説明

洗浄装置

【課題】 アルカリ性の洗浄水を用いる洗浄コースを用意することにより環境負荷の低減を追求すると共に、必要に応じ界面活性剤の洗浄力も享受できる洗浄装置を提供する。
【解決手段】 洗濯機1の洗濯槽30に対し、給水口53より給水を行う。給水口53内の第1洗剤室54aはアルカリ剤を入れるためのものであり、第2洗剤室54bは界面活性剤を含む通常の洗濯用洗剤を入れるためのものである。第1の洗浄コースを実行する場合は給水弁50の出力ポート50aを開いて第1洗剤室54aに水を注ぎ、アルカリ性の洗浄水を生成する。第2の洗浄コースを実行する場合は給水弁50の出力ポート50bを開いて界面活性剤を含む洗浄水を生成する。出力ポート50aに接続された給水経路52aには硬度成分除去装置90が配置され、第1の洗浄コースで用いられる洗浄水はアルカリ性であると共に低硬度となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯機、食器洗浄機、洗車装置などの洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
洗濯機に代表される洗浄装置では、通常、洗浄工程で使用する水に界面活性剤を添加する。界面活性剤は有機物であるため、河川に排出されると水の富栄養化の原因となる。水が富栄養化すると水中の溶存酸素量が減少し、魚介類に悪影響が及ぶ。また、溶存酸素量の減少により嫌気性の分解が起こり、メタンや硫化水素などの有害ガスが発生することがある。
【0003】
環境に界面活性剤が排出される量については、家庭排水の存在が大きい。家庭排水は産業排水と異なり規制が少なく、地域によっては未処理のまま河川に排出されることもある。家庭排水には有害金属あるいは金属以外の有害物質が含まれることが少ないので、その中に含まれる界面活性剤の量を減らすことが環境改善の鍵を握る。
【0004】
そこで、界面活性剤を使用しない洗浄方法が種々提案されている。例えば特許文献1には、電解によりpHを高めることに加えて、軟水化処理あるいは純水化処理を行い、原水から硬度成分を取り除くことにより、洗浄効果を高めた電解アルカリ水を用いる洗浄方法が開示されている。特許文献2にはイオン交換樹脂により軟水化した水を電気分解したアルカリ水を用いる洗浄方法が開示されている。また、無機質のアルカリ性水溶液で洗浄を行うため、炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムなどの無機アルカリ性添加剤が市販されている。さらに特許文献3には、無隔膜で電解を行い、次亜塩素酸などの活性種を発生させて洗浄する洗濯機が記載されている。
【0005】
洗浄作業で使用する水量を削減することも水質保全上重要である。特許文献4にはすすぎ水を環水路を通じて循環させ、環水路中の浄化器に収容した吸着材にすすぎ水に含まれる洗剤成分や汚れの分解物を吸着させてすすぎ水を浄化し、すすぎ時の使用水量及びすすぎ時間を低減するようにした洗濯機が開示されている。
【特許文献1】特開2003−117554号公報(第4頁−第5頁、図1−図3)
【特許文献2】特開2003−265890号公報(第3頁−第4頁、図1、2)
【特許文献3】特開2002−360985号公報(第9頁[0083]、図8)
【特許文献4】特開平1−146585号公報(第2頁−第4頁、図1−図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルカリ性の水溶液を洗浄水として用いる場合、界面活性剤を用いるのに比べ環境負荷は小さいものの、皮脂汚れや油汚れなどの非水溶性の汚れに対し洗浄力が十分でないという問題がある。次亜塩素酸などの活性種を用いる洗浄も、その機構が酸化・漂白によるものであるため、お茶、ジュース、果汁のような色素を含む汚れを脱色する効果はあるが、油汚れなどには効果がない。また、被洗浄物の繊維が酸化作用により傷んだり、色あせたりするという問題をかかえる。
【0007】
すすぎ時の使用水量削減を考える場合、水を循環させて水中の不純物を吸着材に吸着させる方式は、すすぎ対象が界面活性剤を用いて洗浄したものである場合、実用化が難しい。というのは、界面活性剤はその界面活性作用により被洗浄物からの分離さえ難しいのであるが、それが吸着材に吸着されると一層分離が困難になる。そのため、界面活性剤を分離して吸着材を再生し、吸着材を繰り返し使用するということができないので、ひんぱんに新しい吸着材と交換しなければならず、吸着材交換の手間が増え、コストアップや環境への負荷という問題をもたらすからである。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、アルカリ性の洗浄水を用いる洗浄コースを用意することにより環境負荷の低減を追求するとともに、必要に応じ界面活性剤の洗浄力も享受できる洗浄装置を提供することにある。また、すすぎ水量の削減を図ることのできる洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために本発明は、洗浄装置において、界面活性剤を含まず、低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる第1の洗浄コースと、界面活性剤を含む洗浄水を用いる第2の洗浄コースが選択可能であることを特徴としている。
【0010】
この構成によると、使用者は、汚れがひどくない被洗浄物や界面活性剤に対するアレルギーがある人が触れる被洗浄物を洗う際は界面活性剤を含まない低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる第1の洗浄コースを選択し、界面活性剤が環境に排出されないようにすることができる。また、汚れのひどい被洗浄物を洗う場合は界面活性剤を含む洗浄水を用いる第2の洗浄コースを選択し、界面活性剤の洗浄力で汚れを効果的に落とすことができる。
【0011】
(2)また本発明にあっては、上記構成の洗浄装置において、低硬度かつアルカリ性の洗浄水を生成するための硬度成分除去手段とアルカリ化手段を備えることが好ましい。
【0012】
このような構成にすることによって、低硬度かつアルカリ性の洗浄水を、それが必要な局面で必要な量だけ生成することができ、低硬度かつアルカリ性の洗浄水を予め貯水しておいたり、外部から供給したりする必要がなくなる。
【0013】
(3)また本発明にあっては、上記構成の洗浄装置において、界面活性剤を含む洗浄水が、低硬度の水に界面活性剤を添加したものであることが好ましい。
【0014】
このような構成にすることによって、洗浄水の洗浄力がさらに向上する。
【0015】
(4)また本発明にあっては、上記構成の洗浄装置において、被洗浄物の汚れ度合を判定する汚れ度合判定手段を備え、被洗浄物の汚れ度合が所定値未満の場合は前記第1の洗浄コースが選択され、所定値以上の場合は前記第2の洗浄コースが選択されることが好ましい。
【0016】
このような構成にすることによって、汚れのひどい被洗浄物に第1の洗浄コースを適用したり、汚れのひどくない被洗浄物に第2の洗浄コースを適用したりすることがなく、汚れの程度に応じた適切な洗浄コースが選択されることになる。
【0017】
(5)また本発明にあっては、上記構成の洗浄装置において、被洗浄物の汚れ度合を判定する汚れ度合判定手段を備え、前記第1の洗浄コースで洗浄を行った後の被洗浄物の汚れ度合が所定値以上であった場合には前記第2の洗浄コースが追加されることが好ましい。
【0018】
このような構成にすることによって、第1の洗浄コースで汚れを十分に落としきれなかった被洗浄物には改めて第2の洗浄コースが適用されるので、汚れ落としが不十分なまま洗浄作業が終わってしまうということがなくなる。
【0019】
(6)また本発明にあっては、上記構成の洗浄装置において、前記第1の洗浄コースが選択されたときのすすぎ水量を前記第2の洗浄コースが選択されたときのすすぎ水量よりも少なく設定することが好ましい。
【0020】
このような構成にすることによって、界面活性剤ほど被洗浄物からの分離が困難でない低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる第1の洗浄コースが選択されたときはすすぎ水の量を減らし、すすぎ水量を削減することができる。
【0021】
(7)また本発明にあっては、上記構成の洗浄装置において、被洗浄物に残留するアルカリ成分を中和する中和手段を備えることが好ましい。
【0022】
このような構成にすることによって、アルカリ成分の中和により、アルカリ成分を洗い流したのと同様の効果が生まれ、すすぎ水量を削減することができる。
【0023】
(8)また本発明は、界面活性剤を含まず、低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる洗浄装置であって、被洗浄物に残留するアルカリ成分を中和する中和手段を備えることを特徴としている。
【0024】
この構成によると、もともと被洗浄物に界面活性剤が付着していないことに加え、アルカリ成分を中和することにより、被洗浄物を十分にすすぎ水ですすいだのと同様の効果が生まれ、すすぎ水量を削減することができる。
【0025】
(9)また本発明にあっては、上記構成の洗浄装置において、被洗浄物に残留する電解質を除去する電解質除去手段を備えることが好ましい。
【0026】
このような構成にすることによって、洗浄作業終了後に電解質の塩が被洗浄物表面に結晶化して被洗浄物の外観が損なわれることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、汚れがひどくない被洗浄物や界面活性剤に対するアレルギーがある人が触れる被洗浄物を洗う際は界面活性剤を含まない低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる第1の洗浄コースを選択し、界面活性剤が環境に排出されないようにする一方で、汚れのひどい被洗浄物を洗う場合は界面活性剤を含む洗浄水を用いる第2の洗浄コースを選択して界面活性剤の洗浄力で汚れを効果的に落とすことができ、洗浄目的の遂行と環境保全を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を洗浄装置の一つである洗濯機に適用した第1実施形態を図1−図6に基づき説明する。
【0029】
図1は洗濯機1の全体構成を示す垂直断面図である。洗濯機1は全自動型のものであり、外箱10を備える。外箱10は直方体形状で、金属又は合成樹脂により成形され、その上面と底面は開口部となっている。外箱10の上面開口部には合成樹脂製の上面板11を重ね、外箱10にネジで固定する。図1において左側が洗濯機1の正面、右側が背面であり、背面側に位置する上面板11の上面に同じく合成樹脂製のバックパネル12を重ね、上面板11にネジで固定する。外箱10の底面開口部には合成樹脂製のベース13をあてがい、外箱10にネジで固定する。なお、これまでに述べてきたネジはいずれも図示しない。
【0030】
ベース13の四隅には外箱10を床の上に支えるための脚部14a、14bが設けられている。背面側の脚部14bはベース13に一体成型した固定脚である。正面側の脚部14aは高さ可変のネジ脚であり、これを回して洗濯機1を水平にする。
【0031】
上面板11には被洗浄物である洗濯物を洗濯槽(後述)に投入するための洗濯物投入口15が形設される。洗濯物投入口15を蓋16が上から覆う。蓋16は上面板11にヒンジ部17で結合され、垂直面内で回動する。
【0032】
外箱10の内部には、アルカリ成分や界面活性剤などの洗濯用物質を含む洗浄水、あるいは洗濯用物質をすすぎ流すためのすすぎ水(以下これらを総称して「洗濯水」という)が注がれる、脱水槽を兼ねる洗濯槽30と、内部に洗濯水を貯める水槽20とが配置されている。水槽20も洗濯槽30も上面が開口した円筒形のカップの形状を呈しており、各々軸線を垂直にし、水槽20を外側、洗濯槽30を内側とする形で同心的に配置される。水槽20をサスペンション部材21が吊り下げる。サスペンション部材21は水槽20の外面下部と外箱10の内面コーナー部とを連結する形で計4箇所に配備され、水槽20を水平面内で揺動できるように支持する。
【0033】
洗濯槽30の周壁には多数の脱水孔31が設けられており、また、洗濯槽30の上部開口部の縁には、洗濯物の脱水のため洗濯槽30を高速回転させたときに振動を抑制する働きをする環状のバランサ32が装着されている。洗濯槽30の内部底面には槽内で洗濯水の流動を生じさせるためのパルセータ33を配置する。パルセータ33で覆われる洗濯槽30の底壁には排水孔34が形成されている。
【0034】
水槽20の下面には駆動ユニット40が装着される。駆動ユニット40はモータ41、クラッチ装置42、及びブレーキ装置43を含み、その中心部から脱水軸44とパルセータ軸45を上向きに突出させている。脱水軸44とパルセータ軸45は脱水軸44を外側、パルセータ軸45を内側とする二重軸構造となっており、水槽20の中に入り込んだ後、脱水軸44は洗濯槽30に連結されてこれを支える。パルセータ軸45はさらに洗濯槽30の中に入り込み、パルセータ33に連結してこれを支える。脱水軸44と水槽20の間、及び脱水軸44とパルセータ軸45の間には各々水もれを防ぐためのシール部材を配置する。
【0035】
バックパネル12の下の空間には電磁的に開閉する給水弁50(図2参照)が配置される。給水弁50は水道などの外部水源から取水経路(多くの場合はホース)を通じて取水し、洗濯水として水槽20に供給する。給水弁50は3連式のものであり、3個の出力ポート50a、50b、50cと1個の入力ポート51を備え、出力ポート毎に独立して給水と止水が可能である。
【0036】
入力ポート51にはバックパネル12に形成した透孔18を通じてホースを接続する。出力ポート50a、50b、50cには互いに独立した給水経路52a、52b、52cが接続され、これらの給水経路52a、52b、52cを通じ、洗濯槽30の内部に臨む位置に設けられた容器状の給水口53に給水する。
【0037】
図2には正面側から見た給水口53の模式的垂直断面が示されている。給水口53の内部には、正面側から引出し53aが挿入される。引出し53aの内部は左、中央、及び右の3区画に仕切られている。左側の区画は第1洗剤室54a、中央の区画は第2洗剤室54b、右側の区画は仕上剤室54cである。第1洗剤室54a及び第2洗剤室54bには炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムといったアルカリ剤や、界面活性剤を含む通常の洗濯用洗剤など、洗濯に用いる薬剤全般が入る。仕上剤室54cには液体の仕上剤(柔軟剤やのり剤)が入る。
【0038】
第1洗剤室54aの底部背面側には横長の流出口55aが設けられている。第2洗剤室54bの底部背面側にも同じく横長の流出口55bが設けられている。流出口55a、55bから流れ出した水は一旦給水口53の底部に落ちた後、給水口53の正面側に設けられた横長の注水口56から洗濯槽30に注ぎ込まれる。
【0039】
仕上剤室54cにはサイホン部57が設けられている。サイホン部57は仕上剤室54cの底面から垂直に立ち上がる内管57aと、内管57aにかぶせられるキャップ状の外管57bとからなる。内管57aと外管57bの間には水の通る隙間が形成されている。内管57aの底部は洗濯槽30の内部に向かって開口する。外管57bの下端は仕上剤室55cの底面と所定の隙間を保ち、ここが水の入口になる。内管57aの上端を超えるレベルまで仕上剤室55cに水が注ぎ込まれるとサイホンの作用が起こり、水はサイホン部57を通って仕上剤室55cから吸い出され、給水口53の底部へと落下する。その水も注水口56から洗濯槽30に注ぎ込まれる。
【0040】
給水経路52a、52b、52cは給水口53の天井壁に接続され、給水経路52aは第1洗剤室54aに、給水経路52bは第2洗剤室54bに、給水経路52cは仕上剤室54cに、それぞれ水を注ぐ。なお給水経路52a、52bは給水経路52cよりも流量大に設定されている。流量の大小設定は、出力ポート50a、50b、50cの内部構造を異ならせて実現してもよく、あるいは給水経路52a、52b、52cにそれぞれ設けた流量制限部材の絞り率を異ならせて実現してもよい。
【0041】
図1に戻って説明を続ける。水槽20の底部には水槽20及び洗濯槽30の中の水を外箱10の外に排水する排水ホース60が取り付けられる。排水ホース60には水槽20の底部に接続した排水管61から水が流れ込む。排水管61には電磁的に開閉する排水弁62が設けられる。また排水管61には排水弁62の上流側にあたる箇所から導圧管70が延び出す。導圧管70の上端には水位センサ71が接続される。
【0042】
外箱10の正面側には洗濯機1全体の運転制御を行う制御部80を配置する。制御部80は上面板11の下に置かれており、上面板11の上面に設けられた操作/表示部81を通じて使用者からの操作指令を受け、駆動ユニット40、給水弁50、及び排水弁62に動作指令を発する。また制御部80は操作/表示部81に表示指令を発する。
【0043】
給水経路52aの中には水に含まれるミネラル、すなわち硬度成分を除去する硬度成分除去装置90が配置される。水槽20の外側には水槽20の底部と側壁上部を連結する循環経路100が設けられる。循環系路100には、水槽20の底部から洗濯水を吸い込む循環ポンプ101と、洗濯水中のアルカリ成分を中和する中和装置102が配置される。
【0044】
洗濯機1の動作につき説明する。蓋16を開け、洗濯物投入口15から洗濯槽30の中へ洗濯物を投入する。また給水口53から引出し53aを引き出し、洗濯に用いる薬剤が炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ剤であればこれを第1洗剤室54aに入れ、通常の洗濯用洗剤であればこれを第2洗剤室54bに入れる。必要なら仕上剤室54cに仕上剤を入れる。薬剤を入れた後、引出し53aを元のように給水口53に押し込む。これにより、洗濯水に薬剤を添加する準備が整う。
【0045】
次いで蓋16を閉じ、操作/表示部81の操作ボタン群を操作して洗濯条件を選ぶ。最後にスタートボタンを押せば、制御部80は図3〜図6のフローチャートに従い洗濯機1に洗濯作業を遂行させる。
【0046】
図3は洗濯作業の全体工程を示すフローチャートである。ステップS201では、設定した時刻に洗濯作業を開始する、予約運転の選択がなされているかどうかを確認する。予約運転が選択されていればステップS206に進む。選択されていなければステップS202に進む。
【0047】
ステップS206に進んだ場合は運転開始時刻になったかどうかの確認が行われる。運転開始時刻になったらステップS202に進む。
【0048】
ステップS202では洗浄工程の選択がなされているかどうかを確認する。選択がなされていればステップS300に進む。ステップS300の洗浄工程の内容は別途図4のフローチャートで説明する。洗浄工程終了後、ステップS203に進む。洗浄工程の選択がなされていなければステップS202から直ちにステップS203に進む。
【0049】
ステップS203ではすすぎ工程の選択がなされているかどうかを確認する。選択されていればステップS400に進む。ステップS400のすすぎ工程の内容は別途図5のフローチャートで説明する。
【0050】
すすぎ工程終了後、ステップS204に進む。すすぎ工程の選択がなされていなければステップS203から直ちにステップS204に進む。
【0051】
ステップS204では脱水工程の選択がなされているかどうかを確認する。選択されていればステップS500に進む。ステップS500の脱水工程の内容は別途図6のフローチャートで説明する。脱水工程終了後、ステップS205に進む。脱水工程の選択がなされていなければステップS204から直ちにステップS205に進む。
【0052】
ステップS205では制御部80、特にその中に含まれる演算装置(マイクロコンピュータ)の終了処理が手順に従って自動的に進められる。また洗濯工程が完了したことを終了音で報知する。すべてが終了した後、洗濯機1は次回の洗濯作業に備えて待機状態に戻る。
【0053】
続いて図4〜図6に基づき洗浄、すすぎ、脱水の各個別工程の内容を説明する。
【0054】
図4は洗浄工程のフローチャートである。ステップS301では水位センサ71の検知している水槽20内の水位データのとり込みが行われる。ステップS302では容量センシングの選択がなされているかどうかを確認する。選択されていればステップS307に進む。選択されていなければステップS302から直ちにステップS303に進む。
【0055】
ステップS307ではパルセータ33や洗濯槽30の回転負荷により洗濯物の量を測定する。容量センシング後、ステップS303に進む。
【0056】
ステップ303では第1の洗浄コースが選択されているかどうかを確認する。ここで、第1の洗浄コースとは界面活性剤を用いず、低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる洗浄コースであり、第2の洗浄コースとは界面活性剤を含む洗浄水を用いる洗浄コースである。
【0057】
第1の洗浄コースが選択されていることが判明したらステップS304に進み、第1の洗浄コースで洗浄を行う態勢を整える。まず給水弁50の出力ポート50aを開く。出力ポート50aを出た水は硬度成分除去装置90を通過する際にミネラル分を除去されて低硬度となり、それから第1洗剤室54aに入る。アルカリ剤を入れられた第1洗剤室54aはアルカリ化手段として機能し、低硬度の水はさらにアルカリ性となったうえで洗濯槽30に注がれる。この洗浄水には界面活性剤を添加しない。給水の間、排水弁62は閉じている。
【0058】
洗浄水が洗濯槽30内で所定水位に達したらステップS305に進む。ステップS305ではパルセータ33が洗濯物と洗浄水を攪拌し、洗濯物は洗われる。この時の洗浄水は低硬度かつアルカリ性であり、その洗浄力は汚れのひどくない洗濯物を洗うには十分である。また界面活性剤を含んでいないので、界面活性剤に敏感な人が身につける肌着でも安心して洗うことができる。
【0059】
所定期間の洗い動作が終了したらステップS306に進む。ステップS306ではパルセータ33が小刻みに反転して洗濯物をほぐす。これにより洗濯物の重心の偏りを解消し、脱水回転に備える。
【0060】
ステップS303において第1の洗浄コースが選択されていないと確認されれば、それは第2の洗浄コースが選択されていることを意味する。この場合はステップS308に進む。ステップS308では第2の洗浄コースで洗浄を行う態勢を整える。すなわち給水弁50の出力ポート50bを開いて第2洗剤室54bに給水する。第2洗剤室54bにはアルカリ剤でなく通常の洗濯用洗剤が入っており、水は洗剤を溶かし出しつつ洗濯槽30に注がれる。
【0061】
洗浄水が洗濯槽30内で所定水位に達したらステップS305に進む。ステップS305ではパルセータ33が洗濯物と洗浄水を攪拌し、洗濯物は洗われる。この時の洗浄水は界面活性剤を含んでいるので洗浄力が強く、汚れのひどい洗濯物でも十分に汚れを落とすことができる。所定期間の洗い動作が終了したらステップS306に進み、洗濯物のバランスをとる。
【0062】
このように、使用者は、汚れがひどくない洗濯物や界面活性剤に対するアレルギーがある人が肌につける洗濯物を洗う際は界面活性剤を含まない低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる第1の洗浄コースを選択し、界面活性剤が環境に排出されないようにすることができる。この洗浄コースは、次亜塩素酸による洗浄と違って、布傷みや色褪せなどの問題もない。
【0063】
また使用者は、汚れのひどい洗濯物を洗う際には界面活性剤を含む洗浄水を用いる第2の洗浄コースを選択し、界面活性剤の洗浄力で効果的に汚れを落とすことができる。そのため、界面活性剤を含まない洗浄水を汚れのひどい被洗浄物にも適用して、汚れが思うように落ちないという理由で洗浄作業時間を徒に引き伸ばしたり、洗浄水を徒に多く使用したりする愚を避けることができる。
【0064】
続いて図5のフローチャートに基づきすすぎ工程の内容を説明する。最初にステップS500の脱水工程が入るが、これについては図6のフローチャートで説明する。脱水後、ステップS401に進む。ステップS401では洗浄工程で実行された洗浄コースが第1の洗浄コースであったかどうかを確認する。第1の洗浄コースであった場合はステップS402に進む。第1の洗浄コースでない、すなわち第2の洗浄コースであった場合はステップS405に進む。
【0065】
ステップS402に進んだ場合は、すすぎ水の水量が少なく設定される。そして給水弁50の出力ポート50bを開き、給水経路52bを経由して洗濯槽30にすすぎ水を給水する。給水経路52aを経由させないのは、すすぎ水は必ずしも低硬度の水である必要はないので、硬度成分除去装置90を徒に使用するのを避けるためである。
【0066】
給水弁50及び給水口53が図2の構成であると、すすぎ水の給水時に第2洗剤室54bに洗剤がセットされていた場合、すすぎ水に混じって洗剤が洗濯槽30に投入されてしまうことになり、好ましくない。これを避けるため、給水弁50及び給水口53を図7のように構成してもよい。
【0067】
図7の構成では、給水弁50に対し、別の給水弁150より給水を行う。給水弁150は2連式のものであり、2個の出力ポート150a、150bと1個の入力ポート151を備え、出力ポート毎に独立して給水と止水が可能である。入力ポート151にはバックパネル12に形成した透孔18を通じてホースを接続する。出力ポート150a、150bには給水経路152a、152bが接続され、給水経路152a、152bはいずれも給水弁50の入力ポート51に接続されている。そして硬度成分除去装置90は、給水経路52aにではなく、給水経路152aに配置されている。
【0068】
すすぎ水を給水するにあたっては、給水弁150の出力ポート150bを開く。これにより、硬度成分除去装置90を経由しない水を給水弁50に送ることができる。給水弁50にあっては出力ポート50aを開く。これによりすすぎ水は第1洗剤室54a経由で給水されることになり、第2洗剤室54bに洗剤がセットされていたとしても、それがすすぎ水に混じって洗濯槽30に投入されることはなくなる。
【0069】
硬度成分を除去しない水をすすぎ水とすることについて言えば、硬度成分除去装置90を、電気透析方式などのように、硬度成分除去機能をON/OFFできるものとしてもよい。このようにすれば、硬度成分除去した水が必要な場合は硬度成分除去装置90の硬度成分除去機能をONにし、それが必要でない場合はOFFにするだけで済むので、出力ポート150bと給水経路152bを省略することができる。これは図2の構成についても言えることであり、図2の硬度成分除去装置90を硬度成分除去機能をON/OFFできるものに変えれば、硬度成分を除去しないすすぎ水を第1洗剤室54a経由で洗濯槽30に注ぐことができる。
【0070】
給水弁150に第3の出力ポートを追加し、そこから直接洗濯槽30にすすぎ水を給水できるようにしておいてもよい。このようにすれば、第1洗剤室54aにアルカリ剤が入り、第2洗剤室54bに通常の洗濯用洗剤が入り、仕上剤室54cに仕上剤が入っているという状態においても、それらのアルカリ剤、洗剤、仕上剤をすべて回避してすすぎ水を給水することができる。
【0071】
洗濯槽30に所定水位まですすぎ水が入れられたらステップS403に進む。ステップS403ではパルセータ33を駆動して洗濯物とすすぎ水を攪拌し、すすぎを行う。この場合は水槽20及び洗濯槽30の中にすすぎ水を貯めておいてすすぎを行う「ためすすぎ」となるが、常に新しい水を補給する注水すすぎ、あるいは洗濯物に水のシャワーを注ぎかけるシャワーすすぎを行うこととしてもよい。
【0072】
ステップS402ですすぎ水量が少なく設定されていたので、洗濯槽30の中の水位は洗濯物の量に比較して低めである。界面活性剤を使用して洗っていないので、少ない水量の水でも十分にすすぐことができる。また、市販の洗剤を使用して洗った場合、洗濯槽30の洗い時の水面付近に石けんかすやゼオライトが付着するため、それらを除去すべくすすぎ時の水位を洗濯時の水位よりも高くすることがあるが、第1の洗浄コースでは石けんかすやゼオライトが生じないので、すすぎ時の水位が洗い時の水位と同じ、あるいはそれより低くても問題はない。
【0073】
ステップS402の「すすぎ水量少なく設定」は、ためすすぎだけでなく、注水すすぎやシャワーすすぎの場合にも適用される。界面活性剤を使用していないので、上からかける水量を少なくしたり、すすぎ実行回数を少なくしたりしても、十分にすすぐことができる。
【0074】
所定期間のすすぎ動作が終了したらステップS404に進む。ステップS404ではパルセータ33が小刻みに反転して洗濯物をほぐす。これにより洗濯物の重心の偏りを解消し、脱水回転に備える。
【0075】
ステップS401からステップS405に進んだ場合はすすぎ水量が多く設定される。
給水弁50の出力ポート50bを開き、給水経路52bを経由して洗濯槽30にすすぎ水を給水する。洗濯槽30に所定水位まですすぎ水が入れられたらステップS403に進んですすぎ動作を行う。今度はすすぎ水量が多く設定されているので、洗濯物に付着した界面活性剤を十分に除去することができる。所定期間の洗い動作が終了したらステップS306に進み、洗濯物のバランスをとる。
【0076】
このように、界面活性剤ほど洗濯物からの分離が困難でない低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる第1の洗浄コースが選択されたときはすすぎ水の量を減らし、すすぎ水量を削減することができる。
【0077】
すすぎは複数回繰り返してもよい。第1の洗浄コースが実行された場合と第2の洗浄コースが実行された場合とですすぎの回数を変えてもよい。例えば、第1の洗浄コースが実行された場合はすすぎが1回、第2の洗浄コースが実行された場合はすすぎが2回といった具合に、第1の洗浄コースが実行された場合にはすすぎ回数を少なくして(このようにしてもすすぎの性能は保たれる)、水を節約することができる。
【0078】
洗浄工程で第1の洗浄コースが選択されていた場合、ステップS403のすすぎ動作の間に循環ポンプ101を運転し、すすぎ水を中和装置102に通す。中和装置102にはH型の陽イオン交換樹脂が充填されており、洗濯物に残留するNa+などのアルカリ金属の陽イオンとH+とを交換する。H+はOH-と中和し、すすぎ水はアルカリ性から中性となる。第1の洗浄コースでは界面活性剤を使用していないので、中和できれば洗濯物を十分にすすぎ水ですすいだのと同様の効果が生まれてすすぎ完了となり、そのまま排水脱水すれば洗濯終了である。界面活性剤を使用した洗濯では最低2回のすすぎが必要だが、この場合はそれよりもすすぎ回数が少なくてよく、使用水量を減らすことができる。
【0079】
陽イオン交換により洗濯物に残留するアルカリ成分を中和した陽イオン交換樹脂は、酸により簡単に再生することができる。使用する酸は塩酸でもよく、一般家庭で入手しやすい酢酸やクエン酸でもよい。電解酸性水でもよい。
【0080】
洗濯物に界面活性剤が残留していた場合、すすぎ水に混じった界面活性剤が陽イオン交換樹脂に強固に吸着され、陽イオン交換樹脂の再生は困難になる。界面活性剤用に活性炭などの吸着材を用意したとしても、界面活性剤の吸着作用の強さのため、吸着材を再生することは困難である。第1の洗浄コースでは界面活性剤を使用していないので、陽イオン交換樹脂や吸着材の再生が困難になるといった問題は生じない。
【0081】
中和手段は陽イオン交換樹脂に限られない。酸を中和剤として用いることもできる。酸としては酢酸やクエン酸を使用できる。あるいは二酸化炭素により水中に炭酸を発生させ、炭酸によって中和してもよい。
【0082】
中和といってもpHを7.0にする必要はない。人が短期間触っても問題が生じない範囲であるpH5〜9程度でよい。中和できているかどうかを判断するpH検知手段を備えれば、より効率的に中和を行うことができる。
【0083】
中和装置102による中和は洗浄水に対して行うこともできる。洗浄工程終了後、排水する前に洗浄水を循環し、中和を行えば、洗濯物にはアルカリ成分も界面活性剤も残留していないので脱水すれば即洗濯完了となり、使用水量をさらに削減することができる。その際、洗浄工程終了後に洗浄水の一部を排水し、循環する水量を削減することとすれば、中和剤を節減することができる。
【0084】
すすぎ水や洗浄水に対して中和を行うのでなく、例えば排水後や脱水後などのアルカリ成分を含む水で濡れた洗濯物に適当な量の酸性水を振りかけて洗濯物を直接中和してもよい。その場合にはかけ過ぎても問題のない弱酸を使用するのが望ましい。
【0085】
すすぎ工程で仕上剤を投入する場合は、給水弁50の出力ポート50cを開いて給水経路52cより仕上剤室54cに給水する。水は仕上剤室54cの底の方から貯まって行く。仕上剤室54c内の水位があるレベルに達するとサイホン部57がサイホン作用を生じ、仕上剤室54cから水が吸い出される。この水は注水口56から洗濯槽30に注ぎ込まれる。仕上剤室54cに液体の仕上剤が入れられていた場合は、仕上剤も水と一緒になって吸い出され、洗濯槽30に投入される。
【0086】
続いて図6のフローチャートに基づき脱水工程を説明する。まずステップS501で排水弁62が開く。水槽20と洗濯槽30の中の洗濯水は排水弁62を通じて排水される。排水弁62は脱水工程中は開いたままである。
【0087】
所定時間が経過し、洗濯物から大部分の洗濯水が抜けたところでクラッチ装置42が切り替わり、モータ41が脱水軸44を回転させる。これにより洗濯槽30が脱水回転を行う。パルセータ33も洗濯槽30と共に回転する。
【0088】
洗濯槽30が高速で回転すると、洗濯物は遠心力で洗濯槽30の内周壁に押しつけられる。洗濯物に含まれていた洗濯水は遠心力で洗濯物から分離し、脱水孔31から放出される。脱水孔31を離れた洗濯水は水槽20の内面にたたきつけられ、水槽20の内面を伝って水槽20の底部に流れ落ちる。そして排水管61と、それに続く排水ホース60を通って外箱10の外に排出される。
【0089】
図6のフローでは、ステップS502で比較的低速の脱水運転を行った後、ステップS503で高速の脱水運転を行う設定となっている。ステップS503の後、ステップS504に移行する。ステップS504ではモータ41への通電を断ち、停止処理を行う。
【0090】
水を硬度成分除去手段で軟水化した場合としなかった場合とで、JIS規格C9811:1999の人工汚染布に対する洗浄率がどのように異なるかを評価した実験結果を表1に示す。硬度成分除去手段としてはNa型の陽イオン交換樹脂を用いた。硬度成分除去手段を通した水の硬度は0mgCaCO3/L、硬度成分除去手段を通していない水の硬度は40mgCaCO3/Lであった。アルカリ剤としては炭酸ナトリウムを使用した。水をアルカリ性にしたときのpHは11.2であった。石けんとしては、洗濯助剤などの添加物を含まない、いわゆる純石けんを使用した。アルカリ剤も石けんも、使用量は洗浄工程の水量に対して0.1wt%とした。また洗浄率の値は、硬度成分除去手段を通さない水と石けんの組み合わせの場合の洗浄率を100として、洗浄率の比で示した。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示すように、アルカリ剤を使用した場合、硬度成分除去手段があることにより、硬度成分除去手段がない場合に比べて洗浄率が約1.5倍になっており、効果は顕著である。
【0093】
一般的に、界面活性剤が含まれていない洗浄剤では非水溶性の汚れが除去できないため、界面活性剤を含む石けんなどと違って、布の汚れを十分に落とすことはできない。しかしながら、硬度成分除去手段を備えることによって、次のような機構で非水溶性の汚れを効果的に除去できる。
【0094】
つまり、衣類の汚れなど一般的な汚れのうち、水だけでは落ちない非水溶性の汚れの主なものに皮脂、油脂汚れがある。皮脂、油脂汚れには非水溶性の脂肪酸が含まれるが、脂肪酸は高pH条件下では酸化反応して界面活性を有する石けんとなる。一例として、人体の皮脂中に含まれる脂肪酸の一種であるオレイン酸が、塩基としてNa+を含むアルカリ性溶液中で鹸化反応する際の反応式を下に示す。
CH3(CH27CH=CH(CH27CO2H(オレイン酸)+Na++OH-→CH3(CH27CH=CH(CH27CO2-Na+(オレイン酸ナトリウム(石けん))+H2
【0095】
脂肪酸が石けんに変化すると、石けんは水に溶けるため、当の皮脂汚れ自体が落ちるようになる他、界面活性剤として他の汚れを落とす役割を果たすようになる。他に、アルカリ性であることで繊維が膨潤する、タンパク質が溶解しやすくなるといった作用があるが、上に挙げた鹸化反応が、アルカリ剤を洗剤として用いた場合の主な効果である。
【0096】
しかしながら従来のアルカリ水洗浄は、水のみによる洗浄より少し勝るという程度で、洗剤を使用した洗浄に比べ洗浄力が十分ではなかった。その理由として、水に含まれる硬度成分の悪影響があったと考えられる。アルカリ性溶液中にCa2+やMg2+といった2価の金属陽イオンが含まれていた場合、下のような反応で金属石けんが生成される。この金属石けんは水に不溶であるため、洗浄を妨げることとなる。
2CH3(CH27CH=CH(CH27CO2H(オレイン酸)+Ca2++OH-→{CH3(CH27CH=CH(CH27CO2-2Ca2+(オレイン酸カルシウム(金属石けん))+2H2
【0097】
石けんを洗剤とした場合に比べ、アルカリ剤により生成される石けんは量が圧倒的に少なく、硬度成分の影響を受けやすい。そのため、アルカリ剤を洗剤として用いる場合に硬度成分除去手段で水を軟化させることは洗浄力確保に重要な意味を持つ。
【0098】
一方で、水質汚染の指標としてTOC、BODなどが一般に用いられているが、アルカリ剤の場合、石けんとは違って有機炭素(有機態炭素)を含まないので、TOC、BODともにゼロであり、水質環境への負荷が非常に低い。そのため、アルカリ剤が河川などに排出されることがあっても富栄養化などの水質汚染をもたらすことはない。
【0099】
アルカリ剤としては、炭酸ナトリウムの他、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の塩をはじめ、水に溶かすとアルカリ性になるものを広く使用することができる。また、それらを成分の一つとして含むものであってもよい。
【0100】
また、洗濯の度にアルカリ剤を洗剤室に入れるのでなく、徐々に溶解する固形アルカリ剤を洗剤室に入れたままにしておいてもよい。この場合、第1洗剤室54aにアルカリ剤を入れておき、洗浄時には第1洗剤室54a経由で給水することにより洗浄水にアルカリ成分を添加し、アルカリ水とする必要のないすすぎ時には第2洗剤室54b経由で給水するようにすればよい。固形アルカリ剤の例としては炭酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムを錠剤に成型したものや、それらを焼成したものを挙げることができる。このようなものを用いることにより、通常の洗剤のように毎回投入する手間を省くことができる。
【0101】
アルカリ化手段としては、アルカリ剤の添加の他、電解アルカリ水やOH型の陰イオン交換樹脂を用いるという方法がある。これらを併用してもよい。
【0102】
硬度成分除去手段としては、陽イオン交換樹脂の他に、ゼオライト、電気透析、逆浸透膜などを利用することができる。電気透析や逆浸透膜は陽イオン交換樹脂やゼオライトのように交換や再生の必要がなく、好ましい。
【0103】
表1に見られるように、石けんを使用した場合でも硬度成分を除去した水の方が洗浄率が向上する。従って、硬度成分除去装置90を経て低硬度にした洗浄水に対し界面活性剤を添加するようにすれば、洗浄水の洗浄力をさらに向上させることができる。この場合、第1洗剤室54aにはアルカリ剤を入れず、代わりに石けんを入れるようにすればよい。
【0104】
図7の構成であれば、給水弁150にあっては出力ポート150aを開き、給水弁50にあっては出力ポート50bを開くことにより、硬度成分除去装置90を通した水を第2洗剤室54bに送ることができる。第2洗剤室54bに石けんを入れておけば、低硬度にした洗浄水に界面活性剤が添加されることになる。
【0105】
本発明の第2実施形態を図8に示す。図8は洗濯機の垂直断面図である。第2実施形態の洗濯機1は、電気透析や逆浸透膜により硬度成分を除去する硬度成分除去装置90bを備える。この場合には硬度の高い廃水が出るので、硬度成分除去装置90bにはホース60に廃水を流し出す廃水管91が設けられている。
【0106】
本発明の第3実施形態を図9に示す。図9は洗浄工程のフローチャートである。図9のステップS321、S322、S324、S325、S326、S327、S328は図4のフローチャートのステップS301、S302、S304、S305、S306、S307、S308に対応するものであり、説明は省略する。注目すべきはステップS323である。
【0107】
ステップS323では洗濯物の汚れ度合が所定値未満かどうかを確認する。汚れ度合が所定値未満であればステップS324に進み、界面活性剤を含まず、低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる第1の洗浄コースで洗浄を行う態勢を整える。汚れ度合が所定値以上であればステップS328に進み、界面活性剤を含む洗浄水を用いる第2の洗浄コースで洗浄を行う態勢を整える。
【0108】
このようにすることによって、使用者がわざわざ判断しなくても、第1の洗浄コースを適用可能な場合は確実に第1の洗浄コースを適用でき、界面活性剤や水の使用を節約し、環境への排出量を削減することができる。
【0109】
なお、汚れ度合の「所定値」は、実験により適切な数値を設定すればよい。これは、アルカリ性の洗浄水のpHが高くなれば、アルカリ性洗浄水で洗浄可能な汚れ度合も高くなり、逆にpHが低くなれば洗浄可能な汚れ度合も低くなるといった具合に、「所定値」には様々な値が存在するからである。また洗濯機1の攪拌力によっても洗浄可能な汚れ度合は変化し、それに合わせて「所定値」も変化するからである。
【0110】
汚れ度合判定手段としては、ICタグなどで洗濯物の素材や使用履歴などを把握し、それらの情報から汚れ度合を推定するといった手段がある。また、水の汚れから判定する手法もある。水の汚れから判定する手法を第4実施形態として説明する。
【0111】
本発明の第4実施形態を図10に示す。図10は洗浄工程のフローチャートである。図10のステップS341、S342、S344、S345、S346、S347、S348、S349は図9のフローチャートのステップS321、S322、S323、S324、S325、S326、S327、S328に対応するものであり、説明は省略する。注目すべきはステップS344の前に置かれたステップS343である。
【0112】
ステップS343では洗濯物の入った洗濯槽30に少量の水を給水して攪拌し、その水の汚れ度合をセンシングする。センシングのパラメータとしては濁度や吸光度を用いる。
【0113】
供給する水は硬度成分除去装置90(第2実施形態の洗濯機1であれば硬度成分除去装置90b)を通した軟水でもあっても、硬度成分除去装置90を通さない原水であっても、どちらでもよい。またアルカリ剤や界面活性剤を添加してもよいが、添加しないこととしてそれらを無駄に消費することを回避してもよい。
【0114】
本発明の第5実施形態を図11に示す。図11は洗浄工程のフローチャートである。図11のステップS351、S352、S357は図4のフローチャートのステップS301、S302、S307に対応する。図4のフローチャートではこの後に第1の洗浄コースが選択されたかどうかを確認するステップがあったが、図11のフローチャートではそれを省いてすぐステップS353に進み、第1の洗浄コースで洗浄を行う態勢を整える。それからステップS354の洗浄動作、ステップS355の洗濯物バランスとりと進む。
【0115】
ステップ355の後のステップS356では洗濯物の汚れ度合が所定値未満かどうかを汚れ度合判定手段で判定する。汚れ度合が所定値未満であれば洗浄工程は終わりとなる。汚れ度合が所定値以上であればステップS500の脱水工程に進んで洗濯物の脱水を行った後、ステップS358、S359、S360と辿って第2の洗浄コースによる洗浄を行う。
【0116】
この構成によると、第1の洗浄コースで汚れを十分に落としきれなかった被洗浄物には改めて第2の洗浄コースが適用されるので、汚れ落としが不十分なまま洗浄作業が終わってしまうということがない。
【0117】
本発明の第6実施形態を図12に示す。図12は洗濯機の垂直断面図である。
【0118】
第6実施形態では、これまでの実施形態で硬度成分除去装置90、90bが置かれていた場所に電解質除去装置110が置かれている。電解質除去装置110は硬度成分除去装置も兼ねる。電解質除去手段としては逆浸透膜を用いる。第2実施形態の硬度成分除去装置90bと同様、電解質除去装置110にも廃水をホース60に流す廃水管111が設けられている。またこの実施形態では循環系路100が電解質除去装置110に接続されている。
【0119】
中和装置102で中和した洗浄水あるいはすすぎ水はアルカリ性でもなく、界面活性剤も含まないので、中和がある程度進んだ時点で脱水して洗濯完了としても構わない。しかしながら洗浄水の場合電解質濃度が高いことがあり、そのような場合には中和後の電解質濃度も高く、洗濯物の種類や色によっては乾燥後に塩の結晶が目立つなどの問題が生じることがある。第6実施形態の構成では、中和後の水が電解質除去装置110を通って循環するので、中和されるばかりでなく電解質も除去され、洗濯物に残留する電解質が減少するから、洗浄作業終了後に電解質の塩が洗濯表面に結晶化して洗濯物の外見が損なわれることを防ぐことができる。
【0120】
硬度成分は電解質であるので、電解質除去装置110によって硬度成分も取り除くことができる。もちろん、電解質除去装置110と別個に硬度成分除去装置を設けてもよい。
【0121】
電解質の除去には逆浸透膜の他、電気透析装置やイオン交換樹脂を用いることができる。また、電解質量が十分に低減できているかどうかを判定するため、導電率計などの電解質濃度検出装置を設けてもよい。
【0122】
以上、本発明の各実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。例えば同じ洗濯機であっても横型ドラムを備えたもの、斜めドラムを備えたもの、乾燥機兼用のもの、二槽式のものなど、あらゆる洗濯機に応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、洗濯機、食器洗浄機、洗車装置などの洗浄装置に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の第1実施形態に係る洗濯機の垂直断面図
【図2】給水口の模式的垂直断面図
【図3】洗濯工程全体のフローチャート
【図4】洗浄工程のフローチャート
【図5】すすぎ工程のフローチャート
【図6】脱水工程のフローチャート
【図7】給水口への給水経路の別態様を示す模式的垂直断面図
【図8】本発明の第2実施形態に係る洗濯機の垂直断面図
【図9】本発明の第3実施形態に係る洗濯機の洗浄工程のフローチャート
【図10】本発明の第4実施形態に係る洗濯機の洗浄工程のフローチャート
【図11】本発明の第5実施形態に係る洗濯機の洗浄工程のフローチャート
【図12】本発明の第6実施形態に係る洗濯機の垂直断面図
【符号の説明】
【0125】
1 洗濯機
10 外箱
20 水槽
30 洗濯槽
33 パルセータ
40 駆動ユニット
50 給水弁
50a、50b、50c 出力ポート
51 入力ポート
52a、52b、52c 給水経路
53 給水口
53a 引出し
54a 第1洗剤室
54b 第2洗剤室
54c 仕上剤室
62 排水弁
80 制御部
81 操作/表示部
90、90b 硬度成分除去装置
100 循環経路
102 中和装置
110 電解質除去装置
150 給水弁
150a、150b 出力ポート
151 入力ポート
152a、152b 給水経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤を含まず、低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる第1の洗浄コースと、界面活性剤を含む洗浄水を用いる第2の洗浄コースが選択可能であることを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
低硬度かつアルカリ性の洗浄水を生成するための硬度成分除去手段とアルカリ化手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
界面活性剤を含む洗浄水が、低硬度の水に界面活性剤を添加したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
被洗浄物の汚れ度合を判定する汚れ度合判定手段を備え、被洗浄物の汚れ度合が所定値未満の場合は前記第1の洗浄コースが選択され、所定値以上の場合は前記第2の洗浄コースが選択されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項5】
被洗浄物の汚れ度合を判定する汚れ度合判定手段を備え、前記第1の洗浄コースで洗浄を行った後の被洗浄物の汚れ度合が所定値以上であった場合には前記第2の洗浄コースが追加されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項6】
前記第1の洗浄コースが選択されたときのすすぎ水量を前記第2の洗浄コースが選択されたときのすすぎ水量よりも少なく設定することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項7】
被洗浄物に残留するアルカリ成分を中和する中和手段を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項8】
界面活性剤を含まず、低硬度かつアルカリ性の洗浄水を用いる洗浄装置であって、
被洗浄物に残留するアルカリ成分を中和する中和手段を備えることを特徴とする洗浄装置。
【請求項9】
被洗浄物に残留する電解質を除去する電解質除去手段を備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の洗浄装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−217965(P2006−217965A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31913(P2005−31913)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】