説明

油圧作業機

【課題】操作装置の操作レバーのグリップから手を放すことなく、原動機の目標回転数を燃費向上を考慮した所定の低目標回転数まで低減させることができる油圧作業機の提供。
【解決手段】油圧アクチュエータ32を操作させる操作レバー16aを有する操作装置16と、エンジン30の基準目標回転数NMを指令するエンジンコントロールダイヤル19と、エンジン30の目標回転数を、燃費を考慮した基準目標回転数NMよりも低い所定の低目標回転数NSに指令する回転数低減スイッチ37と、エンジン30の回転数を制御するエンジンコントローラ36と、基準目標回転数NM及び所定の低目標回転数NSに相応する信号を入力し、該当する目標回転数信号をエンジンコントローラ36に出力するメインコントローラ35を備え、回転数低減スイッチ37を、操作装置16の操作レバー16aのグリップ16b位置に配置した構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機の回転数を自動的に制御可能な油圧ショベル等の油圧作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術として特許文献1に示されるものがある。この特許文献1に示される油圧作業機は油圧ショベルから成っている。この油圧ショベルは、原動機すなわちエンジンと、このエンジンによって駆動される可変容量油圧ポンプと、この可変容量油圧ポンプの押しのけ容積を制御するレギュレータと、可変容量油圧ポンプから吐出された圧油によって作動する複数の油圧アクチュエータと、油圧アクチュエータの操作を指令する操作パイロット装置、すなわちオペレータによって把持されるグリップを有する操作レバーを含む操作装置とを備えている。また、エンジンの基準目標回転数を指令する回転数指令手段と、エンジンの回転数を制御する回転数制御手段と、回転数指令手段で指令された基準目標回転数に相応する回転数信号を回転数制御手段に出力するとともに、効率良くエンジン出力を使うためにエンジンの目標回転数を自動的に上昇あるいは低減させる演算処理を行ない、該当する目標回転数に相応する回転数信号を回転数制御手段に出力する制御装置とを備えている。
【0003】
なお、この特許文献1における明細書の段落番号にも、エコノミーモード(以下、「エコモード」という。)が選択されたときにエンジンの回転数を低下させるモード選択制御について示唆されているが、従来、エンジンの目標回転数を、燃費の向上を考慮して回転数指令手段で指令された基準目標回転数よりも低い所定の低目標回転数に制御可能な回転数低減指令手段、例えば作業モードスイッチを備えた油圧ショベルが知られている。このような油圧ショベルに備えられる作業モードスイッチは、軽作業時に活用されるエコモードであって燃費を向上させる所定の低目標回転数に制御する切換位置であるエコモード切換位置を含み、このエコモード切換位置に切り換えられたときには、エンジンの目標回転数が自動的に所定の低目標回転数まで低減するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−112280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に示されるような油圧ショベル等の油圧作業機において、従来公知の前述した作業モードスイッチ等の回転数低減指令手段を備えることが考えられるが、このような油圧作業機にあっては、油圧アクチュエータを作動させる操作装置の操作レバーの操作と、回転数低減指令手段の操作との2つの操作に係わる問題がある。例えば、エンジンの目標回転数を基準目標回転数に維持し操作レバーを大きく操作して油圧アクチュエータの作動速度を速くして行なわれる通常作業等を実施している状態から、エンジンの目標回転数を所定の低目標回転数まで低減させて燃費を向上させる軽作業に移る際には、オペレータは操作レバーのグリップを把持していた手を一旦放し、回転数低減指令手段を操作してエンジンの目標回転数を基準目標回転数から所定の低目標回転数まで低減させ、その後に操作レバーのグリップを再び把持して油圧アクチュエータを操作しなければならない。このように従来技術にあっては、エンジンすなわち原動機の目標回転数が基準目標回転数に維持されている状態から所定の低目標回転数まで低減させて軽作業に移行する際に、オペレータの操作が煩雑になっている。これに伴い、目標回転数を所定の低目標回転数まで低減させて行なわれる軽作業が、通常作業等と軽作業とを含む所定の一連の作業中に繰り返して行なわれる場合には、全体の作業性の低下を招きやすい。
【0006】
なお上述とは逆に、回転数低減指令手段を操作してエンジンの目標回転数を所定の低目標回転数まで低減させ燃費を向上させる軽作業を実施している状態から、油圧アクチュエータの作動速度を速くして行なわれる通常作業等に移行する場合も同様であり、オペレータは操作レバーのグリップを把持していた手を一旦放し、回転数低減指令手段を解除させてエンジンの目標回転数を例えば基準目標回転数まで上昇させる操作を行い、その後に操作レバーのグリップを再び把持して操作レバーを大きく操作し、油圧アクチュエータを作動させなければならず、この場合にも上述と同様にオペレータの操作が煩雑になっている。
【0007】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、操作装置の操作レバーのグリップから手を放すことなく、原動機の目標回転数を、燃費の向上を考慮した所定の低目標回転数まで低減させることができる油圧作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、原動機と、この原動機によって駆動される可変容量油圧ポンプと、この可変容量油圧ポンプの押しのけ容積を制御するレギュレータと、上記可変容量油圧ポンプから吐出される圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、この油圧アクチュエータの操作を指令する操作レバーを有する操作装置と、上記原動機の基準目標回転数を指令する回転数指令手段と、上記原動機の目標回転数を、燃費を考慮した上記基準目標回転数よりも低い所定の低目標回転数に指令する回転数低減指令手段と、上記原動機の回転数を制御する回転数制御手段と、上記回転数指令手段から出力される上記基準目標回転数に相応する信号、及び上記回転数低減指令手段から出力される所定の低目標回転数に相応する信号を入力し、該当する目標回転数信号を上記回転数制御手段に出力する制御装置とを備えた油圧作業機において、上記回転数低減指令手段を、上記操作装置の上記操作レバーのグリップ位置、あるいはグリップの近傍位置に配置したことを特徴としている。
【0009】
このように構成した本発明は、回転数指令手段で指令された基準目標回転数が制御装置に入力され、この制御装置から出力される回転数信号に応じて回転数制御手段が原動機の回転数を基準目標回転数に相応する回転数に維持し、また、操作装置の操作レバーが大きく操作され原動機で駆動される可変容量油圧ポンプから吐出される圧油が油圧アクチュエータに供給されて、この油圧アクチュエータの作動速度を速くする通常作業等を行なっている状態から、原動機の目標回転数を所定の低目標回転数まで低減させて燃費を向上させる軽作業に移行する際には、オペレータは操作レバーに手を接触させている状態で操作レバーのグリップ位置、あるいはグリップの近傍位置に配置された回転数低減指令手段を操作すればよい。この回転数低減指令手段の操作により所定の低目標回転数に相応する信号が制御装置に入力され、この制御装置から所定の低目標回転数に相応する回転数信号が回転数制御手段に出力され、原動機の回転数は所定の低目標回転数に相応する回転数まで低減される。したがって、燃費を向上させる所定の軽作業を容易に実施することができる。このように本発明は、操作装置の操作レバーのグリップから手を放すことなく、原動機の目標回転数を燃費の向上を考慮した所定の低目標回転数まで低減させることができ、通常作業等から燃費効率の良好な軽作業へ滑らかに移行させることができる。
【0010】
また、本発明に係る油圧作業機は、上記発明において、通常作業時のモードに対応する通常モード切換位置、及び燃費を向上させるエコモードに対応するエコモード切換位置への切り換えが選択的に可能な作業モードスイッチを備え、上記回転数低減指令手段が、回転数低減スイッチから成り、上記制御装置は、上記作業モードスイッチが上記エコモード切換位置に切り換えられたかどうか判断する判断手段を有し、この判断手段で上記エコモード切換位置に切り換えられたと判断されたときに限って、上記回転数低減スイッチの操作に伴う回転数低減制御を実施させる処理を行なうものから成ることを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明は、作業モードスイッチがエコモード切換位置に切り換えられた状態で操作レバーのグリップ位置、あるいはグリップ近傍位置に配置された回転数低減スイッチが操作されると、この回転数低減スイッチの信号が制御装置に入力され、この制御装置の処理制御及び回転数制御手段による回転数制御により、制御装置から回転数制御手段に所定の低目標回転数に相応する目標回転数信号が出力され、回転数制御手段によって原動機の回転数は所定の低目標回転数に相応する回転数まで低減される。
【0012】
また、本発明に係る油圧作業機は、上記発明において、上記制御装置は、上記判断手段で上記エコモード切換位置に切り換えられていないと判断されたときには、上記回転数低減スイッチの操作に応じて上記回転数低減制御とは異なる制御を実施させる処理を行なうものから成ることを特徴としている。
【0013】
このように構成した本発明は、作業モードスイッチがエコモード切換位置に切り換えられていないときに行われる作業は通常作業等であり、この通常作業等における特有の制御、すなわち回転数低減制御とは異なる制御を操作レバーのグリップ位置、あるいはグリップ近傍位置に配置された回転数低減スイッチの操作によって簡単に実現させることができる。
【0014】
また、本発明に係る油圧作業機は、上記発明において、上記制御装置は、上記回転数低減スイッチの操作の停止に伴って、上記回転数制御手段に上記基準目標回転数に相応する目標回転数信号を出力する処理を行なうものから成ることを特徴とする油圧作業機。
【0015】
このように構成した本発明は、軽作業の停止に際して操作レバーのグリップ位置、あるいはグリップ近傍位置に配置された回転数低減スイッチの操作を停止すると、制御装置から通常作業時等に活用される基準目標回転数に相応する目標回転数信号が出力され、原動機の回転数は基準目標回転数に相応する回転数まで上昇する。したがって、軽作業から通常作業等へ滑らかに移行させることができる。
【0016】
また、本発明に係る油圧作業機は、上記発明において、上記制御装置は、上記判断手段で上記作業モードスイッチが上記エコモード切換位置に切り換えられたと判断され、その後に上記回転数低減スイッチが操作されたときに、上記可変容量油圧ポンプの押しのけ容積を上記通常モード時の押しのけ容積よりも大きな押しのけ容積とする制御信号を上記レギュレータに出力する処理を行なうものから成ることを特徴としている。
【0017】
このように構成した本発明は、軽作業時に可変容量油圧ポンプから吐出される圧油の流量を、軽作業時ながら比較的大きな流量にして油圧アクチュエータの作動速度を速くすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、原動機の目標回転数を基準目標回転数よりも低い所定の低目標回転数に指令する回転数指令手段を、油圧アクチュエータを操作する操作装置の操作レバーのグリップ位置、あるいはグリップ近傍位置に配置したことから、操作装置の操作レバーのグリップから手を放すことなく、原動機の目標回転数を、燃費の向上を考慮した所定の低回転数まで低減させることができる。これにより、オペレータの操作が従来に比べて容易になり、基準目標回転数で実施される通常作業等から所定の低目標回転数で実施される燃費の良い軽作業へ滑らかに移行させることができる。したがって、軽作業が、通常作業等と軽作業を含む一連の作業中に繰り返し行なわれる場合には、全体の作業性を従来に比べて向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る油圧作業機の一実施形態である油圧ショベルを示す側面図である。
【図2】本実施形態に係る油圧ショベルに備えられる運転室の内部を示す平面図である。
【図3】図2に示す運転室内に備えられるスイッチボックスを拡大して示す図である。
【図4】本実施形態に係る油圧ショベルに備えられるエンジン・油圧制御系統を示すブロック図である。
【図5】本実施形態に係る油圧ショベルで得られるエンジンコントロールダイヤルの切換位置とエンジンの回転数の関係を示す特性図である。
【図6】本実施形態に係る油圧ショベルで得られるポンプ吐出圧とポンプ流量との関係を示す特性図である。
【図7】本実施形態に係る油圧ショベルで得られるエンジン馬力と、燃料の良好な領域とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る油圧作業機の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0021】
本発明に係る油圧作業機の一実施形態は、例えば油圧ショベルから成っている。この油圧ショベルは、図1に示すように、走行体1と、この走行体1上に配置される旋回体2と、この旋回体2に上下方向の回動可能に取り付けられるフロント作業機3とを備えている。フロント作業機3は、旋回体4に取り付けられるブーム4と、このブーム4の先端に取り付けられるアーム5と、このアーム5の先端に取り付けられるバケット、例えばコンクリート塊等の粒度の異なる処理対象物の篩い分け作業が可能なスケルトンバケット6と、ブーム4を作動させるブームシリンダ7、アーム5を作動させるアームシリンダ8、及びスケルトンバケット6を作動させるバケットシリンダ9とを備えている。
【0022】
上述した旋回体2上には、前側位置に運転室10を配置してあり、後側位置に重量バランスを確保するカウンタウエイト11を配置してあり、運転室10とカウンタウエイト11との間に、後述する原動機すなわちエンジンや、可変容量油圧ポンプ等が収納されるエンジン室12を配置してある。
【0023】
図2に示すように、運転室10内には、オペレータが座る運転席13を配置してあり、この運転室13の前側位置には、走行体1を走行させる図示しない左右一対のモータのうちの右走行モータを操作する右走行レバー14及び右走行ペダル14aと、左走行モータを操作する左走行レバー15及び左走行ペダル15aとを配置してある。運転席13の右側位置には、ブームシリンダ7及びバケットシリンダ9を操作する操作レバー16aを有する操作装置16を配置してあり、運転席13の左側位置には、アームシリンダ8及び旋回体2を旋回させる図示しない旋回モータを操作する操作レバー17aを有する操作装置17を配置してある。操作レバー16a,17aのそれぞれの上端部分には、オペレータによって把持されるグリップ16b,17bを形成してある。また、運転席13の右前方位置には、この油圧ショベルに係る駆動情報等を含む各種の表示が可能なモニタ21を配置してある。
【0024】
また、運転席13の右側に位置する操作装置16付近には、スイッチボックス18を配置してある。このスイッチボックス18は、図3に示すように、後述のエンジンの基準目標回転数NMを指令する回転数指令手段、例えばエンジンコントロールダイヤル19と、作業モードスイッチ20とを設けてある。作業モードスイッチ20は、重負荷作業時のモードに対応しエンジンの目標回転数を、図5の目標回転数特性N1で示すように最大トルク目標回転数に維持するハイパワーモード切換位置20aと、通常作業時のモードに対応しエンジンの目標回転数を、図5の目標回転数特性N2に示すように最大トルク目標回転数よりも少し低い目標回転数に維持する通常モード切換位置20bと、燃費を向上させるエコモードに対応しエンジンの目標回転数を、図5の目標回転数特性N3で示すようにハイパワーモード時、通常モード時の基準目標回転数NMに比べて低い所定の低目標回転数NSに維持するエコモード切換位置20cとが設定されている。
【0025】
図4に示すように、本実施形態に係る油圧ショベルは、エンジン室12に配置される原動機すなわちエンジン30と、このエンジン30によって駆動される可変容量油圧ポンプ31と、この可変容量油圧ポンプ31の押しのけ容積、すなわち傾転角を制御するレギュレータ31aとを備えている。また、フロント作業機3、旋回体2、あるいは走行体1等の負荷体33を作動させる前述したブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、走行モータ、旋回モータ等の油圧アクチュエータ32と、可変容量油圧ポンプ31から油圧アクチュエータ32のそれぞれに供給される圧油の流れを制御するコントロールバルブ34とを備えている。
【0026】
本実施形態に係る油圧ショベルは、エンジン30の目標回転数を、エンジンコントロールダイヤル19によって指令される基準目標回転数NMよりも低い前述の燃費を考慮した所定の低目標回転数NSに指令する回転数低減指令手段を備え、この回転数低減指令手段が例えば回転数低減スイッチ37から成っている。この回転数低減スイッチ37は、図2,4に示すように、スイッチボックス18側に配置された操作装置16の操作レバー16aの例えばグリップ16b位置に配置してある。
【0027】
また、本実施形態は、エンジン30の回転数を制御する回転数制御手段、すなわちエンジンコントローラ36を備えている。さらに、エンジンコントロールダイヤル19から出力される基準目標回転数NMに相応する信号、及び回転数低減スイッチ37から出力される所定の低目標回転数NSに相応する信号を入力し、目標回転数信号をエンジンコントローラ36に出力するとともに、作業モードスイッチ20から出力される信号に応じて、所定の演算処理等を実施する制御装置、すなわちメインコントローラ35を備えている。このメインコントローラ35は、作業モードスイッチ20がエコモード切換位置20cに切り換えられたかどうか判断する判断手段35aを含んでいる。
【0028】
また、メインコントローラ35は、その判断手段35aで作業モードスイッチ20がエコモード切換位置20cに切り換えられたと判断されたときに限って、回転数低減スイッチ35の操作に伴う回転数低減制御を実施させる処理を行なうものから成っている。
【0029】
また、メインコントローラ35は、その判断手段35aでエコモード切換位置20cに切り換えられていないと判断されたときには、回転数低減スイッチ37の操作に応じて前述した回転数低減制御とは異なる制御、例えば一時的にパワーアップのために可変容量油圧ポンプ31の吐出圧を規定するメインリリーフ弁45のリリーフ圧を上昇させる制御を行なうものから成っている。
【0030】
また、このメインコントローラ35は、回転数低減スイッチ37の操作の停止に伴って、すなわち回転数低減スイッチ37の押圧操作が解除されることによって、エンジンコントローラ36に基準目標回転数NMに相応する目標回転数信号を出力する処理を行なうものから成っている。
【0031】
また、このメインコントローラ35は、その判断手段35aで作業モードスイッチ20がエコモード切換位置20cに切り換えられたと判断され、その後に回転数低減スイッチ37が押圧操作されたときに、可変容量油圧ポンプ31の押しのけ容積、すなわち傾転角を図6の特性38に示す通常モード時及びハイパワーモード時の傾転角よりも大きな特性39で示す傾転角に制御する処理を行なうものから成っている。
【0032】
前述した構成の本実施形態に係る油圧ショベルにおいて、例えば駆動速度を速くしてコンクリート塊等の処理対象物をスケルトンバケット6ですくい上げる作業(通常作業)を実施し、引き続いてスケルトンバケット6を作動させてこのスケルトンバケット6内に収容された処理対象物を燃費を考慮して篩い分ける作業(軽作業)を実施し、さらにスケルトンバケット6からの処理対象物の放出作業(通常作業)が実施されるものとする。
【0033】
このような通常作業と軽作業との一連の作業に際して、例えば、エンジンコントロールダイヤル19を基準目標回転数NMに設定すると、この基準目標回転数NMに相応する信号がメインコントローラ35に入力される。ここで、作業モードスイッチ20をエコモード切換位置20cに切り換えると、このエコモード切換位置20cに相応する信号がメインコントローラ35に入力される。このとき、メインコントローラ35の判断手段35aでエコモード切換位置20cに切り換えられたと判断されるものの、回転数低減スイッチ37は操作されていないことから、この判断手段35aで回転数低減スイッチ37からの信号は入力されていないと判断され、メインコントローラ35は、エンジンコントロールダイヤル19で指令された基準目標回転数NMに相応する目標回転数信号をエンジンコントローラ36に出力する。したがって、このエンジンコントローラ36はエンジン30の回転数を基準目標回転数NMに相応する回転数とする処理を行なう。この状態において、例えばオペレータが操作装置16の操作レバー16a及び操作装置17の操作レバー17aを、それぞれのグリップ16b,17bを把持して選択的に大きく操作すると、コントロールバルブ34が切り換えられ、エンジン30によって駆動される可変容量油圧ポンプ31から大きな流量がコントロールバルブ34を介して油圧アクチュエータ32に供給される。したがって、この油圧アクチュエータ32が速く作動してフロント作業機3等を速く駆動させ、コンクリート塊等の処理対象物をスケルトンバケット6ですくい上げる作業(通常作業)を能率良く実施することができる。
【0034】
このようにしてスケルトンバケット6に処理対象物が収容された状態では、エンジン30の目標回転数とエンジントルクとの関係は図7の領域S1に含まれるものとなる。引き続いて、オペレータが操作装置16の操作レバー16aのグリップ16bから手を放すことなく、このグリップ16bに設けた回転数低減スイッチ37を押圧操作すると、この回転数低減スイッチ37からの信号がメインコントローラ35に入力される。メインコントローラ35の判断手段35aは、作業モードスイッチ20がエコモード切換位置20cに切り換えられている状態において回転数低減スイッチ37からの信号が入力されたと判断し、所定の低目標回転数NSに相応する目標回転数信号をエンジンコントローラ36に出力する。したがって、このエンジンコントローラ36はエンジン30の回転数を所定の低目標回転数NSに相応する回転数まで低減する処理を行なう。このときのエンジン目標回転数とエンジントルクとの関係は図7の領域S2に含まれるものとなる。すなわち、領域S2は経験的に知られている燃費の良好な領域R内に含まれる状態になる。また、前述のように回転数低減スイッチ37の信号がメインコントローラ35に入力されると、このメインコントローラ35からレギュレータ31aに可変容量油圧ポンプ31の傾転角を、図6の特性38で示すハイパワーモード時及び通常モード時の傾転角に比べて特性39に示すように、大きな傾転角とする信号を出力する。これにより、エンジン目標回転数とエンジントルクとの関係は、燃費の良好な領域R内にあって図7の領域S2よりも上方の領域S3に移行する。したがって、操作装置16の操作レバー16aを操作して油圧アクチュエータ32を作動させることによって、燃費を向上させる所定の軽作業、すなわちスケルトンバケット6に収容された処理対象物を篩い分けする作業を能率良く実施することができる。
【0035】
また、このような篩い分け作業を終えた後、スケルトンバケット6に残された処理対象物は例えば所定位置においてスケルトンバケット6から放出される。この間、操作レバー16aのグリップ16bに設けられた回転数低減スイッチ37の押圧操作が解除される。これにより、メインコントローラ35の判断手段35aは、回転数低減スイッチ35からの信号が入力されなくなったと判断し、メインコントローラ35は、可変容量油圧ポンプ31の傾転角を通常モード時の小さな傾転角、すなわち図6の特性38で示す傾転角に戻す信号をレギュレータ31aに出力するとともに、エンジンコントロールダイヤル19で指令された基準目標回転数NMに相応する目標回転数信号をエンジンコントローラ36に出力する。これによって前述したようにエンジン30の回転数は上昇し、再びフロント作業機3等を軽作業時に比べて速く駆動させて、処理対象物を所定位置で放出させる放出作業を実施することができる。以下同様にして、スケルトンバケット6によって処理対象物をすくい上げる作業(通常作業)と、スケルトンバケット6による篩い分け作業(軽作業)と、スケルトンバケット6からの処理対象物の放出作業(通常作業)とが繰り返し行なわれる。
【0036】
このように構成した本実施形態によれば、操作装置16の操作レバー16aのグリップ16bから手を放すことなく、エンジン30の目標回転数を燃費の向上を考慮した所定の低回転数NSまで低減させることができ、すくい上げ作業(通常作業)から篩い分け作業(軽作業)へ滑らかに移行させることができる。また、篩い分け作業(軽作業)を停止して処理対象物の放出作業(通常作業)へ移行するに際して、操作レバー16aの回転数低減スイッチ16bの操作を停止すると、エンジン30の目標回転数は基準目標回転数NMまで上昇する。したがって、篩い分け作業(軽作業)から放出作業(通常作業)へ滑らかに移行させることができる。このように本実施形態によれば、オペレータは操作レバー16,17から手を放すことなく回転数低減スイッチ37を操作できるので、回転数低減スイッチ37の操作が容易になり、基準目標回転数NMで実施される通常作業から所定の低目標回転数NSで実施される燃費の良い軽作業へ滑らかに移行させることができる。したがって、軽作業が、通常作業と軽作業を含む一連の作業中に繰り返して行なわれる場合には、全体の作業性を向上させることができる。
【0037】
また、回転数低減スイッチ37が押圧操作されて行なわれる篩い分け作業時(軽作業時)には、可変容量油圧ポンプ31の傾転角、すなわち押しのけ容積をすくい上げ作業時(通常作業時)及び放出作業時よりも大きな押しのけ容積に制御することから、篩い分け作業時(軽作業時)にあっても可変容量油圧ポンプ31から吐出される圧油の流量を比較的大きくして油圧アクチュエータ32の作動速度を速くすることができ、篩い分け作業の能率向上に貢献する。
【0038】
なお、上記実施形態に係る油圧ショベルでは、バケットとして篩い分け作業が可能なスケルトンバケット6を備えた構成にしてあるが、このようなスケルトンバケット6に代えて、土砂の掘削作業等の実施が可能な通常のバケットを設けた構成にしてもよい。このように構成した場合には、例えば土砂の掘削作業等(通常作業)から土砂のならし作業(軽作業)への移行、または土砂のならし作業(軽作業)から土砂の掘削作業等(通常作業)への移行を滑らかに行なうことができる。一般的なバケットを備えた油圧ショベルにあっては、通常作業として土砂の掘削作業とは異なる作業も行なわれており、また、軽作業として土砂のならし作業とは異なる作業も行なわれている。本発明は、このような異なる通常作業及び異なる軽作業の実施に際しても適用可能である。さらに、当該油圧作業機が油圧ショベルとは異なるものである場合に、当該油圧作業機で実施される通常作業及び軽作業に際しても本発明は適用させることができる。
【0039】
また例えば、前述のように油圧ショベルのバケットが通常知られているバケットから成る場合などにあっては、作業モードスイッチ20をエコモード切換位置20cとは異なる通常モード切換位置20b、あるいはハイパワーモード切換位置20aに切り換えたときには、回転数低減スイッチ37はパワーディギングスイッチとして機能する。したがって前述のように、作業モードスイッチ20が通常モード切換位置20bあるいはハイパワーモード切換位置20aに切り換えられている状態で、回転数低減スイッチ37を押圧操作することにより、メインリリーフ弁45のリリーフ圧を上昇させて一時的なパワーアップを実現させることができる。これにより作業性を向上させることができる。
【0040】
また、上記実施形態では、操作装置16の操作レバー16aのグリップ16bに回転数低減スイッチ37を設けてあるが、操作装置17の操作レバー17aのグリップ17bに回転数低減手段、すなわち回転数低減スイッチ37を設けた構成にしてもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、操作装置16の操作レバー16aのグリップ16bに回転数低減スイッチ37を設けてあるが、オペレータが操作レバー16aのグリップ16bから手を放さないで済むグリップ16bの近傍位置、例えばグリップ16bの直ぐ下側の位置等に回転数低減スイッチ37を設けた構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
3 フロント作業機
4 ブーム
5 アーム
6 スケルトンバケット
7 ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)
8 アームシリンダ(油圧アクチュエータ)
9 バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
10 運転室
16 操作装置
16a 操作レバー
16b グリップ
18 スイッチボックス
19 エンジンコントロールダイヤル(回転数指令手段)
20 作業モードスイッチ
20a ハイパワーモード切換位置
20b 通常モード切換位置
20c エコモード切換位置
30 エンジン(原動機)
31 可変容量油圧ポンプ
31a レギュレータ
32 油圧アクチュエータ
33 負荷体
35 メインコントローラ(制御装置)
35a 判別手段
36 エンジンコントローラ(回転数制御手段)
37 回転数低減スイッチ(回転数低減指令手段)
38 ハイパワーモード時及び通常モード時の特性
39 エコモード時の特性
40 エンジン馬力線図
45 メインリリーフ弁
N1 回転数特性
N2 回転数特性
N3 回転数特性
NM 基準目標回転数
NS 所定の低目標回転数
S3 領域
R 燃費の良好な領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、この原動機によって駆動される可変容量油圧ポンプと、この可変容量油圧ポンプの押しのけ容積を制御するレギュレータと、上記可変容量油圧ポンプから吐出される圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、この油圧アクチュエータの操作を指令する操作レバーを有する操作装置と、上記原動機の基準目標回転数を指令する回転数指令手段と、上記原動機の目標回転数を、燃費を考慮した上記基準目標回転数よりも低い所定の低目標回転数に指令する回転数低減指令手段と、上記原動機の回転数を制御する回転数制御手段と、上記回転数指令手段から出力される上記基準目標回転数に相応する信号、及び上記回転数低減指令手段から出力される所定の低目標回転数に相応する信号を入力し、該当する目標回転数信号を上記回転数制御手段に出力する制御装置とを備えた油圧作業機において、
上記回転数低減指令手段を、上記操作装置の上記操作レバーのグリップ位置、あるいはグリップの近傍位置に配置したことを特徴とする油圧作業機。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧作業機において、
通常作業時のモードに対応する通常モード切換位置、及び燃費を向上させるエコモードに対応するエコモード切換位置への切り換えが選択的に可能な作業モードスイッチを備え、
上記回転数低減指令手段が、回転数低減スイッチから成り、
上記制御装置は、上記作業モードスイッチが上記エコモード切換位置に切り換えられたかどうか判断する判断手段を有し、この判断手段で上記エコモード切換位置に切り換えられたと判断されたときに限って、上記回転数低減スイッチの操作に伴う回転数低減制御を実施させる処理を行なうものから成ることを特徴とする油圧作業機。
【請求項3】
請求項2に記載の油圧作業機において、
上記制御装置は、上記判断手段で上記エコモード切換位置に切り換えられていないと判断されたときには、上記回転数低減スイッチの操作に応じて上記回転数低減制御とは異なる制御を実施させる処理を行なうものから成ることを特徴とする油圧作業機。
【請求項4】
請求項2に記載の油圧作業機において、
上記制御装置は、上記回転数低減スイッチの操作の停止に伴って、上記回転数制御手段に上記基準目標回転数に相応する目標回転数信号を出力する処理を行なうものから成ることを特徴とする油圧作業機。
【請求項5】
請求項2項に記載の油圧作業機において、
上記制御装置は、上記判断手段で上記作業モードスイッチが上記エコモード切換位置に切り換えられたと判断され、その後に上記回転数低減スイッチが操作されたときに、上記可変容量油圧ポンプの押しのけ容積を上記通常モード時の押しのけ容積よりも大きな押しのけ容積とする制御信号を上記レギュレータに出力する処理を行なうものから成ることを特徴とする油圧作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−106090(P2011−106090A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258988(P2009−258988)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】