説明

油圧式走行車両の制御装置

【課題】HST式の油圧式走行車両において高速域での燃費を向上させる。
【解決手段】エンジン1によって可変容量型の油圧ポンプ2を駆動し、この油圧ポンプ2からの吐出油によって走行用の油圧モータ3を駆動する油圧式走行車両において、エンジン回転数及び走行速度をそれぞれエンジン回転数検出手段15及び走行速度検出手段16によって検出し、制御手段12のポンプ制御部14により、車両の走行速度が設定値以上の高速域で、設定値未満の低速域よりもポンプ容量の指令値が大きくなるように設定された関数によりポンプ容量の指令値を決定するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホイールローダやホイールクレーン等の油圧式走行車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の油圧式走行車両の走行システムとして、一般に、エンジンで駆動される油圧ポンプの吐出油によって油圧モータを回転させ、その動力を車輪に伝達する油圧トランスミッション(HST:Hydrostatic Transmission)が用いられている。
【0003】
一般的なHST技術では、予めエンジン回転数とポンプ容量の関係を決めておき、エンジン回転数の変化に応じてポンプ容量を増加/減少させることによって定速走行する。
【0004】
つまり、エンジン回転数が高くなるとポンプ容量を増加させ、低くなるとポンプ容量を減少させるポンプ容量制御を行うようにしている。
【0005】
しかし、このようにポンプ容量をエンジン回転数のみによって一意的に決める従来技術では、走行速度との関係に応じたポンプ容量の制御ができないため、とくに高速域での燃費が悪くなる問題があった。
【0006】
フォークリフトのような低速走行車両において、低速域での燃費向上を目的とした技術として、特許文献1に記載されたものが公知である。
【0007】
この公知技術においては、アクセル量(アクセル操作量)が小さい小アクセル域で、アクセル量に対するエンジン回転数の変化率を他のアクセル域のそれよりも小さく設定している。
【0008】
こうすれば、低速域においてアクセル量の変化に対するエンジン回転数の変動を抑えることができるため、燃費を向上させることができる。
【特許文献1】特開平9−301016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記公知技術は低速車両には有効であるが、ホイールローダやホイールクレーンのように高速走行が多用される高速車両では、高速域で逆にエンジン回転数が上昇し、燃費が悪化してしまうため、適用することができない。
【0010】
そこで本発明は、HST式の油圧式走行車両において高速域での燃費を向上させることができる制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、エンジンによって可変容量型の油圧ポンプを駆動し、この油圧ポンプからの吐出油によって走行用の油圧モータを駆動する油圧式走行車両の制御装置において、走行速度を検出する走行速度検出手段と、上記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、エンジン回転数と関数とによって決定されるポンプ容量の指令値に基づいてポンプ容量を制御する制御手段とを備え、この制御手段は、車両の走行速度が設定値以上の高速域で、設定値未満の低速域よりもポンプ容量の指令値が大きくなるように設定された関数によりポンプ容量の指令値を決定するように構成されたものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、制御手段は、高速域に設定された上限値以上の速度領域、及び低速域に設定された下限値以下の速度領域では速度変化にかかわらず関数を一定にするように構成されたものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、制御手段は、走行速度を制限値以下に制限するエンジン制御を行うように構成されたものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの構成において、アクセル量を指令するアクセル入力手段と、このアクセル入力手段によって指令されたアクセル量を検出するアクセル量検出手段とを備え、制御手段は、上記アクセル量がアクセル量設定値以下の小アクセル域で、アクセル量設定値を超える大アクセル域よりもポンプ容量の指令値が大きくなるように設定された関数によりポンプ容量の指令値を決定するように構成されたものである。
【0015】
請求項5の発明は、請求項4の構成において、制御手段は、小アクセル域に設定された下限値以下の極小アクセル領域ではアクセル量の変化にかかわらず関数を一定にするように構成されたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、ホイールクレーンのように高速域で走行することの多い高速車両において、高速域では低速域よりもポンプ容量を大きくすることでエンジン回転数を低下させることができるため、燃費を向上させることができる。
【0017】
また、ポンプ容量を増加させることによってポンプ効率も改善することができる。
【0018】
さらに、エンジン回転数が低下することにより、このエンジンで駆動される冷却ファンや作業用補機ポンプの回転数も低下するため、これらによる動力損失も低減され、燃費向上効果が一層高くなる。
【0019】
この場合、請求項2の発明によると、高速域、低速域においてポンプ容量を一定範囲内に収めることができるため、たとえば低速域でポンプ容量が小さくなり過ぎて加速性が悪化したり、高速域でエンジン回転数が下がり過ぎてパワー不足やエンジン効率の悪化による燃費の悪化を招いたりする弊害を除去することができる。
【0020】
ところで、走行速度が一定値以下になるようにエンジン回転数を制限する技術は公知である。
【0021】
この場合、請求項3の発明によると、エンジン回転数制限方式をとる車両において、エンジン回転数の制限制御に加えて請求項1または2の関数制御を行うことでエンジン回転数をより大きく低下させることができるため、制限速度での走行時の燃費向上効果が高くなる。
【0022】
請求項4,5の発明によると、小アクセル域においても、ポンプ容量を増加させてエンジン回転数を低下させることにより、低速走行時や降坂時のような走行負荷が小さくて必要な走行エネルギーも小さい走行状態においても燃費を向上させることができる。
【0023】
また、請求項5の発明によると、ポンプ容量指令値を一定範囲内に収めることができるため、極小アクセル領域でポンプ容量が大き過ぎてエンストする等の弊害を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
第1実施形態(図1〜図5参照)
図1は走行駆動系及び制御系の構成を示す。
【0025】
同図に示すようにエンジン1によって駆動される可変容量型の油圧ポンプ2と、この油圧ポンプ2の吐出油によって駆動される可変容量型の油圧モータ3とが管路4,5により接続されて閉回路が構成され、油圧モータ3の回転力がアクスル6を介して車輪7,7に伝達される。
【0026】
8はエンジン動力を油圧ポンプ2と補機ポンプ9と冷却ファン10とに分割するパワーデバイダである。
【0027】
11はエンジン1に対するアクセル量の指令を出すアクセル入力手段(アクセルペダル)で、このアクセル入力手段11からのアクセル量指令信号が制御手段12のエンジン制御部13に入力される。
【0028】
これにより、指令アクセル量に応じたアクセル開度で燃料噴射作用が行われてエンジン1が回転する。
【0029】
また、検出手段として、エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段15と、走行速度を検出する走行速度検出手段16とが設けられ、この両検出手段15,16で検出されたエンジン回転数及び走行速度が制御手段12のポンプ制御部14に入力される。
【0030】
このポンプ制御部14は、検出されたエンジン回転数と走行速度とから、ポンプ容量の指令値を決定する関数を求め、この関数から求められるポンプ容量指令値に基づいて油圧ポンプ2の容量を制御する。
【0031】
この点を詳述する。
【0032】
従来、HST車両において一定速度で走行する場合、エンジン回転数に対して一定の関数を掛けてポンプ容量の指令値を求め、この容量指令値に基づいて油圧ポンプ2の容量を制御する構成がとられる。
【0033】
従って、ポンプ容量指令値はエンジン回転数のみによって一意的に決まり、走行速度Vにおいて、図2(a)のようにエンジン回転数に関数f1を掛けてポンプ容量の指令値が決定される。
【0034】
これに対し本装置においては、エンジン回転数に対する関数を走行速度に応じて変化させ、走行速度が設定値V以上となる高速域では、図2(b)のように上記関数f1よりもポンプ容量指令値が大きくなるように設定された関数f2によりポンプ容量指令値を決定する。
【0035】
一方、走行速度が設定値V未満の低速域では、図2(c)のように上記関数f1よりもポンプ容量指令値が小さくなるように設定された関数f3によりポンプ容量指令値を決定する。
【0036】
いいかえれば、高速域では低速域よりもポンプ容量の指令値が大きくなる。
【0037】
こうすると、従来のように関数が一定の場合と比較して、高速域において同じポンプ吐出量(=走行速度)を得るのにエンジン回転数を低下させることができるため、図3に示すようにこのエンジン回転数の低下分、燃料消費率を低下させることができる。
【0038】
このため、ホイールクレーンのように高速走行することの多い高速車両において
燃費を大幅に向上させることができる。
【0039】
また、ポンプ容量が増大することでポンプ効率も改善することができるとともに、エンジン回転数の低下により、パワーデバイダ8を介して駆動される補機ポンプ9及び冷却ファン10の回転数も低下することで、これらよる動力損失も低減され、燃費向上効果が一層高くなる。
【0040】
一方、図2(b)のようなエンジン回転数に対するポンプ容量指令値の変化率が大きくなる制御のみを行うとすると、停止状態からのフル加速時に、図4(i)のようにエンジン回転数の立ち上がりが不安定となる弊害が生じる。
【0041】
この点、本装置では、加速が行われる低速域では図2(c)の、エンジン回転数に対するポンプ容量指令値の変化率が小さい制御を行うため、図4(ii)のようにエンジン回転数の立ち上がりが安定したものとなる。
【0042】
また、走行速度が一定値以下となるようにエンジン回転数を制限する速度制限制御を行う場合、本装置によると、図5に示すように、制限制御に加えて関数制御を行うことでエンジン回転数をより大きく低下させることができるため、制限速度での走行時の燃費向上効果が高くなる。
【0043】
ところで、上記実施形態において、高速域の上限値及び低速域の下限値をそれぞれ設け、上限値以上の速度領域及び下限値以下の速度領域では、速度変化にかかわらず関数を一定にするように構成するのが望ましい。
【0044】
こうすれば、高速域、低速域においてポンプ容量を一定範囲内に収めることができるため、たとえば低速域でポンプ容量が小さくなり過ぎて加速性が悪化したり、高速域でエンジン回転数が下がり過ぎてパワー不足やエンジン効率の悪化による燃費の悪化を招いたりする弊害を除去することができる。
【0045】
第2実施形態(図6〜図8参照)
第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0046】
第2実施形態においては、高速域での燃費向上に加えて、アクセル量(走行負荷)の小さい低速域でもエンジン回転数を低減して燃費を向上させるようにしている。
【0047】
すなわち、図6に示すように検出手段としてアクセル入力手段11からのアクセル量信号によってアクセル量を求めるアクセル量検出手段17が追加され、エンジン回転数及び走行速度とともにこのアクセル量をポンプ制御部14に取り込んでポンプ容量指令値を決定するように構成されている。
【0048】
詳述すると、図7(a)のようにアクセル量(アクセル量設定値)Xにおいてポンプ容量指令値がエンジン回転数に対して関数g1により決まるとする。
【0049】
第2実施形態では、アクセル量に応じて関数を変化させ、アクセル量が設定値X以下となる小アクセル域で、図7(b)のように上記関数g1よりもポンプ容量指令値が大きくなるように設定された関数g2によりポンプ容量指令値を決定する。
【0050】
一方、アクセル量が設定値Xを超えてX1未満のアクセル域(図8ではX〜X1と表記している)では、上記関数g1よりもポンプ容量指令値が小さくなるように設定された関数g3によりポンプ容量指令値を求める。
【0051】
また、アクセル量がX1以上のアクセル域では、高速域であるとして、第1実施形態の走行速度に応じた関数制御を行う。
【0052】
これを図8のフローチャートによって詳述する。
【0053】
ステップS1でアクセル量の検出値と設定値Xが比較され、アクセル量がX以下の場合はステップS2に、アクセル量がX〜X1の場合はステップS3にそれぞれ移行する。
【0054】
ステップS2では、関数g2によりポンプ容量指令値を求め、ステップS3では関数g3によりポンプ容量指令値を求める。
【0055】
一方、アクセル量がX1以上は高速域であるとして、第1実施形態で説明した処理が行われる。
【0056】
すなわち、走行速度の検出値と設定値Vが比較され(ステップS4)、走行速度がV以上の場合はステップS5で関数f2により、V未満の場合はステップS6で関数f3により、それぞれポンプ容量指令値が求められる。
【0057】
そして、ステップS7において、上記ステップS2、S5、S6のいずれかで求められたポンプ容量指令値が出力される。
【0058】
この第2実施形態によると、小アクセル域においても、ポンプ容量を大きくしエンジン回転数を低下させることにより、低速走行時や降坂時のような走行負荷が小さくて必要な走行エネルギーも小さい走行状態においても燃費を向上させることができる。
【0059】
なお、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、小アクセル域に下限値を設定し、この下限値以下の極小アクセル領域ではアクセル量の変化にかかわらず関数を一定にするように構成してもよい。
【0060】
こうすれば、容量指令値を一定範囲内に収めることができるため、極小アクセル領域でポンプ容量が大き過ぎてエンストする等の弊害を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施形態における走行駆動系及び制御系の構成を示す図である。
【図2】同実施形態によるエンジン回転数とポンプ容量指令値の関係を示す図である。
【図3】同実施形態によるエンジン回転数とエンジン燃料消費率の関係を示す図である。
【図4】同実施形態によるフル加速時のエンジン回転数の変化状況を示す図である。
【図5】同実施形態による速度制限時のエンジン回転数低減効果を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態における走行駆動系及び制御系の構成を示す図である。
【図7】同実施形態によるエンジン回転数とポンプ容量指令値の関係を示す図である。
【図8】同実施形態の作用を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1 エンジン
2 油圧ポンプ
3 油圧モータ
11 アクセル入力手段
12 制御手段
13 制御手段のエンジン制御部
14 制御手段のポンプ制御部
15 エンジン回転数検出手段
16 走行速度検出手段
17 アクセル量検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって可変容量型の油圧ポンプを駆動し、この油圧ポンプからの吐出油によって走行用の油圧モータを駆動する油圧式走行車両の制御装置において、走行速度を検出する走行速度検出手段と、上記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、エンジン回転数と関数とによって決定されるポンプ容量の指令値に基づいてポンプ容量を制御する制御手段とを備え、この制御手段は、車両の走行速度が設定値以上の高速域で、設定値未満の低速域よりもポンプ容量の指令値が大きくなるように設定された関数によりポンプ容量の指令値を決定するように構成されたことを特徴とする油圧式走行車両の制御装置。
【請求項2】
制御手段は、高速域に設定された上限値以上の速度領域、及び低速域に設定された下限値以下の速度領域では速度変化にかかわらず関数を一定にするように構成されたことを特徴とする請求項1記載の油圧式走行車両の制御装置。
【請求項3】
制御手段は、走行速度を制限値以下に制限するエンジン制御を行うように構成されたことを特徴とする請求項1または2記載の油圧式走行車両の制御装置。
【請求項4】
アクセル量を指令するアクセル入力手段と、このアクセル入力手段によって指令されたアクセル量を検出するアクセル量検出手段とを備え、制御手段は、上記アクセル量がアクセル量設定値以下の小アクセル域で、アクセル量設定値を超える大アクセル域よりもポンプ容量の指令値が大きくなるように設定された関数によりポンプ容量の指令値を決定するように構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の油圧式走行車両の制御装置。
【請求項5】
制御手段は、小アクセル域に設定された下限値以下の極小アクセル領域ではアクセル量の変化にかかわらず関数を一定にするように構成されたことを特徴とする請求項4記載の油圧式走行車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−275784(P2009−275784A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126367(P2008−126367)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】