また、金属シート20の孔22内に充填されているのは、微細な粒子状触媒12を担持した多孔質担体15であることから、厳密には、孔22を通過して水素透過膜10の両側を連通させる微細孔が存在している。したがって、水素透過膜10の両側における圧力差を大きくする必要がなく、これにより、水素透過膜10は破損され辛くなっている。
【0063】
さらに、上述したように、金属シート20には、微細な孔22が高い開孔率で形成されている。したがって、金属シート20のシート面上に、粒子状触媒12をむらなく分散させることが可能となり、これにより、水素を安定して迅速に透過させることができる。なお、このようにガスを迅速かつ十分に拡散させるためには、金属シート20に形成される孔22の平均孔径は60μm以下であることが好ましく、金属シート20の開孔率は40%以上であることが好ましい。
【0064】
さらに、上述したように、粒子状触媒12を担持した多孔質担体15が、水素の透過経路において上流側となる金属シート20の面上にも配置されている。したがって、より安定して、水素を選択的に透過させることができる。
【0065】
以上のようにして、水素透過膜10によって、水素混合ガスから極めて純度の高い水素ガスを抽出することができる。
【0066】
このような本実施の形態によれば、金属シート20の孔22内に配置された粒子状触媒12に水素が吸着分離(吸臓拡散)されることによって、水素が水素透過膜10を選択的に透過するようになっている。そして、粒子状触媒12は、金属シート20の孔22内に保持された多孔質担体15に担持されている。したがって、粒子状触媒12の粒径を小さくして粒子状触媒12の比表面積を大きくすることができ、これによって、高価な触媒12を有効利用することができる。また、粒子状触媒12の粒径を例えば数nm程度まで小さくした場合、いわゆる量子サイズ効果によって、粒子状触媒12の水素吸臓機能および水素拡散機能を大幅に向上させることができる。その一方で、粒子状の触媒12を用いることにより、触媒12の体積を低減することができる。逆に言えば、同じ体積の触媒12を用いる際に、触媒12の表面積を大きくすることができる。これにより、高性能な水素透過膜10を安価とすることができる。
【0067】
加えて、触媒12は膜状ではなく破損しにくい粒子状の形状を有しているので、水素透過膜10の耐久性を向上させることができる。とりわけ、水素は、粒子状触媒12を担持した多孔質担体15を透過すればよく、従来の水素透過膜のようにさらに別途の支持体を透過する必要はない。したがって、水素透過膜10を挟んだ圧力差を小さくすることができ、これにより、水素透過膜10の破損を効果的に防止することができる。
【0068】
また、多孔質担体15は金属シート20によって保持されており、水素透過膜10は全体として高い剛性を有する。すなわち、水素透過膜10は、優れた耐久性を有し、さらに、厚みを薄くして燃料電池30(スタック30a)を小型化することさえ可能である。
【0069】
なお、上述した実施の形態に関し、本発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述した実施の形態において、粒子状触媒12を担持する多孔質担体15が、金属シート20の孔22内、金属シート20の一方の面20a上、および、金属シート20の他方の面20b上に配置されている例を示したが、これに限られない。例えば、粒子状触媒12を担持する多孔質担体15を金属シート20の孔22内だけに配置するようにしてもよい。あるいは、粒子状触媒12を担持する多孔質担体15を、金属シート20の孔22内と、金属シート20の一方の面20a上および金属シート20の他方の面20b上のいずれか一方と、に配置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、本発明による一実施の形態を示す図であって、水素透過膜を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明による一実施の形態を示す図であって、図1に示された水素透過膜が組み込まれた燃料電池セルを示す分解斜視図である。
【図3】図3は、本発明による一実施の形態を示す図であって、図2に示された燃料電池セルを含む燃料電池(スタック)を示す斜視図である。
【図4】図4は、本発明による一実施の形態を示す図であって、図1に示された水素透過膜が組み込まれた水素改質器の構成を示す図である。
【図5】図5は、図1の水素透過膜に含まれた金属シート20を示す部分平面図である。
【図6】図6は、図5のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図7は、図5に示された金属シートの製造方法の一例を説明するための図である。
【図8】図8は、図7に示された製造方法における金属製フィルムをエッチングする方法を説明するための図である。
【図9】図9は、図7に示された製造方法における樹脂製フィルムを除去する方法を説明するための図である。
【図10】図10は、図7に示された製造方法によって製造された厚さ20μmの金属シートの平均孔径と開孔率とを示すグラフである。
【図11】図11は、図7に示された製造方法によって製造された厚さ25μmの金属シートの平均孔径と開孔率とを示すグラフである。
【図12】図12は、図7に示された製造方法によって製造された厚さ30μmの金属シートの平均孔径と開孔率とを示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
10 水素透過膜
12 触媒(粒子状触媒)
15 多孔質担体
16 担体粒子
20 金属シート
20a 一方の面
20b 他方の面
22 孔
31 燃料電池セル
50 水素改質器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔を形成された金属シートと、
前記金属シートに保持された多孔質担体であって、少なくとも前記孔内に配置された多孔質担体と、
水素吸着分離能を有する触媒であって、前記多孔質担体に担持された粒子状の触媒と、を備える
ことを特徴とする水素透過膜。
【請求項2】
前記金属シートの一方の面から他方の面に向け、前記金属シートのシート面に沿った孔の断面積はしだいに小さくなっていく
ことを特徴とする請求項1に記載の水素透過膜。
【請求項3】
前記金属シートの開孔率は40%以上であり、
前記金属シートの孔の平均孔径は60μm以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の水素透過膜。
【請求項4】
前記多孔質担体は互いに接合された複数の担体粒子を含み、
前記粒子状触媒は前記担体粒子に担持されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水素透過膜。
【請求項5】
前記担体粒子はアルミナ、シリカ、ゼオライトおよび活性炭のうちの少なくとも一つからなる
ことを特徴とする請求項4に記載の水素透過膜。
【請求項6】
前記多孔質担体は、水素の透過経路において上流側となる前記金属シートの面上にも配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の水素透過膜。
【請求項7】
前記水素吸着分離能を有する粒子状触媒は、パラジュウムまたはパラジュウム合金からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の水素透過膜。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載された水素透過膜を備える
ことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載された水素透過膜を備える
ことを特徴とする水素改質器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−95749(P2009−95749A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269351(P2007−269351)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(507342478)株式会社 ナノ・キューブ・ジャパン (9)
【Fターム(参考)】