説明

波長可変レーザ光源

【課題】高速な波長掃引ができ、かつ安定なレーザ発振を得ることができる波長可変レーザ光源を提供する。
【解決手段】波長可変レーザ光源の一実施態様は、レーザ発振する波長に対し利得を有するレーザ媒質と、前記レーザ媒質の出力側の光軸上に設けられた可変焦点レンズ手段と、前記可変焦点レンズ手段の出力側の光軸上に設けられた第1のミラーと、前記第1のミラーと対向した位置に設けられ、前記レーザ媒質を含む共振器を構成する第2のミラーとを備えた。前記可変焦点レンズ手段は、前記電気光学材料を透過した光の焦点距離を可変することができ、前記焦点距離が波長依存性を有することにより、前記レーザ媒質を含む共振器においてレーザ発振する光の波長を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変レーザ光源に関し、より詳細には、波長分散を有する可変焦点レンズを共振器内に配置した波長可変レーザ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
波長可変レーザ光源は、DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)光伝送などの光通信の分野、測定対象にレーザ光を照射して、透過、反射を分析する分析装置等に用いられている。
【0003】
波長可変レーザ光源を分析装置の光源として用いる場合には、高速で波長を変化させること、及び発振スペクトルの幅を狭くすることが必要である。例えば、光コヒーレントトモグラフィ(OCT:Optical Coherence Tomography)において、高速の波長走査が利用可能になると、高速の画像処理、血流観測、酸素飽和濃度の変化等の動的な解析が可能となるので、このようなレーザ光源が要求されている。
【0004】
図1に、従来のリトロー型波長可変レーザ光源を示す。外部共振器型波長可変レーザ光源の一例である(例えば、非特許文献1参照)。波長可変レーザ光源は、レーザ媒質11と、その出力側の光軸に配置されたコリメートレンズ12と、回折格子13とを備えている。レーザ媒質11からの出力光をコリメートレンズ12でコリメート化し、入射光14として回折格子13に入射させ、1次回折光15と0次回折光(レーザ出力光)16とを生じさせる。1次回折光15は、レーザ媒質11に帰還され、レーザ媒質11のレーザ媒質端面に施された高反射ミラー11aと回折格子13との間で共振器を形成する。
【0005】
このとき、1次回折光15と0次回折光(レーザ出力光)16とが出射される方向(回折角)は、波長依存性を有している。従って、回折格子13から入射光14の反対方向へ向かう波長成分の1次回折光15が、共振器においてレーザ発振する。回折格子13を回転させることによって、入射光14へ向かう1次回折光15の波長を変え、レーザ出力光の波長を変化させている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L. Ricci, et.al., ‘‘A compact grating-stabilized diode laser system for atomic physics,’’ Optics Communications, Vol.117, Issues 5-6, 15 June 1995, p. 541-549
【非特許文献2】J. E. Geusic, et.al., ‘‘ELECTRO-OPTIC PROPERTIES OF SOME ABO3 PEROVSKITES IN THE PARAELECTRIC PHASE,’’ Appl. Phys. Lett. Vol.4, No.8, p.141-143 (1964)
【非特許文献3】F. S. Chen, et.al., ‘‘Light Modulation and Beam Deflection with Potassium Tantalate-Niobate Crystals,’’ J. Appl. Phys. Vol.37, No.1, p.388-398 (1966)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のリトロー型波長可変レーザ光源は、波長掃引するために機械的に回折格子を回転させるため、出力波長を変化するのに要する速度に限界があり、広い波長域を高速に掃引することができないという問題があった。また、レーザ発振には精密な共振器長の制御が必要であるが、機械的な可動部分を含むため、安定なレーザ発振を継続的に実現するのにも問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、高速な波長掃引ができ、かつ安定なレーザ発振を得ることができる波長可変レーザ光源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、波長可変レーザ光源の一実施態様は、レーザ発振する波長に対し利得を有するレーザ媒質と、前記レーザ媒質の出力側の光軸上に設けられた可変焦点レンズ手段と、前記可変焦点レンズ手段の出力側の光軸上に設けられた第1のミラーと、前記第1のミラーと対向した位置に設けられ、前記レーザ媒質を含む共振器を構成する第2のミラーとを備え、前記可変焦点レンズ手段は、反転対称性を有する電気光学材料と、該電気光学材料の内部に電界を印加するための2つ以上の電極とを含み、前記電極への印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過した光の焦点距離を可変することができ、前記焦点距離が波長依存性を有することにより、前記レーザ媒質を含む共振器においてレーザ発振する光の波長を選択できることを特徴とする。
【0010】
前記可変焦点レンズ手段は、前記電気光学材料の光の入射面と光の出射面とに、前記電極が形成され、前記光を前記入射面の電極が形成されていない空隙から入射し、前記出射面の電極が形成されていない空隙から出射するように光軸を設定し、前記入射面の電極から前記出射面の電極に向かう電気力線の一部が、前記空隙で屈曲し、前記光軸を中心に前記光が透過する部分の電界を変化させ、前記入射面の電極と前記出射面の電極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過した光の焦点を可変することを特徴とする。
【0011】
前記可変焦点レンズ手段は、前記電気光学材料の第1の面上に形成された第1の陽極と、前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の陽極と向かい合う位置に形成された第1の陰極と、前記第1の面上に形成され、前記第1の陽極とは間隔をおいて配置された第2の陰極と、前記第2の面上に形成され、前記第2の陰極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の陽極とを備え、前記第1の面と直交する第3の面から光を入射させたとき、前記第1の陽極および前記第1の陰極からなる第1の電極対の間を透過してから、前記第2の陽極および前記第2の陰極からなる第2の電極対の間を透過して、前記第3の面に対向する第4の面から光が出射するように光軸が設定され、前記第1および第2の電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第4の面から出射された光の焦点を可変することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、電気光学効果を利用することにより、従来の可変焦点レンズと比較して、はるかに高速な応答速度を得ることができる。また、レーザ共振器内に、回転する回折格子のような可動部品がないため、安定したレーザ発振を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来のリトロー型波長可変レーザ光源を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態にかかる波長可変レーザ光源の構成を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図4】KTN結晶の屈折率の波長依存性を示す図である。
【図5】第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの焦点距離の波長依存性を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態にかかる波長可変レーザ光源の構成を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態にかかる波長可変レーザ光源の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図2に、本発明の第1の実施形態にかかる波長可変レーザ光源の構成を示す。波長可変レーザ光源は、レーザ媒質21と、その出力側の光軸に配置された第1の可変焦点レンズ22と、半波長板23と、第2の可変焦点レンズ24と、出力ミラー25(第1のミラー)とを備えている。第1の可変焦点レンズ22は、x軸方向の偏光に対してx軸方向に焦点を可変することができ、第2の可変焦点レンズ24は、y軸方向の偏光に対してy軸方向に焦点を可変することができる。レーザ媒質21と第1の可変焦点レンズ22との間、第2の可変焦点レンズ24と出力ミラー25との間の片方もしくは両方に、光ビームを整形するためのレンズを配置しても構わない。
【0016】
レーザ媒質21からの出力光26は、2つの可変焦点レンズを経て出力ミラー25に入力され、一部の光がレーザ媒質21の方向への反射光27となり、残りの光がレーザ出力光28となる。反射光27は、レーザ媒質21の端面に施された高反射ミラー21a(第2のミラー)と出力ミラー25との間で形成される共振器内を往復する。なお、高反射ミラー21aの代わりに、レーザ媒質21の端面から離れた位置に、第2のミラーを配置してもよい。第1のミラーと、対向した位置に設けられた第2のミラーとのに間にレーザ媒質21を含む共振器を構成することができればよい。
【0017】
最初に、可変焦点レンズによるレーザ出力波長の選択について説明する。上述した共振器内でレーザ発振するためには、出力光26が平行光となって出力ミラー25に達し、反射光27が平行光となって可変焦点レンズへ折り返されればよい。従って、出力ミラー25は平面ミラーである。出力光26を平行光とする可変焦点レンズの焦点が波長依存性を有する場合には、特定の波長のみが平行光となり、共振器内でレーザ発振する。その他の波長の光29は、平行光とならず、可変焦点レンズへ折り返されないので、レーザ発振しない。可変焦点レンズの焦点距離を変化させることにより、平行光となる波長が変化するので、共振器内でレーザ発振する光の波長を選択することができる。
【0018】
第1の可変焦点レンズ22は、x軸方向の偏光に対してx軸方向のみに集光作用を有し、第2の可変焦点レンズ24は、y軸方向の偏光に対してy軸方向のみに集光作用を有する。半波長板23は、x軸方向の偏光をy軸方向の偏光に変換するので、第1の可変焦点レンズ22、半波長板23、第2の可変焦点レンズ24の組み合わせによって偏光に依存しない球面レンズとして機能する。可変焦点レンズには、電気光学効果に波長依存性を有する電気光学結晶を用いる。屈折率と電気光学効果に波長依存性を有する電気光学結晶を用いると、可変焦点レンズの焦点距離が波長依存性を有することを説明する。
【0019】
図3に、本発明の第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。電気光学材料を板状に加工した基板31の上面(光の入射面)および下面(光の出射面)に、それぞれ1対の入射面電極32a,32bおよび出射面電極33a,34bが形成されている。入射面電極32a,32bの各々は等しい電位とし、出射面電極33a,33bの各々も等しい電位とする。入射光34は、同電位の電極対の間の空隙を通過し、出射光35として透過するように、z軸方向に光軸を設定する。
【0020】
入射面電極32a,32bのそれぞれは、光が透過する空隙を挟んで対向する辺がy軸に平行となるように形成されている。出射面電極33a,33bも、光が透過する空隙を挟んで対向する辺がy軸に平行となるように形成されている。出射面電極33a,33bの対向する辺の位置は、x軸方向において入射面電極32a,32bの対向する辺と一致、すなわち基板31を挟んで一致している。電圧を入射面電極32から出射面電極対33へ、またはその逆に印加することができる。
【0021】
本実施形態の可変焦点レンズにおいては、電気光学効果の中でも、電界の自乗に比例した屈折率変調が起こる、2次の電気光学効果(カー効果)を有する材料が好適である。カー効果の場合は、x軸方向の屈折率分布Δnxは、電界成分Exの符号に依存しないので、レンズとして好適な左右対称形になるからである。一方、ポッケルス効果の場合は、屈折率変調は電界の1乗に比例し、電界成分Exによる屈折率変化は左右対称とならないため、レンズとしてうまく機能しない。
【0022】
多くの電気光学材料は、反転対称性を有しておらず、ポッケルス効果を発現する。これに対して、一部の電気光学材料は、反転対称性を有しており、ポッケルス効果を発現せず、カー効果が支配的となる。従って、本実施形態の電気光学材料としては、反転対称性を有する材料を用いることが重要である。
【0023】
反転対称性を有する電気光学材料としては、ペロブスカイト型の結晶構造を有する単結晶材料が好適である。ペロブスカイト型単結晶材料は、使用温度を適切に選択すれば、使用状態において立方晶相となり、この立方晶相でのカー効果が大きいためである。例えば、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbx3、以下KTNという)を主成分とする単結晶材料は、より好適な特徴を有する。KTNは、主としてタンタルとニオブの組成比により、相転移温度を選択することができる。これにより、室温付近に相転移温度を設定することができる。KTNでカー効果を利用するためには、相転移温度よりも高い温度に使用温度を設定して、立方晶相の状態で使用する必要がある。同じ立方晶相にあっても、より相転移温度に近い方が、電気光学効果が圧倒的に大きくなる。このため、室温付近に相転移温度を設定することは、大きなカー効果を簡便に実現する上で、非常に重要である。
【0024】
さらに、KTNに関連する単結晶材料として、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含む材料を用いることができる。また、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、例えばリチウム、またはIIa族の1または複数種を含むこともできる。例えば、立方晶相のKLTN(K1-yLiyTa1-xNbx3、0<x<1、0<y<1)結晶を用いることもできる。
【0025】
図3の構成において、偏光は、光電界の向きがx軸方向とする。レンズの特性は、基板31を透過することによって光が受ける光路長変調によって表される。光路長変調Δsとは、電気光学材料を透過する間の経路にわたって、屈折率変調を積分したものである。屈折率変調をΔnxとする。本実施形態にかかる可変焦点レンズは、z軸方向に光が伝搬するので、光路長変調Δsは、
【0026】
【数1】

【0027】
となり、zには依存せずxのみの関数となる。すなわち、光を集散させるx軸方向でのみ変化し、y軸方向には変化しない。光電界の向きがx軸方向のとき、光が感じる屈折率変調Δnxは、
【0028】
【数2】

【0029】
である。ここで、n0は電圧を印加しないときの屈折率である。s11とs12は2次の電気光学係数であり、Ex,Ezは印加電圧による電界のx成分、z成分である。
【0030】
図3に示した可変焦点レンズにおいて、電極に電圧を印加すると、電極の間を結ぶ電気力線の一部が、前記電気光学材料の内部で屈曲することにより光が透過する部分の電界が変化させられる。印加電圧による電界は電極付近で強く、電極から離れるにつれて弱くなる。つまり、電極付近で大きく屈折率が変化し、結晶中央付近での屈折率変化は相対的に小さくなる。電気光学材料としてKTNを用いた場合には、屈折率が小さくなるように変化するので、光電界がx軸方向に向いている場合の光路長は、結晶中央付近に較べて電極付近で短くなる。すなわち、凸レンズとして機能する。
【0031】
さて、非特許文献2には、g11とg12の波長依存性について記載されている。ここで、sijとgijの間には、立方晶相における誘電率をεとしたとき、
ij=gijε2
という関係がある。また、非特許文献3には、n0の波長依存性について記載されている。従って、式(2)において、n0、s11、s12は波長依存性を有するので、光路長変調Δsが波長依存性を有する。
【0032】
図4に、KTN結晶の屈折率の波長依存性を示す。非特許文献3に記載されているKTN結晶の屈折率の波長依存性を、波長1.2〜1.4μmの範囲で示している。KTN結晶は、長波長になるにつれて屈折率が小さくなることを示している。また、非特許文献2には、s11、s12も同様に長波長になるにつれて小さくなると記載されている。従って、光路長変調Δsは、長波長になるにつれて大きくなる。本実施形態の可変焦点レンズの焦点距離fは、光路長変調分布を2次曲線でフィッティングすることにより、一般的なレンズの光路長変調分布と対応させて求めることができる。光路長変調Δsの絶対値が大きく光路長変調分布の変化が急峻であれば、レンズの焦点距離fは短くなる。本実施形態では、光路長変調Δsが負のため、長波長になるにつれてΔsの絶対値が小さくなり、レンズの焦点距離fは長くなる。
【0033】
図5に、第1の実施形態にかかる可変焦点レンズの焦点距離の波長依存性を示す。波長1.2〜1.4μmの範囲で、焦点距離は、規格化して示してある。焦点距離が1となる波長の光を、図2に示した波長可変レーザ光源の出力光26とすると、可変焦点レンズを経て平行光となり、共振器内で共振できるものとする。可変焦点レンズの電極対に印加する電圧がV1のとき、可変焦点レンズは特定の波長1.2μmの光のみを平行光とし、この波長のみが共振器内において共振する。印加電圧V1のとき、その他の波長の光についてはより長い焦点距離であるので、平行光とならず、共振することができない。
【0034】
電極へ印加する電圧を変化させることにより、焦点距離が1となる波長が変化するので、平行光に変換されて共振器内で共振する光の波長を変化させることができる。長波長になるにつれて可変焦点レンズの焦点距離は長くなるので、より高い電圧を印加することにより、より長波長の光を平行光に変換して、共振させることができる。印加電圧を変更し、焦点距離を変化させて波長の選択を行うのに、応答時間は1μs以下であり、従来の可動部品を用いる構成に比べて非常に高速である。また、可動部分を含む場合に問題となる共振器長の変動を回避することができる。
【0035】
電気光学材料に高い電圧を印加すると、電極から電荷が注入され、結晶内に空間電荷が発生しうる。この空間電荷により電圧の印加方向に電界の大きさの傾斜が生じるために、屈折率の変調にも傾斜が生じる。従って、電気光学材料をレンズとして機能させるための所望の屈折率分布を得るため、または、電気光学材料を透過する光が偏向しないようにするためには、基板1に電圧を印加した際に、基板1の内部に空間電荷が形成されない方がよい。
【0036】
空間電荷の量は、キャリアの注入効率に依存する量であるため、電極から注入されるキャリアの注入効率は小さい方がよい。電気光学材料において電気伝導に寄与するキャリアが電子の場合には、電極材料の仕事関数が大きくなるにつれて、電極と基板との間はショットキー接合に近づき、キャリアの注入効率は減少する。従って、電極は、電気光学材料とショットキー接合が形成される材料であることが好ましい。具体的には、電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが電子の場合には、電極材料の仕事関数は、5.0eV以上であることが好ましい。例えば、仕事関数が5.0eV以上の電極材料として、Co(5.0)、Ge(5.0)、Au(5.1)、Pd(5.12)、Ni(5.15)、Ir(5.27)、Pt(5.65)、Se(5.9)を用いることができる。()内は仕事関数を示し、単位はeVである。
【0037】
一方、電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが正孔の場合には、正孔の注入を抑えるために、電極材料の仕事関数は、5.0eV未満であることが好ましい。例えば、仕事関数が5.0eV未満の電極材料として、Ti(3.84)等を用いることができる。なお、Tiの単層電極は酸化して高抵抗になるので、一般的には、Ti/Pt/Auを順に積層した電極を用いて、Tiの層と電気光学材料とを接合させる。さらに、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnOなどの透明電極を用いることもできる。
【0038】
図6に、本発明の第2の実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。電気光学材料を板状に加工した基板41の上面(第1の面)および下面(第2の面)に、帯状の電極4つが形成されている。光の入射側の上部電極として陽極42(第1の陽極)、基板41を挟んで下部電極として陰極43(第1の陰極)が配置されている。さらに、これら電極対とは間隔を置き、光の出射側にもう一対の電極が配置されおり、上部電極が陰極44(第2の陰極)であり、下部電極が陽極45(第2の陽極)である。帯状の4つ電極は、長手方向の辺がすべて平行となる形状を有している。
【0039】
光は、電極を配置した面と直交する面(第3の面)から入射され、基板41の内部をx軸方向に進行し、陽極42と陰極43の間を、これらの帯状電極の長手方向とは垂直な方向に透過する。次いで、陰極44と陽極45との間を透過してから、入射した面と対向する面(第4の面)から空気中へと出射するように設定する。
【0040】
このような構成において、陽極と陰極との間に電圧を印加する。光の入射側の電極対と光の出射側の電極対とは、電圧をかける向き(z軸方向)が互いに逆になっている。陽極42と陽極45との電位は異なっていてもよく、陰極43と陰極44の電位も同様である。なお、陽極42,45の低いほうの電位は、陰極43,44の高いほうの電位よりも高くなるように設定する。
【0041】
このとき、これら電極の間には電界の分布が発生し、基板41の有する電気光学効果によって屈折率が変調される。屈折率の変調された部分を光が透過する時、この屈折率分布によって光は屈曲させられ、その結果、光は集光あるいは発散させられる。集光される場合、図6の構造によれば、シリンドリカル凸レンズとして機能し、発散される場合は、シリンドリカル凹レンズとして機能する。また、印加する電圧によって光の屈曲の度合いが変化するので、焦点距離を電圧によって制御することができる。
【0042】
このような可変焦点レンズを、図2に示した波長可変レーザ光源の第1の可変焦点レンズ22および第2の可変焦点レンズ24として用いることができる。
【0043】
図7に、本発明の第2の実施形態にかかる波長可変レーザ光源の構成を示す。図7(a)の波長可変レーザ光源は、レーザ媒質51と、その出力側の光軸に配置された第1の可変焦点レンズ52と、半波長板53と、第2の可変焦点レンズ54と、出力ミラー55とを備えている。第1の可変焦点レンズ52は、x軸方向の偏光に対してx軸方向に焦点を可変することができ、第2の可変焦点レンズ54は、y軸方向の偏光に対してy軸方向に焦点を可変することができる。レーザー媒質51からの出力光56は、第1の可変焦点レンズ52から出力された後、x軸方向に対して平行光とならず拡がっていく。同様に第2の可変焦点レンズ54から出力ミラー55に向かう光は、y軸方向に対して平行光とならず拡がっていく。また、半波長板53は、第1の実施形態と同様、x軸(y軸)方向の偏光をy軸(x軸)方向の偏光に変換する。図3または図6に記載した可変焦点レンズを用いることができる。
【0044】
出力ミラー55(第1のミラー)は、凹面ミラーであり、反射光に対して凹レンズの機能を有する。レーザ媒質51からの出力光56は、2つの可変焦点レンズを経て出力ミラー55に入力され、一部の光がレーザ媒質51の方向への反射光57となり、残りの光がレーザ出力光58となる。上述したように、第1のミラーと、対向した位置に設けられた第2のミラーとのに間にレーザ媒質51を含む共振器を構成する。本実施形態では、レーザ媒質51の端面に高反射ミラーを形成した。反射光57が、出力光56と同じ経路を経てレーザ媒質51に戻るように、可変焦点レンズの焦点距離を調整すれば、共振器内でレーザ発振する光の波長を変化させることができる。
【0045】
図7(b)の波長可変レーザ光源は、レーザ媒質61と、その出力側の光軸に配置された第1の可変焦点レンズ62と、半波長板63と、第2の可変焦点レンズ64と、出力ミラー65とを備えている。レーザ媒質61からの出力光は、第1の可変焦点レンズ62から出力された後、x軸方向に対して平行光とならず収束していく。同様に第2の可変焦点レンズ64から出力ミラー65に向かう光は、y軸方向に対して平行光とならず収束していく。出力ミラー65は、凸面ミラーであり、反射光に対して凸レンズの機能を有する。図7(a)の波長可変レーザ光源と同じく、可変焦点レンズの焦点距離を変化させることにより、レーザ発振する光の波長を変化させることができる。
【0046】
図8に、本発明の第3の実施形態にかかる波長可変レーザ光源の構成を示す。図8(a)はyz平面から見た構成であり、図8(b)はxz平面から見た構成を示す。波長可変レーザ光源は、レーザ媒質71と、その出力側の光軸に配置された第1の可変焦点レンズ72と、出力ミラー75とを備えている。第1の可変焦点レンズ72は、y軸方向の偏光に対してy軸方向に焦点を可変することができる。図3または図6に記載した可変焦点レンズを用いることができる。出力ミラー75は、シリンドリカルミラーであり、x軸方向に対して焦点を有している。図7の波長可変レーザ光源と同じく、出力ミラー75で反射された光が、出力ミラー75に入射される光と同じ経路を経てレーザ媒質71に戻るように可変焦点レンズの焦点距離を変化させることにより、レーザ発振する光の波長を変化させることができる。
【符号の説明】
【0047】
21,51,61,71 レーザ媒質
22,52,62,72 第1の可変焦点レンズ
23,53,63 半波長板
24,54,64 第2の可変焦点レンズ
25,55,65,75 出力ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振する波長に対し利得を有するレーザ媒質と、
前記レーザ媒質の出力側の光軸上に設けられた可変焦点レンズ手段と、
前記可変焦点レンズ手段の出力側の光軸上に設けられた第1のミラーと、
前記第1のミラーと対向した位置に設けられ、前記レーザ媒質を含む共振器を構成する第2のミラーとを備え、
前記可変焦点レンズ手段は、反転対称性を有する電気光学材料と、該電気光学材料の内部に電界を印加するための2つ以上の電極とを含み、前記電極への印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過した光の焦点距離を可変することができ、
前記焦点距離が波長依存性を有することにより、前記レーザ媒質を含む共振器においてレーザ発振する光の波長を選択できることを特徴とする波長可変レーザ光源。
【請求項2】
前記可変焦点レンズ手段は、一軸方向の偏光に対して焦点を可変することができる第1の可変焦点レンズを含み、前記第1のミラーは、シリンドリカルミラーであることを特徴とする請求項1に記載の波長可変レーザ光源。
【請求項3】
前記可変焦点レンズ手段は、第1の軸方向の偏光に対して焦点を可変することができる第1の可変焦点レンズと、前記第1の軸と直交する第2の軸方向の偏光に対して焦点を可変することができる第2の可変焦点レンズと、前記第1の可変焦点レンズと前記第2の可変焦点レンズとの間に挿入された半波長板とを含み、前記第1のミラーは、凹面ミラーまたは凸面ミラーであることを特徴とする請求項1に記載の波長可変レーザ光源。
【請求項4】
前記可変焦点レンズ手段は、前記第1の軸方向および前記第2の軸方向のいずれか一方を平行光に変換し、前記第1のミラーは、凹面ミラーまたは凸面ミラーに代えてシリンドリカルミラーであることを特徴とする請求項3に記載の波長可変レーザ光源。
【請求項5】
前記可変焦点レンズ手段は、前記第1の軸方向および前記第2の軸方向に平行光に変換し、前記第1のミラーは、凹面ミラーまたは凸面ミラーに代えて平面ミラーであることを特徴とする請求項3に記載の波長可変レーザ光源。
【請求項6】
前記可変焦点レンズ手段は、前記電気光学材料の光の入射面と光の出射面とに、前記電極が形成され、
前記光を前記入射面の電極が形成されていない空隙から入射し、前記出射面の電極が形成されていない空隙から出射するように光軸を設定し、
前記入射面の電極から前記出射面の電極に向かう電気力線の一部が、前記空隙で屈曲し、前記光軸を中心に前記光が透過する部分の電界を変化させ、
前記入射面の電極と前記出射面の電極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過した光の焦点を可変することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の波長可変レーザ光源。
【請求項7】
前記可変焦点レンズ手段は、
前記電気光学材料の第1の面上に形成された第1の陽極と、
前記第1の面に対向する第2の面上に形成され、前記第1の陽極と向かい合う位置に形成された第1の陰極と、
前記第1の面上に形成され、前記第1の陽極とは間隔をおいて配置された第2の陰極と、
前記第2の面上に形成され、前記第2の陰極と向かい合う位置に形成され、前記第1の陰極とは間隔をおいて配置された第2の陽極とを備え、
前記第1の面と直交する第3の面から光を入射させたとき、前記第1の陽極および前記第1の陰極からなる第1の電極対の間を透過してから、前記第2の陽極および前記第2の陰極からなる第2の電極対の間を透過して、前記第3の面に対向する第4の面から光が出射するように光軸が設定され、
前記第1および第2の電極対の間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料の前記第4の面から出射された光の焦点を可変することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の波長可変レーザ光源。
【請求項8】
前記電気光学材料は、ペロブスカイト型単結晶材料であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の波長可変レーザ光源。
【請求項9】
前記電気光学材料は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbx3)であることを特徴とする請求項8に記載の波長可変レーザ光源。
【請求項10】
前記電気光学材料は、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8に記載の波長可変レーザ光源。
【請求項11】
前記電気光学材料は、さらに、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、例えばリチウム、またはIIa族の1または複数種を含むことを特徴とする請求項10に記載の波長可変レーザ光源。
【請求項12】
前記電極は、前記電気光学材料とショットキー接合が形成される材料であることを特徴とする請求項8ないし11のいずれかに記載の波長可変レーザ光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−4514(P2012−4514A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141066(P2010−141066)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】