活性炭素繊維、それを用いた排水処理装置及び活性炭素繊維の評価方法
【課題】液中における処理能力の高い活性炭素繊維、それを用いた排水処理装置及び活性炭素繊維の評価方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る活性炭素繊維は、ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維である触媒活性を備えてなるものであり、ゼロ電荷点が高い活性炭素繊維を用いることで、酸化力が高い設備のコンパクト化を図ることができることとなる。また、ゼロ電荷点により液相酸化速度を定量的に把握することができるので、定量的に活性炭素繊維を評価することができる。また、ゼロ電荷点により酸化速度を把握できるので、活性炭素繊維の劣化状況や寿命を容易に把握することができる。
【解決手段】本発明に係る活性炭素繊維は、ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維である触媒活性を備えてなるものであり、ゼロ電荷点が高い活性炭素繊維を用いることで、酸化力が高い設備のコンパクト化を図ることができることとなる。また、ゼロ電荷点により液相酸化速度を定量的に把握することができるので、定量的に活性炭素繊維を評価することができる。また、ゼロ電荷点により酸化速度を把握できるので、活性炭素繊維の劣化状況や寿命を容易に把握することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭素繊維、それを用いた排水処理装置及び活性炭素繊維の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭や活性炭素繊維は活性炭素繊維の吸着性能に着目して様々な分野で利用されている。
従来、ピッチ系またはPAN系の活性炭素繊維を排ガス中の脱硫、脱硝作用を有する触媒として用いることが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、硫化ナトリウム含有水溶液の酸化処理方法及びその触媒として疎水処理を施していない活性炭素繊維を用いることが提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
さらに、ピッチ系の活性炭素繊維を主要な吸着材とする浄水器として利用されている。特に、活性炭素繊維の水分吸着量を下げる方法として、不活性ガス中で熱処理する方法が有効である。すなわち、賦活処理された活性炭素繊維をさらに700℃以上1300℃以下で、好ましくは10〜60分熱処理することにより、水分吸着量が著しく低下し、ハロゲン化炭化水素の吸着除去に適しかつ充填材等として取扱いの際に繊維の形態が崩れることのない強度を有した活性炭素繊維が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3272366号公報
【特許文献2】特許第1831642号公報(特開昭61−257238号公報)
【特許文献3】特許第2967389号公報(特開平7−145516号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の、活性炭素繊維を用いての処理対象は、ガス中の硫黄酸化物などの処理であり、排水中の微量有害物質を効率的に処理する手法が確立されていないので、液中における処理能力の高い活性炭素繊維の出現が切望されている。
【0007】
また、活性炭素繊維の性能を評価するに際して、活性炭素繊維の比表面積、細孔容積、細孔径などにより、定量的な活性炭素繊維の性能を評価をすることを試みているが、これらの評価指標では、酸化速度との良好な相関関係を有することが見出せないという課題がある(例えば図14〜図16参照)。
【0008】
そこで、定量的に活性炭素繊維の酸化速度を評価する手法の確立が切望されている。これは、特に活性炭素繊維を製造した場合や、再生処理した場合における性能評価を行い、所定の酸化性能を有するか否かを判断する材料となるので、このような指標の確立も切望されている。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑み、液中における処理能力の高い活性炭素繊維、それを用いた排水処理装置及び活性炭素繊維の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維である触媒活性を備えてなることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記触媒活性が酸化触媒活性であることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0012】
第3の発明は、第1又は2の発明において、活性炭素繊維がPAN系の活性炭素繊維であることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0013】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、カーボンファイバ原料を800〜950℃で賦活処理してなることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0014】
第5の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、純水中に酸を溶解させ、所定のpHの酸性溶液とし、その後アルカリ溶液で、中和滴定し、ブランク滴定曲線を得ると共に、所定のpHの酸性溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、アルカリ溶液で中和滴定し、活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線を得た後、この活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線とブランク曲線とにおいて、終点側で一致した値におけるpH値をゼロ電荷点とすることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0015】
第6の発明は、第1乃至4のいずれか一つの活性炭素繊維を用い、排水処理してなることを特徴とする排水処理装置にある。
【0016】
第7の発明は、第1乃至4のいずれか一つの活性炭素繊維を被処理液中に浸漬する浸漬槽を有し、該浸漬槽に被処理水を連続的又は間欠的に供給し、排水処理することを特徴とする排水処理装置にある。
【0017】
第8の発明は、第7の発明において、浸漬槽に、イオン強度の高い電解水を浸漬槽に添加することを特徴とする排水処理装置にある。
【0018】
第9の発明は、第8の発明において、浸漬槽の前段側又は後段側に、光触媒槽又はオゾン処理槽のいずれか一方又は両方を設けることを特徴とする排水処理装置にある。
【0019】
第10の発明は、活性炭素繊維を浸漬する浸漬槽を有し、浸漬槽に浸漬した状態でゼロ電荷点を測定し、ゼロ電荷点の高低により、活性炭素繊維の触媒活性度合いを評価することを特徴とする活性炭素繊維の評価方法にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ゼロ電荷点が高い活性炭素繊維を用いることで、酸化力が高い設備のコンパクト化を図ることができることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、活性炭素繊維のゼロ電荷点と酸化速度との関係を示す図である。
【図2】図2は、ゼロ電荷点を求めるアルカリ滴定量と、pH値との関係図である。
【図3】図3は、は活性炭素繊維の表面官能基の概念図(液中に浸漬した状態)である。
【図4】図4は、活性炭素繊維の表面分析結果を示すチャートである。
【図5】図5は、活性炭素繊維を純粋に浸漬した前後におけるpHの挙動を示す図である。
【図6】図6は、賦活条件(温度、時間)と酸化速度との関係図である。
【図7】図7は、賦活処理(900℃で2.5時間)の後、焼成処理をしない場合と、焼成処理(1100℃で1時間)を行った場合との酸化速度の相違を示す図である。
【図8】図8は、活性炭素繊維を用いて、有機物であるフェノールの分解試験をおこなった結果を示す。
【図9】図9は、活性炭を用いて、有機物であるフェノールの分解試験をおこなった結果を示す。
【図10】図10は、活性炭素繊維を用いて、亜硝酸の酸化分解試験をおこなった結果を示す。
【図11】図11は、活性炭素繊維の投入の有無によるpHの上昇を確認する試験結果を示す図である。
【図12】図12は、活性炭素繊維を用いてアンモニアの酸化分解試験をおこなった結果を示す図である。
【図13】図13は、試験例3の処理装置の構成図である。
【図14】図14は、比表面積と酸化速度との関係図である。
【図15】図15は、細孔容積と酸化速度との関係図である。
【図16】図16は、細孔径と酸化速度との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0023】
本発明による実施例に係る活性炭素繊維、それを用いた排水処理装置及び活性炭素繊維の評価方法について、図面を参照して説明する。
図1は、活性炭素繊維のゼロ電荷点(PZC:potential of zero charge)と酸化速度との関係を示す図である。図2は、ゼロ電荷点を求めるアルカリ滴定量と、pH値との関係図である。図3は、活性炭素繊維の表面官能基の概念図(液中に浸漬した状態)である。図4は、活性炭素繊維の表面分析結果を示すチャートである。図5は、活性炭素繊維を純粋に浸漬した前後におけるpHの挙動を示す図である。図6は、賦活条件(温度、時間)と酸化速度との関係図である。
【0024】
本発明に係る活性炭素繊維は、ゼロ電荷点が7(好適には8.0、さらに好適には9.0)以上の活性炭素繊維である触媒活性を備えてなるものである。
図1に示すように、ゼロ電荷点が8.5以上から酸化速度が上昇するのが確認される。ここで、図1の横軸はゼロ電荷点(pH)であり、縦軸は酸化速度(mmol/l/min)である。
【0025】
本発明で触媒活性とは、酸化触媒活性をいうが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば分解反応活性、置換反応活性、水素化反応活性などがある。
【0026】
ここで、本発明でゼロ電荷点の計測は以下のように行う。
先ず、純水中に酸(例えば1Nの硫酸)を溶解させ、所定のpHの酸性溶液(例えばpH=3)とし、その後アルカリ溶液(例えば1Nの水酸化ナトリウム)で、中和滴定し、ブランク滴定曲線(図2中、ブランク曲線)を得ると共に、所定のpHの酸性溶液(pH=3)中に活性炭素繊維を浸漬し、アルカリ溶液(例えば1Nの水酸化ナトリウム)で中和滴定し、活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線(図2中、ACF浸漬曲線)を得た後、この活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線とブランク曲線とにおいて、終点側で一致した値におけるpH値を「ゼロ電荷点」とする。
よって、ゼロ電荷点は固体塩基性の指標をいう。
図2の場合には、ゼロ電荷点は10.0である。
【0027】
図1の活性炭素繊維のゼロ電荷点と酸化速度との関係を示す図は、複数の製造条件の異なる活性炭素繊維のゼロ電荷点と酸化速度との関係を示すものである。
図1では、海水中のSO2の酸化条件について確認したものである。ここで、液のpHは3であり、液温度は50℃、0.5gの活性炭素繊維(ACF)を0.5Lの海水に浸漬してその酸化速度を求めた。この結果、図1に示すように、ゼロ電荷点の値と触媒活性とが相関関係を有する。
ここで、活性炭素繊維を評価する他の方法としては、図14に示すような比表面積と酸化速度との関係、図15に示すような細孔容積と酸化速度との関係、図16に示すような細孔径と酸化速度との関係等があるが、これらの図面に示すように、分布が広範であり、相関関係を見いだすことは困難である。
【0028】
ここで、ゼロ電荷点の値と触媒活性とが相関関係を有するのは以下の理由によるものと推定される。
活性炭素繊維の表面には賦活処理により=O基、−OH基、−NH2基などが存在しており、これらがルイス塩基としての電子供与体として機能し、酸化能力を発揮する。
【0029】
図3に示す活性炭素繊維の表面官能基の概念図(液中に浸漬した状態)に示すように、表面には=O基、−OH基、−NH2基などが存在しており、水溶液に浸漬された場合には、水中のプロトン(H+)を引き寄せている。ここで、活性炭素繊維の表面はマイナス(−)側に電気的にチャージされているので、この引き寄せ作用が発揮される。なお、活性炭素繊維の表面には、π電子も存在しており、前記官能基とπ電子との相互作用により、引き寄せ効果をさらに向上させている。
このプロトンの引き寄せ効果により、液中にはOH-が解離し、顕在化される結果、塩基性を奏することとなる。
よって、この塩基性の程度をゼロ電荷点により確認することで、触媒活性に寄与する酸素含有官能基の量を推定することができる。
【0030】
図4は、活性炭素繊維の表面分析結果を示すチャートである。図4に示すように、活性炭素繊維の表面には様々な官能基があり、特に塩基性に寄与するのはOH結合、NH結合などが顕著に確認される。
【0031】
これは、活性炭素繊維の塩基性を呈することが、活性炭素繊維特有のものであることを確認する試験である。
図5に示すように、先ず、純水(室温)のpHを計測する。次に1gの活性炭素繊維(ACF)と1gの活性炭との試験体を、夫々1Lの純水に投入して浸漬させ、90秒経過後のpHを計測する。その後、活性炭素繊維及び活性炭を純水から取り出し、純水のpHを計測する。
これによると、活性炭はその挙動の変化は全くないが、活性炭素繊維の場合には純水に浸漬させた場合に、pHが8程度まで上昇し、塩基性を呈することが確認された。
【0032】
ここで、本発明の活性炭素繊維の原料の炭素繊維としては、その製造原料の違いにより、ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、フェノール系、セルロース系等の各種のものを挙げることができる。前記炭素繊維は、市販品であってもよい。前記した公知の炭素繊維のなかでも好ましい種類は、ピッチ系、フェノール系、セルロース系のような炭素繊維、および含窒素官能基を有する炭素繊維である。
【0033】
これらの炭素繊維を賦活処理して活性炭素繊維(ACF)を得る。
賦活処理とは、触媒や高温ガス流通下での部分酸化反応により、炭素繊維原料の表面にナノメートルからマイクロメートル程度の径をもつ細孔を作り出し、比表面積を増大させ、かつ、表面状態の変化を生じさせ反応活性を向上させる手法である。賦活処理には、薬品賦活法とガス賦活法とがある。薬品賦活法では炭化の作用と賦活の作用との両方が生じる。ただし、原料として炭素繊維を用いる場合は炭化が完了しているため、通常はガス賦活法を用いている。
【0034】
ガス賦活処理は、水蒸気、二酸化炭素、空気などを用い、反応温度を700℃以上にして行われるのが通常である。本発明では、より好ましくは800〜950℃、より好適には850〜900℃で処理している。
なお、上限値を超える温度での賦活処理は炭素繊維の消費が激しく、収率が低下するので好ましくない。なお、反応に必要な時間は、その温度によって適宜設定することができ、たとえば2〜5時間程度とするのが好ましい。
【0035】
図6に示すように、賦活条件の温度が900℃で2.5時間処理とすることで酸化速度が良好である。
【0036】
また、一般の活性炭素繊維では、賦活処理した後、焼成処理をして、活性点を顕在化させているが、本発明では、賦活処理後の焼成処理は行わないのが好ましい。
これは、賦活処理にて活性炭素繊維の表面に形成された官能基が焼成処理により消失し、塩基性の効果を発揮することができないからである。
【0037】
図7は、賦活処理(水蒸気:900℃で2.5時間)の後、焼成処理をしない場合と、焼成処理(窒素ガス:1100℃で1時間)を行った場合との酸化速度の相違を示す図である。
図7に示すように、賦活処理(900℃で2.5時間)の後、焼成処理をしない場合の方が、焼成処理(1100℃で1時間)を行った場合と較べて、酸化速度が高いことが判明した。
【0038】
このように、賦活後の焼成により活性炭素繊維表面の含酸素官能基又は含窒素官能基の何れか一方又は両方が消失するため、焼成を行わない活性炭素繊維の方が表面の含酸素官能基又は含窒素官能基の何れか一方又は両方が保持されているからゼロ電荷点が高いものとなる。
【0039】
活性炭素繊維の塩基性は、賦活後の活性炭素繊維表面の含酸素官能基又は含窒素官能基の何れか一方又は両方に起因するものであるから、賦活条件をコントロールすることでゼロ電荷点を調整することができる。
賦活条件としては、800〜950℃、より好ましくは850〜900℃とするのが望ましい。賦活処理時間としては、例えば2〜3時間とするのが望ましい。
【0040】
本発明では、ゼロ電荷点により液相酸化速度を定量的に把握することができるので、定量的に活性炭素繊維を評価することができる。また、ゼロ電荷点により酸化速度を把握できるので、活性炭素繊維の劣化状況や寿命を容易に把握することができる。
また、活性炭素繊維の製造条件や、賦活条件によりゼロ電荷点を制御することで、液相酸化速度を制御することが可能となる。
【0041】
賦活条件を変えてゼロ電荷点を制御した活性炭素繊維を用いて、酸化速度を計測した結果、図1に示すように、ゼロ電荷点を高くするとそれに比例して酸化速度が大きくなるという相関関係があることとなる。この結果、ゼロ電荷点が高い活性炭素繊維を用いることで、酸化力が高い設備のコンパクト化を図ることができることとなる。
すなわち、ゼロ電荷点が高い活性炭素繊維では、使用する活性炭素繊維の量を軽減できるので、経済的にも構造的にも効果的となる。
【0042】
このように、活性炭素繊維のゼロ電荷点と酸化活性との相関関係があるので、以下に示す多様な用途に適用することが可能となる。
【0043】
例えば、中性領域から酸性領域の溶液中の有機物等の排水処理に適用することで、排水の浄化を行うことができる。
これは、中性領域から酸性領域の溶液中では、前述したように、活性炭素繊維の表面がマイナスにチャージしているため、触媒反応を起こしやすいことによるからである。
【0044】
また、活性炭素繊維の表面が高塩基性であるため、中性物質、酸性物質を吸着しやすくなり好ましい。
【0045】
また、塩基性での処理が必要なプロセスの代替処理として適用できる。すなわち、従来では、薬液注入により塩基性としているものを、ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維を用いることで、塩基性を呈することとなり、薬液およびその処理費用の低減を図ることができる。このような処理の適用として、例えば上水道中のトリハロメタン等の分解除去に用いることができる。
【0046】
このようなゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維を用い、排水処理することで、酸化処理能力が高い排水処理装置を提供することができる。
【0047】
この排水処理装置としては、ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維を被処理液中に浸漬する浸漬槽を有し、該浸漬槽に被処理水を連続的又は間欠的に供給し、排水処理することでその処理を行うことができる。
【0048】
この際、浸漬槽に、イオン強度の高い電解水(NaCl等)を浸漬槽に添加するのが好ましい。
この電解水(NaCl)などを添加することにより、解離イオンの電気的な安定化を図ることができる。これは水のみでは、イオン強度が弱いので、これをイオン強度の高い電解水で安定化することができ、電気的塩基性を保持することができる。
【0049】
また、浸漬槽の前段側又は後段側に、光触媒槽又はオゾン処理槽又は紫外線処理槽のいずれか一方又は両方を設け、酸化をさらに促進させるようにしてもよい。
【0050】
また、ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維は、H+を引き寄せやすいので光触媒との併用使用により、あるいは紫外照射との併用使用により、光触媒に正孔が生じOH-からOHラジカルが生起しやすいものとなる。この結果、溶液中有機物等の分解が促進されることとなる。
【0051】
例えば下水等の排水処理装置では河川に放流するために、COD成分、全窒素(TN)分、色度分を低減させる必要がある。現状では、オゾン処理と活性炭処理とを組み合わせて、放流前の仕上げ処理が実施されている。固体塩基性を具有する活性炭素繊維をオゾン処理前の排水に適用したところ、オゾン処理と活性炭処理との組合せよりも処理能力が高く、良い性能が得られた。
【0052】
また、活性炭素繊維を浸漬する浸漬槽を有し、浸漬槽に浸漬した状態でゼロ電荷点を測定し、ゼロ電荷点の高低により、活性炭素繊維の触媒活性度合いを評価する活性炭素繊維の評価方法を提供することができる。
【0053】
このように、ゼロ電荷点と酸化速度とを把握できるから活性炭素繊維の劣化状況や寿命を容易に把握することができる。
【0054】
これにより、活性炭素繊維を製造した場合や、再生処理した場合における性能評価が適切になされ、所定の酸化性能を有するか否かを判断することが可能となる。
【0055】
[試験例1]
有機物の酸化性能について試験した。
図8は、活性炭素繊維を用いて、有機物であるフェノールの分解試験をおこなった結果を示す。図9は、活性炭を用いて、有機物であるフェノールの分解試験をおこなった結果を示す。
先ず、ビーカーにフェノールを100ppm添加し、散気管により、空気と窒素をバブリングさせて、フェノールの減少量を確認した。
【0056】
図8に示すように、ブランク試験(ACFを用いず、空気と窒素とを通気)では、フェノール(100ppm)の減少は殆どみられなかった。
これに対し、第1回目の試験で活性炭素繊維(0.5g ACF/500mL、ゼロ電荷点9.5)を投入した場合は、フェノールは40ppm程度までに減少した。さらに、空気を通気することで、さらに35ppm程度まで減少した。
第2回目の試験では、第1回の試験で用いた活性炭素繊維を使用して行った。
フェノールの吸着分だけ、フェノールの減少量が悪いものの、80ppm程度まで減少し、さらに空気を通気することで、60ppm程度まで減少した。
これにより、活性炭素繊維の酸化性能が良好であることが確認された。
【0057】
これに対し、図9に示すように、活性炭では吸着による減少はあるものの、空気を通気しての酸化能力の発現を確認することはできなかった。
よって、活性炭に較べて活性炭素繊維の酸化力の優位性を確認することができた。
【0058】
[試験例2]
亜硝酸の酸化性能について試験した。
ビーカーにフェノールを100ppm添加し、亜硝酸ナトリウムの減少量を確認した。
図10では、活性炭素繊維を投入して空気を通気することで、亜硝酸ナトリウムの減少がみられた。
【0059】
図11は、活性炭素繊維の投入の有無によるpHの上昇を確認する試験結果を示す図である。
【0060】
[試験例3]
アンモニアの酸化性能について試験した。
図12は、活性炭素繊維を用いてアンモニアの酸化分解試験をおこなった結果を示す図である。
ビーカーにアンモニアを100mg/L添加し、活性炭素繊維の投入によるアンモニアの減少量を確認した。
【0061】
[試験例4]
図13は試験例4の処理装置の構成図である。図13に示すように、食塩水(NaCl)10を満たした浸漬槽11の底部に活性炭素繊維(ACF)12を浸漬させると共に、活性炭素繊維12が上昇しないように、フィルタ13を配置している。なお、活性炭素繊維12は不織布等の袋に充填されている。
このような装置において、高さ(50cm)H方向に所定間隔でpH計14a、14b、14cを設けて、そのpHを計測した。
いずれの高さにおいてもpHは8.3で均一であった。
その後、浸漬槽11から液体を取り出し、別の容器に入れて、pHを測定したところ、そのpHは6であった。
ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維を用いることで、塩基性を呈することとなり、薬液およびその処理費用の低減を図ることができ、例えば上水道中のトリハロメタン等の分解除去に適用できる。
【0062】
[試験例5]
活性炭素繊維を浸漬した浸漬槽内に原水を導入し、空気又は窒素をバブリングさせ、そのpH及びCODを計測した。
その結果を下記表1に示す。
表1に示すように、窒素バブリングよりも空気バブリングの方が、CODが低下しているので、酸化反応が生起されたことが確認された。
【0063】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明によれば、ゼロ電荷点が高い活性炭素繊維を用いることで、酸化力が高い設備のコンパクト化を図ることができることとなる。
【符号の説明】
【0065】
10 食塩水
11 浸漬槽11の底部に
12 活性炭素繊維(ACF)
13 フィルタ
14a〜14c pH計
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭素繊維、それを用いた排水処理装置及び活性炭素繊維の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭や活性炭素繊維は活性炭素繊維の吸着性能に着目して様々な分野で利用されている。
従来、ピッチ系またはPAN系の活性炭素繊維を排ガス中の脱硫、脱硝作用を有する触媒として用いることが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、硫化ナトリウム含有水溶液の酸化処理方法及びその触媒として疎水処理を施していない活性炭素繊維を用いることが提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
さらに、ピッチ系の活性炭素繊維を主要な吸着材とする浄水器として利用されている。特に、活性炭素繊維の水分吸着量を下げる方法として、不活性ガス中で熱処理する方法が有効である。すなわち、賦活処理された活性炭素繊維をさらに700℃以上1300℃以下で、好ましくは10〜60分熱処理することにより、水分吸着量が著しく低下し、ハロゲン化炭化水素の吸着除去に適しかつ充填材等として取扱いの際に繊維の形態が崩れることのない強度を有した活性炭素繊維が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3272366号公報
【特許文献2】特許第1831642号公報(特開昭61−257238号公報)
【特許文献3】特許第2967389号公報(特開平7−145516号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の、活性炭素繊維を用いての処理対象は、ガス中の硫黄酸化物などの処理であり、排水中の微量有害物質を効率的に処理する手法が確立されていないので、液中における処理能力の高い活性炭素繊維の出現が切望されている。
【0007】
また、活性炭素繊維の性能を評価するに際して、活性炭素繊維の比表面積、細孔容積、細孔径などにより、定量的な活性炭素繊維の性能を評価をすることを試みているが、これらの評価指標では、酸化速度との良好な相関関係を有することが見出せないという課題がある(例えば図14〜図16参照)。
【0008】
そこで、定量的に活性炭素繊維の酸化速度を評価する手法の確立が切望されている。これは、特に活性炭素繊維を製造した場合や、再生処理した場合における性能評価を行い、所定の酸化性能を有するか否かを判断する材料となるので、このような指標の確立も切望されている。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑み、液中における処理能力の高い活性炭素繊維、それを用いた排水処理装置及び活性炭素繊維の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維である触媒活性を備えてなることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記触媒活性が酸化触媒活性であることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0012】
第3の発明は、第1又は2の発明において、活性炭素繊維がPAN系の活性炭素繊維であることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0013】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、カーボンファイバ原料を800〜950℃で賦活処理してなることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0014】
第5の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、純水中に酸を溶解させ、所定のpHの酸性溶液とし、その後アルカリ溶液で、中和滴定し、ブランク滴定曲線を得ると共に、所定のpHの酸性溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、アルカリ溶液で中和滴定し、活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線を得た後、この活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線とブランク曲線とにおいて、終点側で一致した値におけるpH値をゼロ電荷点とすることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0015】
第6の発明は、第1乃至4のいずれか一つの活性炭素繊維を用い、排水処理してなることを特徴とする排水処理装置にある。
【0016】
第7の発明は、第1乃至4のいずれか一つの活性炭素繊維を被処理液中に浸漬する浸漬槽を有し、該浸漬槽に被処理水を連続的又は間欠的に供給し、排水処理することを特徴とする排水処理装置にある。
【0017】
第8の発明は、第7の発明において、浸漬槽に、イオン強度の高い電解水を浸漬槽に添加することを特徴とする排水処理装置にある。
【0018】
第9の発明は、第8の発明において、浸漬槽の前段側又は後段側に、光触媒槽又はオゾン処理槽のいずれか一方又は両方を設けることを特徴とする排水処理装置にある。
【0019】
第10の発明は、活性炭素繊維を浸漬する浸漬槽を有し、浸漬槽に浸漬した状態でゼロ電荷点を測定し、ゼロ電荷点の高低により、活性炭素繊維の触媒活性度合いを評価することを特徴とする活性炭素繊維の評価方法にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ゼロ電荷点が高い活性炭素繊維を用いることで、酸化力が高い設備のコンパクト化を図ることができることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、活性炭素繊維のゼロ電荷点と酸化速度との関係を示す図である。
【図2】図2は、ゼロ電荷点を求めるアルカリ滴定量と、pH値との関係図である。
【図3】図3は、は活性炭素繊維の表面官能基の概念図(液中に浸漬した状態)である。
【図4】図4は、活性炭素繊維の表面分析結果を示すチャートである。
【図5】図5は、活性炭素繊維を純粋に浸漬した前後におけるpHの挙動を示す図である。
【図6】図6は、賦活条件(温度、時間)と酸化速度との関係図である。
【図7】図7は、賦活処理(900℃で2.5時間)の後、焼成処理をしない場合と、焼成処理(1100℃で1時間)を行った場合との酸化速度の相違を示す図である。
【図8】図8は、活性炭素繊維を用いて、有機物であるフェノールの分解試験をおこなった結果を示す。
【図9】図9は、活性炭を用いて、有機物であるフェノールの分解試験をおこなった結果を示す。
【図10】図10は、活性炭素繊維を用いて、亜硝酸の酸化分解試験をおこなった結果を示す。
【図11】図11は、活性炭素繊維の投入の有無によるpHの上昇を確認する試験結果を示す図である。
【図12】図12は、活性炭素繊維を用いてアンモニアの酸化分解試験をおこなった結果を示す図である。
【図13】図13は、試験例3の処理装置の構成図である。
【図14】図14は、比表面積と酸化速度との関係図である。
【図15】図15は、細孔容積と酸化速度との関係図である。
【図16】図16は、細孔径と酸化速度との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0023】
本発明による実施例に係る活性炭素繊維、それを用いた排水処理装置及び活性炭素繊維の評価方法について、図面を参照して説明する。
図1は、活性炭素繊維のゼロ電荷点(PZC:potential of zero charge)と酸化速度との関係を示す図である。図2は、ゼロ電荷点を求めるアルカリ滴定量と、pH値との関係図である。図3は、活性炭素繊維の表面官能基の概念図(液中に浸漬した状態)である。図4は、活性炭素繊維の表面分析結果を示すチャートである。図5は、活性炭素繊維を純粋に浸漬した前後におけるpHの挙動を示す図である。図6は、賦活条件(温度、時間)と酸化速度との関係図である。
【0024】
本発明に係る活性炭素繊維は、ゼロ電荷点が7(好適には8.0、さらに好適には9.0)以上の活性炭素繊維である触媒活性を備えてなるものである。
図1に示すように、ゼロ電荷点が8.5以上から酸化速度が上昇するのが確認される。ここで、図1の横軸はゼロ電荷点(pH)であり、縦軸は酸化速度(mmol/l/min)である。
【0025】
本発明で触媒活性とは、酸化触媒活性をいうが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば分解反応活性、置換反応活性、水素化反応活性などがある。
【0026】
ここで、本発明でゼロ電荷点の計測は以下のように行う。
先ず、純水中に酸(例えば1Nの硫酸)を溶解させ、所定のpHの酸性溶液(例えばpH=3)とし、その後アルカリ溶液(例えば1Nの水酸化ナトリウム)で、中和滴定し、ブランク滴定曲線(図2中、ブランク曲線)を得ると共に、所定のpHの酸性溶液(pH=3)中に活性炭素繊維を浸漬し、アルカリ溶液(例えば1Nの水酸化ナトリウム)で中和滴定し、活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線(図2中、ACF浸漬曲線)を得た後、この活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線とブランク曲線とにおいて、終点側で一致した値におけるpH値を「ゼロ電荷点」とする。
よって、ゼロ電荷点は固体塩基性の指標をいう。
図2の場合には、ゼロ電荷点は10.0である。
【0027】
図1の活性炭素繊維のゼロ電荷点と酸化速度との関係を示す図は、複数の製造条件の異なる活性炭素繊維のゼロ電荷点と酸化速度との関係を示すものである。
図1では、海水中のSO2の酸化条件について確認したものである。ここで、液のpHは3であり、液温度は50℃、0.5gの活性炭素繊維(ACF)を0.5Lの海水に浸漬してその酸化速度を求めた。この結果、図1に示すように、ゼロ電荷点の値と触媒活性とが相関関係を有する。
ここで、活性炭素繊維を評価する他の方法としては、図14に示すような比表面積と酸化速度との関係、図15に示すような細孔容積と酸化速度との関係、図16に示すような細孔径と酸化速度との関係等があるが、これらの図面に示すように、分布が広範であり、相関関係を見いだすことは困難である。
【0028】
ここで、ゼロ電荷点の値と触媒活性とが相関関係を有するのは以下の理由によるものと推定される。
活性炭素繊維の表面には賦活処理により=O基、−OH基、−NH2基などが存在しており、これらがルイス塩基としての電子供与体として機能し、酸化能力を発揮する。
【0029】
図3に示す活性炭素繊維の表面官能基の概念図(液中に浸漬した状態)に示すように、表面には=O基、−OH基、−NH2基などが存在しており、水溶液に浸漬された場合には、水中のプロトン(H+)を引き寄せている。ここで、活性炭素繊維の表面はマイナス(−)側に電気的にチャージされているので、この引き寄せ作用が発揮される。なお、活性炭素繊維の表面には、π電子も存在しており、前記官能基とπ電子との相互作用により、引き寄せ効果をさらに向上させている。
このプロトンの引き寄せ効果により、液中にはOH-が解離し、顕在化される結果、塩基性を奏することとなる。
よって、この塩基性の程度をゼロ電荷点により確認することで、触媒活性に寄与する酸素含有官能基の量を推定することができる。
【0030】
図4は、活性炭素繊維の表面分析結果を示すチャートである。図4に示すように、活性炭素繊維の表面には様々な官能基があり、特に塩基性に寄与するのはOH結合、NH結合などが顕著に確認される。
【0031】
これは、活性炭素繊維の塩基性を呈することが、活性炭素繊維特有のものであることを確認する試験である。
図5に示すように、先ず、純水(室温)のpHを計測する。次に1gの活性炭素繊維(ACF)と1gの活性炭との試験体を、夫々1Lの純水に投入して浸漬させ、90秒経過後のpHを計測する。その後、活性炭素繊維及び活性炭を純水から取り出し、純水のpHを計測する。
これによると、活性炭はその挙動の変化は全くないが、活性炭素繊維の場合には純水に浸漬させた場合に、pHが8程度まで上昇し、塩基性を呈することが確認された。
【0032】
ここで、本発明の活性炭素繊維の原料の炭素繊維としては、その製造原料の違いにより、ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、フェノール系、セルロース系等の各種のものを挙げることができる。前記炭素繊維は、市販品であってもよい。前記した公知の炭素繊維のなかでも好ましい種類は、ピッチ系、フェノール系、セルロース系のような炭素繊維、および含窒素官能基を有する炭素繊維である。
【0033】
これらの炭素繊維を賦活処理して活性炭素繊維(ACF)を得る。
賦活処理とは、触媒や高温ガス流通下での部分酸化反応により、炭素繊維原料の表面にナノメートルからマイクロメートル程度の径をもつ細孔を作り出し、比表面積を増大させ、かつ、表面状態の変化を生じさせ反応活性を向上させる手法である。賦活処理には、薬品賦活法とガス賦活法とがある。薬品賦活法では炭化の作用と賦活の作用との両方が生じる。ただし、原料として炭素繊維を用いる場合は炭化が完了しているため、通常はガス賦活法を用いている。
【0034】
ガス賦活処理は、水蒸気、二酸化炭素、空気などを用い、反応温度を700℃以上にして行われるのが通常である。本発明では、より好ましくは800〜950℃、より好適には850〜900℃で処理している。
なお、上限値を超える温度での賦活処理は炭素繊維の消費が激しく、収率が低下するので好ましくない。なお、反応に必要な時間は、その温度によって適宜設定することができ、たとえば2〜5時間程度とするのが好ましい。
【0035】
図6に示すように、賦活条件の温度が900℃で2.5時間処理とすることで酸化速度が良好である。
【0036】
また、一般の活性炭素繊維では、賦活処理した後、焼成処理をして、活性点を顕在化させているが、本発明では、賦活処理後の焼成処理は行わないのが好ましい。
これは、賦活処理にて活性炭素繊維の表面に形成された官能基が焼成処理により消失し、塩基性の効果を発揮することができないからである。
【0037】
図7は、賦活処理(水蒸気:900℃で2.5時間)の後、焼成処理をしない場合と、焼成処理(窒素ガス:1100℃で1時間)を行った場合との酸化速度の相違を示す図である。
図7に示すように、賦活処理(900℃で2.5時間)の後、焼成処理をしない場合の方が、焼成処理(1100℃で1時間)を行った場合と較べて、酸化速度が高いことが判明した。
【0038】
このように、賦活後の焼成により活性炭素繊維表面の含酸素官能基又は含窒素官能基の何れか一方又は両方が消失するため、焼成を行わない活性炭素繊維の方が表面の含酸素官能基又は含窒素官能基の何れか一方又は両方が保持されているからゼロ電荷点が高いものとなる。
【0039】
活性炭素繊維の塩基性は、賦活後の活性炭素繊維表面の含酸素官能基又は含窒素官能基の何れか一方又は両方に起因するものであるから、賦活条件をコントロールすることでゼロ電荷点を調整することができる。
賦活条件としては、800〜950℃、より好ましくは850〜900℃とするのが望ましい。賦活処理時間としては、例えば2〜3時間とするのが望ましい。
【0040】
本発明では、ゼロ電荷点により液相酸化速度を定量的に把握することができるので、定量的に活性炭素繊維を評価することができる。また、ゼロ電荷点により酸化速度を把握できるので、活性炭素繊維の劣化状況や寿命を容易に把握することができる。
また、活性炭素繊維の製造条件や、賦活条件によりゼロ電荷点を制御することで、液相酸化速度を制御することが可能となる。
【0041】
賦活条件を変えてゼロ電荷点を制御した活性炭素繊維を用いて、酸化速度を計測した結果、図1に示すように、ゼロ電荷点を高くするとそれに比例して酸化速度が大きくなるという相関関係があることとなる。この結果、ゼロ電荷点が高い活性炭素繊維を用いることで、酸化力が高い設備のコンパクト化を図ることができることとなる。
すなわち、ゼロ電荷点が高い活性炭素繊維では、使用する活性炭素繊維の量を軽減できるので、経済的にも構造的にも効果的となる。
【0042】
このように、活性炭素繊維のゼロ電荷点と酸化活性との相関関係があるので、以下に示す多様な用途に適用することが可能となる。
【0043】
例えば、中性領域から酸性領域の溶液中の有機物等の排水処理に適用することで、排水の浄化を行うことができる。
これは、中性領域から酸性領域の溶液中では、前述したように、活性炭素繊維の表面がマイナスにチャージしているため、触媒反応を起こしやすいことによるからである。
【0044】
また、活性炭素繊維の表面が高塩基性であるため、中性物質、酸性物質を吸着しやすくなり好ましい。
【0045】
また、塩基性での処理が必要なプロセスの代替処理として適用できる。すなわち、従来では、薬液注入により塩基性としているものを、ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維を用いることで、塩基性を呈することとなり、薬液およびその処理費用の低減を図ることができる。このような処理の適用として、例えば上水道中のトリハロメタン等の分解除去に用いることができる。
【0046】
このようなゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維を用い、排水処理することで、酸化処理能力が高い排水処理装置を提供することができる。
【0047】
この排水処理装置としては、ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維を被処理液中に浸漬する浸漬槽を有し、該浸漬槽に被処理水を連続的又は間欠的に供給し、排水処理することでその処理を行うことができる。
【0048】
この際、浸漬槽に、イオン強度の高い電解水(NaCl等)を浸漬槽に添加するのが好ましい。
この電解水(NaCl)などを添加することにより、解離イオンの電気的な安定化を図ることができる。これは水のみでは、イオン強度が弱いので、これをイオン強度の高い電解水で安定化することができ、電気的塩基性を保持することができる。
【0049】
また、浸漬槽の前段側又は後段側に、光触媒槽又はオゾン処理槽又は紫外線処理槽のいずれか一方又は両方を設け、酸化をさらに促進させるようにしてもよい。
【0050】
また、ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維は、H+を引き寄せやすいので光触媒との併用使用により、あるいは紫外照射との併用使用により、光触媒に正孔が生じOH-からOHラジカルが生起しやすいものとなる。この結果、溶液中有機物等の分解が促進されることとなる。
【0051】
例えば下水等の排水処理装置では河川に放流するために、COD成分、全窒素(TN)分、色度分を低減させる必要がある。現状では、オゾン処理と活性炭処理とを組み合わせて、放流前の仕上げ処理が実施されている。固体塩基性を具有する活性炭素繊維をオゾン処理前の排水に適用したところ、オゾン処理と活性炭処理との組合せよりも処理能力が高く、良い性能が得られた。
【0052】
また、活性炭素繊維を浸漬する浸漬槽を有し、浸漬槽に浸漬した状態でゼロ電荷点を測定し、ゼロ電荷点の高低により、活性炭素繊維の触媒活性度合いを評価する活性炭素繊維の評価方法を提供することができる。
【0053】
このように、ゼロ電荷点と酸化速度とを把握できるから活性炭素繊維の劣化状況や寿命を容易に把握することができる。
【0054】
これにより、活性炭素繊維を製造した場合や、再生処理した場合における性能評価が適切になされ、所定の酸化性能を有するか否かを判断することが可能となる。
【0055】
[試験例1]
有機物の酸化性能について試験した。
図8は、活性炭素繊維を用いて、有機物であるフェノールの分解試験をおこなった結果を示す。図9は、活性炭を用いて、有機物であるフェノールの分解試験をおこなった結果を示す。
先ず、ビーカーにフェノールを100ppm添加し、散気管により、空気と窒素をバブリングさせて、フェノールの減少量を確認した。
【0056】
図8に示すように、ブランク試験(ACFを用いず、空気と窒素とを通気)では、フェノール(100ppm)の減少は殆どみられなかった。
これに対し、第1回目の試験で活性炭素繊維(0.5g ACF/500mL、ゼロ電荷点9.5)を投入した場合は、フェノールは40ppm程度までに減少した。さらに、空気を通気することで、さらに35ppm程度まで減少した。
第2回目の試験では、第1回の試験で用いた活性炭素繊維を使用して行った。
フェノールの吸着分だけ、フェノールの減少量が悪いものの、80ppm程度まで減少し、さらに空気を通気することで、60ppm程度まで減少した。
これにより、活性炭素繊維の酸化性能が良好であることが確認された。
【0057】
これに対し、図9に示すように、活性炭では吸着による減少はあるものの、空気を通気しての酸化能力の発現を確認することはできなかった。
よって、活性炭に較べて活性炭素繊維の酸化力の優位性を確認することができた。
【0058】
[試験例2]
亜硝酸の酸化性能について試験した。
ビーカーにフェノールを100ppm添加し、亜硝酸ナトリウムの減少量を確認した。
図10では、活性炭素繊維を投入して空気を通気することで、亜硝酸ナトリウムの減少がみられた。
【0059】
図11は、活性炭素繊維の投入の有無によるpHの上昇を確認する試験結果を示す図である。
【0060】
[試験例3]
アンモニアの酸化性能について試験した。
図12は、活性炭素繊維を用いてアンモニアの酸化分解試験をおこなった結果を示す図である。
ビーカーにアンモニアを100mg/L添加し、活性炭素繊維の投入によるアンモニアの減少量を確認した。
【0061】
[試験例4]
図13は試験例4の処理装置の構成図である。図13に示すように、食塩水(NaCl)10を満たした浸漬槽11の底部に活性炭素繊維(ACF)12を浸漬させると共に、活性炭素繊維12が上昇しないように、フィルタ13を配置している。なお、活性炭素繊維12は不織布等の袋に充填されている。
このような装置において、高さ(50cm)H方向に所定間隔でpH計14a、14b、14cを設けて、そのpHを計測した。
いずれの高さにおいてもpHは8.3で均一であった。
その後、浸漬槽11から液体を取り出し、別の容器に入れて、pHを測定したところ、そのpHは6であった。
ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維を用いることで、塩基性を呈することとなり、薬液およびその処理費用の低減を図ることができ、例えば上水道中のトリハロメタン等の分解除去に適用できる。
【0062】
[試験例5]
活性炭素繊維を浸漬した浸漬槽内に原水を導入し、空気又は窒素をバブリングさせ、そのpH及びCODを計測した。
その結果を下記表1に示す。
表1に示すように、窒素バブリングよりも空気バブリングの方が、CODが低下しているので、酸化反応が生起されたことが確認された。
【0063】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明によれば、ゼロ電荷点が高い活性炭素繊維を用いることで、酸化力が高い設備のコンパクト化を図ることができることとなる。
【符号の説明】
【0065】
10 食塩水
11 浸漬槽11の底部に
12 活性炭素繊維(ACF)
13 フィルタ
14a〜14c pH計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維である触媒活性を備えてなることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項2】
請求項1において、
前記触媒活性が酸化触媒活性であることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項3】
請求項1又は2において、
活性炭素繊維がPAN系の活性炭素繊維であることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
カーボンファイバ原料を800〜950℃で賦活処理してなることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
純水中に酸を溶解させ、所定のpHの酸性溶液とし、その後アルカリ溶液で、中和滴定し、ブランク滴定曲線を得ると共に、
所定のpHの酸性溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、アルカリ溶液で中和滴定し、活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線を得た後、この活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線とブランク曲線とにおいて、終点側で一致した値におけるpH値をゼロ電荷点とすることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一つの活性炭素繊維を用い、排水処理してなることを特徴とする排水処理装置。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一つの活性炭素繊維を被処理液中に浸漬する浸漬槽を有し、
該浸漬槽に被処理水を連続的又は間欠的に供給し、排水処理することを特徴とする排水処理装置。
【請求項8】
請求項7において、
浸漬槽に、イオン強度の高い電解水を浸漬槽に添加することを特徴とする排水処理装置。
【請求項9】
請求項8において、
浸漬槽の前段側又は後段側に、光触媒槽又はオゾン処理槽のいずれか一方又は両方を設けることを特徴とする排水処理装置。
【請求項10】
活性炭素繊維を浸漬する浸漬槽を有し、浸漬槽に浸漬した状態でゼロ電荷点を測定し、ゼロ電荷点の高低により、活性炭素繊維の触媒活性度合いを評価することを特徴とする活性炭素繊維の評価方法。
【請求項1】
ゼロ電荷点が8.0以上の活性炭素繊維である触媒活性を備えてなることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項2】
請求項1において、
前記触媒活性が酸化触媒活性であることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項3】
請求項1又は2において、
活性炭素繊維がPAN系の活性炭素繊維であることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
カーボンファイバ原料を800〜950℃で賦活処理してなることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
純水中に酸を溶解させ、所定のpHの酸性溶液とし、その後アルカリ溶液で、中和滴定し、ブランク滴定曲線を得ると共に、
所定のpHの酸性溶液中に活性炭素繊維を浸漬し、アルカリ溶液で中和滴定し、活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線を得た後、この活性炭素繊維浸漬中和滴定曲線とブランク曲線とにおいて、終点側で一致した値におけるpH値をゼロ電荷点とすることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一つの活性炭素繊維を用い、排水処理してなることを特徴とする排水処理装置。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一つの活性炭素繊維を被処理液中に浸漬する浸漬槽を有し、
該浸漬槽に被処理水を連続的又は間欠的に供給し、排水処理することを特徴とする排水処理装置。
【請求項8】
請求項7において、
浸漬槽に、イオン強度の高い電解水を浸漬槽に添加することを特徴とする排水処理装置。
【請求項9】
請求項8において、
浸漬槽の前段側又は後段側に、光触媒槽又はオゾン処理槽のいずれか一方又は両方を設けることを特徴とする排水処理装置。
【請求項10】
活性炭素繊維を浸漬する浸漬槽を有し、浸漬槽に浸漬した状態でゼロ電荷点を測定し、ゼロ電荷点の高低により、活性炭素繊維の触媒活性度合いを評価することを特徴とする活性炭素繊維の評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−12729(P2012−12729A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150514(P2010−150514)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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