説明

流体ブレーキ装置及びバルブタイミング調整装置

【課題】磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性の変化を回避する流体ブレーキ装置の提供。
【解決手段】ブレーキ回転体130は、筐体110を内外に貫通するブレーキ軸131を有し、流体室114の磁気粘性流体140と接触することにより、磁気粘性流体140の粘度に応じたブレーキトルクを入力される。筐体110においてブレーキ軸131を回転方向に沿って囲む形態に設けられ、流体室114に連通するシールギャップ180,181をブレーキ軸131との間に形成し、当該シールギャップ180,181を通じてブレーキ軸131に案内する磁束を発生する磁気シールスリーブ170は、筐体110の外部側から内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する内径変化部176,177を、軸方向の両端部に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体ブレーキ装置及びそれを備えたバルブタイミング調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筐体内部の流体室に封入されてブレーキ回転体と接触する磁気粘性流体に磁束を通過させることにより、当該磁気粘性流体の粘度を可変制御する流体ブレーキ装置が、知られている。この種の流体ブレーキ装置は、比較的小電力にてブレーキ回転体にブレーキトルクを与え得るので、例えば内燃機関にてバルブタイミングを決めるクランク軸及びカム軸間の相対位相(以下、「機関位相」という)を、当該ブレーキトルクに応じて調整するバルブタイミング調整装置等に好適である。
【0003】
さて、こうした流体ブレーキ装置の一種として特許文献1には、ブレーキ回転体のうち筐体を内外に貫通するブレーキ軸と、筐体との間をシールするシール構造を、当該筐体に備えた装置が、開示されている。この特許文献1の流体ブレーキ装置では、シール構造を構成する永久磁石及び磁性ヨーク(磁束ガイド)について、ブレーキ軸を回転方向に沿って囲む形態に設けている。そして、流体室に連通するシールギャップを磁性ヨークとブレーキ軸との間に形成し、当該シールギャップを通じて磁性ヨークからブレーキ軸に案内する磁束を、永久磁石によって発生している。これにより、流体室からシールギャップへ流入する磁気粘性流体は、磁性ヨークからブレーキ軸へ当該シールギャップを通じて案内される磁束を受けて粘度上昇することにより、膜状に捕捉される。このようにしてシールギャップに形成されるシール膜は、筐体内部側から筐体外部側へ向かう磁気粘性流体の流動を、流体自身で抑制する自己シール機能を果たし得るので、流体室から磁気粘性流体が漏出することによるブレーキ特性の変化について、回避可能となる。また、磁気粘性流体により形成したシール膜によれば、ブレーキ軸に与える摩擦抵抗が低減され得るので、例えば上記バルブタイミング調整装置に適用した場合には、当該摩擦抵抗に起因して内燃機関の燃費低下を招くようなトルクロスについても、回避可能となるのである。
【特許文献1】特開2010−121614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らが鋭意研究を行った結果、特許文献1の流体ブレーキ装置では、以下の要因により、磁性ヨーク及びブレーキ軸間のシールギャップにて磁気粘性流体がシール膜を抜け、筐体外部へと漏出するおそれのあることが、判明したのである。
【0005】
要因の一つは、図23に模式的に示すように、磁性ヨーク1000及びブレーキ軸1002間のシールギャップ1004に捕捉されている磁気粘性流体1006(図23では、流体1006中の磁性粒子1006aを代表して示す)に対して、ブレーキ軸1002の回転による遠心力Fcが作用することにある。この場合、遠心力Fcを受ける磁気粘性流体1006は、筐体外部側から筐体内部側へ向かって内径が一定となっている磁性ヨーク1000の内周面1008に押し付けられて、軸方向の両側へと逃げることになる(図23の白抜矢印参照)。即ち、磁気粘性流体1006は、筐体内部側だけでなく、筐体外部側にも押し出されてしまうのである。
【0006】
また、要因の別の一つは、図24に模式的に示すように、ブレーキ軸1002が磁性ヨーク1000に対して製造上の軸ずれ又は作動上の軸ぶれにより偏心することで、それら要素1000,1002間のシールギャップ1004に捕捉されている磁気粘性流体1006(磁性粒子1006a)が、圧縮されることにある。この場合、圧縮された磁気粘性流体1006は、図23の如く一定内径の磁性ヨーク1002の内周面1008に押し付けられるので、上記遠心力Fcを受けることによる場合に準じて磁気粘性流体1006が、筐体内部側だけでなく、筐体外部側にも押し出されてしまう。
【0007】
加えて、要因のさらに別の一つは、内燃機関の運転に伴って加熱される磁気粘性流体1006の熱膨張により、筐体内部の流体室の内圧が上昇することにある。この場合、内圧上昇した流体室から筐体外部側のシールギャップ1004へと流入する磁気粘性流体1006については、一定内径の磁性ヨーク1000の内周面1008から受ける流動抵抗が小さいので、筐体外部まで流動し易くなってしまうのである。
【0008】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性の変化を回避する流体ブレーキ装置及びそれを備えたバルブタイミング調整装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、流体室を内部に形成する筐体と、流体室に封入され、通過する磁束に応じて粘度が変化する磁気粘性流体と、流体室の磁気粘性流体に磁束を通過させることにより、磁気粘性流体の粘度を可変制御する粘度制御手段と、筐体を内外に貫通するブレーキ軸を有し、流体室の磁気粘性流体と接触することにより、磁気粘性流体の粘度に応じたブレーキトルクが入力されるブレーキ回転体と、筐体においてブレーキ軸を回転方向に沿って囲む形態に設けられ、流体室に連通するシールギャップをブレーキ軸との間に形成し、当該シールギャップを通じてブレーキ軸に案内する磁束を発生する磁気シールスリーブと、備える流体ブレーキ装置であって、磁気シールスリーブは、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する内径変化部を、軸方向の少なくとも一部に有することを特徴とする。
【0010】
この発明によると、磁気シールスリーブ及びブレーキ軸間のシールギャップへ流体室から流入することになる磁気粘性流体は、磁気シールスリーブからブレーキ軸へ当該シールギャップを通じて案内される磁束を受けて粘度上昇することで、膜状に捕捉される。こうしてシールギャップに形成されるシール膜は、筐体内部側から筐体外部側へ向かう磁気粘性流体の流動につき、流体自身で抑制する自己シール機能を、果たし得るのである。
【0011】
ここで、ブレーキ軸との間にシールギャップを形成する磁気シールスリーブにおいて軸方向の少なくとも一部は、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する内径変化部となっている。故に、ブレーキ軸の回転により生じる遠心力をシールギャップにて受けることで、内径変化部へと押し付けられる磁気粘性流体は、当該押し付けに対する抗力の軸方向成分を筐体内部側へと向かって受けることになる。また、製造上の軸ずれ又は作動上の軸ぶれに起因したブレーキ軸の磁気シールスリーブに対する偏心により、磁気粘性流体がシールギャップで圧縮されて内径変化部に押し付けられたとしても、上記遠心力による場合と同様に磁気粘性流体は、押し付けに対する抗力の軸方向成分を筐体内部側へ向かって受けることになる。さらに、内燃機関の運転に伴う熱膨張により筐体内部の流体室の内圧が上昇することで、シールギャップへと流入する磁気粘性流体は、筐体外部側ほど小径となる内径変化部に衝突することで、流動抵抗を受けることになる。
【0012】
以上説明したように、内径変化部の各種作用を受けることで磁気粘性流体は、シールギャップにおける筐体外部側への流動を抑制され得るので、当該筐体外部には漏出し難い。したがって、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性の変化を回避することが、可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によると、内径変化部は、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って幅径が拡大変化するシールギャップを、ブレーキ軸との間に形成する。これによれば、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って幅径が拡大変化するように内径変化部が形成するシールギャップにおいては、ブレーキ軸の偏心により圧縮された磁気粘性流体は、筐体外部側よりも圧損の小さい筐体内部側へと押し出され易くなる。故に、ブレーキ軸の偏心により圧縮された磁気粘性流体は、内径変化部への押し付けに対する抗力の作用と相俟って、筐体外部側への流動を確実に抑制され得る。したがって、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性変化の回避効果を、高めることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によると、ブレーキ軸は、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って外径が拡大変化するテーパ状の外径変化部を、テーパ状の内径変化部の内周側に、シールギャップを挟んで有する。この構成において、テーパ状内径変化部と、その内周側に位置するテーパ状外径変化部との間のシールギャップにおいては、磁気粘性流体中の磁性粒子が磁束方向に配置される。ここで外径変化部の近傍では、当該外径変化部の法線方向に磁束方向が沿うことで、磁性粒子は、外周側に隣接する磁性粒子から外径変化部の法線方向に磁力を受け、遠心力のうち当該法線方向の成分を打ち消される。その結果、磁性粒子は、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って外径が拡大変化するテーパ状外径変化部の法線方向に対する直交方向に、遠心力の分力成分を受けることになるので、当該筐体内部側へと流動する。したがって、内径変化部の作用による磁気粘性流体の流動抑制機能と相俟って、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性変化の回避効果を、高めることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によると、内径変化部は、外径変化部よりも大きなテーパ角のテーパ状を呈する。これによれば、テーパ状の外径変化部と、当該外径変化部よりも大きなテーパ角のテーパ状を呈する内径変化部との間には、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って幅径が拡大変化するシールギャップを、形成し得る。故に、請求項2に記載の発明と同様の原理により、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性変化の回避効果を、高めることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によると、ブレーキ軸は、筐体外部側から筐体内部側へ向かって外径が一定の外径ストレート部を、テーパ状の内径変化部の内周側に、シールギャップを挟んで有する。これによれば、テーパ状の内径変化部と、当該内径変化部の内周側において筐体外部側から筐体内部側へ向かって外径が一定の外径変化部との間には、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って幅径が拡大変化するシールギャップを、形成し得る。故に、請求項2に記載の発明と同様の原理により、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性変化の回避効果を、高めることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によると、磁気シールスリーブは、ブレーキ軸の外周側に配置され、軸方向端部に形成された磁極により磁束を発生する筒状の永久磁石と、永久磁石の軸方向端部に隣接して内径変化部を形成し、シールギャップを通じて永久磁石の発生磁束を当該内径変化部からブレーキ軸に案内する環板状の磁性ヨークとを、有する。このような構成の磁気シールスリーブによれば、ブレーキ軸の外周側に配置される筒状永久磁石が軸方向端部の磁極によって発生する磁束は、当該軸方向端部に隣接する環板状磁性ヨークの内径変化部から集中して、ブレーキ軸に案内されることとなる。この案内作用によれば、内径変化部及びブレーキ軸間のシールギャップでは磁束の通過密度が増大し、磁気粘性流体の粘度に応じたシール膜の耐圧性、ひいては自己シール機能が向上する。したがって、内径変化部の作用による磁気粘性流体の流動抑制機能と相俟って、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性変化の回避効果を、高めることができる。
【0018】
請求項7,11に記載の発明によると、ブレーキ軸は、磁性ヨークの内径変化部へ向かって突出する磁性突起を、外周部に有する。これによれば、ブレーキ軸の外周部のうち磁性ヨークの内径変化部へと向かって突出する磁性突起を、当該内径変化部に可及的に近付けて、それら内径変化部及び磁性突起間のシールギャップを、小さな幅径に形成し得る。このような小幅径のシールギャップを通じることで、磁性ヨークの内径変化部から磁性突起への磁束の集中案内作用が高められて、当該シールギャップでの磁気粘性流体の粘度に応じたシール膜の耐圧性、ひいては自己シール機能が向上する。したがって、内径変化部の作用による磁気粘性流体の流動抑制機能と相俟って、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性変化の回避効果を、高めることができる。
【0019】
請求項8に記載の発明によると、磁気シールスリーブは、内径変化部を形成する磁性ヨークを、永久磁石を軸方向に挟んだ筐体外部側と筐体内部側とのうち、少なくとも筐体外部側に有する。これによれば、永久磁石を軸方向に挟む両側のうち少なくとも筐体外部側磁性ヨークの内径変化部と、シール軸との間では、磁束の集中により向上した自己シール機能が発揮され得る。したがって、内径変化部の作用による磁気粘性流体の流動抑制機能と共に、筐体のうち少なくとも外部近くの磁性ヨークとシール軸との間で発揮される自己シール機能を高めて、ブレーキ特性の変化を齎す当該外部への磁気粘性流体の漏出を阻止することが、可能である。
【0020】
請求項9に記載の発明によると、磁気シールスリーブは、内径変化部を形成する磁性ヨークを、永久磁石を軸方向に挟んだ筐体外部側と筐体内部側とにそれぞれ有する。これによれば、磁性ヨークの内径変化部とシール軸との間での磁束の集中により向上させた自己シール機能を、永久磁石を軸方向に挟んだ筐体外部側及び筐体内部側の双方にて発揮させ得る。したがって、内径変化部の作用による磁気粘性流体の流動抑制機能と共に、各側の磁性ヨークとシール軸との間で発揮される自己シール機能を高めて、ブレーキ特性の変化を齎す当該外部への磁気粘性流体の漏出を阻止することが、可能である。
【0021】
請求項10に記載の発明によると、筐体内部側の磁性ヨークは、筐体外部側の磁性ヨークよりも内径が大きくなる形態に、形成される。この構成において、筐体外部側の磁性ヨークの内径変化部から、押し付けに対する抗力の作用を受ける磁気粘性流体は、筐体内部側へ向かって流動する。このとき、筐体内部側の磁性ヨークの内径変化部は、筐体外部側の磁性ヨークの内径変化部よりも内径が大きいので、当該筐体内部側へと向かう磁気粘性流体の流動を妨げ難い。したがって、筐体外部側へ流動しようとする磁気粘性流体を筐体内部側へと戻して、ブレーキ特性の変化を齎す当該筐体外部への磁気粘性流体の漏出を阻止することが、可能である。
【0022】
請求項11に記載の発明によると、ブレーキ軸は、各磁性ヨークの内径変化部へ向かってそれぞれ個別に突出する磁性突起を、外周部に有し、筐体内部側の磁性ヨークに対応する磁性突起は、筐体外部側の磁性ヨークに対応する磁性突起よりも外径が大きくなる形態に、形成される。これによれば、筐体外部側磁性ヨークの内径変化部だけでなく、それよりも内径が大きい筐体内部側磁性ヨークの内径変化部にも、それぞれ対応する磁性突起を可及的に近付けて、それら各内径変化部及び各磁性突起間のシールギャップを、いずれも小さな幅径に形成し得る。このような小幅径のシールギャップを通じることで、各内径変化部から各磁性突起への磁束の集中案内作用が高められて、当該シールギャップにおける磁気粘性流体の粘度に応じたシール膜の耐圧性、ひいては自己シール機能が向上する。したがって、各内径変化部の作用による磁気粘性流体の流動抑制機能と相俟って、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性変化の回避効果を、高めることができる。
【0023】
磁気シールスリーブの筐体外部側の軸方向端部では、当該軸方向端部とブレーキ軸との間から磁気粘性流体を引き出すようなフリンジング磁束の形成が、懸念される。こうして引き出された磁気粘性流体は、ブレーキ軸の回転による遠心力を受けることで飛散するので、磁気粘性流体の漏出を促進することとなり、望ましくない。そこで、請求項12に記載の発明によると、筐体に設けられ、ブレーキ軸を回転方向に沿って囲み且つ磁気シールスリーブの筐体外部側の軸方向端部に隣接する非磁性環部材を、さらに備える。このように、ブレーキ軸を回転方向に沿って囲む非磁性環部材が磁気シールスリーブの筐体外部側の軸方向端部に隣接する構成では、当該軸方向端部におけるフリンジング磁束が低減され得る。これによれば、磁気シールスリーブの軸方向端部とブレーキ軸との間から磁気粘性流体が引き出され難くなるので、ブレーキ特性の変化を齎す筐体外部への磁気粘性流体の漏出を阻止することが、可能となるのである。
【0024】
請求項13に記載の発明によると、非磁性環部材は、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する形態に、形成される。このように、磁気シールスリーブの内径変化部に準じて、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する筐体外部側の非磁性環部材は、ブレーキ軸との間のギャップへ流入することになった磁気粘性流体に対して、内径変化部と同様の作用を与え得る。したがって、フリンジング磁束の低減機能と相俟って、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性変化の回避効果を、高めることができる。
【0025】
請求項14に記載の発明によると、磁気シールスリーブの筐体外部側の軸方向端部は、非磁性環部材から連続するテーパ状の内径変化部を、形成する。これによれば、磁気シールスリーブの筐体外部側の軸方向端部に隣接する非磁性環部材から、押し付けに対する抗力の作用を受ける磁気粘性流体は、筐体内部側へ向かって流動する。このとき、磁気シールスリーブの筐体外部側の軸方向端部において内径変化部は、筐体内部側へ向かって内径が拡大するように非磁性環部材から連続するテーパ状であるので、当該筐体内部側へと向かう磁気粘性流体の流動を妨げ難い。したがって、筐体外部側へ流動しようとする磁気粘性流体を筐体内部側へと戻して、ブレーキ特性の変化を齎す当該筐体外部への磁気粘性流体の漏出を阻止することが、可能である。
【0026】
請求項15に記載の発明は、内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、請求項1〜14のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置と、流体ブレーキ装置の筐体外部においてブレーキ軸と連繋し、当該流体ブレーキ装置のブレーキ回転体へ入力されたブレーキトルクに応じて機関位相を調整する位相調整機構と、を備えることを特徴とする。
【0027】
この発明の流体ブレーキ装置においては、磁気シールスリーブの内径変化部の作用を受けることになる磁気粘性流体は、シールギャップにおける筐体外部側への流動を抑制され得るので、ブレーキ軸が位相調整機構と連繋する当該筐体外部には漏出し難くなる。したがって、磁気粘性流体の漏出によるブレーキ特性の変化を回避して、当該ブレーキ特性が左右する機関位相の調整精度を高精度に維持することが、可能となる。さらに、流体ブレーキ装置において磁気粘性流体により形成されるシール膜によれば、ブレーキ軸に与える摩擦抵抗が低減され得るので、当該摩擦抵抗に起因して内燃機関の燃費低下を招くトルクロスについても、回避可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第一実施形態による流体ブレーキ装置を備えたバルブタイミング調整装置を示す図であって、図2のI−I線断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】図1の磁気粘性流体の特性について説明するための特性図である。
【図5】図1に示す流体ブレーキ装置を拡大して示す断面図である。
【図6】図5の要部をさらに拡大して示す断面図である。
【図7】図1に示す流体ブレーキ装置の特徴を説明するための模式図である。
【図8】図1に示す流体ブレーキ装置の特徴を説明するための模式図である。
【図9】第二実施形態による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図10】第三実施形態による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図11】第四実施形態による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図12】第五実施形態による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図13】第六実施形態による流体ブレーキ装置を拡大して示す断面図である。
【図14】図13の要部をさらに拡大して示す断面図である。
【図15】第一実施形態の変形例による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図16】第二実施形態の変形例による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図17】第二実施形態の変形例による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図18】第一実施形態の変形例による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図19】第一実施形態の変形例による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図20】第一実施形態の変形例による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図21】第五実施形態の変形例による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図22】第六実施形態の変形例による流体ブレーキ装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図23】本発明により解決する課題について説明するための模式図である。
【図24】本発明により解決する課題について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0030】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態による流体ブレーキ装置100を備えたバルブタイミング調整装置1を、示している。バルブタイミング調整装置1は車両に搭載され、内燃機関のクランク軸(図示しない)からカム軸2へ機関トルクを伝達する伝達系に設けられている。ここでカム軸2は、内燃機関の「動弁」のうち吸気弁(図示しない)を機関トルクの伝達によって開閉するものであり、バルブタイミング調整装置1は、当該吸気弁のバルブタイミングを調整する。
【0031】
図1〜3に示すようにバルブタイミング調整装置1は、流体ブレーキ装置100に加えて、通電制御回路200及び位相調整機構300等を組み合わせてなり、クランク軸に対するカム軸2の相対位相としての機関位相を調整することにより、所望のバルブタイミングを実現する。
【0032】
(流体ブレーキ装置)
図1に示す電動式の流体ブレーキ装置100は、筐体110、ブレーキ回転体130、磁気粘性流体140、シール構造160及びソレノイドコイル150を備えている。
【0033】
全体として中空形状の筐体110は、固定部材111及びカバー部材112を有している。段付円筒状の固定部材111は磁性材により形成され、内燃機関の固定節であるチェーンケース(図示しない)に固定される。円形皿状のカバー部材112は、固定部材111と同質又は異質の磁性材により形成され、軸方向に固定部材111を挟んで位相調整機構300とは反対側に配置されている。固定部材111に同軸上に且つ液密に嵌入固定されるカバー部材112は、固定部材111との間の空間部114を、筐体110内部の流体室114として形成している。
【0034】
ブレーキ回転体130は磁性材により形成され、ブレーキ軸131及びブレーキロータ132を有している。シャフト状のブレーキ軸131は、筐体110のうち位相調整機構300側の固定部材111を内外に貫通し、当該筐体110の外部側の軸方向端部にて位相調整機構300と連繋している。ブレーキ軸131の軸方向中間部は、筐体110のうち固定部材111に設けられた軸受116により、回転可能に支持されている。これらの構成によりブレーキ回転体130は、内燃機関の運転中にクランク軸から出力される機関トルクが位相調整機構300から伝達されることで、図2,3の反時計方向となる一定方向に回転する。
【0035】
図1に示すように円環板状のブレーキロータ132は、ブレーキ軸131のうち位相調整機構300とは反対側の軸方向端部から外周側へ突出し、筐体110内部の流体室114に収容されている。かかる収容により流体室114は、ブレーキロータ132と固定部材111とに軸方向に挟まれる部分を磁気ギャップ114aとして有し、またブレーキロータ132とカバー部材112とに軸方向に挟まれる部分を磁気ギャップ114bとして有している。
【0036】
このような磁気ギャップ114a,114bを有してなる流体室114には、磁気粘性流体140が封入されている。ここで、機能性流体の一種である磁気粘性流体140は、非磁性のベース液に磁性粒子を懸濁状に分散させてなる流体である。磁気粘性流体140のベース液としては、例えばオイル等といった液状の非磁性材が用いられ、より好ましくは内燃機関の潤滑オイルと同種のオイルが用いられる。磁気粘性流体140の磁性粒子としては、例えばカルボニル鉄等といった粉状の磁性材が用いられる。こうした成分構成の磁気粘性流体140は、磁束の通過により当該通過磁束の密度に追従して見かけ上の粘度が図4の如く上昇変化し、当該粘度に比例して降伏応力が増大する特性を、有している。
【0037】
図1に示すようにシール構造160は、筐体110において軸方向の流体室114及び軸受116間となる箇所に、設けられている。シール構造160は、筐体110のうち固定部材111と、ブレーキ回転体130のうちブレーキ軸131との間をシールすることにより、磁気粘性流体140が筐体110の外部へ漏出するのを抑制する。
【0038】
ソレノイドコイル150は、樹脂ボビン151に金属線材を巻回してなり、ブレーキロータ132の外周側に同心上に配置されている。ソレノイドコイル150は、固定部材111及びカバー部材112の間に軸方向に挟まれた状態で、筐体110に保持されている。かかる保持形態のソレノイドコイル150は通電されると、固定部材111、磁気ギャップ114a、ブレーキロータ132、磁気ギャップ114b及びカバー部材112を順次通過するように、磁束を発生する。
【0039】
したがって、図2,3の反時計方向へブレーキ回転体130が回転する内燃機関の運転中に、通電によりソレノイドコイル150が磁束を発生するときには、流体室114のうち磁気ギャップ114a,114b内の磁気粘性流体140に対して当該発生磁束が通過する。その結果、粘度変化した磁気粘性流体140に接触する要素110,130間では、粘性抵抗の作用によりブレーキ回転体130(ブレーキロータ132)を制動するブレーキトルクが、図2,3の時計方向に発生する。このように本実施形態では、通電を受けるソレノイドコイル150が流体室114の磁気粘性流体140に磁束を通過させることにより、当該流体140の粘度に応じたブレーキトルクをブレーキ回転体130へと入力することができるのである。
【0040】
(通電制御回路)
マイクロコンピュータを主体に構成される通電制御回路200は、流体ブレーキ装置100の外部に配置されてソレノイドコイル150及び車両のバッテリ4と電気接続されている。内燃機関の停止中において通電制御回路200は、バッテリ4からの電力供給の遮断により、ソレノイドコイル150への通電をカットした状態とする。したがって、このときには、ソレノイドコイル150により磁束が発生せず、ブレーキ回転体130へ入力されるブレーキトルクが消失した状態となる。
【0041】
一方、内燃機関の運転中において通電制御回路200は、バッテリ4からの電力供給下、ソレノイドコイル150への通電電流を制御することにより、磁気粘性流体140に通過させる磁束を発生する。したがって、このときには、磁気粘性流体140の粘度が可変制御され、ブレーキ回転体130へ入力されるブレーキトルクが、ソレノイドコイル150への通電電流に追従して増減されることとなる。
【0042】
(位相調整機構)
図1〜3に示すように位相調整機構300は、駆動回転体10、従動回転体20、アシスト部材30、遊星キャリア40及び遊星歯車50を備えている。
【0043】
全体として円筒状を呈する駆動回転体10は、歯車部材12及びスプロケット部材13を同軸上に螺子留めしてなる。図1,2に示すように円環板状の歯車部材12は、歯底円よりも小径の歯先円を有する駆動側内歯車部14を、周壁部に形成している。図1に示すように円筒状のスプロケット部材13は、周壁部から外周側へ突出する歯16を、回転方向に複数有している。スプロケット部材13は、それらの歯16とクランク軸の複数の歯との間でタイミングチェーン(図示しない)を掛け渡されることにより、クランク軸と連繋する。かかる連繋により、クランク軸から出力される機関トルクがタイミングチェーンを通じてスプロケット部材13へと伝達されるときには、駆動回転体10がクランク軸と連動して回転する。このとき駆動回転体10の回転方向は、図2,3の反時計方向となる。
【0044】
図1,3に示すように有底円筒状の従動回転体20は、駆動回転体10のうちスプロケット部材13の内周側に同軸上に配置されている。従動回転体20は、カム軸2に同軸上に外嵌されて螺子留めにより固定される固定部21を、底壁部に形成している。かかる固定により従動回転体20は、カム軸2と連動して回転可能且つ駆動回転体10に対して相対回転可能となっている。ここで従動回転体20の回転方向は、駆動回転体10と同様、図2,3の反時計方向に設定されている。
【0045】
図1に示すように従動回転体20は、歯底円よりも小径の歯先円を有する従動側内歯車部22を、周壁部に形成している。従動側内歯車部22の内径は駆動側内歯車部14の内径よりも大きく設定され、また従動側内歯車部22の歯数は駆動側内歯車部14の歯数よりも多く設定されている。従動側内歯車部22は、駆動側内歯車部14に対して流体ブレーキ装置100とは反対側へ同軸上にずれて、配置されている。
【0046】
アシスト部材30はねじりコイルばねからなり、スプロケット部材13の内周側に同軸上に配置されている。アシスト部材30の一端部31はスプロケット部材13に係止され、アシスト部材30の他端部32は固定部21に係止されている。アシスト部材30は回転体10,20間にてねじり変形することによりアシストトルクを発生して、駆動回転体10に対する遅角側へ従動回転体20を付勢する。
【0047】
図1〜3に示すように、全体として円筒状を呈する遊星キャリア40は、流体ブレーキ装置100のブレーキ回転体130からブレーキトルクが伝達される伝達部41を、周壁部に形成している。回転体10,20及びブレーキ回転体130のブレーキ軸131に対して同軸上に配置される円筒孔状の伝達部41には、一対の溝部42が開口しており、それら溝部42に嵌合する継手43を介して伝達部41とブレーキ軸131とが連繋している。かかる連繋により遊星キャリア40は、ブレーキ回転体130と一体に回転可能且つ駆動回転体10に対して相対回転可能となっている。ここで、内燃機関の運転中における遊星キャリア40の回転方向は、ブレーキ回転体130と同様、図2,3の反時計方向となる。
【0048】
図1〜3に示すように遊星キャリア40は、遊星歯車50を軸受する軸受部46を、周壁部に形成している。回転体10,20及びブレーキ回転体130のブレーキ軸131に対して偏心配置される円筒面状の軸受部46は、遊星歯車50の中心孔51に対して遊星ベアリング48を介して同軸上に嵌入されている。かかる嵌入により遊星歯車50は、遊星運動可能に軸受部46に支持されている。ここで遊星運動とは、遊星歯車50がブレーキ軸131に対する軸受部46の偏心中心線周りに自転しつつ、遊星キャリア40の回転方向へと公転する運動をいう。したがって、遊星キャリア40が駆動回転体10に対して遊星歯車50の公転方向に相対回転するときには、当該遊星歯車50が遊星運動することになる。
【0049】
全体として段付円筒状を呈する遊星歯車50は、歯底円よりも大径の歯先円を有する外歯車部52,54を、周壁部に形成している。駆動側内歯車部14の内周側に配置されている駆動側外歯車部52は、ブレーキ軸131に対する軸受部46の偏心側において当該内歯車部14と噛合している。駆動側外歯車部52から流体ブレーキ装置100とは反対側へ同軸上にずれて従動側内歯車部22の内周側に配置されている従動側外歯車部54は、ブレーキ軸131に対する軸受部46の偏心側において当該内歯車部22と噛合している。従動側外歯車部54の外径は駆動側外歯車部52の外径よりも大きく設定され、またそれら従動側外歯車部54及び駆動側外歯車部52の歯数は、それぞれ従動側内歯車部22及び駆動側内歯車部14の歯数よりも同数ずつ少なく設定されている。
【0050】
以上の構成の位相調整機構300は、ブレーキ回転体130へ入力されるブレーキトルクと、当該ブレーキトルクとは反対向きにブレーキ回転体130へ作用することになるアシスト部材30のアシストトルクと、カム軸2からブレーキ回転体130へ伝達される変動トルクとの釣り合いに応じて、機関位相を調整する。
【0051】
具体的には、ブレーキトルクの保持等によりブレーキ回転体130が駆動回転体10との同速回転を実現するときには、遊星キャリア40が当該回転体10に対して相対回転しない。その結果、遊星歯車50が遊星運動することなく回転体10,20と連れ回りするので、機関位相が保持されることになる。一方、ブレーキトルクの増大等により、ブレーキ回転体130がアシストトルクに抗して駆動回転体10よりも低速の回転を実現するときには、遊星キャリア40が当該回転体10に対する遅角側へと相対回転する。その結果、遊星歯車50が遊星運動して従動回転体20が駆動回転体10に対する進角側へ相対回転するので、機関位相が進角することになる。また一方、ブレーキトルクの減少等により、ブレーキ回転体130がアシストトルクを受けて駆動回転体10よりも高速の回転を実現するときには、遊星キャリア40が当該回転体10に対する進角側へと相対回転する。その結果、遊星歯車50が遊星運動して従動回転体20が駆動回転体10に対する遅角側へ相対回転するので、機関位相が遅角することになる。
【0052】
(シール構造)
以下の説明では、流体室114を形成する筐体110の内部を単に「筐体内部」といい、位相調整機構300が配置される筐体110の外部を単に「筐体外部」というものとする。
【0053】
図5に示すように、ブレーキ軸131の外周部133のうちシール構造160の内周側には、一対の磁性突起134,135が軸方向に間隔をあけて設けられている。ブレーキ軸131において外周側のシール構造160へ向かって個別に突出する各磁性突起134,135は、それぞれ回転方向に連続する円環板状を、呈している。図5,6に示すように各磁性突起134,135の先端部136,137は、それぞれ筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って外径が拡大変化する外径変化部136,137として、軸方向の単位距離当たりの外径変化率が実質一定のテーパ状に、形成されている。
【0054】
ここで、各磁性突起134,135が形成する外径変化部136,137のテーパ角θpo,θpi(半値θpo/2,θpi/2を図6に示す)については、互いに実質同一角度に設定されている。また、本実施形態では、筐体内部側の磁性突起135の外径が筐体外部側の磁性突起134の外径よりも大きくなるように、前者における外径変化部137の最小外径Rpi_sが後者における外径変化部136の最大外径Rpo_lよりも拡大設定されている。尚、ブレーキ軸131の外周部133のうち磁性突起134,135間を接続する接続部138は、筐体外部側から筐体内部側へ向かって実質一定の外径Rcをもって形成されている。
【0055】
図5に示すように、筐体内部において磁気粘性流体140の封入された流体室114を筐体外部に対して隔絶するためのシール構造160は、磁気シールド162及び磁気シールスリーブ170を有している。
【0056】
有底円筒状の磁気シールド162は、例えばオーステナイト系ステンレス鋼等の非磁性材により形成され、ブレーキ軸131の外周側に同軸上に配置されることで当該軸131を回転方向に沿って囲んでいる。磁気シールド162は、開口部162a及び底部162bをそれぞれ筐体外部側(軸受116側)及び筐体内部側(流体室114側)に向けた状態で、筐体110をなす固定部材111の内周部に嵌入固定されている。
【0057】
ブレーキ軸131を回転方向に囲む形状を全体として呈する磁気シールスリーブ170は、永久磁石171及び一対の磁性ヨーク174,175を組み合わせてなる。円筒状の永久磁石171は、例えばフェライト磁石等により形成され、ブレーキ軸131の外周側に同軸上に配置されて磁気シールド162の周壁部162cに嵌入固定されている。本実施形態の永久磁石171は、筐体外部側から筐体内部側へ向かって実質一定内径Rm(図6参照)の内周部173を、有している。永久磁石171は、軸方向両端部にそれぞれ相反極性の磁極N,Sが形成されており、それら磁極N,S間に磁束MFを常時発生させる。これらの構成により、永久磁石171を覆う非磁性の磁気シールド162は、当該磁石171の発生磁束MFを漏らさずに、図5の如く内周側へと向かって集中させる機能を、発揮することができるのである。
【0058】
円環板状の各磁性ヨーク174,175は、例えば炭素鋼等の磁性材により形成され、ブレーキ軸131の外周側に同軸上に配置されて磁気シールド162の周壁部162cに嵌入固定されている。各磁性ヨーク174,175は、永久磁石171の軸方向両端部に隣接することにより、永久磁石171を軸方向に挟んで筐体外部側と筐体内部側とにそれぞれ位置している。これにより、磁性ヨーク174の内周側には、当該ヨーク174へ向かって突出の磁性突起134がシールギャップ180を挟んで設けられ、磁性ヨーク175の内周側には、当該ヨーク175へ向かって突出の磁性突起135がシールギャップ181を挟んで設けられている。したがって、本実施形態では、磁気シールド162の底部162bの内周側を通じてシールギャップ181が筐体内部の流体室114に連通し、また当該ギャップ180を通じてシールギャップ180が筐体内部の流体室114に連通している。
【0059】
図5,6に示すように各磁性ヨーク174,175の内周部176,177は、それぞれ筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する内径変化部176,177として、軸方向の単位距離当たりの内径変化率が実質一定のテーパ状に、形成されている。ここで、各磁性ヨーク174,175が形成する内径変化部176,177のテーパ角θyo,θyi(半値θyo/2,θyi/2を図6に示す)については、互いに実質同一角度且つそれぞれ対応する磁性突起134,135の外径変化部136,137のテーパ角θpo,θpiよりも大きく設定されている。また、本実施形態では、筐体内部側の磁性ヨーク175の内径が筐体外部側の磁性ヨーク174の内径よりも大きくなるように、前者における内径変化部177の最小内径Ryi_sが後者における内径変化部176の最大内径Ryo_lよりも拡大設定されている。さらに本実施形態では、かかる内径変化部177の最小内径Ryi_sに対して、永久磁石171の一定内径Rmが拡大設定されている。これらの設定により、筐体外部側の変化部176,136間のシールギャップ180と、筐体内部側の変化部177,137間のシールギャップ181とは、それぞれ筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って幅径ΔGo,ΔGiが拡大変化する形態に、形成されているのである。
【0060】
以上の構成を備えた磁気シールスリーブ170によると、永久磁石171の発生磁束MFは、軸方向のうち内径変化部176,177を形成する両端部の磁性ヨーク174,175に、図5の如く集中する。その結果、磁束MFは、各磁性ヨーク174,175の内径変化部176,177から、各シールギャップ180,181を通じて、ブレーキ軸131の各磁性突起134,135が形成する外径変化部136,137に案内される。ここで特に、各外径変化部136,137の外径は、対応する内径変化部176,177の内径に応じて相異ならされており、それによって各外径変化部136,137は、対応する内径変化部176,177に可及的に近付けられている。故に、外径変化部136及び内径変化部176間のシールギャップ180についても、外径変化部137及び内径変化部177間のシールギャップ181についても、磁束MFの集中案内作用を高め得る小幅径ΔGo,ΔGiとなっているのである。
【0061】
このような集中案内作用によって磁束MFが高密度に通過するシールギャップ180,181は、筐体内部の流体室114と連通しているので、それらギャップ180,181には、流体室114の磁気粘性流体140が磁性粒子に対する磁気吸引により、流入し易い。故に、各シールギャップ180,181へ流入した磁気粘性流体140は、それらギャップ180,181の通過磁束MFを受けて粘度上昇することにより、変化部176,136間及び変化部177,137間にて膜状に捕捉されることとなる。こうして形成されるシール膜によれば、筐体内部側から筐体外部側へ向かう磁気粘性流体140の流動につき、当該流体140自身によって抑制する自己シール機能が、永久磁石171を挟む軸方向の両側箇所にて発揮され得る。即ち、磁気シールスリーブ170及びブレーキ軸131の間に生じる磁気粘性流体140の漏出経路のうち、筐体外部に近い箇所だけでなく、その上流側箇所においても、自己シール機能を発揮する磁気粘性流体140のシール膜が形成されるのである。
【0062】
ここで図7に模式的に示すように、ブレーキ軸131の回転によって生じる遠心力Fcを、各シールギャップ180,181にて受ける磁気粘性流体140(図7では、流体140中の磁性粒子140aを代表して示す)は、外周側の各磁性ヨーク174,175に押し付けられる。このとき、各磁性ヨーク174,175において特に筐体外部側から筐体内部側へ向かって拡径されている内径変化部176,177に対して、押し付けられることになる磁気粘性流体140(磁性粒子140a)は、当該押し付けに対する抗力Frの軸方向成分Frxを筐体内部側へ向かって受ける。これにより磁気粘性流体140(磁性粒子140a)は、抗力Frの軸方向成分Frxが作用する筐体内部側へと流動し、その反対側となる筐体外部には漏出し難くなるのである。
【0063】
また、磁気粘性流体140は、磁気シールスリーブ170に対するブレーキ軸131の偏心により各シールギャップ180,181にて圧縮されることによっても、各内径変化部176,177へと押し付けられて、抗力Frの軸方向成分Frxを筐体内部側に受けることになる。それと共に、筐体外部側から筐体内部側へ向かって幅径ΔGo,ΔGiが拡大している各シールギャップ180,181においては、ブレーキ軸131の偏心によって圧縮された磁気粘性流体140は、筐体外部側よりも圧損の小さい筐体内部側へと押し出され易くなる(図7の白抜矢印参照)。これらの作用が相俟って磁気粘性流体140は、筐体内部側へ流動するため、その反対側の筐体外部には漏出し難くなるのである。
【0064】
さらに以上のようにして、抗力Fr(Frx)の作用を筐体外部側の内径変化部176から受ける磁気粘性流体140は、当該内径変化部176よりも大径に形成されている筐体内部側の内径変化部177によっては、筐体内部側への流動を妨げられ難い。したがって、漏出しようとする磁気粘性流体140を筐体内部側へと戻すことが、可能となるのである。
【0065】
加えて、各シールギャップ180,181においては、図8に模式的に示すように、磁気粘性流体140中の磁性粒子140b,140cが磁束方向に配置される。ここで各外径変化部136,137の近傍では、それら各部136,137の法線Lの方向に磁束方向が沿うことで、磁性粒子140bは、外周側に隣接する磁性粒子140cから当該法線L方向に磁力Fmを受けて、遠心力Fcのうち当該法線L方向に沿う分力成分Fclを打ち消される。その結果、磁性粒子140aは、筐体外部側から筐体内部側へ向かって拡径する各外径変化部136,137の法線L方向に対する直交方向に、遠心力Fcの分力成分Fcoを受けることで、当該筐体内部側へと流動することとなるのである。
【0066】
しかも、内燃機関の運転に伴って加熱される磁気粘性流体140は、熱膨張によって流体室114の内圧を上昇させるので、当該内圧上昇に応じて各シールギャップ180,181へと流入し易い。こうして各シールギャップ180,181へ流入した磁気粘性流体140は、筐体外部側ほど小径となる各内径変化部176,177に衝突することで、流動抵抗を受ける。この流動抵抗の作用により磁気粘性流体140は、筐体外部へは漏出し難くなるのである。
【0067】
これらのことから磁気粘性流体140は、各変化部176,177,136,137による各種作用を受けることで筐体外部への漏出を阻止され得るので、当該漏出によるブレーキ特性の変化を回避して機関位相の調整精度を高精度に維持することができる。さらに、磁気粘性流体140により各シールギャップ180,181に形成されるシール膜によれば、ブレーキ軸131に与える摩擦抵抗が低減され得るので、当該摩擦抵抗に起因して内燃機関の燃費低下を招くトルクロスについても、回避することができるのである。尚、ここまでの第一実施形態では、ソレノイドコイル150及び通電制御回路200が共同して「粘度制御手段」を構成している。
【0068】
(第二実施形態)
図9に示すように、本発明の第二実施形態は第一実施形態の変形例である。第二実施形態のブレーキ軸2131において各磁性突起2134,2135の先端部2136,2137は、筐体外部側から筐体内部側へ向かって実質一定外径Rpo,Rpiの外径ストレート部2136,2137を、形成している。各内径変化部176,177の内周側に形成している。ここで特に、筐体内部側の磁性突起2135が形成する外径ストレート部2137の一定外径Rpiは、筐体外部側の磁性突起2134が形成する外径ストレート部2136の一定外径Rpoよりも拡大設定されている。こうした構成により外径ストレート部2136は、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って幅径ΔGoが拡大変化するシールギャップ2180を、内径変化部176の内周側に挟んで設けられている。また、外径ストレート部2137は、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って幅径ΔGiが拡大変化するシールギャップ2181を、内径変化部177の内周側に挟んで設けられている。
【0069】
このように幅径ΔGo,ΔGiが拡大している各シールギャップ2180,2181において、ブレーキ軸131の偏心により圧縮された磁気粘性流体140は、第一実施形態に準じて、筐体外部側よりも圧損の小さい筐体内部側へと押し出され易くなる。これにより磁気粘性流体140は、各内径変化部176,177への押し付けに対する抗力Fr(Frx)の作用と相俟って、筐体外部への漏出を阻止され得るので、第二実施形態によっても、ブレーキ特性の変化を回避して機関位相の調整精度を高精度に維持することができるのである。
【0070】
(第三実施形態)
図10に示すように、本発明の第三実施形態は、第二実施形態の一部を適用した第一実施形態の変形例である。第三実施形態のブレーキ軸3131においては、外径変化部136を形成する磁性突起134が筐体外部側に設けられる一方、第二実施形態で説明した外径ストレート部2137を形成する磁性突起2135が、筐体内部側に設けられる。ここで、外径ストレート部2137の一定外径Rpiは、外径変化部136の最大外径Rpo_lよりも拡大設定されている。
【0071】
また、第三実施形態の磁気シールスリーブ3170においては、内径変化部176を形成する磁性ヨーク174が筐体外部側に設けられる一方、内径ストレート部3177を形成する磁性ヨーク3175が筐体内部側に設けられる。ここで内径ストレート部3177は、筐体外部側から筐体内部側へ向かって実質一定内径Ryiとなっている磁性ヨーク3175の内周部3177により、形成されている。また、内径ストレート部3177の一定内径Ryiは、内径変化部176の最大内径Ryo_lよりも拡大設定され、さらに当該内径Ryiに対して、永久磁石171の一定内径Rmが拡大設定されている。かかる設定により、互いに対応するストレート部3177,2137の間には、筐体外部側から筐体内部側へ向かって実質一定幅径ΔGiのシールギャップ3181が、挟まれている。
【0072】
このような第三実施形態では、内径ストレート部3177及び内径変化部176からの案内磁束MFが通過することとなるギャップ3181,180のうち、筐体外部に近いギャップ180では、自己シール機能及び内径変化部176による各種作用が発揮され得る。故に、筐体外部への磁気粘性流体140の漏出を阻止してブレーキ特性の変化を回避することで、機関位相の調整精度を高精度に維持することが、可能となるのである。
【0073】
(第四実施形態)
図11に示すように、本発明の第四実施形態は第一実施形態の変形例である。第四実施形態形態において永久磁石4171の内周部4173は、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する内径変化部4173として、軸方向の単位距離当たりの内径変化率が実質一定のテーパ状に形成されている。ここで特に、永久磁石4171が形成する内径変化部4173のテーパ角θm(半値θm/2を図10に示す)については、各磁性ヨーク174,175が形成する内径変化部176,177のテーパ角θyo,θyi(半値θyo/2,θyi/2を図11に示す)と実質同一角度に、設定されている。また、内径変化部4173の最小内径Rm_s及び最大内径Rm_lは、それぞれ内径変化部176の最大内径Ryo_l及び内径変化部177の最小内径Ryi_sと、実質同一径に設定されている。これらの設定により磁気シールスリーブ4170は、各磁性ヨーク174,175の内周部176,177から永久磁石4171の内周部4173に連続するテーパ状の内径変化部4179を、軸方向の全域に形成しているとも、考えることができるのである。
【0074】
このような磁気シールスリーブ4170の内径変化部4179のうち、永久磁石4171が形成する内径変化部4173は、各磁性ヨーク174,175が形成する内径変化部176,177に準ずる作用を、磁気粘性流体140に与えることができる。即ち、内径変化部4173は、ブレーキ軸131の接続部138との間のシールギャップ4182へ流体室114から流入することとなった磁気粘性流体140を、当該変化部4173への押し付けに対する抗力Fr(Frx)によって筐体内部側へと流動させ得る。したがって、第四実施形態によっても、筐体外部への磁気粘性流体140の漏出によるブレーキ特性の変化を回避して、機関位相の調整精度を高精度に維持することができるのである。
【0075】
(第五実施形態)
図12に示すように、本発明の第五実施形態は第四実施形態の変形例である。第五実施形態の磁気シールスリーブ5170において、磁性ヨーク174,175は設けられず、各外径変化部136,137に対応する内径変化部176,177は、永久磁石5171の内径変化部(内周部)4173の軸方向両端部によって形成されている。
【0076】
このような第五実施形態によっても、永久磁石5171の発生磁束MFが各シールギャップ180,181を通じて各内径変化部176,177から各外径変化部136,137に案内されることで、磁気粘性流体140による自己シール機能が発揮され得る。それと共に磁気粘性流体140は、各部176,177を含んだ内径変化部4173により、第一及び第四実施形態で説明の各種作用を受けることで、筐体内部側へと流動し得る。したがって、第五実施形態によっても、筐体外部への磁気粘性流体140の漏出によるブレーキ特性の変化を回避して、機関位相の調整精度を高精度に維持することができるのである。
【0077】
(第六実施形態)
図13に示すように、本発明の第六実施形態は第一実施形態の変形例である。第六実施形態のシール構造6160は、磁気シールスリーブ170の筐体外部側の軸方向端部6174に隣接配置されてブレーキ軸131を回転方向に沿って囲む非磁性環部材6190を、さらに有している。非磁性環部材6190は、例えばステンレス鋼等の非磁性材により形成され、ブレーキ軸131の外周側に同軸上に配置されて磁気シールド162の周壁部162cに嵌入固定されている。図13,14に示すように非磁性環部材6190の内周部6191は、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化するように、軸方向の単位距離当たりの内径変化率が実質一定のテーパ状を呈している。ここで特に、非磁性環部材6190の内周部6191のテーパ角θr(半値θr/2を図14に示す)については、磁気シールスリーブ170のうち筐体外部側の磁性ヨーク174が形成する内径変化部176のテーパ角θyo(半値θyo/2を図14に示す)と実質同一角度に、設定されている。また、非磁性環部材6190の内周部6191の最大内径Rr_lは、内径変化部176の最小内径Ryo_sと実質同一径に設定されている。これらの設定により磁気シールスリーブ170は、非磁性環部材6190の内周部6191から連続するテーパ状の内径変化部176を、筐体外部側の軸方向端部6174に形成する形となっている。
【0078】
このような第六実施形態では、磁気シールスリーブ170の筐体外部側の軸方向端部6174が非磁性環部材6190により覆われるので、当該端部6174をなす磁性ヨーク174から筐体外部側への磁束MFの漏れが、非磁性環部材6190によって妨げられる。即ち、磁性ヨーク174から筐体外部側への漏れにより、磁性ヨーク174とブレーキ軸131との間のシールギャップ180から磁気粘性流体140を引き出すことが懸念されるフリンジング磁束については、低減され得るのである。
【0079】
さらに、そうしたフリンジング磁束の低減機能を齎す非磁性環部材6190の内周部6191は、筐体外部側から筐体内部側へ向かって拡径するテーパ状であることで、隣接する磁性ヨーク174の内径変化部176に準じた作用を磁気粘性流体140に与え得る。即ち、非磁性環部材6190の内周部6191は、ブレーキ軸131との間のギャップ6183へ流入した磁気粘性流体140を、当該内周部6191への押し付けに対する抗力Fr(Frx)によって、筐体内部側へと流動させることができる。故に、非磁性環部材6190の筐体内部側に隣接する磁性ヨーク174は、当該部材6190から連続するテーパ状の内径変化部176によっては、筐体内部側への磁気粘性流体140の流動を妨げないのである。
【0080】
これらのことから、第六実施形態によっても、磁気粘性流体140の筐体外部への漏出によるブレーキ特性の変化を回避して、機関位相の調整精度を高精度に維持することができるのである。
【0081】
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0082】
第一〜第六実施形態では、内径変化部176,177のテーパ角θyo,θyiを、互いに異ならせてもよい。また、第一、第三〜第六実施形態では、内径変化部176,177のテーパ角θyo,θyiを、対応する外径変化部136,137のテーパ角θpo,θpiよりも小さく設定してもよい。さらに第一、第三〜第六実施形態では、外径変化部136,137のテーパ角θpo,θpiを、互いに異ならせてもよい。またさらに第一、第三〜第六実施形態では、外径変化部136,137を、筐体内部側から筐体外部側へ向かって内径が拡大変化する形態に形成してもよい。
【0083】
第一、第二、第四〜第六実施形態では、図15,16の変形例(図15,16は、それぞれ第一及び第二実施形態の変形例)の如く各内径変化部176,177の最大内径Ryo_l,Ryi_lを、互いに実質同一径に設定してもよい。また、第一、第四〜第六実施形態では、図15の変形例の如く各外径変化部136,137の最大外径Rpo_l,Rpi_lを、互いに実質同一径に設定してもよい。さらに第二実施形態では、図16の変形例の如く各外径ストレート部2136,2137の外径Rpo,Rpiを、互いに実質同一径に設定してもよく、またそれに加えて、図17の変形例の如く磁性突起2134,2135の一方の軸長を他方側に延長して、それら突起2134,2135を軸方向に直接接続してもよい。
【0084】
第一〜第六実施形態では、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って拡大変化する内径変化部176,177について、図18,19の変形例(図18,19は、第一実施形態の変形例)の如く軸方向の単位距離当たりの内径変化率を、筐体外部側から筐体内部側へ向かうに従って拡大(図18)又は縮小(図19)させてもよい。また同様に、第一、第三〜第六実施形態では、外径変化部136,137や非磁性環部材6190の内周部6191について、軸方向の単位距離当たりの外径変化率又は内径変化率を拡大又は縮小させてもよい。
【0085】
第一、第二、第四〜第六実施形態では、図20の変形例(図20は、第一実施形態の変形例)の如く筐体外部側の内径変化部を、筐体内部側の内径変化部177の最小内径Ryi_sよりも小さく且つ筐体外部側から筐体内部側へ向かって実質一定内径Ryoの内径ストレート部7176に、変更してもよい。またこの場合において、第一、第四〜第六実施形態では、図20の変形例の如く筐体外部側の外径変化部を、第二実施形態に準ずる外径ストレート部2136に、変更してもよい。さらに第五実施形態では、図21の変形例の如く磁極N,Sのうち一方及び他方を、それぞれ永久磁石5171の内周部4173及び外周部に形成してもよい(図21は、内周部4173にN極を形成した例)。またさらに第六実施形態では、図22の変形例の如く、内径変化部176の最小内径Ryo_s以下且つ筐体外部側から筐体内部側へ向かって実質一定内径Rrとなるように、非磁性環部材6190の内周部6191を形成することで、フリンジング磁束の低減機能を発揮させてもよい。
【0086】
第二〜第六実施形態では、第三実施形態に準じて、内径ストレート部3177を磁性ヨーク175又は永久磁石4171,5171に形成すると共に、外径ストレート部2137を磁性突起135,2135に形成してもよい。また、第二、第三及び第六実施形態では、第四実施形態に準じて、テーパ状の内径変化部4179を永久磁石171に形成してもよい。さらに第一〜第三、第六実施形態では、第五実施形態に準じて、内径変化部176,177又は内径ストレート部3177を永久磁石171により形成してもよい。またさらに第二〜第五実施形態では、第六実施形態に準じて、磁気シールスリーブ170,3170,4170,5170の筐体外部側の軸方向端部に非磁性環部材6190を隣接配置してもよい。
【0087】
第一〜第六実施形態において位相調整機構300の構造としては、ブレーキ軸131と連繋してブレーキ回転体130へ入力のブレーキトルクに応じて機関位相を調整可能な限りにて、任意の構造を採用してもよい。そして、本発明は、「動弁」としての吸気弁のバルブタイミングを調整する装置以外にも、「動弁」としての排気弁のバルブタイミングを調整する装置や、それら吸気弁及び排気弁の双方のバルブタイミングを調整する装置の他、ブレーキトルクを利用する各種の装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 バルブタイミング調整装置、2 カム軸、100 流体ブレーキ装置、110 筐体、111 固定部材、112 カバー部材、114 空間部・流体室、114a,114b 磁気ギャップ、130 ブレーキ回転体、131,2131,3131 ブレーキ軸、132 ブレーキロータ、133 外周部、134,135,2134,2135 磁性突起、136,137 先端部・外径変化部、138 接続部、140 磁気粘性流体、140a,140b,140c 磁性粒子、150 ソレノイドコイル(粘度制御手段)、160,6160 シール構造、162 磁気シールド、170,3170,4170,5170 磁気シールスリーブ、171,4171,5171 永久磁石、173 内周部、174,175,3175 磁性ヨーク、176,177,4173 内周部・内径変化部、180,181,2180,2181,3181,4182 シールギャップ、200 通電制御回路(粘度制御手段)、300 位相調整機構、2136,2137 先端部・外径ストレート部、3177 内周部・内径ストレート部、4179 内径変化部、6174 軸方向端部、6183 ギャップ、6190 非磁性環部材、6191 内周部、7176 内径ストレート部、Fc 遠心力、Fcl,Fco 分力成分、Fm 磁力、Fr 抗力、Frx 軸方向成分、MF 磁束、N,S 磁極、L 法線、Rc 外径、Rm,Rr,Ryi,Ryo 一定内径、Rm_l,Ryi_l,Ryo_l,Rr_l 最大内径、Rm_s,Ryi_s,Ryo_s 最小内径、Rpi,Rpo 一定外径、Rpi_l,Rpo_l 最大外径、Rpi_s 最小外径、ΔGo,ΔGi 幅径、θpo,θpi,θyo,θyi,θm,θr テーパ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体室を内部に形成する筐体と、
前記流体室に封入され、通過する磁束に応じて粘度が変化する磁気粘性流体と、
前記流体室の前記磁気粘性流体に磁束を通過させることにより、前記磁気粘性流体の粘度を可変制御する粘度制御手段と、
前記筐体を内外に貫通するブレーキ軸を有し、前記流体室の前記磁気粘性流体と接触することにより、前記磁気粘性流体の粘度に応じたブレーキトルクが入力されるブレーキ回転体と、
前記筐体において前記ブレーキ軸を回転方向に沿って囲む形態に設けられ、前記流体室に連通するシールギャップを前記ブレーキ軸との間に形成し、当該シールギャップを通じて前記ブレーキ軸に案内する磁束を発生する磁気シールスリーブと、
備える流体ブレーキ装置であって、
前記磁気シールスリーブは、前記筐体外部側から前記筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する内径変化部を、軸方向の少なくとも一部に有することを特徴とする流体ブレーキ装置。
【請求項2】
前記内径変化部は、前記筐体外部側から前記筐体内部側へ向かうに従って幅径が拡大変化する前記シールギャップを、前記ブレーキ軸との間に形成する請求項1に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項3】
前記ブレーキ軸は、前記筐体外部側から前記筐体内部側へ向かうに従って外径が拡大変化するテーパ状の外径変化部を、テーパ状の前記内径変化部の内周側に、前記シールギャップを挟んで有することを特徴とする請求項1又は2に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項4】
前記内径変化部は、前記外径変化部よりも大きなテーパ角のテーパ状を呈することを特徴とする請求項3に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項5】
前記ブレーキ軸は、前記筐体外部側から前記筐体内部側へ向かって外径が一定の外径ストレート部を、テーパ状の前記内径変化部の内周側に、前記シールギャップを挟んで有することを特徴とする請求項1又は2に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項6】
前記磁気シールスリーブは、
前記ブレーキ軸の外周側に配置され、軸方向端部に形成された磁極により磁束を発生する筒状の永久磁石と、
前記永久磁石の軸方向端部に隣接して前記内径変化部を形成し、前記シールギャップを通じて前記永久磁石の発生磁束を当該内径変化部から前記ブレーキ軸に案内する環板状の磁性ヨークとを、
有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項7】
前記ブレーキ軸は、前記磁性ヨークの前記内径変化部へ向かって突出する磁性突起を、外周部に有することを特徴とする請求項6に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項8】
前記磁気シールスリーブは、前記内径変化部を形成する前記磁性ヨークを、前記永久磁石を軸方向に挟んだ前記筐体外部側と前記筐体内部側とのうち、少なくとも前記筐体外部側に有することを特徴とする請求項6又は7に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項9】
前記磁気シールスリーブは、前記内径変化部を形成する前記磁性ヨークを、前記永久磁石を軸方向に挟んだ前記筐体外部側と前記筐体内部側とにそれぞれ有することを特徴とする請求項8に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項10】
前記筐体内部側の前記磁性ヨークは、前記筐体外部側の前記磁性ヨークよりも内径が大きくなる形態に、形成されることを特徴とする請求項9に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項11】
前記ブレーキ軸は、各前記磁性ヨークの前記内径変化部へ向かってそれぞれ個別に突出する磁性突起を、外周部に有し、
前記筐体内部側の前記磁性ヨークに対応する前記磁性突起は、前記筐体外部側の前記磁性ヨークに対応する前記磁性突起よりも外径が大きくなる形態に、形成されることを特徴とする請求項10に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項12】
前記筐体に設けられ、前記ブレーキ軸を回転方向に沿って囲み且つ前記磁気シールスリーブの前記筐体外部側の軸方向端部に隣接する非磁性環部材を、さらに備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項13】
前記非磁性環部材は、前記筐体外部側から前記筐体内部側へ向かうに従って内径が拡大変化する形態に、形成されることを特徴とする請求項12に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項14】
前記磁気シールスリーブの前記筐体外部側の軸方向端部は、前記非磁性環部材から連続するテーパ状の前記内径変化部を、形成することを特徴とする請求項13に記載の流体ブレーキ装置。
【請求項15】
内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、
請求項1〜14のいずれか一項に記載の流体ブレーキ装置と、
前記流体ブレーキ装置の前記筐体外部において前記ブレーキ軸と連繋し、当該流体ブレーキ装置の前記ブレーキ回転体へ入力された前記ブレーキトルクに応じて前記クランク軸及び前記カム軸の間の相対位相を調整する位相調整機構と、
を備えることを特徴とするバルブタイミング調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−41831(P2012−41831A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181837(P2010−181837)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】