説明

流体流動過程の解析方法、解析装置及び解析プログラム

【課題】樹脂と金型との間の伝熱の影響が大きい流体の流体流動過程における流動解析を良好に行うことができる解析方法、解析装置及び解析プログラム、特に、樹脂射出成形工程における樹脂流動過程を解析する解析方法、解析装置及び解析プログラムを提供すること。
【解決手段】流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築するモデル構築工程と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出する工程と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みを含む関数により決定する工程とを備えた解析方法によって、金型のキャビティ内における流体流動過程を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流動過程を解析する解析方法、解析装置及び解析プログラムに関し、特に、樹脂射出成形工程における樹脂流動過程を解析する解析方法、解析装置及び解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製品の軽量化、生産性の向上のためにさまざまな樹脂製品が利用されている。それら樹脂製品の中でも、バケツや洗面器などの日用品、携帯電話の筐体などの電機製品、バンパーやインストルメントパネルなどの自動車部品など、3次元形状を有する製品については、射出成形と呼ばれる成形方法が利用されることが多い。
【0003】
射出成形とは、樹脂を加熱溶融させて、金型のキャビティにその溶融した樹脂を射出充填した後、冷却固化させることによって、成形品を得る方法である。この射出成形は生産性に優れる一方、金型の設計、材料の選択、成形条件の設定によっては、ショートショット、バリ、ウェルドライン、ジェッティング、シルバーストリーク、焼け、ひけ、そりなど様々な成形不良が発生し、問題となっている。
【0004】
このような成形不良を予見する技術として、射出成形過程における溶融樹脂の流動を解析し、圧力、温度、速度、剪断応力等の流動挙動を求める解析方法が提案されており、製品開発において高品質化、効率化、低コスト化に役立っている。
【0005】
かかる解析方法として、次のようなものが知られている。すなわち、流体が流動する金型のキャビティを複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築して該微小要素における流体の流動コンダクタンスを決定し、決定した流動コンダクタンスに基づいて上記微小要素における流体の圧力、圧力変化、あるいは流動速度の分布を求めることにより流体の流動過程を解析するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に代表される射出成形の溶融樹脂の流動解析方法では、流体と金型との間の伝熱について、境界の金型温度もしくは温度勾配(金型温度と熱伝達率)を境界条件とし、樹脂の温度分布を有限要素法、差分法、コントロールボリューム法などの数値解析手法により求めている。これらの数値解析において従来は、金型温度もしくは温度勾配は一定値として解析することが多かった。したがって、特許文献1に提案されている解析方法では、あらかじめ設定した金型の温度、金型と樹脂との熱伝達率によって、樹脂の温度、粘度、液体から固体への相変化の挙動、樹脂の流動パターンなどが決定することとなる。
【0007】
このような熱物性で解析した場合でも、通常の射出成形品については、実際の成形における流動パターンと解析における流動パターンはほぼ一致しており特に問題はなかった。
【0008】
しかし近年、製品の精密化に伴い、製品厚みが1mm以下と薄肉となるものや、製品の大型化に伴い、金型のキャビティに樹脂を充填するために必要な時間が5秒以上と長時間になるものも存在するようになった。本発明者らの知見によれば、このような場合、金型と樹脂との間の伝熱の影響が大きくなるため、境界の温度もしくは温度勾配を境界条件としてあらかじめ一定値に設定する特許文献1に提案されている解析方法では、樹脂の温度、粘度、液体から固体への相変化の挙動が精度よく解析されない場合があるため、実際の成形における流動パターンと解析における流動パターンが一致しないケースが見られるようになった。
【0009】
一方、特許文献2には、金型温度に基づいて金型と樹脂との熱伝達率を決定する方法が提案されている。特許文献2に示す方法を用いることによって、樹脂温度、樹脂圧力、製品のそりについて解析精度が向上させることができるため、有用な技術であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−99341号公報
【特許文献2】特開2000−289076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した特許文献2に開示された方法は製品厚み2mmの成形品について検討されたものであり、本発明者の知見によれば、特に製品厚みが1mm以下のような薄肉成形品について、特許文献2に開示された方法を適用したとしても、樹脂温度、樹脂圧力、製品のそりについて解析精度はほとんど改善されないことがわかってきた。
【0012】
成形品の厚みが薄いと流路における流速、圧力、摩擦抵抗が大きくなるため、より多くの熱が金型壁面を介して溶融樹脂から金型へ流れやすくなり、熱伝達率が高くなると考えられる。しかしながら、本発明者らの知見によれば、特許文献2に開示された方法では、金型温度を低く設定した場合は、摩擦抵抗が大きくなり、熱伝達率が高くなる可能性があるものの、特に1mm以下の薄肉成形品を成形するときは、樹脂の固化を防ぐために、通常金型温度を60℃〜120℃と高めに設定する場合があるので、金型の温度が異なっても摩擦抵抗はほとんど変わらず、樹脂温度、樹脂圧力、製品のそりについて解析精度にほとんど改善がみられなかった。
【0013】
また、一般的に熱伝達率は樹脂速度と相関があり、速度が速いほど熱伝達率が大きくなると言われている。しかし、本発明者らの知見によれば、特に製品厚みが1mm以下のような薄肉成形品の場合、熱伝達率を樹脂速度のみの関数として決定させても、樹脂温度、樹脂圧力、製品のそりについて解析精度にほとんど改善がみられなかった。
【0014】
本発明は、上記実情に鑑みて、流体流動過程における流動解析を良好に行うことができる解析方法、解析装置及び解析プログラム、特に、樹脂射出成形工程における樹脂流動過程の解析を良好に行うことができる解析方法、解析装置及び解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析方法であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築工程と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出工程と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みを含む関数により決定する熱伝達率決定工程と、前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出工程とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析方法を提供する。
【0016】
また、本発明の好ましい形態によれば、微小要素における流体の熱伝達率を下記の関数により決定することを特徴とする流体流動過程の解析方法を提供する。
【0017】
【数1】

【0018】
また、本発明の別の形態によれば、プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析方法であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築工程と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出工程と、前記キャビティ厚みにおける代表速度を算出する代表速度算出工程と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みおよび前記キャビティ厚みにおける代表速度を含む関数により決定する熱伝達率決定工程と前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出工程とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析方法を提供する。
【0019】
また、本発明の好ましい形態によれば、微小要素における流体の熱伝達率を下記の関数により決定することを特徴とする流体流動過程の解析方法を提供する。
【0020】
【数2】

【0021】
また、本発明の別の形態によれば、プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析方法であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築工程と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出工程と、前記キャビティ厚みにおける代表速度を算出する代表速度算出工程と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みおよび前記金型に接する部分における前記流体の圧力を含む関数により決定する熱伝達率決定工程と前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出工程とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析方法を提供する。
【0022】
また、本発明の好ましい形態によれば、微小要素における流体の熱伝達率を下記の関数により決定することを特徴とする流体流動過程の解析方法を提供する。
【0023】
【数3】

【0024】
また、本発明の別の形態によれば、プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析方法であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築工程と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出工程と、前記キャビティ厚みにおける代表速度を算出する代表速度算出工程と、前記金型に接する部分における前記流体の圧力を算出する金型面圧力算出工程と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みおよび前記キャビティ厚みにおける代表速度および前記金型に接する部分における前記流体の圧力を含む関数により決定する熱伝達率決定工程と前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出工程とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析方法を提供する。
また、本発明の好ましい形態によれば、微小要素における流体の熱伝達率を下記の関数により決定することを特徴とする流体流動過程の解析方法を提供する。
【0025】
【数4】

【0026】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記流体が溶融樹脂であることを特徴とする流体流動過程の解析方法を提供する。
【0027】
また、本発明の別の形態によれば、プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析装置であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築手段と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出手段と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みを含む関数により決定する熱伝達率決定手段と、前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出手段とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析装置を提供する。
【0028】
また、本発明の別の形態によれば、プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析装置であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築手段と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出手段と、前記キャビティ厚みにおける代表速度を算出する代表速度算出手段と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みおよび前記キャビティ厚みにおける代表速度を含む関数により決定する熱伝達率決定手段と前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出手段とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析装置を提供する。
【0029】
また、本発明の別の形態によれば、プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析装置であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築手段と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出手段と、前記キャビティ厚みにおける代表速度を算出する代表速度算出手段と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みおよび前記金型に接する部分における前記流体の圧力を含む関数により決定する熱伝達率決定手段と前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出手段とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析装置を提供する。
【0030】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記各工程をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供する。
【0031】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記プログラムを記憶したコンピュータで読み取り可能な記憶媒体を提供する。
【0032】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記いずれかの方法を用いて射出成形における属性パラメータを決定し、これに基づいて射出成形品を製造する射出成形品の製造方法を提供する。
【0033】
本発明において、「金型」とは、成形材料を一定の形状に成形するための主に金属製の型のことである。
【0034】
本発明において、「キャビティ」とは、成形用の型において、製品に該当する空間部分のことである。
【0035】
本発明において、「3次元モデル」とは、四面体や五面体や六面体などの3次元要素であるソリッド要素、もしくは三角形や四角形などの2.5次元要素であるシェル要素、もしくは梁要素であるビーム要素のことをいう。シェル要素の場合、要素自体は2次元の要素であるがプロパティデータとして厚みデータを持っているため、3次元の形状を表現することができる。また、ビーム要素の場合、プロパティデータとして断面形状データと寸法データ(例えば、断面形状が円、断面の直径が3mmなど)を持つため、3次元形状を表現することができる。
【0036】
本発明において、「製品の厚みを規定するキャビティの厚み」とは、金型により製作される製品の厚みを規定するものであり、キャビティの部位間どうしの幅に限られず、キャビティとコア等の他の部材との幅でもよい。
【0037】
本発明において、「代表速度」とは、金型により製作される製品の厚みを規定するキャビティ厚み(製品の厚みを規定する一方の金型壁面から他方の金型壁面に至る範囲)における流体の進む速さの代表値のことである。本発明における「代表速度」としては、例えば、金型により製作される製品の厚みを規定するキャビティ厚み(製品の厚みを規定する一方の金型壁面から他方の金型壁面に至る範囲)における平均速度もしくは最小速度もしくは最大速度もしくは中間速度、もしくは壁面近傍のせん断速度、もしくはキャビティ厚みにおける平均せん断速度もしくは最小せん断速度もしくは最大せん断速度もしくは中間せん断速度などが挙げられる。
【0038】
本発明における「物理量」としては、例えば、時間、粘度、温度、圧力、比容積、速度、せん断速度、せん断応力、速度テンソル、せん断速度テンソル、せん断応力テンソル、配向テンソルなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の金型のキャビティ内における流体流動過程の解析方法によれば、従来では解析が困難であった製品厚みが1mm以下の薄肉成形品についても、金型のキャビティ内における流体流動過程の解析を良好に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態である射出成形過程の解析装置を模式的に示すブロック図である。
【図2】本発明の制御手段が実施する解析処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図3】本発明の式で用いるtanh(双曲線正接関数)のグラフの一例を模式的に示すグラフである。
【図4】本発明の係数A〜Dを決定するための成形実験で成形された成形品の一例を模式的に示す斜視図である。
【図5】本発明の図4の成形品の断面に該当する部分の金型断面図で、金型内の樹脂流動挙動の一例を模式的に示す図である。
【図6】本発明の成形実験における熱電対により測定した樹脂温度の時間変化の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の熱伝達率算出手段が算出したキャビティの厚みと熱伝達率の関係の一例を示すグラフである。
【図8】本発明の流動解析実験に用いられるキャビティを有する金型の一部を模式的に示す正面図である。
【図9】本発明の流動解析実験に用いられるキャビティを有する金型、及びLCP樹脂のショートショットサンプルの一部を模式的に示す正面図である。
【図10】本発明の流動解析実験での樹脂重点末端までの距離を示すグラフである。
【図11A】本発明の流動解析実験での圧力結果を示すグラフ(実測値および実施例1)の一例である。
【図11B】本発明の流動解析実験での圧力結果を示すグラフ(実測値および実施例2)の一例である。
【図11C】本発明の流動解析実験での圧力結果を示すグラフ(実測値および実施例3)の一例である。
【図11D】本発明の流動解析実験での圧力結果を示すグラフ(実測値および比較例1)の一例である。
【図11E】本発明の流動解析実験での圧力結果を示すグラフ(実測値および比較例2)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に図面を参照して、本発明に係る流体流動過程の解析方法、解析装置及び解析プログラムの好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下においては、流体流動過程の一例として樹脂射出成形過程について説明する。ここで、「樹脂」としては、射出成形で成形に用いることができるものであればよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド(PI)、アクリルニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリルニトリルスチレン(AS)等を用いることができ、また樹脂の代わりに、マグネシウム合金などの金属を用いても構わない。
【0042】
図1は、本発明の実施の形態である射出成形過程の解析装置を模式的に示すブロック図である。ここで例示する射出成形過程の解析装置1は、入力手段10、表示手段20、制御手段30及び記憶手段40を備えて構成してある。
【0043】
入力手段10は、例えばキーボードやマウス等の入力手段であり、例えば射出成形品の形状、金型形状、材料射出速度、材料温度、金型温度、射出成形材料等の射出成形品の射出成形条件や、金型や射出成形材料等の物性(密度、比熱、熱伝導率等)や、3次元的なモデルのデータを利用者が直接入力するものである。この入力手段10は、入力された条件やデータ等を、有線、あるいは無線にて電気的に接続された制御手段30に与えるものである。
【0044】
表示手段20は、例えばディスプレイのような表示部を有し、制御手段30から与えられたデータを表示する表示手段である。
【0045】
制御手段30は、記憶手段40に予め記憶してあるプログラム(解析プログラム)やデータ、あるいは自身が内蔵するメモリ(図示せず)に予めもしくは一時的に記憶してあるプログラム(解析プログラム)やデータにしたがって解析装置1の動作を統括的に制御するもの(コンピュータ)である。
【0046】
以下、制御手段30について詳細に説明する。制御手段30は、入力処理部31、モデル構築処理部32、キャビティの厚み算出処理部33、金型面圧力算出処理部34、熱伝達率算出処理部35、解析処理部36及び出力処理部37を備えて構成してある。また、解析処理部36は少なくとも流体の物理量算出部38を備えている。
【0047】
入力処理部31は、制御手段30に与えられる信号やデータ等を入力処理するものであり、本実施の形態においては、入力手段10から与えられる射出成形条件やデータを入力処理するものである。また、かかる射出成形条件やデータは、入力手段10から与えられるものに限られず記憶手段40に記憶されたものでもよく、この場合、入力処理部31は、記憶手段40に記憶される射出成形条件やデータを直接読み込んで入力処理を行うことになる。
【0048】
モデル構築処理部32は、入力処理部31を通じて入力処理された射出成形条件に含まれる射出成形品の形状を、微小要素に分割して製品の3次元モデル(四面体や五面体や六面体などの3次元要素であるソリッド要素、もしくは三角形や四角形などの2.5次元要素であるシェル要素、もしくは梁要素であるビーム要素)を構築する処理を行うものである。かかるモデル構築処理部32は、例えばプリプロセッサーと呼ばれるソフトウエアにより機能を発揮して、射出成形品の形状を、種々の形状の微小要素に分割して製品の3次元モデルを構築するものであってもよい。
【0049】
キャビティの厚み算出処理部33はモデル構築処理部32を通じての3次元モデル構築処理で得られた微小要素のキャビティの厚みtを算出するものである。
【0050】
金型面圧力算出処理部34は解析処理部36を通じて、金型面に接する部分における流体の圧力を算出するものである。
【0051】
熱伝達率算出処理部35は、モデル構築処理部32を通じての3次元モデル構築処理で得られた微小要素における溶融樹脂(射出成形材料(流体))と金型との間の熱伝達率を決定するものである。
【0052】
解析処理部36は少なくとも流体の物理量算出部38を備え、モデル構築処理部32で構築した3次元モデルを用い、熱伝達率算出処理部35により決定した熱伝達率を境界条件として射出成形の流体流動解析を実行するものである。解析処理部36は流体の物理量算出部38により流体の物理量算出(充填解析、保圧解析、冷却解析)に引き続き、そり解析の構造解析を実施することが好ましい。
【0053】
出力処理部37は、解析結果を例えばグラフィック処理して、等高線、あるいはグラフ等の形式で表示手段20に表示させるものである。ここでは、出力処理部37は、解析結果をデータとして表示手段20に与えるものとして説明したが、表示手段20に限られず別途用意されたプリンタ手段に対して解析結果をデータとして与えてもよいし、必要に応じて記憶手段40に解析結果を出力して格納させてもよい。
【0054】
図2は、本発明の制御手段30が実施する解析処理の処理内容を示すフローチャートである。以下において、かかる図2の解析処理を説明しながら、上記解析装置1の動作について説明する。なお、以下の説明においては、射出成形条件やデータが入力手段10から与えられる場合を代表例として説明する。
【0055】
解析装置1の制御手段30は、入力処理部31を通じて入力手段10から与えられる射出成形条件を入力する(ステップ110)。
【0056】
ステップ110の入力データに不備がなかった場合、3次元モデル構築工程において、かかる射出成形条件に含まれる射出成形品の形状を、モデル構築処理部32を通じて製品の3次元モデルを構築する(ステップ120)。
【0057】
続いて、キャビティ厚み算出工程において、制御手段30はキャビティの厚み算出処理部33を通じて、作成した3次元モデルについてキャビティの厚みtを以下の方法により算出する(ステップ125)。
【0058】
3次元モデルの微小要素がビーム要素のケースにおいて、要素プロパティの断面形状データが円であった場合は、例えば直径の寸法データをtとして採用すればよく、また、断面形状データが長方形であった場合は、例えば長方形の短い辺の長さの寸法データをtとして採用すればよい。
【0059】
3次元モデルの微小要素がシェル要素のケースにおいては、例えば要素プロパティの厚みデータをtとして採用すればよい。
【0060】
3次元モデルの微小要素がソリッド要素のケースにおいては、例えば微小要素の対応する位置におけるCADの厚みデータをtとして採用すればよい。
【0061】
なお、これらはキャビティの厚みtを決定するための一例であり、これらに限られるものではない。
【0062】
続いて、熱伝達率決定工程において、制御手段30は、熱伝達率算出処理部35を通じてそれぞれの微小要素における溶融樹脂(射出成形材料)と金型との間の熱伝達率を、キャビティの厚みを含む関数、もしくはキャビティの厚みおよびキャビティ厚みにおける代表速度を含む関数、もしくはキャビティの厚みおよび前記金型に接する部分における前記流体の圧力を含む関数、もしくはキャビティの厚み、キャビティ厚みにおける代表速度を含む関数および前記金型に接する部分における前記流体の圧力を含む関数により決定する(ステップ130)。
【0063】
熱伝達率は、壁面を介して流体から固体への熱の流れやすさを示す係数である。キャビティの厚みが薄いとキャビティ(流路)おける流速、圧力、摩擦抵抗が大きくなるため、より多くの熱が金型壁面を介して溶融樹脂から金型へ流れやすくなり、熱伝達率が高くなると考えられる。
【0064】
ただし、本発明者の知見によれば、ある程度キャビティの厚みが大きくなった場合は、流速、圧力、摩擦抵抗に対して厚みの影響が小さくなるため、熱伝達率はほとんど変化しないと考えられる。
【0065】
また、鋭意検討の結果、ある程度キャビティの厚みが薄くなった場合において厚みに反比例させて熱伝達率を高くさせると、金型による冷却の影響が強くなりすぎて解析結果が実測と乖離することが判明した。したがって、ある程度キャビティの厚みが薄くなった場合においても、熱伝達率を一定値にすることが好ましいと考えられる。
【0066】
したがって、熱伝達率をキャビティの厚みを含む関数により決定する場合は、例えば、下記式(1)のように、熱伝達率が、一定厚み以下、一定厚み以上では一定値となり、両者の間を滑らかにつなぐような関数により熱伝達率を決定するとよい。なお、tanhは双曲線正接関数のことである。図3は、本実施形態で用いるtanh(双曲線正接関数)のグラフの一例を模式的に示すグラフである。もちろん、熱伝達率をキャビティの厚みを含む関数により決定でき、「熱伝達率が、一定厚み以下、一定厚み以上では一定値となり、両者の間を滑らかにつなぐようなもの」であれば、下記式(1)以外の関数を用いても問題ない。
【0067】
【数5】

【0068】
係数A〜Dは任意に決定することができるが、成形実験により樹脂厚み方向の温度分布を測定し、成形実験と同様の成形条件のもので解析により算出される樹脂厚み方向の温度分布と合致するように決定することが好ましい。
【0069】
図4は係数A〜Dを決定するための成形実験で成形された成形品の一例を模式的に示す斜視図である。図4の成形品200はゲート210から樹脂を充填することによって得られる。キャビティの厚み230は熱伝達率に対するキャビティの厚みの影響を評価できるように複数の厚みのキャビティを準備するとよい。また、一度の成形で様々な厚みのデータを得ることができるように多数個取りの金型構造にすることが好ましい。上記式(1)の係数A〜Dを好適に決定するためには、厚み0.2mm〜2.0mmの範囲で3種類以上の厚みのキャビティ形状を準備するとよい。
【0070】
図5は図4の成形品の断面250に該当する部分の金型断面図で、金型内の樹脂流動挙動の一例を模式的に示す図である。
【0071】
金型300のキャビティ(金型と金型の間部分)を樹脂310が左から右へ流入している。金型300には樹脂310の厚み方向の温度変化を測定できるように熱電対320が設置されている。熱電対は厚み340方向に2箇所以上測定できるような構造にすることが好ましい。熱電対は応答性を良くするために、例えば山里産業株式会社製のシース熱電対(型式:TMB−KS0.25I/600L−50−WX13−50(シース径0.25mm))など、導線が細く、シースの径が小さい物を利用するとよい。また株式会社アンベエムエスティ社製の集積熱電対を用いてもよい。また、複数の熱電対は流動方向、および幅方向にできる限り同一の位置に設置するとことが好ましい。
【0072】
図6は、図5に示す熱電対により測定した温度の時間変化の一例を示すグラフである。キャビティの厚みは0.8mmで、実線が金型壁面から0.1mm位置の熱電対で測定した温度データ、破線が金型壁面から0.4mmで測定した温度データである。図6に示すように、充填工程510において、樹脂が熱電対に到達した後、急速に温度が上昇し、保圧工程520では金型による冷却効果により温度が低下する。
【0073】
そして、同一の形状、樹脂、成形条件により、射出成形解析を実施し、温度プロファイルが実測に一致するように熱伝達率を決定する。熱伝達率が大きい場合は、金型への伝熱が大きくなり、温度低下が早い温度プロファイルとなり、熱伝達率が小さい場合は、金型への伝熱が小さくなり、温度低下の遅い温度プロファイルとなる。
【0074】
複数の厚みについて、温度プロファイルが実測と解析で一致するような最適な熱伝達率を決定し、共役勾配法などのカーブフィットにより上記式(1)の係数A〜Dを決定する。
【0075】
例えば、実測と解析の比較により、厚み0.2mmで熱伝達率1700W/m/K、厚み0.4mmで熱伝達率1200W/m/K、厚み0.8mmで熱伝達率400W/m/K、厚み1.2mmで熱伝達率150W/m/Kが最適な熱伝達率であると求められた場合、カーブフィットにより、A=1266、B=−1175、C=2.22、D=−0.832と決定する。
【0076】
図7はキャビティの厚みと熱伝達率の関係を示すチャートの一例を示すグラフであり、式(1)においてA=1266、B=−1175、C=2.22、D=−0.832とした時のチャートである。厚みが薄いほど熱伝達率が小さいプロファイルとなっている。
【0077】
また、熱伝達率をキャビティの厚みおよびキャビティ厚みにおける代表速度を含む関数により決定する場合は、例えば、下記式(2)により熱伝達率を決定する方がより好ましい。もちろん、熱伝達率をキャビティの厚みおよびキャビティ厚みにおける代表速度を含む関数により決定できるのであれば、下記式(2)以外の関数を用いても問題ない。なお代表速度は、射出成形解析(ステップ140)で算出した値を用いることが望ましい。
【0078】
通常、厚みが薄い場合、流体が流入しにくくなり、流体の速度が遅くなるため、熱伝達率を厚みのみを変数とした関数として取り扱った場合であっても、速度の影響を考慮できる。しかし、例えば、流体の流動に対して厚みが厚い部分の手前に厚みが薄い部分が存在する場合などキャビティの形状が複雑な場合、厚みが厚い場合でも流体の速度が遅い場合がある。このような場合は、式(1)よりも式(2)を用いた方が流体の解析精度が向上する。
【0079】
【数6】

【0080】
式(2)の係数A〜Fは任意に決定することができるが、式(1)で係数A〜Dを決定させる方法と同様、成形実験により樹脂厚み方向の温度分布を測定し、成形実験と同様の成形条件のもので解析により算出される樹脂厚み方向の温度分布と合致するように決定することが好ましい。
【0081】
この場合、成形実験において、複数の射出率で成形実験を行い、速度の依存性を考慮できるようにする。
【0082】
そして、複数の厚みおよび射出率について、温度プロファイルが実測と解析で一致するような最適な熱伝達率を決定し、共役勾配法などのカーブフィットにより上記式(2)の係数A〜Fを決定する。
【0083】
例えば、速度80mm/秒(0.08m/秒)の場合、厚み0.2mmで熱伝達率1700W/m/K、厚み0.4mmで熱伝達率1200W/m/K、厚み0.8mmで熱伝達率400W/m/K、厚み1.2mmで熱伝達率150W/m/K、また、速度40mm/秒(0.04m/秒)の場合、厚み0.2mmで熱伝達率1600W/m/K、厚み0.4mmで熱伝達率1100W/m/K、厚み0.8mmで熱伝達率200W/m/K、厚み1.2mmで熱伝達率130W/m/Kが最適な熱伝達率であると求められた場合、カーブフィットにより、A=1265、B=−1173、C=3.21、D=0.00141、E=−0.125、F=−0.94と決定する。
【0084】
なお、速度は、キャビティ厚みにおける代表速度として、例えば、流動方向に複数の熱電対を設置し、それぞれの熱電対間の距離と樹脂の到達する時間差から速度を求めることができるが、この方法に限定されるものではない。
【0085】
また、熱伝達率をキャビティの厚みおよび金型に接する部分における流体の圧力を含む関数により決定する場合は、例えば、下記式(3)または(4)により熱伝達率を決定する方がより好ましい。もちろん、熱伝達率をキャビティの厚みおよび金型に接する部分における流体の圧力を含む関数により決定できるのであれば、下記式(3)以外の関数を用いても問題ない。また、熱伝達率をキャビティの厚みおよびキャビティ厚みにおける代表速度および金型に接する部分における流体の圧力を含む関数により決定できるのであれば、下記式(4)以外の関数を用いても問題ない。なお代表速度および金型に接する部分における流体の圧力は、射出成形解析(ステップ140)で算出した値を用いることが望ましい。
【0086】
熱伝達率を式(1)もしくは式(2)などのように、キャビティの厚み、もしくはキャビティの厚みおよびキャビティ厚みにおける代表速度の関数を用いてもよいが、特に樹脂射出成形の保圧冷却工程においては、保圧の圧力が低いほど熱伝達率が小さくなり、保圧の圧力が高いほど熱伝達率が高くなる傾向にある。したがって、式(3)または式(4)のようにキャビティの厚みおよび金型に接する部分における流体の圧力、もしくはキャビティの厚みおよびキャビティ厚みにおける代表速度および金型に接する部分における流体の圧力の関数を用いた方が流体の解析精度が向上する。
【0087】
【数7】

【0088】
【数8】

【0089】
式(3)の係数A〜Fは任意に決定することができるが、式(1)で係数A〜Dを決定させる方法と同様、成形実験により樹脂厚み方向の温度分布を測定し、成形実験と同様の成形条件のもので解析により算出される樹脂厚み方向の温度分布と合致するように決定することが好ましい。
【0090】
この場合、成形実験において、保圧を複数の圧力に設定して成形実験を行い、圧力の依存性を考慮できるようにする。
【0091】
そして、複数の厚みおよび圧力について、温度プロファイルが実測と解析で一致するような最適な熱伝達率を決定し、共役勾配法などのカーブフィットにより上記式(3)の係数A〜Fを決定する。
【0092】
例えば、保圧70MPaの場合、厚み0.2mmで熱伝達率1700W/m/K、厚み0.4mmで熱伝達率1200W/m/K、厚み0.8mmで熱伝達率400W/m/K、厚み1.2mmで熱伝達率150W/m/K、また、保圧10MPaの場合、厚み0.2mmで熱伝達率1400W/m/K、厚み0.4mmで熱伝達率1000W/m/K、厚み0.8mmで熱伝達率250W/m/K、厚み1.2mmで熱伝達率120W/m/Kが最適な熱伝達率であると求められた場合、カーブフィットにより、A=1265、B=−1172、C=2.22、D=−0.0039、E=0、F=−0.56と決定する。
【0093】
なお、圧力は成形機のノズル圧力をそのまま利用してもよいが、キャビティ内圧力は圧損によりノズル圧力よりも圧力が低いこと、保圧工程で圧力が徐々に低下することを想定して、保圧圧力よりも一定割合小さな値を利用することが好ましく、より好ましくは、温度測定位置に圧力センサーを設置して、その圧力センサーの測定値を用いるとよい。
【0094】
式(4)を用いる場合は、式(2)の係数、式(3)の係数から式(4)の係数を決定することが好ましい。この場合、例えば係数A〜Kは下記式(5)のように決定するが、この方法に限られるものではない。
【0095】
【数9】

【0096】
熱伝達率決定工程(ステップ130)では上記式(1)〜(4)のいずれかにより熱伝達率を決定することが好ましいが、キャビティの厚みを含む関数、もしくはキャビティの厚みおよびキャビティ厚みにおける代表速度を含む関数、もしくはキャビティの厚みおよび前記金型に接する部分における前記流体の圧力を含む関数であればどのような式であっても良く、上記式(1)〜(4)に限られるものではない。
【0097】
式(1)のように熱伝達率を肉厚の関数にすると、もっとも簡便に熱伝達率の関数を決定することができるが、より解析精度を向上させるためには、式(2)〜(4)のように、熱伝達率をキャビティ厚みにおける代表速度もしくは/および金型に接する部分における流体の圧力の関数にする方が好ましい。
【0098】
なお、特に樹脂流動の影響が大きい充填工程においては、式(2)のように熱伝達率をキャビティの厚みおよびキャビティ厚みにおける代表速度を含む関数により決定することが好ましい。また、特に樹脂の圧力の影響が大きい保圧冷却工程においては、式(3)のように熱伝達率をキャビティの厚みおよび金型に接する部分における流体の圧力を含む関数により決定することが好ましい。さらには、式(4)のように、熱伝達率をキャビティの厚みおよびキャビティ厚みにおける代表速度および金型に接する部分における流体の圧力を含む関数により決定すると充填工程および保圧冷却工程を1つの関数で算出することができるため好ましい。
【0099】
また、熱伝達率に対して金型の表面粗さやその他の影響が大きい場合は、それらの影響を考慮できるような式にしても問題ない。
【0100】
続いて、流体流動解析工程において、制御手段30は、解析処理部36を通じて、熱伝達率算出処理部35を通じて求めた熱伝達率を境界条件として用いて微小要素における射出成形解析を実行する(ステップ140)。つまり、制御手段30は、算出処理部を通じて、連続の式、運動方程式、エネルギー方程式の基礎方程式を解くことにより、流体の物理量算出工程145(充填解析(ステップ141)、保圧解析(ステップ142)、冷却解析(ステップ143))を実行する。その際、エネルギー方程式ついては、下記式(6)に示すように、熱伝達率算出処理部35によって算出した熱伝達率と微小要素(流体)と金型との温度差から求まる熱流束を境界条件として与える。流体の物理量算出工程145に引き続いて、制御手段30は、解析処理部36を通じて、射出成形品が常温になるまでの熱収縮解析を実行することにより、そり解析を実行することが好ましい(ステップ144)。
【0101】
【数10】

【0102】
流動解析(充填解析、保圧解析、冷却解析)については、連続の式、運動方程式、エネルギー方程式の基礎方程式を解くことにより、樹脂の温度、圧力などの物理量の経時変化を解くことができる。
【0103】
エネルギー方程式ついて、上記式(6)に示すように、熱伝達率算出処理部35によって算出した熱伝達率と微小要素(流体)と金型との温度差から求まる熱流束を境界条件として与える。
【0104】
なお、熱伝達率算出処理部35によって上記式(1)から(4)のいずれかにより熱伝達率を決定することができるのであれば、コントロールボリューム法やFAN(Flow Analysis Network Method)法や粒子法などを用いた汎用の流体解析ソフトウエア、もしくは汎用の射出成形解析ソフトウエアを用いて、連続の式、運動方程式、エネルギー方程式の基礎方程式を解くことにより、樹脂の温度、圧力などの物理量の経時変化を解いても問題ない。また、通常の3次元流れとして解いても、2次元薄肉流れ(Hele−Shaw流れ)として解いても、どちらでも問題ない。
【0105】
また、構造解析(そり解析)については、射出成形品が常温になるまでの熱収縮解析を実行することにより、成形品のそりおよび収縮を計算することにより求めることができるが、構造解析ができるのであれば、汎用のソフトウエアを用いても問題ない。
【0106】
続いて、制御手段30は、出力処理部37を通じてその解析結果をデータとして表示手段20に与え、すなわち解析結果を例えばグラフィック処理して、等高線、あるいはグラフ等の形式で表示手段20に表示させ(ステップ150)、その後に今回の処理を終了する。
【実施例】
【0107】
以下、実施例および比較例を挙げて、本実施形態の樹脂射出成形工程における樹脂流動過程を解析する解析方法、解析装置及び解析プログラムについて、図面を参照しながら説明するが、本実施形態は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0108】
図8は本発明の流動解析実験に用いられるキャビティを有する金型の一部を模式的に示す正面図である。ここでは、図8に示すようなキャビティ700を有する金型を用いて、樹脂射出成形による溶融樹脂の流動実験を行った。図8はキャビティおよびスプルー、ランナーのみを示している。キャビティの厚みは紙面に対して垂直方向である。キャビティ基部740では厚み1.5mm、キャビティ薄肉部750は入れ子構造となっており、厚み0.4mm、0.8mm、1.2mmの3通りに設定できる。また、キャビティ基部740とキャビティ薄肉部750を併せた部分については、流動方向の長さ761は80mm、幅方向の長さ762は40mmである。
【0109】
なお、一般に樹脂流動の評価を行う場合には、キャビティ体積より少ない量の樹脂をキャビティ内に流入させ、樹脂がどのような形状になるかを評価するショートショット法が用いられることが多い。しかし、ショートショット法による流動評価は、樹脂の形状について実験と解析を比較する必要があり、定量的な評価が困難である。一方、図8のようなキャビティ形状を有する金型を用いて樹脂の充填末端までの距離763を測定して評価する本方法は、簡便に定量的な評価が行うことができるメリットがある。
【0110】
溶融樹脂は射出成形機のシリンダーノズルからスプルー710に流入し、ランナー720、ファンゲート730を通り、キャビティ700に充填される。なお、ファンゲート730は最薄部で厚み0.1mmに絞られている。また、キャビティ薄肉部750の流動方向、幅方向それぞれに対して中央の位置において、エジェクターピンタイプの双葉電子工業製圧力センサー760によって圧力を測定した。
【0111】
このようなキャビティ700に対して、LCP樹脂(東レ株式会社製LCP樹脂“シベラス(登録商標)”)を、薄肉部のキャビティの厚み0.4mm、0.8mm、1.2mm、樹脂温度を310℃、330℃、350℃(583K、603K、623K)、充填時間を0.2秒、0.3秒、0.4秒、金型温度を60℃、90℃、120℃(333K、363K、393K)、保圧を10MPa、40MPa、70MPaとそれぞれ変化させて(保圧時間、冷却時間はそれぞれ5秒、10秒一定)成形実験を行った。図9は本発明の流動解析実験に用いられるキャビティを有する金型、及びLCP樹脂のショートショットサンプルの一部を模式的に示す正面図である。図9に示すようにスプルー710からキャビティ内に樹脂を流入させて、樹脂の充填末端までの距離763を実測した。なお、キャビティ薄肉部750の厚みがキャビティ基部740の厚みと等しい場合、樹脂の充填末端までの距離は、流動方向の長さ761と幅方向長さの半分764の和となる。しかし、一方を薄肉にした場合、図9に示すように、薄肉部の圧力損失、冷却固化の影響で、樹脂の充填末端はキャビティ薄肉部側に寄った位置となる。
[実施例1]
上記式(1)において、A=1050、B=−800、C=2.65、D=−1として、汎用射出成形ソフトウエア“3D TIMON(登録商標)”(東レエンジニアリング株式会社製)を用いて、充填工程の流動解析、保圧工程、冷却工程の流動解析を実施した。
[実施例2]
充填工程の流動解析については、上記式(2)において、A=1265、B=−1173、C=3.21、D=0.00141、E=−0.125、F=−0.94として流動解析を実施し、保圧工程、冷却工程については上記式(3)についてA=1265、B=−1172、C=2.22、D=−0.0039、E=0、F=−0.56として、汎用射出成形ソフトウエア“3D TIMON(登録商標)”(東レエンジニアリング株式会社製)を用いて、充填工程の流動解析、保圧工程、冷却工程の流動解析を実施した。
[実施例3]
充填工程の流動解析については、上記式(4)において、A=1265、B=−587、C=3.21、D=0.00141、E=−0.125、F=−0.94、G=−586、H=2.22、I=−0.0039、J=0、K=−0.56として、汎用射出成形ソフトウエア“3D TIMON(登録商標)”(東レエンジニアリング株式会社製)を用いて、充填工程の流動解析、保圧工程、冷却工程の流動解析を実施した。
[比較例1]
熱伝達率を500W/m/Kの一定値で、汎用射出成形ソフトウエア“3D TIMON(登録商標)”(東レエンジニアリング株式会社製)を用いて、充填工程の流動解析、保圧工程、冷却工程の流動解析を実施した。
[比較例2]
特許文献2に示すように金型温度60℃(333K)以上では熱伝達率を209W/m/K(0.005Cal/cm/sec/℃)、金型温度45℃(318K)以下では熱伝達率を1256W/m/K(0.030Cal/cm/sec/℃)として、汎用射出成形ソフトウエア“3D TIMON(登録商標)”(東レエンジニアリング株式会社製)を用いて、充填工程の流動解析、保圧工程、冷却工程の流動解析を実施した。なお、金型温度の設定値は60℃、90℃、120℃(333K、363K、393K)であるため、実質的には熱伝達率を209W/m/K一定で解析することと同じである。
【0112】
図10は本発明の流動解析実験での樹脂重点末端までの距離を示すグラフである。図10に樹脂の充填末端までの距離について、実測値と解析値(実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2)の比較結果のグラフを示す。実施例1、実施例2、実施例3は比較例1、比較例2よりも大幅に樹脂充填末端の解析精度が向上している。
【0113】
図11A〜図11Eに図8に示す圧力センサー760の実測値と解析値(実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2)の比較結果の一例を示す。実施例1は比較例1、比較例2よりも圧力解析精度が向上し、実施例2および実施例3ではさらに圧力解析精度が向上している。
【産業上の利用可能性】
【0114】
以上のように、本発明に係る流体流動過程の解析方法、解析装置及び解析プログラムは、金型のキャビティ内における流体流動過程の解析方法、解析装置および解析プログラムとして非常に有用であり、樹脂射出成形に限らず、金属射出成形、樹脂押出成形装置や金属の鋳造解析方法、解析装置および解析プログラムなどにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0115】
1 解析装置
10 入力手段
20 表示手段
30 制御手段
31 入力処理部
32 モデル構築処理部
33 キャビティの厚み算出処理部
34 金型面圧力算出処理部
35 熱伝達率算出処理部
36 解析処理部
37 出力処理部
38 流体の物理量算出部
40 記憶手段
110 成形条件入力工程
120 3次元モデル構築工程
125 キャビティ厚み算出工程
130 熱伝達率決定工程
140 射出成形解析工程
141 充填解析工程
142 保圧解析工程
143 冷却解析工程
144 そり解析工程
145 流体の物理量算出工程
150 出力工程
200 成形品
210 ゲート
230 キャビティの厚み
240 キャビティの幅
250 断面
300 金型
310 溶融樹脂
320 熱電対
510 充填工程
520 保圧工程
700 キャビティ
710 スプルー
720 ランナー
730 ファンゲート
740 キャビティ基部
750 キャビティ薄肉部
760 圧力センサー
761 流動方向長さ
762 幅方向長さ
763 充填末端までの距離
764 幅方向長さの半分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程を解析する流体流動過程解析方法であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築工程と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出工程と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みを含む関数により決定する熱伝達率決定工程と、前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出工程とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析方法。
【請求項2】
前記微小要素における流体の熱伝達率を下記の関数により決定することを特徴とする請求項1に記載の流体流動過程の解析方法。
【数1】

【請求項3】
プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程を解析する流体流動過程解析方法であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築工程と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出工程と、前記キャビティ厚みにおける前記流体の代表速度を算出する代表速度算出工程と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みおよび前記キャビティ厚みにおける代表速度を含む関数により決定する熱伝達率決定工程と、前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出工程とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析方法。
【請求項4】
前記微小要素における流体の熱伝達率を下記の関数により決定することを特徴とする請求項3に記載の流体流動過程の解析方法。
【数2】

【請求項5】
プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析方法であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築工程と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出工程と、前記金型に接する部分における前記流体の圧力を算出する金型面圧力算出工程と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みおよび前記金型に接する部分における前記流体の圧力を含む関数により決定する熱伝達率決定工程と、前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出工程とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析方法。
【請求項6】
前記微小要素における流体の熱伝達率を下記の関数により決定することを特徴とする請求項5に記載の流体流動過程の解析方法。
【数3】

【請求項7】
プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析方法であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築工程と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出工程と、前記キャビティ厚みにおける代表速度を算出する代表速度算出工程と、前記金型に接する部分における前記流体の圧力を算出する金型面圧力算出工程と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みおよび前記キャビティ厚みにおける代表速度および前記金型に接する部分における前記流体の圧力を含む関数により決定する熱伝達率決定工程と、前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出工程とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析方法。
【請求項8】
前記微小要素における流体の熱伝達率を下記の関数により決定することを特徴とする請求項7に記載の流体流動過程の解析方法。
【数4】

【請求項9】
前記流体が溶融樹脂であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の流体流動過程の解析方法。
【請求項10】
プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析装置であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築手段と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出手段と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みを含む関数により決定する熱伝達率決定手段と、前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出手段とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析装置。
【請求項11】
プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析装置であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築手段と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出手段と、前記キャビティ厚みにおける代表速度を算出する代表速度算出手段と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みおよび前記キャビティ厚みにおける代表速度を含む関数により決定する熱伝達率決定手段と前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出手段とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析装置。
【請求項12】
プログラムされたコンピュータによって金型のキャビティ内における流体流動過程の解析装置であって、流体が流動する金型のキャビティの少なくとも一部を複数の微小要素に分割してなる3次元モデルを構築する3次元モデル構築手段と、前記金型により製作される製品の厚みを規定する前記キャビティの厚みを算出するキャビティ厚み算出手段と、前記キャビティ厚みにおける代表速度を算出する代表速度算出手段と、前記流体と前記金型との間の熱伝達率を、前記キャビティの厚みおよび前記金型に接する部分における前記流体の圧力を含む関数により決定する熱伝達率決定手段と前記熱伝達率に基づいて前記各微小要素における前記流体の物理量を求める物理量算出手段とを備えたことを特徴とする流体流動過程の解析装置。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムを記憶したコンピュータで読み取り可能な記憶媒体。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法を用いて射出成形における属性パラメータを決定し、これに基づいて射出成形品を製造する射出成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【公開番号】特開2011−73248(P2011−73248A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226434(P2009−226434)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】