説明

汚染物質除去方法及び露光方法

【課題】光学系内の所定の光学部材に付着した汚染物質を迅速に除去できる汚染物質除去方法である。
【解決手段】パターンを有する第1物体(R)を介して露光ビームで第2物体(W)を露光する露光装置内で前記露光ビームが通過する光学系の光学部材(90,100)の表面に付着した汚染物質を除去する汚染物質除去方法において、所定の洗浄液を用いて、前記光学部材に付着した汚染物質を除去すると共に、前記光学部材から前記洗浄液を除去し、前記汚染物質および前記洗浄液の除去を定期的に複数回実行した後で少なくとも前記光学部材を交換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材の表面に付着した汚染物質を除去するための汚染物質除去技術に関し、特に露光光源としてエキシマレーザー光源等を用いる投影露光装置の照明光学系又は投影光学系中の光学部材の表面に付着する汚染物質を除去するために使用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
投影露光装置用の光学部材に限らず、光学部材に分類される部材では、表面に付着する異物の存在が、光線の透過率低下や照度ムラ等の原因となり、本来持つべき光学性能が得られなくなるため、種々の対策が講じられてきた。
眼鏡レンズや自動車のフロントガラスといった主に水滴による曇りをきらう部材には、最上層に界面活性剤含有防曇剤を塗布したり(例えば特開昭56−90876号公報参照)、表面粗さを粗にして表面積を大きくすることによって濡れ性を増加させて防曇したり(例えば特開昭55−154348号公報参照)、フッ素を有する物質や疎水性ポリマーでコーティングしたり(例えば特開昭54−74291号公報参照)することによって水滴の付着を防止する方法が採られてきた。
【0003】
一方、例えば半導体素子又は液晶表示素子等のデバイスを製造するためのリソグラフィ工程中で、マスクとしてのレチクルのパターンを感光基板(感応物体)としてのレジストが塗布されたウエハ(又はガラスプレート等)の各ショット領域に転写するために使用される投影露光装置においては、露光ビームとしてエキシマレーザーのようなパルスレーザー光が使用されるようになって来ている。しかしながら、パルスレーザー光の光路上の気体中に微量な有機系物質等が存在すると、一種の光CVD(Chemical Vapor deposition) 作用によって、その光路上の光学部材の表面に薄膜状の汚染物質が付着して、透過率が次第に低下したり、照度むらが生じたりする恐れがある。
【0004】
そこで、投影露光装置においては、照明光学系や投影光学系中の光学部材の表面に汚染物質が付着するのを防止するために、従来よりカメラ技術等で用いられていた以下の(1) 又は(2) の方法を適用することが検討されていた。
(1) 汚染物質が付着し易い部分の光学部材の表面に光触媒である酸化チタン膜を成膜し、その光触媒作用によって有機系汚染物質を分解させる(例えば特許文献1参照)。
【0005】
(2) その光学部材上に酸化珪素膜を緻密に成膜し、その光学部材の表面積を小さくすることによって、汚染物質の減量を試みたり、その光学部材上にフッ化炭素基を有する有機物膜を成膜して汚染物質との密着性を小さくしたりして、有機系汚染物質の付着量を少なくする(例えば特許文献2参照)。
なお、従来は一例として照明光学系又は投影光学系から汚染物質が付着した光学部材を取り外して、その光学部材を交換することも行われていた。
【特許文献1】特開平8−313705号公報
【特許文献2】特開平6−5324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の如き従来の技術には以下のような問題点が指摘されている。
先ず(1) の酸化チタン膜を成膜する方法に関しては、酸化チタン膜はi線(365nm)のような比較的長波長側の光に対する透過率は高いものの、KrF及びArFエキシマレーザーのような短波長のレーザー光を吸収するため、そのようなレーザー光に対する透過率がかなり低い。そのため、KrFやArFエキシマレーザー光を露光ビームとする投影露光装置においては、適正露光量を得るための露光時間が長くなりスループットが低下する。更に、長時間の使用下では、酸化チタン膜が光の吸収により発生する熱等によって破壊し始めるため、光学部材の交換が必要となる。
【0007】
また、(2) の光学部材上に酸化珪素膜を緻密に成膜する方法は、その光学部材の反射防止コーティング等の特性を変化させるため、あまり好ましくない。一方、フッ化炭素基を有する有機物膜は酸化チタン膜同様、i線(365nm)のような比較的長波長側の光に対する透過性は高いものの、KrFやArFエキシマレーザーのような短波長のレーザー光は吸収するため、透過率が低下する。更に、そのような短波長のレーザー光の照射によって、フッ化炭素基を有する有機物膜自体が分解してしまう。
【0008】
また、例えば投影光学系中の光学部材を交換するものとすると、交換に要するコストが発生すると共に、光学部材を交換した後の投影光学系の調整に時間を要するという問題もある。
なお、特にパルスレーザー光を用いる場合には、光学部材の表面に付着した有機物等の汚染物質の除去方法として、そのパルスレーザー光の照射によって汚染物質を揮発させる光洗浄を用いることも考えられる。しかしながら、パルスレーザー光によって一種の光CVD作用によって形成された汚染物質は、光洗浄では除去することが困難であるという問題がある。また、汚染物質の種類によっては、アルコールやケトンによる有機溶剤洗浄でも除去できない場合があった。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑み、光学系内の所定の光学部材に付着した汚染物質を迅速に除去できる汚染物質除去技術を提供することを第1の目的とする。
更に本発明は、光洗浄や有機溶剤洗浄でも除去が困難な汚染物質を迅速に除去できる汚染物質除去技術を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、これまで除去不能だった光学部材に付着した有機物系及び無機物系の汚染物質を効果的に除去し、さまざまな光学部品の透過率を回復させるものである。
本願の請求項1に係る発明は、パターンを有する第1物体を介して露光ビームで第2物体を露光する露光装置内で前記露光ビームが通過する光学系の光学部材の表面に付着した汚染物質を除去する汚染物質除去方法において、所定の洗浄液を用いて、前記光学部材に付着した汚染物質を除去すると共に、前記光学部材から前記洗浄液を除去し、前記汚染物質および前記洗浄液の除去を定期的に複数回実行した後で少なくとも前記光学部材を交換するものである。
【0011】
また、本明細書の発明の実施形態には、以下の発明も記載されている。即ち、本発明による第1の汚染物質除去方法は、フッ化水素酸を含むエッチング液を使って、光学部材に付着した汚染物質を除去する汚染物質除去工程と、水又は有機溶剤を使って、前記エッチング液を前記光学部材から除去するエッチング液除去工程とを有するものである。
本発明によれば、酸化珪素を溶解するフッ化水素酸を含むエッチング液を使うことで、これまで除去できなかった酸化珪素を含む汚れ物質を溶解、除去することができる。
【0012】
また、本発明による光学部材は、本発明の汚染物質除去方法によって処理された光学部材である。本発明による光学部材は、高い透過率を有する。
また、本発明による第1の投影露光装置は、投影光学系(500)を用いてマスク(R)のパターン像を基板(W)上に投影露光する投影露光装置であって、真空紫外線を露光光としてマスクを照明する照明光学系(101)と、本発明のフッ化物薄膜を有する光学素子を含み、そのマスクのパターン像を基板上に形成する投影光学系と、からなるものである。
【0013】
また、本発明による第2の投影露光装置は、投影光学系(500)を用いてマスク(R)のパターン像を基板(W)上に投影露光する投影露光装置であって、本発明のフッ化物薄膜を有する光学素子を含み、真空紫外線を露光光としてマスクを照明する照明光学系(101)と、そのマスクのパターン像を基板上に形成する投影光学系と、からなるものである。
【0014】
次に、本発明による第2の汚染物質除去方法は、光学系(5,PL)内の光学部材(20,32A,32B)の表面に付着した汚染物質を除去するための汚染物質除去方法であって、その光学系の所定の光学特性を計測し、この計測結果に基づいてその光学部材に付着した汚染物質を除去するかどうかを判定する第1工程(ステップ201,202)と、所定の洗浄液を用いて、その光学部材に付着した汚染物質を除去する第2工程(ステップ205)と、その洗浄液をその光学部材から除去する第3工程(ステップ206,207)と、その光学部材に残存する汚染物質に関する情報を求める第4工程(ステップ208)とを有するものである。
【0015】
斯かる本発明によれば、所定の洗浄液を用いてその光学部材の汚染物質を除去した後、その洗浄液を除去するだけで、例えば有機溶剤などでは除去が困難な汚染物質を迅速に除去することができる。更に、汚染物質が残存している場合には、その第1工程及び第2工程を繰り返すことによって、汚染物質を確実に除去することができる。
この場合、その汚染物質の除去対象の表面は、その光学系(5,PL)の端部に配置された光学部材(20,32A,32B)の外面であり、その第1工程からその第4工程は、それぞれその光学部材がその光学系内に配置された状態で実行されることが望ましい。これによって、その光学部材をその光学系から取り外すことなく、汚染物質を迅速に除去できる。
【0016】
また、本発明による第3の汚染物質除去方法は、照明光学系(5)からの露光ビームで第1物体(R)を照明し、その露光ビームでその第1物体及び投影光学系(PL)を介して第2物体(W)を露光する露光装置におけるその照明光学系又はその投影光学系中の光学部材(20,32A,32B)の表面に付着した汚染物質を除去するための汚染物質除去方法であって、その照明光学系又はその投影光学系の所定の光学特性を計測し、この計測結果に基づいてその光学部材に付着した汚染物質を除去するかどうかを判定する第1工程(ステップ202,203)と、所定の洗浄液を用いて、その光学部材に付着した汚染物質を除去する第2工程(ステップ205)と、その洗浄液をその光学部材から除去する第3工程(ステップ206,207)と、その光学部材に残存する汚染物質に関する情報を求める第4工程(ステップ208)とを有するものである。
【0017】
斯かる本発明によれば、所定の洗浄液を用いてその光学部材の汚染物質を除去した後、その洗浄液を除去するだけで、例えば有機溶剤洗浄では除去が困難な汚染物質を迅速に除去することができる。更に、汚染物質が残存している場合には、その第1工程及び第2工程を繰り返すことによって、汚染物質を確実に除去することができる。
この場合、その汚染物質の除去対象の表面は、その投影光学系のその第1物体側又はその第2物体側の端部の光学部材(20,32A,32B)の外面であり、その第1工程からその第4工程は、それぞれその光学部材がその投影光学系に組み込まれた状態で実行されることが望ましい。特に投影光学系の内部に不純物を高度に除去した窒素ガスや希ガスなどの露光ビームを透過する気体を供給する場合には、その投影光学系の内部には汚染物質が付着することがなく、周囲の気体と接触するその投影光学系の端部の光学部材の外面に汚染物質が付着することがある。この際に、本発明によれば、その光学部材をその光学系から取り外すことなく、その汚染物質を迅速に除去できる。
【0018】
また、その光学部材が、その投影光学系のその第1物体側の端部の部材(32A)である場合に、その第2工程の前に、その照明光学系のその第1物体側の端部の光学部材(19,20)を取り外す工程(ステップ204)を更に有することが望ましい。その照明光学系の端部の光学部材を取り外すことによって、その投影光学系の光学部材を洗浄するための空間を確保することができる。更に、照明光学系は投影光学系に比べて調整精度は粗くてよいため、投影光学系の光学部材の洗浄後に照明光学系の組立調整は短時間に実行することができる。
【0019】
また、上記の洗浄と共に、その照明光学系のうち、少なくともその汚染物質が付着したその第1物体側端部の光学部材(20)を含むその一部を交換する工程を更に含むようにしてもよい。照明光学系は組立調整が比較的容易であるため、汚染物質が付着した光学部材を交換しても、露光工程をすぐに始めることができる。
また、その露光装置が走査露光型である場合、その第2工程は、その洗浄液を染み込ませた部材をその光学部材の表面に接触させてその第1物体又はその第2物体の走査方向に直交する非走査方向に往復させる工程を含むことが望ましい。
【0020】
汚染物質が露光ビームの一種の光CVD作用によって形成される場合、走査露光型では特に第1物体又は第2物体に近い光学部材の表面に付着する汚染物質は、ほぼ非走査方向に細長い領域に付着する。従って、その部材を非走査方向に往復させるだけで、効率的に汚染物質を除去できる。
また、その第4工程は、一例として分光光度計を用いてその光学部材の表面の反射率を計測する工程(ステップ208)を含むものである。分光光度計によって例えば反射率を計測できるため、反射率のレベルによって汚染物質の残存の程度を調べることができる。
【0021】
また、その第1工程から第4工程を定期的に複数回実行した後で、少なくともその光学部材を交換する工程を更に含むようにしてもよい。このように定期的な洗浄を行うことで、その光学部材の交換回数を減少させることができ、露光工程のスループットが高く維持される。
次に、本発明の第1の汚染物質除去装置は、照明光学系(5)からの露光ビームで第1物体(R)を照明し、その露光ビームでその第1物体及び投影光学系(PL)を介して第2物体(W)を露光する露光装置におけるその照明光学系又はその投影光学系中の光学部材(32A)の表面に付着した汚染物質を除去するための汚染物質除去装置であって、その光学部材の表面までの空間の少なくとも一部を覆う筒状部材(53)と、所定の洗浄液を染み込ませた清掃部材(59A,59B))が着脱自在に取り付けられると共に、その清掃部材をその光学部材の表面に接触させた状態で移動するために、その光学部材の表面に沿って移動自在に配置される支持部材(56)と、その支持部材を移動するために、少なくとも一部がその筒状部材の内部に移動自在に配置される棒状部材(58)とを有するものである。
【0022】
斯かる本発明によれば、その棒状部材を介してその支持部材をその光学部材の表面で動かすだけで、迅速に汚染物質を除去できる。
また、本発明の第2の汚染物質除去装置は、照明光学系(5)からの露光ビームで第1物体(R)を照明し、その露光ビームでその第1物体及び投影光学系(PL)を介して第2物体(W)を露光する露光装置におけるその照明光学系又はその投影光学系中の光学部材(20,32B)の表面に付着した汚染物質を除去するための汚染物質除去装置であって、所定の洗浄液を染み込ませた清掃部材(68)が着脱自在に取り付けられると共に、その清掃部材をその光学部材の表面に接触させた状態で移動するために、その光学部材の表面に沿って移動自在に配置される支持部材(67)を有するものである。
【0023】
斯かる本発明によれば、その支持部材をその光学部材の表面に沿って動かすだけで、迅速に汚染物質を除去できる。
また、その露光装置が走査露光型である場合、その支持部材は、その第1物体又はその第2物体の走査方向に直交する非走査方向に移動自在に配置されることが望ましい。これによって走査露光型に特有の汚染物質を効率的に除去できる。
【0024】
また、その支持部材には、その洗浄液を除去するための溶液を染み込ませた洗浄液除去部材も着脱自在に取り付けられることが望ましい。これによって、共通の支持部材を用いて、その洗浄液を容易に除去できる。
また、本発明で使用されるその洗浄液は、フッ化水素酸を含むことが望ましい。フッ化水素酸は酸化珪素を溶解するため、それを含む洗浄液を使うことで、これまで除去できなかった酸化珪素を含む汚染物質を溶解し、除去することができる。
【0025】
また、その洗浄液は、フッ化水素酸にフッ化アンモニウムを添加して、PHが4〜6程度に調整されることが望ましく、その洗浄液を除去するために、水及び有機溶剤の少なくとも一方を用いることが望ましい。これによって、その洗浄液が汚染物質以外の反射防止膜等に悪影響を与えないように設定されると共に、汚染物質の除去後にその洗浄液を確実に除去できる。
【0026】
その有機溶剤は、一例としてイソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトンのうち1つの物質、又はそれらの混合物である。手軽に使用できるものとしては、メタノールが望ましい。
また、その光学部材は、一例として石英、蛍石、又はこれ以外の光学ガラスからなる部材の表面にフッ化物及び酸化物の少なくとも一方からなる複数の薄膜を形成したものである。即ち、その光学部材は、その表面に反射防止膜のような膜が形成されたものである。特に露光ビームの光CVD作用によってその反射防止膜の表面に酸化珪素が付着すると、反射率特性が悪化するため、本発明が有効となる。
【0027】
そのフッ化物は、一例としてフッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、クライオライト、チオライト、フッ化ネオジウム、フッ化ランタン、フッ化ガドリニウム、フッ化イットリウムのうち少なくとも1つである。そして、その酸化物は、一例として酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムのうち少なくとも1つである。なお、その光学部材の最表面(薄膜)はフッ化水素酸を含むエッチング液(BOE)の影響を受けにくい(溶解しにくい)フッ化物が望ましい。
【0028】
次に、本発明の第1の露光方法は、照明光学系(5)からの露光ビームで第1物体を照明し、その露光ビームでその第1物体及び投影光学系(PL)を介して第2物体を露光する露光方法において、その照明光学系又はその投影光学系中の光学部材(20,32A,32B)の表面の汚染物質を除去するために本発明の何れかの汚染物質除去方法を用いるものである。本発明によれば、その光学部材の反射率又は透過率を良好な状態に維持できるため、常に高スループットで露光を行うことができる。
【0029】
また、本発明の第1の露光装置は、照明光学系(5)からの露光ビームで第1物体を照明し、その露光ビームでその第1物体及び投影光学系(PL)を介して第2物体を露光する露光装置において、その照明光学系又はその投影光学系中の光学部材(20,32A,32B)の表面の汚染物質を除去するために本発明の何れかの汚染物質除去装置が装着可能であるものである。本発明によれば、その光学部材を取り外すことなく、迅速に汚染物質を除去できる。
【0030】
次に、本発明による第4の汚染物質除去方法は、パターンを有する第1物体(R)を介して露光ビームで第2物体(W)を露光する露光装置内でその露光ビームが通過する光学系(5,PL)の光学部材(20,32A,32B)の表面に付着した汚染物質を除去する汚染物質除去方法において、所定の洗浄液を用いてその光学部材に付着した汚染物質を除去すると共に、その光学部材からその洗浄液を除去し、その汚染物質及びその洗浄液の除去を定期的に複数回実行した後で少なくともその光学部材を交換するものである。
【0031】
この発明によれば、その光学部材から例えば有機溶剤などでは除去が困難な汚染物質を迅速に除去できる。更に、定期的な洗浄を行うことで、その光学部材の交換回数を減少させることができる。
この場合、その光学系の光学特性を計測し、この計測結果に基づいてその汚染物質の除去の要否を判定することが望ましい。
【0032】
また、その光学系で生じるフレアに関する情報を計測すると共に、そのフレアが許容値を超えているときその光学部材に付着した汚染物質の除去を行うようにしてもよい。例えば汚染物質によってフレアが発生する場合には、汚染物質の除去によってフレアを低減させることができる。
また、本発明の第5の汚染物質除去方法は、パターンを有する第1物体(R)を介して露光ビームで第2物体(W)を露光する露光装置内でその露光ビームが通過する光学系(5,PL)の光学部材(20,32A,32B)の表面に付着した汚染物質を除去する汚染物質除去方法において、その光学系で生じるフレアに関する情報を計測すると共に、そのフレアが許容範囲を超えているとき、所定の洗浄液を用いてその光学部材に付着した汚染物質を除去すると共に、その光学部材からその洗浄液を除去するものである。
【0033】
この発明によれば、汚染物質によってフレアが発生する場合に、その汚染物質を除去することでフレアを迅速に低減させることができる。
この場合、その汚染物質の除去後にその光学部材に残存する汚染物質に関する情報を求めるか、又はその光学部材の表面の反射率を計測することが望ましい。
また、本発明による第6の汚染物質除去方法は、パターンを有する第1物体(R)を介して露光ビームで第2物体(W)を露光する露光装置内でその露光ビームが通過する光学系(5,PL)の光学部材(20,32A,32B)の表面に付着した汚染物質を除去する汚染物質除去方法において、所定の洗浄液を用いてその光学部材に付着した汚染物質を除去すると共に、その光学部材からその洗浄液を除去する第1工程(ステップ205〜207)と、その除去後にその光学部材の表面の反射率を計測する第2工程(ステップ208)とを含むものである。
【0034】
この発明によれば、例えばその反射率の計測値に応じてその第1工程を繰り返すことによって、汚染物質を迅速に且つ確実に除去できる。
この場合、その光学部材の表面の反射率を計測するために分光光度計を用いることが望ましい。
また、その洗浄液はフッ化水素酸を含むことが望ましい。これによって、酸化珪素を含む汚染物質を溶解し、除去することができる。
【0035】
また、その洗浄液はそのフッ化水素酸にフッ化アンモニウムが添加されることが望ましく、その洗浄液はPHが4〜6程度であることが望ましい。これによって、その洗浄液が汚染物質以外の反射防止膜等に悪影響を与えないように設定される。また、その光学部材からその洗浄液を除去するために水及び有機溶剤の少なくとも一方を用いることが望ましい。
【0036】
また、その光学系は、一例として、その第1物体のパターン像をその第2物体上に投影する投影光学系を含み、その表面に付着した汚染物質が除去される光学部材は、その投影光学系の少なくとも一方に設けられる。
また、その表面に付着した汚染物質が除去される光学部材は、一例として少なくともその第1物体側のその投影光学系の一端に設けられ、その光学系は、その露光ビームをその第1物体に照射する照明光学系を含み、その第1物体側に配置されるその照明光学系の一部を取り外した後でその汚染物質の除去を行うことが望ましい。
【0037】
また、その表面に付着した汚染物質が除去される光学部材は、一例として少なくともその第1物体側のその投影光学系の一端に設けられ、その第1物体を保持する可動体(22)を有するステージシステムのうち少なくともその可動体を取り外した後でその汚染物質の除去を行うようにしてもよい。その可動体を取り外すことで、除去作業が容易になる。
また、その露光装置が、その第1及び第2物体を同期移動する走査露光型である場合に、その光学部材からその汚染物質を除去するために、その洗浄液を染み込ませた部材をその光学部材の表面に接触させてその同期移動が行われる走査方向と直交する非走査方向に往復させることが望ましい。走査露光型では、光学部材の表面の非走査方向に細長い領域に汚染物質が堆積する場合があるため、その非走査方向への往復動作によって効率的に汚染物質を除去できる。
【0038】
また、一例として、その光学系はその内部にその露光ビームの減衰が空気よりも少ない気体が供給され、その汚染物質の除去対象となる面は、その光学系の少なくとも一端に設けられる光学部材の外面を含むものである。
また、別の例として、その光学系は、その露光ビームをその第1物体に照射する照明光学系を含み、その表面に付着した汚染物質が除去される光学部材(20)は、その第1物体側のその照明光学系の一端に設けられるものである。
【0039】
また、その光学系は、その露光ビームをその第1物体に照射する照明光学系を含み、その照明光学系のうち、その汚染物質が付着したその第1物体側の端部の光学部材(20)を少なくとも含むその一部を交換するようにしてもよい。その交換が行われるその照明光学系の一部は、例えばコンデンサレンズを含むものである。
また、その表面に付着した汚染物質が除去される光学部材は、一例としてフッ化物及び酸化物の少なくとも一方からなる複数の薄膜が表面に形成される。この薄膜が反射防止膜である場合に、その上に汚染物質の膜が形成されると、その反射率特性が劣化するが、汚染物質の除去によって反射率特性を改善できる。
【0040】
また、その表面に付着した汚染物質が除去される光学部材は、一例として平行平面板である。平行平面板は、除去作業を容易にかつ確実に行うことができる。
また、その露光ビームは、一例としてその波長が200nm程度以下である。この場合に汚染物質が生じ易いため、本発明の効果が大きくなる。
また、一例としてその露光装置はデバイス製造工場のクリーンルーム内に設置されており、その汚染物質の除去は、その露光装置の運用を停止して行われる。本発明によれば、汚染物質の除去作業は短時間に実行されるため、その運用の停止期間を短縮できる。
【0041】
次に、本発明の第2の露光方法は、本発明の何れかの汚染物質除去方法を用いて、その光学部材の表面に付着した汚染物質を除去する工程を含み、その第1物体を介してその露光ビームでその第2物体を露光するものである。
また、本発明のデバイス製造方法は、本発明の露光方法を用いてデバイスパターン(R)を感応物体(W)上に転写する工程を含むものである。本発明の適用によってスループットが常に高く維持される。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、その光学部材から例えば有機溶剤などでは除去が困難な汚染物質を迅速に除去できる。更に、定期的な洗浄を行うことで、その光学部材の交換回数を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
[本発明の第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態につき図1〜図3を参照して説明する。
(実施例1)
ArFエキシマレーザーを使った投影露光装置において、ステージに最も近いレンズ表面にはシロキサン系汚れ成分がレーザー光で分解、合成して、酸化珪素膜が長い時間かけて堆積していくことが知られている。この酸化珪素膜は純粋なSiO2 であり、深紫外領域でも吸収が無い堆積物である。しかし、反射防止膜の上に屈折率が異なる酸化珪素膜が堆積すると、反射特性が悪化してしまう。
【0044】
図1は、波長と光学部材の反射率とを示す図である。図1中、石英基板上に広帯域反射防止膜(MgF2/LaF3/MgF2/LaF3/MgF2/LaF3)が施された光学部材A、光学部材A上に汚れを付けた部材B、及び部材Bを本発明の汚染物質除去方法で処理した部材Cの反射率特性をそれぞれ曲線A,B,及びCで示す。具体的な汚れは、レーザー光で酸化珪素とが堆積した厚さ10nmの堆積物である。図1に示すように、ArFエキシマレーザー波長(193nm)において反射率は、部材Aの反射率0.1%、部材Bの反射率4%、部材Cの反射率0.1%である。
【0045】
そこで、本発明のフッ化水素酸を含むエッチング液を使ってこの酸化珪素汚染を除去したのち、水及びメタノールでフッ化水素酸を含むエッチング液を洗い落とした。使ったエッチング液の成分は、フッ化水素酸水溶液(HF、50wt%)とフッ化アンモニウム(NH4F、40wt%)とを容積比で1:10で混合したものである。以降、本発明におけるフッ化水素酸水溶液(HF、50wt%)とフッ化アンモニウム(NH4F、40wt%)とを容積比で1:10で混合した液をBOE(buffered oxide etch)と称することにする。フッ化アンモニウムを混ぜるのは、PH調整することによって酸化珪素以外の、例えば光学薄膜のフッ化マグネシウム層やフッ化ランタン層、基板である蛍石などに悪影響を与えない様にするためである。PHは、PH=4〜PH=6が適しており、PH=5程度が最適である。
【0046】
ポリプロピレン製拭き布に上記のBOEを染み込ませて、10秒間から60秒間光学部材を拭いて酸化珪素汚染を除去した。BOEの酸化珪素に対するエッチングレートは25℃でおよそ70nm/minであるため、10nmの酸化珪素を除去するには10秒で十分である。ここで、エッチングレートとは、1分間当たりに酸化珪素を溶解する量(深さ)である。その後、水で光学部材を洗浄してBOEを洗い落として、残留成分が光学薄膜及び基板に悪影響を与えない様にする。
【0047】
分光特性の計測結果は、図1の曲線Cから分かるように、ArFエキシマレーザー波長(193nm)において、反射特性は完全に元の良好な値0.1%の反射率に戻った。更に、図1に示すように、180nm〜250nmの波長域における反射特性は、完全に元の良好な反射率に戻った。これにより光学薄膜及び光学部材に悪影響を与えることなく、酸化珪素汚染だけを除去できたことが分かる。また、透過特性や表面粗さについても元の広帯域反射防止膜の特性と同等であったことも付け加える。
【0048】
今回はフッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合の割合を1:10にしたが、混合割合を変えても効果に大差は無い。また、フッ化水素を水で更に希釈したものでも構わない。
このように汚染物質が酸化珪素だけであると分かっている場合は、フッ化水素酸とフッ化アンモニウム混合液で十分な効果を示す。
(実施例2)
しかし、これに炭化水素などの有機物質や硫酸アンモニウムなどの無機物質を含んだ汚れに対しては、不十分である。そこで、フッ化水素酸水溶液(HF、50wt%)とフッ化アンモニウム(NH4F、40wt%)とを容積比で1:10で混合したBOEと、イソプロピルアルコールとを1:1に混合したエッチング液(BOE/IPA)を調製した。その理由は、炭化水素はイソプロピルアルコールで溶解し、硫酸アンモニウムは水に溶解し、酸化珪素はフッ化水素酸で溶解する。そのため、BOE/IPAをエッチング液として使うことで様々な汚染物質を速やかに除去することが可能であるためである。
【0049】
KrFエキシマレーザーを使った投影露光装置において、レーザー光源から投影レンズまでエキシマレーザー光を運ぶリレーユニット(光学系)で実際に発生した汚れをBOE/IPAで除去してみた。図2は、波長と光学部材の透過率とを示す図である。図2中、石英基板上に反射防止膜(MgF2/NdF3/MgF2)が施された光学部材D、光学部材D上に汚れを付けた部材E、及び部材Eを本発明の汚染物質除去方法で処理した部材Fの透過率分布をそれぞれ曲線D,E,及びFで示す。具体的な汚れは、有機系汚れとレーザー光で酸化珪素とが堆積した厚さ5nmの混合堆積物である。図2に示すように、KrFエキシマレーザー波長(248nm)において透過率は、部材Dでは100%、部材Eでは72%、部材Fでは99%である。汚れの原因は、炭化水素と酸化珪素の混合物であると予想される。この光学部材をBOE/IPAで満たしたビーカーに60秒間漬けて汚染物質を溶解した後、純水及びメタノールでBOE/IPAを洗い流した。
【0050】
図2から分かるように、除去後の曲線Fの波長248nmにおける透過率は99%以上にまで回復し、分光特性も元の特性にまで回復している。また、反射や表面粗さについても元の光学部材の特性と同等であったことも付け加える。更に、図2に示すように、190nm〜400nmの波長域における透過特性は、完全に元の良好な透過率分布に戻った。これにより、光学薄膜及び基板に悪影響を与えることなく、汚染だけを除去できたことが分かる。
【0051】
本実施形態では、基板を石英としたがこれに限ることなく、蛍石やその他の光学ガラスでもよい。また、有機溶剤をイソプロピルアルコールとしたがこれに限ることなくメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトンであってもよい。
また、反射防止膜の膜構成は、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、クライオライト、チオライト、フッ化ネオジウム、フッ化ランタン、フッ化ガドリニウム、フッ化イットリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムのうち少なくとも1つから構成されればよい。なお、光学部材の最表面(薄膜)はフッ化水素酸を含むエッチング液(BOE)の影響を受けにくい(溶解しにくい)フッ化物が望ましい。
【0052】
(実施例3)
次に、本発明の投影露光装置の一例を説明する。
図3は、本発明に係る汚染物質除去方法が施された光学部材を用いた投影露光装置の基本構造であり、フォトレジストでコートされたウエハ上にレチクルのパターンのイメージを投影するための、ステッパ又はスキャナーと呼ばれるような投影露光装置に特に応用される。
【0053】
図3に示すように、本例の投影露光装置は少なくとも、基板(ウエハ等)801の表面に感光剤(フォトレジスト)701が塗布された感光基板(以下、単に基板と呼ぶ)Wが表面301aに置かれる基板ステージ(ウエハステージ)301と、露光光として用意された波長の真空紫外光を照射し、基板W上に用意されたマスク(以下ではレチクルと呼ぶ)Rのパターンを転写するための照明光学系101と、照明光学系101に露光光を供給するための光源100と、基板W上にレチクルRのパターンのイメージを投影するために、そのパターンが形成されるレチクルRの下面(パターン面)が配される第1面(物体面)P1と基板W(感光層701)の表面が配される第2面(像面)P2とを有し、レチクルRと基板Wとの間で露光光が通る光路上に置かれた投影光学系500とを含む。なお、図3では第1面及びレチクルRのパターン面を共にP1とし、第2面及び基板Wの表面を共にP2として示している。また、照明光学系101を通る露光光を分岐してアライメント光として用い、レチクルRと基板Wとの相対位置を調節するためのアライメント光学系110も設けられており、レチクルRは投影光学系500の第1面P1に対して平行に動くことのできるレチクルステージ190に配置される。レチクル交換系200は、レチクルステージ190にセットされたレチクルRを交換し運搬するとともに、レチクルステージ190を駆動するステージドライバー(例えばリニアモータ)などを含んでいる。図示していないが、投影光学系500とは別設され、露光光と波長が異なるアライメント光を用いて基板W上のアライメントマークを検出するオフアクシス方式のアライメント光学系も設けられている。ステージ制御系300は、ウエハステージ301を駆動するステージドライバー(例えばリニアモータ)などを含んでおり、前述のアライメント光学系の検出結果などが出力される主制御部400は、光源100、レチクル交換系200、及びステージ制御系300などを始めとして装置全体を統括制御する。
【0054】
そして、本例の投影露光装置は、前記本例の汚染物質除去方法が施された光学部材を使用したものである。具体的には、図3に示した本例の投影露光装置は、照明光学系101の光学レンズ90及び/又は投影光学系500の光学レンズ100として本例の方法で汚染物質が除去された光学部材を備えることが可能である。
なお、本例では照明光学系101又は投影光学系500を構成する複数の光学部材の少なくとも1つで汚染物質が除去されているものとしているが、例えば照明光学系101又は投影光学系500の内部が、露光光の透過率が高く且つ不純物が高度に除去された気体(例えば、窒素、あるいはヘリウムなどの不活性ガス)でパージされているときは、その外部の雰囲気に一面が曝される光学部材、即ち照明光学系101ではその一端に配置される(最もレチクルRに近い)光学部材、投影光学系500ではその両端に配置される光学部材でその汚染物質を除去することが好ましい。また、本例では汚染物質が除去される光学部材が光学レンズ(レンズエレメント)に限られるものでなくそれ以外、例えば収差補正部材や平行平面板(カバーガラスプレート)などでも構わない。
【0055】
[本発明の第2の実施形態]
以下、本発明の第2の実施形態につき図4〜図12を参照して説明する。
図5は、本例の走査露光型の投影露光装置の概略構成を示し、この図5において、露光光源6としてはArFエキシマレーザー光源(波長193nm)が使用されている。なお、露光光源としては、KrFエキシマレーザー光源(波長248nm)、F2 レーザー光源(波長157nm)、Kr2 レーザー光源(波長146nm)、Ar2 レーザー光源(波長126nm)などの紫外パルスレーザー光源、YAGレーザーの高調波発生光源、固体レーザー(半導体レーザーなど)の高調波発生装置、又は水銀ランプ(i線等)なども使用することができる。
【0056】
露光時に露光光源1からパルス発光された露光ビームとしての露光光(露光用の照明光)ILは、ミラー7、不図示のビーム整形光学系、第1レンズ8A、ミラー9、及び第2レンズ8Bを経て断面形状が所定形状に整形されて、オプティカル・インテグレータ(ユニフォマイザ又はホモジナイザ)としてのフライアイレンズ10に入射して、照度分布が均一化される。フライアイレンズ10の射出面(照明光学系の瞳面)には、露光光の光量分布を円形、複数の偏心領域、輪帯状などに設定して照明条件を決定するための開口絞り(σ絞り)13A,13B,13C,13Dを有する照明系開口絞り部材11が、駆動モータ12によって回転自在に配置されている。照明系開口絞り部材11中の開口絞りを通過した露光光ILは、反射率の小さいビームスプリッタ14及びリレーレンズ17Aを経て、固定視野絞りとしての固定ブラインド18A及び可動視野絞りとしての可動ブラインド18Bを順次通過する。この場合、可動ブラインド18Bは、マスクとしてのレチクルRのパターン面(レチクル面)とほぼ共役な面に配置され、固定ブラインド18Aは、そのレチクル面と共役な面から僅かにデフォーカスされた面に配置されている。
【0057】
固定ブラインド18Aは、レチクル面の照明領域21RをレチクルRの走査方向に直交する非走査方向に細長いスリット状の領域に規定するために使用される。可動ブラインド18Bは、レチクルRの走査方向及び非走査方向に対応する方向にそれぞれ相対移動自在な2対のブレードを備え、露光対象の各ショット領域への走査露光の開始時及び終了時に不要な部分への露光が行われないように、照明領域を走査方向に閉じるために使用される。可動ブラインド18Bは、更に照明領域の非走査方向の中心及び幅を規定するためにも使用される。ブラインド18A,18Bを通過した露光光ILは、サブコンデンサレンズ17B、光路折り曲げ用のミラー19、及びメインコンデンサレンズ20を経て、マスクとしてのレチクルRのパターン領域の照明領域21Rを均一な照度分布で照明する。
【0058】
一方、ビームスプリッタ14で反射された露光光は、集光レンズ15を介して光電センサよりなるインテグレータセンサ16に受光される。インテグレータセンサ16の検出信号は露光量制御系43に供給され、露光量制御系43は、その検出信号と予め計測されているビームスプリッタ14から基板(感光基板)としてのウエハWまでの光学系の透過率とを用いてウエハW上での露光エネルギーを間接的に算出する。露光量制御系43は、その算出結果の積算値及び装置全体の動作を統轄制御する主制御系41からの制御情報に基づいて、ウエハW上で適正露光量が得られるように露光光源6の発光動作を制御する。ミラー7,9、レンズ8A,8B、フライアイレンズ10、照明系開口絞り部材11、ビームスプリッタ14、リレーレンズ17A、ブラインド18A,18B、サブコンデンサレンズ17B、ミラー19、及びメインコンデンサレンズ20を含んで照明光学系5が構成されている。
【0059】
露光光ILのもとで、レチクルRの照明領域21R内のパターンは、両側テレセントリックの投影光学系PLを介して投影倍率β(βは1/4,1/5等)で、フォトレジストが塗布されたウエハW上の一つのショット領域SA上の非走査方向に細長いスリット状の露光領域21Wに投影される。ウエハWは、例えば半導体(シリコン等)又はSOI(silicon on insulator)等の直径が200〜300mm程度の円板状の基板である。レチクルR及びウエハWがそれぞれ第1物体及び第2物体(感応物体)に対応している。以下、図5において、投影光学系PLの光軸AXに平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内で走査露光時のレチクルR及びウエハWの走査方向に直交する非走査方向にX軸を取り、その走査方向にY軸を取って説明する。
【0060】
先ず、レチクルRはレチクルステージ(可動体)22上に保持され、レチクルステージ22はレチクルベース23上でY方向に一定速度で移動すると共に、同期誤差を補正するようにX方向、Y方向、回転方向に微動して、レチクルRの走査を行う。レチクルステージ22の位置は、この上に設けられた移動鏡(不図示)及びレーザー干渉計(不図示)によって計測され、この計測値及び主制御系41からの制御情報に基づいて、ステージ駆動系42は不図示のアクチュエータ(リニアモータなど)を介してレチクルステージ22の位置及び速度を制御する。なお、本例では前述したレチクルステージ22、ステージ駆動系42、アクチュエータ及びレーザー干渉計によってレチクルステージシステムが構成されている。また、レチクルステージ22及びレチクルベース23には、それぞれ露光光ILを通過させるための開口22a及び23a(図5参照)が形成されている。レチクルRの周辺部の上方には、レチクルアライメント用のレチクルアライメント顕微鏡(不図示)が配置されている。また、レチクルステージ22の近傍には、不図示であるがレチクルステージ22上のレチクルを交換するレチクルローダ、及び複数のレチクルが収納されたレチクルライブラリが設置されている。
【0061】
一方、ウエハWは、ウエハホルダ24を介してウエハステージ28上に保持され、ウエハステージ28はウエハベース27上でY方向に一定速度で移動すると共に、X方向、Y方向にステップ移動するXYステージ26と、Zチルトステージ25とを備えている。Zチルトステージ25は、不図示のオートフォーカスセンサによるウエハWのZ方向の位置の計測値に基づいて、ウエハWのフォーカシング及びレベリングを行う。ウエハステージ28のXY平面内での位置はレーザー干渉計(不図示)によって計測され、この計測値及び主制御系41からの制御情報に基づいて、ステージ駆動系42は不図示のアクチュエータ(リニアモータなど)を介してウエハステージ28の動作を制御する。なお、本例では前述したウエハホルダ24、ウエハステージ(可動体)28、ステージ駆動系42、アクチュエータ及びレーザー干渉計によってウエハステージシステムが構成され、後述の汚染物質除去時にはウエハステージ28が投影光学系PLの直下から退避して作業空間が確保されるようになっている。
【0062】
更に、ウエハステージ28上のウエハWの近傍には、露光領域21Wよりも大きい受光面30Bを有する照射量モニタと、ピンホール状の受光面30Aを有する照度センサとを含む光量センサ部29が固定され、光量センサ部29の2つの検出信号は露光量制御系に供給されている。また、ウエハステージ28の上方には、ウエハアライメント用のオフ・アクシス方式のアライメントセンサ36が配置されており、この検出結果に基づいて主制御系41はウエハWのアライメントを行う。
【0063】
露光時には、レチクルステージ22及びウエハステージ28を駆動して、露光光ILを照射した状態でレチクルRとウエハW上の一つのショット領域とをY方向に同期走査する動作と、ウエハステージ28を駆動してウエハWをX方向、Y方向にステップ移動する動作とを繰り返すことによって、ステップ・アンド・スキャン方式でウエハW上の各ショット領域にレチクルRのパターン像が露光される。
【0064】
さて、本例では露光光ILとしてArFエキシマレーザー光が使用されている。このようにArF又はKrFエキシマレーザーのような紫外パルスレーザー光を露光光として使用すると、一種の光CVD(Chemical Vapor deposition) 作用によって、投影光学系PLのウエハ及びレチクルに最も近い光学部材(レンズ又は平行平面板等)の表面(特に外面)には、シロキサン系汚れ成分がレーザー光で分解されて、汚染物質としての酸化珪素膜(純粋なSiO2 )が長い時間をかけて次第に合成されて堆積していくことが知られている。この酸化珪素膜は、単体としてはほぼ真空紫外域の露光光に対しても吸収が無い堆積物である。しかし、露光装置用の通常の光学部材の表面には反射防止膜が形成されており、この反射防止膜上に屈折率が異なる酸化珪素膜が堆積すると、その光学部材の反射特性が悪化して、透過率の低下や僅かではあるがフレア発生の恐れがある。
【0065】
図1は、波長と光学部材の反射率との関係を示す図である。図1中、曲線Aは、石英基板上にArFエキシマレーザー用の広帯域反射防止膜(MgF2/LaF3/ MgF2/LaF3/ MgF2 /LaF3)が施された光学部材の反射率、曲線Bは光学部材A上に厚さ10nmの酸化珪素膜の汚れを付けた部材の反射率を示す。図1に示すように、ArFエキシマレーザーの波長(193nm)において、光学部材自体の反射率は0.1%(曲線A)、光学部材に酸化珪素膜を付けた場合の反射率は4%(曲線B)であり、酸化珪素膜によって反射率は大きく低下している。
【0066】
また、図5において、ArFエキシマレーザー光を露光光ILとする場合には、酸素等による吸収を避けるために、照明光学系5は照明系サブチャンバ4(図4参照)によってほぼ気密状態で覆われる。そして、そのサブチャンバ4内部に不純物が高度に除去された窒素ガス(又はヘリウムなどの希ガスも使用される)のような、露光光ILの減衰が空気よりも少ない(即ち、露光光ILに対して空気よりも高い透過率を有する)気体(以下、「パージガス」と呼ぶ)が供給される。同様に、投影光学系PLの鏡筒内部にも不純物が高度に除去されたパージガスが供給されている。なお、照明光学系5及び投影光学系PLの内部にそれぞれパージガスを封入して定期的にその交換を行ってもよいし、或いはパージガスの供給と排出とをほぼ同時に行ってもよいし、強制的な排出を行わないでパージガスの供給のみを行ってもよい。従って、照明光学系5及び投影光学系PLの内部の光学部材では、汚染物質の堆積は僅かであり、汚染物質の堆積が問題となる光学部材は、投影光学系PLの最もウエハ側の光学部材(以下、「下端のレンズ」と呼ぶ)、及び最もレチクル側の光学部材(以下、「上端のレンズ」と呼ぶ)、並びに照明光学系5の最もレチクル側の光学部材であるメインコンデンサレンズ20である。しかも、汚染物質の堆積は不純物を含む雰囲気気体との接触で起こるため、汚染物質の堆積は下端のレンズ32B(図4参照)、上端のレンズ32A(図4参照)、及びメインコンデンサレンズ20のそれぞれの外面(外部の気体、例えば図5の投影露光装置が設置されるクリーンルームからケミカルフィルタなどを介して取り込まれる空気、或いは後述のドライエアーなどと接する面)で起こるのが大部分と考えられる。
【0067】
そこで、本例ではそのような光学系の端部の光学部材の外面に生じる汚染物質を、以下のようにその光学部材をその光学系から取り外すことなく除去することとする。そのためには、先ず光学部材の汚染物質の量が許容範囲を超えたかどうかを判定する必要がある。その最も簡単な方法は、図5において、ウエハステージ28を駆動して光量センサ部29の受光部30Bを露光領域21Wに移動して、インテグレータセンサ16の出力と受光部30Bを有する照射量モニタの出力とを比較して、ビームスプリッタ14からウエハステージ28までの光学系の透過率をモニタすることである。例えば定期的にその透過率をモニタし、その透過率が次第に低下して所定の許容範囲よりも低下したときには、汚染物質の除去を行う必要があると判定することができる。
【0068】
以下では、別の方法として、光学系のフレアをモニタしながら汚染の程度をモニタし、この結果に基づいて投影光学系PLの下端及び上端のレンズの汚染物質の除去を行う場合の動作の一例を、図7のフローチャートを参照して説明する。
先ず図7のステップ201において、図5の投影光学系PLのフレアの量を計測する。そのために、図5のレチクルステージ22上のレチクルRの代わりに、図6(A)に示すフレア評価用のレチクルR2をロードする。レチクルR2の照明領域21Rに対応する領域には、光透過部Tを背景として非走査方向(X方向)の中央部に例えば数mm角の複数の遮光パターンC1が形成され、周辺部にも数mm角の複数の遮光パターンC2及びC3が形成されている。また、レチクルR2の照明領域21Rに対応する領域の走査方向(Y方向)の周辺部にもそれぞれ数mm角の複数の遮光パターンが形成されている。
【0069】
次に、図5のウエハステージ28上に未露光のポジタイプのフォトレジストが塗布されたウエハ(これもウエハWとする)をロードして、このウエハW上の多数のショット領域に次第に露光量を変えながら、図6(A)のレチクルR2のパターン像を走査露光する。その後、そのウエハの現像を行って、そのウエハWの各ショット領域に形成される凹凸のパターンを例えば不図示のパターン計測装置を用いて計測する。なお、その凹凸パターンは、例えば図5のアライメントセンサ36を用いて計測することも可能である。
【0070】
また、パターン計測装置が露光装置とは別設されるときは、パターン計測装置をコータ・ディベロッパに設ける、あるいはコータ・ディベロッパとインライン接続してもよいし、その計測結果を通信回線などを介して露光装置に送るようにしてもよい。
この場合、図6(B)の概略図で示すように、フレアが無いものとすると、遮光パターンC1,C2,C3に対応するウエハW上の像C1P,C2P,C3Pの各領域は露光されないために、凸部として残るはずである。しかしながら、投影光学系PL内で例えば上端及び下端のレンズの外面の反射率が大きくなって、フレア光L2,L3が生じると、遮光パターンC2,C3の像C2P,C3Pの位置にも露光光が照射されるため、露光量を増加させると現像後にその像C2P,C3Pの位置も凹部となる。
【0071】
図6(C)は、その現像後のウエハW上の各ショット領域の凹凸パターンの計測によって得られる、各ショット領域のX方向(又はY方向)の位置によるフレアの量の評価結果の一例を示し、図6(C)において、縦軸は各位置X(又はY)において現像後に凹パターンが最初に形成されたときの露光量Eを表している。従って、露光量E1は、図6(A)の光透過部Tに対応する領域が現像後に凹部となったときの露光量である。一方、周辺の像C3Pに対応する露光量E2は、次のように求められた値である。即ち、現像後に周辺の像C3Pの位置が凹部となったときの露光量をE23とすると、露光量E1のときの像C3Pの位置での露光量E2は、次のように表すことができる。
【0072】
E2=E1×(E1/E23) …(1)
従って、像C3Pの位置でのフレア光の割合はE2/E1×100(%)となる。同様に、中央の像C1Pの位置でのフレア光の割合、及び他の周辺の像C2P等の位置でのフレア光の割合も求めることができる。この詳細については、国際公開(WO)第02/09163号パンフレット及び対応する欧州特許公開EP1308991に開示されている。なお、本国際出願で指定した指定国、又は選択した選択国の国内法令の許す限りにおいて、上記国際公開パンフレット及び欧州特許公開の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【0073】
なお、同国際公開パンフレットに開示されているように、図6(A)のパターンを白黒反転したパターンを持つ評価用レチクルを用いて、図5の可動ブラインド18Bを用いて各透過パターンのみを照明したときのウエハステージ28上での光量と、全部のパターンを照明したときの光量とを比較することで、図5の照明光学系5のフレアの評価を行うこともできる。
【0074】
次に図7のステップ202において、計測されたフレアが許容範囲を超えたかどうかを判定し、許容範囲以内であるときにはステップ203の通常の露光工程に移行する。一方、ステップ202でフレアが許容範囲を超えたときには、ステップ204以下の汚染物質除去工程に移行する。そのためには、先ず図5の投影露光装置が収納されたクリーンルーム内に洗浄液を搬入する必要がある。
【0075】
図4は、図5の投影露光装置(投影露光装置3とする)が設置された例えば半導体製造工場内のクリーンルームを示し、この図4において、このクリーンルーム内には、左端の送風機1Aから右端のエアーダクト部1Bに向かって矢印34A,34B,34Cで示すように、HEPAフィルタ(high efficiency particulate air-filter)等を通して清浄化されて温度制御された空気がほぼ一定の流量で流れている。また、そのクリーンルーム内の箱状のチャンバ2A内に図5の投影露光装置3のレチクルRからウエハベース27までの露光本体部が防振台31A,31Bを介して設置され、その近くに図5の照明光学系5(露光光源6を除く)を収納したサブチャンバ4が設置されている。サブチャンバ4の先端部4a(図5のミラー19及びメインコンデンサレンズ20が収納された部分)は取り外し可能に構成されている。投影光学系PLは、レチクルR側から順に上端のレンズ32A、レンズ33A、…、レンズ33B、及び下端のレンズ32Bを備えている。そして、チャンバ2Aに隣接するように、図5の露光光源6を収納した補助チャンバ2Bが設置されている。露光時には、チャンバ2A内には、クリーンルーム内よりも高度に防塵処理が行われ、且つ高度に温度及び湿度が制御された化学的にクリーンな空気(ドライエアー)が供給される。
【0076】
但し、本例のように汚染物質除去工程を実施する場合には、チャンバ2Aの風下側の開閉部2Aaが開かれて、チャンバ2Aの風下側の作業机44上に、空気の流れに沿って角形の筒状の小型ドラフト45が設置される。小型ドラフト45の空気の排気側にはケミカルフィルタ46が装着されており、小型ドラフト45内のトレー47上に本発明の洗浄液としてのフッ化水素酸を含むエッチング液を貯蔵したボンベ48、及び使用するエッチング液を入れるための容器49が載置されている。ボンベ48及び容器49は、フッ化水素(HF)に強いポリプロピレン製(又はポリエチレン製)である。また、小型ドラフト45内には純水を貯蔵したボンベ及び有機溶剤としてのメタノールを貯蔵したボンベ(不図示)も設置されている。
【0077】
本例のエッチング液の成分は、フッ化水素酸水溶液(HF、50wt%)とフッ化アンモニウム(NH4F、40wt%)とを容積比で1:10で混合したもの、即ちBOE(buffered oxide etch)である。フッ化アンモニウムを混ぜるのは、PH調整することによって酸化珪素以外の、例えば光学薄膜のフッ化マグネシウム層やフッ化ランタン層、基板である蛍石などに悪影響を与えない様にするためである。PHは4〜6が適しており、PH=5程度が最適である。
【0078】
図4において、本例では小型ドラフト45内のボンベ48及び容器49から揮発するBOE(エッチング液)の成分は、風下側のケミカルフィルタ46で除去されるため、その成分がクリーンルーム内に拡散することが防止されている。
また、BOEを洗浄液として使用する場合には、そのBOEを1cc程度染み込ませたポリプロピレン製の拭き布等の部材51A,51Bをそれぞれポリプロピレン製の容器50A及び50B内に密閉して、開閉部2Aaからチャンバ2A内に作業者が持ち込むようにする。この場合、クリーンルーム内では開閉部2Aa側に向けて空気が常時流れているため、仮に部材51A,51BからBOEの成分が僅かに揮発しても、その成分はエアーダクト部1Bを経て不図示のフィルタで除去されるため、その成分がクリーンルーム内に拡散することはない。
【0079】
この状態で、図7のステップ204において、作業者は図4のチャンバ2A内で照明光学系のサブチャンバ4の先端部4aを取り外した後、図5のミラー19及びメインコンデンサレンズ20を取り外す。この際に、レチクルステージ22は、走査方向の中央部に位置決めされ、その上のレチクルは搬出されている。次のステップ205において、投影光学系PLの上端のレンズ32Aの表面を上記のBOEで拭く。
【0080】
図8は、図5の投影露光装置からミラー19及びメインコンデンサレンズ20を取り外した状態の要部を示し、この図8において、レチクルステージ22及びレチクルベース23の開口22a,23aを通して作業者は、X方向に細長い四角形の枠状の断面を持つ筒状の保護部材53(筒状部材)を差し込む。保護部材53の上端には、持ち運び用の取っ手54A,54Bが設けられ、保護部材53の側面には保護部材53をレチクルステージ22の上面で固定するためのストッパ53bが設けられている。次に、保護部材53の内面53aに汚染物質除去用の清掃具55の先端部を差し込む。清掃具55は、棒状のロッド部58(棒状部材)の先端部に支持部56(支持部材)を回転自在に取り付け、支持部56の底面に押さえ部57A,57Bを介して拭き布59A,59B(図10参照)を着脱自在に取り付けて構成されている。保護部材53、ロッド部58、及び支持部56を含んで本例の第1の汚染物質除去装置(清掃具)が構成され、本例の投影露光装置は、その汚染物質除去装置を装着できるように構成されている。保護部材53、ロッド部58、支持部56、押さえ部57A,57B、及び拭き布59A,59Bは何れもポリプロピレン製である。支持部56の拡大正面図である図10に示すように、押さえ部57A,57Bはコイルばね59によって支持部56に拭き布59A,59Bを押さえ付けて固定しており、拭き布59A,59Bの先端部にBOEが染み込んでいる。図8に戻り、支持部56は回転方向に細長いため、ロッド部58をθ方向に回転して、支持部56が内面53aを通過できるようにする。
【0081】
図9は、図8において保護部材53の内面53aを通して、ロッド部58の先端の支持部56の底面を洗浄対象の上端のレンズ32Aの表面に接触させた状態を示す断面図である。図9において、本例は走査露光型であり、上端のレンズ32Aはレチクル面のX方向に細長い照明領域21R(図5参照)に近いため、露光光が通過するのはX方向(非走査方向)に細長いほぼ楕円形の領域60であり、この領域60に酸化珪素膜(汚染物質)が堆積する。なお、本例の上端のレンズ32Aは、収差補正用の上面が平面の平板部材であり、固定具62を介して投影光学系PLの上端に固定されている。支持部56の幅は領域60のY方向の幅より僅かに広く設定され、支持部56の底面に突き出る拭き布59A,59BのY方向の幅も領域60のY方向の幅より広く設定されている。作業者は、ロッド部58をX方向に往復運動させて、支持部56の底面の拭き布59A,59Bで上端のレンズ32A上の領域60を覆うように拭きながら、矢印61で示す非走査方向に拭き布59A,59Bを3回往復させる。
【0082】
この間の拭き布59A,59Bと領域60の各部とが接触している時間は、ほぼ10秒程度である。BOEの酸化珪素に対するエッチングレートは25℃でおよそ70nm/minであるため、10nmの酸化珪素を除去するには10秒で十分である。ここで、エッチングレートとは、1分間当たりに酸化珪素を溶解する量(深さ)である。なお、酸化珪素膜が厚い場合には、接触時間を長くすればよい。
【0083】
次に、ステップ206において、支持部56の拭き布59A,59Bを純水を染み込ませた拭き布に交換し、図9と同様にしてその拭き布を上端のレンズ32A上の領域60で3往復させて、BOEを除去する。次に、ステップ207において、支持部56の拭き布をエタノール(有機溶剤)を染み込ませた拭き布に交換し、図9と同様にしてその拭き布を上端のレンズ32A上の領域60で3往復させて、BOEを更に完全に除去する。これによって、上端のレンズ32Aの表面からBOEが洗い落とされて、残留成分が光学薄膜及び基板に悪影響を与えない様にされる。
【0084】
次のステップ208において、汚染物質が許容範囲まで除去されたかどうかを判定するために、図9の分光光度計63を用いて上端のレンズ32A表面の反射特性を計測する。本例では、光ファイバーバンドル64及び送光受光部65を備えた分光光度計63を使用する。これによって、上端のレンズ32Aの反射率特性を投影光学系PLに組み込まれたまま、その場で測定することができる。汚染物質除去処理の前後での分光特性プロファイルを比較する事により、その汚染物質除去の程度を判定することが可能である。
【0085】
ファイバー分光光度計は大まかに3つの部分から構成される。即ち、分光光度計63内の光源及び分光光量検出器(ディテクター)と、光ファイバーバンドル64とである。その構成は、対象とする被検面での所望の測定波長によって適宜対応した性能のものが選ばれる。例えば、本例のように紫外領域を対象とするなら、紫外光を発生させる光源、紫外光を検出できる分光光量検出器、紫外光を透過させることのできる光ファイバーから構成される。
【0086】
光源としては、ファイバー分光光度計を投影露光装置で使用するためには持ち運びの可能なコンパクトタイプで、S/N比を大きくするために大出力のものが望ましい。分光光量検出器としては、スキャン方式ではなくフォトダイオードアレー方式の検出器を用いることが望ましい。その一番の利点としては、スキャン方式に比べ、簡単に広帯域で分光プロファイルを瞬時に得ることができることである。フォトダイオードアレー方式は、グレーティングによる回転機構がなく、白色光を被検面に照射しそれによって反射又は透過された光量を固定されたグレーティングで分光し、フォトダイオードアレーが同時に広帯域の分光プロファイルを検出することが可能である。
【0087】
光ファイバーを用いる利点としては、光源から被検面へ、また、被検面から光度計への光学系に精密な位置調整等が必要なく、周辺の環境に影響を受け難く、しかも、自由に光学系を移動させることができることである。光ファイバーを動かし所望の測定箇所で分光プロファイルを自由に測定することができれば、装置に組み込まれている光学部品を移動(取り出し)させる事なく、簡単に測定することが可能である。
【0088】
反射防止膜等の光学性能を確認する際には、その反射分光プロファイルを確認することが非常に重要である。そのため汚染物質を拭き取り除去することができたか、又はどの程度の除去ができたかを確認するために、ファイバー分光光度計で反射分光プロファイルを確認することが望ましい。そのファイバー分光光度計を用いて反射分光プロファイルを測定する際に、光ファイバーバンドル64は、光源から被検面への入光用ファイバーと、被検面から光度計への受光用ファイバーとを混在させてバンドル化してある。並列にバンド化することにより1本のバンドルとして、被検面まで入光用ファイバーと受光用ファイバーとを同時に同じ配置を保ったまま移動させることができる。
【0089】
数十μmの径で開口数NAが0.1程度の光ファイバーを用いて、ファイバー測定子部の端面から被検面へ垂直方向に数mmの距離を離せば、光ファイバーバンドル64において入光用ファイバーからの光が被検面で反射され、光が受光用ファイバーへ入り分光光量検出器で反射分光プロファイルが検出可能となる。光ファイバーバンドル64を用いる場合、安定的な測定を行うためには、被検面に対して垂直に保って測定することが重要となる。そのためには、3重構造のバンドル化された光ファイバーを用いるか、数十本以上のランダムに配置されたバンドル化された光ファイバーを用いるのが良い。3重構造のバンドル化ファイバーは、中心部が被検面から反射された光の検出用の受光用ファイバー、中間部が被検面に対し光を入射させるための入光用ファイバー、最外部がバンドル化ファイバーの傾きを検出するための傾き調整用ファイバーである。傾き調整用ファイバーにおける検出光量が同じになるようにバンドル化ファイバーの傾きを修正すれば、ファイバー測定子部の端面の被検面からの高さが一定であれば同一条件での測定が可能となる。
【0090】
また、数十本以上のランダムに配置されたバンドル化された光ファイバーは、受光用ファイバーと入光用ファイバーとを均等に配列しバンドル化させている。そのことにより、光量を平均的に入射し反射させ、バンドル化ファイバーの傾きに対する感度を緩和させて反射分光プロファイルを検出することが可能となる。
以上のように、ファイバー分光光度計を用いれば自由自在に反射分光プロファイルを測定することができる。手動にて任意の位置での反射分光プロファイルを測定することが可能なため、所望の位置での汚染物質除去状況を把握することができる。また、投影露光装置において、ファイバー分光光度計の被検面へのバンドル化ファイバーの測定子部を自動で移動させ、被検面からの高さを一定に保つ様な機構を設ければ、汚染物質除去を施す前には、その汚染物質の付着状態を径時的に把握することができ、汚染物質除去方法を適用する前後では、その除去程度を確認することが可能である。また、マッピング機構を採用する事により、被検面内での汚染物質の付着状態や汚染物質除去前後での除去程度を2次元的に検知できる。特に汚染物質除去では、拭き残し箇所の特定を行うことが可能である。
【0091】
ステップ208で分光光度計63を用いて反射特性を計測した結果の一例は、図1の曲線Cで表されている。曲線CのArFエキシマレーザーの波長(193nm)における反射率は、元の良好な値0.1%の反射特性(曲線A)に戻っている。更に、180nm〜250nmの波長域における反射特性が完全に元の良好な反射特性に戻っている。これにより光学薄膜及び光学部材に悪影響を与えることなく、酸化珪素汚染だけを除去できたことが分かる。
【0092】
次のステップ209において、分光光度計63を用いて計測された上端のレンズ32Aの露光波長における反射率が、一部でも許容範囲を超えている場合には、ステップ205に戻り、BOEによる洗浄、及びBOEの除去の工程を繰り返す。そして、ステップ209において、分光光度計63を用いて計測された上端のレンズ32Aの露光波長における反射率が、全面で許容範囲内に収まっている場合には、動作はステップ210に移行して、作業者は図8の保護部材53及び清掃具55を取り出して、図5のミラー19及びメインコンデンサレンズ20を照明光学系5に取り付けて、光軸等の調整を行う。照明光学系10の調整は、投影光学系PLに比べて短時間に容易に行うことができる。
【0093】
次のステップ211において、図5のウエハステージ28を−X方向の端部に移動する。これによって、投影光学系PLの下端のレンズ32Bの表面を拭くことができる。次のステップ212において、下端のレンズ32Bの表面を上記のBOEで拭く。
図11は、図5の投影光学系PLの下部の要部を示し、この図11において、作業者は、X方向(非走査方向)に細長い楕円型の平板状の移動部材67(支持部材)を投影光学系PLの底面側に移動する。ポリプロピレン製の移動部材67の上面の凹部67aには、押さえ用のポリカーボネート製のねじ69を介してBOEが染み込んだポリプロピレン製の拭き布68が着脱自在に取り付けられている。移動部材67及び拭き布68を含んで本例の第2の汚染物質除去装置(清掃具)が構成されている。図11において、本例は走査露光型であり、下端のレンズ32Bはウエハ面のX方向に細長い露光領域21W(図5参照)に近いため、露光光が通過するのはX方向(非走査方向)に細長いほぼ楕円形の領域66であり、この領域66に酸化珪素膜(汚染物質)が堆積する。なお、本例の下端のレンズ32Bは、下面(洗浄面)が平面である収差補正用の平板部材である。移動部材67の幅は領域66のY方向の幅より十分に広く設定され、移動部材67上に突き出る拭き布67(図12参照)のY方向の幅も領域66のY方向の幅より広く設定されている。
【0094】
図11の投影光学系PLの下端部の断面図である図12に示すように、作業者は下端のレンズ32Bの表面に移動部材67上の拭き布68を接触させて、拭き布68で下端のレンズ32B上の領域66を覆うように拭きながら、矢印70で示す非走査方向に移動部材67を3回往復させる。この間の拭き布68と領域66の各部とが接触している時間は、ほぼ10秒程度であり、これによって10nm程度の酸化珪素はほぼ完全に除去される。なお、酸化珪素膜が厚い場合には、接触時間を長くすればよい。
【0095】
次に、ステップ213において、移動部材67の拭き布68を純水を染み込ませた拭き布に交換し、図11と同様にしてその拭き布を下端のレンズ32Bの領域66で3往復させて、BOEを除去する。次に、ステップ214において、移動部材67の拭き布をエタノール(有機溶剤)を染み込ませた拭き布に交換し、図11と同様にしてその拭き布を下端のレンズ32Bの領域66で3往復させて、BOEを更に完全に除去する。これによって、下端のレンズ32Bの表面からBOEが洗い落とされて、残留成分が光学薄膜及び基板に悪影響を与えない様にされる。
【0096】
次のステップ215において、ステップ208と同様に、汚染物質が許容範囲まで除去されたかどうかを判定するために、図9の分光光度計63を用いて下端のレンズ32B表面の反射特性を計測する。次のステップ216において、分光光度計63を用いて計測された下端のレンズ32Bの露光波長における反射率が、一部でも許容範囲を超えている場合には、ステップ212に戻り、BOEによる洗浄、及びBOEの除去の工程を繰り返す。そして、ステップ216において、分光光度計63を用いて計測された下端のレンズ32Bの露光波長における反射率が、全面で許容範囲内に収まっている場合には、動作はステップ217に移行して、通常の露光工程が実行される。
【0097】
このように本例によれば、投影光学系PLの上端のレンズ32A及び下端のレンズ32Bに汚染物質が付着した場合に、レンズ32A,32Bを投影光学系PLから取り外すことなく、それらの汚染物質を迅速に除去できる。従って、光学部材を交換する費用も発生しないと共に、光学部材の交換及び調整によって投影露光装置を使用できない期間も殆ど発生しないため、露光工程のスループットが殆ど低下しないという利点がある。
【0098】
なお、図5における照明光学系5のレチクル側の端部の光学部材であるメインコンデンサレンズ20の表面に汚染物質が付着した場合にも、メインコンデンサレンズ20を取り外すことなく、図11の移動部材67と同様の清掃具を用いてその汚染物質を迅速に除去することができる。
なお、本例では洗浄液としてフッ化水素酸とフッ化アンモニウムとの混合の割合を1:10にしたが、混合割合を変えても効果に大差は無い。また、フッ化水素を水で更に希釈したものでも構わない。このように汚染物質が酸化珪素だけであると分かっている場合は、フッ化水素酸とフッ化アンモニウムとの混合液で十分な洗浄効果を示すことができる。
【0099】
次に、本発明の第2の実施形態の別の例として、汚染物質が炭化水素などの有機物質や硫酸アンモニウムなどの無機物質を含んだ汚れである場合につき説明する。この場合には、洗浄液として、フッ化水素酸水溶液(HF、50wt%)とフッ化アンモニウム(NH4F、40wt%)とを容積比で1:10で混合したBOEと、イソプロピルアルコールとを1:1に混合したエッチング液(BOE/IPA)を調製する。その理由は、炭化水素はイソプロピルアルコールで溶解し、硫酸アンモニウムは水に溶解し、酸化珪素はフッ化水素酸で溶解するため、BOE/IPAをエッチング液として使うことで様々な汚染物質を速やかに除去することが可能であるためである。
【0100】
KrFエキシマレーザーを使った投影露光装置において、レーザー光源から投影光学系までエキシマレーザー光を運ぶリレーユニット(光学系)で実際に発生した汚れをBOE/IPAで除去してみた結果を図2に示す。
図2は、波長と光学部材の透過率とを示す図であり、図2の曲線Dは、石英基板上に反射防止膜(MgF2/NdF3/ MgF2)が施された光学部材の透過率、曲線Eはその光学部材上に汚れを付けた部材、曲線Fは、その部材の汚れを本例の汚染物質除去方法で処理した後の透過率部を示す。具体的な汚れは、有機系汚れとレーザー光による酸化珪素とが堆積した厚さ5nmの混合堆積物である。図2に示すように、KrFエキシマレーザーの波長(248nm)における透過率は、汚れの無い部材(曲線D)では100%、汚れのある部材(実線E)では72%、汚れを除去した後(曲線F)では99%である。汚れの原因は、炭化水素と酸化珪素との混合物であると予想される。曲線Fは、その光学部材をB0E/IPAで満たしたビーカーに60秒間漬けて汚染物質を溶解した後、純水及びメタノールでBOE/IPAを洗い流した後の透過率である。
【0101】
図2から分かるように、除去後の波長248nmにおける透過率は99%以上にまで回復し、分光特性も元の特性にまで回復している。更に、図2に示すように、190nm〜400nmの波長域における透過率は、完全に元の良好な透過特性に戻った。これにより光学薄膜及び基板に悪影響を与えることなく、汚染物質だけを除去できたことが分かる。なお、本例ではBOEとイソプロピルアルコールとの混合の割合を1:1としたが、混合割合はそれに限定されるものではない。
【0102】
なお、上記実施形態では、投影光学系PLの上端のレンズ32Aに付着した汚染物質を除去するのに先立ち、ステップ204にてレチクルステージ22を走査方向のほぼ中央部に位置決めして、レチクルステージ22の開口22aとレチクルベース23の開口23aとでその中心をほぼ一致させるものとしたが、照明光学系5のミラー19及びメインコンデンサレンズ20と同様に、前述のレチクルステージシステムのうち少なくともレチクルステージ22を外してレチクルベース23から取り除いてもよい。
【0103】
また、上記実施形態では投影光学系PLの上端及び下端のレンズ32A、32Bの両方でそれぞれ汚染物質の除去を行うものとしたが、上端及び下端のレンズ32A、32Bの一方のみで汚染物質の除去を行ってもよい。更に、上端及び下端のレンズ32A、32Bでは汚染物質の除去を行わないで、照明光学系5のレチクル側の端部に設けられる光学部材(本例ではメインコンデンサレンズ20)のみで、図11の移動部材67と同様の清掃具を用いて汚染物質を除去してもよい。要は、照明光学系5のレチクル側端部の光学部材、及び投影光学系PLの両端の光学部材の少なくとも1つで汚染物質を除去することとしてもよい。
【0104】
また、上記実施形態では投影光学系PLの上端のレンズ32Aで汚染物質の除去を行うために、ステップ204にて照明光学系5のミラー19及びメインコンデンサレンズ20を取り外すものとしたが、メインコンデンサレンズ20のみ、即ち照明光学系5のレンズ側端部の光学部材のみを取り外すだけでもよい。なお、図5ではメインコンデンサレンズ20を1つの光学部材(レンズエレメント)として示しているが、実際には複数の光学部材から構成されているので、その少なくとも1つの光学部材を取り外すだけでもよい。また、メインコンデンサレンズ20(少なくとも1つの光学部材)を含む照明光学系5の少なくとも一部(図4の先端部4aなど)を、例えばスライド機構によって可動に構成し、投影光学系PLの上端に設けられる光学部材(レンズ32A)と、照明光学系5のレチクル側端部に設けられる光学部材との少なくとも一方の表面を上記のBOEなどで拭くときに、照明光学系5の少なくとも一部を移動させてその清掃作業用のスペースを確保するようにしてもよい。更に、上記実施形態では照明光学系5のレチクル側端部の光学部材をメインコンデンサレンズ20としたが、例えば平行平面板(カバーガラスプレート)を照明光学系5のレチクル側端部に設け、この平行平面板のみ、或いは平行平面板と他の光学部材(メインコンデンサレンズ20など)とを一体に取り外すようにしてもよい。
【0105】
更に、上記実施形態では、前述の清掃具を用いて照明光学系5のレチクル側端部の光学部材で汚染物質を除去する代わりに、照明光学系5のうち少なくともレチクル側端部の光学部材を含むその一部を取り外して、他の部材との交換を行ってもよい。又は、その照明光学系5の一部を取り外し、前述のエッチング液を用いてレチクル側端部の光学部材の汚染物質を除去してから、その照明光学系5の一部を投影露光装置3に戻して再装着してもよい。これは、上記交換又は着脱後の照明光学系5の調整が投影光学系PLに比べて容易なためである。このとき、その照明光学系5の一部の交換又は着脱だけでなく、図11の移動部材67を用いて投影光学系PLの両端の光学部材の少なくとも一方で汚染物質の除去を行うようにしてもよい。なお、上記交換又は着脱が行われる照明光学系5のレチクル側端部の光学部材はメインコンデンサレンズ20に限られるものでなく、例えば平行平面板(カバーガラスプレート)などでもよい。
【0106】
なお、上記実施形態では投影光学系PLの両端に設けられる光学部材がそれぞれ収差補正板であるものとしたが、その両端の光学部材の少なくとも一方を他の部材、例えばレンズ又は平行平面板(カバーガラスプレート)などとしてもよい。
また、上記実施形態では図5のビームスプリッタ14からウエハステージ28までの光学系の透過率、或いは照明光学系5及び投影光学系PLの少なくとも一方で生じるフレアをモニタ(計測)し、その計測結果に基づいて汚染物質の除去の要否(又はその実施のタイミングなど)を判断し、透過率又はフレアが許容範囲を超えているときに汚染物質の除去を行うものとした。しかしながら、本発明はこれに限られるものでなく、透過率及びフレア以外の他の光学特性(例えば、レチクルR又はウエハW上での照度又は照度分布、或いは収差などの結像特性、又は汚染物質の除去対象となる光学部材の表面(清掃面)の反射率など)をモニタして同様に汚染物質の除去を行うようにしてもよい。更に、その計測結果に基づいて前述のフレアなどの光学特性が許容範囲を超えていないと判断されたときに、その計測結果から汚染物質の除去の実施時期(タイミング)を予測(決定)し、その計測後に投影露光装置3を所定期間だけ稼働させてから、上記光学特性の計測を行うことなく直ちに汚染物質の除去を行うようにしてもよい。また、照明光学系5及び投影光学系PLの少なくとも一部を含む光学系の光学特性(透過率、フレアなど)をモニタすることなく、例えば一定期間毎、或いは投影露光装置3の所定の稼働時間毎に、上記実施形態と全く同様に汚染物質の除去を行うようにしてもよい。
【0107】
更に、上記実施形態では1種類の溶剤(前述のエッチング液であるBOE又はBOE/IPA)のみを用いて汚染物質の除去を行うものとしたが、複数種類の溶剤(純水も含む)を用いてもよい。このとき、1つの溶剤で光学部材の汚染物質の除去を行う度に、その光学部材(又はその光学部材が組み込まれた光学系)の光学特性(例えば、反射率など)を計測するようにしてもよい。また、光学部材に付着している汚染物質の種類が分からないときは、複数種類の溶剤でそれぞれ汚染物質の除去を行うとともに、その除去を行う度に光学部材(又はその光学部材が組み込まれた光学系)の光学特性を計測することで、汚染物質の種類を特定する、即ちその除去に最適な少なくとも1つの溶剤を決定してもよい。更に、複数の光学部材でそれぞれ汚染物質を除去するとき、光学部材毎に、あるいは複数の光学部材の一部で他の光学部材と、汚染物質の除去に用いる溶剤の種類(又はその組み合わせ)を異ならせても構わない。
【0108】
また、上記実施形態では汚染物質が完全に除去されているか(即ち、残存する汚染物質が許容値以下となっているか)を確認するために、その除去作業後に光学部材の光学特性(反射率など)を計測するものとしているが、その光学特性の計測は必ずしも行わなくてもよいし、あるいは最初(又は最初から複数回)の除去作業後のみに光学特性の計測を行って汚染物質の除去結果を確認し、それ以降は光学特性の計測を行わないようにしてもよい。更に、汚染物質の除去作業後に計測する光学部材の光学特性は1つ(例えば反射率)のみに限られるものでなく、複数の光学特性を計測してもよいし、汚染物質の除去が行われる光学部材の位置に応じて(換言すれば、複数の光学部材で)、その除去作業後に計測する光学特性の種類(又はその組み合わせ)を異ならせてもよい。また、汚染物質の除去作業前後にそれぞれ投影露光装置の光学性能(例えば、解像力、照度均一性、CD−フォーカスなど)を計測し、その除去作業による光学性能の改善効果を検証するようにしてもよい。このとき、特にその除去作業後では投影光学系PLの結像特性(収差など)も計測し、その結像特性が所定の許容範囲から外れているときは、例えば投影光学系PLの光学素子を移動してその結像特性を調整することが好ましい。
【0109】
更に、上記実施形態では汚染物質の除去後にその再除去の要否を判断する(即ち、除去状況を確認する)ために、光学部材に残存する汚染物質に関する情報として光学部材の反射率を計測するものとしたが、その計測装置は分光光度計に限られるものでないし、その情報も反射率に限られるものでない。また、汚染物質の除去後に必ずしもその情報の収集(反射率などの計測)を行わなくてもよい。
【0110】
また、上記実施形態ではデバイス製造工場のクリーンルーム内に設置された投影露光装置3の運用中にその運用を一時的に停止して前述した汚染物質の除去を行うものとしたが、本発明はこれに限られるものでなく、例えば投影露光装置3のメンテナンス時などに、上記実施形態と全く同様に汚染物質の除去を行うようにしてもよい。
また、上記実施形態では、前述の清掃具(図9、図11)を作業者が動かしているが、それらの清掃具をロボットハンドの先端部等で保持し、それらの清掃具を駆動モータやエアーシリンダー等を備えた駆動機構で動かしてもよい。
【0111】
更に、上記実施形態では投影光学系PLを投影露光装置3に装着した状態で、前述の清掃具(図9、図11)を用いて上端及び下端のレンズ32A、32Bの汚染物質を除去するものとしたが、例えばその除去を行っても上記光学特性が許容範囲内にならないときは、投影光学系PLの全体、或いは投影光学系PLの少なくとも一端で、表面の汚染物質を除去すべき光学部材を含む、投影光学系PLの一部の交換を行うことが好ましい。前述した汚染物質の除去と組み合わせてその交換を行うことで、投影露光装置3の運用期間中に必要な、投影光学系PLの全体、又は少なくとも一端の光学部材を含む投影光学系PLの一部の交換回数を減らすことができ、投影露光装置3の稼働率を向上させることが可能となる。このとき、上記交換後に前述した汚染物質の除去が少なくとも1回(通常は2回)行われ、その後で上記交換が再度行われることになる、なお、上記交換が行われるときはその終了後に、例えばウエハステージ28に設置される光電センサを用いてレンズのピンホールの投影像を検出する、或いは試し焼きを行うなどして、投影光学系PLの波面収差を計測し、この計測された波面収差とツェルニケ多項式とに基づいて、投影光学系PLの少なくとも1つのレンズを移動するなどしてその光学特性(結像特性)を調整することが好ましい。
【0112】
なお、上記の実施形態では、前述した汚染物質の除去が行われる光学部材を石英(合成石英)としたが、これに限られることなく、例えばフッ素などの不純物がドープされた合成石英、或いは蛍石やその他の光学ガラスなどでもよい。また、前述した汚染物質の除去が行われる光学部材だけでなく、照明光学系5及び投影光学系PLにそれぞれ組み込まれる他の光学部材も合成石英に限られることなく、他の硝材(前述の蛍石など)で構わない。また、図11の実施形態における有機溶剤をイソプロピルアルコールとしたがこれに限ることなくメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトンであってもよい。
【0113】
反射防止膜の膜構成は、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、クライオライト、チオライト、フッ化ネオジウム、フッ化ランタン、フッ化ガドリニウム、フッ化イットリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムのうち少なくとも1つから構成されればよい。但し、その光学部材の最表面(薄膜)はフッ化水素酸を含むエッチング液(BOE、BOE/IPAなど)の影響を受けにくい(溶解しにくい)フッ化物が望ましい。
【0114】
なお、上記実施形態では表面に付着した汚染物質が除去される光学部材を含む光学系が少なくとも投影光学系PLを含むものとしているが、その光学系が照明光学系のみを含むときにも本発明を適用することができる。また、照明光学系5及び投影光学系PLはそれぞれの構成が上記実施形態に限られるものでなく任意で構わない。例えば、投影光学系PLは屈折系、反射屈折系、及び反射系の何れでもよいし、更には縮小系、等倍系、及び拡大系の何れでもよい。また、照明光学系5はオプティカル・インテグレータ10がフライアイレンズに限られるものでなく、例えば内面反射型インテグレータ(ロッド・インテグレータなど)でもよい。また、開口絞り部材11の代わりに、或るいはそれと組み合わせて、光源6とオプティカル・インテグレータ10との間に配置され、例えば照明光学系5の瞳面上での照明光ILの強度分布を変更するために、照明光学系内に交換して配置される複数の回折光学素子と、照明光学系の光軸方向に関する間隔が可変な一対のプリズム(円錐プリズム又は多面体プリズムなど)と、ズームレンズ(アフォーカル系)とを含む成形光学系を用いてもよい。
【0115】
なお、上記の実施形態の投影露光装置は、複数のレンズから構成される照明光学系、投影光学系を露光装置本体に組み込み光学調整をして、多数の機械部品からなるレチクルステージやウエハステージを露光装置本体に取り付けて配線や配管を接続し、更に総合調整(電気調整、動作確認等)をすることにより製造することができる。なお、その投影露光装置の製造は温度及びクリーン度等が管理されたクリーンルームで行うことが望ましい。
【0116】
また、上記の実施の形態の投影露光装置を用いてマイクロデバイス(電子デバイス)、例えば半導体デバイスを製造する場合、この半導体デバイスは、デバイスの機能・性能設計を行うステップ、このステップに基づいてレチクルを製造するステップ、シリコン材料からウエハを形成するステップ、上記の実施の形態の投影露光装置によりアライメントを行ってレチクルのパターンをウエハに露光するステップ、エッチング等の回路パターンを形成するステップ、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程を含む)、及び検査ステップ等を経て製造される。
【0117】
なお、デバイス製造工程、特に上記実施形態の投影露光装置を用いてパターンを感応物体上に転写する工程(露光工程)を含むフォトリソグラフィ工程は、上記実施形態の汚染物質の除去工程と、汚染物質が除去される光学部材又はその光学部材を含む光学系の少なくとも一部の交換工程とを含み、その交換工程は複数回の除去工程を実行した後で行うことが好ましい。また、その交換工程の後だけでなく除去工程の後においても、投影光学系の結像特性(波面収差など)の計測(及び結像特性の調整)を行う工程を含むことが好ましい。
【0118】
なお、本発明は、走査露光型の露光装置のみならず、一括露光型の露光装置の光学部材の汚染物質を除去する場合にも同様に適用することができる。また、例えば国際公開(WO)第99/49504号などに開示される液浸型露光装置で光学部材の汚染物質を除去する場合にも本発明を適用することができる。この液浸型露光装置では、投影光学系の像面側端部に設けられる光学部材の表面が液体(純水など)に浸されるので、その光学部材の最表面(薄膜)は前述のエッチング液でなくその液体の影響を受けにくい材料であることが好ましい。更に、前述のエッチング液(BOE、BOE/IPA)ではその液体に起因して生じる汚染物質の除去が困難であるときは、その汚染物質の除去に好適な溶剤を前述のエッチング液と併用又は混合して前述の除去作業を行うことが好ましい。また、例えば国際公開(WO)第98/24115号及び対応する米国特許第6,341,007号、第98/40791号及び対応する米国特許第6,262,796号などに開示されるように、露光動作とアライメント動作(マーク検出動作)とをほぼ並行して行うために、前述のウエハステージシステムが2つのウエハステージを備える露光装置で光学部材の汚染物質を除去する場合にも本発明を適用することができる。
【0119】
また、本発明の露光装置の用途としては半導体デバイス製造用の露光装置に限定されることなく、例えば、角型のガラスプレートに形成される液晶表示素子、若しくはプラズマディスプレイ等のディスプレイ装置用の露光装置や、撮像素子(CCD等)、マイクロマシーン、薄膜磁気ヘッド、及びDNAチップ等の各種デバイスを製造するための露光装置にも広く適用できる。更に、本発明は、各種デバイスのマスクパターンが形成されたマスク(フォトマスク、レチクル等)をフォトリソグラフィ工程を用いて製造する際の、露光工程(露光装置)にも適用することができる。
【0120】
なお、本発明は上述の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を取り得ることは勿論である。また、明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約を含む2002年12月3日出願の日本国特願2002−350944、及び2003年4月18日出願の日本国特願2003−115098の全ての開示内容は、そっくりそのまま引用して本願に組み込まれている。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の汚染物質除去方法により光学部材上に付着した汚染物質を落とすことが容易になり、これまでのように光学部材を交換したりする必要がなくなったので、交換に係わる部品代金、組立調整費用、又はメンテナンス費用を削減できる。
また、本発明において、洗浄液としてフッ化水素酸を含む液体を用いることで、これまで除去できなかった酸化珪素を含む汚染物質を迅速に溶解し、除去することができる。
【0122】
また、本発明によって、光学部材の透過率を容易に高く維持できるため、露光工程のスループットを高く維持することができ、各種デバイスを効率的に生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】光学部材の様々な反射率特性を示す図である。
【図2】光学部材の様々な透過率特性を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の投影露光装置の基本構成を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の投影露光装置が配置されたクリーンルーム内の配置の一例を示す一部を切り欠いた図である。
【0124】
【図5】本発明の第2の実施形態の投影露光装置を示す斜視図である。
【図6】投影光学系のフレア計測を行う場合の説明図である。
【図7】第2の実施形態における汚染物質除去動作の一例を示すフローチャートである。
【図8】図5からミラー19及びメインコンデンサレンズ20を取り除いた状態の要部を示す斜視図である。
【0125】
【図9】投影光学系PLの上端のレンズ32Aの汚染物質を除去する場合の要部を示す一部を切り欠いた斜視図である。
【図10】図9の支持部56を示す拡大正面図である。
【図11】投影光学系PLの下端のレンズ32Bの汚染物質を除去する場合の要部を示す斜視図である。
【0126】
【図12】下端のレンズ32Bに移動部材67の拭き布68を接触させた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0127】
90…光学レンズ、100…光学レンズ、101…照明光学系、500…投影光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターンを有する第1物体を介して露光ビームで第2物体を露光する露光装置内で前記露光ビームが通過する光学系の光学部材の表面に付着した汚染物質を除去する汚染物質除去方法において、
所定の洗浄液を用いて、前記光学部材に付着した汚染物質を除去すると共に、前記光学部材から前記洗浄液を除去し、前記汚染物質および前記洗浄液の除去を定期的に複数回実行した後で少なくとも前記光学部材を交換することを特徴とする汚染物質除去方法。
【請求項2】
前記除去前後の少なくとも一方で前記光学系の光学特性を計測することを特徴とする請求項1に記載の汚染物質除去方法。
【請求項3】
前記光学系の光学特性を計測し、該計測結果に基づいて前記汚染物質の除去の要否を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の汚染物質除去方法。
【請求項4】
前記光学系で生じるフレアに関する情報を計測すると共に、前記フレアが許容値を超えているとき前記光学部材に付着した汚染物質の除去を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の汚染物質除去方法。
【請求項5】
前記除去後に前記光学部材に残存する汚染物質に関する情報を求めることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の汚染物質除去方法。
【請求項6】
前記除去後に前記光学部材の表面の反射率を計測することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の汚染物質除去方法。
【請求項7】
前記光学部材の表面の反射率を計測するために分光光度計を用いることを特徴とする請求項6に記載の汚染物質除去方法。
【請求項8】
前記洗浄液はフッ化水素酸を含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の汚染物質除去方法。
【請求項9】
前記洗浄液は前記フッ化水素酸にフッ化アンモニウムが添加されることを特徴とする請求項8に記載の汚染物質除去方法。
【請求項10】
前記洗浄液はPHが4〜6程度であることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の汚染物質除去方法。
【請求項11】
前記光学部材から前記洗浄液を除去するために水及び有機溶剤の少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の汚染物質除去方法。
【請求項12】
前記光学部材から前記洗浄液を除去するために前記水を用いた後に前記有機溶剤を用いることを特徴とする請求項11に記載の汚染物質除去方法。
【請求項13】
前記光学系はチャンパ内に収納され、前記汚染物質の除去対象となる前記光学部材の表面は、前記チャンパ内でその内部気体と接することを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載の汚染物質除去方法。
【請求項14】
前記光学系はその内部に前記露光ビームの減衰が空気よりも少ない気体が供給されることを特徴とする請求項13に記載の汚染物質除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−27195(P2009−27195A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274975(P2008−274975)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【分割の表示】特願2004−570722(P2004−570722)の分割
【原出願日】平成15年11月25日(2003.11.25)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】