説明

油圧式オートテンショナ

【課題】オイルシールを確実に抜止めすることができるようにした組立ての容易な油圧式オートテンショナを提供することである。
【解決手段】内部に作動油が充填されたシリンダ11の上部開口内にオイルシール13を組込んで止め輪15の取付けにより抜止めし、そのオイルシール13をスライド自在に貫通するロッド16の下部に、ベルトからロッド16に負荷される押込み力の緩衝用油圧ダンパ30を設けると共に、シリンダ11の外側にロッド16に外方向への突出性を付与するリターンスプリング19を設ける。オイルシール13を抜止めする止め輪15として、複数の爪部15aを外周に有し、その爪部15aの剪断切口15bにかえりdが形成されたプレス成形された菊形止め輪を採用し、シリンダ11の内径面に対するかえりdの食い込みにより菊形止め輪15を取付け状態に保持してオイルシール13を抜止めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オルタネータ等の自動車補機を駆動するベルトの張力調整用に用いられる油圧式オートテンショナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の油圧式オートテンショナとして特許文献1に記載されたものが従来から知られている。このオートテンショナは、鋼製の底つきスリーブが内嵌合されたシリンダの開口部をオイルシールの取付けにより密閉して、内部に充填された作動油の漏洩を防止し、そのオイルシールをスライド自在に貫通するロッドにリターンスプリングの弾性力を付与して外方向への突出性を付与し、ベルトからロッドに負荷される押し込み力をスリーブ内に組込まれた油圧ダンパによって緩衝するようにしている。
【0003】
また、ロッドのシリンダ内部に位置する部分に、シリンダの内径面に沿ってスライド自在のウエアリングを取付け、そのウエアリングによってロッドの曲がり等の変形を防止するようにしている。
【0004】
ここで、オイルシールは、シリンダの内周上部に形成された段部によって下方向への移動が防止され、かつその上側に取付けられた止め輪によって抜止めされている。
【特許文献1】特開平10−19099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の油圧式オートテンショナにおいては、オイルシール抜止め用の止め輪としてC形止め輪を採用しているため、その取付けに際して、シリンダの内径面に係合溝を旋削する必要があり、加工に手間がかかると共に止め輪の取付けにも手間がかかるという不都合がある。
【0006】
また、係合溝の形成部位ではシリンダの肉厚が薄くなるため、シリンダとしては厚肉のものを採用する必要が生じ、油圧式オートテンショナの重量が重くなるという不都合もある。
【0007】
さらに、ベルトが切断してロッドがリターンスプリングの弾性力で急速に外方向に移動し、ウエアリングの当接によってオイルシールに衝撃力が作用すると、その衝撃力によって止め輪が変形し、あるいは係合溝が破損してオイルシールを抜止めすることができない可能性があり、抜止めの信頼性が低いという不都合もある。
【0008】
そこで、C形止め輪に代えて菊形止め輪を採用することにより、この菊形止め輪はシリンダの開口上から内部に押し込むことによって取付け状態とすることができるため、上記のような不都合の解消に効果をあげることができるが、上記菊形止め輪は、その外周に形成された複数の爪部の外周のエッジをシリンダの内径面に食い込ませて抜止めする構成であるため、抜止め効果を高めるためには、剪断および曲げ加工によるプレス成形後に爪部を後加工して爪部外周のエッジをシャープに仕上げる必要があり、加工に非常に手間がかかるという問題が発生する。
【0009】
この発明の課題は、オイルシールを確実に抜止めすることができるようにした組立ての容易な油圧式オートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明においては、内部に作動油が充填されたシリンダと、作動油上に空気溜まりが形成される状態でそのシリンダの上部開口を密封するオイルシールと、そのオイルシールをスライド自在に貫通するロッドと、そのロッドに外方向への突出性を付与するリターンスプリングと、前記ロッドに付与される押込み力を緩衝する油圧ダンパと、前記シリンダの内部に組込まれてロッドの両端部間を支持するウエアリングとからなり、前記シリンダの上部開口内に止め輪を取付け、その止め輪によってオイルシールを抜止めした油圧式オートテンショナにおいて、前記止め輪が、剪断加工後の曲げ加工により形成された複数の同方向に傾斜する爪部を外周に有し、各爪部のシリンダ内径面に対する食い込みによって取付け状態とされるプレス成形された菊形止め輪からなり、その菊形止め輪の各爪部を剪断切口に形成されるかえりが外側に位置するよう曲げ加工した構成を採用したのである。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、菊形止め輪によってオイルシールを抜止めすることにより、この菊形止め輪はシリンダの上部開口上からシリンダ内部に押し込むことにより、爪部の外周のエッジがシリンダの内径面に食い込んで取付け状態とされるため、組込みが容易であり、しかも、爪部の外周のエッジは剪断の際に形成されたかえりであるため、シャープであり、シリンダの内径面に対して爪部を強固に食い込ませることができ、オイルシールを確実に抜止めすることができる。
【0012】
また、シリンダには係合溝を加工する必要がないため、加工の容易化を図ることができると共に、シリンダとして薄肉厚のものを採用することができるので、油圧式オートテンショナの軽量化を図ることができる。
【0013】
さらに、菊形止め輪をプレス成形する際、爪部外周の剪断切口に形成されるかえりが外側に位置するよう上記爪部を曲げ加工することによって、爪部の外側にシャープなエッジが得られることになり、プレス成形後に爪部を後加工する必要がなく、製作の容易なコストの安い菊形止め輪を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図1はベルトの張力調整装置を示す。同図で示すように、プーリアーム1は支点軸2を中心として揺動自在に支持され、その揺動側の端部にはベルト3に張力を付与するテンションプーリ4が回転自在に支持されている。
【0015】
また、プーリアーム1にはこの発明に係る油圧式オートテンショナ10が接続され、その油圧式オートテンショナ10によってテンションプーリ4がベルト3を押圧する方向にプーリアーム1が付勢されている。
【0016】
図2に示すように、油圧式オートテンショナ10は、上端が開口する有底筒状のシリンダ11を有している。このシリンダ11はアルミ合金からなり、その内部には鋼製の有底筒状のスリーブ12が嵌合されている。
【0017】
シリンダ11の内部には作動油が充填され、その作動油はシリンダ11の上部開口を密封するオイルシール13によって外部への漏洩が防止されている。図3に示すように、オイルシール13は、シリンダ11の内周上部に形成された段部14により下面の外周部が支持され、そのオイルシール13と作動油の油面間に空気溜りが形成されている。また、オイルシール13は、シリンダ11の内周上部に取付けた止め輪15によって抜止めされている。
【0018】
止め輪15は、菊形止め輪からなり、外周には複数の同方向に傾斜する爪部15aが形成され、各爪部15aの先端における外側のエッジeがシリンダ11の内径面に食い込み、その食い込みによって菊形止め輪15は取付け状態とされている。
【0019】
上記菊形止め輪15は剪断加工と、その剪断加工後の曲げ加工により形成されたプレス成形品からなる。図4は、剪断加工により形成された菊形止め輪15のブランクAを示し、爪部15aの剪断切口15bには、だれa、剪断面b、破断面cおよびかえりdが形成され、上記かえりdは極めてシャープなエッジeを形成している。
【0020】
剪断加工後の爪部15aは、図5に示すように、上記かえりdが外側に配置されるよう同方向に折曲げられ、その折曲げによって菊形止め輪15が形成される。
【0021】
図2に示すように、菊形止め輪15およびオイルシール13をスライド自在に貫通するロッド16のシリンダ11外部に位置する上端部にはばね座17が取付けられ、そのばね座17とシリンダ11の外周下部に設けられたフランジ18間にロッド16に外方向への突出性を付与するリターンスプリング19が組込まれている。
【0022】
ばね座17の上面には連結片20が形成され、その連結片20はプーリアーム1にねじ込まれるボルト21を介してそのプーリアーム1に連結されている。一方、シリンダ11の下端にも連結片22が設けられ、その連結片22はエンジンブロック23にねじ込まれるボルト24を介してそのエンジンブロック23に連結されている。
【0023】
スリーブ12内には、ロッド16に負荷される押込み力を緩衝する油圧ダンパ30が組込まれている。
【0024】
油圧ダンパ30は、ロッド16の下端部にスリーブ12の内径面に沿ってスライド自在のプランジャ31を接続してスリーブ12内を圧力室32とリザーバ室33とに仕切り、そのプランジャ31にその下方の圧力室32と上方のリザーバ室33を連通する通路34を設け、その通路34の圧力室32側の開口に、圧力室32の圧力がリザーバ室33の圧力より高くなった場合に通路34を閉鎖するチェックバルブ35を設け、上記圧力室32内に封入された作動油によってロッド16に負荷される押込み力を緩衝するようにしている。なお、36は、プランジャ31をロッド16の下端に押付けるプランジャスプリングを示す。
【0025】
ロッド16は、大径軸部16aの下端に小径軸部16bを設けた構成とされ、上記小径軸部16bに嵌合されたウエアリング37はシリンダ11の内径面に沿って摺動自在とされ、そのウエアリング37によってロッド16の長さ方向の中間部が支持されている。
【0026】
小径軸部16bには、大径軸部16aの下端にウエアリング37が当接する状態でそのウエアリング37の下面と対向する位置に係合溝38が形成され、その係合溝38に取付けられたサークリップ39と大径軸部16aの下端面とによってウエアリング37は軸方向に非可動の支持とされている。
【0027】
実施の形態で示すベルトの張力調整装置は上記の構造からなり、ベルト3によって駆動される補機の負荷変動やクランクシャフトの角速度の変化によってベルト3の張力が変化し、そのベルト3に弛みが生じると、リターンスプリング19の押圧によってロッド16が外方に移動してベルト3の弛みを吸収する。
【0028】
このとき、プランジャ31もロッド16と同方向に移動するため、圧力室32の容積が大きくなって圧力が低下し、その圧力がリザーバ室33の圧力より低くなると、チェックバルブ35が通路34を開放するため、リザーバ室33の作動油は通路34から圧力室32に流れ、ロッド16およびプランジャ31は外方に向けて急速に移動してベルト3の弛みを直ちに吸収する。
【0029】
一方、ベルト3の張力が大きくなると、ベルト3からロッド16に押込み力が負荷される。このとき、圧力室32の圧力はリザーバ室33の圧力より高くなるため、チェックバルブ35は通路34を閉鎖し、圧力室32に封入された作動油により、ロッド16に負荷される上記押込み力が緩衝される。
【0030】
押込み力がリターンスプリング19の弾性力より大きい場合、圧力室32の作動油はスリーブ12とプランジャ31の摺動面間に形成された微小なリーク隙間からリザーバ室33内に流れ、上記押込み力とリターンスプリング19の弾性力とが釣り合う位置までロッド16はゆっくりと後退し、ベルト3の張力は一定に保持される。
【0031】
上記のようなベルト3の張力調整時、ベルト3が破断すると、リターンスプリング19の押圧によってロッド16は急速に外方向に移動してウエアリング37がオイルシール13に当接し、そのオイルシール13に衝撃力が負荷される。
【0032】
このとき、オイルシール13を抜止めする菊形止め輪15は、爪部15aの剪断切口15bに形成されたかえりdがシリンダ11の内径面に食い込む取付けであるため、オイルシール13に衝撃力が負荷されると、爪部15aのシャープなエッジとしてのかえりdがシリンダ11の内径面にさらに強く食い込むことになり、その食い込み部においてオイルシールに負荷される衝撃力を受け止めることになる。
【0033】
このため、オイルシール13を確実に抜止めすることができ、油圧式オートテンショナの部品のバラケを防止することができる。
【0034】
ここで、菊形止め輪15は、シリンダ11の開口端上からシリンダ11の内部に押し込むことによって複数の爪部15aがシリンダ11の内径面に対する接触により内方に弾性変形し、その復元弾性により爪部15aの先端部における外側のエッジとしてのかえりdがシリンダ11の内径面に食い込んで取付け状態とされるため、極めて容易に取付けることができる。
【0035】
また、菊形止め輪15は上記のように、かえりdの食い込みによる取付けであるため、シリンダ11には係合溝を加工する必要がなく、加工の容易化を図ることができると共に、シリンダ11として薄肉厚のものを採用することができるので、油圧式オートテンショナの軽量化を図ることができる。
【0036】
さらに、菊形止め輪15をプレス成形する際、爪部15aの外周の剪断切口15bに形成されるかえりdが外側に位置するよう上記爪部15aを曲げ加工することによって、爪部15aの外側にシャープなエッジが得られることになり、プレス成形後に爪部15aを後加工する必要がなく、製作の容易なコストの安い菊形止め輪15を得ることができる。
【0037】
図2では、ウエアリング37がロッド16と共に移動するウエアリング摺動型の油圧式オートテンショナを示したが、油圧式オートテンショナはこれに限定されるものではない。例えば、図6(I)に示すように、オイルシール13と段部14との間にウエアリング37を組込んでロッド16をスライド自在に支持するウエアリング固定型の油圧式オートテンショナであってもよい。
【0038】
また、図2および図6(I)では、リザーバ室33内の作動油をプランジャ31に設けた通路34から圧力室32内に流入させるようにした上吸込み型のオートテンショナを示したが、図6(II)に示すように、リザーバ室33内の作動油をシリンダ11とスリーブ12の嵌合面間に形成された通路40から圧力室32内の下部に流入させるようにした下吸込み型のオートテンショナであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明に係る油圧式オートテンショナを用いたベルトの張力調整装置の正面図
【図2】図1に示す油圧式オートテンショナの縦断正面図
【図3】菊形止め輪の取付け部を拡大して示す断面図
【図4】剪断加工後の菊形止め輪のブランクの一部分を示す断面図
【図5】図4のブランクの爪部を折り曲げた状態の断面図
【図6】(I)および(II)は、油圧式オートテンショナの他の例を示す断面図
【符号の説明】
【0040】
11 シリンダ
13 オイルシール
15 菊形止め輪
15a 爪部
16 ロッド
19 リターンスプリング
30 油圧ダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に作動油が充填されたシリンダと、作動油上に空気溜まりが形成される状態でそのシリンダの上部開口を密封するオイルシールと、そのオイルシールをスライド自在に貫通するロッドと、そのロッドに外方向への突出性を付与するリターンスプリングと、前記ロッドに付与される押込み力を緩衝する油圧ダンパと、前記シリンダの内部に組込まれてロッドの両端部間を支持するウエアリングとからなり、前記シリンダの上部開口内に止め輪を取付け、その止め輪によってオイルシールを抜止めした油圧式オートテンショナにおいて、
前記止め輪が、剪断加工後の曲げ加工により形成された複数の同方向に傾斜する爪部を外周に有し、各爪部のシリンダ内径面に対する食い込みによって取付け状態とされるプレス成形された菊形止め輪からなり、その菊形止め輪の各爪部が剪断切口に形成されるかえりを外側にして曲げ加工されていることを特徴とする油圧式オートテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−211852(P2007−211852A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31019(P2006−31019)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】