治具用クランプ装置
【課題】 潤滑油を介在させなくても位置決め精度を維持できる治具用クランプ装置を提供する。
【解決手段】 位置決め凹部12を有するブッシュ11と、この位置決め凹部12に嵌合するクランプ軸22を有するピン21とを備え、このピン21のクランプ軸22がブッシュ11の位置決め凹部12に対して着脱可能に嵌合することによりピン21とブッシュ11が互いに結合する治具用クランプ装置において、ブッシュ11の位置決め凹部12とピン21のクランプ軸22の少なくとも一つの表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜(30)を形成した。
【解決手段】 位置決め凹部12を有するブッシュ11と、この位置決め凹部12に嵌合するクランプ軸22を有するピン21とを備え、このピン21のクランプ軸22がブッシュ11の位置決め凹部12に対して着脱可能に嵌合することによりピン21とブッシュ11が互いに結合する治具用クランプ装置において、ブッシュ11の位置決め凹部12とピン21のクランプ軸22の少なくとも一つの表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜(30)を形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着脱可能な嵌合によって治具の位置決め保持を行う治具用クランプ装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の治具用クランプ装置は、位置決め凹部を有するブッシュと、この位置決め凹部に嵌合するクランプ軸を有するピンとを備え、このピンのクランプ軸がブッシュの位置決め凹部に対して着脱可能に嵌合することによりピンとブッシュが互いに結合するようになっている。
【0003】
特許文献1には、歯車の位置決めと保持を行う治具用クランプ装置が開示されている。
【特許文献1】特開2004−291107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の治具用クランプ装置にあっては、治具の結合と取り外しが多く行われると、互いに摺接するブッシュの位置決め凹部とピンのクランプ軸の各表面が摩耗し、位置決め精度が維持できなくなるという問題点があった。
【0005】
また、治具用クランプ装置の摺接部に潤滑油を用いると上記の摩耗が抑えられるが、クリーンルーム等においてはこの潤滑油が塵埃を発生する可能性があるため、潤滑油を使用できない。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、潤滑油を介在させなくても位置決め精度を維持できる治具用クランプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、位置決め凹部を有するブッシュと、この位置決め凹部に嵌合するクランプ軸を有するピンとを備え、このピンのクランプ軸がブッシュの位置決め凹部に対して着脱可能に嵌合することによりピンとブッシュが互いに結合する治具用クランプ装置に適用する。
【0008】
そして、ブッシュの位置決め凹部とピンのクランプ軸の少なくとも一つの表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成したことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、治具用クランプ装置は、摩擦係数が低い平滑なDLCコーティング膜によってブッシュの位置決め凹部とピンのクランプ軸との摺接部に働く摩擦力を低減し、その作動を円滑にするとともに、この摺接部が摩耗することが抑えられ、その寿命延長がはかれる。これにより、治具用クランプ装置を介して治具の結合と取り外しが多く行われても、治具用クランプ装置の位置決め精度が維持される。
【0010】
さらに、治具用クランプ装置は潤滑油を介在させなくても円滑な作動性が確保されるため、無給油状態で作動させることが可能となる。この結果、治具用クランプ装置から塵埃が発生することを回避し、例えばクリーンルーム内で使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、工作機械を構成する治具本体1の両側面に対の治具パネル2が複数の治具用クランプ装置3を介して結合と取り外しが行われるようになっている。
【0013】
治具本体1に各治具パネル2を押し当てることにより、各治具用クランプ装置3を介して各治具パネル2が治具本体1に対して結合し、所定位置に固定支持される。
【0014】
治具本体1から各治具パネル2を引き離すことにより、各治具用クランプ装置3を介して各治具パネル2が治具本体1から取り外される。
【0015】
治具用クランプ装置3は、位置決め凹部12を有するブッシュ11と、この位置決め凹部12上に嵌合するクランプ軸22を有するピン21とを備え、このピン21のクランプ軸22がブッシュ11の位置決め凹部12に対して着脱可能に嵌合することによりピン21とブッシュ11が互いに結合する。
【0016】
図2に示すように、ブッシュ11は、位置決め凹部12が開口する円筒部10と、この円筒部10から環状に拡がるつば部17とを有する。このつば部17に複数のボルト穴18が形成され、ブッシュ11はその円筒部10を各治具パネル2のインロー部に嵌合させ、各ボルト穴18に挿通するボルトを介して各治具パネル2に締結される。この円筒部10の一端に円盤状の栓体19がはめ込まれている。
【0017】
ブッシュ11の位置決め凹部12は、位置決めをする部位として第一フランジ面13と第一テーパ面14を有し、クランプする部位として第二フランジ面15と第二テーパ面16を有する。
【0018】
第一フランジ面13と第二フランジ面15はブッシュ11の中心軸Oに対して並行に延びる。第一テーパ面14と第二テーパ面16は中心軸Oに対して傾斜して延びる。第一テーパ面14と第二テーパ面16は第二フランジ面15を挟むようにして環状に隆起する。
【0019】
図3に示すように、ピン21は治具本体1に接合するつば部27と、このつば部27の両側から突出する固定軸20とクランプ軸22とを有する。このつば部27に複数のボルト穴28が形成され、固定軸20の外周溝29にOリング5が介装される。ピン21は固定軸20を治具本体1のインロー部に嵌合させ、各ボルト穴28に挿通するボルトを介して各治具本体1に締結される。
【0020】
ピン21のクランプ軸22は位置決めをする部位として第一フランジ面23とテーパ面24を有し、クランプする部位として第二フランジ面25とボール26を有する。
【0021】
ピン21の第一フランジ面23と第二フランジ面25はピン21の中心軸Oに対して並行に延びる。テーパ面24は中心軸Oに対して傾斜して延びる。
【0022】
ピン21の第一フランジ面23はブッシュ11の第一フランジ面13に対して所定のハメアイ隙間を持って嵌合し、ピン21とブッシュ11を同軸上に保持する。
【0023】
ピン21のテーパ面24はブッシュ11の第一テーパ面14に対して円錐面上で当接し、ピン21とブッシュ11を同軸上に保持するとともに、ピン21とブッシュ11が嵌合する軸方向の位置を規制する。
【0024】
各ボール26はピン21の第二フランジ面25に対して出没可能に埋め込まれ、図示しないバネを介して突出方向に付勢されるディテント機構を構成する。
【0025】
ブッシュ11の位置決め凹部12にピン21のクランプ軸22が差し込まれると、各ボール26はブッシュ11の第一テーパ面14と第二フランジ面15と第二テーパ面16に摺接し、第二フランジ面15を乗り越えて第二テーパ面16に押し当てられることにより、ブッシュ11に対してピン21が抜けないようにクランプする。
【0026】
そして本発明の要旨とするところであるが、ブッシュ11の位置決め凹部12の表面と、ピン21のクランプ軸22の表面にそれぞれ炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜30を形成する。
【0027】
ブッシュ11の位置決め凹部12の表面に形成されるDLCコーティング膜30は、第一フランジ面13と第一テーパ面14と第二フランジ面15と第二テーパ面16の各表面にそれぞれ形成される。
【0028】
ピン21のクランプ軸22の表面に形成されるDLCコーティング膜30は、第一フランジ面23とテーパ面24と第二フランジ面25の各表面にそれぞれ形成される。
【0029】
DLCコーティング膜30の厚さは、例えば数μ程度以下の寸法である。
【0030】
DLCコーティング膜30は、アンバランスマグネトロンスパッタ法(以下、「UBMスパッタ法」と称する)によって形成される。
【0031】
スパッタの原理は、図5に示すように、アルゴン等の不活性ガスを導入した真空中でターゲット41を陰極として陽極の間でグロー放電させてプラズマを形成し、このプラズマ中のイオンをターゲット41に衝突させてターゲット41の原子を弾き飛ばし、この原子をターゲット41と対向して配置されたワーク(ブッシュ11、ピン21)31上に堆積させて皮膜を形成するようになっている。
【0032】
UBMスパッタ法は、スパッタ蒸発源40a〜40dにターゲット41の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する磁場42,43が配置されて、プラズマを形成しつつ強力な磁場42により発生する磁力線の一部がワーク31の近傍に達し、ワーク31にバイアス電圧を印加することによって、ターゲット材41を構成する物質がワーク31上に堆積される。
【0033】
図6は、UBMスパッタ装置50の基本構成を示す。真空チャンバ51に4つのスパッタ蒸発源40a〜40dが設けられ、その中央に配置された自公転式ワークテーブル56上にワーク31が置かれ、ワーク31にコーティングが行われる。スパッタ蒸発源40a〜40dには皮膜材料となる平板状ターゲットが取り付けられる。真空チャンバ51にはアルゴン等の不活性ガスとメタンガス等の炭化水素ガスが所定量充填される。
【0034】
スパッタ蒸発源40a,40cにはターゲットとしてグラファイトを使用し、スパッタ蒸発源40b,40dにはターゲットとして金属を使用する。
【0035】
DLCコーティング膜30は、図4に示すように、ステンレス製ワーク31の表面にニッケルメッキ層61を形成し、このニッケルメッキ層61の表面にボンド層62、中間層63、トップ層64が順に積層して形成される。
【0036】
なお、DLCコーティング膜30の母材となるワーク1はステンレス材に限らず、他の金属や樹脂材を用いても良い。
【0037】
図7は、上記DLCコーティング膜30を形成するのにあたって、ターゲット出力が変化する様子を示している。
【0038】
ボンド層62は、金属ターゲット40b,40dのみをスパッタして、金属膜として形成される。このボンド層62を形成するのにあたって、図7に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を100%とし、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を0%と一定にして、所定時間だけスパッタが行われる。
【0039】
中間層63は、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットを同時にスパッタし、ターゲット出力を次第に変化させて金属と炭素の傾斜組成膜として形成される。この中間層63を形成するのにあたって、図7に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を100%から一次的に減少させる一方、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を0%から一次的に増加させて、所定時間だけスパッタが行われる。
【0040】
トップ層64は、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットを同時にスパッタし、ターゲット出力を略一定にしてスパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットのスパッタ率を所定範囲に保って、所定時間だけスパッタが行われる。
【0041】
このトップ層64を形成するのにあたって、図7に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を10%程度とし、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を90%程度と一定にして、トップ層64に含まれる金属の比率は3〜18%の範囲に設定する。さらに望ましくは、トップ層64に含まれる金属の比率を3〜12%の範囲に設定する。
【0042】
以上のように構成されて、次に作用について説明する。
【0043】
ステンレス製のワーク31の表面にニッケルメッキ層61を形成した後、金属の比率を100%にしたボンド層62を設けることにより、母材に対するDLCコーティング膜30の結合強度を高められる。
【0044】
金属の比率を100%にしたボンド層62上に金属の比率を次第に減らす金属と炭素の傾斜組成膜からなる中間層63を設け、中間層63の上に炭素を主成分とするトップ層64を設けることにより、DLCコーティング膜30におけるトップ層64の結合強度を高められる。
【0045】
トップ層64の金属の比率を3〜18%の範囲に設定することにより、トップ層64の密着性や靱性を高められ、高荷重によってワーク31が変形するような場合、割れや、剥離が生じることを防止できる。そして、トップ層64の硬度の低下を抑えられ、耐摩耗性を確保できる。
【0046】
図8にトップ層64に含まれる金属の比率と靱性及び硬度の関係を示すように、金属の比率を3〜18%の範囲に設定することにより、トップ層64の靱性と硬度の両方を高められる。さらにトップ層64に含まれる金属の比率を3〜12%の範囲に設定することにより、トップ層64の靱性と硬度の両方を著しく高められる。これにより、ワーク31の表面にDLCコーティング膜30を形成しても、DLCコーティング膜30の割れや剥離が生じることを回避し、実用化が可能となる。
【0047】
ブッシュ11の位置決め凹部12の表面と、ピン21のクランプ軸22の表面にそれぞれ高硬度のDLCコーティング膜30を形成する構造のため、摩擦係数が低い平滑なDLCコーティング膜30によってブッシュ11とピン21との摺接部に働く摩擦力を低減し、治具用クランプ装置3の作動を円滑にするとともに、この摺接部が摩耗することが抑えられ、治具用クランプ装置3の寿命延長がはかれる。これにより、治具本体1に対する治具パネル2の結合と取り外しが多く行われても、治具用クランプ装置3の位置決め精度が維持される。
【0048】
さらに、治具用クランプ装置3は潤滑油を供給しなくても円滑な作動性が確保されるため、無給油状態で作動させることが可能となる。この結果、治具用クランプ装置3から塵埃が発生することを回避し、例えばクリーンルーム内で使用することが可能となる。
【0049】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、例えば工作機械や他の機械に用いられる治具用クランプ装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態を示し、治具用クランプ装置の斜視図。
【図2】同じくブッシュの断面図。
【図3】同じくピンの側面図。
【図4】同じくDLCコーティング膜の断面図。
【図5】同じくスパッタ法の原理を示す説明図。
【図6】同じくUBMスパッタ装置の構成図。
【図7】同じくターゲット出力が変化する様子を示す特性図。
【図8】同じくトップ層に含まれる金属の比率と靱性及び硬度の関係を示す特性図。
【符号の説明】
【0052】
3 治具用クランプ装置
11 ブッシュ
12 位置決め凹部
21 ピン
22 クランプ軸
30 DLCコーティング膜
31 ワーク
40a〜40d スパッタ蒸発源
50 UBMスパッタ装置
61 メッキ層
62 ボンド層
63 中間層
64 トップ層
【技術分野】
【0001】
本発明は、着脱可能な嵌合によって治具の位置決め保持を行う治具用クランプ装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の治具用クランプ装置は、位置決め凹部を有するブッシュと、この位置決め凹部に嵌合するクランプ軸を有するピンとを備え、このピンのクランプ軸がブッシュの位置決め凹部に対して着脱可能に嵌合することによりピンとブッシュが互いに結合するようになっている。
【0003】
特許文献1には、歯車の位置決めと保持を行う治具用クランプ装置が開示されている。
【特許文献1】特開2004−291107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の治具用クランプ装置にあっては、治具の結合と取り外しが多く行われると、互いに摺接するブッシュの位置決め凹部とピンのクランプ軸の各表面が摩耗し、位置決め精度が維持できなくなるという問題点があった。
【0005】
また、治具用クランプ装置の摺接部に潤滑油を用いると上記の摩耗が抑えられるが、クリーンルーム等においてはこの潤滑油が塵埃を発生する可能性があるため、潤滑油を使用できない。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、潤滑油を介在させなくても位置決め精度を維持できる治具用クランプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、位置決め凹部を有するブッシュと、この位置決め凹部に嵌合するクランプ軸を有するピンとを備え、このピンのクランプ軸がブッシュの位置決め凹部に対して着脱可能に嵌合することによりピンとブッシュが互いに結合する治具用クランプ装置に適用する。
【0008】
そして、ブッシュの位置決め凹部とピンのクランプ軸の少なくとも一つの表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成したことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、治具用クランプ装置は、摩擦係数が低い平滑なDLCコーティング膜によってブッシュの位置決め凹部とピンのクランプ軸との摺接部に働く摩擦力を低減し、その作動を円滑にするとともに、この摺接部が摩耗することが抑えられ、その寿命延長がはかれる。これにより、治具用クランプ装置を介して治具の結合と取り外しが多く行われても、治具用クランプ装置の位置決め精度が維持される。
【0010】
さらに、治具用クランプ装置は潤滑油を介在させなくても円滑な作動性が確保されるため、無給油状態で作動させることが可能となる。この結果、治具用クランプ装置から塵埃が発生することを回避し、例えばクリーンルーム内で使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、工作機械を構成する治具本体1の両側面に対の治具パネル2が複数の治具用クランプ装置3を介して結合と取り外しが行われるようになっている。
【0013】
治具本体1に各治具パネル2を押し当てることにより、各治具用クランプ装置3を介して各治具パネル2が治具本体1に対して結合し、所定位置に固定支持される。
【0014】
治具本体1から各治具パネル2を引き離すことにより、各治具用クランプ装置3を介して各治具パネル2が治具本体1から取り外される。
【0015】
治具用クランプ装置3は、位置決め凹部12を有するブッシュ11と、この位置決め凹部12上に嵌合するクランプ軸22を有するピン21とを備え、このピン21のクランプ軸22がブッシュ11の位置決め凹部12に対して着脱可能に嵌合することによりピン21とブッシュ11が互いに結合する。
【0016】
図2に示すように、ブッシュ11は、位置決め凹部12が開口する円筒部10と、この円筒部10から環状に拡がるつば部17とを有する。このつば部17に複数のボルト穴18が形成され、ブッシュ11はその円筒部10を各治具パネル2のインロー部に嵌合させ、各ボルト穴18に挿通するボルトを介して各治具パネル2に締結される。この円筒部10の一端に円盤状の栓体19がはめ込まれている。
【0017】
ブッシュ11の位置決め凹部12は、位置決めをする部位として第一フランジ面13と第一テーパ面14を有し、クランプする部位として第二フランジ面15と第二テーパ面16を有する。
【0018】
第一フランジ面13と第二フランジ面15はブッシュ11の中心軸Oに対して並行に延びる。第一テーパ面14と第二テーパ面16は中心軸Oに対して傾斜して延びる。第一テーパ面14と第二テーパ面16は第二フランジ面15を挟むようにして環状に隆起する。
【0019】
図3に示すように、ピン21は治具本体1に接合するつば部27と、このつば部27の両側から突出する固定軸20とクランプ軸22とを有する。このつば部27に複数のボルト穴28が形成され、固定軸20の外周溝29にOリング5が介装される。ピン21は固定軸20を治具本体1のインロー部に嵌合させ、各ボルト穴28に挿通するボルトを介して各治具本体1に締結される。
【0020】
ピン21のクランプ軸22は位置決めをする部位として第一フランジ面23とテーパ面24を有し、クランプする部位として第二フランジ面25とボール26を有する。
【0021】
ピン21の第一フランジ面23と第二フランジ面25はピン21の中心軸Oに対して並行に延びる。テーパ面24は中心軸Oに対して傾斜して延びる。
【0022】
ピン21の第一フランジ面23はブッシュ11の第一フランジ面13に対して所定のハメアイ隙間を持って嵌合し、ピン21とブッシュ11を同軸上に保持する。
【0023】
ピン21のテーパ面24はブッシュ11の第一テーパ面14に対して円錐面上で当接し、ピン21とブッシュ11を同軸上に保持するとともに、ピン21とブッシュ11が嵌合する軸方向の位置を規制する。
【0024】
各ボール26はピン21の第二フランジ面25に対して出没可能に埋め込まれ、図示しないバネを介して突出方向に付勢されるディテント機構を構成する。
【0025】
ブッシュ11の位置決め凹部12にピン21のクランプ軸22が差し込まれると、各ボール26はブッシュ11の第一テーパ面14と第二フランジ面15と第二テーパ面16に摺接し、第二フランジ面15を乗り越えて第二テーパ面16に押し当てられることにより、ブッシュ11に対してピン21が抜けないようにクランプする。
【0026】
そして本発明の要旨とするところであるが、ブッシュ11の位置決め凹部12の表面と、ピン21のクランプ軸22の表面にそれぞれ炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜30を形成する。
【0027】
ブッシュ11の位置決め凹部12の表面に形成されるDLCコーティング膜30は、第一フランジ面13と第一テーパ面14と第二フランジ面15と第二テーパ面16の各表面にそれぞれ形成される。
【0028】
ピン21のクランプ軸22の表面に形成されるDLCコーティング膜30は、第一フランジ面23とテーパ面24と第二フランジ面25の各表面にそれぞれ形成される。
【0029】
DLCコーティング膜30の厚さは、例えば数μ程度以下の寸法である。
【0030】
DLCコーティング膜30は、アンバランスマグネトロンスパッタ法(以下、「UBMスパッタ法」と称する)によって形成される。
【0031】
スパッタの原理は、図5に示すように、アルゴン等の不活性ガスを導入した真空中でターゲット41を陰極として陽極の間でグロー放電させてプラズマを形成し、このプラズマ中のイオンをターゲット41に衝突させてターゲット41の原子を弾き飛ばし、この原子をターゲット41と対向して配置されたワーク(ブッシュ11、ピン21)31上に堆積させて皮膜を形成するようになっている。
【0032】
UBMスパッタ法は、スパッタ蒸発源40a〜40dにターゲット41の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する磁場42,43が配置されて、プラズマを形成しつつ強力な磁場42により発生する磁力線の一部がワーク31の近傍に達し、ワーク31にバイアス電圧を印加することによって、ターゲット材41を構成する物質がワーク31上に堆積される。
【0033】
図6は、UBMスパッタ装置50の基本構成を示す。真空チャンバ51に4つのスパッタ蒸発源40a〜40dが設けられ、その中央に配置された自公転式ワークテーブル56上にワーク31が置かれ、ワーク31にコーティングが行われる。スパッタ蒸発源40a〜40dには皮膜材料となる平板状ターゲットが取り付けられる。真空チャンバ51にはアルゴン等の不活性ガスとメタンガス等の炭化水素ガスが所定量充填される。
【0034】
スパッタ蒸発源40a,40cにはターゲットとしてグラファイトを使用し、スパッタ蒸発源40b,40dにはターゲットとして金属を使用する。
【0035】
DLCコーティング膜30は、図4に示すように、ステンレス製ワーク31の表面にニッケルメッキ層61を形成し、このニッケルメッキ層61の表面にボンド層62、中間層63、トップ層64が順に積層して形成される。
【0036】
なお、DLCコーティング膜30の母材となるワーク1はステンレス材に限らず、他の金属や樹脂材を用いても良い。
【0037】
図7は、上記DLCコーティング膜30を形成するのにあたって、ターゲット出力が変化する様子を示している。
【0038】
ボンド層62は、金属ターゲット40b,40dのみをスパッタして、金属膜として形成される。このボンド層62を形成するのにあたって、図7に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を100%とし、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を0%と一定にして、所定時間だけスパッタが行われる。
【0039】
中間層63は、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットを同時にスパッタし、ターゲット出力を次第に変化させて金属と炭素の傾斜組成膜として形成される。この中間層63を形成するのにあたって、図7に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を100%から一次的に減少させる一方、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を0%から一次的に増加させて、所定時間だけスパッタが行われる。
【0040】
トップ層64は、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットを同時にスパッタし、ターゲット出力を略一定にしてスパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットのスパッタ率を所定範囲に保って、所定時間だけスパッタが行われる。
【0041】
このトップ層64を形成するのにあたって、図7に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を10%程度とし、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を90%程度と一定にして、トップ層64に含まれる金属の比率は3〜18%の範囲に設定する。さらに望ましくは、トップ層64に含まれる金属の比率を3〜12%の範囲に設定する。
【0042】
以上のように構成されて、次に作用について説明する。
【0043】
ステンレス製のワーク31の表面にニッケルメッキ層61を形成した後、金属の比率を100%にしたボンド層62を設けることにより、母材に対するDLCコーティング膜30の結合強度を高められる。
【0044】
金属の比率を100%にしたボンド層62上に金属の比率を次第に減らす金属と炭素の傾斜組成膜からなる中間層63を設け、中間層63の上に炭素を主成分とするトップ層64を設けることにより、DLCコーティング膜30におけるトップ層64の結合強度を高められる。
【0045】
トップ層64の金属の比率を3〜18%の範囲に設定することにより、トップ層64の密着性や靱性を高められ、高荷重によってワーク31が変形するような場合、割れや、剥離が生じることを防止できる。そして、トップ層64の硬度の低下を抑えられ、耐摩耗性を確保できる。
【0046】
図8にトップ層64に含まれる金属の比率と靱性及び硬度の関係を示すように、金属の比率を3〜18%の範囲に設定することにより、トップ層64の靱性と硬度の両方を高められる。さらにトップ層64に含まれる金属の比率を3〜12%の範囲に設定することにより、トップ層64の靱性と硬度の両方を著しく高められる。これにより、ワーク31の表面にDLCコーティング膜30を形成しても、DLCコーティング膜30の割れや剥離が生じることを回避し、実用化が可能となる。
【0047】
ブッシュ11の位置決め凹部12の表面と、ピン21のクランプ軸22の表面にそれぞれ高硬度のDLCコーティング膜30を形成する構造のため、摩擦係数が低い平滑なDLCコーティング膜30によってブッシュ11とピン21との摺接部に働く摩擦力を低減し、治具用クランプ装置3の作動を円滑にするとともに、この摺接部が摩耗することが抑えられ、治具用クランプ装置3の寿命延長がはかれる。これにより、治具本体1に対する治具パネル2の結合と取り外しが多く行われても、治具用クランプ装置3の位置決め精度が維持される。
【0048】
さらに、治具用クランプ装置3は潤滑油を供給しなくても円滑な作動性が確保されるため、無給油状態で作動させることが可能となる。この結果、治具用クランプ装置3から塵埃が発生することを回避し、例えばクリーンルーム内で使用することが可能となる。
【0049】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、例えば工作機械や他の機械に用いられる治具用クランプ装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態を示し、治具用クランプ装置の斜視図。
【図2】同じくブッシュの断面図。
【図3】同じくピンの側面図。
【図4】同じくDLCコーティング膜の断面図。
【図5】同じくスパッタ法の原理を示す説明図。
【図6】同じくUBMスパッタ装置の構成図。
【図7】同じくターゲット出力が変化する様子を示す特性図。
【図8】同じくトップ層に含まれる金属の比率と靱性及び硬度の関係を示す特性図。
【符号の説明】
【0052】
3 治具用クランプ装置
11 ブッシュ
12 位置決め凹部
21 ピン
22 クランプ軸
30 DLCコーティング膜
31 ワーク
40a〜40d スパッタ蒸発源
50 UBMスパッタ装置
61 メッキ層
62 ボンド層
63 中間層
64 トップ層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置決め凹部を有するブッシュと、この位置決め凹部に嵌合するクランプ軸を有するピンとを備え、このピンのクランプ軸がブッシュの位置決め凹部に対して着脱可能に嵌合することによりピンとブッシュが互いに結合する治具用クランプ装置において、
前記位置決め凹部と前記クランプ軸の少なくとも一つの表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成したことを特徴とする治具用クランプ装置。
【請求項2】
前記表面にニッケルメッキ層を形成し、このニッケルメッキ層の表面に前記DLCコーティング膜を形成したことを特徴とする請求項1に記載の治具用クランプ装置。
【請求項3】
前記DLCコーティング膜は、前記表面に金属ターゲットのみをスパッタしてボンド層を形成し、このボンド層上に金属ターゲットとグラファイトターゲットを同時にスパッタしかつターゲット出力を次第に変化させることにより中間層を形成し、この中間層上に金属ターゲットとグラファイトターゲットを同時にスパッタしかつターゲット出力を略一定にすることにより金属の比率を3〜18%の範囲にしたトップ層を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の治具用クランプ装置。
【請求項1】
位置決め凹部を有するブッシュと、この位置決め凹部に嵌合するクランプ軸を有するピンとを備え、このピンのクランプ軸がブッシュの位置決め凹部に対して着脱可能に嵌合することによりピンとブッシュが互いに結合する治具用クランプ装置において、
前記位置決め凹部と前記クランプ軸の少なくとも一つの表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成したことを特徴とする治具用クランプ装置。
【請求項2】
前記表面にニッケルメッキ層を形成し、このニッケルメッキ層の表面に前記DLCコーティング膜を形成したことを特徴とする請求項1に記載の治具用クランプ装置。
【請求項3】
前記DLCコーティング膜は、前記表面に金属ターゲットのみをスパッタしてボンド層を形成し、このボンド層上に金属ターゲットとグラファイトターゲットを同時にスパッタしかつターゲット出力を次第に変化させることにより中間層を形成し、この中間層上に金属ターゲットとグラファイトターゲットを同時にスパッタしかつターゲット出力を略一定にすることにより金属の比率を3〜18%の範囲にしたトップ層を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の治具用クランプ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2006−247756(P2006−247756A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63691(P2005−63691)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】
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