説明

流体軸受装置、スピンドルモータ、情報装置

【課題】焼結材料からなるスリーブを用いた流体軸受装置において、焼結材料の内部密度を均一にして表面から潤滑流体が漏れ内容にすると共に、所定の形状精度を容易に得ることができること。
【解決手段】内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、スリーブ1の軸受穴1Cの内周面には動圧発生溝1Aを有し、スリーブ1の軸方向一端側には1段以上の凹部31Dを有し、スリーブ1の軸方向他端側には凹部1Dと類似の形状である凸部1Gを有する形状とする事で、スリーブ1の各部の密度がほぼ均一になり、焼結材全体が高密度/高精度に加工できるようになり、また表面残留気孔をなくす事ができる。これにより動圧発生溝1Aにより発生した圧力がスリーブ1の表面から漏れず、長期に使用してもオイルが残留気孔から流出する危険性が低減され、また高い形状精度を容易に得られるので軸受性能を高くし得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(以下、HDDと示す。)などの情報装置に搭載されている流体軸受装置およびそれを備えた情報装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、回転する記録再生用磁気ディスク等を用いたディスク回転装置等は、そのメモリ容量が増大し、またデータの転送速度が高速化しているため、これらの回転装置には常にディスクを高精度に回転させるための高い性能と信頼性とが要求される。そこでこれら回転装置用の軸受として、高速回転に適した流体軸受装置が一般的に用いられている。
【0003】
ここで特許文献1に記載された従来の流体軸受装置は、図17に示すように素材として安価な焼結材料からなるスリーブ111を用いている。スリーブ111の軸受孔111Cには、フランジ113が一体に設けられたシャフト112が回転自在に挿入されている。またスリーブ下端側には、スラストフランジ113を収容するための凹部111Dと、スラスト板114を固定するための平面111Fを設けている。
【0004】
また、スリーブ111、シャフト112、フランジ113およびスラスト板114によって形成される隙間には潤滑流体116が保持されている。
【0005】
ここでシャフト112の外周円筒面または軸受孔111Cの内周面にはラジアル動圧発生溝111Aが転造工法などで形成され、ラジアル軸受を構成している。またスラスト板114にはスラスト動圧発生溝114Aが設けられ、スラスト板114はフランジ113に対面してスラスト軸受を形成している。
【特許文献1】米国特許第7186028号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特許文献1に記載された構成のスリーブ111は複数の段部を有しているため以下の課題がある。すなわち、このような複雑な形状のスリーブ111を焼結材料で作成するには、スリーブ111の形状に対応した金型を用意して、この金型内に金属粉体を充填し、しかる後に上下から加圧して金属粉体間の隙間が小さくなるように圧縮して所定の形状を得る必要がある。しかしながらスリーブ111は複雑な形状をしており、また加圧も軸方向にかけるだけであるので、製品の内部密度は決して均一にはならない。図17に示すスリーブ111の場合では、軸方向長さが小さいスリーブ内周のラジアル軸受周辺は高密度になりやすく、軸方向長さが大きい外周近傍部分は低密度になりやすい。ところが低密度部分のスリーブ111の表面には、図18にその表面写真を示すように表面残留気孔111rが多く(面積比で約2%以上)残り、スリーブ111の表面から圧力が低下/拡散してしまい、軸受性能が劣化し、高温環境などでは軸受が擦れることがあった。また高温環境における長時間運転の後には潤滑流体116が表面残留気孔111rを通過して低密度部分の表面から軸受の外部へ漏れ出ることもあった。
【0007】
また上記圧力の低下/拡散や潤滑流体漏れを防止するために、製造工程においてプレス圧力を上げることで、スリーブ111全体の密度を上げて表面残留気孔を減少させることが考えられる。しかしながら、軸方向長さが小さいスリーブ内周近傍で、内部密度が金属粉体そのものの密度にほぼ等しくなるまで上昇すると、それ以上金型に圧力を加えてもほとんど圧縮できなくなる。したがって無理にプレス圧力を高めようとしてもスリーブ内の内部密度が高まらないばかりか、最も内部密度が高くなるスリーブ内周部近傍で金型が破損してしまうことがあった。
【0008】
さらに通常の焼結材料製のスリーブの加工においては、スリーブのブランクを成形し、その後で孔径や段差が所定の寸法精度に達するようにするためにサイジング工程によってさらに部分的に圧縮を加え塑性変形させることが行われるが、加工すべき部分の体積密度が100%近い高密度になってしまっていると、その部分に塑性加工を施すには、極めて大きなプレス圧力が必要になる。その結果、加工精度も劣化し、表面粗さも悪くなり、さらに鉄系材料の場合には、動圧発生溝を転造工法などで形成する事が困難になる。
【0009】
本発明の課題は、複数の段部を有するスリーブの圧縮成型工程において、平均密度がスリーブ全体にわたってほぼ一定になり、焼結材料の表面に軸受性能上問題となる大きさの残留気孔ができないようにして、なおかつ大きなプレス圧力を掛ける必要が無く、所定の形状精度を得ることを容易にする事である。その結果としてオイルの滲み出しや圧力の低下/拡散を防止して、必要な軸受精度と要求性能を満足する流体軸受装置及びこれを備えたスピンドルモータ、情報装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る流体軸受装置は、内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有するスリーブと、軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、軸受孔とシャフトの間に構成された軸受部と、軸受部において軸受穴の内周面またはシャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、スリーブの軸方向一端側に設けた1段以上の凹部と、スリーブの軸方向他端側に設けられ、凹部に類似の形状を有する凸部と、軸受部の隙間に保持される潤滑流体とを有する。そして凹部と凸部はほぼ同一の体積である。
【0011】
また本発明に係る流体軸受装置は、内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有すると共に、半径方向に複数の段領域を有し、半径方向幅が所定の臨界半径幅Wr以上であるすべての段領域の軸方向長さの最小値Lminは、その最大値Lmaxとの差の割合(Lmax−Lmin)/Lmaxが所定の臨界最大段差比P1以下であるスリーブと、軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、軸受孔とシャフトの間に構成された軸受部と、軸受部において軸受穴の内周面またはシャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、軸受部の隙間に保持される潤滑流体とを有する。ここで臨界半径幅Wrはスリーブの最内周から最外周までの全半径方向幅Wに対して10%または0.2mmの内の大きい方であり、臨界最大段差比P1は25%である。
【0012】
また本発明に係る流体軸受装置は、内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有すると共に、半径方向に複数の段領域を有し、半径方向幅が所定の臨界半径幅Wr以上であるすべての段領域の軸方向長さの最小値Lminは、その最大値Lmaxとの差の割合(Lmax−Lmin)/Lmaxが所定の臨界最大段差比P1以下であると共に、半径方向幅が臨界半径幅Wr以上である段領域同士において互いに半径方向に近接し合う二つの段領域の軸方向長さLiとLjの差の割合の絶対値|Li−Lj|/max(Li,Lj)が所定の臨界近接段差比P2以下であるスリーブと、軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、軸受孔とシャフトの間に構成された軸受部と、軸受部において軸受穴の内周面またはシャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、軸受部の隙間に保持される潤滑流体とを有する。ここで臨界半径幅Wrはスリーブの最内周から最外周までの全半径方向幅Wに対して10%または0.2mmの内の大きい方であり、臨界最大段差比P1は35%であり、臨界近接段差比P2は15%である。
【0013】
また本発明に係る流体軸受装置は、内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有すると共に、半径方向に複数の段領域を有し、半径方向幅が所定の臨界半径幅Wr未満である段領域の軸方向長さLiは、半径方向に近接し合う段領域の軸方向長さLjとの差の割合の絶対値|Li−Lj|/max(Li,Lj)が所定の臨界近接段差比P2以下であるスリーブと、軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、軸受孔とシャフトの間に構成された軸受部と、軸受部において軸受穴の内周面またはシャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、軸受部の隙間に保持される潤滑流体とを有する。ここで臨界半径幅Wrはスリーブの最内周から最外周までの全半径方向幅Wに対して10%または0.2mmの内の大きい方であり、臨界近接段差比P2は50%である。
【0014】
また本発明に係る流体軸受装置は、内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有すると共に、半径方向に複数の段領域を有し、半径方向幅が所定の臨界半径幅Wr以上である段領域同士において互いに半径方向に近接し合う二つの段領域の軸方向長さLiとLjの差の割合の絶対値|Li−Lj|/max(Li,Lj)が所定の臨界近接段差比P2以下であるスリーブと、軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、軸受孔とシャフトの間に構成された軸受部と、軸受部において軸受穴の内周面またはシャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、軸受部の隙間に保持される潤滑流体とを有する。ここで臨界半径幅Wrはスリーブの最内周から最外周までの全半径方向幅Wに対して10%または0.2mmの内の大きい方であり、臨界近接段差比P2は10%である。
【0015】
また本発明に係る流体軸受装置は、内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有すると共に、半径方向に複数の段領域を有し、段領域の中で半径方向幅が所定の臨界半径幅Wr以上である第1の段領域の軸方向長さLiと、段領域の中で半径方向幅が臨界半径幅Wr以上であり第1の段領域に対して半径方向に近接し合う第2の段領域の軸方向長さLjとの差の割合の絶対値|Li−Lj|/max(Li,Lj)と、半径方向幅が臨界半径幅Wr以上であるすべての段領域における軸方向長さの最小値Lminとその最大値Lmaxとの差(Lmax−Li)/Lmaxとの積|Li−Lj|/max(Li,Lj)*(Lmax−Li)/Lmaxが所定の臨界段差パラメータP3以下であるスリーブと、軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、軸受孔とシャフトの間に構成された軸受部と、軸受部において軸受穴の内周面またはシャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、軸受部の隙間に保持される潤滑流体とを有する。ここで臨界半径幅Wrはスリーブの最内周から最外周までの全半径方向幅Wに対して10%または0.2mmの内の大きい方であり、臨界段差パラメータP3は0.0525である。
【発明の効果】
【0016】
このように焼結材からなるスリーブの形状を規定する事により、スリーブ内で軸方向長さが急激に変化する事が無くなるので、スリーブの圧縮成型時における各部の密度がほぼ均一になり、焼結体全体が高密度に加工できるようになる。また焼結体に密度の著しく低い部分が存在しないので、段差部を有する焼結体における有害な表面残留気孔を抑制する事ができる。また密度が著しく高い部分も存在しないので、所定の形状精度や表面粗さを容易に得ることができる。これによって動圧発生溝による発生圧力の低下/拡散を防ぎ、長期に使用しても潤滑流体が表面残留気孔から流出する危険性がなく、高性能でかつ低コストを実現する流体軸受装置を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る流体軸受装置およびそれを備えた情報装置について、図を用いて以下詳細に説明する。
【0018】
(実施の形態1)
(装置の全体構成)
図1(a)に本実施形態における流体軸受装置を備えたスピンドルモータの断面図を示す。
【0019】
流体軸受装置15は略中空円筒状のスリーブ1を備えている。このスリーブ1の軸受穴1Cには略円柱状のシャフト2が数μm程度の微小な隙間を介して挿入されて互いに回転自在に支承されている。軸受穴1C内には通常1〜2ケ所のラジアル軸受面を有しており、軸受穴の長さは3mmから20mmの範囲である。またスリーブ1の外径は6mmから12mmの範囲である。スリーブ1の材質としては、鉄、ステンレス鋼、銅合金のいずれかからなる粉末材料を後述するように圧縮成型し、さらに高温で焼結加工したものを使用している。
【0020】
シャフト2の材質としてステンレス鋼、高マンガンクロム鋼、または炭素鋼を使用している。シャフト2の一端側にはフランジ3が固定され、スリーブ1の凹部1D内に収納されている。なおフランジ3はシャフト2と一体に加工されていてもよい。そしてこの凹部1Dを塞ぐように、略円板状のスラスト板4がスリーブ1の下端にカシメや接着またはカシメ接着、さらには溶接等により固定されている。
【0021】
ここでスリーブ1の軸受穴1Cの内周面には、ヘリングボーン形状などのラジアル動圧発生溝1Aが形成され、ラジアル軸受部が構成されている。またフランジ3のスリーブ1との軸線方向の対向面およびフランジ3とスラスト板4との軸線方向の対向面には、スラスト動圧発生溝3A,3Bが形成され、スラスト軸受部が構成されている。なおスラスト動圧発生溝3Aは必ずしも形成されていなくとも良い。また少なくとも各動圧発生溝1A,3A,3Bの付近の軸受隙間は、オイル、高流動性グリスまたはイオン性液体等の潤滑流体5が封入されている。シャフト2は直径が2.0mmから6.0mmであり、回転数は360rpmから15000rpmまでの範囲で設計されている。ここで必要な軸受性能を得るために、例えば軸受穴1Cの直径精度や、凹部1Dの直角度は1μmオーダが必要とされる。
【0022】
そして、スリーブ1の凹部1Dと反対側(図の上方)の開口部には、スリーブ1またはシャフト2に対して円周状の溝を加工して設けた周溝状の潤滑流体(オイル)溜まり1Eが形成されている。この潤滑流体溜り1Eは、軸受穴1Cから開口部に向かって拡径するテーパ状であってもよい。
【0023】
ここで、フランジ3とスリーブ1とのいずれかの軸線方向の対向面に形成されるスラスト動圧発生溝3Aは例えばヘリングボーンパターン(魚骨状パターン)の溝、またはスパイラルパターン(渦状パターン)の溝である。また、フランジ3とスラスト板4とのいずれかの軸線方向の対向面に形成されるスラスト動圧発生溝3Bは主にスパイラルパターンの溝が使われるが、ヘリングボーンパターンの溝であってもよい。
【0024】
ベース6には流体軸受装置15が圧入、接着、カシメ、溶接等の手段を単独でまたは適宜組み合わせることで固着される。また流体軸受装置15のシャフト2の他端側には有天円筒形状のハブロータ7が圧入、接着、溶接等の手段を単独でまたは適宜組み合わせることで固定される。さらにハブロータ7には中空円筒状のロータ磁石9が固定されている。このロータ磁石9に対向して、コイルが巻回され複数の突極を外周側に有するステータ8が配設されている。そしてシャフト2、フランジ3、ハブロータ7等で構成される回転部がロータ磁石9とステータ8の間の磁力などによってベース6に向かって吸引されるように構成されている。こうして流体軸受装置15を備えたスピンドルモータ16が構成される。
【0025】
図1(b)は上記スピンドルモータ16を備えた情報装置17の断面図である。情報装置17として代表的なものとしては、ハードディスク装置や光ディスク装置、ポリゴンミラースキャナ装置等がある。以下ハードディスク装置を例にとって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。同図においてディスク10はロータハブ7にクランパ部材11やスペーサ12等を介して固定されている。そして磁気ヘッド等を搭載したヘッドアクチェータユニット14がベース6上にネジなどを介して固定され、さらに上蓋13で密閉される。
(装置の動作)
上記のように構成された流体軸受装置15の動作について説明する。ステータ8に巻回されたコイルに通電されると回転磁界が発生し、ロータ磁石9に回転力が付与される。そして、ロータ磁石9は、ハブロータ7、シャフト2、フランジ3、ディスク10等とともに回転を開始する。(以下、これらを回転部と称する。)
この回転により各動圧発生溝1A,3A,3Bでは潤滑流体5をかき集め、シャフト2とスリーブ1の間、およびフランジ3とスリーブ1およびスラスト板4の間でポンピング圧力を発生させる。これにより回転部が浮上し、シャフト2をスリーブ1とスラスト板4に対して非接触の状態で回転させ、図示しない磁気ヘッドまたは光学ヘッドによって、ディスク10に対してデータや情報などの記録再生を行う。
(スリーブの加工プロセス)
図2は焼結材料製の流体軸受用スリーブにおける加工フローチャートの一事例である。ここに示すように、鉄や銅を含む金属粉体を混合して、金型内に流入(粉詰め)し、圧力を加えて所定のスリーブ形状にする。その後金型から取り出して所定の温度に加熱して焼結して焼結体を得る。
【0026】
その後ラジアル軸受部を構成する軸受穴1Cの内径精度、円筒度、真円度、表面粗さ等や、スラスト板4が固定される凹部1Dの直角度,平面度などの形状寸法精度を確保するために、複数回のサイジング工程と動圧溝加工を行う。その結果、図3に示すように、当初の形状1Sに対して、ハッチング領域の部分が圧縮されて、最終形状1Zを得る。ここで動圧溝加工は主にボール転造加工法や金型転写と呼ばれる一般的な機械加工方法で行われる。
【0027】
さらに必要に応じて表面封孔加工を行う。表面封孔加工は、焼結材料の表面に残留する微細な貫通気孔を無くすための加工工程である(気孔に関しては後述する)。その第1の方法としては表面残留気孔の中に樹脂や金属を埋め込むか、または表面にスチーム処理などで酸化硬質皮膜を形成するかメッキを施して表面残留気孔を埋める方法等である。スリーブの材質として鉄を90%以上含む焼結合金として、その表面にスチーム処理などで三酸化四鉄または二酸化三鉄の皮膜を形成した材料を用いたものでも良く、これによれば、所定の耐摩耗性能が得られる。また第2の方法としては、焼結材の内周面にサイジング加工用ピンを強く押し込んで表面に塑性流動を起こして表面の気孔を埋める方法等がある。これらのいずれか、または複数の方法を組み合わせて表面封孔加工が行われる。
【0028】
その後洗浄を行いスリーブが完成する。
【0029】
なおスリーブのラジアル軸受面の表面粗さは0.01〜1.60μmの範囲内になるように加工する事が望ましい。またシャフト2の表面粗さについては0.01〜0.2μmの範囲内に加工することで所定の耐摩耗性が得られる。なおこれら表面粗さの測定は、表面粗さ計を用いて算術平均粗さRa(カットオフ値の設定は0.25mm)、または10点平均粗さRZJISを用いる(JIS−B0601:1994)。
(焼結体の残留気孔)
一般に、焼結金属の表面および内部は多孔質であり、これらの微細孔(気孔)は図4に示すように、貫通気孔Hp、内部気孔Hi、表面気孔Hsの3種類からなる。貫通気孔Hpは高圧が発生するリッジ部と低圧になる溝部を連通してしまっているものや、スリーブ内周から外周に掛けて微細な孔が連通しているもの等である。表面気孔Hsは表面に残留する深さ数μm程度の略丸状の凹みやスジ状の凹みである。また内部気孔Hiは焼結体の内部に閉じ込められた気孔である。この内部気孔Hiは表面には繋がっていないので、動圧発生溝による発生圧力を低下させる危険性もなく、潤滑流体が漏れ出す原因にもならない。この内部気孔Hiは、流体軸受式回転装置の性能には全く影響しない。しかし焼結体を成型後に、サイジング加工で所定の形状精度を得たり、動圧発生溝を転造工法などで形成したりするには、この内部気孔Hiを残留させることが重要である。この内部気孔が所定量以上残留することによって、サイジングなどにおいて、圧縮吸収空間として作用し、加工を容易にすると共に、形状精度を高め、軸受面などの表面粗さを高める。後述するようにスリーブ完成時点において内部気孔率が2%程度から8%程度になるように金型条件を定めることが理想的である。
【0030】
動圧流体軸受装置においては、貫通気孔Hpと表面気孔Hsの2種類が、オイル漏れや圧力低下/拡散防止の点で問題となる。すなわち貫通気孔Hpが残留していると潤滑流体の漏れが生ずる。また貫通気孔Hpや表面気孔Hsといった表面残留気孔があると軸受部における見かけ上の平均軸受隙間が増大した場合と同様の影響が生じて、動圧型流体軸受の動圧溝が発生する圧力を減少させたり拡散させたりする恐れがある。したがって動圧型流体軸受に焼結スリーブを適用するにはこの貫通気孔Hpと表面気孔Hsとを合計した開放気孔(Hp+Hs)を低減する必要性がある。
【0031】
なお開放気孔率は、スリーブ全体積に対する開放気孔(Hp+Hs)の割合(体積百分率)として算出される。ただし表面気孔Hsの深さは数μm程度であるのでその体積は貫通気孔Hpの体積と比較して2桁以上小さくなる。したがって開放気孔率は貫通気孔率とほぼ同じと見て良い。
【0032】
開放気孔率(Hp+Hs)は「JIS―Z―2501:2000焼結金属材料 ― 密度,含油率及び開放気孔率試験方法」を用いて次のように求められる。
【0033】
完全に脱脂した清浄な焼結体の質量を測定した後に真空含浸装置で完全含浸してそこで含浸後の焼結体の質量を求める。そして含浸前後の質量差を含浸油の密度で除すことにより、開放気孔(Hp+Hs)の体積を求めることが出来る。この開放気孔(Hp+Hs)の体積を焼結スリーブの見かけ体積で除すことで開放気孔率を求めることが出来る。この開放気孔率をもって貫通気孔率として見なしても実用上は支障ない。
【0034】
なお表面気孔率は次のように測定される。完全に脱脂した清浄な焼結体の貫通気孔Hpと表面気孔Hsに樹脂を含浸する。その後で表面気孔Hsの樹脂のみを適切な溶媒で洗い流して貫通気孔Hpのみに樹脂を残してこれを固化して質量m1を測定する。この状態で潤滑流体を真空注油した後の質量m2との差(m2−m1)を求め、これを潤滑流体の比重ρで除すると表面気孔Hsに相当する体積ΔVsが得られるので、表面気孔率は、ΔVsをスリーブの見かけ上の体積V1に対する割合として求められる。
【0035】
ただし上記のように表面気孔率単独を測定することは手順が煩雑であり、精度良く測定することは困難である。したがって通常は表面気孔そのものの体積を求めるよりも、焼結体表面における表面残留気孔の面積比率を求めて、残留表面気孔の大きさを評価する代用する事が行われる。表面残留気孔率(面積百分率)は、顕微鏡観察または写真やビデオカメラ等の撮影により単位面積当たりの気孔が占める面積比率が測定される。
【0036】
3種類の気孔(貫通気孔Hp、内部気孔Hi、表面気孔Hs)の総計体積がスリーブの見かけ上の体積に占める割合である全気孔率は、スリーブの見かけ上の体積密度と焼結金属粉体の平均密度から比重法を用いて一義的に求めることが出来る。焼結スリーブの見かけ上の体積密度とは、脱脂状態のスリーブ質量を、スリーブ外形形状から計算される見かけ上の体積V1で除したものである。たとえば真の密度が7.84g/cm3である鉄系金属焼結体の場合で、見かけ上の体積密度が7.84g/cm3であれば、内部気孔Hiも含めた全気孔率は0%であることを意味する。
【0037】
図5は鉄系材料からなるスリーブ1の体積密度と気孔率の関係を示している。同図において曲線G1は貫通気孔率(Hp)であり体積比率である。曲線G2は、表面残留気孔率(貫通気孔Hp+表面気孔Hs)である。ただし曲線G2は面積比率である。曲線G3は全気孔率(貫通気孔Hp+表面気孔Hs+内部気孔Hi)を示している。
【0038】
図5に示すように体積密度が90%以上では、G2(表面残留気孔率:面積%)は5%以下になる。また体積密度が92%以上ではG2(表面残留気孔率:面積%)は1.5%以下、さらに体積密度が93%以上ではG2(表面残留気孔率:面積%)は1%以下になる。また貫通気孔率(G1)は90%以上ではほぼ0になる。すなわち体積密度が90%以上では、内部気孔率(Hi)はほぼ全気孔率(Hp+Hs+Hi)に等しくなる。このように体積密度を92%以上または93%以上(すなわち内部気孔率が8%以下、より好ましくは7%以下)にすることにより、図2に示す製造工程のフローチャートにおいて、サイジング後(表面封孔加工前)の貫通気孔率を0、表面残留気孔率を1.5%以下または1%以下とすることが可能となる。これによりスリーブからの潤滑流体漏れや、動圧力の低下/拡散を防止することが可能となる。なお内部気孔率はサイジング時の精度、粗さなどを考慮すると1%以上にする事が好ましいことがわかった。このように内部気孔率を1%から8%残留させることによって、特に軸受穴1Cの内周面を効率的に加工することが出来、また鏡面であるかのごとく平滑な表面を得ることができ、さらに潤滑流体の漏れも生じない、軸受用スリーブとして最適である。また加工が容易であるので金型の損傷磨耗も問題にならない。
【0039】
なお、表面残留気孔は、図2に示す表面封孔処理工程後には、ほぼゼロに近い数値まで改善され、動圧力の低下/拡散をより確実に皆無にできる。
【0040】
図6は、焼結材料の成型加工工程において、プレス加工圧力比率(%)と焼結材の体積密度の関係を示している。ここでプレス圧力比率の数値(%)はあくまで大小関係を示し、目盛りの0%は0トン/cm2を示すが、目盛りの100%は体積密度がこれ以上は上がらない上限値(99%〜100%)に達するプレス圧力を定義しており、その一般値は、約5〜20トン/cm2の範囲の値である。
【0041】
図5において焼結材の体積密度を93%以上に仕上げることで表面残留気孔率を1%以下に出来ることを示したが、そのためには図6に示すようにプレス圧力比率を80%以上に上げれば良いことを示している。すなわちプレス圧を80%以上100%未満にする事が、焼結材の密度を93%以上にして表面残留気孔率をゼロまたは極少にして、同時にプレス圧を上げ過ぎて金型を損傷させる心配がなく、またサイジング後の形状精度が高く表面粗さも良好になる、最適な加工条件を意味する。
(スリーブの圧縮成型工程)
図7は複数個の段部を有するスリーブ1を金型で圧縮成型する工程の概念図である。
【0042】
図の左半分において、金型ピン66と外周型67の間の空所には下型68が摺動自在に取り付けられその上部には上型69が同軸上に待機している。ここで深さが内周側から順にD1、D2、・・・Dk(最外周部)である段部を有する空所に、混合された粉体70を図中Iに示すように外周型上面と同じ高さになるまで注ぎ込む。
【0043】
次に図の右半分に示すように上型69が図中矢印bに示すように外周型67の中に挿入
され、粉体70は軸方向長さが内周側から順にL1、L2、・・・、Lkまで圧縮される。ここで圧縮の初期段階においては粉体70の粒子間の隙間は比較的大きいので、粉体70の粒子は上型69の下端面形状に沿うように若干流動する。圧縮が進み粉体70間の隙間が狭くなると粒子はほとんど流動しなくなり、粒子間の隙間が小さくなる。こうして粒子同士が凝着して成形される。
【0044】
ここで圧縮成型工程における金型内圧縮長さ比Uを、段部毎に次のように定義する。
【0045】
U1=D1/L1、U2=D2/L2、・・・、Uk=Dk/Lk
この金型内圧縮長さ比Uが場所によって著しく異なると、体積密度にバラツキが生じてしまい、密度が低い所では残留気孔が生じてしまい、動圧力の拡散や潤滑流体の漏れが生じてしまう。
【0046】
ここで成形後において最も体積密度が低い所でも軸受性能に影響を及ぼさない程度に全体にわたってほぼ均一な密度にするには、圧縮開始初期段階における流動終了以降の圧縮比が全体に渡って所定の値以上であればよい。
(スリーブの形状)
以下、スリーブの形状に関して図8(a)を用いて詳細に説明する。図8(a)は本実施形態におけるスリーブの断面図を示す。スリーブ1は内部に気孔を有する焼結材料からなる。
【0047】
ここで同図に示すようにスリーブ1を半径方向に軸方向長さがほぼ同一の段領域ごとにk個に分割し、各段領域をそれぞれV1,V2・・・Vi・・・Vkとする。そしてそれぞれの軸方向長さをそれぞれL1,L2・・・Li・・・Lkとする。さらに各段領域の半径方向幅をそれぞれW1,W2・・・Wi・・・Wkとする。またスリーブ1の最外周部から最内周部までの全半径方向幅をWとする。以下スリーブの最適形状に関して、場合分けして説明する。
(スリーブ形状:ケース1)
ここでスリーブ1はその軸方向一端側に1段以上の凹部1Dを有し、軸方向他端側にはこの凹部1Dと類似の形状をなし、ほぼ同一の体積である凸部1Gを有している。より具体的には凹部1Dは段差部1L1,1L2,1L3からなり、凸部1Gは段差部1U1,1U2,1U3とからなる。段差部1L1,1L2,1L3,1U1,1U2,1U3の各段差の軸方向長さは、スリーブの全長に対して30%以下である。そして凹部1Dの体積VDと凸部1Gの体積VGは関係式(1)が成立するように定めている。
【0048】
【数1】

【0049】
ここでPvは1.5である。すなわち凹部1Dの体積VDと凸部1Gの体積VDとは互いに±50%以内となるようにその体積を限定している。このようにスリーブ1の一端側に軸受を構成するための凹部1Dを設けると共に、他端側に類似の形状の凸部1Gを設けることで、スリーブ1の任意の段領域Viにおける軸方向長さLiが場所によらずほぼ同じ値に近づけることができ、その結果としてスリーブ1内で極端に体積密度が不均一になる部分の発生を抑制しうる。またなおPvを1.3とすると体積差が小さくなるのでより好ましい結果が得られる。
(スリーブ形状:ケース2)
またスリーブ1の形状は以下の関係式(2)が成立するように設定しても良い。
【0050】
【数2】

【0051】
関係式(2)の左辺は最大段差比であり、所定幅以上の半径方向幅を有する段領域同士の軸方向長さの最大差に相当する。
【0052】
ただし、LmaxおよびLmaxは次のように定める。上記k個の段領域の内で、半径方向幅Wiが所定の臨界半径幅Wr以上である段領域Viをすべて抽出し、軸方向長さLiの最大値と最大値をそれぞれLmax,Lminとする。
【0053】
なお臨界半径幅Wrは0.2mm、または全半径方向幅Wの10%のいずれかの内の大きい方である。臨界半径幅Wrはさらに0.1mm、または全半径方向幅Wの5%のいずれかの内の大きい方とするとより好ましい。
【0054】
また上記P1は臨界最大段差比であり、25%とするとより好ましい。さらに臨界最大段差比P1は20%とするとより好ましい。
【0055】
図9は、(Lmax−Lmin)/Lmaxと表面残留気孔率の実測値との関係を示す。プレス加工における圧力比率を図6に示すように80%に一定にして加工を行った結果、(Lmax−Lmin)/Lmaxが0.25以下であれば、図2の加工フローチャートにおける表面封孔加工前の焼結材表面の表面残留気孔率を1.5%以下にできることがわかっている。また最も体積密度が高いところでも内部気孔率が1%以上確保できる。さらに(Lmax−Lmin)/Lmaxが0.2以下であれば、表面残留気孔率を1%以下にできる。また最も体積密度が高いところでも内部気孔率が2%以上確保できる。なお焼結材料は、鉄系材料で粒子径が大きい粉体を使用する場合は成型加工後の表面粗さが悪く、表面封孔加工前の表面残留気孔率は大きめになってしまう。一方銅系材料はプレス加工での被成型性が良好であり、粒子径が小さい粉体を使用すれば表面気孔率は非常に小さくなる。純鉄または鉄系で粒子径が小さい粉体を使用した場合は上記2種の中間の成形性と表面残留気孔率を示す。
【0056】
なお表面残留気孔率は、図2に示す先に述べた各種方法による表面封孔処理工程後には、ほぼゼロ%に近い数値まで改善され動圧力の低下/拡散をより確実に皆無にできる。
【0057】
このように最大値Lmaxと最小値Lminの差を所定の臨界最大段差比P1よりも小さく設定することで、スリーブ1の任意の段領域Viにおける軸方向長さLiが場所によらずほぼ同じ値に近づけることができ、その結果としてスリーブ1内で極端に体積密度が低くなる部分の発生を抑制しうる。
(スリーブ形状:ケース3)
またスリーブ1の形状は以下の前記関係式(2)と以下の関係式(3)とが同時に成立するように設定しても良い。
【0058】
【数3】

【0059】
ただし、max(Li,Lj)はLiとLjの大きい方を意味する。
【0060】
前記関係式(2)の左辺は最大段差比であり、所定幅以上の半径方向幅を有する段領域同士の軸方向長さの最大差に相当する。
【0061】
ただし、LmaxおよびLmaxは次のように定める。上記k個の段領域の内で、半径方向幅Wiが所定の臨界半径幅Wr以上である段領域Viをすべて抽出し、軸方向長さLiの最大値と最大値をそれぞれLmax,Lminとする。
【0062】
また関係式3においてmax(Li,Lj)はLiとLjの大きい方を意味する。
【0063】
また上記P1は臨界最大段差比であり、35%である。
【0064】
また関係式3の左辺は近接段差比であり、所定幅以上の半径方向幅を有し互いに近接する段領域同士の軸方向長さの差に相当する。
【0065】
P2は臨界近接段差比であり、15%である。
【0066】
またLi,Ljは次のように定める。まず上記k個の段領域の内で、半径方向幅Wiが所定の臨界半径幅Wr以上である段領域Viをすべて抽出する。次に段領域Viに対して半径方向内周側もしくは外周側に近接する段領域Vjを、抽出した段領域群から選択する。すなわち段領域Vjの半径方向幅Wjも所定の臨界半径幅Wr以上である。そのような段領域Vi,Vjの軸方向長さをそれぞれLi,Ljとする。
【0067】
なお臨界半径幅Wrは0.2mm、または全半径方向幅Wの10%のいずれかの内の大きい方である。臨界半径幅Wrはさらに0.1mm、または全半径方向幅Wの5%のいずれかの内の大きい方とするとより好ましい。
【0068】
図10は近接段差比と表面残留気孔率(面積%)との関係を示す図である。ここに示すように金属粉体の粒径が小さい場合は近接段差比が大きくても表面残留気孔率を小さな値に抑制できる。具体的には金属粉体が銅または鉄系であり粒径が50μm以下であれば、近接段差比が0.1以下であれば、表面残留気孔率は1.5%にできる。さらに近接段差比が0.05以下であれば、表面残留気孔率は1%以下にできる
ここで図8(b)に示すように、段領域V2と段領域V4の間に半径方向幅が小さい段領域V3が存在した場合で、段領域V2を段領域Viとした場合を考える。この場合は、段領域V3は段領域Vi(この場合は段領域V2)の近接領域Vjと見なされず、段領域V4が段領域V2の近接領域Vjと見なされる。これは段領域V3の軸方向長さL3が、隣接する段領域V2,V4の軸方向長さL2,L4に対して大きく変化したとしても、段領域V3は非常に狭いので、焼結用の金属粉体の密度が極端変化することはなく影響は小さいためである。このような狭い段領域に関する形状条件は後述する。
【0069】
このように互いに近接する段領域Vi,Vjの軸方向長さLi,Ljの差を所定の臨界近接段差比P2よりも小さく設定すると共に、LmaxとLminの差を臨界最大段差比P1よりも小さく設定することで、スリーブ1内で軸方向長さの急激な変化を抑制し、その結果としてスリーブ1内で極端に体積密度が不均一になる部分の発生を抑制しうる。
(スリーブ形状:ケース4)
またスリーブ1の形状は前記関係式(3)が成立するように設定しても良い。
【0070】
ただし、max(Li,Lj)はLiとLjの大きい方を意味する。
【0071】
また上記P2は臨界近接段差比であり、50%である。
【0072】
またLi,Ljは次のように定める。まず上記k個の段領域の内で、半径方向幅Wiが所定の臨界半径幅Wr未満である段領域Viを抽出する。次に段領域Viに対して半径方向内周側もしくは外周側に隣接する段領域Vjを選択する。ここで段領域Vjの半径方向幅Wjの大きさは問わない。そのような段領域Vi,Vjの軸方向長さをそれぞれLi,Ljとする。
【0073】
なお臨界半径幅Wrは0.2mm、または全半径方向幅Wの10%のいずれかの内の大きい方である。臨界半径幅Wrはさらに0.1mm、または全半径方向幅Wの5%のいずれかの内の大きい方とするとより好ましい。
【0074】
ここで図8(b)に示すように、段領域V2と段領域V4の間に半径方向幅が小さい段領域V3が存在した場合を考える。ここでは半径方向幅が小さい段領域V3を段領域Viと見なし、段領域V2と段領域V4を段領域Vi(ここでは段領域V3)の隣接領域Vjと見なして考えればよい。
【0075】
ケース3と異なり、段領域Viは半径方向幅が狭いので、段領域Viの軸方向長さLiが、近接領域Vjの軸方向長さLjに対して大きく変化したとしても、焼結用の金属粉体の密度が極端に変化することはなく影響は小さいためである。そのためケース3の場合よりも臨界近接段差比P2の値を大きく設定することが出来る。
【0076】
このように互いに近接する段領域Vi,Vjの軸方向長さLi,Ljの差を所定の臨界近接段差比P2よりも小さく設定することで、スリーブ1内で軸方向長さの急激な変化を抑制し、その結果としてスリーブ1内で極端に体積密度が不均一になる部分の発生を抑制しうる。
(スリーブ形状:ケース5)
またスリーブ1の形状は前記関係式(3)が成立するように設定しても良い。
【0077】
ただし、max(Li,Lj)はLiとLjの大きい方を意味する。
【0078】
また関係式3の左辺は近接段差比であり、所定幅以上の半径方向幅を有し互いに近接する段領域同士の軸方向長さの差に相当する。
【0079】
P2は臨界近接段差比であり、10%である。
【0080】
またLi,Ljは次のように定める。まず上記k個の段領域の内で、半径方向幅Wiが所定の臨界半径幅Wr以上である段領域Viをすべて抽出する。次に段領域Viに対して半径方向内周側もしくは外周側に近接する段領域Vjを、抽出した段領域群から選択する。すなわち段領域Vjの半径方向幅Wjも所定の臨界半径幅Wr以上である。そのような段領域Vi,Vjの軸方向長さをそれぞれLi,Ljとする。
【0081】
なお臨界半径幅Wrは0.2mm、または全半径方向幅Wの10%のいずれかの内の大きい方である。臨界半径幅Wrはさらに0.1mm、または全半径方向幅Wの5%のいずれかの内の大きい方とするとより好ましい。
【0082】
ここで図8(b)に示すように、段領域V2と段領域V4の間に半径方向幅が小さい段領域V3が存在した場合で、段領域V2を段領域Viとした場合を考える。この場合は、段領域V3は段領域Vi(この場合段領域V2)の近接領域と見なされず、段領域V4が段領域V2の近接領域Vjと見なされる。これは段領域V3の軸方向長さL3が、隣接する段領域V2,V4の軸方向長さL2,L4に対して大きく変化したとしても、段領域V3は非常に狭いので、焼結用の金属粉体の密度が極端に変化することはなく影響は小さいためである。
【0083】
このように互いに近接する段領域Vi,Vjの軸方向長さLi,Ljの差を所定の臨界近接段差比P2よりも小さく設定することで、スリーブ1内で軸方向長さの急激な変化を抑制し、その結果としてスリーブ1内で極端に体積密度が不均一になる部分の発生を抑制しうる。
(スリーブ形状:ケース6)
またスリーブ1の形状は以下の関係式(4)が成立するように設定しても良い。
【0084】
【数4】

【0085】
関係式4の左辺前半は近接段差比であり、所定幅以上の半径方向幅を有し互いに近接する段領域同士の軸方向長さの差に相当する。ここでmax(Li,Lj)はLiとLjの大きい方を意味する。
【0086】
またLi,Ljは次のように定める。まず上記k個の段領域の内で、半径方向幅Wiが所定の臨界半径幅Wr以上である段領域Viをすべて抽出する。次に段領域Viに対して半径方向内周側もしくは外周側に近接する段領域Vjを、抽出した段領域群から選択する。すなわち段領域Vjの半径方向幅Wjも所定の臨界半径幅Wr以上である。そのような段領域Vi,Vjの軸方向長さをそれぞれLi,Ljとする。
【0087】
なお臨界半径幅Wrは0.2mm、または全半径方向幅Wの10%のいずれかの内の大きい方である。臨界半径幅Wrはさらに0.1mm、または全半径方向幅Wの5%のいずれかの内の大きい方とするとより好ましい。
【0088】
ここで図8(b)に示すように、段領域V2と段領域V4の間に半径方向幅が小さい段領域V3が存在した場合で、段領域V2を段領域Viとした場合を考える。この場合は、段領域V3は段領域Vi(この場合段領域V2)の近接領域と見なされず、段領域V4が段領域V2の近接領域Vjと見なされる。これは段領域V3の軸方向長さL3が、隣接する段領域V2,V4の軸方向長さL2,L4に対して大きく変化したとしても、段領域V3は非常に狭いので、焼結用の金属粉体の密度が極端変化することはなく影響は小さいためである。
【0089】
関係式4の左辺後半は最大段差比であり、所定幅以上の半径方向幅を有する段領域同士の軸方向長さの最大差に相当する。ただし、LmaxおよびLmaxは次のように定める。上記k個の段領域の内で、半径方向幅Wiが所定の臨界半径幅Wr以上である段領域Viをすべて抽出し、軸方向長さLiの最大値と最大値をそれぞれLmax,Lminとする。
【0090】
また上記P3は臨界段差パラメータであり、0.0525である。より好ましくは0.04である。
【0091】
このように互いに近接する段領域Vi,Vjの軸方向長さLi,Ljの差と、軸方向長さの最大段差の積を所定の臨界段差パラメータP3よりも小さく設定することで、スリーブ1内で軸方向長さの急激な変化を抑制し、その結果としてスリーブ1内で極端に体積密度が不均一になる部分の発生を抑制しうる。
【0092】
このように焼結材料製のスリーブ1の形状を規定する事により、スリーブ1の各部の密度が均一になり、焼結材全体が高密度に加工できるようになり開放気孔率や残留表面気孔率を極めて小さくすることが出来る。これにより動圧発生溝により発生した圧力がスリーブ表面で低下/拡散せず、また長期に使用しても潤滑流体5が残留気孔から流出する危険性が防止される。また軸受の加工精度も高く表面粗さも小さくできる。その結果、軸受剛性が高く、金属接触も確実に防止できる。
(スリーブ形状最適範囲)
最大段差比(Lmax−Lmin)/Lmaxと近接段差比|Li−LJ|/max(Li,Lj)とを変化させたときに、表面残留気孔率Rhに及ぼす影響を実験によって確認した結果を図11に示す。同図において横軸は最大段差比、縦軸は近接段差比である。ただし横軸、縦軸ともに半径方向幅が臨界半径幅Wrよりも大きい段領域だけを抽出してプロットしている。また実験においては0.2mm以上の段差を少なくとも一つ以上有する物に限って行った。
【0093】
図中、直線F0として描画しているのは最大段差比と近接段差比が等しくなる直線であり、このF0よりも右下側だけを考慮すれば良い。
【0094】
また曲線F1,F2は最大段差比と近接段差比の積が一定値である曲線であり、それぞれ0.0525,0.04である。
【0095】
図において右上側になるほど表面残留気孔率Rhは大きくなっていき、反対に左下側では表面残留気孔率Rhは小さくなる。
【0096】
上記ケース2で記載したように、最大段差比が25%以下(網掛けした領域a,d,f
)では表面残留気孔率Rhは1.5%以下であり、表面残留気孔が小さくできる。さらに最大段差比を20%以下にすると表面残留気孔率Rhを1%以下にする事ができる。
【0097】
また上記ケース3で記載したように、最大段差比が35%以下で、かつ近接段差比が15%以下(網掛けした領域a,b,d,e)であれば表面残留気孔率Rhは1.5%以下
であり、表面残留気孔が小さくできる。
【0098】
また上記ケース5で記載したように、近接段差比が10%以下(網掛けした領域a,b
,c)であれば表面残留気孔率Rhは1.5%以下であり、表面残留気孔が小さくできる

【0099】
そして上記ケース6で記載したように、近接段差比と最大段差比の積が0.0525以下(曲線F1より左下側)であれば表面残留気孔率Rhは1.5%以下であり、表面残留気孔が小さくできる。さらに近接段差比と最大段差比の積が0.04以下(曲線F2より左下側)であれば表面残留気孔率Rhは1%以下にする事ができる。
【0100】
このように内部に気孔を有する焼結材からなるスリーブ1の形状を規定する事により、スリーブの各部の密度が均一になり、焼結材全体が高密度に加工できるようになり低圧部分がなくなるので、全体の密度が高くなり、表面残留気孔をなくす事ができる。これにより動圧発生溝により発生した圧力がスリーブの表面で低下/拡散せず、また長期に使用しても潤滑流体が表面残留気孔から流出するリスクが低減される。
【0101】
また極端に体積密度が高すぎる部分も無いので、加工精度を高めることが可能になる。
【0102】
その結果、流体軸受装置に焼結材料製スリーブを採用する場合でも、圧力が低下/拡散しないために高い性能が得られると共に、軸受部精度が高いので浮上不能に陥ることもないので、軸受の磨耗が確実に抑制できる。
(スリーブ形状の変形例)
(変形例A)
上記実施形態において、スリーブは図8(a)に示すように各断面形状が長方形をなし、スリーブの上下に互いに類似形状をなす凹部と凸部が設けられた場合を説明したが本願はこれに限定される物ではない。
【0103】
図12はスリーブ21には凹部21Dのみが形成され、これに類似の形状をなす凸部を特に設けない事例を示している。このように凹部21Dのみであっても各段領域の軸方向長さが上記ケース2〜6のいずれかの条件を満足すればよい。
【0104】
また同図では軸受孔21Cの端部等にテーパ部が形成されているが、この場合は図中、破線で分割したように、テーパ部にかかる段領域が台形形状になるように分割すればよい。段領域が台形である場合の軸方向長さは平均値を取ればよい。具体的には最内周部の段領域V1では断面積が同一になるように定めた長方形(破線で描画)を想定し、その長方形の高さL1を軸方向長さとして扱えばよい。最外周部の段領域V5の場合も同様である。
(変形例B)
図13はスリーブ31の一端側には2段の凹部31Dが形成され、他端側には1段のみの凸部31Gを設けた事例を示している。ここでは凹部31Dと凸部31Gは、類似形状ではないが、図中ハッチング部で示すように、その体積はほぼ同一である。このようにスリーブ1の一端側に軸受を構成するための凹部31Dを設けると共に、他端側にほぼ同じ体積の凸部31Gを設けることで、スリーブ31の任意の段領域Viにおける軸方向長さLiが場所によらずほぼ同じ値に近づけることができ、その結果としてスリーブ31内で極端に体積密度が低くなる部分の発生を抑制しうる。なおPvを1.3とすると体積差が小さくなるのでより好ましい結果が得られる。
(変形例C)
図14はスリーブ41の最外周部に、他の部分に比べて軸方向長さが著しく小さい段領域V7が形成された事例を示している。同図はスリーブ41の半断面図である。
【0105】
図14において、スリーブ41には前述のフランジ3を収納するための下側凹部41D、と、スラスト板4を固定するための平面41Fを有している。下側凹部41Dは十分に浅く設計されている。上部の凸部41Gの内周には、円環状の潤滑流体溜まり41Eが形成されている。この潤滑流体溜り41Eの内径は軸受穴内径よりわずかに大きいがその半径方向段差W1はスリーブ41の全半径方向幅Wの10パーセント以下で十分小さい。また軸受穴41Cから開口部に向かって拡径するテーパ状であってもよい。また格段差はスリーブの全長に対して30%以下である。
【0106】
ここで段領域V7の軸方向長さL7と隣接する段領域V6の軸方向長さL6との差はL6に対する比(L7−L6)/L6は50%以下である。しかし段領域V7の半径方向幅W7はスリーブ41の全半径方向幅Wの10%以下にしている。そのため隣接する段領域V6との軸方向長さが大きく異なるにもかかわらず、段領域V7の成形性にほとんど影響は生じない。なお半径方向幅W7が全半径方向幅Wの5%以下にすることでさらに加工性に対する影響はなくなり、焼結後の体積密度はほぼ均一になり、表面残留気孔率Rhは1%以下にすることが可能になる。
(変形例D)
ここまでの説明は軸回転型で、かつスリーブは一端が閉塞され他端が開放されたいわゆるUntied型でかつラジアル軸受とスラスト軸受とを有する構成の軸受に関して行ってきたが、本願発明はこれに限定される物ではなく、その組合せに制約はない。
【0107】
例えば図15に示すように、スリーブ51は両端に円錐状軸受面51Aを有しており、ハブロータ57と共に固定シャフト52の周囲を微小な隙間を介して非接触で回転するように保持されている構成でも良い。ここで固定シャフト52には円錐状軸受面51Aに対向するように、円錐状軸受リング53が固定されている。円錐状軸受リング53の外周面または、円錐状軸受面51Aの内周面には図示しない動圧発生溝が設けられ、潤滑流体5によって動圧力を発生する。この場合、変形例aと同様に複数の段差に分けて考えればよい。そこで各段部が前記関係式のいずれかを満足するように形状を定めればよい。
(圧力低下/拡散防止効果)
図16は、軸受穴内周面における開口面積率と軸受寿命時間との関係に関する我々が行った試験結果の一例を示す図である。軸受寿命評価は流体軸受装置を高温(70℃)環境下で連続回転試験をしてモータ電流が所定量以上増加した時点を寿命と判断した。
【0108】
試験結果によれば、表面残留気孔面積率が2%を超えるスリーブを使用した流体軸受装置では、圧力が十分に上がらず、シャフトとスリーブが回転中に摺動して軸受面に摩耗粒子が発生し、寿命が著しく短くなっている。
【0109】
一方、表面残留気孔率が1.5%以下または1%以下であれば、貫通気孔Hpは存在せず潤滑流体漏れが皆無にできる。また表面気孔Hsも軸受部の面積の1.5%以下または1%以下であり、その表面気孔の開口面積と深さは十分小さいために、動圧流体軸受の動圧溝で発生した圧力が減少することなく、高い発生圧力が得られ、軸受装置の寿命試験を行っても高い信頼性が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明にかかる流体軸受装置は、焼結製のスリーブの各部の密度がほぼ均一になり、焼結材全体が高密度/高精度に加工できるようになり軸受性能上有害な残留気孔をなくす事ができる。これにより動圧発生溝で発生した圧力がスリーブ表面から漏れず、また長期使用しても潤滑流体が残留気孔から流出する危険性が防止され、また最適な軸受形状を高精度に加工できる、高性能で安価なスリーブを用いた流体軸受装置が得られるという効果を有し、特に情報装置用のスピンドルモータの軸受装置などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】(a)実施形態1の流体軸受装置を搭載したスピンドルモータの断面図,(b)実施形態1の情報装置の断面図
【図2】実施形態1のスリーブの製造工程を示すフローチャート
【図3】サイジング状態を示す図
【図4】焼結材料の気孔の説明図
【図5】体積密度と各種気孔率の関係を示す図
【図6】プレス圧力比と体積密度の関係を示す図
【図7】実施形態1のスリーブの製造方法を示す概念図
【図8】(a)実施形態1のスリーブの断面図,(b)各領域同士の関係を示す説明図
【図9】最大段差比と表面残留気孔率の関係を示す図
【図10】近接段差比と表面残留気孔率の関係を示す図
【図11】最大段差比と近接段差比の関係を示す図
【図12】変形例Aのスリーブの半断面図
【図13】変形例Bのスリーブの断面図
【図14】変形例Cのスリーブの半断面図
【図15】変形例Dの流体軸受装置を搭載したスピンドルモータの断面図
【図16】表面残留気孔率と軸受寿命比率の関係を示す図
【図17】従来の流体軸装置の主要構成部分の断面図
【図18】従来の流体軸受装置の焼結材料表面の拡大図
【符号の説明】
【0112】
1,21、31、41、51 スリーブ
1A、21A、31A、41A、51A ラジアル動圧発生溝
1C、21C、31C、41C、51C 軸受穴
1D,21D,31D,41D 凹部
1G,31G,41G 凸部
1E、21E,41E 潤滑流体溜まり
2 シャフト
3 フランジ
3A,3B スラスト動圧発生溝
4 スラスト板
5 潤滑流体
6 ベース
7、57 ハブロータ
8 ステータ
9 ロータ磁石
10 ディスク
11 クランパ部材
12 スペーサ
13 上蓋
14 ヘッド
15 流体軸受装置
16 スピンドルモータ
17 情報装置
66 金型ピン
67 外周型
68 下型
69 上型
70 粉体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有するスリーブと、
前記軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、
前記軸受孔と前記シャフトの間に構成された軸受部と、
前記軸受部において前記軸受穴の内周面または前記シャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、
前記スリーブの軸方向一端側に設けた1段以上の凹部と、
前記スリーブの軸方向他端側に設けられ、前記凹部に類似の形状を有する凸部と、
前記軸受部の隙間に保持される潤滑流体と
を有する流体軸受装置。
【請求項2】
前記凹部と前記凸部はほぼ同一の体積であることを特徴とする請求項1に記載の流体軸受装置。
【請求項3】
内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有すると共に、半径方向に複数の段領域を有し、半径方向幅が所定の臨界半径幅Wr以上であるすべての前記段領域の軸方向長さの最小値Lminは、その最大値Lmaxとの差の割合(Lmax−Lmin)/Lmaxが所定の臨界最大段差比P1以下であるスリーブと、
前記軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、
前記軸受孔と前記シャフトの間に構成された軸受部と、
前記軸受部において前記軸受穴の内周面または前記シャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、
前記軸受部の隙間に保持される潤滑流体と
を有する流体軸受装置。
【請求項4】
前記臨界半径幅Wrは前記スリーブの最内周から最外周までの全半径方向幅Wに対して10%または0.2mmの内の大きい方であり、前記臨界最大段差比P1は25%である請求項3に記載の流体軸受装置。
【請求項5】
内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有すると共に、半径方向に複数の段領域を有し、半径方向幅が所定の臨界半径幅Wr以上であるすべての段領域の軸方向長さの最小値Lminは、その最大値Lmaxとの差の割合(Lmax−Lmin)/Lmaxが所定の臨界最大段差比P1以下であると共に、半径方向幅が前記臨界半径幅Wr以上である段領域同士において互いに半径方向で近接する二つの前記段領域の軸方向長さLiとLjの差の割合の絶対値|Li−Lj|/max(Li,Lj)が所定の臨界近接段差比P2以下であるスリーブと、
前記軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、
前記軸受孔と前記シャフトの間に構成された軸受部と、
前記軸受部において前記軸受穴の内周面または前記シャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、
前記軸受部の隙間に保持される潤滑流体と
を有する流体軸受装置。
【請求項6】
前記臨界半径幅Wrは前記スリーブの最内周から最外周までの全半径方向幅Wに対して10%または0.2mmの内の大きい方であり、前記臨界最大段差比P1は35%であり、前記臨界近接段差比P2は15%である請求項5に記載の流体軸受装置。
【請求項7】
内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有すると共に、半径方向に複数の段領域を有し、半径方向幅が所定の臨界半径幅Wr未満である前記段領域の軸方向長さLiは、半径方向で互いに近接し合う前記段領域の軸方向長さLjとの差の割合の絶対値|Li−Lj|/max(Li,Lj)が所定の臨界近接段差比P2以下であるスリーブと、
前記軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、
前記軸受孔と前記シャフトの間に構成された軸受部と、
前記軸受部において前記軸受穴の内周面または前記シャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、
前記軸受部の隙間に保持される潤滑流体と
を有する流体軸受装置。
【請求項8】
前記臨界半径幅Wrは前記スリーブの最内周から最外周までの全半径方向幅Wに対して10%または0.2mmの内の大きい方であり、前記臨界近接段差比P2は50%である請求項7に記載の流体軸受装置。
【請求項9】
内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有すると共に、半径方向に複数の段領域を有し、半径方向幅が所定の臨界半径幅Wr以上である前記段領域同士において互いに半径方向に近接し合う二つの前記段領域の軸方向長さLiとLjの差の割合の絶対値|Li−Lj|/max(Li,Lj)が所定の臨界近接段差比P2以下であるスリーブと、
前記軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、
前記軸受孔と前記シャフトの間に構成された軸受部と、
前記軸受部において前記軸受穴の内周面または前記シャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、
前記軸受部の隙間に保持される潤滑流体と
を有する流体軸受装置。
【請求項10】
前記臨界半径幅Wrは前記スリーブの最内周から最外周までの全半径方向幅Wに対して10%または0.2mmの内の大きい方であり、前記臨界近接段差比P2は10%である請求項9に記載の流体軸受装置。
【請求項11】
内部に圧縮吸収空間を有する焼結材料からなり、その中心に軸受穴を有すると共に、半径方向に複数の段領域を有し、前記段領域の中で半径方向幅が所定の臨界半径幅Wr以上である第1の段領域の軸方向長さLiと、前記段領域の中で半径方向幅が前記臨界半径幅Wr以上であり前記第1の段領域に対して半径方向に近接し合う第2の段領域の軸方向長さLjとの差の割合の絶対値|Li−Lj|/max(Li,Lj)と、半径方向幅が前記臨界半径幅Wr以上であるすべての段領域における軸方向長さの最小値Lminとその最大値Lmaxとの差(Lmax−Li)/Lmaxとの積|Li−Lj|/max(Li,Lj)*(Lmax−Li)/Lmaxが所定の臨界段差パラメータP3以下であるスリーブと、
前記軸受穴に相対的に回転可能な状態で挿入されるシャフトと、
前記軸受孔と前記シャフトの間に構成された軸受部と、
前記軸受部において前記軸受穴の内周面または前記シャフトの外周面の少なくとも一方に設けた動圧発生溝と、
前記軸受部の隙間に保持される潤滑流体と
を有する流体軸受装置。
【請求項12】
前記臨界半径幅Wrは前記スリーブの最内周から最外周までの全半径方向幅Wに対して10%または0.2mmの内の大きい方であり、前記臨界段差パラメータP3は0.0525である請求項11に記載の流体軸受装置。
【請求項13】
請求項1,3,5,7,9,11のいずれかに記載の流体軸受装置を備えたスピンドルモータ。
【請求項14】
請求項13に記載のスピンドルモータを備えた情報装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2010−53914(P2010−53914A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217699(P2008−217699)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】