説明

汚泥からの可燃性ガス及びスラグの回収方法、及び汚泥のガス化溶融炉

【課題】本発明の目的は、主として下水の生物学的処理により発生する活性汚泥を高効率且つ低コストにガス化溶融処理すると同時に、汚泥中に含有されるリンを回収し、肥料またはリン原料として有効利用することである。
【解決手段】汚泥灰分の融点以上の温度を有する気流床型ガス化溶融炉内へ、炉壁に対して垂直方向の吹き込み角度が下向き0〜45度となるように、且つ、ガス化溶融炉の炉内直径に対して1/5より小さな直径からなる炉と同軸の旋回円の接線方向に向けて、複数本の原料供給ノズルから気流搬送で吹き込み、前記汚泥を酸素又は酸素富化空気と部分酸化反応させて可燃性ガスを生成すると共に、前記灰分を溶融させてリンを含有するスラグを生成し、当該生成した可燃性ガス及びスラグを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として下水の生物学的処理により発生する活性汚泥をガス化溶融処理して、汚泥中の有機物等を可燃性ガスとして回収すると共に、汚泥中に含有されるリンをスラグ中に取り込んで回収し、肥料またはリン原料として有効利用する方法、及びそのために使用する汚泥のガス化溶融炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排水、特に下水を生物学的処理によって浄化する際に発生する余剰の活性汚泥(以下汚泥と略す)は、下水道の普及、また下水処理場における高度処理プロセス(窒素、リンの除去等)の導入等に伴って益々増加する傾向にある。これら汚泥は、現状ではその多くが減容化処理の後、単純に埋め立て処分されている。その際の汚泥の形態としては、脱水処理後のいわゆる脱水ケーキ(水分含有率80質量%程度)、あるいは脱水ケーキを焼却処理後の焼却灰として埋め立てられる場合が大半を占めている。
【0003】
また、近年では、埋め立て地の逼迫等の理由によって、更なる汚泥の減容化あるいは有効利用を狙いとして、汚泥の溶融処理が一部で実施されている。汚泥の溶融処理は、汚泥を灰の溶融点以上の高温雰囲気下で空気燃焼させることによって、汚泥をスラグへと変換し、汚泥の嵩密度の低減あるいは建設資材等としての有効利用を図る技術である。
【0004】
汚泥は乾燥状態においては6300〜21000kJ/kg−dry程度の発熱量を持つのが一般的であるが、通常の下水処理場における最終形態である脱水ケーキの状態においては依然として80質量%程度の大量の水分を含有しているため、熱損失(炉体からの放散熱、燃焼用空気中の同伴窒素による持ち出し顕熱、水の蒸発潜熱等)を加味すると汚泥自体の持つ発熱量のみで燃焼(すなわち自燃)させることは困難である。従って従来の汚泥焼却炉においては、何らかの方法(炉内へ直接添加する、空気予熱用燃料として使用する等)で補助燃料を使用することが必要不可欠である。なお、補助燃料削減を狙いとして、焼却炉から排出される高温排ガス中の顕熱を熱交換機等の熱回収設備によって間接的に回収し、燃焼空気の予熱に利用する場合が一般的である。
【0005】
また、通常の汚泥溶融炉においては、溶融炉内を灰の溶融点以上の高温(1100〜1600℃程度、焼却炉は灰の融点以下の1000℃以下)に保つ必要があり、脱水ケーキを直接炉内へ投入したのでは大量の補助燃料が必要なので極めて非効率となるため、事前に乾燥設備によって汚泥の乾燥作業を行う場合が一般的である。しかし、汚泥中の水分を削減して蒸発潜熱による熱損失を防いだ場合であっても、その他の熱損失を加味すると、汚泥を完全に燃焼させたとしても炉内温度を灰の融点以上の高温に維持することは困難であり、汚泥焼却炉の場合と同様、何らかの方法(炉内へ直接添加する、空気予熱用燃料として使用する等)で補助燃料を使用することが必要不可欠である。また当然、前段の乾燥設備においては別途乾燥のための熱源が必要となるが、外部からの燃料(補助燃料、例えば、重油、灯油、軽油、LPG、LNG、都市ガス、消化ガス等)の導入を極力抑えるため、溶融炉から排出される高温排ガス中の顕熱を廃熱ボイラーや熱交換機等の熱回収設備によって間接的に回収し、乾燥機における必要熱源の一部に充当して用いることが一般的である。
【0006】
一方、汚泥中には主に排水中に含有されるリンに由来する比較的高濃度のリンが蓄積していることが知られている。汚泥中に含まれるリン濃度は、通常のリン製造プロセスにおける原料であるリン鉱石と同等レベルに達する場合もあるため、近年汚泥を焼却したあとの焼却灰からリンを回収し有効利用を図る技術が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1および特許文献2においては、汚泥を焼却処理した後の焼却灰をカルシウム成分およびマグネシウム成分と混合後に溶融して生産したスラグをリン肥料(熔成リン肥代替)として使用する汚泥中リンの有効利用方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献3においては、汚泥を乾燥後、気流搬送して溶融炉に吹き込み、酸素又は酸素富化空気で汚泥を部分燃焼して還元ガスとスラグを回収する方法が提案されており、この方法では補助燃料を使用しなくとも汚泥のガス化、溶融が可能となる。
【0009】
【特許文献1】特開2001−80979号公報
【特許文献2】特開2003−112988号公報
【特許文献3】特開平11−159722号公報
【非特許文献1】仙波範明、保田静生、西川進、川見佳正、古角雅之「第7回廃棄物学会研究発表会講演論文集」廃棄物学会、1996年、p464
【非特許文献2】義家亮、西村誠、守富寛「第11回廃棄物学会研究発表会講演論文集」廃棄物学会、2000年、p864
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図1に特許文献1および特許文献2に記載されている従来の排水の生物学的処理により発生しリン含有灰分を有する汚泥の有効利用方法(スラグをリン肥料として利用)の基本フローを示す。従来の方法においては、汚泥(脱水ケーキ)1を空気2によって燃焼させることによって減容化する汚泥焼却炉4の後段へ更にリン肥料製造用の灰溶融炉9を設置する2段構成のプロセスとなっている。このようなプロセスにおいては、当然炉を2基分設置するため、設備コストは増大しかつ大きな設置スペースを必要とする。特に、汚泥焼却炉4においては汚泥1(場合によっては補助燃料も一緒に)を過剰の空気2によって高温燃焼させて発生した大量かつ高温の排ガス5(主成分はN2、CO2、H2O)から処理するための一連の排ガス処理設備11(廃熱回収器、脱塵設備、脱硫設備等)は極めて大がかりなものとなり、設置コストおよび設備スペースが上乗せされる大きな一因となっている。
【0011】
また、前記した通り、汚泥焼却炉4においては補助燃料3の使用が必要不可欠であり、また、後段の灰溶融炉9においては一般的に電気炉が使用されるため、従来のプロセスにおいては、燃料コスト、電力コスト等のユーティリティーコストが極めて高額になってしまうという問題もあった。
【0012】
灰溶融炉9内においては汚泥の焼却灰6を肥料化のために必要な副資材8(マグネシウム、カルシウム等)とともに灰の融点以上の高温まで昇温させる必要があり、その際汚泥中に含有される金属成分の一部分は揮発し、スラグから除去されることが知られている。炉内を還元性雰囲気とした場合、揮発は更に促進される(例えば、非特許文献1、2参照)。特許文献2においても炉内を還元性雰囲気に保ち重金属類をスラグ10中へ極力移行させないようにするものと述べられているが、そのためには炭素源として外部から高価な燃料であるコークス7を添加する必要があった。
【0013】
尚、特許文献3には、リンの回収については記載されていないが、汚泥の部分酸化反応時間を長く確保するため、汚泥ノズルに相当するバーナーの角度を、燃焼ガスの旋回流が大きくなるように炉壁に沿うようにセットしているため、汚泥中のリンは揮発が促進されて燃焼ガス側に大部分移行してしまい、スラグ中にリンを取り込んで回収することは困難であった。
【0014】
なお、特に有害な金属成分である水銀、砒素、クロム、鉛、カドミウム、セレン等に関しては元々汚泥中に含有されている量自体が僅かであるため、生成したスラグを有効利用する上で実質的にはほとんど問題とはならない。しかし、亜鉛に関しては、一般家庭で用いられる洗剤等、様々な由来の成分が下水中に多量に排出される関係上、最大1%程度の含有量であることが一般的である。亜鉛はスラグを有効利用する上での有害物質(建設資材として使用する際の溶出の規制値、 肥料として使用する際の含有量の規制値)には指定されていないが、土壌中の含有許容量には規制があるため、特に生成したスラグを肥料として使用する際には、農地の土壌中へ溶け出した亜鉛が徐々に蓄積してしまうという大きな問題があった。
【0015】
本発明の目的は、汚泥を高効率かつ低コストに溶融処理し、可燃性ガスを回収すると共に、汚泥中に含有されるリンの多くをスラグ中に取り込んで回収し、肥料またはリン原料として使用するためのスラグを得ることが可能な、汚泥有効利用方法及びそのための汚泥のガス化溶融炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明の要旨は次の通りである。
(1)排水の生物学的処理により発生しリンを含有する汚泥を、前記灰分の融点以上の温度を有する気流床型ガス化溶融炉内へ、炉壁に対して垂直方向の吹き込み角度が下向き0〜45度となるように、且つ、ガス化溶融炉の炉内直径に対して1/5より小さな直径からなる炉と同軸の旋回円の接線方向に向けて、複数本の原料供給ノズルから気流搬送で吹き込み、前記汚泥を酸素又は酸素富化空気と部分酸化反応させて可燃性ガスを生成すると共に、前記灰分を溶融させてリンを含有するスラグを生成し、当該生成した可燃性ガス及びスラグを回収することを特徴とする汚泥からの可燃性ガス及びスラグの回収方法。
(2)前記生成したスラグを水中において急冷し、水砕スラグとして回収することを特徴とする(1)記載の汚泥からの可燃性ガス及びスラグの回収方法。
(3)前記汚泥に、マグネシウム成分、カルシウム成分、シリカ成分の少なくともいずれかを添加し、当該添加後の汚泥を前記ガス化溶融炉内へ吹き込むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の汚泥からの可燃性ガス及びスラグの回収方法。
(4)排水の生物学的処理により発生しリンを含有する汚泥のガス化溶融炉であって、前記汚泥を気流搬送で前記ガス化溶融炉の内部に吹き込む原料供給ノズルを複数本有し、当該ノズルは、前記ガス化溶融炉の炉壁に対して垂直方向の吹き込み角度を下向き0〜45度とし、且つ、前記ガス化溶融炉の炉内直径に対して1/5より小さな直径からなる炉と同軸の旋回円の接線方向に向けて配置される、又は、お互いに向き合った対向方向に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、主として下水の生物学的処理により発生する余剰の活性汚泥を高効率且つ低コストにガス化溶融処理し、可燃性ガスを回収すると共に、汚泥中に含有されるリンをスラグ中に取り込んで回収し、肥料またはリン原料として有効利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。図2に本発明に関するフローシートを示す。
【0019】
本フローにおける設備構成は、汚泥乾燥設備12の後段に、上部にガスクエンチャー18が設けられたガス化溶融炉(高温ガス化部)17が設置され、その後段に、廃熱回収器23(廃熱ボイラー、空気予熱器等)、高温フィルター(金属フィルター、セラミックスフィルター等)またはサイクロ(登録商標)ン等の脱塵設備24、脱硫設備26が配置され、更に、製品である可燃性ガス(クリーン)27の汚泥乾燥設備12への循環ライン29が設けられたものである。
【0020】
汚泥乾燥設備12から排出された乾燥汚泥13は微粉状態であり、気流床型のガス化溶融炉(高温ガス化部)17へ気流搬送によって投入される。ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内において汚泥は酸素16をガス化剤とした部分酸化反応(不完全燃焼)によって、1100〜1600℃の高温でガス化され、高温の可燃性ガス(主成分はH2、CO、CH4、CO2、H2O)とスラグへと転換される。
【0021】
なお、ここで述べるところのスラグとは、汚泥中に含有される灰分がその融点以上の温度において溶融したものを意味する(再度冷却されて固化したものも含む)。また、灰分の融点とはJIS M8801(灰の溶融性試験方法)において規定される溶流点温度を意味する。
【0022】
空気(すなわち空気中に含有される酸素)を過剰に加えることによって汚泥を完全燃焼させる必要のある通常の汚泥焼却炉あるいは汚泥溶融炉における炉内雰囲気は酸化性雰囲気となるが、本発明におけるガス化溶融炉(高温ガス化部)17内においては酸素不足状態下での反応が起きるため還元性雰囲気となる。そのような高温の還元性雰囲気において汚泥を溶融した場合、汚泥中に含有される重金属類の揮発が促進されることが知られている(例えば非特許文献1、2参照)。
【0023】
特に本ガス化溶融炉(高温ガス化部)17へ投入された微粉状の汚泥は、瞬時に有機分がガス化されると同時に灰分が溶融し、スラグの微細粒子へと転換される。スラグが微粒子化することによって比表面積が増加し、周囲の還元性雰囲気ガスとの接触するタイミングも増加するため、汚泥中に含有される重金属類、特に含有量の多い亜鉛はその揮発量が飛躍的に増加する。この際のガス化溶融炉(高温ガス化部)17へ投入する前の微粉状汚泥の粒径は1mm以下とすることが、重金属の揮発除去量を高める観点から望ましい。揮発した重金属成分は高温の可燃性ガス中へ同伴され、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17から排出される。
【0024】
なお、汚泥は元来が微生物および細菌の集合体であるため、汚泥乾燥設備12において水分含有率15質量%以下程度まで乾燥を行えば、その多くは粒径1mm以下程度の微粉状態となる。しかし、汚泥乾燥設備12の方式(例えば、撹拌破砕機付回転乾燥方式)や汚泥の性状によっては、直径1mmより大きな粒状の汚泥が少量混合する場合も起こりうる。これら1mmより大きい粒径の汚泥粒子は、先に述べたスラグからの重金属揮発低下の原因となるばかりではなく、微粉汚泥を気流搬送する際の配管閉塞等のトラブル原因となるため、そのような場合は、汚泥乾燥設備12の後段にローラーミル、カッターミル等の粉砕機を設置し、すべての汚泥粒子を1mm以下に調整することが望ましい。また、粉砕機の代わりに振動篩いを設置し、1mmより大きな粒径の汚泥を除去しても良い。
【0025】
このようにして調整した汚泥粒子は、通常、粒径として1mm以下、その内10μm以下の粒子を20%程度の割合で含有する粒度分布となる。なお、汚泥の粒径を必要以上に微細とすることは、多くの動力を消費するばかりではなく、気流搬送する際の配管閉塞や供給用ホッパーの棚つり等のトラブル原因となるため好ましくない。
【0026】
なお、ここで定義される汚泥の粒子径は篩い分け粒度分布測定装置によって測定されるものである。
【0027】
なお、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内においては、汚泥中の重金属成分のみならずリンに関しても揮発が起きることが知られている。本気流床型ガス化溶融炉においては炉内にスラグ成分が滞在する時間が比較的短くなるため、電気炉タイプの溶融炉等と比較するとリンの揮発割合自体は減少するものの、揮発した一部のリンは炉後段の設備において付着性の強いダストとして析出し、長期間の安定操業を阻害するため、また、スラグの付加価値向上(スラグに含有されるリン含有量増大)のためには、揮発するリンを可能な限り抑制しスラグ中に移行させることが望ましい。
【0028】
発明者らは、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内へ吹き込まれた汚泥粒子が炉内に滞留する時間を、汚泥中の有機物が部分酸化反応によって可燃性ガスへと転換するのに必要最低限な短い時間内に制御することによって、汚泥中のリンの揮発を抑制可能であることを見出した。なお、この場合の汚泥粒子とは、元来の汚泥粒子がガス化溶融炉(高温ガス化部)17内へ吹き込まれ、汚泥粒子中の有機物は部分酸化反応によってその大半がガスへと転換し、同時に汚泥中に含有される灰分はその融点以上の温度において溶融し、遂にはスラグ粒子へと変換していく一連の過程の粒子を意味する。また、汚泥粒子が炉内に滞留する時間(粒子滞留時間)とは、汚泥粒子がガス化溶融炉(高温ガス化部)17内へと吹き込まれてスラグ粒子へと変換し、更にそのスラグ粒子が炉底へ到達するまでの時間を意味する。
【0029】
なお、汚泥粒子の炉内における滞留時間を短くすることによって汚泥中の有機物が可燃性ガスへと転換した割合を示す指標である炭素転換率が若干低下する場合があるが、汚泥は粒子滞留時間が1秒程度の短時間であっても90%以上の高い炭素転換率が得られるため、特に問題とはならない。
【0030】
すなわち、図3に示すように、微粉に調整された乾燥汚泥を気流搬送によって炉内へ投入する原料供給ノズル30(複数本設置)をガス化溶融炉(高温ガス化部)17の壁に対して垂直方向に下向き0度以上の角度となるように設置し、同様の角度で微粉状の汚泥をガス化溶融炉(高温ガス化部)17内へ吹き込むことによって、汚泥中の有機物が部分酸化反応によって可燃性ガスへ転換するために必要な時間は確保しつつ、同時に灰分が溶融することによって生じたスラグは不必要に炉内に滞留することなく炉底へと到達し、スラグポット20へ排出することが可能となる。
【0031】
また、ノズル内およびノズル手前の汚泥搬送配管における汚泥粒子の閉塞を防止する観点からは原料供給ノズル30(複数本設置)をガス化溶融炉(高温ガス化部)17の壁に対して垂直方向に下向き15〜45度の角度となるように設置することがより望ましい。原料供給ノズル30を0度(水平)よりも上向きに設置した場合、吹き込まれた汚泥粒子およびその後のスラグ粒子はノズルより上方の炉上部まで到達し、その後炉底へと落下する軌跡をたどった結果、炉内に滞留する時間が長くなり、リンの揮発量が増加してしまうため、更にはノズル内およびノズル手前の汚泥搬送配管における汚泥粒子の閉塞が発生する可能性が高くなるため好ましくない。また、45度よりも吹き込み角度を大きくした場合には、ノズル先に形成させる高温のフレーム(火炎)が炉底や炉壁と接触することによって生じる、炉底や炉壁の損傷が激しくなるために好ましくない。
【0032】
更に加えて、微粉に調整された乾燥汚泥をガス化溶融炉(高温ガス化部)17内へ吹き込む際、炉内の周方向への旋回が大きくなることは、汚泥粒子の滞留時間の増加につながるため好ましくない。すなわち、図4(a)、(b)に図示するように、当該原料供給ノズル30が、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17の炉内直径34に対して1/5より小さな直径からなる炉と同軸の旋回円35(図4(a)、(b)は1/6の例)の接線方向に向けて複数本設置することが好適である。なお、各ノズル30は同一の旋回円35の接線方向に向けられることが好ましいが、ズレてもよい。また、図5(a)、(b)に示すように、旋回円の直径をゼロとし、すべてのノズルが炉の中心軸を向くように設置しても構わない。
【0033】
原料供給ノズル30の本数は、2本でも可能であるが、旋回流の安定性から3本以上が好ましく、取り扱い安さ及び経済性の面からは、6本以下が好ましい。
【0034】
なお、上記に示したような汚泥の吹き込み手段によって、汚泥粒子の滞留時間を適切に制御するためには、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17の内径が5m以内、高さが10m以内の円筒形とし、また、気流搬送によって汚泥粒子を吹き込む際の速度(線流速)を5m/s以上100m/s以下とすることが望ましい。また、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17の内径及び高さの下限としては、内径0.3m以上、高さ0.3m以上とすることが、炉製作の際の作業性、および炉の効率維持の観点から望ましい。
【0035】
一般的なガス化溶融炉内において、汚泥粒子の滞留時間はガス滞留時間の数倍から数十倍程度の値を示す。しかし、先に述べたような条件に設定することによって、汚泥粒子の滞留時間はガス滞留時間と同様程度の滞留時間を示すようになる。なお、汚泥粒子中の有機物が部分酸化反応によってガスへと転換するのに必要な時間は1〜2秒であるため、粒子滞留時間も同様の1〜2秒の範囲とすることが望ましい。
【0036】
また、図6に示すように、原料供給ノズル30が設置されるガス化溶融炉(高温ガス化部)17の高さ方向の位置は、炉底部の温度を高温に維持し、スラグを抜き出し易くするために、炉高さ(内のり)の下半分の範囲とすることが望ましい。なお、この際のガス化溶融炉(高温ガス化部)とはガスクエンチャーおよびスラグポットを含めない、高温ガス化部のみを意味する。原料供給ノズル30の設置位置をこれよりも高い位置とした場合、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17の炉底から抜き出されずにガスと共に同伴されるスラグの量が増えるために好ましくない。
【0037】
生成した溶融状態のスラグは炉底に設置された抜き出し用の穴(スラグタップ)より取り出され、水が充填されているスラグポット20へと落下する。水中においてスラグは急冷されることによって急速に凝固し(水砕)、ガラス質(非晶質)の凝固体(水砕スラグ)へと変換される。水砕を行うことによって、スラグ中のリン酸は他の成分とガラス状の共融体を形成し、その大半が水溶性ではなくク溶性(2%クエン酸液に可溶)を示すようになる。ク溶性のリン酸は、土壌中あるいは水中において徐々に溶出する性質を持つようになるため、生成したスラグ21を遅効性肥料(熔成リン肥)として直接有効利用するために好適である。生成したスラグ21を配合肥料原料あるいはリン製造プロセスの原料であるリン鉱石の代替として使用する場合(本スラグを原料としてリンを製造する場合)、スラグの最終形態は水砕スラグ、徐冷スラグ等どのような形態であっても特に構わない。なお、徐冷スラグを製造する場合は、スラグタップから抜き出した溶融スラグを自然冷却すれば良い。
【0038】
なお、生成したスラグ21を直接、熔成リン肥として使用するためには、現状の肥料取締法に基づく規格(ク溶性リン酸:17.0質量%以上、ク溶性苦土(Mg):12.0質量%以上、アルカリ分:40.0質量%以上、可溶性ケイ酸:20.0質量%以上を含有)を満たさなければならない。元来の汚泥にはこの規格を満たすだけの成分が含まれていない場合が多いため、別途これらの成分を副資材8として添加してガス化溶融炉(高温ガス化部)17において汚泥と共に処理する必要がある。
【0039】
上記規格を満たすためには、マグネシウム成分、カルシウム成分、シリカ成分を添加する必要がある。しかし、得られたスラグ21を直接熔成リン肥として用いるのではなく、規格外の特殊肥料として、あるいはリン製造原料(リン鉱石代替)等として用いる場合には、これら副資材8を添加する必要はない。
【0040】
この際添加するマグネシウムの形態は特に問わない。すなわち、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、焼成ドロマイト、ジャモン石、更にはマグネシウム成分を含有する廃棄物(廃レンガ等)等、どのような形態であっても構わない。
【0041】
この際添加するカルシウムの形態に関しても、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、ドロマイト、焼成ドロマイト、カルシウム成分を含有する廃棄物(廃レンガ等)等、どのような形態であっても構わない。
【0042】
同じく、この際添加するシリカの形態に関しても、二酸化ケイ素、珪石、ジャモン石、シリカ成分を含有する廃棄物(廃レンガ等)等、どのような形態であっても構わない。
【0043】
また、マグネシウム成分、カルシウム成分、シリカ成分の混合割合は、肥料取締法に基づく規格に合うように適宜調整すれば良い。
【0044】
これら副資材8を汚泥へ添加するタイミングに関し、汚泥乾燥設備12前の汚泥(脱水ケーキ)1に添加しても良く、また汚泥乾燥設備12後の乾燥汚泥13に添加しても良い。しかし、酸化マグネシウムまたは酸化カルシウムを副資材として使用する場合は、汚泥乾燥設備12前の汚泥(脱水ケーキ)1に添加することが望ましい。添加された酸化マグネシウムまたは酸化カルシウムは脱水ケーキ中に多量に含有される水分と以下の(1)または(2)式で示される反応式によって反応し、脱水ケーキ中の水分の一部が除去されるため、汚泥乾燥設備における所要燃料を削減することが可能となる。
【0045】
MgO+H2O→Mg(OH)2 …(1)
CaO+H2O→Ca(OH)2 …(2)
なお、副資材8として添加したマグネシウムおよびカルシウムの一部は脱硫剤としても機能する。すなわち汚泥中に含まれる硫黄分を硫化物(MgS、CaS)あるいは硫酸塩(MgSO4、CaSO4)としてスラグ中へ固定化することによって、ガス化の際にガス中へ移行する硫黄分(H2S、COSとして)を減少させる。ガス中へ移行する硫黄分の減少は、ガス化溶融炉後段への設置が必須である脱硫設備11の規模を削減できるメリットがある。
【0046】
一方、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17から排出された高温の可燃性ガスは、ガスクエンチャー18においてスプレー水あるいはクエンチガス19を吹き込むことによって1000℃以下にまで冷却し、ガスと共に上部へ飛散したスラグを融点以下の温度で固化することによって灰付着(スラッギング)トラブルを防止した後、廃熱ボイラーあるいは空気予熱器等の廃熱回収器23へと導入され、更なる熱の有効利用を図るものとするが、ガス中に同伴されるリンの含有量が少ないため、廃熱回収器23の内面(伝熱面)へのリン由来の強粘着性ダスト析出による設備トラブルを回避することが可能となる。
【0047】
廃熱回収器23から排出された可燃性ガスは、フィルター(金属フィルター、セラミックスフィルター、バグフィルター等)またはサイクロ(登録商標)ンからなる脱塵設備24においてガス中に含有されるダスト分を除去される。ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内において揮発した重金属成分が再び凝縮し、ダスト25と共に回収可能となるように、脱塵設備24において導入されるガスの温度は、大部分の重金属成分が凝縮する350℃以下とすることが望ましい。
【0048】
脱塵設備24から排出された可燃性ガスは脱硫設備26において精製された後に、その全量あるいは一部を汚泥乾燥用燃料として汚泥乾燥設備において利用する。なお、可燃性ガスの発熱量および生成量は、ガス化される汚泥の発熱量、ガス化条件、及びクエンチ条件に応じて変動するが、可燃性ガス全量を乾燥用燃料として利用してもなお乾燥に必要な熱源が不足する場合には、別途補助燃料3を併用しても良い。また、逆に余剰の可燃性ガス28が生じた場合、あるいは乾燥用に本可燃性ガス以外の別の熱源を使用した場合には、生成した可燃性ガス27を乾燥以外の用途(例えば発電用燃料、メタノール等化学品合成原料、水素原料)に利用しても良い。
【0049】
汚泥乾燥設備12の方式としては、高温の熱風と汚泥を直接接触させる直接加熱方式のものが、粉砕機を用いずにまたは簡易かつ小型の粉砕機を介するだけで容易に微粉汚泥が得られる点において、また汚泥中の水分含有率(=水分質量/汚泥質量−wet×100)を15%以下にまで低減できる点において好適である。具体的な乾燥機としては、気流乾燥機、熱風粉砕乾燥機、流動層式乾燥機、攪拌機付回転ドラム式乾燥機等、様々な種類のものが利用可能である。
【0050】
乾燥後の汚泥中の水分含有率は、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17の高効率化を達成する観点から、また前述した通り、汚泥は元来が微生物および細菌の集合体であるため、汚泥乾燥設備12において水分含有率15質量%以下程度まで乾燥を行えば、その大半は自然に粒径1mm以下程度の微粉状態となることから、15質量%以下とすることが望ましい。なお、汚泥の性状によっても異なるが、水分含有率を5質量%以下とすることは、乾燥の際に必要なエネルギー消費量が大きくなるため好ましくない。
【0051】
ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内の温度は、汚泥中に含まれる灰分の融点に応じた温度に設定され、灰分の融点よりも高い温度とするので1100℃以上とするが、必要以上の高温とすることは、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内の炉壁の寿命を極度に短縮し、かつ放熱による熱損失も増加するために好ましくないので1600℃以下とする。
【0052】
ガス化の際にガス化剤として添加する酸素16は同伴窒素による持ち出し顕熱を削減する観点から、可能な限り高濃度酸素を用いることが好ましい。しかし、必要以上に高濃度の酸素を製造することは酸素製造設備15における投入エネルギーの増大等デメリットが増すばかりであり、ガス化そのものに与える影響は少ないため、ここで用いる酸素は一般的な酸素製造法(吸着分離法〈PSA〉、深冷分離法)によって製造可能な濃度(80容量%以上)で良い。また、酸素製造設備15の規模削減のため、酸素製造設備15によって製造した酸素を空気と混合した酸素富化空気を酸素の代わりに使用しても良い。この際の酸素富化空気中の酸素濃度は空気中に通常含有される酸素濃度よりも高い濃度であれば、同伴する窒素の持ち出し顕熱によるガス化溶融炉の効率低下を多少なりとも回避できる。しかし、ガス化溶融炉における効率上昇、ガス化溶融炉以降に設置される廃熱回収器23、脱塵設備24、脱硫設備26等一連の機器類の規模削減のためにはガス化剤として酸素富化空気よりも80容量%以上の酸素を用いることが望ましい。
【0053】
本発明例においては、酸素を製造するためのエネルギー(電力)が別途必要となるが、従来法と比較して炉出口以降のガス処理関係の設備規模を大幅に縮小できるため、その部分での電力削減分で充分にカバーすることができる。
【0054】
ここで添加する酸素量は、水分を含有する汚泥中の有機物を完全燃焼させるために必要な酸素量(いわゆる理論酸素量)よりも少ない酸素量とする。ここでいう有機物とは乾燥ベースの汚泥中の灰分を除いた部分(炭素、水素、窒素、硫黄、酸素を主体)を意味する。その割合は汚泥発熱量およびガス化溶融炉内温度を何度に設定するかによって異なるが、理論酸素量を1とした場合の割合で0.2〜0.8の範囲内で調整することが好適である。0.2未満の酸素比では、ガス化せずに未燃物へと転換する有機物が極めて多くなるため、また、0.8を超過する酸素比では、可燃性のガス成分(H2、CH4等)へ転換する割合がほとんどなくなり、大部分が燃焼ガス(CO2、H2O)まで転換してしまうため、本発明の目的からして好ましくない。より好ましくは、0.3〜0.6の範囲内で調整することである。この範囲でガス化を行えば、汚泥の持つ有機物に対して発生する未燃物の割合を30質量%以下に抑え、かつ可燃性ガス中に含有される可燃性成分の割合を40容量%以上(ドライガスベース)とすることが可能である。
【0055】
また、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内の温度制御の目的も兼ねて、ガス化剤としてスチームを酸素16と併用しても良い。
【0056】
なお、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内の圧力は特に規定しないが、大気圧よりも低い圧力とした場合には、外部からの空気の漏れ込みによる爆発の危険性があるため好ましくない。また、大気圧よりも高い加圧条件とする場合にはガス化溶融炉をコンパクトにすることのできるメリットもある。
【0057】
本発明で使用する汚泥として、下水汚泥以外に、産業排水の生物学的処理施設から発生する余剰の活性汚泥(例えば、コークス炉排水(安水)処理設備、ステンレス酸洗排水の処理設備、各種食品工場の排水処理設備から排出される余剰汚泥等)を用いても良い。
【実施例】
【0058】
実施例1
図7に示したフローに従って、本発明例を実施した。
【0059】
使用した下水汚泥の分析値を表1に示す(灰の組成に関しては、表示以外の成分を含有し、分析途中のロスも生じるため合計が100%とならない)。なお、この汚泥は下水処理場の脱水機から排出されたもの(脱水ケーキ)である。
【0060】
【表1】

【0061】
下水汚泥(脱水ケーキ)1(100t/day)を、気流(熱風)型の汚泥乾燥設備に12おいて乾燥後、生成した乾燥汚泥13(水分含有量7質量%、平均粒径470μm)を、汚泥供給ホッパー14より、酸素製造設備15の副産物である窒素による気流搬送によってガス化溶融炉(高温ガス化部)17へ投入した。なお、原料供給ノズルは4本とし、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17の炉底から1/3の高さ位置において、下向きの15度の角度で、各々のノズルからガス化溶融炉の炉内直径に対して1/6の直径からなる炉と同軸の旋回円の接線方向に向けて、微粉状の乾燥汚泥13を気流搬送(ガス流速10m/s、固気比15)によって吹き込むものとした。
【0062】
ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内において、汚泥は酸素16と共に、温度1350℃でガス化溶融され、高温の可燃性ガスおよびスラグへと転換すると同時に汚泥中に含有される重金属の一部がガス中へ揮発した。生成した溶融スラグは炉底のスラグタップより抜き出され、スラグポット内において水砕された後に水砕のスラグ21として回収された。一方、生成した高温の可燃性ガスはガス化溶融炉(高温ガス化部)17の上部のガスクエンチャー18においてスプレー水36によって900℃まで冷却された後、空気予熱器37において顕熱を回収された後、脱塵設備24へ導入され、ダスト分を除去し、更には脱硫設備26へ導入され、クリーンな可燃性ガス27として回収できた。その可燃性ガス27の全量を燃料ガスとして汚泥乾燥設備12へ導入し、空気予熱器37において予熱された空気と共に燃焼させることによって、乾燥熱源として利用した。本実施例に関して、補助燃料は一切必要なく、プロセスを熱的に自立させることが可能であった。
【0063】
表2にスラグポット20から回収された水砕スラグ21の組成を示す。元の汚泥中に含まれていたリンの中の96%をスラグ中へ移行させることが可能であった。すなわち、リンの揮発は大幅に抑制しつつ、汚泥中に含有されていた重金属を揮発させ、スラグから除去することが可能であった。特に汚泥中に多く含有されていた亜鉛の大部分を除去することが可能であった。
【0064】
なお、生成したスラグ21は配合肥料原料として有効利用可能であった。
【0065】
【表2】

【0066】
表3に本発明例(実施例1)および従来のリン回収プロセス(流動床型汚泥焼却炉+リン回収用電気式灰溶融炉)におけるユーティリティー使用量を示す。本発明例においては、従来法よりも補助燃料使用量および電力使用量を大幅に削減できた。また、従来法よりも設備構成が極めてシンプルであるため、設備コストおよび設備設置スペースも7割程度に削減可能であった。
【0067】
【表3】

【0068】
実施例2
図8に示したフローに従って、本発明例を実施した。
【0069】
使用した下水汚泥の分析値を表4に示す(灰の組成に関しては、表示以外の成分を含有し、分析途中のロスも生じるため合計が100%とならない)。なお、この汚泥は下水処理場の脱水機から排出されたもの(脱水ケーキ)である。
【0070】
【表4】

【0071】
下水汚泥(脱水ケーキ)1(100t/day)を、気流(熱風)型の汚泥乾燥設備12において乾燥後、生成した乾燥汚泥13(水分含有量7質量%、平均粒径470μm)を、副資材8であるドロマイト2.6t/dayおよび珪石0.5t/dayと混合後、汚泥供給ホッパー14より、酸素製造設備15の副産物である窒素による気流搬送によってガス化溶融炉(高温ガス化部)17へ投入した。なお、原料供給ノズルは4本とし、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17の炉底から1/3の高さ位置において、下向きの15度の角度で、各々のノズルからガス化溶融炉の炉内直径に対して1/6の直径からなる炉と同軸の旋回円の接線方向に向けて、副資材が混合された微粉汚泥を気流搬送(ガス流速10m/s、固気比15)によって吹き込むものとした。ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内において、汚泥は酸素と共に、温度1400℃でガス化溶融され、高温の可燃性ガスおよびスラグへと転換すると同時に汚泥中に含有される重金属の一部がガス中へ揮発した。生成した溶融スラグは炉底のスラグタップより抜き出され、スラグポット内において水砕された後に水砕のスラグ(リン肥料)10として回収された。一方、生成した高温の可燃性ガスはガス化溶融炉(高温ガス化部)17の上部のガスクエンチャー18においてスプレー水36によって900℃まで冷却された後、空気予熱器37において顕熱を回収された後、脱塵設備24へ導入され、ダスト分を除去し、更には脱硫設備26へ導入され、クリーンな可燃性ガス27として回収できた。その可燃性ガス27の全量を燃料ガスとして汚泥乾燥設備へ導入し、空気予熱器において予熱された空気と共に燃焼させることによって、乾燥熱源として利用した。本実施例に関して、汚泥乾燥設備における補助燃料3としてA重油を3L/t−脱水ケーキ使用した。
【0072】
表5にスラグポット20から回収された水砕スラグ10の組成を示す。元の汚泥中に含まれていたリンの中の95%をスラグ中へ移行させることが可能であった。すなわち、リンの揮発は大幅に抑制しつつ、汚泥中に含有されていた重金属を揮発させ、スラグから除去することが可能であった。特に汚泥中に多く含有されていた亜鉛の大部分を除去することが可能であった。
【0073】
なお、生成したスラグ10は熔成リン肥としての規格を満たしていたため、直接リン肥料として有効利用可能であった。
【0074】
【表5】

【0075】
表6に本発明例(実施例1)および従来のリン回収プロセス(流動床型汚泥焼却炉+リン回収用電気式灰溶融炉)におけるユーティリティー使用量を示す。本発明例においては、従来法よりも補助燃料使用量および電力使用量を大幅に削減できた。また、従来法よりも設備構成が極めてシンプルであるため、設備コストおよび設備設置スペースも7割程度に削減可能であった。
【0076】
【表6】

【0077】
比較例
図9に示したフローに従って、本発明例を実施した。
【0078】
使用した下水汚泥の分析値を表7に示す(灰の組成に関しては、表示以外の成分を含有し、分析途中のロスも生じるため合計が100%とならない)。なお、この汚泥は下水処理場の脱水機から排出されたもの(脱水ケーキ)である。
【0079】
【表7】

【0080】
下水汚泥(脱水ケーキ)1(100t/day)を、気流(熱風)型の汚泥乾燥設備に12おいて乾燥後、生成した乾燥汚泥13(水分含有量7質量%、平均粒径470μm)を、汚泥供給ホッパー14より、酸素製造設備15の副産物である窒素による気流搬送によってガス化溶融炉(高温ガス化部)17へ投入した。なお、原料供給ノズルは4本とし、ガス化溶融炉(高温ガス化部)17の炉底から1/3の高さ位置において、0度の角度で、各々のノズルからガス化溶融炉の炉内直径に対して1/2の直径からなる炉と同軸の旋回円の接線方向に向けて、微粉状の乾燥汚泥13を気流搬送(ガス流速10m/s、固気比15)によって吹き込むものとした。
【0081】
ガス化溶融炉(高温ガス化部)17内において、汚泥は酸素16と共に、温度1350℃でガス化溶融され、高温の可燃性ガスおよびスラグへと転換すると同時に汚泥中に含有される重金属の一部がガス中へ揮発した。生成した溶融スラグは炉底のスラグタップより抜き出され、スラグポット内において水砕された後に水砕のスラグ21として回収された。一方、生成した高温の可燃性ガスはガス化溶融炉(高温ガス化部)17の上部のガスクエンチャー18においてスプレー水36によって900℃まで冷却された後、空気予熱器37において顕熱を回収された後、脱塵設備24へ導入され、ダスト分を除去し、更には脱硫設備26へ導入され、クリーンな可燃性ガス27として回収できた。その可燃性ガス27の全量を燃料ガスとして汚泥乾燥設備12へ導入し、空気予熱器37において予熱された空気と共に燃焼させることによって、乾燥熱源として利用した。本実施例に関して、補助燃料は一切必要なく、プロセスを熱的に自立させることが可能であった。
【0082】
表8にスラグポット20から回収された水砕スラグ21の組成を示す。元の汚泥中に含まれていたリンの中でスラグ中へ移行させることができた割合は77%であった。すなわち、実施例1と比較してリンの揮発が促進され、ダスト中に移行した割合が多くなった。なお、これらリンを高濃度で含有するダストの一部は後段の空気予熱器37の伝熱面(内面)に付着し、熱交換能力低下の原因となった。
【0083】
【表8】

【0084】
図10に実施例1と同様のガス化条件における、リンのスラグへの移行割合と汚泥の吹き込み角度との関係を示す。吹き込み角度を0度よりも上向き(図中ではマイナスで表示)とすることによって、リンのスラグへの移行割合が小さくなった。また、吹き込み角度を45度よりも大きくすることによって、炉壁、炉底等のガス化炉体の損傷が激しくなった。更に吹き込み角度を15度よりも小さくすることによって、汚泥の気流搬送配管内において閉塞が発生する頻度が大きくなった。
【0085】
図11に実施例1と同様のガス化条件における、リンのスラグへの移行割合と汚泥の吹き込み方向(炉内直径に対する旋回円径のサイズ)との関係を示す。旋回円径を炉内直径の1/5以上とすることによって、リンのスラグへの移行割合が小さくなった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】従来技術に関するフローシートである。
【図2】本発明に関するフローシートである。
【図3】本発明の乾燥汚泥の吹き込み方法に関するフローシートである。
【図4】本発明の乾燥汚泥の吹き込み方法に関するフローシートである。
【図5】本発明の乾燥汚泥の吹き込み方法に関するフローシートである。
【図6】本発明の乾燥汚泥の吹き込み方法に関するフローシートである。
【図7】本発明の実施例におけるフローシートおよびマスバランスである。
【図8】本発明の実施例におけるフローシートおよびマスバランスである。
【図9】本発明の比較例におけるフローシートおよびマスバランスである。
【図10】リンのスラグへの移行割合と汚泥の吹き込み角度との関係を示すグラフである。
【図11】リンのスラグへの移行割合と汚泥の吹き込み方向(炉内直径に対する旋回円径のサイズ)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0087】
1 汚泥(脱水ケーキ)
2 空気
3 補助燃料
4 汚泥焼却炉
5 排ガス
6 焼却灰
7 コークス
8 副資材
9 灰溶融炉
10 スラグ(リン肥料)
11 排ガス処理設備
12 汚泥乾燥機
13 乾燥汚泥
14 汚泥供給ホッパー
15 酸素製造設備
16 酸素
17 ガス化溶融炉(高温ガス化部)
18 ガスクエンチャー
19 スプレー水またはクエンチガス
20 スラグポット
21 スラグ
22 可燃性ガス
23 廃熱回収器
24 脱塵設備技術センター
25 ダスト
26 脱硫設備
27 可燃性ガス(クリーン)
28 可燃性ガス(余剰分)
29 可燃性ガス(クリーン)の汚泥乾燥設備への循環ライン
30 原料供給ノズル
31 汚泥吹き込み範囲
32 ガス化溶融炉高さ
33 原料供給ノズル設置位置
34 ガス化溶融炉(高温ガス化部)の炉内直径
35 旋回円
36 スプレー水
37 空気予熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水の生物学的処理により発生しリンを含有する汚泥を、前記灰分の融点以上の温度を有する気流床型ガス化溶融炉内へ、炉壁に対して垂直方向の吹き込み角度が下向き0〜45度となるように、且つ、ガス化溶融炉の炉内直径に対して1/5より小さな直径からなる炉と同軸の旋回円の接線方向に向けて、複数本の原料供給ノズルから気流搬送で吹き込み、前記汚泥を酸素又は酸素富化空気と部分酸化反応させて可燃性ガスを生成すると共に、前記灰分を溶融させてリンを含有するスラグを生成し、当該生成した可燃性ガス及びスラグを回収することを特徴とする汚泥からの可燃性ガス及びスラグの回収方法。
【請求項2】
前記生成したスラグを水中において急冷し、水砕スラグとして回収することを特徴とする請求項1記載の汚泥からの可燃性ガス及びスラグの回収方法。
【請求項3】
前記汚泥に、マグネシウム成分、カルシウム成分、シリカ成分の少なくともいずれかを添加し、当該添加後の汚泥を前記ガス化溶融炉内へ吹き込むことを特徴とする請求項1又は2に記載の汚泥からの可燃性ガス及びスラグの回収方法。
【請求項4】
排水の生物学的処理により発生しリンを含有する汚泥のガス化溶融炉であって、前記汚泥を気流搬送で前記ガス化溶融炉の内部に吹き込む原料供給ノズルを複数本有し、当該ノズルは、前記ガス化溶融炉の炉壁に対して垂直方向の吹き込み角度を下向き0〜45度とし、且つ、前記ガス化溶融炉の炉内直径に対して1/5より小さな直径からなる炉と同軸の旋回円の接線方向に向けて配置されることを特徴とする汚泥のガス化溶融炉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−252992(P2007−252992A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77611(P2006−77611)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
【Fターム(参考)】