説明

洗浄装置

【課題】汚れ物質の再付着を防止でき、洗浄能力に優れた、また洗浄液面近傍に浮上した汚れ物質を迅速、確実に除去可能な洗浄装置を得る。
【解決手段】搬送アーム5に保持された被洗浄物6が洗浄槽10中の洗浄液4中に浸漬され、汚れ物質である油脂が離脱され洗浄液4の液面近傍に浮上する。この浮上した汚れ物質をスクレーパー2を矢印A方向に動かすことにより手前側に掻き寄せ、しかる後、被洗浄物6を保持した搬送アーム5を矢印B方向に移動させ汚れ物質が掻き寄せられて綺麗になった洗浄液4の液面部分において被洗浄物6を引き上げる。綺麗な液面部分において被洗浄物6を引き上げるので、汚れ物質の再付着を防止でき、洗浄能力に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、洗浄装置に関するもので、例えば油分が付着した工業部品を微細気泡を含有した洗浄液中に連続的に投入浸漬させ、脱脂洗浄する洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工業脱脂洗浄の分野では、フロン系溶剤、有機溶剤、製油系溶剤などが多用されてきた。しかし、これらの物質はオゾン層の破壊、河川、海洋、地下水の水質汚染など環境破壊を引き起こす原因物質であることが明らかになり、これら溶剤を用いた洗浄に替わる環境負荷の小さい洗浄技術の開発が望まれている。前述したような従来の洗浄方法は、洗浄液中に油分を溶解させる溶解洗浄となっており、洗浄処理数の増加に従って洗浄力が低下するという問題があった。これは、油分が付着した被洗浄物を洗浄した結果、洗浄液中に油分が溶かし込まれるという溶解洗浄の根本原理に基づいて生じる問題であり、繰り返し洗浄を行うことで、洗浄液中に溶解している油分の濃度が飽和濃度に近づくため、油分溶解力が低下することに起因している。このため、油分溶解力の低下にあわせて、定期的に洗浄液を交換する必要があった。
【0003】
このような問題に対して、洗浄槽の上部に設けた仕切板によって洗浄槽の上部が洗浄部と取り出し部とに仕切られ、洗浄槽の下部は連通部によって連通するようにされた洗浄槽において、被洗浄物を洗浄部に投入して洗浄した後、仕切板の下方を通って取り出し部へ移動させ取り出し部より引き上げる洗浄装置がある。この場合、汚れ物質を水、洗浄液を有機溶剤とすると、被洗浄物に付着した水を有機溶剤で置換除去するために被洗浄物を洗浄槽の二分された一方である洗浄部に投入して、この領域で水と有機溶剤とを置換し、その際に水と有機溶剤との比重の差によって水が浮上し投入側の液面に水相を形成する。そして、水と有機溶剤との置換が完了した後、被洗浄物は洗浄液面下に設けられた上記連通部を通って移動し、二分された他方である取り出し部(水相が形成されていない方)で引き上げられるため、水の再付着を抑制できるとするものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、別の対策として、洗浄処理槽を洗浄槽とオーバーフロー槽とから構成し、洗浄槽内に複数のノズル管を配設し、オーバーフロー槽に接続された吸込管、ポンプ、フィルタ、及び上記各ノズル管に接続された吐出管とからなる液再循環装置を設け、かつ各ノズル管が洗浄処理液中に浸漬された平板形状ワークの表面に傾斜液流を生成するように構成することにより汚れ物質の液面への浮上を促進し、かつオーバーフローによる液面からの汚れ物質の除去をも促進させる洗浄装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−90585号公報(明細書の第2頁左下欄第19行〜右下欄第20行及び図1)
【特許文献2】実願平4−21547(実開平5−81272号)のCD−ROM(明細書の段落番号0013〜0015及び図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の洗浄装置は以上のように構成され、洗浄槽を洗浄部と取り出し部とに2分するものにおいては、被洗浄物の移動にともなって置換された汚れ物質(水)の一部が一緒に移動するため、洗浄を繰り返すうちに取り出し部の洗浄液中の汚れ物質の濃度が増加し、引き上げられる被洗浄物に再付着することは避けられない。一方、オーバーフローで除去する洗浄装置においては、浮上した汚れ物質をオーバーフローによって除去するのに時間がかかるため、実用的な時間で被洗浄物を洗浄液から取り出そうとすると、その間に洗浄液面に浮遊する汚れ物質が充分に除去されずに残存し被洗浄物に再付着するという問題点がある。また、オーバーフローさせる流量を増加させて迅速に汚れ物質を流し切ろうとすると、大型ポンプなどの高価で大型の設備を必要とする。このような観点から、汚れ物質の再付着を防止でき、洗浄能力に優れた洗浄装置が望まれていた。
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、汚れ物質の再付着を防止でき、洗浄能力に優れた、また洗浄液面近傍に浮上した汚れ物質を迅速、確実に除去可能な洗浄装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る洗浄装置においては、
洗浄槽と搬送装置と掻き寄せ部材とを有する洗浄装置であって、
洗浄槽は、洗浄液を収容するものであり、
搬送装置は、汚れ物質が付着した被洗浄物を洗浄槽に収容された洗浄液に浸漬して汚れ物質を離脱させ洗浄液の液面近傍に浮上させるとともに被洗浄物を洗浄槽中において所定方向に搬送するものであり、
掻き寄せ部材は、洗浄槽内の被洗浄物が搬送される下流側に設けられ、洗浄槽に収容された洗浄液の液面近傍の汚れ物質を予め決められた方向に掻き寄せるものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、
洗浄槽と搬送装置と掻き寄せ部材とを有する洗浄装置であって、
洗浄槽は、洗浄液を収容するものであり、
搬送装置は、汚れ物質が付着した被洗浄物を洗浄槽に収容された洗浄液に浸漬して汚れ物質を離脱させ洗浄液の液面近傍に浮上させるとともに被洗浄物を洗浄槽中において所定方向に搬送するものであり、
掻き寄せ部材は、洗浄槽内の被洗浄物が搬送される下流側に設けられ、洗浄槽に収容された洗浄液の液面近傍の汚れ物質を予め決められた方向に掻き寄せるものであるので、
汚れ物質が掻き寄せられた後の綺麗な液面部分において被洗浄物を引き上げることができるので、汚れ物質の再付着を防止でき、洗浄能力に優れた洗浄装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1である洗浄装置の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態2である洗浄装置の構成を示す斜視図である。
【図3】搬送アームが弾性板部材間を通過する様子を説明するための説明図である。
【図4】本発明の実施の形態3である洗浄装置の構成を示す斜視図である。
【図5】図4の洗浄装置のスクレーパーの動作を説明するための説明図である。
【図6】図4の洗浄装置の要部を示す要部側断面図である。
【図7】本発明の実施の形態4である洗浄装置の変形例の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1である洗浄装置の構成を示す斜視図である。図1において、洗浄装置100は次のように構成されている。洗浄液4が収容される洗浄槽10の内部に、掻き寄せ部材としてのスクレーパー2及び気泡発生装置としての微細気泡発生装置3が設置されている。スクレーパー2は、詳細構成は後述するが、高さGの長方形の板状の形状を有し、図1に示すように洗浄液4に深さHだけ浸漬されている。なお、洗浄槽10中の洗浄液4の量の変動により深さHは変化するが、スクレーパー2の下部が洗浄液4から露出することない。スクレーパー2は、図示しない駆動装置により矢印Aで示す方向に駆動され、再び元の位置に戻される。本実施の形態においては、スクレーパー2として、詳細構成の図示を省略しているがフッ素系樹脂の板をステンレスの板状部材に保持させたものを用いた。また、微細気泡発生装置3は、洗浄槽10の手前側にベンチュリータイプのインジェクタ(以後、単にインジェクタと称する)3a,3bを、奥側にインジェクタ3c,3dを各々配し、微細気泡発生装置3として、合計4個のインジェクタを配した構成とされている。
【0011】
洗浄槽10の上部には搬送装置としてのオーバーヘッドコンベア(図示せず)の搬送アーム5が設けられ、被洗浄物6を保持し、洗浄槽10の中の洗浄液4に浸漬し、洗浄液4中を矢印B方向に移動可能にされている。なお、スクレーパー2の駆動方向である矢印Aの方向は、被洗浄物6が搬送される方向である矢印B方向と直交する方向である。洗浄装置100は、以上のように構成されている。なお、本実施の形態において、被洗浄物6は、例えば円盤形状で直径が約70mm、板の厚みが5mmのステンレス鋼板であって汚れ物質として油分が付着したものである。
【0012】
微細気泡発生装置3は、微細気泡を生成する機能を有し、微細気泡を大量に含有した洗浄液4を生成・放出するものである。なお、被洗浄物6は4個のインジェクタ3a〜3dの間に位置するようにして浸漬される。微細気泡発生装置3のインジェクタ3a〜3dは、自らが放出した微細気泡を大量に含有した洗浄液4が搬送アーム5に保持された被洗浄物6の周辺を通過して液面に浮上するように設置されている。微細気泡発生装置3では、微細気泡を大量に含有した洗浄液4を、水槽内を対流して洗浄槽10内部に保持された洗浄液4の全てに微細気泡を行き渡らせるに十分な量を生成しているため、洗浄液4は多寡の分布はあるものの、その全量が微細気泡を含有している。微細気泡を含有する洗浄液4は、被洗浄物6の表面に触れることで、疎水性の微細気泡の作用によって被洗浄物6の表面に付着している油分などの疎水性の汚れ物質を気泡表面へ吸着、除去するとともに液面に浮上させる。
【0013】
なお、スクレーパー2は、最も簡単には略長方形の板状のものを用いることができ、素材としては、金属、樹脂、木材などで、洗浄液4に浸漬した場合に形状を維持できるものであれば、任意に選定することができるが、金属、樹脂、ゴムなどの素材で製作された表面粗さの小さい板状部材やこのような板状部材をステンレス鋼板で保持するようにしたものを用いれば、洗浄液の浸透や表面への付着を抑制でき、好ましい。さらに、金属を選定する場合には耐食性に優れたステンレス鋼板を、樹脂を選定する場合には洗浄液4を昇温して洗浄効率を高める場合にも対応できるように、耐熱性が比較的高く、吸水性が低いフッ素系樹脂製やシリコーン樹脂製のものなどを選定することが好ましい。ここで、図1では最も簡便な例としてスクレーパー2を略長方形の板状としているが、洗浄液4の液面上に浮遊する汚れ物質を効率よく捕集できるものであれば、円筒形その他の形状のものであってもよいし、板材に限らず直線状に植毛したブラシや円筒状のブラシなどであってもよい。
【0014】
また、微細気泡発生装置3としては、微細連通孔を有する樹脂シートやセラミックス片、ベンチュリータイプのインジェクタ、あるいは微細な連通孔を有するノズルから液を噴射して液中に溶存する気体を気泡化する方法など、市場に流通している部材、あるいは既に開示されている方法などいずれのものを使用しても洗浄力を得ることができるが、中でも微細気泡を発生するために必要とするエネルギー量の抑制、気泡径・気泡量の安定性、洗浄力の点でインジェクタが優れており、かつ簡易に用いることができるため、好適である。本実施の形態においては、上記のようにインジェクタ3a〜3dを合計4個を配した構成としている。さらに、搬送装置としては、被洗浄物6を確実に保持して所望の時間、洗浄液4に浸漬するための調整ができ、かつスクレーパー2の駆動径路を阻害するものでなければ、水中ロボット搬送や水中に没したレール、チェーンコンベア等々、様々なものを用いることができる。
【0015】
ここで、本洗浄装置によって好適に洗浄できる被洗浄物としては、例えば、種々の形状の機械加工部品、樹脂成形品、電子部品、レンズなどのガラス部品その他を洗浄することができ、さらには業務用食器洗浄機として金属、樹脂、ガラス、陶器などの食器を洗浄することもできる。
【0016】
次に、本実施の形態に係る洗浄装置100における洗浄方法について、具体的に数値を用いて例示する。各インジェクタ3a〜3dを用いて前述した直径約70mm、暑さ5mmのステンレス部品を洗浄する場合、被洗浄物6の周囲に配置されるインジェクタ3a〜3dの各々の配置間隔は10〜100mmの範囲が好ましく、インジェクタ3a〜3dの微細気泡放出口から被洗浄物6までの距離は20mm〜300mmの範囲が好ましい。また、インジェクタ3a〜3dの微細気泡放出口から洗浄液4の液面までの距離を10〜500mmの範囲とすることが好ましく、さらには、50〜100mmの範囲とすることがより好ましい。
【0017】
この微細気泡発生装置3、洗浄液4の液面、被洗浄物6の位置関係は、汚れ物質を浮上分離するために要する時間と、微細気泡発生装置3がつくり出す対流による汚れ物質の巻き込みを考慮して選定されている。汚れ物質を浮上分離する時間を短縮するためには、微細気泡を放出する位置を液面近くとする方が好ましいが、一方で液面に近すぎた場合には、浮上分離されて液面に浮遊している汚れ物質を巻き込んだ対流を生じてしまうため、汚れ物質を被洗浄物6に再付着させる場合があり、安定して高い洗浄能力を維持することが困難になる。
【0018】
ここで、本実施の形態においては、洗浄液4としては、添加剤を少量添加したイオン交換水(以下、添加剤添加イオン交換水という)を用いた。添加剤添加イオン交換水においては、添加剤の濃度を10〜10000ppmの範囲に設定することが好ましく、さらには、100〜1000ppmの範囲に設定することがより好ましい。この場合は添加剤の効果が減衰することによる洗浄液4の交換頻度を低減することができ、さらにはイオン交換水と比較すると高価である添加剤の量を必要最小限とすることができ、洗浄装置のランニングコストを低減することができる。ここで、添加剤は微細気泡発生装置3によって生成された微細気泡が洗浄液4の中で合一(二つ以上の気泡が合体して1つの大きな気泡になること)することを防止し、長時間安定化させる機能を有する物質で、例えば特開2006−206896号公報に開示されている微細気泡発生用界面活性剤を用いることが考えられる。
【0019】
なお、特開2006−206896号公報に開示されている微細気泡発生用界面活性剤とは、次のようなものである。次の一般式(1)で示される、活性水素原子含有化合物(a)の(ポリ)オキシアルキレン付加物(A)からなり、該(A)の0.02重量%水溶液の、20℃におけるロス・マイルス試験により測定される起泡力が50mm以下であることを特徴とする微小気泡発生用界面活性剤。
Z−[(AO)n−H]p (1)
(式中、Zはp価の活性水素原子含有化合物(a)から活性水素原子を除いた残基;Aは炭素数1〜8のアルキレン基;nは1〜400の整数;pは1〜100の整数である。)
【0020】
次に、本実施の形態に係る洗浄装置において被洗浄物6を洗浄する作用について説明する。被洗浄物6は被洗浄物6を投入する領域(図1に示す洗浄槽10における左側)で洗浄液4に浸漬されしばらく停止した後、矢印Bに示す方向に搬送アーム5によって搬送される。その過程において、微細気泡発生装置3によって生成・放出された微細気泡に曝されるため、被洗浄物6の表面に付着している汚れ物質は微細気泡に吸着され、被洗浄物6の表面から取り除かる。汚れ物質は、自身と洗浄液との比重差及び気泡の浮力によって浮上し、洗浄液4の液面近傍に汚れ物質を高濃度に含んだ層を形成する。
【0021】
被洗浄物6は、一定時間、微細気泡に曝されつつ、洗浄液4内を矢印Bの方向に搬送されるが、搬送に先立ちた洗浄液4中にその下方部が浸漬されたスクレーパー2を矢印Aの方向に駆動し、洗浄液4の液面に形成された汚れ物質を高濃度に含んだ層を隅の方に掻き寄せる。そして、その直後に洗浄槽10の右方へ被洗浄物6が搬送され、綺麗になった液面から被洗浄物6が取り出される。ここで、被洗浄物6を多数洗浄したために洗浄液4の液面近傍に汚れ物質を高濃度に含んだ層が存在しスクレーパー2の作用によっても完全に除去することが困難である場合は、一定数量の被洗浄物6を洗浄するごとに、柄杓などを用いて汲み出し、加えて、汚れ物質とともに排出され少なくなった洗浄液4の液面が所望の液面高さになるまで洗浄液を補給する。
【0022】
このような洗浄装置100を用いた場合、次のような効果を奏する。従来のように、洗浄液4の液面にできた汚れ物質の層を取り除くためにオーバーフローのみを用いて除去し被洗浄物6の表面への汚れ物質の再付着を低減する方法は、汚れ物質の濃度を低減する思想であるため、物理的に除去する本実施の形態とは異なり、一定以上の洗浄能力を得るためにはオーバーフローする洗浄液の量を大幅に増加することが必要である。そのため、オーバーフローした分の洗浄液を補給するために高価で設置スペースが大きい洗浄液補給装置が必要である。これに対して、スクレーパー2を用いることにより、迅速に、かつ確実に汚れ物質を被洗浄物6の取り出し径路から除去することができ、安価でスペースの小さい、洗浄能力に優れた洗浄装置を得ることができる。
【0023】
さらに、洗浄液4として、イオン交換水のみを用いた場合と、添加剤添加イオン交換水を用いた場合について、洗浄能力を確認したところ、イオン交換水のみを用いた場合には微細気泡が被洗浄物6の表面に触れる前に合一してしまい、添加剤添加イオン交換水を用いた場合に比し、洗浄後の付着油分の残留重量が数十〜数百倍となり、十分な洗浄能力を得ることができなかった。また、本実施の形態では洗浄液4に添加剤添加イオン交換水を使用していることから、汚れ物質の大半を占める油を、洗浄液4中に溶解させることなく、浮上分離することができる。従来の炭化水素洗浄液やアルカリ洗浄液などの溶剤を使用する洗浄方法では、油を洗浄液中に溶解させ、洗浄する。このため、洗浄処理を重ねるに従って、洗浄液中に蓄積される油分が増加し、洗浄力の低下、及び洗浄液の短寿命化の原因となっていた。本実施の形態では油を洗浄液中に溶解させることなく、浮上分離することが可能であるため、洗浄力の経時変化が少なく、長期間洗浄液を交換することなく使用することができる。
【0024】
実施の形態2.
図2及び図3は、実施の形態2を示すものであり、図2は洗浄装置の構成を示す斜視図、図3は搬送アームが弾性板部材間を通過する様子を説明するための説明図である。図2において、洗浄装置200は次のように構成されている。洗浄槽210は、図1の洗浄槽10と同様のものであり、4枚の板材211,212,213,214を組み合わせて水密直方体の箱に形成されている。洗浄槽210には、図1における左右方向のほぼ中央に、仕切装置7が設けられている。仕切装置7は、洗浄槽210の上端からの寸法がRで、洗浄液中に寸法Sだけ没した状態に設置され、洗浄槽210をその上部において第1及び第2の槽210a,210bに2分割するとともに仕切装置7の下部と洗浄槽210の板材211と板材212とにより連通部210cを形成し、第1及び第2の槽210a,210bを互いに連通するようにしている。なお、第1の槽210aは洗浄エリア、第2の槽210bはリンスエリアである。洗浄槽210には、洗浄液が収容され、その液面は仕切装置7により洗浄エリア液面204aとリンスエリア液面204bとに仕切られる。なお、仕切装置7の洗浄液中に浸漬される寸法Sは、洗浄槽210中の洗浄液の量によって変動するが、仕切装置の下端部が洗浄液から露出することはない。
【0025】
仕切装置7は、図2及び図3(a)に示すように4分割された構造をしており、弾性板部材71a,71bを有する弾性仕切板71、及び剛体板部材72a,72bを有する剛体仕切板72を備え、全体として高さRの板状のものとされている。弾性板部材71a,71bは、弾性を有する板状のシリコーンゴムで形成されている。剛体板部材72a,72bは、剛性の高い板状の材料例えばステンレス鋼板で形成されている。そして、弾性板部材71a及び弾性板部材71bは互いにほとんど隙間が無い状態で隣接して配置されており、この弾性板部材71a,71bを挟んで剛体板部材72a、72bが配置されている。
【0026】
剛体板部材72aと弾性板部材71aとは互いに隙間がないようにして接着され、弾性板部材71bと72bとは互いに隙間がないようにして接着されている。さらに、剛体板部材72a,72bは各々洗浄槽10の内壁との間にすなわち板材211,212との間に隙間が無いようにして取り付けられている。また、弾性板部材71a,71bは図3(b)に示すように弾性変形して搬送アーム5の移動方向である矢印B方向と直交する方向にに開裂可能であり、被洗浄物6を保持した搬送アーム5が矢印B方向に通り抜けできるようにされている。
【0027】
そして、弾性板部材71a,71bは、搬送アーム5が通過するとき搬送アーム5が弾性板部材71a,71bに加える外力によって弾性変形し、搬送アーム5が通過できる隙間が生じうるようにされており、かつ洗浄槽210は仕切装置7の下方においては仕切られておらず第1の槽210aは連通部210cを介して第2の槽210bと連通しており、被洗浄物6が仕切装置7に触れずにその下方を通過できる構造となっている。ここで、弾性板部材71a,71bとしては、シリコーンゴム,NBR(ニトリルゴム)などの適度に弾性を有するゴム素材を用いることが好ましく、また、剛体板部材72a,72bとしては、高剛性合成樹脂、ステンレス鋼板、めっきを施された金属板などの剛性の高い素材を用いるのが好ましい。本実施の形態では、上述のように弾性仕切板71にシリコーンゴムを、剛体仕切板72にステンレス鋼板を用いている。
【0028】
微細気泡発生装置3は、仕切装置7によって2分割された一方の槽である第1の槽210aの洗浄液4の中に設置されている。搬送アーム5は、被洗浄物6を保持、搬送する手段であって、洗浄槽210の外で被洗浄物6を保持し、第1の槽210a内の洗浄液4に被洗浄物6を浸漬させた状態で所定時間停止させ、微細気泡発生装置3で生成・放出される微細気泡を大量に含有する洗浄液4に曝す。その後、スクレーパー2を矢印Aの示す方向に駆動し、液面の汚れ物質を隅に移動させ除去した直後に被洗浄物6を洗浄液4に浸漬したまま矢印B方向に搬送し連通部210cを通過させ、リンスエリアである第2の槽210bへ移動させてから被洗浄物6を洗浄液4から引き上げる。
【0029】
図3(b)に示す通り、洗浄液4の中で被洗浄物6を洗浄エリア(第1の槽210a)からリンスエリア(第2の槽210b)に搬送する際、搬送アーム5は弾性板部材71a,71bを弾性変形させて押しのけて通過する。このため、搬送アーム5は、弾性板部材71a,71bの復元力よりも大きい駆動力と、復元力に耐える強度を有するものとする必要がある。その他の構成については、図1に示した実施の形態1と同様のものであるので、相当するものに同じ符号を付して説明を省略する。
【0030】
本実施の形態においては、実施の形態1で示した図1の洗浄装置100に加えて、仕切装置7を設置し洗浄液の液面を洗浄エリア液面204aとリンスエリア液面204bとに分割することにより、被洗浄物6の表面から除去され液面上に浮遊する汚れ物質の濃度が高い領域(洗浄エリア)と低い領域(リンスエリア)とに分けることができるため、スクレーパー2を駆動させた後、被洗浄物6を取り出すまでの間に液面に拡がる汚れ物質の濃度を大幅に低減することができ、被洗浄物6を取り出す際に被洗浄物6への汚れ物質の再付着を防止して、さらに洗浄能力の優れたものとすることができる。
【0031】
また、本実施の形態の変形例として、洗浄槽210の上方に設けられた搬送アーム5に被洗浄物6を保持させたままを洗浄液4中を移動させ弾性板部材71a,71bを弾性変形させ押しのけて通過させるものの代わりに、仕切装置7の下を潜る液中搬送手段として例えば洗浄槽210の底部に設けられたレール及びこのレール上を走行する台車を設け、被洗浄物6を第2の槽210bに移動させた後、洗浄槽210の上方に設けた取出アームにて被洗浄物6を掴んで引き上げるなどの搬送装置とすれば、仕切装置を一枚の板材で構成するなど構成を簡易にでき、また搬送アーム5とスクレーパー2とが干渉するおそれもなくなる。従って、スクレーパー2の駆動タイミングを、より被洗浄物6の引き上げタイミングに近づけることができるため、一層被洗浄物6への汚れ物質の再付着を抑制することができ、高い洗浄能力を得ることができる。なお、搬送装置は、被洗浄物6を洗浄液4中を連続的に移動させる方式のものであってもよい。このときは、被処理物6が洗浄液4から引き上げられつつある間は、スクレーパー2を移動させないようにし、被洗浄物6が洗浄液4中に没している間に作動させる。
【0032】
実施の形態3.
図4〜図6は実施の形態3である洗浄装置を示すものであり、図4は洗浄装置の構成を示す斜視図、図5はスクレーパーの動作を説明するための説明図、図6は図4の洗浄装置の要部を示す要部側断面図である。図4において、洗浄装置300は次のように構成されている。洗浄槽310は、図2の洗浄槽210と同様のものであり、4枚の板材311,312,313,314を組み合わせて水密の箱に形成されている。なお、図4における手前の板材311には、矩形状の切り欠きを形成する溢流部としての切欠き形成部311a,311bが設けられている。洗浄槽310は、仕切装置7により洗浄エリアである第1の槽310a、リンスエリアである第2の槽310bに仕切られるとともに、第1の槽310aと第2の槽310bが仕切装置7の下方において仕切装置7と板材311及び板材312にて形成される連通部310cにより連通されている。
【0033】
そして、第1及び第2の槽310a,310bの手前側の板材311に設けられた切欠き形成部311a,311bに各々隣接してオーバーフロー液貯留槽としてのオーバーフロー槽81,82が設置されており、第1及び第2の槽310a,310bの洗浄液304a、洗浄液304bが切欠き形成部311a,311bを通って自然に流入するようにされている。なお、図4〜図6において、洗浄槽310の第1及び第2の槽310a,310bから各々オーバーフローする洗浄液を、矢印C,Dで示している。本実施の形態では、流出する汚れ物質とオーバーフローする洗浄液304a,304bとを合計した洗浄液の量を2〜5リットル/分としている。このオーバフローした洗浄液304a,304bは、別途設けられた沈静槽に貯留して汚れ物質を浮上分離させた後、洗浄槽210に戻され再使用される。
【0034】
掻き寄せ部材としてのスクレーパー302は、図6に示すように、第2の槽310bの板材311の切欠き形成部311b近傍の位置P1において一旦洗浄液304bから引き上げられて切欠き形成部311bを上方に交わして通過した後、図5及び図6における位置P2まで下降できるようにされている。そして、位置P2において、オーバーフローする洗浄液304bに触れ、すなわちオーバーフローする洗浄液304bにて流し掛けられ、オーバーフローする洗浄液304bに含まれる微細気泡の作用によってスクレーパー302の表面に付着した汚れ物質が流し落とされる。その他の構成については、図2に示した実施の形態2と同様のものであるので、相当するものに同じ符号を付して説明を省略する。
【0035】
また、図7は図4の洗浄装置の変形例を示すものであり、図4に示した洗浄装置300に対して、洗浄エリアであり高濃度の汚れ物質が排出される第1の槽310aに隣接して設けられたオーバーフロー槽91に、樋92と受入槽としての容器93と受入槽用掻き出し部材としてのスクレーパー95とを設置したものである。なお、スクレーパー95の幅は、オーバーフロー槽91の内法寸法(洗浄液304aがオーバフローして流入する矢印C方向の寸法)いっぱいの寸法に設定されている。そして、スクレーパー95を矢印Jの方向に移動させることにより、オーバーフロー槽91中の洗浄液の液面近傍に浮上する汚れ物質を掻き出し樋92を介して容器93に流し込む。
【0036】
以上のように、図4の洗浄装置300によれば、第1及び第2の槽310a,310b中の洗浄液304a,304bをオーバーフロー槽81,82へオーバーフローさせて自然流出させることにより、洗浄液の液面304a,304bに浮遊する汚れ物質を洗浄液面から取り除き、液面を清浄に保つことができる。加えて、スクレーパー302を駆動させた場合のスクレーパー302と第2の槽310bの側壁(板材313)との間、及び仕切装置7とスクレーパー302との間に間隙があって間隙から汚れ物質が回り込んでも、再びスクレーパー302を動作させることにより迅速に除去できるため、液面に汚れ物質が浮遊することを回避して被洗浄物6への汚れ物質の再付着を防止できるため、高い洗浄性能を維持することができる。
【0037】
また、実施の形態1で述べたような柄杓などを用いて汚れ物質を汲み出す作業が不必要となるため、メンテナンス性のよい洗浄装置とすることができる。さらに、発明者らの実験結果によれば、従来のオーバーフローのみを用いて洗浄液面に浮遊する汚れ物質を除去する方式と比較すると、オーバーフロー量を約50%削減することができた。これは、特に液面の清浄度が必要となるリンスエリア(第2の槽310b)において、スクレーパー302を用いて強制的に汚れ物質を除去する構成としたことにより得られた効果であり、洗浄装置の低コスト化と省スペース化を実現することが可能となった。
【0038】
なお、本実施の形態では、オーバーフローする洗浄液304a,304bなどの合計流量を2〜5リットル/分としているが、オーバーフロー量は目標とする洗浄性能、洗浄槽310の大きさ、微細気泡発生装置3の方式、及び数などによっても左右されるため、所望の洗浄能力が得られる構成に設定することが肝要である。さらに図4に示した洗浄装置300は、オーバーフローする洗浄液304bに含まれる微細気泡の作用によってスクレーパー302の表面に付着した汚れ物質を流し落とすために、スクレーパー302を図5に示す位置P2で一定時間停止させるようにしている。従って、長期間洗浄装置を使用してもスクレーパー302の表面に汚れ物質が蓄積してスクレーパー302の早期交換や頻繁な清掃を要する事態を防止することができる。従って、メンテナンス時間を低減でき、さらにメンテナンス性が高く、ランニングコストの低い洗浄装置を得ることができる。
【0039】
また、図7に示す洗浄装置400においては、特に高濃度の汚れ物質が排出される洗浄エリア(第1の槽310a)からオーバフローする洗浄液304aを受け入れるオーバーフロー槽91の内法寸法いっぱいの寸法に設定されたスクレーパー95を設置して、矢印Jの方向に駆動することで、効率よく汚れ物質を樋92を経由して容器93に流入させ捕集することができる。このため、大掛かりな油水分離装置を必要としないため、さらなる洗浄装置の省スペース化を図ることができる。
【符号の説明】
【0040】
10,210,310 洗浄槽、2,302 スクレーパー、3 微細気泡発生装置、
5 搬送アーム、6 被洗浄物、7 仕切り装置、71 弾性仕切板、
71a,71b 弾性板部材、81,82,91 オーバーフロー槽、
95 スクレーパー、311 板材、210a,310a 第1の槽、
210b,310b 第2の槽、210c,310c 連通部、
311a,311b 切欠き形成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽と搬送装置と掻き寄せ部材とを有する洗浄装置であって、
上記洗浄槽は、洗浄液を収容するものであり、
上記搬送装置は、汚れ物質が付着した被洗浄物を上記洗浄槽に収容された上記洗浄液に浸漬して上記汚れ物質を離脱させ上記洗浄液の液面近傍に浮上させるとともに上記洗浄槽中において上記被洗浄物を所定方向に搬送するものであり、
上記掻き寄せ部材は、上記洗浄槽内の上記被洗浄物が搬送される下流側に設けられ、上記洗浄槽に収容された上記洗浄液の液面近傍の上記汚れ物質を予め決められた方向に掻き寄せるものである、
洗浄装置。
【請求項2】
仕切装置が設けられたものであって、
上記仕切装置は、仕切部材を有し、上記仕切部材により上記洗浄槽の上部を上記移動方向に第1及び第2の槽に仕切るとともに上記洗浄槽の下部において上記第1及び第2の槽を互いに連通させる連通部を設けこの連通部を上記搬送装置により搬送される上記被洗浄物が通過しうるようにしたものであり、
上記搬送装置は、上記被洗浄物を上記第1の槽に浸漬した後上記連通部を経由して上記第2の槽に搬送し上記第2の槽から引き上げるものであり、
上記掻き寄せ部材は、上記第2の槽に収容された上記洗浄液の液面近傍の上記汚れ物質を上記予め決められた方向に掻き寄せるものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
上記搬送装置は、上記被洗浄物を上記第1の槽から上記第2の槽へ上記洗浄液に浸漬された状態で上記仕切部材と干渉することなく搬送する液中搬送手段を有するものである、
ことを特徴とする請求項2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
上記第1及び第2の槽の少なくとも一方は、溢流部を有し、上記溢流部から上記洗浄液が流出しうるようにされたものである、
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の洗浄装置。
【請求項5】
上記第2の槽は、上記溢流部を有するものであり、
上記掻き寄せ部材は、上記第2の槽の上記溢流部から流出する上記洗浄液に触れうるようにされたものである、
ことを特徴とする請求項4に記載の洗浄装置。
【請求項6】
受入槽と受入槽用掻き出し部材とが設けられたものであって、
上記第1の槽は、上記溢流部を有するものであり、
上記受入槽は、上記第1の槽の上記溢流部から流出する上記洗浄液を受け入れるものであり、
上記受入槽用掻き出し部材は、上記受入槽に受け入れられた上記洗浄液の液面近傍の上記汚れ物質を上記受入槽外に掻き出すものである、
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の洗浄装置。
【請求項7】
上記洗浄槽は、上記洗浄液として所定の添加剤を添加した水を収容するものであり、
上記搬送装置は、上記汚れ物質として油分が付着した上記被洗浄物を搬送するものである、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−255259(P2011−255259A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129557(P2010−129557)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】