説明

油圧シリンダ

【課題】比較的簡単な構成で、油圧シリンダのストロークエンドにおいて、ピストンに大きな衝撃が加わるのを抑制できるようにする。
【解決手段】ロッド側バイパス通路36は、ピストン22が移動してロッド側突起部32の先端がロッド側小径部31の小径孔31aに進入するときにヘッド側圧力室40に連通する。これにより、ヘッド側圧力室40内の油の一部がロッド側バイパス通路36から排出されて押し込み圧が低減する。ヘッド側バイパス通路46は、ピストン22が移動してヘッド側突起部42の先端がヘッド側小径部41の小径孔41aに進入するときにロッド側圧力室30に連通する。これにより、ロッド側圧力室30内の油の一部がヘッド側バイパス通路46から排出されて押し込み圧が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、油圧ショベル等の建設機械では、ブーム、アーム、バケット等のアタッチメントを駆動するために、ブームシリンダ、アームシリンダ、及びバケットシリンダ等の油圧シリンダが設けられている。ここで、油圧シリンダのピストンが進退する際にストロークエンドに勢い良く衝突すると、その衝撃によって大きな振動が発生し、建設機械の運転操作性が悪化するとともに油圧シリンダが破損してしまう。そこで、このような衝撃を吸収するために油圧を利用したクッション機構を備えたものが知られている。
【0003】
特許文献1には、油圧シリンダのロッド側チャンバ又はボトム側チャンバに生じるクッション圧力の大きさを検出してパイロット圧力信号として出力し、パイロット圧力信号の値が大きくなるのに従って、油圧ポンプの吐出圧を次第に低くなるように可変リリーフ弁を制御することで、油圧ポンプからの押し込みを抑えるようにした技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、油圧シリンダのピストンの位置を検出し、ピストンがロッド側又はボトム側のストロークエンドに近づいた際に、油圧シリンダへの圧油の供給量を低下させて、ピストンの移動速度を適切に低下させるようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−108014号公報
【特許文献2】特開2002−323005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の油圧シリンダの駆動回路では、油圧ポンプの吐出圧を次第に低くなるように制御するための可変リリーフ弁を別途設ける必要があり、コストがかかってしまうという問題がある。
【0007】
また、特許文献2の油圧シリンダ駆動装置では、油圧シリンダへの圧油の供給量を適切に低下させるためにピストンの位置を検出する検出手段を別途設けたり、演算処理を行うための高価なコントローラが必要であり、コストがかかってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的簡単な構成で、油圧シリンダのストロークエンドにおいて、ピストンに大きな衝撃が加わるのを抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シリンダチューブと、該シリンダチューブ内に摺動自在に挿入されたピストンと、該ピストンに取り付けられ且つ該シリンダチューブの内周面と該ピストンの外周面との隙間をシールして該シリンダチューブ内をロッド側圧力室とヘッド側圧力室とに区画するシールリングと、該ピストンに連結されたピストンロッドとを備えた油圧シリンダを対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0010】
すなわち、第1の発明は、前記ピストンのロッド側及びヘッド側のうち少なくとも一方に設けられた突起部と、
前記突起部側の圧力室の軸方向端部に設けられ、該突起部が進入可能な小径孔が形成された小径部と、
前記シリンダチューブの周面に設けられたバイパス通路とを備え、
前記バイパス通路は、前記ピストンが移動して前記突起部の先端が前記小径部の小径孔に進入するときに、該突起部側の圧力室とは反対側の圧力室に連通して、該反対側の圧力室内の油の一部を排出させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
第1の発明では、ピストンのロッド側及びヘッド側のうち少なくとも一方に突起部が設けられる。突起部側の圧力室の軸方向端部には、突起部が進入可能な小径孔が形成された小径部が設けられる。シリンダチューブの周面には、バイパス通路が設けられる。ここで、バイパス通路は、ピストンが移動して突起部の先端が小径部の小径孔に進入するときに、突起部側の圧力室とは反対側の圧力室に連通される。これにより、反対側の圧力室内の油の一部がバイパス通路から排出される。
【0012】
このような構成とすれば、油圧シリンダのストロークエンドにおいて、ピストンに大きな衝撃が加わるのを抑制することができる。例えば、ピストンにロッド側突起部が設けられ、このロッド側突起部がロッド側小径部の小径孔に進入するときに、ロッド側バイパス通路からヘッド側圧力室の油の一部が排出されるので、ピストンのヘッド側に作用している押し込み圧が低下し、クッション領域におけるシリンダ推力を抑えることができる。これにより、クッション領域で吸収すべき衝撃エネルギーが小さくなるため、油圧シリンダの破損を防止することができる。
【0013】
また、クッション領域で吸収すべき衝撃エネルギーが小さくて済むから、例えば、ロッド側突起部の軸方向長さを短くして油圧シリンダをコンパクトな構成とすることができる。また、クッション室内の圧力を抑えることができるので、シリンダチューブを厚肉にする必要が無く、油圧シリンダの重量を低減させるとともに、コストダウンを図ることができる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、
前記小径部には、前記突起部側の圧力室の油を給排する給排通路が接続され、
前記バイパス通路は、前記給排通路に接続され、
前記バイパス通路には、前記シリンダチューブ外部に排出される油の流れのみを許容するチェック弁が設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
第2の発明では、小径部には、突起部側の圧力室の油を給排する給排通路が接続される。バイパス通路は、給排通路に接続される。バイパス通路には、チェック弁が設けられる。チェック弁により、シリンダチューブ外部に排出される油の流れのみが許容される。
【0016】
このような構成とすれば、例えば、ロッド側給排通路が油の供給側となった場合でも、ロッド側給排通路から供給された油が、ロッド側バイパス通路を介してヘッド側圧力室内に流れてしまうことを防止することができ、油圧シリンダの作動に必要な油の漏洩を無くすことができる。
【0017】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記バイパス通路には、その通路径の一部が小径となった絞り部が設けられていることを特徴とするものである。
【0018】
第3の発明では、バイパス通路には、その通路径の一部が小径となった絞り部が設けられる。
【0019】
このような構成とすれば、油圧シリンダをクッション領域内で停止させたときに、絞り部によって圧力室から全ての油が排出されるのを抑制することができる。これにより、油圧シリンダを再起動する際に、駆動側の圧力室の油圧を十分に確保することができる。
【0020】
第4の発明は、第3の発明において、
前記バイパス通路は、前記シリンダチューブの周面に形成された貫通孔と、該貫通孔に接続されたバイパス配管とで構成され、
前記絞り部は、前記バイパス配管の管内径よりも小さい孔径で形成された前記貫通孔によって構成されていることを特徴とするものである。
【0021】
第4の発明では、バイパス通路は、シリンダチューブの周面に形成された貫通孔と、貫通孔に接続されたバイパス配管とで構成される。貫通孔は、バイパス配管の管内径よりも小さい孔径で形成されることで絞り部を構成している。
【0022】
このような構成とすれば、シリンダチューブの貫通孔の孔径を小さくするだけで絞り部を形成することができ、バイパス通路の通路途中に別途、絞り弁等を設ける必要が無く、コストダウンを図ることができる。
【0023】
第5の発明は、第3の発明において、
前記ピストンの移動量及び移動速度を演算し、その演算結果に基づいて前記絞り部の開度指令を出力するコントローラを備え、
前記絞り部は、開度調整可能な電磁比例弁であり、前記コントローラから出力される開度指令に基づいて開度調整を行うように構成されていることを特徴とするものである。
【0024】
第5の発明では、コントローラでは、ピストンの移動量及び移動速度が演算され、その演算結果に基づいて絞り部の開度指令が出力される。絞り部は、開度調整可能な電磁比例弁で構成される。そして、電磁比例弁では、コントローラから出力される開度指令に基づいて開度調整が行われる。
【0025】
このような構成とすれば、ピストンの移動量及び移動速度に応じて絞り部の開度調整を行うことができ、ピストンの押し込み圧を最適化することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、油圧シリンダのストロークエンドにおいて、ピストンに大きな衝撃が加わるのを抑制することができる。例えば、ピストンにロッド側突起部が設けられ、このロッド側突起部がロッド側小径部の小径孔に進入するときに、ロッド側バイパス通路からヘッド側圧力室の油の一部が排出されるので、ピストンのヘッド側に作用している押し込み圧が低下し、クッション領域におけるシリンダ推力を抑えることができる。これにより、クッション領域で吸収すべき衝撃エネルギーが小さくなるため、油圧シリンダの破損を防止することができる。
【0027】
また、クッション領域で吸収すべき衝撃エネルギーが小さくて済むから、例えば、ロッド側突起部の軸方向長さを短くして油圧シリンダをコンパクトな構成とすることができる。また、クッション室内の圧力を抑えることができるので、シリンダチューブを厚肉にする必要が無く、油圧シリンダの重量を低減させるとともに、コストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態1に係る建設機械の構成を示す側面図である。
【図2】油圧シリンダの構成を示す側面断面図である。
【図3】ピストンがロッド側のストロークエンドに近づいたときの側面断面図である。
【図4】ピストンがロッド側のストロークエンドに位置しているときの側面断面図である。
【図5】ピストンがヘッド側に移動しているときの側面断面図である。
【図6】ピストンがヘッド側のストロークエンドに近づいたときの側面断面図である。
【図7】ピストンがヘッド側のストロークエンドに位置しているときの側面断面図である。
【図8】ピストンの移動量とクッション室内の圧力との関係を示すグラフ図である。
【図9】クッションストロークの時間変化を示すグラフ図である。
【図10】本実施形態2に係る油圧シリンダの構成を示す側面断面図である。
【図11】本実施形態3に係る油圧シリンダの構成を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
《実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係る建設機械の構成を示す側面図である。図1に示すように、この建設機械1は、いわゆる油圧ショベルであり、土木工事や建設工事を行う建設現場で土砂の掘削、砕石、建物の解体などを行うものである。建設機械1は、多数の板状部材を無端状に連結してなるクローラ2を備えた下部走行体3と、下部走行体3の上側に旋回装置4を介して取り付けられた上部旋回体5とを備えている。
【0031】
上部旋回体5の下部には基台10が設けられ、この基台10の上面における進行方向前側にはアタッチメント11が設けられている。このアタッチメント11は、基台10に対して上下方向に傾動可能に取り付けられたブーム12と、ブーム12の先端に揺動可能に取り付けられたアーム13と、アーム13の先端に連結されたバケット14とを備えている。
【0032】
ブーム12、アーム13、及びバケット14には、それぞれ油圧シリンダ20が取り付けられている。そして、油圧シリンダ20のピストンロッド25を伸縮させることで、ブーム12、アーム13、及びバケット14が駆動するようになっている。
【0033】
基台10の上面におけるアタッチメント11の取付位置の隣りには、オペレータ用のキャビン15が配設されている。キャビン15内には、アタッチメント11を操作するための図示しない操作機器や空調機器が配設されている。基台10の上面におけるアタッチメント11の後方には、エンジンや油圧ポンプ等が配設されており、これらはカバー16により覆われている。さらに基台10の上面におけるカバー16後方にはカウンタウエイト17が装着されている。
【0034】
図2は、油圧シリンダの構成を示す側面断面図である。図2に示すように、油圧シリンダ20は、シリンダチューブ21と、シリンダチューブ21内に摺動自在に挿入されたピストン22と、ピストン22に取り付けられ且つシリンダチューブ21の内周面とピストン22の外周面との隙間をシールするシールリング23と、ピストン22に連結されたピストンロッド25とを備えている。
【0035】
ピストンロッド25の先端部及びシリンダチューブ21のヘッド側端部には、ロッド側連結部20a及びヘッド側連結部20bが設けられている。ここで、油圧シリンダ20がアームシリンダの場合には、ロッド側連結部20aがアーム13に連結され、ヘッド側連結部20bがブーム12に連結される。そして、油圧シリンダ20を作動させ、ピストンロッド25を伸縮させることにより、アーム13の回動動作を行う。ブームシリンダ及びバケットシリンダについても同様である。
【0036】
シリンダチューブ21内は、シールリング23によってロッド側圧力室30とヘッド側圧力室40とに区画されている。ロッド側圧力室30の軸方向端部には、小径孔31aが形成されたロッド側小径部31が設けられている。ロッド側小径部31には、小径孔31aに連通してロッド側圧力室30に油を給排するロッド側給排通路35が接続されている。
【0037】
ヘッド側圧力室40の軸方向端部には、小径孔41aが形成されたヘッド側小径部41が設けられている。ヘッド側小径部41には、小径孔41aに連通してヘッド側圧力室40に油を給排するヘッド側給排通路45が接続されている。
【0038】
ピストン22のロッド側には、ロッド側突起部32が設けられている。ロッド側突起部32の外径は、ロッド側小径部31の小径孔31aに進入可能な大きさに形成されている。また、ロッド側突起部32は、先端に向かって外径が小さくなるテーパー状に形成されている。このような構成とすれば、ロッド側突起部32がロッド側小径部31の小径孔31aに進入する際の油の抵抗を低減することができ、ピストン22をスムーズに移動させることができる。
【0039】
ピストン22のヘッド側には、ヘッド側突起部42が設けられている。ヘッド側突起部42の外径は、ヘッド側小径部41の小径孔41aに進入可能な大きさに形成されている。また、ヘッド側突起部42は、先端に向かって外径が小さくなるテーパー状に形成されている。このような構成とすれば、ヘッド側突起部42がヘッド側小径部41の小径孔41aに進入する際の油の抵抗を低減することができ、ピストン22をスムーズに移動させることができる。
【0040】
シリンダチューブ21の周面には、ロッド側バイパス通路36及びヘッド側バイパス通路46が設けられている。具体的に、ロッド側バイパス通路36は、シリンダチューブ21の周面に形成された貫通孔36aと、貫通孔36aに接続されたバイパス配管36bとで構成されている。バイパス配管36bの排出側端部は、ロッド側給排通路35の通路途中に接続されている。ロッド側バイパス通路36には、その通路径の一部を小径とするための絞り弁37(絞り部)と、シリンダチューブ21外部に排出される油の流れのみを許容するチェック弁38とが設けられている。
【0041】
このような構成とすれば、油圧シリンダ20をクッション領域内で停止させたときに、絞り弁37によってロッド側圧力室30から全ての油が排出されるのを抑制することができる。これにより、油圧シリンダ20を再起動する際に、ロッド側圧力室30の油圧を十分に確保することができる。
【0042】
また、ピストンロッド25を縮退させるときに、ロッド側給排通路35から供給された油が、ロッド側バイパス通路36を介してヘッド側圧力室40内に流れてしまうことをチェック弁38によって防止することができ、油圧シリンダ20の作動に必要な油の漏洩を無くすことができる。
【0043】
ロッド側バイパス通路は、ピストン22がロッド側に移動してロッド側突起部32の先端がロッド側小径部31の小径孔31aに進入するときにヘッド側圧力室40に連通する位置に設けられている(図3参照)。具体的に、ロッド側小径部31の小径孔31aの開口端からロッド側バイパス通路36の貫通孔36aまでの距離L1が、ロッド側突起部32の先端からシールリング23の取付位置までの距離L1と等しくなる位置に形成されている。つまり、ロッド側突起部32がロッド側小径部31の小径孔31aに進入するときに、ロッド側バイパス通路36からヘッド側圧力室40の油の一部が排出されるようになっている。
【0044】
また、ヘッド側バイパス通路46も同様に、シリンダチューブ21の周面に形成された貫通孔46aと、貫通孔46aに接続されたバイパス配管46bとで構成されている。バイパス配管46bの排出側端部は、ヘッド側給排通路45の通路途中に接続されている。ヘッド側バイパス通路46には、その通路径の一部を小径とするための絞り弁37と、シリンダチューブ21外部に排出される油の流れのみを許容するチェック弁38とが設けられている。
【0045】
このような構成とすれば、油圧シリンダ20をクッション領域内で停止させたときに、絞り弁37によってヘッド側圧力室40から全ての油が排出されるのを抑制することができる。これにより、油圧シリンダ20を再起動する際に、ヘッド側圧力室40の油圧を十分に確保することができる。
【0046】
また、ピストンロッド25を伸張させるときに、ヘッド側給排通路45から供給された油が、ヘッド側バイパス通路46を介してロッド側圧力室30内に流れてしまうことをチェック弁38によって防止することができ、油圧シリンダ20の作動に必要な油の漏洩を無くすことができる。
【0047】
ヘッド側バイパス通路は、ピストン22がヘッド側に移動してヘッド側突起部42の先端がヘッド側小径部41の小径孔41aに進入するときにロッド側圧力室30に連通する位置に設けられている(図6参照)。具体的に、ヘッド側小径部41の小径孔41aの開口端からヘッド側バイパス通路46の貫通孔46aまでの距離L2が、ヘッド側突起部42の先端からシールリング23の取付位置までの距離L2と等しくなる位置に形成されている。つまり、ヘッド側突起部42がヘッド側小径部41の小径孔41aに進入するときに、ヘッド側バイパス通路46からロッド側圧力室30の油の一部が排出されるようになっている。
【0048】
−油圧シリンダの動作−
次に、油圧シリンダ20のピストンロッド25を伸長させる場合の動作について、図2から図4を用いて説明する。
【0049】
図2に示すように、ヘッド側圧力室40内に油圧ポンプ(図示省略)から油が供給され、ヘッド側圧力室40内の圧力が高まる。これにより、ピストン22がロッド側小径部31に向かって移動し、ピストンロッド25が伸張する。
【0050】
そして、ピストン22のロッド側突起部32の先端が、ロッド側小径部31の小径孔31aに進入する位置まで移動したときに、ロッド側バイパス通路36がヘッド側圧力室40に連通する(図3参照)。これにより、ヘッド側圧力室40内の油の一部がロッド側バイパス通路36から排出される。排出された油は、ロッド側給排通路35で合流して油圧タンク(図示省略)に回収される。
【0051】
ここで、ロッド側突起部32の周囲には、シリンダチューブ21の内周面、ロッド側小径部31、及びピストン22によって区画されたクッション室が形成される。そして、ロッド側突起部32がロッド側小径部31の小径孔31aに進入するときに、ロッド側バイパス通路36からヘッド側圧力室40の油の一部が排出されるようになっているから、ヘッド側圧力室40の押し込み圧が低下し、ピストン22の移動速度が低下する。
【0052】
さらに、図4に示すように、ピストン22がロッド側のストロークエンドまで移動する。ここで、ピストン22が図3に示す位置から図4に示す位置まで移動する区間が、クッション領域となる。図3に示すように、油圧シリンダ20の伸長方向のクッション領域に入ると、ロッド側突起部32がロッド側小径部31の小径孔31aに進入する。その結果、ロッド側小径部31の小径孔31aと、ロッド側突起部32との隙間が狭く、この狭い隙間を油が通過することとなるため、ピストン22は、ヘッド側圧力室40からの押し込み圧に対して大きな抵抗を受ける。このように、ピストン22は、クッション室内の油圧によって移動速度が減衰されながらストロークエンドに到達する。これにより、ピストン22がロッド側のストロークエンドに衝突する際の衝撃を吸収することができる。
【0053】
次に、油圧シリンダ20のピストンロッド25を縮退させる場合の動作について、図5から図7を用いて説明する。
【0054】
図5に示すように、ロッド側圧力室30内に油圧ポンプ(図示省略)から油が供給され、ロッド側圧力室30内の圧力が高まる。これにより、ピストン22がヘッド側小径部41に向かって移動し、ピストンロッド25が縮退する。
【0055】
そして、ピストン22のヘッド側突起部42の先端が、ヘッド側小径部41の小径孔41aに進入する位置まで移動したときに、ヘッド側バイパス通路46がロッド側圧力室30に連通する(図6参照)。これにより、ロッド側圧力室30内の油の一部がヘッド側バイパス通路46から排出される。排出された油は、ヘッド側給排通路45に合流して油圧タンク(図示省略)に回収される。
【0056】
ここで、ヘッド側突起部42の周囲には、シリンダチューブ21の内周面、ヘッド側小径部41、及びピストン22によって区画されたクッション室が形成される。そして、ヘッド側突起部42がヘッド側小径部41の小径孔41aに進入するときに、ヘッド側バイパス通路46からロッド側圧力室30の油の一部が排出されるようになっているから、ロッド側圧力室30の押し込み圧が低下し、ピストン22の移動速度が低下する。
【0057】
さらに、図7に示すように、ピストン22がロッド側のストロークエンドまで移動する。ここで、ピストン22が図6に示す位置から図7に示す位置まで移動する区間が、クッション領域となる。図6に示すように、油圧シリンダ20の縮退方向のクッション領域に入ると、ヘッド側突起部42がヘッド側小径部41の小径孔41aに進入する。その結果、ヘッド側小径部41の小径孔41aと、ヘッド側突起部42との隙間が狭く、この狭い隙間を油が通過することとなるため、ピストン22は、ロッド側圧力室30からの押し込み圧に対して大きな抵抗を受ける。このように、ピストン22は、クッション室内の油圧によって移動速度が減衰されながらストロークエンドに到達する。これにより、ピストン22がヘッド側のストロークエンドに衝突する際の衝撃を吸収することができる。
【0058】
図8は、ピストンの移動量とクッション室内の圧力との関係を示すグラフ図である。図8に示すように、ロッド側バイパス通路36及びヘッド側バイパス通路46を設けていない従来の油圧シリンダに比べて、本実施形態1に係る油圧シリンダ20の方が、クッション室内の圧力及びピストン22の押し込み圧が低下していることが分かる。つまり、クッション領域におけるシリンダ推力を抑えることができる。これにより、クッション領域で吸収すべき衝撃エネルギーが小さくなるため、油圧シリンダの破損を防止することができる。
【0059】
図9は、クッションストロークの時間変化を示すグラフ図である。図9に示すように、ロッド側バイパス通路36及びヘッド側バイパス通路46を設けていない従来の油圧シリンダに比べて、本実施形態1に係る油圧シリンダ20の方が、ピストン22がクッション領域に到達してからストロークエンドに至るまでのピストン22の移動速度を緩やかに減衰できていることが分かる。つまり、ピストン22がストロークエンドに到達したときの衝撃による振動の発生を抑えることができる。
【0060】
以上のように、本実施形態1に係る油圧シリンダ20によれば、油圧シリンダ20のストロークエンドにおいて、ピストン22に大きな衝撃が加わるのを抑制することができる。具体的に、ピストン22に設けられたロッド側突起部32がロッド側小径部31の小径孔31aに進入するときに、ロッド側バイパス通路36からヘッド側圧力室40の油の一部が排出されるので、ピストン22のヘッド側に作用している押し込み圧が低下し、クッション領域におけるシリンダ推力を抑えることができる。これにより、クッション領域で吸収すべき衝撃エネルギーが小さくなるため、油圧シリンダ20の破損を防止することができる。
【0061】
また、クッション領域で吸収すべき衝撃エネルギーが小さくて済むから、例えば、ロッド側突起部32の軸方向長さを短くして油圧シリンダ20をコンパクトな構成とすることができる。また、クッション室内の圧力を抑えることができるので、シリンダチューブ21を厚肉にする必要が無く、油圧シリンダ20の重量を低減させるとともに、コストダウンを図ることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、ピストン22にロッド側突起部32及びヘッド側突起部42を設けた構成としたが、何れか一方の突起部のみがピストン22に設けられた構成としてもよい。
【0063】
《実施形態2》
図10は、本実施形態2に係る油圧シリンダの構成を示す側面断面図である。前記実施形態1との違いは、ロッド側バイパス通路36及びヘッド側バイパス通路46に設ける絞り部の構成が異なっている点であるため、以下、実施形態1と同じ部分については、同じ符号を付し、相違点についてのみ説明する。
【0064】
図10に示すように、ロッド側バイパス通路36は、シリンダチューブ21の周面に形成された貫通孔36aと、貫通孔36aに接続されたバイパス配管36bとで構成されている。バイパス配管36bの排出側端部は、ロッド側給排通路35の通路途中に接続されている。
【0065】
ここで、貫通孔36aは、バイパス配管36bの管内径よりも小さい孔径で形成されている。つまり、貫通孔36aは、通路径の一部が小径となった絞り部として機能する。
【0066】
ヘッド側バイパス通路46は、シリンダチューブ21の周面に形成された貫通孔46aと、貫通孔46aに接続されたバイパス配管46bとで構成されている。バイパス配管46bの排出側端部は、ヘッド側給排通路45の通路途中に接続されている。
【0067】
ここで、貫通孔46aは、バイパス配管46bの管内径よりも小さい孔径で形成されている。つまり、貫通孔46aは、通路径の一部が小径となった絞り部として機能する。
【0068】
このような構成とすれば、シリンダチューブ21の貫通孔36a,46aの孔径を小さくするだけで絞り部を形成することができ、ロッド側バイパス通路36及びヘッド側バイパス通路46の通路途中に別途、絞り弁等を設ける必要が無く、コストダウンを図ることができる。
【0069】
《実施形態3》
図11は、本実施形態3に係る油圧シリンダの構成を示す側面断面図である。前記実施形態1との違いは、ロッド側バイパス通路36及びヘッド側バイパス通路46に設ける絞り部の構成が異なっている点であるため、以下、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付し、相違点についてのみ説明する。
【0070】
図11に示すように、ロッド側バイパス通路36には、絞り部としての電磁比例弁51が設けられている。電磁比例弁51は、開度指令に基づいて開度を調整可能な弁である。
【0071】
油圧シリンダ20は、検出センサ52と、コントローラ53とを備えている。検出センサ52は、シリンダチューブ21に取り付けられ、ピストン22の位置を検出するものである。検出センサ52により、ピストン22がクッション領域に入ったことが検出され、この検出結果は、コントローラ53に送信される。
【0072】
コントローラ53は、検出センサ52の検出結果に基づいて、ピストン22の移動量及び移動速度を演算するものである。そして、演算結果に基づく開度指令を、電磁比例弁51に出力する。
【0073】
電磁比例弁51では、開度指令に基づいてその開度が調整される。具体的に、ピストン22がロッド側のクッション領域に近づいたときには、ピストン22の移動速度が速いため、ロッド側の電磁比例弁51の開度を全開とし、ヘッド側圧力室40からロッド側バイパス通路36を介して排出される油の流量を増やす。これにより、ピストン22の押し込み圧を低減して移動速度を減衰させる。そして、ピストン22がストロークエンドに近づくほど、ロッド側の電磁比例弁51の開度が徐々に小さくなるように制御する。
【0074】
また、ピストン22がヘッド側のクッション領域に近づいたときには、ピストン22の移動速度が速いため、ヘッド側の電磁比例弁51の開度を全開とし、ロッド側圧力室30からヘッド側バイパス通路46を介して排出される油の流量を増やす。これにより、ピストン22の押し込み圧を低減して移動速度を減衰させる。そして、ピストン22がストロークエンドに近づくほど、ヘッド側の電磁比例弁51の開度が徐々に小さくなるように制御する。
【0075】
このような構成とすれば、ピストン22の移動量及び移動速度に応じて電磁比例弁51の開度調整を行うことができ、ピストン22の押し込み圧を最適化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明は、油圧シリンダのストロークエンドにおいて、比較的簡単な構成で、ピストンに大きな衝撃が加わるのを抑制できるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0077】
20 油圧シリンダ
21 シリンダチューブ
22 ピストン
23 シールリング
25 ピストンロッド
30 ロッド側圧力室
31 ロッド側小径部
31a 小径孔
32 ロッド側突起部
35 ロッド側給排通路
36 ロッド側バイパス通路
36a 貫通孔
36b バイパス配管
37 絞り弁(絞り部)
38 チェック弁
40 ヘッド側圧力室
41 ヘッド側小径部
41a 小径孔
42 ヘッド側突起部
45 ヘッド側給排通路
46 ヘッド側バイパス通路
46a 貫通孔
46b バイパス配管
51 電磁比例弁(絞り部)
53 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダチューブと、該シリンダチューブ内に摺動自在に挿入されたピストンと、該ピストンに取り付けられ且つ該シリンダチューブの内周面と該ピストンの外周面との隙間をシールして該シリンダチューブ内をロッド側圧力室とヘッド側圧力室とに区画するシールリングと、該ピストンに連結されたピストンロッドとを備えた油圧シリンダであって、
前記ピストンのロッド側及びヘッド側のうち少なくとも一方に設けられた突起部と、
前記突起部側の圧力室の軸方向端部に設けられ、該突起部が進入可能な小径孔が形成された小径部と、
前記シリンダチューブの周面に設けられたバイパス通路とを備え、
前記バイパス通路は、前記ピストンが移動して前記突起部の先端が前記小径部の小径孔に進入するときに、該突起部側の圧力室とは反対側の圧力室に連通して、該反対側の圧力室内の油の一部を排出させるように構成されていることを特徴とする油圧シリンダ。
【請求項2】
請求項1において、
前記小径部には、前記突起部側の圧力室の油を給排する給排通路が接続され、
前記バイパス通路は、前記給排通路に接続され、
前記バイパス通路には、前記シリンダチューブ外部に排出される油の流れのみを許容するチェック弁が設けられていることを特徴とする油圧シリンダ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記バイパス通路には、その通路径の一部が小径となった絞り部が設けられていることを特徴とする油圧シリンダ。
【請求項4】
請求項3において、
前記バイパス通路は、前記シリンダチューブの周面に形成された貫通孔と、該貫通孔に接続されたバイパス配管とで構成され、
前記絞り部は、前記バイパス配管の管内径よりも小さい孔径で形成された前記貫通孔によって構成されていることを特徴とする油圧シリンダ。
【請求項5】
請求項3において、
前記ピストンの移動量及び移動速度を演算し、その演算結果に基づいて前記絞り部の開度指令を出力するコントローラを備え、
前記絞り部は、開度調整可能な電磁比例弁であり、前記コントローラから出力される開度指令に基づいて開度調整を行うように構成されていることを特徴とする油圧シリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−225473(P2012−225473A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95594(P2011−95594)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】