説明

注型成形金型、並びに成形品の製造方法

【課題】リブを備えた成形品であってもリブに発生するヒケを抑制可能な注型成形金型、並びに成形品の製造方法を提供することである。
【解決手段】注型成形金型1は、裏面型2と表面型3を有し、成形キャビティ4を有している。成形キャビティ4は、裏面型2と表面型3とが合わさって形成される空間であり、成形品30を成形可能なものである。注型成形金型1は、温度調節手段10を内蔵している。温度調節手段10は、表面側温度調節手段11と、裏面側温度調節手段12と、リブ側温度調節手段13との3系統に区分されている。表面側温度調節手段11は、成形品30の表面31に各々相当する位置の温度を制御可能である。裏面側温度調節手段12は、成形品30の裏面32に相当する位置の温度を制御可能である。リブ側温度調節手段13は、成形品30のリブ33に相当する位置の温度を制御可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注型成形金型、並びに成形品の製造方法に関し、さらに詳細には、リブを備えた成形品を成形可能な注型成形金型、並びに成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂製の浴槽やキッチンカウンタ等の大型の成形品において、強度を増すことを目的として、成形品の一部に畝状の隆起部であるリブを設けることが知られている。リブを備えた成形品は、例えば、図3(a)〜(d)の順番で示す製造方法で成形される。なお、図3(a)〜(d)において、注型成形金型101、並びに硬化前の合成樹脂110については、説明の都合上、ハッチングを省略し、硬化した箇所を表現する手段としてハッチングを用いている。
【0003】
図3(a)に示す注型成形金型101では、表面型103と裏面型102が合わさって形成された成形キャビティ104に、合成樹脂110が充填される。そして、表面型103を高温で加熱し、成形品130の表面131側から硬化させる。一方、裏面型102は、成形品130の裏面132側が硬化しない程度の低温に維持する。この時、表面型103は図示しないエアバッグ装置で裏面型102側に押圧されており、成形キャビティ104に充填された合成樹脂110にも均等に成形圧力が加わっている。これは、硬化時に生じる合成樹脂110の硬化収縮成分(熱応力)を、未硬化の裏面132側の合成樹脂110に加わっている成形圧力で補うことにより、成形不良が生じることを防ぐためである。
【0004】
図3(b)では、図3(a)で示した表面型103の加熱に加え、裏面型102も高温で加熱し、成形品130の裏面132側とリブ133も硬化させる。その結果、図3(c)に示すように、リブ133において中心部120以外の周囲121が先に硬化してしまう。換言すれば、リブ133の中心部120は未硬化の状態である。これは、リブ133が厚肉であり、熱が伝わり難いためである。この状態では、合成樹脂110に加わっていた成形圧力が、硬化した周囲121によって遮断されてしまい、中心部120に届かない。
【0005】
そのため、図3(d)に示すように、成形圧力が加わらない中心部120が硬化すると、硬化収縮によってリブ133の表面に、ヒケ140と呼ばれるへこみや窪みが生じてしまう。このように、リブ133(厚肉部)を有する成形品130の成形では、注型成形金型101の温度管理が難しく、不具合が出難い成形条件を見つけることに手間が掛かる。
【0006】
特許文献1には、厚肉部を有する樹脂成形品の成形方法が開示されている。特許文献1に開示された厚肉部を有する樹脂成形品の成形方法では、厚肉部を成形する成形キャビティ内に、占有部材と呼ばれる芯部材を置くことで、樹脂充填空間を低減し、厚肉部の硬化収縮を低減できるとされている。つまり、厚肉部にいわゆる上げ底部材を仕込むことで、見た目は厚肉部としながらも、実際に硬化させる樹脂量を薄肉部と同等としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−117067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に記載された成形方法では、厚肉部を成形する成形キャビティ内に置いた占有部材が、樹脂を流し込んだ際に位置ズレを起こすことや転倒することが懸念される。位置がズレた占有部材や転倒した占有部材では、狙った通りの薄肉部を形成することができず、ヒケが生じる恐れがある。
【0009】
そこで、本発明は、リブを備えた成形品であってもリブに発生するヒケを抑制可能な注型成形金型、並びに成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、リブを備えた成形品を成形可能な注型成形金型において、成形キャビティと温度調節手段を有し、該成形キャビティは前記成形品の外形と略同一形状の空間を有し、該注型成形金型の一部を押圧すると成形キャビティを加圧可能であり、該温度調節手段は成形キャビティにおける成形品の表面と裏面とリブのそれぞれに独立して設けられ相当する位置の温度を個別に独立して調節可能であることを特徴とする注型成形金型である。
【0011】
本発明で採用する注型成形金型は、成形キャビティにおける成形品の表面と裏面とリブのそれぞれに相当する位置の温度を個別に独立して調節可能な温度調節手段が、成形品の表面と裏面とリブのそれぞれに独立して設けられている。つまり、成形品の表面と裏面とリブを硬化させるタイミングを、それぞれ制御可能である。例えば、厚肉部のリブを先に加熱して硬化させる。この時、成形キャビティ内の合成樹脂は、加圧して成形圧力が印加された状態とし、裏面は低温としておく。つまり、リブを裏面よりも先に硬化させることで、リブに生じる硬化収縮成分を、未硬化の樹脂に加わっている成形圧力によって補うことができる。その結果、リブにヒケが生じることを抑制できる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の注型成形金型を用いた成形品の製造方法であって、前記成形キャビティに合成樹脂を注入し、成形キャビティ内にある合成樹脂を加圧し、成形キャビティにおける成形品のリブに相当する位置を、裏面に相当する位置よりも高温に加熱して、リブとなる合成樹脂を硬化させることを特徴とする成形品の製造方法である。
【0013】
本発明で採用する成形品の製造方法は、前述で示したヒケを防止できる手順例を具体的な製造方法としたものである。本成形品の製造方法では、リブに相当する位置の温度を、裏面に相当する位置よりも高温とすることを条件としている。そのため、表面に相当する位置側については特に温度条件を決めてはいないが、例えば、リブとなる合成樹脂と同時に表面となる合成樹脂も加熱して硬化させた場合、リブと表面の間に位置する裏面を未硬化とすることで、両側に生じる熱応力を逃がすことができる。すなわち、成形品の硬化に掛かる時間を短縮可能であり、リブを備えた成形品の製造に好適である。ここで、表面、裏面の用語は特定の部分を示すものではなく、一方、他方の意味である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リブを備えた成形品であってもリブに発生するヒケを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る注型成形金型を示す断面図である。
【図2】本発明の成形品の製造方法を示す断面図であり、(a)は表面型と裏面型のリブ近傍を加熱した状態、(b)は裏面型における成形品の裏面側も加熱した状態、(c)は成形品が硬化した状態である。
【図3】従来の成形品の製造方法を示す断面図であり、(a)は表面型を高温に加熱した状態、(b)は裏面型も高温に加熱した状態、(c)は未硬化の樹脂層がリブの中心部に残った状態、(d)はリブの表面にヒケが生じた状態である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の注型成形金型、並びに成形品の製造方法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明は、実施形態の理解を容易にするためのものであり、これによって、本発明が制限して理解されるべきではない。
【0017】
図1に示す注型成形金型1は、裏面型2と表面型3を有している。図1において、裏面型2、表面型3は、説明の都合上、ハッチングの図示を省略している。裏面型2と表面型3の間には、成形キャビティ4が形成されている。成形キャビティ4は、裏面型2と表面型3とが合わさって形成される空間であり、後述する成形品30を成形可能なものである。裏面型2と表面型3は、成形キャビティ4側に電鋳層8,9をそれぞれ有している。電鋳層8,9は、ニッケルで構成することが好ましく、電鋳層8,9以外の裏面型2と表面型3については、断熱層としてFRP(ガラス繊維強化プラスチック)で構成することが好ましい。
【0018】
表面型3の表面6は、成形品30の表面31に相当する位置である。一方、裏面型2の底面5は、成形品30の裏面32に相当する位置である。
【0019】
さらに、底面5の一部には凹部7が設けられている。凹部7は溝形状であり、成形品30のリブ33に相当する位置である。リブ33は、底面5の延長線上に位置する根元Nから先端側にかけて先細りとなっている。なお、リブ33の根元Nの幅Wは、成形品30の厚みに相当する成形キャビティ4の厚みHよりも小さいことが好ましい。これは、一般的に、成形品にリブを設けるとヒケが発生し易いという経験則に基づくものである。
【0020】
注型成形金型1は、温度調節手段10を内蔵している。温度調節手段10は、表面側温度調節手段11と、裏面側温度調節手段12と、リブ側温度調節手段13との3系統に区分されている。表面側温度調節手段11は、表面型3の表面6の近傍に位置しており、成形品30の表面31に相当する位置の温度を制御可能である。裏面側温度調節手段12は、裏面型2の底面5の近傍に位置しており、成形品30の裏面32に相当する位置の温度を制御可能である。リブ側温度調節手段13は、裏面型2の凹部7の近傍に位置しており、成形品30のリブ33に相当する位置の温度を制御可能である。
【0021】
温度調節手段10は配管15を有しており、図示しないポンプと加熱装置で配管15内に流す流体の温度を調節することで、注型成形金型1の温度を制御可能である。裏面側温度調節手段12並びにリブ側温度調節手段13において、リブ33の根元Nの近傍については、根元Nから所定の距離Xだけ空けて、配管15を設けることが好ましい。これは、成形時において、リブ33の根元N側が先に硬化してしまい、未硬化の部分がリブ33内に残留してしまうことを防止するためである。距離Xは、15〜30mm程度であることが好ましい。また、配管15の直径Aは、5〜15mm程度であることが好ましい。
【0022】
異なった実施形態として、裏面側温度調節手段12を分岐し流量調節手段を設けた配管をリブ33の根元に設け(図示せず)、成形条件変更、材料変更等に対応せしめて流量調整を行うことは望ましいことである。そして、成形条件変更、材料変更に対応せしめて流量調整を行うために温度調節する配管は他の配管より径の小さい配管を設置することが望ましい。
【0023】
なお、配管15は、銅で構成することが好ましく、電鋳層8,9にはんだ等で接合することが好ましい。
【0024】
つぎに、本発明の実施形態に係る成形品30の製造方法について、図2(a)〜(c)を用いて説明する。図2(a)〜(c)において、裏面型2、表面型3、合成樹脂20は、説明の都合上、ハッチングの図示を省略している。なお、合成樹脂20については、硬化した箇所を表現する手段としてハッチングを用いている。
【0025】
図2(a)では、成形キャビティ4内に合成樹脂20が充填されている。表面型3は、図示しないエアバッグ装置で裏面型2側に押圧されている。換言すれば、成形キャビティ4内に充填された合成樹脂20には、成形圧力が印加されている。この状態において、表面側温度調節手段11とリブ側温度調節手段13を用いて、表面型3と裏面型2とをそれぞれ高温に加熱している。つまり、成形品30の表面31に相当する位置とリブ33に相当する位置が高温に加熱されて、成形品30の表面31となる合成樹脂20と、リブ33となる合成樹脂20の硬化が始まる。
【0026】
一方、裏面側温度調節手段12は、合成樹脂20が硬化しない程度の低温に維持されている。つまり、成形品30の裏面32となる合成樹脂20は未硬化の状態である。その結果、成形品30の表面31側とリブ33側が硬化し、表面31側とリブ33側に生じた硬化収縮成分が、未硬化の裏面32側の合成樹脂20に印加されている成形圧力で補われる。そして、図2(b)の状態に至る。
【0027】
図2(b)では、表面側温度調節手段11とリブ側温度調節手段13に加えて、裏面側温度調節手段12も高温に加熱している。つまり、成形品30の表面31側とリブ33側に加えて、裏面32となる合成樹脂20の硬化を進めている。すなわち、リブ33は、中心部に未硬化の部分を残すことなく硬化され、裏面32側の硬化された箇所と一体化されている。
【0028】
そして、未硬化の合成樹脂20は、成形キャビティ4内の略中央部に略水平に位置している。この時、成形品30の表面31側と裏面32側の硬化された箇所は、未だつながっていない。そのため、未硬化の合成樹脂20は、表面31側と裏面32側に生じた硬化収縮成分を成形キャビティ4内に加わる成形圧力で補いながら徐々に硬化し、図2(c)に示す通り、リブ33にヒケ等の不具合のない成形品30が完成する。
【0029】
以上の通り、本発明の実施形態に係る注型成形金型1、並びに成形品30の製造方法によれば、裏面32にリブ33を備えた成形品30であっても、リブ33にヒケ等の不具合が生じることを抑制できた。
【0030】
上記した実施形態では、温度調節手段10は配管15を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、配管15の代わりに電熱ヒーター等の電熱機器で加熱しても構わない。
【符号の説明】
【0031】
1 注型成形金型
4 成形キャビティ
10 温度調節手段
20 合成樹脂
30 成形品
31 表面
32 裏面
33 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リブを備えた成形品を成形可能な注型成形金型において、成形キャビティと温度調節手段を有し、該成形キャビティは前記成形品の外形と略同一形状の空間を有し、該注型成形金型の一部を押圧すると成形キャビティを加圧可能であり、該温度調節手段は成形キャビティにおける成形品の表面と裏面とリブのそれぞれに独立して設けられ各々相当する位置の温度を個別に独立して調節可能であることを特徴とする注型成形金型。
【請求項2】
請求項1に記載の注型成形金型を用いた成形品の製造方法であって、前記成形キャビティに合成樹脂を注入し、成形キャビティ内にある合成樹脂を加圧し、成形キャビティにおける成形品のリブに相当する位置を、裏面に相当する位置よりも高温に加熱して、リブとなる合成樹脂を硬化させることを特徴とする成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171204(P2012−171204A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35331(P2011−35331)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】