説明

汚染物の検査装置

【課題】汚染物を簡易に且つ早急に判定し、汚染発生時の対策を的確且つ速やかに講じることを可能にする装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る汚染物の検査装置1は、汚染物を含む部位の拡大像を観察するための表面観察手段2と、汚染物を含む部位に紫外光を照射する紫外光照射手段3と、汚染物を含む部位に可視光を照射する可視光照射手段4とを備え、表面観察手段2、紫外光照射手段3及び可視光照射手段4がそれぞれ接合部材11により接合されて一体構造を成し、上記手段2,3,4のそれぞれの端部と検査対象物との距離を所定の距離に保持する保持手段として透明架台12を更に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物を検査する装置に関し、詳しくは、抄紙機等の製造装置により、紙又は布を製造する際に、紙又は布に付着した汚染物を検査する為に用いる汚染物の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙又は布を製造し、ロール状に巻き取る際に、紙又は布の製造ラインで使用している潤滑油等の油分、製造ラインに付着している水分、製造ライン周辺の蚊等の昆虫や、ばい煙及び塵埃等のエアロゾル粒子が、汚染物として紙又は布に付着してしまうことがある。そして、製造された紙又は布のロール(例えば、家庭用ティッシュの抄紙機における紙のロールは通常、ロール幅約5メートル、ロール直径約3メートル、紙の長さ約100キロメートルに達する。)に汚染物が付着すると、そのロールの一部を巻き戻して汚染部分を削除すると共に、汚染原因を排除するための作業を行う必要がある。そのため、従来より、汚染部分を検知する為に可視光を用いた欠陥検知装置が製造ラインに設置されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、可視光を用いた装置では汚染物の種類を十分に判定することはできず、汚染原因を確実に特定できないので、汚染物を排除するための的確な対応が困難であり、同様な汚染が繰り返される虞がある。一方、汚染部分を採取し、赤外分光光度計や走査型電子顕微鏡等の分析機器を用いて、汚染物の種類を厳密に判定することも可能ではあるが、かかる厳密な判定は相当な時間を要するため、速やかな対応が困難となり、製造ラインが長期に亘って休止されて損害を被る虞がある。このように従来の方法では、汚染が発生しても、その汚染物対策を的確且つ速やかに講じることが極めて困難であるという課題があった。
【0004】
そこで、本発明はこのような課題に鑑みて、汚染物を簡易に且つ早急に判定し、汚染発生時の対策を的確且つ速やかに講じることを可能にする装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成すべく、本発明者らは、拡大像の観察によって、汚染物が液状物質であるか固形物であるかを判定すると共に、汚染物に紫外光を照射することによって発せられる蛍光の有無によって、汚染物が油分であるか水分であるかを判定できることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明に係る汚染物の検査装置は、汚染物を含む部位の拡大像を観察するための表面観察手段と、汚染物を含む部位に紫外光を照射する紫外光照射手段と、汚染物を含む部位に可視光を照射する可視光照射手段とを備え、表面観察手段、紫外光照射手段及び可視光照射手段がそれぞれ接合部材により接合されて一体構造を成し、上記手段のそれぞれの端部と検査対象物との距離を所定の距離に保持する保持手段として透明架台を更に備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の検査装置によれば、汚染物が付着した部位に、紫外光照射手段から出射された紫外光が照射される。汚染物が芳香族化合物を成分に含む油分であると、芳香族化合物分子中のπ電子が紫外光を共鳴吸収して一旦励起され、励起されたそのπ電子が基底エネルギー準位に戻る際に、可視領域の電磁輻射としての蛍光が放出される。これに対して、芳香族化合物を成分に含まない液状物質(例えば水分)は、π電子を有しておらず、蛍光の発光は見られない。したがって、紫外光の照射により蛍光が発せられたか否かに基づいて、汚染物は油分なのか又は油分以外の液状物質(特に水分)なのかが判定される。また、油分を含有する汚染物の拡大像を観察して油分の種類が判定される。具体的には、汚染物が液状物質か否か、汚染物がグリースか否か等の判定である。
【0008】
本発明に係る検査装置は、汚染物を含む部位に可視光を照射する可視光照射手段を更に備える。汚染物の部位を明るくすることにより判定が容易となる。また、本発明に係る検査装置は、表面観察手段、紫外光照射手段及び可視光照射手段を接合部材により接合して一体構造とし、それぞれの端部と検査対象物との距離を、検査するのに最適な所定の距離に設定し保持する保持手段として透明架台を更に備える。なお、該距離を調整可能な構造としても構わないし、また、前記接合部材を検査装置の製造当初から表面観察手段と一体化し、一体的に製造しても構わない。
【0009】
本発明における検査対象は、紙又は布に付着した汚染物であることが好ましい。ここで、「布」とは、天然繊維又は化学繊維から成る織布と、天然繊維又は化学繊維から成る不織布とを含むものである。また、本発明の検査装置は、フィルム等も検査対象とすることが可能な装置である。
【0010】
上記表面観察手段は、紫外光が照射された部位から発せられる蛍光を観察する為の手段を兼ねることができる。このことにより、汚染物の付着部位の面積が小さい故に、その部位から発せられる蛍光及び蛍光を発している領域の形状を観察することが困難な場合でも、この部位を表面観察手段で拡大して見ることによって、そのような観察が確実に行われるので、汚染物の判定精度が高められ、汚染原因の特定がさらに一層確実に行われる。
【0011】
上記紫外光照射手段は、254ナノメートルの波長成分を含む紫外光と、285ナノメートル及び/又は366ナノメートルの波長成分を含む紫外光を出射可能な手段であることが好ましく、紫外光が254ナノメートル、285ナノメートル及び366ナノメートルの波長成分から選ばれた紫外光を含むと好適である。
【0012】
このようにすれば、254ナノメートルの波長成分を含む紫外光は、単環芳香族化合物のπ電子により効果的に共鳴吸収されて蛍光が発せられる一方で、285ナノメートル及び366ナノメートルの波長成分を含む紫外光は、多環芳香族化合物のπ電子により効果的に共鳴吸収されて蛍光が発せられる。よって、このような3種類の波長成分を有する紫外光が選択的に用いられるので、その波長に応じて、単環芳香族化合物又は多環芳香族化合物を含有する油分のいずれもが検査対象とされる。
【0013】
また、拡大像の観察により、蛍光を発している領域が、蛍光を発していないか又は蛍光の発光強度が相対的に小さい部位を一部に含むときに、汚染物はグリースであると判定し、蛍光を発している領域が上記部位を含まないときに、汚染物はグリース以外の油分であると判定すると一層好適である。
【0014】
グリースは基油とウレア化合物や金属石けん等の増稠剤との混和物であり、紙又は布上に付着したグリースの増稠剤は紙又は布の繊維間に浸透することなく付着部分に留まる一方で、基油はその付着部を中心にして略同心円状に紙又は布の繊維へ浸透する。グリースが付着した部位に紫外光が照射されると、増稠剤部分からは蛍光が発せられないか、又は増稠剤に付随する若干の基油からの微弱な発光があるのみである。よって、蛍光を発している領域が、蛍光を発していないか又は蛍光の発光強度が小さい部位を一部に含むときには、汚染物はグリースであると判定される。これに対し、グリース以外の油分が付着した部位に紫外光が照射されると、この油分には増稠剤が含まれないため、蛍光は領域全体から発せられる。したがって、蛍光を発している領域が、蛍光を発していないか又は蛍光の発光強度が小さい部位を一部に含まないときには、汚染物はグリース以外の油分であると判定される。このように、蛍光を発している領域の形状のみに基づいて、油分の種類までもが簡易且つ詳細に判定されるので、汚染原因の特定がより一層容易且つ確実に実施される。
【0015】
そして、汚染物がグリース以外の油分であると判定されたときに、波長の異なる紫外光を選択的に用いることが好ましい。このとき用いられる紫外光は、254ナノメートル、285ナノメートル及び366ナノメートルの波長成分から選ばれた紫外光を含むものである。この場合、例えば、各波長成分の紫外光による蛍光発光の相対的な強度に基づいて油分の成分が特定され得る。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、汚染物の拡大像の観察、紫外光の照射及び蛍光の観察を行うことにより、分析機器による厳密な分析を必要とせず、汚染物の種類が汚染の発生現場で簡易且つ早急に判定されるので、汚染原因の特定が容易且つ迅速に行われる。また、汚染物が固形物か否か、又は油分若しくは油分以外の液状物質のいずれかというように、汚染物の詳細な判定が実施されるので、汚染原因が確実に特定される。したがって、汚染原因を排除する為の対策が的確に講じられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、下記実施形態の説明では、紙に付着した汚染物の判定について述べる。
【0018】
図1は、本発明の汚染物の検査装置に係る第1の実施形態を示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態の汚染物の検査装置1は、略円筒状を成す表面観察手段としての拡大鏡2の近傍に、円筒状を成す紫外光照射手段としての紫外光源3、及び可視光を照射する可視光照射手段としての可視光源4が配設されて成っている。拡大鏡2は、両端部内部に凸レンズ22が互いに略平行になるように固定された円筒筐体21に、図示しないミラーを内蔵した関節部23を介して別の円筒筐体24が連結されて成っており、円筒筐体24の一方端(図面上の上方端;以下、上下は図面を基準とする。)から、円筒筐体21の他方端(図面上の下方端)の前方にある物の光学像が拡大して観察される。また、紫外光源3は、円筒筐体31内に電源33と一体化された紫外光ランプ32が図示下方に向けて設置されて成っており、円筒筐体31の下端から紫外光が照射されるようになっている。また、可視光源4は、円筒筐体41内に電源43と一体化された可視光ランプ42が図示下方に向けて設置されて成っており、円筒筐体41の下端から可視光が照射されるようになっている。これら紫外光源3及び可視光源4は、連結部材(接合部材)11を介して拡大鏡2の円筒筐体21の側壁に結合されている。また、拡大鏡2、紫外光源3及び可視光源4の下端が、一方端を底壁で閉塞された形状(カップ状)を成す保持手段としての透明架台12の底壁外面に互いに近接するように結合されている。透明架台12は、例えば、アクリル系樹脂等の透光性を有するプラスチック、又はガラス材で形成されている。
【0019】
このように構成された本実施形態の検査装置1を用いて、紙5に付着した汚染物6の判定を行う方法を、図1及び図2を用いて引き続き説明する。なお、図1に示す汚染物6が付着した位置は、従来より使用されている可視光を用いた欠陥検知装置で予め検出されている。また、実際の汚染物6は、微小な点状となって付着する場合が多いが、図示及び説明を容易にするために、ここでは汚染物6の面積を通常より拡大して図1に示す。
【0020】
図1に示す如く、検査装置1は、平面状の紙5に汚染物6が付着した部位を透明架台12で覆うように、透明架台12の開放端を下方に向けて、紙5の上面に定置される。汚染物6の検査を行う処理は、図2に示す手順によって実行される。図2は、紙又は布に付着した汚染物の検査方法に係る好適な一実施形態を示す工程説明図である。
【0021】
汚染物6の種類を判定する処理が開始(SP100)されると、まずステップSP1において、図1に示す可視光源4の可視光ランプ42が点灯され、汚染が発生した現場が薄暗くとも視認が容易な程度の照度で、汚染物6が可視光で照らされる。そして、汚染物6が付着した部位の拡大像が拡大鏡2により目視で観察される(SP11)。このとき、拡大鏡2内に配設された2枚の凸レンズ22による焦点は、汚染物6が付着した紙5面上に合うように設定されており、また、透明架台12によって、拡大鏡2と汚染物6との距離が一定に保たれているので、拡大鏡2の焦点がずれることはない。また、拡大鏡2の関節部23は任意の周方向に回動自在な所謂関節ミラーの機能を有しており、円筒筐体24の位置がどこにあっても光軸Lが汚染物6からずれないので、観察し易い体勢で汚染物6の拡大像を見ることができる。
【0022】
上記のように汚染部位の拡大像の観察(SP11)を行いながら、汚染物6が液状物質であるか否かが判定される(SP12)。具体的には、図3に模式的に示すように、汚染部位を拡大鏡2で覗いた視野25内に紙5の繊維51が見られ、このような繊維51が汚染物6の付着部位の全域に認められれば、汚染物6は液状物質であると判定される。一方、例えば汚染物6がべったり付着していて繊維51を覆い隠していたり、又は繊維51間に汚染物6が集積して固まっている様子等が見られた場合、すなわち固形物の一部が汚染物6の付着部位の少なくとも一部に認められれば、汚染物6は固形物を含むものと判定される。このような判定指標は、液状物質のように粘性の低い成分を含む物質が、紙5に浸透し易い特性を有しているため、紙5の繊維51を覆い隠すような付着状態にはならない現象に基づいている。
【0023】
このように、拡大鏡2により拡大された像を観察するため、紙5の繊維51を観察し易く、汚染物6が液状物質か否かが簡易且つ確実に判定される。ここで、拡大鏡2の拡大倍率は、10倍〜200倍が好ましく、20倍〜100倍がより好ましい。なお、紙5の表面観察に先立ち、想定される汚染物6が紙5に付着した場合の拡大像を予め確認しておくなり、見本を用意してその見本と観察像とを比較するなりすれば、汚染物6が液状物質であるか否かが一層簡易且つ確実に判定され得る。
【0024】
ところで、上記「液状物質」とは、油分及び油分以外の液状物質(特に水分)である。また、本発明で判定可能な「油分」とは、芳香族化合物を成分に含むウレア系グリース、金属石けんグリースといった鉱油(基油)にウレア化合物や金属石けん等の増稠剤が混合して成るグリース、及びグリース以外の油分であり、この「グリース以外の油分」とは主に汎用マシン油、ペーパーマシン油といった鉱油であるが、鉱油以外のアルキルベンゼン、アルキルナフタレン等も含まれる。また、上記「油分以外の液状物質」としては、水分以外にも芳香族化合物を含まない有機化合物から成る油も含まれるが、主には水分である。
【0025】
図2に示す上記ステップSP1において、汚染物6が液状物質であると判定されると、処理は図2のステップSP2、ステップSP3及びステップSP5へとその順に移行する。一方、汚染物6が固形物を含むものであると判定された場合には、処理はステップSP4へ移行する。以下、まずステップSP2からステップSP5に至る一連の処理ついて説明した後、ステップSP4について説明する。
【0026】
ステップSP2では、図1に示す紫外光源3の紫外光ランプ32が点灯されて出射される紫外光が、汚染物6を含む部位に照射される。この時、可視光ランプ42は消灯される。紫外光ランプ32には中圧又は高圧水銀ランプが用いられており、紫外光点灯中の蒸気圧が約10〜約10パスカルとなるように水銀蒸気が内部に封入されている。この紫外光ランプ32から出射される紫外光は、略200ナノメートル〜略600ナノメートルといった幅広い波長領域に渡って線スペクトルを有しており、紫外領域では、254ナノメートル、285ナノメートル、313ナノメートル、366ナノメートル等の波長成分が含まれている。なお、この紫外光ランプ32からは、可視領域の光が同時に放出されるが、紫外光ランプ32は紫外光を透過し且つ可視光を吸収する特性を有する光学フィルター(図示せず)等で覆われており、汚染物6を含む部位には紫外光のみが照射される。また、この光学フィルターは、例えば、波長254ナノメートル、285ナノメートル、波長366ナノメートル等の特定波長成分だけを通すバンドパスフィルターの機能を有していてもよい。そして、これらフィルターを切り替えて、特定波長の紫外光を選択的に上記汚染物6を含む部位に照射してもよい。
【0027】
紫外光ランプ32から紫外光が照射されると、処理はステップSP3へ移行し、蛍光が発せられたか否かに基づいて(SP31)、汚染物6の判定(SP32、SP33)が行われる。汚染物6が油分であるときには、油分の一成分である芳香族化合物分子中のπ電子が、照射された紫外光のエネルギーを共鳴吸収して一旦励起され、基底エネルギー準位に戻る際に、励起エネルギーが可視光領域の電磁輻射エネルギーに変換されて蛍光が放出される。例えば、上記芳香族化合物が単環芳香族化合物であれば、波長254ナノメートルの紫外光が他の波長成分に比べ効果的に吸収され、例えば、波長400〜450ナノメートル前後の青色光を含む青白い蛍光が発せられる。また、上記芳香族化合物が多環芳香族化合物であれば、波長285ナノメートル及び/又は波長366ナノメートルの紫外光が他の波長成分に比べ効果的に吸収され、例えば、波長400〜450ナノメートル前後の青色光を含む青白い蛍光が発せられる。このとき、波長285ナノメートルの紫外光と波長366ナノメートルの紫外光とを照射した場合の蛍光強度は、多環芳香族化合物の環数や構造によって異なる。
【0028】
汚染物6から発せられるこのような蛍光は、透明架台12の側壁を通して、透明架台12の外部から視認される。また、蛍光の発光強度が小さいか、又は汚染部位の面積が非常に小さくて、観測場所の明るさとの兼ね合いにより蛍光を観察し難いときには、拡大鏡2によって蛍光が発せられている可能性がある部位を拡大して見ることにより、蛍光の観察が確実に行われる。
【0029】
一方、汚染物6が油分以外の液状物質、例えば水分であるときには、該物質の分子内に上記波長成分の紫外光を共鳴吸収するπ電子が存在しないので、蛍光が放出されることはない。よって、このステップSP3においては、蛍光が発せられたときには、汚染物6は油分であると判定され(SP32)、蛍光が発せられないときには、汚染物6は油分以外の液状物質(特に水分)であると判定される(SP33)。前者の判定が為されると、処理はステップSP5へ移行するのに対し、後者の判定が為されると、汚染物6の判定は終了する(SP200)。そして、汚染源は水分の漏洩又は飛散等の発生が起こり得る機器や場所に絞られ、汚染原因の特定が容易且つ迅速且つ確実に行われる。
【0030】
ステップSP5では、紫外光を照射した汚染物6を含む部位の拡大像を観察し(SP50)、上記の蛍光を発している領域の形状に基づいて(SP51)、さらに油分の種類が判定される(SP52、SP53)。ここで、「蛍光を発している領域」とは、蛍光が発せられている部位の外郭で囲まれた範囲であり、すなわち図4(a)に示す如く、その全域から蛍光が発せられている領域61aのような場合と、図4(b)に示す如く、蛍光が発せられていないか又は他の部分に比して発光強度が小さい部位62を一部に含む領域61bのような場合が含まれる。そして、後述するように、本発明では、このような領域61aと領域61bとで示されるような発光形状の相違に基づいて、油分の種類が判定される。
【0031】
既に述べたように、本発明の判定対象である「油分」とは、グリースとグリース以外の油分である。これらのうち、グリースは基油と増稠剤との混和物であり、グリースが紙5上に付着すると、グリースの増稠剤は紙5繊維に浸透せずに付着部分(図4(b)に示す部位62)に留まる一方で、基油はその付着部分を中心にして略同心円状に紙5繊維へ浸透する(図4(b)の領域61bに斜線で示す環状部分)。グリースが付着した部位に紫外光が照射されると、増稠剤部分(部位62)からは蛍光が発せられないか、増稠剤に付随する若干の基油からの微弱な発光があるのみである。よって、蛍光を発している領域が、領域61bのように、蛍光を発していないか又は蛍光の発光強度が小さい部位62を一部に含む(SP51)ときには、汚染物6はグリースであると判定される(SP52)。
【0032】
これに対し、グリース以外の油分が付着した部位に紫外光が照射されると、グリースの一成分である増稠剤が含まれないので、蛍光を発している領域は、例えば図4(a)に模式的に示す領域61aのような形状となり、この場合、汚染物6はグリース以外の油分であると判定される(SP53)。この場合には、さらに波長成分の異なる紫外光を適宜選択して汚染物6に照射する(SP54)と好適である。一例を示すと、このSP54においては、254ナノメートル、波長285ナノメートル及び/又は波長366ナノメートルの波長成分の紫外光が照射される。そして、上述の如く、油分に含まれる芳香族化合物の環数や構造により、波長の異なる紫外光を照射した場合の蛍光発光の有無又は強度が異なることを利用して、上記各波長の紫外光を照射した場合の強度比(蛍光の発光が無い場合の強度は0とする。)に基づいて、油分の種類がより詳細に特定され(SP55)、汚染物6の検査は終了する(SP200)。
【0033】
この場合、蛍光の強度を数値化するには、受光センサー、例えば可視領域の感度特性が良好なフォトダイオード、フォトトランジスタ、CdSセル等を受光素子とする受光センサーを用いてもよいし、グリース以外の油分としての芳香族化合物の種類がある程度特定されており、目視による強度比の判断で十分であるようなときには、上記の受光センサーを用いなくともよい。こうして油分の種類まで判定されると、汚染源はそれら油分を用いている機器、更にはその機器での使用部(パート)に絞られるので、汚染原因が一層容易且つ迅速且つ確実に特定される。
【0034】
先に説明したように、図2に示す上記ステップSP1において、汚染物6が液状物質ではなく固形物を含むものと判定されると、処理はステップSP4へ移行する。ところで、例えば、グリース等の油分にばい煙や塵埃等が付着してグリースの増稠剤がやや固化したような汚染物6の場合には、拡大鏡2で覗いた視野25内に紙5の繊維51が認められないことが想定され得る。また、固形物に油分が付着した場合にも、同様に紙5の繊維51が認められないことが想定され得る。そこで、これらのような場合にも油分の検知と判定を行うべく、ステップSP4では、まず、紫外光の照射(SP41)が行われ、蛍光が発せられた場合には、処理は前記SP32(汚染物6は油分と判定される)及びそれ以降の処理へと移行する一方で、蛍光が発せられない場合には、処理はSP43へ移行する(SP42)。
【0035】
SP43においては、昆虫の身体の一部が見られるか否かに基づいて、固形物の種類が判定される(SP44、SP45)。ここで、本発明における「固形物」とは、蚊等の昆虫及び昆虫以外の固形物であって、後者の「昆虫以外の固形物」の具体例としては、ばい煙や塵埃といったエアロゾル粒子等が挙げられる。
【0036】
紙5に昆虫が付着すると、多くの場合、図5に模式的に示すように、その昆虫の身体の一部90が略原形を留めて付着している。よって、図5に示す如く、汚染部位を拡大鏡2で覗いた視野25内に、昆虫の身体の一部90、例えば昆虫の眼91や羽根の組織そのものが視認されたときには、汚染物6は昆虫であると判定される(図2に示すSP44)。また、そういった昆虫の身体の一部90が見られないときには、汚染物6は昆虫以外の固形物と判定される(図2に示すSP45)。例えば、紙5の繊維51間に黒い粒状物質が集積したような状態で付着していて、紙5の繊維51が明確に認められないときには、汚染物6は昆虫以外の固形物と判定され、その物体が特定される。このように、固形物の種類が判定される(SP44、SP45)と、汚染物6の判定処理は終了する(SP200)。そして、固形物の汚染源は、昆虫又は昆虫以外の固形物が発生又は紙5の製造現場へ侵入する虞のある箇所へ絞られ、汚染原因がより一層容易且つ迅速且つ確実に特定される。
【0037】
上記の本発明に係る実施形態によれば、汚染物6の拡大像の観察、紫外光の照射及び蛍光の観察を行うことにより、分析機器による厳密な分析を用いなくとも、汚染物6の種類が汚染の発生現場で簡易且つ早急に然も詳細に判定されるので、汚染原因が容易且つ迅速且つ確実に特定される。その結果、汚染発生時の対策を的確且つ速やかに講じることが可能となる。
【0038】
さらに、紫外光源3から出射される紫外光の波長成分が、単環芳香族化合物及び多環芳香族化合物の両者の共鳴吸収波長に対応しているので、広範な種類の油分が判定対象に含まれる。また、各波長成分の紫外光を照射したときの蛍光の発光強度比に基づいて、油分の種類がより詳細に特定される。したがって、多岐に渡る種類の油分を用いた現場でも、グリース又はグリース以外の油分の判定、さらには油分の種類の特定が明確に行われて汚染原因が一層確実に特定され、汚染発生時の対策をより一層的確に講じることができる。
【0039】
またさらに、拡大鏡2が、紫外光が照射された部位から発せられる蛍光を観察するのに使用され、且つ蛍光を発している領域61a,61bの形状を観察するのにも使用されるので、汚染物6の付着部位の面積が小さい故に、蛍光及び蛍光を発している領域61a,61bの形状を観察することが困難な場合でも、この部位を拡大鏡2で拡大して見ることにより、汚染物6の付着部位の観察が確実に実施されるので、汚染物6の判定精度が高められる。よって、汚染原因がより一層確実に特定されて汚染発生時の対策をより一層的確に講じることが可能となる。
【0040】
加えて、装置が拡大鏡2、紫外光源3、可視光源4及び透明架台12より成る簡略な構成なので、従来使用している分析機器に比して部品点数が少なく軽量且つ小型となる。したがって、装置の操作性が高められて作業性を向上できると共に、装置が安価となって経済性を向上することが可能である。さらに、拡大鏡2に関節部23を設けて汚染部位を見易くしたので、汚染部位の視認性が高められる。よって、装置の操作性が一層高められて作業性を一層向上できる。
【0041】
なお、上記実施形態の検査装置1として、汚染部位を目視により観察して汚染物6を判定する為の構成が採用されているが、オンラインで且つ人間が介在しないで汚染物6の判定を行う装置としてもよい。また、上記実施形態では、先に言及したように紙5に限定して説明したが、不織布又は織布であってもよい。
【0042】
また、上述の実施形態では、紫外光ランプ32として中圧又は高圧水銀ランプが用いられているが、低圧水銀ランプ(点灯中の水銀蒸気圧が1〜10パスカル程度、紫外領域の主な波長成分は254ナノメートル)や超高圧水銀ランプ(紫外領域の主な波長成分は366ナノメートル)を単独で用いたり、各々を組み合わせて用いてもよいし、より短波長の紫外光を出射するエキシマ紫外ランプやエキシマレーザー等を組み合わせてもよく、又は略300ナノメートルから可視及び赤外領域にかけて連続発光スペクトルを有するような例えばキセノンガス等の希ガスが封入された希ガスランプ等を用いても構わない。さらに、紫外光ランプ32は紫外光を連続出射するものであってもよいし、フラッシュランプのようにパルス出射するものであってもよい。そして、紫外光ランプ32を複数用いるときには、円筒筐体31内にそれら紫外光ランプ32を一体的に収納してもよいし、分割された円筒筐体31としてもよい。さらに、円筒筐体21,31,41は円筒に限られるものではなく、例えば角筒状等を成していてもよく、或いは無くてもよい。
【0043】
さらに、図1に示す検査装置1の紫外光源3及び可視光源4は、拡大鏡2が設置されている側(図1における図示上面側)から光を照射するように配設されているが、紫外光や可視光が透過できる程度の厚さの紙5又は布が対象であれば、反対側(図1における図示下面側)に紫外光源3及び可視光源4を位置させて透過光源として用いても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の汚染物の検査装置に係る一実施形態を示す斜視図である。
【図2】紙又は布に付着した汚染物の検査方法に係る一実施形態を示す工程説明図である。
【図3】紙の汚染部位を拡大鏡で覗いた視野内に見られる紙繊維を示す模式図である。
【図4】蛍光を発している領域の形状を説明する模式図であり、図4(a)は、全域から蛍光が発せられている領域の形状を示し、図4(b)は蛍光が発せられていないか又は他の部分に比して発光強度が小さい部位を一部に含む領域の形状を示す。
【図5】紙の汚染部位を拡大鏡で覗いた視野内に見られる昆虫の身体の一部を示す模式図である。
【符号の説明】
【0045】
1…検査装置(汚染物の検査装置)、2…拡大鏡(表面観察手段)、3…紫外光源(紫外光照射手段)、4…可視光源(可視光照射手段)、5…紙(紙又は布)、6…汚染物、11…連結部材(接合部材)、12…透明架台(保持手段)、61a,61b…領域(蛍光を発している領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物を含む部位の拡大像を観察するための表面観察手段と、前記汚染物を含む部位に紫外光を照射する紫外光照射手段と、前記汚染物を含む部位に可視光を照射する可視光照射手段とを備え、
前記表面観察手段、前記紫外光照射手段及び前記可視光照射手段がそれぞれ接合部材により接合されて一体構造を成し、前記手段のそれぞれの端部と検査対象物との距離を所定の距離に保持する保持手段として透明架台を更に備えることを特徴とする汚染物の検査装置。
【請求項2】
前記汚染物は、紙又は布の表面に付着したものであることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記紫外光照射手段は、254ナノメートルの波長成分を含む紫外光と、285ナノメートル及び/又は366ナノメートルの波長成分を含む紫外光を出射可能な手段であることを特徴とする請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記汚染物がグリースであるかグリース以外の油分であるかを少なくとも判定可能であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−268228(P2008−268228A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148443(P2008−148443)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【分割の表示】特願平11−82277の分割
【原出願日】平成11年3月25日(1999.3.25)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】