説明

永久磁石式電動機の回転子及びその製造方法並びに永久磁石式電動機

【課題】永久磁石式電動機の効率を落とすことなく、永久磁石から発生する磁束を有効に利用することで更なる高効率化につながり、かつ、高速運転での機械的な強度の信頼性を向上した永久磁石式電動機の回転子を提供する。
【解決手段】回転子100は、電磁鋼板が複数枚積層され、回転子の中心側に配置された第1継鉄部1と、第1継鉄部1の外周側に配置された複数個の永久磁石2と、電磁鋼板が複数枚積層され、永久磁石2の外周側に配置された第2継鉄部3と、第2継鉄部3の外周側に設けられ、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3を第2継鉄部3の外周側から回転子中心側に押しつけるリング部4と、を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機やファンモーター等に使われる永久磁石式電動機の回転子及びその製造方法並びに永久磁石式電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年から存在している永久磁石式電動機は、プレス等により一体に打ち抜かれた電磁鋼板を積層して回転子鉄心を形成し、その鉄心の中に永久磁石を埋め込むことにより構成されたものが効率も高く採用されるケースが多い。このような電動機は、一般的にIPMと称されている。また、積層された多角形の回転子鉄心の外側に永久磁石を何らかの方法で固定させた表面配置型で構成される永久磁石式電動機も従来から存在している。このような電動機は、一般にSPMと称されている。
【0003】
特に近年では、高効率のみならず搭載機器の小型、軽量化を目的に、電動機の高出力化が求められている。出力としては、希土類磁石のような高磁束密度磁石を採用することにより高トルク対応することや、周波数変換装置により可変速範囲の拡大等により高回転速度対応することで実現できる。
【0004】
そのような背景に対応するものとして、様々な形状の回転子鉄心が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1には、平面形状が多角形をなす回転子鉄心の各頂点から放射状に突起を出し、断面形状が略蒲鉾状の永久磁石を配置させ、永久磁石の外周に非磁性スリーブを嵌着した永久磁石式電動機が開示されている。非磁性スリーブとしては、金属スリーブで例としてはSUS304のステンレス管を採用することが開示されている。また、磁石としては、フェライト系磁石を採用することが開示されている。
【0005】
そして、回転子鉄心からの放射上の突起により、従来のSPM型の磁石配置では発生が期待できないリラクタンストルクを発生させ、効率を向上させることができることが開示されている。加えて、SPM型の金属スリーブ採用では、金属スリーブでの渦電流損が発生するため、対策として昇圧チョッパ回路等を採用することも開示されている。
【0006】
また、IPM型電動機の回転子鉄心の場合は、磁石側面の鉄心部及び磁石外周の鉄心部の存在により、磁石の発生している磁束の漏洩が大きくなり電動機の効率が下がってしまう。そのために、放射状の突起だけが磁石の側面の鉄心として存在するだけに留めることで磁石の磁束の漏れを低減でき、効率低下を回避できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−299150号公報(2〜4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されている永久磁石式電動機においては、非磁性スリーブに金属スリーブを採用した場合、スリーブでの渦電流損を低減するために高価な昇圧チョッパ回路等、駆動波形側に制約をつけなければならない。また、駆動波形の高調波成分は、低減できても、回転を動機付ける基本波をなくすことは無理であり、基本波による渦電流を低減するところまでには至らない。
【0009】
特に今後、高速運転を実現しようとすると、永久磁石の遠心力による飛散を防止するために半径方向の肉厚をあげることが考えられるが、肉厚を上げることにより、渦電流が増加することになる。また、基本波の周波数も増加することから、飛躍的に渦電流損が増加するということが懸念される。なお、渦電流損の課題は、従来のSPM型電動機でも発生することはいうまでもない。
【0010】
また、従来のIPM型電動機の回転子鉄心では、積層された鉄心で回転子を形成することにより、渦電流を低減することができるのであるが、高速運転時において永久磁石や鉄心自身の遠心力に耐えうるため磁石側面の鉄心部を厚く構成することが一般的である。しかしながら、磁石側面の鉄心部を厚くした場合には、磁石の発生している磁束の漏洩を大きくすることとなる。対応としては、必要最低限の厚さ、つまり高速対応するものでは磁束の漏洩しやすい形状を選択することとなり、電動機の効率を低減させてしまうことになる。
【0011】
IPM型電動機の場合、内部に磁石を埋め込むことができるので、磁気回路として、回転子形状で突極性をもたせることができ、リラクタンストルクを利用できることは上述の通りである。しかしながら、特許文献1に記載の電動機では、回転子鉄心の形状が多角形をなし、回転子鉄心の各頂点から放射状に突起を出しており、この突起を磁束が通ることで突極性を出すことはできるが、磁石の磁束の漏れを考慮すると突起の周方向の太さはある程度までしか太くすることができない。そのため、特許文献1に記載の電動機では、IPM型電動機の課題を完全には払拭できていない。
【0012】
また、特許文献1に記載されているような回転子鉄心の形状を打ち抜きにて製作する場合、帯状の電磁鋼板を打ち抜くこととなるが、突起部分があるが故、帯状の電磁鋼板のうち回転子の鉄心とはならない不要な部分が多く発生することになる。したがって、特許文献1に記載されているような回転子鉄心の形状では、いわゆる歩留まりの悪化という観点からは改善の余地がある。歩留まりの悪化は、省資源化や低コスト化といった面からも問題となる。
【0013】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたもので、永久磁石式電動機の効率を落とすことなく、永久磁石から発生する磁束を有効に利用することで更なる高効率化につながり、かつ、高速運転での機械的な強度の信頼性を向上した永久磁石式電動機の回転子及び永久磁石式電動機を提供することを目的とするものである。また、歩留まりのよい永久磁石式電動機の回転子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る永久磁石式電動機の回転子は、固定子の回転磁束変化に同期して回転する永久磁石式電動機の回転子において、回転子の中心側において電磁鋼板が複数枚積層された第1継鉄部と、前記第1継鉄部の外周に配置された複数個の永久磁石と、前記永久磁石の外周において電磁鋼板が複数枚積層された第2継鉄部と、前記第2継鉄部の外周側に設けられ、前記第1継鉄部、前記永久磁石及び第2継鉄部を前記第2継鉄部の外周側から中心側に押しつけるリング部と、を有するものである。
【0015】
本発明に係る永久磁石式電動機の回転子の製造方法は、上記の永久磁石式電動機の回転子の製造方法であって、前記永久磁石を着磁する工程と、着磁した前記永久磁石を、所定の磁極方向になるように前記第1継鉄部に張り合わせる工程と、その後、前記第2継鉄部を前記永久磁石の外周側に張り合わせる工程と、前記第2継鉄部でなす外周寸法を把握後、所定の締め代となる内径をもつ前記リング部を選定し、前記第2継鉄部の外周側から前記リング部を圧入をする工程と、を有するものである。
【0016】
本発明に係る永久磁石式電動機は、上記の永久磁石式電動機の回転子と、前記回転子の外周面側に配設され、固定子鉄心に複数相の固定子巻線が装着された固定子と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る電動機の回転子によれば、従来の回転子(特にIPM型電動機)の利点であるリラクタンストルクの有効利用を、欠点であった永久磁石の漏れ磁束を解消することで実現できるようにしている。また、本発明に係る電動機の回転子によれば、従来の回転子(特にSPM型電動機)の利点である高速運転に対する強度信頼性を確保しつつ、欠点であったリング部の渦電流損の発生も改善することができる。
【0018】
本発明に係る永久磁石式電動機の回転子の製造方法によれば、着磁させた永久磁石の吸引力を利用することができるようにしているため、各部材同士が密着し、第2継鉄部でなす外周寸法が把握しやすくなる。また、本発明に係る電動機の回転子の製造方法によれば、各部材同士が磁気的な安定をとろうとするため、各継鉄部と永久磁石との位置決めを高精度に実行できる。
【0019】
本発明に係る永久磁石式電動機によれば、上記の回転子を備えているので、上記の回転子と同様の効果を有することになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電動機の回転子を説明するための概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る電動機の回転子の平面形状の別の一例を概略的に示す上面図である。
【図3】従来の回転子の磁束を説明するための説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る電動機の回転子の第1継鉄部と第2継鉄部との離間距離について説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る電動機の回転子の回転子鉄心を構成する回転子構成鋼板の製造過程の一部を概略的に示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る電動機の回転子の側面形状の一例を概略的に示す側面図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る電動機の回転子の側面形状の一例を概略的に示す側面図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係る電動機の回転子の平面形状の一例を概略的に示す上面図である。
【図9】本発明の実施の形態5に係る電動機の回転子の平面形状の一例を概略的に示す上面図である。
【図10】本発明の実施の形態6に係る電動機の回転子の製造方法を説明するための概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る電動機の回転子100を説明するための概略図である。図1に基づいて、電動機の回転子100の構成について説明する。なお、図1(a)が回転子100の平面形状を概略的に示す上面図、図1(b)が回転子100の縦断面を概略的に示す縦断面図である。また、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。さらに、図1には、永久磁石2から発生する磁束を矢印(矢印A、矢印B)で図示している。
【0022】
この回転子100は、たとえば冷蔵庫や冷凍庫、自動販売機、空気調和機、冷凍装置、給湯器等の冷凍サイクルの構成要素となる圧縮機や、送風機等のファンモーターの電動機の一部として使用される。図1に示すように、回転子100は、回転中心側に電磁鋼板を軸方向に積層して形成した第1継鉄部1と、第1継鉄部1の外郭(外周側)に配置された複数個(図1(a)では4個)の永久磁石2と、それぞれの永久磁石2の外周側に電磁鋼板を軸方向に積層して形成した永久磁石2と同数の第2継鉄部3と、第2継鉄部3の外周側に設けられ、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3を包含するリング部4と、を有している。
【0023】
すなわち、回転子鉄心を構成する第1継鉄部1と第2継鉄部3とが、1枚の電磁鋼板で構成されているのではなく、異なる電磁鋼板で分離されて構成されているのである。また、第1継鉄部1の中央部には、図示省略の回転軸を挿入固着するための貫通孔11が形成されている。さらに、第1継鉄部1は、平面形状が多角形状に構成されている。なお、第1継鉄部1の作製については図4で詳述する。
【0024】
永久磁石2は、希土類磁石等で構成されており、図1(a)の矢印Bで示す方向にそれぞれ磁化されている。図1(a)に示すように、永久磁石2を平面視した状態において永久磁石2の短手方向における側面部(以下、単に側面部2aと称する)は、第1継鉄部1及び第2継鉄部3のいずれにも接触していない。つまり、第1継鉄部1及び第2継鉄部3は、永久磁石2を平面視した状態において永久磁石2の長手方向における側面部と接触しているが、側面部2aには接触していない。この第1継鉄部1の一部、第2継鉄部3の一部、永久磁石の側面部2a、リング部4の内周壁によって囲まれた空間を、極間部5と称する。
【0025】
リング部4は、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3を、第2継鉄部3の外周側から押さえ込み、回転子100の外周を構成するものである。すなわち、リング部4は、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3を回転子100の中心側に押し付けるような内圧を発生させる薄肉の円筒となっており、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3に対して圧入や焼嵌されるように構成されている。このリング部4によって、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3は、それぞれが隙間無く密着された状態に組み立てられる。
【0026】
また、リング部4は、ここでは非磁性体かつ非金属の材質によって構成されているものとする。たとえば、エンジニアリングプラスチック(PPS、PEEK、LCP、PBT、ベークライト等が挙げられる。)や、カーボンファイバー、それらの複合品でリング部4を構成するとよい。
【0027】
この回転子100が、固定子(たとえば、図4に示す固定子50)の内周面側に回転可能に配設されて電動機(永久磁石式電動機)を構成するようになっている。つまり、本発明の電動機は、回転子100内に所定の枚数の永久磁石2を有し、固定子の回転磁束変化に同期して回転子100が回転するようになっている。そして、回転子100が回転することで貫通孔11に固着されている回転軸も回転することになる。なお、図1では、4個の永久磁石2が備わっている状態を例に示しているが、永久磁石2の個数を4個に限定するものではない(図2で説明する)。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態1に係る電動機の回転子100Aの平面形状の別の一例を概略的に示す上面図である。図2に基づいて、回転子100Aの構成について説明する。回転子100Aの基本的な構成は、上述した回転子100と同様であり、同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
【0029】
この回転子100Aは、回転子100と同様に機能するものの、永久磁石2の個数が回転子100の永久磁石2の個数と相違している。それに伴い、第1継鉄部1及び第2継鉄部3の形状も変化するため、回転子100と区別するために、各部材(第1継鉄部1、永久磁石2、第2継鉄部3)に符号「A」を付記するものとする。なお、リング部4については、永久磁石2の個数の変化で異なることがないため、「リング部」のままとし、「A」を付記していない。
【0030】
図1では、4個の永久磁石2を用いて回転子100を構成した場合を例に説明したが、図2に示すように6個の永久磁石2Aを用いて回転子100Aを構成してもよい。回転子100Aのように永久磁石2Aの個数を6個としても、回転子100Aは回転子100と同様に機能することは言うまでもない。この場合、それに応じて、第1継鉄部1A及び第2継鉄部3Aの平面形状が、回転子100の第1継鉄部1及び第2継鉄部3の平面形状と異なることになる。ただし、第1継鉄部1Aの平面が多角形状であることは同様である。なお、図2では、6個の永久磁石2Aが備わっている状態を例に示しているが、永久磁石2Aの個数を6個に限定するものではない。
【0031】
回転子100は、第1継鉄部1と、永久磁石2と、第2継鉄部3と、非磁性体かつ非金属のリング部4と、で形成されている。よって、図1(a)の矢印Aに示す通り、永久磁石2の磁極面(たとえば紙面上側に示す永久磁石2のN極)から出た磁束は、第2継鉄部3(たとえば紙面上側の第2継鉄部3)を通り、固定子に通電することによる回転磁界と鎖交し、所望の回転トルクを発生させ、隣の極の第2継鉄部3(たとえば紙面左側の第2継鉄部3)を通り、隣の永久磁石2の磁極面(たとえば紙面左側の永久磁石2のS極)に入り、第1継鉄部1を通り、再び自身の磁極面(S極)に戻る。
【0032】
そして、永久磁石2の側面部2aには、磁気回路となる磁性体が存在しないため、漏れ磁束がなく、永久磁石2から発生する磁束をほぼ完全に利用することができる。よって、高トルクな電動機を得ることができる。または、従来の漏れ磁束のあったIPM型回転子の永久磁石に対し、漏れ磁束分を減らした小さい永久磁石で同等のトルクを得ることができる。したがって、このような構成にすれば、近年問題となる希土類磁石の省資源化、低コスト化が実現できる。
【0033】
また、リング部4は、非金属で構成していることから、固定子の発生する磁束による渦電流の発生がない。よって、従来のSPM型電動機やIPM型電動機の有していた課題を周波数制御装置等に負担をかけることなく、改善することができる。
【0034】
さらに、リング部4には、永久磁石2と第2継鉄部3の遠心力により応力が発生し、その応力はほぼ回転速度の2乗に比例することから、高速運転を求められる電動機では特に機械的強度が必要になる。その点では、高強度を有する材質、たとえばエンジニアリングプラスチックをリング部4として使うことにより、従来採用のSUS304金属の1/3程度の引張強度になってしまうものの肉厚をその分増加することで、同等以下の応力に抑えることができる。
【0035】
すなわち、SUS304でリング部4を構成し、その肉厚を増加すると渦電流損の増大に繋がることになるが、電気絶縁性の高いエンジニアリングプラスチックをリング部4の構成材料として採用すれば、渦電流損の発生が無いため、損失を増やすことなく高速化に対応することができる。たとえば、30%ガラス入りPEEK材をリング部4の構成材料として採用すれば、0.6mm程度の肉厚で0.2mmのSUS304と同等の強度となり、通常の電動機のエアギャップ内での肉厚調整に留めることができる。
【0036】
また、カーボンファイバーやその複合品をリング部の構成材料として採用すれば、従来の金属の10倍以上の引張強度を有するので、通常想定される300rps程度の高速運転に十分耐えうることができる。反面、体積抵抗率が下がってしまうこととなるが、ファイバー品を絶縁コーティングすることや、編組の仕方の工夫で繊維同士の接触面を減らすことなどで体積抵抗率を調整することができる。
【0037】
図3は、従来の回転子の磁束を説明するための説明図である。図3に基づいて、回転子100の磁束について、従来の回転子と比較しながら説明する。図3(a)が特許文献1に記載されている回転子の平面図を、図3(b)が他の従来の回転子の平面図を、それぞれ示している。なお、ここでは、特に説明がない限り、回転子100には、回転子100Aも含まれているものとして説明する。
【0038】
図3(a)及び図3(b)に示すように、回転子鉄心は、電磁鋼板で構成されている。そのため、固定子から発生した磁束は、回転子鉄心を通りやすい。一方、固定子から発生した磁束は、永久磁石を通りにくい。この永久磁石は、固定子から発生した磁束に対して、エアギャップと等価の存在となる。すなわち、図3(a)及び図3(b)に示す実線矢印方向に磁束は通りやすいが、図3(a)及び図3(b)に示す点線矢印方向に磁束は通りにくい。
【0039】
回転位相での通りやすさの差によりリラクタンストルクが発生するので、本実施の形態1に係る回転子100でも第2継鉄部3が存在するため、その差をつけることができ、図3(a)及び図3(b)に示す従来の回転子と同様に高効率化が図れる。その際、図3(a)及び図3(b)に示す従来の回転子では、リラクタンストルクを得る構造を採用したとしても、電磁鋼板からなる鉄心部分や突起部があるため、永久磁石に磁束の短絡を招いてしまっている。それに対し、回転子100では、電磁鋼板からなる鉄心部分や突起部がないため、永久磁石に磁束の短絡を招くことがない。
【0040】
図4は、第1継鉄部1と第2継鉄部3との離間距離について説明するための説明図である。図4に基づいて、第1継鉄部1と第2継鉄部3との離間距離について説明する。図4(a)が回転子100の平面形状の他の一例を概略的に示す上面図を、図4(b)が回転子100の平面形状の更に他の一例を概略的に示す上面図を、それぞれ示している。また、図4では、リング部4の外周側に固定子50の一部を併せて図示している。なお、図4では、各部材に図1で示した符号を用いて図示するようにしている。
【0041】
固定子50は、回転子100の外周面側に配設され、固定子鉄心に複数相の固定子巻線(図示省略)が装着されている。この固定子50と回転子100とにより、永久磁石式電動機が構成されることになる。
【0042】
図4(a)に示すように、第2継鉄部3の外周側と固定子50の内周側との距離が磁気的なエアギャップとして作用する。このエアギャップをt1とし、第1継鉄部1と第2継鉄部3との最短距離をt2とする。永久磁石2から発生する磁石発生磁束線(図4に示す線A1)は、上述したように第2継鉄部3を通り、エアギャップt1を飛び越え、固定子50が発生させる回転磁界と交差する必要がある。しかしながら、エアギャップt1があまりにも遠く、第1継鉄部1と第2継鉄部3との最短距離t2が短いと、せっかく第1継鉄部1と第2継鉄部3と2つに回転子鉄心を分離しても漏れ磁束が発生してしまう。
【0043】
そこで、回転子100では、永久磁石2から発生する磁束の漏れを極力低減するために、エアギャップt1<第1継鉄部1と第2継鉄部3との最短距離t2となるように形成されている。このようにすることで、回転子100では、永久磁石2からの漏れ磁束を極力低減でき、漏れ磁束を発生していた分の永久磁石2が不要となり、従来の回転子に比べて省資源化を図ることができる。
【0044】
なお、回転子100は、エアギャップt1<第1継鉄部1と第2継鉄部3との最短距離t2となるように形成されていればよく、極間部5を上面視した状態における平面形状を特に限定するものではない。組立工程を考慮して、図4(b)に示すような平面形状の第2継鉄部3を用いて回転子100を構成してもよい。図4(b)に示すような形状(円弧と弦を側壁とした形状)で第2継鉄部3を形成してもよい。このようにすれば、第2継鉄部3の極間部5に露出する部分が、永久磁石2との位置決め部として機能することになる。また、第1継鉄部1の4隅(第1継鉄部1の極間部5に露出する部分)を、図4(a)及び図4(b)に示すように面取りしておけば、第1継鉄部1の極間部5に露出する部分も永久磁石2との位置決め部として機能する。
【0045】
なお、永久磁石2との位置決め部は必須なものではないが、永久磁石2との位置決め部があると高精度に位置決めをすることができ、機械的回転バランス、及び磁気的バランスがとれるという効果を得られる。その結果、低振動で、高効率なモーターを得ることができる。
【0046】
したがって、回転子100によれば、従来の回転子(特にIPM型電動機)の利点であるリラクタンストルクの有効利用を、欠点であった永久磁石2の漏れ磁束を解消することで実現できるようにしている。また、回転子100によれば、従来の回転子(特にSPM型電動機)の利点である高速運転に対する強度信頼性を確保しつつ、欠点であったリング部4の渦電流損の発生も改善することができる。なお、図1では、永久磁石2が平板形状である場合を例に説明したが、永久磁石2の形状を特に限定するものではない。たとえば、永久磁石2を、円弧形状や、平板形状を組み合せたV字形状、バスタブ形状にしても同様の効果を得ることができる。
【0047】
ここで、回転子の鉄心の製造について説明する。図5は、回転子鉄心を構成する回転子構成鋼板(第1継鉄部1(第1継鉄部1Aを含む)を構成する一枚一枚の電磁鋼板)の製造過程の一部を概略的に示す概略図である。図5(a)が回転子100の回転子構成鋼板の製造過程の一部、図5(b)が回転子100Aの回転子構成鋼板の製造過程の一部を、図5(c)が特許文献1に挙げた従来の回転子構成鋼板の製造過程の一部を、それぞれ示している。
【0048】
回転子100の回転子鉄心は、回転子構成鋼板を所定の枚数又は積厚まで積層した第1継鉄部1と第2継鉄部3とを複数組み合わせて構成されている。同様に、回転子100Aの回転子鉄心は、回転子構成鋼板を所定の枚数又は積厚まで積層した第1継鉄部1Aと第2継鉄部3Aとを複数組み合わせて構成されている。なお、図5には、帯状電磁鋼板20の幅をL、回転子構成鋼板の送りピッチをPとして図示している。
【0049】
図5(a)に示すように、回転子100の回転子構成鋼板の平面形状は略四角形状(略正方形状)であるため、回転子構成鋼板を帯状電磁鋼板20の長手方向に沿うように配列し、回転子構成鋼板を作製することとしている。このように回転子構成鋼板を作製することで、帯状電磁鋼板20の不要部分21を極力少なくすることを可能としている。
【0050】
また、図5(b)に示すように、回転子100Aの回転子構成鋼板の平面形状は略六角形状であるため、回転子構成鋼板を帯状電磁鋼板20に対してハニカム状に配列し、回転子構成鋼板を作製することとしている。このように回転子構成鋼板を作製することで、帯状電磁鋼板20の不要部分21を極力少なくすることを可能としている。なお、回転子構成鋼板を帯状電磁鋼板20に対してハニカム状に配列する場合、帯状電磁鋼板20に回転子構成鋼板の列が少なくとも2列配列することになる。
【0051】
それに対し、図5(c)に示すように、従来の回転子構成鋼板は角部に突起部分があるため、帯状電磁鋼板20’の不要部分21’が多くなってしまう。このような形状の回転子構成鋼板では、帯状電磁鋼板20’に対してどのように配列したとしても、回転子鉄心とはならない不要部分21’が多く発生することになる。
【0052】
以上のように、回転子100の第1継鉄部1、回転子100Aの第1継鉄部1Aのような形状にすれば、帯状電磁鋼板20の不要部分21を少なくできるので、従来のものに比べ、歩留まりよく回転子構成鋼板を作製することができる。また、不要部分21を少なくできるので、省資源化、低コスト化が実現できる。さらに、帯状電磁鋼板20の幅L及び送りピッチPを短くできるので、金型サイズも小さくでき、金型にかかる費用も低減できる。
【0053】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2に係る電動機の回転子100Bの側面形状の一例を概略的に示す側面図である。図6に基づいて、電動機の回転子100Bの構成について説明する。実施の形態2に係る電動機の回転子100Bの基本的な構成は、実施の形態1で説明した回転子100と同様である。なお、実施の形態2では実施の形態1との相違点を中心に説明し、実施の形態1と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
【0054】
図6に示すように、回転子100Bは、リング部の構成が実施の形態1に係る回転子100のリング部4と相違している。なお、実施の形態1に係る回転子100のリング部4と区別するために、リング部4に符号「B」を付記するものとする。
【0055】
この回転子100Bは、実施の形態1に係る回転子100と同様に、回転中心側に電磁鋼板を軸方向に積層して形成した第1継鉄部1と、第1継鉄部1の外郭(外周側)に配置された複数個の永久磁石2と、それぞれの永久磁石2の外周側に電磁鋼板を軸方向に積層して形成した永久磁石2と同数の第2継鉄部3と、第2継鉄部3の外周側に設けられ、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3を包含するリング部4Bと、を有している。
【0056】
リング部4Bは、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3を、第2継鉄部3の外周側から押さえ込み、回転子100Bの外周を構成するものである。すなわち、リング部4Bは、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3を半径方向中心側に押し付けるような内圧を発生させる薄肉の円筒が複数に分割された構成となっており、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3に対して圧入や焼嵌されるように構成されている。このリング部4Bによって、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3は、それぞれが隙間無く密着された状態に組み立てられる。
【0057】
また、リング部4Bは、ここでは非磁性体の材質によって構成されているものとする。そして、リング部4Bは、所定の隙間を介して軸方向に複数に分割された構成となっている。なお、図6では、分割された各リング部4Bを便宜的に紙面下側からリング部4B1、リング部4B2、リング部4B3として図示している。また、図6では、3分割された構成のリング部4Bを図示しているが、リング部4Bの分割数を図6に示す3分割に限定するものではない。
【0058】
高速運転時の強度信頼性及び安価な材質を重視すると、リング部としては従来のSPM型の回転子で採用されている非磁性体である金属を採用することとなる。しかしながら、金属でリング部を構成する場合、渦電流損の発生が問題となる。
【0059】
そこで、実施の形態2では、非磁性体である金属をリング部4Bとして採用した場合を考慮し、リング部4Bを複数に分割して構成することにしている。したがって、リング部4B1、リング部4B2、リング部4B3のそれぞれの間には、所定の隙間が形成されることになる。このため、渦電流のループ(図6に示す矢印C)は、リング部4B1、リング部4B2、リング部4B3のそれぞれで発生し、リング部4Bがない部分、つまりリング部4B1、リング部4B2、リング部4B3のそれぞれの間に形成される隙間部分では発生しない。また、リング部4Bの厚さ(軸方向の高さ)lに対して、渦電流損は一般的に2乗に比例して増加するので、lを小さくするほど渦電流損を低減できる。
【0060】
また、機械的な強度は、lの軸方向の総和になるので、必要回転速度に対応した総和Σlを決め、渦電流損失の低減効果分及び部品数を考慮してリング部4Bの分割数を決定すればよい。
【0061】
したがって、回転子100Bによれば、実施の形態1に係る回転子100と同様に、従来の回転子(特にIPM型電動機)の利点であるリラクタンストルクの有効利用を、欠点であった永久磁石2の漏れ磁束を解消することで実現できるようにしている。また、回転子100Bによれば、実施の形態1に係る回転子100と同様に、従来の回転子(特にSPM型電動機)の利点である高速運転に対する強度信頼性を確保しつつ、欠点であったリング部4の渦電流損の発生も改善することができる。さらに、回転子100Bによれば、機械的強度を落とさずに、リング部4Bで発生する渦電流に対応することが可能になる。
【0062】
なお、リング部4Bの材質として、シリコン、アルミニウム、酸素、窒素を含むセラミックス材を採用すれば非磁性体であることと軽量で高強度であることの双方を確保することができる。また、体積抵抗率が1010、好ましくは1014Ωcm以上の材質であれば他の電磁鋼板や永久磁石に対し、無視できる程の電気抵抗となるので渦電流損もほぼないものと考えられる。体積抵抗率が1014Ωcm以上の材質としては、たとえばサイアロン(Si(ケイ素)、Al(アルミニウム)、O(酸素)、N(窒素)からなる材質(化学式Si3N4・Al2O3))等が挙げられる。
【0063】
実施の形態3.
図7は、本発明の実施の形態3に係る電動機の回転子100Cの側面形状の一例を概略的に示す側面図である。図7に基づいて、電動機の回転子100Cの構成について説明する。実施の形態3に係る電動機の回転子100Cの基本的な構成は、実施の形態1で説明した回転子100と同様である。なお、実施の形態3では実施の形態1及び実施の形態2との相違点を中心に説明し、実施の形態1及び実施の形態2と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
【0064】
図7に示すように、回転子100Cは、リング部の構成が実施の形態1に係る回転子100のリング部4、実施の形態2に係る回転子100Bのリング部4Bと相違している。なお、実施の形態1に係る回転子100のリング部4、実施の形態2に係る回転子100Bのリング部4Bと区別するために、リング部4に符号「C」を付記するものとする。
【0065】
この回転子100Cは、実施の形態1に係る回転子100と同様に、回転中心側に電磁鋼板を軸方向に積層して形成した第1継鉄部1と、第1継鉄部1の外郭(外周側)に配置された複数個の永久磁石2と、それぞれの永久磁石2の外周側に電磁鋼板を軸方向に積層して形成した永久磁石2と同数の第2継鉄部3と、第2継鉄部3の外周側に設けられ、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3を包含するリング部4Cと、を有している。
【0066】
リング部4Cは、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3を、第2継鉄部3の外周側から押さえ込み、回転子100Cの外周を構成するものである。すなわち、リング部4Cは、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3を半径方向中心側に押し付けるような内圧を発生させる薄肉の円筒が複数に分割された構成となっており、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3に対して圧入や焼嵌されるように構成されている。このリング部4Cによって、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3は、それぞれが隙間無く密着された状態に組み立てられる。
【0067】
また、リング部4Cは、ここでは非磁性体の材質によって構成されているものとする。そして、リング部4Cは、所定の隙間を介して軸方向に複数に分割された構成となっている。なお、図7では、分割された各リング部4Cを便宜的に紙面下側からリング部4C1、リング部4C2、リング部4C3として図示している。また、図7では、3分割された構成のリング部4Cを図示しているが、リング部4Cの分割数を図7に示す3分割に限定するものではない。
【0068】
さらに、リング部4C1、リング部4C2及びリング部4C3には、半径方向に沿って開口したスリット4aが複数形成されている。そして、このスリット4aは、スリット開口部分(つまり、開口部)と、非開口部(スリット開口部分以外の部分)とが軸方向で一致しないように形成されている。すなわち、スリット4aは、非開口部が回転軸方向において直進できないように形成されている。
【0069】
実施の形態2で説明した通り、高速運転時の強度信頼性及び安価な材質を重視すると、リング部としては従来のSPM型の回転子で採用されている非磁性体である金属を採用することとなるが、渦電流損の発生が問題となる。
【0070】
そこで、実施の形態3では、非磁性体である金属をリング部4Cとして採用した場合を考慮し、リング部4Cを複数に分割して構成することにしている。したがって、リング部4C1、リング部4C2、リング部4C3のそれぞれの間には、所定の隙間が形成されることになる。このため、渦電流のループ(図7のリング部4C3に示す矢印D)は、リング部4C1、リング部4C2、リング部4C3のそれぞれで発生し、リング部4Cがない部分、つまりリング部4C1、リング部4C2、リング部4C3のそれぞれの間に形成される隙間部分では発生しない。
【0071】
加えて、実施の形態3では、リング部4C1、リング部4C2、リング部4C3のそれぞれにスリット4aを複数形成することにしている。したがって、リング部4Cで発生した渦電流のループは、図7に示す矢印Dのように、リング部4C1、リング部4C2、リング部4C3のそれぞれで発生するが、小さいループとなり、リング部4Cの厚さ(軸方向の高さ)を小さくしたものと等価になり、渦電流損を低減できる。
【0072】
また、リング部4Cがない部分では渦電流は発生しない。さらに、スリット4aの長手の方向が周方向と平行に延びるようにしておけば、半径方向に発生する遠心力に対する応力を比較的上げずに済む。よって、実施の形態3に係る回転子100Cでは、機械的強度を落とさずに実施の形態2に記載の効果と同様の効果を部品点数を増やすことなく実現できる。
【0073】
したがって、回転子100Cによれば、実施の形態1に係る回転子100と同様に、従来の回転子(特にIPM型電動機)の利点であるリラクタンストルクの有効利用を、欠点であった永久磁石2の漏れ磁束を解消することで実現できるようにしている。また、回転子100Cによれば、実施の形態1に係る回転子100と同様に、従来の回転子(特にSPM型電動機)の利点である高速運転に対する強度信頼性を確保しつつ、欠点であったリング部4の渦電流損の発生も改善することができる。さらに、回転子100Cによれば、部品点数を増やすことなく、実施の形態2に係る回転子100Bと同様に機械的強度を落とさずに、リング部4Cで発生する渦電流に対応することができる。
【0074】
なお、スリット4aの形成箇所については、スリット開口部分と、非開口部とが軸方向で一致しないようになっていればよく、特に限定するものではない。たとえば、図7に示すようにスリット4aを規則的に開口形成してもよいが、不規則的にスリット4aを開口形成してもよい。また、スリット4aをラビリンス構造を模して開口形成し、スリット開口部分と非開口部とが軸方向で一致しないようにしてもよい。
【0075】
実施の形態4.
図8は、本発明の実施の形態4に係る電動機の回転子100Dの平面形状の一例を概略的に示す上面図である。図8に基づいて、電動機の回転子100Dの構成について説明する。実施の形態4に係る電動機の回転子100Dの基本的な構成は、実施の形態1で説明した回転子100と同様である。なお、実施の形態4では実施の形態1〜実施の形態3との相違点を中心に説明し、実施の形態1〜実施の形態3と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
【0076】
図8に示すように、回転子100Dは、第2継鉄部3Dの構成が実施の形態1〜実施の形態3に係る回転子の第2継鉄部3(第2継鉄部3Aを含む)と相違している。なお、第2継鉄部3と区別するために、第2継鉄部3に符号「D」を付記するものとする。
【0077】
この回転子100Dは、実施の形態1に係る回転子100と同様に、回転中心側に電磁鋼板を軸方向に積層して形成した第1継鉄部1と、第1継鉄部1の外郭(外周側)に配置された複数個の永久磁石2と、それぞれの永久磁石2の外周側に電磁鋼板を軸方向に積層して形成した永久磁石2と同数の第2継鉄部3Dと、第2継鉄部3Dの外周側に設けられ、第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3Dを包含するリング部4と、を有している。なお、リング部4の代わりに、リング部4B又はリング部4Cを採用してもよい。
【0078】
第2継鉄部3Dには、軸方向に開口するスリット溝3aが2列形成されている。このスリット溝3aは、回転子100Dの外周側に中心をもつ円の一部として円弧状に形成されている。
【0079】
実施の形態1で説明した通り、第2継鉄部3が設けられていることにより、磁束の通りやすい方向と通りにくい方向とを発生させることができ、それによってリラクタンストルクを発生させることができる。そこで、実施の形態4では、第2継鉄部3Dにスリット溝3aを形成することにより、スリット溝3aが、磁束の通りやすい方向に対しては磁気抵抗としての影響が少なく作用し(図8に示す実線矢印)、通りにくい方向に対してはエアギャップとして作用し、磁束をさらに通りにくく制御している(図8に示す破線矢印)。
【0080】
このような構成とすることによって、回転子100Dではリラクタンストルクをさらに発生させることができ、電動機の効率が向上することとなる。なお、リラクタンストルクは、マグネットトルクとは発生原理が違う。マグネットトルクは一般に永久磁石2の磁力や大きさを高めると増大することができるが、このような措置をとった場合、電動機の回転時の逆起電力も高まり、高速運転の妨げになってしまう。リラクタンストルクは、そのような高速運転でのトルク発生には、マグネットトルクのような妨げがないため、高速運転を求められる電動機に対しては、スリット溝3aの形成が有効な手段となる。
【0081】
したがって、回転子100Dによれば、実施の形態1に係る回転子100と同様に、従来の回転子(特にIPM型電動機)の利点であるリラクタンストルクの有効利用を、欠点であった永久磁石2の漏れ磁束を解消することで実現できるようにしている。また、回転子100Dによれば、実施の形態1に係る回転子100と同様に、従来の回転子(特にSPM型電動機)の利点である高速運転に対する強度信頼性を確保しつつ、欠点であったリング部4の渦電流損の発生も改善することができる。さらに、回転子100Dによれば、部品点数を増やすことなく、リラクタンストルクに機械の更なる有効利用を図ることが可能になる。
【0082】
実施の形態5.
図9は、本発明の実施の形態5に係る電動機の回転子100Eの平面形状の一例を概略的に示す上面図である。図9に基づいて、電動機の回転子100Eの構成について説明する。実施の形態5に係る電動機の回転子100Eの基本的な構成は、実施の形態1で説明した回転子100と同様である。なお、実施の形態5では実施の形態1〜実施の形態4との相違点を中心に説明し、実施の形態1〜実施の形態4と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
【0083】
図9に示すように、回転子100Eは、第1継鉄部1の側面の一部と、永久磁石2の側面部2a、第2継鉄部3の側面の一部、リング部4の内周壁によって囲まれた極間部5に非磁性部材10を充填している点が実施の形態1〜実施の形態4に係る回転子と相違している。極間部5は、リング部4の内周側であって、いずれの部材も当接していない部分に形成されている空間を指している。なお、リング部4の代わりに、リング部4B又はリング部4Cを採用してもよい。また、第2継鉄部3の代わりに、第2継鉄部3Dを採用してもよい。
【0084】
実施の形態1で説明した通り、リング部4を設けることによって、その内圧により各部品(第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3)は半径方向中心側に押し付けられている。しかしながら、運転時の遠心力が発生すると、回転子100Eにはリング部4の内圧を打ち消す方向の荷重が働く、永久磁石2には、速度変化時の慣性力、固定子との間のトルクが回転子100Eの接線方向に加わるため、リング部4の内圧がなくなってしまうと接線方向に働く荷重(リング部4の内圧を打ち消す方向の荷重)で永久磁石2が外れてしまうことになる。
【0085】
そこで、回転子100Eでは、極間部5に非磁性部材10を充填することにしている。極間部5に非磁性部材10が充填され、極間部5が非磁性部材10で満たされると、非磁性部材10の作用によって永久磁石2のズレを規制できる。そのため、リング部4の内圧を打ち消す方向の荷重が働いても、永久磁石2が外れてしまうことがなく、運転を継続することができる。したがって、必要以上にリング部4に内圧を発生させる必要がなく、特に高速運転時での強度信頼性を確保することができる。なお、非磁性部材10としては、たとえば樹脂や木材等を採用することができる。
【0086】
したがって、回転子100Eによれば、実施の形態1に係る回転子100と同様に、従来の回転子(特にIPM型電動機)の利点であるリラクタンストルクの有効利用を、欠点であった永久磁石2の漏れ磁束を解消することで実現できるようにしている。また、回転子100Eによれば、実施の形態1に係る回転子100と同様に、従来の回転子(特にSPM型電動機)の利点である高速運転に対する強度信頼性を確保しつつ、欠点であったリング部4の渦電流損の発生も改善することができる。さらに、回転子100Eによれば、永久磁石2が外れてしまうことを抑制でき、運転の継続性が向上することになる。
【0087】
なお、非磁性部材10としては、たとえば樹脂等の熱可塑性の材料を極間部5に流し込み固めることで形成してもよいし、あらかじめ成形された固形部材を極間部5に挿入して形成してもよい。また、非磁性部材10は、非磁性であるので、永久磁石2の磁束の漏れには影響を与えない。
【0088】
実施の形態6.
図10は、本発明の実施の形態6に係る電動機の回転子100Fの製造方法を説明するための概略斜視図である。図10に基づいて、電動機の回転子100Fの製造方法について説明する。実施の形態6に係る電動機の回転子100Fの基本的な構成は、実施の形態1で説明した回転子100と同様である。なお、実施の形態6では実施の形態1〜実施の形態5との相違点を中心に説明し、実施の形態1〜実施の形態5と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
【0089】
第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3のそれぞれを位置決めし、それから第1継鉄部1、永久磁石2及び第2継鉄部3をリング部4で包含することは困難である。また、リング部4に内圧を発生させるには、リング部4の内径寸法のほうが、図10で示す状態の第2継鉄部3でなす外径寸法より小さくする必要があり、予めリング部4を選定することは難しい。そこで、実施の形態6では、以下のように回転子100Fを製造するようにしている。
【0090】
まず、永久磁石2を着磁する。そして、着磁した永久磁石2を、所定の磁極方向になるように第1継鉄部1に張り合わせる。その後、第2継鉄部3を永久磁石2の外周側に張り合わせる。この作業時に、永久磁石2と各継鉄部(第1継鉄部1、第2継鉄部3)との位置決めが必要となるが、実施の形態6では、着磁した永久磁石2を用いることにより、永久磁石2の吸引力を利用することできるようにしている。そのため、各部材同士が密着し、第2継鉄部3でなす外周寸法が把握しやすくなる。また、このようにすれば、各部材同士が磁気的な安定をとろうとするため、各継鉄部と永久磁石2の位置精度も出しやすくなる。
【0091】
第2継鉄部3でなす外周寸法を把握後、所定の締め代となる内径をもつリング部4を選定し、第2継鉄部3の外周側からリング部4を圧入をすれば内圧の安定した回転子100Fを得ることができる。なお、リング部4の材質により、リング部4側を加熱する焼嵌とするのか、第2継鉄部3側を冷却する冷やし嵌とするのか、を選定すればよく、圧入工程が容易に実現できる。
【0092】
上記のように、本発明について実施の形態を分けて説明したが、各実施の形態の特徴事項を組み合わせることを否定するものではない。
【0093】
実施の形態1〜実施の形態5に係る回転子を、固定子の内周面側に設置することで本発明の永久磁石式電動機を得ることができる。したがって、本発明の永久磁石式電動機は、実施の形態1〜実施の形態5に係る回転子が有する効果を奏することになる。また、本発明の永久磁石式電動機は、圧縮機やファンモーター等に用いられるようになっているので、圧縮機やファンモーターも、実施の形態1〜実施の形態5に係る回転子が有する効果を奏することになる。さらに、実施の形態6に係る回転子の製造方法によって、本発明の永久磁石式電動機の回転子を製造することができるので、実施の形態6に係る回転子の製造方法が有する効果を奏することになる。
【符号の説明】
【0094】
1 第1継鉄部、1A 第1継鉄部、2 永久磁石、2A 永久磁石、2a 側面部、3 第2継鉄部、3A 第2継鉄部、3D 第2継鉄部、3a スリット溝、4 リング部、4B リング部、4B1 リング部、4B2 リング部、4B3 リング部、4C リング部、4C1 リング部、4C2 リング部、4C3 リング部、4a スリット、5 極間部、10 非磁性部材、11 貫通孔、20 帯状電磁鋼板、21 不要部分、50 固定子、100 回転子、100A 回転子、100B 回転子、100C 回転子、100D 回転子、100E 回転子、100F 回転子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子の回転磁束変化に同期して回転する永久磁石式電動機の回転子において、
回転子の中心側において電磁鋼板が複数枚積層された第1継鉄部と、
前記第1継鉄部の外周に配置された複数個の永久磁石と、
前記永久磁石の外周において電磁鋼板が複数枚積層された第2継鉄部と、
前記第2継鉄部の外周側に設けられ、前記第1継鉄部、前記永久磁石及び第2継鉄部を前記第2継鉄部の外周側から中心側に押しつけるリング部と、を有する
ことを特徴とする永久磁石式電動機の回転子。
【請求項2】
前記リング部は、
非磁性体かつ非金属の材質で構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項3】
前記リング部は、
非磁性体の材質で構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項4】
前記リング部は、
体積抵抗率が1010Ωcm以上である材質で構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項5】
前記リング部は、
シリコン、アルミニウム、酸素、窒素を含むセラミックス材で構成されている
ことを特徴とする請求項4に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項6】
前記第2継鉄部の外周側と前記固定子の内周側との距離を、前記第1継鉄部と前記第2継鉄部との最短距離よりも小さくしている
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項7】
前記リング部は、
所定の隙間を形成するように回転軸方向に複数に分割されている
ことを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項8】
複数に分割された前記リング部は、
半径方向に開口する複数のスリットを有している
ことを特徴とする請求項7に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項9】
前記複数のスリットは、
前記リング部のスリット開口部以外の非開口部が回転軸方向において直進できないように形成されている
ことを特徴とする請求項8に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項10】
前記第2継鉄部は、
少なくとも1列以上の回転軸方向に開口するスリット溝を有している
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項11】
前記スリット溝は、
回転子の外周側に中心をもつ円の一部として円弧状に形成されている
ことを特徴とする請求項10に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項12】
前記第1継鉄部の一部、前記永久磁石の側面部、前記第2継鉄部の一部、及び、前記リング部の内壁面で形成される空間には、非磁性体部材が充填されている
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の永久磁石式電動機の回転子。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の永久磁石式電動機の回転子の製造方法であって、
前記永久磁石を着磁する工程と、
着磁した前記永久磁石を、所定の磁極方向になるように前記第1継鉄部に張り合わせる工程と、
その後、前記第2継鉄部を前記永久磁石の外周側に張り合わせる工程と、
前記第2継鉄部でなす外周寸法を把握後、所定の締め代となる内径をもつ前記リング部を選定し、前記第2継鉄部の外周側から前記リング部を圧入をする工程と、を有する
ことを特徴とする永久磁石式電動機の回転子の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の永久磁石式電動機の回転子と、
前記回転子の外周面側に配設され、固定子鉄心に複数相の固定子巻線が装着された固定子と、を備えた
ことを特徴とする永久磁石式電動機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−115899(P2013−115899A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259103(P2011−259103)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】