説明

流体軸受装置、スピンドルモータ、情報装置

【課題】連通孔を有する流体軸受に大きな衝撃が加わっても流体軸受の軸受開口部から潤滑流体が流出しない軸受構成とした流体軸受装置および、その流体軸受を搭載したスピンドルモータを提供する。
【解決手段】流体軸受装置2は、シャフト14と、それを回転自在に支持するスリーブ13とを有する。スラストフランジ16は、シャフト14の一端側に形成され、スリーブ13の段部24に軸線方向にて対向する凸部28を備えており、衝撃印可時にスラストフランジ16が連通孔27を塞がないように構成し、スラストフランジ16近傍でキャビティが発生する事を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑流体の漏れ防止構造を有する流体軸受装置および、それを用いたスピンドルモータ、さらにはそれを搭載した情報装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク駆動装置(以下、HDDと記載する)等の情報装置に用いられているスピンドルモータには、静音性、振れ精度などに優れている流体軸受を用いることが主流となっている。HDDの使用用途が、据え置き型のパソコンから携帯電話、モバイルプレーヤーなどの小型、薄型の製品に広がってきているために、HDDに搭載される流体軸受装置についても小型化、薄型化が求められてきている。携帯電話、モバイルプレーヤーなどの小型、薄型の製品に搭載される2.5インチ以下のHDDでは、十分な設計スペースを確保することが困難になってきている。
【0003】
その限られた設計スペースにおいて、流体軸受装置に必要な潤滑流体を軸受内部に確実に保持する設計を行うことは、最も重要な項目である。潤滑流体が不足することにより、固定体に対して回転体が擦れて焼付いてしまい、回転しなくなる。その結果、磁気記録ディスクからのデータ読み出し、書き込みができなくなるという不具合が生じてしまう。つまり、流体軸受装置に必要な潤滑流体を軸受内部に確実に保持することは、流体軸受装置 にとって最も重要な項目でもあり、HDDにとっても重要な項目である。
【0004】
潤滑流体が外部に流出することを防止し、流体軸受装置に必要な潤滑流体を軸受内部に確実に保持するために、キャピラリーシール構造に関する検討、動圧発生溝の検討などの様々な検討が行われてきている。その様々な検討の中でも、軸受内部(袋構造内部)の圧力差を均一にするために、流体軸受装置を構成している軸受部材(スリーブ)に連通孔を形成している構造の適用が多くなってきている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−143227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7に図示されている従来のスピンドルモータ801および流体軸受装置802の構成においては、シャフト814に取付けられている抜け止めとしてのフランジ816の軸方向で対向している部分に位置するスリーブ813に連通孔827の第2開口部827bが設けられている。連通孔827のもう一つの開口部としてスリーブ813の他端側に第1開口部827aを設けている。この構成では、連通孔827をスリーブ813に設けることによる半径方向の小型化は可能になるが、衝撃などにより潤滑流体819が外部に漏れるという課題を有する。以下、その説明を行う。
【0006】
連通孔827の第2開口部827bが形成されているスリーブ813の段部824に対向するようにフランジ816が配置されている。スラスト軸受部818、ラジアル軸受部817の動圧発生溝(図示せず)により生じる動圧により、回転体であるフランジ816、シャフト814、ハブ812が浮上する。衝撃などが加わらない場合、浮上する力とマグネット809と軸方向に対向する磁性体829との間の吸引力のバランスで、連通孔827のフランジ側の第2開口部827bは、フランジ816と接触しないようになっている。
【0007】
また、ハブ812の突出部812aの内周面812bとスリーブ813の外周面813aとの間にて形成されているキャピラリーシール部821における潤滑流体819の表面張力と外気の空気圧との釣り合いにて潤滑流体819が外部に流出することを防止する設計となっている。
【0008】
しかしながら、図8(a)に図示しているように、落下時などに大きな衝撃力がモータ(流体軸受)に加わった際には、回転体であるシャフト814、ハブ812、マグネット809が軸線方向に急激に移動する(図中の破線は、移動前の状態を示している)。その結果、浮上する力とマグネット809と軸方向に対向する磁性体829との間の吸引力によるバランスが崩れてしまい、フランジ816が段部824に面接触するまで移動する。フランジ816によってフランジ側の第2開口部827bが塞がれるので、急激なフランジ816の軸方向移動により潤滑流体はフランジ816の下側に回り込むことが出来ず、シャフト814とフランジ816が軸線方向でプレ−ト823と対向している空間に負圧部分850(気泡または、キャビティ)が発生する。すると通常の大気圧下では潤滑流体819にとけ込んでいる空気中の気体成分が、負圧状態になることで溶解することが出来ずに、気泡として短時間で出現する。
【0009】
その負圧部分850が発生した状態で、衝撃荷重が無くなると、図8(b)に図示するように、回転体であるシャフト814とフランジ816が、マグネット809と軸方向に対向する磁性体829との間の吸引力により、もとの状態に戻る。しかし、負圧部分850を構成するガス成分は、短時間では潤滑流体中に再度溶解することができないために、負圧部分850は解消されずにシャフト814とフランジ816および、プレ−ト823とで形成している空間に残存してしまう。その結果、負圧部分850とほぼ同等体積の潤滑流体819が軸受開口部へと押し出されてしまう。その結果、キャピラリーシール部821の潤滑流体819の表面張力と外気の空気圧との釣り合いが崩れて、潤滑流体819が外部に流出してしまうという課題を有する。
【0010】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、連通孔を有する流体軸受に大きな衝撃が加わっても流体軸受の軸受開口部から潤滑流体が流出しない軸受構成とした流体軸受装置および、その流体軸受装置を搭載したスピンドルモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来の課題を解決するために、本発明の流体軸受装置は、一方側が開口され、他方側が閉塞された軸受穴を有するスリーブと、スリーブと相対的に回転自在に軸受穴に挿入されたシャフトと、スリーブの閉塞側に収納されて、シャフトの端部に形成されている、シャフトの外径よりも径大な環状のフランジと、スリーブの開口部側に形成された第1の開口部と、スリーブ上であってフランジに軸方向に対向するフランジ対向面に形成された第2の開口部とを有する連通孔と、スリーブの開口部側端面を覆い、スリーブの開口部側端面との間で空間を形成するように配置された環状のカバー部材と、シャフトとスリーブとの隙間および連通孔に充填された潤滑流体と、スリーブに対向するフランジの面上に、第2の開口部よりも半径方向内側に形成され、スリーブの開口部側に向けて突出する凸部とを有することを特徴としたものである。
【0012】
また、本発明は、一方側が開口され、他方が閉塞された軸受穴を有するスリーブと、スリーブと相対的に回転自在に軸受穴に挿入されたシャフトと、スリーブの閉塞側に収納されて、シャフトの端部に形成されている、シャフトの外径よりも径大な環状のフランジと、シャフトに締結され、スリーブの開口部側を覆うハブと、シャフトとスリーブとハブとの隙間に充填された潤滑流体と、スリーブの開口部側に形成された第1の開口部と、スリーブ上であってフランジに軸方向に対向するフランジ対向面に形成された第2の開口部を有する連通孔と、スリーブに対向するフランジの面上に、第2の開口部よりも半径方向内側に形成され、スリーブの開口部側に向けて突出する凸部とを有していることを特徴としたものである。
【0013】
この流体軸受装置では、流体軸受に軸方向の外的な大きな衝撃が加わった際には、フランジに形成されている凸部とスリーブの第2の開口部が形成されている面との間で接触することにより、スリーブの第2の開口部が形成されている面と凸部以外のフランジ面が接触しなくなり、シャフトとフランジとスリーブにて形成されている空間へ連通孔から潤滑流体が流れるので負圧部分が発生せず、軸受開口部から潤滑流体を外部へ流出することが生じなくなる。
【0014】
また、本発明のスピンドルモータは、上述した流体軸受装置を搭載したものであり、流体軸受装置の寿命を左右する潤滑流体を確実に流体軸受内部に保持することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の流体軸受装置およびスピンドルモータによれば、急激な衝撃が加わったとしても、流体軸受装置の潤滑流体を確実に保持することが可能となり、外的な衝撃が加わり易い携帯電話、モバイルプレーヤーなどの小型、薄型のHDDに使用することに適した流体軸受装置およびスピンドルモータの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の流体軸受装置およびスピンドルモータの実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1および、図2を用いて本発明の実施の形態1について説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態1における流体軸受装置2およびそれを搭載しているスピンドルモータ1の断面図を示す。また、図2は、流体軸受装置2の断面図を示す。
【0019】
本実施形態の説明では、便宜上、図1、図2の上方向、下方向を「軸線上側方向」、「軸線下側方向」とするが、スピンドルモータ1の使用状態における方向を限定するものではない。
【0020】
スピンドルモータ1は、主に、ロータ部3と、ロータ部3を回転自在に支持するための流体軸受装置2と、ステータ部4とを備えている。ステータ部4は、ベース5に固定されたステータコア6及びそれに巻線されたコイル7とからなるステータ8を有する。また、ロータ部3は、ステータ8に半径方向隙間を介して位置するマグネット9を有する。ステータ8とマグネット9とは、協働して回転磁界を発生することが可能であり、これらがロータ部3に対して回転力を与えるための磁気回路部となっている。ベース5の略中央部には、軸線方向に開口しているベース孔10が形成されている。ベース孔10の縁には、軸線上側方向に延びる筒状部11が形成されている。
【0021】
ロータ部3は、流体軸受装置2を介してベース5に回転自在に支持される部材である。ロータ部3は、外周部に記録ディスク(図示しない)が搭置されるハブ12と、ハブ12の内周側に位置し、流体軸受装置2を介してスリーブ13に軸支されるシャフト14とから主に形成されている。
【0022】
ハブ12は、スリーブ13を軸線方向上側から覆うように近接して配置されたカップ形状の部材である。ハブ12は、主に、円板状部12aと、その外周縁において軸線下側方向に伸びる外周側筒状部12bとを有している。円板状部12aの中心孔12cにはシャフト14が嵌合される。また、外周側筒状部12bの外周面には接着手段などによってマグネット9が固定されている。
【0023】
マグネット9は、ステータ8に半径方向に隙間を介して対向している。そして、ステータ8のコイル7に通電すると、ステータ8とマグネット9との電磁相互作用が発生する。これにより、ロータ部3に回転トルクが発生する。
【0024】
シャフト14の軸線方向上側の端部は、ハブ12の中心孔12c内に嵌合されている。また、シャフト本体14aの軸線方向下側の端部には、スラストフランジ16が固定されている。つまり、シャフト14は、円柱形状のシャフト本体14aとスラストフランジ16とから構成されている。
【0025】
流体軸受装置2は、ロータ部3をステータ部4に対して、回転自在に支持するための軸受部分である。流体軸受装置2は、より具体的には、ロータ部3に固定されたシャフト14と、ベース5に固定され、シャフト14を回転自在に支持するスリーブ13とから主に構成されている。
【0026】
流体軸受装置2は、動圧発生部としてラジアル軸受部17と、スラスト軸受部18とを有している。さらに、各軸受部内の潤滑流体19は、シャフト本体14aの外周面14bとスリーブ13の軸線方向上側の端部にスリーブ13を覆うように配置されているカバー部材20の内周面20aとの間に形成されたキャピラリーシール部21によってシールされている。また、各軸受部17、18を構成する間隙は完全に潤滑流体19が満たされており、キャピラリーシール部21にて界面を形成し、外気に通じる構造となっている。
【0027】
スリーブ13は、略中空円筒状のスリーブ本体13aと、スリーブ本体13aの下部を閉鎖する円板状のスラストプレート23とから構成されている。スリーブ本体13aは、その中心を軸線方向に延びる貫通孔を有しており、そこには内周面13bが形成されている。スラストプレート23は、円形の板状部材であり、スリーブ本体13aの下端に固定されることにより貫通孔の下端開口を閉鎖している。
【0028】
スリーブ本体13aの軸線下側方向には、内周面13bから連続する段部24が形成されている。段部24は、スリーブ本体13aの内周面13bと、内周面13bより径大な内周面13cとの間に形成されており、後記するシャフト14のスラストフランジ16を収容するための環状の凹部空間を確保している。以上から、スリーブ13は、スリーブ本体13aの内周面13bにより形成された柱状中空部と、スリーブ本体13aの段部24と内周面13cとスラストプレート23とによって形成された円板状中空部とを形成していることになる。
【0029】
シャフト14のシャフト本体14aは、概ね、スリーブ13の貫通孔に沿って柱状中空部に配置される。シャフト本体14aの外周面14bは、スリーブ本体13aの内周面13bに対して半径方向に微少間隙を介して対向している。スラストフランジ16は、スリーブ13の円板状中空部に配置されている円板状の部分である。
【0030】
スリーブ本体13aの内周面13bには、シャフト14の回転に伴い潤滑流体19中に動圧を発生するためのヘリングボーン状の動圧発生用溝25が形成されている。動圧発生用溝25は回転方向に並んだ複数の溝であり、各溝は回転方向に対して相反する方向に傾斜する一対のスパイラル溝を連結してなる略「く」の字状の溝である。このように、スリーブ13のスリーブ本体13aの内周面13bと、シャフト本体14aの外周面14bと、その間の潤滑流体19とによって、ラジアル軸受部17が軸線方向に構成されている。このラジアル軸受部17では、流体動圧が軸線上側方向から軸線下側方向に働くように動圧発生用溝25がアンバランス形状になっている。
【0031】
スラストフランジ16のスラスト軸受部18を形成しているスラスト面16aには、シャフト14の回転に伴い潤滑流体19中に動圧を発生するためのスパイラル状もしくは、ヘリングボーン形状の動圧発生用溝26が形成されている。動圧発生用溝26は回転方向に並んだ複数の溝であり、回転時にロータ部3をスラスト方向に支持する。このように、スラストフランジ16のスラスト軸受部18を形成している面16aと、スラストプレート23と、その間の潤滑流体19によって、スラスト軸受部18が形成されている。また、動圧発生用溝26は、スラストプレート23の表面に形成されていてもよい。
【0032】
キャピラリーシール部21は、ラジアル軸受部17からの潤滑流体19の漏れを防止するための構造であり、スリーブ本体13aの軸線上側方向の端部付近において、カバー部材20の内周面20aとシャフト本体14aの外周周面14bとによって構成されている。より具体的に説明すると、キャピラリーシール部21は、カバー部材20の内周側面に設けられた傾斜面20bにより構成されている。傾斜面20bは、シャフト本体14aの外周面14bとの間の空隙が軸線上側方向に向かって拡大するように形成されている。以上に述べた構造より、流体軸受装置2に保持された潤滑流体19の表面張力と外気の空気圧等とが釣り合うことにより、潤滑流体19が流体軸受装置2の外部に移動するのが抑制される。
【0033】
連通孔27は、段部24とスリーブ本体13aのカバー部材20に軸線方向で対向している端面13dとを連通するように形成されている。スリーブ本体13aの段部24に形成されている連通孔27の第2開口部27bより半径方向内側に位置し、軸線方向で対向しているスラストフランジ16の軸線上側方向の面16bには、環状の凸部28が形成されている。また連通孔27のもう一つの開口部としてスリーブ13の他端側に第1開口部27aを設けている。
【0034】
このように、一端開口型の流体軸受装置2を備えたスピンドルモータ1にて、スリーブ本体13aに形成されている段部24に軸線方向で対向しているスラストフランジ16の面16bに凸部28を形成しているために、回転体であるロータ部3に、急激な外的衝撃が加わった際に軸受隙間に気泡を発生するような強い負圧部分が生ずることを抑制することが可能になり、キャピラリーシール部21から潤滑流体19が漏洩することを防止することが可能となる。
【0035】
以下、具体的に、凸部28を形成することで、急激な外的衝撃が加わった際に、潤滑流体19が漏洩することを防止する点に関して、図3を用いて説明する。
【0036】
図3に図示されているように、急激な外的衝撃がスピンドルモータに加わると、回転体であるロータ部3を構成しているシャフト14が、軸線上側方向に移動する(図中の破線部は、移動前の状態を示す)。その結果、シャフト本体14aの軸線下側方向側の端面14eおよび、スラストフランジ16の軸線下側方向側の面16aと、スラストプレ−ト23の軸線上側方向側の端面23aとの間に、空間50が新たに軸受隙間に形成される。
【0037】
一方、スラストフランジ16の軸線上側方向側の面16bは、凸部28が形成されており、凸部28がスリーブ本体13aの段部24に当接する。しかし、連通孔27の第2開口部27bが位置している段部24と面16bは当接しない。つまり、連通孔27と空間50は、スラストフランジ16が移動しても、常に、繋がっている状態となっている。
【0038】
シャフト14の急激な移動により形成された空間50は負圧状態となり易い。負圧状態になると、急激に形成された空間50に潤滑流体19が充填されない場合に、潤滑流体19に溶け込んでいる空気が膨張することにより気泡を生じる。また、気泡が再度、潤滑流体19に溶け込むには、多くの時間を要する。そのため、一端、気泡が生じると、その体積分が、軸受隙間に充填されている潤滑流体19を外部へ押し出す状態となる。
【0039】
しかし、本発明では連通孔27と空間50が繋がっているので、図3に図示しているM1→M2→M3の潤滑流体19の移動が生じて、空間50に潤滑流体19を供給することとなり、気泡を発生するような強い負圧状態が生じない。仮に、負圧が生じたとしても、連通孔27から潤滑流体19を供給しているので、軸受隙間よりも直径が小さい気泡が生じる程度であり、キャピラリシール部21から潤滑流体19を軸受外部へと押し出す原因となる大きな気泡を形成することはない。
【0040】
以上より、スラストフランジ16の面16bに凸部28を形成することで、急激な外的衝撃がスピンドルモータに加わったとしても、キャピラリーシール部21から潤滑流体19が、漏洩することを防止する構造となっている。
【0041】
なお、上記では、スラストフランジ16とシャフト本体14aとは別々の部品として説明したが、これに限定されない。例えば、図4に図示している流体軸受装置302は、薄型化を実現するために、ラジアル軸受部17の軸線方向長さを短くし、スラスト軸受部18の半径方向長さを長くすることで、流体軸受としての軸受剛性を確保している。
【0042】
スラストフランジ16の外径が大きく薄いので、シャフト14に対する直角度を確保するために、スラストフランジ16は、シャフト本体14aに一体成形されている。
シャフト本体14aとスラストフランジ16を一体成形したシャフト14は、ラジアル軸受部17とスラスト軸受部18を構成している。それぞれの軸受部を構成している部分は、ラジアル軸受部は1μm〜5μm程度、スラスト軸受部は10〜30μm程度の軸受隙間を形成しているので、高い精度が必要であり、研磨加工を施している。
【0043】
シャフト14の研磨加工は、一例として、最初にラジアル軸受隙間17を構成しているシャフト外周面14bを研磨する。次に、スラストフランジ16の軸線上側方向の面16bを研磨する。次に、研磨された面16bを受け面として、スラストフランジ16のスラストプレート23に対向している面16aを研磨する。そして、最後に、スラストフランジ16のスラストプレート23に対向している面16aを基準にして、再度、最初にラジアル軸受隙間17を構成しているシャフト外周面14bを研磨する。なお研磨工程はこれに限定されるものではない。
【0044】
シャフト14に必要な精度は、シャフト外周面14bとスラストフランジ16のスラストプレート23に対向している面16aとの直角度、平面度などの寸法精度である。この寸法精度が、精度良く加工(研磨)されているので、回転体であるシャフト14に締結されているハブ12が、回転中心軸に対して精度良く回転することが可能となり、ハブ12に載置されている磁気記録ディスクとデータの読み書きをするヘッドとの接触を防止することが可能となる効果もある。
【0045】
更に、スラストフランジ16の面16bの全体を研磨するのではなく、スラストフランジ16に形成されている凸部28のみを研磨することで、シャフト外周面14bに対するスラストフランジ16の平面度、直角度を容易かつ、精度良く得られる。また、シャフト外周面14bを研磨する時と同時にスラストフランジ16に形成されている凸部28も研磨することが可能となり、スラストフランジ16の全体を研磨するのではないので、研磨時間の短縮および、研磨石(砥石)が磨耗した際でも、微調整作業が簡素化される。
【0046】
以上のように、スラストフランジ16の軸線上側方向の凸部28のみを研磨することで回転中心軸に対して精度良く回転することが可能となり、また潤滑流体の漏洩防止が形成されているキャピラリーシール部21の隙間寸法が精度良く確保されるので、急激な衝撃が加わったとしても潤滑流体の漏洩防止が、より効果的に可能となる。
【0047】
(実施の形態2)
以下、図5および、図6を用いて本発明の実施の形態2について説明する。図5は、本発明の実施の形態2のスピンドルモータ201の断面図を、図6は、実施の形態2のスピンドルモータに搭載されている流体軸受装置202の断面図を示す。
【0048】
なお、図5および図6において、実施の形態1と同様の効果を奏する部分については、同様の符号を付与し、以下の説明を省略するものとする。
【0049】
ロータ部3を構成しているハブ12は、スリーブ13を軸線方向上側から覆うように近接して配置されたカップ形状の部材である。ハブ12は、主に、円板状部12aと、その外周縁において軸線方向下側に伸びる外周側筒状部12bとを有している。円板状部12aの中心孔12cには後述のシャフト14が固定される。また、外周側筒状部12bの内周面には接着手段などによってマグネット9が固定されている。
【0050】
流体軸受装置202は、動圧発生部としてラジアル軸受部17と、スラスト軸受部18とを有している。ここでハブ12は内周部に円板状部12aと、さらにその外周で軸線下側方向に突出する環状突出部12eとを有している。軸受内の潤滑流体19は、環状突出部12eの内周面12fとスリーブ13の軸線上側方向の外周面13eにとの間に形成されたキャピラリーシール部21によってシールされている。また、各軸受部17、18を構成する間隙は潤滑流体19が満たされており、キャピラリーシール部21にて界面を形成し、外気に通じる構造となっている。
【0051】
キャピラリーシール部21は、ラジアル軸受部17からの潤滑流体19の漏れを防止するための構造であり、スリーブ13の軸線上側方向の端部付近において、ハブ12の環状突出部12eの内周面12fとスリーブ13の軸線上側方向の外周面13eとによって構成されている。より具体的に説明すると、キャピラリーシール部21は、スリーブ本体13aの軸線上側方向の外周面13eに設けられた傾斜面13fにより構成されている。傾斜面13fは、ハブ12の環状突出部12eの内周面12fとの間の空隙が軸線下側方向に向かって拡大するように形成されている。以上に述べた構造より、流体軸受装置202に保持された潤滑流体19の表面張力と外気の空気圧等とが釣り合うことにより、潤滑流体19が流体軸受装置2の外部に漏出することが抑制される。
【0052】
図6において、回転体であるロータ部3を構成しているシャフト14が、軸線方向上側に移動すると、シャフト本体14aの軸線下側方向の端面14eおよび、スラストフランジ16の軸線下側方向の面16aと、スラストプレ−ト23の軸線上側方向の面23aとの間は、負圧になりやすくなる。
【0053】
しかし、スラストフランジ16に凸部28が形成されていることにより、連通孔27とスラストフランジ16の軸線下側方向の面16aと、スラストプレ−ト23の軸線上側方向の面23aとの間が繋がっているので、図3に図示しているM1→M2→M3と同様に潤滑流体19の移動が生じて、スラストフランジ16の軸線下側方向の面16aと、スラストプレ−ト23の軸線上側方向の面23aとの間に潤滑流体19を供給することになるので、テーパキャピラリシール部21から潤滑流体19を軸受外部へと押し出す原因となるような強い負圧部分(ゲージ圧で−0.7気圧程度)を形成することはない。
以上より、スラストフランジ16の面16bに凸部28を形成することで、急激な外的衝撃がスピンドルモータに加わったとしても、潤滑流体19が、キャピラリーシール部21から漏洩することを防止することができる。
【0054】
更に、図6に図示している各軸受隙間(A,B,C)の関係を式(1)を満足する寸法にすることで、急激な外的衝撃が加わった際に、潤滑流体19が漏洩することを防止でき、且つ、より高寿命である流体軸受装置および、その流体軸受装置を搭載したスピンドルモータを提供することが可能となる。
【0055】
(数1)
C>A+B・・・(1)
A:凸部28と段部24の軸線方向隙間
B:スラストフランジ16とスラストプレート23の軸線方向隙間
C:スラストフランジ16とスリーブ13の内周面13cとの半径方向隙間
具体的には、A+B=0.02mm、C=0.1mmとした。式(1)を満足している上述した寸法にすることで、急激な外的衝撃が加わった際に、潤滑流体19が隙間の広い箇所から狭い箇所へと移動する毛細管力が働くこととなり、スラストフランジ16とスラストプレート23との間に負圧部分が発生したとしても、その負圧部分が発生しやすい部分に潤滑流体19が流れることとなり、気泡の発生を抑制することとなり、キャピラリーシール部21の液面変動を防止することが可能となる。
【0056】
更に、長時間モータを使用する(ライフエンド近傍になる)と潤滑流体19は、蒸発などによりその重量は減少する。しかしながら、式(1)を満足していることにより、潤滑流体19が隙間の広い箇所から狭い箇所へと移動する毛細管力が働くこととなり、流体軸受装置2の動圧を発生する部分に最後まで潤滑流体19が必ず充填されていることとなり、従来の軸受装置よりもより、高寿命化が可能となる。
【0057】
なおスラストフランジ16の直径が10mm以下、潤滑流体の粘度が約5〜50mm2/s、かつ凸部28の高さは4μm以上であれば、潤滑流体が漏れるような事態には至らなかった。この粘度はHDD用の通常の流体軸受においては−10℃〜60℃程度の温度範囲に相当する。
【0058】
なお、本実施の形態2においてスラスト軸受部をスラストフランジ16とスラストプレート23との間に構成したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ハブ12の円板状部12aとスリーブ13の上端面との間にスラスト動圧発生溝を配置して、スラストフランジ16とスラストプレート23との間は常に隙間が確保されるようにしても良い。この場合、スラストフランジ16は抜け止めとしての機能が主になる。
【0059】
なお、上記実施の形態では凸部の形状は特に指定していないが、生産性を考慮してリング状としても良いことはもちろんであるが、例えばコイニングやエッチングなどを用いて、リング状ではなく例えば円弧形状としても良い。
【0060】
また、凸部もしくは凸部に対向するスリーブ側端面に素明日と動圧溝を形成しても良い。これによって衝撃印加時の、磨耗を緩和させることも可能になる。
【0061】
また上記実施の形態はHDD用のスピンドルモータとして説明したが、本願はこれに限定されるものではない。例えばCD,DVD,BDなどの光ディスク装置、MOなどの光ディスク装置、ポリゴンスキャナモータを用いるレーザプリンタ装置など、ビデオテープレコーダ,ストリーマ装置等の回転ヘッドドラム用モータなどにも適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明にかかる流体軸受装置およびスピンドルモータは、携帯電話、モバイルプレーヤーなどの小型、薄型の製品に用いられ、急激な衝撃が加わったとしても、流体軸受装置の潤滑流体を確実に保持することが可能となり、小型、薄型に適した流体軸受装置の設計が可能となり、磁気記録ディスク装置などのスピンドルモータ等として有用である。
【0063】
また、本発明にかかる流体軸受装置およびスピンドルモータは、流体軸受装置の潤滑流体を確実に保持することが必要な光磁気ディスク駆動装置などの各種スピンドルモータ等の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態1におけるスピンドルモータの断面図
【図2】本発明の実施の形態1における流体軸受装置の断面図
【図3】本発明の実施の形態1における流体軸受装置に外的衝撃が加わった際の流体軸受装置内部の状態を示す半断面図
【図4】本発明の実施の形態1における流体軸受装置の変形例の断面図
【図5】本発明の実施の形態2におけるスピンドルモータの断面図
【図6】本発明の実施の形態2における流体軸受装置の断面図
【図7】従来のスピンドルモータの断面図
【図8】(a)従来の流体軸受装置における負圧部分発生時の状態図、(b)従来の流体軸受装置における負圧部分による潤滑流体漏洩の状態図
【符号の説明】
【0065】
1,201,801 スピンドルモータ
2,202,302,802 流体軸受装置
3 ロータ部
4 ステータ部
5 ベース
6 ステータコア
7 コイル
8 ステータ
9,809 マグネット
10 ベース孔
11 筒状部
12,812 ハブ
13,813 スリーブ
14,814 シャフト
16,816 フランジ
17,817 ラジアル軸受部
18,818 スラスト軸受部
19,819 潤滑流体
20 カバー部材
21,821 キャピラリーシール部
23 スラストプレート
24,824 段部
26 動圧発生用溝
27,827 連通孔
27a,827a 第1開口部
27b,827b 第2開口部
28 凸部
29,829 磁性体
50,850 空間
823 プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側が開口され、他方側が閉塞された軸受穴を有するスリーブと、
前記スリーブと相対的に回転自在に前記軸受穴に挿入されたシャフトと、
前記スリーブの閉塞側に収納されて、前記シャフトの端部に形成されている、前記シャフトの外径よりも径大な環状のフランジと、
前記スリーブの開口部側に形成された第1の開口部と、前記スリーブ上であって前記フランジに軸方向に対向するフランジ対向面に形成された第2の開口部とを有する連通孔と、
前記スリーブの開口部側端面を覆い、前記スリーブの開口部側端面との間で空間を形成するように配置された環状のカバー部材と、
前記シャフトと前記スリーブとの隙間および前記連通孔に充填された潤滑流体と、
前記スリーブに対向する前記フランジの面上に、前記第2の開口部よりも半径方向内側に形成され、前記スリーブの前記開口部側に向けて突出する凸部と、
を有する流体軸受装置。
【請求項2】
前記シャフトに締結され、前記スリーブの開口部側を覆うようなカップ状のハブを有し、
前記カバー部材が前記ハブと前記スリーブの間に位置することを特徴とした請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項3】
少なくとも、前記凸部の前記スリーブの第2の開口部が形成されている面に対向している面は研磨されていることを特徴とする請求項1および、請求項2に記載の流体軸受装置。
【請求項4】
一方側が開口され、他方が閉塞された軸受穴を有するスリーブと、
前記スリーブと相対的に回転自在に前記軸受穴に挿入されたシャフトと、
前記スリーブの閉塞側に収納されて、前記シャフトの端部に形成されている、前記シャフトの外径よりも径大な環状のフランジと、
前記シャフトに締結され、前記スリーブの開口部側を覆うハブと、
前記シャフトと前記スリーブと前記ハブとの隙間に充填された潤滑流体と、
前記スリーブの開口部側に形成された第1の開口部と、前記スリーブ上であって前記フランジに軸方向に対向するフランジ対向面に形成された第2の開口部を有する連通孔と、
前記スリーブに対向する前記フランジの面上に、前記第2の開口部よりも半径方向内側に形成され、前記スリーブの前記開口部側に向けて突出する凸部と、
を有する流体軸受装置。
【請求項5】
少なくとも、前記凸部の前記スリーブの第2の開口部が形成されている面に対向している面は研磨されていることを特徴とする請求項4記載の流体軸受装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの請求項に記載の流体軸受装置を搭載したことを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項7】
請求項6に記載のスピンドルモータを搭載したことを特徴とする情報装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−57990(P2009−57990A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223418(P2007−223418)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】