説明

水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子、それらの製造方法、それらの表面処理方法、およびそれらを用いた樹脂組成物、電線

難燃性に優れ、かつ耐磨耗性、その他の強度や弾性率等も良好な樹脂組成物、電線とすることができる水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子、それらの製造方法、それらの表面処理方法、およびそれらを用いた樹脂組成物、電線を提供する。マグネシウム塩と金属水酸化物との反応により、またはマグネシウム塩と金属水酸化物とをシリカ粒子の存在下で反応等により得られ、樹脂とともに含有させて樹脂組成物とすることができる。水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子と樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物は、そのシリカ粒子がメチル基で表面処理された乾式シリカであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子、それらの製造方法、それらの表面処理方法、およびそれらを用いた樹脂組成物、電線に関する。詳細には、難燃性に優れ、かつ耐磨耗性、その他の強度や弾性率等も良好な樹脂組成物、電線とすることができる水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子、それらの製造方法、それらの表面処理方法、およびそれらを用いた樹脂組成物、電線に関する。
【背景技術】
電線被覆材等の樹脂組成物の技術分野において、水酸化マグネシウムは無毒性、低発煙性、非腐食性の優れた難燃剤として、従来のハロゲン系難燃剤に代わり、近年、その使用量が増加している(例えば、特許文献1参照。)。しかし、水酸化マグネシウム粒子の粒径は、通常10μm以上であり、このような粒径の水酸化マグネシウム粒子は、ベースとなるポリマーに対する分散が十分でなく水酸化マグネシウムを添加したプラスチック複合体の機械的物性や成形特性を低下させることが問題となっている。
また、水酸化マグネシウムがその難燃性を発揮するにはポリマーに対して約60wt%もの高濃度の添加が要求され、このような高濃度の水酸化マグネシウムを添加したプラスチック複合体は、やはりその機械的物性や成形特性が低下してしまうという問題がある(例えば、特許文献2参照。)。これは水酸化マグネシウムの多量添加によるポリマーの相対量の減少と、水酸化マグネシウム自体の親水性に起因している。
また、これらの問題を解決するために、高級脂肪酸等による水酸化マグネシウム表面の疎水化や、各種の助剤の混合による水酸化マグネシウム添加量の低減が試みられている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、このような試みを行なっても、十分満足できる樹脂組成物を得ることはできなかった。
〔特許文献1〕 特開平2000−63583号公報(第1−2頁)
〔特許文献2〕 特開平2001−288313号公報(第2頁)
〔特許文献3〕 特開平2002−128966号公報(第1−2頁)
本発明者等は、上記の従来の技術の問題点を解決し、難燃性に優れ、かつ耐磨耗性、その他の強度や弾性率等も良好な樹脂組成物、電線とすることができる水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子、それらの製造方法、それらの表面処理方法、およびそれらを用いた樹脂組成物、電線を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、水酸化マグネシウムの合成方法を工夫することにより通常よりも小さい粒径のものが得られることと、樹脂組成物にシリカ粒子を共添加することにより従来よりも水酸化マグネシウムの添加量を少なくできることを見出し、本発明を成すに至った。
即ち、本発明は以下の構成からなるものである。
(1)マグネシウム塩と金属水酸化物との反応により合成されたことを特徴とする水酸化マグネシウム。
(2)マグネシウム塩と金属水酸化物とを10〜100℃の温度範囲で反応させたことを特徴とする前記(1)の水酸化マグネシウム。
(3)粒径が10nm〜10μmの範囲であることを特徴とする前記(1)の水酸化マグネシウム。
(4)反応性を有するシリコーンにより表面処理されたことを特徴とする前記(1)の水酸化マグネシウム。
(5)合成時に同時に表面処理されたことを特徴とする前記(4)の水酸化マグネシウム。
(6)反応性を有するシリコーンを含む溶液で表面処理されたことを特徴とする前記(4)の水酸化マグネシウム。
(7)表面処理量が1〜2wt%であることを特徴とする前記(4)の水酸化マグネシウム。
(8)マグネシウム塩と金属水酸化物とを反応させることを特徴とする水酸化マグネシウムの製造方法。
(9)マグネシウム塩と金属水酸化物とを10〜100℃の温度範囲で反応させることを特徴とする前記(8)の水酸化マグネシウムの製造方法。
(10)得られる水酸化マグネシウムの粒径が10nm〜10μmの範囲であることを特徴とする前記(8)の水酸化マグネシウムの製造方法。
(11)マグネシウム塩と金属水酸化物とをシリカ粒子の存在下で反応させて得られたことを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
(12)マグネシウム塩と金属水酸化物との反応により水酸化マグネシウムを合成した後の分散液とシリカを合成した後の分散液とを混合して得られたことを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
(13)水酸化マグネシウムとシリカを機械的に混合して得られたことを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
(14)水酸化マグネシウムとシリカを溶媒でスラリー状にして得られたことを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
(15)マグネシウム塩と金属水酸化物とを10〜100℃の温度範囲で反応させたことを特徴とする前記(11)または(12)の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
(16)粒径が10nm〜10μmの範囲であることを特徴とする前記(12)〜(14)のいずれかの水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
(17)反応性を有するシリコーンにより表面処理されたことを特徴とする前記(12)〜(14)のいずれかの水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
(18)製造時に同時に表面処理されたことを特徴とする前記(17)の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
(19)反応性を有するシリコーンを含む溶液で表面処理されたことを特徴とする前記(17)の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
(20)表面処理量が1〜2wt%であることを特徴とする前記(17)の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
(21)マグネシウム塩と金属水酸化物とをシリカ粒子の存在下で反応させることを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
(22)マグネシウム塩と金属水酸化物との反応により水酸化マグネシウムを合成した後の分散液とシリカを合成した後の分散液とを混合することを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
(23)水酸化マグネシウムとシリカを機械的に混合することを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
(24)水酸化マグネシウムとシリカを溶媒でスラリー状にすることを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
(25)マグネシウム塩と金属水酸化物とを10〜100℃の温度範囲で反応させることを特徴とする前記(21)または(22)の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
(26)得られる水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の粒径が10nm〜10μmの範囲であることを特徴とする前記(21)〜(24)のいずれかの水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
(27)水酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子を反応性を有するシリコーンにより表面処理することを特徴とする表面処理方法。
(28)水酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の合成または製造時に同時に表面処理することを特徴とする前記(27)の表面処理方法。
(29)反応性を有するシリコーンを含む溶液で表面処理することを特徴とする前記(27)の表面処理方法。
(30)表面処理量を1〜2wt%とすることを特徴とする前記(27)の表面処理方法。
(31)前記(1)〜(7)のいずれかの水酸化マグネシウムまたは前記(11)〜(19)のいずれかの水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子と樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
(32)水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子と樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
(33)水酸化マグネシウム粒子が表面処理されていることを特徴とする前記(32)の樹脂組成物。
(34)水酸化マグネシウム粒子がステアリン酸で表面処理されていることを特徴とする前記(33)の樹脂組成物。
(35)表面処理量が水酸化マグネシウムに対し1〜2wt%であることを特徴とする前記(33)の樹脂組成物。
(36)水酸化マグネシウム粒子が前記(1)〜(7)のいずれかのものであることを特徴とする前記(32)の樹脂組成物。
(37)シリカ粒子が乾式シリカまたは湿式シリカであることを特徴とする前記(32)の樹脂組成物。
(38)シリカ粒子が乾式シリカであることを特徴とする前記(37)の樹脂組成物。
(39)シリカ粒子がメチル基で表面処理されていることを特徴とする前記(32)の樹脂組成物。
(40)水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子とを合計で30〜50wt%含有することを特徴とする前記(32)の樹脂組成物。
(41)シリカ粒子を2〜20wt%含有することを特徴とする前記(40)の樹脂組成物。
(42)樹脂が低密度ポリエチレンであることを特徴とする前記(31)または(32)の樹脂組成物。
(43)前記(31)または(32)の樹脂組成物からなるシース層を備える電線。
本発明の水酸化マグネシウムは、マグネシウム塩と金属水酸化物との反応により合成されたことにより、粒径が10nm〜10μmの範囲の従来よりも小さいものとなり、ベースとなるポリマーに対する分散が良好となり、該水酸化マグネシウムを添加したプラスチック複合体の機械的物性や成形特性を低下させることがなくなった。
また、水酸化マグネシウ粒子とシリカ粒子と樹脂とを含有する樹脂組成物は、水酸化マグネシウムの添加量が40wt%以下であっても難燃性が十分となるため、樹脂成分に対する水酸化マグネシウムの量が多くなり過ぎず、機械的物性や成形特性を低下させることがなく、寧ろ、降伏強度及び伸び率等を向上させることができた。該樹脂組成物が、比較的少量の水酸化マグネシウム添加量で難燃性が向上した理由としては、明確ではないが、樹脂中に分散しているシリカ粒子が、該樹脂組成物の燃焼時に溶融したポリマー(樹脂)の移動を妨げるため、ドリッピングを防ぎ水酸化マグネシウムの難燃効果を向上させたと考えられる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例2における、水酸化マグネシウムと各種シリカを添加した複合体シートの難燃性を示すグラフであり、第2図は、実施例2における、水酸化マグネシウムとシリカを添加した複合体シートのシリカ添加量と難燃性の関係を示すグラフであり、第3図は、実施例2における、水酸化マグネシウムとシリカを添加した複合体シートのシリカ添加量と伸び率および降伏強度の関係を示すグラフであり、第4図は、各種化合物によって表面処理した水酸化マグネシウムを用いたLDPE/Mg(OH)複合体の伸び率および酸素指数の結果を示すグラフであり、第5図は、表面処理した水酸化マグネシウムを用いたLDPE/Mg(OH)複合体の水酸化マグネシウム量と、伸び率および酸素指数の結果を示すグラフであり、第6図は、表面処理した水酸化マグネシウムを用いたLDPE/Mg(OH)複合体の表面処理剤量と伸び率および酸素指数の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
マグネシウム塩と金属水酸化物との反応により合成される水酸化マグネシウムの製造方法としては、マグネシウム塩と金属水酸化物を1:1〜1:0.5(マグネシウム塩:金属水酸化物)モルの範囲の水溶液にて行なうことが好ましい。ここで、マグネシウム塩に対し金属水酸化物のモル比が1より多い場合は、金属水酸化物が反応系内に残り使用時の特性に悪影響を与えることがある。また、0.5未満の場合は、水酸化マグネシウムの粒子径が大きくなるばかりか、収率が悪くなることがあり、量産に向いていない場合がある。
また、水溶液濃度は0.1mol/リットル〜10mol/リットル、温度10〜120℃にて反応を行なうことが好ましい。水溶液濃度が0.1mol/リットル未満の場合は、収率に対する水の使用量が多くかつ、処理時間が長くかかり量産的でないことがある。10mol/リットルを超える場合は、水溶液粘度が高くなり作業性に悪影響を及ぼすことがある。
反応後、余分なイオンを取り除き乾燥させることにより水酸化マグネシウムを得ることが出来る。
余分なイオンを取り除く方法としては、特に限定はされないが、遠心分離機、プレス、イオン透過膜、限外濾過膜等の方法が利用できる。
乾燥の方法としては、等に限定されないがオーブン、スプレードライ、スラリードライ、アグロマスタ等が周知であり、適宜利用できる。
上記の様にして合成された水酸化マグネシウムは、非常に微細で樹脂との複合化において、機械特性、耐磨耗性、難燃性を向上させることが可能となる。
水酸化マグネシウムとシリカの複合化は、以下の方法が挙げられる。
1)水酸化マグネシウム合成時にシリカ粒子を添加し、共に乾燥させる方法。
2)水酸化マグネシウムを合成した分散液と別にシリカを合成した分散液を混合して、乾燥させる方法。
3)水酸化マグネシウムとシリカを機械的に混合させる方法。
4)水酸化マグネシウムとシリカを溶媒でスラリー状にし乾燥させる方法。
1)の方法として、マグネシウム塩または金属水酸化物の水溶液またはその両方の水溶液にシリカをそのまま、または水溶液としたものを添加しておき、前記の水酸化マグネシウム合成方法に基づき反応後、乾燥させる。
この時、添加するシリカの粒径は特に制限はないが、後に樹脂との複合化を考慮すると1nm〜1μmが適当である。
2)の方法として、水酸化マグネシウムを合成した分散液にシリカをそのまままたは分散液としたものを添加後、乾燥させる。
この時、添加するシリカの粒径は特に制限はないが、後に樹脂との複合化を考慮すると1nm〜1mが適当である。
3)の方法として、水酸化マグネシウムとシリカをボールミル、アトライタ、メカノフュージョン、アグロマスタ、ジェットミル、カウンタージェットミル等の機器を用いて製造することが出来る。
4)の方法として、2)と同意であるが、合成水酸化マグネシウム以外の市販の水酸化マグネシウムを原料と用いた場合で、方法は2)と同じである。
上記1)〜4)のいずれの方法でも水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子は製造可能であり、その形態は水酸化マグネシウムにシリカの微粒子が取り巻くように付いた状態となっている。
本発明に用いられるマグネシウム塩としては、特に限定されないが、例えば塩化マグネシウム等が好ましい。
また、本発明に用いられる金属水酸化物としては、特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム等が好ましい。
上記水酸化マグネシウム粒子および水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子は表面処理されていても良い。
表面処理により該粒子に付与される物質としては特に限定されないが、反応性を有するシリコーン、ステアリン酸等が挙げられる。
反応性を有するシリコーンとしては、特に限定されないが、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、カルビノール基、シラノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基等の官能基を有する有機変性シリコーンオイル等が挙げられる。
上記の反応性を有するシリコーンは、それ自身が持つ官能基によって、水酸化マグネシウムの分散性を向上させる。またこれらのシリコーンは焼成時にガラス成分(SiO)となり、難燃性を向上させる作用も有する。
以下に、水酸化マグネシウム粒子および水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の表面処理方法について説明する。
1)粒子合成時に同時に表面処理する方法
粒子合成反応後、余分なイオンを除去した後、分散液中に表面処理剤を溶媒と共に添加し、乾燥後100〜200℃の温度で、数分から2時間の範囲で反応させる方法。
2)溶液で表面処理する方法
粒子を、表面処理剤を含む溶液に含侵させ、粒子全体が表面処理剤で覆われた後、乾燥させ100〜200℃の温度で、数分から2時間の範囲で反応させる方法と表面処理剤を含む溶液のミスト内をくぐらせた粒子を乾燥後100〜200℃の温度で、数分〜2時間の範囲で反応させる方法。
等が用いられる。
なお、水酸化マグネシウムに対する表面処理剤量は、特に限定されないが、0.1〜5.0wt%の範囲であれば、後述の樹脂組成物に用いた場合、該樹脂組成物の伸び率が向上するため好ましく、より好ましくは0.5〜5.0wt%の範囲であり、さらに好ましくは1〜2wt%の範囲である。
また、上記の表面処理された水酸化マグネシウムの後述の樹脂組成物に対する含有量としては、特に限定されないが、30〜40wt%の範囲が好ましい。
次に、水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子と樹脂とを含有する樹脂組成物について説明する。
水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子と樹脂とを含有する該樹脂組成物に用いられる水酸化マグネシウム粒子としては、前記の通り表面処理されていることが好ましいが、中でもステアリン酸で表面処理されていることが好ましい。
水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子と樹脂とを含有する樹脂組成物に用いられるシリカ粒子としては、特に限定されず、乾式シリカまたは湿式シリカのいずれでも良いが、乾式シリカが非常に微細であることから、樹脂中への分散が良好となり好ましい。また、該シリカ粒子は、メチル基(CH基)で表面処理されていることが好ましい。メチル基で表面処理された乾式シリカを用いると、樹脂とシリカの密着性が向上され、さらに難燃性が向上する。
該樹脂組成物において、水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子との含有量は特に限定されないが、水酸化マグネシウム粒子およびシリカ粒子に対するポリマーの相対量の減少による機械的物性や成形特性を低下させることなく、また、十分な難燃性が付与されるようになるように適宜選択されるが、水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子との合計で30〜50wt%の範囲であることが好ましく、より好ましくは40wt%前後である。
また、シリカ粒子の含有量は2〜20wt%の範囲であることが好ましく、より好ましくは5wt%である。
水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子またはシリカ粒子と樹脂とを含有する樹脂組成物の製造方法(粒子と樹脂の複合化方法)としては、特に限定されないが、2軸ロールミル、ニーダー、バンバリーミキサー、インターミックス、1軸、2軸混練機等の一般的に用いられる加工機械を使用することができる。
水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子またはシリカ粒子と樹脂とを含有する樹脂組成物に用いられる樹脂材料としては、特に限定されないが、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン(PA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルニトリル(PEN)、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ナイロン46(PA46)、ナイロン6T(PA6T(HPA))、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)、液晶ポリマー(LCP)、環状オレフィン共重合体(COC)、ポリメチルペンテン(PMP)、PPアロイ、PA66アロイ、ポリカーボネート(PC)、アクリル、シリコーン、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、クロロプレン、ウレタン、塩素化ポリエチレン、ニトリルまたはニトリルゴム(NBR)及びこれらの樹脂やゴムを2種類以上組み合せた樹脂やゴム等が挙げられる。
水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子と樹脂とを含有する樹脂組成物に用いられる樹脂としては、低密度ポリエチレンが好ましい。
水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子またはシリカ粒子と樹脂とを含有する樹脂組成物には、その他の添加剤を加えても良い。添加剤としては特に限定されないが、老化防止剤、酸化防止剤、滑剤、充填剤等の配合薬品を使うことが出来る。
上記樹脂組成物には、さらに、珪酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の添加剤を加えることで、コストダウン等を図ることが可能となる。
【実施例】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
0.75mol/リットルの塩化マグネシウム溶液と1.5mol/リットルの水酸化ナトリウム溶液を混合して60℃で反応させた。その結果、粒径が50〜150nmの水酸化マグネシウムを得ることができた。
(比較例1)
水酸化マグネシウム鉱石(ブルーナイト)からの再合成を行なった。その結果、得られた水酸化マグネシウムの粒径は500〜1500nmの範囲であった。
【実施例2】
ベースポリマーとして低密度ポリエチレン(LDPE、三井化学製:ミラソン3530,密度:0.924g/cm)を、また実施例1で得られた水酸化マグネシウムをステアリン酸で表面処理したものと下記表1に示す各種の乾式および湿式シリカを用いて複合体を作製した。

まず、ベースポリマーを120℃〜130℃の2本ロールを用いて溶融させ、これに所定量の水酸化マグネシウムとシリカを添加して混練し、複合体シートを作製した。さらにこのシートを150×150mm、厚さ1mmまたは3mmの型枠に入れ、圧縮成形してサンプルシートを作製した。成形条件は170℃で30kg、5分間の予備加圧の後、150kgで2分間とし、その後、室温まで5分間で冷却した。難燃性および機械的特性を評価するために、このサンプルシートから試験片を作製した。難燃性測定の試験片は、3mm厚のシートより80×50mmの短冊を打ち抜き、JIS K 7201−2に従いD型キャンドル燃焼試験機(東洋精機製作所製)を用いて酸素指数を評価した。機械的特性は、JIS K 7113に規定されるダンベル3号型試験片を1mm厚シートより打ち抜き、ストログラフR型(東洋精機製作所製)を用いて、引っ張り試験を行なった。引っ張り速度は50mm/minとし、試験片中央部に20mm間隔の標線をつけ、破断時の伸びを実測した。
第1図にLDPEにステアリン酸で表面処理した水酸化マグネシウムを35wt%、各種シリカをそれぞれ5wt%添加した複合体シートの酸素指数の結果を示す。また、比較のために、LDPEにステアリン酸表面処理水酸化マグネシウムのみをそれぞれ40wt%、50wt%添加した場合の結果も示す。これらの結果から、水酸化マグネシウムのみを添加した場合よりも、その一部をシリカで置き換えた方が酸素指数は高くなり、難燃性が向上した。特に乾式シリカでこの効果は大きく、CH基で表面処理した乾式シリカでは難燃性がさらに向上した。これは非常に微細な乾式シリカ粒子がLDPE中に分散しており、複合体燃焼時にシリカ粒子が溶融したポリマーの移動を妨げるため、ドリッピングを防ぎ水酸化マグネシウムの難燃効果を向上させたと考えられる。CH基で表面処理した乾式シリカを用いると、LDPEとシリカの密着性が向上され、さらに難燃性が向上したと考えられる。一方、湿式シリカでは、シリカ粒子が大きくなるため乾式シリカに比べて難燃性が劣ったと考えられる。
第2図に、LDPE−ステアリン酸表面処理水酸化マグネシウム−CH表面処理乾式シリカ複合体の酸素指数に及ぼす乾式シリカの添加量の影響を示す。この場合、LDPEに対する水酸化マグネシウムと乾式シリカの添加量の合計は常に40wt%の一定とした。この結果、乾式シリカが5wt%のときに酸素指数が最も高くなることがわかった。乾式シリカの添加量が5wt%以下の場合は、燃焼時のポリマーの移動の抑制効果が小さく、一方、シリカの添加量が5wt%以上では、水酸化マグネシウムの相対量が少なくなり、難燃効果が減少して酸素指数が増加したと考えられる。
これらの複合体の降伏強度と伸び率の関係を第3図に示す。乾式シリカの添加は複合体の降伏強度を増大させ、伸び率を向上させた。特に、伸び率は少量のシリカの添加で大幅に向上し、また、添加量が増加してもあまり低下しなかった。降伏強度はシリカの添加量に比例して増加した。これはポリマー中に微細分散するシリカによる補強効果のためと考えられる。
以上の結果からCH表面処理乾式シリカの添加はLDPE−水酸化マグネシウム複合体の難燃性を向上させるために有効であることわかった。また、複合体の強度および伸び率も改善されることがわかった。
次に、水酸化マグネシウムの表面処理の検討の結果について説明する。
第4図に、各種化合物によって表面処理した水酸化マグネシウムを用いたLDPE/Mg(OH)複合体の伸び率および酸素指数の結果を示す。
実施例1で得られた水酸化マグネシウムに対し、第4図に示す各種化合物を処理量が1wt%となるように表面処理を施した。またLDPE/Mg(OH)複合体中のMg(OH)の割合を40wt%とした。なお、伸び率および酸素指数の測定方法は、前記の通りとした。
第4図の結果より、水酸化マグネシウムを各種化合物、特にシリコーンオイルによって表面処理したことにより、LDPE/Mg(OH)複合体の酸素指数が向上し、難燃性の向上に効果があった。また、伸び率も未処理の水酸化マグネシウムを用いたものに比べて向上した。表面処理剤として、シリコーンオイルの中でも、メチルハイドロジェンポリシロキサン(MHS)が最も好ましかった。
また、第5図に、表面処理した水酸化マグネシウムを用いたLDPE/Mg(OH)複合体の水酸化マグネシウム量と、伸び率および酸素指数の結果を示す。表面処理としては、第4図に示す検討結果にて、最も好ましいとされたメチルハイドロジェンポリシロキサン(MHS)を用いた。また、水酸化マグネシウムに対するMHSの表面処理量も第4図に示す検討事項と同様に、1wt%とした。なお第5図中の破線は、水酸化マグネシウム非添加のLDPEのレベルを示すものである。
第5図に示す通り、MHSで表面処理された水酸化マグネシウム量が多くなるほど、LDPE/Mg(OH)複合体の酸素指数が向上し、難燃性の向上に効果があった。しかし、伸び率については、MHS表面処理Mg(OH)が多くなりすぎると下がる傾向が観られた。それでも、MHS表面処理Mg(OH)添加量が30〜40wt%の範囲であれば、表面未処理Mg(OH)が同添加量のものと比べ、伸び率の低下を少なくすることができた。この程度の伸び率の低下は、LDPE系材料の使用上、許容できる程度のものであり、MHS表面処理Mg(OH)添加による難燃性向上効果の方が格段に有意義である。
さらに、第6図に、表面処理した水酸化マグネシウムを用いたLDPE/Mg(OH)複合体の表面処理剤量と伸び率および酸素指数の結果を示す。表面処理としては、第4図に示す検討結果にて、最も好ましいとされたメチルハイドロジェンポリシロキサン(MHS)を用いた。また、LDPE/Mg(OH)複合体におけるMHS表面処理Mg(OH)量は、第5図に示す検討結果において、好ましい添加量範囲とされた40wt%とした。
第6図に示す通り、MHS表面処理量が、2wt%までは、多くなるほど、LDPE/Mg(OH)複合体の酸素指数が向上し、難燃性の向上に効果があった。しかし、2wt%を超えると、それ以上の添加しても効果は得られなかった。また、伸び率についても、MHS表面処理量が、2wt%までは、多くなるほど、向上したが、5wt%では若干下がる傾向が観られた。このことから、MHS表面処理量としては、1〜2wt%の範囲が好ましいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
本発明の水酸化マグネシウムは、マグネシウム塩と金属水酸化物との反応により合成されたことにより、粒径が10nm〜10μmの範囲の従来よりも小さいものとなり、ベースとなるポリマーに対する分散が良好となり、該水酸化マグネシウムを添加したプラスチック複合体の機械的物性や成形特性を低下させないものとすることができた。
また、本発明の水酸化マグネシウ粒子とシリカ粒子と樹脂とを含有する樹脂組成物は、水酸化マグネシウムの添加量が40wt%以下であっても難燃性が十分となるため、樹脂成分に対する水酸化マグネシウムの量が多くなり過ぎず、機械的物性や成形特性を低下させることがなく、寧ろ、降伏強度及び伸び率等を向上させることができた。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム塩と金属水酸化物との反応により合成されたことを特徴とする水酸化マグネシウム。
【請求項2】
マグネシウム塩と金属水酸化物とを10〜100℃の温度範囲で反応させたことを特徴とする請求の範囲第1項記載の水酸化マグネシウム。
【請求項3】
粒径が10nm〜10μmの範囲であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の水酸化マグネシウム。
【請求項4】
反応性を有するシリコーンにより表面処理されたことを特徴とする請求の範囲第1項記載の水酸化マグネシウム。
【請求項5】
合成時に同時に表面処理されたことを特徴とする請求の範囲第4項記載の水酸化マグネシウム。
【請求項6】
反応性を有するシリコーンを含む溶液で表面処理されたことを特徴とする請求の範囲第4項記載の水酸化マグネシウム。
【請求項7】
表面処理量が1〜2wt%であることを特徴とする請求の範囲第4項記載の水酸化マグネシウム。
【請求項8】
マグネシウム塩と金属水酸化物とを反応させることを特徴とする水酸化マグネシウムの製造方法。
【請求項9】
マグネシウム塩と金属水酸化物とを10〜100℃の温度範囲で反応させることを特徴とする請求の範囲第8項記載の水酸化マグネシウムの製造方法。
【請求項10】
得られる水酸化マグネシウムの粒径が10nm〜10μmの範囲であることを特徴とする請求の範囲第8項記載の水酸化マグネシウムの製造方法。
【請求項11】
マグネシウム塩と金属水酸化物とをシリカ粒子の存在下で反応させて得られたことを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
【請求項12】
マグネシウム塩と金属水酸化物との反応により水酸化マグネシウムを合成した後の分散液とシリカを合成した後の分散液とを混合して得られたことを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
【請求項13】
水酸化マグネシウムとシリカを機械的に混合して得られたことを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
【請求項14】
水酸化マグネシウムとシリカを溶媒でスラリー状にして得られたことを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
【請求項15】
マグネシウム塩と金属水酸化物とを10〜100℃の温度範囲で反応させたことを特徴とする請求の範囲第11項または第12項記載の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
【請求項16】
粒径が10nm〜10μmの範囲であることを特徴とする請求の範囲第12項〜第14項のいずれかに記載の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
【請求項17】
反応性を有するシリコーンにより表面処理されたことを特徴とする請求の範囲第12項〜第14項のいずれかに記載の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
【請求項18】
製造時に同時に表面処理されたことを特徴とする請求の範囲第17項記載の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
【請求項19】
反応性を有するシリコーンを含む溶液で表面処理されたことを特徴とする請求の範囲第17項記載の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
【請求項20】
表面処理量が1〜2wt%であることを特徴とする請求の範囲第17項記載の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子。
【請求項21】
マグネシウム塩と金属水酸化物とをシリカ粒子の存在下で反応させることを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
【請求項22】
マグネシウム塩と金属水酸化物との反応により水酸化マグネシウムを合成した後の分散液とシリカを合成した後の分散液とを混合することを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
【請求項23】
水酸化マグネシウムとシリカを機械的に混合することを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
【請求項24】
水酸化マグネシウムとシリカを溶媒でスラリー状にすることを特徴とする水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
【請求項25】
マグネシウム塩と金属水酸化物とを10〜100℃の温度範囲で反応させることを特徴とする請求の範囲第21項または第22項記載の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
【請求項26】
得られる水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の粒径が10nm〜10μmの範囲であることを特徴とする請求の範囲第21項〜第24項のいずれかに記載の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の製造方法。
【請求項27】
水酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子を反応性を有するシリコーンにより表面処理することを特徴とする表面処理方法。
【請求項28】
水酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子の合成または製造時に同時に表面処理することを特徴とする請求の範囲第27項記載の表面処理方法。
【請求項29】
反応性を有するシリコーンを含む溶液で表面処理することを特徴とする請求の範囲第27項記載の表面処理方法。
【請求項30】
表面処理量を1〜2wt%とすることを特徴とする請求の範囲第27項記載の表面処理方法。
【請求項31】
請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載の水酸化マグネシウムまたは請求の範囲第11項〜第19項のいずれかに記載の水酸化マグネシウム・シリカ複合化粒子と樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項32】
水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子と樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項33】
水酸化マグネシウム粒子が表面処理されていることを特徴とする請求の範囲第32項に記載の樹脂組成物。
【請求項34】
水酸化マグネシウム粒子がステアリン酸で表面処理されていることを特徴とする請求の範囲第33項に記載の樹脂組成物。
【請求項35】
表面処理量が水酸化マグネシウムに対し1〜2wt%であることを特徴とする請求の範囲第33項記載の樹脂組成物。
【請求項36】
水酸化マグネシウム粒子が請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載のものであることを特徴とする請求の範囲第32項に記載の樹脂組成物。
【請求項37】
シリカ粒子が乾式シリカまたは湿式シリカであることを特徴とする請求の範囲第32項に記載の樹脂組成物。
【請求項38】
シリカ粒子が乾式シリカであることを特徴とする請求の範囲第37項に記載の樹脂組成物。
【請求項39】
シリカ粒子がメチル基で表面処理されていることを特徴とする請求の範囲第32項に記載の樹脂組成物。
【請求項40】
水酸化マグネシウム粒子とシリカ粒子とを合計で30〜50wt%含有することを特徴とする請求の範囲第32項に記載の樹脂組成物。
【請求項41】
シリカ粒子を2〜20wt%含有することを特徴とする請求の範囲第40項に記載の樹脂組成物。
【請求項42】
樹脂が低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求の範囲第31項または第32項に記載の樹脂組成物。
【請求項43】
請求の範囲第31項または第32項に記載の樹脂組成物からなるシース層を備える電線。

【国際公開番号】WO2004/065300
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508104(P2005−508104)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000488
【国際出願日】平成16年1月21日(2004.1.21)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】