流体制御装置
【課題】圧電素子を用いて、より高速で、高応答な流体の制御を行う装置を提供する。
【解決手段】流体が流れる流路11の途中に形成された孔12を上流側から閉塞する栓13と、電圧の印加により伸長する圧電素子14と、圧電素子14の一端部を固定する固定材15と、圧電素子14の他端部と栓13とを繋ぐ張力材16とを備え、圧電素子14に電圧を印加することで圧電素子14を伸長させ、圧電素子14によって張力材16を引っ張ることで栓13を開栓する。
【解決手段】流体が流れる流路11の途中に形成された孔12を上流側から閉塞する栓13と、電圧の印加により伸長する圧電素子14と、圧電素子14の一端部を固定する固定材15と、圧電素子14の他端部と栓13とを繋ぐ張力材16とを備え、圧電素子14に電圧を印加することで圧電素子14を伸長させ、圧電素子14によって張力材16を引っ張ることで栓13を開栓する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の制御を行う装置に係り、特に、ディーゼル自動車用の燃料噴射装置において使用することが出来る流体制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧縮着火内燃機関である、ディーゼル自動車用の燃料供給装置(燃料噴射装置)として、コモンレール装置(コモンレールシステム)が用いられるようになり、一般的になっている。
【0003】
コモンレール装置は、1.超高圧の燃料が噴射出来る、2.燃料噴射量の制御が容易である、などの理由から、燃料の微粒化を行い、燃料と空気との混合を促進し、黒煙やPM(微粒子)を低減することが可能となっている。また、コモンレール装置は、燃料の噴射量や時期を変えることで、燃焼温度を低減させ、NOx(窒素酸化物)を低減することが可能となっている。
【0004】
現在のコモンレール装置では、燃料を噴射する穴を開閉するニードルを動かすために、ソレノイドを有する電磁弁を使用している。また、コモンレール装置には、より応答性の高い装置として、ピエゾ素子(圧電素子)を用いたピエゾアクチュエータでニードルを動かすものもある。
【0005】
ソレノイドによるニードルの駆動では、ソレノイドへの通電に応じて、ニードルを動かすようにニードルに油圧をかける仕組みのものが多い。また、ピエゾ素子によるニードルの駆動は、特許文献1に開示されるもののように、ピエゾ素子によるニードルの直接駆動を採用する仕組みとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−316779号公報
【特許文献2】特開2008−215186号公報
【特許文献3】特開2006−101691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
まず、ソレノイドによるニードル駆動の問題点を挙げる。
【0008】
ソレノイドによるニードルの駆動では、ソレノイドを上下することで、制御室へ流入する油圧、油量を調整している。そのため、ソレノイド→制御室→ニードルのように、段階的なニードルの制御(間接駆動)を行っているといえ、応答性が悪くなる可能性が否定できない。また、ニードルの駆動に油圧を介していることから減衰運動の発生が考えられる。
【0009】
次に、ピエゾ素子によるニードル駆動の問題点を挙げる。
【0010】
ソレノイドのように、間接駆動を行ってはいないため、ソレノイドによるニードル駆動のような問題点はないが、以下の事象がピエゾ素子を使用するために発生する。
【0011】
まず、特許文献2の[発明が解決しようとする課題]においても取り上げられているように、ピエゾ素子を積層したピエゾスタックの個体間ばらつきや、経時劣化が考えられる。また、特許文献3の[発明の詳細な説明]の[背景技術]において、ピエゾスタックはピエゾ素子を重ねて層状に配置されているために、ピエゾスタックに制御電圧を印加した場合、ピエゾスタック内に引っ張り応力が発生し、亀裂が発生するとしている。
【0012】
このような問題は、ピエゾ素子を「層状」に重ねたために発生したと特許文献3の[背景技術](段落0004)に記載されている。
【0013】
そこで、本発明の目的は、圧電素子を用いて、より高速で、高応答な流体の制御を行う装置を提供し、又、圧電素子が応力によって破損する危険性が少ない流体制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、流体が流れる流路の途中に形成された孔を上流側から閉塞する栓と、電圧の印加により伸長する圧電素子と、該圧電素子の一端部を固定する固定材と、前記圧電素子の他端部と前記栓とを繋ぐ張力材とを備え、前記圧電素子に電圧を印加することで前記圧電素子を伸長させ、前記圧電素子によって前記張力材を引っ張ることで前記栓を開栓するものである。
【0015】
ここで、前記圧電素子は、単一の結晶からなっても良い。
【0016】
また、前記栓が、圧電素子からなっても良い。
【0017】
また、圧電素子からなる前記栓の一部又は全部を保護材で覆っても良い。
【0018】
また、前記栓と前記保護材との間に緩衝材を挟み込んでも良い。
【0019】
また、前記栓を中心に、前記圧電素子とは反対方向に対向圧電素子を配置し、該対向圧電素子の一端部を対向固定材に固定し、前記対向圧電素子の他端部と前記栓とを対向張力材で繋ぎ、前記圧電素子に電圧を印加することで前記圧電素子を伸長させると共に、前記対向圧電素子への電圧印加を解除することで前記対向圧電素子を縮退させ、前記圧電素子によって前記張力材を引っ張ることで前記栓を開栓し、前記圧電素子への電圧印加を解除することで前記圧電素子を縮退させると共に、前記対向圧電素子に電圧を印加することで前記対向圧電素子を伸長させ、前記対向圧電素子によって前記対向張力材を引っ張ることで前記栓を閉栓するようにしても良い。
【0020】
また、前記対向圧電素子は、単一の結晶からなっても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧電素子を用いて、より高速で、高応答な流体の制御を行う装置を提供し、又、圧電素子が応力によって破損する危険性が少ない流体制御装置を提供することが出来るという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る流体制御装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る流体制御装置の側断面図であり、(a)は「閉栓」状態を示し、(b)は「開栓」状態を示す。
【図3】張力材と圧電素子との接続の変形例を示す斜視図である。
【図4】圧電素子の構造の変形例を示す斜視図である。
【図5】他の実施形態に係る流体制御装置の側断面図であり、(a)は「閉栓」状態を示し、(b)は「開栓」状態を示す。
【図6】栓の変形例を示す側断面図である。
【図7】流体制御装置からなる流体制御弁の構造を示す概略斜視図である。
【図8】流体制御装置からなる流体制御弁の構造を示す概略斜視図である。
【図9】図8に示す流体制御弁の側断面図であり、(a)は「開栓」状態を示し、(b)は「閉栓」状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0024】
本実施形態に係る流体制御装置10は、例えば、車両に搭載されるディーゼル機関のコモンレール式燃料噴射装置において使用される。
【0025】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る流体制御装置10は、流体が流れる流路11の途中に形成された孔12を上流側から閉塞する栓(弁体)13と、電圧の印加により伸長する圧電素子14と、圧電素子14の一端部(図示例では、下端部)を固定する固定材15と、圧電素子14の他端部(図示例では、上端部)と栓13(図示例では、栓13の上端部)とを繋ぐ張力材16とを最小構成要素として備えた機構である。なお、図2中、符号17は圧電素子14に電圧を印加するための電気回路を示す。
【0026】
流路11は、コモンレール(蓄圧器)に接続され、例えば、固定材15が取り付けられるケーシング(図示せず)の内部に形成される。流路11の途中に孔12が設けられており、孔12は上流側から下流側に向かい縮径されるテーパ状のシート面18を有している。
【0027】
本実施形態の栓13は逆円錐台形に形成されている。つまり、張力材16が取り付けられた部分(上端部)を栓13の基端側とすると、栓13は先端側に向かい幅(外径)が小さくなるような形状とされる。栓13によって孔12を閉塞する際には、栓13の外周面が孔12のシート面18に密着(当接)するようになっている。栓13は、例えば金属材料(例えば、鉄、アルミニウムなど)からなる。
【0028】
本実施形態の圧電素子14はピエゾ素子からなる。電気回路17をONして圧電素子14に電圧を印加することで圧電素子14を伸長させ、電気回路17をOFFして圧電素子14への印加電圧を解除することで圧電素子14を縮退させるようになっている。圧電素子14には、張力材16を圧電素子14の上端部に取り付けるために、張力材16を通す挿通穴19が圧電素子14の上面と下面とを貫通して形成されている。本実施形態の圧電素子(ピエゾ素子)14は、単一の結晶からなり、円錐台形に形成されている。
【0029】
本実施形態の張力材16は、線状に形成されている。本実施形態では、圧電素子14の上面に円板状の接続材20が固定されており、その接続材20の下面に張力材16の上端部が固定されている。張力材16は、例えば金属材料(例えば、鉄、アルミニウムなど)からなる。
【0030】
本実施形態の固定材15は、四角板状に形成された一対の固定板21を有する。本実施形態では、一方の固定板21を他方の固定板21に対して圧電素子14の伸縮方向と直交する方向(図示例では、左右方向)に離間して配置することで、固定板21間の隙間22に圧電素子14と栓13とを繋ぐ張力材16を通すようになっている。圧電素子14の下端部を各固定板21の上面に固定し、電気回路17をONして圧電素子14に電圧を印加することで、圧電素子14を固定板21から上方向に変位させることが可能となる。固定板21は、例えば金属材料(例えば、鉄、アルミニウムなど)からなる。
【0031】
本実施形態では、圧電素子14及び固定板21は流路11外部に配置されており、張力材16が、流路11を構成する壁部分を貫通する貫通穴23に挿通されている。貫通穴23と張力材16との間のクリアランスを比較的小さくし、或いは、貫通穴23と張力材16との間にシール材(図示せず)を介設することで、貫通穴23を通じて流路11外部に漏れる流体の量を最小限とすることが好ましい。
【0032】
本実施形態に係る流体制御装置10の作動を図2により説明する。
【0033】
図2(a)に示すように、流体の流路11中に栓13を配置して、流路11の途中に設けられた孔12を栓13で閉塞することで、栓13より手前側(上流側)の流路11内の流体の圧力を高めることが出来る。ここで、図2(b)に示すように、電気回路17をONして圧電素子14に電圧を印加することで、圧電素子14を固定板21から上方向に変位させ(圧電素子14を伸長させ)、圧電素子14に接続された張力材16を上方向に引っ張り上げて、栓13を孔12のシート面18から離間させることで、栓13を開栓する。つまり、張力材16によって張力をもって栓13を引っ張り上げて栓(弁体)13を開栓(開弁)するのである。栓13を開栓して孔12を開放することによって、圧力が保たれた上流側の流路11から、孔12を通じて流路11外部に流体が出ていくことになる。
【0034】
そして、図2(a)に示すように、電気回路17をOFFして圧電素子14への電圧印加を解除することで、圧電素子14を縮退させる。すると、張力材16が圧電素子14によって引っ張られなくなるので、栓13が流体の流れ(圧力)によって孔12側へと押されて、栓13が自ずと閉栓する。つまり、流体の流れ(圧力)を利用して栓(弁体)13を閉栓(閉弁)するのである。
【0035】
なお、流路11を流れる流体には、固体、液体、固液二相流、気液二相流、固気二相流などを用いることが出来る。
【0036】
圧電素子14は、低い周波数から、100MHz程度までの振動を発生することが可能で、孔12(噴射孔)の開閉時間を短くすることで、ごく微量の流量(噴射量、噴射時間)に制御することが出来る。
【0037】
ところで、現在では、ディーゼル機関のコモンレール式燃料噴射装置においては、燃料をおよそ200MPa(2000気圧)に加圧して噴射を行っている。そのため、本実施形態に係る流体制御装置10をコモンレール式燃料噴射装置において使用した場合、圧電素子14にも200MPa程度の流体圧力(燃料圧力)が加わることになる。また、その200MPa程度の流体圧力(燃料圧力)に抗して、圧電素子14は、張力材16を引っ張り上げることになる。一般的な圧電素子14は、静的荷重においては、少なくとも400MPa以上の荷重に耐えることが出来、繰り返し荷重においては、σmin/σmax=0.05のとき、100MPa程度では未破壊となることが知られている。このため、電圧印加時には、これよりも低い値を示すことが予想されるが、材料自体の改良によって、以上に示したような、圧電素子14の適用は可能である。
【0038】
本実施形態によれば、流体が流れる流路11の途中に形成された孔12を上流側から閉塞する栓13と、電圧の印加により伸長する圧電素子14と、圧電素子14の一端部を固定する固定材15と、圧電素子14の他端部と栓13とを繋ぐ張力材16とを備え、圧電素子14に電圧を印加することで圧電素子14を伸長させ、圧電素子14によって張力材16を引っ張ることで栓13を開栓するようにして流体制御装置10を構成したので、圧電素子14によって栓13(ニードル)を直接駆動することが出来、或いは、流体(燃料)の供給を直接制御することが出来、圧電素子14を用いて、より高速で、高応答な流体の制御を行う装置を提供することが可能になる。
【0039】
また、本実施形態では、圧電素子14が単一の結晶からなるので、ピエゾ素子を重ねて層状に配置した際に層間に生じ得る引っ張り応力の問題点はないので、圧電素子14が応力によって破損する危険性が少ない流体制御装置10を提供することが可能となる。
【0040】
また、圧電素子14、張力材16、固定材15及び栓13の微細加工精度、張力材16の制作材料によって、ミリメートルオーダーからナノメートルオーダーまで流体制御装置10を構成することが可能であることから、流体制御装置10をコモンレール式燃料噴射装置において使用した場合、これまでにない燃料噴射量の流量制御が可能となる。さらに、構成要素(圧電素子14、張力材16、固定材15及び栓13)を微小化し、燃料出口に流体制御装置10を配置することで、より高速で、高応答な流体の制御を行う装置を提供することが出来る。
【0041】
以下、流体制御装置10の最小構成要素の補足を挙げ、説明を行う。
【0042】
〔圧電素子と張力材との接続〕
圧電素子14に設けられる張力材16を通す挿通穴19は、圧電素子14の張力材16が通過する箇所に開ければ良く、張力材16が圧電素子14の中間部に取り付けられている場合も考えられる(図3(b)参照)。その場合、挿通穴19は、圧電素子14の上面と下面とを貫通している必要はなく、圧電素子14の下面から中間部まで延びていれば良い。
【0043】
圧電素子14と張力材16とを接続するために、張力材16を直接圧電素子14に取り付けても良く(図3(a)及び(b)参照)、張力材16を圧電素子14と接続材20とで挟み込む形にして圧電素子14に取り付けても良い。
【0044】
張力材16の上端部を圧電素子14の上面に張り付けても良く(図3(a)参照)、張力材16の上端部を圧電素子14内部に埋め込んでも良い(図3(b)参照)。また、張力材16は圧電素子14に張り付くような形状ではなく、画鋲のうち、針の部分が長くなったような形状の張力材16を圧電素子14の上方から挿通穴19に差し込むことも考えられる(図3(c)参照)。これらの場合、圧電素子14と張力材16とを繋ぐための接続材20は必要なくなる。
【0045】
〔圧電素子〕
圧電素子14は、円錐台形である必要はない。例えば、圧電素子14を、円筒形又は円柱形(図4(a)参照)、直方体形又は立方体形(図4(b)参照)、逆円錐台形(図4(c)参照)、四角錐台形(図4(d)参照)などの形状とすることが考えられる。
【0046】
また、本発明では、基本的に圧電素子14は、単一の結晶からなることが望ましいが、圧電素子14を応力が加わらない範囲で層状に構成することも出来る。
【0047】
〔固定材〕
固定材15(固定板21)の存在は必須である。圧電素子14を固定板21から下方向に変位させたいときは、固定板21を圧電素子14の上部に取り付ければ良い。
【0048】
〔張力材〕
張力材16は、線状になるものなら、その素材の構成原子の種類は問わない。例えば、張力材16を、鉄のワイヤー、アルミ線、フッ素樹脂の線、アラミド繊維の線などから構成することが考えられる。
【0049】
また、圧電素子14をナノスケール(ナノメートルオーダー)で加工した場合、張力材16として、カーボンナノチューブを使用すると、その高い引張強度から、高圧力下などの条件で圧力に抗して栓13の移動を行うのに適していると考えられる。
【0050】
また、張力材16を比較的太く棒状に形成して、その張力材16によって栓13を押すことで栓13を閉栓するようにしても良い。
【0051】
〔栓〕
図5に示すように、栓13自体を圧電素子で構成することも可能である。この場合、栓13への電圧印加で、栓13の移動(変形)が可能になるため、極微少量の流量制御が可能になる。この場合、圧電素子14への電圧印加と、栓13自体への電圧印加とを独立に行うことで、より複雑な栓13の位置制御を行うことが出来る。栓13への電力供給は張力材16を導電性素材から構成することにより可能となる。なお、図5中、符号24は栓13に電圧を印加するための電気回路を示す。
【0052】
例えば、電気回路17による圧電素子14への電圧印加を行わず、電気回路24によって栓13自体への電圧印加のみを行うことで栓13を伸長させて栓13を孔12のシート面18に密着させることにより、栓13により孔12を閉塞し(図5(a)参照)、電気回路24による栓13自体への電圧印加を解除することで栓13を縮退させて、栓13と孔12のシート面18との間に隙間を生じさせることで(図5(b)参照)、極微少量の流量制御が可能になる。
【0053】
また、栓13自体を圧電素子で構成した場合、栓13と孔12のシート面18との接触によって、栓13に傷が出来る可能性がある。そこで、図6に示すように、栓13の外部を保護する保護材25で、栓13の一部又は全部を覆うことも考えられる。保護材25は、例えば金属材料(例えば、鉄、アルミニウムなど)からなる。また、栓13と保護材25との間に緩衝材26を挟み込み、衝撃を吸収することも可能である(図6(a)参照)。
【0054】
〔その他〕
流体制御装置10の最小構成要素としては、上述したものを挙げたが、その他、現在燃料噴射装置に用いられている、バネ材の使用も可能である。例えば、栓13を孔12側に付勢して閉栓するために、バネ材を用いることが考えられる。
【0055】
以下、流体制御装置10からなる流体制御弁10Aの構造を図7から図9に基づいて説明する。なお、図1から図6と実質的に同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。また、図7(b)の下部分は図7(a)の下部分と同様であるので図示省略する。
【0056】
図7に示すように、先に説明した、圧電素子14、張力材16、固定材15及び栓13などから構成される、流体制御のための最小構成要素に、栓13と密着出来る部分(孔12のシート面18)と、固定材15を支えることの出来る部分を持つ管27(図示例では、円管)(或いは筒)を組み合わせることで、流体制御弁10Aを作ることが出来る。
【0057】
図7(a)においては、圧電素子14及び固定材15を流路11内に配置している。固定材15は、管27によって支持される円板状の固定板28からなり、その中心部に張力材16と流体とが同時に通過する挿通穴29が設けられている。また、圧電素子14の中心部に張力材16と流体とが同時に通過する挿通穴30を設け、張力材16の上端部を圧電素子14の上面に張り付けている。
【0058】
図7(a)では、圧電素子14及び固定板28の中心部に張力材16と流体とが同時に通過する挿通穴30、29をそれぞれ設けたが、図7(b)では、圧電素子14及び固定板28の中心部にそれぞれ設けられた張力材16及び流体が通過する挿通穴30、29以外にも、圧電素子14及び固定板28に、流体が通過する流体通過穴31、32をそれぞれ設けている。
【0059】
図7に示されるような流体制御弁10Aは、圧電素子14、張力材16、管27の加工方法次第で、ミリスケールから、ナノスケール程度の微小なものまで、作成することが可能であると考えられる。
【0060】
図8及び図9に示す流体制御弁10Aは、圧電素子14、張力材16及び固定材15などから構成される、最小構成要素を二個用い、一つの栓13を二つの張力材16が引っ張るように、最小構成要素(圧電素子14、張力材16、固定材15)を管27内に対向配置したものである。即ち、栓13を中心に、圧電素子14とは反対方向に対向圧電素子14Aを配置し、対向圧電素子14Aの一端部(図示例では、上端部)を対向固定材15A(対向固定板28Aの下端部)に固定し、対向圧電素子14Aの他端部(図示例では、下端部)と栓13(栓13の下端部)とを対向張力材16Aで繋いでいる。また、栓13自体を圧電素子から構成している。さらに、栓13への電力供給は、導電性素材から構成した張力材16により行う。なお、図8中、符号33は対向圧電素子14Aに電圧を印加するための電気回路を示す。
【0061】
図9に示すように、栓13を中心に、互いに反対方向に配置した二つの圧電素子14、対向圧電素子14Aによって、図8及び図9中上側の圧電素子14の電圧印加が「ON」、下側の対向圧電素子14Aの電圧印加が「OFF」のときは、栓13を「開栓」とし(図9(a)参照)、上側の圧電素子14の電圧印加が「OFF」、下側の対向圧電素子14Aの電圧印加が「ON」のときは、栓13を「閉栓」とする(図9(b)参照)ことが出来る。即ち、電気回路17によって圧電素子14に電圧を印加することで圧電素子14を伸長させると共に、電気回路33による対向圧電素子14Aへの電圧印加を解除することで対向圧電素子14Aを縮退させ、圧電素子14によって張力材16を引っ張ることで栓(弁体)13を開栓(開弁)し(図9(a)参照)、一方、電気回路17による圧電素子14への電圧印加を解除することで圧電素子14を縮退させると共に、電気回路33によって対向圧電素子14Aに電圧を印加することで対向圧電素子14Aを伸長させ、対向圧電素子14Aによって対向張力材16Aを引っ張ることで栓(弁体)13を閉栓(閉弁)するようにしている。
【0062】
図8及び図9に示すものでは、下側の対向圧電素子14Aにより栓13を閉栓するときも栓13を下方向に引っ張ることが出来るので、栓13と接触する、孔12のシート面18に力を加え、密着度を増し、栓13の閉栓時の流体の漏れを少なくすることが出来る。また、栓13の開栓及び閉栓を引っ張りのみで行うことが出来るため、栓13が孔12のシート面18と接触する際や、開栓する際に、ダンピングの挙動が生じにくいと考えられる。そのため、微小領域での開閉には最適な構造であると考えられる。また、図8及び図9に示すものでは、栓13自体を圧電素子から構成したので、電気回路24による栓13への電圧印加で、栓13の移動(変形)が可能になるため、極微少量の流量制御が可能になる。また、圧電素子14及び対向圧電素子14Aへの電圧印加と、栓13自体への電圧印加とを独立に行うことで、より複雑な栓13の位置制御を行うことが出来る。
【符号の説明】
【0063】
10 流体制御装置
11 流路
12 孔
13 栓(弁体)
14 圧電素子
14A 対向圧電素子
15 固定材
15A 対向固定材
16 張力材
16A 対向張力材
25 保護材
26 緩衝材
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の制御を行う装置に係り、特に、ディーゼル自動車用の燃料噴射装置において使用することが出来る流体制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧縮着火内燃機関である、ディーゼル自動車用の燃料供給装置(燃料噴射装置)として、コモンレール装置(コモンレールシステム)が用いられるようになり、一般的になっている。
【0003】
コモンレール装置は、1.超高圧の燃料が噴射出来る、2.燃料噴射量の制御が容易である、などの理由から、燃料の微粒化を行い、燃料と空気との混合を促進し、黒煙やPM(微粒子)を低減することが可能となっている。また、コモンレール装置は、燃料の噴射量や時期を変えることで、燃焼温度を低減させ、NOx(窒素酸化物)を低減することが可能となっている。
【0004】
現在のコモンレール装置では、燃料を噴射する穴を開閉するニードルを動かすために、ソレノイドを有する電磁弁を使用している。また、コモンレール装置には、より応答性の高い装置として、ピエゾ素子(圧電素子)を用いたピエゾアクチュエータでニードルを動かすものもある。
【0005】
ソレノイドによるニードルの駆動では、ソレノイドへの通電に応じて、ニードルを動かすようにニードルに油圧をかける仕組みのものが多い。また、ピエゾ素子によるニードルの駆動は、特許文献1に開示されるもののように、ピエゾ素子によるニードルの直接駆動を採用する仕組みとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−316779号公報
【特許文献2】特開2008−215186号公報
【特許文献3】特開2006−101691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
まず、ソレノイドによるニードル駆動の問題点を挙げる。
【0008】
ソレノイドによるニードルの駆動では、ソレノイドを上下することで、制御室へ流入する油圧、油量を調整している。そのため、ソレノイド→制御室→ニードルのように、段階的なニードルの制御(間接駆動)を行っているといえ、応答性が悪くなる可能性が否定できない。また、ニードルの駆動に油圧を介していることから減衰運動の発生が考えられる。
【0009】
次に、ピエゾ素子によるニードル駆動の問題点を挙げる。
【0010】
ソレノイドのように、間接駆動を行ってはいないため、ソレノイドによるニードル駆動のような問題点はないが、以下の事象がピエゾ素子を使用するために発生する。
【0011】
まず、特許文献2の[発明が解決しようとする課題]においても取り上げられているように、ピエゾ素子を積層したピエゾスタックの個体間ばらつきや、経時劣化が考えられる。また、特許文献3の[発明の詳細な説明]の[背景技術]において、ピエゾスタックはピエゾ素子を重ねて層状に配置されているために、ピエゾスタックに制御電圧を印加した場合、ピエゾスタック内に引っ張り応力が発生し、亀裂が発生するとしている。
【0012】
このような問題は、ピエゾ素子を「層状」に重ねたために発生したと特許文献3の[背景技術](段落0004)に記載されている。
【0013】
そこで、本発明の目的は、圧電素子を用いて、より高速で、高応答な流体の制御を行う装置を提供し、又、圧電素子が応力によって破損する危険性が少ない流体制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、流体が流れる流路の途中に形成された孔を上流側から閉塞する栓と、電圧の印加により伸長する圧電素子と、該圧電素子の一端部を固定する固定材と、前記圧電素子の他端部と前記栓とを繋ぐ張力材とを備え、前記圧電素子に電圧を印加することで前記圧電素子を伸長させ、前記圧電素子によって前記張力材を引っ張ることで前記栓を開栓するものである。
【0015】
ここで、前記圧電素子は、単一の結晶からなっても良い。
【0016】
また、前記栓が、圧電素子からなっても良い。
【0017】
また、圧電素子からなる前記栓の一部又は全部を保護材で覆っても良い。
【0018】
また、前記栓と前記保護材との間に緩衝材を挟み込んでも良い。
【0019】
また、前記栓を中心に、前記圧電素子とは反対方向に対向圧電素子を配置し、該対向圧電素子の一端部を対向固定材に固定し、前記対向圧電素子の他端部と前記栓とを対向張力材で繋ぎ、前記圧電素子に電圧を印加することで前記圧電素子を伸長させると共に、前記対向圧電素子への電圧印加を解除することで前記対向圧電素子を縮退させ、前記圧電素子によって前記張力材を引っ張ることで前記栓を開栓し、前記圧電素子への電圧印加を解除することで前記圧電素子を縮退させると共に、前記対向圧電素子に電圧を印加することで前記対向圧電素子を伸長させ、前記対向圧電素子によって前記対向張力材を引っ張ることで前記栓を閉栓するようにしても良い。
【0020】
また、前記対向圧電素子は、単一の結晶からなっても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧電素子を用いて、より高速で、高応答な流体の制御を行う装置を提供し、又、圧電素子が応力によって破損する危険性が少ない流体制御装置を提供することが出来るという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る流体制御装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る流体制御装置の側断面図であり、(a)は「閉栓」状態を示し、(b)は「開栓」状態を示す。
【図3】張力材と圧電素子との接続の変形例を示す斜視図である。
【図4】圧電素子の構造の変形例を示す斜視図である。
【図5】他の実施形態に係る流体制御装置の側断面図であり、(a)は「閉栓」状態を示し、(b)は「開栓」状態を示す。
【図6】栓の変形例を示す側断面図である。
【図7】流体制御装置からなる流体制御弁の構造を示す概略斜視図である。
【図8】流体制御装置からなる流体制御弁の構造を示す概略斜視図である。
【図9】図8に示す流体制御弁の側断面図であり、(a)は「開栓」状態を示し、(b)は「閉栓」状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0024】
本実施形態に係る流体制御装置10は、例えば、車両に搭載されるディーゼル機関のコモンレール式燃料噴射装置において使用される。
【0025】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る流体制御装置10は、流体が流れる流路11の途中に形成された孔12を上流側から閉塞する栓(弁体)13と、電圧の印加により伸長する圧電素子14と、圧電素子14の一端部(図示例では、下端部)を固定する固定材15と、圧電素子14の他端部(図示例では、上端部)と栓13(図示例では、栓13の上端部)とを繋ぐ張力材16とを最小構成要素として備えた機構である。なお、図2中、符号17は圧電素子14に電圧を印加するための電気回路を示す。
【0026】
流路11は、コモンレール(蓄圧器)に接続され、例えば、固定材15が取り付けられるケーシング(図示せず)の内部に形成される。流路11の途中に孔12が設けられており、孔12は上流側から下流側に向かい縮径されるテーパ状のシート面18を有している。
【0027】
本実施形態の栓13は逆円錐台形に形成されている。つまり、張力材16が取り付けられた部分(上端部)を栓13の基端側とすると、栓13は先端側に向かい幅(外径)が小さくなるような形状とされる。栓13によって孔12を閉塞する際には、栓13の外周面が孔12のシート面18に密着(当接)するようになっている。栓13は、例えば金属材料(例えば、鉄、アルミニウムなど)からなる。
【0028】
本実施形態の圧電素子14はピエゾ素子からなる。電気回路17をONして圧電素子14に電圧を印加することで圧電素子14を伸長させ、電気回路17をOFFして圧電素子14への印加電圧を解除することで圧電素子14を縮退させるようになっている。圧電素子14には、張力材16を圧電素子14の上端部に取り付けるために、張力材16を通す挿通穴19が圧電素子14の上面と下面とを貫通して形成されている。本実施形態の圧電素子(ピエゾ素子)14は、単一の結晶からなり、円錐台形に形成されている。
【0029】
本実施形態の張力材16は、線状に形成されている。本実施形態では、圧電素子14の上面に円板状の接続材20が固定されており、その接続材20の下面に張力材16の上端部が固定されている。張力材16は、例えば金属材料(例えば、鉄、アルミニウムなど)からなる。
【0030】
本実施形態の固定材15は、四角板状に形成された一対の固定板21を有する。本実施形態では、一方の固定板21を他方の固定板21に対して圧電素子14の伸縮方向と直交する方向(図示例では、左右方向)に離間して配置することで、固定板21間の隙間22に圧電素子14と栓13とを繋ぐ張力材16を通すようになっている。圧電素子14の下端部を各固定板21の上面に固定し、電気回路17をONして圧電素子14に電圧を印加することで、圧電素子14を固定板21から上方向に変位させることが可能となる。固定板21は、例えば金属材料(例えば、鉄、アルミニウムなど)からなる。
【0031】
本実施形態では、圧電素子14及び固定板21は流路11外部に配置されており、張力材16が、流路11を構成する壁部分を貫通する貫通穴23に挿通されている。貫通穴23と張力材16との間のクリアランスを比較的小さくし、或いは、貫通穴23と張力材16との間にシール材(図示せず)を介設することで、貫通穴23を通じて流路11外部に漏れる流体の量を最小限とすることが好ましい。
【0032】
本実施形態に係る流体制御装置10の作動を図2により説明する。
【0033】
図2(a)に示すように、流体の流路11中に栓13を配置して、流路11の途中に設けられた孔12を栓13で閉塞することで、栓13より手前側(上流側)の流路11内の流体の圧力を高めることが出来る。ここで、図2(b)に示すように、電気回路17をONして圧電素子14に電圧を印加することで、圧電素子14を固定板21から上方向に変位させ(圧電素子14を伸長させ)、圧電素子14に接続された張力材16を上方向に引っ張り上げて、栓13を孔12のシート面18から離間させることで、栓13を開栓する。つまり、張力材16によって張力をもって栓13を引っ張り上げて栓(弁体)13を開栓(開弁)するのである。栓13を開栓して孔12を開放することによって、圧力が保たれた上流側の流路11から、孔12を通じて流路11外部に流体が出ていくことになる。
【0034】
そして、図2(a)に示すように、電気回路17をOFFして圧電素子14への電圧印加を解除することで、圧電素子14を縮退させる。すると、張力材16が圧電素子14によって引っ張られなくなるので、栓13が流体の流れ(圧力)によって孔12側へと押されて、栓13が自ずと閉栓する。つまり、流体の流れ(圧力)を利用して栓(弁体)13を閉栓(閉弁)するのである。
【0035】
なお、流路11を流れる流体には、固体、液体、固液二相流、気液二相流、固気二相流などを用いることが出来る。
【0036】
圧電素子14は、低い周波数から、100MHz程度までの振動を発生することが可能で、孔12(噴射孔)の開閉時間を短くすることで、ごく微量の流量(噴射量、噴射時間)に制御することが出来る。
【0037】
ところで、現在では、ディーゼル機関のコモンレール式燃料噴射装置においては、燃料をおよそ200MPa(2000気圧)に加圧して噴射を行っている。そのため、本実施形態に係る流体制御装置10をコモンレール式燃料噴射装置において使用した場合、圧電素子14にも200MPa程度の流体圧力(燃料圧力)が加わることになる。また、その200MPa程度の流体圧力(燃料圧力)に抗して、圧電素子14は、張力材16を引っ張り上げることになる。一般的な圧電素子14は、静的荷重においては、少なくとも400MPa以上の荷重に耐えることが出来、繰り返し荷重においては、σmin/σmax=0.05のとき、100MPa程度では未破壊となることが知られている。このため、電圧印加時には、これよりも低い値を示すことが予想されるが、材料自体の改良によって、以上に示したような、圧電素子14の適用は可能である。
【0038】
本実施形態によれば、流体が流れる流路11の途中に形成された孔12を上流側から閉塞する栓13と、電圧の印加により伸長する圧電素子14と、圧電素子14の一端部を固定する固定材15と、圧電素子14の他端部と栓13とを繋ぐ張力材16とを備え、圧電素子14に電圧を印加することで圧電素子14を伸長させ、圧電素子14によって張力材16を引っ張ることで栓13を開栓するようにして流体制御装置10を構成したので、圧電素子14によって栓13(ニードル)を直接駆動することが出来、或いは、流体(燃料)の供給を直接制御することが出来、圧電素子14を用いて、より高速で、高応答な流体の制御を行う装置を提供することが可能になる。
【0039】
また、本実施形態では、圧電素子14が単一の結晶からなるので、ピエゾ素子を重ねて層状に配置した際に層間に生じ得る引っ張り応力の問題点はないので、圧電素子14が応力によって破損する危険性が少ない流体制御装置10を提供することが可能となる。
【0040】
また、圧電素子14、張力材16、固定材15及び栓13の微細加工精度、張力材16の制作材料によって、ミリメートルオーダーからナノメートルオーダーまで流体制御装置10を構成することが可能であることから、流体制御装置10をコモンレール式燃料噴射装置において使用した場合、これまでにない燃料噴射量の流量制御が可能となる。さらに、構成要素(圧電素子14、張力材16、固定材15及び栓13)を微小化し、燃料出口に流体制御装置10を配置することで、より高速で、高応答な流体の制御を行う装置を提供することが出来る。
【0041】
以下、流体制御装置10の最小構成要素の補足を挙げ、説明を行う。
【0042】
〔圧電素子と張力材との接続〕
圧電素子14に設けられる張力材16を通す挿通穴19は、圧電素子14の張力材16が通過する箇所に開ければ良く、張力材16が圧電素子14の中間部に取り付けられている場合も考えられる(図3(b)参照)。その場合、挿通穴19は、圧電素子14の上面と下面とを貫通している必要はなく、圧電素子14の下面から中間部まで延びていれば良い。
【0043】
圧電素子14と張力材16とを接続するために、張力材16を直接圧電素子14に取り付けても良く(図3(a)及び(b)参照)、張力材16を圧電素子14と接続材20とで挟み込む形にして圧電素子14に取り付けても良い。
【0044】
張力材16の上端部を圧電素子14の上面に張り付けても良く(図3(a)参照)、張力材16の上端部を圧電素子14内部に埋め込んでも良い(図3(b)参照)。また、張力材16は圧電素子14に張り付くような形状ではなく、画鋲のうち、針の部分が長くなったような形状の張力材16を圧電素子14の上方から挿通穴19に差し込むことも考えられる(図3(c)参照)。これらの場合、圧電素子14と張力材16とを繋ぐための接続材20は必要なくなる。
【0045】
〔圧電素子〕
圧電素子14は、円錐台形である必要はない。例えば、圧電素子14を、円筒形又は円柱形(図4(a)参照)、直方体形又は立方体形(図4(b)参照)、逆円錐台形(図4(c)参照)、四角錐台形(図4(d)参照)などの形状とすることが考えられる。
【0046】
また、本発明では、基本的に圧電素子14は、単一の結晶からなることが望ましいが、圧電素子14を応力が加わらない範囲で層状に構成することも出来る。
【0047】
〔固定材〕
固定材15(固定板21)の存在は必須である。圧電素子14を固定板21から下方向に変位させたいときは、固定板21を圧電素子14の上部に取り付ければ良い。
【0048】
〔張力材〕
張力材16は、線状になるものなら、その素材の構成原子の種類は問わない。例えば、張力材16を、鉄のワイヤー、アルミ線、フッ素樹脂の線、アラミド繊維の線などから構成することが考えられる。
【0049】
また、圧電素子14をナノスケール(ナノメートルオーダー)で加工した場合、張力材16として、カーボンナノチューブを使用すると、その高い引張強度から、高圧力下などの条件で圧力に抗して栓13の移動を行うのに適していると考えられる。
【0050】
また、張力材16を比較的太く棒状に形成して、その張力材16によって栓13を押すことで栓13を閉栓するようにしても良い。
【0051】
〔栓〕
図5に示すように、栓13自体を圧電素子で構成することも可能である。この場合、栓13への電圧印加で、栓13の移動(変形)が可能になるため、極微少量の流量制御が可能になる。この場合、圧電素子14への電圧印加と、栓13自体への電圧印加とを独立に行うことで、より複雑な栓13の位置制御を行うことが出来る。栓13への電力供給は張力材16を導電性素材から構成することにより可能となる。なお、図5中、符号24は栓13に電圧を印加するための電気回路を示す。
【0052】
例えば、電気回路17による圧電素子14への電圧印加を行わず、電気回路24によって栓13自体への電圧印加のみを行うことで栓13を伸長させて栓13を孔12のシート面18に密着させることにより、栓13により孔12を閉塞し(図5(a)参照)、電気回路24による栓13自体への電圧印加を解除することで栓13を縮退させて、栓13と孔12のシート面18との間に隙間を生じさせることで(図5(b)参照)、極微少量の流量制御が可能になる。
【0053】
また、栓13自体を圧電素子で構成した場合、栓13と孔12のシート面18との接触によって、栓13に傷が出来る可能性がある。そこで、図6に示すように、栓13の外部を保護する保護材25で、栓13の一部又は全部を覆うことも考えられる。保護材25は、例えば金属材料(例えば、鉄、アルミニウムなど)からなる。また、栓13と保護材25との間に緩衝材26を挟み込み、衝撃を吸収することも可能である(図6(a)参照)。
【0054】
〔その他〕
流体制御装置10の最小構成要素としては、上述したものを挙げたが、その他、現在燃料噴射装置に用いられている、バネ材の使用も可能である。例えば、栓13を孔12側に付勢して閉栓するために、バネ材を用いることが考えられる。
【0055】
以下、流体制御装置10からなる流体制御弁10Aの構造を図7から図9に基づいて説明する。なお、図1から図6と実質的に同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。また、図7(b)の下部分は図7(a)の下部分と同様であるので図示省略する。
【0056】
図7に示すように、先に説明した、圧電素子14、張力材16、固定材15及び栓13などから構成される、流体制御のための最小構成要素に、栓13と密着出来る部分(孔12のシート面18)と、固定材15を支えることの出来る部分を持つ管27(図示例では、円管)(或いは筒)を組み合わせることで、流体制御弁10Aを作ることが出来る。
【0057】
図7(a)においては、圧電素子14及び固定材15を流路11内に配置している。固定材15は、管27によって支持される円板状の固定板28からなり、その中心部に張力材16と流体とが同時に通過する挿通穴29が設けられている。また、圧電素子14の中心部に張力材16と流体とが同時に通過する挿通穴30を設け、張力材16の上端部を圧電素子14の上面に張り付けている。
【0058】
図7(a)では、圧電素子14及び固定板28の中心部に張力材16と流体とが同時に通過する挿通穴30、29をそれぞれ設けたが、図7(b)では、圧電素子14及び固定板28の中心部にそれぞれ設けられた張力材16及び流体が通過する挿通穴30、29以外にも、圧電素子14及び固定板28に、流体が通過する流体通過穴31、32をそれぞれ設けている。
【0059】
図7に示されるような流体制御弁10Aは、圧電素子14、張力材16、管27の加工方法次第で、ミリスケールから、ナノスケール程度の微小なものまで、作成することが可能であると考えられる。
【0060】
図8及び図9に示す流体制御弁10Aは、圧電素子14、張力材16及び固定材15などから構成される、最小構成要素を二個用い、一つの栓13を二つの張力材16が引っ張るように、最小構成要素(圧電素子14、張力材16、固定材15)を管27内に対向配置したものである。即ち、栓13を中心に、圧電素子14とは反対方向に対向圧電素子14Aを配置し、対向圧電素子14Aの一端部(図示例では、上端部)を対向固定材15A(対向固定板28Aの下端部)に固定し、対向圧電素子14Aの他端部(図示例では、下端部)と栓13(栓13の下端部)とを対向張力材16Aで繋いでいる。また、栓13自体を圧電素子から構成している。さらに、栓13への電力供給は、導電性素材から構成した張力材16により行う。なお、図8中、符号33は対向圧電素子14Aに電圧を印加するための電気回路を示す。
【0061】
図9に示すように、栓13を中心に、互いに反対方向に配置した二つの圧電素子14、対向圧電素子14Aによって、図8及び図9中上側の圧電素子14の電圧印加が「ON」、下側の対向圧電素子14Aの電圧印加が「OFF」のときは、栓13を「開栓」とし(図9(a)参照)、上側の圧電素子14の電圧印加が「OFF」、下側の対向圧電素子14Aの電圧印加が「ON」のときは、栓13を「閉栓」とする(図9(b)参照)ことが出来る。即ち、電気回路17によって圧電素子14に電圧を印加することで圧電素子14を伸長させると共に、電気回路33による対向圧電素子14Aへの電圧印加を解除することで対向圧電素子14Aを縮退させ、圧電素子14によって張力材16を引っ張ることで栓(弁体)13を開栓(開弁)し(図9(a)参照)、一方、電気回路17による圧電素子14への電圧印加を解除することで圧電素子14を縮退させると共に、電気回路33によって対向圧電素子14Aに電圧を印加することで対向圧電素子14Aを伸長させ、対向圧電素子14Aによって対向張力材16Aを引っ張ることで栓(弁体)13を閉栓(閉弁)するようにしている。
【0062】
図8及び図9に示すものでは、下側の対向圧電素子14Aにより栓13を閉栓するときも栓13を下方向に引っ張ることが出来るので、栓13と接触する、孔12のシート面18に力を加え、密着度を増し、栓13の閉栓時の流体の漏れを少なくすることが出来る。また、栓13の開栓及び閉栓を引っ張りのみで行うことが出来るため、栓13が孔12のシート面18と接触する際や、開栓する際に、ダンピングの挙動が生じにくいと考えられる。そのため、微小領域での開閉には最適な構造であると考えられる。また、図8及び図9に示すものでは、栓13自体を圧電素子から構成したので、電気回路24による栓13への電圧印加で、栓13の移動(変形)が可能になるため、極微少量の流量制御が可能になる。また、圧電素子14及び対向圧電素子14Aへの電圧印加と、栓13自体への電圧印加とを独立に行うことで、より複雑な栓13の位置制御を行うことが出来る。
【符号の説明】
【0063】
10 流体制御装置
11 流路
12 孔
13 栓(弁体)
14 圧電素子
14A 対向圧電素子
15 固定材
15A 対向固定材
16 張力材
16A 対向張力材
25 保護材
26 緩衝材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる流路の途中に形成された孔を上流側から閉塞する栓と、電圧の印加により伸長する圧電素子と、該圧電素子の一端部を固定する固定材と、前記圧電素子の他端部と前記栓とを繋ぐ張力材とを備え、前記圧電素子に電圧を印加することで前記圧電素子を伸長させ、前記圧電素子によって前記張力材を引っ張ることで前記栓を開栓することを特徴とする流体制御装置。
【請求項2】
前記圧電素子は、単一の結晶からなる請求項1に記載の流体制御装置。
【請求項3】
前記栓が、圧電素子からなる請求項1又は2に記載の流体制御装置。
【請求項4】
圧電素子からなる前記栓の一部又は全部を保護材で覆った請求項3に記載の流体制御装置。
【請求項5】
前記栓と前記保護材との間に緩衝材を挟み込んだ請求項4に記載の流体制御装置。
【請求項6】
前記栓を中心に、前記圧電素子とは反対方向に対向圧電素子を配置し、該対向圧電素子の一端部を対向固定材に固定し、前記対向圧電素子の他端部と前記栓とを対向張力材で繋ぎ、
前記圧電素子に電圧を印加することで前記圧電素子を伸長させると共に、前記対向圧電素子への電圧印加を解除することで前記対向圧電素子を縮退させ、前記圧電素子によって前記張力材を引っ張ることで前記栓を開栓し、
前記圧電素子への電圧印加を解除することで前記圧電素子を縮退させると共に、前記対向圧電素子に電圧を印加することで前記対向圧電素子を伸長させ、前記対向圧電素子によって前記対向張力材を引っ張ることで前記栓を閉栓する
請求項1から5のいずれかに記載の流体制御装置。
【請求項7】
前記対向圧電素子は、単一の結晶からなる請求項6に記載の流体制御装置。
【請求項1】
流体が流れる流路の途中に形成された孔を上流側から閉塞する栓と、電圧の印加により伸長する圧電素子と、該圧電素子の一端部を固定する固定材と、前記圧電素子の他端部と前記栓とを繋ぐ張力材とを備え、前記圧電素子に電圧を印加することで前記圧電素子を伸長させ、前記圧電素子によって前記張力材を引っ張ることで前記栓を開栓することを特徴とする流体制御装置。
【請求項2】
前記圧電素子は、単一の結晶からなる請求項1に記載の流体制御装置。
【請求項3】
前記栓が、圧電素子からなる請求項1又は2に記載の流体制御装置。
【請求項4】
圧電素子からなる前記栓の一部又は全部を保護材で覆った請求項3に記載の流体制御装置。
【請求項5】
前記栓と前記保護材との間に緩衝材を挟み込んだ請求項4に記載の流体制御装置。
【請求項6】
前記栓を中心に、前記圧電素子とは反対方向に対向圧電素子を配置し、該対向圧電素子の一端部を対向固定材に固定し、前記対向圧電素子の他端部と前記栓とを対向張力材で繋ぎ、
前記圧電素子に電圧を印加することで前記圧電素子を伸長させると共に、前記対向圧電素子への電圧印加を解除することで前記対向圧電素子を縮退させ、前記圧電素子によって前記張力材を引っ張ることで前記栓を開栓し、
前記圧電素子への電圧印加を解除することで前記圧電素子を縮退させると共に、前記対向圧電素子に電圧を印加することで前記対向圧電素子を伸長させ、前記対向圧電素子によって前記対向張力材を引っ張ることで前記栓を閉栓する
請求項1から5のいずれかに記載の流体制御装置。
【請求項7】
前記対向圧電素子は、単一の結晶からなる請求項6に記載の流体制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−220492(P2011−220492A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92421(P2010−92421)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
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